JP5895477B2 - 鋼板の多電極サブマージアーク溶接方法 - Google Patents

鋼板の多電極サブマージアーク溶接方法 Download PDF

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本発明は、鋼板の多電極サブマージアーク溶接に関し、UOE鋼管やスパイラル鋼管等の大径鋼管のシーム溶接に好適な多電極サブマージアーク溶接に関するものである。
UOE鋼管やスパイラル鋼管等の大径鋼管のシーム溶接には、2電極以上を用いるサブマージアーク溶接(たとえば特許文献1,2参照)が普及しており、大径鋼管の生産性向上の観点から、内面側を1パス、外面側を1パスで溶接する高能率な両面一層盛り溶接が広く採用されている。
両面一層盛り溶接では、内面側の溶接金属と外面側の溶接金属とが十分に重なり、未溶融部が生じないように、溶込み深さを確保する必要があるので、1000A以上の大電流を供給して溶接を行なうのが一般的である。
一方で、大径鋼管のシーム溶接では、溶接部とりわけ熱影響部の靭性が劣化するという問題があり、溶接部の靭性向上のためには可能な限り溶接入熱を低減する必要がある。しかし、溶接入熱を低減すれば、溶込み不足を生じる危険性が高まり、未溶融部が生じ易くなり、かつアンダーカット等の表面欠陥が発生しやすくなるという問題がある。
そのため、大径鋼管のシーム溶接における溶込み深さの確保と溶接部の靭性向上とを両立させる溶接技術が検討されている。
たとえば特許文献3には、高電流密度のサブマージアーク溶接方法が開示されており、アークエネルギーを板厚方向に投入し、必要な溶込み深さを確保するとともに鋼板幅方向の母材の溶融を抑制することで、過剰な溶接入熱の投入を防止して、溶接入熱の低減と溶込み深さの確保との両立を図っている。
しかしながら、特許文献3に開示された技術では、アークエネルギーを板厚方向に投入して、鋼板幅方向の溶融を抑制することから、ビード幅が狭くなり、アンダーカット等の表面欠陥が生じ易くなるという問題がある。
特許文献4には、多電極で両面1層盛り溶接を行なうサブマージアーク溶接方法が開示されており、各電極に供給される電流を適正に制御することによって、ビード幅を広げてアンダーカット等の表面欠陥の防止を図っている。
しかしながら、特許文献4に開示された技術では、ビード幅を広げる効果は得られるものの、ビード幅を顕著に拡大するためには、大電流を供給しなければならず、その結果、溶接入熱が増加して、溶接部とりわけ熱影響部の靭性が劣化するという問題がある。また、大電流を供給することによって、ワイヤの溶融量が増加して、余盛り高さが高くなるので、開先形状を新たに設計しなおす必要がある。
特許文献5には、多電極で高速溶接を行なうサブマージアーク溶接方法が開示されており、未凝固の溶接金属に磁場を印加することによって、湯流れを制御して、アンダーカット等の表面欠陥の防止を図っている。
しかしながら、特許文献5に開示された技術では、ビード幅を広げる効果は得られるものの、磁場を印加する装置を導入しなければならないので、装置の構成が複雑になり、溶接と磁場の設定条件の管理や装置のメンテナンスに要する負荷が増大する。
特開平11-138266号公報 特開平10-109171号公報 特開2006-272377号公報 特開2010-172896号公報 特開2002-120068号公報
本発明は、低入熱で、溶接部の高靭性化を図るとともに、必要量を超えるワイヤの溶融を抑制して余盛り高さの低減を図り、かつ深い溶込みと広いビード幅を得ることができる多電極サブマージアーク溶接方法を提供することを目的とする。
発明者らは、多電極サブマージアーク溶接にて電極の配置や使用するワイヤを種々変更して、得られる溶接継手を調査し、その結果、溶接進行方向の先頭の第1電極に細径ワイヤを使用して電流密度を高め、溶接進行方向の最後尾に、2本の電極を溶接線に対して垂直な同一線上の溶接線を挟んで両側に配置することによって、低入熱で十分な溶込みが得られ、かつ余盛り高さが低く抑えられ、しかもビード幅の広い溶接継手が得られることを見出した。
本発明は、この知見に基づいてなされたものである。
すなわち本発明は、3電極以上のサブマージアーク溶接で鋼板を溶接する多電極サブマージアーク溶接方法において、溶接進行方向の先頭の第1電極のワイヤ径を2.0〜3.2mmとし、溶接進行方向の最後尾に、溶接線を挟んで両側に2本の電極をそれぞれのワイヤ先端を鋼板に向けて配置し、かつ2本の電極の鋼板の表面におけるワイヤ先端位置を溶接線に対して垂直な同一線上に配置するとともに、ワイヤ先端位置と溶接線との距離W(mm)を5〜20mmとし、かつコンタクトチップの先端部中心から鉛直下方に下ろした鉛直線が鋼板の表面と交わる位置と溶接線との距離M(mm)が、上記の距離Wに対してM≧Wを満たす多電極サブマージアーク溶接方法である。
本発明の多電極サブマージアーク溶接方法においては、最後尾の電極のワイヤ径を4.0mm以上とすることが好ましい。また、第1電極に直流電流を供給し、第2電極以降に交流電流を供給することが好ましい。
本発明によれば、溶接入熱の低減と溶込み深さの確保を両立するとともに、余盛り高さを低くすることができ、しかも広いビード幅を得ることができるので、多電極サブマージアーク溶接に有利であり、産業上格段の効果を奏する。
本発明の多電極サブマージアーク溶接方法の例を模式的に示す斜視図である。 図1中の電極と鋼板の側面図である。 図1中の各電極のワイヤ先端と最後尾の電極のコンタクトチップ先端中心との鋼板表面における位置を示す平面図である。 開先形状の例を模式的に示す断面図である。 溶接継手の例を模式的に示す断面図である。 溶接継手の他の例を模式的に示す断面図である。 溶接継手の他の例を模式的に示す断面図である。
図1は、本発明の多電極サブマージアーク溶接方法を適用して鋼板の溶接を行なう例を模式的に示す斜視図であり、図2はその側面図である。図3は、図1中の各電極のワイヤの鋼板表面における先端と最後尾の電極のコンタクトチップ先端中央との鋼板表面における位置を示す平面図である。以下に、図1〜3を参照して、本発明の多電極サブマージアーク溶接方法について説明する。なお、図1〜3には4本の電極を用いる例を示すが、本発明は、3本以上の電極を用いる多電極サブマージアーク溶接方法であり、電極を4本に限定するものではない。
図1に示すように、4本の電極を用いる場合は、矢印Aで示す溶接進行方向の先頭の電極を第1電極1とし、その第1電極1のワイヤ12の先端位置が進行する鋼板5表面上の軌跡を溶接線6とする。溶接進行方向Aの2番目の電極を第2電極2として、第1電極1の後方に配置する。さらに第2電極2の後方に、最後尾の2本の電極を、溶接線6を挟んで両側に配置して、第3電極3および第4電極4とする。なお、各電極のコンタクトチップ11,21,31,41には、それぞれワイヤ12,22,32,42を1本ずつ供給する。
まず、第1電極について説明する。
第1電極1のワイヤ12を細くすることによって、電流密度を増加させ、小さい溶接入熱でも深い溶込みを得ることができるので、ワイヤ12のワイヤ径は3.2mm以下とする。しかし、ワイヤ径が2.0mm未満では、ワイヤ12が細すぎるので、溶接金属の必要量を確保するためにワイヤ送給速度を増速せざるを得なくなり、その結果、安定した溶接が可能な電流域が低下して、深い溶込みが得られない。したがって、第1電極1のワイヤ12のワイヤ径は2.0〜3.2mmの範囲内とする。
また、第1電極1のワイヤ12に供給する電流は、溶込み深さをさらに増加させるために、直流電流を供給することが好ましい。
さらに、第1電極1は、図2に示すように、ワイヤ12を鋼板5表面に対して−15〜0°に設定することが好ましい。第1電極1のワイヤ12をこの範囲に設定することによって、鋼板5に垂直にアークを供給することが可能となるので、溶込みが深くなる。
次に、第2電極について説明する。
第2電極2は、図3に示すように、ワイヤ22の鋼板表面における先端位置23が溶接線6上に配置されるように設定する。ワイヤ22のワイヤ径や、ワイヤ22に供給される電流の電流密度は、特に限定しないが、他の電極との間でアークの干渉が生じるのを防止するために、ワイヤ22に交流電流を供給することが好ましい。
3本の電極を用いて本発明を適用する場合には、この第2電極2は配置せず、第1電極1の後方に最後尾の2本の電極を溶接線6の両側に配置する。
また、5本以上の電極を用いて本発明を適用する場合は、第2電極2の後方に3番目以降の電極を溶接線6上に配置し、最後尾の2本の電極を溶接線6の両側に配置する。
次に、最後尾の電極について説明する。
最後尾の第3電極3,第4電極4は、図3に示すように、ワイヤ32,42の鋼板表面における先端位置33,43が溶接線6に対して垂直な同一線上に配置されるように設定する。ここにいう垂直とは、必ずしも厳密な意味ではなく、±15°程度の自由度を許容する。第3電極3のワイヤ32の先端位置33と溶接線6との距離WR、および第4電極4のワイヤ42の先端位置43と溶接線6との距離WLが5mm未満では、ビードの幅を広げる効果が得られない。距離WRと距離WLが20mmを超えると、第3電極3および第4電極4の溶接金属が、図7に示すように、それぞれ分離してビードを形成してしまう。したがって、距離WRと距離WLは、いずれも5〜20mmの範囲内とする。距離WRと距離WLは必ずしも同一とする必要はないが、良好な形状のビードを形成して、アンダーカットを防止するために、WR=WLとすることが好ましい。
また、第3電極3,第4電極4は、図2に示すように、ワイヤ32,42の先端がコンタクトチップ31,41よりも溶接進行方向Aの前方(すなわち第1電極側)に位置するように、ワイヤ32,42を傾斜させて設定することが好ましい。そのワイヤ32,42と鉛直線とのなす角β(以下、前進角という)を10°以上とすれば、ビードの幅を広げる効果が顕著に現われるので好ましい。ただし、前進角が大きすぎると、ビードの幅を広げる効果が得られなくなるので、前進角は50°以下が好ましい。
さらに、第3電極3,第4電極4は、図3に示すように、コンタクトチップ31,41の先端部中心から鉛直下方に下ろした鉛直線が鋼板5表面と交わる位置34,44(以下、コンタクトチップの先端中心位置という)が溶接線6に対して垂直な同一線上に配置されるように設定する。鋼板5表面における第3電極3のコンタクトチップ31の先端中心位置34と溶接線6との距離MR、および第4電極4のコンタクトチップ41の先端中心位置44と溶接線6との距離MLがそれぞれMR<WR,ML<WLでは、第3電極3および第4電極4の溶込みが、図6に示すように、それぞれ分離して形成される。距離MRと距離MLは必ずしも同一とする必要はないが、良好な形状のビードを形成して、アンダーカットを防止するために、MR=MLとすることが好ましい。
第3電極3,第4電極4のワイヤ32,42のワイヤ径が4.0mm未満では、ビード幅を広げる効果が得られないので、ワイヤ径は4.0mm以上が好ましい。ただし、ワイヤ径が大きすぎると、ワイヤ溶着量が減少し、溶着量不足が生じ易くなるので、ワイヤ径は4.8mm以下が好ましい。ワイヤ32,42のワイヤ径は必ずしも同一とする必要はないが、良好な形状のビードを形成して、アンダーカットを防止するためには、同じワイヤ径のものを使用することが好ましい。
また、ワイヤ32,42に供給する電流は、電極間でアークの干渉が生じるのを防止するために、交流電流とすることが好ましい。
以上に、4本の電極を用いる例について説明したが、本発明は電極数を4本に限定するものではなく、3本以上の電極を用いる多電極サブマージアーク溶接に適用でき、とりわけ3〜5本の電極を用いる場合に顕著な効果が得られる。
また、本発明は、種々の板厚や開先形状に適用でき、様々な溶接速度の片面溶接にも両面溶接にも適用できるが、特に板厚が25mmを超えるような厚鋼板を溶接する場合に適用すれば、深い溶込みと広いビード幅を得るとともに溶接入熱の低減を図ることができるので、余盛り高さの低減,熱影響部の靭性向上およびアンダーカットの防止に有効である。
図4に示すように、板厚Tが38.1mmの鋼板5に開先角度θを70°、開先深さDを16.5mmとして開先加工を施した後、4本の電極を用いて多電極サブマージアーク溶接を行なって、図5に示すような溶接継手を作製した。表1に開先形状、表2に溶接条件、表3に電極の配置、表4に溶接電流の設定を示す。
Figure 0005895477
Figure 0005895477
Figure 0005895477
Figure 0005895477
得られた溶接継手のビード外観を目視で観察し、さらにビード定常部の断面を観察して溶込み深さd(mm),ビード幅B(mm),余盛り高さH(mm)を測定した。その結果を表5に示す。
Figure 0005895477
表5に示す通り、発明例の溶接記号1〜6は、いずれもビード外観が良好で、しかも溶込み深さdが25.0〜26.4mm、ビード幅Bが31.6〜41.2mm、余盛り高さHが1.4〜1.9mmであり、深い溶込みを得ながら、広いビード幅を得ることができ、かつ余盛り高さを低く抑えることができた。なお、発明例のうちの溶接記号5は、最後尾の電極のワイヤ径が3.2mmであるために、ビード幅が他の発明例と比べて狭かった。溶接記号6は、第1電極に交流電流を供給したために、溶込みが他の発明例と比べて浅かった。
比較例の溶接記号7は、第1電極のワイヤ径が1.6mmであるために、溶込みが発明例よりも浅く、余盛りが高かった。溶接記号8は、第1電極のワイヤ径が4.0mmであるために、溶込みが発明例よりも浅かった。溶接記号9は、全ての電極を溶接線上に配置したために、ビード幅が発明例よりも狭かった。溶接記号10は、最後尾の2本の電極のワイヤ先端位置と溶接線との距離を4mmとしたために、ビード幅が発明例よりも狭かった。溶接記号11は、最後尾の2本の電極のワイヤ先端位置と溶接線との距離を22mmとしたために、図7に示すようなビード分離が発生した。溶接記号12は、ワイヤ先端位置と溶接線との距離Wおよびコンタクトチップ先端中心位置と溶接線との距離Mが、M<Wであるために、図6に示すような溶込み分離が発生した。
1 第1電極
11 第1電極のコンタクトチップ
12 第1電極のワイヤ
13 第1電極のワイヤの先端位置
2 第2電極
21 第2電極のコンタクトチップ
22 第2電極のワイヤ
23 第2電極のワイヤの先端位置
3 第3電極
31 第3電極のコンタクトチップ
32 第3電極のワイヤ
33 第3電極のワイヤの先端位置
34 第3電極のコンタクトチップの先端中心位置
4 第4電極
41 第4電極のコンタクトチップ
42 第4電極のワイヤ
43 第4電極のワイヤの先端位置
44 第4電極のコンタクトチップの先端中心位置
5 鋼板
6 溶接線

Claims (3)

  1. 3電極以上のサブマージアーク溶接で鋼板を溶接する多電極サブマージアーク溶接方法において、溶接進行方向の先頭の第1電極のワイヤ径を2.0〜3.2mmとし、前記溶接進行方向の最後尾に、溶接線を挟んで両側に2本の電極をそれぞれのワイヤ先端を前記鋼板に向けて配置し、かつ該2本の電極の前記鋼板の表面におけるワイヤ先端位置を前記溶接線に対して垂直な同一線上に配置するとともに、前記ワイヤ先端位置と前記溶接線との距離W(mm)を5〜20mmとし、かつコンタクトチップの先端部中心から鉛直下方に下ろした鉛直線が前記鋼板の表面と交わる位置と前記溶接線との距離M(mm)が、前記距離Wに対してM≧Wを満たすことを特徴とする多電極サブマージアーク溶接方法。
  2. 前記最後尾の電極のワイヤ径を4.0mm以上とすることを特徴とする請求項1に記載の多電極サブマージアーク溶接方法。
  3. 前記第1電極に直流電流を供給し、第2電極以降に交流電流を供給することを特徴とする請求項1または2に記載の多電極サブマージアーク溶接方法。
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