JP5884869B2 - 核酸増幅における非特異反応抑制方法 - Google Patents

核酸増幅における非特異反応抑制方法 Download PDF

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Description

本発明は、核酸増幅のための新規組成物に関する。特にポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を用いた核酸増幅に有用な新規核酸増幅用組成物に関する。
DNAポリメラーゼを用いた鋳型核酸からのDNAの合成は、分子生物学の分野において、シーケンシング法や核酸増幅法等、様々な方法に利用・応用されている。中でも、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法に代表される核酸増幅法は、研究分野のみならず、遺伝子診断、親子鑑定といった法医学分野、あるいは、食品や環境中の微生物検査等において、既に実用化されている。
PCR法を始め、現在までに様々な核酸増幅法が開発されているが、PCR法以外にも、Loop−Mediated Isothermal Amplification(LAM P)法、Transcriprtion Reverse Transcription Concerted Reaction (TRC)法、Nucleic Acid Sequence−Based Amplification (NASBA)法などの核酸増幅法が比較的一般に普及している。
中でも、DNAの特異的配列の増幅に用いられるPCR法は、研究分野から応用分野に至るまで極めて幅広く普及している技術である。PCR法による遺伝子増幅方法は、標的核酸、4種類のデオキシヌクレオシド三リン酸、一対のプライマー及びDNAポリメラーゼの存在下で、変性、アニーリング、伸長からなるサイクルを25〜40サイクル繰り返すことにより、上記一対のプライマーで挟まれる標的核酸の領域を指数関数的に増幅させる方法である(非特許文献1)。
PCR法には、複数のプライマーを同時に増幅するMultiplexPCRや、蛍光色素を用いて、PCRの増幅産物をリアルタイムで検出するリアルタイムPCRなど、様々な技術が存在する。これらの技術も、研究分野のみならず、法医学分野や食品や環境中の微生物検査等において、既に実用化されている。
PCR法に用いられる二本鎖DNAは通常、4種類の塩基(A、C、G、T)からなり、2種類の塩基対、即ちA−Tの組み合せ、G−Cの組み合せで相補鎖と水素結合を構成している。このうちG−Cの組み合わせは、A−Tの組み合せと比較して水素結合の結合力が高いことが一般的に知られている。A−Tの組み合わせとG−Cの組み合わせの存在比は、由来となる生物種や遺伝子の種類等によって偏りがあり、A−Tの組み合わせよりG−Cの組み合わせが多い場合を「GC含量が高い」または「GC rich」と呼ぶ。PCR法において、GC含量が高い二本鎖DNAは、そうでない二本鎖DNAと比較して、増幅しにくいといわれている。原因としては、GC含量が高い二本鎖DNAは一本鎖DNAへの解離が起こりにくくなるため、熱変性の際、1本鎖DNAが作られにくいからと考えられている。PCR法で増幅産物が見られない原因として、第一に標的配列のGC含量が高いことが挙げられている。
GC含量が高いDNAの増幅を行う場合、変性条件をより強力に、即ち変性温度を上げるか、変性時間を延長して反応を行う必要がある。しかしながら、変性温度の上昇または変性時間の延長は、PCRに使用するポリメラーゼの活性低下を招き、またポリメラーゼの活性発現に必須な補助因子として反応液へ添加されている2価の金属イオン(マグネシウムイオンやマンガンイオン等)の作用による核酸鎖の非特異的な加水分解が促進され、
逆に反応効率を著しく低下させる結果となる。また、C(シトシン)やA(アデノシン)は高温条件下では脱アミノ化によるU(ウラシル)やI(イノシン)への変化が起こりやすくなり、その結果、増幅したDNAの塩基配列に非特異的な変化、即ち変異を発生させる原因となる。
このような背景から、変性温度や変性時間を変更することなく、GC含量が高い核酸の増幅効率を向上させるため、反応液に特定の薬剤を添加することで核酸の融解温度を低下させるという方法が古くから実施されてきた。核酸の融解温度調整剤としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ホルムアミド、グリセロール、ベタインなどが多用されている。しかしながら、これらの物質にはいずれも短所があることが知られている。即ち、ジメチルスルホキシドやホルムアミドは、PCRの特異性を高めるために多用されるホットスタート用抗ポリメラーゼ抗体の作用を阻害する性質がある(非特許文献2)。特にホルムアミドは、それ自身の水溶液中での安定性が低く、PCRの反応液に混合した状態での長期保存が困難である。一方、グリセロールやベタインは、反応阻害や安定性の面では問題が少ないが、融解温度を低下させる作用が比較的低いため、PCRの反応液に混合する際は極めて高濃度を添加する必要がある。特にグリセロールはそれ自身の粘性が高く、高濃度の添加によって反応液調製時の操作性が著しく低下する、あるいは少液量での反応液調製時に、添加量の誤差が発生しやすいという問題もあった。
そのほか、テトラメチルアンモニウム塩化物(TMAC)や水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、金粒子などがPCRの成功率を上げることが知られており(非特許文献3、4)、これらの物質は、PCRで生じる非特異的な増幅を抑える働きがあるとされている。しかし、これらの物質も短所があることが知られている。即ち、TMACやTMAHは、PCR反応を阻害する傾向が示唆されており、一方、金粒子は、汎用的に使用するにはコストがかかるといった問題があった。
特表2002−513587号公報
Nature, 324 (6093), 13−19(1986) Clontech社、TaqStart Antibody取扱説明書 Nucleic Acids Research,Vol.19,No.13 Angew Chem Int Ed Engl.2005 Aug 12;44(32)
核酸増幅反応において、変性温度や変性時間を変更することなく、GC含量が高い核酸の増幅効率を向上させるため、核酸の融解温度を下げるという方法が実施されてきた。しかしながら、従来使用されてきた融解温度調整剤として用いられる物質は、ホットスタート用抗ポリメラーゼ抗体の作用を阻害する性質があるものや、水溶液中での安定性が低く長期保存が困難なもの、物質の粘度が高く反応液調整時の操作性が著しく低下するものなど、いずれも使用に際し短所を有するものであった。
そこで、本発明は、核酸増幅用組成物であって、核酸融解温度を調整する性質を有する
物質として、(1)核酸増幅以外の反応、すなわちホットスタート用抗ポリメラーゼ抗体の作用などを阻害しないこと、(2)融解温度を低下させる作用が高く、なおかつ粘性が低く、添加による操作性の低下が顕著でないこと、(3)長期保存が可能であること、の性質を満たす物質を含む核酸増幅用組成物を提供することを目的とする。
また近年、リアルタイムPCRの登場等によって、一度に多サンプルのPCRを同時に実施する要求が強くなっている。このような場合においては、操作上の利便性を向上させるため、あらかじめ反応バッファー、反応基質(dNTPs)、マグネシウムイオン、ポリメラーゼ、ホットスタート用抗ポリメラーゼ抗体などを混合した、2倍濃度(またはそれ以上の高濃度)のプレミックス試薬が好適に用いられている。このようなプレミックス試薬の使用時においても、前述の理由により核酸の融解温度を低下させる物質を使用することが望ましいが、操作性を維持する観点からは、核酸温度調整剤は反応実施時にその都度添加するのではなく、プレミックス試薬中に他の反応必須因子と共にあらかじめ混合されていることが望ましい。しかしながら、前述したいずれの核酸温度調製剤についても、反応阻害、安定性、操作性上の問題があり、プレミックス試薬へあらかじめ混合しておくことには非常に困難であった。そこで、プレミックス試薬にも有用であり、更には、混合液状態での安定性が高い、という特性を満たす核酸増幅用組成物を提供することも目的とする。
本発明者らは、鋭意研究の結果、グリコール類、特に1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオールを使用することを見出した。そして、驚くべきことに、核酸増幅反応において抗ポリメラーゼ抗体に対する阻害作用がなく、操作性の低下も極めて少なく、長期保存が可能で、さらに混合液状態での安定性が高い核酸増幅用組成物が提供できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本願発明の概要は以下の通りである。
[項1]グリコール類の存在下で行うことを特徴とする、PCR法を用いた核酸増幅における非特異反応の抑制方法。
[項2]グリコール類の炭素数が4以下である、項1に記載の非特異反応の抑制方法。
[項3]グリコール類が、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオールおよび1,3−プロパンジオールからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物である、項1又は2に記載の非特異反応の抑制方法。
[項4]核酸増幅反応溶液中のグリコール類の濃度が1〜20容量%である、項1から3のいずれか一に記載の非特異反応の抑制方法。
[項5]核酸増幅反応溶液中のグリコール類の濃度が3〜15容量%である、項1から4のいずれか一に記載の非特異反応の抑制方法。
下記の項Aから項Hは本願発明の参考である。
[項A]グリコール類を含むことを特徴とする核酸増幅用組成物。
[項B]グリコール類の炭素数が4以下である、項Aに記載の核酸増幅用組成物。
[項C]グリコール類が、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオールおよび1,3−プロパンジオールからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物である、項A又はBに記載の核酸増幅用組成物。
[項D]核酸増幅反応溶液中のグリコール類の濃度が1〜20容量%である、項AからCのいずれか一に記載の核酸増幅用組成物。
[項E]核酸増幅反応溶液中のグリコール類の濃度が3〜15容量%である、項AからDのいずれか一に記載の核酸増幅用組成物。
[項F]項A〜Eのいずれか一に記載の核酸増幅用組成物であって、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のための核酸増幅用組成物。
[項G]項Fに記載の核酸増幅用組成物であって、マルチプレックスPCRのための核酸増幅用組成物。
[項H]項A〜Gのいずれか一に記載の核酸増幅用組成物を含むキット。
本発明の核酸増幅用組成物により、核酸増幅反応以外の反応を阻害することなく、とりわけPCR法における変性温度の低下や変性時間の短縮を実現でき、核酸増幅の成功率を大幅に向上させることができた。また、本発明に使用するグリコール類は核酸の融解温度を低下させる作用が高く、なおかつ粘性が低いため、核酸増幅用組成物への添加による操作性の低下が極めて少なく、かつ長期保存が可能で安定的である、という点で優れた効果を奏するものである。ゆえに、特に、核酸増幅反応用のプレミックス試薬への混合という用途において、より利便性の高い試薬形態を供給可能となった。
GC含量が高い二本鎖DNAの増幅においては本発明の効果はさらに顕著であり、核酸の融解温度を低下させるため多量にグリコール類を添加したとしても、反応阻害がなく、融解温度を低下させる作用が高く、操作性の低下もない核酸増幅用組成物を提供することができた。
さらに驚くべきことに、PCRにおけるスメアやプライマーダイマーの出現といった非特異反応を抑制する点でも効果的であった。あらゆる核酸増幅反応に有用であると同時に、より高いS/N比を求められるマルチプレックス(multiplex)PCRにおいて特に優れた効果を奏するものである。
各種融解温度調整剤の添加濃度と融解温度変化をプロットしたグラフである。 ベタインの添加濃度と融解温度変化をプロットしたグラフである。 各種融解温度調整剤を添加してヒトIGFR cDNA 約500bpの領域をPCRにより増幅し、電気泳動により解析した結果を表した図である。 グリコール類を0容量%〜25容量%の各濃度で添加してヒトIGFR cDNA 約500bpの領域をPCRにより増幅し、電気泳動により解析した結果を表した図である。 各温度で一か月間保存したプレミックス試薬についてリアルタイムPCRにおいて反応性の差異を検討した結果を表した図である。 実施例4で実施した融解曲線分析の結果を表した図である スメアの減少効果を比較するため、各種物質を添加してPCRを行い、電気泳動により解析した結果を表した図である。 プライマーダイマーの減少効果を比較するため、各種物質を添加してPCRを行い、電気泳動により解析した結果を表した図である。
本発明の態様は、グリコール類を含む核酸増幅用組成物に関連する。
本発明の核酸増幅用組成物を使用する核酸増幅反応とは、鋳型の核酸に対し、相補的な配列を持つ核酸を配列依存的に合成する反応を指し、その様式は特に限定されないが、より具体的には、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、Loop−Mediated Isothermal Amplification(LAMP)法、Transcriprtion Reverse Transcription Concerted Reaction (TRC)法、Nucleic Acid Sequence−Based
Amplification (NASBA)法などの特定の標的配列を指数関数的に増幅する方法が例示される。本発明の実施するための好ましい方法は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を用いた方法である。
またPCR法においては、通常のPCR法のみならず、定量PCR(qPCR)、RT−PCR(Reverse Transcription PCR)、LA−PCR(Long and Accurate PCR)、競合的PCR、In situ PCR、RNA−primered PCR、multiplex PCR、シャトルPCR、PCR/GC−calmp法、ストレッチPCR、Alu PCR、メガプライマーPCR、Immuno PCR等、PCR法を応用した核酸増幅方法も本発明に含まれる。
本発明におけるグリコール類とは、アルコールの一種(ポリオール)で、鎖式または環式脂肪族炭化水素を形成する炭素原子のうち、2つの炭素原子にそれぞれ1つずつのヒド
ロキシ基が存在している化合物であり、ジオール化合物とも呼ばれる。最も構造が単純なエチレングリコールを単にグリコールと呼びあらわすこともあるが、ここでは前述の広義でのグリコール類を指す。
本発明におけるグリコール類は、いかなる構造のグリコール類を用いても良いが、好ましくは炭素数4以下の鎖式構造のグリコール類が用いられる。炭素数4以下のグリコール類として、1,2−エタンジオール(「エチレングリコール」ともいわれる)、1,2−プロパンジオール(「プロピレングリコール」ともいわれる)、1,3−プロパンジオール(「トリメチレングリコール」ともいわれる)、1,2−ブタンジオール(「α−ブチレングリコール」ともいわれる)、1,3−ブタンジオール(「β−ブチレングリコール」ともいわれる)、1,4−ブタンジオール(「テトラメチレングリコール」ともいわれる)、2,3−ブタンジオール(「ジメチレングリコール」ともいわれる)、2,2´−オキシジエタノール(「ジエチレングリコール」とも言われる)、が用いられる。より好ましくは炭素数2または3のグリコール類、即ち、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオールが用いられる。これらのグリコール類は、構造により製法が異なるものの、いずれも工業的な製造方法が確立されており、安価で容易に入手が可能である。これらのグリコール類は1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を任意に組み合わせて用いたとしても本発明の効果を奏する。
溶液中または固形物中のグリコール類の検出、測定には、NMR(核磁気共鳴)分析、ガスクロマトグラフィーによる方法や、ポリオール脱水素酵素を用いた方法などが一般的に用いられる。
核酸増幅反応溶液としての核酸増幅用組成物における本発明によるグリコール類の濃度は1〜20容量%が好ましく、より好ましくは3〜15容量%である。1容量%未満ではグリコール類による核酸の融解温度低下の効果が少なく、核酸増幅の成功率の向上効果が小さい。また20容量%より高い濃度であっても核酸増幅の成功率の向上効果は小さくなるほか、ハンドリングも悪くなる。
本発明における核酸増幅用組成物は保存用の核酸増幅反応用試薬として用いることもできる。この場合、核酸増幅反応用試薬は通常2〜10倍の濃縮状態で保存されることが多いが、その場合、グリコール類は反応溶液の終濃度が好ましくは1〜20容量%、より好ましくは3〜15容量%となるように、核酸増幅反応時の濃度の2〜10倍の濃度を含有させておくことができる。
核酸増幅反応を実施するために、本発明の核酸増幅用組成物には、グリコール類のほかに、さらに鋳型となる核酸、DNAポリメラーゼもしくはRNAポリメラーゼ、逆転写酵素、プライマーとなるオリゴヌクレオチド、ジデオキシヌクレオシド三リン酸(dNTPs)、反応バッファー、マグネシウムイオン等の金属イオンを、実施する核酸増幅方法により必要に応じて存在させる。一例として、PCR法を用いた核酸増幅方法においては、鋳型核酸、DNAポリメラーゼ、オリゴヌクレオチド、dNTPs、反応バッファーが一般的に必要である。
核酸増幅のための温度・時間・反応サイクル等の条件は、増幅したい核酸の種類や塩基の配列、鎖長等によって変わるが、当業者であれば適宜設定できる。ただし、本発明の効果を享受するため、変性反応における設定温度や設定時間は、通常より温度を低く若しくは時間を短く設定することが好ましいが、この限りではない。
本発明のさらなる実施態様は、マルチプレックス(multiplex)PCR法による核酸増幅反応に用いるための、グリコール類を含む核酸増幅用組成物である。マルチプ
レックスPCR法とは、数組のプライマー対を、一つのPCRアッセイで同時に用いる方法である。一つの反応混合液中で複数のDNA領域を同時に増幅するこの方法は、サンプルの取り扱いが最小限で済むので、労力や時間、費用が節約でき、またクロスコンタミネーションの危険性を減らすことができるが、一方で、複数のプライマーを添加することによりプライマーダイマーが形成されやすく、高感度の反応系の設計が非常に難しい。しかしながら、本発明によれば、スメアやプライマーダイマーといった非特異反応を抑制することができるため、より簡便にマルチプレックスPCRを行うことができるという点で顕著な効果を奏するものとなる。
(先行文献との比較)
特表2002−513587号公報(特許文献1)には、ハイブリッド脱安定化剤としてエチレングリコールを使用することが記載されている。しかしながら該特許文献1はin
situハイブリダイゼーションにおいて用いることを特徴とするものであり、本発明とは趣旨も構成も効果も異なるものである。すなわち、非特異的な結合(ハイブリダイゼーション)を除去し、特異的結合と非特異的結合との比を増大させることを目的とし、そのためにより好ましくは30〜65%,最も好ましくは50〜65%という極めて多い量を存在させている。これに対し、本発明は核酸増幅、とりわけPCR法における変性温度・変性時間の調整を目的とするものであり、添加する濃度も1〜20容量%と大きな違いがある。実際、該特許出願において最も好ましいといわれる50〜65%濃度のもとで核酸増幅反応を行うのは現実的ではない。加えて、本発明において22.5容量%以上の濃度を添加した場合には、本発明所望の効果が得られなかった。したがって、特許文献1に記載の発明と本発明とは、目的、構成要件、効果において全く異なるものである。
(核酸融解温度の測定方法)
核酸融解温度は、二本鎖核酸が一本鎖核酸に解離する、または互いに相補的な配列を持つ核酸同士が二本鎖を形成する温度であり、一般的には核酸を含む溶液の温度を連続的に変化させた際に、核酸の融解/解離によって発生する波長260nmにおける吸光度の変化を、温度に対してプロットし、その形成されるS字曲線の中点に相当する温度と定義される。核酸融解温度の測定には、いかなる方法を用いても良いが、前述の吸光度の変化を利用した方法が好適に用いられる。即ち、一本鎖核酸は二本鎖核酸よりも波長260nmにおける吸光度が高く、核酸を徐々に加熱または冷却した際に、一本鎖核酸と二本鎖核酸の割合が変化し、その際に吸光度の変化を追うことで、核酸融解温度を求める方法である。また近年多用されている、インターカレーター蛍光色素による方法を用いても良い。即ち、核酸の二本鎖に結合した際にのみ強い蛍光を発する色素、より具体的にはSYBR Green I(登録商標)や臭化エチジウムなどを核酸を含む溶液に混合し、その溶液の温度を連続的に変化させた際に得られる蛍光強度の変化を、同様に温度に対してプロットし、その変化量が最大となる温度を核酸融解温度とする方法である。前述の吸光度を用いた測定方法が、Lambert−Berrの法則から一般的に2.0OD以下で測定すべきであるとされ、また、測定器の性能上の制約から0.1OD以下の測定が困難であることから、融解温度の測定可能な核酸濃度が限定されるのに対し、インターカレーター蛍光色素を用いる方法は、これよりも広い核酸濃度範囲で核酸融解温度を測定することが可能である。特に0.1ODを下回る低濃度の核酸を使用した場合でも容易に測定が可能であることから、PCRの増幅産物の融解温度を測定することで、増幅産物を電気泳動を伴わず融解温度により判別するといった用途にも用いられている。一方、リアルタイムPCRに使用される機器は、一般的にインターカレーター蛍光色素を利用した融解温度測定に対応しているものが多く、それら用いることにより、PCRとその増幅産物の融解温度測定を連続的に実施することが可能である。リアルタイムPCR用機器を用いた融解温度測定法としては、具体的にはロシュ・ダイアグノスティックス社製LightCylcer 1.1を用いた測定法が例示される。本方法では、PCRの温度サイクリングの後に、95℃0秒、65℃10秒、95℃0秒、最終段の95℃までの温度遷移率を0.2℃/秒、蛍光取得様式を「CONT」とした設定を追加することで、融解温度測定が自動的に実施される。融解温度測定では、温度遷移時の蛍光値が連続的に取得され、結果はその蛍光値の導関数により表示される。その導関数が最大となった際の温度が、そのPCR増幅産物の融解温度となる。なお、融解温度は融解温度調整剤の濃度の他、塩濃度、溶媒和効果や、測定する核酸自身の濃度にも影響を受けるため、融解温度測定時にはこれらの条件を常に同一にする必要がある。
(グリコール類の定性・定量方法)
核酸増幅用反応溶液中のグリコール類の存在の有無は、NMR(核磁気共鳴法)により検出することができる。NMRは共鳴周波数400MHzで13C−NMRにより測定できる。13C‐NMRの測定、はシングルパルス1H完全デカップリング法で20%重水素化ジメチルホルムアミド溶液80℃または、20%重水素化クロロホルム溶液40℃で行い、内部標準として各種重水素化溶媒のシグナルを用いることができる。
核酸増幅用反応溶液中のグリコール類の定量は、ガスクロマトグラフ(GC)やガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)を用いて行うことができる。
(グリコール類の粘度の測定方法)
グリコール類の粘度は、いかなる方法を用いて計測しても良いが、一般的には、粘度計を用いた機器による測定法が好適に用いられる。粘度計は「JIS Z 8803液体の粘度−測定方法」により毛細管粘度計、落球粘度計、回転粘度計(3種類)に分類されるが、いずれの粘度計を使用しても良い。一方、粘度の単位はパスカル秒(Pa・s)で表され、1Pa・sは、流体内に1mにつき1m/sの速度勾配があるとき、その速度勾配の方向に垂直な面において速度の方向に1パスカル(Pa)の応力が生ずる粘度と定義される。粘度の単位にはかつてポアズ(P)が用いられていたが、1Pa・s=10Pと換算される。粘度は、温度の影響を大きく受け、一般的には温度が下がるほど粘度が上昇するため、厳密な温度制御化での測定が求められ、粘度の記載時にはその測定温度を併記する必要があるが、通常は常温付近(20℃または25℃)程度で測定される。また粘度は、気圧の影響も受けるが、測定は一般的に1気圧の条件下で測定が行われる。
これらグリコール類の粘度は、グリセロールの粘度が1420mPa・s(20℃)であるのに対し、プロピレングリコールおよびエチレングリコールの粘度はそれぞれ40.4mPa・s(25℃)、16.1mPa・s(25℃)であり、1,3−プロパンジオールはこの両者の中間の値を取るとされている。
実施例1 融解温度調整性能の比較
各種融解温度調整剤として用いられる物質の性能比較については、インターカレーター蛍光色素の存在下でβ−Actin cDNAの約200bpの領域のPCRを行った後、PCRの増幅産物の融解温度をSYBR Green I(商標登録)の蛍光を指標として測定した。具体的には、SYBR Green Realtime PCR Master Mix (東洋紡製:QPK−201)に、各種の融解温度調整剤を複数の濃度で添加したものをそれぞれ使用し、β−Actin cDNAを標的としたPCRを実施した。PCRは、20μlの反応液量で、フォーワードプライマー(配列番号1)とリバースプライマー(配列番号2)をそれぞれ最終濃度0.4μMで添加し、鋳型として、1μgのHeLa細胞由来のtotal RNAからReverTra Ace qPCR RT Kit (東洋紡製:FSQ−101)を用いて10μlの反応系で添付の取扱説明書に記載の方法に従って逆転写を行った液を0.1μl用いた。
PCRは、ロシュ・ダイアグノスティックス社製LightCylcer 1.1を用い、初期変性95℃30秒、PCRサイクル95℃5秒及び60℃30秒で40サイクル行った。引き続き、LightCyclerを用いて融解曲線解析を行った。
融解曲線解析は、PCRの温度サイクリングの後に、95℃0秒、65℃10秒、95℃
0秒、最終段の95℃までの温度遷移率を0.2℃/秒、蛍光取得様式を「CONT」とした設定を追加して実施した。得られた蛍光値変化の導関数が最大になった温度を、その組成における融解温度とした。得られた融解温度について、融解温度調整剤を加えなかった場合の融解温度との差を取ったものを、各種融解温度調整剤の添加濃度に対してプロットし、各種融解温度調整剤の単位濃度あたりの融解温度変化量を算出した。
核酸融解温度調整剤として用いられる物質の測定は、それぞれ、ジメチルスルホキシド(DMSO)、1,2,3−プロパントリオール(グリセロール)、1,2−エタンジオール(エチレングリコール)、1,2−プロパンジオール(プロピレングリコール)、1,3−プロパンジオール、ホルムアミド及びベタイン(トリメチルグリシン)において行った。
その結果を図1および図2に示す。プレミックス試薬中でも安定性が高い融解温度調整剤であるグリセロールの融解温度変化量は、1%あたり約−0.34℃、またベタインの融解温度変化量は、0.1Mあたり−0.23℃であった。仮に融解温度を5℃下げる場合、グリセロールの必要添加量は15容量%、ベタインは2.1M(25%(溶質重量/溶液容量))となる。2倍濃度のプレミックス試薬を調整する場合では必要添加濃度はその倍となり、それぞれ30容量%、4.2M(49%(溶質重量/溶液容量))となる。グリセロール使用時は、高濃度の添加による粘度上昇で操作上に支障を来たし、ベタインは溶解度の問題からプレミックス試薬の調製が不可能である。
一方、エチレングリコール(1,2−エタンジオール)、プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)、1,3−プロパンジオールの融解温度変化量は、それぞれ1容量%あたり−0.46℃、−0.64℃、−0.56℃であり、融解温度を5℃下げる場合の必要添加量は、それぞれ11%、7.8%、8.9%(いずれも容量%)であった。これらの物質は、グリセロールの粘度(1420mPa・s(20℃))と比較して粘度が低く、また所定の融解温度を得るための必要添加量も少なくて済むことから、より操作性の高い融解温度調整剤として優れた効果を示すことが示された。
実施例2 GC含量が高い標的配列のPCRによる増幅における各種核酸融解温度調整剤の評価
実際のPCRにおけるGC含量が高い標的配列の増幅においての核酸融解温度調整剤として用いられる各種物質の効果を検証した。GC含量が高い標的配列として、ヒトIGFR2 cDNAの約500bpの領域を用いた。PCRにはKOD DNA Polymerasを用い、KOD−Plus−Ver.2(東洋紡製:KOD−211)を1U、並びに10x反応バッファーを5μl、25mM MgClを3μl、2mM dNTPsを5μl、フォーワードプライマー(配列番号3)およびリバースプライマー(配列番号4)をそれぞれ最終濃度0.3μM、鋳型核酸、および核酸融解温度調整剤を添加したものを調製し、50μlの反応液量で反応を行った。
鋳型核酸としてHeLa細胞由来のtotal RNAを鋳型としてReverTra Ace −α−(東洋紡製)を用いて、取扱説明書記載の方法により、試薬に添付のラ
ンダムプライマーにより逆転写反応をおこなった反応液を、鋳型RNA 1ng相当量となるよう用いた。
核酸融解温度調整剤は、それぞれ、ジメチルスルホキシド、ホルムアミド、グリセロール、ベタイン、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオールを使用し、各融解温度調整剤の添加量は、実施例1で示した核酸融解温度変化量から、5容量%ジメチルスルホキシドと同等の効果を持つ濃度を推定し、4容量%ホルムアミド、11容量%グリセロール、1.5Mベタイン、8容量%エチレングリコール、5容量%プロピレングリコール、6容量%1,3−プロパンジオールとした。対照として、核酸融解温度調整剤を添加しないものの反応を同時に行った。
PCRサイクルは、GeneAmp PCR system 9700(Applied Biosystems製)を用い、初期変性94℃2分、PCRは98℃10秒、68℃30秒のサイクルで30サイクル行った。反応終了液に対し、6x Loading Dye(東洋紡製)を10μl添加し、そのうち6μlを2%アガロースゲル(TAEバッファー)にアプライして、電気泳動を行った。
その結果を図3に示す。8容量%エチレングリコール、5容量%プロピレングリコール、6容量%1,3−プロパンジオールを添加したものは、既存の融解温度調整剤を添加したものと比べて、優れてGC含量が高い標的配列の増幅効率を改善する効果があると認められた。
実施例3 核酸増幅におけるグリコール類の濃度の評価
核酸増幅反応におけるグリコール類の有効濃度を検討するため、各種濃度でPCR反応を行い、その効果を検証した。グリコール類として1,3−プロパンジオールを用い、それぞれ0%、1%、2%、3%、5%、7.5%、10%、12.5%。15%、17.5%、20%、22.5%、25%(いずれも容量%)の濃度を反応溶液に添加した。その他の組成及び含有量は実施例2と同様に調整し、50μlの反応溶液を調製した。実施例2と同一の条件でPCRを行い、反応終了液を2%アガロースゲル(TAEバッファー)にアプライして、電気泳動を行った。
その結果を図4に示す。GC含量の高い核酸領域を増幅するのは通常大変難しく、グリコール類の添加なしの試料では増幅できなかったところ、1,3−プロパンジオールを1〜20容量%添加した範囲において核酸の増幅が認められるという驚くべき結果となった。さらに3〜15容量%の濃度範囲ではより増幅量が向上することが確認され、これらの範囲でより顕著な効果を得ることができた。3〜10容量%の範囲ではさらに好ましい効果を得ることができる。
実施例4 核酸融解温度調整剤の保存安定性及び抗DNAポリメラーゼ抗体への阻害作用の検討
核酸融解温度調整剤を混合したプレミックス試薬を作製し、グリコール類による保存安定性の効果及び抗DNAポリメラーゼ抗体への阻害作用の有無を検討した。PCRの反応効率と特異性の検討の指標として、β−Actin cDNAの約200bpの領域を標的としたリアルタイムPCRを行った。プレミックス試薬は、Taq DNA Polymerase(東洋紡製:TAP−201)を用い、10x反応バッファーを2x濃度、MgClを5mM、dNTPsを0.4mM、Taq DNA Polymeraseを0.1U/μl、抗Taq DNA Polymerase抗体(東洋紡製Anti−Taq High:TCP−101)を0.02mg/μl、SYBR Green Iを1/20000濃度、1,3−プロパンジオールを18容量%、それぞれ混合し、2xプレミックス試薬とした。その試薬をそれぞれ4℃、25℃で1か月間遮光条件にて保存し、保存期間終了後、用時調製の同組成の反応液と同時にリアルタイムPCRを行い、PCRの反応効率と特異性について比較検討を行った。リアルタイムPCRは20μlの反応液量で実施し、前述の2xプレミックス試薬を最終濃度1x、フォーワードプライマー(配列番号1)およびリバースプライマー(配列番号2)をそれぞれ最終濃度0.4μM、鋳型として、1μgのHeLa細胞由来のtotal RNAからReverTra Ace qPCR RT Kit (東洋紡製:FSQ−101)を用いて10μlの反応系で添付の取扱説明書に記載の方法に従って逆転写を行った液を0.1μlまたは0.001μl相当量添加したものを反応液とした。反応は、ロシュ・ダイアグノスティックス社製LightCylcer 1.1を用い、初期変性95℃30秒、PCRサイクル95℃5秒、60℃30秒で40サイクル行った。引き続いて、実施例1に記載の方法で融解曲線解析を行った。
その結果を図5および図6に示す。4℃または25℃で1か月間保存した後のプレミッ
クス試薬は、用時調製したものと反応性において有意な差は見られず、また非特異増幅反応も見られず、融解温度の変化も認められなかった。1,3−プロパンジオールはプレミックス試薬に対する安定性を低下させず、抗体の作用を阻害せず、それ自身もプレミックス試薬中において安定であることが示された。
実施例5 スメアが出やすいプライマーを用いたPCR増幅の評価
実際のPCRの結果においてスメアが出やすいプライマーを用いて、各種物質の添加の効果を検証した。標的配列としてはヒトのCytoplasmicTryrosine
KinaseのcDNA全長である約2kbpの領域を用いた。PCRにはKOD −Plus− Neo(東洋紡製:KOD−401)を用い、10x反応バッファーを5μl、25mM MgCl2を3μl、2mM dNTPsを5μl、フォーワードプライマー(配列番号5)およびリバースプライマー(配列番号6)をそれぞれ最終濃度0.3μM、鋳型RNA 1ng相当量、KOD −Plus− Neoを1U混合したものに、各種添加剤を添加したものを調製し、50μlの反応液量で反応を行った。
鋳型としては、HeLa細胞由来のtotal RNAを鋳型としてReverTra Ace −α−(東洋紡製)を用いて、取扱説明書記載の方法により、試薬に添付のランダムプライマーにより逆転写反応をおこなった反応液から鋳型RNA 1ngを用いた。
また各種添加剤は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ホルムアミド、1,2,3−プロパントリオール(グリセロール)、トリメチルグリシン(ベタイン)、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、1,2−エタンジオール(エチレングリコール)、1,3−プロパンジオールを用い、各添加剤の添加量は、ジメチルスルホキシド、ホルムアミド、1,2,3−プロパントリオール、1,2−エタンジオール、1,3−プロパンジオールにおいては、それぞれ、2.5容量%、5容量%、10容量%、15容量%、20容量%で行った。また、トリメチルグリシンにおいては、0.5mM、1mM、1.5mM、2mM,2.5mM、水酸化テトラメチルアンモニウムにおいては20mM、45mM、75mM、125mM、175mMの最終濃度で行った。対照として、添加剤のないものの反応を同時に行った。
PCRは、GeneAmp PCRsystem9700(Applied biosystems製)を用い、条件を、初期変性94℃2分、及び98℃10秒、60℃30秒、68℃60秒のサイクルで30サイクルのPCR反応を行った。反応終了液に対し、6x Loading Dye(東洋紡製)を10μl添加し、そのうち5μlを2%アガロースゲル(TAEバッファー)にアプライして、電気泳動を行った。
その結果を図7に示す。全ての添加剤で、スメアが解消される傾向が確認できたが、ジメチルスルホキシドやホルムアミド、水酸化テトラメチルアンモニウムでは、高濃度の添加で、PCR反応が阻害されているのがわかる。また、グリセロール、トリメチルグリシンでは阻害効果は見られないものの、スメアを除くためにはかなりの濃度を添加する必要がある。仮に今回のプライマーでスメアをなくすために必要な添加量は、グリセロールで15容量%、ベタインは2M(23%(溶質重量/溶液容量))となる。2倍濃度のプレミックス試薬を調整する場合では必要添加濃度はその倍となり、それぞれ30容量%、4M(46%(溶質重量/溶液容量))となる。グリセロール使用時は、高濃度の添加による粘度上昇で操作上に支障を来たし、ベタインは溶解度の問題からプレミックス試薬の調製が不可能である。一方、エチレングリコール、トリメチレングリコールを添加したものは、低濃度でスメアを減少させる効果が確認され、また、高濃度添加しても、阻害効果は確認できなかった。
実施例6 マルチプレックスPCRでの添加剤効果の検討
マルチプレックスPCRにて添加剤の効果を検討した。マルチプレックスPCRでは複数のプライマーを添加するため、プライマーダイマーが形成されやすい。ここでは、PO
Uドメインを解析するPOUPrimer SET(Seegene社製)を用いて反応
を行った。PCRの酵素はTaq DNA Polymerase(東洋紡製:TAP−201)を用い、Tris−HCl(pH8.8)を20mM、KClを100mM、MgClを2mM、dNTPsを0.2mM、Taq DNA Polymeraseを0.1U/μl、抗Taq DNA Polymerase抗体(東洋紡製Anti−Taq High:TCP−101)を0.02mg/μl、1,3−プロパンジオールをそれぞれ、3容量%、6容量%を添加し、最終液量50μlの反応液を用いてPCRを行った。対照として、添加剤のないものの反応を同時に行った。
PCRサイクルは、初期変性94℃2分、PCRは94℃30秒、63℃90秒、72℃90秒のサイクルで40サイクル行った。反応終了液に対し、6x Loading Dye(東洋紡製)を4μl添加し、そのうち5μlを2%アガロースゲル(TBEバッファー)にアプライして、電気泳動を行った。
その結果を図8左に示す。通常6本のバンドが確認させるのだが、添加剤なしでは6本中5本のバンドしか確認できなかった。1,3−プロパンジオールの添加で、6本全てのバンドが確認でき、また、プライマーダイマーが解消される傾向も確認できた。
また、同様の系で、1M トリメチルグリシン、5容量%ジメチルスルホキシドを反応液にいれ、PCR反応を行った。その結果を図8右に示す。トリメチルグリシン、ジメチルスルホキシドでは6本のバンドが観察しにくい。
以上の結果を勘案して、1,3−プロパンジオールが最も良い結果が得られた。また、プライマーダイマーにおいても、1,3−プロパンジオールが最も少ない結果となった。
本発明により、分子生物学の分野において有用な組成物、殊に鋳型核酸からDNAの生成及び更なるDNA増幅を行う際に有用な組成物を提供する。本発明により、核酸増幅において反応阻害がなく、操作性の低下が顕著でなく、低コストで反応を実施でき、特に、核酸増幅反応用のプレミックス試薬への混合という用途において、より利便性の高い試薬形態を供給可能である。
本発明は、遺伝子発現解析に際して特に有用であり、研究のみならず臨床診断や環境検査等にも利用できる。

Claims (5)

  1. 1,2−プロパンジオールおよび1,3−プロパンジオールからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物の存在下で行うことを特徴とする、PCR法を用いた核酸増幅における非特異反応の抑制方法。
  2. 核酸増幅反応溶液中の1,2−プロパンジオールおよび1,3−プロパンジオールからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物の濃度が1〜20容量%である、請求項1に記載の非特異反応の抑制方法。
  3. 核酸増幅反応溶液中の1,2−プロパンジオールおよび1,3−プロパンジオールからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物の濃度が3〜15容量%である、請求項1又は2に記載の非特異反応の抑制方法。
  4. 核酸増幅反応溶液中に抗DNAポリメラーゼ抗体を含む、請求項1から3のいずれかに記載の非特異反応の抑制方法。
  5. PCR法がマルチプレックスPCRである、請求項1から4のいずれかに記載の非特異反応の抑制方法。
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