以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。本発明は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。また、以下に説明する実施形態のそれぞれは可能な限り複合される。
(第1実施形態)
まず、本発明の配線の形成方法によって形成された配線部材の構造について説明する。
図1は、第1実施形態に係る配線部材の形成方法によって形成された断面摸式図である。
配線部材1においては、基板11上に濡れ性変化層12が設けられている。濡れ性変化層12は、エネルギーを付与することにより臨界表面張力が変化する材料を含有する。濡れ性変化層12上には配線である導電部13が設けられている。導電部13は、濡れ性変化層12に形成された高表面エネルギー領域部12a上に設けられている。高表面エネルギー領域部12aの表面は濡れ性変化層12表面の平坦性を維持し略平坦である。すなわち、濡れ性変化層12と高表面エネルギー領域部12aとには段差がない。
また、配線部材1においては、導電部材で構成されたアライメントマーク17が濡れ性変化層12に埋め込まれている。アライメントマークについては、アライメントマーク17を埋め込む凹部15自体をアライメントマークとしてもよい(後述)。図1には、導電部材で構成されたアライメントマーク17が例示されている。
アライメントマーク17は、高表面エネルギー領域部12aおよび導電部13を形成する工程と同一工程で形成される。例えば、レーザアブレーションによって濡れ性変化層12に凹部15を形成し、この凹部15内に導電性インクを塗布してアライメントマーク17を形成する。これらの製造過程の詳細については後述する。
基板11の材質は、配線、電子素子、電子素子アレイ、表示素子をその上に形成できる基材から選択される。例えば、基板11は、ガラス基板、金属フォイル基板、フィルム基板等である。フィルム基板としては、ポリイミド(PI)基板、ポリエーテルサルホン(PES)基板、ポリエチレンテレフタレート(PET)基板、ポリカーボネート(PC)基板、ポリエチレンナフタレート(PEN)基板、ポリエーテルイミド(PEI)基板、ポリアクリレート(PAR)基板等が挙げられる。
濡れ性変化層12は、熱、紫外線、電子線、プラズマ等のエネルギーが付与されることにより臨界表面張力(表面自由エネルギーともいう)が変化する材料を含有する。臨界表面張力が変化する材料を含有する層を濡れ性変化層12と呼称する。濡れ性変化層12には、臨界表面張力が大きい高表面エネルギー領域部12aと、臨界表面張力が小さい低表面エネルギー領域部12bとが形成されている。高表面エネルギー領域部12aは、濡れ性変化層12に選択的にエネルギーを付与することにより形成される。基板11の主面(例えば、表面)に対し垂直な方向から導電部13を見た場合、導電部13の形態と高表面エネルギー領域部12aの形態とは同じである。
第1実施形態では、濡れ性変化層12のうち、エネルギーを付与した部分が高表面エネルギー領域部12aになるとしているが、これに限定されるものではない。エネルギー付与により、表面エネルギーが変化するものであれば足り、低表面エネルギー領域部に変化するものも適用できる。
臨界表面張力が変化する材料としては、エネルギーの付与前後で臨界表面張力の変化が大きくなる材料が好ましい。これは、エネルギー付与した部分(親液性)とそれ以外の部分(撥液性)とのコントランストが明確になるためである。
このような臨界表面張力が変化する材料としては、高分子材料が望ましい。そして、臨界表面張力が変化する材料としては、主鎖と、前記レーザ光の照射によって親水性基を生成可能な側鎖と、を含む高分子材が好ましい。また、臨界表面張力が変化する材料としては、側鎖に疎水性基を有する高分子材料であることが好ましい。
側鎖の疎水性基としては、特に限定されず、末端基が−CF2CH3、−CF2CF3、−CF(CF3)2、−CFH2等である官能基が挙げられる。すなわち、疎水性基としては、アルキル基、フルオロアルキル基、多分岐構造を持つアルキル基、フルオロアルキル基、またはこれらの同位体が好ましい。側鎖の疎水性基は、エネルギー付与によって分解するC=O(カルボニル基)を含む。C=Oを含む構造としては、−CO−、−COO−、−OCO−、−CONH−、−NHCOO−、−NHOCO−、またはこれらの同位体で表される官能基(光感光基)が挙げられる。疎水性基は、C=Oを含む官能基を介して、主鎖と結合していることが好ましい。
側鎖は、紫外線照射によって−CO−、−COO−、−OCO−、−CONH−、−NHCOO−、または−NHOCO−で表される光感応基が切断されると、大気雰囲気中の水分と反応して、カルボキシル基(−COOH)、ヒドロキシル基(−OH)等の親水性基を生成する。従って、紫外線照射がなされた濡れ性変化層12の部分の表面が親水性(高表面エネルギー)になる。多分岐構造を持つ側鎖の場合では、少ないエネルギー付与により、濡れ性変化層12の臨界表面張力を大きく変化させることができる。
また、高分子材料の主鎖については、紫外線の吸収がなく、もしくは紫外線の吸収が小さいものが望ましい。つまり、高分子材料の主鎖は、紫外線によって主鎖の分子構造が完全に切断されないか、または、切断されにくいものでことが好ましい。これは、エネルギー付与、例えば、紫外線照射によって主鎖の結合が切れてしまうと、高分子材料の絶縁性が低下するなど、高分子材料の安定性、信頼性に欠けるからである。
係る条件を具備する主鎖としては、例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、(メタ)アクリル酸を重合することにより得られる骨格等が挙げられる。但し、絶縁性を鑑みると、主鎖中にポリイミドが含まれていることが特に好ましい。一般に、ポリイミドは、剛直な構造であると共に、充填性が良好であるため、エネルギーが付与されて分子鎖が切断された場合であっても、ある程度の絶縁性を保持するからである。このため、主鎖としてポリイミドを用いれば、絶縁信頼性の高い配線部材が形成される。また、ポリイミドを用いた場合、2%程度の吸湿性はあるものの、高い絶縁性を維持する。これにより、高い絶縁性を確保しながら、耐水性も良好になる。
ポリイミドとしては、ポリアミック酸(ポリアミド酸)を加熱することによる脱水縮合反応で生じる熱硬化型ポリイミドと、溶媒に可溶な可溶性ポリイミドが一般的に知られている。第1実施形態では、いずれのポリイミドを使用することが可能である。可溶性ポリイミドは、溶媒に溶解させた塗布液を塗布した後、200℃未満の低温で溶媒を揮発させることにより得られる。一方、熱硬化型ポリイミドは、脱水縮合反応が起こる程度まで加熱しないと反応が起きないため、一般に、200℃以上に加熱する必要がある。第1実施形態では、基板の耐熱性等、各種条件にあわせてどちらかのポリイミドが選択される。
特に、フィルム基板を用いると低温プロセスが要求され、また高スループット処理のため小さい紫外線照射量で表面エネルギーを変化させる場合には、可溶性ポリイミド(例えば、特開2009−188259号公報参照)が用いられる。この場合、主鎖と多分岐構造を含む側鎖からなる可溶性ポリイミドが濡れ性変化層12の材料として好適である。
濡れ性変化層12は、紫外線照射によって表面自由エネルギーが変化する複数の高分子材料を混合させた層でもよい。濡れ性変化層12は、紫外線照射によって表面自由エネルギーが変化する一種類の材料からなる層でもよい。また、濡れ性変化層12は、電気絶縁性に優れた第1の材料と、エネルギーの付与によって表面自由エネルギーが変化する割合が大きい第2の材料を混合したものでもよい。第1の材料と第2の材料との物性の違いを利用して、膜厚方向に材料成分に分布(傾斜)を持たせた構造としてもよい。
さらに、濡れ性変化層12の下層に、絶縁性が良好な別の絶縁層をさらに設けてもよい。この場合、絶縁性の良好な材料からなる第1の層上に、エネルギーの付与によって表面自由エネルギーが変化する割合が大きい材料からなる第2の層を設ける。このように、それぞれの機能を分離させる構造も可能である。
絶縁性の良好な材料としては、ポリイミド、ポリアミドイミド、エポキシ樹脂、シルセスキオキサン、ポリビニルフェノール、ポリカーボネート、フッ素系樹脂、ポリパラキシリレン、ポリビニルブチラール等が挙げられる。このうち、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコールは、適当な架橋剤によって架橋してもよい。そのほか、絶縁性の良好な材料としては、TiO2、SiO2等が挙げられる。
第1実施形態において、濡れ性変化層12の絶縁性、配線間容量、層構造(単層、積層)は適宜設定される。
導電部13は、塗布された導電性インクを加熱焼成、紫外線照射等によって固化して形成された層である。加熱手段は、オーブン、ホットプレートである。導電性インクは、導電性材料を溶媒に溶解したもの、導電性微粒子を溶媒に分散させたもの、導電性材料の前駆体もしくはその前駆体を溶媒に溶解したもの、導電性材料の前駆体を溶媒に分散したもの等である。
例えば、導電部13の材料としては、銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、タンタル(Ta)、ビスマス(Bi)、鉛(Pb)、インジウム(In)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、これらの組み合わせからなる合金等が挙げられる。また、導電部13の材料としては、ハロゲン化銀、酸化銅等の微粒子、金属、合金、金属化合物等の微粒子を有機溶媒や水に分散したものでもよい。また、導電部13の材料としては、カーボンナノチューブ、グラフェン等のナノカーボン系材料を有機溶媒や水に分散したものでもよい。また、導電部13の材料としては、ドープトPANI(ポリアニリン)、PEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)にPSS(ポリスチレンスルホン酸)をドープした導電性高分子でもよい。
導電部13の材料としては、特に、低抵抗な銀、銅、カーボンナノチューブ等が好ましい。また、上述した微粒子は、材料の分散や酸化防止のため、微粒子の表面を有機物または導電物によりコーティングしてもよい。
アライメントマーク17について補説する。凹部15は、レーザアブレーションによって形成され、濡れ性変化層12に形成されているため、凹部15の内表面(側壁面および底面)も親水性に変化している。アライメントマーク17は、導電部13の形成時に、同じ導電性インクを塗布、焼成して形成される。このため、余分な材料を必要とせず、インク交換等の準備作業が不要なる。
一般に導電部13、アライメントマーク17を構成する導電材料は、不透明もしくは透過率の低いものが多く、濡れ性変化層12とのコントラストがとりやすい材料が選択される。従って、パターン境界のばらつきが小さく、コントラストが明確になる。このため、アライメントマーク17は、積層配線、電子素子、電子素子アレイ、表示素子等の後工程においてもアライメントマークとして充分に機能する。
また、アライメントマーク17は、凹部15を埋め込んで形成されるため、その表面が平坦化されている。従って、スピンコート等の塗布工程が後工程で必要になっても、凹部15が塗布工程で影響を与え難い。
図2は、第1実施形態に係る配線部材の形成方法によって形成された電子部品の平面模式図である。
図2に示す電子部品100は、上述した配線部材1をデバイス形成領域38内に含み、アライメントマークをアライメント領域39に含んでいる。
電子部品100においては、配線、電子素子、電子素子アレイ、表示素子が配置されるデバイス形成領域38と、配線等の機能層間の重ね合わせをするためのアライメントマークが配置されたアライメント領域39と、が平面状に配置されている。アライメントマークは、高表面エネルギー領域部12aと導電性インク等を塗布する塗布データとを重ね合わせるマークとしても機能する。
デバイス形成領域38の外周には、充分な重ね合わせ精度を保証するための寸法、位置精度をもったアライメントマーク群(アライメント領域39)が配置されている。
図3は、第1実施形態に係る配線部材の形成方法によって形成されたアライメントマークの平面模式図である。
アライメントマークは、導電部13を形成する際のアライメントに用いられる。アライメントマークの平面形状は、丸状(図3(a))、方形状(図3(b))、複数の方形状(図3(c))、十字状(図3(d))である。上述したように、アライメントマークは、濡れ性変化層12に形成された凹部そのものであってもよく、凹部内に埋め込まれた導電部材により構成してもよい。また、アライメントマークの形状については、適宜組み合わせてもよい。
また、アライメントマークの平面形状は、溝が丸状になったもの(図3(e))でもよく、溝が方形状(図3(f))になったものでもよい。アライメントマークを溝状にすることにより、アライメントマークの加工面積や導電部材の埋め込み量を低減させることができる。アライメントマークについては、凹部の加工のし易さ、導電材料の埋め込み易さなどを考慮して適宜選択される。
次に、配線部材1の形成過程について説明する。
図4は、第1実施形態に係る配線部材の形成過程を説明するための断面摸式図である。
まず、図4(a)に示すように、ウェット洗浄を行った基板11(例えば、ガラス基板)上に、エネルギー付与によって臨界表面張力が変化する材料を含有する濡れ性変化層12を形成する。
濡れ性変化層12を形成する際には、下記に示す側鎖にデンドリマーを含む可溶性のポリイミドAと、このポリイミドよりも絶縁性が高い、側鎖を持たないポリイミドCT4112(商品名、京セラケミカル社製)を混合したポリイミドNMP溶液を用いる。
続いて、ポリイミドNMP溶液をスピンコート法により基板11上に塗布する。ついで、ポリイミドNMP溶液を窒素雰囲気において、100℃でプリベークし、さらに、窒素雰囲気において180℃で、1時間のポストベークを行う。これにより、膜厚が500nmの濡れ性変化層12が基板11上に形成される。このとき、濡れ性変化層12の表面全域は、疎水性の側鎖を持つポリイミドにより、低表面エネルギー領域部になる。
次に、図4(b)に示すように、濡れ性変化層12に選択的にレーザ光を照射して、濡れ性変化層12の臨界表面張力が高くなるように変化させた高表面エネルギー領域部12aを濡れ性変化層12に形成する。
例えば、CAD(Computer Aided Design)システムの塗布データをもとに配線、電極等が配置される領域に、後述するレーザ描画装置を用いて紫外線領域のレーザ光を濡れ性変化層12に選択的に照射する。ここでは、導電部13の平面形状と同一形態の高表面エネルギー領域部12aを濡れ性変化層12に形成する。レーザアブレーションが生じない程度のレーザ光の照射で高表面エネルギー領域部12aを形成するので、高表面エネルギー領域部12aの表面は略平坦になる。
また、後述する導電性インク16を高表面エネルギー領域部12aを塗布する際に、アライメントマークとして機能する凹部15を、レーザ光14bの照射によって濡れ性変化層12に形成する。凹部15については、アライメントマーク15と称してもよい。凹部15は、レーザアブレーションによって濡れ性変化層12の一部を除去することにより形成される。また、凹部15は、濡れ性変化層12内に止まらず、濡れ性変化層12および濡れ性変化層12の下側に設けられた基板11に形成してもよい。すなわち、凹部15は、少なくとも濡れ性変化層12に形成される。凹部15の内表面は、高表面エネルギー領域部になっている。
一方、レーザ光14a、14bを照射しない部分は、ポリイミドの疎水性側鎖による低表面エネルギー領域部12bとなっている。高表面エネルギー領域部12aは、レーザ描画によって表面エネルギーが変化して親水性になっている。
高表面エネルギー領域部12aを形成するためのレーザ光14aは、1パルスあたりレーザアブレーションが生じない程度のエネルギーを有する。一方、凹部15を形成するためのレーザ光14bは、1パルスあたりレーザアブレーションが生じる程度のエネルギーを有する。
次に、図4(c)に示すように、高表面エネルギー領域部12aに導電性インク16を塗布する。
例えば、平均粒径が約30nmのAg粒子を水系溶媒に分散させた導電性インク16(ナノメタルインク)を、インクジェット法を用いて高表面エネルギー領域部12a上に選択的に塗布する。導電性インク16の塗布については、インクジェット法のほかノズルプリンティング法により行ってもよい。
第1実施形態では、塗布データと高表面エネルギー領域部12aの位置を合わせるために、アライメントマーク15をインクジェット装置のアライメントカメラで捉えている。アライメントマーク15はレーザ加工で形成されたため、その位置は正確であり、そのパターン境界も正確な精度で形成されている。
第1実施形態に係るインクジェット法では、Ag微粒子の分散液を高表面エネルギー領域部12a上に選択的に形成する。Ag微粒子は、比較的高価である。従って、スピンコートやエッチングによって同様の導電部を形成すると、材料の使用効率の悪さから高コスト化を招来する。インクジェット法では、スピンコートやエッチングに比べて、材料の使用効率が高くなり、プロセス工程数も削減できる。すなわち、第1実施形態の方法は、低コスト配線を形成するのに適している。
また、第1実施形態では、導電部13の厚さが設計厚さとなるように、導電インク16の液滴サイズとインク滴下量を制御している。また、導電インク16は、水系の分散液であるため、導電インク16を高表面エネルギー領域部12aに滴下すると、導電インク16は、高表面エネルギー領域部12aに満遍なく広がる。一方、低表面エネルギー領域部12bに導電インク16が漏れたとしても、導電インク16は、高表面エネルギー領域部12aに引き戻される。このため、導電インク16のサイズよりも小さな導電パターンが濡れ性変化層12上に形成される。
また、第1実施形態では、高表面エネルギー領域部12aに導電インク16を塗布するのに続いて、凹部15内にも導電性インク16を塗布する。凹部15の側壁は、高表面エネルギー領域部となっており、凹部15周辺の領域は、低表面エネルギー領域部12bになっている。このため、インクジェット法の着弾位置がみだれて、凹部15以外に導電インク16が着弾しても、親水性の導電インク16は選択的に凹部15内に流れ込む。
この後、導電インク16を大気中において100℃で、プリベークを行う。さらに、導電インク16を大気中において180℃で1時間、ポストベークを行う。これにより、配線となる導電部13が高表面エネルギー領域部12a上に形成され、導電部材で構成されたアライメントマーク17が凹部15内に形成される。この状態を図4(d)に示す。
高表面エネルギー領域部12a上に導電部13を選択的に形成したので、基板11の主面に対して垂直な方向から導電部13を見ると、導電部13は、高表面エネルギー領域部12aと同じ形態をしている。
また、図示したアライメントマーク17のみに限らず、アライメントマーク17の位置とは異なる位置に別途アライメントマークを設けてもよい。別途設けたアライメントマークは、積層配線、電子素子、電子素子アレイ、表示装置を製造する場合、導電部13とは異なる機能層を形成する際に用いられる。
図5は、レーザ描画装置を説明するための模式図である。
レーザ描画装置200は、YAGレーザ203をレーザヘッド204で4倍波を発生させる。レーザビーム(レーザ光)205の波長は、266nmである。レーザビーム205は、光学系206およびXYZθステージ209のZ方向(垂直)の走査によって、ワーク208の加工面において、適切なビーム径、トップハット形状、ガウシアン形状等の適切なビーム形状となるように制御される。ワーク208とは、上述した基板11等である。高表面エネルギー領域部12a内の平坦性を良好にするには、ビーム形状はトップハット形状が望ましい。
また、ガルバノスキャナ207、XYZθステージ209、およびYAGレーザ203をコントローラー201で制御することによって、CAD図面の導電パターンに従った高表面エネルギー領域部12aと凹部15とを形成する。
このようなXYZθステージ209とガルバノスキャナ207とを組み合わせた光学系装置では、ガルバノスキャナを用いてレーザビームを走査(スキャン)することによりある描画面積の凹部15を濡れ性変化層12に形成できる。このため、ステージのみの走査によって凹部15を形成する方法よりも少ないエネルギーで描画が可能にある。また、XY方向や斜め等の直線だけではなく、円、楕円、矩形パターンも描画できる。すなわち、レーザ描画装置200を用いれば、複雑な形状の描画に対応できる。このため、パターン形成の設計自由度が増す。
ただし、ガルバノスキャナ207の描画面積は限られるため、大面積の場合はXYZθステージ209のXY走査と組み合わせることによって対応することができる。また、積層配線や薄膜トランジスタ等の電子素子を形成する場合には、上下の機能層との重ね合わせが必要となり、そのためにXYZθステージ209のθとXYを走査することで、良好な重ねあわせを得ることができる。
また、レーザ描画装置200は、上述したYAGレーザ203とガルバノスキャナ207とを用いた装置に限定されるものではなく、YAGレーザ203とXYZθステージ209と反射光学系を組み合わせでもよい。この場合は、配線のパターニングに関し、XYや一部斜め等の簡単なパターン形成に対して有効である。また、エキシマレーザとマスクとを用いたステップアンドリピートと、凹部形成のためのレーザアブレーションを組み合わせたものでもよい。
導電部13の線幅は、例えば、10〜20μmである。インクジェットの一般的なパターン解像度50μm以下の線幅であればより効果的で、この線幅に限定されるものではなくより広い線幅も形成できる。導電部13の線幅は、高表面エネルギー領域部12aの線幅で決定される。導電部13の膜厚は、例えば、100〜200nmである。高表面エネルギー領域部12aの線幅は、レーザビーム205のビーム径、焦点位置、ビームの重ね合わせ等で制御することができる。
また、レーザアブレーションが発生しないエネルギーで高表面エネルギー領域部12aを形成するためには、濡れ性変化層12の光感度に合わせて、レーザ出力、スキャン速度、発振周波数、ビーム径、焦点位置を制御する。
第1実施形態では、1パルスあたりの光エネルギーが大きくない領域で、ポリイミド膜の側鎖を切断するのに必要な光エネルギーを濡れ性変化層12に供給する。例えば、20〜30mJ/cm2であれば、レーザアブレーションが発生しないエネルギーで、表面エネルギーを変化させる。ここでは、ガルバノミラーのスキャン速度は、240mm/秒であり、1パルスあたりの光エネルギーは、25mJ/cm2とした。
なお、紫外線領域のレーザ光としては、YAGレーザ203の3倍波(波長355nm)、5倍波(波長215nm)、XeFエキシマレーザ(波長351nm)、XeClエキシマレーザ(波長308nm)、KrFエキシマレーザ(波長248nm)、ArFエキシマレーザ(波長193nm)を用いてもよい。特に、その出力と大気中でのオゾン発生によるプロセスおよび環境への影響から、YAGレーザの3倍波(波長355nm)、4倍波(波長266nm)、XeFエキシマレーザ(波長351nm)、XeClエキシマレーザ(波長308nm)、KrFエキシマレーザ(波長248nm)を用いることが好ましい。
図6は、アライメントマークの顕微鏡写真である。
図6には、図3(d)に示した十字状のアライメントマークが示されている。十字の部分が凹部15となっている。このアライメントマークを形成したときのスキャン速度は、240mm/秒である。すなわち、高表面エネルギー領域部12aを形成するときのスキャン速度と同じである。ただし、アライメントマーク(凹部15)を形成する際には、高表面エネルギー領域部12aを形成するときよりもレーザ出力を大きくする。例えば、1パルスあたりの光エネルギーを40〜55mJ/cm2とする。これにより、レーザアブレーションが起こり、濡れ性変化層12の一部が除去される。
図7は、1パルスのエネルギー密度と凹部の平均段差との関係を示す図である。
図7の横軸は、1パルスあたりの光エネルギー密度(mJ/cm2)であり、縦軸は、凹部15の平均段差(nm)である。また、濡れ性変化層12は、ガラス基板上に形成されたポリイミド層である。スキャン速度は、240mm/秒である。ポリイミド層の形成には、側鎖にデンドリマーを含む可溶性ポリイミド材料A(化1)と、可溶性ポリイミド材料Aよりも絶縁性が高く、側鎖を有さないポリイミドCT4112(商品名、京セラケミカル社製)を混合したポリイミドNMP溶液を用いている。ポリイミドNMP溶液を窒素雰囲気で100℃のプリベークを施し、さらに窒素雰囲気で180℃、1時間のポストベークを施した。ポリイミド層の膜厚は、500nmである。
この結果から分かるように、1パルスあたりの光エネルギー密度をより高くすることにより、ポリイミド層の加工深さがより深くなっている。さらに1パルスあたりの光エネルギーをより大きくすることで、ポリイミド層の下層のガラス基板、フィルム基板を加工することができる。
加工深さはアライメントマークとして認識できること、異物が飛散しないことを考慮して適切な深さに制御することができる。また、ポリイミド層の下層の基板にダメージを与えることなく、ポリイミド層の膜厚(500nm)に対応した厚さ分を選択的にポリイミド層から除去することもできる。
図8は、導電部のSEM像であり、(a)は、斜め上面像、(b)は、断面像である。
SEM観察から線幅が10μm(図8(a))で、厚さが170nm(図8(b))の導電部13が濡れ性変化層12上に形成されていることが分かる。通常のインクジェット法では、解像度が約50μmであるのに対して、第1実施形態では、50μmよりも格段に微細な導電パターンが形成されていることが分かる。
このように、第1実施形態では、濡れ性変化層12、導電部13をインクジェット法等の印刷法により形成する。このため、低コストで、微細な配線を形成できる。また、紫外線領域のレーザ光を発するレーザ描画装置を利用して、略平坦となる高表面エネルギー領域部12aを形成する。そして、インクジェット法で導電性インク16を高表面エネルギー領域部12aに塗布する。
すなわち、第1実施形態によれば、印刷による少ない工程数のメリットを生かしつつ、微細な導電パターンで、物理的な版を必要とせず、パターン変更に対して柔軟で、工程時間の増加が少ない配線を形成することができる。
また、レーザアブレーションを用いて高表面エネルギー領域部12aの形成と同一工程内でアライメントマークとなる凹部15を形成する。凹部15は、高表面エネルギー領域部12aに導電性インク16を塗布する際のアライメントマークとして機能する。
アライメントマークとしての凹部15は、ウェットエッチング、レーザアブレーション法等の任意のパターニング方法により形成することもできる。しかし、工程数を少なくする観点からは、第1実施形態のように、高表面エネルギー領域部12aの形成と同時に、アライメントマークとしての凹部15を形成することが適切である。
特に、第1実施形態では、紫外線領域のレーザ光の1パルスあたりの光エネルギーを小さくしながら、表面エネルギーを変化させるのに充分な照射エネルギーを濡れ性変化層12に与える。これにより、濡れ性変化層12の表面が略平坦のまま、高表面エネルギー領域部12aが形成される。
一方、同じ紫外線レーザを用いて1パルスあたりの光エネルギーを大きくすることで、レーザアブレーションによってアライメントマークとしての凹部15を形成する。凹部15内の内表面も、表面自由エネルギーが変化する。したがって、レーザビーム205をスキャンしながら、デバイス領域とアライメント領域で1パルスあたりのエネルギーを変化させたり、レーザビーム205のスキャン速度を変化させたりすることによって、マスクを用いることなく、同一工程によって、高表面エネルギー領域部12aとアライメントマークが同時に形成できる。
また、アライメントマークの位置は、レーザビーム径、ステージ走査精度、レーザビーム205をスキャンするガルバノミラーの走査精度で決まるため、インクジェット印刷や他の印刷法よりも非常に高い精度で決定される。
また、第1実施形態では、凹部15の形成と同時に凹部15内の内表面を高表面エネルギー領域部に変えることができるため、凹部15という物理的な形状だけでなく、系の自由エネルギーを最小にするという効果が1つの工程で得られる。
凹部15内には導電性インク16が充填されやすく、導電性インク16のはみ出しが抑制される。このため、アライメントマーク17の位置は正確になり、かつアライメントマーク17と低表面エネルギー領域部12bとの境界がばらつき難くなる。さらに導電性インク16を凹部15内に充填することで、アライメントマーク17と低表面エネルギー領域部12bとのコントラストが明確になり、アライメントカメラによって充分にアライメントマーク17を観察することができる。このため、積層配線や電子素子、電子素子アレイ、表示素子を形成する場合においても、精度が高く観察しやすいアライメントマークを提供できる。
特に、レーザビーム205を走査して高表面エネルギー領域部12aとアライメントマークとしての凹部15を形成する際には、ガルバノスキャナを用いてレーザビーム205を走査することにより濡れ性変化層12上に高表面エネルギー領域部12aとアライメントマークとしての凹部15を形成することが好ましい。
レーザビーム205を走査したり、ワーク208を走査したりする方法は、物理的な版を必要とせず、微細な導電パターンで、パターン変更に対して柔軟で、工程時間の増加が抑制される。さらに工程数を削減でき、略平坦である高表面エネルギー領域部12aとアライメントマークとしての凹部15を同一の光学系で同時に形成できるため、装置コストの上昇を抑えられる。
また、繰り返しパターンが多い場合は、必要な導電パターンのマスクを用いてステップ・リピートによってレーザを照射して高表面エネルギー領域部12aを形成することもできる。例えば、エキシマレーザの場合は出力が大きいため、マスクを使う方法が有効である。しかしこの場合は、高表面エネルギー領域部12aと凹部15とを同時には形成できないため、アライメントマーク形成用のレーザアブレーションを行う別の光学系を設けるなど、加工装置が高額になる。
また、導電インク16を高表面エネルギー領域部12aに塗布する方法としては、スピンコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、フレキソ印刷法、グラビア印刷法、マイクロコンタクト法、インクジェット法、ノズルプリンティング法、エアロゾルジェット法の各種印刷法も挙げられる。
しかし、濡れ性変化層12の表面エネルギーの影響を受けて導電インク16が高表面エネルギー領域部12aに流れ込むのには、適切な粘度、表面張力の導電性インク16を塗布できて、比較的微細なパターンを形成できる方法が好ましい。比較的微細なパターンを形成するためには小さな液滴を供給できるインクジェット法またはノズルプリンティング法を選択することが好ましい。また、これら2つの方法は、材料利用効率も、スピンコート法等に比べて格段に高く、マスクレス、非接触印刷であることから、大面積化が容易である。
(比較例)
図9および図10は、比較例に係る配線部材の形成過程を説明するための断面摸式図である。
図9(a)に示すように、ウェット洗浄を行ったフィルム状の基板51の領域59Bとは別の領域59aに、アライメントマーク57を形成する。例えば、Ag粒子を水系溶媒に分散させた金属微粒子の分散液を基板51に吐出して、十字状のアライメントマーク57を形成した。続いて、大気中において100℃でプリベークを行い、さらに、大気中において180℃、1時間のポストベークを行う。
次に、図9(b)に示すように、基板51上およびアライメントマーク57上に、濡れ性変化層52を形成する。濡れ性変化層52の成分、形成方法、膜厚は、濡れ性変化層12の成分、形成方法、膜厚と同じである。
次に、図9(c)に示すように、公知のマスク露光装置をもちいて、導電部、アライメントマーク57の位置に対応する部分を開口させたフォトマスク50を濡れ性変化層52上に形成する。続いて、フォトマスク50から表出された濡れ性変化層52に紫外線(超高圧水銀ランプ、波長:300nm以下)を照射する。これにより、濡れ性変化層52の表面に、高表面エネルギー領域部52a(紫外線照射部分)と低表面エネルギー領域部52b(紫外線未照射部分)とが形成される。このときの紫外線照射量は、2.0J/cm2である。この状態を、図10(a)に示す。
次に、図10(b)に示すように、インクジェット法を用いて、上記分散液(導電インク)を高表面エネルギー領域部52a上に選択的に付与する。
このとき、高表面エネルギー領域部52aと低表面エネルギー領域部52bとは、表面段差がなく、また屈折率等の特性の差も小さい。このため、第1実施形態に比べて、それぞれのパターン位置が観察し難い。
比較例では、アライメントマーク57の位置をインクジェット装置のアライメントカメラで観察し、インクジェットデータを基にアライメントマーク57に従って高表面エネルギー領域部52aに導電インク56を滴下している。この後、導電インク56に対し大気中において100℃でプリベークを行う。さらに、導電インク56に対し大気中で180℃、1時間のポストベークを行う。これにより、導電部53が高表面エネルギー領域部52a上に形成される。導電部53の線幅は、20μmであり、膜厚は、130nmである。この状態を、図10(c)に示す。
比較例では、図9(c)のアライメント57の位置に対応する開口部に形成される高表面エネルギー領域部52aに導電性インク56を選択的に付与して、アライメント58を形成した例を示す。アライメント58は、後工程で必要がなければ、導電性インク56を付与して形成しなくてもよい。
比較例においても、通常のインクジェット法の解像度(約50μm)よりも微細な導電部53を形成できる。また、アライメントマーク57は、インクジェット印刷と焼成(プリベーク、ポストベーク)との計3工程で形成している。
しかし、比較例では、第1実施形態に比べ、アライメントマーク57の形成工程が付加されており、この分、プロセス全体としての工程数が増加している。また、比較例では、フォトマスク50を使用するため、パターン変更に対してはマスク自体を変更する必要がある。このため、比較例では、パターン変更に対しての柔軟性に欠け、工程時間が増加してしまう。
(第2実施形態)
図11は、第2実施形態に係る配線部材の形成方法によって形成された配線部材の断面摸式図である。
図11に示す配線部材2は、以下に説明する形成過程によって形成される。
まず、ウェット洗浄を行った基板61上に、膜厚が150nmの濡れ性変化層62を形成する。疎水性基を側鎖に持つ熱硬化型ポリイミドのNMP溶液を原料として、スピンコート法により塗布した後、窒素中、100℃のプリベークと、180℃での焼成を行った。濡れ性変化層62の表面は、疎水性の側鎖を持つポリイミドによって低表面エネルギー状態になっている。
次に、第1実施形態と同様に、図5に示すレーザ描画装置を用いて、同一工程内で、高表面エネルギー領域部62aとアライメントマークとなる凹部15を濡れ性変化層62に形成する。導電部63が配置される領域に相当する部分、アライメントマークとなる凹部15に相当する部分にレーザ光を照射する際に、おのおのCADデータ上でのアライメントマークとなる凹部15に相当するデータと導電部63に相当するデータに対して、ガルバノスキャナの動きに合わせて、YAGレーザの4倍波、1パルスあたりのエネルギーを変える。第1実施形態と同様に、高表面エネルギー領域形成の場合は1パルスあたりのエネルギーは25mJ/cm2とし、導電部63が配置される領域に相当する部分にレーザ光を照射する。これにより、濡れ性変化層62に、幅が20μmの高表面エネルギー領域部62aが形成される。一方、1パルスあたりのエネルギーを40mJ/cm2とすることで、レーザアブレーションを用いてアライメントマークとなる凹部15を濡れ性変化層62に形成する。凹部15の平面形状は、例えば、十字である。レーザ光を照射しない領域は、ポリイミドの疎水性側鎖による低表面エネルギー領域部62bとなっている。
次に、第1実施形態と同様に、凹部15をアライメントカメラで観察しつつ、インクジェット法により、導電性インク17を高表面エネルギー領域部62a上および凹部15内に塗布する。この後、第1実施形態と同じ条件で導電性インク17のプリベーク、ポストベークを行う。これにより、線幅が20μmで、膜厚が100nmの導電部63が形成される。さらに、凹部15内には、アライメントマーク67が形成される。
次に、導電部63上およびアライメントマーク67上に、膜厚が500nmの濡れ性変化層65を形成する。濡れ性変化層65の成分、形成方法は、濡れ性変化層12の成分、形成方法と同じである。そして、アライメントマーク67に対して、レーザ描画装置のアライメントカメラを用いて、CADシステムデータとの位置合わせを行う。
上記位置合わせを行った後に、レーザ描画装置にて、濡れ性変化層65に、導電部66と同じ形態の高表面エネルギー領域部65aを形成する(例えば、スキャン速度:240mm/秒、1パルスあたりの光エネルギー:25mJ/cm2)。高表面エネルギー領域部65aの幅は、20μmである。さらに、レーザアブレーション(スキャン速度:240mm/秒、1パルスあたりの光エネルギー:40mJ/cm2)によって、凹部15を形成する。ここでの凹部15の平面形状は方形状で、深さは250nmである。
この場合もレーザ光を照射していない領域は、ポリイミドの疎水性側鎖による低表面エネルギー領域部65bとなっている。
次に、アライメントマーク67をアライメントカメラで観察しつつ、インクジェット法により、導電性インク17を高表面エネルギー領域部65a上および凹部15内に塗布する。この後、第1実施形態と同じ条件で導電性インク17のプリベーク、ポストベークを行う。
これにより、導電部66、導電部材が充填されたアライメントマーク68が形成される。導電部66の線幅は、20μmであり、膜厚は130nmである。
第2実施形態では、アライメントマーク67のコントラストが高く、またレーザ描画装置の精度も高いため、インクジェット時においてもアライメントマーク67を用いて位置合わせを行っている。アライメントマーク68が埋め込まれる凹部15と低表面エネルギー領域部65bとのコントラストが明確である場合は、この凹部15をアライメントマークとして利用してもよい。
次に、導電部66の絶縁性を保つために、その上層にエポキシ樹脂からなる絶縁層69を形成する。
濡れ性変化層65は、導電層63と導電層66の層間絶縁膜を兼ねている。層間絶縁膜に関し、より高い絶縁性能が必要な場合には、導電層63の上層に、別の絶縁層を形成したのちに、この別の絶縁層の上に、濡れ性変化層65を形成してもよい。
このように、第2実施形態においては、所定の処理を繰り返し行うことによって、導電部を、絶縁膜を介して複数積層する。第2実施形態においても、物理的な版は必要とされない。また、微細な導電パターンが形成される。また、パターン変更に対しては、柔軟に対応できる。
なお、第2実施形態では2層構造の濡れ性変化層を例示したが、この構造に限定されるものではない。さらに、濡れ性変化層、導電部を積層することも可能である。
(第3実施形態)
図12は、第3実施形態に係る配線部材の形成方法によって形成された電子素子の断面摸式図である。
図12に示す電子素子3は、微細な電極を備えたTFT型の有機トランジスタである。
電子素子3は、基板71と、基板71上に設けられ、エネルギー付与によって臨界表面張力が変化する材料を含有する濡れ性変化層72、74と、を備える。さらに、電子素子3は、高表面エネルギー領域部72a、74a上に形成された配線と、濡れ性変化層72、74に形成されたアライメントマークと、を備える。濡れ性変化層72、74には、選択的にレーザ光が照射され、濡れ性変化層72、74の臨界表面張力が高くなるように変化させた高表面エネルギー領域部72a、74aが形成されている。濡れ性変化層と前記高表面エネルギー領域部とには段差がない。アライメントマークは、濡れ性変化層72およびと濡れ性変化層72の下側に設けられた基板71に形成されてもよい(不図示)。
高表面エネルギー領域部72a、74aの表面は略平坦である。基板71の主面に対して垂直な方向から配線を見た場合、配線は高表面エネルギー領域部72a、74aと同じ形態をしている。
電子素子3は、以下に説明する形成過程によって形成される。
まず、ウェット洗浄を行った基板71上に、膜厚が100nmの濡れ性変化層72を形成する。濡れ性変化層72の成分、形成方法は、実施例2の濡れ性変化層62の成分、形成方法と同じである。濡れ性変化層72の表面は、疎水性の側鎖を持つポリイミドにより、低表面エネルギー状態となっている。
次に、ゲート電極73の位置に相当する濡れ性変化層72の部分に、ゲート電極73の平面形状と同一形態の高表面エネルギー領域部72aを形成する。高表面エネルギー領域部72aの幅は、20μmである。続いて、レーザアブレーションを用いてアライメントマークとなる凹部15を形成する。レーザアブレーションでは、基板71にダメージを与えない程度のレーザ光を照射する。凹部15は、濡れ性変化層72を貫通するまで除去する。凹部15の深さは、100nmである。レーザ光を照射していない領域は、低表面エネルギー領域部72bとなっている。
次に、第1実施形態と同様に、凹部15をアライメントカメラで観察しつつ、インクジェット法により、導電性インク17を高表面エネルギー領域部72a上および凹部15内に塗布する。この後、第1実施形態と同じ条件で導電性インク17のプリベーク、ポストベークを行う。
これにより、高表面エネルギー領域部72a上にゲート電極73が形成される。ゲート電極73の線幅は、20μmであり、膜厚は、100nmである。また、凹部15内には、導電部材で構成されたアライメントマーク77が形成される。
次に、濡れ性変化層72上およびゲート電極73上に、厚さが500nmの濡れ性変化層74を形成する。濡れ性変化層74の成分、形成方法は、濡れ性変化層12の成分、形成方法と同じである。濡れ性変化層74はゲート絶縁膜を兼ねている。そして、導電性インクを充填したアライメントマーク77に対して、レーザ描画装置のアライメントカメラを用いて、CADデータとの位置合わせを行う。
上記位置合わせを行った後に、濡れ性変化層74に、ソース・ドレイン電極75の平面形状と同一形態の高表面エネルギー領域部74aを形成する。電子素子3のチャネル幅は、5μmである。続いて、レーザアブレーションによって濡れ性変化層74に凹部15を形成する。凹部15の平面形状は、方形状であり、深さは250nmである。
電子素子3において、ソース・ドレイン電極75間のチャネル領域は、レーザを照射していない。このため、チャネル領域は、ポリイミドの疎水性側鎖による低表面エネルギー領域部74bとなっている。その結果、電子素子3は、水分の吸湿がなく、良好なトランジスタ性能を示す。
次に、アライメントマーク77をアライメントカメラで観察しつつ、インクジェット法により、導電性インク17を高表面エネルギー領域部74a上および凹部15内に塗布する。この後、第1実施形態と同じ条件で導電性インク17のプリベーク、ポストベークを行う。
これにより、ソース・ドレイン電極75、導電部材が充填されたアライメントマーク78が形成される。ソース・ドレイン電極75の膜厚は、130nmである。
第3実施形態では、アライメントマーク77のコントラストが高く、またレーザ描画装置の精度も高いため、インクジェット時においてもアライメントマーク77を用いて位置合わせを行っている。アライメントマーク78が埋め込まれる凹部15と低表面エネルギー領域部74bとのコントラストが明確である場合は、この凹部15をアライメントマークとして利用してもよい。
次に、ソース・ドレイン電極75のそれぞれの一部の上、およびチャネル部分上に有機半導体層76を形成する。有機半導体層76に含まれる成分(半導体A)の分子式は、下記に示される。
上記の構造式(化2)で表されるトリアリールアミン(有機半導体材料)をキシレン/メシチレン混合溶媒に溶解させた塗布液を、インクジェット法によりチャネル部分に滴下する。そして、塗布液を120℃で加熱し、溶媒を乾燥させる。これにより、膜厚が50nmの有機半導体層76がソース・ドレイン電極75のそれぞれの一部の上、およびチャネル部分上に形成される。
この電子素子3の特性評価したところ、ソース・ドレイン電極75およびゲート電極73のパターニング性は良好であった。また、オンオフ比は106である。また、電界効果移動度は、5×10−3cm2/Vsである。
第3実施形態で形成される導電部は、薄膜トランジスタのゲート電極73、ソース・ドレイン電極75のうちのいずれかである。また、第3実施形態では、スピンコート法、インクジェット法によって、低コストで微細な配線を備えた電子素子を形成できる。また、電子素子3は、ゲート電極とソース・ドレイン電極との間のリークがなく、充分に高いオンオフ比を有する。
また、第3実施形態においても、物理的な版は必要とされない。また、微細な導電パターン、微細なチャネル長の電子素子が形成される。また、パターン変更に対しては、柔軟に対応できる。
また、第3実施形態においては、有機半導体層76の材質は、上記(化2)に限られない。例えば、有機半導体層76の材質としては、ケイ素(Si)、酸化物半導体、カーボンナノチューブ等の無機半導体、ペンタセン、アントラセン、テトラセン、α−6−チオフェン、フタロシアニンおよびその誘導体、ルブレンおよびその誘導体、ペリレンおよびその誘導体等の有機低分子半導体、ポリチオフェンおよびその誘導体、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリパラフェニレンおよびその誘導体、ポリフェニレンビニレンおよびその誘導体、ポリピロールおよびその誘導体、ポリフロレンおよびその誘導体等の有機高分子半導体を用いてもよい。特に、有機半導体、カーボンナノチューブは、印刷で作製する配線プロセスに適している。有機半導体、カーボンナノチューブを用いれば、低コスト、低温プロセスで電子素子を作製できる。さらに、各層を積層して、積層体構造の電子素子とすることもできる。
(第4実施形態)
図13は、第4実施形態に係る配線部材の形成方法によって形成された電子素子の模式図であり、(a)は、平面模式図、(b)は、(a)のA−A’線に沿った位置での断面摸式図である。
図13に示す電子素子4は、電子素子3が基板上に複数配設された電子素子アレイである。電子素子4は、図2に例示した電子部品100のデバイス形成領域38に配置されている。電子素子4には、上述したアライメントマークが配置されている(不図示)。
電子素子4においては、基板81上に、200×200個(電子素子3間のピッチ:127μm)の電子素子3が2次元状に配置されている。複数の電子素子3の電界効果移動度の平均値は、5×10−3cm2/Vsである。
第4実施形態によれば、ゲート絶縁膜を兼ねた濡れ性変化層74をスピンコートで形成し、ゲート電極73、ソース電極75a、およびドレイン電極75b等をインクジェット法の印刷法による形成することができる。
このため、低コストで微細パターンを備えた電子素子アレイを形成できる。また、レーザ描画装置を用いて濡れ性変化層に高表面エネルギー領域部を形成し、インクジェット法等で導電性インクを塗布して電子素子4を形成する。
第4実施形態においても、物理的な版は必要とされない。また、微細な導電パターン、微細なチャネル長、電子素子間のピッチが小さい電子素子が形成される。また、パターン変更に対しては、柔軟に対応できる。さらに、デバイス形成領域38におけるプロセス信頼性が高くなる。
(第5実施形態)
図14は、第5実施形態に係る配線部材の形成方法によって形成された表示装置の断面摸式図である。
図14に示す表示装置5は、電気泳動式の表示装置である。表示装置5には、上述したアライメントマークが配置されている(不図示)。表示装置5は、以下のように形成される。
例えば、ITO電極98が表面に形成されたポリカーボネート基板90を準備する。ついで、ITO電極98の表面に、酸化チタン粒子97aとオイルブルーで着色したアイソパー97bを内包するマイクロカプセル(表示素子)97と、ポリビニルアルコール(PVA)水溶液を混合した塗布液を塗布する。これにより、マイクロカプセル97とPVAバインダ99を含む層がITO電極98表面に形成される。
次に、マイクロカプセル97とPVAバインダ99を含む層と、第4実施形態で例示した電子素子4と、を貼り合わせる。貼り合わせにより、マイクロカプセル97とPVAバインダ99を含む層と電子素子4の有機半導体層76とが対向する。すなわち、ドレイン電極75bとITO電極98との間にマイクロカプセル97とPVAバインダ99を含む層が介設される。
ゲート電極73に繋がるバスラインには、走査信号用のドライバーICが接続されている(不図示)。ソース電極75aに繋がるバスラインには、データ信号用のドライバーICが接続されている(不図示)。
表示装置5では、0.5秒毎に画面切り替えを行ったところ、良好な静止画表示を示す。また、トランジスタピッチが、127μmであるため、解像度が200ppiと高精細な表示素子なる。
第5実施形態においても、物理的な版は必要とされない。また、微細な導電パターン、微細なチャネル長、電子素子間のピッチが小さい電子素子を備えた表示装置が形成される。また、パターン変更に対しては、柔軟に対応できる。
以上、実施形態を説明してきたが、本発明は図面に示した実施形態に限定されるものではない。他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができる。例えば、配線部材は、表示装置のほか、他の電子部品のプリント基板にも転用できる。いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。