JP6874742B2 - 細胞質ゲノムを改変するための化合物及びその利用 - Google Patents

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Description

本明細書は、細胞質ゲノムを改変するための化合物及びその利用に関する。
異なる生物種あるいは同種の生物間でも、細胞質ゲノムのハプロタイプに多様性が存在し、その多様性に起因して機能の違いが報告されている。例えば、植物 Oenothera 属のプラスチドはタイプよって、分裂速度が異なることが報告されている(非特許文献1)。また、マウスではミトコンドリアゲノムのハプロタイプの違いが健康寿命に影響することが報告されている(非特許文献2)。
例えば、植物のプラスチドゲノム上には約120〜130個の遺伝子がコードされており、その多くはsingle-copy で、LSCやSSC上に存在しており (Arabidopsis thaliana の場合、87 種類の構造遺伝子、4種類のrRNA遺伝子、37 種類の tRNA 遺伝子)、光合成遺伝子と転写・翻訳系の遺伝子に大きく分けられる。このように、細胞質ゲノムには、光合成遺伝子などその生物体の有用性に大きく係わる遺伝子がコードされている。
一方、プラスチドゲノムに変異を導入するという種々の試みが報告されている。例えば、N-nitroso-N-methyl-urea (NMU)、 N-nitroso-N-ethyl-urea、methyl-nitro-nitroso-guanidine (MNNG)、ethyl-methane- sulfonate (EMS)、5-bromo-2'-deoxyuridine、9-aminoacridine hydrochloride などの化学物質による変異導入が試みられている(非特許文献1、3)。さらに、UVやX線などの放射線照射によるプラスチドゲノムへの変異誘導も検討されている(非特許文献1)。また、プラスチドゲノムを1ヶ所切断する I-CreII 遺伝子の導入によるプラスチドゲノムの欠失が報告されている(非特許文献5)。さらにまた、プラスチドゲノムの複製・修復・安定性に関与する核コードタンパク質遺伝子(cpRecA1, gyrA, gyrB, msh1, polIB, why1, why3) の変異株・ノックダウン株の作製が行われている (非特許文献3、非特許文献4) 。
一方、制限酵素遺伝子を細胞に導入して、核ゲノムの二本鎖DNAを切断することで核ゲノムに大幅な改変を導入して、多様性のある核ゲノムセットを有する真核生物集団を確立する技術が報告されている(特許文献1〜3)。
特開2011−160798号公報 特開2006−141322号公報 特開2012−44883号公報
Greiner, S. (2012) Plastome mutants of higher plants. In R., Bock, & V., Knoop (Eds.), Genomics of Chloroplasts and Mitochondria (Advances in Photosynthesis and Respiration) (pp. 237-266). Latorre-Pellicer, A., Moreno-Loshuertos, R., Lechuga-Vieco, A.V., Sanchez-Cabo, F., Torroja, C., Acin-Perez, R., Calvo, E., Aix, E., Gonzalez-Guerra, A., Logan, A., Bernad-Miana, M.L., Romanos, E., Cruz, R., Cogliati, S., Sobrino, B., Carracedo, A., Perez-Martos, A., Fernandez-Silva, P., Ruiz-Cabello, J., Murphy, M.P., Flores, I., Vazquez, J. and Enriquez, J.A. (2016) Mitochondrial and nuclear DNA matching shapes metabolism and healthy ageing. Nature, 535, 561-565. Cappadocia, L., Marechal, A., Parent, J.S., Lepage, E., Sygusch, J. and Brisson, N. (2010) Crystal structures of DNA-Whirly complexes and their role in Arabidopsis organelle genome repair. Plant Cell, 22, 1849-1867 Zampini, E., Lepage, E., Tremblay-Belzile, S., Truche, S. and Brisson, N. (2015) Organelle DNA rearrangement mapping reveals U-turn-like inversions as a major source of genomic instability in Arabidopsis and humans. Genome Res., 25, 645-654. Kwon, T., Huq, E. and Herrin, D.L. (2010) Microhomology-mediated and nonhomologous repair of a double-strand break in the chloroplast genome of Arabidopsis. Proc Natl Acad Sci USA. 107, 13954-13959
プラスチドゲノムの改変の有用性は高いと考えられるが、上記のいずれの方法も、細胞質ゲノムの特性、機能、構造あるいは修復のメカニズムの解明を目指したものであって、プラスチドゲノムを改変して有用生物材料を得ようとするものではない。また、これらの方法には、有用な生物材料を得るには種々の困難性があった。例えば、プラスチドゲノムの複製・修復・安定性に関する核コードタンパク質遺伝子の変異株、ノックダウン株のプラスチドゲノムにおいて、逆位、欠失、重複などの構造変化が観察されているものの、植物体のダメージが過大であり、スクリーニングによって有用な植物を得るには適していなかった。
また、化学物質による変異でも、核ゲノム、プラスチドゲノム及びミトコンドリアゲノムのうち意図したゲノムを標的とするのが困難であり、結果として、生物体へのダメージが大きくなってしまう。放射線などの方法では、変異導入効率が低すぎて、やはり有用植物を得るには適していないという問題があった。
さらに、プラスチドゲノムの特定部位を切断するI-CreII 遺伝子を用いる方法は、その切断修復によりプラスチドゲノムに欠失等を生じることに関するものであり、かかる欠失のみによっては、有用な形質を誘発したりスクリーニングに供することは到底困難であった。
また、一般に、細胞質ゲノムは、核ゲノムとはそれ自体の性質のほかその修復メカニズムも大きく異なり概してより保存的であることが考えられるため、制限酵素を用いた核ゲノムを編成・改変させる技術を細胞質ゲノムに適用しても成功するという予測は困難であった。すなわち、細胞質ゲノムのコピー数は核ゲノムよりもはるかに多く、プラスチドの分化状態にもよるが、葉緑体は成熟葉では、1葉緑体あたり100コピー程度のプラスチドゲノムを含む。さらに、葉緑体は1細胞あたり100個程度存在することから、1細胞あたり核ゲノムは2コピーであるのに対し、プラスチドゲノムは10,000コピー程度含む。このため、細胞質ゲノムに変異を導入しえたとしても修復あるいは相同組換え等により取り除かれる。また、通常異なるタイプの細胞質ゲノム間では組換えが行われないという背景があった。さらに、例えば、高等植物においては、薬剤耐性などを除くとプラスチドゲノム上の遺伝子の変異はほんの69例が知られているに過ぎなかった(Greiner, 2012)。
プラスチドなどの細胞質ゲノムの改変は、生物材料の形質の改変・向上に有効である可能性はある。しかしながら、現状において、細胞質ゲノムを効果的に改変しつつ、それに伴う生長阻害、不稔等の悪影響をコントロールして、有用な生物材料を得るための有効な手法が存在していない。
本明細書は、かかる課題に鑑みて、細胞質ゲノムの改変に有用な化合物及びその利用を提供する。
本発明者らは、例えば、プラスチドなどの細胞質ゲノムの構造は、植物種間で比較的保存されているものの、種や属によっては、逆位、欠失、重複、転座、挿入などの大きな構造変化に起因した多様性を有していることに着目した。そして、こうした構造変化は、アミノ酸置換を引き起こす塩基置換やDNA二本鎖切断とそれらのミス修復に起因するであろうと推測した。本発明者らは、従来より、制限酵素などの多頻度DNA切断酵素による核ゲノム編成技術について研究していたが、当該ゲノム編成技術を、あえて改変が困難であると予想される細胞質ゲノムへのゲノム編成技術に適用することを試みた。
本発明者らの種々の検討の結果、多頻度DNA切断酵素に、細胞質ゲノムを有する細胞小器官に対する転移要素を付与することで、多頻度DNA切断酵素を細胞質ゲノムに選択的に適用して、生物材料の生育を確保しつつ、細胞質ゲノムの編成を効果的に促進し、生物材料を遺伝的に改変して、その材料に新たな形質を導入できるという知見を得た。本明細書によれば、以下の手段が提供される。
すなわち、本明細書によれば、真核生物の細胞質ゲノムの編成に用いる剤として、DNA二本鎖切断活性を有するポリペプチドと、細胞質ゲノムを有する細胞小器官に対する転移要素と、を備える融合ポリペプチド及び当該融合ポリペプチドをコードする核酸が提供される。
また、本明細書によれば、真核生物の細胞質ゲノムの編成方法であって、前記真核生物又はその一部に対して、DNA二本鎖切断活性を有するポリペプチドと、細胞質ゲノムを有する細胞小器官に対する転移要素と、を備える融合ポリペプチド又は当該融合ポリペプチドをコードする核酸を導入する導入工程と、前記融合ポリペプチドにより前記真核生物又はその一部の細胞内において細胞質ゲノムの編成を生じさせる編成工程と、を備える、方法(以下、本編成方法ともいう。)が提供される。
また、本明細書によれば、遺伝的に改変された真核生物の生産方法であって、前記真核生物又はその一部に対して、DNA二本鎖切断活性を有するポリペプチドと、細胞質ゲノムを有する細胞小器官に対する転移要素と、を備える融合ポリペプチド又は当該融合ポリペプチドをコードする核酸を導入する導入工程と、前記融合ポリペプチドにより前記真核生物又はその一部の細胞内において細胞質ゲノムの編成を生じさせる編成工程と、を備える、方法(以下、本生産方法ともいう。)が提供される。
さらに、本明細書によれば、形質転換された真核生物材料であって、DNA二本鎖切断活性を有するポリペプチドと、細胞質ゲノムを有する細胞小器官に対する転移要素と、を備える融合ポリペプチド又は当該融合ポリペプチドをコードする核酸を保持する、材料が提供される。
さらにまた、本明細書によれば、真核生物材料であって、細胞質ゲノムにおける構造変化数が前記真核生物材料の野生型の2倍以上である、材料が提供される。
なお、本明細書によれば、上記手段を含んで以下の各種態様の手段を含むことができる。
[1](1)DNA二本鎖切断活性を有するポリペプチドと、細胞質ゲノムを有する細胞小器官に対する転移要素と、を備える融合ポリペプチド、及び
(2)前記融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
のいずれかを含有する、真核生物の細胞質ゲノムを編成するための剤。
[2]前記細胞小器官はプラスチドである、[1]に記載の編成剤。
[3]前記二本鎖DNA切断活性を有するポリペプチドは、多頻度DNA切断酵素である、[1]又は[2]に記載の編成剤。
[4]前記転移要素は、前記真核生物の核コードの前記細胞小器官タンパク質のトランジット領域を含む、[1]〜[3]のいずれかに記載の編成剤。
[5]前記真核生物はアブラナ科植物である、[4]に記載の編成剤。
[6]前記アブラナ科植物は、シロイヌナズナである、[5]に記載の編成剤。
[7]前記編成は、塩基置換、欠失、挿入、転座、重複及び逆位から選択される1種又は2種以上を有する前記細胞質ゲノムの構造変化である、[1]〜[6]のいずれかに記載の編成剤。
[8]前記細胞質ゲノムに対して、編成前の前記細胞質ゲノムの構造変化数に比較して2倍以上の構造変化数を誘導する、[1]〜[7]のいずれかに記載の編成剤。
[9]前記細胞質ゲノムに対して、編成前の前記細胞質ゲノムのDNAの逆位、欠失及び重複」の総個数(ゲノム1分子相当量)に比較して2倍以上の「DNAの逆位、欠失及び重複」の総個数(ゲノム1分子相当量)を誘導する、[1]〜[8]のいずれかに記載の編成剤。
[10]前記細胞質ゲノムに対して、編成前の前記細胞質ゲノムのDNAの逆位、欠失及び重複」の総個数(ゲノム1分子相当量)に比較して10倍以上の「DNAの逆位、欠失及び重複」の総個数(ゲノム1分子相当量)を誘導する、[1]〜[9]のいずれかに記載の編成剤。
[11]前記真核生物は、植物細胞である、[1]〜[10]のいずれかに記載の編成剤。
[12][1]〜[11]のいずれかに記載の核酸を含む、真核生物の形質転換ベクター。
[13][12]に記載の形質転換ベクターにより形質転換された真核生物。
[14]真核生物の細胞質ゲノムの編成方法であって、
前記真核生物又はその一部に対して、DNA二本鎖切断活性を有するポリペプチドと、細胞質ゲノムを有する細胞小器官に対する転移要素と、を備える融合ポリペプチド又は当該融合ポリペプチドをコードする核酸を導入する導入工程と、
前記融合ポリペプチドにより前記真核生物又はその一部の細胞内において細胞質ゲノムの編成を生じさせる編成工程と、
を備える、方法。
[15]前記導入工程は、前記核酸を前記融合ポリペプチドを発現可能な前記真核生物又はその一部に導入する工程である、[14]に記載の方法。
[16]遺伝的に改変された真核生物の生産方法であって、
前記真核生物又はその一部に対して、DNA二本鎖切断活性を有するポリペプチドと、細胞質ゲノムを有する細胞小器官に対する転移要素と、を備える融合ポリペプチド又は当該融合ポリペプチドをコードする核酸を導入する導入工程と、
前記融合ポリペプチドにより前記真核生物又はその一部の細胞内において細胞質ゲノムの編成を生じさせる編成工程と、
を備える、方法。
[17]さらに、前記編成工程によって得られた真核生物から、有用な形質を有する個体をスクリーニングする工程、を備える、[16]に記載の方法。
[18]形質転換された真核生物材料であって、
DNA二本鎖切断活性を有するポリペプチドと、細胞質ゲノムを有する細胞小器官に対する転移要素と、を備える融合ポリペプチド又は当該融合ポリペプチドをコードする核酸を保持する、材料。
[19]真核生物材料であって、
細胞質ゲノムにおける構造変化数が前記真核生物材料の野生型の2倍以上である、材料。
35S:pTaqI株(V)の表現型の観察結果を示す図(A)〜(D)である。 HSP18.2:pTaqI株の表現型の観察結果を示す図(A)〜(H)である。 HSP18.2:pHinP1I株とHSP18.2:pMseI株の表現型を示す図(A)〜(F)である。(E)及び(F)は、それぞれ、斑入り部分のチラコイド構造のTEM写真を示す。 HSP18.2:pTaqI株のプラスチド遺伝子の定量解析結果を示す図(A)〜(D)である。(A)は、ndhH遺伝子、(B)は、rrn16遺伝子、(C)は、psaB遺伝子、(D)は、psbB遺伝子について示す。 HSP18.2:pHinP1I株及びHSP18.2:pMseI株のプラスチド遺伝子の定量解析結果を示す図(E)及び(G)及び(H)〜(J)である。(E)、(H)は、ndhH遺伝子、(F)、(I)は、rrn16遺伝子、(G)(J)は、psaB遺伝子について示す。 pTaqIによるプラスチドゲノムの二本鎖DNA切断の導入結果を示す図(A)〜(E)である。(A)は、TaqI 切断サイトを4 箇所含むプラスチドゲノム LSC 領域 (24,429-25,010 bp)、(B)は、TaqI 切断サイトを 6 箇所含むプラスチドゲノム LSC 領域 (50,877-51,473 bp)、(C)は、TaqI 切断サイトを 7 箇所含むプラスチドゲノム IR 領域 (97,944-98,498 bp or 140,151-140,705 bp)、(D)は、TaqI 切断サイトを7 箇所含むプラスチドゲノム LSC 領域 (19,011-19,610 bp)、(E)は、TaqI 切断サイトを 9 箇所含むプラスチドゲノム IR 領域 (95,550-96,172 bp or 142,477-143,099 bp)をそれぞれ示す。 pHinP1I及びpMseIによるプラスチドゲノムの二本鎖DNA切断の導入結果を示す図(F)〜(H)及び(I)〜(K)である。(F)は、HinP1I 認識サイトを 2 箇所含むプラスチドゲノム SSC 領域 (114,339-114,981 bp)、(G)は、HinP1I 認識サイトを 4 箇所含むプラスチドゲノム IR 領域 (102,737-103,320 bp or 135,329-135,912 bp)、(H)は、HinP1I 認識サイトを 5 箇所含むプラスチドゲノム LSC 領域 (32,852-33,465 bp)、(I)は、MseI 認識サイトを 5 箇所含むプラスチドゲノム SSC 領域 (121,773-122,345 bp)、(J)は、MseI 認識サイトを 5 箇所含むプラスチドゲノム IR 領域 (99,985-100,520 bp or 138,129-38,664 bp).、(K)は、MseI 認識サイトを 9 箇所含むプラスチドゲノム LSC 領域 (80,419-80,989 bp)をそれぞれ示す。 プラスチドゲノムにマップされたリード(ペアエンド)のCoverage解析結果を示す図である。 プラスチドゲノムにマップされたリード(ペアエンド)のCoverage解析結果を示す図(D)〜(F)である。 プラスチドゲノムにマップされたリード(ペアエンド)のCoverage解析結果を示す図(G)である。 pTaqI、pHinP1I及びpMseIによるプラスチドゲノムの構造変化数を示す図である。 pTaqI、pHinP1I及びpMseIにより誘導されたプラスチドゲノムの構造変化の特徴を示す図である。 pTaqIにより誘導されたプラスチドゲノム上の塩基置換の例を示す図(A)〜(C)である。
本明細書は、真核生物の細胞小器官における細胞質ゲノムを編成することによる真核生物の改変ないし育種する技術に関し、詳しくは、DNA二本鎖切断活性を有するタンパク質を細胞質ゲノムに作用させて細胞質ゲノムを編成することによる技術等及びその利用に関する。本育種方法によれば、真核生物の細胞質ゲノムを選択的に編成することができ、細胞質ゲノムにおいてコードされる遺伝子に関連する機能を選択的かつ効率的に改変し、有用な真核生物を得ることができる。
本技術によれば、細胞質ゲノム組成及び形質の多様性に富む真核生物集団を、効率的に構築することができる。細胞質ゲノムは核ゲノムと比較して高度に修復メカニズムが作用して実際に保存的であるが、本技術によれば、細胞質ゲノムのDNA二本鎖切断という強力な破壊作用に抗して高度な修復メカニズムが作用する結果、真核生物へのダメージを抑制しつつ細胞質ゲノムにおいても構造変化を効果的に得ることができる。
また、本技術によれば、細胞質ゲノムのDNA二本鎖切断及び修復という機構を利用して細胞質ゲノムを編成し改変するため、細胞質ゲノムの塩基配列を同定することなく細胞質ゲノムを一挙に改変して、多様な細胞質ゲノムを有する真核生物の集団を得て、有用な真核生物を選択することができる。したがって、本技術によれば、細胞質ゲノムにおいてコードされる遺伝子が関連する真核生物の、量的形質などの有用な形質を効率的に改変することができる。
また、本技術によれば、標的とする細胞小器官や細胞質ゲノムに対するDNA二本鎖切断活性の作用強度や作用時期を、転移要素の選択やプロモーター等の種類によって容易に調節が可能であるため、真核生物の種類等に応じたアレンジも容易となっている。
本明細書において「細胞質ゲノム」とは、核以外の細胞小器官固有のゲノムをいう。細胞質ゲノムは、細胞分裂と独立し又は同調して分裂する。
また、本明細書における細胞質ゲノムが存在する「細胞小器官」は、植物細胞、藻類、及びコケ類に存在するプラスチド(色素体)、ミトコンドリア及び動物細胞におけるミトコンドリア等が挙げられる。プラスチドとしては、アミロプラスト、葉緑体、エチオプラスト、エライオプラスト、有色体、白色体が挙げられる。
本明細書において「編成」とは、広い意味において、DNA切断・再結合現象を意味する。したがって、本明細書における「編成」には、DNAにおける相同組換え、非相同組換を包含する。さらに、本明細書における「編成」は、DNAにおける1又は2以上の塩基の置換、挿入及び欠失等による遺伝子突然変異及びDNAの逆位、不等交叉、交叉、転座、重複、欠失等を包含する。
以下、本明細書の開示の各種実施形態について、詳細に説明する。
(真核生物の細胞質ゲノムを編成するための剤)
本明細書に開示される真核生物の細胞質ゲノムを編成するための剤(以下、単に、本編成剤という。)は以下の(1)及び(2)のいずれかを含有することができる。
(1)DNA二本鎖切断活性を有するポリペプチドと、細胞質ゲノムを有する細胞小器官に対する転移要素と、を備える融合ポリペプチド
(2)前記融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(真核生物)
本編成剤及び本編成剤を利用する方法(以下、本編成剤ともいう。)は、任意の真核生物に適用可能である。真核生物が多細胞生物であるときには、真核生物の一部(例えば、後述するように、細胞、組織、器官等)に対して利用できる。
本編成剤等を適用できる真核生物としては、動物、植物、藻類、コケ類、真核性微生物が挙げられる。動物としては特に限定しないで、非ヒト哺乳動物を含む哺乳動物及び各種の魚類などの非哺乳動物が挙げられる。また、本編成剤等を適用できる動物としては、動物に由来するものであればよく、各種細胞、組織、器官、未受精、精子、受精卵などいずれの形態であってもよい。受精卵など、完全な動物に再生する能力を保持しているものであれば、改変した動物を得るのに都合がよい。
本育種方法に適用される植物としても特に限定するものではないが、例えば、双子葉植物、単子葉植物、例えばアブラナ科、イネ科、ナス科、マメ科、ヤナギ科等に属する植物(下記参照)が挙げられる。
アブラナ科:シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、アブラナ(Brassica rapa、Brassica napus)、キャベツ(Brassica oleracea var. capitata)、ハクサイ(Brassica rapa var. pekinensis)、チンゲンサイ又はパクチョイ(Brassica rapa var. chinensis)、カブ(Brassica rapa var. rapa)、ノザワナ(Brassica rapa var. hakabura)、ミズナ(Brassica rapa var. lanciniifolia)、コマツナ(Brassica rapa var. perviridis)、ダイコン(Raphanus sativus)、ワサビ(Wasabia japonica)など。
ナス科:タバコ(Nicotiana tabacum)、ナス(Solanum melongena)、ジャガイモ(Solanum tuberosum)、トマト(Lycopersicon lycopersicum)、トウガラシ(Capsicum annuum)、ペチュニア(Petunia)など。
マメ科:ダイズ(Glycine max)、エンドウ(Pisum sativum)、ソラマメ(Vicia faba)、フジ(Wisteria floribunda)、ラッカセイ(Arachis hypogaea)、ミヤコグサ(Lotus corniculatus var. japonicus)、インゲンマメ(Phaseolus vulgaris)、アズキ(Vigna angularis)、アカシア(Acacia)など。
キク科:キク(Chrysanthemum morifolium)、ヒマワリ(Helianthus annuus)など。
ヤシ科:アブラヤシ(Elaeis guineensis、Elaeis oleifera)、ココヤシ(Cocos nucifera)、ナツメヤシ(Phoenix dactylifera)、ロウヤシ(Copernicia)など。
ウルシ科:ハゼノキ(Rhus succedanea)、カシューナットノキ(Anacardium occidentale)、ウルシ(Toxicodendron vernicifluum)、マンゴー(Mangifera indica)、ピスタチオ(Pistacia vera)など。
ウリ科:カボチャ(Cucurbita maxima、Cucurbita moschata、Cucurbita pepo)、キュウリ(Cucumis sativus)、カラスウリ(Trichosanthes cucumeroides)、ヒョウタン(Lagenaria siceraria var. gourda)など。
バラ科:アーモンド(Amygdalus communis)、バラ(Rosa)、イチゴ(Fragaria)、サクラ(Prunus)、リンゴ(Malus pumila var. domestica)など。
ナデシコ科:カーネーション(Dianthus caryophyllus)など。
ヤナギ科:ポプラ(Populus trichocarpa、Populus nigra、Populus tremula)など。
イネ科:トウモロコシ(Zea mays)、イネ(Oryza sativa)、オオムギ(Hordeum vulgare)、コムギ(Triticum aestivum)、タケ(Phyllostachys)、サトウキビ(Saccharum officinarum)、ネピアグラス(Pennisetum pupureum)、エリアンサス(Erianthus ravennae)、ミスキャンタス(ススキ)(Miscanthus virgatum)、ソルガム(Sorghum)スイッチグラス(Panicum)など。
ユリ科:チューリップ(Tulipa)、ユリ(Lilium)など。
フトモモ科:ユーカリ(Eucalyptus camaldulensis、Eucalyptus grandis)など。
本編成剤を適用できる植物としては、植物に由来するものであればよいが、完全な植物に再生する能力を保持しているものであれば、ゲノム編成した植物を得るのに都合がよい。したがって、植物としては、プロトプラスト、細胞、各種組織、器官、葉、幼芽、腋芽、側芽、不定芽、花芽などのシュート、シュート頂、茎、枝、茎、雌しべ又は胚珠などのその一部、雄しべ又は花粉などのその一部、種子又は胚などのその一部、根又はその一部、カルスなどいずれの形態であってもよい。
微生物としては、特に限定するものではないが、物質生産等を考慮すると、麹菌などのカビや酵母などの微生物細胞が挙げられる。麹菌としては、アスペルギルス・アキュリータス(Aspergillus aculeatus)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus orizae)等のアスペルギルス属が挙げられる。また、酵母としては、公知の各種酵母を利用できるが、サッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)等のサッカロマイセス属の酵母、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等のシゾサッカロマイセス属の酵母、キャンディダ・シェハーテ(Candida shehatae)等のキャンディダ属の酵母、ピキア・スティピティス(Pichia stipitis)等のピキア属の酵母、ハンセヌラ(Hansenula)属の酵母、クロッケラ属(Klocekera)の酵母、スワニオマイセス属(Schwanniomyces)の酵母及びヤロイア属(Yarrowia)の酵母、トリコスポロン(Trichosporon)属の酵母、ブレタノマイセス(Brettanomyces)属の酵母、パチソレン(Pachysolen)属の酵母、ヤマダジマ(Yamadazyma)属の酵母、クルイベロマイセス・マーキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、クルイベロマイセス・ラクティス(Kluveromyces lactis)等のクルイベロマイセス属の酵母、イサトケンキア・オリエンタリス(Issatchenkia orientalis)等のイサトケンキア属の酵母が挙げられる。なかでも、工業的利用性等の観点からサッカロマイセス属酵母が好ましい。なかでも、サッカロマイセス・セレビジエが好ましい。酵母としては、ヘテロタリズム性の酵母のほか、ホモタリズム性酵母であってもよい。
藻類としては、特に限定するものではないが、真核生物性で単細胞生物であるもの(珪藻、黄緑藻、渦鞭毛藻など)及び多細胞生物である海藻類(紅藻、褐藻、緑藻)等が挙げられる。
コケ類としては、特に限定するものではないが、植物性であり非維管束植物であるものが挙げられる。例えば、スギゴケやハイゴケなどの蘚類、ゼニゴケやツボミゴケなどの苔類、ツノゴケなどのツノゴケ類が挙げられる。
真核生物が植物の場合、編成対象となる細胞質ゲノムは、特に限定するものではないが、葉緑体などのプラスチドのゲノムとすることができる。プラスチドとしては、葉緑体ゲノムが、光合成機能の一部を担う遺伝子をコードしていることから、種々の有用形質の改変に有利である。
(融合ポリペプチド)
本編成剤における融合ポリペプチド(以下、単に本ポリペプチドという。)は、第1にDNA二本鎖切断活性を有するポリペプチド領域(以下、単に第1のペプチド領域ともいう。)を含んでいる。
(DNA二本鎖切断活性)
本ポリペプチドが有するDNA二本鎖切断活性は、DNA二本鎖切断酵素を規定するポリペプチドに基づくことができる。すなわち、公知のDNA二本鎖切断酵素を規定するポリペプチドから適宜選択し、かかるポリペプチドを、本ポリペプチドの一部に、第1のペプチド領域、DNA二本鎖切断活性を有するポリペプチド領域として備えることができる。
第1のペプチド領域としては、DNA二本鎖切断酵素のポリペプチド又はその活性に寄与する部分ポリペプチドを適用することができる。こうしたDNA二本鎖切断酵素としては、公知のいわゆる制限酵素を用いることができる。制限酵素は、その認識部位、至適温度、アミノ酸残基数等を適宜考慮して選択することができる。
第1のペプチド領域に適用する、制限酵素が有する切断部位(認識部位)は特に限定するものではない。編成効率の観点からは、DNA二本鎖上の、例えば、4塩基〜6塩基程度を認識部位とする、いわゆる多頻度制限酵素と称されるDNA二本鎖切断酵素を用いることができる。
例えば、4塩基又は5塩基の認識部位とする制限酵素を用いることができる。また例えば、4塩基の認識部位とする制限酵素を用いることができる。
認識部位の観点からは、特に限定されないが、例えば、ApeKI、BsrI、BssKI、BstNI、BstUI、BtsCI、FatI、FauI、HinP1I、PhoI、PspGI、SmlI、TaqI、TfiI、TseI、Tsp45I、TspRIが挙げられる。また、Sse9I、MseI、DpnI及びCviAII等などの公知の各種の多頻度制限酵素を挙げることができる。
第1のペプチド領域に適用する、制限酵素の至適温度も特に限定するものではない。例えば、好熱菌由来の制限酵素を用いることができる。好熱菌は、至適生育温度が45℃以上又は生育限界温度が55℃以上である細菌をいう。なお、好熱菌は概して古細菌である。また、好熱菌由来制限酵素は、概して、80℃又はそれ以上の温度を失活温度としうる。さらに、好熱菌由来制限酵素は、至適温度が50℃以上80℃以下程度である。
好熱菌由来制限酵素は、植物体の一般的な生育温度よりも高温領域にDNA二本鎖切断活性についての至適温度、すなわち、概ね最大のDNA二本鎖切断酵素活性を有する温度(インキュベーション温度ともいう。)を有する。こうした制限酵素を用いることで、温度処理により任意のタイミングと強度で、本ポリペプチドのDNA二本鎖切断活性を活性化又は増強するとともに、その活性を低減させるなどが可能であり、一時的な本ポリペプチドのDNA二本鎖切断活性を作用させるのに好都合である。また、こうした制限酵素を適用することで、温度により、その活性の調節も可能である。さらに、至適温度よりも低い温度でこうした制限酵素を用いることで、比較的緩やかなDNA二本鎖切断活性を作用させることができる。
こうした制限酵素としては、例えば、DNA二本鎖切断活性の至適温度が50℃以上80℃以下の制限酵素を用いることができる。例えば、至適温度が50℃、55℃、60℃、65℃、及び75℃(いずれも、カタログ値)が挙げられる。制限酵素の至適温度は、各種の販売会社のカタログ等に基づいて(カタログ値)等に基づいて選択することができる。至適温度は50℃未満であると、DNA二本鎖切断活性が強くなりすぎる場合がある。至適温度が80℃を超えると、DNA二本鎖切断活性が弱くなりすぎる場合がある。例えば、至適温度は、55℃以上であり、また例えば、60℃以上であり、62℃以上であってもよく、65℃程度であってもよい。また、例えば、至適温度は、75℃以下であり、また例えば、70℃以下であり、また例えば、68℃以下である。
例えば、本ポリペプチドに適用する制限酵素としては、以下の公知の制限酵素から適宜選択して用いることができる。
Figure 0006874742
上記のうち、至適温度の観点からは、例えば、ApeKI、BsaBI、BsaJI、BsaWI、BsiEI、BslI、BsmBI、BsmI、BspQI、BsrDI、BsrI、BssKI、BstAPI、BstBI、BstNI、BstUI、BstYI、FatI、FauI、MwoI、Nb.BsmI、Nb.BsrDI、PspGI、SfiI、SmlI、TaqI、TfiI、TliI、TseI、Tsp45I、Tsp509I、TspMI、TspRI、Tth111I等が挙げられる。
また、制限酵素としては、50℃未満のDNA二本鎖切断活性至適温度を有する制限酵素を用いることもできる。また例えば、45℃未満に同至適温度を有する制限酵素を用いることもできる。
さらに、制限酵素としては、常温域にDNA二本鎖切断活性の至適温度を有する酵素(常温型制限酵素)を用いることもできる。ここで、「常温域」とは、例えば、15℃以上42℃以下、また例えば、15℃以上40℃以下、さらに例えば、25℃以上40℃以下、また例えば、25℃以上37℃以下、さらに例えば、30℃以上37℃以下を意味するものとする。
常温型制限酵素は、25℃以上40℃以下程度(典型的には、25℃又は37℃)に至適温度を有している。また、常温型制限酵素は、概して、60〜80℃、15分〜20分のインキュベートにより不活性化されうる。15分〜20分のインキュベートによって酵素活性を失活する温度を失活温度というものとする。常温型制限酵素であっても、80℃以上の失活温度を有する場合もある。
常温型制限酵素は、必要に応じて、当該制限酵素の量(発現量)、作用タイミング、作用温度、作用時間及びその他の作用条件を調節することにより、植物体への作用条件(特に温度など)の悪影響を回避しつつ効率的に細胞内においてDNAを切断することができる。
また、常温型制限酵素は、植物体等の真核生物に一般的に適用される温度(生育温度)の温度域においてそのDNA二本鎖切断活性をある程度有するため、各種作用条件を調節することでその作用強度(レベル)を高い自由度で設定できる。
常温型制限酵素としては、至適温度が25℃以上40℃以下程度(典型的には、25℃又は37℃)として商業的に入手可能な制限酵素を用いることができる。例えば、こうした至適温度を備え、さらに、失活温度が60℃以上80℃以下として商業的に入手可能な制限酵素を用いることができる。
また、非好熱菌由来制限酵素としては、公知の非好熱菌由来制限酵素を適宜選択して用いることができる。
こうした制限酵素としては、特に限定しないが、例えば、AluI、HhaI、HinP1I、MseI、MboI、HaeIII等が挙げられる。これらの至適温度はいずれも37℃とされている。また、例えば、BfaI、BfuI、Bsh1236I、BsuRI、DpnI、DpnII、FspBI、Hin1I、Hin6I、HpaII、HpyCH4IV、MspI、NlaIII、RsaI、Sau3AI等が挙げられる。以上列挙した制限酵素は、いずれも、至適温度が約37℃である。また、ApaI、BaeI、BspCNI、CviAII、CviQI、SmaI及びSwaIが挙げられる。これらの制限酵素は、至適温度はいずれも約25℃とされている。
なお、制限酵素などのDNA二本鎖切断活性を有するタンパク質の当該活性の至適温度は、当該酵素の入手先のプロトコールに記載されるほか、当該酵素に好適とされているバッファ中、所定の基質の所定濃度存在下、各種温度で酵素反応評価した結果に基づくことができる。
例えば、制限酵素の至適温度の測定方法としては、文献(Greene, P.J., Poonian, M.S., Nussbaum, A.L., Tobias, L., Garfin, D.E., Boyer, H. W., & Goodman, H. M (1975), Restriction and modification of a self-complementary octanucleotide containing the Eco RI substrate. Journal of molecular biology, 99(2), 237-261)の方法が挙げられる。具体的には、制限酵素による、SV40 DNA(32P標識)の切断に関して定量解析する。すなわち、全量50μlの反応液(0.1M Tris HCl(pH7.5)、5mM、MgCl2、0.05mM MgCl2、0.05M NaCl、1.6pM、 SV40 DNA)に5μl制限酵素溶液(0.05Mリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)、0.02M NaCl、0.02% NP40, 0.1mM EDTA、 0.7mM β−メルカプトエタノール、0.7pM制限酵素)を加え、各温度(0℃〜80℃程度において適度な温度間隔に設定された温度)において、制限酵素処理を数分間程度適切な時間行う。1%SDSを添加して反応を停止後、アガロース電気泳動により、supercoil DNA(フォームI)、open circle DNA(フォームII)及び線状DNA(フォームIII)に分離する。各フォームの線量(cpm)を測定し、制限酵素処理により切り出されたホスホジエステル結合数(pmol)を下記計算式で求める。各温度において切り出されたホスホジエステル結合数をグラフ化して、ピーク値近傍をその酵素の至適温度(DNA二本鎖切断活性の)とすることができる。
ホスホジエステル結合数(pmol)=
[2×(フォームIIIの線量(cpm)+フォームIIの線量(cpm))/(フォームI、II及びIIIの合計線量(cpm))]×DNA量(pmol)
また、例えば、制限酵素などのDNA二本鎖切断活性を有するタンパク質の失活温度は、当該酵素を、各種温度で15分〜20分程度維持する熱処理の前後の活性を測定することにより得ることができる。活性が検出できなくなる温度が失活温度である。
本ポリペプチドは、細胞質ゲノムを有する細胞小器官に対する転移要素を備えることができる。転移要素としては、標的とする細胞質ゲノムが存在する細胞小器官の膜の透過活性又は親和性等を有して標的細胞小器官に転移活性を有するペプチド領域(以下、第2のペプチド領域ともいう。)。本ポリペプチドが、標的細胞小器官転移活性を備えることで、細胞質ゲノムの編成が可能となる。
(第2のペプチド領域)
第2のペプチド領域としては、例えば、核ゲノムにコードされるタンパク質であって、標的とする細胞小器官に移行する細胞小器官タンパク質のトランジット領域又はその一部、あるいはこれらの候補から、適宜標的細胞小器官に対する転移性に基づいて選択しあるいはスクリーニングすることで得ることができる。
こうしたタンパク質としては、当業者であれば、細胞小器官を標的とする公知のタンパク質のアミノ酸配列から適宜第2のペプチド領域を抽出しあるいは選択することができる。例えば、葉緑体移行シグナルペプチドは、核コードの葉緑体タンパク質のN末端側から数十〜百数十アミノ酸の領域であるとされている。当業者であれば、BLAST (https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)、ChloroP (http://www.cbs.dtu.dk/services/ChloroP/)、SignalP (http://www.cbs.dtu.dk/services/SignalP/)、TargetP (http://www.cbs.dtu.dk/services/TargetP/) 等を利用してこうしたシグナルペプチド領域を容易に推定できる。例えば、かかる葉緑体移行シグナルペプチドとしては、chlorophyll a/b-binding protein (cab)、nuclear-encoded RNA polymerase (RNAP)、Rubisco activase (RCA)等の葉緑体タンパク質のN末端側から数十〜百数十アミノ酸の領域が挙げられる。また、炭素固定反応に寄与するリブロース-1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ(RuBisco)の小サブユニット等のN末端側から数十〜百数十アミノ酸の領域が挙げられる(Lee, K.H., Kim, D.H., Lee, S.W. Kim, Z.H. and Hwang, I. (2002) In vivo import experiments in protoplasts reveal the importance of the overall context but not specific amino acid residues of the transit peptide during import into chloroplasts. Mol. Cells, 14, 388-397)。
こうしたシグナルペプチドとしては、典型的には、以下のアミノ酸配列を有するペプチドが挙げられる。なお、ChloroPで推定されるシグナルペプチドに下線を付与している。
〔cabタンパク質〕
(1)シロイヌナズナ(GenBank: X56062.1)
MASNSLMSCGIAAVYPSLLSSSKSKFVSAGVPLPNAGNVGRIRMAAHWMPGEPRPAYLDGSAPGDFGFDPLGLGEVPANLERYKESELIHCRWAMLAVPGILVPEALGYGNWVKAQEWAALPGGQATYLGNPVPWGTLPTILAIEFLAIAFVEHQRSMEKDPEKKKYPGGAFDPLGYSKDPKKLEELKVKEIKNGRLALLAFVGFCVQQSAYPGTGPLENLATHLADPWHNNIGDIVIPFN(配列番号1)
(2)タバコ(GenBank:AY219853.1)
MATSAIQQSAFVGQTVAKSQNELVRKIGSFGGGRATMRRTVKSAPQSIWYGEDRPKYLGPFSEQTPSYLTGEFPGDYGWDTAGLSADPETFARNRELEVIHCRWAMLGALGCVFPEILSKNGVKFGEAVWFKAGAQIFSEGGLDYLGNPNLVHAQSILAIWACQVVLMGLIEGYRVGGGPLGEGLDKIYPGGAFDPLGLADDPEAFAELKVKEIKNGRLAMFSMFGFFVQAIVTGKGPIENLFDQINDPVANNAWAFATNFVPGK(配列番号2)
(3)イネ(GenBank:AY445626.2)
MASVTARTPVAALRSSASLKSTFLGQSSTRLARAPTTRRNVRAEAKGEWLPGLPSPTYLNGSLPGDNGFDPLGLAEDPENLRWFVQAELVNGRWAMLGVAGMLLPEVLTKIGLIDAPQWYDAGKATYFASSSTLFVIEFILFHYVEIRRWQDIKNPGCVNQDPIFKSYSLPPHECGYPAASSTPLNFEPTLEAKEKELANGRLAMLAFLGFLVQHNVTQKGPFDNLLQHLSDPWHNTIIQTLSG(配列番号3)
〔RNAPタンパク質〕
(1)シロイヌナズナ(GenBank: AF015542.1)
MASAAAASPSLSLNPTSHFQHQTSLVTWLKPPPSSALFRRKTLPFFERHSLPISASSSSSSSSSTSLSVHEKPISNSVHFHGNLIESFENQDSSYAGTIKGASLIEELENPVERNGLSGRRRLFMQDPPWISALFLKGLSKMVDQTLKIERKDIDKRKFDSLRRRQVKEETEAWERMVDEYRDLEKEMCEKNLAPNLPYVKHMFLGWFQPLKDVIEREQKLQKNKSKKVRAAYAPHIELLPADKMAVIVMHKMMGLVMSGHEDGCIQVVQAAVSIGIAIEQEVRIHNFLKRTRKNNAGDSQEELKEKQLLRKRVNSLIRRKRIIDALKVVKSEGTKPWGRATQAKLGSRLLELLIEAAYVQPPLTQSGDSIPEFRPAFRHRFKTVTKYPGSKLVRRYGVIECDSLLLAGLDKSAKHMLIPYVPMLVPPKRWKGYDKGGYLFLPSYIMRTHGSKKQQDALKDISHKTAHRVFEALDTLGNTKWRVNRNILDVVERLWADGGNIAGLVNREDVPIPEKPSSEDPEELQSWKWSARKANKINRERHSLRCDVELKLSVARKMKDEEGFYYPHNLDFRGRAYPMHPHLNHLSSDLCRGTLEFAEGRPLGKSGLHWLKIHLANLYAGGVEKLSHDARLAFVENHLDDIMDSAENPIHGKRWWLKAEDPFQCLAACVILTQALKSPSPYSVISHLPIHQDGSCNGLQHYAALGRDSFEAAAVNLVAGEKPADVYSEISRRVHEIMKKDSSKDPESNPTAALAKILITQVDRKLVKQTVMTSVYGVTYVGAREQIKRRLEEKGVITDERMLFAAACYSAKVTLAALGEIFEAARAIMSWLGDCAKIIASDNHPVRWITPLGLPVVQPYCRSERHLIRTSLQVLALQREGNTVDVRKQRTAFPPNFVHSLDGTHMMMTAVACREAGLNFAGVHDSYWTHACDVDTMNRILREKFVELYNTPILEDLLQSFQESYPNLVFPPVPKRGDFDLKEVLKSQYFFN(配列番号4)
(2)タバコ(GenBank: XP 016461034.1)
MPINNNIQSQTTVCVSTDENLEELVNLQKIANGVLTKESNKRVFIQDPPWVSSLFMNSLFVRAKQVQGVRREFREIERRRRYAMLRRRQIKAETEAWEQMVEEYRELEREMCEKKLAPNLPYVKKLLLGWFEPLRQAIEKEQNAETTVKHRAAFAPHIDSLPADKMAVIVMHKLMGLLMMGGKEERCVQVVQAAVQIGMAVENEVRIHNFLEKTKKLQKHMTGAQSQEDMSRETMILRKRVKSLIKRNRVVEVRKLMKSEEPESWGRDTQAKLGCRLLELLTETAYVQPPVDQSADTPPDIRPAFRHVFRIATRDPGKSIVKKYGVIECDPLVVAGVDRTVKQMMIPYVPMLVPPKKWRGYDKGGYLFLPSYLMRTHGSRRQQDAVRSVPTKQMQQVYEALDTLGSTKWRVNKRILSVVESIWAGGGNIAGLVDRKDVPIPELHSDDIMEVKKWKWRVRKSKKINQELHSQRCDTELKLSVARKLKDEEGFYYPHNLDFRGRAYPMHPHLNHLSSDLCRGILEFAEGRPLGKSGLRWLKIHLASLYAGGIEKLCYDARLAFVENHIDDILDSANNPLNGNRWWLNAEDPFQCLAACINLSEALKSSSPHTVFSHLPIHQDGSCNGLQHYAALGRDSMEAAAVNLVAGDKPADVYTEIALRVDHIIRGDSIKDPATDPNALLAKLLIDQVDRKLVKQTVMTSVYGVTYVGAREQIKRRLEEKGLIDDDRLLFTASCYAAKVTLAALGELFQAARGTMTWLGDCAKVIASENQPVRWTTPLGLPVVQPYFKTQRHVIRTSLQVLALQREGDTVEVRKQRTAFPPNFVHSLDGSHMMMTAVACRDAGLQFAGVHDSFWTHACDVDQMNRILREKFVELYSMPILEDLLESFQNSYPALTFPPLPKRGDFDLVEVLESPYFFN(配列番号5)
(3)イネ(GenBank: AB120430.1)
MPLLLFPISPPCVPPPRPRLRRLSPPPPMAAVAPPSLSTPVTILPSVSVALPPLPPPATDDFHWLDLFAFLNSPADSYQIPVEEQEVEVEVEVEVGVERERERERERERERERARKAEHRRLRQRQVKAETEAWARAADEYRELEREMLDRRLAPALPYVKSLFLGWFEPLRDAIARDQEVQRRKRVKHVYAKYLLLLPADKVAVIVMHKMMGLLMSSKDGVASVRVVQAAHCIGEAVEREFKVQTFFQKTRKKSAGENDLALEKEQAKCRKRVKSLVRRRKLTEAQKIVQQEIELEEWGTESQVKLGTRLIELLLDSAFVQSPADQTPESSPDIRPAFKHVLRQPIVENGRLKKKHWVIECDPLVHEGFESTARHVEIPYLPMLVTPKKWKGYDTGGYLFLPSYIMRTHGVKDQKEAIKSVPRKQLRKVFEALDTLGSTKWRVNRRVHNAVETIWSRGGGIAGLVDKENIPLPERPETEDPDEIQKWKWSLKKAKKANRELHAERCDTELKLSVARKMREEDGFYYPHNLDFRGRAYPMHAHLSHLGSDLCRGVLEYAEGRPLGKSGLRWLKIHLANKYGGGIEKLSHEDKVAFVENQLPDIFDSATNPVDGNCWWMNAEDPFQCLAACMDLSDALKSSSPQCAVSHLPIHQDGSCNGLQHYAALGRDYMGAAAVNLVPGDKPADIYSEIAARVLDVVREDSMEDPATNPTASLARVLVDQVDRKLVKQTVMTSVYGVTYIGARQQITKRLQEKGLITDDKLLYEVSCYATRVTLDALGQMFQSARGIMAWLGDCAKMIASENHPVKWTSPVGLPVVQPYKKYKNYMIRTSLQCLALRREGDAIALQRQKAAFPPNFVHSLDSSHMMMTAIACKKAGLHFAGVHDSFWVHACDVDKMNQILREQFVELYSMPILENLLKEFQTSFPTLEFPPCPSQGDFDVREVLASTYFFN(配列番号6)
〔RCAタンパク質〕
(1)シロイヌナズナ(GenBank: NM 179989.3)
MAAAVSTVGAINRAPLSLNGSGSGAVSAPASTFLGKKVVTVSRFAQSNKKSNGSFKVLAVKEDKQTDGDRWRGLAYDTSDDQQDITRGKGMVDSVFQAPMGTGTHHAVLSSYEYVSQGLRQYNLDNMMDGFYIAPAFMDKLVVHITKNFLTLPNIKVPLILGIWGGKGQGKSFQCELVMAKMGINPIMMSAGELESGNAGEPAKLIRQRYREAADLIKKGKMCCLFINDLDAGAGRMGGTTQYTVNNQMVNATLMNIADNPTNVQLPGMYNKEENARVPIICTGNDFSTLYAPLIRDGRMEKFYWAPTREDRIGVCKGIFRTDKIKDEDIVTLVDQFPGQSIDFFGALRARVYDDEVRKFVESLGVEKIGKRLVNSREGPPVFEQPEMTYEKLMEYGNMLVMEQENVKRVQLAETYLSQAALGDANADAIGRGTFYGKTEEKEPSK(配列番号7)
(2)タバコ(GenBank: XM 016584492.1)
MAASVSTVAAANKVPLSLNNSVAGISVPSTTFFGKVLKNVNAKGISIPKASNRNFRSIVAQEQEIDEKKQSDKDRWKGLVMDMSDDQQDITRGKGMVDTLFQAPTGTGTHHAVLQSYEYISQGLRQYNLDNTLDGFYIAPAFMDKLVVHITKNFLKLPNIKVPLILGIWGGKGQGKSFQCELVFRKMGINPIMMSAGELESGNAGEPAKLIRQRYREAAEIIRKGNMCVLFINDLDAGAGRMGGTTQYTVNNQMVNATLMNIADNPTNVQLPGMYNKQENARVPIIVTGNDFSTLYAPLIRDGRMEKFYWAPTREDRIGVCKGIFRTDSVPDEHVVKLVDAFPGQSIDFFGALRARVYDDEVRKWIESTGIEQVGEKLLNSIDGPPTFEQPKMTIDKLLEYGNLLVQEQENVKRVQLADKYLKEAALGDANADAINTGNF(配列番号8)
(3)イネ(GenBank: U74321.1)
MAAAFSSTVGAPASTPTNFLGKKLKKQVTSAVNYHGKSSNINRFKVMAKELDEGKQTDQDRWKGLAYDISDDQQDITRGKGFVDSLFQAPTGDGTHEAVLSSYEYLSQGLRTYDFDNTMGGFYIAPSFMDKLVVHISKNFMTLPNIKVPLILGIWGGKGQGKSFQCELVFAKMGINPIMMSAGELESGNGEPAKLIRQRYREAADIIKKGKMCCLFINDLDAGAGRMGGTTQYTVNNQMVNATLMNIADNPTNVQLPGMYNKEDNPRVPIIVTGNDFSTLYAPLIRDGRMEKFYWAPTRDDRVGVCKGIFRTDNVPDEDIVKIVDSFPGQSIDFFGALRARVYDDEVRKWVSDTGVENIGKRLVNSREGPPEFEQPKMTIEKLIEYGYMLVKEQENVKRVQLAEQYLSEAALGDANSDAMKTGSFYGSAPSS(配列番号9)
〔RbcSタンパク質〕
(1)シロイヌナズナ(GenBank: NM 105379.4 (At1g67090))
MASSMLSSATMVASPAQATMVAPFNGLKSSAAFPATRKANNDITSITSNGGRVNCMQVWPPIGKKKFETLSYLPDLTDSELAKEVDYLIRNKWIPCVEFELEHGFVYREHGNSPGYYDGRYWTMWKLPLFGCTDSAQVLKEVEECKKEYPNAFIRIIGFDNTRQVQCISFIAYKPPSFTG(配列番号10)
(2)タバコ(GenBank: NM 179989.3)
MASSVLSSAAVATRSNVAQANMVAPFTGLKSAASFPVSRKQNLDITSIASNGGRVQCMQVWPPINKKKYETLSYLPDLSQEQLLSEVEYLLKNGWVPCLEFETEHGFVYRENNKSPGYYDGRYWTMWKLPMFGCTDATQVLAEVEEAKKAYPQAWIRIIGFDNVRQVQCISFIAYKPEGY(配列番号11)
(3)イネ(GenBank: AY445627.1)
MAPTVMASSATSVAPFQGLKSTAGLPVSRRSTNSGFGNVSNGGRIKCMQVWPIEGIKKFETLSYLPPLTVEDLLKQIEYLLRSKWVPCLEFSKVGFVYRENHRSPGYYDGRYWTMWKLPMFGCTDATQVLKELEEAKKAYPDAFVRIIGFDNVRQVQLISFIAYKPPGCEESGGN(配列番号12)
また、第2のペプチド領域としては、上記した各種のシグナルペプチドのアミノ酸配列に対して、例えば、90%以上、また例えば、95%以上、また例えば97%以上、また例えば98%以上、また例えば、99%以上の同一性を有し、かつ本来備えている移行性の少なくとも一部を維持しているものを用いることができる。
本明細書において塩基配列又はアミノ酸配列の同一性又は類似性とは、当該技術分野で知られているとおり、配列を比較することにより決定される、2種以上のタンパク質あるいは2種以上のポリヌクレオチドの間の関係である。当該技術で“同一性 ”とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアラインメントによって、あるいは場合によっては、一続きのそのような配列間のアラインメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の配列不変性の程度を意味する。また、類似性とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアラインメントによって、あるいは場合によっては、一続きの部分的な配列間のアラインメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の相関性の程度を意味する。より具体的には、配列の同一性と保存性(配列中の特定アミノ酸又は配列における物理化学特性を維持する置換)によって決定される。なお、類似性は、後述するBLASTの配列相同性検索結果においてSimilarity と称される。同一性及び類似性を決定する方法は、対比する配列間で最も長くアラインメントするように設計される方法であることが好ましい。同一性及び類似性を決定するための方法は、公衆に利用可能なプログラムとして提供されている。例えば、AltschulらによるBLAST (Basic Local Alignment Search Tool) プログラム(たとえば、Altschul SF, Gish W, Miller W, Myers EW, Lipman DJ., J. Mol. Biol., 215: p403-410 (1990), Altschyl SF, Madden TL, Schaffer AA, Zhang J, Miller W, Lipman DJ., Nucleic Acids Res. 25: p3389-3402 (1997))を利用し決定することができる。
なお、こうした第2のペプチド領域による標的細胞小器官転移活性は、例えば、GFPなどの蛍光タンパク質を標識として真核生物内における移動を観察することにより簡易に評価することができる。
本ポリペプチドは、融合タンパク質として人工的に取得することができる。例えば、第1のペプチド領域及び第2のペプチド領域に適用するポリペプチドのアミノ酸配列に基づいて、化学的にあるいは遺伝子工学的に本ポリペプチドを取得することができる。
本ポリペプチドは、特に限定しない態様で、第1及び第2のペプチド領域をその一部に備えることができる。例えば、第1のペプチド領域を、本ポリペプチドのN末端側、C末端側又はそれ以外に備えていてもよい。また、第2のペプチド領域を、本ポリペプチドのN末端側、C末端側又はそれ以外に備えていてもよい。また、本ポリペプチドは、1種又は2種以上の第1のペプチド領域を備えていてもよいし、1種又は2種以上の第2のペプチド領域を備えていてもよい。
(ポリヌクレオチド)
本編成剤は、本ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであってもよい。本ポリヌクレオチドは、それ自体、編成剤として有用である。本ポリヌクレオチドは、一本鎖DNA、二本鎖DNAのほか、一本鎖RNA、DNA/RNAハイブリッド、DNA/RNAキメラ等が挙げられる。結果として、本ポリペプチドのアミノ酸配列を情報としてコードできるものであればよい。本ポリヌクレオチドは、例えば、一本鎖又は二本鎖DNAの形態や一本鎖又は二本鎖RNAの形態が挙げられる。
本ポリヌクレオチドは、本ポリペプチドのアミノ酸配列をコードするコード領域ほか、本ポリペプチドをタンパク質(ポリペプチド)として発現させるための制御領域を備える、発現ベクターなどのコンストラクトの形態をとることができる。
(発現ベクター)
本明細書によれば、本ヌクレオチドを備える発現ベクター(以下、本発現ベクターともいう。)が提供される。本発現ベクターは、本ポリヌクレオチドによってコードされる情報(本ポリペプチドのアミノ酸配列)を発現させることを意図するものである。本発現ベクターは、本ポリヌクレオチドを備えるとともに、本ポリペプチドを発現させるための1又は2以上の制御領域を備えることができる。制御領域としては、プロモーターのほか、ターミネーター、選抜マーカー、エンハンサー、翻訳効率を高めるための塩基配列等を挙げることができる。
プロモーターは、真核生物内で本ポリペプドを発現させることが可能なプロモーターであれば特に限定されるものではなく、公知のプロモーターを好適に用いることができる。かかるプロモーターとしては、例えば、植物体については、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(CaMV35S)、各種アクチン遺伝子プロモーター、各種ユビキチン遺伝子プロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター、タバコのPR1a遺伝子プロモーター、トマトのリブロース1,5−二リン酸カルボキシラーゼ・オキシダーゼ小サブユニット遺伝子プロモーター、ナピン遺伝子プロモーター等を挙げることができる。
後述するように、例えば、シロイヌナズナのシグマ因子由来のSIG2(AtSIG2)プロモーターなどの発現強度が35Sプロモーターよりも低いプロモーターは、本ポリペプチドを低レベルで定常的に発現させるための低発現型構成的プロモーターとして好ましい場合がある。また、シロイヌナズナのHSP18.2プロモーターなど、後述する誘導的プロモーターも、誘導温度よりも低い温度で制御下にある遺伝子に発現を誘導することができる場合があり、低発現型構成的プロモーターとして、本ポリペプチドの発現に有用である場合がある。
プロモーターとしては、誘導的プロモーターを用いることもできる。誘導的プロモーターは、本ポリペプチドを真核生物内において所定の発現誘導を経て作用させることができる。こうすることで、意図したタイミングで、本ポリペプチドの作用を発現させることができる。こうした誘導的プロモーターとしては、例えば、化学物質又はその濃度、熱、浸透圧などの外部条件によって誘導される誘導性プロモーターのほか部位特異的プロモーター、時期特異的プロモーター等が挙げられる。こうした各種の誘導的プロモーターは、例えば、DEX誘導性プロモーター、HSP18.2プロモーター等、公知のプロモーターから適宜選択される。
そのほか、プロモーターとしては、部位特異的プロモーター及び時期特異的プロモーター等を用いることもできる。本ポリペプチドの発現を部位特異的又は時期特異的に誘導することで、意図的なタイミングや目的とする部位で本ポリペプチドを発現させてその活性を発揮させることができる。また、誘導を停止したり、あるいは一定期間経過することでおおよそその作用を低下又は停止することができる。誘導的プロモーターを用いる場合、プロモーターの種類に応じ、温度や化学物質等が適宜植物体に供給される。
また、プロモーターやターミネーター等の制御要素による本ポリペプチドの発現強度の制御も、本ポリペプチドの活性に影響する。したがって、用いるプロモーターやターミネーターによって供される本ポリペプチドの発現強度も考慮してプロモーター等が選択される。
ターミネーターは転写終結部位としての機能を有していれば特に限定されるものではなく、公知のものであってもよい。例えば、ノパリン合成酵素遺伝子の転写終結領域(Nosターミネーター)、カリフラワーモザイクウイルス35Sの転写終結領域(CaMV35Sターミネーター)等を好ましく用いることができる。この中でもNosターミネーターをより好ましく用いることができる。
その他、選抜マーカー及び翻訳効率を高めるための塩基配列としては、公知の要素を適宜選択して用いることができる。発現ベクターの構築方法についても特に限定されるものではなく、適宜選択された母体となるベクターに対して、必要とする要素を適宜導入すればよい。さらに、発現ベクターは、T−DNA領域を有していてもよい。
例えば、植物体の細胞内において、タンパク質を発現させるための発現ベクターの母体となるベクターとしては、従来公知の植物体のための種々のベクターを用いることができる。例えば、ウイルスベクターとしては、タバコモザイクウイルス(TMV)、プラムボックスウイルス(PPV)、ジャガイモXウイルス(PVX)、アルファルファモザイクウイルス(AIMV)、キュウリモザイクウイルス(CMV)、カウピーモザイクウイルス(CPMV)、ズッキーニイエローモザイクウイルス(ZYMV)など植物ウイルスベクターが挙げられる。また、ベクターの導入法がアグロバクテリウムを用いる方法である場合には、上記した植物ウイルスベクターのほか、pBI系のバイナリーベクターを用いることが好ましい。pBI系のバイナリーベクターとしては、具体的には、例えば、pBIG、pBIN19、pBI101、pBI121、pBI221等を挙げることができる。また、公知の一過性遺伝子発現系のベクターも用いることができる。
本ポリペプチドを植物体などの真核生物内で発現させることを意図するベクターは、当業者であれば、従来公知の手法により適宜植物体の種類や形質転換手法に応じて構築することができる。導入する植物細胞に応じたベクターを適宜入手可能であるほか、適切なプロモーター、ターミネーター、エンハンサーなども適宜選択可能であり、必要に応じて所望の発現カセットを構築することができる。
本発現ベクターの作製にあたっては、当業者は、適用する植物体の種類や本ポリペプチドの発現等に関して意図する条件に応じて、各種の組換え操作に、制限酵素及びDNAリガーゼを用いた方法等、標準的な組換えDNA技術(例えば、Molecular Cloning, Third Edition, 1.84, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkを参照のこと。)を利用することができる。
本ポリヌクレオチド及び本発現ベクターは、本ポリペプチドをコードするものであることから、本ポリペプチドと同様、編成剤として有用である。本ポリペプチドや本発現ベクターは、エレクトポレーション法、ウイルス感染法、アグロバクテリウム感染法、ペプチド法など適当な遺伝子導入法などの公知の遺伝子導入方法を用いて真核生物に導入され、本ポリペプチドを合成させることで、本ポリペプチドの有する機能を発揮させることができる。
本編成剤は、細胞質ゲノムの編成の態様として、塩基置換、欠失、挿入、転座、重複及び逆位から選択される1種又は2種以上の構造変化を生じさせるものであることが好ましい。なかでも、編成前の前記細胞質ゲノムの構造変化の個数に比較して2倍以上の構造変化を誘導するものであることが好ましく、さらに好ましくは、4倍以上であり、なお好ましくは6倍以上であり、一層好ましくは8倍以上であり、より一層好ましくは10倍以上であり、さらに一層好ましくは20倍以上である。さらにまた好ましくは30倍以上であり、なお好ましくは40倍以上であり、なお一層好ましくは50倍以上である。
ここで、構造変化の個数とは、例えば、後述する実施例に記載の方法に基づいて算出することができる。
なかでも、本編成剤は、編成前の細胞質ゲノムにおける、「DNAの逆位、欠失及び重複」の総個数(ゲノム1分子相当量)に対して、「DNAの逆位、欠失及び重複」の総個数(ゲノム1分子相当量)が2倍以上を誘導するものであることが好ましい。3倍以上の「DNAの逆位、欠失及び重複」を誘導するものであることがさらに好ましく、なお好ましくは、4倍以上であり、一層好ましくは6倍以上であり、より一層好ましくは8倍以上であり、さらに一層好ましくは10倍以上であり、なお一層好ましくは20倍以上である。さらにまた好ましくは30倍以上であり、なお好ましくは40倍以上であり、なお一層好ましくは50倍以上である。なお、「DNAの逆位、欠失及び重複」の総個数(ゲノム1分子相当量)は、後述する実施例に説明するように、Zampini (2015)らの方法に準じて、Galaxy's Published Workflows sectionで「Rearrangement Junction Detection」として公開されているペアエンドのリードWorkflowでペアエンドのリードセットから、Potential Junctionをもつリード(逆位、欠失、重複のいずれかの変異をもつリード)を特定し、各リードについて、シロイヌナズナの細胞質ゲノム(Genbank accession no. AP000423.1)に対し、BLAST+解析 (Camacho, C., Coulouris, G., Avagyan, V., Ma, N., Papadopoulos, J., Bealer, K. and Madden, T.L. (2009) BLAST+: architecture and application. BMC Bioinformatic, 10, 421.)でアライメント(マップ)し、Potential Junction をもつリードのうち、2種類のアライメントをもつリード(逆位、気室あるいは重複のうち1個をもつリード)のみ選抜した。こうして選抜したリードと細胞質ゲノム1つあたりの塩基数を154,478 bp (Genbank accession no.AP000423) として、プラスチドゲノムにマップされたリード(ペアエンド)の総塩基数から、NGS解析に使用された細胞質ゲノム数を求め、細胞質ゲノム数と細胞質ゲノムの変異を含むリードの総数から細胞質ゲノム一つあたりの「DNAの逆位、欠失及び重複」の個数を求めた。
(真核生物材料)
本明細書によれば、形質転換された真核生物材料であって、本ポリペプチド又は本ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを保持する、材料が提供される。後述するように、本ポリペプチドが真核生物に導入されるか本ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが真核生物に導入されることで、このような真核生物材料が提供される。かかる真核生物材料は、細胞質ゲノムの編成を誘導できるかあるいは細胞質ゲノムの編成が誘導されたものとなっている。したがって、こうした真核生物材料から、有用形質など希望する形質を有する真核生物材料を適宜選択することで、効率的に形質が改変された真核生物材料を得ることができる。
本明細書によれば、また、細胞質ゲノムにおける構造変化数が前記真核生物材料の野生型の2倍以上である、材料も提供される。かかる真核生物材料においては、本編成剤によって、細胞質ゲノムに大きな構造変化が導入され、既述の構造変化数を備えることができるほか、DNAの逆位、欠失及び/又は重複という構造変化を主体とする構造変化を備えることができる。
真核生物材料としては、既に説明した真核生物又はその一部が挙げられる。植物体としては、例えば、種子などの繁殖材料であることが好ましい。
(真核生物の細胞質ゲノムの編成方法)
本明細書によれば、真核生物又はその一部に対して、本ポリペプチド又は本ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを導入する導入工程と、前記本ポリペプチドにより前記真核生物又はその一部の細胞内において細胞質ゲノムの編成を生じさせる編成工程と、を備える、編成方法が提供される。
(導入工程)
本ポリペプチドを真核生物内で作用させるための導入工程にはいくつかの態様を採ることができる。第1の態様は、本ポリペプチドをコードする本ポリヌクレオチド又は本発現ベクターを真核生物に導入し発現させる態様である。第2の態様は、本ポリペプチドを直接植物体に供給する態様である。
(本ポリペプチドの第1の導入態様)
第1の態様は、本ポリペプチドをコードするDNAなどの本ポリヌクレオチド又は本発現ベクターを真核生物に導入して、本ポリペプチドを発現させる態様である。真核生物において本ポリペプチドを発現させるために本発現ベクター等を真核生物に導入するには、各種公知の方法を採用できる。例えば、本発現ベクター等をPEG法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法、植物ウイルス法、ペプチド法等の公知の植物体における形質転換方法を用いて植物体内に導入する。また、細胞や組織にアグロバクテリウムを感染させるほか、フローラルディップ法やフローラルスプレー法などで花にアグロバクテリウムを感染させるなどの各種のアグロバクテリウム法等を用いる。
さらに、公知の一過性遺伝子発現系のためのアグロバクテリウムや植物ウイルスベクターを用いて、一過的に本ポリペプチドを発現するようにしてもよい。さらにまた、本ポリヌクレオチドを染色体に組み込むようにしてもよい。
なお、発現ベクター等を用いる場合、導入に用いる真核生物としては、例えば、植物体の場合、導入方法等に応じて、植物体全体のほか、植物細胞、カルス、幼苗、葉、花蕾、種子、茎頂、側芽、花芽、花粉、子房、胚乳及び胚などの各種細胞、組織及び器官等から適宜選択することができる。フローラルディップ法やフローラルスプレー法を利用することで、植物体の再生を効率化できる点においてもアグロバクテリウム法が好適である。
本発現ベクターを用いた場合、本ポリペプチドを発現させるには、本ポリペプチドにおける第1のペプチド領域によって規定される、DNA二本鎖切断活性の至適温度、用いるプロモーターや真核生物の生育条件等を考慮する。DNA二本鎖切断活性が強すぎて真核生物に対する障害が大きすぎる場合には、細胞質ゲノムの編成の効率が低下するからである。したがって、本ポリペプチドの発現強度や発現タイミングをプロモーター特性に基づいて制御するとともに、本ポリペプチドのDNA二本鎖切断活性を、その至適温度を考慮して形質転換した植物体の生育温度を適切に設定することが好ましい。
真核生物が植物の場合、形質転換した植物細胞、組織、器官、種子等の各種植物体等から、個体としての植物体を再生する方法については、従来公知の方法を適用することができる。
(本ポリペプチドの第2の導入態様)
第2の態様は、本ポリペプチドを真核生物に塗布、噴霧、浸漬、注入、エレクトロポレーション、ペプチド法等により直接導入する態様である。本ポリペプチドの真核生物への導入方法は、特に限定しないで、適当な形態を採用できる。本ポリペプチドを真核生物に直接供給するには、例えば、真核生物又はその一部に、本ポリペプチドが水や緩衝液などの水系媒体に溶解した状態で供給する。こうすることで、効率的に真核生物内に本ポリペプチドが導入される。
より具体的には、植物体などの真核生物と本ポリペプチド含有液体とを、例えば、塗布、浸漬及び混合等により接触させるほか、真核生物の組織に直接注入することも可能である。こうした供給温度や条件は、特に限定しないが、本ポリペプチドが有するDNA二本鎖切断活性の至適温度でないことが好ましい。例えば、DNA二本鎖切断活性の至適温度が37℃程度の場合、供給時の温度は30℃以下とすることが好ましく、より好ましくは25℃以下である。本ポリペプチドを直接供給する形態は、本ポリペプチドをコードするDNA等を発現させる必要がない点、必要時に任意の部位に適用できる点において有用である。
本ポリペプチドを直接真核生物に導入する場合、導入対象としての真核生物又はその一部は特に限定するものではない。例えば、植物体の場合、プロトプラスト、植物細胞やカルスなども用いることができる。
(編成工程)
次いで、本ポリペプチドにより前記真核生物又はその一部の細胞内において細胞質ゲノムの編成を生じさせる態様について説明する。編成工程において、真核生物内で本ポリペプチドのDNA二本鎖切断活性及び標的細胞小器官転移活性を作用させる態様は、特に限定するものではない。
例えば、本編成方法においては、第1の態様として、DNA二本鎖切断活性に関し、当該活性を、概ね一定的にかつ構成的に作用させる態様を採ることができる。また、第2の態様として、DNA二本鎖切断活性及び標的細胞小器官転移活性を意図的に及び/又は一時的に作用させる又は向上させる態様を採ることができる。
(本ポリペプチドの活性を作用させる第1の態様)
本ポリペプチドの活性、特に、そのDNA二本鎖切断活性を概ね一定に構成的に作用させる場合、DNA二本鎖切断活性の真核生物への障害を考慮すると、例えば、いくつかの態様が挙げられる。いずれも、DNA二本鎖切断活性を一定以下の強度にコントロールして構成的に作用させる態様である。
(1)例えば、第1のペプチド領域に好熱菌由来の制限酵素を適用したポリペプチドを、直接的に又は本発現ベクター等を用いて真核生物に導入しておく。その後、真核生物に適用される生育温度で真核生物を生育する。概して、真核生物の生育温度は、好熱菌由来の制限酵素の至適温度よりも低い。これにより、本ポリペプチドの導入後は、DNA二本鎖切断活性及び標的細胞小器官転移活性は概して一定してかつ構成的に作用する。生育温度は、真核生物の種類に応じ、また、本ポリペプチドによって作用するDNA二本鎖切断活性等を考慮して、適宜決定されるが、適用する真核生物の生育可能温度を考慮して、例えば、植物の場合、4℃以上とすることができ、また例えば、18℃以上30℃以下とすることができる。また例えば、下限は19℃以上であり、さらに例えば、20℃以上であり、さらにまた例えば、21℃以上である。また、例えば、上限は28℃以下であり、また例えば、25℃以下であり、さらに例えば、24℃以下であり、さらにまた例えば、23℃以下である。
(2)また、例えば、第1のペプチド領域に常温型制限酵素を適用したポリペプチドを、直接的に又は本発現ベクター等により植物体に導入しておく。常温型の制限酵素の至適温度かそれよりも低い生育温度で植物体を生育させる。これにより、本ポリペプチドの導入後は、概してDNA二本鎖切断活性及び標的細胞小器官転移活性が継続的に作用する。
生育温度は、細胞小器官の種類に応じ、また、本ポリペプチドによって発揮されるDNA二本鎖切断活性の作用等を考慮して、適宜決定されるが、適用する真核生物の生育可能温度を考慮して、例えば、植物の場合、4℃以上とすることができる。また、例えば、18℃以上30℃以下とすることができる。また例えば、下限は19℃以上であり、さらに例えば、20℃以上であり、さらにまた例えば、21℃以上である。また、例えば、上限は28℃以下であり、また例えば、25℃以下であり、さらに例えば、24℃以下であり、さらにまた例えば、23℃以下である。
適用する植物体や常温型の制限酵素の種類等にもよるが、概して常温型制限酵素の至適温度と、植物体の好適生育温度との温度差は、好熱菌由来制限酵素よりは大きくないが、常温型制限酵素が有用である場合もある。
第1の態様において用いる本発現ベクターのプロモーターは、構成的プロモーターであってもよいし誘導型プロモーターであってもよい。構成的プロモーターは、いわゆるカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターなどの高発現プロモーターであってもよいし、SIG2プロモーターなどの発現強度がカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターよりも低いプロモーターや、HSP18.2プロモーターなどの誘導温度よりも低い温度で低発現するプロモーターであってもよい。
構成的プロモーターの場合、低発現型であっても高発現型であってもよいが、構成的プロモーターを用いれば、継続的に本ポリペプチドが合成され、本ポリペプチドの活性も継続的となる傾向がある。また、誘導的プロモーターを用いれば、誘導時にのみ本ポリペプチドが合成されるため、一時的な誘導で十分量が合成されるように誘導条件を制御するか、継続的に本ポリペプチドが合成されるように誘導条件を制御することにより、継続的に本ポリペプチドの活性を発揮させることができる。また、本ポリペプチドを直接的に導入する場合には、本ポリペプチドを一時に十分量導入してもよいし、継続的に導入するようにしてもよい。
本態様において用いる生育温度は、恒温の人工的環境における温度を意図したものであって、例えば、植物の場合、季節変動、日中変動等が発生する自然環境には当てはまらない場合がある。また、本態様を植物体などの真核生物に適用する作用時間は特に限定するものではないが、例えば、植物体において栽培において春化処理等の特別な温度処理を除いた期間の全体とすることができる。
(本ポリペプチドの活性を作用させる第2の態様)
本ポリペプチドの活性、特に、そのDNA二本鎖切断活性を一時的に作用又は向上させる場合においても、いくつかの態様が挙げられる。
(1)例えば、本ポリペプチドを、直接的に又は本発現ベクター等により真核生物に導入しておく。このとき、第1の態様と同様、継続的に本ポリペプチドが植物体内に存在するように、本ポリペプチドを導入する。その後、この真核生物の生育段階のいずれかの段階で、DNA二本鎖切断活性を作用又は向上させるために、意図的に生育温度よりも高い温度であって、本ポリペプチドのDNA二本鎖切断活性ポリペプチドに適用した制限酵素の至適温度により近い高温の生育温度で所定期間生育させる。これにより、本ポリペプチドのDNA二本鎖切断活性は意図した期間作用又は向上される。
例えば、制限酵素が好熱菌由来の制限酵素の場合、生育温度を好熱菌由来の制限酵素の至適温度に対して低い温度(緩和な条件)を採用できる。例えば、至適温度よりも15℃以上25℃以下程度とすることができる。より好ましくは本ポリペプチドをDNA二本鎖切断活性を発現できる下限近傍の温度で活性化することが好ましい。DNA二本鎖切断活性を発現できる下限近傍の温度とは、例えば、至適温度における活性を100%としたとき、その活性が5%以上30%以下程度となる温度ということができる。好ましくは、5%以上20%以下程度となる温度とすることができる。
例えば、こうした生育温度としては、本ポリペプチドや真核生物の種類にもよるが、例えば、植物の場合、18℃以上45℃以下とすることができる。例えば、より好ましくは、下限が20℃以上であり、さらに好ましくは22℃以上であり、なお好ましくは同25℃以上であり、一層好ましくは30℃以上であり、より一層好ましくは35℃以上である。また、例えば、好ましくは上限は45℃以下であり、より好ましくは42℃以下であり、さらに好ましくは40℃以下であり、なお好ましくは37℃以下であり、一層好ましくは35℃以下である。こうした作用温度であると、植物体に対する温度障害を抑制し細胞質ゲノム編成効率を確保することができる。
また、こうした生育温度を付与する期間は、本ポリペプチドや真核生物の種類及びその生育温度にもよるが、例えば、30分程度から1時間で処理するほか、比較的長い時間、例えば、2時間以上、3時間以上、さらに例えば、4時間以上、さらにまた例えば、6時間以上、また例えば、12時間以上、さらにまた例えば、24時間以上、または36時間以上、さらに例えば、48時間以上、さらにまた例えば、60時間以上、また例えば、72時間以上とすることができる。
また、例えば、制限酵素が常温型制限酵素の場合、生育温度を常温型制限酵素の至適温度に対して、既に説明した各種態様の常温域を含む温度範囲とすることができる。下限は、例えば、植物の場合、10℃以上であり、また例えば、15℃以上であり、さら例えば、20℃以上であり、さらにまた例えば、25℃以上である。上限は、例えば、47℃以下であり、また例えば、45℃以下であり、さらに例えば、42℃以下である。また、その範囲としては、例えば、10℃以上47℃以下であり、また例えば、10℃以上45℃以下、さらに例えば、15℃以上45℃以下、さらにまた例えば、20℃以上42℃以下、また例えば、25℃以上42℃以下である。
また、こうした生育温度を付与する期間は、その生育温度条件や本タンパク質の至適温度にもよるが、例えば、数分以上〜1時間以下程度とすることができる。また例えば、10分以上50分以下、さらに例えば、15分以上45分以下とすることができる。また、例えば、1時間以上10時間以下とすることもでき、さらに例えば、1時間以上6時間以下、さらにまた例えば、1時間以上4時間以下、また例えば、1時間以上3時間以下とすることができる。
また、例えば、本ポリペプチドを直接的に又は本発現ベクター等により一時的に植物体に導入する。すなわち、本ポリペプチドを一時的に植物体内で存在するように直接導入するか、又は誘導的プロモーターに一時的に誘導条件を付与して本ポリペプチドを合成させるようにする。かかる一時的に導入と同時又は該ポリペプチドが植物体内に存在する一定期間内に、本ポリペプチドの第1のペプチド領域に適用した制限酵素の至適温度により近い高温の生育温度で所定期間生育させる。これにより、本ポリペプチドのDNA二本鎖切断活性は意図した期間作用又は向上される。この場合、所定期間経過後に、生育温度を本来の生育温度に復帰させる。
以上説明した、本ポリペプチドの活性を作用させる態様は、例示であってこれに限定するものではない。意図する活性を作用させるための各種条件は、当業者であれば、本ポリペプチドに適用したDNA二本鎖切断活性を有する制限酵素等の種類、その量(発現ベクターを用いる場合には、各種制御因子により設計した発現強度)、真核生物の種類、真核生物の生育状況、細胞質ゲノム編成効果等を考慮して適宜決定することができる。
なお、細胞質ゲノムの編成の効果は、実施例に開示される表現型の観察ほか、PCR、NGS解析等を適宜用いて評価することができる。
本編成方法は、遺伝的に改変された真核生物の生産方法としても実施できる。また、その場合には、前記編成工程によって得られた真核生物から、有用な形質を有する個体をスクリーニングする工程として備えることができる。本編成方法によれば、多様な細胞質ゲノムを備える真核生物の集団を取得することができるため、かかる集団から、意図した形質や遺伝的性質に基づいて真核生物をスクリーニングして効率的に改変された真核生物を得ることができる。
以下、本明細書の開示を具現化した実施例について説明する。なお、以下の実施例は、本開示を説明するものであってその範囲を限定するものではない。
以下には、実施例で用いる植物体の取得、評価に用いた材料及び方法について説明し、その後、実施例について説明する。
(コンストラクトの作製)
カリフラワーモザイクウイルス (CaMV) 35S プロモーター あるいは Arabidopsis thaliana の熱ショックタンパク質 (HSP18.2; At5g59720) プロモーター支配下でプラスチド局在型 TaqI (pTaqI) を植物細胞で発現させるためのベクターをそれぞれ、 pBI 35S: pTaqI および pBI HSP18.2: pTaqI とした。
Arabidopsis thaliana (Col-0) のゲノムをテンプレートにして、プライマー (5′- agtcgactctggtggtttcaacttggg -3′(配列番号13) と 5′- aggatcctgttcgttgcttttcgggag -3′(配列番号14)) でPCR増幅し、 HSP18.2 遺伝子のプロモーター領域を含む DNA 断片を単離した。この DNA 断片を pCR(登録商標)2.1 ベクター (ThermoFisher Scientific) へクローニングし、pCR HSP18.2pro とした。pCR HSP18.2pro をSalI と BamHI で切断して得た HSP18.2 プロモーター断片を pBI101N2 ベクター (Sugimoto et al. (2014) J. Exp. Bot., 65, 5385-5400) の SalI と BamHI 切断サイトへクローニングし、pBI HSP18.2: GUS とした。次に、Arabidopsis thaliana (Col-0) cDNAをテンプレートにして、プライマー (5'- aggatccccgggtggtcagtcccttatggcttcctctatgctctc -3' (配列番号15)と 5'- aggtaccttcggaatcggtaaggtcag -3'(配列番号16)) でPCR増幅し RbcS1A (At1G67090) のプラスチド移行型シグナルペプチド(トランジット配列)をコードする DNA 断片を単離した。この DNA 断片を pGEM(登録商標)-T Easy ベクター (Promega) へクローニングし、pGEM Pt transit とした。
次に、Thermus thermophiles のTaqI 遺伝子の ORF (Accession No.M76680) をテンプレートにして、プライマー (5'- aggtaccatggcccctacacaagccca -3'(配列番号17) と 5'- agggcccatatggagctctgtacctcacgggccggtgagggc -3'(配列番号18)) を用いPCR増幅し TaqI ORF を単離した。この DNA 断片をpGEM(登録商標)-T Easy ベクターへクローニングし、pGEM TaqI とした。次に、pGEM TaqI をKpnI と NdeI で切断して得た TaqI ORF 断片を pGEM Pt transit の KpnI と NdeI 切断サイトへクローニングし、pGEM pTaqI を得た。pBI 35S: pTaqI を作製するために、pGEM pTaqI をテンプレートにして、プライマー (5'- ttggagagaacacgggggactctagaggatccccgggtggtcagtc -3'(配列番号19) と 5'- ttgaacgatcggggaaattcgagctctgtacctcacgggc -3'(配列番号20)) を用いPCR増幅して得た pTaqI ORF を pBI121 ベクターの BamHI と SacI 切断サイトへ In-Fusion(登録商標) Dry-Down PCR Cloning Kit w/Cloning Enhancer (Clontech) を使用して (In-Fusion反応) クローニングし、pBI 35S: pTaqI を得た。また、pBI HSP18.2: pTaqI を作製するために、pGEM pTaqI をテンプレートにして、プライマー (5'- ctcccgaaaagcaacgaacaggatccccgggtggtcagtc -3' と(配列番号21) 5'- ttgaacgatcggggaaattcgagctctgtacctcacgggc -3'(配列番号22)) を用いPCR増幅して得た pTaqI ORF を pBI HSP18.2: GUS の BamHI と SacI 切断サイトへ In-Fusion 反応でクローニングし、pBI HSP18.2: pTaqI を得た。
Arabidopsis thaliana 熱ショックタンパク質 (HSP18.2: At5g59720) プロモーター支配下でプラスチドに局在するC末端側にFLAGタグを連結した HinP1I (pHinP1I-FLAG) あるいはプラスチドに局在するC末端側にFLAGタグを連結した MseI (pMseI-FLAG)を植物細胞で発現させるためのベクターをそれぞれ、 pBI HSP18.2: pHinP1I-FLAG とpBI HSP18.2: pMseI-FLAGとした。
まず、Haemophilus influenzae P1 由来のHinP1I (Accession No. AAW33811) と Micrococcus sp.由来の MseI (Accession No. ABC86982) をコードするDNA配列を人工遺伝子合成した (Invitrogen)。なお、合成した各人工遺伝子にはmodified castor bean catalase intron (mCBC intron) 配列 (Ma et al., 2011) も含めた(配列番号23及び配列番号24)。
pBI HSP18.2: pHinP1I-FLAG を作製するために、pGEM Pt transit をテンプレートにして、プライマー (5'- aggatccccgggtggtcagtcccttatggcttcctctatgctctc -3' (配列番号25) と 5'- ccgagttccacgaggttcatttcggaatcggtaaggtcag -3' (配列番号26)) でPCR増幅し RbcS1A (At1G67090) の葉緑体移行型シグナルペプチドを含む DNA 断片を単離した。また、人工HinP1I 遺伝子をテンプレートにして、プライマー (5'- ctgaccttaccgattccgaaatgaacctcgtggaactcgg -3' (配列番号27) と 5'- gagctctcacttatcatcatcgtccttgtaatctcctccgatatcgaaaagct -3' (配列番号28)) でPCR増幅し HinP1I 遺伝子の DNA 断片を単離した。これら2種類のDNA断片をテンプレートにして、プライマー (5'- ctcccgaaaagcaacgaacaggatccccgggtggtcagtc -3' (配列番号29) と 5'- ttgaacgatcggggaaattcgagctctcacttatcatcatcgtcc -3' (配列番号30)) でPCR増幅して得た pHinP1I-FLAG をコードするDNA断片をpBI HSP18.2: GUS の BamHI と SacI 切断サイトへ In-Fusion 反応でクローニングし、pBI HSP18.2: pHinP1I-FLAG を得た。
次に、pBI HSP18.2: pMseI-FLAG を作製するために、pGEM Pt transit をテンプレートにして、プライマー (5'- aggatccccgggtggtcagtcccttatggcttcctctatgctctc -3'(配列番号31) と 5'- tcggtaggctcgtgggtcatttcggaatcggtaaggtcag -3'(配列番号32)) でPCR増幅し RbcS1A (At1G67090) の葉緑体移行型シグナルペプチドを含む DNA 断片を単離した。また、人工MseI 遺伝子をテンプレートにして、プライマー (5'- ctgaccttaccgattccgaaatgacccacgagcctaccga -3'(配列番号33) と 5'- gagctctcacttatcatcatcgtccttgtaatctccaccgtaaggtccaggtc -3'(配列番号34)) でPCR増幅し MseI 遺伝子の DNA 断片を単離した。これら2種類のDNA断片をテンプレートにして、プライマー (5'- ctcccgaaaagcaacgaacaggatccccgggtggtcagtc -3' (配列番号35) と 5'- ttgaacgatcggggaaattcgagctctcacttatcatcatcgtcc -3' (配列番号36)) でPCR増幅して得た pMseI-FLAG をコードするDNA断片をpBI HSP18.2: GUS の BamHI と SacI 切断サイトへ In-Fusion 反応でクローニングし、pBI HSP18.2: pMseI-FLAG を得た。
(植物の生育条件)
シロイヌナズナ種子をムラシゲ・スクーグ (MS) 培地 (1% Sucrose を含む) (Gellan Gum (終濃度0.5%)) に播種し、3日間、春化処理を行った。その後、人工気象室 (22℃、湿度約60%) に移し、長日条件 (16 時間明条件 / 8 時間暗条件、およそ50 μmol m-2 s-1 の白色蛍光灯) 下で生育させた。熱処理は明条件下で37℃、6時間処理を行った。
(シロイヌナズナ形質転換体の作製)
上記の4種類のベクターを野生型のシロイヌナズナ (Col-0) へfloral-dip 法 (Clough and Bent, 1998) を用いて形質転換した。T1植物の選抜はカナマイシン (終濃度30 μg/mL) と カルベニシリン (終濃度100 μg/mL) を含むMS培地で行った。その後、スーパーミックスA (サカタのタネ) を使用して鉢上げした。
(透過型電子顕微鏡(TEM)観察)
各植物株の本葉サンプルを細断し、2%グルタールアルデヒド/0.1M カコジル酸緩衝液に浸け一晩(4℃)前固定した。0.1M カコジル酸緩衝液で洗浄後、四酸化オスミウム/0.1M カコジル酸緩衝液で2時間(4℃)後固定した。0.1M カコジル酸緩衝液で洗浄後、50%, 70%, 90%, 100%エタノールで段階的に脱水し、プロピレンオキサイドで置換した。その後、プロピレンオキサイド:エポキシ樹脂の7:3混合液及び、1:1混合液でそれぞれ30分、1時間、室温で浸透させ、100%エポキシ樹脂で4日間(4℃)低温浸透させた。その後、60℃で48時間処理し包埋した。サンプルはウルトラミクロトームで超薄切片を作製し、酢酸ウラニルと鉛染色液で二重染色後、電子顕微鏡で観察した。
(リアルタイムPCR解析)
サンプリングした植物体のゲノム抽出はDNeasy(登録商標)Plant Mini Kit (QIAGEN) を用いて行った。リアルタイムPCRには POWER SYBR(登録商標)GREEN PCR MASTER MIX (Applied Biosystems) を用い、蛍光検出には、7000 Sequence Detection System (Applied Biosystems) を用いた。プラスチド遺伝子の定量に使用したプライマーを表 1 に示す。プラスチドゲノムの切断活性の測定に使用したプライマーを表2に示す。
(NGS解析と葉緑体ゲノムの変異解析)
各ゲノムサンプルについて、Illumina HiSeq 2500 を使用してペアエンドシーケンスを行った。プラスチドゲノムの変異を含む可能性のあるリードの単離は Zampini et al. (2015) の方法に従った。すなわち、ゲノムDNA(核ゲノム+プラスチドゲノム+ミトコンドリアゲノム)サンプルについて、Illumina Hiseq 2500を使用し、Zampini らにより、Galaxy's Published Workflows sectionで「Rearrangement Junction Detection」として公開されているペアエンドのリードWorkflowでペアエンドのリードセットから、Potential Junctionをもつリード(逆位、欠失、重複のいずれかの変異をもつリード)を特定した。
プラスチドゲノムにマップされたリード(ペアエンド)のCoverage解析は以下の手順で行った。ペアエンドの両方がプラスチドゲノムにマップされた全リード(ペアエンド)をプラスチドゲノム上の位置で1kbごとにカウントした。IR 領域にマップされたリード(ペアエンド)はすべて最初の逆位反復配列(IR)領域上にマップした。その後、全リード(ペアエンド)数を 1,000,000 として正規化した。
次いで、Zampini et al.(2015) の方法に従い、単離したリードは BLAST+ 解析 (Camacho et al., 2009)を行った。なお、7種類以上のアライメントが提示されたリードは解析から除外し、6種類以下のアライメントが提示されたリードのうち、2種類のアライメントをもつリードをプラスチドゲノムの変異を含むリードとした。
リードのBLAST解析は、具体的には、以下のようにした。各リードについて、シロイヌナズナのプラスチドゲノム(Genbank accession no. AP000423.1)に対し、BLAST+解析 (Camacho, C., Coulouris, G., Avagyan, V., Ma, N., Papadopoulos, J., Bealer, K. and Madden, T.L. (2009) BLAST+: architecture and application. BMC Bioinformatic, 10, 421.)でアライメント(マップ)し、Potential Junction をもつリードのうち、プラスチドゲノム上の2ヶ所にマップされたリード(2種類のアライメントをもつリード)のみ選抜した。これらリードが1つのJunction(逆位、欠失、重複のいずれかの変異)をもつリードとなる。
プラスチドゲノム1つあたりの構造変化数は以下の手順で行った。プラスチドゲノム1つあたりの塩基数を154,478 bp (Genbank accession no.AP000423) として、プラスチドゲノムにマップされたリード(ペアエンド)の総塩基数から、NGS解析に使用されたプラスチドゲノム数を求めた。この値と上記のプラスチドゲノムの変異を含むリードの総数からプラスチドゲノム一つあたりの構造変化数を求めた。
プラスチドゲノムの構造変化の分類は以下の手順で行った。変異を含むリード(ペアエンド)で、最初のアライメントと2番目のアライメントがプラスチドゲノム上で互いに逆向きに配置されているリードは逆位の変異をもつリード(ペアエンド)とした。それ以外の残りのリード(ペアエンド)は欠失・重複の変異をもつリード(ペアエンド)とした。次に、それぞれのリード(ペアエンド)について、最初のアライメントの3' 末端と2番目のアライメントの5' 末端のプラスチドゲノム (Genbank accession no.AP000423) 上の位置から、1,000bp以上離れた位置で起きた変異と1,000 bp未満の距離で起きた変異に分類した。
次に、Junction(逆位、欠失、重複のいずれかの変異)をもつリードの合計数をシーケンスされたプラスチドゲノム数で割ることにより、プラスチドゲノムあたりの変異数を求めた。なお、シーケンスされたプラスチドゲノム数は、(プラスチドゲノムにマップされたリードのquality check後の塩基長をすべて合計したもの)÷ 154478 =シーケンスされたプラスチドゲノム数、とした。すなわち、信頼性の高いシーケンスデータの実測値からプラスチドゲノム数を求めることとした。
次に、Junction(逆位、欠失、重複のいずれかの変異)をもつリードの合計数をシーケンスされたプラスチドゲノム数で割ることにより、プラスチドゲノムあたりの変異数を求めることができた。
(pTaqI株、pHinP1I株、pMseI株の表現型観察)
シロイヌナズナ野生株Col−0に、pBI 35S:pTaqI、pBI HSP18.2:pTaqI、pBI HSP18.2:pHinP1I−FLAG、pBI HSP18.2:pMseI−FLAGを導入した株をそれぞれ、35S:pTaqI株、HSP18.2:pTaqI株、HSP18.2:pHinP1I株、HSP18.2:pMseI株と名付けた。
図1は、播種後24日目(春化処理を含む)のCol−0及び35S:pTaqI株の表現型を示す。35S:pTaqI株は、Col−0と同様に、緑色の葉を展開する植物体と、図1(B)に示すように、斑入りの葉を展開する植物体とに分類された。それぞれの株を、35S:pTaqI株(G:Green)及び35S:pTaqI株(V:Variegation)と称した。本葉の葉肉細胞の葉緑体をTEM観察した結果、図1(C)及び(D)に示すように、Col−0の葉緑体にはチラコイド膜構造が観察されたが、35S:pTaqI株(V)の斑入り部分においては、チラコイド膜構造が欠損した葉緑体が観察された。
図2は、播種後24日目(春化処理を含む)のCol−0及びHSP18.2:pTaqI株の表現型を示す。図2(A)、(B)、(E)及び(F)に示すように、HSP18.2:pTaqI株は、熱処理(播種後14日目に37℃、6時間に曝露)を施さない無処理で生育させた場合には、Col−0と同様に緑色の本葉を展開し、チラコイド膜の発達した葉緑体が観察された。一方、Col−0及びHSP18.2:pTaqI株に、播種後上記の熱処理を施し、その後、22℃の条件下で10日間生育させたところ、図2(C)及び(G)に示すように、Col−0は成長が少し阻害されたが無処理の場合と同様、緑色の本葉を展開し、チラコイド膜の発達した葉緑体が観察された。一方、図2(D)に示すように、HSP18.2:pTaqI株は、成長が少し阻害されるだけでなく、斑入りの葉を展開し、図2(H)に示すように、斑入り部分では35S:pTaqI株と同様に、チラコイド膜構造が欠損した葉緑体が観察された。
図3には播種後24日目(春化処理)のCol−0及びHSP18.2:pHinP1I株及びHSP18.2:pMseI株の表現型を示す。図3(A)及び(C)に示すように、HSP18.2:pHinP1I株及びHSP18.2:pMseI株は、ともに無処理で生育させた場合には、Col−0と同様に緑色の本葉を展開した。一方、Col−0及びHSP18.2:pHinP1I株及びHSP18.2:pMseI株に、播種後上記の熱処理を施し、その後、22℃の条件下で10日間生育させたところ、図3(B)及び(D)に示すように、HSP18.2:pHinP1I株及びHSP18.2:pMseI株は、成長が少し阻害されるだけでなく、斑入りの葉を展開した。また、図3(E)及び同(F)に示すように、斑入り部分では熱処理をしたHSP18.2:TaqI株と同様に、チラコイド膜構造が欠損した葉緑体が観察された。なお、成長の阻害程度及び斑入り程度は、HSP18.2:pTaqI株よりも強い傾向があった。
以上の結果から、葉緑体などのプラスチド局在型の多頻度DNA切断活性を有するタンパク質は葉緑体の機能を阻害し、斑入りの葉を展開する植物体とする能力があることがわかった。
(pTaqIによるプラスチドゲノムへの二本鎖DNA切断導入の検出)
HSP18.2:pTaqI株として独立した3ライン(T202、T205、T206)を使用した。これらの株を21日間(春化処理を含む)生育させた植物体について、その後無処理のままサンプリングし、あるいはその後所定の熱処理(37℃、6時間)を行った後にサンプリングし、ゲノム抽出を行った。ゲノム抽出後、以下のプライマー(配列番号37〜46)を用いて、4種類のプラスチド遺伝子について、リアルタイムPCRによる定量解析を行った。
Figure 0006874742
解析したプラスチド遺伝子は、ndhH、rrn16、psaB及びpsbBであり、それぞれプラスチドゲノム上のSSC、IR、LSC、LSCの領域に位置している。これらのプラスチド遺伝子の定量解析の結果を、図4Aに示す。なお、それぞれのプラスチド遺伝子量は、核遺伝子(Atlg25350)で正規化し、無処理あるいは熱処理したCol−0のプラスチド遺伝子量を1.0として、HSP18.2:pTaqI株の各プラスチド遺伝子量の相対量を示した。
図4Aに示すように、これらの株において、無処理であっても熱処理の直後であっても、HSP18.2:pTaqI株では、プラスチド遺伝子量が少し減少するものの、その程度は同程度であった。この結果から、HSP18.2:pTaqI株のプラスチドゲノムはコピー数は減少しているものの、pTaqIの熱誘導前と熱誘導後で、プラスチドゲノムの構造自体は、Col−0のプラスチドゲノムと同等であることが推測された。
また、上記3株についてゲノム抽出後、TaqI切断サイトを4〜9個所含むプラスチドゲノム領域について、以下に示すプライマー(配列番号47〜58)を用いてリアルタイムPCRによる定量解析を行った。なお、解析したプラスチドゲノム領域は、プラスチドゲノム(Genebank accession no:AP000423)上のLSC(24429-25010bp)、LSC(50877-51473bp)、IR(97944-98498又は140151-140705bp)、LSC(19011-19610)及びIR(95550-96172又は142477-143099bp)の領域でTaqI切断サイトをそれぞれ、4、6、7、7及び9個含んでいた。
Figure 0006874742
これらの結果を図5A(A)〜(E)にそれぞれ示す。なお、TaqI切断サイトを含むプラスチドゲノム領域量は、TaqI切断サイトを含まないプラスチドゲノム領域で正規化し、無処理又は熱処理したCol−0のTaqI切断サイトを含むプラスチドゲノム領域量を1.0として、HSP18.2:pTaqI株のプラスチドゲノム領域量の相対量を示した。
図5Aに示すように、各プラスチドゲノム領域の定量解析の結果、HSP18.2:pTaqI株は、熱処理前は、Col−0と同レベルであるのに対して、熱処理後では、各プラスチドゲノム領域のPCR増幅効率が有意に低下した。
以上のことから、HSP18.2:pTaqI株では、熱処理により発現したpTaqIが、プラスチドゲノムに二本鎖切断を導入したことがわかった。
(pHinP1IとpMseIによるプラスチドゲノムへの二本鎖DNA切断導入の検出)
HSP18.2:pHinP1I株として独立した2ライン(T3469、T3474)及び、HSP18.2:pMseI株として独立した2ライン(T3484、T3491)を使用した。これらの株を21日間(春化処理を含む)生育させた植物体について、その後無処理のままサンプリングし、あるいはその後所定の熱処理(37℃、6時間)を行った後にサンプリングし、ゲノム抽出を行った。ゲノム抽出後、3種類のプラスチド遺伝子について、以下のプライマー(上から順に配列番号59〜68)を用いて、リアルタイムPCRによる定量解析を行った。
Figure 0006874742
解析したプラスチド遺伝子は、ndhH、rrn16、及びpsaBであり、それぞれプラスチドゲノム上のSSC、IR、LSCの領域に位置している。これらのプラスチド遺伝子の定量解析の結果を、図4Bに示す。なお、それぞれのプラスチド遺伝子量は、核遺伝子(Atlg25350)で正規化し、無処理あるいは熱処理したCol−0のプラスチド遺伝子量を1.0として、HSP18.2:pHinP1I株とHSP18.2:pMseI株の各プラスチド遺伝子量の相対量を示した。
図4Bに示すように、熱処理の直後のHSP18.2:pHinP1I株とHSP18.2:pMseI株では、プラスチド遺伝子量が減少するものの、その程度は同程度であった。この結果から、pHinP1IとpMseIの熱誘導前と熱誘導後で、プラスチドゲノムの構造自体は、Col−0のプラスチドゲノムと同等であることが推測された。
また、上記の株についてゲノム抽出後、HinP1I切断サイトを2〜5個所含むプラスチドゲノム領域、あるいはMseI切断サイトを5、または9個所含むプラスチドゲノム領域について、それぞれ以下のプライマー(上から順に配列番号69〜76及び同77〜84)を用いてリアルタイムPCRによる定量解析を行った。なお、解析したプラスチドゲノム領域は、pHinP1Iについてはプラスチドゲノム(Genebank accession no:AP000423)上のSSC(114339-114981bp)、IR(102737-103320 又は135329-135912bp)、及びLSC(32852-33465bp)の領域でそれぞれHinP1I切断サイトをそれぞれ、2、4、及び5個含んでいた。同様に、pMseIについてはプラスチドゲノム(Genebank accession no:AP000423)上のSSC(121773-122345bp)、IR(99985-100520 又は138129-138664bp)、及びLSC(80419-80989bp)の領域でそれぞれMseI切断サイトをそれぞれ、5、5、及び9個含んでいた。
Figure 0006874742
Figure 0006874742
これらの結果を図5B(F)〜(K)にそれぞれ示す。なお、HinP1I及びMseI切断サイトを含むプラスチドゲノム領域量は、それぞれ切断サイトを含まないプラスチドゲノム領域で正規化し、無処理又は熱処理したCol−0のHinP1I及びMseI切断サイトを含むプラスチドゲノム領域量を1.0として、HSP18.2:pHinP1I株とHSP18.2:pMseI株のプラスチドゲノム領域量の相対量を示した。
図5Bに示すように、各プラスチドゲノム領域の定量解析の結果、HSP18.2:pHinP1I株とHSP18.2:pMseI株は、熱処理前は、Col−0と同レベルであるのに対して、熱処理後では、各プラスチドゲノム領域のPCR増幅効率が有意に低下した。
以上のことから、HSP18.2:pHinP1I株とHSP18.2:pMseI株では、熱処理により発現したpHinP1I及びpMseIが、プラスチドゲノムに二本鎖切断を導入したことがわかった。
(pTaqI、pHinP1I及びpMseIによるプラスチドゲノムの構造変化の誘導)
播種後25日目のCol−0、35S:pTaqI(G)、35S:pTaqI(V)からゲノム抽出してNGS解析を行った。また、播種後14日目(春化処理を含む)に37℃、6時間の熱処理後、22℃の条件下に戻して10日間生育させたHSP18.2:pTaqI株、HSP18.2:pHinP1I株、HSP18.2:pMseI株についても同様のNGS解析を行った。
NGS解析は、プラスチドゲノムにマップされたリード(ペアエンド)を既述のプラスチドゲノム上の位置で1kbごとにカウントし、全リード数(ペアエンド数)を1000000として正規化して、プラスチドゲノムのおおよその構造を解析(Coverage解析)した。結果を図6A〜6Bに示す。なお、IR領域にマップされたリードはすべて最初のIR領域上にマップした。
図6A(A)〜(C)に示すように、熱処理していない35S:pTaqI(G)のプラスチドゲノムは、Col−0と同様の構造を有していることが示唆されたが、35S:pTaqI(V)株のプラスチドゲノムはCol−0と比較すると大きな構造変化が生じていた。
図6B(D)〜F及び図6C(G)に示すように、熱処理を伴って生育させたHSP18.2:pTaqI株、HSP18.2:pMseI株では、プラスチドゲノムの48〜50kbの領域が増幅されるなどの構造変化が観察され、HSP18.2:pHinP1I株では、35S:pTaqI株(V)とは異なる大規模な構造変化が生じていた。
次に、プラスチドゲノムの構造変化の特徴を詳細に解析した。すなわち、プラスチドゲノムあたりの構造変化数を検出するとともに、その構造変化のタイプを分類した。これらの結果を図7及び8に示す。
図7に示すように、Col−0では、プラスチドゲノム当たりの構造変化(逆位/欠失/重複)の数は、0.08個であったのに対し、35S:pTaqI株(V)では、3.7個であり、44倍に増加した。また、35S:pTaqI株(G)でも、構造変化数は0.18個であり、Coverage解析で顕著な構造変化を観察されなかったが、Col−0に比較して2倍以上に増加した。また、熱処理を行ったCol−0の構造変化の数は0.09個であったのに対し、HSP18.2:pTaqI株は8.35個であり、約90倍に増加した。さらに、HSP18.2:pHinP1I株とHSP18.2:pMseI株はそれぞれ18.25個、19.21個であり、約197倍及び207倍に増加した。なお、Col−0、35S:pTaqI株(V)及び35S:pTaqI株(G)のプラスチドゲノム1分子あたりの構造変化数は、プラスチドゲノム10000分子あたりのジャンクションリード数(逆位、欠失あるいは重複を1個有するリード)/10000として算出した。
<Col−0について>
「プラスチドゲノム10000分子あたりのジャンクションリード数」=
プラスチドゲノムサイズ(154478)×10000/シークエンスされた塩基数(1573858970)×(851:逆位を持つリード数652+欠失/重複をもつリード数199)=835
「プラスチドゲノム1分子あたりのジャンクションリード数」=835/10000=0.0835
<35S:pTaqI株(V)>
「プラスチドゲノム10000分子あたりのジャンクションリード数」=
プラスチドゲノムサイズ(154478)×10000/シークエンスされた塩基数(1876743644)×(44824:逆位を持つリード数11885+欠失/重複をもつリード数32939)=36895
「プラスチドゲノム1分子あたりのジャンクションリード数」=36895/10000=3.6895
<35S:pTaqI株(G)>
「プラスチドゲノム10000分子あたりのジャンクションリード数」=
プラスチドゲノムサイズ(154478)×10000/シークエンスされた塩基数(1338789357)
×(1570:逆位を持つリード数1108+欠失/重複をもつリード数462)=1812
「プラスチドゲノム1分子あたりのジャンクションリード数」=1812/10000=0.1812
<熱処理したCol-0>
「プラスチドゲノム10000分子あたりのジャンクションリード数」=
プラスチドゲノムサイズ(154478)×10000/シークエンスされた塩基数(1772458621)
×(1063:逆位を持つリード数717+欠失/重複をもつリード数346)=926
「プラスチドゲノム1分子あたりのジャンクションリード数」=926/10000=0.0926
<HSP18.2:pTaqI株>
「プラスチドゲノム10000分子あたりのジャンクションリード数」=
プラスチドゲノムサイズ(154478)×10000/シークエンスされた塩基数(1699380556)
×(91813:逆位を持つリード数3593+欠失/重複をもつリード数88220)=83460
「プラスチドゲノム1分子あたりのジャンクションリード数」=83460/10000=8.346
<HSP18.2:pHinP1I株>
「プラスチドゲノム10000分子あたりのジャンクションリード数」=
プラスチドゲノムサイズ(154478)×10000/シークエンスされた塩基数(1926921847)
×(227614:逆位を持つリード数69355+欠失/重複をもつリード数158259)=182474
「プラスチドゲノム1分子あたりのジャンクションリード数」=182474/10000=18.2474
<HSP18.2:pMseI株>
「プラスチドゲノム10000分子あたりのジャンクションリード数」=
プラスチドゲノムサイズ(154478)×10000/シークエンスされた塩基数(1354494793)
×(168434:逆位を持つリード数2324+欠失/重複をもつリード数166110)=192096
「プラスチドゲノム1分子あたりのジャンクションリード数」=192096/10000=19.2096
また、図8に示すように、Col−0での構造変化は、逆位に起因するものが大多数を占めるのに対し、35S:pTaqI株(V)では、欠失/重複の占める割合が増大し、35S:pTaqI株(G)でもCol−0よりも、欠失/重複の占める割合が増大した。同様に、熱処理をしたCol−0での構造変化は、逆位に起因するものが過半数を占めるのに対し、熱処理をしたHSP18.2: pTaqI株、HSP18.2: pHinP1I 株、HSP18.2: pMseI株では、欠失/重複の占める割合が増大した。
pTaqIによる構造変化を詳細に検討したところ、プラスチドゲノムの構造変化は、マイクロホモロジー領域を介するケースとそうでないケースとに分離され(非特許文献3〜5)、マイクロホモロジー領域を介した構造変化の場合、それら配列が完全に一致しない場合もあったが、かかる場合には、どちらかの配列が採用されるため、塩基置換や小規模な挿入・欠失が誘導・導入されることがわかった(図9)。
以上の結果から、pTaqIは、プラスチドゲノムを二本鎖DNA切断することにより、プラスチドゲノム上の変異(塩基置換、挿入、逆位、欠失、重複、転座)を誘導できることが明らかとなった。
配列番号13〜22、25〜84:プライマー
配列番号23、24:合成オリゴヌクレオチド

Claims (17)

  1. (1)多頻度DNA二本鎖切断活性を有するポリペプチドと、プラスチドに対する転移要素と、を備える融合ポリペプチド、及び
    (2)前記融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
    のいずれかを含有する、植物のプラスチドゲノムの構造変化を誘導するための剤。
  2. 前記転移要素は、前記植物の核コードの前記プラスチドのタンパク質のトランジット領域を含む、請求項に記載の剤。
  3. 前記植物はアブラナ科植物である、請求項1又は2に記載の
  4. 前記アブラナ科植物は、シロイヌナズナである、請求項に記載の編成剤。
  5. 前記構造変化は、前記プラスチドゲノムにおける、塩基置換、欠失、挿入、転座、重複及び逆位から選択される1種又は2種以上の構造変化である、請求項1〜4のいずれかに記載の
  6. 前記プラスチドゲノムの構造変化の総個数(ゲノム1分子相当量)が、前記融合ポリペプチド及び前記ポリヌクレオチドのいずれも備えない前記植物の野生型プラスチドゲノムの構造変化の総個数(ゲノム1分子相当量)に対して2倍以上となる前記構造変化を誘導する剤である、請求項に記載の
  7. 前記プラスチドゲノムの「DNAの逆位、欠失及び重複」の総個数(ゲノム1分子相当量)が、前記野生型プラスチドゲノムの「DNAの逆位、欠失及び重複」の総個数(ゲノム1分子相当量)の2倍以上となる前記構造変化を誘導する、請求項5又は6に記載の
  8. 前記プラスチドゲノムの「DNAの逆位、欠失及び重複」の総個数(ゲノム1分子相当量)が、前記野生型プラスチドゲノムの「DNAの逆位、欠失及び重複」の総個数(ゲノム1分子相当量)の10倍以上となる前記構造変化を誘導する、請求項5〜7のいずれかに記載の
  9. 前記植物は植物個体又は細胞である、請求項1〜8のいずれかに記載の
  10. 請求項1に記載にポリヌクレオチドを含む、植物の形質転換ベクター。
  11. 請求項10に記載の形質転換ベクターにより形質転換された植物又はその一部。
  12. 植物のプラスチドのゲノムにおける構造変化の誘導方法であって、
    前記植物又はその一部に対して、多頻度DNA二本鎖切断活性を有するポリペプチドと、前記プラスチドに対する転移要素と、を備える融合ポリペプチド又は当該融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを導入する導入工程と、
    前記融合ポリペプチドにより前記植物又はその一部の細胞内において前記プラスチドのゲノムの構造変化を誘導する誘導工程と、
    を備える、方法。
  13. 前記導入工程は、前記ポリヌクレオチドを前記融合ポリペプチドを発現可能に前記植物又はその一部に導入する工程である、請求項12に記載の方法。
  14. 遺伝的に改変された植物の生産方法であって、
    前記植物又はその一部に対して、多頻度DNA二本鎖切断活性を有するポリペプチドと、プラスチドに対する転移要素と、を備える融合ポリペプチド又は当該融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを導入する導入工程と、
    前記融合ポリペプチドにより前記植物又はその一部のプラスチドゲノムの構造変化を誘導する誘導工程と、
    を備える、方法。
  15. さらに、前記誘導工程によって得られた植物又はその一部から、有用な形質を有する個体をスクリーニングする工程、を備える、請求項14に記載の方法。
  16. 形質転換された植物材料であって、
    多頻度DNA二本鎖切断活性を有するポリペプチドと、プラスチドに対する転移要素と、を備える融合ポリペプチド又は当該融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを保持し、
    前記植物材料のプラスチドゲノムは、前記融合ポリペプチドによるDNA二本鎖切断に基づく、塩基置換、欠失、挿入、転座、重複及び逆位から選択される1種又は2種以上の構造変化を備える材料。
  17. 前記プラスチドゲノムの「DNAの逆位、欠失及び重複」の総個数(ゲノム1分子相当量)が、前記植物材料の野生型プラスチドゲノムの「DNAの逆位、欠失及び重複」の総個数(ゲノム1分子相当量)の2倍以上である請求項16に記載の植物材料。
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