本発明の実施の一形態について、以下に詳細に説明する。本明細書中に記載された学術
文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意味する。また、特に記載がない限り、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
本明細書における「樹脂」は「重合体」よりも広い概念である。樹脂は、例えば1種または2種以上の重合体からなってもよいし、必要に応じて、重合体以外の材料、例えば紫外線吸収剤、酸化防止剤、フィラーなどの添加剤、相溶化剤、安定化剤などを含んでいてもよい。
<1.光学フィルムの製造方法>
本発明にかかる光学フィルムの製造方法は、熱可塑性樹脂フィルムを、加熱炉を備えた延伸機を用いて延伸する工程を含む光学フィルムの製造方法であって、上記加熱炉は、上記熱可塑性樹脂フィルムの面に対して熱風を送風可能な複数のエア吹き出し部からなる送風部を備え、上記送風部の、上記熱可塑性樹脂フィルムの幅方向に直交する側面が、遮蔽板によって被覆されていればよく、その他の具体的な工程、条件等は特に限定されるものではない。
(1.延伸工程)
本発明は、熱可塑性樹脂フィルムを、加熱炉を備えた延伸機を用いて延伸する工程(以下「延伸工程」)を含む。延伸により、上記熱可塑性樹脂に含まれる重合体が配向し、当該フィルムは重合体の当該配向に基づく位相差を示す。
延伸は、例えば、一軸延伸または二軸延伸などの従来公知の方法によって行えばよい。一軸延伸は、典型的には、フィルムの幅方向の変化を自由とする自由端一軸延伸であるが、フィルムの幅方向の変化を固定した固定端一軸延伸であってもよい。二軸延伸は、典型的には、逐次二軸延伸であるが、縦横延伸を同時に行う同時二軸延伸であってもよい。
延伸倍率は、フィルムを構成する熱可塑性樹脂の組成および光学フィルムとして最終的に得たい位相差に応じて、例えば1.05〜25倍の範囲、好ましくは1.1〜10倍の範囲、より好ましくは1.2〜5倍の範囲で調整することができる。
延伸倍率が1.05倍よりも小さいと、延伸に伴う位相差性能の発現や靭性の向上につながらないために好ましくない。延伸倍率が25倍よりも大きいと、延伸倍率を上げるだけの効果が認められず、また延伸中にフィルムの破断が起こる場合があり好ましくない。
延伸工程において延伸されるフィルムは、典型的には未延伸フィルムであるが、予め延伸を加えた熱可塑性樹脂フィルムを延伸工程において延伸してもよい。
延伸工程において延伸される熱可塑性樹脂フィルム(本明細書において、単に「フィルム」と称する場合もある)は帯状であってもよく、この場合、延伸機に熱可塑性樹脂フィルムを連続的に供給することで、当該フィルムを連続的に延伸できる。熱可塑性樹脂フィルムが帯状である場合、その流れ方向(MD方向)への延伸が縦延伸であり、その幅方向(TD方向)への延伸が横延伸である。
上記延伸工程は、公知の加熱炉を備えた延伸機を用いて実施することができる。当該延伸機には縦延伸機と横延伸機とがあり、いずれも使用可能である。縦延伸機は、熱可塑性樹脂フィルムの搬送方向に当該フィルムを延伸する装置であり、横延伸機は、熱可塑性樹脂フィルムの幅方向(熱可塑性樹脂フィルムの面内方向であって、その搬送方向に垂直な方向)に当該フィルムを延伸する装置である。
上記加熱炉には、例えば、オーブン縦延伸機が備えるオーブン、横延伸機が備えるテンターオーブンなどが含まれる。上記加熱炉は、設定温度の異なる複数の加熱炉がフィルム搬送方向に連続してなる構造であってよい。
当該構造としては、通常、熱可塑性樹脂フィルムを延伸可能な温度にまで加熱する予熱ゾーン、延伸を行う延伸ゾーン、延伸後のフィルムを熱処理する熱処理ゾーンがフィルム搬送方向に連続してなり、これに冷却ゾーンが続く構造が一般的である。
上記縦延伸機としては、例えばオーブン縦延伸機、ロール縦延伸機等を挙げることができる。
オーブン縦延伸機は、オーブン入口側および出口側のそれぞれにある搬送ロールとオーブン(加熱炉)とから構成され、オーブン入口側にある搬送ロールと、出口側にある搬送ロールとの間に周速差をつけることによって熱可塑性樹脂フィルムをその流れ方向に延伸する。
オーブン縦延伸機は、オーブン(加熱炉)として、通常、それぞれ設定温度が異なる予熱ゾーン、延伸ゾーン、熱処理ゾーンを有する。オーブン縦延伸機のオーブン(加熱炉)に、本発明を適用することにより、優れた光学物性(より均一な膜厚等)を有する延伸フィルムを得ることができる。
上記予熱ゾーンでは、熱可塑性樹脂フィルムを延伸可能な温度にまで加熱し、上記延伸ゾーンにおいて当該フィルムを延伸し、延伸条件によっては、上記熱処理ゾーンにおいて、延伸後の樹脂フィルムに熱処理効果を与えることができる。
オーブン縦延伸機における延伸温度は、延伸に供する熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度Tgを基準に、(Tg−30)℃〜(Tg+50)℃が好ましく、より好ましくは(Tg−20)℃〜(Tg+30)℃である。(Tg−30)℃未満で延伸すると樹脂フィルムの破断のおそれがある。(Tg+50)℃を越えると、樹脂フィルムのたるみが大きくなるために、装置とのこすれや破断のおそれが生じる。
一方、ロール縦延伸機は、加熱可能な多数のロールあるいはニップロール(加熱ロール)と、冷却可能な多数のロールあるいはニップロール(冷却ロール)とから構成される。熱可塑性樹脂フィルムは多数の加熱ロールに連続接触しながら延伸温度にまで予熱され、加熱ロールと冷却ロールとの間に設けられた短区間(延伸区間)のニップロールによって延伸された後、冷却ロールによって冷却される。延伸温度を安定化するため、延伸区間内に補助加熱装置を設けても良い。
加熱ロールの温度は、ロールの設定温度である。熱可塑性樹脂フィルムの延伸温度および延伸倍率は、縦延伸後に得られた熱可塑性樹脂フィルムの機械的強度、表面性および厚み精度を指標として適宜調整することができる。
延伸の際に熱可塑性樹脂フィルムを、当該フィルムのガラス転移温度Tgを基準に、加熱ロールによって(Tg−10)℃〜(Tg+20)℃にまで加熱することが好ましく、さらに延伸区間内に設けた補助加熱装置によって、(Tg)℃〜(Tg+30)℃以下にまで加熱することがより好ましい。
加熱ロールでの熱可塑性樹脂フィルムの加熱が、(Tg−10)℃よりも低い場合には、熱可塑性樹脂フィルムが裂ける、割れるなどの工程上の問題を引き起こしやすい。(T
g+20)℃よりも高い場合には、熱可塑性樹脂フィルムがロールに付着するトラブルが起こりやすい。
また、補助加熱装置での加熱がTg℃よりも低い場合には、熱可塑性樹脂フィルムにシワが発生しやすく、熱可塑性フィルムの裂けや割れなどの工程上の問題を引き起こしやすく、(Tg+30)℃よりも高い場合には、最終的に得られた光学フィルムの伸び率や引っ張り強度、可とう性などの力学的性質が改善されず、2次加工性が悪くなることがある。
なお、加熱ロールの合計本数は5本以上が好ましい。5本よりも少ない場合には加熱効果が少なくなるため、熱可塑性樹脂フィルムを十分に暖めることができない。加熱効果を高めるためにロール径を大きくする方法は、加熱によるフィルムの熱膨張を逃がすことができず、シワの発生およびシワ由来の破断が発生しやすくなるため好ましくない。
延伸区間内に設けた補助加熱装置としては、従来公知の方法が使用でき、IRヒーター、セラミックヒーター、熱風ヒーターの中から選ばれるいずれかの加熱方法が装置の導入コストの観点から好ましい。
上記熱風ヒーターを用いる場合、当該ヒーターに本発明を適用することにより、より均一な膜厚等の優れた光学物性を有する延伸フィルムを得ることができる。
横延伸機は、熱可塑性樹脂フィルムの面内方向であって、その搬送方向に垂直な方向(熱可塑性樹脂フィルムの幅方向)に当該フィルムを延伸する装置であり、例えば、テンター延伸機である。テンター延伸機は、クリップ式であってもピン式であっても構わないが、樹脂フィルムの引き裂けが生じ難いことから、クリップ式が好ましい。
クリップ式のテンター延伸機は、一般に、横延伸用のクリップ走行装置とオーブンを備える。クリップ走行装置では、熱可塑性樹脂フィルムの側縁部がクリップで挟まれた状態で当該熱可塑性樹脂フィルムが搬送される。
このとき、クリップ走行装置のガイドレールを開き、左右2列のクリップ間の距離を広げることによって、熱可塑性樹脂フィルムが横延伸される。クリップ式のテンター延伸機では、熱可塑性樹脂フィルムの搬送方向に対してクリップの拡縮機能を持たせることで、熱可塑性樹脂フィルムを同時二軸延伸することも可能である。
横延伸機は、オーブン(加熱炉)として、通常、それぞれ設定温度が異なる予熱ゾーン、延伸ゾーン、熱処理ゾーンを有する。横延伸機のオーブン(加熱炉)に、本発明を適用することにより、優れた光学物性(より均一な膜厚等)を有する延伸フィルムを得ることができる。
上記予熱ゾーンでは、熱可塑性樹脂フィルムを延伸可能な温度にまで加熱し、上記延伸ゾーンにおいて当該フィルムを延伸し、延伸条件によっては、上記熱処理ゾーンにおいて、延伸後の樹脂フィルムに熱処理効果を与えることができる。オーブン(加熱炉)から出たフィルムは、その後冷却される。
横延伸における延伸温度は、熱可塑性樹脂フィルムを構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgの近傍が好ましい。具体的には、(Tg−30)℃〜(Tg+50)℃が好ましく、(Tg−20)℃〜(Tg+30)℃がより好ましい。延伸温度が(Tg−30)℃未満の場合、熱可塑性樹脂フィルムの破断のおそれがある。延伸温度が(Tg+50)℃を超えると、熱可塑性樹脂フィルムのたるみが大きくなるために、装置とのこすれや破
断のおそれが生じる。
熱可塑性樹脂フィルムの延伸における延伸速度は、好ましくは10〜20000%/分の範囲、より好ましくは100〜10000%/分の範囲である。10%/分よりも遅いと、十分な延伸倍率を得るために時間がかかり、製造コストが高くなるために好ましくない。20000%/分よりも早いと、フィルムの破断等が起こるおそれがあるために好ましくない。
本発明の効果が得られる限り、本発明の製造方法は、上述した延伸工程以外の任意の工程を含んでいてもよい。
本発明にかかる光学フィルムの製造方法では、上記加熱炉は、熱可塑性樹脂フィルムの面に対して熱風を送風可能な複数のエア吹き出し部からなる送風部を備えている。
「熱可塑性樹脂フィルムの面」は、熱可塑性樹脂フィルムの表面であっても裏面であってもよく、表面および裏面の双方であることが、均一な熱処理を行う観点からより好ましい。
上記「熱風」とは、上記熱可塑性樹脂フィルムの面を加熱可能な温度を有する風であればよく、温度は特に限定されるものではない。例えば、上記予熱ゾーンにおいて送風される熱風の温度は、上記熱可塑性樹脂フィルムの種類に応じて、当該フィルムを延伸可能な温度に加熱可能な温度に設定すればよい。
上記延伸ゾーンにおいて送風される熱風の温度は、上述のように、オーブン縦延伸機を用いる場合、横延伸機を用いる場合とも、延伸温度は(Tg−30)℃〜(Tg+50)℃が好ましく、より好ましくは(Tg−20)℃〜(Tg+30)℃であるため、熱風の温度が当該温度になるように設定すればよい。
上記熱処理ゾーンにおいて送風される熱風の温度は、延伸後の光学フィルムに求める光学特性や機械的特性に応じて、延伸温度以下の特定の温度となるように設定すればよい。
上記熱風の温度は、各延伸機において加熱ヒーターや冷却装置を用いて適宜制御すればよく、上記熱風の温度は、例えば、エア吹出口に熱電対を設置することによって測定することができる。
「熱風を送風可能な」とは、熱可塑性樹脂フィルムの面に熱風を吹きつけ、当該面を加熱することが可能であることを指す。エア吹き出し部のエア吹出口から熱可塑性樹脂フィルムの面までの距離は、熱風と当該フィルムとの熱交換を円滑に進める観点から、2mm〜20mmであることが好ましく、7mm〜15mmであることがより好ましい。
上記エア吹出口における吹出風速は5〜20m/秒であり、上記エア吹き出し部一本当たりの吹出風量は、上記エア吹き出し部の上記フィルムの幅方向の長さ1m当たり0.01〜0.1m3/秒であることが好ましい。これにより、熱風を確実に上記フィルムの面に吹き付けることができるため、熱風と当該フィルムとの熱交換を円滑に進めることができる。
上記吹出風速は、上記エア吹出口に従来公知の風速計を設置することによって測定することができる。また、上記吹出風量は、吹出風速とエア吹出口の面積の積により求めることができる。
上記送風部は、複数のエア吹き出し部からなる。エア吹き出し部としては、上記フィルムの面に熱風を送風可能であれば、その種類は特に限定されるものではない。例えば、従来公知のエアノズルを用いることができる。エアノズルとしては、例えば、スリットノズル、ホールノズル、フラットノズル、ラバルノズル、ピークノズル等を用いることができる。中でも、スリットノズルまたはホールノズルを用いることが好ましい。
スリットノズルは、直線状のスリットを持ち、スリット全長に渡って風速分布が均一であるという特徴を持つため、熱風を上記フィルムの面に均一に吹き付けるために好適である。ホールノズルは、前面の小さな穴から高速エアを吐出することができ、強力な推力の気流を発生することができるため、熱風を上記フィルムの面に均一に吹き付けるために好適である。
上記複数のエア吹き出し部は、長手方向が、互いにフィルムの幅方向に平行になるように、かつ、フィルムの搬送方向に直交するように配置されることが好ましい。本明細書では、一つの加熱炉が備える複数のエア吹き出し部をまとめて送風部と総称している。つまり、予熱ゾーン、延伸ゾーン、熱処理ゾーンを備える延伸機であれば、それぞれのゾーン毎に送風部を備えている。
上記送風部を構成するエア吹き出し部の数は特に限定されるものではなく、各ゾーンのフィルム搬送方向の長さに応じて、上記フィルムの面に均一に熱風を送風するために必要な数のエア吹き出し部を配置すればよい。
図1は、本発明にかかる光学フィルムの製造方法を実施可能なテンター横延伸機100の構造の概略を示す図であり、図1の(a)は、遮蔽板を設置したテンター横延伸機100の構造の概略を示す側方断面図であり、図1の(b)は、当該延伸機をフィルム搬送方向から見た正面図である。
図1の(a)、(b)において、2は熱可塑性樹脂フィルム、3,3’はクリップ(把持部材)、11は予熱ゾーン、12は延伸ゾーン、13は熱処理ゾーン、14は冷却ゾーン、21,21’はスリットノズル(エア吹き出し部)、22,22’は遮蔽板、23,23’はダクト、24は吸気口、25は入口バッファ、26は延伸ゾーンと熱処理ゾーンとの間のバッファ、27は出口バッファ、28、28’は送風部、29、29’はエア吹出口を示し、矢印は排気を示している。なお、図1の(a)では、クリップ(把持部材)3、3’は図示を省略している。
図1の(a)に示すように、各ゾーンにおいて、熱可塑性樹脂フィルム2の上方には、複数のスリットノズル(エア吹き出し部)21が配置され、熱可塑性樹脂フィルム2の下方には複数のスリットノズル(エア吹き出し部)21’が配置され、送風部28,28’を構成している。
なお、図中、各ゾーンにおいて、部材21、21’、29、29’はそれぞれ1つの部材しか指していないが、これは図示を簡略化するためであり、例えば予熱ゾーンの部材21の左右に同じように表示されている部材は、全てスリットノズル(エア吹き出し部)を示し、それぞれがエア吹出口を備えている。
上記スリットノズル(エア吹き出し部)21,21’は、その基部がそれぞれダクト23,23’に接続されており、図示しない加熱ヒーター、冷却装置などによって所望の温度に制御された熱風は、図示しないファンによってダクト23,23’を経由して、上記スリットノズル(エア吹き出し部)21,21’に送り込まれ、熱可塑性樹脂フィルム2の面に向けて送風される。
熱可塑性樹脂フィルム2の面に送風された熱風は、図1の(b)に示すスリットノズル(エア吹き出し部)21,21’と、クリップ(把持部材)3、3’との隙間から加熱炉(予熱ゾーン11、延伸ゾーン12、熱処理ゾーン13)内の空間に排出される。その後、排出された熱風は、当該空間を流路として、吸気口24から回収される。回収された当該熱風は、新たに取り込まれた空気等と混合された後、図示しない加熱ヒーターや冷却装置を用いて所望の温度に制御し、再び熱可塑性樹脂フィルム2の加熱に用いられる。
ここで、上記送風部28、28’は、上記熱可塑性樹脂フィルム2の幅方向に直交する側面が、遮蔽板22、22’によって被覆されている。ただし、冷却ゾーン14では熱可塑性樹脂フィルム2の加熱を行わないため、遮蔽板22、22’は設けていない。
上記遮蔽板の材質は、延伸温度で変形、劣化が起こらない程度の耐熱性を有するものであれば特に限定されるものではい。例えば、鉄、ステンレス、アルミニウムまたはテフロン(登録商標)を好適な材質として挙げることができる。
また、上記遮蔽板の厚さは、薄すぎると風速によって変形する可能性があり、厚すぎると遮蔽板自体の重量が増し、延伸機の動作に悪影響を及ぼす可能性があるため、0.1〜2mmであることが好ましい。
例えば図1の(b)における遮蔽板22,22’から、熱可塑性樹脂フィルム2の幅方向へ左右に広がる空間のような、上記熱可塑性樹脂フィルム2の側縁部の雰囲気温度は、遮蔽板22,22’を設けていない場合、既に説明したように、スリットノズル(エア吹き出し部)21,21’から送風される熱風の温度とは大きく異なるものとなる。
そのため、遮蔽板22,22’を設けていない場合は、上記側縁部から、スリットノズル(エア吹き出し部)21と21’とに挟まれた空間にエアの流入が起きると、上記熱可塑性樹脂フィルム2の幅方向の温度にムラが生じ、当該幅方向に均一な物性を有する光学フィルムを製造することができないという問題があった。
上記遮蔽板22、22’の設置は、当該問題を解決し、上記熱可塑性樹脂フィルム2の幅方向の温度を均一に保ち、その結果、当該幅方向に均一な物性を有する光学フィルムを製造可能とするものである。
送風部28、28’は、図1の(a)に示すように、それぞれ、スリットノズル(エア吹き出し部)21、21’が複数集まって構成されているため、送風部28、28’が有する「上記熱可塑性樹脂フィルム2の幅方向に直交する側面」は、各スリットノズル(エア吹き出し部)が有する「上記熱可塑性樹脂フィルム2の幅方向に直交する側面」から構成されている。
図1の(a)中の予熱ゾーンを例に取ると、送風部28が有する「上記熱可塑性樹脂フィルム2の幅方向に直交する側面」には、フィルム2の上方に位置する全てのスリットノズル(エア吹き出し部)21の、図示されている側面全てが該当する。また、図1の(a)には表れていない、紙面の奥側に存在する同様の側面全ても該当する。
送風部28、28’の「上記熱可塑性樹脂フィルム2の幅方向に直交する側面」は、それぞれ遮蔽板22、22’によって被覆されている。なお、図1の(a)では、遮蔽板22、22’が各エア吹き出し部21、21’の間の隙間に存在しているように図示されているが、これは各エア吹き出し部21、21’も図示するためであり、実際は各エア吹き出し部21、21’の側面上と、各エア吹き出し部21、21’の間の隙間とを被覆する
ように設けられている。
被覆の態様としては、上記遮蔽板は、上記複数のエア吹き出し部の基部を起点として、上記熱可塑性樹脂フィルムの面の方向へ伸長すると共に、上記熱可塑性樹脂フィルムの搬送方向では、上記複数のエア吹き出し部にまたがって伸長していることが好ましい。
例えば、図1の(a)に示すように、遮蔽板22、22’は、それぞれ、複数のエア吹き出し部21、21’の基部を起点として、上記熱可塑性樹脂フィルム2の面の方向へ伸長しており、上記熱可塑性樹脂フィルム2の搬送方向(図1の(a)における左右方向)では、それぞれ、複数のエア吹き出し部21、21’にまたがって伸長して、各エア吹き出し部21、21’の側面上と、各エア吹き出し部21、21’の間の隙間とを被覆している。
これにより、「上記熱可塑性樹脂フィルム2の幅方向に直交する側面」と、隣り合うスリットノズル(エア吹き出し部)の間の空間とが、遮蔽板22、22’によって被覆され、
上記熱可塑性樹脂フィルム2の側縁部からスリットノズル(エア吹き出し部)21と21’とに挟まれた空間にエアが流れ込むことを効果的に抑制することができる。
なお、エア吹き出し部21、21’の加熱炉内に現れている天地方向の端部のうち、フィルム2に近い側の端部にはエア吹出口29、29’が設けられている。上記「エア吹き出し部21、21’の基部」とは、それとは反対側のダクト23、23’側の端部のことである。
遮蔽板22、22’は、上記熱可塑性樹脂フィルム2の搬送方向では、全てのエア吹き出し部21、21’の側面上にまたがって伸長していることが好ましく、例えば図1の(a)に示すように、全てのエア吹き出し部21、21’の全ての側面が完全に被覆されていることが好ましい。
図2は、熱可塑性樹脂フィルム2の下方に位置する送風部28’における遮蔽板22’の設置位置の一例を示す斜視図である。図2では、長手方向が、互いにフィルムの幅方向に平行に配置され、かつ、上記熱可塑性樹脂フィルム2の搬送方向(図中矢印で示す)に直交して配置された複数のスリットノズル(エア吹き出し部)21’a〜21’eが設けられている。
遮蔽板22’は、上記熱可塑性樹脂フィルム2の搬送方向において、最も後端に位置するスリットノズル(エア吹き出し部)21’aから、最も先頭に位置するスリットノズル(エア吹き出し部)21’eまで、複数のスリットノズル(エア吹き出し部)21’a〜21’eの、上記熱可塑性樹脂フィルム2の幅方向に直交する全ての側面(つまり送風部28’の、上記熱可塑性樹脂フィルム2の幅方向に直交する側面)を過不足なく被覆しており、各スリットノズル(エア吹き出し部)の間に存在する隙間も全て被覆している。
また、遮蔽板22’は、複数のスリットノズル(エア吹き出し部)21’a〜21’eの基部(ダクト23’側の端部)を起点として、上記熱可塑性樹脂フィルム2の面の方向へ伸長しており、上記基部から遮蔽板22’の先端部までの距離は、スリットノズル(エア吹き出し部)21’aの基部から、天地方向の端部のうち、フィルム2に近い側の端部であるエア吹出口29’aまでの距離と同一となっている。
遮蔽板22’は、図2に示すように、上記熱可塑性樹脂フィルム2の搬送方向および遮蔽板22’の天地方向において、送風部28’の、上記熱可塑性樹脂フィルム2の幅方向
に直交する側面の各端部に大きさを揃えた状態で送風部28’を被覆することが、上述のエアの流入を抑制する上で最も好ましい。
ただし、上記基部から遮蔽板22’の先端部までの距離は、スリットノズル(エア吹き出し部)21’aの基部から、天地方向の端部のうち、フィルム2に近い側の端部であるエア吹出口29’aまでの距離と必ずしも同一でなくても構わない。
つまり、上記送風部の、上記熱可塑性樹脂フィルムの幅方向に直交する側面において、各エア吹き出し部の基部からエア吹出口までの距離が略同一である場合、上記遮蔽板の、上記基部から上記遮蔽板の先端部までの距離は、各エア吹き出し部の基部からエア吹出口までの距離±20mmであってもよい。
上記「略同一」とは、各エア吹き出し部の基部からエア吹出口までの距離が同一である場合の他、±0.0〜10.0mmの範囲にあることをいう。エア吹出口から熱可塑性樹脂フィルムの面までの距離は、均一な加熱を行う観点から同一に近いほど好ましいが、±0.0〜10.0mmの範囲であれば、十分に均一な加熱を行うことができる。そのため、当該範囲であれば、各エア吹き出し部の基部からエア吹出口までの距離が同一である場合と同視することができる。
図3は、遮蔽板の上記基部から先端部までの距離として好ましい範囲を示す側面図である。
上記距離が20mmを超えると、遮蔽板の先端部が、熱可塑性樹脂フィルム2の面に近づきすぎ、熱可塑性樹脂フィルム2の面に当たる可能性があるため好ましくない。上記距離が20mm未満の場合は、各スリットノズル(エア吹き出し部)の間に存在する隙間について、被覆されない部分が多くなり、上述のエアが流入しやすくなる傾向が生じるため好ましくない。
上述のように、遮蔽板22’は、フィルムの搬送方向において、例えば図2に示すように、全てのスリットノズル(エア吹き出し部)21’a〜21’eにまたがって伸長し、これらのノズルの全ての側面を完全に被覆していることが最も好ましいが、これに限定されるものではない。
例えば、図2に示すスリットノズル(エア吹き出し部)21’a、21’eは、加熱炉内においてそれぞれフィルムの搬送方向の最後部、先頭に位置するため、その後または前には隣り合うスリットノズル(エア吹き出し部)が存在しない。
そのため、21’aより後ろ、または21’eより前では、隣り合うスリットノズル(エア吹き出し部)との隙間が存在しないので、当該隙間へのエアの流入は生じない。この場合、21’a、21’eの上記側面は、それぞれ21’b、21d’との間の隙間へのエアの流入を防止できる程度に被覆されていればよい。
例えば、加熱炉内においてフィルムの搬送方向の最後部に位置するスリットノズル(エア吹き出し部)21’aにおいて、エア吹出口29’aからダクト23’側の辺へ下ろした垂線(フィルム2の面への方向と反対方向に下ろした垂線)から、フィルムの搬送方向の先頭に位置するスリットノズル(エア吹き出し部)21’eにおいて、エア吹出口29’aからダクト23’側の辺へ下ろした垂線までの範囲が、フィルムの搬送方向において遮蔽板22’によって被覆されていればよい。
図2では、便宜上、熱可塑性樹脂フィルム2の下方に位置する送風部28’における遮
蔽板22’の設置例を説明した。上記送風部は、各加熱炉において、例えば熱可塑性樹脂フィルム2の下方のみに存在していても良く、上方のみに存在していてもよいが、上方および下方に存在していることが、熱可塑性樹脂フィルム2の均一な加熱を行う上でより好ましい。その際、上方に存在する送風部、下方に存在する送風部が、ともに図2の送風部28’に示す被覆の態様を示すことが最も好ましい。
上記加熱炉が、上記熱可塑性樹脂フィルムを挟んで対向する複数の上記送風部を備える場合、上記送風部が備える複数のエア吹き出し部は、上記熱可塑性樹脂フィルムの上方に位置するエア吹き出し部のエア吹出口が、上記熱可塑性樹脂フィルムの下方に位置するエア吹き出し部のエア吹出口に対向するように配置されていること;または、上記熱可塑性樹脂フィルムの上方に位置するエア吹き出し部のエア吹出口が、上記熱可塑性樹脂フィルムの下方に位置するエア吹き出し部のエア吹出口に対して千鳥状に配置されていることが好ましい。
「上記熱可塑性樹脂フィルムの上方に位置するエア吹き出し部のエア吹出口が、上記熱可塑性樹脂フィルムの下方に位置するエア吹き出し部のエア吹出口に対向する」とは、例えば、図8に示すスリットノズル(エア吹き出し部)21aと21’aとの関係のように、スリットノズル(エア吹き出し部)21aの先端部(エア吹出口29a)からスリットノズル(エア吹き出し部)21aの基部に下ろした垂線と、スリットノズル(エア吹き出し部)21’aの先端部(エア吹出口29’a)からスリットノズル(エア吹き出し部)21’aの基部に下ろした垂線とが一直線上に並ぶことを指す。
このように上方に位置するエア吹出口と下方に位置するエア吹出口が対向していることにより、熱可塑性樹脂フィルム2の上方に位置するエア吹き出し部が熱可塑性樹脂フィルム2の表面全体を加熱し、熱可塑性樹脂フィルム2の下方に位置するエア吹き出し部が熱可塑性樹脂フィルム2の裏面全体を加熱することができるため、当該表面および裏面のより均一な加熱が可能となり好ましい。
ただし、これに限られるものではなく、上記熱可塑性樹脂フィルムの上方に位置するエア吹き出し部のエア吹出口が、上記熱可塑性樹脂フィルムの下方に位置するエア吹き出し部のエア吹出口に1:1で対向するように配置されている必要はない。
本明細書では、「上記熱可塑性樹脂フィルムの上方に位置するエア吹き出し部のエア吹出口が、上記熱可塑性樹脂フィルムの下方に位置するエア吹き出し部のエア吹出口に対向する」とは、当該上方に位置するエア吹き出し部のエア吹出口の50%以上が、当該下方に位置するエア吹き出し部のエア吹出口に対向していることを言う。
例えば、図1の(a)における予熱ゾーン11、延伸ゾーン12、熱処理ゾーン13では、熱可塑性樹脂フィルム2の上方に位置する送風部28を構成するエア吹き出し部の数と、熱可塑性樹脂フィルム2の下方に位置する送風部28’を構成するエア吹き出し部の数とが一致しておらず、上方にのみエア吹き出し部があり、当該エア吹き出し部に対向するエア吹き出し部が下方には存在しない箇所がある。この箇所には、クリップレール拡縮用のハンドルがあり、エア吹き出し部を取付けられないためである。
このように、図1の(a)に示す構成では、上方に位置するエア吹き出し部のエア吹出口の全てが、下方に位置するエア吹き出し部のエア吹出口と1:1で対向している訳ではないが、熱可塑性樹脂フィルム2の表面および裏面の均一な加熱を行うことは十分に可能であるため、好ましく用いることができる。
図4は、「上記熱可塑性樹脂フィルムの上方に位置するエア吹き出し部のエア吹出口が
、上記熱可塑性樹脂フィルムの下方に位置するエア吹き出し部のエア吹出口に対して千鳥状に配置されている」テンター横延伸機100’の構造の概略を示す斜視図である。図4において、他の図面に記したのと同じ部材には同じ部材番号を付している。矢印はフィルムの搬送方向である。また、図4では遮蔽板の記載は省略している。
図4では、予熱ゾーン11から冷却ゾーン13までの各加熱炉および冷却ゾーン14において、送風部28、28’が熱可塑性樹脂フィルム2を挟んで対向しており、送風部28はテンター横延伸機100’を上方から見た場合に、各ゾーンの右半分に設置され、送風部28’は左半分に設置されている。その結果、送風部28が備える各エア吹き出し部のエア吹出口は、送風部28’が備える各エア吹き出し部のエア吹出口に対して千鳥状に配置されることになる。
このような配置によって、熱可塑性樹脂フィルム2の右半分および左半分を加熱することができ、送風部28と送風部28’とから送風される熱風の温度を同一温度に設定することによって、熱可塑性樹脂フィルム2を均一に加熱することが可能である。
上記千鳥状の配置は、図4に例示した配置に限定されるものではない。例えば、送風部28が、図4に示すテンター横延伸機100’を上方から見た場合に左側に設置され、送風部28’が右側に設置されている態様であってもよい。
また、各ゾーンにおける送風部28、28’の配置は、千鳥状に配置されていれば、全て同じ配置になっている必要はない。例えば、予熱ゾーンでは送風部28がテンター横延伸機100’を上方から見た場合に右側に設置され、延伸ゾーンでは左側に設置されている、という態様であっても構わない。
図5は、熱可塑性樹脂フィルム2の上方に位置するエア吹き出し部21のエア吹出口29が、上記熱可塑性樹脂フィルムの下方に位置するエア吹き出し部21’のエア吹出口29’に対して千鳥状に配置されている、他の態様のテンター横延伸機100’’につき、構造の概略を示す側面図である。図5において、他の図面に記したのと同じ部材には同じ部材番号を付している。矢印は排気の方向を示している。また、図5では遮蔽板の記載は省略している。
図5に示すように、テンター横延伸機100’’では、エア吹出口29と、エア吹出口29’とが、熱可塑性樹脂フィルム2の搬送方向において交互に配置された千鳥状の配置となっている。このような配置を取ることによっても、熱可塑性樹脂フィルム2の表面および裏面を均一に加熱することができるため好ましい。
<2.延伸時における熱可塑性樹脂フィルムの面の温度>
本発明にかかる光学フィルムの製造方法においては、延伸時における上記熱可塑性樹脂フィルムの面の温度は、当該フィルムの幅方向の両端部から幅方向へ、50mmの範囲を除いた部分において、最大温度と最小温度との差が1.0℃以下であることが好ましい。
本発明にかかる光学フィルムの製造方法によれば、上記送風部の、上記熱可塑性樹脂フィルムの幅方向に直交する側面が、遮蔽板によって被覆されているため、熱可塑性樹脂フィルムの側縁部から該フィルムの面へのエアの流入を効果的に抑制することができる。
それゆえ、上記送風部から送風される熱風から上記熱可塑性樹脂フィルムに伝わる伝熱量を幅方向に均一化することができ、当該フィルムの幅方向の両端部から幅方向へ、50mmの範囲を除いた部分において、最大温度と最小温度との差を1.0℃以下にできるため、フィルムの幅方向の物性が均一な延伸フィルムを得ることができる。
図6は、テンター横延伸機100において、延伸時における熱可塑性樹脂フィルム2の面の温度を測定する手順の一例を示す図である。図6の(a)は、延伸に供する熱可塑性樹脂フィルム2の面において温度を測定する地点を示している。図6の(b)は、熱可塑性樹脂フィルム2が延伸ゾーン12の中央を通過したときの温度を測定する様子を示している。なお、図6において、他の図面にて説明した部材には、同じ部材番号を付している。
「延伸時における熱可塑性樹脂フィルムの面」とは、延伸の開始から終了までの過程にある熱可塑性樹脂フィルムの面を指す。例えば、図6の(a)、(b)においては、熱可塑性樹脂フィルム2のうち、延伸ゾーン12の中に存在している部分の、表面および/または裏面を指す。
延伸時における上記熱可塑性樹脂フィルムの面の温度は、当該フィルムの幅方向の両端部から幅方向へ、把持部材によって把持される範囲を除いた部分において測定される。
上記温度は、フィルムの表面で測定しても裏面で測定してもよく、表面および裏面で測定してもよい。「当該フィルムの幅方向の両端部から幅方向へ、50mmの範囲を除いた部分」とは、上記50mmの範囲は、クリップ等の把持部材によって把持される部分を含むため、製品としての光学フィルムを得る際にフィルムから除去される上記50mmの範囲を除いた残りの部分を対象として、温度測定を行うことを意味している。
なお、通常、上記50mmの範囲は、冷却ゾーン14を出た後に熱可塑性樹脂フィルム2から除去されるが、図6の(a)、(b)では、上記50mmの範囲を既に除いたとした部分を図示している。
「当該フィルムの幅方向の両端部から幅方向へ50mmの範囲を除いた部分」において温度測定を行う地点としては、延伸の開始から終了までの中間点である、延伸ゾーン12の中央をフィルムが通過した時のフィルム面の温度を測定することが好ましい。
測定の手順の一例を以下に説明する。すなわち、図6の(a)に示すように、熱可塑性樹脂フィルム2が予熱ゾーン11に入る前に、熱可塑性樹脂フィルム2の幅方向における一方の端部(図6の(a)に示す熱可塑性樹脂フィルム2の一方の長辺)から、熱可塑性樹脂フィルム2の面内に、当該長辺から他方の長辺へ垂線を引いた場合の中点である点d、上記垂線上において、熱可塑性樹脂フィルム2を上から見た場合に右側の長辺から100mm内側に位置する点e、上記垂線上において、熱可塑性樹脂フィルム2を上から見た場合に左側の長辺から100mm内側に位置する点fの3箇所に、耐熱テープを用いて熱電対を貼り付ける(図6の(a))。
次に、点d〜fを含む面が延伸ゾーン12に入った後、延伸ゾーン12の中央を点d〜fが通過するときの点d〜fの温度を測定する(図6の(b))。延伸ゾーン12の中央とは、延伸ゾーン12の、熱可塑性樹脂フィルム2の幅方向に直交する一方の側面の中心から、熱可塑性樹脂フィルム2の幅方向に直交する他方の側面の中心へ引いた直線上の地点を指す。
そして、点d〜fの最大温度と最小温度との差を求めることにより、延伸ゾーン12の中央をフィルムが通過した時のフィルム面の温度を測定することができる。本発明にかかる光学フィルムの製造方法によれば、点d〜fの温度のうち、最大温度と最小温度との差を1.0℃以下とすることができる。
もっとも、測定の手順はこれに限られるものではなく、延伸ゾーン12内を通過する熱可塑性樹脂フィルム2において、測定地点をさらに増やし、最大温度と最小温度との差を求めてもよい。
本発明にかかる光学フィルムの製造方法によれば、上記送風部が所定の遮蔽板を備えているため、上記点d〜fの温度を測定する場合のみならず、熱可塑性樹脂フィルム2の幅方向の両端部から幅方向へ、上記50mmの範囲を除いた部分において、延伸時における上記熱可塑性樹脂フィルム2の面の最大温度と最小温度との差を1.0℃以下にすることができる。
上記最大温度と最小温度との差が1.0℃を超えると、得られる延伸フィルムの膜厚に悪影響を与え、幅方向の膜厚にムラが大きいフィルムとなってしまう。このように、上記最大温度と最小温度との差を1.0℃以下とすることにより、延伸フィルムの幅方向の膜厚にムラの少ないフィルムとすることができ、幅方向に均一な特性を有する延伸フィルムを得ることができる。
<3.熱可塑性樹脂フィルムの側縁部の温度>
本発明にかかる光学フィルムの製造方法は、上記送風部からの送風によって熱可塑性樹脂フィルムが加熱され、当該フィルムが延伸されている加熱炉において、上記送風部を構成する少なくとも一つのエア吹き出し部の、上記フィルムの幅方向に直交する一方の側面および他方の側面から、上記フィルムの外側方向へそれぞれ長さ100mmの垂線を引いた地点における雰囲気温度を、T1、T2としたときに、以下の式(1)が成り立つことが好ましい。
0.5≦|T1−T2|≦3.0・・・(1)
既に説明したように、熱可塑性樹脂フィルムの側縁部の雰囲気温度は、通常は周辺の加熱ヒーターなどの機器からの輻射伝熱、テンターオーブン壁面からの放熱などの影響を受け、エア吹き出し部から送風される熱風の温度とは大きく異なる温度を示す。
このとき、上記側縁部からエアが流入すると、熱可塑性樹脂フィルムへの伝熱量はフィルムの幅方向において不均一となる。特に、構造上の規制で加熱ヒーターおよび/または冷却装置が片側に設置されているテンターオーブンなどは、フィルム両側の側縁部の温度(T1、T2)について、式(1)に示されるように、左右の側縁部で温度差がつきやすい。
このように、熱可塑性樹脂フィルムの幅方向における一方の側縁部の雰囲気温度と、他方の側縁部の雰囲気温度との温度差が大きい場合、両方の側縁部から熱可塑性樹脂フィルムの面へエアが流入すると、フィルム面の温度の高低差が大きくなり、均一な延伸ができなくなる。その結果、熱可塑性樹脂フィルムの幅方向に厚みムラが生じてしまう。
本発明にかかる製造方法では、例え式(1)に示される範囲でT1、T2とに差があっても、延伸機の加熱炉が備える上記送風部の所定の側面が遮蔽板によって被覆されているため、熱可塑性樹脂フィルムの側縁部から該フィルムの面へのエアの流入を抑制することができる。その結果、熱可塑性樹脂フィルムの面の幅方向の温度を均一にすることができる。
「上記送風部からの送風によって熱可塑性樹脂フィルムが加熱され、当該フィルムが延伸されている加熱炉」とは、延伸機が備える加熱炉のうち、いわゆる延伸ゾーンを指す。「上記送風部を構成する少なくとも一つのエア吹き出し部」は、既に説明したように、送風部は複数のエア吹き出し部から構成されているため、そのうちの少なくとも一つのエア吹き出し部であればよく、少なくとも一つのエア吹き出し部に基づいて測定したT1,T
2が式(1)を満たしていればよい。当該エア吹き出し部としては、特に限定されるものではないが、例えば、延伸時の代表的な状態である、延伸ゾーンの中央に位置するエア吹き出し部を一つ選択することができる。
延伸ゾーンの中央とは、既に説明したように、例えば図6に示す延伸ゾーン12であれば、熱可塑性樹脂フィルム2の幅方向に直交する一方の側面の中心から、熱可塑性樹脂フィルム2の幅方向に直交する他方の側面の中心へ引いた直線上の地点を指す。
延伸ゾーンの中央に位置するエア吹き出し部とは、延伸ゾーンの中央に位置する熱可塑性樹脂フィルムの面に対して熱風を送風できるエア吹き出し部を指す。
図7は、延伸ゾーンの中央に位置するスリットノズル(エア吹き出し部)1のエア吹出口の熱風温度測定位置、延伸ゾーンの中央に位置する熱可塑性樹脂フィルム2の面温度の測定位置、熱可塑性樹脂フィルム2の表面近傍の雰囲気温度測定位置、および熱可塑性樹脂フィルム2の側縁部の雰囲気温度(T1、T2)測定位置の一例を示す図である。
図7の(a)は、正面図(フィルムの搬送方向から見た図)であり、図7の(b)は側面図である。図7の(b)では、遮蔽板22,22’の図示を省略している。図中、他の図面で説明した部材と同じ部材には同じ部材番号を付している。点a,b,cは上記熱風温度および風速の測定位置、点d、e,fは、上記熱可塑性樹脂フィルム2の面温度の測定位置、点g、hは、上記熱可塑性樹脂フィルム2の側縁部の雰囲気温度(T1、T2)測定位置、点i,j,kは、熱可塑性樹脂フィルム2の表面近傍の雰囲気温度測定位置を示す。2a、2bは熱可塑性樹脂フィルム2の端部を示し、熱可塑性樹脂フィルム2は、クリップ(把持部材)3,3’によって端部を把持されている。
図中、1、1’は延伸ゾーンの中央に位置するスリットノズル(エア吹き出し部)である。「上記フィルムの幅方向に直交する一方の側面および他方の側面」とは、例えば、図7の(a)におけるスリットノズル(エア吹き出し部)1の左右の、遮蔽板22で被覆されている側面、および、スリットノズル(エア吹き出し部)1’の左右の、遮蔽板22’で被覆されている側面が該当する。当該側面は、送風部を構成するそれぞれのエア吹き出し部が2つずつ有することになる。
図7の(b)に示すように、延伸ゾーンに設置されたスリットノズル(エア吹き出し部)の数が奇数で、等間隔に設置されている場合は、延伸ゾーンの中央に位置するスリットノズルは1または1’に決まるが、例えば延伸ゾーンに設置されたエア吹き出し部の数が偶数で、等間隔に設置されている場合(例えば、図6の延伸ゾーン12のように、上下に4本設置されているような場合)は、上下いずれかにおいて、延伸ゾーンの中央に最も近い2本を、延伸ゾーンの中央に位置するエア吹き出し部として選択すればよい。この場合、選択した2本のエア吹き出し部に基づいて求めたT1、T2が、いずれも式(1)を満たしていればよい。
また、例えば図1の延伸ゾーン12に設置された送風部28を構成するエア吹き出し部の場合、予熱ゾーン11と延伸ゾーン12との境界側から数えて5本目、および、熱処理ゾーン13側と延伸ゾーン12との境界側から数えて5本目の、2本のエア吹き出し部を、延伸ゾーンの中央に位置するエア吹き出し部として選択すればよい。この場合、選択した2本のエア吹き出し部に基づいて求めたT1、T2が、いずれも式(1)を満たしていればよい。
「上記フィルムの外側方向へそれぞれ長さ100mmの垂線を引いた地点」とは、例えば、図7の(a)に示すように、上記一方の側面および他方の側面の、スリットノズル(
エア吹き出し部)1のエア吹出口から長さ100mmの垂線を引いた地点である点g、hが該当する。上記「雰囲気温度」とは、上記フィルムの外側方向へそれぞれ長さ100mmの垂線を引いた地点の気温を意味する。例えば、点g、hにおける気温が該当する。
点g、hは、スリットノズル(エア吹き出し部)1から熱可塑性樹脂フィルム2の面に送風され、吹き付けられた熱風が、スリットノズル(エア吹き出し部)1とクリップ(把持部材)3,3’との間から熱可塑性樹脂フィルム2の外側方向へ出て、図示しない吸引口(例えば、図1に示す吸引口24)へ吸引される際に通過する流路上に存在する。
また、点g、hは、スリットノズル(エア吹き出し部)1から送風される熱風の温度とは温度が大きく異なるエアが存在する雰囲気下にあり、かつ、遮蔽板22がない場合は、点g、hに存在するエアが、スリットノズル(エア吹き出し部)1と熱可塑性樹脂フィルム2との間の空間に流入やすい地点である。
そのため、点g、hを、上記熱可塑性樹脂フィルム2の側縁部の雰囲気温度測定地点とすることが好ましい。後述する実施例および比較例では、点g、hにおける雰囲気温度をT1,T2を測定している。
ただし、これに限られるものではなく、上記送風部を構成するエア吹き出し部の、熱可塑性樹脂フィルムの幅方向に直交する一方の側面および他方の側面から長さ100mmの垂線を引いた地点であれば、いずれの地点であっても、上記流路上の地点に該当し、点g、hと同様にスリットノズル(エア吹き出し部)1から送風される熱風の温度とは雰囲気温度が大きく異なるエアが存在する雰囲気下であり、かつ、その地点に存在するエアが、遮蔽板がない場合は、スリットノズル(エア吹き出し部)1と熱可塑性樹脂フィルム2との間の空間に流入やすい地点であると言える。
よって、上記エア吹き出し部としては、延伸ゾーン中央に位置するエア吹き出し部に限られるものではない。
<4.延伸後の光学フィルム>
本発明にかかる光学フィルムの製造方法では、延伸後の光学フィルムの、幅方向の両端部から、幅方向へ50mmの範囲を除いた部分において、幅方向における最大膜厚と最小膜厚との差が4.0μm以下であることが好ましい。当該膜厚の差は、ゼロに近いほど好ましい。
「幅方向の両端部から、幅方向へ50mmの範囲を除いた部分」については前述したとおりである。幅方向における膜厚は、上記部分の一方の長辺から他方の長辺へ垂線を引き、その垂線上の膜厚を、従来公知の膜厚計(例えば、山文電気社製接触式膜厚計 TOF
−5R)を用いて測定すればよい。測定点数は多いほど好ましい。後述する実施例および比較例では、フィルム全幅につき、上記垂線上を1.0mm間隔で測定し、幅方向における最大膜厚と最小膜厚との差を求めた。
後述する実施例に示すように、本発明にかかる光学フィルムの製造方法によって製造した延伸後の光学フィルムの幅方向における最大膜厚と最小膜厚との差は、いずれも4.0μm以下であり、実施例1,2,3,4では3.0μm以下という、より好ましい結果が得られ、非常に幅方向の膜厚差が小さい光学フィルムが得られた。一方、遮蔽板を有さない加熱炉を備えた延伸機を用いた従来法によって得られた当該差は、最小で5.0μm(比較例4)、最大8.0μm(比較例5)に達した。
このように、本発明にかかる光学フィルムの製造方法では、上記送風部の、上記熱可塑
性樹脂フィルムの幅方向に直交する側面が、遮蔽板によって被覆されていることによって、上記フィルムの側縁部から上記フィルムの面へのエアの流入を抑制することができ、その結果、幅方向に均一な膜厚を有する光学フィルムを得ることができる。
このように、幅方向に均一な膜厚を有する光学フィルムを製造することができるため、製品として用いることができる有効幅を、遮蔽板を用いない従来法と比較して非常に大きく取ることができる。つまり、製品としての歩留まりを著しく向上させることができる。このことは、後述する実施例によって実証されている。
<5.熱可塑性樹脂>
本発明において適用可能な熱可塑性樹脂は特に限定されるものではないが、本発明は光学フィルムの製造方法にかかるものであり、光学フィルムには位相差や厚みムラの制御が厳密に要求されるため、特に、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、ポリアクリル樹脂などの非晶性の樹脂が好ましく、さらに環状構造を持つ高分子樹脂、例えば、環状ノルボルネン樹脂やシクロペンタン構造を含む樹脂などが好適であり、いわゆる(メタ)アクリル樹脂が特に好適に用いられる。
特に、上記熱可塑性樹脂は、主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体を含むものであり、延伸後の光学フィルムのガラス転移温度は110℃以上であることが好ましい。
(メタ)アクリル樹脂としては、ポリメタクリル酸樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂やその他のポリメタクリル酸エステル樹脂およびこれらの樹脂の派生物、また、N−置換マレイミド構造、無水マレイン酸構造、グルタルイミド構造、無水グルタル酸構造およびラクトン環構造などの環構造を有する共重合体などが挙げられる。
(メタ)アクリル樹脂フィルムは、(メタ)アクリル重合体を主成分として含むアクリル樹脂から構成されるフィルムである。本発明にかかる方法によって製造される光学フィルムは、(メタ)アクリル樹脂フィルムであることが好ましい。
(メタ)アクリル樹脂における(メタ)アクリル重合体の含有率は、通常、50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、特に好ましくは95重量%以上である。(メタ)アクリル重合体は、光線透過率が高く、屈折率の波長依存性が低いなどの優れた光学特性を有しており、光学フィルムへの使用に好適である。なお、「主成分」とは、樹脂における最も含有率が大きい成分をいう。
(メタ)アクリル重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構成単位((メタ)アクリル酸エステル単位)を有する重合体である。(メタ)アクリル重合体における(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率は、通常、50重量%以上、好ましくは7
0重量%以上、より好ましくは80重量%以上である。
(メタ)アクリル重合体は、主鎖に環構造を有していてもよい。当該環構造は、例えば、(メタ)アクリル酸エステル単量体と環構造を有する単量体とを共重合することによって、あるいは(メタ)アクリル酸エステル単量体を含む単量体群を重合した後に環化反応を進行させることによって、(メタ)アクリル重合体の主鎖に導入される。重合体が主鎖に環構造を有する場合、(メタ)アクリル酸エステル単位および当該環構造の含有率の合計が50重量%以上であれば、当該重合体は(メタ)アクリル重合体である。
(メタ)アクリル酸エステル単位は、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シ
クロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルの各単量体に由来する構成単位である。
(メタ)アクリル重合体は、(メタ)アクリル酸メチル単位を有することが好ましく、この場合、最終的に得られた光学フィルムの光学特性および熱安定性が向上する。(メタ)アクリル重合体は、2種以上の(メタ)アクリル酸エステル単位を有していてもよい。
(メタ)アクリル重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単位以外の構成単位を有していてもよい。
このような構成単位は、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エチレン、プロピレン、4−メチル−1−ペンテン、酢酸ビニル、2−ヒドロキシメチル−1−ブテン、メチルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾールの各単量体に由来する構成単位である。
(メタ)アクリル重合体は、これらの構成単位を2種以上有していてもよい。(メタ)アクリル重合体が、N−ビニルピロリドン単位あるいはN−ビニルカルバゾール単位を有する場合、最終的に得られた光学フィルムにおける複屈折の波長分散性の自由度が向上する。例えば、可視光域において、光の波長が短くなるほど複屈折が小さくなる(位相差が小さくなる)波長分散性(いわゆる逆波長分散性)を示す位相差フィルムが得られる。
重合後の環化反応により主鎖に環構造を導入する場合、(メタ)アクリル重合体は、水酸基および/またはカルボン酸基を有する単量体を含む単量体群の共重合により形成することが好ましい。
水酸基を有する単量体は、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸ブチル、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチル、メタリルアルコール、アリルアルコールである。カルボン酸基を有する単量体は、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸である。
これらの単量体は2種以上使用してもよい。なお、これらの単量体は、環化反応によって(メタ)アクリル重合体の主鎖に位置する環構造となるが、環化反応時に当該単量体の全てが環構造に変化する必要はなく、環化反応後の(メタ)アクリル重合体がこれらの単量体に由来する構成単位を有していてもよい。
(メタ)アクリル重合体の重量平均分子量は、好ましくは1万〜50万であり、より好ましくは5万〜30万である。
(メタ)アクリル重合体は、主鎖に環構造を有することが好ましい。すなわち、アクリル樹脂フィルムを構成するアクリル樹脂が、主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体を含むことが好ましく、主成分として含むことがより好ましい。この場合、最終的に得られる光学フィルムの耐熱性および硬度が向上する。また、主鎖の環構造は、アクリル樹脂が含むその他の重合体との組み合わせにもよるが、延伸によってアクリル樹脂フィルムが大きな位相差を発現することに寄与する。
(メタ)アクリル重合体が主鎖に有していてもよい環構造は、例えば、N−置換マレイミド構造、無水マレイン酸構造、グルタルイミド構造、無水グルタル酸構造およびラクトン環構造から選ばれる少なくとも1種である。
N−置換マレイミド構造は、例えば、シクロヘキシルマレイミド構造、メチルマレイミド構造、フェニルマレイミド構造、ベンジルマレイミド構造である。最終的に得られる光学フィルムの耐熱性の観点からは、当該環構造は、ラクトン環構造、N−アルキル置換マレイミド構造、グルタルイミド構造、無水マレイン酸構造および無水グルタル酸構造が好ましい。
最終的に得られる光学フィルムに対して正の位相差が付与される観点からは、当該環構造は、ラクトン環構造、グルタルイミド構造および無水グルタル酸構造が好ましい。最終的に得られる光学フィルムにおける複屈折の波長分散性が向上する観点からは、当該構造はラクトン環構造が好ましい。
ラクトン環構造は、通常、4〜8員環であり、環構造の安定性の観点から5〜6員環が好ましく、6員環がより好ましい。ラクトン環構造は、例えば、以下の化学式(1)に示す構造である。
化学式(1)において、R1、R2およびR3は、互いに独立して、水素原子または炭素
数1〜20の範囲の有機残基である。当該有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
有機残基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数が1〜20の範囲のアルキル基;エテニル基、プロペニル基などの炭素数が1〜20の範囲の不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの炭素数が1〜20の範囲の芳香族炭化水素基;上記アルキル基、上記不飽和脂肪族炭化水素基または上記芳香族炭化水素基における水素原子の1つ以上が、水酸基、カルボキシル基、エーテル基およびエステル基から選ばれる少なくとも1種の基により置換された基;である。
化学式(1)に示すラクトン環構造は、例えば、メタクリル酸メチル(MMA)と2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)とを含む単量体群を共重合した後、得られた共重合体における隣り合ったMMA単位とMHMA単位とを脱アルコール環化縮合させて形成できる。このとき、R1はH、R2はCH3、R3 はCH3である。
(メタ)アクリル重合体が主鎖に環構造を有する場合、当該重合体における環構造の含有率は特に限定されないが、通常、5〜90重量%であり、10〜70重量%が好ましく、10〜60重量%がより好ましく、10〜50重量%がさらに好ましい。環構造の含有率が過度に大きくなると、アクリル樹脂フィルムの延伸性、ハンドリング性が低下する。
主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体は、公知の方法により形成できる。
主鎖にラクトン環構造を有する(メタ)アクリル重合体は、例えば、特開2000−230016号公報、特開2001−151814号公報、特開2002−120326号公報、特開2002−254544号公報、特開2005−146084号公報に記載されている重合体であり、当該公報に記載されている方法により形成できる。
主鎖に無水グルタル酸構造を有する(メタ)アクリル重合体は、例えば、特開2006−283013号公報、特開2006−335902号公報、特開2006−274118号公報に記載されている重合体であり、当該公報に記載されている方法により形成できる。
主鎖にグルタルイミド構造を有する(メタ)アクリル重合体は、例えば、特開2006−309033号公報、特開2006−317560号公報、特開2006−328329号公報、特開2006−328334号公報、特開2006−337491号公報、特開2006−337492号公報、特開2006−337493号公報、特開2006−337569号公報、特開2007−009182号公報に記載されている重合体であり、当該公報に記載されている方法により形成できる。
アクリル樹脂フィルムは、本発明の効果が得られる限り、(メタ)アクリル重合体以外の他の熱可塑性重合体を含んでいてもよい。他の熱可塑性重合体は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)などのオレフィン重合体;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩素化ビニルなどのハロゲン化ビニル重合体;ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体などのスチレン系重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610などのポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリオキシベンジレン;ポリアミドイミド;ポリブタジエン系ゴムあるいはアクリル系ゴムを配合したABS樹脂、ASA樹脂などのゴム質重合体;である。
アクリル樹脂フィルムがスチレン系重合体を含む場合、(メタ)アクリル重合体との相溶性の観点から、スチレン系重合体はスチレン−アクリロニxトリル共重合体が好ましい。
アクリル樹脂フィルムにおける他の熱可塑性重合体の含有率は、好ましくは0〜50重量%、より好ましくは0〜40重量%、さらに好ましくは0〜30重量%、特に好ましくは0〜20重量%である。
アクリル樹脂フィルムは、重合体以外の材料、例えば添加剤、を含んでいてもよい。添加剤は、例えば、ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系などの酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤などの安定剤;ガラス繊維、炭素繊維などの補強材;フェニルサリチレート、(2,2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシベンゾフェノンなどの紫外線吸収剤;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモンなどの難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤から構成される帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料などの着色剤;有機フィラー、無機フィラー;アンチブロッキング剤;樹脂改質剤;有機充填剤、無機充填剤;可塑剤;滑剤;難燃剤である。
アクリル樹脂フィルムにおける添加剤の含有率は、好ましくは0〜5重量%、より好ましくは0〜2重量%、さらに好ましくは0〜0.5重量%である。
アクリル樹脂フィルムのTg(ガラス転移温度)は、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、さらに好ましくは115℃以上、特に好ましくは120℃以上である。アクリル樹脂フィルムのTgの上限値は特に限定されないが、当該フィルムの延伸性の観点から、好ましくは170℃以下である。
主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体は、アクリル樹脂フィルムならびに当該フィルムを延伸して得た光学フィルムのTgを上昇させ、耐熱性を向上させる。
アクリル樹脂フィルムの厚さは特に限定されず、好ましくは10〜500μm、より好ましくは20〜100μmである。アクリル樹脂フィルムは、公知の方法(例えば、溶融押出、キャスト)により形成できる。
アクリル樹脂フィルムの全光線透過率は85%以上であることが好ましい。より好ましくは90%以上、さらに好ましくは91%以上である。全光線透過率は、透明性の目安であり、85%未満であると透明性が低下し、光学フィルムとして適さないことがある。
アクリル樹脂フィルムは、好ましくはヘイズが5%以下であり、より好ましくは3%以下である。ヘイズが5%を越えると透過率が低下し、光学用途に適さないことがある。
アクリル樹脂フィルムの位相差値は特に限定されない。当該フィルムの幅方向における面内位相差の均一性は高く、幅方向の位相差ムラは10nm以下であることが好ましく、より好ましくは5nm以下であり、さらに好ましくは3nm以下、特に好ましくは2nm以下である。位相差のムラが大きい場合、画像表示装置に組み込んだ際に、光漏れや色ムラが生じやすい。
アクリル樹脂フィルムは、光軸である遅相軸の均一性がフィルム幅方向において高く、光軸ムラは1°以下であることが好ましく、より好ましくは0.5°以下であり、さらに好ましくは0.1°以下である。光軸ムラが大きい場合、画像表示装置に組み込んだ際に、光漏れや色ムラが生じやすい。
アクリル樹脂フィルムの表面には、必要に応じて、各種の機能性コーティング層が形成されていてもよい。機能性コーティング層は、例えば、易接着層、帯電防止層、粘接着剤層、防眩(ノングレア)層、光触媒層などの防汚層、反射防止層、ハードコート層、紫外線遮蔽層、熱線遮蔽層、電磁波遮蔽層、ガスバリヤー層などである。
アクリル樹脂フィルムの用途は特に限定されないが、光学部材として好適に用いることができる。光学部材は、例えば、光学用保護フィルム、具体的には、各種の光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LDなど)基板の保護フィルム、液晶表示装置(LCD)などの画像表示装置が備える偏光板に用いる偏光子保護フィルムである。位相差フィルム、視野角補償フィルム、光拡散フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、タッチパネル用導電フィルムなどの光学フィルムとして、本発明により製造される光学フィルムを用いてもよい。縦延伸および横延伸の条件ならびに樹脂の組成により、位相差を示す光学フィルムとすることも、実質的に位相差がゼロの光学フィルムとすることもできる。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の
変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されない。まず、以下に本実施例および比較例において作製した樹脂の評価方法を説明する。
<重量平均分子量>
樹脂の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により以下の条件で測定し、ポリスチレン換算により求めた。測定に用いた装置および測定条件は以下の通りである。
システム:東ソー社製GPCシステム HLC−8220
測定側カラム構成;
・ガードカラム:東ソー製、TSKguardcolumn SuperHZ-L
・分離カラム:東ソー製、TSKgel SuperHZM-M 2本直列接続
リファレンス側カラム構成;
・リファレンスカラム:東ソー製、TSKgel SuperH-RC
展開溶媒:クロロホルム(和光純薬工業製、特級)
展開溶媒の流量:0.6ml/分
標準試料:TSK標準ポリスチレン(東ソー社製、PS−オリゴマーキット)
カラム温度:40℃
<フィルム厚み>
山文電気社製接触式膜厚計 TOF−5R(最小表示量0.1μm)を用いて、フィル
ム全幅を1.0mm間隔で連続測定した。平均厚みはミツトヨ製デジマチックマイクロメーター(最小表示量0.001mm)を用いて幅方向に20mm間隔で測定し、平均値を求めた。
<フィルムの面内位相差Re>
フィルムの面内位相差Reは、全自動複屈折計(王子計測機器製、KOBRA−WR)を用いて幅方向に20mm間隔で測定し、平均値を求めた。面内位相差Reは、波長589nmの光に対する値である。
<熱風温度、風速、フィルム表面温度、およびフィルム表面近傍の雰囲気温度の測定>
延伸ゾーンに位置するノズル(エア吹き出し部)から吹き出される熱風の温度として、延伸ゾーンの中央に位置するスリットノズル(エア吹き出し部)から吹き出される熱風の温度を、幅方向に3箇所、熱電対によって測定した。
図7の(a)に示すように、上記熱風の温度は、スリットノズル(エア吹き出し部)1の中央直下である点a、左右のクリップ(把持部材)3、3’のフィルム側の端部から、点aに向かってそれぞれ100mmの地点である点b、cの計3箇所で測定した。
熱可塑性樹脂フィルム2の表面の温度は、図6の(a)に示すように、横延伸を行う前に、熱可塑性樹脂フィルム2の表面の3箇所(中央の点d、左右両端部から100mm内側の点e,f)に耐熱テープで熱電対を貼り付けた後、延伸を行い、図6の(b)に示すように、熱可塑性樹脂フィルム2が延伸ゾーン12の中央を通過した時の温度を測定した。
スリットノズル(エア吹き出し部)1、1’のフィルム側の面(エア吹出口)からフィルム2の表面までの距離は、図7の(a)に示すように100mmとし、点d、e、fの
計3箇所で熱可塑性樹脂フィルム2の表面の温度を測定した。3点の温度のうち、最も高い温度を最大Tf、最も低い温度を最小Tfとした。
また、フィルム表面近傍の雰囲気温度として、点d、e、fの10mm鉛直上方にある点i,j,kにおける雰囲気温度(気温)の測定を、点i,j,kに設置した熱電対によって行った。点i,j,kは、スリットノズル(エア吹き出し部)1のエア吹出口から90mmの地点にある。
上記熱電対としては、K熱電対(+脚:ニッケルおよびクロムを主とした合金(クロメル)、−脚:ニッケルを主とした合金(アルメル))を用いた。
熱風の温度を測定した地点と同じ地点(点a、b、c)において、スリットノズル(エア吹き出し部)1から吹き出される熱風の風速を測定した。風速は、延伸時ではなく、常温で風速計(日本カノマックス(株)製「アネモスター6113」)を使用して測定した。そして、当該風速と、エア吹出口の面積との積により、スリットノズル(エア吹き出し部)一本当たりの、熱可塑性樹脂フィルムの幅方向の長さ1mあたりの吹出風量を計算した。
スリットノズル(エア吹き出し部)1、1’から吹き出された熱風は、熱可塑性樹脂フィルム2に吹き付けられた後、スリットノズル(エア吹き出し部)1の上方に設置された熱風吸引口(図示せず)に吸引され、必要に応じて加熱され、循環されて再利用される。上記熱風の、熱風吸引口への流路の温度として、図7の(a)に示す点gの雰囲気温度(気温)T1、および点hの雰囲気温度(気温)T2を選択し、点gおよび点hに設置した上記熱電対を用いて測定した。
点g、hは、図7の(a)に示すように、スリットノズル(エア吹き出し部)1の吹き出し面(エア吹出口)をノズルの外側方向へ左右に延長したと仮定した場合、スリットノズル(エア吹き出し部)1の吹き出し面(エア吹出口)と同一平面上にあり、熱可塑性樹脂フィルム2の端部2a,2bからそれぞれ100mmの地点である。
<フィルムの有効幅>
延伸された光学フィルムの膜厚が目標値±1.0μm以下であり、且つ面内位相差Reが目標値±0.5nm以内である部分を有効幅とし、フィルムの長さを計測した。フィルムの膜厚および面内位相差がこれらの値を満たす場合、良品として扱う。なお、これらの目標値は、延伸倍率、延伸温度、延伸に供する原フィルムの厚みによって決定することができる。
〔製造例1〕
撹拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応釜に、メタクリル酸メチル(MMA)40重量部、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)10重量部、重合溶媒としてトルエン50重量部および酸化防止剤(アデカスタブ2112、ADEKA製)0.025重量部を仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。
昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤としてt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス570)0.05重量部を添加するとともに、上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.10重量部を2時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の熟成を行った。
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、リン酸2−エチ
ルヘキシル(堺化学工業製、Phoslex A−8)0.05重量部を加え、約90〜110℃の還流下において5時間、ラクトン環構造を形成するための環化縮合反応を進行させた。次に、得られた重合溶液を熱交換器に通して240℃まで昇温し、当該温度において環化縮合反応をさらに進行させた。
次に、得られた重合溶液を、バレル温度240℃、回転速度100rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個およびフォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)、第3ベントと第4ベントとの間にサイドフィーダーが設けられており、エア吹出口にリーフディスク型のポリマーフィルター(濾過精度5μm、濾過面積1.5m2)が配置されたベントタイプスクリュー二軸押出機(L/D=52)に、90重量部/時(樹脂量換算)の処理速度で導入し、脱揮を行った。
その際、別途準備しておいた酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液を1.06重量部/時の投入速度で第1ベントの後から、イオン交換水を0.34重量部/時の投入速度で第2および第3ベントの後から、それぞれ投入した。
酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液としては、50重量部の酸化防止剤(BASFジャパン製、イルガノックス1010)と、失活剤である35重量部のオクチル酸亜鉛(日本化学産業製、ニッカオクチクス亜鉛3.6%)とを、トルエン200重量部に溶解させた溶液を用いた。
これに加えて、脱揮の際に、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂:スチレン単位/アクリロニトリル単位の比率が73重量%/27重量%、重量平均分子量が22万)のペレットをサイドフィーダーから、10重量部/時の投入速度で投入した。
脱揮完了後、押出機内に残された熱溶融状態にある樹脂を当該押出機の先端からポリマーフィルターにより濾過しながら排出し、ペレタイザーによりペレット化して、ラクトン環構造を主鎖に有する(メタ)アクリル重合体を主成分(含有率が90重量%)とし、さらにスチレン−アクリロニトリル共重合体を10重量%の含有率で含むアクリル樹脂の透明なペレット(1A)を得た。樹脂ペレット(1A)を構成する樹脂組成物の重量平均分子量は132000、Tgは125℃であった。
〔製造例2〕
特許第4034157号公報に記載の方法に基づき、屈折率が1.505であり、平均粒径(質量平均粒径)が1μmの(メタ)アクリル架橋粒子(1B)を得た。平均粒径は、Particle Sizing Systems社製粒度分布測定装置(Submicron Particle Sizer NICOMP380)で測定した等価球形分布において大粒子側から積算した積算体積分率50%の粒径を平均粒径とした。
作製した粒子(1B)0.5重量部と、製造例1で作製した樹脂ペレット(1A)100重量部とを、スクリュー二軸押出機(池貝社製、PCM37IV−HS−34−8V)を用いて260℃で溶融混練して、(メタ)アクリル架橋粒子を含む樹脂ペレットのマスターバッチ(1AB)を得た。
次に、作製したマスターバッチ(1AB)25重量部と、製造例1で作製した樹脂ペレット(1A)100重量部とをドライブレンドし、260℃で溶融混練して、(メタ)アクリル架橋粒子(1B)の含有率が0.1重量%となるように調整した樹脂ペレット(1AB−1)を得た。
〔製造例3〕
シリカ粒子(屈折率1.43、平均粒径0.3μm、(株)日本触媒製、シーホスターKE−P30)0.5重量部と、製造例1で作製した樹脂ペレット(1A)100重量部とを、スクリュー二軸押出機(池貝社製、PCM37IV−HS−34−8V)を用いて260℃で溶融混練して、シリカ粒子を含む樹脂ペレットのマスターバッチ(1AC)を得た。
次に、作製したマスターバッチ(1AC)25重量部と、製造例1で作製した樹脂ペレット(1A)100重量部とをドライブレンドし、260℃で溶融混練して、シリカ粒子の含有率が0.1重量%となるように調整した樹脂ペレット(1AC−1)を得た。
〔製造例4〕
撹拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応釜に、メタクリル酸メチル(MMA)40重量部、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)10重量部、重合溶媒としてトルエン50重量部および酸化防止剤(アデカスタブ2112、ADEKA製)0.025重量部を仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。
昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤としてt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス570)0.05重量部を添加するとともに、上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.10重量部を2時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の熟成を行った。
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、リン酸2−エチルヘキシル(堺化学工業製、Phoslex A−8)0.05重量部を加え、約90〜110℃の還流下において5時間、ラクトン環構造を形成するための環化縮合反応を進行させた。次に、得られた重合溶液を熱交換器に通して240℃まで昇温し、当該温度において環化縮合反応をさらに進行させた。
次に、得られた重合溶液を、バレル温度240℃、回転速度100rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個およびフォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)、第3ベントと第4ベントとの間にサイドフィーダーが設けられており、エア吹出口にリーフディスク型のポリマーフィルター(濾過精度5μm、濾過面積1.5m2)が配置されたベントタイプスクリュー二軸押出機(L/D=52)に、70重量部/時(樹脂量換算)の処理速度で導入し、脱揮を行った。
その際、別途準備しておいた酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液を1.06重量部/時の投入速度で第1ベントの後から、イオン交換水を0.34重量部/時の投入速度で第2および第3ベントの後から、それぞれ投入した。
酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液としては、50重量部の酸化防止剤(BASFジャパン製、イルガノックス1010)と、失活剤である35重量部のオクチル酸亜鉛(日本化学産業製、ニッカオクチクス亜鉛3.6%)とを、トルエン200重量部に溶解させた溶液を用いた。
これに加えて、脱揮の際に、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂:スチレン単位/アクリロニトリル単位の比率が73重量%/27重量%、重量平均分子量が22万)のペレットをサイドフィーダーから、30重量部/時の投入速度で投入した。
脱揮完了後、押出機内に残された熱溶融状態にある樹脂を当該押出機の先端からポリマーフィルターにより濾過しながら排出し、ペレタイザーによりペレット化して、ラクトン環構造を主鎖に有する(メタ)アクリル重合体を主成分(含有率が70重量%)とし、さらにスチレン−アクリロニトリル共重合体を30重量%の含有率で含むアクリル樹脂の透明なペレット(1D)を得た。樹脂ペレット(1D)を構成する樹脂組成物の重量平均分子量は161000、Tgは122℃であった。
〔製造例5〕
撹拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応釜に、メタクリル酸メチル(MMA)30重量部、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)15重量部、メタクリル酸n−ブチル(BMA)5重量部、重合溶媒としてトルエン50重量部および酸化防止剤(アデカスタブ2112、ADEKA製)0.025重量部を仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。
昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤としてt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス570)0.03重量部を添加するとともに、上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.06重量部を6時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに2時間の熟成を行った。
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、リン酸2−エチルヘキシル(堺化学工業製、Phoslex A−8)0.05重量部を加え、約85〜105℃の還流下において2時間、ラクトン環構造を形成するための環化縮合反応を進行させた。次に、得られた重合溶液を熱交換器に通して240℃まで昇温し、当該温度において環化縮合反応をさらに進行させた。
次に、得られた重合溶液を、バレル温度240℃、回転速度100rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個およびフォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)が設けられており、エア吹出口にリーフディスク型のポリマーフィルター(濾過精度5μm、濾過面積1.5m2)が配置されたベントタイプスクリュー二軸押出機(L/D=52)に導入し、脱揮を行った。
その際、別途準備しておいた酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液を1.06重量部/時の投入速度で第1ベントの後から、イオン交換水を0.34重量部/時の投入速度で第2および第3ベントの後から、それぞれ投入した。
酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液には、50重量部の酸化防止剤(BASFジャパン製、イルガノックス1010)と、失活剤として35重量部のオクチル酸亜鉛(日本化学産業製、ニッカオクチクス亜鉛3.6%)とを、トルエン200重量部に溶解させた溶液を用いた。
脱揮完了後、押出機内に残された熱溶融状態にある樹脂を当該押出機の先端からポリマーフィルターにより濾過しながら排出し、ペレタイザーによりペレット化して、ラクトン環構造を主鎖に有する(メタ)アクリル樹脂の透明なペレット(1E)を得た。樹脂ペレット(1E)を構成する樹脂組成物の重量平均分子量は128000、Tgは133℃であった。
〔比較例1〕
製造例1で作製した樹脂ペレット(1A)を用いて溶融押出法により平均厚さが160μmの未延伸フィルムを得た。次いで、得られた未延伸フィルムを連続的に縦延伸および横延伸し、目標厚み50μmの延伸フィルムを作製した。
その際、縦延伸(溶融押出方向の延伸)は、ロール縦延伸機を用いて2組のニップロールの周速差を用いて行い、延伸温度140℃、延伸倍率1.9倍にて行った。横延伸(幅方向の延伸)はクリップ式のテンター延伸機を用いたテンター法により行い、延伸温度140℃、延伸倍率2.3倍にて行った。
実施例および比較例で用いたテンター延伸機の構造の概略は、図1に示すテンター横延伸機100と同じであるが、全ての比較例では、それぞれスリットノズル(エア吹き出し部)21,21’からなる送風部28、28’が遮蔽板22、22’を備えていない延伸機を使用した。
図1の(a)に示す延伸ゾーン12内において、延伸ゾーン12の中央に位置するスリットノズル(エア吹き出し部)、つまり、送風部28のうち、予熱ゾーン11と延伸ゾーン12との境界側から数えて5本目、および、熱処理ゾーン13側と延伸ゾーン12との境界側から数えて5本目の、2本のスリットノズル(エア吹き出し部)のエア吹出口29における熱風の温度Tは、図7の(a)に示す点a、点b、点cの3点で測定し、その平均値を求めると139.9℃であった。後述する表2に示す熱風の温度Tも、上記点a、点b、点cの3点で測定した温度の平均値である。
上記2本のスリットノズル(エア吹き出し部)について、図7の(a)に示す点g、hの雰囲気温度T1、T2は、それぞれ139.7℃と139.0℃であった。熱可塑性樹脂フィルム2が、図6の(b)に示すように、延伸ゾーン12の中央を通過した時の点d、e,fにおける温度Tfは、最大Tfが133.2℃、最小Tfが124.0℃であった。
延伸後にフィルムの両端部を50mmずつスリットした延伸フィルム、つまり、延伸後の光学フィルムの、幅方向の両端部から、幅方向へ50mmの範囲を除いた部分は全幅600mmであり、最大膜厚dMAXは54.0μm、最小膜厚dMINは47.0μmであった。
上記延伸フィルムのTgは122℃、厚みは平均50μm、面内位相差は0.8nmであった。目標膜厚や運転条件を表1、結果を表2に示す。
〔実施例1〕
比較例1で用いたテンター延伸機は、予熱ゾーン11、延伸ゾーン12、熱処理ゾーン13、冷却ゾーン14を備えており、熱可塑性樹脂フィルム2は延伸機内をこの順に送られてゆく。
実施例1では、このうち予熱ゾーン11、延伸ゾーン12および熱処理ゾーン13において、これらのゾーン内に設置された送風部28、28’の、熱可塑性樹脂フィルム2の幅方向に直交する側面を全て覆うように、厚さ0.5mmのアルミニウム製遮蔽板22,22’を設けた。
図1の(a)に示すように、各送風部28,28’を構成する各スリットノズル(エア吹き出し部)21,21’の、基部からエア吹出口29,29’までの距離は同一であった。遮蔽板22、22’の基部から先端部までの距離は、各スリットノズル(エア吹き出し部)21,21’の、基部からエア吹出口29,29’までの距離と同一であった。熱
可塑性樹脂フィルム2の面からエア吹出口29,29’までの距離は100mmであった。
図1の(a)、(b)に示すように、遮蔽板22、22’は 予熱ゾーン11、延伸ゾーン12、熱処理ゾーン13の各ゾーン毎に、各送風部28,28’の、熱可塑性樹脂フィルム2の幅方向に直交する側面を全て覆い、遮蔽板22、22’の先端が各スリットノズル(エア吹き出し部)21,21’の先端と揃うように設置されている。なお、冷却ゾーン14では、熱可塑性樹脂フィルム2の加熱を行わず、熱風を使用しないため、遮蔽板22、22’は設置していない。
このように比較例1で用いたテンター横延伸機に対して遮蔽板22、22’を設置したこと以外は、比較例1と同様の手法、条件により延伸フィルムを作成した。送風部28のうち、予熱ゾーン11と延伸ゾーン12との境界側から数えて5本目、および、熱処理ゾーン13側と延伸ゾーン12との境界側から数えて5本目の、2本のスリットノズル(エア吹き出し部)のエア吹出口29における熱風の温度Tは、図7の(a)に示す点a、点b、点cの3点で測定し、その平均値を求めると140.0℃であった。
上記2本のスリットノズル(エア吹き出し部)について、図7の(a)に示す点gの雰囲気温度T1、および点hの雰囲気温度T2は、それぞれ139.8℃と139.0℃であり、熱可塑性樹脂フィルム2が、図6の(b)に示すように、延伸ゾーン12の中央を通過した時の点d、e,fにおける温度Tfは、最大Tfが135.3℃、最小Tfが134.7℃であった。
延伸後にフィルムの両端部を50mmずつスリットした延伸フィルム、つまり、延伸後の光学フィルムの、幅方向の両端部から、幅方向へ50mmの範囲を除いた部分は全幅600mmであり、最大膜厚dMAXは52.0μm、最小膜厚dMINは49.2μmであった。
上記延伸フィルムのTgは122℃、厚みは平均50μm、面内位相差は0.7nmであった。
〔比較例2〜5〕
製造例2〜5で作成した樹脂ペレットに対して、比較例1と同様に送風部28,28’の、熱可塑性樹脂フィルム2の幅方向に直交する側面に耐熱性の遮蔽板を設置していない加熱炉(予熱ゾーン11、延伸ゾーン12、熱処理ゾーン13)を用い、延伸フィルムを作成した。目標膜厚や運転条件を表1、それぞれの結果を表2に示す。
〔実施例2〜5〕
製造例2〜5で作成した樹脂ペレットに対して、実施例1と同様に、送風部28,28’の、熱可塑性樹脂フィルム2の幅方向に直交する側面に耐熱性の遮蔽板22,22’を設置した加熱炉(予熱ゾーン11、延伸ゾーン12、熱処理ゾーン13)を用い、延伸フィルムを作成した。目標膜厚や運転条件を表1、それぞれの結果を表2に示す。
表1に記載の縦延伸温度、縦延伸倍率、横延伸温度、横延伸倍率は、表1に記載の目標膜厚、目標位相差を得るために設定したものである。
表2に示された、同じ樹脂ペレットを用いた実施例と比較例との組み合わせ(例えば、実施例1と比較例1)から分かるように、最大Tfと最小Tfとの差は、実施例では全て1℃未満であるのに対し、比較例では最小で7.2℃(比較例4)、最大で9.2℃(比較例1)と非常に大きくなっていた。
最大膜厚と最小膜厚との差dMAX−dMINは、実施例では比較例の1/2未満となっている。例えば、実施例1と比較例1とでは平均膜厚はともに50μmだが、実施例1では比較例1と比べて非常に厚みムラの少ないフィルムが得られていることが分かる。
また、フィルムの有効幅は、実施例の方が比較例よりも非常に大きくなっており、実施例1では比較例1に対して100mmも大きくなっており、実施例4,5では比較例4,5に対して200mmも大きくなっている。つまり、実施例では、比較例と比べて、フィルムの歩留まりが非常に向上したものとなっている。このことは、製造の効率化およびコスト低減の観点から大変に価値のある効果であるといえる。
このように、実施例では、幅方向の熱可塑性樹脂フィルム2の面の温度を均一に保ち、幅方向の物性が均一なフィルムを得ることができるという優れた効果が得られている。一方、実施例と比較例とは、テンター横延伸機のスリットノズル(エア吹き出し部)に遮蔽板を設置したこと以外は比較例と同じ条件でフィルムの製造を行っている。
よって、上記効果は上記遮蔽板の設置に起因するものであるということができる。逆に、比較例では遮蔽板を設置していないため、熱可塑性樹脂フィルム2の側縁部からエアが当該フィルムの面に流入し、幅方向の温度を均一に保てず、その結果、幅方向の物性が均一にならないことが分かった。
〔実施例6〕
実施例1と比較例1、実施例4と比較例4について、図7の(a)に示す点a、点b、点cにおける熱風の温度(エア吹出口における熱風の温度。表中、「ノズル吹き出しエア温度(℃)」と表示)Tnc、Tn1、Tn2を測定した。また、点a、点b、点cにおける熱風の風量(エア吹き出し部一本当たりの、熱可塑性樹脂フィルムの幅方向の長さ1m当たりの吹出風量。表中、「ノズル1本の幅1mあたりの吹き出しエア風量(m3/秒)」と表示)Qnc,Qn1,Qn2を測定した。さらに、点i、j,kにおけるフィルム表面近傍の雰囲気温度Tac、Ta1、Ta2を測定した。
表3に示すように、実施例、比較例ともに、ノズル吹き出しエア温度およびノズル1本の幅1mあたりの吹き出しエア風量は、フィルムの幅方向の3箇所でほぼ均一でとなっている。
一方、実施例1、実施例4では、フィルム表面近傍の幅方向の3箇所(点i、j,k)での温度差は最大0.3℃であるが、遮蔽板を設置していない比較例1では、Ta1とTa2との温度差が0.8℃、比較例4ではTa1とTa2との温度差が1.0℃と、実施例1,4と比較してかなり大きくなっている。
このことから、ノズル吹き出しエア温度およびノズル1本の幅1mあたりの吹き出しエア風量がフィルムの幅方向で均一であっても、熱風の熱風吸引口への流路の温度T1と温度T2とに差がある場合、遮蔽板がない場合はフィルム表面近傍の雰囲気温度を均一にすることができないが、遮蔽板を設置することによって均一にすることができると言える。
このように、遮蔽板を設置した場合は、フィルムの面の温度およびフィルム表面近傍の雰囲気温度を、フィルムの幅方向に均一化することができる。それゆえ、フィルムの幅方向の物性が均一となり、表2に示すような、dMAX−dMINおよび有効幅のような特性が優れたフィルムを得ることができるものと考えられる。