ここで、好適には、前記無段変速走行は、前記第1電動機と前記第2回転要素とが連結されるので、第2回転要素の回転速度を第1電動機によって制御することで、差動機構の差動作用により機関に連結された第1回転要素の回転速度を無段階的に変速することができる。従って、無段変速走行において、差動機構を無段変速機として機能させることができる。
また、好適には、前記差動機構ロック走行は、前記第1回転要素と前記第2回転要素とが連結されるので、差動機構の各回転要素が一体的に回転させられることとなる。従って、差動機構ロック走行では、差動機構による動力分配が行われず、機関から出力される動力によって走行される。また、機関だけでなく、第1電動機および第2電動機によって走行することも可能となる。
また、好適には、前記シリーズ走行は、前記機関と前記第1電動機とが連結されるので、機関および第1電動機と前記第3回転要素との連結が遮断される。従って、シリーズ走行では、機関の動力を第1電動機によって電力に変換し、その電力を第2電動機に供給し第2電動機によって走行することができる。また、シリーズ走行の他の態様として、第1電動機による発電が不要な場合には、機関および第1電動機の運転を停止して、第2電動機によって走行することもできる。
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明が好適に適用されるハイブリッド車両用駆動装置10(以下、駆動装置10という)の概略構成を示す骨子図である。なお、駆動装置10は、軸心Cに対して略対称に構成されているため、下側半分が省略されている。図1において、駆動装置10は、駆動源として機能するエンジン12(本発明の機関に対応)と、駆動輪13との間に、差動機構として機能する遊星歯車装置14、第1電動機MG1、および第2電動機MG2とを備えて構成されている。
エンジン12は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃料を燃焼させて動力を出力する公知の内燃機関であって、マイクロコンピュータを主体とするエンジン制御用の電子制御装置(E−ECU)によって、スロットル弁開度や吸入空気量、燃料供給量、点火時期などの運転状態が電気的に制御されるように構成されている。
遊星歯車装置14は、軸心C上に配置されており、サンギヤS1と、そのサンギヤS1に対して同心円上に配置されたリングギヤR1と、これらサンギヤS1およびリングギヤR1に噛み合うピニオンギヤP1を自転かつ公転自在に支持するキャリヤCA1とを三つの回転要素として備えて公知の差動作用を生じるシングルピニオン型の遊星歯車機構である。
遊星歯車装置14において、キャリヤCA1がクランク軸16を介してエンジン12に連結されている。また、リングギヤR1が、出力回転部材として機能し、出力軸18を介して第2電動機MG2に連結されている。なお、図1において省略されているが、出力軸18は駆動輪13に作動的に連結されている。また、サンギヤS1およびキャリヤCA1が、後述するドグクラッチ20を介して第1電動機MG1に選択的に連結される。なお、遊星歯車装置14のキャリヤCA1が本発明の第1回転要素に対応し、サンギヤS1が本発明の第2回転要素に対応し、リングギヤR1が本発明の第3回転要素に対応している。
本実施例のドグクラッチ20は、図示しない同期噛合機構を有し、第1電動機MG1と、遊星歯車装置14のサンギヤS1と、遊星歯車装置14のキャリヤCA1との連結状態を選択的に切り換えるように構成されている。ドグクラッチ20は、内周歯22が形成されて軸心Cまわりに回転可能な円筒状のスリーブ24を備えており、このスリーブ22を軸方向に移動させて内周歯22と噛み合う後述する外周歯の組合せを切り換えることで、各回転要素の連結状態を切り換える。なお、スリーブ24の外周部には、円還状の環状溝26が形成された嵌合部材28が設けられており、この嵌合溝26に電動アクチュエータ30によって軸方向に移動可能なフォーク32が嵌合されている。これより、電動アクチュエータ30を制御することで、フォーク32および嵌合部材28を介してスリーブ24を軸方向(図1において左右方向)に移動することができる。
また、ドグクラッチ20は、内周歯22が形成されているスリーブ24と、そのスリーブ24の内周歯22に対向する位置に配置され、軸心Cまわりに回転可能な円還状の第1外周歯36、第2外周歯38、および第3外周歯40を備えている。第1外周歯36、第2外周歯38、第3外周歯40は、軸方向にも径方向にも寸法が等しくされており、内周歯22と噛合可能な位置で軸方向に並んで配置されている。そして、スリーブ24が軸方向に移動して、スリーブ24の内周歯22が外周歯(第1外周歯36乃至第3外周歯40)と径方向に重なる位置にくると、その外周歯が内周歯22と噛み合うこととなる。図1に示すように、第1外周歯36は第1電動機MG1に連結され、第2外周歯38は遊星歯車装置14のサンギヤS1(第2回転要素)に連結され、第3外周歯40は遊星歯車装置14のキャリヤCA1(第1回転要素)に連結されている。また、本実施例では、軸方向においてエンジン12側(図1において左側)から、第1外周歯36、第2外周歯38、および第3外周歯40の順番で軸方向に並んで配置されている。なお、以下において、軸方向のエンジン12側が図の左側、第2電動機MG2側が図の右側に対応するものとする。なお、ドグクラッチ20が本発明の部材に対応し、内周歯22が本発明の前記1つの噛合歯に対応し、第1外周歯36、第2外周歯38、および第3外周歯40が、本発明の3つの噛合歯に対応している。
また、スリーブ24の内周歯22において、軸方向の一部に、外周歯(36、38、40)との噛合を解除するための欠歯42が形成されている。また、この欠歯42が形成されることで、内周歯22は、軸方向においてエンジン12側に形成される第1内周歯22a、および軸方向において第2電動機MG2側に形成される第2内周歯22bに分割される。これより、前記欠歯42と軸方向において同じ位置となる外周歯すなわち径方向において欠歯42と重複する外周歯は、ドグクラッチ20の内周歯22との噛合から解除される。例えば図1は、欠歯42と第3外周歯40とが軸方向において同じ位置となることで、第3外周歯40と内周歯22との噛合が解除され、第1外周歯36と第2外周歯38とが、内周歯22(第1内周歯22a)と噛み合わされている状態を示している。このとき、第1外周歯36と第2外周歯38とが内周歯22と噛み合うため一体回転させられ、第1外周歯36に連結された電動機MG1と第2外周歯38に連結されたサンギヤS1とが、ドグクラッチ20を介して連結される。すなわち、ドグクラッチ20は、内周歯22と噛み合う外周歯に連結された部材同士を連結する機能を有している。
上記第1電動機MG1とサンギヤS1とが連結されたときの、遊星歯車装置14の各回転要素の相対回転速度を示す共線図を図2に示す。図2において、縦線MG1が第1電動機MG1の回転速度Nmg1を示しており、縦線S1が遊星歯車装置14のサンギヤS1の回転速度Ns1を示しており、縦線CA1が遊星歯車装置14のキャリヤCA1の回転速度すなわちエンジン12の回転速度Neを示しており、縦線R1が遊星歯車装置14のリングギヤR1の回転速度すなわち出力軸18の回転速度Noutを示している。第1電動機MG1とサンギヤS1とが連結された状態では、サンギヤS1の回転速度Ns1を第1電動機MG1によって制御することができるので、第1電動機MG1の回転速度Nmg1を上下に変化させることにより、遊星歯車装置14の差動作用によってキャリヤCA1の回転速度すなわちエンジン12の回転速度Neを連続的(無段階)に変化(変速)することができる。これより、第1外周歯36と第2外周歯38とが噛み合うことで第1電動機MG1とサンギヤS1とが連結され、遊星歯車装置14の差動状態を第1電動機MG1によって制御することで、遊星歯車装置14を電気的な無段変速機として作動させる無段変速走行が可能となる。
図3は、スリーブ24が図1の状態よりも1外周歯分だけ第2電動機MG2側(図において右側)に移動した状態を示している。図3に示すように、軸方向において欠歯42と同じ位置には外周歯が存在しないものの、スリーブ24の軸方向においてエンジン12側の端部が第1外周歯36よりも第2電動機MG2側に位置されることで、第1外周歯36と内周歯22との噛合が解除されている。一方、第2外周歯38と第3外周歯40とが、内周歯22(第1内周歯22a)と噛み合わされた状態となっている。このとき、第2外周歯38と第3外周歯40とが一体回転させられ、第2外周歯38に連結されたサンギヤS1と第3外周歯40に連結されたキャリヤCA1とがドグクラッチ20を介して連結される。
上記遊星歯車装置14のサンギヤS1とキャリヤCA1とが連結されたときの、遊星歯車装置14の各回転要素の相対回転速度を示す共線図を図4に示す。なお、図4の各縦線は、前述した図2の共線図と同じ回転要素の回転速度を示しているので、その説明を省略する。遊星歯車装置14のサンギヤS1とキャリヤCA1とが連結された状態では、遊星歯車装置14の差動作用が禁止され、サンギヤS1、キャリヤCA1、およびリングギヤR1が一体回転させられて回転速度が等しくなる。従って、エンジン12の動力が遊星歯車装置14によって動力分配されることなく出力軸18を介して駆動輪13に伝達される差動機構ロック走行が可能となる。また、差動機構ロック走行では、エンジン12だけではなく、第2電動機MG2の動力によって走行することもでき、例えばエンジン12および第2電動機MG2の両方の動力によって走行することもできる。また、第1電動機MG1は、動力伝達経路が遮断されているので、負荷運転はなされずに回転停止状態となる。これより、第2外周歯38と第3外周歯40とが噛み合うことで、サンギヤS1とキャリヤCA1が連結され、前記差動機構ロック走行に切り換えられる。
図5は、スリーブ24が図1の状態よりも1外周歯分だけエンジン12側(図において左側)に移動した状態を示している。図5に示すように、欠歯42と第2外周歯38とが軸方向において同じ位置(径方向において重複する位置)となることで、第2外周歯38と内周歯22との噛み合わせが解除され、第1外周歯36が第1外周歯22aと噛み合い、第3外周歯40が第2内周歯22bと噛み合っている。このとき、第1外周歯36と第3外周歯40とが一体回転させられ、第1外周歯36に連結された第1電動機MG1と第3外周歯40に連結されたエンジン12とが、ドグクラッチ20を介して連結される。
上記第1電動機MG1とエンジン12とが連結されたときの、遊星歯車装置14の各回転要素の相対回転速度を示す共線図を図6に示す。なお、図6の各縦線は、前述した図2の共線図と同じ回転要素の回転速度を示しているので、その説明を省略する。第1電動機MG1とエンジン12とが連結された状態では、サンギヤS1が反力要素を持たないため、遊星歯車装置14はニュートラル状態(浮遊状態)となる。すなわち、エンジン12および第1電動機MG1と、出力軸18との連結が遮断される。これより、エンジン12を駆動させて第1電動機MG1の回生による発電が可能となる。さらにその発電された電力を第2電動機MG2に供給して走行するシリーズ走行が可能となる。また、シリーズ走行時において、第1電動機MG1による発電が不要である場合には、エンジン12および第1電動機MG1が停止され、図示しない蓄電装置からの電力によって第2電動機MG2による走行が実施される。これより、第1外周歯36と第3外周歯40とが噛み合うことで第1電動機MG1とエンジン12とが連結され、前記シリーズ走行に切り換えられる。
上記のように1つのドグクラッチ20によって第1電動機MG1の連結状態を切り換えることで、無段変速走行、差動機構ロック走行、およびシリーズ走行の何れかに切り換えることができる。図7は、各走行態様に対応するドグクラッチ20の噛み合わせを示している。図7において、MG1は第1電動機MG1に連結された第1外周歯36、S1はサンギヤS1に連結された第2外周歯38、CA1はキャリヤCA1に連結された第3外周歯40の噛合状態をそれぞれ示し、具体的には、「○」がドグクラッチ20との噛合、「×」がドグクラッチ20との噛合解除を示している。
例えば、モード1は、サンギヤS1に連結された第2外周歯38とキャリヤCA1に連結された第3外周歯40とが、ドグクラッチ20の内周歯22と噛み合っていることを示している。すなわち、遊星歯車装置14のサンギヤS1とキャリヤCA1とがドグクラッチ20を介して連結されていることを示している。このとき、遊星歯車装置14の差動作用が禁止されて各回転要素が一体的に回転することから、モード1が前記差動機構ロック走行に対応している。
また、モード2は、第1電動機MG1に連結された第1外周歯36とサンギヤS1に連結された第2外周歯38とが、ドグクラッチ20の内周歯22と噛み合っていることを示している。すなわち、第1電動機MG1とサンギヤS1とがドグクラッチ20を介して連結されていることを示している。このとき、第1電動機MG1によってサンギヤS1の回転速度を制御することで遊星歯車装置14の差動状態を制御することができる。従って、モード2が、遊星歯車装置14を電気的な無段変速機として作動させる前記無段変速走行に対応している。
また、モード3は、第1電動機MG1に連結された第1外周歯36とキャリヤCA1に連結された第3外周歯40とが、ドグクラッチ20の内周歯22と噛み合っていることを示している。すなわち、第1電動機MG1とキャリヤCA1とが、ドグクラッチ20を介して連結されていることを示している。このとき、エンジン12を駆動させて第1電動機MG1による発電が可能となり、さらに例えば発電された電力を第2電動機MG2に供給して走行することができる。従って、モード3が前記シリーズ走行に対応している。
ここで、例えば差動機構ロック走行(モード1)からシリーズ走行(モード3)、或いは、シリーズ走行(モード3)から差動機構ロック走行(モード1)に切り換える際には、必ず無段変速走行(モード2)を介して切り換えられるようにドククラッチ20が構成されている。例えば、ドグクラッチ20のスリーブ24が軸方向において第2電動機MG2(右側)側に移動した状態では、第2外周歯38と第3外周歯40とがドグクラッチ20と噛み合う(図3参照)ことで差動機構ロック走行(モード1)となる。この状態からスリーブ24が1外周歯分だけエンジン12側(左側)へ軸方向に移動すると、第1外周歯36と第2外周歯38とがドグクラッチ20と噛み合う(図1参照)ことで、無段変速走行(モード2)に切り換えられる。さらに、スリーブ24が1外周歯分だけエンジン12側へ軸方向に移動すると、第1外周歯36と第3外周歯40とが噛み合う(図5参照)ことで、シリーズ走行(モード3)に切り換えられる。このように、差動機構ロック走行(モード1)からシリーズ走行(モード3)に切り換える場合、無段変速走行(モード2)を中継することとなる。また、シリーズ走行(モード3)から差動機構ロック走行(モード1)に切り換える場合においても同様に、無段変速走行(モード2)を中継することとなる。従って、ドグクラッチ20は、差動機構ロック走行(モード1)またはシリーズ走行(モード3)に切り換える場合、必ず無段変速走行(モード2)の状態から切り換えられるように構成されている。
上記のように、走行モードが切り換えられるドグクラッチ20の具体的な構造について説明する。ドグクラッチ20の内周歯22と噛み合う外周歯は、図1等に示すように、第1外周歯36、第2外周歯38、第3外周歯40の順番で軸方向に配置されている。また、スリーブ24に形成されている内周歯22は、その間に欠歯42が形成されていることから、欠歯42を挟んでエンジン12側に形成される第1内周歯22aおよび第2電動機MG2側に形成される第2内周歯22bで形成されている。軸方向において第1外周歯36側に形成される第1内周歯22aは2個の外周歯を噛合可能な程度に軸方向の長さが設定され、軸方向において第3外周歯40側に形成される第2内周歯22bは1個の外周歯を噛合可能な程度に軸方向の長さが設定されている。また、第1内周歯22aと第2内周歯22bの間に形成されている欠歯42は、軸方向において1個の外周歯の噛合を阻止する程度の長さに設定されている。なお、本実施例では、各外周歯(36、38、40)は、それぞれ軸方向の長さが等しく、隣り合う外周歯との間隔も短く設定されている。
このようにドグクラッチ20が構成されると、図3に示すスリーブ24が最も第2電動機MG2側(右側)に移動した状態では、第2外周歯38と第3外周歯40とがドグクラッチ20の内周歯22と噛み合い、第1外周歯36がドグクラッチ20の内周歯22との噛合が解除される(差動機構ロック走行)。また、図5に示すスリーブ24が最もエンジン12側(左側)に移動した状態では、第1外周歯36と第3外周歯40とがドグクラッチ20の内周歯22と噛み合い、第2外周歯38が欠歯42と径方向に重なることで噛合が解除される(シリーズ走行)。また、図1に示すスリーブ24が軸方向において図3および図5の中間位置に移動した状態では、第1外周歯36と第2外周歯38とが噛み合い、第3外周歯40が欠歯42と径方向に重なることで噛合が解除される(無段変速走行)。これより、図1に示すスリーブ24が中間位置に移動した状態では、無段変速走行とされるので、差動機構ロック走行またはシリーズ走行に切り換える際には、必ず無段変速走行から切り換えることとなる。また、差動機構ロック走行からシリーズ走行、或いはシリーズ走行から差動機構ロック走行に切り換える際にも、無段変速走行を介して切り換えられ、直接差動機構ロック走行からシリーズ走行、或いはシリーズ走行から差動機構ロック走行には切り換えられない。
このように、差動機構ロック走行およびシリーズ走行に切り換える際には、無段変速走行の状態から切り換えられることで、速やかな切換が可能となる。ドグクラッチ20には、同期機構が設けられており、回転速度を同期させてドグクラッチ20が噛み合わされるが、噛み合わせる回転要素間の差回転が大きい場合には、回転同期が困難となる場合がある。これに対して、無段変速走行では、第1電動機MG1を制御することで、予め噛み合わせる回転要素間の回転速度を同期することができるので、速やかな切換が可能となる。
例えば、差動機構ロック走行に切り換える際には、無段変速走行の状態から切り換えられるので、第1電動機MG1を制御してキャリヤCA1およびサンギヤS1の回転速度をリングギヤR1に連結された出力軸18の回転速度となるように同期制御することで、差動機構ロック走行への切換の際にドグクラッチ20によって連結されるサンギヤS1とキャリヤCA1との差回転をなくし、速やかにドグクラッチ20を切り換えることができる。また、差動機構ロック走行を無段変速走行に切り換える際には、第1電動機MG1の回転速度Nmg1をサンギヤS1の回転速度Ns1に同期することで、切換の際に連結される第1電動機MG1とサンギヤS1との差回転をなくすことにより、ドグクラッチ20を速やかに切り換えて無段変速走行に切り換えることができる。
また、シリーズ走行に切り換える際にも同様に、無段変速走行の状態から切り換えられるので、第1電動機を制御してサンギヤS1およびキャリヤCA1(エンジン12)の回転速度が等しくなるように同期制御することで、サンギヤS1とエンジン12の差回転をなくすことによりドグクラッチ20を速やかに切り換えて、シリーズ走行へ切り換えることができる。また、シリーズ走行から無段変速走行に切り換える際には、第1電動機MG1を制御して第1電動機MG1の回転速度Nmg1とサンギヤS1の回転速度とが等しくなるように制御することで、サンギヤS1と第1電動機MG1との差回転をなくすことによりドグクラッチ20を速やかに切り換えて無段変速走行に切り換えることができる。
上述のように、本実施例によれば、1つのドグクラッチ20で無段変速走行、シリーズ走行、および差動機構ロック走行の3つの走行態様に切り換えることができるため、シンプルな構造で各走行態様への切換が可能となり、部品点数の増加も抑制される。また、クラッチがドククラッチ20であるため、油圧式摩擦係合装置(油圧クラッチ)を使用した場合に生じる引き摺りも生じないので、燃費の悪化も防止される。
また、本実施例によれば、ドグクラッチ20は、シリーズ走行および差動機構ロック走行に切り換える際には、いずれも無段変速走行から切り換えられるように構成されている。このようにすれば、シリーズ走行および差動機構ロック走行に切り換える際には、無段変速走行の状態から切り換えられるので、第1電動機MG1を制御することにより、遊星歯車装置14の各回転要素の回転速度を、予め切り換えられる走行態様に応じた回転速度に適宜制御することができる。従って、切り換えられる走行態様へ速やかに切り換えることができる。
また、本実施例によれば、ドグクラッチ20は、内周側に内周歯22が形成された筒状のスリーブ24と、第1電動機MG1に連結された第1外周歯36と、サンギヤS1に連結された第2外周歯38と、キャリヤCA1に連結された第3外周歯40とを、備え、第1外周歯36、第2外周歯38、および第3外周歯40は、スリーブ24の内周歯22が、径方向に重なる位置に移動すると内周歯22と噛み合わされ、第1外周歯36、第2外周歯38、および第3外周歯40は、それぞれ同じ大きさに形成され、且つ、第1外周歯36、第2外周歯38、第3外周歯40の順番で軸方向に並んで配置されており、スリーブ24の内周歯22は、軸方向において第1周歯36側に形成されて2つの外周歯と噛合可能な長さに形成されている第1内周歯22a、第3外周歯40側に形成されて1つの外周歯と噛合可能な長さに形成されている第2内周歯22bからなり、第1内周歯22aと第2内周歯22bとの間には、1つの外周歯との噛合を阻止する欠歯42が形成されており、第1外周歯36と第2外周歯38とが内周歯22と噛み合うことで無段変速走行が可能となり、第1外周歯36と第3外周歯40とが内周歯22と噛み合うことでシリーズ走行が可能となり、第2外周歯38と第3外周歯40とが内周歯22と噛み合うことで差動機構ロック走行が可能となる。
このようにすれば、例えばスリーブを軸方向において第3外周歯40側(第2電動機MG2側)に移動させて、第2外周歯38および第3外周歯40を噛み合わせて差動機構ロック走行可能とし、その状態からスリーブ24を1外周歯分だけ第1外周歯36側(エンジン12側)に移動させて第1外周歯36と第2外周歯38とを噛み合わせて無段変速走行可能とし、さらにスリーブ24を1外周歯分だけ第1外周歯36側に移動させて第1外周歯36と第3外周歯40を噛み合わせてシリーズ走行可能とすることができる。すなわち、例えばスリーブ24を第3外周歯40側から第1外周歯36側に向かって軸方向に移動させると、第2外周歯38と第3外周歯40とを噛み合わせることで達成される差動機構ロック走行、第1外周歯36と第2外周歯38とを噛み合わせることで達成される無段変速走行、第1外周歯36と第3外周歯40とを噛み合わせることで達成されるシリーズ走行に順次切り換えることができる。これより、ドグクラッチ20を、差動機構ロック走行およびシリーズ走行に切り換える場合には、必ず無段変速走行から切り換える構成とすることができる。
また、本実施例によれば、第1外周歯36と第2外周歯38とが内周歯22と噛み合うと、第1電動機MG1とサンギヤS1とが連結される。従って、第1電動機MG1によってサンギヤS1の回転速度を制御して遊星歯車装置14の差動状態を制御することにより、エンジン12に連結されたキャリヤCA1の回転速度を無段階的に変速する無段変速走行が可能となる。
また、本実施例によれば、第1外周歯36と第3外周歯40とが内周歯22と噛み合うと、第1電動機MG1とエンジン12とがキャリヤCA1およびクランク軸16を介して連結され、エンジン12および第1電動機MG1と出力軸18(リングギヤR1)との連結が遮断される。従って、走行状態に応じてエンジン12を駆動させて第1電動機MG1による発電を行い、出力軸18に連結された第2電動機MG2によって走行するシリーズ走行が可能となる。
また、本実施例によれば、第2外周歯38と第3外周歯40とが内周歯22と噛み合うと、キャリヤCA1とサンギヤS1とが連結される。従って、遊星歯車装置14の各回転要素が一体回転させられるので、遊星歯車装置14の差動作用が禁止され、エンジン12の動力が動力分配されることなく駆動輪13に伝達される差動機構ロック走行が可能となる。
また、本実施例によれば、ドグクラッチ20は、同期噛合機構を備えて構成されている。このようにすれば、ドククラッチ20の滑らかな切換が可能となる。
つぎに、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において前述の実施例と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
図8は、本発明の他の実施例であるハイブリッド車両用駆動装置60(以下、駆動装置60)の骨子図である。駆動装置60を前述した駆動装置10と比較すると、ドグクラッチ62(本発明の部材に対応)の構造が異なるのみであり、他の構成については共通している。以下、駆動装置10と共通する構成については省略し、駆動装置10と異なるドグクラッチ62の構造について説明する。
本実施例のドグクラッチ62は、図示しない同期噛合機構、および内周部に第1内周歯66aおよび第2内周歯66bが形成されたスリーブ64を備えて構成されている。なお、スリーブ64を軸方向に移動させる構成については前述の実施例と同様であるのでその説明を省略する。
スリーブ64に形成されている内周歯66(本発明の1つの噛合歯に対応)は、上記第1内周歯66aおよび第2内周歯66bから成り、これら第1内周歯66aおよび第2内周歯66bの間には欠歯68が形成されている。ここで、本実施例の第1内周歯66aは、軸方向に並ぶ第1外周歯36乃至第3外周歯40の全て外周歯が第1内周歯66aと噛み合うことができる長さに設定されている。すなわち3個の外周歯と噛み合い可能となるように軸方向の長さが設定されている。また、第2内周歯66bは、1個の外周歯と噛合可能となる軸方向の長さに設定されており、欠歯68は、1つの外周歯との噛合が解除される軸方向の長さに設定されている。このようにドグクラッチ62が構成されることで、第1電動機MG1に連結された第1外周歯36は、常時ドグクラッチ20に噛み合わされることとなる。
図8は、スリーブ64が軸方向において中間位置に移動した状態を示している。この状態は、前述の実施例において図1に対応している。このとき、第1外周歯36と第2外周歯38とが噛み合うことで、第1電動機MG1とサンギヤS1とが連結され、前記無段変速走行に切り換えられる。
図9は、スリーブ64が軸方向において最も第2電動機MG2側(右側)に移動した状態に対応している。この状態は、前述の実施例において図3に対応している。このとき、第1外周歯36、第2外周歯38、および第3外周歯40の全ての外周歯がドグクラッチ62の第1内周歯66aと噛み合うことで、サンギヤS1とキャリヤCA1とが連結され、遊星歯車装置14の差動作用が禁止される。従って、前記差動機構ロック走行に切り換えられる。なお、前述の実施例の駆動装置10では、第1外周歯36の噛合が解除されていたが、本実施例では、第1外周歯36が第1内周歯66aと噛み合うため、第1電動機MG1が遊星歯車装置14と共に一体回転させられる。
図10は、スリーブ64が軸方向において最もエンジン12側(左側)に移動した状態を示している。この状態は、前述の実施例において図5に対応している。このとき、第1外周歯36および第3外周歯40がドグクラッチ62の内周歯66と噛み合う一方、第2外周歯38は欠歯68と重なることで噛合が解除される。従って第1電動機MG1とエンジン12とが接続されることで、前記シリーズ走行に切り換えられる。
このように、本実施例においても、前述の実施例と同様の効果が得られ、例えば、1つのドグクラッチ62によって、差動機構ロック走行、無段変速走行、およびシリーズ走行に切り換えることが可能となる。また、本実施例では、差動機構ロック走行において、第1外周歯36が第1内周歯66aと噛み合うことで、第1電動機MG1が連れ回される分だけ損失が生じるが、第1電動機MG1による発電や駆動が可能となる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例では、エンジン12とキャリヤCA1とは、クランク軸16を介して直結されていたが、エンジン12とキャリヤCA1との間にクラッチを設けても構わない。このようにすれば、例えば遊星歯車装置14の差動作用を禁止した差動機構ロック走行で第2電動機MG2で走行する場合には、クラッチを解放することでエンジンの連れ回りをなくして燃費を向上することができる。
また、前述の実施例では、ドグクラッチ20、62は、電動アクチュエータ30で駆動されるとしたが、電動アクチュエータ30に限定されず、例えば油圧アクチュエータを用いるなど、スリーブ24、64を軸方向に移動可能な構成であれば特に限定されない。
また、前述の実施例において、第1外周歯36乃至第3外周歯40の軸方向の長さは、何れも同じ長さに設定されているとしたが、各外周歯の軸方向の長さが異なっていても構わない。なお、このように各外周歯の軸方向の長さが異なる場合、差動機構ロック走行およびシリーズ走行に切り換える際には、無段変速走行から切り換えられるように、内周歯22、66の長さや欠歯42、68の長さを適宜調整する必要が生じる。
また、前述の実施例では、差動機構は遊星歯車装置14で構成され、キャリヤCA1がエンジン12に連結され、リングギヤR1が出力軸18に連結され、サンギヤS1がドグクラッチ20を介して第1電動機MG1に連結されていたが、上記連結関係は、矛盾のない範囲で適宜変更しても構わない。
また、前述の実施例において、ドグクラッチ20、62は、同期噛合機構を備えるとしたが、必ずしも同期噛合機構を備えなくても構わない。同期の際には、第1電動機MG1によって同期することが可能であるためである。
また、前述の実施例において、ドグクラッチ20、62の具体的な構造は一例であって、差動機構ロック走行およびシリーズ走行に切り換える際には、無段変速走行から切り換えられる構成である範囲において適宜変更することができる。
また、前述の実施例において、出力軸18と駆動輪13との間に変速機等を介挿しても構わない。
また、前述の実施例において、各走行を切り換える装置(部材)としてドグクラッチが使用されていたが、3つの噛合歯とそれに対向する1つの噛合歯からなる装置であれば、特に限定されない。
また、前述の実施例において、内燃機関であるエンジン12が使用されているが、外燃機関などの他の駆動源が使用されても構わない。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。