以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本実施形態に係るN−置換カルバミン酸エステルの製造方法は、有機第1アミンと、尿素と、ヒドロキシ化合物と、からN−置換カルバミン酸エステルを製造するものであって、ヒドロキシ化合物を含む反応混合物を反応させてN−置換カルバミン酸エステルを得る工程を備える。
ヒドロキシ化合物を含む反応混合物は、有機第1アミンと、尿素と、ヒドロキシ化合物と、を含む反応混合物であってもよく、有機第1アミン及び尿素を反応させて得られるウレイド基を有する化合物と、ヒドロキシ化合物と、を含む反応混合物であってもよい。上記反応混合物は、反応溶媒を更に含んでいてもよい。本実施形態に係るN−置換カルバミン酸エステルの製造方法では、上記反応混合物中の水の濃度を5×10−6質量%〜1質量%とする。
まず、本実施形態で使用する化合物について説明する。
〔有機第1アミン〕
有機第1アミンとしては、下記式(1)で表される有機第1アミンが好ましい。
[式(1)中;
R
1は、炭素数1〜22の脂肪族基、及び炭素数6〜22の芳香族基からなる群から選ばれる基を示す。該基は、酸素原子又は窒素原子を含んでいてもよい。
nは、1〜10の整数を示す。]
上記式(1)で表される有機第1アミンとしては、nが2以上の整数である有機第1ポリアミンが好ましく、nが2である有機第1ジアミンがより好ましい。
上記式(1)で表される有機第1アミンの例としては、ヘキサメチレンジアミン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)(各異性体)、シクロヘキサンジアミン(各異性体)、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン(各異性体)等の脂肪族ジアミン;フェニレンジアミン(各異性体)、トルエンジアミン(各異性体)、4,4’−メチレンジアニリン等の芳香族ジアミンを挙げることができる。中でもヘキサメチレンジアミン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)(各異性体)、シクロヘキサンジアミン(各異性体)、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン(各異性体)等の脂肪族ジアミンが好ましく、ヘキサメチレンジアミン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミンがより好ましい。
〔ヒドロキシ化合物〕
ヒドロキシ化合物としては、アルコール及び芳香族ヒドロキシ化合物が挙げられる。アルコールとしては、下記式(2)で表される化合物が挙げられる。
[式(2)中;
R
2は、c個のヒドロキシ基(−OH基)で置換された炭素数1〜50の脂肪族基、又はc個のヒドロキシ基及び芳香族基で置換された炭素数7〜50の脂肪族基を示す。ただし、式(2)中、−OHで示されるヒドロキシ基は、芳香族基に結合していない。
cは、1〜3の整数を示す。
また、R
2は、ヒドロキシ基以外に活性水素を有しない。]
上記説明において、「活性水素」という語を使用したが、上記式(2)における「活性水素」とは、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、ケイ素原子等と結合している水素原子、及び末端メチン基の水素原子を指す。「活性水素」とは、例えば、−OH基、−C(=O)OH基、−C(=O)H基、−SH基、−SO3H基、−SO2H基、−SOH基、−NH2基、−NH−基、−SiH基、−C≡CH基などの原子団に含まれている水素である。
R2としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、メチルシクロペンチル基、エチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基、プロピルシクロヘキシル基、ブチルシクロヘキシル基、ペンチルシクロヘキシル基、ヘキシルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、ジブチルシクロヘキシル基等を挙げることができる。
このようなR2を有するアルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ドデカノール、オクタデカノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロヘプタノール、シクロオクタノール、メチルシクロペンタノール、エチルシクロペンタノール、メチルシクロヘキサノール、エチルシクロヘキサノール、プロピルシクロヘキサノール、ブチルシクロヘキサノール、ペンチルシクロヘキサノール、ヘキシルシクロヘキサノール、ジメチルシクロヘキサノール、ジエチルシクロヘキサノール、ジブチルシクロヘキサノール等を挙げることができる。
また、R2としては、フェニルメチル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基、フェニルヘプチル基、フェニルオクチル基、フェニルノニル基等を挙げることもできる。
このようなR2を有するアルコールの具体例としては、フェニルメタノール、フェニルエタノール、フェニルプロパノール、フェニルブタノール、フェニルペンタノール、フェニルヘキサノール、フェニルヘプタノール、フェニルオクタノール、フェニルノナノール等を挙げることができる。
上述のアルコールのうち、工業的な使用を考えれば、アルコール性ヒドロキシ基(ヒドロキシ化合物を構成する、芳香族環以外の炭素原子に直接付加するヒドロキシ基)を1又は2個有するアルコールが、一般に低粘度であるため好ましく、更に好ましくはアルコール性ヒドロキシ基が1個である、モノアルコールである。
これらの中でも、入手のし易さ、原料や生成物の溶解性等の観点から、炭素数1〜20のアルキルアルコールが好ましい。
芳香族ヒドロキシ化合物としては、下記式(3)で表される化合物が挙げられる。
[式(3)中;
環Aは、芳香族性を保つ任意の位置にd個のヒドロキシ基で置換された芳香族基を含有する、6〜50の炭素原子を含む有機基を示し、単環でも複数環でも複素環であっても、他の置換基によって置換されていてもよく、
dは1〜6の整数を示す。]
好ましくは環Aが、ベンゼン環、ナフタレン環及びアントラセン環からなる群から選ばれる少なくとも1つの構造を含有する構造であり、より好ましくは環Aが、ベンゼン環を少なくとも1つ含有する構造である。
環Aの芳香族基に結合するヒドロキシ基は環Aの芳香族基の炭素原子に結合したヒドロキシ基であって、該ヒドロキシ基の数は1〜6の整数で、好ましくは1〜3、より好ましくは1〜2、さらに好ましいのは1個(すなわち、d=1)である。より好ましくは芳香族性ヒドロキシ基が1個である、芳香族モノヒドロキシ化合物である。芳香族ヒドロキシ化合物を構成する芳香族炭化水素環に直接結合するヒドロキシ基を2つ以上有する芳香族ヒドロキシ化合物であっても、芳香族ヒドロキシ化合物として使用することが可能であるが、芳香族モノヒドロキシ化合物は一般的に低粘度であるためヒドロキシル基は1つであることが好ましい。
具体的には、フェノール、メチルフェノール(各異性体)、エチルフェノール(各異性体)、プロピルフェノール(各異性体)、ブチルフェノール(各異性体)、ペンチルフェノール(各異性体)、ヘキシルフェノール(各異性体)、オクチルフェノール(各異性体)、ノニルフェノール(各異性体)、クミルフェノール(各異性体)、ジメチルフェノール(各異性体)、メチルエチルフェノール(各異性体)、メチルプロピルフェノール(各異性体)、メチルブチルフェノール(各異性体)、メチルペンチルフェノール(各異性体)、ジエチルフェノール(各異性体)、エチルプロピルフェノール(各異性体)、エチルブチルフェノール(各異性体)、ジプロピルフェノール(各異性体)、ジクミルフェノール(各異性体)、トリメチルフェノール(各異性体)、トリエチルフェノール(各異性体)、ナフトール(各異性体)等が挙げられる。
〔N−置換カルバミン酸エステルの製造方法〕
次に、有機第1アミンと尿素とヒドロキシ化合物とからN−置換カルバミン酸エステルを製造する製造方法について説明する。
本実施形態において、N−置換カルバミン酸エステルの製造は、下記(1)又は(2)の製造方法により行うことができる。また、下記(1)及び(2)の製造方法を組み合わせて行ってもよい。
(1)有機第1アミンと、尿素と、ヒドロキシ化合物と、を含む反応混合物を反応させてN−置換カルバミン酸エステルを得る工程(A)を備える製造方法。
(2)有機第1アミンと尿素を反応させてウレイド基を有する化合物を得る工程(a)と、該ウレイド基を有する化合物と、ヒドロキシ化合物と、を含む反応混合物を反応させてN−置換カルバミン酸エステルを得る工程(b)と、を備える製造方法。
(1)の製造方法は、有機第1アミンと尿素とヒドロキシ化合物とを“同時に”反応させてN−置換カルバミン酸エステルを製造する方法である。(2)の製造方法は、N−置換カルバミン酸エステルを製造する工程を2つに分割した方法である。なお、(1)の製造方法における“同時に”は、(2)の製造方法ではN−置換カルバミン酸エステルを製造する工程が2つの工程に分割されているのに対して、(1)の製造方法では工程が分割されていないという意味であって、必ずしも、有機第1アミンと尿素とヒドロキシ化合物とが全く同時に反応するという意味ではない。
[製造方法(1)]
まず、(1)の製造方法(工程(A))について説明する。
<工程(A)>
有機第1アミンと尿素とヒドロキシ化合物とを含む反応混合物中のヒドロキシ化合物の量は、反応させる化合物によっても異なるが、通常、反応混合物中の有機第1アミンのアミノ基に対して化学量論比で1倍〜500倍の範囲である。ヒドロキシ化合物の使用量が少ないと複雑に置換したカルボニル化合物等が生成しやすくなるため、大過剰のヒドロキシ化合物を使用することが好ましいが、反応器の大きさを考慮すれば、好ましくは1倍〜200倍の範囲、より好ましくは1.5倍〜100倍の範囲、さらに好ましくは、2倍〜50倍の範囲である。
反応混合物中の尿素の量は、通常、反応混合物中の有機第1アミンのアミノ基に対して化学量論比で1倍〜100倍の範囲である。尿素の使用量が少ない場合も複雑に置換したカルボニル化合物等が生成しやすくなるため、過剰量の尿素を使用することが好ましいが、あまりに過剰の尿素を使用すると、複雑に置換したカルボニル化合物が生成しやすくなったり、未反応の尿素が残存し、尿素の分離回収に大きな労力を要する場合がある。そのため、好ましくは1.1倍〜10倍の範囲、より好ましくは1.5倍〜5倍の範囲である。
反応温度は、使用する有機第1アミンと尿素とヒドロキシ化合物の反応性にもよるが、100℃〜350℃の範囲が好ましい。100℃より低い温度では、ヒドロキシ化合物と、副生するアンモニアが強く結合することにより、反応が遅かったり、反応がほとんど起こらなかったり、又は、複雑に置換したカルボニル化合物が増加したりする傾向にある。一方、350℃よりも高い温度では、尿素が分解したり、ヒドロキシ化合物が脱水素変性したり、又は、生成物であるN−置換カルバミン酸エステルの分解反応若しくは変性反応等が生じやすくなる傾向にある。このような観点から、より好ましい反応温度は120℃〜320℃の範囲、さらに好ましい反応温度は140℃〜300℃の範囲である。
反応圧力は、反応系の組成、反応温度、アンモニアの除去方法、反応装置等によって異なり、減圧、常圧又は加圧のいずれであってもよく、通常、0.01kPa〜10MPa(絶対圧)の範囲である。工業的実施の容易性を考慮すると、減圧又は常圧が好ましく、0.1kPa〜1.5MPa(絶対圧)の範囲が好ましい。
工程(A)において、N−置換カルバミン酸エステルが生成する反応は、主として液相で行われる場合が多い。したがって、ヒドロキシ化合物は、反応条件下で液相成分として存在していることが好ましい。一方で、ヒドロキシ化合物と、尿素に由来するカルボニル基を有する化合物は、気相成分として凝縮器に導入され、凝縮器で凝縮されることから、ヒドロキシ化合物は反応条件下で気相成分としても存在することが好ましい。したがって、工程(A)における反応条件は、ヒドロキシ化合物の一部が液相成分として存在し、かつ一部が気相成分として存在するように設定される。複数のヒドロキシ化合物を使用する場合は、少なくとも1種のヒドロキシ化合物が液相成分として存在するように反応条件を設定する。このような反応条件(反応温度、反応圧力)は、使用するヒドロキシ化合物の性質、特に、温度と蒸気圧との相関に密接に関係していることから、使用するヒドロキシ化合物の性質(温度と蒸気圧との相関)を測定又は調査しておき、反応条件を決定するための指標とする。なお、温度と物質の蒸気圧との相関は、該物質の純度、共存する化合物及びその量によっても大きくことなることは当業者にとっては常識であり、反応条件を設定する際も、上記したヒドロキシ化合物の性質(温度と蒸気圧との相関)のみならず、共存する化合物やその量をも勘案すべきことは明白である。
本発明者らが鋭意検討した結果、有機第1アミンと尿素とヒドロキシ化合物とからN−置換カルバミン酸エステルが生成する反応は、平衡反応であり、反応が大きく原系に偏っている。したがって、N−置換カルバミン酸エステルの収率を高めるためには、可能な限り、副生するアンモニアを系外に除去しながら反応を行うことが好ましい。好ましくは反応液中のアンモニア濃度が1000質量ppm以下、より好ましくは300質量ppm以下、さらに好ましくは100質量ppm以下、最も好ましくは10質量ppm以下となるようにアンモニアを除去する。アンモニアを除去する方法としては、反応蒸留法、不活性ガスによる方法、膜分離又は吸着分離による方法等が挙げられる。反応蒸留法は、反応下で逐次生成するアンモニアを蒸留によって気体状で分離する方法である。アンモニアの蒸留効率を上げるために、溶媒又はヒドロキシ化合物の沸騰下で行うこともできる。不活性ガスによる方法は、反応下で逐次生成するアンモニアを、気体状で不活性ガスに同伴させることによって反応系から分離する方法である。不活性ガスとして、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン、炭酸ガス、メタン、エタン及びプロパン等を、単独で、又は混合して使用し、該不活性ガスを反応系中に導入する方法が好ましい。吸着分離する方法において使用される吸着剤としては、例えば、シリカ、アルミナ、各種ゼオライト類及び珪藻土類等の、工程(A)における反応が実施される温度条件下で使用可能な吸着剤が挙げられる。これらのアンモニアを系外に除去する方法は、単独で実施しても、複数の方法を組み合わせて実施してもよい。
工程(A)における反応では、例えば、反応速度を高める目的で、触媒を使用することができる。触媒としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、バリウムのメチラート、エチラート及びブチラート(各異性体)等の塩基性触媒;希土類元素、アンチモン、ビスマスの単体並びにこれらの元素の酸化物、硫化物及び塩類;ホウ素単体及びホウ素化合物;周期律表の銅族、亜鉛族、アルミニウム族、炭素族及びチタン族の金属並びにこれらの金属酸化物及び硫化物;周期律表の炭素を除く炭素族、チタン族、バナジウム族及びクロム族元素の炭化物並びに窒化物が好ましく用いられる。
触媒を使用する場合、その使用量は特に制限されないが、有機第1アミンのアミノ基に対して化学量論比で0.0001〜100倍の範囲とすることができる。触媒を使用すると、該触媒を除去する必要が生じる場合が多いため、触媒は使用しないことが好ましい。一方、触媒を使用した場合、反応後に触媒は除去してもよい。生成する化合物に悪影響を及ぼす場合もあるため、N−置換カルバミン酸エステルを熱分解してイソシアネートを得る過程と、該イソシアネートを精製する過程の間に触媒を分離又は除去することが好ましい。イソシアネートと上記触媒が共存した状態で保存されると、変色等の好ましくない現象が起こる場合もある。触媒を除去する方法は、公知の方法を用いることができ、膜分離、蒸留分離、晶析等の方法を好ましく使用できる。触媒については、工程(A)による場合に限らず、上記理由で除去することが好ましい。より好ましくは、触媒を使用した工程の終了毎に除去する。触媒を除去する方法は上記したような公知の方法が好ましく使用できる。
反応時間(連続反応の場合は滞留時間)は、反応系の組成、反応温度、アンモニアの除去方法、反応装置、反応圧力等によって異なるが、通常、0.01時間〜100時間である。反応時間は、目的化合物であるN−置換カルバミン酸エステルの生成量によって決定することもできる。例えば、反応液をサンプリングして、該反応液中のN−置換カルバミン酸エステルの含有量を定量し、使用した有機第1アミンに対して10%以上の収率で生成していることを確認したのち反応を停止してもよいし、該収率が90%以上であることを確認したのち反応を停止してもよい。工程(A)における反応によって得られる該N−置換カルバミン酸エステルを含む反応液は、イソシアネートの製造に好適に使用することができるが、その際に、N−置換カルバミン酸エステルの含有量が低い(収率が低い)と、イソシアネートの収量低下をもたらす。したがって、上記収率は、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上とする。
工程(A)における反応では、必ずしも反応溶媒を使用する必要はないが、反応操作を容易にする等の目的で適当な反応溶媒を使用してもよい。反応溶媒としては、例えば、ペンタン(各異性体)、ヘキサン(各異性体)、ヘプタン(各異性体)、オクタン(各異性体)、ノナン(各異性体)、デカン(各異性体)などのアルカン類;ベンゼン、トルエン、キシレン(各異性体)、エチルベンゼン、ジイソプロピルベンゼン(各異性体)、ジブチルベンゼン(各異性体)、ナフタレン等の芳香族炭化水素及びアルキル置換芳香族炭化水素類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等の二トリル化合物;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン(各異性体)、ブロモベンゼン、ジブロモベンゼン(各異性体)、クロロナフタレン、ブロモナフタレン、ニトロベンゼン、ニトロナフタレン等のハロゲン又はニトロ基によって置換された芳香族化合物類;ジフェニル、置換ジフェニル、ジフェニルメタン、ターフェニル、アントラセン、ジベンジルトルエン(各異性体)等の多環炭化水素化合物類;シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロオクタン、エチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;メチルエチルケトン、アセトフェノン等のケトン類;ジブチルフタレート、ジヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ベンジルブチルフタレート等のエステル類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、ジフェニルエーテル、ジフェニルスルフィド等のエーテル類及びチオエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物;酢酸エチル、安息香酸エチル等のエステル化合物;ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホキシド等のスルホキシド類等が挙げられる。いうまでもなく、当該反応において過剰量使用するヒドロキシ化合物も、反応溶媒として好適に使用される。
工程(A)における反応は、ヒドロキシ化合物、尿素に由来するカルボニル基を有する化合物、及び反応で副生するアンモニアを含有する気体相と、該反応を行う液相を有する系で実施することができる。反応条件によっては気相においても該反応がおこる場合もあるが、該反応の多くの部分は液相で行われる。その際に、該反応が行われる反応器中の液相容量含量は50%以下であることが好ましい。長期間に亘って連続的に反応を実施した場合、運転条件(温度、圧力等)の変動等により、ポリマー状の副生物を生じる場合があるが、反応器中の液相容量含量が多いと、このようなポリマー状の副生物の、反応器への付着又は蓄積を回避することができる。しかしながら、余りに液相容量含量が多いと、副生するアンモニアの除去効率が悪化してN−置換カルバミン酸エステルの収率を低下させる場合があることから、気相に対する液相容量含量は、好ましくは50%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下である。液相容量含量とは、槽型反応器の場合は反応槽部に対する液相容量比、塔型反応器の場合はフィード段より下の段(塔底部及びリボイラー部分を含まない)に対する液相容量比、薄膜蒸留器の場合は薄膜蒸留器容量に対する液相容量比を表す。
工程(A)における反応を実施する際に使用する反応器は、凝縮器を具備した反応器であれば、特に制限がなく、公知の反応器が使用できるが、凝縮器を具備した槽型及び塔型の反応器が好ましく使用される。上記したように、当該反応は、ヒドロキシ化合物、尿素に由来するカルボニル基を有する化合物、及び反応で副生するアンモニアとを含有する気体相と、該反応の多くが行われる液相を有する系で、反応器中の液相容量含量は50%以下の条件で実施することが好ましいため、当該反応を行う反応器も、これらの条件に合致するものを選択するのが好ましい。具体的には、攪拌槽、加圧式攪拌槽、減圧式攪拌槽、塔型反応器、蒸留塔、充填塔、薄膜蒸留器等の従来公知の反応器を適宜組み合わせて使用できる。
反応器に具備される凝縮器の種類は特に制限がなく、公知の凝縮器が使用できる。例えば、多管円筒型凝縮器、二重管式凝縮器、単管式凝縮器、空冷式凝縮器等の従来公知の凝縮器を適宜組み合わせて使用することができる。凝縮器は、反応器の内部に具備されていても、反応器の外部に具備されていて、反応器と配管で接続されていてもよく、反応器や凝縮器の形式、凝縮液の取り扱い方法等を勘案して、様々な形態を採用される。
反応器及び凝縮器の材質にも特に制限はなく、公知の材質が使用できる。例えば、ガラス製、ステンレス製、炭素鋼製、ハステロイ製や、基材にグラスライニングを施したものや、テフロン(登録商標)コーティングを行ったものも使用できる。SUS304、SUS316、SUS316Lなどが安価でもあり、好ましく使用できる。必要に応じて、流量計、温度計などの計装機器、リボイラー、ポンプ、コンデンサーなどの公知のプロセス装置を付加してよく、加熱はスチーム、ヒーターなどの公知の方法でよく、冷却も自然冷却、冷却水、ブライン等公知の方法が使用できる。
工程(A)は、好ましくは、有機第1アミンと、尿素と、ヒドロキシ化合物と、上記反応溶媒を使用する場合は反応溶媒とを含む反応混合物中の水の濃度を0.05質量ppm〜1質量%とし、当該濃度の水の存在下で行う。なお、「質量ppm」は「10−4質量%」である。
本発明者らは、驚くべきことに、少量の水の存在下でN−置換カルバミン酸エステルの生成反応が速く進行することを見出した。このような効果を奏する機構は明らかではないが、本発明者らは、共存する水と尿素とが、工程(A)の反応条件下において一部反応してシアン酸(異性体を含む)を生成し、該シアン酸がN−置換カルバミン酸エステルの生成反応を速める効果を奏するのではないかと推測している。したがって、N−置換カルバミン酸エステル生成反応を速めるためには、共存する水の量は多い方がよい。しかしながら、一方で、シアン酸は酸性化合物であり、本発明者らが鋭意検討したところ、特に水と共存することで反応器の腐食をもたらす場合が多いことが判明した。したがって、共存する水の量はある特定の範囲内とするべきである。以上の観点から、上記したように、共存する水の濃度は0.05質量ppm〜1質量%であり、より好ましくは、0.1質量ppm〜0.5質量%であり、さらに好ましくは0.5質量ppm〜0.3質量%である。
また、工程(A)で添加する有機第1アミン原料、尿素原料及びヒドロキシ化合物原料の水含有量、並びに上記反応溶媒を使用する場合は反応溶媒の水含有量を、それぞれ、0.05質量ppm〜1質量%、より好ましくは0.1質量ppm〜0.5質量%、さらに好ましくは0.5質量ppm〜0.3質量%とすることが好ましい。有機第1アミン原料、尿素原料及びヒドロキシ化合物原料は、実質的にそれぞれ有機第1アミン、尿素及びヒドロキシ化合物からなり、上記範囲の少量の水を含有するものである。また、微量の不純物を含んでいてもよい。
本質的には、上記したように、反応混合物を反応させてN−置換カルバミン酸エステルの製造を行う際に、反応混合物中の水の濃度が上記で定義した範囲であればよいのであるが、例えば、有機第1アミン原料、尿素原料及びヒドロキシ化合物原料(必要に応じて反応溶媒)を混合して原料混合物とした後に上記で定義した水の濃度に調整しようとすると、減圧加熱下での水の留去等の処理、又は脱水剤を共存させる等の処理を行う必要があり、このような処理によって、有機第1アミン、尿素又はヒドロキシ化合物の変性反応を生起する場合があるため、それぞれの原料の水含有量を上記範囲としておくことが好ましい。それぞれの原料の水含有量を上記範囲とするための方法は特に制限されず、公知の様々な方法が用いられるが、蒸留分離、真空乾燥、脱水剤を共存させる等の方法を採用できる。
(1)の製造方法には、必要に応じて工程を付加しても構わない。例えば、全量に対して5×10−6〜1質量%の水と、ヒドロキシ化合物と、を含有するヒドロキシ化合物の原料を用意する工程、全量に対して5×10−6〜1質量%の水と、有機第1アミンと、を含有する有機第1アミンの原料を用意する工程、全量に対して5×10−6〜1質量%の水と、尿素と、を含有する尿素の原料を用意する工程、生成するアンモニアを除去する工程、有機第1アミンを精製する工程、尿素を芳香族ヒドロキシ化合物へ溶解する工程、芳香族ヒドロキシ化合物を溶解する工程、アルコールを分離する工程、芳香族ヒドロキシ化合物を分離及び/又は精製する工程、生成した反応液からウレイド基を有する化合物を精製する工程、副生成物等を焼却する工程、副生成物等を廃棄する工程など、当業者及び本技術分野のエンジニアが想定できる範囲の工程や装置を付加して構わない。
[製造方法(2)]
次に、(2)の製造方法(工程(a)及び工程(b))について説明する。
<工程(a)>
工程(a)では、有機第1アミンと尿素を反応させて、ウレイド基を有する化合物を含有する反応生成物を得る。
有機第1アミンと尿素との反応を行う際の尿素の量は、反応させる化合物によっても異なるが、通常、有機第1アミンのアミノ基のモル数に対する尿素のモル数が、1倍〜100倍の範囲になる量である。尿素の使用量が少ない場合、ウレイレン基を有する化合物等、複雑に置換したカルボニル化合物等が生成しやすくなる傾向にある。したがって、過剰量の尿素を使用することが好ましい。
本発明者らが検討したところ、工程(a)の反応条件によっては、ウレイド基を有する化合物を製造する過程で、ビウレット結合を有する化合物及びビウレット末端を有する化合物が副成することが判明した。ウレイド基を有する化合物を高選択率で生成させるためには、このような副成物の生成を抑制することが必要である。本発明者らが鋭意検討した結果、驚くべきことに、反応系中の尿素量とこのような副成物の生成量に密接な関係があり、尿素量が多いほど、このような副成物の生成量が低減されることを見出した。したがって、過剰量の尿素を使用することは、ウレイド基を有する化合物を高選択率で生成させるために好ましい。また、工程(a)の反応系中に過剰量存在する尿素が、生成するウレイド基を有する化合物を安定化させる効果を有すると推定している。
一方、あまりに過剰な尿素を使用すれば、反応器の大きさが大きくなって工業的な実施が困難となったり、尿素の分離又は回収に支障をきたす場合がある。したがって、尿素の量は、有機第1アミンのアミノ基のモル数に対する尿素のモルが、1.1倍〜10倍の範囲になる量であることがより好ましく、1.5倍〜5倍の範囲になる量であることが更に好ましい。
また、上記したような尿素の役割を勘案して、反応を行う際の操作にも注意を払う必要がある。すなわち、反応系中の尿素のモル数が、有機第1アミンのアミノ基のモル数に対して常に過剰な状態(可能であれば大過剰となる状態)を維持するように、例えば、使用する尿素の全量を反応溶媒に予め溶解して混合液とし、該混合液に有機第1アミンを添加する方法が好ましく実施される。
次に反応系中のアンモニア濃度について説明する。なお、ここで説明するアンモニア濃度の好適な範囲は、ウレイド基を有する化合物がある程度(例えば、有機第1アミンに対する収率で5%以上)生成した後の、反応液中のアンモニア濃度を対象としており、反応初期については対象としていない。N−置換カルバミン酸エステルを生成する反応は平衡反応であり、該平衡は大きく原系に偏っている。ところが、本発明者らが検討した結果、ウレイド基を有する化合物を生成する反応は、平衡が大きく生成側に偏っている反応、又は付加逆反応であり、反応系中のアンモニア濃度にほとんど依存しないことが判明した。このような知見はこれまでになく、驚くべきことである。したがって、工程(a)の反応液中のアンモニア濃度をある程度の水準以上に保持することによって、生成するウレイド基を有する化合物と芳香族ヒドロキシ化合物との反応によるN−置換カルバミン酸エステルの生成を抑制し、ウレイド基を有する化合物を選択的に生成させることができることを発見し、更にアンモニアをある程度以上に保持することによって、副反応を抑制し、選択率よくウレイド基を有する化合物を得ることができることを見出した。これまでに開示されたウレイド基を有する化合物の製造方法では、上記した反応によるウレイド基を有する化合物を得る際に副生成物が生じやすい課題があった。この課題を解決するために、上記した尿素及び/又はN−無置換カルバミン酸エステルの使用量、及び/又は、アンモニア濃度を制御する。このような効果を奏する好ましいアンモニア濃度は10質量ppmより高く、より好ましくは100質量ppmより高く、さらに好ましくは300質量ppmより高く、最も好ましくは1000質量ppmより高い濃度である。
工程(a)の反応温度は、30℃〜250℃の範囲とすることができる。反応速度を高めるためには高温が好ましいが、一方で、高温では好ましくない反応(例えば、尿素の分解反応等)が生起して、複雑に置換した尿素化合物又はカルボニル化合物を生成する場合があるので、より好ましくは50℃〜200℃、さらに好ましくは70℃〜180℃の範囲である。反応温度を一定にするために、工程(a)を行う反応器に公知の冷却装置、加熱装置を設置してもよい。
反応圧力は、使用する化合物の種類、反応系の組成、反応温度、反応装置等によって異なるが、通常、0.01kPa〜10MPa(絶対圧)の範囲であることが好ましく、工業的実施の容易性を考慮すると、0.1kPa〜5MPa(絶対圧)の範囲であることがより好ましい。
反応時間(連続法の場合は滞留時間)に、特に制限はなく、通常0.001時間〜100時間、好ましくは0.01時間〜80時間、より好ましくは0.1時間〜50時間である。また、反応液を採取し、例えば、液体クロマトグラフィーによってウレイド基を有する化合物が所望量生成していることを確認して反応を終了することもできる。工程(a)で得られるウレイド基を有する化合物を含有する反応生成物中に、未反応の有機第1アミンに由来するアミノ基が多く存在していると、工程(a)の後に行う工程(b)において、ウレイレン基を有する化合物等を生成し、N−置換カルバミン酸エステルの生成量が低下するだけでなく、反応器への付着又は固化が生じやすい傾向にある。したがって、工程(a)では、可能な限り高い収率でウレイド基を有する化合物を生成しておき、有機第1アミンに由来するアミノ基の量を低減しておくことが好ましい。具体的には、ウレイド基を有する化合物を構成するウレイド基のモル数に対する、有機第1アミンに由来するアミノ基のモル数の比が、好ましくは0.25以下、より好ましくは0.1以下、さらに好ましくは0.05以下となるまで反応を継続する。
工程(a)では、必要に応じて触媒を使用することができる。触媒としては、例えば、スズ、鉛、銅、チタン等の有機金属化合物又は無機金属化合物、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のアルコラート、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、バリウムのメチラート、エチラート及びブチラート(各異性体)等の塩基性触媒等を使用することができる。
工程(a)の反応は、反応液の粘度を低下させる、及び/又は、反応液を均一な系とする観点から、好ましくは溶媒の存在下において実施される。溶媒としては、例えば、ペンタン(各異性体)、ヘキサン(各異性体)、ヘプタン(各異性体)、オクタン(各異性体)、ノナン(各異性体)、デカン(各異性体)などのアルカン類;ベンゼン、トルエン、キシレン(各異性体)、エチルベンゼン、ジイソプロピルベンゼン(各異性体)、ジブチルベンゼン(各異性体)、ナフタレン等の芳香族炭化水素及びアルキル置換芳香族炭化水素類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等の二トリル化合物;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン(各異性体)、ブロモベンゼン、ジブロモベンゼン(各異性体)、クロロナフタレン、ブロモナフタレン、ニトロベンゼン、ニトロナフタレン等のハロゲン又はニトロ基によって置換された芳香族化合物類;ジフェニル、置換ジフェニル、ジフェニルメタン、ターフェニル、アントラセン、ジベンジルトルエン(各異性体)等の多環炭化水素化合物類;シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロオクタン、エチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;メチルエチルケトン、アセトフェノン等のケトン類;ジブチルフタレート、ジヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ベンジルブチルフタレート等のエステル類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、ジフェニルエーテル、ジフェニルスルフィド等のエーテル類及びチオエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物;酢酸エチル、安息香酸エチル等のエステル化合物;ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホキシド等のスルホキシド類、アルコールや芳香族ヒドロキシ化合物等のヒドロキシ化合物等が挙げられる。これらの中でも、生成物であるウレイド基を有する化合物の溶解性の観点から、ヒドロキシ化合物(アルコール、芳香族ヒドロキシ化合物)が好ましい。これらの溶媒は、単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。
工程(a)で溶媒として好ましく使用されるヒドロキシ化合物(以下、「ヒドロキシ化合物a」と称する)は、工程(b)で使用するヒドロキシ化合物と全く同じであっても、一部が同じであっても、相異なっていてもよいが、操作が容易となるため、ヒドロキシ化合物aは、工程(b)で使用するヒドロキシ化合物と同じであることが好ましい。
溶媒は、任意の量を使用することができるが、溶媒としてアルコールを使用する場合は、有機第1アミンのアミノ基のモル数に対して、化学量論比で1倍より多く100倍より少ない範囲の量で使用することができる。反応液の流動性を向上させ反応を効率よく進行させるためには、有機第1アミンのアミノ基のモル数に対して過剰のモル数のアルコールを使用することが好ましいが、余りに多くのアルコールを使用すると反応器が大きくなる等の弊害もあることから、より好ましくは、有機第1アミンのアミノ基のモル数に対して、より好ましくは化学量論比で5倍より多く50倍より少ない範囲、更に好ましくは8倍より多く20倍より少ない範囲で使用する。
工程(a)の溶媒として芳香族ヒドロキシ化合物を使用する場合は、有機第1アミンのアミノ基のモル数に対して、化学量論比で1倍より多く100倍より少ない範囲の量で使用することができる。反応液の流動性を向上させ反応を効率よく進行させるためには、有機第1アミンのアミノ基のモル数に対して過剰のモル数のアルコールを使用することが好ましいが、余りに多くのアルコールを使用すると反応器が大きくなる等の弊害もあることから、より好ましくは、有機第1アミンのアミノ基のモル数に対して、より好ましくは化学量論比で2倍より多く50倍より少ない範囲、更に好ましくは3倍より多く20倍より少ない範囲で使用する。
上記式(2)で表されるアルコール及び上記式(3)で表される芳香族ヒドロキシ化合物を含むヒドロキシ化合物の中でも、生成するウレイド基を有する化合物の溶解性を考慮すると、芳香族ヒドロキシ化合物が好ましく使用される。
溶媒として芳香族ヒドロキシ化合物を使用する場合は、芳香族ヒドロキシ化合物を単独で用いてもよいし、他の溶媒と混合して使用してもよいが、芳香族ヒドロキシ化合物の使用量は上記した値の範囲とする。工程(a)をアルコールの存在下で行った後で芳香族ヒドロキシ化合物を加える場合にも、上記の範囲で芳香族ヒドロキシ化合物を使用する。その際、工程(a)の反応時に使用するアルコール量も、有機第1アミンに対して上記した芳香族ヒドロキシ化合物で示した化学量論比となる量のアルコールを使用する。
工程(a)における反応を実施する際に使用する反応装置は、特に制限がなく、公知の反応器が使用できる。例えば、攪拌槽、加圧式攪拌槽、減圧式攪拌槽、塔型反応器、蒸留塔、充填塔、薄膜蒸留器など、従来公知の反応器を適宜組み合わせて使用できる。反応器の材質にも特に制限はなく、公知の材質が使用できる。例えば、ガラス製、ステンレス製、炭素鋼製、ハステロイ製や、基材にグラスライニングを施したものや、テフロン(登録商標)コーティングを行ったものも使用できる。SUS304やSUS316、SUS316Lなどが安価でもあり、好ましく使用できる。必要に応じて、流量計、温度計などの計装機器、リボイラー、ポンプ、コンデンサーなどの公知のプロセス装置を付加してよく、加熱はスチーム、ヒーターなどの公知の方法でよく、冷却も自然冷却、冷却水、ブライン等公知の方法が使用できる。
以上の反応によって得られるウレイド基を有する化合物の具体例としては、下記式(4)で表される化合物が挙げられる。
[式(4)中;
R
1は、上記式(1)で定義した基を示し、
nは、上記式(1)で定義した整数を示す。]
工程(a)で溶媒を使用した場合、工程(b)を行う前に工程(a)の反応生成物から該溶媒を除去してもよいし、除去せずにそのまま工程(b)を行ってもよい。特に、工程(a)の溶媒として使用したヒドロキシ化合物を、工程(b)のヒドロキシ化合物の一部としてそのまま使用することは好ましく行われる。
<工程(b)>
工程(b)では、工程(a)で得たウレイド基を有する化合物と、ヒドロキシ化合物と、を含む反応混合物を反応させてN−置換カルバミン酸エステルを得る。
工程(a)で溶媒としてヒドロキシ化合物aを使用し、かつヒドロキシ化合物aが、工程(b)のヒドロキシ化合物と同じ場合は、工程(a)で得られる反応生成物を使用して、そのまま工程(b)を行うことができる。
工程(a)の溶媒が、工程(b)のヒドロキシ化合物と異なる場合は、工程(a)で得られる反応生成物に、新たに、ヒドロキシ化合物を加えて工程(b)を行ってもよい。また、工程(a)で得られる反応生成物に、新たに、1種又は複数種のヒドロキシ化合物を加え、つづいて、工程(a)の溶媒の一部又は全部を分離してから工程(b)を行ってもよい。工程(a)の溶媒の一部又は全部を除去したのち、新たに、ヒドロキシ化合物を加えてから工程(b)を行ってもよい。ここで加えられるヒドロキシ化合物は、上記式(2)で表されるアルコール、及び上記式(3)で表される芳香族ヒドロキシ化合物から選ばれる少なくとも1種を含むヒドロキシ化合物である。工程(a)で使用した溶媒を分離する方法は、特に制限がなく、蒸留分離、膜分離、抽出分離等の公知の方法を使用することができるが、好ましくは蒸留分離である。
工程(b)で使用するヒドロキシ化合物は、上記式(3)で表される芳香族ヒドロキシ化合物が好ましい。
ウレイド基を有する化合物とヒドロキシ化合物とを含む反応混合物中のヒドロキシ化合物の量は、反応させる化合物によっても異なるが、通常、反応混合物中のヒドロキシ化合物のモル数が、ウレイド基を有する化合物のウレイド基のモル数に対して化学量論比で1倍〜500倍の範囲となる量である。1倍より少ない量では複雑に置換したカルボニル化合物や分子内にカルボニル結合を有する高分子量化合物が生成しやすくなる傾向にあるため、大過剰のヒドロキシ化合物を使用することが好ましいが、反応器の大きさを考慮すれば、好ましくは1倍〜100倍の範囲、さらに好ましくは2倍〜50倍の範囲、さらに好ましくは、3〜20倍の範囲である。
反応温度は、使用する化合物にもよるが、100℃〜350℃の範囲が好ましい。100℃より低い反応温度では、ヒドロキシ化合物と、副生するアンモニアが強く結合することにより、反応が遅かったり、反応がほとんど起こらなかったり、又は、複雑に置換したカルボニル化合物が増加したりする傾向にある。一方、350℃よりも高い反応温度では、尿素が分解したり、ヒドロキシ化合物が脱水素変性したり、又は、生成物であるN−置換カルバミン酸エステルの分解反応若しくは変性反応等が生じやすくなる傾向にある。このような観点から、より好ましい反応温度は120℃〜320℃の範囲、さらに好ましい反応温度は140℃〜300℃の範囲である。
反応圧力は、反応系の組成、反応温度、アンモニアの除去方法、反応装置等によって異なるが、通常、0.01Pa〜10MPa(絶対圧)の範囲であることが好ましく、工業的実施の容易性を考慮すると、0.1Pa〜5MPa(絶対圧)の範囲であることが好ましく、気体のアンモニアを系外に除去することを考慮すると、0.1Pa〜1.5MPa(絶対圧)の範囲であることがさらに好ましい。
工程(b)において、N−置換カルバミン酸エステルが生成する反応は、主として液相で行われる場合が多い。したがって、ヒドロキシ化合物は、反応条件下で液相成分として存在していることが好ましい。一方で、ヒドロキシ化合物と、尿素に由来するカルボニル基を有する化合物は、気相成分として凝縮器に導入され、凝縮器で凝縮されることから、ヒドロキシ化合物は反応条件下で気相成分としても存在することが好ましい。したがって、工程(b)における反応条件は、ヒドロキシ化合物の一部が液相成分として存在し、かつ一部が気相成分として存在するように設定される。複数のヒドロキシ化合物を使用する場合は、少なくとも1種のヒドロキシ化合物が液相成分として存在するように反応条件を設定する。このような反応条件(反応温度、反応圧力)は、使用するヒドロキシ化合物の性質、特に、温度と蒸気圧との相関に密接に関係していることから、使用するヒドロキシ化合物の性質(温度と蒸気圧との相関)を測定又は調査しておき、反応条件を決定するための指標とする。なお、温度と物質の蒸気圧との相関は、該物質の純度、共存する化合物及びその量によっても大きくことなることは当業者にとっては常識であり、反応条件を設定する際も、上記したヒドロキシ化合物の性質(温度と蒸気圧との相関)のみならず、共存する化合物やその量をも勘案すべきことは明白である。
上記したように、N−置換カルバミン酸エステルを生成する反応は平衡反応であり、反応が原系に偏っているため、可能な限り、副生するアンモニアを系外に除去しながら反応を行うことが好ましい。好ましくは、反応液中のアンモニア濃度が1000質量ppm以下、より好ましくは300質量ppm以下、さらに好ましくは100質量ppm以下、最も好ましくは10質量ppm以下となるようにアンモニアを除去するする。アンモニアを除去する方法としては、反応蒸留法、不活性ガスによる方法、膜分離、吸着分離による方法等が挙げられる。反応蒸留法は、反応下で逐次生成するアンモニアを蒸留によって気体状で分離する方法である。アンモニアの蒸留効率を上げるために、溶媒又はヒドロキシ化合物の沸騰下で行うこともできる。不活性ガスによる方法は、反応下で逐次生成するアンモニアを、気体状で不活性ガスに同伴させることによって反応系から分離する方法である。不活性ガスとして、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン、炭酸ガス、メタン、エタン及びプロパン等を、単独で、又は混合して使用し、該不活性ガスを反応系中に導入する方法が好ましい。これらのアンモニアを系外に除去する方法は、単独で実施しても、複数種の方法を組み合わせて実施してもよい。
工程(b)における反応では、例えば、反応速度を高める目的で、触媒を使用することができる。触媒としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、バリウムのメチラート、エチラート及びブチラート(各異性体)等の塩基性触媒;希土類元素、アンチモン、ビスマスの単体並びにこれらの元素の酸化物、硫化物及び塩類;ホウ素単体及びホウ素化合物;周期律表の銅族、亜鉛族、アルミニウム族、炭素族及びチタン族の金属並びにこれらの金属酸化物及び硫化物;周期律表の炭素を除く炭素族、チタン族、バナジウム族及びクロム族元素の炭化物並びに窒化物が好ましく用いられる。
触媒を使用する場合、その使用量は特に制限されないが、ウレイド基を有する化合物のウレイド基に対して化学量論比で0.0001倍〜100倍の範囲とすることができる。
反応時間(連続反応の場合は滞留時間)は、反応系の組成、反応温度、アンモニアの除去方法、反応装置、反応圧力等によって異なるが、通常、0.01時間〜100時間である。反応時間は、目的化合物であるN−置換カルバミン酸エステルの生成量によって決定することもできる。例えば、反応液をサンプリングして、該反応液中のN−置換カルバミン酸エステルの含有量を定量し、ウレイド基を有する化合物に対して10%以上の収率で生成していることを確認したのち反応を停止してもよいし、該収率が90%以上であることを確認したのち反応を停止してもよい。
工程(b)における反応では、必ずしも反応溶媒を使用する必要はないが、反応操作を容易にする等の目的で適当な反応溶媒を使用してもよい。反応溶媒としては、例えば、ペンタン(各異性体)、ヘキサン(各異性体)、ヘプタン(各異性体)、オクタン(各異性体)、ノナン(各異性体)、デカン(各異性体)などのアルカン類;ベンゼン、トルエン、キシレン(各異性体)、エチルベンゼン、ジイソプロピルベンゼン(各異性体)、ジブチルベンゼン(各異性体)、ナフタレン等の芳香族炭化水素及びアルキル置換芳香族炭化水素類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等の二トリル化合物;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン(各異性体)、ブロモベンゼン、ジブロモベンゼン(各異性体)、クロロナフタレン、ブロモナフタレン、ニトロベンゼン、ニトロナフタレン等のハロゲン又はニトロ基によって置換された芳香族化合物類;ジフェニル、置換ジフェニル、ジフェニルメタン、ターフェニル、アントラセン、ジベンジルトルエン(各異性体)等の多環炭化水素化合物類;シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロオクタン、エチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;メチルエチルケトン、アセトフェノン等のケトン類;ジブチルフタレート、ジヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ベンジルブチルフタレート等のエステル類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、ジフェニルエーテル、ジフェニルスルフィド等のエーテル類及びチオエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物;酢酸エチル、安息香酸エチル等のエステル化合物;ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホキシド等のスルホキシド類等が挙げられる。これらの溶媒は、単独で、又は2種類以上を混合物して使用してもよい。いうまでもなく、当該反応において過剰量使用するヒドロキシ化合物も、反応溶媒として好適に使用される。特に、工程(b)は、上記式(3)表される芳香族ヒドロキシ化合物の存在下で行われることが好ましい。該芳香族ヒドロキシ化合物は、工程(b)で使用するヒドロキシ化合物を構成するヒドロキシ化合物が芳香族ヒドロキシ化合物である場合の芳香族ヒドロキシ化合物であってもよいし、工程(b)で使用するヒドロキシ化合物とは別に添加した芳香族ヒドロキシ化合物であってもよい。
工程(b)は、好ましくは、ウレイド基を有する化合物と、ヒドロキシ化合物と、上記反応溶媒を使用する場合は反応溶媒とを含む反応混合物中の水の濃度を0.05質量ppm〜1質量%とし、当該濃度の水の存在下で行う。ウレイド基を有する化合物は、工程(a)で得られる反応生成物として反応混合物に添加される。
本発明者らは、驚くべきことに、少量の水の存在下でN−置換カルバミン酸エステルの生成反応が速く進行することを見出した。このような効果を奏する機構は明らかではないが、本発明者らは、共存する水と尿素とが、工程(b)の反応条件下において一部反応してシアン酸を生成し、該シアン酸がN−置換カルバミン酸エステルの生成反応を速める効果を奏するのではないかと推測している。したがって、N−置換カルバミン酸エステル生成反応を速めるためには、共存する水の量は多い方がよい。しかしながら、一方で、シアン酸は酸性化合物であり、本発明者らが鋭意検討したところ、特に水と共存することで反応器の腐食をもたらす場合が多いことが判明した。したがって、共存する水の量はある特定の範囲内とするべきである。以上の観点から、上記したように、共存する水の濃度は0.05質量ppm〜1質量%であり、より好ましくは、0.1質量ppm〜0.5質量%であり、さらに好ましくは0.5質量ppm〜0.3質量%である。
また、工程(b)で添加する、工程(a)で得られる反応生成物、及びヒドロキシ化合物原料の水含有量、並びに上記反応溶媒を使用する場合は反応溶媒の水含有量を、それぞれ、0.05質量ppm〜1質量%、より好ましくは0.1質量ppm〜0.5質量%、さらに好ましくは0.5質量ppm〜0.3質量%とすることが好ましい。ヒドロキシ化合物原料は、実質的にヒドロキシ化合物からなり、上記範囲の少量の水を含有するものである。また、微量の不純物を含んでいてもよい。工程(a)で得られる反応生成物は、ウレイド基を有する化合物と、未反応の有機第1アミン及び尿素と、を含む。工程(a)で得られる反応生成物の水含有量を上記範囲内にするためには、例えば、工程(a)で添加する有機第1アミン原料及び尿素原料、並びに工程(a)で上記溶媒を使用する場合は溶媒の水含有量を、それぞれ上記範囲内になるようにすればよい。
工程(b)における反応は、ヒドロキシ化合物、尿素に由来するカルボニル基を有する化合物、及び反応で副生するアンモニアを含有する気体相と、該反応を行う液相を有する系で実施することができる。該反応の多くは液相で行われるが、反応条件によっては気相においても該反応がおこる場合もある。その際に、該反応が行われる反応器中の液相容量含量は50%以下であることが好ましい。長期間に亘って連続的に該反応を実施した場合に、運転条件(温度、圧力等)の変動により、ポリマー状の副生物を生じる場合があるが、反応器中の液相容量含量が多いと、このようなポリマー状の副生物の、反応器への付着又は蓄積を回避することができる。しかしながら、余りに液相容量含量が多いと、副生するアンモニアの除去効率が悪化してN−置換カルバミン酸エステルの収率を低下させる場合があることから、気相に対する液相容量含量は、好ましくは50%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下である。液相容量含量とは、槽型反応器の場合は反応槽部に対する液相容量比、塔型反応器の場合はフィード段より下の段(塔底部及びリボイラー部分を含まない)に対する液相容量比、薄膜蒸留器の場合は薄膜蒸留器容量に対する液相容量比を表す。
工程(b)における反応を実施する際に使用する反応器は、凝縮器を具備した反応器であれば、特に制限がなく、公知の反応器が使用できるが、凝縮器を具備した槽型及び塔型の反応器が好ましく使用される。上記したように、当該反応は、ヒドロキシ化合物、尿素に由来するカルボニル基を有する化合物、及び反応で副生するアンモニアを含有する気体相と、該反応の多くが行われる液相を有する系で、反応器中の液相容量含量は50%以下の条件で実施することが好ましいため、当該反応をおこなう反応器も、これらの条件に合致するものを選択するのが好ましい。具体的には、攪拌槽、加圧式攪拌槽、減圧式攪拌槽、塔型反応器、蒸留塔、充填塔、薄膜蒸留器等の従来公知の反応器を適宜組み合わせて使用できる。
反応器に具備される凝縮器の種類は特に制限がなく、公知の凝縮器が使用できる。例えば、多管円筒型凝縮器、二重管式凝縮器、単管式凝縮器、空冷式凝縮器等の従来公知の凝縮器を適宜組み合わせて使用することができる。凝縮器は、反応器の内部に具備されていても、反応器の外部に具備されていて、反応器と配管で接続されていてもよく、反応器や凝縮器の形式、凝縮液の取り扱い方法等を勘案して、様々な形態を採用される。
反応器及び凝縮器の材質にも特に制限はなく、公知の材質が使用できる。例えば、ガラス製、ステンレス製、炭素鋼製、ハステロイ製や、基材にグラスライニングを施したものや、テフロン(登録商標)コーティングを行ったものも使用できる。SUS304やSUS316、SUS316Lなどが安価でもあり、好ましく使用できる。必要に応じて、流量計、温度計などの計装機器、リボイラー、ポンプ、コンデンサーなどの公知のプロセス装置を付加してよく、加熱はスチーム、ヒーターなどの公知の方法でよく、冷却も自然冷却、冷却水、ブライン等公知の方法が使用できる。
(2)の製造方法には、必要に応じて工程を付加しても構わない。例えば、全量に対して5×10−6〜1質量%の水と、ヒドロキシ化合物と、を含有するヒドロキシ化合物の原料を用意する工程、全量に対して5×10−6〜1質量%の水と、有機第1アミンと、を含有する有機第1アミンの原料を用意する工程、全量に対して5×10−6〜1質量%の水と、尿素と、を含有する尿素の原料を用意する工程、生成するアンモニアを除去する工程、有機第1アミンを精製する工程、尿素を芳香族ヒドロキシ化合物へ溶解する工程、芳香族ヒドロキシ化合物を溶解する工程、アルコールを分離する工程、芳香族ヒドロキシ化合物を分離及び/又は精製する工程、生成した反応液からウレイド基を有する化合物を精製する工程、副生成物等を焼却する工程、副生成物等を廃棄する工程など、当業者及び本技術分野のエンジニアが想定できる範囲の工程や装置を付加して構わない。
<工程(c)>
(1)の製造方法における工程(A)において、又は(2)の製造方法における工程(a)において、尿素の代わりにカルバミン酸エステルを使用して反応を実施することもできる。この場合、カルバミン酸エステルは、下記工程(c)によって製造されるカルバミン酸エステルが好ましい。
工程(c):ヒドロキシ化合物c(ヒドロキシ化合物cは、工程(a)のヒドロキシ化合物aと同じでも異なっていてもよく、工程(b)のヒドロキシ化合物と同じでも異なっていてもよく、工程(A)のヒドロキシ化合物と同じでも異なっていてもよい。)と尿素とを反応させてカルバミン酸エステルを製造する工程。
以下、工程(c)について説明する。
工程(c)で使用するヒドロキシ化合物cとしては、アルコール及び/又は芳香族ヒドロキシ化合物を挙げられる。ヒドロキシ化合物がアルコールの場合は、上記式(2)で表されるアルコールが好ましく、ヒドロキシ化合物が芳香族ヒドロキシ化合物の場合は、上記式(3)で表される芳香族ヒドロキシ化合物が好ましい。ヒドロキシ化合物cは、工程(c)における反応溶媒としての役割と尿素と反応してカルバミン酸エステルを生成する役割とを有する。
ヒドロキシ化合物cは、工程(a)のヒドロキシ化合物aと同じであっても異なっていてもよいし、工程(b)のヒドロキシ化合物と同じであっても異なっていてもよいし、工程(A)のヒドロキシ化合物と同じであっても異なっていてもよい。
工程(c)の反応条件は、公知の方法(例えば、特開平5−310677号公報参照)を参考にすることができる。
工程(c)の反応で使用する尿素とヒドロキシ化合物の量比は、使用する化合物によって異なるが、好ましくは、尿素に対するヒドロキシ化合物の量を、化学量論比で5以上とする。尿素に対するヒドロキシ化合物の量が、化学量論比で5よりも少ない場合には、カルバミン酸エステルの収率が悪化したり、反応に長時間を要する場合が多くなる。尿素に対するヒドロキシ化合物の量に上限はないが、余りに過剰のヒドロキシ化合物を使用するとカルバミン酸エステルの製造効率の低下につながるため、通常は、上記化学量論比で100以下とする。
ヒドロキシ化合物と尿素との反応は、平衡が原系に偏っているため、反応によって副生するアンモニアは、系外に除去することが好ましい。好ましい実施態様の一つとして反応蒸留による方法が挙げられる。アンモニアの除去効率を上げるために、ヒドロキシ化合物の沸騰下で反応を行うこともできる。同様の目的で、使用するヒドロキシ化合物よりも標準沸点の低い溶媒を使用して、溶媒の沸点下に実施することも可能である。沸騰したヒドロキシ化合物又は溶媒は、蒸留等の公知の方法でアンモニアと分離され、アンモニアを系外に除去する。このような溶媒の例として、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類等が例示できる。
反応系に副生したアンモニアを除去する好ましい態様として、不活性ガスを用いる方法も挙げられる。すなわち、反応下に逐次生成してくるアンモニアを、気体状で不活性ガスに同伴させることにより、反応系から分離する方法である。このような不活性ガスの例として、窒素、ヘリウム、アルゴン、炭酸ガス、メタン、エタン、プロパン等が挙げられる。
反応系に副生したアンモニアを除去する好ましい実施態様のその他の例として、アンモニアを吸着剤に吸着させて分離する方法がある。用いられる吸着剤としては、使用する温度、条件においてアンモニアの吸着能力を有するものであればよく、シリカ、アルミナ、ゼオライト、珪藻土等が挙げられる。
工程(c)の反応温度は、好ましくは120℃〜250℃の範囲、より好ましくは130℃〜240℃の範囲である。上記範囲よりも低い温度では、反応速度が遅く、高い収率を得るために長時間を要するため、工業的に実施するには適さない。一方、上記範囲よりも高い温度では、副反応によって収率が低下する場合が多く、好ましくない。
反応圧力は、反応系の組成、反応温度、アンモニアの除去方法、反応装置等の条件によっても異なるが、通常、0.01kPa〜5MPa(絶対圧力)の範囲である。
工程(c)における反応を実施する際に使用する反応装置は、特に制限がなく、公知の反応器が使用できる。例えば、攪拌槽、加圧式攪拌槽、減圧式攪拌槽、塔型反応器、蒸留塔、充填塔、薄膜蒸留器など、従来公知の反応器を適宜組み合わせて使用できる。反応器の材質にも特に制限はなく、公知の材質が使用できる。例えば、ガラス製、ステンレス製、炭素鋼製、ハステロイ製や、基材にグラスライニングを施したものや、テフロン(登録商標)コーティングを行ったものも使用できる。SUS304やSUS316、SUS316Lなどが安価でもあり、好ましく使用できる。必要に応じて、流量計、温度計などの計装機器、リボイラー、ポンプ、コンデンサーなどの公知のプロセス装置を付加してよく、加熱はスチーム、ヒーターなどの公知の方法でよく、冷却も自然冷却、冷却水、ブライン等公知の方法が使用できる。
カルバミン酸エステルの製造の際、必要に応じて工程を付加しても構わない。例えば、全量に対して5×10−6〜1質量%の水と、ヒドロキシ化合物と、を含有するヒドロキシ化合物の原料を用意する工程、全量に対して5×10−6〜1質量%の水と、尿素と、を含有する尿素の原料を用意する工程、生成するアンモニアを除去する工程、有機第1アミンを精製する工程、尿素を芳香族ヒドロキシ化合物へ溶解する工程、芳香族ヒドロキシ化合物を溶解する工程、アルコールを分離する工程、芳香族ヒドロキシ化合物を分離及び/又は精製する工程、生成した反応液からウレイド基を有する化合物を精製する工程、副生成物等を焼却する工程、副生成物等を廃棄する工程など、当業者及び本技術分野のエンジニアが想定できる範囲の工程や装置を付加して構わない。さらに、蒸留塔や部分凝縮器等を設けてアンモニアとヒドロキシ化合物や溶媒とを分離し、ヒドロキシ化合物や溶媒を反応系に戻すような装置も好ましく使用される。
工程(c)の反応では、触媒を用いることは必須ではないが、反応温度を低下させたり、反応速度を高める目的で、触媒を用いることもできる。このような触媒としては、希土類元素、アンチモン、ビスマスの単体、並びにこれらの元素の酸化物、硫化物及び塩化物;ホウ素単体及びホウ素化合物;周期律表の銅族、亜鉛族、アルミニウム族、炭素族及びチタン族の金属、並びにこれらの金属の酸化物及び硫化物;周期律表の炭素を除く炭素族、チタン族、バナジウム族及びクロム族元素の炭化物並びに窒化物等が好ましく用いられる。触媒を使用する場合、これらの触媒と尿素の量比はいくらでもとり得るが、尿素に対して質量比で通常0.0001〜0.1倍の量の触媒が用いられる。
工程(c)の反応において、反応液の粘度を低下させる、及び/又は、反応液を均一な系とする目的で反応溶媒を使用してもよい。反応溶媒としては、例えば、ペンタン(各異性体)、ヘキサン(各異性体)、ヘプタン(各異性体)、オクタン(各異性体)、ノナン(各異性体)、デカン(各異性体)などのアルカン類;ベンゼン、トルエン、キシレン(各異性体)、エチルベンゼン、ジイソプロピルベンゼン(各異性体)、ジブチルベンゼン(各異性体)、ナフタレン等の芳香族炭化水素及びアルキル置換芳香族炭化水素類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等の二トリル化合物;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン(各異性体)、ブロモベンゼン、ジブロモベンゼン(各異性体)、クロロナフタレン、ブロモナフタレン、ニトロベンゼン、ニトロナフタレン等のハロゲン又はニトロ基によって置換された芳香族化合物類;ジフェニル、置換ジフェニル、ジフェニルメタン、ターフェニル、アントラセン、ジベンジルトルエン(各異性体)等の多環炭化水素化合物類;シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロオクタン、エチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;メチルエチルケトン、アセトフェノン等のケトン類;ジブチルフタレート、ジヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ベンジルブチルフタレート等のエステル類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、ジフェニルエーテル、ジフェニルスルフィド等のエーテル類及びチオエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物;酢酸エチル、安息香酸エチル等のエステル化合物;ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホキシド等のスルホキシド類等を好適に使用することができる。いうまでもなく、工程(c)で使用される過剰のヒドロキシ化合物も反応溶媒として好適に使用される。
また、工程(c)で添加する尿素原料、及びヒドロキシ化合物原料の水含有量、並びに上記反応溶媒を使用する場合は反応溶媒の水含有量を、それぞれ、0.05質量ppm〜1質量%、より好ましくは0.1質量ppm〜0.5質量%、さらに好ましくは0.5質量ppm〜0.3質量%とすることが好ましい。尿素原料及びヒドロキシ化合物原料は、実質的にそれぞれ尿素及びヒドロキシ化合物からなり、上記範囲の少量の水を含有するものである。また、微量の不純物を含んでいてもよい。
このようにして製造される、カルバミン酸エステルを含む工程(c)の反応液は、そのまま、工程(a)の反応や、工程(A)の反応に使用することができるし、カルバミン酸エステルを分離して該カルバミン酸エステルを、工程(a)の反応や、工程(A)の反応に使用することもできる。また、工程(c)の反応液に、工程(a)で使用する反応溶媒等を添加したのち、工程(c)の反応液から、工程(c)で使用した反応溶媒、余剰の又は未反応のヒドロキシ化合物、余剰の又は未反応の尿素等の、一部又は全部を抜き出して、工程(a)に使用してもよい。該カルバミン酸エステル、反応溶媒、ヒドロキシ化合物、尿素等の分離は、蒸留分離、晶析、膜分離等の公知の方法を用いることができる。
〔N−置換カルバミン酸エステル〕
上記の製造方法によって得られるN−置換カルバミン酸エステルは、例えば、下記式(5)で表される化合物である。
[式(5)中;
R
1は、上記式(1)で定義した基を示し、
R
3は、アルコール又は芳香族ヒドロキシ化合物からヒドロキシ基(−OH基)を除いた残基を示し、
nは、上記式(1)で定義した整数を示す。]
上記式(5)において、R3は、使用するヒドロキシ化合物の種類によるが、好ましいR3としては、メチル基、エチル基、プロピル基(各異性体)、ブチル基(各異性体)、ペンチル基(各異性体)、ヘキシル基(各異性体)、ヘプチル基(各異性体)、オクチル基(各異性体)、ノニル基(各異性体)、デシル基(各異性体)、ウンデシル基(各異性体)、ドデシル基(各異性体)等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、メチル−フェニル基(各異性体)、エチル−フェニル基(各異性体)、プロピル−フェニル基(各異性体)、ブチル−フェニル基(各異性体)、ペンチル−フェニル基(各異性体)、ヘキシル−フェニル基(各異性体)、ヘプチル−フェニル基(各異性体)、オクチル−フェニル基(各異性体)、ノニル−フェニル基(各異性体)、デシル−フェニル基(各異性体)、ドデシル−フェニル基(各異性体)、フェニル−フェニル基(各異性体)、フェノキシ−フェニル基(各異性体)、クミル−フェニル基(各異性体)、ジメチル−フェニル基(各異性体)、ジエチル−フェニル基(各異性体)、ジプロピル−フェニル基(各異性体)、ジブチル−フェニル基(各異性体)、ジペンチル−フェニル基(各異性体)、ジヘキシル−フェニル基(各異性体)、ジヘプチル−フェニル基(各異性体)、ジフェニル−フェニル基(各異性体)、ジフェノキシ−フェニル基(各異性体)、ジクミル−フェニル基(各異性体)、ナフチル基(各異性体)、メチル−ナフチル基(各異性体)等の芳香族基が挙げられる。
これらの中でも、R3を構成する炭素原子の数が6〜12の整数である芳香族基が、該N−置換カルバミン酸エステルは、R3が脂肪族基の場合に比べて熱分解温度が低い(すなわち、熱分解が容易である)場合が多く、好ましい。
N−置換カルバミン酸エステルの例としては、N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ジフェニルエステル、N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ジ(メチルフェニル)エステル(各異性体)、N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ジ(エチルフェニル)エステル(各異性体)、N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ジ(プロピルフェニル)エステル(各異性体)、N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ジ(ブチルフェニル)エステル(各異性体)、N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ジ(ペンチルフェニル)エステル(各異性体)、ジフェニル−4,4’−メチレン−ジシクロヘキシルカルバメート、ジ(メチルフェニル)−4,4’−メチレン−ジシクロヘキシルカルバメート、ジ(エチルフェニル)−4,4’−メチレン−ジシクロヘキシルカルバメート、ジ(プロピルフェニル)−4,4’−メチレン−ジシクロヘキシルカルバメート(各異性体)、ジ(ブチルフェニル)−4,4’−メチレン−ジシクロヘキシルカルバメート(各異性体)、ジ(ペンチルフェニル)−4,4’−メチレン−ジシクロヘキシルカルバメート(各異性体)、ジ(ヘキシルフェニル)−4,4’−メチレン−ジシクロヘキシルカルバメート(各異性体)、ジ(ヘプチルフェニル)−4,4’−メチレン−ジシクロヘキシルカルバメート(各異性体)、ジ(オクチルフェニル)−4,4’−メチレン−ジシクロヘキシルカルバメート(各異性体)、3−(フェノキシカルボニルアミノ−メチル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルカルバミン酸フェニルエステル、3−(メチルフェノキシカルボニルアミノ−メチル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルカルバミン酸(メチルフェノキシ)エステル(各異性体)、3−(エチルフェノキシカルボニルアミノ−メチル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルカルバミン酸(エチルフェニル)エステル(各異性体)、3−(プロピルフェノキシカルボニルアミノ−メチル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルカルバミン酸(プロピルフェニル)エステル(各異性体)、3−(ブチルフェノキシカルボニルアミノ−メチル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルカルバミン酸(ブチルフェニル)エステル(各異性体)、3−(ペンチルフェノキシカルボニルアミノ−メチル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルカルバミン酸(ペンチルフェニル)エステル(各異性体)、3−(ヘキシルフェノキシカルボニルアミノ−メチル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルカルバミン酸(ヘキシルフェニル)エステル(各異性体)、3−(ヘプチルフェノキシカルボニルアミノ−メチル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルカルバミン酸(ヘプチルフェニル)エステル(各異性体)、3−(オクチルフェノキシカルボニルアミノ−メチル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルカルバミン酸(オクチルフェニル)エステル(各異性体)、トルエン−ジカルバミン酸ジフェニルエステル(各異性体)、トルエン−ジカルバミン酸ジ(メチルフェニル)エステル(各異性体)、トルエン−ジカルバミン酸ジ(エチルフェニル)エステル(各異性体)、トルエン−ジカルバミン酸ジ(プロピルフェニル)エステル(各異性体)、トルエン−ジカルバミン酸ジ(ブチルフェニル)エステル(各異性体)、トルエン−ジカルバミン酸ジ(ペンチルフェニル)エステル(各異性体)、トルエン−ジカルバミン酸ジ(ヘキシルフェニル)エステル(各異性体)、トルエン−ジカルバミン酸ジ(ヘプチルフェニル)エステル(各異性体)、トルエン−ジカルバミン酸ジ(オクチルフェニル)エステル(各異性体)、N,N’−(4,4’−メタンジイル−ジフェニル)−ビスカルバミン酸ジフェニルエステル、N,N’−(4,4’−メタンジイル−ジフェニル)−ビスカルバミン酸ジ(メチルフェニル)エステル、N,N’−(4,4’−メタンジイル−ジフェニル)−ビスカルバミン酸ジ(エチルフェニル)エステル、N,N’−(4,4’−メタンジイル−ジフェニル)−ビスカルバミン酸ジ(プロピルフェニル)エステル、N,N’−(4,4’−メタンジイル−ジフェニル)−ビスカルバミン酸ジ(ブチルフェニル)エステル、N,N’−(4,4’−メタンジイル−ジフェニル)−ビスカルバミン酸ジ(ペンチルフェニル)エステル、N,N’−(4,4’−メタンジイル−ジフェニル)−ビスカルバミン酸ジ(ヘキシルフェニル)エステル、N,N’−(4,4’−メタンジイル−ジフェニル)−ビスカルバミン酸ジ(ヘプチルフェニル)エステル、N,N’−(4,4’−メタンジイル−ジフェニル)−ビスカルバミン酸ジ(オクチルフェニル)エステル(各異性体)を挙げることができる。
〔イソシアネートの製造方法〕
上記の製造方法によって得られるN−置換カルバミン酸エステルは、イソシアネートを製造するための原料として好適に使用できる。本実施形態に係るイソシアネートの製造方法は、例えば、該N−置換カルバミン酸エステルを熱分解反応に付してイソシアネートとヒドロキシ化合物とを含有する混合物を得る工程、該イソシアネートとヒドロキシ化合物とを含有する混合物からイソシアネートを分離する工程とを含む。本実施形態のイソシアネートの製造方法によれば、効率よく、高収率でイソシアネートを得ることができる。
〔ヒドロキシ化合物の製造方法〕
上記イソシアネートの製造方法において、イソシアネートとヒドロキシ化合物とを含有する混合物からイソシアネートを分離する工程に代えて、又は加えて、イソシアネートとヒドロキシ化合物とを含有する混合物からヒドロキシ化合物を分離する工程とを含むことにより、ヒドロキシ化合物の製造方法とすることもできる。
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
<分析方法>
(1)NMR分析方法
装置:日本国、日本電子(株)社製JNM−A400 FT−NMRシステム
(1−1)1H−NMR分析サンプル及び13C−NMR分析サンプルの調製
サンプル溶液を約0.3g秤量し、重クロロホルム(米国、アルドリッチ社製、99.8%)約0.7gと内部標準物質としてテトラメチルスズ(日本国、和光純薬工業社製、和光一級)0.05gとを加えて均一に混合した溶液をNMR分析サンプルとした。
(1−2)定量分析法
各標準物質について分析を実施し、作成した検量線を基に、分析サンプル溶液の定量分析を実施した。
(2)液体クロマトグラフィー分析方法
装置:日本国、島津社製 LC−10ATシステム
カラム:日本国、東ソー社製 Silica−60カラム 2本直列に接続
展開溶媒:ヘキサン/テトラヒドロフラン=80/20(体積比)の混合液
溶媒流量:2mL/分
カラム温度:35℃
検出器:R.I.(屈折率計)
(2−1)液体クロマトグラフィー分析サンプル
サンプルを約0.1g秤量し、テトラヒドロフラン(日本国、和光純薬工業社製、脱水)を約1gと内部標準物質としてビスフェノールA(日本国、和光純薬工業社製、一級)を約0.02g加えて均一に混合した溶液を、液体クロマトグラフィー分析のサンプルとした。
(2−2)定量分析法
各標準物質について分析を実施し、作成した検量線を基に、分析サンプル溶液の定量分析を実施した。
(3)含水量測定方法
微量水分測定装置(CA−200、日本国三菱アナリテック社製)を使用して含水量を定量した。
[実施例1]
<N,N’−ヘキサンジイル−ジ(カルバミン酸(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェニル)エステル)の製造>
図1に示すN−置換カルバミン酸エステル製造装置にて、N−置換カルバミン酸エステルの製造を行った。
ヘキサメチレンジアミン620gと4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール33.0kgと尿素706gとを混合し、反応混合物(原料溶液)を調製した。原料として用いたヘキサメチレンジアミンの水含有量は0.200質量%、4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノールの水含有量は0.030質量%、及び尿素の水含有量は0.250質量%であり、反応混合物中の水の濃度は0.038質量%であった。
充填材(ヘリパックNo.3)を充填した内径20mmの充填塔102を240℃に加熱し、内部の圧力を約20kPaとした。充填塔102の上部に具備したライン1より、原料溶液と同じ組成の混合液を導入し、運転条件が安定したのち、原料溶液を約1.0g/分で導入した。反応液を、充填塔102の最底部に具備したライン4を経由して貯槽105に回収した。充填塔102の最上部に具備したライン2より気相成分を回収し、約85℃に保持された凝縮器103で凝縮して得られた成分を貯槽104に回収した。貯槽105に回収した反応液は4.69kgであった。該反応液を、液体クロマトグラフィー及び1H−NMRで分析したところ、該反応液は、N,N’−ヘキサンジイル−ジ(カルバミン酸(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェニル)エステル)を含む組成物であった。また、N,N’−ヘキサンジイル−ジ(カルバミン酸(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェニル)エステル)の、ヘキサメチレンジアミンに対する収率は約90%であった。上記運転を約26ヶ月継続した後、充填塔を解体し検査を行ったところ塔頂部での減肉は見られなかった。
[実施例2]
<3−((4−フェニルフェノキシ)カルボニルアミノ−メチル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルカルバミン酸(4−フェニルフェニル)エステルの製造>
ヘキサメチレンジアミンの代わりに3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミンを820g使用したこと、4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノールの代わりにフェノール33.2kgを使用したこと、及び尿素を1.06kg使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で製造した。原料として用いた3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミンの水含有量は0.500質量%、フェノールの水含有量は0.240質量%、及び尿素の水含有量は0.250質量%であり、反応混合物(原料溶液)中の水の濃度は0.240質量%であった。
得られた反応液は、3−((4−フェニルフェノキシ)カルボニルアミノ−メチル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルカルバミン酸(4−フェニルフェニル)エステルを含有し、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミンに対する収率は約88%であった。上記運転を約26ヶ月継続した後、充填塔を解体し検査を行ったところ塔頂部での減肉は見られなかった。
[実施例3]
<N,N’−ヘキサンジイル−ジ(カルバミン酸(4−クミルフェニル)エステル)の製造>
ヘキサメチレンジアミンを570g使用したこと、4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノールの代わりに4−クミルフェノール35.4kgを使用したこと、及び尿素を620g使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で製造した。原料として用いたヘキサメチレンジアミンの水含有量は0.100質量%、4−クミルフェノールの水含有量は0.130質量%、及び尿素の水含有量は0.300質量%であり、反応混合物(原料溶液)中の水の濃度は0.130質量%であった。
得られた反応液は、N,N’−ヘキサンジイル−ジ(カルバミン酸(4−クミルフェニル)エステル)を含有し、ヘキサメチレンジアミンに対する収率は約85%であった。上記運転を約26ヶ月継続した後、充填塔を解体し検査を行ったところ塔頂部での減肉は見られなかった。
[実施例4]
<N,N’−(4,4’−メタンジイル−ジシクロヘキシル)−ジ(カルバミン酸(4−フェノキシフェニル)エステル)の製造>
ヘキサメチレンジアミンの代わりに4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)を880g使用したこと、4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノールの代わりに4−フェノキシフェノール23.4kgを使用したこと、及び尿素を750g使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で製造した。原料として用いた4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)の水含有量は1.000質量%であり、4−フェノキシフェノールの水含有量は0.330質量%、及び尿素の水含有量は0.510質量%であり、反応混合物(原料溶液)中の水の濃度は0.360質量%であった。
得られた反応液は、N,N’−(4,4’−メタンジイル−ジシクロヘキシル)−ジ(カルバミン酸(4−フェノキシフェニル)エステル)を含有し、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)に対する収率は約82%であった。上記運転を約26ヶ月継続した後、充填塔を解体し検査を行ったところ、運転継続には支障はないが、塔頂部で若干の減肉が見られた。
[実施例5]
<N,N’−(4,4’−メタンジイル−ジシクロヘキシル)−ジ(カルバミン酸(4−メチルフェニル)エステル)の製造>
ヘキサメチレンジアミンの代わりに4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)を880g使用したこと、4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノールの代わりに4−メチルフェノール18.3kgを使用したこと、及び尿素を770g使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で製造した。原料として用いた4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)の水含有量は1.000質量%であり、4−フェニルフェノールの水含有量は0.700質量%、及び尿素の水含有量は0.510質量%であり、反応混合物(原料溶液)中の水の濃度は0.710質量%であった。
得られた反応液は、N,N’−(4,4’−メタンジイル−ジシクロヘキシル)−ジ(カルバミン酸(4−メチルフェニル)エステル)を含有し、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)に対する収率は約80%であった。上記運転を約13ヶ月継続した後、充填塔を解体し検査を行ったところ塔頂部での減肉は見られなかったが、上記運転を約26ヶ月継続した後、充填塔を解体し検査を行ったところ、塔頂部で若干の減肉が見られ、一部部品交換を行った。
[比較例1]
<N,N’−ヘキサンジイル−ジ(カルバミン酸(4−クミルフェニル)エステル)の製造>
原料として用いたヘキサメチレンジアミンの水含有量が0.030質量ppm、4−クミルフェノールの水含有量が0.01質量ppm、及び尿素の水含有量が0.400質量ppmであったこと以外は、実施例3と同様の方法で製造した。反応混合物(原料溶液)中の水の濃度は0.011質量ppmであった。
得られた反応液は、N,N’−ヘキサンジイル−ジ(カルバミン酸(4−クミルフェニル)エステル)を含有し、ヘキサメチレンジアミンに対する収率は約68%であった。上記運転を約26ヶ月継続した後、充填塔を解体し検査を行ったところ塔頂部での減肉は見られなかった。
[比較例2]
<N,N’−(4,4’−メタンジイル−ジシクロヘキシル)−ジ(カルバミン酸(4−メチルフェニル)エステル)の製造>
原料として用いた4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)の水含有量が2.020質量%、4−フェニルフェノールの水含有量が1.301質量%、及び尿素の水含有量が1.002質量%であったこと以外は、実施例5と同様の方法で製造した。反応混合物(原料溶液)中の水の濃度は1.302質量%であった。
得られた反応液は、N,N’−(4,4’−メタンジイル−ジシクロヘキシル)−ジ(カルバミン酸(4−メチルフェニル)エステル)を含有し、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)に対する収率は約79%であった。上記運転を約13ヶ月継続した後、充填塔を解体し検査を行ったところ、塔頂部で減肉が見られ一部部品交換を行った。