図1(a),(b)には、本発明の実施例1である屈折率計測装置(低コヒーレンス干渉計)100の構成を示している。計測装置100は、被検物中の光路長と、媒質および被検物の光路長の和と、媒質中の光路長とを計測し、これらの計測結果を用いて被検物の屈折率を求める。被検物50は、本実施例では、負の光学パワー(焦点距離の逆数)を有するレンズである。ただし、本実施例の計測装置によって、正の光学パワーを有するレンズや平板等、他の屈折型の光学素子の屈折率を計測することができる。
計測装置100は、光源10、干渉光学系(20,21,25,30,35,75)、可動ミラー(参照物)70、媒質60と被検物50を収容可能な容器40および検出器(検出手段)80により構成される計測系(計測手段)と、コンピュータ(算出手段)90とを有する。計測装置100は、被検物の群屈折率、位相屈折率および厚みを算出することができる。媒質60は、空気とは異なる屈折率を有するオイル等の液体である。
光源10は、波長帯域の広い(スペクトルの広がった)低コヒーレンス光を発する広帯域・低コヒーレンス光源であり、例えば、SLD(スーパールミネッセントダイオード)が用いられる。広帯域光源のコヒーレンス長Δzは、次式(1)で表すことができる。
ただし、λcは広帯域光源の中心波長であり、Δλはスペクトル幅である。
光路長を高精度に計測するためには、Δz<30μmであることが望ましい。例えば、λc=1.310μm、Δλ=0.050μmとすると、Δzは15μmとなる。
干渉光学系は、光源10からの光を分割して2つのソース光を生成し、これら2つのソース光のうち一方のソース光(以下、第1のソース光という)を被検物50又は容器40の側に導き、他方のソース光(以下、第2のソース光という)を可動ミラー70に導く。第2のソース光を可動ミラー70で反射させることで参照光を得る。
一方、干渉光学系は、第1のソース光をさらに分割して2つの計測光を生成する。そして、該2つの計測光のうち一方の計測光(一方の光:以下、第1の計測光という)を、図1(a)に示すように、第1の計測光路OP1を介して、空気中(容器40外)に配置された被検物50に入射させ、被検物50の面で反射した第1の被検光を得る。また、図1(b)に示すように、第1の計測光を、第1の計測光路OP1を介して媒質60および被検物50が内部に配置された状態の容器40に導く。そして、該容器40において媒質60および被検物50が間に配置された2つの壁部(以下、容器壁という)40a,40bの面(第1の2面)で反射された第2の被検光を得る。第1の2面については後に説明する。
さらに干渉光学系は、上記2つの計測光のうち他方の計測光(他方の光:以下、第2の計測光という)を、図1(b)に示すように、第2の計測光路OP2を介して容器40のうち内部に媒質60のみが配置された部分(被検物50が配置されていない部分)に導く。そして、この部分において2つの容器壁40a,40bの面(第2の2面)で反射された第3の被検光を得る。第2の2面については後に説明する。なお、第2の計測光を容器40のうち内部に媒質60のみが配置された部分に導くことは、第2の計測光を、内部に媒質60が配置され、被検物50が配置されていない状態の容器40に導くことと同義である。また、図1(a)に示すように容器40が配置されていない状態では、第2の計測光は使用されない。
そして、干渉光学系は、第1〜第3の被検光(以下、まとめて被検光ともいう)と参照光とを重ね合わせて干渉させることで生じる干渉光を検出器80に導く。
干渉光学系は、具体的には、コリメータレンズ20と、第1のビームスプリッタ30と、第2のビームスプリッタ35と、集光角(つまりは開口数)が変更可能であるレンズモジュール25と、偏向ミラー75と、集光レンズ21とを有する。
コリメータレンズ20は、光源10と第1のビームスプリッタ30との間に配置され、光源10からのソース光を平行光に変換する。集光レンズ21は、第1のビームスプリッタ30と検出器80との間に配置され、第1のビームスプリッタ30からの干渉光を検出器80に集光する。
レンズモジュール25は、第2のビームスプリッタ35と被検物50との間に配置され、第1および第2のビームスプリッタ30,35を透過した光(第1の計測光)を被検物50に集光する。レンズモジュール25は、これを構成する複数のレンズの位置を変化させる等によって、被検物50に入射する光の開口数(NA)を変更することができる。なお、レンズモジュール25を、第1のビームスプリッタ30と第2のビームスプリッタ35との間に配置してもよい。
第1のビームスプリッタ30は、例えば、キューブハーフミラーから構成され、プリズムの界面(接合面)31において光源10からのソース光の一部を90°上方向に反射するとともに、残りを透過する。界面31で反射した第2のソース光は、図中の上方に配置された可動ミラー70によって反射され、界面31を透過した光第1のソース光は、図中の右側に配置された被検物50又は容器40に向かう。
また、第1のビームスプリッタ30は、界面31において、可動ミラー70からの参照光の一部を透過し、被検物50又は容器40からの被検光の一部を90°下向きに反射する。この結果、参照光の一部と被検光の一部とが互いに干渉して干渉光が生成される。干渉光は、集光レンズ21を通して検出器80に向かう。
干渉光学系の光学作用をさらに詳しく説明する。光源10から発せられて第1のビームスプリッタ30(界面31)を透過した第1のソース光は、第2のビームスプリッタ35の界面36において透過光である第1の計測光と反射光である第2の計測光とに分割される。第2のビームスプリッタ35(界面36)からの第1の計測光の光路である第1の計測光路OP1には、空気中に配置された被検物50(図1(a))若しくは容器40内に配置された媒質60および被検物50(図1(b))が配置される。第1の計測光は、図1(a)の状態では被検物50の面で反射されて第1の被検光となり、図1(b)の状態では容器壁40a,40bのうち2つの面(第1の2面)で反射されて第2の被検光となる。被検物50の面からの第1の被検光および容器壁40a,40bからの第2の被検光は、第2のビームスプリッタ35(界面36)を再度透過し、第1のビームスプリッタ30(界面31)で反射されて集光レンズ21を通って検出器80に到達する。
一方、第2のビームスプリッタ35(界面36)にて反射した第2の計測光は、偏向ミラー75で反射されて容器40の方向に向かう。偏向ミラー75からの第2の計測光の光路である第2の計測光路OP2では、図1(b)に示すように、内部に媒質60のみが配置され、被検物50が配置されていない容器40が配置された状態となっている。第2の計測光は、図1(b)の状態で容器壁40a,40bのうち2つの面(第2の2面)で反射されて第3の被検光となる。第3の被検光は、第2のビームスプリッタ35(界面36)を再度反射し、第1ビームスプリッタ30(界面31)で反射されて集光レンズ21を通って検出器80に到達する。
前述したように、容器40は、媒質60と被検物50を収容することができる。容器40は、図1(a),(b)から分かるように、第1および第2の計測光路OP1,OP2に対する出し入れが可能である。容器40において第1および第2の計測光が進行する方向(以下、光進行方向という)のうち光源10に近い側(光入射側)の容器壁40aは、光を透過する材料(例えば、ガラス)で形成されている。一方、光源10から遠い側の容器壁40bは、光を透過する材料により形成されてもよいし、ミラー等、光を透過しない材料で形成されてもよい。
以下の説明において、容器壁40a,40bの面だけでなく、被検物50の面についても、光源10に近い側を前側の面といい、光源10から遠い側の面を後側の面という。
可動ミラー70は、ステージ71によって参照光路に沿って移動可能に支持されている。可動ミラー70の位置(移動量)は、不図示の測長システム(例えば、エンコーダやレーザ測長器)で計測され、コンピュータ90で制御される。
被検光と参照光の干渉は、可動ミラー70の移動に対して局所的に発生し、検出器80で検出される。検出器80から出力される検出信号としての干渉信号は、可動ミラー70の移動量によって変化する信号であり、干渉は被検光と参照光の光路長差がないときに生じる。被検光は、被検物50の各面と、容器壁40a,40bの各面とで部分的に反射されるため、可動ミラー70の移動に伴って複数の干渉信号が検出される。これら干渉信号のピーク間の距離が、上記各面間の光路長(光学的距離)に相当する。
検出器80は、フォトダイオード等により構成され、第1のビームスプリッタ30からの干渉光の光強度を検出する。
コンピュータ90は、CPU等により構成され、検出器80による干渉光の検出結果(計測結果)から被検物50の屈折率を算出する算出手段として機能するとともに、可動ミラー70の位置を制御する制御手段としても機能する。また、コンピュータ90は、光源10の点灯、容器40の交換、容器40への媒質60の注入等を制御してもよい。
図2のフローチャートには、被検物50の屈折率を計測(算出)する処理(屈折率計測方法)を示している。この処理は、コンピュータ90がコンピュータプログラムに従って実行する。
まず、ステップS10では、コンピュータ90は、図1(a)に示すように被検物50の位置を調整する。被検物50の位置の調整とは、計測光路(ここでは、第1の計測光路OP1)に平行な方向での位置の調整や、計測光路に対して直交する方向での位置の調整や、計測光路に対する傾きの調整等を含む。
次にステップS20では、コンピュータ90は、被検物50に入射させる計測光(ここでは、第1の計測光)の開口数(NA)を調整する。計測光の開口数は、レンズモジュール25を構成するレンズの位置を変更すること等により調整することができる。
本実施例にいう開口数は、レンズモジュール25から被検物50又は容器40に入射する計測光の光軸に対する最大角度をθとし、レンズモジュール25から被検物50又は容器40までの間の媒質(空気または媒質60)の屈折率nとするとき、
NA=n sinθ
で表される。なお、図1(a)ではθをθ1として、図1(b)ではθ2として示している。
本ステップS20では、開口数は、被検物50の前側と後側の面のうち曲率半径が小さい、すなわち曲率が大きい面上にて第1の計測光が小さなビーム径となるように調整されることが望ましい。ビーム径が小さいほど曲面の影響を低減できるからである。具体的には、本ステップS20では、図1(a)に示すように、被検物50の後側の面で第1の計測光が小領域に集光するように、該第1の計測光の開口数を大きく(つまりはθ1が大きくなるように)設定する。なお、ステップS10とステップS20を逆の順序で行ってもよい。
次にステップS30(第1の計測ステップ)では、コンピュータ90は、第1の計測として、検出器80からの干渉信号を用いて、図1(a)に示すように空気中に配置された被検物50の光路長である第1の光路長Zを計測する。第1の光路長Zは、第1の被検光のうち、被検物50の前側の面で反射された被検光と参照光との干渉により得られる干渉信号と、被検物50の後側の面で反射された被検光と参照光との干渉により得られる干渉信号とのピーク間の距離に相当する。第1の光路長Zは、次式(2)で表される。
ただし、Ng(λc)は第1の計測光の中心波長λcに対する被検物50の群屈折率であり、屈折率を波長の関数として表示している。また、tは被検物50の光進行方向における幾何学厚みである。
次にステップS40では、図1(b)に示すように、コンピュータ90は、不図示の容器移動機構を動作させて、容器40を第1および第2の計測光路OP1,OP2上に配置し、さらに不図示の媒質注入器を動作させて容器40内に媒質60を注入する。本実施例では、ステップS10にて位置調整を行った被検物50を動かさないように固定した状態で容器40を第1および第2の計測光路OP1,OP2上に挿入し、その後、内部に被検物50が配置された容器40内に媒質60を注入する。このため、本ステップS40において被検物50の位置調整を行う必要はない。また、第2のビームスプリッタ35で反射されて、さらに偏向ミラー75で反射された第2の計測光は、媒質60で満たされた容器40のうち被検物50の外側の部分(内部に媒質60のみが配置され、被検物50が配置されていない部分)に入射する。
続いてステップS50では、コンピュータ90は、第1の計測光路OP1において、媒質60と被検物50に入射させる第1の計測光の開口数を調整する。本ステップS50では、第1の計測光が、前側の容器壁40aにおける後側の面と後側の容器壁40bにおける前側の面である第1の2面(間に媒質60と被検物50が配置された2つの面)において小さなビーム径となるように、その開口数を調整する。容器壁40a,40bにおける上記第1の2面において同時に第1の計測光が小さなビーム径を持つために、該第1の計測光の開口数は、ステップS20で設定された開口数より小さくなるように変更(調整)される。言い換えれば、前述したθ2がステップS20で設定されたθ1より小さくなるように変更される。被検物50は、媒質60中に配置されることで屈折力(パワー)が小さくなる。このため、上記第1の2面で同時に第1の計測光を小さなビーム径とすることが可能となる。
次にステップS60(第2の計測ステップおよび第3の計測ステップ)では、コンピュータ90は、第2の計測として、検出器80からの干渉信号を用いて、第1の計測光の媒質60および被検物50中の光路長の和である第2の光路長Wを計測する。また、コンピュータ90は、第3の計測として、検出器80からの干渉信号を用いて、第2の計測光の媒質60中での光路長である第3の光路長W0を計測する。
第2の光路長Wは、前側の容器壁40aの後側の面と被検物50の前側の面の間の光路長、被検物50の前側の面と被検物50の後側の面との間の光路長および被検物50の後側の面と容器壁40bの前側の面との間の光路長の和に相当する。つまり、第2の光路長Wは、媒質50および被検物50が間に配置された前述した第1の2面の間での光路長である。言い換えれば、媒質50および被検物50を挟む2つの面である第1の2面間での光路長である。これら第1の2面での反射光が、第2の被検光である。
一方、第3の光路長W0は、媒質60が間に配置され、被検物50が配置されていない第2の2面(容器壁40aの後側の面と容器壁40bの前側の面)の間における光路長である。言い換えれば、媒質50のみを挟む2つの面である第2の2面間での光路長である。これら第2の2面での反射光が、第3の被検光である。
第2の被検光と参照光との干渉により得られる干渉信号と、第3の被検光と参照光との干渉により得られる干渉信号は、可動ミラー70の異なる位置にて検出される。このため、第2の光路長Wと第3の光路長W0は、可動ミラー70を1回走査(移動)する間に両方とも計測される。
第2の光路長Wと第3の光路長W0は、次式(3)で表される。
ただし、ng0(λc)は計測光の中心波長λcに対する媒質60の群屈折率である。Lは媒質60と被検物50を挟む第1の2面間の光進行方向での間隔であり、L0は媒質60のみを挟む第2の2面間の光進行方向での間隔である。これらの間隔L,L0は本実施例では既知の値である。例えば、容器40内から媒質60と被検物50を取り出した後にL,L0を計測してもよいし、予め計測した値を用意してもよい。容器壁40aの後側の面と容器壁40bの前側の面とが相互に平行で、間隔に変化がない場合には、第1の2面と第2の2面は相互に一致し、L=L0となる。
最後に、ステップS70では、コンピュータ90は、第1の光路長Z、第2の光路長W、第3の光路長W0および間隔L,L0を用いて、被検物50の屈折率を算出する。具体的には、式(2)と式(3)からtとng0(λc)を消去(分離)して、被検物50の群屈折率Ng(λc)を次式(4)によって算出する。
被検物50の厚みtと、媒質60の群屈折率ng0(λc)は、次式(5)で表される。
式(4)で得られる群屈折率Ng(λc)は、第1および第2の計測光の中心波長λcに対する被検物50の群屈折率である。他の任意の波長λ0に対する位相屈折率Np(λ0)を求める場合は、被検物50の硝材の分散曲線を用いて算出することができる。すなわち、波長λ0に対する硝材の位相屈折率の文献値をNp0(λ0)とし、中心波長λcに対応する群屈折率の文献値をNg0(λc)とすると、位相屈折率Np(λ0)は次式(6)によって得られる。
式(4)および式(6)のそれぞれで得られる群屈折率Ng(λc)および位相屈折率Np(λ0)は、真空に対する屈折率、つまり絶対屈折率である。これを空気に対する相対屈折率に換算するには、Ng(λc)とNp(λ0)に空気の屈折率による補正を加えるか、容器40の面間隔L,L0を幾何学距離から光学距離(空気の屈折率×幾何学距離)に変換して式(4)に代入すればよい。
式(4)に示すように、本実施例では、媒質60および被検物50中の光路長和である第2の光路長Wを計測する際の媒質60の屈折率ng0(λc)と、媒質60中の光路長である第3の光路長W0を計測する際の媒質60の屈折率ng0(λc)とが同値と仮定している。したがって、媒質60の屈折率がWとW0の計測時に同値でない場合には、算出される群屈折率Ng(λc)が誤差を持つことになる。特に、媒質60の温度が変化すると、該媒質60の屈折率も変化するため、WとW0の計測時に媒質60の温度が変化しないようにすることが望ましい。この点、本実施例では、WとW0を可動ミラー70を1回走査する間に計測するため、WとW0の計測時の温度変化の影響を低減することができる。なお、媒質60の温度が変化しないように、温度調整機構を導入してもよい。
また、本実施例では、図1(b)に示すように、第2のビームスプリッタ35と偏向ミラー75を設けて、可動ミラー70を1回走査する間にWとW0を計測している。しかし、これに代えて、容器40内における第1の計測光路OP1上に光を透過する材質の平板を挿入して、可動ミラー70を1回走査する間にWとW0を計測してもよい。例えば、容器壁40aと被検物50との間にガラス平板を挿入すると、容器壁40aの後側の面とガラス平板の前側の面(第2の2面)間の光路長がW0に相当し、ガラス平板の後側の面と容器壁40bの前側の面(第1の2面)間の光路長がWに相当する。この場合、容器壁40aの後側の面とガラス平板の前側の面と間の間隔がL0、ガラス平板の後側の面と容器壁40bの前側の面との間の間隔がLとなる。
第2の光路長Wと第3の光路長W0は、必ずしも可動ミラー70の1回の走査で計測されなくてもよく、2回の走査で計測されてもよい。つまり第2の計測と第3の計測を別々に行ってもよい。例えば、第3の光路長W0は、被検物50を媒質60中から取り除くことによって、第2の光路長Wを計測する光路と同一の光路で計測することができる。この場合、第2のビームスプリッタ35と偏向ミラー75は必要なくなる。ただし、WとW0の計測時に媒質60の温度が変化しないようにすることが望ましい。
また、本実施例では、ステップS40で媒質60中に被検物50を配置する際に、被検光路に対して容器40を挿入する場合について説明したが、最初から容器40を配置しておいてもよい。この場合、ステップS40では、媒質60を容器40内に注入するだけでよい。
また、本実施例では、WとW0の計測に、前側の容器壁40aの後側の面と後側の容器壁40bの前側の面での反射光を被検光として用いているが、媒質60と被検物50を挟む2面であれば他の2面からの反射光を被検光として用いてもよい。例えば、前側の容器壁40aの前側の面と後側の容器壁40bの後側の面からの反射光を被検光として用いてもよい。この場合、式(2),(3)で示した光路長は、容器壁40a,40b中の光路長(光学的厚み)の分だけ大きくなる。しかし、容器壁40a,40b中の光路長を別途計測しておけば、式(2),(3)で求めた光路長から容器壁40a,40b中の光路長を引き算することで補正できる。特に、容器壁40a,40bの屈折率と媒質60の屈折率とがほぼ等しいとき、両者の界面の反射率が非常に小さくなるため、干渉信号を計測することが難しい。この場合は、上記のように他の面の利用が有効である。なお、光路長を高精度に計測するためには、光路長を計測する部分を挟む2つの面が平面である方が好ましい。
さらに、本実施例では、波長帯域の広い光源としてSLDを用いているが、その代わりにパルスレーザや、ハロゲンランプのような白色光源を用いてもよい。
また、本実施例では、光路長の計測に低コヒーレンス干渉法を用いているが、その代わりに、タイムオブフライト法、位相差検出法、2色法等の方法を用いてもよい。
以上のように、本実施例によれば、被検光を得る面(反射面)でビーム径が小さくなるように計測光の開口数を調整し、また、被検物のパワーが小さくなるように被検物を媒質中に配置して、該媒質と被検物を挟む2面からの反射光を計測する。これにより、被検物の曲面やパワーの影響を低減することができ、被検物の屈折率を高精度に計測することができる。
図3(a),(b)には、本発明の実施例2である屈折率計測装置200の構成を示しており、実施例1の装置100と同じ構成要素に対しては実施例1と同じ符号を付している。
本実施例では、実施例1のように第1のソース光を分割して得た第1および第2の計測光を用いて第1〜第3の光路長Z,W,W0を計測せず、被検光路上に配置した容器40に対して被検物50を出し入れしたり媒質60を注入したりして各光路長を計測する。
また、本実施例では、干渉信号をスペクトル領域で解析し、実施例1で用いた検出器(フォトダイオード)80の代わりに、干渉光のスペクトル強度を検出する分光器85を検出手段として有する。コンピュータ90は、分光器85によるスペクトル強度の検出結果(計測結果)を取得する。さらに、本実施例では、後側の容器壁40bを、光を透過する材料により形成して、その後段にミラー45を配置して、第1のビームスプリッタ30と可動ミラー70との間に補償板25を配置している。
図3(a)において容器40は被検物50を収容している。容器40内は空気で満たされている。被検物50は、矢印で示すように、容器40に対して出し入れが可能である。
容器壁40a,40bはともに光を透過する材料により形成されており、前述したように容器壁40bの後方にはミラー45が配置されている。なお、実施例1のように、容器壁40bがミラーであってもよい。容器40には、その内部に収容された被検物50を動かさずに媒質60を注入することができる。本実施例では、媒質60として、空気とは異なる屈折率を有する水等の液体を用いる。
光源11は、波長帯域が広い光源(例えば、スーパーコンティニウム光源)である。光源11から発せられたソース光は、コリメータレンズ20によって平行光に変換された後、ビームスプリッタ30の界面31によって透過光と反射光とに分割される。
ビームスプリッタ30を透過した光は、計測光として、レンズモジュール25を通って容器40に入射する。容器40に入射した計測光は、被検物50を透過した後、ミラー45で反射される。その反射光は、被検光としてビームスプリッタ30まで戻り、その一部がビームスプリッタ30(界面31)により反射されて集光レンズ21を通り、分光器85に到達する。
一方、ソース光のうちビームスプリッタ30で反射された光は、被検光路に設けられたレンズモジュール25および容器40(容器壁40a,40b)の分散を補償する補償板25を透過する。補償板25を透過した光は、その光路方向にステージ71により移動可能に支持された可動ミラー70により反射される。可動ミラー70により反射された光は、参照光としてビームスプリッタ30まで戻り、その一部がビームスプリッタ30(界面31)を透過して、集光レンズ21を通り、分光器85に到達する。
補償板25は、容器40に媒質60と被検物50が入っていない状態、つまり容器40内が空の状態で、被検光と参照光の光路長差を各波長で零にする役割を果たしている。その役割を有するものであれば、補償板25以外の素子や部材を用いてもよい。例えば、被検光路上にあるレンズモジュール25および容器40と全く同じものを参照光路上に配置してもよい。
被検光と参照光との干渉は、分光器85によって干渉信号として検出される。図4には、分光器85が検出する干渉信号を示している。横軸は波長であり、縦軸はスペクトル強度である。この干渉信号は、可動ミラー70の位置(移動量)の変化に伴い、λ0の位置が変化する。本実施例では、λ0の位置を計測したい屈折率の波長になるように可動ミラー70を移動させる。
被検物50の屈折率の計測(算出)処理としては、実施例1にて図2のフローチャートに示したようにコンピュータ90が実行する。具体的には、被検物50の位置を調整し(ステップS10)、図3(b)に示すように、レンズモジュール25から被検物50に入射させる計測光の開口数を調整する(ステップS20)。開口数(つまりは計測光の最大角度θ1)は、被検物50の曲面上で計測光のビーム径が小さくなるように調整される。さらに、開口数は、被検物50を透過してミラー45で反射される光ができるだけ平行光に近くなるように調整されるのが望ましい。
次に、コンピュータ90は、第1の計測として、被検物50中の光路長(第1の光路長)Zを計測する(ステップS30)。各波長における干渉信号は、次式(7)で表される。
ただし、I(λ)は干渉強度であり、I0は被検光の強度と参照光の強度の和である。また、γ(λ)は可視度(ビジビリティ)であり、φ(λ)は被検光と参照光の位相差である。Np(λ)は被検物の位相屈折率であり、npa(λ)は空気の位相屈折率である。δは可動ミラー70の位置(移動量)であり、容器40が空の状態で被検光と参照光の光路長が等しくなる位置でδ=0としている。
任意の波長λ0の位置は、位相φ(λ)の波長に対する変化率が0となる位置であり、次式(8)で表される。
そして、式(8)から式(9)が得られる。ただし、nga(λ)は空気の群屈折率である。δ1は、λ0の位置に合わせるのに必要な可動ミラー70の移動量である。ここでは、計測可能量であるδ1にnga(λ)を乗算したものを第1の光路長Zとする。
次に、コンピュータ90は、図3(b)に示すように、容器40内に媒質60を注入し(ステップS40)、媒質60と被検物50に入射させる光の開口数を調整する(ステップS50)。ここでの開口数(つまりは計測光の最大角度θ2)は、容器壁40a,40bのうち2面(第1の2面、第2の2面)でビーム径が小さくなるように調整される。さらに開口数は、被検物50を透過してミラー45で反射される光ができるだけ平行光に近くなるように調整されるのが望ましい。被検物50が媒質60中に配置されているために、ステップS50で設定される開口数は、ステップS20で設定された開口数より小さくなる。すなわち、θ2<θ1となる。
そして、コンピュータ90は、第2および第3の計測として、媒質60および被検物50中の光路長の和(第2の光路長)Wと媒質60中の光路長(第3の光路)W0とを計測する(ステップS60)。具体的には、まず媒質60中に被検物50を配置した状態で第2の光路長Wを計測する。次に、被検物50を媒質60から取り出し、容器40内に媒質60のみが配置された状態で第3の光路長W0を計測する。被検物50が媒質60中に配置された状態と被検物50が媒質60中に配置されていない状態での被検光と参照光の位相差φ(λ)はそれぞれ、式(10)中の上式と下式のように表される。
ステップS30と同様に、第2の光路長Wおよび第3の光路長W0は、式(10)中の上式と下式のように表される。ただし、δ2とδ20はそれぞれ、WとW0の計測において、λ0の位置に合わせるのに必要な可動ミラー70の移動量である。また、本実施例では、媒質60と被検物50を挟む第1の2面間の光進行方向での間隔Lと媒質60を挟む第2の2面間の光進行方向での間隔L0とは等しく、既知である。
最後に、コンピュータ90は、光路長Z,W,W0と面間隔L,L0(=L)とを用いても、被検物50の屈折率を算出する(ステップS70)。算出に用いる式は、実施例1に示した式(4)〜(6)と同じである。
本実施例では、式(6)を用いずに位相屈折率を算出することも可能である。この場合、まずステップS30にて、図4に示したような計測結果(式(7))を強度情報と位相情報に分離する。次に、2πの周期で折りたたまれた位相をアンラップする。そして、被検物50の屈折率を次式(12)のように表現して、式(7)に代入する。最後に、アンラップされた位相に対して、式(7)の位相を用いてフィッティングを施す。このとき、空気の屈折率npa(λ)は文献値を使用すればよい。フィッティングによって、係数A1、A2、A3、B1、B2、B3が分かる。つまり、位相屈折率Np(λ)が求まる。なお、アンラップ前の信号に対して、式(7)により直接フィッティングを施してもよい。
式(12)では、位相屈折率にセルマイヤーの分散式の形を使用したが、コーシーの分散式の形を使用してもよい。フィッティングする波長領域が狭い場合は、代わりに多項式関数のような単純な関数を用いてもよい。フィッティング関数の次数も、波長領域が狭い場合には、低次の項(例えば、式(12)12の第1項)だけを用いてもよい。
本実施例では、低コヒーレンス干渉計としてマイケルソン干渉計の系を示したが、マッハツェンダー干渉計の系を用いてもよい。また、図3(a),(b)には、分光器85を実施例1に示した検出器80の位置に配置しているが、光源11の直後に分光器を配置して分光し、検出器の位置にフォトダイオードを配置して、各波長の干渉信号を検出してもよい。光源11の直後に分光器を配置する代わりに、分光器を取り除いて、光源11を波長可変光源に取り替えて波長走査してもよい。
実施例1,2にて説明した屈折率計測装置(屈折率計測方法)100,200によって計測された結果を、レンズ等の光学素子の製造方法にフィードバックすることも可能である。図5には、モールド成形法を用いて光学素子の製造方法の例を示している。
図5において、ステップS300は光学素子を設計するステップであり、設計者が光学設計ソフト等を用いて光学素子を設計する。
ステップS310は、ステップS300で設計された光学素子に基づいて、光学素子を硝材や樹脂材料を用いてモールド成形するための金型を設計・加工するステップである。
ステップS320は、ステップS310で加工された金型を用いて、光学素子をモールド成形するステップである。
ステップS330は、ステップS320で成形された光学素子の形状を計測し、その精度を評価するステップである。ステップS330にて評価された形状が、要求する精度を満足しなかった場合、ステップS340にて金型の補正量が算出され、ステップS310で再度金型を加工する。
ステップS350は、ステップS330で所望の形状精度を満足していた光学素子の光学性能を評価するステップである。このステップでは、実施例1,2で説明した屈折率計測装置100,200を用いて光学素子(被検物)の屈折率を計測したり、他の光学特性を計測したりする。このステップにて評価された光学性能が、要求する仕様に達しなかった場合は、ステップS360にて光学面の補正量が算出され、その結果を用いてステップS300で再度、光学素子が設計される。
ステップS370は、ステップS350で所望の光学性能を実現できた光学素子の製造条件で、光学素子を量産するステップである。
本実施例の光学素子の製造方法により、光学素子の屈折率を高精度に計測することができるので、良好な光学性能を有する光学素子を量産することが可能になる。
以上説明した各実施例は代表的な例にすぎず、本発明の実施に際しては、各実施例に対して種々の変形や変更が可能である。