JP5874949B2 - 変異体植物、その製造方法及び遺伝的組換え頻度を上昇させる方法 - Google Patents

変異体植物、その製造方法及び遺伝的組換え頻度を上昇させる方法 Download PDF

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Description

本発明は、ゲノムDNAの遺伝的組換えを誘導することにより作製した変異体植物、変異体植物の製造方法及び遺伝的組換え頻度を上昇させる方法に関する。
ゲノムDNAにおける遺伝的組換えを人為的に誘発して、種々の変異体を取得する方法が知られている(特許文献1)。この方法によれば、いわゆるゲノムシャッフリングを人為的に誘発することによってゲノムDNAの再編成を経た変異体を効率良く取得することができる。
特許文献1に記載された方法は、真菌細胞を対象とし、対象とする真菌細胞中でTaqI(4塩基認識の制限酵素)を発現させ、温度制御によりTaqIを一過的に活性化し、ゲノムDNA中の任意の部位に2以上の二本鎖切断を導入することにより、遺伝的組換え頻度を上昇させる方法である。この方法を適用することによって、遺伝形質が改良された真菌細胞を作製することができる。
具体的に、特許文献1に記載された方法では、先ず、栄養要求性マーカーと共にTaqI遺伝子を酵母に形質転換し、栄養要求性に基づいて形質転換酵母を取得する。次に、形質転換酵母をTaqIが活性化される温度(50℃)に所定時間保持することで、TaqIを一過的に活性化する。この温度処理によって、遺伝的組換え頻度が上昇することが示されている。
また、特許文献1には、当該方法を植物細胞に適用可能であると記載されている(段落〔0011〕)。しかしながら、特許文献1には、植物細胞に対して当該方法を適用した実施例は開示されておらず、当該方法を植物細胞に適用して変異体植物を作製できるか不明である。
特許第4158920号
上述した特許文献1に開示された方法を植物細胞に適用したところ、実際には植物細胞が枯死してしまい、ゲノムDNAの再編成を経た変異体植物を取得することができなかった。そこで、本発明は、植物を対象として、ゲノムDNAの遺伝的組換え頻度を上昇させることができる手法を確立し、様々な形質を有する変異体植物、当該変異体植物の製造方法及び植物における遺伝的組換え頻度を上昇させる方法を提供することを目的としている。
そこで、上述した実情に鑑み、本発明者らが鋭意検討した結果、制限酵素遺伝子を一過的に発現させるか、アグロバクテリウム法を用いて制限酵素遺伝子を導入することで、植物ゲノムDNAの遺伝的組換え頻度を上昇させ、種々の変異体植物を取得できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
本発明は以下を包含する。
すなわち、本発明に係る変異体植物の製造方法は、対象とする植物細胞内において発現可能な制限酵素遺伝子を当該植物細胞に導入し、当該制限酵素遺伝子を一過的に発現させてゲノムDNAに遺伝的組換えを誘導することで、変異体植物を製造する方法である。また、本発明に係る遺伝的組換え頻度を上昇させる方法は、対象とする植物細胞内において発現可能な制限酵素遺伝子を当該植物細胞に導入し、当該制限酵素遺伝子を一過的に発現させてゲノムDNAに遺伝的組換えを誘導する方法である。
特に、本発明においては、制限酵素遺伝子はパーティクルガン法により上記植物細胞に導入することが好ましい。パーティクルガン法によれば、上記制限酵素遺伝子を発現可能に有する核酸構築物(例えば、プラスミド等のベクター)を植物細胞内に物理的に導入することができる。また、このとき、上記制限酵素遺伝子を上記植物細胞に導入する処理の後、選抜マーカーを利用した選抜圧を付加しない培地にて上記植物細胞を培養することが好ましい。通常の形質転換方法においては、所望の遺伝子が安定的に存在する個体を、当該遺伝子とともに導入した選抜マーカーを利用して常時選抜圧を付加して選抜し、引き続き選抜圧を付加しながら生育する。しかし、本発明においては、常時、選抜圧を付加しない状態で生育することで、上記制限酵素遺伝子の一過的な発現を可能としている。
本発明では、上記制限酵素遺伝子として好熱菌由来の制限酵素遺伝子を使用し、当該遺伝子がコードする制限酵素が活性化する温度未満を維持することが好ましい。好熱菌由来の制限酵素は、酵母において40〜50℃の温度で活性化されるため、上記特許文献1に記載された方法では当該温度においてインキュベートする工程が必須となっている。これに対して、本発明では、当該温度においてインキュベートする工程を含んでいないため、制限酵素の活性が非常に抑制されることとなる。
ただし、本発明において、上記制限酵素遺伝子として好熱菌由来の制限酵素遺伝子を植物細胞に物理的に導入した後、例えば40〜60℃といった制限酵素が活性化する温度で処理し、その後、当該温度未満の温度を維持しながら植物細胞を培養しても良い。植物細胞を上記温度で処理する間、制限酵素の活性を高めることができる。また、植物細胞を培養する際には当該温度未満の温度を維持しているため、この間においては制限酵素の活性が非常に抑制されることとなる。
また、本発明に係る変異体植物の製造方法は、プロモーターと制限酵素遺伝子をアグロバクテリウム法により導入し、ゲノムDNAに遺伝的組換えを誘導することで、変異体植物を製造する方法である。また、本発明に係る遺伝的組換え頻度を上昇させる方法は、プロモーターと制限酵素遺伝子をアグロバクテリウム法により導入し、当該制限酵素遺伝子を一過的に発現させてゲノムDNAに遺伝的組換えを誘導する方法である。
ここで、制限酵素遺伝子の発現を制御するプロモーターとしては、カリフラワーモザイクウイルス由来35Sプロモーター、及び当該カリフラワーモザイクウイルス由来35Sプロモーターよりもプロモーター活性の低いプロモーターを使用することが好ましい。当該カリフラワーモザイクウイルス由来35Sプロモーターよりもプロモーター活性の低いプロモーターとしては、シロイヌナズナのシグマ因子(AtSIG2)をコードする遺伝子のプロモーターを挙げることができる。
一方、本発明は、上述した変異体植物の製造方法により製造された、変異体植物を包含する。本発明に係る変異体植物は、遺伝的組換えによってゲノムDNAが再編成された構造を有し、様々な遺伝形質を有するものとなる。
本発明によれば、導入した制限酵素遺伝子に起因して死滅する植物細胞の割合を少なくすることができ、遺伝的組換えにより再編成されたゲノムDNAを有する変異体植物を製造することができる。
比較例1で使用したプラスミドの構成を示す模式図である。 比較例1で作製した形質転換イネ(カルス)の蛍光を観察した結果、及び緑化再分化処理の結果を示す写真である。 実施例1で使用したプラスミドの構成を示す模式図である。 実施例1で作製した形質転換イネ(カルス)の明視野及び蛍光を観察した結果を示す写真、及び相同組換えの様式を示す模式図である。 実施例1で作製した形質転換イネ(カルス)についてPCR-RFLP解析の結果を示す写真、及び相同組換えの様式を示す模式図である。 実施例1で作製し、再分化させた形質転換イネ(植物体)を観察した結果を示す写真である。 実施例2で使用したプラスミドの構成を示す模式図である。 実施例2で作製した形質転換イネ(カルス)の明視野及び蛍光を観察した結果を示す写真である。 実施例2で作製した形質転換イネ(カルス)について、遺伝子導入後の経過日数とYFP蛍光スポットの出現率との関係を示す特性図である。 実施例3で作製した形質転換イネ(カルス)について、熱処理(40℃又は50℃)を行った場合と行わなかった場合における遺伝子導入後の経過日数とYFP蛍光スポットの出現率との関係を示す特性図である。 実施例4において、AtSIG2 TaqI-NLSで形質転換した形質転換シロイヌナズナ(植物体)を観察した結果を示す写真である。 実施例4において、AtSIG2 TaqI-NLSで形質転換した形質転換シロイヌナズナ(植物体)を観察した結果を示す写真である。 実施例4において、pBI 35S:TaqIで形質転換した形質転換シロイヌナズナ(植物体)を観察した結果を示す写真である。
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明に係る変異体植物の製造方法は、植物細胞内において制限酵素遺伝子を一過的に発現させるか、アグロバクテリウム法により植物細胞内に制限酵素遺伝子を導入することで、ゲノムDNAにおける遺伝的組換え頻度を上げ、再編成されたゲノムDNAを有する変異体植物を製造する方法である。
1.細胞
本発明を適用することができる細胞は、低レベルであっても遺伝的組換えが生じている植物細胞であれば、如何なる種類の植物細胞であっても適用可能であり、当業者であれば容易に選択することができる。
ここで「遺伝的組換え」とは、広い意味において、DNA間で起きるDNA切断・再結合現象を意味する。本発明における「遺伝的組換え」には、相同組換え、非相同組換え、遺伝子変換、逆位、不等交叉、交叉、転座、コピー数変動、染色体融合、変異が含まれる。また、「再編成」とは、「遺伝的組換え」頻度の上昇に伴い、既存のゲノム配列間において組換えが起こり、その結果、部分的又は全体的にゲノム配列に変化を生じることを意味する。
対象となる植物、換言すると変異体植物のもととなる植物としては、特に限定されないが、例えば、双子葉植物、単子葉植物、例えばアブラナ科、イネ科、ナス科、マメ科、ヤナギ科等に属する植物(下記参照)が挙げられる。
アブラナ科:シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、アブラナ(Brassica rapa、Brassica napus)、キャベツ(Brassica oleracea var. capitata)、ハクサイ(Brassica rapa var. pekinensis)、チンゲンサイ(Brassica rapa var. chinensis)、カブ(Brassica rapa var. rapa)、ノザワナ(Brassica rapa var. hakabura)、ミズナ(Brassica rapa var. lancinifolia)、コマツナ(Brassica rapa var. peruviridis)、パクチョイ(Brassica rapa var. chinensis)、ダイコン(Brassica Raphanus sativus)、ワサビ(Wasabia japonica)など。
ナス科:タバコ(Nicotiana tabacum)、ナス(Solanum melongena)、ジャガイモ(Solaneum tuberosum)、トマト(Lycopersicon lycopersicum)、トウガラシ(Capsicum annuum)、ペチュニア(Petunia)など。
マメ科:ダイズ(Glycine max)、エンドウ(Pisum sativum)、ソラマメ(Vicia faba)、フジ(Wisteria floribunda)、ラッカセイ(Arachis. hypogaea)、ミヤコグサ(Lotus corniculatus var. japonicus)、インゲンマメ(Phaseolus vulgaris)、アズキ(Vigna angularis)、アカシア(Acacia)など。
キク科:キク(Chrysanthemum morifolium)、ヒマワリ(Helianthus annuus)など。
ヤシ科:アブラヤシ(Elaeis guineensis、Elaeis oleifera)、ココヤシ(Cocos nucifera)、ナツメヤシ(Phoenix dactylifera)、ロウヤシ(Copernicia)など。
ウルシ科:ハゼノキ(Rhus succedanea)、カシューナットノキ(Anacardium occidentale)、ウルシ(Toxicodendron vernicifluum)、マンゴー(Mangifera indica)、ピスタチオ(Pistacia vera)など。
ウリ科:カボチャ(Cucurbita maxima、Cucurbita moschata、Cucurbita pepo)、キュウリ(Cucumis sativus)、カラスウリ(Trichosanthes cucumeroides)、ヒョウタン(Lagenaria siceraria var. gourda)など。
バラ科:アーモンド(Amygdalus communis)、バラ(Rosa)、イチゴ(Fragaria)、サクラ(Prunus)、リンゴ(Malus pumila var. domestica)など。
ナデシコ科:カーネーション(Dianthus caryophyllus)など。
ヤナギ科:ポプラ(Populus trichocarpa、Populus nigra、Populus tremula)など。
イネ科:トウモロコシ(Zea mays)、イネ(Oryza sativa)、オオムギ(Hordeum vulgare)、コムギ(Triticum aestivum)、タケ(Phyllostachys)、サトウキビ(Saccharum officinarum)、ネピアグラス(Pennisetum pupureum)、エリアンサス(Erianthus ravenae)、ミスキャンタス(ススキ)(Miscanthus virgatum)、ソルガム(Sorghum)スイッチグラス(Panicum)など。
ユリ科:チューリップ(Tulipa)、ユリ(Lilium)など。
フトモモ科:ユーカリ(Eucalyptus camaldulensis、Eucalyptus grandis)など。
本発明で用いる植物細胞の培養条件は当該技術分野において周知の方法によって行われるが、選択される細胞に適した培地、培養条件(培養温度など)下で行われることは言うまでもない。培地としては、植物細胞の細胞培養や組織培養に使用されている従来公知の培地を適宜使用することができる。
2.制限酵素
対象とする植物細胞内に導入する制限酵素遺伝子としては、特に限定されないが、TaqI、TspRI、Tsp45I、Sse9I、MseI、DnpI及びCviAII等をコードする遺伝子を挙げることができる。
すなわち、制限酵素遺伝子としては、植物細胞におけるゲノムDNA中の所定の配列箇所に二本鎖切断を導入することができる制限酵素をコードするものであれば、如何なる制限酵素遺伝子も使用することができる。また、制限酵素によるゲノムDNAの切断箇所の数に遺伝的組換え頻度の上昇効率が依存するため、適当な存在確率で認識配列が出現するような制限酵素を適用することが好ましい。例えば、制限酵素としては、4塩基〜6塩基の認識配列を持つものが好ましく、さらに好ましくは、4塩基〜5塩基の認識部位を持つ酵素であり、最も好ましくは4塩基の認識部位を持つ酵素である。
また、制限酵素としては、植物細胞の培養条件とは異なる条件下で活性化する制限酵素を使用することが好ましい。「通常の培養条件とは異なる条件」とは、当業者において選択可能な条件であれば如何なる条件でもよいが、例えば、用いた制限酵素の活性化に必要とされる物質(例えば、金属イオンなど)を添加した条件、又は制限酵素の活性化に必要な温度条件などを挙げることができる。特に、制限酵素としては、好熱菌由来の制限酵素であって、植物細胞の培養温度よりも高温領域に至適温度を有する制限酵素を使用することがより好ましい。例えば、TaqI及びTsp45Iの指摘温度は65℃であり、Sse9Iの至適温度は55℃である。
このように、植物細胞の培養条件とは異なる条件下で活性化する制限酵素を使用した場合には、植物細胞中において制限酵素遺伝子を発現させた後、当該条件下にて制限酵素を活性化するか、当該条件としないことで制限酵素を低活性の状態とするか選択することができる。例えば、植物細胞において制限酵素遺伝子を発現させた結果、当該制限酵素の活性が高すぎて植物細胞が死滅するような場合、上記条件とすることなく制限酵素を低活性に維持し、植物細胞の死滅を回避することができる。
例えば、制限酵素としてTaqIを植物細胞において発現させた場合、1分〜30分間、40〜60℃にて、より好ましくは40℃にてインキュベートすることで、TaqIを高活性の状態とすることができる。また、TaqIを植物細胞において発現させ、常に40℃未満の温度で植物細胞を培養することで、TaqIを低活性の状態とすることができる。
一方、上述した制限酵素遺伝子は、詳細を後述する形質転換法により植物細胞内に導入されるが、当該植物細胞内において発現可能な核酸構築物として導入される。ここで、核酸構築物とは、例えば、植物体内で発現を可能とするプロモーターと、上述した制限酵素遺伝子とを含む発現ベクターを含む意味である。発現ベクターの母体となるベクターとしては、従来公知の種々のベクターを用いることができる。例えば、プラスミド、ファージ、またはコスミド等を用いることができ、導入される植物細胞や導入方法に応じて適宜選択することができる。具体的には、例えば、pBR322、pBR325、pUC19、pUC119、pBluescript、pBluescriptSK、pBI系のベクター等を挙げることができる。特に、植物体へのベクターの導入法がアグロバクテリウムを用いる方法である場合には、pBI系のバイナリーベクターを用いることが好ましい。pBI系のバイナリーベクターとしては、具体的には、例えば、pBIG、pBIN19、pBI101、pBI121、pBI221等を挙げることができる。
プロモーターは、植物体内で制限酵素遺伝子を発現させることが可能なプロモーターであれば特に限定されるものではなく、公知のプロモーターを好適に用いることができる。かかるプロモーターとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(CaMV35S)、各種アクチン遺伝子プロモーター、各種ユビキチン遺伝子プロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター、タバコのPR1a遺伝子プロモーター、トマトのリブロース1,5−二リン酸カルボキシラーゼ・オキシダーゼ小サブユニット遺伝子プロモーター、ナピン遺伝子プロモーター等を挙げることができる。
なお、発現ベクターは、プロモーター及び上記制限酵素遺伝子に加えて、さらに他のDNAセグメントを含んでいてもよい。当該他のDNAセグメントは特に限定されるものではないが、ターミネーター、選抜マーカー、エンハンサー、翻訳効率を高めるための塩基配列等を挙げることができる。また、上記組換え発現ベクターは、さらにT−DNA領域を有していてもよい。T−DNA領域は特にアグロバクテリウムを用いて上記組換え発現ベクターを植物体に導入する場合に遺伝子導入の効率を高めることができる。
転写ターミネーターは転写終結部位としての機能を有していれば特に限定されるものではなく、公知のものであってもよい。例えば、具体的には、ノパリン合成酵素遺伝子の転写終結領域(Nosターミネーター)、カリフラワーモザイクウイルス35Sの転写終結領域(CaMV35Sターミネーター)等を好ましく用いることができる。この中でもNosターミネーターをより好ましく用いることできる。上記組換えベクターにおいては、転写ターミネーターを適当な位置に配置することにより、植物細胞に導入された後に、不必要に長い転写物を合成することを防止できる。
選抜マーカーとしては、例えば薬剤耐性遺伝子を用いることができる。かかる薬剤耐性遺伝子の具体的な一例としては、例えば、ハイグロマイシン、ブレオマイシン、カナマイシン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコール等に対する薬剤耐性遺伝子を挙げることができる。これにより、上記抗生物質を含む培地中で生育する植物体を選択することによって、形質転換された植物体を容易に選抜することができる。
翻訳効率を高めるための塩基配列としては、例えばタバコモザイクウイルス由来のomega配列を挙げることができる。このomega配列をプロモーターの非翻訳領域(5’UTR)に配置させることによって、上記融合遺伝子の翻訳効率を高めることができる。このように、上記組換え発現ベクターには、その目的に応じて、さまざまなDNAセグメントを含ませることができる。
発現ベクターの構築方法についても特に限定されるものではなく、適宜選択された母体となるベクターに、上記プロモーター、上記制限酵素遺伝子、および転写抑制転換ポリヌクレオチド、並びに必要に応じて上記他のDNAセグメントを所定の順序となるように導入すればよい。例えば、上記制限酵素遺伝子とプロモーターと(必要に応じて転写ターミネーター等)を連結して発現カセットを構築し、これをベクターに導入すればよい。発現カセットの構築では、例えば、各DNAセグメントの切断部位を互いに相補的な突出末端としておき、ライゲーション酵素で反応させることで、当該DNAセグメントの順序を規定することが可能となる。なお、発現カセットにターミネーターが含まれる場合には、上流から、プロモーター、上記制限酵素遺伝子、ターミネーターの順となっていればよい。また、発現ベクターを構築するための試薬類、すなわち制限酵素やライゲーション酵素等の種類についても特に限定されるものではなく、市販のものを適宜選択して用いればよい。
3.形質転換
本発明では、上述した制限酵素遺伝子を植物細胞において一過的に発現させるか、上述した制限酵素遺伝子をアグロバクテリウム法により植物細胞に導入する。これらいずれかの方法により、植物細胞を死滅することなくゲノムDNAにおける遺伝的組換え頻度を上げることができる。
ここで、制限酵素遺伝子を一過的に発現させるには、先ず、例えば、PEG法、エレクトロポレーション法及びパーティクルガン法を用いて、制限酵素遺伝子を発現可能に有する核酸構築物を、例えば、プラスミド等のベクターとして植物細胞内に物理的に導入する。次に、導入した制限酵素遺伝子に対して選抜圧のない培地にて生育させる。
これにより、制限酵素遺伝子がゲノムDNAに組み込まれるなどして安定的に発現する形質転換体のみならず、制限酵素遺伝子が一過的にしか発現しないように導入された形質転換体も選抜することができる。なお、核酸構築物を植物細胞内に物理的に導入した後、常に選抜圧を付加した状態で生育した場合、制限酵素遺伝子が選抜マーカーとともにゲノムDNAに組み込まれるなどして安定的に発現する形質転換体のみが選抜されることとなるが、この場合、形質転換された植物細胞は死滅することとなり所望の変異体植物を取得することができない。これは、パーティクルガン法等の核酸構築物の物理的導入によると、ゲノムDNA中に組み込まれる制限酵素遺伝子が多コピーとなることが多く、酵素活性の絶対量が上がり、通常の培養条件においても多頻度に遺伝子組換えが起こるためであると考えられる。
なお、PEG法及びエレクトロポレーション法においては、植物細胞を従来公知の手法によってプロトプラストとした後、核酸構築物を植物細胞内に物理的に導入する。また、パーティクルガン法においては、対象とする植物由来の未熟胚、完熟胚若しくはカルスに対して、上記核酸構築物を保持するパーティクルを打ち込むことができる。未熟胚、完熟胚若しくはカルスの調整は、従来公知の手法を適宜使用することができる。
また、好熱菌由来の制限酵素遺伝子を植物細胞に導入した場合、当該制限酵素が活性化する温度未満の温度条件で植物細胞を培養することが好ましい。このように、好熱菌由来の制限酵素遺伝子を導入し、且つ、当該制限酵素が活性化する温度未満の温度で植物細胞を培養することで、当該制限酵素の活性が高すぎて植物細胞が死滅するような不都合を回避することができる。
さらに、この場合、当該制限酵素が活性化する温度未満の温度範囲で当該植物細胞を培養する前に、当該制限酵素が活性化する温度で当該植物細胞を処理することが好ましい。このように、植物細胞の培養に先立って、当該制限酵素が活性化する温度で当該植物細胞を処理することで、一時的に制限酵素の活性を高めることができ、植物細胞内における遺伝子組換えを促進することができる。したがって、植物細胞の培養に先立って、当該制限酵素が活性化する温度で当該植物細胞を処理することで、遺伝子組換えを生じた変異体植物を効率良く製造することができる。なお、当該制限酵素が活性化する温度とは、例えば、植物細胞の培養温度(一例として約32℃)以上であって至適温度以下の温度、より具体的には植物細胞の培養温度以上であって50℃以下、より好ましくは植物細胞の培養温度以上であって40℃以下の温度を意味する。
特に、上述した制限酵素遺伝子を一過的に発現させる手法は、単子葉植物、特にイネに対して適用することが好ましい。上述した制限酵素遺伝子を一過的に発現させる手法をイネに適用することによって、遺伝的組換えによって再編成されたゲノムDNAを有する変異体イネを製造することができる。
一方、上述した制限酵素遺伝子をアグロバクテリウム法により植物細胞に導入する手法は、例えば、Bechtold, E., Ellis, J. and Pelletier, G. (1993) In Planta Agrobacterium-mediated gene transfer by infiltration of adult Arabidopsis plants. C.R. Acad. Sci. Paris Sci. Vie, 316, 1194-1199. あるいは、Zyprian E, Kado Cl, Agrobacterium-mediated plant transformation by novel mini-T vectors in conjunction with a high-copy vir region helper plasmid. Plant Molecular Biology, 1990, 15(2), 245-256.に記載された方法を用いることができる。
特に、アグロバクテリウム法により制限酵素遺伝子を植物細胞に導入した場合には、エレクトロポレーション法やパーティクルガン法を使用した場合と比較して、制限酵素遺伝子の導入に起因する植物細胞の死滅割合を低くすることができる。したがって、アグロバクテリウム法により制限酵素遺伝子を植物細胞に導入することによって、植物細胞を死滅することなくゲノムDNAにおける遺伝的組換え頻度を上げることができる。
また、アグロバクテリウム法により制限酵素遺伝子を導入する場合、制限酵素遺伝子を発現制御するプロモーターとしては、カリフラワーモザイクウイルス由来35Sプロモーター、及び当該カリフラワーモザイクウイルス由来35Sプロモーターよりもプロモーター活性の低いプロモーターを使用することが好ましい。カリフラワーモザイクウイルス由来35Sプロモーターよりもプロモーター活性の低いプロモーターとしては、シロイヌナズナのシグマ因子(AtSIG2)をコードする遺伝子のプロモーターを挙げることができる。
また、アグロバクテリウム法により上述した制限酵素遺伝子を導入する方法は、双子葉植物、特にシロイヌナズナに適用することが好ましい。上述した制限酵素遺伝子をアグロバクテリウム法によりシロイヌナズナに導入することによって、遺伝的組換えによって再編成されたゲノムDNAを有する変異体シロイヌナズナを製造することができる。
また、上述したように、制限酵素遺伝子が導入された植物細胞若しくはカルスは、従来公知の方法を適用して再分化させることによって、再編成されたゲノムDNAを有する変異植物体を得ることができる。
以下、実施例を参照して本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
[比較例1]
方法
(1) Taq I発現用プラスミド作製
Taq I遺伝子を持つTaq Iをクローニングした出芽酵母用プラスミドpHS141(His,V5エピトープタグを含む)を鋳型に下記のオリゴDNAを用いてPCR反応を実施し、Taq I遺伝子断片を取得した。
GAGGCGCGCCATGGCCCCTACACAAGCCCA(配列番号1)
(下線部はAsc I制限酵素認識部位)
GCTTAATTAATCAATGGTGATGGTGATGAT (配列番号2)
(下線部はPac I制限酵素認識部位)
得られた断片の配列を確認後Asc IとPac Iで切断し、断片をカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(CaMV 35S プロモーター)直下に接続し、下流にノパリン合成酵素遺伝子のターミネーター(Nos ter.)を持つ植物用プラスミドp35SP-Taq Iを構築した(図1の上)。なお、Taq I遺伝子の3'末端にはV5タグおよびHisタグの認識配列が融合されている。
(2) パーティクルガン法による遺伝子導入
イネ完熟種子から籾殻を除去し、70% エタノールで5分間、アンチホルミン(有効塩素 5%)で約2時間振盪滅菌した。滅菌蒸留水で5回以上洗浄後、カルス誘導培地(Linsmaier and Skoog(LS)培地に2 mg/L 2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)、30 g/L ショ糖、2.8 g/L L-プロリンを含む)に玄米を置床し、28 ℃の暗所で5日から6日間培養した。カルス化した種子部分から胚盤部分を摘出し、マンニトール含有培地(カルス誘導培地に0.4 M マンニトールを含む)に置床後、Ochiai-Fukuda T et al. (2006) (J Biotechnol 122:521-527) の方法に従い、パーティクルガン(BIO-RAD社 PDS-1000/He System)を用いて水稲品種日本晴の胚盤由来カルスに遺伝子導入を行った。実際には、プラスミドp35SP-Taq Iと、EGFP (enhanced green fluorescent protein)遺伝子及びブラストサイジン薬剤耐性(ブラストサイジンSデアミナーゼ:bsd)遺伝子を融合したgfbsdを有するプラスミドpAct-gfbsd(図1の下)とを、各2μgずつ混合して、直径0.6μmの金粒子に結合させ、パーティクルガンによる共導入(Co-transformation)を行った。また、ポジティブコントロールとして、pAct-gfbsd遺伝子のみを導入した。遺伝子導入後、28℃で約24時間培養を行い、ブラストサイジンS (BS)選抜培地(カルス誘導培地に10mg/L ブラストサイジン Sを含む)に置床した。BS選抜中のカルスは、26℃、28℃、32℃の各温度の植物用インキュベーターを用いて培養を行い、約2週間毎に新しいBS選抜培地へ継代した。
なお、プラスミドpAct-gfbsd において、gfbsd遺伝子はEGFP遺伝子とbsd遺伝子が18塩基のスペーサー配列で連結され、GFP蛍光発現とBS耐性を同時に付与できる。プラスミドpAct-gfbsd において、gfbsd遺伝子は、イネのアクチン遺伝子のプロモーターAct1の下流に挿入されている。
(3) 安定形質転換体の取得の試み
BS選抜培地上で生育したカルス塊について実体蛍光顕微鏡(Leica社)下で観察を行い、GFP蛍光を発するカルス塊を選抜した。カルス塊の一部をFTAカード(Whatman社)上に乗せ、パラフィルムで覆って上から強く押しつけた後、乾燥させた。直径2 mmのディスクとして打ち抜いた後、FTA精製試薬で3回、TEで2回洗浄して風乾した。乾燥させたディスクを用いてPCRを行い、Taq I遺伝子の染色体への導入を確認した。
緑化再生は再分化培地(0.2 % N-Zアミン、1 mg/L 1-ナフタリン酢酸(NAA)、2 mg/L 6-ベンジルアデニン (BA)を含む)上にカルス塊を置床し、26℃の培養温度、明期16時間の条件で生育させた。緑化、再生した個体を鉢上げ後、高湿度条件から徐々に湿度を下げながら馴化処理を行い、最終的に組換え温室で生育させた。
結果
(1) イネ胚盤由来カルスにパーティクルガン法を用いて、35S プロモーター制御のTaq I遺伝子と蛍光薬剤選抜マーカーgfbsd遺伝子を共導入(図1)したところ、多くのカルスの枯死とGFP蛍光の減衰が確認された(図2)。
(2) BS選抜時の温度条件(26℃、28℃、32℃)を検討したところ、選抜時の温度が高くなるとカルスの生育状態が悪くなり、BS選抜カルスの多くは枯死した。生存したカルスは、続く緑化処理課程でも、明らかにその緑化率が低下した。
(3) 緑化・発根に成功した15〜20のイネ再生個体は、鉢上げ段階で約2/3が枯死した。残り1/3の生存個体においてRT-PCRによる発現確認を行ったところTaq I遺伝子は発現していなかった。すなわちTaq Iが機能したイネ植物個体を取得することはできなかった。
(4) 以上の結果から、特許第4158920号に記載されたTaq Iシステムを、酵母同等の条件で植物細胞に適応した場合には細胞枯死が生じてしまい、ゲノムDNAにおける遺伝的組換えを有する変異体植物を作製することができないことが明らかとなった。
[実施例1]
方法
(1) YFP型組換え検出マーカーの作製
相同組換えが生じたことを検出するために、蛍光及び薬剤選抜マーカー遺伝子として、EYFP遺伝子(Clontech社)とbsd遺伝子を6アミノ酸からなるスペーサー配列(GGG CTC CAC GTG GCC GGC)を介して連結し、Act1プロモーター直下に挿入したプラスミドpAct-yfbsdを構築した(図3の上)。pAct-yfbsdのEYFP遺伝子領域内114番目のリジン(AAG)を終止コドン(TAG)に1塩基置換により改変して、YFP蛍光を発しないプラスミドpTG-sEYFPを構築し、受容体マーカー遺伝子(TGマーカー)とした(図3の上から2番目)。一方、pAct-yfbsdの開始コドンから54塩基を欠失させ、さらにyfbsd配列内のSph I制限酵素認識配列(GCATGC)をEco RI制限酵素認識配列(GAATTC)に書き換えたEYFP欠損プラスミドpRS2-dEYFP(Act1プロモーターは除いてある)を構築し、供与体マーカー遺伝子(RSマーカー)とした(図3の上から3番目)。
(2) YFP型組換え検出マーカー導入カルスの作出
YFP型組換え検出マーカープラスミドpTG-sEYFP、pRS2-dEYFP及びハイグロマイシン薬剤耐性遺伝子(HYG)を有するプラスミドp35S2P-HYGの3者をそれぞれ1.5μgずつ混合して、パーティクルガン法を用いて、イネ胚盤由来カルスに共導入した(図3の破線枠内)。遺伝子導入後のカルスはN6-ハイグロマイシン選抜培地(N6培地に2 mg/L 2,4-D、30g/L ショ糖、2.8 g/L L-プロリン、50 mg/L ハイグロマイシンを含む)に置床した。ハイグロマイシン選抜中のカルスは、28℃の植物インキュベーターを用いて培養を行い、約2週間毎にハイグロマイシン含有培地へ継代した。生存したカルス塊の一部をFTAカード上に乗せて固定し、PCRによりYFP型組換え検出マーカープラスミドpTG-sEYFPおよびpRS2-dEYFPの両方について染色体挿入を確認した(以後、TG/RSカルスと呼ぶ)。
(3) 制限酵素(Taq I)遺伝子の導入と一過性発現
TG/RSカルスをマンニトール含有培地上に置床し、パーティクルガン法により制限酵素(Taq I)遺伝子(p35SP-Taq I(比較例1参照))を導入し、一過的発現を実施した。遺伝子導入24時間後のカルス塊をN6-BS選抜培地(N6カルス誘導培地に10mg/L ブラストサイジン Sを含む)に置床し、32℃で短期間(3日間)培養した。
(4) DNA相同組換えの検出
N6-BS選抜培地上で生育したカルス塊は、実体蛍光顕微鏡下で蛍光観察を行い、DNA相同組換えが生じたことを示すYFP蛍光スポットを検出し、当該スポットを有するカルス塊数を測定した(図4)。上述したTaq I遺伝子の一過性発現によってTG/RSカルス内のTGマーカーとRSマーカー間で相同組換えが生じると、図4に示すように、YFBSDタンパク質が発現されることとなり、YFP蛍光を発するイネ・カルス(図4中、破線円内)が出現する。
その後、YFP蛍光カルス塊は非蛍光部分を含まないように切り出し、さらに細かく砕いて、N6-ハイグロマイシン選抜培地上で、ある程度の大きさのカルス塊になるまで生育させた。実体蛍光顕微鏡下で再度蛍光観察を行い、YFP蛍光のみを有するカルス塊を取得後、Nucleon PhytoPure(GE Healthcare社)を用いて、ゲノム抽出を行った。取得したイネゲノムを鋳型に下記のオリゴDNAを用いてPCRを行うことで、yfbsd相当遺伝子断片(1302塩基)を取得した(図5)。
EULS-11:AGACGATAAGCTTGATATCA(配列番号3)
(Act1 プロモーター領域内の配列)
EULS-10:ACCGGCAACAGGATTCAATC(配列番号4)
(NosT ターミネーター領域内の配列)
PCRにより得られた断片をEco RIで切断し、電気泳動により確認した(図5)。PCR増幅産物がEcoRIで切断されると、図5中の矢頭部に示すように、780塩基対及び522塩基対のDNA断片が生ずるため、これらを検出することでyfbsd遺伝子内に相同組換えが生じたことを確認できる。
(5) 形質転換体の取得
YFP蛍光カルス塊は再分化培地上に置床し、26℃の培養温度、明期16時間の条件で生育させた。緑化した個体を鉢上げ後、馴化処理を1週間程度行い、組換え温室で生育させた。
結果
(1) TG/RSカルス系統を構築後、パーティクルガン法によりTaq I遺伝子を導入して一過的発現を行ったところ、TaqIに依存して組換え発生を示唆するYFP蛍光スポットの出現が確認された(図4)。また、蛍光スポット部分のカルス塊を単離して生育させ、ゲノム抽出後、PCR-RFLP解析を行った。その結果、相同組換えが活性化されていることを確認した(図5)。
(2) YFP蛍光カルス塊を単離・取得後、イネ個体へと生育させたところ、形態変化が生じた変異体が得られた(図6)。詳細には高頻度で矮性株など、形態的表現型を持つ個体が得られた。
(3) 以上の結果から、植物細胞内においてTaq Iを一過的に発現させ、Taq Iが活性化する温度未満の温度(常温)で生育させることで、細胞枯死の発生を防止し、ゲノムDNAの遺伝的組換えを誘発し、形質変化を有する変異体植物を作製できることが明らかとなった。
[実施例2]
本実施例では、実施例1で使用したTaqI以外の制限酵素を使用し、同様にゲノムDNAの遺伝的組換え誘発実験を行った。
方法
(1)Sse 9I発現用プラスミド作製
Sporosarcina sp.由来Sse 9I遺伝子の塩基配列情報を元にして植物(シロイヌナズナ)のコドン利用率に最適化するようにDNAを全合成した。合成したSse 9I遺伝子の塩基配列を配列番号18に示した。また全合成したSse 9I遺伝子は、pDONR221(Invitrogen社製)にクローニングした。得られたベクターをTCL-AtSse9I/pDONR221と称す。
次に、TCL-AtSse9I/pDONR221を鋳型とし、下記のオリゴDNAを用いてPCRをおこない、Sse 9I遺伝子断片を取得した。
GAGGCGCGCCATGGGCATGAACAGCAGATTGTTAA(配列番号19)
(なお下線部はAsc I制限酵素認識部位)
GCTTAATTAATTATTGAGGGAGTGCTTGGGGAGGT(配列番号20)
(なお下線部はPac I制限酵素認識部位)
得られた断片の配列を確認後、Asc IとPac Iで切断した。この断片をカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(CaMV 35S promoter)直下に接続し、下流にノパリン合成酵素遺伝子のターミネーター(Nos ter.)を持つ植物用プラスミドp35SP-Sse 9Iを構築した(図7の上)。
(2)Tsp 45I発現用プラスミド作製
Thermus sp. YS45由来Tsp 45I遺伝子の塩基配列情報を元にして植物(シロイヌナズナ)のコドン利用率に最適化するようにDNAを全合成した。合成したTsp 45I遺伝子の塩基配列を配列番号21に示した。また全合成したTsp 45I遺伝子は、pENTR223.1(Invitrogen社製)にクローニングした。得られたベクターをTCL-AtTSP45I/pENTR223.1_LCと称す。
次に、TCL-AtTSP45I/pENTR223.1_LCを鋳型とし、下記のオリゴDNAを用いてPCRをおこない、Tsp 45I遺伝子断片を取得した。
GAGGCGCGCCATGGCCGAATGGAACGTTTGGACGC(配列番号22)
(なお下線部はAsc I制限酵素認識部位)
GCTTAATTAATTACAGACCAAGGGCTTCCTCTCCC(配列番号23)
(なお下線部はPac I制限酵素認識部位)
得られた断片の塩基配列を確認したところ、開始コドンから756bpのチミン塩基が欠失していた。そこで下記のオリゴDNAを用いて該当箇所にシトシン塩基を挿入し、フレームを修正(TTT/Phe→TTC/Phe)した。
AGGTGAAGTTCCAGAGTGATT(配列番号24)
(なお下線部は修正した塩基)
AATCACTCTGGAACTTCACCT(配列番号25)
(なお下線部は修正した塩基)
再びPCRを行い、得られた断片の配列を確認後、Asc IとPac Iで切断した。この断片をカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(CaMV 35S promoter)直下に接続し、下流にノパリン合成酵素遺伝子のターミネーター(Nos ter.)を持つ植物用プラスミドp35SP-Tsp 45Iを構築した(図7の下)。
(3) YFP型組換え検出マーカー導入T2種子の取得
YFP型組換え検出マーカープラスミドが導入されたTG/RSカルスにおいて、Taq I遺伝子の導入によって、YFP蛍光カルス出現率の高かった0926-69系統を再分化培地上に置床し、28℃の培養温度、明期16時間の条件で生育させた。緑化、再生した個体を鉢上げ後、高湿度条件から徐々に湿度を下げながら馴化処理を行い、組換え温室で生育させた(0926-69 #3系統)。得られたT1種子を播種後、幼根先端部を実体蛍光顕微鏡で観察し、YFP蛍光が見られないことを確認した。続いて幼植物を鉢に移植後、葉の一部をFTAカード上に乗せて固定し、PCRによりpTG-sEYFPおよびpRS2-dEYFPの両プラスミドがゲノム中に挿入されていることを確認し、それぞれの植物体を0926-69 #3-1、#3-2、#3-3、#3-4系統とした。組換え温室で生育させ、T2種子を取得した(以後、TG/RS(T2)種子と呼ぶ)。
(4) 制限酵素(Sse 9IまたはTsq 45I)の一過性発現とYFP蛍光スポット数
TG/RS(T2)完熟種子を、比較例1の(2)に記載した方法によってカルス誘導した。マンニトール含有培地上に置床し、パーティクルガン法により制限酵素(Taq I、Sse 9I、Tsq 45I)遺伝子(p35SP-Taq I、p35SP-Sse 9I、p35SP-Tsp 45I)、またはネガティブコントロールとしてハイグロマイシン耐性(HYG)遺伝子(p35S2P-HYG)を導入し、それぞれ一過的に発現させた。遺伝子導入24時間後のカルス塊をN6-BS選抜培地に置床し、32℃で培養した。生育したカルス塊は、実体蛍光顕微鏡下で蛍光観察を行い、DNA相同組換えが生じたことを示すYFP蛍光スポット(図8)およびスポットを有するカルス塊数を調べた(図9)。なお、YFP蛍光スポット出現率とは、カルス上に生じたYFP蛍光スポットの数を、パーティクルガン法によを用いた全カルス塊の数で除した値を100倍した数値である。
結果
YFP型組換え検出マーカー(TG/RS/HYG)遺伝子を導入固定したT2種子より誘導したカルス塊に、パーティクルガン法により、See 9IまたはTsp 45I遺伝子を導入して一過的発現を行ったところ、YFP蛍光スポットの出現が確認された(図8、図9)。このことから、Taq I以外の制限酵素においても相同組換えが生じることが確認された。
[実施例3]
本実施例では、制限酵素遺伝子を導入した後に熱処理を行うことで、ゲノムDNAの相同組換え率がどのように変動するか検証した。
方法
本実施例では、実施例1で使用したTaqI遺伝子(p35SP-Taq I(比較例1参照))を植物細胞に導入した後に熱処理を行った。具体的に本実施例では、実施例2で調整したTG/RS(T2)完熟種子を比較例1の(2)に記載した方法によってカルス誘導し、その後、マンニトール含有培地上に置床し、パーティクルガン法によりTaqI遺伝子(p35SP-Taq I)を導入した。遺伝子導入24時間後のカルス塊をN6-BS選抜培地に置床し、40℃または50℃で1時間の熱処理を行った。熱処理後のカルス塊は、再び32℃で生育させた。熱処理後3日目、5日目、7日目に各処理区のカルス塊の蛍光観察を行い、DNA相同組換えが生じたことを示すYFP蛍光スポットおよびスポットを有するカルス塊数を調べた(図10)。
結果
YFP型組換え検出マーカー(TG/RS/HYG)遺伝子を導入固定したT2種子より誘導したカルス塊に、パーティクルガン法により、Taq I遺伝子を導入して一過的発現後、TaqIが活性化する温度で熱処理(40℃または50℃で1時間処理)を行ったところ、DNA相同組換えが生じたことを示すYFP蛍光スポット出現率は、40℃/1時間処理で最も多く、出現時期も早かった(図10)。この結果から、制限酵素遺伝子を導入して一過的に発現させた後、制限酵素が活性化する温度で処理することで、比較的に早い段階で相同組換えが発生し、また相同組換えの頻度も向上することが確認された。
[実施例4]
1.材料および方法
1−1.実験材料
植物の実験材料は、野生型シロイヌナズナ エコタイプCol-0を用いた。植物体は、バーミキュライト混合土を入れた直径50mmのポットに播種し、22℃、16時間明期8時間暗期、光強度約30〜45μmol/m2/secの栽培室(SANYO社製)で生育させた。
1−2.方法
1−2−1.TaqI遺伝子の取得
TaqI遺伝子を持つ出芽酵母用プラスミドpHS141(特許第4158920)を鋳型とし、制限酵素サイト(BamHI、SacI)を付加した下記プライマー(BamHI-TaqI-F、TaqI-SacI-R)を用い、PrimeSTAR HS DNA Polymerase (タカラバイオ社製)によりPCRを行った。PCRの反応液組成、および反応条件は、添付の標準プロトコルに従った。
BamHI-TaqI-F(配列番号5):
5'-AGGATCCCCGGGTGGTCAGTCCCTTATGGCCCCTACACAAGCCCA-3'
TaqI-SacI-R(配列番号6):
5'-AGAGCTCTGTACCTCACGGGCCGGTGAGGGC-3'
PCR増幅産物は、アガロースゲルで電気泳動し、目的断片を含むゲルを切り出し、 illustra GFX PCR DNA and Gel Band Purification Kit (GEヘルスケア・ジャパン社製)を用いて目的のDNA断片を溶出・精製した。得られたDNA断片を、TaKaRa Ex Taq(タカラバイオ社製)1UとdATP(最終濃度 0.2mM)で70℃、30min処理しアデニンヌクレオチドを付加した。アデニンヌクレオチドを付加したDNA断片を、TOPO TA Cloning Kit(Invitrogen社製)を用いて、TA-Cloning用pCR2.1ベクターにライゲーション後、キット添付のコンピテントセル(ECOSTM Competent E. coli DH5α (ニッポンジーン社製))に形質転換した。形質転換後、50μl/mlのカナマイシンを添加したLB培地で培養し、形質転換体を選抜した。出現したコロニーを50μl/mlのカナマイシンを添加したLB培地で液体培養し、得られた菌体からQIAGEN 社製Plasmid Mini Kitを用いてプラスミドDNA を調製した。得られたTaqI遺伝子をクローニングしたベクターは、BigDye Terminater v3.1Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems社製)でシーケンス反応を行い、Applied Biosystems 3130 Genetic Analyzer(Applied Biosystems社製)によって塩基配列の決定を行った。TaqI遺伝子のコーディング領域の塩基配列を配列番号7に示した。
1−2−2.TaqI-NLS遺伝子の取得
TaqIのC末端側に核移行シグナル(NLS)を付加したTaqI-NLS遺伝子の取得は、1−2−1.と同様に行った。なおNLS配列を付加したプライマーは、TaqI-SacI-Rの代わりに、下記TaqI-NLS-SacI-Rプライマーを用いた。
TaqI-NLS-SacI-R(配列番号8):
5'-AGAGCTCCCCGGGCTATCCTCCAACCTTTCTCTTCTTCTTAGGCTGCAGACCTCCCGGGCCGGTGAGGGCTTCC-3'
NLS配列を付加したTaqI遺伝子のコーディング領域の塩基配列を配列番号9に示した。
1−2−3.ゲノムDNA調製
1−1.で栽培したシロイヌナズナから幼葉を採取し、液体窒素凍結下で粉砕した。QIAGEN社製DNA調製キット(DNeasy Plant Mini Kit)を用いてキット添付の標準プロトコルに従ってゲノムDNAを調製した。
1−2−4.HSP18.2プロモーターの取得
1−2−3.で調製したシロイヌナズナのゲノムDNAを鋳型とし、シロイヌナズナのHEAT SHOCK PROTEIN 18.2(At5g59720)のプロモーター部分(HSP18.2プロモーター)を増幅させるために、制限酵素サイト(SalI、BamHI)を付加した下記プライマー(SalI-HSP18.2-F、HSP18.2-BamHI-R)を用い、1−2−1.と同様にPCRを行った。
SalI-HSP18.2-F(配列番号10):
5'- AGTCGACTCTGGTGGTTTCAACTTGGG -3'
HSP18.2-BamHI-R(配列番号11):
5'- AGGATCCTGTTCGTTGCTTTTCGGGAG -3'
PCR増幅産物は、1−2−1.と同様にクローニングし、塩基配列の決定を行った。HSP18.2プロモーターの塩基配列を配列番号12に示した。
1−2−5.AtSIG2プロモーターの取得
1−2−3.で調製したシロイヌナズナのゲノムDNAを鋳型とし、シロイヌナズナのSIG2 (SIGMA SUBUNIT OF CHLOROPLAST RNA POLYMERASE)(At1g08540)のプロモーター部分(AtSIG2プロモーター)を増幅させるために、制限酵素サイト(SalI、BamHI)を付加した下記プライマー(SalI-AtSIG2-F、AtSIG2-BamHI-R)を用い、1−2−1.と同様にPCRを行った。
SalI-AtSIG2-F(配列番号13):
5'- AGTCGACCGATCTTTCTCCAACAAGCTT -3'
AtSIG2-BamHI-R(配列番号14):
5'- AGGATCCGCTCGTTCTTAGCCTATATTCG-3'
PCR増幅産物は、1−2−1.と同様にクローニングし、塩基配列の決定を行った。AtSIG2プロモーターの塩基配列を配列番号15に示した。
1−2−6.プロモータークローニング用ベクター(pBI101N2)の作製
植物発現用ベクターpBI121(CLONTECH社製)を制限酵素HindIII及びBamHI で処理した。次に、下記オリゴヌクレオチドを等量混合し、96℃で10min、その後室温に2時間静置後、上記制限酵素処理したpBI121とDNA Ligation Kit <Mighty Mix>(タカラバイオ社製)によりライゲーション反応を行い、プロモータークローニングベクターpBI101N2を作製した。
Linker-F2(配列番号16):
5'- AGCTTGGCGCGCCTTAATTAAACTAGTCTCGAGGTCGACT -3'
Linker-R2(配列番号17):
5'- CTAGAGTCGACCTCGAGACTAGTTTAATTAAGGCGCGCCA -3'
1−2−7.プロモータークローニング用ベクター(pBI TaqI、pBI TaqI-NLS)の作製
1−2−6.で作製したプロモータークローニングベクターpBI101N2に、1−2−1.で取得したTaqI遺伝子、1−2−2.で取得したTaqI-NLS遺伝子をサブクローニングし、各々、プロモータークローニング用ベクターpBI TaqI、プロモータークローニング用ベクターpBI TaqI-NLSを作製した。
まず、1−2−1.でTaqI遺伝子をクローニングしたpCR2.1ベクターを、制限酵素BamHI及びSacIで処理した。次に、同様に1−2−6.で作製したプロモータークローニングベクターpBI101N2を制限酵素BamHI及びSacIで処理した。これら制限酵素消化産物についてアガロースゲル電気泳動し、目的断片を含むゲルを切り出し、 illustra GFX PCR DNA and Gel Band Purification Kit (GEヘルスケア・ジャパン社製)を用いて、ゲルよりTaqI遺伝子断片及び制限酵素処理したpBI101N2断片を溶出・精製した。pBI101N2の断片をベクターとしてTaqI遺伝子断片をサブクローニングするため、DNA Ligation Kit <Mighty Mix>(タカラバイオ社製)によりライゲーション反応を行った。反応液をコンピテントセル(ECOSTM Competent E. coli DH5α(ニッポンジーン社製))に添加し、キット添付のプロトコルに従って形質転換を行った。50μg/mlのカナマイシンを含むLB寒天培地に塗布し一晩培養し、出現したコロニーを50μg/mlのカナマイシンを添加したLB培地で液体培養し、得られた菌体からPlasmid Mini Kit(QIAGEN社製)を用いてプラスミドDNAを調製した。得られたTaqI遺伝子断片をサブクローニングしたプロモータークローニング用ベクターpBI TaqIの塩基配列決定および配列解析を行った。
同様に、1−2−2.で取得したTaqI-NLS遺伝子を含むプロモータークローニング用ベクターpBI TaqI-NLSを作製した。
1−2−8.植物発現用ベクター(pBI 35S:TaqI、pBI 35S:TaqI-NLS)の作製
植物発現用ベクターpBI121〔プロモーターとして、cauliflower mosaic virus(CaMV)35s promoterを含む〕に、1−2−1.で取得したTaqI遺伝子、1−2−2.で取得したTaqI-NLS遺伝子をサブクローニングし、各々、植物発現用ベクターpBI 35S:TaqI、植物発現用ベクターpBI 35S:TaqI-NLSを作製した。
1−2−1.でTaqI遺伝子をクローニングしたpCR2.1ベクターを、制限酵素BamHI及びSacIで処理した。次に、同様にpBI121を制限酵素BamHI及びSacIで処理した。以下、1−2−7.と同様に、得られたTaqI遺伝子断片をサブクローニングした植物発現用ベクターpBI 35S:TaqIの塩基配列決定および配列解析を行った。
また同様に、1−2−2.で取得したTaqI-NLS遺伝子を含む植物発現ベクターpBI 35S:TaqI-NLSを作製した。
1−2−9.植物発現用ベクター(pBI HSP18.2:TaqI、pBI HSP18.2:TaqI -NLS)の作製
1−2−7.で作製したプロモータークローニング用ベクター(pBI TaqI、pBI TaqI-NLS)、に、1−2−4.で取得したHSP18.2プロモーターをサブクローニングし、各々植物発現用ベクターpBI HSP18.2:TaqI、植物発現用ベクターpBI HSP18.2:TaqI -NLSを作製した。
1−2−4.でHSP18.2プロモーターをクローニングしたpCR2.1ベクターを、制限酵素SalI及びBamHIで処理した。次に、同様に1−2−7.で作製したプロモータークローニング用ベクターpBI TaqIを制限酵素SalI及びBamHIで処理した。以下、1−2−7.と同様に、得られたHSP18.2プロモーターをサブクローニングした植物発現用ベクターpBI HSP18.2:TaqIの塩基配列決定および配列解析を行った。
また同様に、1−2−7.で作製したプロモータークローニング用ベクターpBI TaqI-NLSに、1−2−4.で取得したHSP18.2プロモーターをサブクローニングした植物発現ベクターpBI 35S:TaqI-NLSを作製した。
1−2−10.植物発現用ベクター(pBI AtSIG2:TaqI、pBI AtSIG2:TaqI -NLS)の作製
1−2−7.で作製したプロモータークローニング用ベクター(pBI TaqI、pBI TaqI-NLS)、に、1−2−5.で取得したAtSIG2プロモーターをサブクローニングし、各々植物発現用ベクターpBI AtSIG2:TaqI、植物発現用ベクターpBI AtSIG2:TaqI -NLSを作製した。
1−2−5.でAtSIG2プロモーターをクローニングしたpCR2.1ベクターを、制限酵素SalI及びBamHIで処理した。次に、同様に1−2−7.で作製したプロモータークローニング用ベクターpBI TaqIを制限酵素SalI及びBamHIで処理した。以下、1−2−7.と同様に、得られたAtSIG2プロモーターをサブクローニングした植物発現用ベクターpBI AtSIG2:TaqIの塩基配列決定および配列解析を行った。
また同様に、1−2−7.で作製したプロモータークローニング用ベクターpBI TaqI-NLSに、1−2−4.で取得したAtSIG2プロモーターをサブクローニングした植物発現ベクターpBI AtSIG2:TaqI -NLSを作製した。
1−2−11.アグロバクテリウム法を用いたシロイヌナズナへの遺伝子導入
1−2−8.から1−2−10.で作製した植物発現用ベクターをエレクトロポレーション法(Plant Molecular Biology Mannal, Second Edition , B. G. Stanton and A. S. Robbert, Kluwer Acdemic Publishers 1994)により、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)C58C1株に導入した。次いで植物発現用ベクターが導入されたアグロバクテリウム・ツメファシエンスを、Cloughらにより記載された浸潤法(Steven J. Clough and Andrew F. Bent, 1998, The Plant Journal 16, 735-743)により、野生型シロイヌナズナ エコタイプCol-0に導入した。
形質転換したシロイヌナズナは、22℃、16時間明期8時間暗期、光強度約30〜45μmol/m2/secで生育させ、T1種子を回収した。回収したT1種子は、カナマイシン(50mg/L)、カルベニシリン(100mg/L)及びベンレートT水和剤20(20mg/L:住友化学社製)を含む改変MS寒天培地〔ショ糖10 g/l、MES (2-Morpholinoethanesul phonic acid)0.5g/L、寒天(細菌培地用;和光純薬工業社製)8 g/L〕に無菌播種し、22℃、16時間明期8時間暗期、光強度約60〜90μmol/m2/secの植物インキュベータ(トミー精工社製)で培養し形質転換体を選抜した。選抜した形質転換体は、鉢あげ馴化し、22℃、16時間明期8時間暗期、光強度約30〜45μmol/m2/secで生育させ、自家受粉によりT2種子を得た。
なお、MS培地はMurashige, T. et al. (1962) Physiol. Plant., 15, 473-497を参照する。
2.結果
上記1−2−11.の結果として、TaqI遺伝子を導入した形質転換植物体の地上部を撮影した写真を図11〜13に示す。また、結果として、プロモーターの違いによる形質転換効率(鉢あげ数/T1種子播種数)を表1に示す。
Figure 0005874949
なお、図11は、AtSIG2プロモーターとNLSを付加したTaqIとを組み合わせた植物発現ベクター(AtSIG2 TaqI-NLS)で、形質転換したシロイヌナズナを撮像した写真である。図11に示すように、花茎が異常に分岐しており、播種後8ヶ月間、枯れずに生育していた。また、図12は、AtSIG2プロモーターとNLSを付加したTaqIとを組み合わせた植物発現ベクター(AtSIG2 TaqI-NLS)で、形質転換したシロイヌナズナを撮像した写真である。図12に示すように、茎が扁平していることがわかる。図13は、CaMV 35s プロモーターとTaqIとを組み合わせた植物発現ベクター(pBI 35S:TaqI)で、形質転換したシロイヌナズナを撮像した写真である。図13に示すように、バイオマスが増産していることがわかる。
以上の結果から、植物体(シロイヌナズナ)に、アグロバクテリウム法を用いて制限酵素Taq I遺伝子を導入したところ、ゲノムDNAの遺伝的組換えを誘発することができ種々の形質を有する変異体植物を作製できることが明らかとなった。また、表1に示すように、今回の栽培条件でTaqIに組合せるプロモーターは、CaMV 35s プロモーター及び、当該CaMV 35s プロモーターよりプロモーター活性の低いAtSIG2プロモーターが好適であると判断できる。

Claims (7)

  1. 対象とする植物細胞内において発現可能な制限酵素遺伝子をパーティクルガン法により当該植物細胞に導入し、選抜マーカーを利用した選抜圧を付加しない培地にて上記植物細胞を培養することで当該制限酵素遺伝子を一過的に発現させてゲノムDNAに遺伝的組換えを誘導することを特徴とする変異体植物の製造方法。
  2. 上記制限酵素遺伝子が好熱菌由来の制限酵素遺伝子であり、当該制限酵素遺伝子を導入した植物細胞を、当該制限酵素遺伝子がコードする制限酵素が活性化する温度未満の温度で培養することを特徴とする請求項1記載の変異体植物の製造方法。
  3. 上記制限酵素遺伝子が好熱菌由来の制限酵素遺伝子であり、当該制限酵素遺伝子を導入した植物細胞を、当該制限酵素遺伝子がコードする制限酵素が活性化する温度で処理し、その後、当該植物細胞を培養することを特徴とする請求項1記載の変異体植物の製造方法。
  4. 請求項1乃至いずれか一項記載の変異体植物の製造方法により製造され、再編成されたゲノムDNAを有する変異体植物。
  5. 対象とする植物細胞内において発現可能な制限酵素遺伝子をパーティクルガン法により当該植物細胞に導入し、選抜マーカーを利用した選抜圧を付加しない培地にて上記植物細胞を培養することで当該制限酵素遺伝子を一過的に発現させてゲノムDNAに遺伝的組換えを誘導することを特徴とする遺伝的組換え頻度を上昇させる方法。
  6. 上記制限酵素遺伝子が好熱菌由来の制限酵素遺伝子であり、当該制限酵素遺伝子を導入した植物細胞を、当該制限酵素遺伝子がコードする制限酵素が活性化する温度未満の温度で培養することを特徴とする請求項記載の遺伝的組換え頻度を上昇させる方法。
  7. 上記制限酵素遺伝子が好熱菌由来の制限酵素遺伝子であり、当該制限酵素遺伝子を導入した植物細胞を、当該制限酵素遺伝子がコードする制限酵素が活性化する温度で処理し、その後、当該植物細胞を培養することを特徴とする請求項記載の遺伝的組換え頻度を上昇させる方法。
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