以下、本発明に係る装軌式車両の走行装置の実施の形態を、油圧ショベルの走行装置に適用した場合を例に挙げ、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
図中、1は装軌式車両の代表例としての油圧ショベルを示している。この油圧ショベル1の車体は、自走可能な装軌式(クローラ式)の下部走行体2と、該下部走行体2上に旋回可能に搭載された上部旋回体3とにより構成されている。上部旋回体3の前部側には、作業装置4が俯仰動可能に設けられ、この作業装置4によって土砂の掘削作業等を行うようになっている。
ここで、下部走行体2はベースとなるトラックフレーム5を備え、このトラックフレーム5は、前,後方向に伸長する左,右のサイドフレーム5A(左側のみ図示)を有している。各サイドフレーム5Aの長手方向の一端側には後述する走行装置11が設けられ、各サイドフレーム5Aの長手方向の他端側には遊動輪(アイドラ)6が設けられている。そして、走行装置11の後述するスプロケット33と遊動輪6とには、無端状の履帯(クローラ)7が巻回されている。
次に、本実施の形態に用いられる走行装置について説明する。
11はトラックフレーム5を構成する各サイドフレーム5Aの長手方向の一端側に設けられた走行装置を示し、該走行装置11は、図2に示すように、後述する支持部材12、回転源16、ドラム29、回転軸39、遊星歯車減速機構40,44、ナット部材48、潤滑油52等により構成されている。そして、走行装置11は、回転源16の回転を遊星歯車減速機構40,44によって減速し、ドラム29を大きなトルクをもって回転させることにより、該ドラム29に取付けられたスプロケット33と遊動輪6とに巻装された履帯7を周回駆動させるものである。
12はトラックフレーム5の左,右のサイドフレーム5Aにそれぞれ固定して設けられた支持部材を示し、該支持部材12は、ドラム29を回転可能に支持するものである。ここで、支持部材12は、ドラム29の回転中心となる軸線O−Oに沿って軸方向に延びる円筒体13と、該円筒体13の軸方向一側(回転源16側)に配置された円板状の取付フランジ14とにより一体形成されている。
ここで、円筒体13の軸方向一側の内周側には、雌スプライン部(穴スプライン部)13Aが形成され、該雌スプライン部13Aは、後述するキャリア47の雄スプライン部47Eがスプライン結合されるものである。また、円筒体13の軸方向一側の外周には、円筒体13よりも大径な軸受係合段部13Bが全周に設けられ、この軸受係合段部13Bに後述の軸受37の内輪が係合する構成となっている。
一方、取付フランジ14は、円筒体13の外周面から拡径する円板状に形成されている。取付フランジ14の外周縁部は段付き円板状のフレーム取付面14Aとなり、このフレーム取付面14Aには複数のボルト孔(雌ねじ孔)14Bが螺設されている。そして、サイドフレーム5Aに取付フランジ14のフレーム取付面14Aを当接させた状態で、サイドフレーム5Aに挿通したボルト15をボルト孔14Bに螺合することにより、サイドフレーム5Aに支持部材12が取付けられる。
また、取付フランジ14のうち円筒体13とは反対側に位置する端面14Cには、円筒体13の雌スプライン部13Aに向けて環状に窪む凹窪部14Dが設けられている。この凹窪部14Dは、後述する油溜め空間21からテーパ状に縮径する傾斜面14D1と、該傾斜面14D1の奥部にドラム29の軸線O−Oに対して直交する環状の平坦面として形成され、後述のナット部材48が当接するナット当接面14D2とにより構成されている。
一方、端面14Cのうち凹窪部14Dよりも外周側には、円筒体13と同心状をなす環状突起14Eが軸方向に突出して設けられ、該環状突起14Eの外周面には、後述する減速機ケーシング17の内周面が嵌合している。また、端面14Cのうち環状突起14Eよりも径方向外側には、複数の有底ボルト穴14Fが螺設されている。さらに、端面14Cのうち凹窪部14Dの近傍部位には、後述の廻止め部材51を取付けるための2個の廻止め用ボルト穴14Gが螺設されている(図5参照)。
16は支持部材12の軸方向一側に設けられた回転源を示し、該回転源は、ドラム29を回転駆動するトルクを発生するものである。ここで、回転源16は、後述する減速機ケーシング17と、減速機構23と、走行モータ28とにより構成されている。
17は支持部材12の軸方向一側に取付けられた減速機ケーシングを示し、該減速機ケーシング17は、支持部材12の取付フランジ14に取付けられた内側ケーシング18と、該内側ケーシング18に取付けられた外側ケーシング19とにより構成されている。ここで、内側ケーシング18は、ドラム29の軸線O−Oに沿って延びる周壁部18Aと、該周壁部18Aの軸方向一側に一体形成された内壁部18Bとにより構成されている。
周壁部18Aの軸方向他側は、支持部材12の取付フランジ14に設けられた環状突起14Eに嵌合している。一方、内壁部18Bには、ドラム29の軸線O−Oに対応する位置に軸受取付孔18Cが穿設され、内壁部18Bのうち外側ケーシング19と対面する外側端面18Dには、軸受取付孔18Cよりも上側に位置して軸受取付凹部18Eが形成されている。また、内壁部18Bのうち取付フランジ14と対面する内側端面18Fと、支持部材12の取付フランジ14の端面14Cとの間には後述の油溜め空間21が形成されている。
一方、外側ケーシング19は、内側ケーシング18に取付けられる筒状の周壁部19Aと、該周壁部19Aの軸方向一側にこれを施蓋するように一体形成された外壁部19Bとにより構成されている。周壁部19Aの軸方向他側の周縁部にはフランジ部19Cが設けられ、該フランジ部19Cと内側ケーシング18の周壁部18Aとに複数のボルト20が挿通される。そして、各ボルト20を支持部材12の取付フランジ14に螺設された有底ボルト穴14Fに螺合することにより、内側ケーシング18と外側ケーシング19とが取付フランジ14に一体的に取付けられている。
また、外壁部19Bには、内側ケーシング18の軸受取付孔18Cに対応する位置に軸受取付凹部19Dが形成されると共に、内側ケーシング18の軸受取付凹部18Eに対応する位置に軸受取付孔19Eが穿設されている。さらに、外壁部19Bの外側面のうち軸受取付孔19Eに対応する位置には、後述の走行モータ28を取付けるためのモータ取付面19Fが形成されている。
21は支持部材12の取付フランジ14と回転源16の減速機ケーシング17との間に形成された油溜め空間を示し、該油溜め空間21は後述の潤滑油52を貯溜するものである。油溜め空間21は、減速機ケーシング17の内側ケーシング18と外側ケーシング19とを、ボルト20を用いて支持部材12の取付フランジ14に共締めすることにより、取付フランジ14と内側ケーシング18との間に形成されている。また、内側ケーシング18と外側ケーシング19との間には、減速機構収容空間22が形成されている。
23は減速機ケーシング17の減速機構収容空間22内に収容された減速機構を示している。この減速機構23は、内側ケーシング18の軸受取付凹部18Eと外側ケーシング19の軸受取付孔19Eとに取付けられた2個の軸受24によって回転可能に支持された小径な駆動歯車25と、内側ケーシング18の軸受取付孔18Cと外側ケーシング19の軸受取付凹部19Dとに取付けられた2個の軸受26によって回転可能に支持され、駆動歯車25と常に噛合する大径な従動歯車27とにより構成されている。
ここで、駆動歯車25のボス部の内周側には雌スプライン部25Aが形成され、該雌スプライン部25Aには、後述する走行モータ28のモータ軸28Aがスプライン結合されている。一方、従動歯車27のボス部の内周側には雌スプライン部27Aが形成され、該雌スプライン部27Aには、後述する回転軸39の回転源側雄スプライン部39A1がスプライン結合されている。
28は減速機ケーシング17に取付けられた走行モータを示し、該走行モータ28は、例えば可変容量型の油圧モータによって構成されている。この走行モータ28は、外側ケーシング19のモータ取付面19Fにボルト締めされ、走行モータ28のモータ軸28Aは、ドラム29の軸線O−Oに対して上方に偏心した状態で、外側ケーシング19の軸受取付孔19Eを通じて減速機構収容空間22内に突出している。このように、走行モータ28のモータ軸28Aを、ドラム29の軸線O−Oに対して上方に偏心させることにより、走行モータ28の取付位置を地面から上方に離間させ、油圧ショベル1の走行時に走行モータ28に岩石等が衝突するのを回避することができる構成となっている。
一方、モータ軸28Aの外周側には雄スプライン部が形成されており、モータ軸28Aは、減速機構収容空間22内に配置された駆動歯車25の雌スプライン部25Aにスプライン結合されている。従って、走行モータ28が作動してモータ軸28Aが回転すると、この走行モータ28の回転は、駆動歯車25と従動歯車27との歯数比に応じて減速された状態で後述の回転軸39に伝達される。
次に、29は支持部材12に回転可能に支持された円筒状のドラムを示している。このドラム29は、全体として有蓋円筒状に形成され、その内部に後述する遊星歯車減速機構40,44を収容するものである。ここで、ドラム29は、支持部材12を構成する円筒体13の外周側に配置されたドラム本体30と、該ドラム本体30の軸方向他側に取付けられたリングギヤ31と、該リングギヤ31の軸方向他側に取付けられた蓋体32とにより大略構成されている。
ここで、ドラム本体30は、短尺な段付き円筒状に形成され、ドラム本体30の外周面には大径なフランジ部30Aが一体形成されている。このフランジ部30Aには、履帯7に噛合するスプロケット33が複数のボルト34を用いて固定されている。一方、ドラム本体30の内周面には、後述の軸受37,38を軸方向に位置決めするための環状段部30Bが全周に亘って突設されている。
リングギヤ31は、軸方向の両側が開口した円筒体として形成され、ドラム本体30の軸方向他側に複数のボルト35を用いて取付けられている。リングギヤ31の内周面には、後述の遊星歯車42が噛合する内歯車31Aと後述の遊星歯車46が噛合する内歯車31Bとが、軸方向に並んで設けられている。
蓋体32は略円板状に形成され、リングギヤ31の軸方向他側に複数のボルト36を用いて取付けられることにより、リングギヤ31の軸方向他側を施蓋している。また、蓋体32の内側面には、後述する回転軸39の軸方向他側を支持する軸受32Aが設けられている。
37,38は支持部材12を構成する円筒体13とドラム本体30との間に設けられた2個の軸受を示している。これら各軸受37,38の内輪は、支持部材12を構成する円筒体13の外周面にそれぞれ嵌合し、各軸受37,38の外輪は、ドラム本体30の内周面にそれぞれ嵌合している。これにより、ドラム29は、各軸受37,38を介して支持部材12の円筒体13に回転可能に支持されている。
この場合、軸受37は、内輪が円筒体13の軸受係合段部13Bに係合すると共に外輪がドラム本体30の環状段部30Bに係合することにより軸方向に位置決めされる。一方、軸受38は、内輪が後述するキャリア47の歯車支持部47Cに係合すると共に外輪がドラム本体30の環状段部30Bに係合することにより軸方向に位置決めされる。
39は回転源16とドラム29との間で支持部材12の円筒体13内に軸方向に挿通された回転軸を示し、該回転軸39は、ドラム29の軸線O−Oと同心上に配置されている。回転軸39の軸方向一側は、回転源16を構成する従動歯車27の雌スプライン部27Aにスプライン結合され、回転軸39の軸方向他側は、ドラム29の蓋体32に設けられた軸受32Aに支持されている。
ここで、回転軸39の軸方向一側には長尺な雄スプライン部39Aが形成され、この雄スプライン部39Aは、従動歯車27の雌スプライン部27Aにスプライン結合された回転源側雄スプライン部39A1と、この回転源側雄スプライン部39A1から油溜め空間21内に延在する油溜め空間側雄スプライン部39A2とにより構成されている。この場合、油溜め空間側雄スプライン部39A2は、内側ケーシング18の内側端面18Fから軸方向の長さ寸法Lをもって油溜め空間21内に延びている。そして、油溜め空間側雄スプライン部39A2は、回転軸39が回転することにより、油溜め空間21内に貯溜された後述の潤滑油52を掻上げるものである。
また、回転軸39の軸方向他側には、雄スプライン部39Aよりも短尺な雄スプライン部39Bが形成され、この雄スプライン部39Bは、後述する太陽歯車41の内周側にスプライン結合されている。そして、回転軸39は、減速機構23によって減速された回転を遊星歯車減速機構40に伝達するものである。
40はドラム29内に設けられた1段目の遊星歯車減速機構を示している。該遊星歯車減速機構40は、回転軸39の雄スプライン部39Bがスプライン結合された太陽歯車41と、該太陽歯車41とリングギヤ31の内歯車31Aとに噛合し、太陽歯車41の周囲を自転しつつ公転する複数の遊星歯車42(1個のみ図示)と、該遊星歯車42をピン43A等を介して回転可能に支持するキャリア43とにより構成されている。そして、遊星歯車減速機構40は、太陽歯車41の回転を減速し、遊星歯車42の公転をキャリア43を介して後述する2段目の太陽歯車45に伝達するものである。
44はドラム29内に設けられた2段目の遊星歯車減速機構を示している。該遊星歯車減速機構44は、内周側に回転軸39が挿通された状態で1段目のキャリア43にスプライン結合された太陽歯車45と、該太陽歯車45とリングギヤ31の内歯車31Bとに噛合する複数の遊星歯車46(1個のみ図示)と、該遊星歯車46をピン47A等を介して回転可能に支持する最終段のキャリア47とにより大略構成されている。
ここで、最終段のキャリア47は、ドラム29の軸線O−Oに沿って軸方向に延び、支持部材12の円筒体13内に嵌合された小径な円筒部47Bと、該円筒部47Bの軸方向他側に設けられ、ピン47Aを介して遊星歯車46を回転可能に支持する歯車支持部47Cとにより形成されている。また、円筒部47Bは、軸方向他側に位置し円筒体13の内周面に嵌合する嵌合筒部47Dと、軸方向一側に位置し支持部材12の円筒体13の雌スプライン部13Aにスプライン結合された雄スプライン部47Eと、該雄スプライン部47Eよりもさらに軸方向一側に位置し油溜め空間21内に臨んだ雄ねじ部47Fとを有している。
そして、円筒部47Bを支持部材12の円筒体13内に挿入したときに、嵌合筒部47Dが円筒体13の内周面に嵌合することにより、キャリア47がドラム29の軸線O−O上に位置決めされ、雄スプライン部47Eは、支持部材12の円筒体13に設けられた雌スプライン部13Aにスプライン結合される。従って、最終段のキャリア47は、支持部材12に対して回転方向に固定されており、キャリア47に支持された遊星歯車46の回転は、リングギヤ31の内歯車31Bを介してドラム29に伝達される。
また、円筒部47Bを支持部材12の円筒体13内に挿入したときに、雄ねじ部47Fは、支持部材12の取付フランジ14に設けた凹窪部14Dのナット当接面14D2から油溜め空間21内に突出し、この雄ねじ部47Fには後述のナット部材48が螺合される構成となっている。
さらに、円筒部47Bのうち嵌合筒部47Dと雄スプライン部47Eとの間には、円筒部47Bの外周面から内周面へと径方向に貫通する通気孔47Gが穿設されており、支持部材12の円筒体13とキャリア47の円筒部47Bとの間に形成される空間は、通気孔47Gを介してキャリア47の内周側に連通している。
次に、48は最終段のキャリア47の雄ねじ部47Fに螺合するナット部材を示し、該ナット部材48は、キャリア47の雄ねじ部47Fに締込まれることにより、支持部材12とキャリア47の歯車支持部47Cとの間で軸受37,38を軸方向に位置決めするものである。ここで、ナット部材48は、図4ないし図6に示すように全体として円筒状に形成され、その内周側にはキャリア47の雄ねじ部47Fに螺合する雌ねじ部48Aが螺設されている。ナット部材48の軸方向他側の端面は、平坦な取付フランジ当接面48Bとなり、この取付フランジ当接面48Bは、ナット部材48をキャリア47の雄ねじ部47Fに締込むことにより、支持部材12の取付フランジ14に設けられた凹窪部14Dのナット当接面14D2に当接する。
48Cはナット部材48の外周面に突設された複数(例えば、8個)の円弧状突起を示し、これら各円弧状突起48Cは、周方向に一定の間隔をもって配置されている。これにより、各円弧状突起48C間には、一定の溝幅を有する複数の係合溝48Dが形成され、これら各係合溝48Dにナット部材48を締込むための工具(図示せず)を係合させることができる。また、各係合溝48Dのうちの1個に後述の廻止め部材51を係合させることにより、キャリア47の雄ねじ部47Fに締込んだナット部材48を廻止めすることができる構成となっている。
49はナット部材48の取付フランジ当接面48Bに設けられた複数(例えば、6個)の油路を示している。これら各油路49は、取付フランジ当接面48Bの外周縁と内周縁との間を径方向に延びる断面円弧状の溝(油溝)からなり、取付フランジ当接面48Bの周方向に一定の間隔をもって配置されている。
従って、図6に示すように、ナット部材48をキャリア47の雄ねじ部47Fに締込むことにより、ナット部材48の取付フランジ当接面48Bが、支持部材12の取付フランジ14に設けられた凹窪部14Dのナット当接面14D2に当接したときに、ナット当接面14D2と各油路49との間には潤滑油52が流れる空間が形成される。
これにより、回転軸39の油溜め空間側雄スプライン部39A2によって掻上げられた潤滑油52が、取付フランジ14の端面14Cに付着して油滴52Aとなり、端面14Cから凹窪部14Dの傾斜面14D1に沿ってナット部材48の外周面まで流下すると、この油滴52Aは、ナット部材48の油路49を通じて、支持部材12(円筒体13)の雌スプライン部13Aと最終段のキャリア47(円筒部47B)の雄スプライン部47Eとのスプライン結合部に供給される。従って、支持部材12の雌スプライン部13Aとキャリア47の雄スプライン部47Eとのスプライン結合部のうち、ドラム29の軸線O−Oよりも上側に位置する部位に対しても、潤滑油52を供給することができる構成となっている。
この場合、最終段のキャリア47を構成する円筒部47Bには、当該円筒部47Bの外周側から内周側へと径方向に貫通する通気孔47Gが穿設されている。このため、支持部材12の円筒体13とキャリア47の円筒部47Bとの間に形成された空間内の空気を、通気孔47Gを介してキャリア47の内周側に排出することができ、支持部材12の円筒体13とキャリア47の円筒部47Bとのスプライン結合部に対して確実に潤滑油52を供給することができる。
51は支持部材12の取付フランジ14に取付けられた廻止め部材を示し、該廻止め部材51は、キャリア47の雄ねじ部47Fに締込んだナット部材48を廻止めするものである。この廻止め部材51は略T字型に形成され、取付フランジ14の端面14Cに取付けられる取付板部51Aと、該取付板部51Aの長さ方向中央部から突出する突起部51Bとにより構成されている。
そして、キャリア47の雄ねじ部47Fにナット部材48を締込み、該ナット部材48の取付フランジ当接面48Bを取付フランジ14のナット当接面14D2に当接させた状態で、廻止め部材51の突起部51Bをナット部材48の係合溝48Dに係合させる。そして、廻止め部材51の取付板部51Aに挿通したボルト51Cを、取付フランジ14の端面14Cに設けた廻止め用ボルト穴14Gに螺着することにより、ナット部材48をキャリア47の雄ねじ部47Fに締込んだ状態で廻止めすることができる。
52は減速機ケーシング17とドラム29の内部に貯溜された潤滑油を示し、該潤滑油52の液面の高さ位置は、通常、ドラム29の軸線O−Oの位置に設定されている。そして、ドラム29が回転することにより、減速機ケーシング17内に配置された減速機構23、ドラム29内に配置された遊星歯車減速機構40,44、軸受37,38等を潤滑油52によって潤滑することができる。
本実施の形態による走行装置11は上述の如き構成を有するもので、走行モータ28が作動してモータ軸28Aが回転すると、このモータ軸28Aの回転は、減速機構23の駆動歯車25から従動歯車27に伝達される間に減速され、従動歯車27にスプライン結合された回転軸39は、減速された回転を1段目の遊星歯車減速機構40の太陽歯車41に出力する。
1段目の太陽歯車41が回転すると、遊星歯車42が太陽歯車41の周囲を自転しつつ公転し、この遊星歯車42の公転がキャリア43に伝達される。キャリア43の減速された回転は、2段目の遊星歯車減速機構44の太陽歯車45に伝達され、この太陽歯車45に噛合する遊星歯車46が、リングギヤ31の内歯車31Bに噛合しつつ自転する。ここで、遊星歯車46を支持する最終段のキャリア47は、支持部材12にスプライン結合されているので、遊星歯車46の回転はリングギヤ31の内歯車31Bを介してドラム29に伝達される。
このように、走行モータ28の回転は、減速機構23および遊星歯車減速機構40,44によって3段減速された後、ドラム29に伝達される。これにより、ドラム29が大きなトルクをもって回転し、このドラム29に取付けたスプロケット33と遊動輪6とに巻回された履帯7が周回駆動されることにより、油圧ショベル1を走行させることができる。
この場合、減速機ケーシング17およびドラム29の内部には、ドラム29の軸線O−Oの高さ位置まで潤滑油52が充填されている。これにより、走行装置11の作動時には、減速機構23、遊星歯車減速機構40,44、軸受37,38等を潤滑油52によって適正に潤滑することができる。
ここで、支持部材12の円筒体13に設けられた雌スプライン部13Aと、最終段のキャリア47の円筒部47Bに設けられた雄スプライン部47Eとのスプライン結合部に着目すると、この支持部材12とキャリア47とのスプライン結合部のうちドラム29の軸線O−Oよりも下側(下半分)の部位は、潤滑油52に浸されている。これに対し、支持部材12とキャリア47とのスプライン結合部のうちドラム29の軸線O−Oよりも上側(上半分)の部位には、潤滑油52を供給する必要がある。
そこで、本実施の形態では、回転軸39の軸方向一側に設けられる雄スプライン部39Aを、減速機構23の従動歯車27にスプライン結合される回転源側雄スプライン部39A1と、この回転源側雄スプライン部39A1から油溜め空間21内へと延在する油溜め空間側雄スプライン部39A2とにより形成している。
このため、図6に示すように、油溜め空間21内に貯溜された潤滑油52を、回転軸39の油溜め空間側雄スプライン部39A2によって掻上げることができ、この掻上げられた潤滑油52からなる多数の油滴52Aを、支持部材12を構成する取付フランジ14の端面14Cに付着させ、矢印Aで示すように、端面14Cに沿って流下させることができる。
また、本実施の形態では、キャリア47の雄ねじ部47Fに螺合するナット部材48の取付フランジ当接面48Bに複数の油路49を設けている。これにより、ナット部材48の取付フランジ当接面48Bを、取付フランジ14の凹窪部14Dのナット当接面14D2に当接させたときに、ナット当接面14D2と各油路49との間に潤滑油52が流れる空間を形成することができる。
この場合、本実施の形態では、ナット部材48の取付フランジ当接面48Bに、一定の間隔(周方向に60度)をもって6個の溝状の油路49を設ける構成としている。従って、ナット部材48の取付フランジ当接面48Bが取付フランジ14(凹窪部14D)のナット当接面14D2に当接したときの締込み量に関わらず、少なくとも2個の油路49を、ドラム29の軸線O−Oよりも上側に配置することができる。
これにより、取付フランジ14の端面14Cに付着した油滴52Aは、端面14Cから凹窪部14Dの傾斜面14D1に沿ってナット部材48の外周面まで流下した後、ナット部材48の油路49を通じて、支持部材12(円筒体13)の雌スプライン部13Aと、最終段のキャリア47(円筒部47B)の雄スプライン部47Eとのスプライン結合部に供給される。このため、支持部材12とキャリア47とのスプライン結合部のうち、ドラム29の軸線O−Oよりも上側に位置する部位に対しても、潤滑油52を充分に供給することができる。この結果、支持部材12と最終段のキャリア47とのスプライン結合部を、その全周に亘って適正に潤滑することができ、支持部材12およびキャリア47の寿命を延ばすことができるので、走行装置11の信頼性を高めることができる。
しかも、キャリア47の円筒部47Bには、嵌合筒部47Dと雄スプライン部47Eとの間に位置し、円筒部47Bの外周側から内周側へと径方向に貫通する通気孔47Gを設ける構成としている。これにより、支持部材12の円筒体13とキャリア47の円筒部47Bとの間に形成される空間を、通気孔47Gを介してキャリア47の内周側に連通させることができる。
従って、支持部材12の円筒体13とキャリア47の円筒部47Bとの間の空間が、円筒体13と嵌合筒部47Dとの嵌合部によって閉塞された状態においても、図6中の矢印Bで示すように、円筒部47Bの外周側の空気を、通気孔47Gを通じて円筒部47Bの内周側へと抜くことができる。この結果、支持部材12の円筒体13と最終段のキャリア47の円筒部47Bとのスプライン結合部に対し、ナット部材48の近傍部位だけでなく、ナット部材48から離間した奥部にまで潤滑油52を供給することができ、支持部材12の円筒体13と最終段のキャリア47の円筒部47Bとのスプライン結合部を適正に潤滑することができる。
次に、図7は本発明の第2の実施の形態を示している。本実施の形態の特徴は、ナット部材の上方に導油板を設け、回転軸の油溜め空間側雄スプライン部によって掻上げられた潤滑油を、導油板によってナット部材の油路へと導く構成としたことにある。なお、本実施の形態では、上述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略するものとする。
図において、61は支持部材12を構成する取付フランジ14の端面14Cに取付けられた導油板を示し、該導油板61は、減速機ケーシング17の油溜め空間21内でナット部材48の上方に配置されている。この導油板61は、回転軸39の油溜め空間側雄スプライン部39A2によって掻上げられた潤滑油52を、ナット部材48の油路49へと導くものである。
ここで、導油板61は、鋼板等の薄板を略V字型に折曲げることにより形成され、取付フランジ14の端面14Cに沿って垂直方向に延びる垂直面部61Aと、該垂直面部61Aの下端側から内側ケーシング18の内側端面18Fに向けて斜め上向きに延びる傾斜面部61Bとにより構成されている。そして、導油板61の垂直面部61Aを、ナット部材48の上方で取付フランジ14の端面14Cにボルト62を用いて取付けることにより、導油板61の傾斜面部61Bは、取付フランジ14の端面14Cから斜め上向きに油溜め空間21内に張出す構成となっている。
本実施の形態による走行装置は上述の如き導油板61を設けたもので、回転軸39の油溜め空間側雄スプライン部39A2によって掻上げられた潤滑油52の多くは、導油板61の傾斜面部61Bに付着するようになる。これにより、傾斜面部61Bに付着した多くの油滴52Aは、図7中の矢印Cで示すように、傾斜面部61Bから凹窪部14Dの傾斜面14D1に沿ってナット部材48の外周面まで速やかに流下することができる。
この結果、ナット部材48に設けた油路49の近傍に、多量の潤滑油52を集めることができ、ナット部材48の油路49を通じて多量の潤滑油52を支持部材12とキャリア47とのスプライン結合部に供給できるので、支持部材12の円筒体13とキャリア47の円筒部47Bとのスプライン結合部を効率良く潤滑することができる。
なお、上述した実施の形態では、減速機ケーシング17と、減速機構23と、走行モータ28とにより回転源16を構成し、走行モータ28の回転を減速機構23で減速した後、回転軸39を介して1段目の遊星歯車減速機構40に伝達する構成を例示している。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば減速機構23を省略し、走行モータ28の回転を減速することなく回転軸39を介して1段目の遊星歯車減速機構40に伝達する構成としてもよい。この場合には、走行モータ28のモータ軸28Aに接続される継手を設け、この継手に回転軸39の回転源側雄スプライン部29Aをスプライン結合する構成とすることができる。
また、上述した実施の形態では、ナット部材48の取付フランジ当接面48Bに、断面円弧状の溝(油溝)からなる油路49を設けた場合を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、例えば取付フランジ当接面48Bの近傍部位に、断面円形状の孔(油孔)からなる油路を設ける構成としてもよい。
また、上述した実施の形態では、最終段のキャリア47の円筒部47Bに、該円筒部47Bの外周側と内周側とを連通する通気孔47Gを設けた場合を例示している。しかし、本発明はこれに限るものではなく、キャリア47の円筒部47Bに通気孔47Gを設けない構成としてもよい。この場合でも、キャリア47の嵌合筒部47Dと支持部材12の円筒体13との嵌合部との間に形成される僅かな隙間を通じて空気を抜くことにより、支持部材12の円筒体13とキャリア47の円筒部47Aとのスプライン結合部に対し、ナット部材48から離間した奥部にまで潤滑油52を供給することができる。
また、上述した実施の形態では、ナット部材48の取付フランジ当接面48Bに一定の間隔をもって6個の油路49を設けた場合を例示している。しかし、本発明はこれに限るものではなく、ナット部材48の取付フランジ当接面48Bが取付フランジ14のナット当接面14D2に当接した状態で、少なくとも1個の油路49が、ドラム29の軸線O−Oよりも上側に配置される構成であればよい。従って、ナット部材48の取付フランジ当接面48Bに対し、一定の間隔をもって4個以上の油路49を設けることが好ましい。
さらに、上述した実施の形態では、装軌式車両としてクローラ式の油圧ショベルを例示したが、本発明はこれに限らず、例えばクローラ式の油圧クレーン等の他の装軌式車両に広く適用することができる。