この発明による塩化ビニル系樹脂組成物構成成分として、少なくとも塩化ビニル系樹脂を含む樹脂組成物であって、全樹脂成分100重量部に対して、80〜300重量部の黒鉛が含有され、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して外滑剤が11〜15重量部含有され、塩化ビニル系樹脂以外の熱可塑性樹脂として、少なくとも衝撃改質剤として機能する樹脂および加工助剤として機能する樹脂が含有され、前記塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル単独共重合体、塩化ビニルモノマーと共重合可能な不飽和結合を有するモノマーと塩化ビニルモノマーとの共重合体、重合体に塩化ビニルモノマーをグラフト共重合したグラフト共重合体の何れかの重合体より構成され、前記衝撃改質剤としての機能を有する樹脂は、塩素化ポリエチレン、MBS樹脂、ABS樹脂、アクリル系改質剤の何れかより構成され、前記加工助剤として機能する樹脂は、アクリレート重合体からなるアクリル系加工助剤で構成され、アクリレート重合体の添加量は、全樹脂成分100重量部に対して1〜60重量部であることを特徴とするものである。
塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂、及び必要に応じてこれ以外の熱可塑性樹脂および黒鉛を含むものである。難燃性の高い塩化ビニル系樹脂に熱伝導率を高める黒鉛を添加し、全樹脂成分100重量部に対して80〜300重量部の黒鉛が含有されてなる塩化ビニル系樹脂組成物とすることで、特に耐燃焼性に優れているものとなる。
本発明において、全樹脂成分100重量部に対して80〜300重量部の黒鉛が含有されてなる塩化ビニル系樹脂組成物、すなわち、無機高充填の高粘度樹脂では、樹脂通路幅が広がっていくコートハンガー型流路を有する金型を使用してシート状に押し出す際に、金型出口からの均一なシート展開性が得られないという問題がある。これは、粘度高に起因する樹脂の直進性により、金型の中央部の流れが促進されるためであり、この発明においては、外滑剤に着目して、外滑剤量を適正化することで、上記問題を解消した。
外滑剤としては、例えば、モンタン酸ワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ステアリン酸、ステアリルアルコール、ステアリン酸ブチル等が挙げられる。
外滑剤は、通常、少量で使用される(例えば特許文献1参照)が、この発明の塩化ビニル系樹脂組成物においては、外滑剤の量が大幅に増加されて、外滑剤を塩化ビニル系樹脂100重量部に対して11〜15重量部含むものとされる。
塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂以外の熱可塑性樹脂として、衝撃改質剤としての機能を有する樹脂および加工助剤として機能する樹脂を含んでいることがより好ましい。
黒鉛の添加量は、塩化ビニル系樹脂およびこれ以外の熱可塑性樹脂を合わせた全樹脂成分(以下「耐燃焼性樹脂組成物」と称することがある)100重量部に対して、80重量部未満であると耐燃焼性が発現せず、300重量部を超えると成形性が悪化するため、80〜300重量部に限定され、好ましくは100〜200重量部である。
外滑剤の量が11〜15重量部とされることで、従来困難であった80重量部以上の黒鉛含有が可能となる。よって、この範囲とすることにより、適切な熱伝導率及び難燃効果を得ることができるとともに、成形性の低下を防止することができる。
ここで、黒鉛としては、特に限定されず、従来公知の種々のものを用いることができ、天然黒鉛、人工的に作製された黒鉛のいずれを使用してもよい。例えば、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、鱗状(塊状)黒鉛、土状黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、膨張化黒鉛、熱分解黒鉛等が挙げられる。これらの黒鉛は、精錬、乾燥、焼成、粉砕及び/又は分級したもののいずれであってもよい。粉砕処理は、特に限定されず、例えば、ロッドミル、ボールミル、ジェットミル等の従来公知の装置を用いて行うことができる。
上記黒鉛の原料となる炭素源は、特に限定されず、天然に存在するもの、人工的に作られたもの等、例えば、天然グラファイト、キッシュグラファイト等のいずれであってもよい。黒鉛の原料となる炭素源及び後述するコークスの形状は、固体状、粉末状等のいずれであってもよい。
鱗状黒鉛は、天然に産出される黒鉛の一種であり、従来公知のものであり、特に限定されず、いかなるものも使用することができる。鱗状黒鉛は粒子のアスペクト比が大きく、厚み方向よりも面方向へ熱を逃がしやすく、内装材の難燃性を向上させるため好ましい。また、鱗状黒鉛の中には、さらにアスペクト比の大きな鱗片状黒鉛や薄片化黒鉛が含まれる。一般に鱗片状黒鉛のアスペクト比は30程度、薄片化黒鉛のアスペクト比は100程度である。
人造黒鉛は、原料となる炭素源を高温で加熱することにより、人工的に作られた黒鉛であり、従来から公知のものであれば、特に限定されずいかなるものをも使用することができる。例えば、コークスを熱処理することで得られる黒鉛には、コークスとコールタール等のバインダーを2000℃以上の高温で熱処理して作製された人造黒鉛電極を粉砕して作製されるものを含む。コールタール等のバインダーを含まないものが、熱伝導率が高くなり好ましい。
膨張黒鉛とは従来公知のものであり、特に限定されず、いかなるものをも使用することができる。通常、黒鉛を化学処理することにより製造されたものである。例えば、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の粉末を濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸と濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等の強酸化剤とを利用して、黒鉛の層間に無機酸を挿入し、酸処理をして得られる炭素の層状構造を維持した結晶化合物等が挙げられる。
膨張化黒鉛とは、上記膨張黒鉛を膨張させたものであり、膨張させる方法としては、特に限定されない。例えば、炉の中で数百度〜千度程度の温度で数分〜数時間、加熱処理を施して膨張させる方法等が挙げられる。膨張化黒鉛は、膨張黒鉛を膨張させた後、粉砕処理をした黒鉛の層間が開くことにより黒鉛の表面積が大きくなり、よって、耐燃焼性シート成形後において黒鉛同士がより近接する確率を高めると考えられる。
熱分解黒鉛は、原料となる炭素源を高温で加熱することにより、人工的に作られた黒鉛であり、従来から公知のものであれば、特に限定されずいかなるものをも使用することができる。熱分解黒鉛は、例えば、コークス原料を2000〜3000℃以上の高温で熱処理して作製するか、黒鉛を炭化水素雰囲気中で高温(2000〜3000程度)で加熱することにより、炭化水素の分解重合等で黒鉛表面に炭素が沈積することによって作製されたりするものを含む。上記黒鉛は、特に限定されず、天然に存在するもの、人工的に作られたもの等、例えば、天然グラファイト、キッシュグラファイト等のいずれであってもよい。黒鉛及びコークスの形状は、固体状、粉末状等のいずれであってもよい。熱分解黒鉛は薄い形状と高温処理による高黒鉛化度により耐燃焼性が高まるため、特に好ましい。なお、熱分解黒鉛は、コークスを熱処理することで得られる黒鉛として、SiCを製造する際に2000℃以上の高温で熱処理されるコークス粉末なども包含され、不純物が少なく、熱伝導率が高まる傾向にあるため、特に好ましい。
用いる黒鉛の大きさ及び形状等は特に限定されないが、熱可塑性樹脂との分散性及び/又は物性発現性を考慮すると、その平均粒径は、500μm程度以下、さらに300μm程度以下とすることが好ましい。後述する熱伝導率を考慮すると、大きいものの方が黒鉛同士の接触確率が増え(熱伝導の低い熱可塑性樹脂などの物質との接触確率が減る)、熱伝導率が上がるため好ましい。熱伝導率をある程度確保するために、15μm程度以上が好ましい。成形体中での分散性及び成形性等を良好に保つためには、25μm〜200μm程度がより好ましく、30〜100μm程度が特に好ましい。平均粒径が小さすぎると、かさ比重が大きくなり、取扱いに不都合が生じることがある。ここで、粒径は、例えば、黒鉛をTHF溶液中に充分分散させ、レーザー回折式粒度分布計SALD−2200(島津製作所社製)を用いて測定した値である。
また、本発明の塩化ビニル系樹脂組成物が鉄道車両用の内装材などの耐燃焼性シート材として使用された場合、火災時の炎からの熱をすばやく逃がすことで着火を遅らせるという観点から、黒鉛の形状は、球状よりは薄板形状が好ましく、これによって、厚み方向よりも面方向へ熱を逃がしやすくなり、耐燃焼性シートの難燃性を向上させることができる。このために、アスペクト比の大きいものが好ましい。また、特に、径の長い黒鉛を、内装材の面方向に沿って配向させることが好ましい。これによって、炎からの熱を効率的に逃がすことが可能となる。
黒鉛の黒鉛化度は、後述するX線回折の半値幅で直接測定される結晶性の指標であり、黒鉛においてはその値が高ければ(半値幅が小さければ)熱伝導率が高くなり、難燃性を向上させるという観点から、高いものがより好ましい。同様の目的から、黒鉛の不純物は少ないものがより好ましい。
黒鉛化度は、例えば、以下の方法によって相対的な大きさを測定することができる。
X線回折で2θが52°〜57°付近に現れる最も大きなピークの半値幅(FWHM)を測定し、この値が小さいほど黒鉛化度が高いという指標となる。例えば、ブルガーAXS社製のX線回折装置を用いてこの半値幅を測定すると、土状黒鉛は0.47、人造黒鉛は0.53と半値幅が大きく、黒鉛化が進んでいないが、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、熱分解黒鉛は0.23程度と小さく、黒鉛化度が高いため、熱伝導率が高まり、好ましい。なかでも、高黒鉛化のみならず、より薄く、不純物も少ないことから、熱分解黒鉛が特に好ましい。
本発明で用いる黒鉛の黒鉛化度は限定されないが、上述した半値幅の値が0.4以下であることが適しており、好ましくは0.35以下、さらに好ましくは0.3以下である。
黒鉛は、耐燃焼性樹脂組成物に対して、その含有量が多くなると、耐燃焼性樹脂組成物、この組成物からなるシート(単層または複層)等の熱伝導率を上昇させる。よって、黒鉛の添加量は、一観点から、耐燃焼性樹脂組成物の熱伝導率、つまり、耐燃焼性樹脂組成物を単層とした場合の熱伝導率が0.5W/m・K以上になる範囲で添加されることが適している。鉄道車両の内装材として使用される場合など、より高い難燃性を付与するためには、2.2W/m・K以上が好ましく、3.8W/m・K以上がより好ましく、6.1W/m・K以上がさらに好ましい。耐燃焼性層が他の層と積層等される場合には、その材料や厚みにもよるが、通常、熱伝導率が所定の範囲で低下することが確認されている。よって、塩化ビニル樹脂などのラミネートにより加飾を施す場合には、その積層構造において、特に4.6W/m・K以上が好ましい。熱伝導率の上限は25W/m・K以下が適しており、13W/m・K以下、さらに8W/m・K以下が好ましい。なお、黒鉛の種類又は状態等によって、上述した熱伝導率を得るための含有量が変動することがあるため、例えば、黒鉛は、後述する添加量を加味して、適宜調整することが好ましい。
上記において、熱伝導率は、以下のように測定した値を意味する。
試験片の作製方法としては、1例として、樹脂組成物を二軸押出機に供給し、溶融混練して所定の厚み(例えば、1mm〜数十mm、具体的には、3.2mm)のシートを得る方法がある。別の例として、樹脂組成物を、混練機に供給し、温度185程度で溶融混練して、厚さ1mmのシートを得る。次いで、この複数枚を積層して熱プレス成形機に供給し、温度190、20MPaで加圧し、3.2mmのシートを得る方法である。なお、熱伝導率は材料固有の値であるが、測定対象層の厚みが約10mm以下である場合又は積層構造の場合には下地の影響を受けることがある。測定対象層が約10mm以下の場合又は積層構造のシートの場合には測定対象層のみを単離して試験片としてもよい。
そして、上述した試験片を、熱伝導率が既知である標準板(シリコン、石英、ジルコンレンガ)の上に試験片を密着させて重ね、室温で、熱伝導率計を用いて、試験片の表面にプローブを当てて熱伝導率を測定する。ここで、熱伝導率計としては、Kemtherm.QTM−D3(商品名)(京都電子工業株式会社製)を用いることができる。
続いて、標準板の熱伝導率と、測定された熱伝導率の偏差をプロットし、得られる直線と偏差=0との交点より熱伝導率を求める。
塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル単独重合体(塩化ビニルホモポリマー)、塩化ビニルモノマーと共重合可能な不飽和結合を有するモノマーと塩化ビニルモノマー(好ましくは、50重量%以上含む)との共重合体、重合体に塩化ビニルモノマーをグラフト共重合したグラフト共重合体等が挙げられる。これら重合体は単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
塩化ビニルモノマーと共重合可能な不飽和結合を有するモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等のα−オレフィン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;ブチルビニルエーテル、セチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチルアクリレート、フェニルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニルビニル類;N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のN−置換マレイミド類、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、アクリロニトリル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
塩化ビニル樹脂をグラフト共重合する重合体としては、塩化ビニル樹脂をグラフト重合させるものであれば特に限定されず、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−ブチルアクリレート−一酸化炭素共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリウレタン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記塩化ビニル系樹脂の重合方法は、特に限定されず、従来公知の任意の重合方法を利用することができる。例えば、塊状重合方法、溶液重合方法、乳化重合方法、懸濁重合方法等が挙げられる。
樹脂成分に黒鉛を添加すると、弾性率が著しく上昇し、組成物全体が剛直となるため、耐衝撃性や二次加工性に必要な高温での伸び性が低下することがある。特に、衝撃改質剤としての機能を有する樹脂を用いることによって、黒鉛の添加により硬く、脆くなったマトリックス中で網目構造をとり、柔軟性を付与することで、黒鉛で低下した耐衝撃性を効率よく補うことができ、高温での伸び性向上効果を発現すると考えられる。衝撃改質剤としての機能を有する樹脂としては、例えば、塩素化ポリエチレン(CPE)が挙げられる。
塩素化ポリエチレンは、5万〜40万程度の重量平均分子量が適しており、比較的高い範囲(例えば、32万程度以上)であることが好ましい。また、塩素化度は、20%〜40%程度が適している。さらに、15万〜35万程度の分子量かつ25%〜36%の塩素化度であることが好ましい。特に、耐燃焼性樹脂組成物に他の樹脂が含有されている場合には、分子量をこの範囲とすることにより、他の樹脂(例えば、塩化ビニル樹脂、(メタ)アクリレート重合体等)との分子鎖レベルでの絡み合いを発現させて、相溶性を向上させることができる。また、塩素化度を比較的高める(例えば、34%程度以上)ことによって、特に、他の樹脂(例えば、塩化ビニル樹脂、アクリル系加工助剤等)に近い極性を付与し、相溶性を向上させることができると考えられる。
耐衝撃性に優れる衝撃改質剤の他の例としては、当該分野で通常用いられているものであれば特に限定されず、例えば、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレングラフト共重合体(MBS樹脂)、ABS樹脂、アクリル系改質剤等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。ここでアクリル系改質剤とは、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルの1種からなる群から選択される少なくとも1つアクリル系共重合体で、特にアクリル成分が主成分であり、架橋して球状になったものをいう。衝撃改質剤の添加量は、黒鉛の添加量、衝撃改質剤の種類等を考慮して適宜調整することができる。
塩化ビニル系樹脂組成物は、衝撃改質剤としての機能を有する樹脂に加えて、二次加工性を改善するアクリル系加工助剤など、加工助剤として機能する樹脂を含んでいることが好ましい。アクリル系加工助剤を添加することにより、特に、真空成形性を向上させることができる。アクリル系加工助剤は、種々の耐燃焼性樹脂組成物との相溶性にも優れている。アクリル系加工助剤としては、(メタ)アクリレート重合体が挙げられる。(メタ)アクリレート重合体は、アクリレート系モノマー又はメタクリレート系モノマーを主体とする重合体の総称であり、加工助剤などの役割を果たす。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート系モノマーの単独重合体もしくは共重合体;上記(メタ)アクリレート系モノマーとスチレン、ビニルトルエン、アクリロニトリル等の他のモノマーとの共重合体等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
アクリル系加工助剤の添加量は、黒鉛の添加量、黒鉛の添加で低下した真空成形などの二次加工性、成形性及び燃焼性を考慮して適宜調整することができる。
耐燃焼性樹脂組成物において、黒鉛の含有量が多くなると、成形性の低下を防ぐ目的から(メタ)アクリレート重合体の添加量の添加量も増やす必要がある。一方で、表層に塩化ビニル樹脂のラミネートなどの加飾を施す場合や、車両燃焼性試験において着火がない(不燃)と判断されるためには、さらに、黒鉛の添加量(組成物に占める割合)を増やす必要があるため、添加可能な(メタ)アクリレート重合体量が制限される。よって、(メタ)アクリレート重合体の添加量は、耐燃焼性樹脂組成物の全重量に対して、1重量%以上、好ましくは4重量%、さらに好ましくは12重量%以上、特に好ましくは23重量%以上である。また、上限としては、60重量%以下、好ましくは40重量%以下、30重量%以下である。例えば、1〜60重量%、4〜40重量%、12〜40重量%、12〜30重量%等が挙げられる。この範囲に設定することで、黒鉛を添加したことによる耐燃焼性の向上と、二次加工性を両立することができる。
耐燃焼性樹脂組成物の真空成形は、一般に、樹脂組成物の表面温度が180℃〜220℃程度に加熱されて行われる。このような高温状態では耐燃焼性樹脂組成物、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂の張力が低下し、破断しやすくなることがある。そのため、高温領域でより張力の高い(メタ)アクリレート重合体が好適に使用される。無機物、特に黒鉛などの非球状タイプの無機物を添加すると、高温で破断しやすくなるため、(メタ)アクリレート重合体の添加が有効である。高温での伸びを向上させる化合物としては、NBR、エルバロイ等の熱可塑性エラストマー、DOP等の可塑剤も使用できるが、高温での張力付与等の観点から(メタ)アクリレート重合体が特に好ましい。
上記(メタ)アクリレート重合体の重量平均分子量は特に限定されない。ただし、高温での張力がより高くなるという観点で、より高分子量のものが好ましい。例えば、100万以上が好ましく、さらに好ましくは300万以上である。一方、分子量が高くなりすぎると成形性や物性に悪影響を及ぼすため、600万以下が好ましい。さらに好ましくは500万以下である。
上記以外の熱可塑性樹脂も適宜使用可能であり、このような熱可塑性樹脂としては、特に限定されず、種々のものを用いることができる。例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂;ポリ(1−)ブテン系樹脂、ポリペンテン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂〔例えば、ポリスチレン(耐衝撃性ポリスチレンを含む)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂、アクリロニトリル−エチレン−プロピレン−スチレン(AES)樹脂、アクリロニトリル−アクリレート−スチレン(AAS)樹脂等〕、ポリアミド系樹脂、塩素化ポリエチレン、塩素化塩化ビニル系樹脂、エチレン系共重合体〔例えば、エチレン−酢酸ビニルコポリマー、エチレン−アクリル酸メチルコポリマー(EMA)、エチレン−アクリル酸エチルコポリマー(EEA)、エチレン−アクリル酸ブチルコポリマー(EBA)、エチレン−メタクリル酸メチルコポリマー(EMMA)、上述したAESも含む等〕などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。ここで、塩素化ポリオレフィンは、耐衝撃性、二次加工性に優れていることで好ましい。塩化ビニル系樹脂に対する他の熱可塑性樹脂の添加量は特に限定されず、熱可塑性樹脂の種類、真空成形などの二次加工性、成形性及び燃焼性を考慮して適宜調整することが好ましい。
本発明で用いる熱可塑性樹脂の分子量は特に限定されないが、例えば、1万〜100万程度の重量平均分子量が挙げられる。この重量平均分子量は、スチレン系エラストマーのGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定されたポリスチレン換算の重量平均分子量である(以下、重量平均分子量の測定方法について同じ)。特に、(メタ)アクリレート重合体の重量平均分子量の測定方法では、具体的に以下の条件で測定した値とすることができる。 装置:HLC−8120(東ソー社製)、 溶媒:THFを用い、分子量が既知のポリスチレンの分子量によって検量線を作製する。 カラムは、各分子量によって適宜選択する。例えば300万以上の場合は、 使用カラム:GMHHR−H(30)×2本 溶媒:THF、サンプル濃度:0.05%、注入量:50μl、流量:0.5ml/minとするが、分子量により、サンプル濃度なども調整する。
塩素化塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル系モノマーの重合前に塩素化を行ったものを用いて重合したものでもよいし、塩化ビニル系樹脂を重合した後、塩素化を行ったものでもよい。 塩化ビニル系樹脂の塩素化方法としては、特に限定されず、従来公知の塩素化方法を利用することができる。例えば、熱塩素化方法、光塩素化方法等が挙げられる。上記塩化ビニル系樹脂の重合度は、小さくなると機械的物性が低下する傾向があり、大きくなると成形性が悪化する傾向があるため、400〜2500程度が好ましく、より好ましくは600〜2000程度、600〜1600程度である。重合度を調整する方法としては、主に重合温度等が例示される。一般に重合温度が高いほど重合度は低くなる。重合度は、JIS K 6720−2に準拠して測定することができる。
塩素化ポリオレフィン、例えば、塩素化ポリエチレンは、ポリエチレンの一部を塩素化したものであり、一般に単独で柔軟性、耐候性、耐熱老化性、難燃性、耐薬品性に優れるエラストマーとして使用される。また、塩化ビニル系樹脂、オレフィン系樹脂、ABSなどの汎用樹脂又はEPDM、クロロスルホン化ポリエチレン、クロロプレン、SBRなどのゴム類の物性改良剤として使用される。中でも塩素化ポリエチレンが好適に用いられる。塩素化ポリエチレンは、従来公知の塩素化方法を利用して得ることができる。
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物には、上述した衝撃改質剤として機能する樹脂、加工助剤として機能する樹脂および外滑剤の他に、種々の添加剤を添加してもよい。添加剤としては、例えば、燃焼抑制効果を補助する目的で難燃剤、熱安定剤、安定化助剤、酸化防止剤、光安定剤、顔料等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
難燃剤としては、例えば、二酸化アンチモン、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等の酸化アンチモン、三酸化モリブデン、二硫化モリブデン、アンモニウムモリブデート等のモリブデン化合物、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロムエタン等の臭素系化合物、トリフェニルフォスフェート、アンモニウムポリフォスフェート等のリン系化合物などが挙げられる。
熱安定剤としては、例えば、ジメチル錫メルカプト、ジブチル錫メルカプト、ジオクチル錫メルカプト、ジブチル錫マレート、ジブチル錫マレートポリマー、ジオクチル錫マレート、ジオクチル錫マレートポリマー、ジオクチル錫ラウレート、ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫ラウレートポリマー等の有機錫系安定剤、鉛白、ステアリン酸鉛、二塩基性ステアリン酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、塩基性亜硫酸鉛、二塩基性亜硫酸鉛、三塩基性硫酸鉛、シリカゲル共沈硅酸鉛、安息香酸鉛、ナフテン酸鉛等の鉛系安定剤、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸系安定剤、カルシウム−亜鉛系安定剤、バリウム−亜鉛系安定剤、バリウム−カドミウム系安定剤、ハイドロタルサイト、ゼオライト等の無機系安定剤が挙げられる。
安定化助剤としては、特に限定されず、例えば、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ豆油エポキシ化テトラヒドロフタレート、エポキシ化ポリブタジエン、リン酸エステル等が挙げられる。
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系抗酸化剤、硫黄系抗酸化剤、ホスファイト系抗酸化剤等が挙げられる。光安定剤としては、特に限定されず、例えば、サリチル酸エステル系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系等の紫外線吸収剤、あるいはヒンダードアミン系の光安定剤等が挙げられる。顔料としては、特に限定されず、例えば、アゾ系、フタロシアニン系、スレン系、染料レーキ系等の有機顔料、酸化物系、クロム酸モリブデン系、硫化物・セレン化物系、フェロシアン化物系等の無機顔料等が挙げられる。
添加剤の添加方法及び添加順序は、特に限定されるものではなく、任意の方法及び順序とすることができる。例えば、添加方法としては、特に限定されず、塩化ビニル系樹脂に、ホットブレンド法、コールドブレンド法等により添加することができる。
外滑剤は、パラフィンワックスおよびポリエチレンワックスのいずれかであることが好ましい。
パラフィンワックスは、C量:20−30、分子量:300−500、融点:40−100℃で溶融の特性を有し、ポリエチレンワックスは、C量:100−300、分子量:2000−4000、融点:50−150℃で溶融の特性を有している。一般のポリエチレン樹脂は、C量:1,000−10,000、分子量:10,000−1,000,000、融点:100−150℃である。なお、塩化ビニル系樹脂の分子量:50,000−60,000である。このような性質の外滑剤とすることで確実に上記効果を得ることができる。