JP5867828B2 - 複合膜およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、固体高分子型燃料電池の高分子電解質膜として使用できる複合膜およびその製造方法に関する。
固体高分子型燃料電池では、高分子電解質膜が用いられているが、ナフィオン(登録商標)に代表されるフッ素系電解質は、80℃を超えるような高温や、水が凍ってしまうような低温での発電性能が悪い、また、フッ素を使用するために高コストである、などの問題がある。
一方、フッ素材料を使用しない炭化水素系の高分子電解質膜についても開発が検討されているが、炭化水素系高分子電解質膜では、イオン伝導性を高めるためにスルホン酸基の数を増やすと、膜が水膨潤のために変形しやすく、また、機械強度が弱くなり、長期安定性に優れた膜を得ることが困難である。
スルホン化ポリイミドは、高い熱安定性と機械強度を持ち、製膜性に優れることから、高性能の電解質材料として提案されている(特許文献1〜4)。しかし、このようなスルホン化ポリイミドは、高温低加湿下ではイオン伝導性が低くなるという問題がある。
幅広い温度範囲で高いイオン伝導性を示し、機械強度に優れた高分子電解質膜として、リン酸ドープ型スルホン化ポリイミド/ポリベンズイミダゾールブレンド膜が提案されている(特許文献5)。このような膜は、−20℃程度の低温から、120℃程度の高温まで、高いイオン伝導性を示し、膜中に水分が少ない低加湿条件下でもイオン伝導性に優れるという特徴がある。近年、高分子電解質膜は、無加湿で高いイオン伝導性が求められ、膜抵抗を下げる目的から、膜厚が下げられる傾向にある。このようなブレンド膜は、主鎖に剛直な構造を持っていることから、高い機械強度を示すが、脆いために薄膜化すると取扱いが困難になるという問題がある。また、膜厚が薄くなることによってガスの透過性が高まり、過酸化水素が大量に発生するため、酸化安定性が悪く、長期的に安定な膜ではなかった。
従って、固体高分子型燃料電池に使用される高分子電解質膜には、幅広い温湿度範囲で高いイオン伝導性を示し、薄膜でも取り扱い性に優れ、また、長期安定性に優れた膜が求められている。
特開2002−358978号公報 特開2005−232236号公報 特開2005−272666号公報 特開2007−302741号公報 特開2011−68872号公報
従って、本発明の課題は、幅広い温湿度範囲で高いイオン伝導性を示し、薄膜でも取り扱い性に優れ、長期安定性に優れた複合膜を提供することにある。
本発明は、以下の発明に関する。
[1]ポリベンズイミダゾールナノファイバー不織布の空隙にスルホン化ポリイミドが充填されており、しかもリン酸を含む複合膜。
[2]ポリベンズイミダゾールナノファイバー不織布を作製する工程、
前記ナノファイバー不織布の空隙に、スルホン化ポリイミドを充填する工程、
スルホン化ポリイミドを充填する前のナノファイバー不織布、及び/又は、スルホン化ポリイミドを充填した後のナノファイバー不織布に、リン酸をドープする工程、
を含む、複合膜の製造方法。
[3]ポリベンズイミダゾールナノファイバー不織布を作製する工程、
前記ナノファイバー不織布にリン酸をドープする工程、及び
前記リン酸をドープしたナノファイバー不織布の空隙に、スルホン化ポリイミドを充填する工程、
を含む、[2]の製造方法。
[4]ポリベンズイミダゾールナノファイバー不織布を作製する工程、
前記ナノファイバー不織布の空隙にスルホン化ポリイミド及びシリカ粒子を充填する工程、
スルホン化ポリイミド及びシリカ粒子を充填したナノファイバー不織布にリン酸をドープする工程、
を含む、[2]の製造方法。
[5]ポリベンズイミダゾールナノファイバー不織布を静電紡糸法により作製する、[2]〜[4]の製造方法。
本発明の複合膜は、−20℃〜120℃という広い温度範囲で、高いイオン伝導性を示す。また、低加湿条件下でも高いイオン伝導性を示す。
更に、ナノファイバーを構成しているポリベンズイミダゾールがリン酸と相互作用するため、高加湿条件下で膜が湿潤状態となった場合でも、複合膜からリン酸が流出することが少なく、イオン伝導性の経時変化が少ない。
更に、ポリベンズイミダゾールナノファイバー不織布によって補強されているため、薄膜であったとしても、取扱い性に優れている。
更に、本発明の複合膜は酸化安定性に優れているため、長期的に安定した膜である。
本発明の製造方法を実施可能な紡糸装置の概要を示す説明図である。
本発明の複合膜を構成するために用いられるポリベンズイミダゾール(PBI)としては、従来高分子電解質膜を構成するために提案されたポリベンズイミダゾールを含め、ナノファイバー不織布を形成することのできるものであれば、任意のポリベンズイミダゾールを用いることができる。本発明において用いる代表的なポリベンズイミダゾールとしては、下記式(1)で示されるものが挙げられる。
Figure 0005867828
前記式(1)中、Rは、少なくとも1つの芳香環を有する4価の基であり、例えば、ベンゼン環や、2個のベンゼン環が−O−、−CO−、−SO−などで連結されている芳香族環含有の4価の基などが好ましいものとして挙げられ、具体的には、例えば下記のごとき基が好ましいものとして挙げられる。
Figure 0005867828
また、式(1)中、Rは、少なくとも1つの芳香環を有する2価の基であり、例えば、水酸基、アルキル基、スルホン酸基などの置換基により置換されていてもよい、ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香族環、ピリジン環などの窒素含有複素環、2個のベンゼン環が直接結合、−O−、−CO−、−SO−などで連結されているベンゼン環などを含む2価の基が挙げられ、具体的には、例えば下記のごとき基が好ましいものとして挙げられる。
Figure 0005867828
本発明において用いられる、前記式(1)で表されるポリベンズイミダゾール重合体は、下記反応式に示すように、芳香族テトラアミンと芳香族ジカルボン酸のモノマーから合成することができる。芳香族テトラアミンとしては、化合物中にベンゼン環を1〜2個含有するものが望ましい。芳香族テトラアミンとしては、例えば、3,3’−ジアミノベンジジン、1,2,4,5−ベンゼンテトラアミンなどが、好ましいものとして挙げられる。芳香族ジカルボン酸としては、例えば、イソフタル酸、ビス安息香酸、4,4’−オキシビス安息香酸などが、好ましいものとして挙げられる。また、スルホン化芳香族ジカルボン酸を用いることで、複合膜のスルホン酸基量の更なる増加が可能である。スルホン化芳香族ジカルボン酸としては、例えば、5−スルホイソフタル酸、4,8−ジスルホニル−2,6−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられる。
Figure 0005867828
また、本発明において用いられるポリベンズイミダゾール重合体は、下記反応式に示すように、1分子中に2個のアミノ基と1個のカルボキシル基を有する芳香族化合物から合成されたものであってもよい。
Figure 0005867828
ポリベンズイミダゾールの重量平均分子量(Mw)は、5.0×10〜1.0×10であることが好ましく、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比Mw/Mnは、1〜5であることが好ましい。Mwが5.0×10未満であると、ポリベンズイミダゾールの分子鎖の絡み合いが少なくなり、均一なナノファイバーの作製が困難になることがある。一方、Mwが1.0×10を超えると、ポリマー溶液の粘性が高くなり、均一なナノファイバーの作製が困難になることがある。また、Mw/Mnが5を超えると、均一なナノファイバーの作製が困難になることがある。
本発明の複合膜を構成するために用いられるスルホン化ポリイミド(SPI)としては、従来高分子電解質膜を構成するために提案されたスルホン化ポリイミドを含め、任意のスルホン化ポリイミドを用いることができる。本発明において好ましく用いられるスルホン化ポリイミドとしては、例えば、下記式(2)で示されるスルホン化ポリイミドが挙げられる。
Figure 0005867828
前記式(2)中、Rは、少なくとも1つの芳香環を有する4価の基を表し、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香族の4価の残基、ベンゼン環、ナフタレン環などの2個の芳香環が直接連結された化合物の4価の芳香族残基、2個のベンゼン環が−C(CF−、−SO−、−CO−などの基により連結された化合物の4価の残基などが好ましいものとして挙げられ、より好ましくは2個の芳香環を有する化合物の4価の残基である。
また、式(2)中、Rは、スルホン酸基を有し、且つ、少なくとも1つの芳香環を有する2価の基を表し、例えば、2個のベンゼン環が直接結合、−O−、>CR(Rは、炭素原子とともにフルオレン環構造を形成)などの基により連結され、ベンゼン環にあるいはベンゼン環の置換基にスルホン酸基を有するスルホン化芳香族化合物の2価の残基などが好ましいものとして挙げられる。ベンゼン環の置換基としては、アルキル基、アルキルオキシ基、フェニル基などが好ましく挙げられる。
更に、式(2)中、Rは、少なくとも1つの芳香環を有する、スルホン酸基を有しない2価の基を表し、例えば、ベンゼン環あるいは含窒素複素環などの複素環を構造中に有する非スルホン化化合物の2価の残基などが好ましいものとして挙げられる。
また、式(2)中、nは1以上、好ましくは50以上の整数、例えば50〜2000であり、mは0または1以上、好ましくは30以上の整数、例えば30〜1000である。
より具体的には、R、R、Rとしては例えば次のような基が挙げられる。
Figure 0005867828
Figure 0005867828
Figure 0005867828
本発明において用いられる、前記式(2)で表されるスルホン化ポリイミドは、例えば、下記反応式に示すような、芳香族カルボン酸二無水物とスルホン化芳香族ジアミンと任意成分である非スルホン化芳香族ジアミンのモノマーから合成することができる。
Figure 0005867828
式中、R、R、R、n、mは、上記で定義したものである。
前記の芳香族カルボン酸二無水物としては、例えば、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ビスフチル−1,1’,8,8’−テトラカルボン酸二無水物が好ましいものとして挙げられる。
前記のスルホン化芳香族ジアミンとしては、主鎖がスルホン酸基により修飾された主鎖型モノマーと、側鎖にスルホン酸基が修飾した側鎖型のモノマーとが挙げられる。スルホン化芳香族ジアミンの好ましい例としては、例えば、2,2−ベンジジンジスルホン酸、4,4’−ジアミノフェニルエーテルジスルホン酸、3,3’−ビス(3−スルホプロポキシ)ベンジジン、9,9’−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン−2,7−ジスルホン酸、2,2’−ビス(4−スルホフェニル)ベンジジンなどが挙げられる。
前記の非スルホン化芳香族ジアミンの好ましい例としては、例えば、4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンビス(p−フェニレンオキシ)ジアミン、2,2−ジアミノジフェニルヘキサフルオロプロパン、9,9’−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、2,5−ジアミノピリジンが挙げられる。非スルホン化芳香族ジアミンモノマーを用いることで、膜安定性や酸保持能を付与することができる。
スルホン化芳香族ジアミンモノマー及び非スルホン化芳香族ジアミンモノマーを組み合わせて用いることで、スルホン化共重合ポリイミドが得られるが、共重合体はランダム共重合体でもブロック共重合体であってもよい。
共重合の際のスルホン化ジアミンモノマー(n)と非スルホン化芳香族ジアミンモノマー(m)との比率n/mは、30/70〜100/0であることが好ましい。n/mが30/70未満では複合膜のプロトン伝導性が低く、好適な複合膜を得ることが難しくなる。高いプロトン伝導性を得るためには、n/mが70/30〜100/0であることが望ましい。
スルホン化ポリイミドの重量平均分子量(Mw)は、1.0×10〜1.0×10であることが好ましく、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比Mw/Mnは、1〜5であることが好ましい。Mwが1.0×10未満であると、ポリイミドの分子鎖の絡み合いが少なくなり、膜の作製が困難になることがある。一方、Mwが1.0×10を超えると、ポリイミドの粘度が高くなり、膜の作製が困難になることがある。また、Mw/Mnが5を超えると、膜の強度が低下することがある。
本発明の複合膜は、これに限定されるものではないが、例えば、本発明の製造方法により製造することができる。本発明の製造方法では、まず、ポリベンズイミダゾールのナノファイバー不織布を作製し、得られたナノファイバー不織布をリン酸で処理することによってリン酸をドープしたナノファイバー不織布を得、更に、不織布の空隙にスルホン化ポリイミドを充填することにより、本発明の複合膜を得ることができる。本発明の製造方法では、スルホン化ポリイミドを充填した後の複合膜に、再度、リン酸ドープを行うこともできる。また、本発明の製造方法では、ポリベンズイミダゾールのナノファイバー不織布をリン酸処理することなく、その不織布の空隙にスルホン化ポリイミドを充填した後、得られた、スルホン化ポリイミドを充填したナノファイバー不織布にリン酸をドープすることにより、本発明の複合膜を得ることができる。特に、後述のように、シリカ粒子などの無機粒子を含んでいる場合には、無機粒子がリン酸と結合しやすいため、プロトンの輸送部位として働きやすく、また、リン酸の溶出も生じにくいため、スルホン化ポリイミドと無機粒子を充填した後に、リン酸をドープすることができる。
ポリベンズイミダゾールナノファイバー不織布の作製は、これに限定されるものではないが、例えば、通常の静電紡糸法により実施することができる。静電紡糸法を実施することのできる公知の製造装置及びそれを用いる製造方法は、例えば、特開2003−73964号公報、特開2004−238749号公報、特開2005−194675号公報に開示されている。以下、特開2005−194675号公報に開示の製造装置を示す図1に沿って、ナノファイバー不織布作製工程を説明する。
図1に示す製造装置は、紡糸液をノズル2へ供給できる紡糸液供給装置1、紡糸液供給装置1から供給された紡糸液を紡糸空間5へ吐出するノズル2、ノズル2から吐出され、電界によって延伸された繊維を捕集するアースされた捕集体3、ノズル2とアースされた捕集体3との間に電界を形成するために、ノズル2に電圧を印加できる電圧印加装置4、ノズル2と捕集体3とを収納した紡糸容器6、紡糸容器6へ所定相対湿度の気体を供給できる気体供給装置7、及び紡糸容器6内の気体を排気できる排気装置8を備えている。
紡糸液は、ポリベンズイミダゾールを適当な溶媒、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解することにより調製することができる。紡糸液中のポリベンズイミダゾールポリマー濃度は、1〜30重量%であることが好ましく、5〜20重量%であることがより好ましい。紡糸液の粘度は、100〜10000mPa・sであることが好ましく、500〜5000mPa・sであることがより好ましい。
紡糸液は、紡糸液供給装置1によって、ノズル2へ供給される。この供給された紡糸液はノズル2から紡糸空間5へ押し出されるとともに、アースされた捕集体3と電圧印加装置4によって印加されたノズル2との間の電界による延伸作用を受け、繊維化しながら捕集体3へ向かって飛翔する(いわゆる静電紡糸法)。そして、この飛翔した繊維は直接、捕集体3上に集積し、不織布を形成する。なお、紡糸液供給装置1は特に限定されるものではないが、例えば、シリンジポンプ、チューブポンプ、ディスペンサ等を使用することができる。
図1における紡糸液のノズル2からの押し出し方向は、重力と直交する方向、かつ捕集体3の方向であるため、捕集体3に紡糸液の滴下が生じない構成となっている。しかしながら、紡糸液のノズル2からの押し出し方向は、図1とは異なる方向であっても良い。
この紡糸液を押し出すノズル2の直径は、得ようとする繊維の繊維径によって変化するため、特に限定するものではない。本発明においては、紡糸工程で得られるナノファイバーの繊維径は、通常、10nm〜5μmであり、好ましくは50nm〜2μmであり、より好ましくは50nm〜1μmである。静電紡糸を安定して行うことができるように、ノズルの内径は0.2〜1mmであることが好ましい。
PBIナノファイバーの繊維径が細いことにより、薄膜化を行いやすくなり、厚さ方向におけるイオン伝導がしやすくなる。また、リン酸ドープを行いやすくなる。
また、ノズル2は金属製であっても、非金属製であっても良い。ノズル2が金属製であれば、電圧印加装置4から電圧を印加することにより、ノズル2を一方の電極として使用することができ、ノズル2が非金属製である場合には、ノズル2の内部に電極を設置し、この内部電極へ電圧印加装置4から電圧を印加することにより、押し出した紡糸液に電界を作用させることができる。
図1においては、電圧印加装置4によりノズル2に電圧を印加するとともに、捕集体3をアースすることにより電界を形成しているが、図1とは逆に、ノズル2をアースするとともに、捕集体3に電圧を印加して電界を形成しても良いし、ノズル2と捕集体3の両方に電圧を印加するものの、電位差を設けるように印加して電界を形成しても良い。なお、この電界は、繊維の繊維径、ノズル2と捕集体3との距離、紡糸液の主溶媒、紡糸液の粘度などによって変化するため、特に限定するものではないが、0.2〜5kV/cmであるのが好ましい。電界強度が5kV/cmを超えると、紡糸が不安定になって間欠的になり、液滴やビーズを多く含むナノファイバー不織布となる傾向がある。0.2kV/cm未満であると、紡糸液の延伸が不十分で繊維形状となりにくい傾向があるためである。
なお、電圧印加装置4は特に限定されるものではないが、例えば、直流高電圧発生装置やヴァン・デ・グラフ起電機を用いることができる。また、印加電圧は前述のような電界強度とすることができれば良く、特に限定するものではないが、5〜50KV程度であるのが好ましい。
図1における捕集体3はドラムであるが、繊維を捕集できるものであれば良く、特に限定されるものではない。例えば、金属製や炭素などからなる導電性材料又は有機高分子などからなる非導電性材料からなる、不織布、織物、編物、ネット、平板、或いはベルトを、捕集体3として使用することができる。また、場合によっては水や有機溶媒などの液体を捕集体3として使用できる。
図1のように、捕集体3を他方の電極として使用する場合には、捕集体3は体積抵抗が10Ω以下の導電性材料(例えば、金属製)からなるのが好ましい。一方、ノズル2側から見て、捕集体3よりも後方に対向電極として導電性材料を配置する場合には、捕集体3は必ずしも導電性材料からなる必要はない。後者のように、捕集体3よりも後方に対向電極を配置する場合、捕集体3と対向電極とは接触していても良いし、離間していても良い。
本発明の製造方法を実施できる図1に示す装置においては、紡糸容器6へ所定の相対湿度の気体を、気体供給装置7を用いて供給できるため、ノズル2から捕集体3までの間の紡糸空間5を所望環境に維持することができるとともに、紡糸容器6内の気体を排気装置8により排出することができる。そのため、紡糸原液に与える相対湿度等の影響を一定とすることができるため、繊維径の揃った、所望の繊維径をもったポリベンズイミダゾールナノファイバー不織布を製造しやすい。
なお、気体供給装置7としては、例えば、プロペラファン、シロッコファン、エアコンプレッサー、あるいは、温湿度調整機能を備えた送風機などを使用することができる。また、排気装置8としては、例えば、排気口に設置されたファンであることができるし、単に排気口を設けるだけで気体供給装置7からの供給量と同量の気体を排出することができるため、排気装置8は必ずしも設ける必要はない。また、供給する気体としては、例えば、空気、窒素などを挙げることができる。
得られた不織布はそのまま使用することもできるし、乾燥させて次のリン酸ドープ工程に使用することもできる。
ポリベンズイミダゾールナノファイバー不織布を静電紡糸法により作製することにより、均一性が高く、空隙率の高い支持体とすることができる。ポリベンズイミダゾールナノファイバー不織布の空隙率は、50%以上であることが好ましく、より好ましくは70%以上、更に好ましくは85%以上であり、上限は99%である。
空隙率が高いほど、スルホン化ポリイミドを充填しやすくなり、スルホン化ポリイミドの充填量を多くすることができるので、複合膜のイオン伝導性を高くすることができる。
一方、空隙率を高くしすぎると、ナノファイバー不織布及び複合膜の強度が弱くなり、取扱いが困難となるため、空隙率の上限は99%である。
このようにして作製したポリベンズイミダゾール(PBI)ナノファイバー不織布にリン酸をドープすることによって、リン酸ドープPBIナノファイバー不織布が作製される。リン酸ドープは、PBIナノファイバー不織布を、例えば、5〜95重量%、好ましくは10〜85重量%リン酸溶液に浸漬することにより行うことができる。リン酸ドープ前後のPBIナノファイバー不織布の重量変化を測定し、以下の式により算出した値をリン酸ドープPBIナノファイバー不織布のリン酸含有量と定義する。
リン酸含有量(重量%)={(リン酸ドープPBIナノファイバー不織布重量−未ドープPBIナノファイバー不織布重量)/未ドープPBIナノファイバー不織布重量}×100
リン酸ドープPBIナノファイバー不織布のリン酸含有量は、1〜500重量%であることが好ましく、10〜300重量%であることがより好ましい。リン酸含有量が1重量%未満である場合、リン酸がプロトン輸送部位として充分に働かないことがあり、500重量%を超えるとリン酸の溶出が激しく、さらにリン酸ドープPBIナノファイバー不織布の安定性の低下が著しい場合があるためである。リン酸含有量を向上させるためには、リン酸溶液は高濃度であることが望ましい。
リン酸溶液への浸漬時間は、使用されるポリマー、浸漬温度、要求されるリン酸含有量などにより異なることから特に限定されるものではないが、1秒〜72時間が好ましく、また、温度は30〜90℃が好ましい。リン酸ドープ後のPBIナノファイバー不織布の乾燥のための熱処理温度を含めての乾燥条件は、60〜150℃における真空乾燥または熱風式オーブンが好ましく、乾燥は、重量変化がなくなるまで行われることが好ましい。乾燥温度が60℃未満の場合、PBIナノファイバー不織布表面のリン酸を蒸発させることが困難であり、150℃を超える場合、PBIの劣化が起こってしまうことがある。
このようにして得られたリン酸ドープPBIナノファイバー不織布に、スルホン化ポリイミドを充填する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、スルホン化ポリイミドを適当な溶媒、例えば、DMSO、DMF、DMAc、NMPに溶解して得られるスルホン化ポリイミド溶液を、支持体上に配置したリン酸ドープPBIナノファイバー不織布上にキャストした後、加熱減圧により溶媒を蒸発させることにより実施することができる。溶媒の蒸発は、例えば、60〜150℃における真空乾燥または熱風式オーブンにより実施することができる。
本発明の製造方法では、ポリベンズイミダゾールナノファイバー不織布にリン酸をドープすることにより、ナノファイバーの薬品耐性が向上するため、スルホン化ポリイミドと複合化する際に、スルホン化ポリイミド溶液に使用されている有機溶剤に溶解しにくくなる。そのため、補強効果の高い複合膜を作製することができる。
リン酸ドープPBIナノファイバー不織布に充填するスルホン化ポリイミドの量は、例えば、1:99〜50:50であることができ、好ましくは10:90〜35:65である。スルホン化ポリイミドの充填は、キャスティング以外にも、例えば、塗工、スプレー、ディップ(浸漬)により実施することができる。
本発明の複合膜の膜厚は、50μm以下であるのが好ましく、45μm以下であるのがより好ましく、40μm以下であるのが更に好ましく、35μm以下であるのが更に好ましく、30μm以下であるのが更に好ましい。本発明の複合膜は、ポリベンズイミダゾールナノファイバーで補強されているため、30μm以下という薄膜でも取扱性に優れている。
また、膜厚が薄いほど、燃料電池の電解質膜として使用した際に、発電で生じた水が電解質膜に逆浸透することで、無加湿あるいは低加湿でも、膜のイオン伝導性を高くすることができるため、更には、膜厚は薄いほど水の逆浸透による効果が高いため、10μm以下であることがより好ましい。
一方、本発明の複合膜の下限は、機械的強度に優れ、取り扱い性に優れているように、また、燃料ガスの利用効率を高めると共に、劣化しにくいように、1μm以上であることが好ましい。
本発明の複合膜におけるリン酸ドープ量(リン酸含有量)は、1〜500重量%であることが好ましく、10〜300重量%であることがより好ましい。リン酸含有量が1重量%未満である場合、リン酸がプロトン輸送部位として充分に働かないことがあり、500重量%を超えるとリン酸の溶出が激しく、さらに複合膜安定性の低下が著しい場合があるためである。
本発明の複合膜におけるプロトン伝導性はこれに限定されるものではないが、例えば高温低加湿下の90℃相対湿度30%では、5.0×10−4〜1.0Scm−1であることが望ましい。また、プロトン伝導性にはリン酸ドープ量(リン酸含有量)が大きな影響をもたらす。
本発明の複合膜は、例えばシリカ粒子などの無機粒子を含んでいてもよい。無機粒子を含んでいることで、(1)複合膜の機械特性が向上する、(2)リン酸が脱離しにくくなるため、複合膜の耐久性が向上する、(3)リン酸のドープ量が少なくても、複合膜のイオン伝導性を高めることができる、などの効果がある。
無機粒子の粒子径は1nm〜1μmであるのが好ましく、500nm以下であるのがより好ましく、100nm以下であるのが更に好ましい。粒子径が大きくなるとPBIナノファイバー不織布との複合膜を作製する際に、均一な膜を作製できない場合があるためである。
また、無機粒子の添加量は、PBIナノファイバー不織布以外の膜の材料(つまり、スルホン化ポリイミドと無機粒子)の1〜40重量%であるのが好ましく、3〜30重量%であるのがより好ましく、5〜20重量%であるのが更に好ましい。無機粒子の添加量が少ないと、前述のような物性の向上効果が得られにくく、添加量が多いと複合膜の機械的強度が低下し、取り扱いが困難となりやすい。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
《合成例1:ポリベンズイミダゾール(PBI)の合成》
窒素雰囲気下、重合溶媒にポリリン酸(PPA)を用い、3,3’−ジアミノベンジジン(DAB)2.27g(10.6mmol)、4,4’−オキシビス安息香酸(OBBA)2.73g(10.6mmol)を量り取り、3重量%溶液となるようにポリリン酸(PPA)を加えて、攪拌しながら徐々に温度を上げていき、140℃で12時間攪拌し、ポリベンズイミダゾールを合成した。得られたポリマー溶液をイオン交換水に注ぎ再沈した後、水酸化ナトリウム溶液で中和し、洗浄した。吸引ろ過によりポリベンズイミダゾールを回収し、24時間自然乾燥させた後、100℃で真空乾燥した。
ポリベンズイミダゾールのH−NMRスペクトルを測定し、その構造を確認した。
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリベンズイミダゾールの分子量を測定した。なお、GPC溶媒として微量の臭化リチウム(10mmol/L)を添加したジメチルホルムアミド(DMF)を用い、キャリアを用いて調整した1mg/mLのポリベンズイミダゾール溶液よりポリスチレン換算の分子量を測定した。その結果、Mwが1.5×10であり、Mw/Mnは3.0であった。
《合成例2:ポリベンズイミダゾールナノファイバー不織布の作製》
ジメチルスルホキシド(DMSO)に合成例1のポリベンズイミダゾールを加えたバイアル瓶を窒素で満たし、一晩攪拌し、8重量%となるように溶解させ、ポリベンズイミダゾール溶液を調製した。エレクトロスピニング装置7100−E0003(Fuence社製)のコレクター部位にガラス皿を設置し、エレクトロスピニング装置に、ポリベンズイミダゾール溶液が充填されたシリンジをセットして、ポリベンズイミダゾール溶液の放出量を0.12mL/時として、エレクトロスピニングを行った。シリンジとコレクターの距離を10cmとし、シリンジに20kvの電圧を印加した。これにより、PBIナノファイバー不織布をガラス皿上に積層した。また、得られたPBIナノファイバーは一部アルミホイル上に積層させ80℃で6時間真空乾燥させた後、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察した。SEM画像の結果から均一なナノファイバーが作製できたことを確認し、そのファイバー径は約100nmであった。
《合成例3:スルホン化ポリイミド(SPI)の合成》
窒素雰囲気下、重合溶媒にm−クレゾールを用い、2,2−ベンジジンジスルホン酸(BDSA)3.94g(11.4mmol)と後述の1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTDA)の2.4倍等量のトリエチルアミンを加え、80℃で1時間攪拌し、NTDAの28倍等量のm−クレゾールに溶解させた。NTDA3.06g(11.4mmol)を加え、120℃で24時間攪拌し、ポリアミック酸のトリエチルアミン塩を合成した。さらにNTDAの1.12倍等量の安息香酸1.56g(12.8mmol)及びトリエチルアミンを加え、化学イミド化反応を180℃で24時間行い、スルホン化ポリイミドのトリエチルアミン塩(以下、スルホン化ポリイミド塩という)を合成した。なお、合成したスルホン化ポリイミド塩は酢酸エチルに注ぎ再沈した後、洗浄して回収した。回収したスルホン化ポリイミド塩は24時間自然乾燥させた後、150℃で真空乾燥し、溶媒を完全に除去した。
FT/NMR装置JNM−EX270(日本電子データム社製)を用いて、スルホン化ポリイミド塩のH−NMRスペクトルを測定した。H−NMRスペクトル10.4から10.5ppmにポリアミック酸由来のピークが存在しないことから、イミド化反応が進行したことが確認できた。また、1ppm及び2.5ppmにピークが存在することから、トリエチルアミン型の形成が確認できた。
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、スルホン化ポリイミド塩の分子量を測定した。なお、GPC溶媒として微量の臭化リチウム(10mmol/L)を添加したDMFを用い、キャリアを用いて調整した1mg/mLのスルホン化ポリイミド塩溶液よりポリスチレン換算の分子量を測定した。その結果、Mwが3.0×10であり、Mw/Mnは2.4であった。
《実施例1:リン酸ドープPBIナノファイバー不織布/SPI複合膜の作製》
PBIナノファイバー不織布とSPIの重量比は10/90とした。
合成例1、合成例2に従って作製したPBIナノファイバー不織布(12.4mg)をガラス皿の上に積層させ60重量%のリン酸に1時間浸漬し110℃で12時間真空乾燥した。
その後合成例3に従って合成したSPI塩0.12gをDMSO4mLに溶解させ、そのSPI溶液を、PBIナノファイバー不織布を積層させたガラス皿上にキャストし、110℃まで加熱した後、徐々に減圧し溶媒を蒸発させた。その後、110℃で12時間真空乾燥させることでキャスト膜を得た。
得られたキャスト膜をエタノールに浸漬させて不純物と残存溶媒を除去し、イオン交換水に浸漬させてエタノールを除去した。
得られた塩型のキャスト膜を真空乾燥し、乾燥直後の膜重量(W)を測定した(W=0.037g)。85重量%リン酸溶液に室温で1時間浸漬させた。その後、表面のリン酸を拭き取り、膜重量(W)を測定した(W=1.118g)。80℃で12時間真空乾燥し、リン酸ドープPBIナノファイバー不織布/SPI複合膜を得た。最終的に得られた膜の重量(W)を測定した(W=0.10219g)。
作製したリン酸ドープPBIナノファイバー不織布/SPI複合膜の膜厚は21μm程度であった。酸含有量を前述した含浸操作における膜重量変化から下式により算出した。
酸含有量(重量%)=(W−W)/(W)×100
作製したリン酸ドープPBIナノファイバー不織布/SPI複合膜の酸含有量は171重量%であった。
プロトン伝導度測定は恒温恒湿器SH−221(ESPEC社製)を用いて温度と湿度を一定に保ち、インピーダンスアナライザー3532−50(日置社製)を用いて、50kHz〜5MHzまでの周波数応答性を測定し、リン酸ドープPBIナノファイバー不織布/SPI複合膜の抵抗からプロトン伝導度を算出した。120℃−40%RH、90℃−30%RH、30℃−30%RH、−20℃−70%RHにおけるプロトン伝導度を算出したところ、それぞれ2.4×10−1、1.5×10−1、3.1×10−2、3.6×10−2 Scm−1であった。後述する比較例1、比較例2と比較すると、120℃、30℃においては約2000倍のプロトン伝導度を示した。
《実施例2:異なる膜厚で作製したリン酸ドープPBIナノファイバー不織布/SPI複合膜の作製》
実施例1と同様の作製手順を用いて、PBIナノファイバー不織布:スルホン化ポリイミドの重量比を10:40に調整することで最終的な膜厚、膜断面への影響を検討した。
PBIナノファイバー不織布の合成は合成例1、合成例2に従って行った。SPIの合成は合成例3に従って行った。また、リン酸ドープPBIナノファイバー不織布/SPI複合膜はPBIナノファイバー不織布の重量を10.6mg、スルホン化ポリイミドの重量を42.4mgとし、実施例1に従って作製を行った。作製したリン酸ドープPBIナノファイバー不織布/SPI複合膜の膜厚は10μm程度であった。全酸含有量は41%で有り、複合膜内のリン酸ドープPBIナノファイバー不織布部における酸含有量は18重量%であった。
120℃−40%RH、90℃−30%RH、30℃−30%RH、−20℃−70%RHにおけるプロトン伝導度を算出したところ、それぞれ1.1×10−1、3.8×10−2、8.9×10−3、1.9×10−2 Scm−1であった。
このリン酸ドープPBIナノファイバー不織布/SPI複合膜の重量・寸法変化を検討した。
つまり、リン酸ドープPBIナノファイバー不織布/SPI複合膜を1.50cm×1.50cm四方に切り、80℃で4時間真空乾燥させ、重量を測定した(2.80mg)。その後、80℃、80%RH湿潤下で2時間含水させ、再度、重量を測定した(3.23mg)。この結果より、リン酸ドープPBIナノファイバー不織布/SPI複合膜の重量変化は8.2%であった。
また、1.50cm×1.50cm四方に切ったリン酸ドープPBIナノファイバー不織布/SPI複合膜を80℃で4時間真空乾燥させたところ、膜厚は7.9μmであった。この複合膜を80℃、80%RH湿潤下で2時間含水させた後に、再度、寸法と膜厚を測定すると、寸法は1.55cm×1.55cm(ΔL=3.6%)であり、膜厚は8.2μm(ΔT=5.4%)であった。
後述する比較例3と比較すると、疎水性のPBIナノファイバー不織布を含んでいることによって、含水量・寸法変化ともに低下していた。
《実施例3:異なる膜厚で作製したリン酸ドープPBIナノファイバー不織布/SPI複合膜の薄膜化の検討》
実施例1と同様の作製手順を用いて、PBIナノファイバー不織布:スルホン化ポリイミドの重量比を10:20に調整することで薄膜化の検討を行った。
PBIナノファイバー不織布の合成は合成例1、合成例2に従って行った。SPIの合成は合成例3に従って行った。また、リン酸ドープPBIナノファイバー不織布/SPI複合膜はPBIナノファイバー不織布の重量を9.69mg、スルホン化ポリイミドの重量を19.4mgとし、実施例1に従って作製を行った。
作製したリン酸ドープPBIナノファイバー不織布/SPI複合膜の膜厚は5μmとなり、薄膜化に成功した。得られた膜は、リン酸ドープSPI/PBI複合膜に比べ薄膜化の作製が可能となり、複合膜に比べ十分な膜強度と柔軟性を有していた。
作製したリン酸ドープPBIナノファイバー不織布/SPI複合膜の酸含有量は69重量%であった。また、120℃−40%RH、90℃−30%RH、30℃−30%RH、−20℃−70%RHにおけるプロトン伝導度を算出したところ、それぞれ6.25×10−3、8.83×10−4、1.25×10−4、2.95×10−4 Scm−1であった。
《比較例1:未ドープSPI単独膜の作製》
リン酸ドープPBIナノファイバー不織布/SPI複合膜との比較として、未ドープSPI単独膜を作製した。
SPIの合成は合成例3に従って行った。SPI塩0.4gをDMSO10mLに溶解させ、一晩攪拌することで溶液を調整した。そのSPI溶液をガラスシャーレ上にキャストし、110℃まで加熱した後、徐々に減圧し溶媒を蒸発させた。その後、110℃で12時間真空乾燥させることでキャスト膜を得た。
得られたキャスト膜をエタノールに浸漬させて不純物と残存溶媒を除去し、イオン交換水に浸漬させてエタノールを除去した。次にキャスト膜を0.1mol/L塩酸に24時間浸漬させて、SPI塩のスルホン酸基をプロトン化した後、イオン交換水で洗浄して残留した塩酸を除去し、一晩自然乾燥させた。得られた未ドープSPI単独膜は透明で均一であった。膜厚は30μm程度であった。
乾燥直後の重量を測定した未ドープSPI単独膜を0.1mol/L塩化ナトリウム水溶液に加え、2晩攪拌した後、0.01mol/L水酸化ナトリウムで滴定し、イオン交換容量を算出したところ、3.5meq/g(理論値3.5meq/g)であった。120℃−43%RH、90℃−30%RH、30℃−30%RHにおけるプロトン伝導度を算出したところそれぞれ1.6×10−3、1.5×10−4、1.3×10−5 Scm−1であった。
《比較例2:未ドープSPI/PBI複合膜の作製》
リン酸ドープPBIナノファイバー不織布/SPI複合膜との比較として、未ドープSPI/PBI複合膜を作製した。
SPIの合成は合成例3に従って行った。PBIの合成は合成例1に従って行った。また、塩型SPI/PBI複合膜の作製は実施例1に従って行った。
塩型SPI/PBI複合膜を0.1mol/L塩酸に24時間浸漬させて、塩型SPI/PBI複合膜のスルホン酸基をプロトン化した後、イオン交換水で洗浄して残留した塩酸を除去し、一晩自然乾燥させた。得られた未ドープSPI/PBI複合膜は透明で均一であった。膜厚は30μm程度であった。
未ドープSPI/PBI複合膜のイオン交換容量を算出したところ、3.2meq/g(理論値3.2meq/g)であった。120℃−43%RH、90℃−30%RH、−20℃−70%RHにおけるプロトン伝導度を算出したところそれぞれ9.6×10−4、9.6×10−5、1.2×10−5 Scm−1であった。
《比較例3:リン酸ドープSPI/PBI複合膜の作製》
リン酸ドープPBIナノファイバー不織布/SPI複合膜との比較として、リン酸ドープSPI/PBI複合膜を作製した。
SPIの合成は合成例3に従って行った。PBIの合成は合成例1に従って行った。SPI(10mg)、PBI(90mg)を、それぞれDMSO溶液に溶かし、一晩撹拌し、その後、SPIポリマー溶液中にPBIポリマー混ぜ、4時間撹拌した。得られたブレンド溶液をシャーレにキャストし、110℃まで加熱した後、徐々に減圧し、溶媒を蒸発させた。その後、110℃で12時間真空乾燥させることでキャスト膜を得た。85%リン酸溶液に室温で1時間浸漬させ、スルホン酸基をプロトン化した後、表面のリン酸を拭き取り、一晩自然乾燥させた。得られた複合膜は透明で均一であった。膜厚は15μm程度であった。酸含有量は117重量%であった。
得られたリン酸ドープSPI/PBI複合膜を4時間真空乾燥させた(2.97mg)。その後、80℃、80%RH湿潤下で2時間含水させ、重量を測定した(3.78mg)。この重量変化は27.3%であった。
また、得られたリン酸ドープSPI/PBI複合膜を1.50cm×1.50cm四方に切り、4時間真空乾燥させたところ、膜厚は13.1μmであった。この膜を80℃、80%RH湿潤下で2時間含水させた後、再度、寸法と膜厚を測定すると、寸法は1.60cm×1.60cm(ΔL=6.7%)であり、膜厚は14.7μm(ΔT=11.6%)であった。
更に、120℃−40%RH、90℃−30%RH、30℃−30%RHにおけるプロトン伝導度を算出したところ、それぞれ1.6×10−1、5.89×10−2、2.3×10−3 Scm−1であった。
《酸化分解安定性試験》
実施例1、実施例2、実施例3で作製したリン酸ドープPBIナノファイバー不織布/SPI複合膜、比較例3で作製したリン酸ドープSPI/PBI複合膜の酸化分解安定性を検討した。
Fenton試薬(100mL)は、過酸化水素(10mL)、FeSO・7HO(0.33mg)、蒸留水(100mL)を混合することで作製した。ナスフラスコ中で80℃まで温めたFenton試薬中に、実施例1、実施例2、実施例3で作製したリン酸ドープPBIナノファイバー不織布/SPI複合膜、比較例3で作製したリン酸ドープSPI/PBI複合膜を浸して、膜がラジカル攻撃によって分解され、粉々になり、使用できなくなるまでの時間をτ1として測定したところ、それぞれ、4時間、21時間、4時間、2時間であった。比較例3で作製したリン酸ドープSPI/PBI複合膜と比べて、実施例1、実施例2、及び実施例3で作製したリン酸ドープPBIナノファイバー不織布/SPI複合膜のラジカル安定性が向上していたのは、PBIナノファイバー不織布が酸化安定性の高い支持体として、効果的に機能したためと考えられた。
また、比較例3のリン酸ドープSPI/PBI複合膜(膜厚:13.1μm)の2時間に比べ、実施例3のリン酸ドープPBIナノファイバー不織布/SPI複合膜は膜厚が比較例3の複合膜の約38%であるにもかかわらず、4時間を示し、酸化分解安定性が格段に向上していることが明らかとなった。
《複合膜作製上のハンドリング性》
実施例1、実施例2、及び実施例3で作製したリン酸ドープPBIナノファイバー不織布/SPI複合膜、比較例3で作製したリン酸ドープSPI/PBI複合膜のハンドリング性を検討した。
実施例1、実施例2、及び実施例3で作製したリン酸ドープPBIナノファイバー不織布/SPI複合膜のシャーレからの剥離性は、比較例3で作製したリン酸ドープSPI/PBI複合膜と比較すると、優れていた。比較例のようなブレンド型の電解質膜は、例えば膜厚が30μm以下のように薄膜化した際、機能強度が低いために破膜しやすく、取扱い性に優れた電解質膜を作製することが困難であったが、PBIナノファイバー不織布を支持体として使用したことで、膜厚10μm以下の薄膜でも破膜することなく、取扱い性に優れた電解質膜を作製することが可能となった。
《複合膜の耐久性試験》
実施例2と同様にして、リン酸ドープPBIナノファイバー不織布/SPI複合膜を作製し、この複合膜のプロトン伝導性耐久試験を行った。
プロトン伝導度の測定は、恒温恒湿器SH−221(ESPEC社製)を用い、温度90℃で一定に保ち、湿度を2時間かけて30%RHから98%RHへ上げ、98%RHで2時間保持した後に、30%RHに下げた後に、プロトン伝導性を測定した。この操作を100時間まで繰り返した。
測定初期の90℃−30%RHでのプロトン伝導性は1.1×10−2 Scm−1であったが、100時間後のプロトン伝導性は0.98×10−2 Scm−1であり、低湿度、高湿度を繰り返しても、プロトン伝導性は維持された。
《実施例4:シリ力含有リン酸ドープPBIナノファイバー不織布/SPI複合膜の作製》
PBIナノファイバー、SPI、シリカ粒子(粒径:10nm)の質量比は1/13/1とした。
合成例1、合成例2に従って作製したPBIナノファイバー不織布3cm×3cm(5.7mg)をシャーレに敷き、SPI(73.8mg)/DMSO・メタノール(DMSO:メタノール=1:4)溶液と、12重量%のシリカ分散液(47.7mg)をDMSOに溶かしたシリカ/DMSO溶液とを混合した混合液をシャーレにキャストし、110℃まで加熱した後、徐々に減圧し溶媒を蒸発させた。その後、110℃で12時間真空乾燥させることでキャスト膜を得た。
得られたシリカ含有PBIナノファイバー不織布/SPI複合膜をエタノールに浸漬させて不純物と残存溶媒を除去し、イオン交換水に浸漬させてエタノールを除去した。
得られた塩型の複合膜を60重量%リン酸溶液に室温で1時間浸漬(リン酸含有量306重量%)させた後、80℃で12時間真空乾燥し、シリカ含有リン酸ドープPBIナノファイバー不織布/SPI複合膜を得た。作製した複合膜の膜厚は43μmであった。
《比較例4:リン酸ドープSPI/PBI複合膜の作製》
比較例3に従ってリン酸ドープSPI/PBI複合膜を作製した。酸含有量は100重量%であった。
《プロトン伝導性の評価》
高温下、高湿度あるいは低湿度で繰り返し実験を行ったときの、実施例4で作製したシリカ含有リン酸ドープPBIナノファイバー不織布/SPI複合膜、及び比較例4で作製したリン酸ドープSPI/PBI複合膜のプロトン伝導性を評価した。
プロトン伝導度測定は、恒温恒湿器SH−221(ESPEC社製)を用い、装置内を90℃−30%RHで2時間、90℃−95%RHで2時間の合計4時間を1サイクルとして150時間行い、インピーダンスアナライザー3532−50(日置社製)を用いて、50kHz〜5MHzまでの周波数応答性を測定し、膜の抵抗からプロトン伝導度を算出した。表1に示すように、リン酸ドープSPI/PBI複合膜(比較例4)と比較して、シリカ含有リン酸ドープPBIナノファイバー不織布/SPI複合膜(実施例4)は、イオン伝導性の耐久性に優れていた。
Figure 0005867828
本発明の複合膜は、固体高分子型燃料電池の高分子電解質膜として使用することができる。

Claims (5)

  1. ポリベンズイミダゾールナノファイバー不織布の空隙にスルホン化ポリイミドが充填されており、しかもリン酸を含む複合膜。
  2. ポリベンズイミダゾールナノファイバー不織布を作製する工程、
    前記ナノファイバー不織布の空隙に、スルホン化ポリイミドを充填する工程、
    スルホン化ポリイミドを充填する前のナノファイバー不織布、及び/又は、スルホン化ポリイミドを充填した後のナノファイバー不織布に、リン酸をドープする工程、
    を含む、複合膜の製造方法。
  3. ポリベンズイミダゾールナノファイバー不織布を作製する工程、
    前記ナノファイバー不織布にリン酸をドープする工程、及び
    前記リン酸をドープしたナノファイバー不織布の空隙に、スルホン化ポリイミドを充填する工程、
    を含む、請求項2に記載の製造方法。
  4. ポリベンズイミダゾールナノファイバー不織布を作製する工程、
    前記ナノファイバー不織布の空隙にスルホン化ポリイミド及びシリカ粒子を充填する工程、
    スルホン化ポリイミド及びシリカ粒子を充填したナノファイバー不織布にリン酸をドープする工程、
    を含む、請求項2に記載の製造方法。
  5. ポリベンズイミダゾールナノファイバー不織布を静電紡糸法により作製する、請求項2〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
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