高炉を安定にしかも効率よく操業するには、炉内を上昇するガスと、炉内を降下する主還元材としてのコークスなど(以下、「コークス」と記す)及び鉄源原料(以下、「鉱石」と記す)との熱交換ならびに反応を効率よく行い、かつ、炉内の固体、気体、液体の円滑な流動を得るために、通気性、通液性を良好に保つことが重要である。
低還元材比を指向し、炉内への装入コークスを装入鉱石に対して減少させると、鉱石の粒径は、コークスよりも小さいため、炉上部の通気抵抗が上昇し、さらに炉下部では鉱石融着帯の肥大化とコークス層厚の低下により、炉内全体の圧損が上昇する。また、装入コークスが減少すると炉内ではコークス1個あたりの反応負荷が増加するため、炉内では劣化、粉化が進む。その結果、高炉内ではコークス粉の滞留、蓄積が増加し、特に炉下部充填層が目詰まりを起こし、炉内通気性と通液性を阻害することになる。
コークス比の低減とともに、微粉炭等の補助還元材吹き込み量を増加させると、羽口前ではレースウエイと呼ばれる燃焼空間でコークスの燃焼による消費速度が低下するため、レースウエイ内でのコークス粒子の旋回による劣化が増加し、羽口部から炉内への発生粉も増加する。さらに、補助還元材の燃焼効率(燃焼率)が低下するため、未燃チャー等の未燃分が炉内に生成する。
この燃焼率低下を補うため、一定量の酸素を羽口から富化する。この酸素富化により理論燃焼温度の低下を抑制して一定に維持する送風条件を設計することができるが、羽口前で燃焼する補助還元材は、一般にコークスよりも揮発分を多く含むため、発生ガス量が増大する。その結果、炉上部の温度が上昇傾向となり、高炉の熱損失が大きくなる。この発生ガス量の増大は、酸素富化をさらに増加させることにより抑制することは可能であるが、逆に燃焼温度が過上昇すると、高炉内の荷下がり異常や融着帯高さの過低下などが炉熱低下を誘発するリスクを伴うため、従来は、この発生ガスの上昇による還元材比の上昇を容認している。
したがって、補助還元材を多量に吹き込む操業においては、燃焼率低下と未燃チャーとコークス劣化による粉の発生、さらに熱損失の増加は避けられない。
なお、前記の還元材比(kg/pt)とは、銑鉄1トンの生産に必要な還元材の量をkgで表示するものである。また、補助還元材とは、炉頂からの装入コークス以外の還元材の総称であり、本発明例では、後述するように、羽口から吹き込まれる微粉炭と粉砕したPKS炭が例示される。複数の還元材を使用する場合は、個々の還元材の分類や名称でも、「比」を付けてkg/pt単位で表示される。例えば、補助還元材や、炉頂から装入されるコークス、羽口から吹き込まれる微粉炭を、それぞれ、補助還元材比、コークス比、微粉炭比などと称してkg/pt単位で表示する。
微粉炭吹き込みの場合、前記の未燃チャーは、微粉炭比が比較的低い場合、すなわち銑鉄1トンあたり150kg程度以下のときは、炉内のコークスよりも反応性が高い未燃チャーが、コークスよりも優先的に消費・ガス化され、炉内に効率よく還元ガスを供給する。しかしながら、微粉炭が銑鉄1トンあたり150kg程度を超えると、未燃チャーが増加し、炉内で有効に消費できなくなる。
このような未燃チャーやコークス粉の発生量が増加すると、羽口前に形成されるレースウエイ空間の周辺部に微粉が蓄積する。これらの微粉にはコークスや補助還元材中に約10%含まれる灰分も含まれているため、レースウエイ内で一旦溶融した灰分が、送風と微粉と共に充填層へ浸透する際に、ガス流速の低下と温度低下によりレースウエイ周辺部に滞留、蓄積し、通気抵抗が局所的に高い、通常“鳥の巣”と呼ばれる領域が生成する。この領域は、主に炭材中の灰分の主成分であるSiO2とAl2O3からなる高融点の通気阻害物で形成され、この領域が拡大すると、炉下部の通気性を悪化させるので、安定操業上深刻な問題となる。そのため、しばしば微粉炭吹き込み量の制約要因となる。
このように補助還元材の多量吹き込み操業において、燃焼率の低下は、炭素源としての補助還元材とコークスとの置換率の低下と炉内通気性悪化、さらに熱損失を招くため、補助還元材の多量吹き込み操業下では、還元材比は上昇せざるを得ず、ひいては、炭酸ガス発生量が増加する。
ところで、高炉では、炭材として多量のコークスや石炭を使用するため、多量の炭酸ガスを発生させている。この炭酸ガスの発生を抑制するために、炭材としてバイオマス炭を使用する方法が注目されている。バイオマスはエネルギー源としての生物体であり、特に、植物バイオマスは、燃焼させるなどしてエネルギー源として消費すると分解して炭酸ガスを発生するが、太陽光によって炭酸ガスと水分とが光合成して再度植物バイオマスに成長し、短期間の循環サイクルを形成する。そのため、植物バイオマスは、地下資源エネルギーである石炭や石油などとは異なり、「カーボンニュートラル」材と称され、エネルギー源としての消費により炭酸ガスに戻っても地球温暖化ガスとしての炭酸ガス発生量には関与しないと考えられている。
バイオマスの一種であるアブラ椰子は、油の採取を目的として、主に赤道直下でプランテーション栽培がなされている。アブラ椰子の実は、油分の多い果実であるが、中心には核とよばれる硬い種子が存在する。この核の外側は堅く緻密な殻で覆われている。採油に際しては、アブラ椰子の実を粉砕して、油分、油カス、核殻に分離する。油分は食糧や燃料エネルギーとして利用される。アブラ椰子核殻(Palm Kernel Shell:以下、「PKS」ともいう)は副産物で、メジアン粒径が8mm程度の粒状破片である。表1にPKSの主要成分および発熱量を例示する。
PKSは主に暖房用などの燃料として使用されるが、最近は、直接燃焼させ、またはガス化して燃焼させることにより発電するバイオマス発電の原料としても使用されている。
さらに、アブラ椰子核殻(PKS)を炭化・乾留して得られる炭化物(アブラ椰子核殻炭:この炭化物を以下「PKS炭」ともいう)は、活性炭として化学吸着材などに使用されているが、一方で、冶金用コークス等の代替としての利用技術の開発も進められている。製鉄所の焼結機や高炉では、炭材として多量の石炭やコークスを使用するため多量の炭酸ガスを排出しており、カーボンニュートラル材であるアブラ椰子核殻(PKS)の炭化物(PKS炭)を焼結機や高炉で炭材として利用することができれば、炭酸ガス排出量の削減に寄与できるからである。
例えば、特許文献1には、回転キルンにより粉砕性指数(HGI)が45以上の性状を有するバイオマス炭を製造し、微粉炭の代替として高炉吹き込み用原料に使用し、炭酸ガス排出量を低減する技術が開示されている。しかし、ヤシの殻のような硬質なものから製造した炭化物は、HGIが35と低く粉砕性が悪く、さらに、高炉吹き込み用原料として使用するには燃焼性の改善が必要と考えられる。
また、非特許文献1には、杉や紙などの木質系バイオマスと石炭の高炉吹き込み特性を基礎的に調査し、300℃以上で熱処理をすると、難粉砕性の繊維系セルロース結合を切断し、粉砕可能となり、また、炭素の濃縮により、カーボンニュートラル材として扱うことにより、高炉吹き込み時に炭酸ガス削減効果が向上することが開示されている。さらにレーザーによる急速加熱実験により、予備処理し、炭素が濃縮されたバイオマスチャーの燃焼性はコークスよりも優れているが、石炭とほぼ同様であることが示されている。石炭に含まれている揮発分は、着火ガスとなり優れた燃焼性の指標となるが、バイオマスチャーの炭素濃縮は、この揮発分を低下させるため、揮発分が低下することにより燃焼性が低下することが課題となる。
上述したように、羽口からの補助還元材の多量吹き込み操業においては、補助還元材とコークスとの置換率低下、熱損失増による還元材比増加の抑制と、炉内通気性悪化を抑制するための燃焼率改善が課題となる。
また、高炉では炭材として多量の石炭やコークスを使用するため炭酸ガスの排出量がきわめて大きい。この炭酸ガス排出量を削減するためには、バイオマスを炭化したバイオマス炭の使用が有効であり、石炭やコークスの代替として利用する技術開発が行われてきた。しかし、前掲の特許文献1、非特許文献1に記載される技術においては、バイオマス炭の高炉吹き込み用原料としての使用時における低粉砕性および燃焼性の改善(特許文献1)、バイオマス炭の事前熱処理に伴う揮発分低下による燃焼性低下の改善(非特許文献1)等、種々の課題がある。通常、揮発分が高い炭材は着火しやすいので一般的に燃焼性がよいが、揮発分の低い炭材はその逆の傾向を示すからである。
本発明はこのような実状に鑑みてなされたもので、バイオマスとしてアブラ椰子核殻(PKS)を使用し、この椰子核殻を加熱処理によって炭化・乾留処理し、低揮発性であって、しかも燃焼性の良好なアブラ椰子核殻炭(PKS炭)を製造し、高炉で、製鉄用の炭材として利用することができる揮発分が低くかつ燃焼性がよいPKS炭を使用することで、炭酸ガス排出量を増加させずに、低コークス比を維持しかつ還元材比上昇を抑制できる高炉操業方法を提供することを目的とする。
上記の課題を解決するために、本発明者らは、高炉で一種類のバイオマス炭を使用することを前提として、低揮発性であって、しかも燃焼性が良好なバイオマス炭を得ることができるバイオマス原料について調査した。バイオマス炭を高炉で補助還元材として使用する場合、羽口に吹き込まれる補助還元材の燃焼性が良好であり、さらに揮発分が低ければ、多量吹き込み時においても、高炉内ではコークスに対する置換率を低下させずに、高炉還元材比を低位に維持した生産性の高い操業が可能となる。
高炉の生産性向上のためには、上述したように炭材の燃焼性が良好であることが重要である。炭材の燃焼性を決定する因子として、炭材の着火温度、揮発分およびミクロな比表面積(表面の微細な亀裂や細孔を考慮した比表面積)などが考えられる。揮発分が高い炭材は着火しやすいので一般的に燃焼性がよいが、炭素濃度が低いため、熱源としてのコークスとの置換率が低下し補助還元材比が増大する。したがって、高炉用補助還元材としては、コークスとの置換率維持のため、高発熱量であるとともに、揮発分を低くする必要がある。そのため、着火温度を低下させるか、または比表面積を大きくしなければ、燃焼性は良好とはならない。
本発明者らは、このような条件(揮発分が低く、燃焼性が良好)を満たす炭材の原料となるバイオマスのサイズとしては、粒径10mm程度の粒状のものが適切であると考えた。大き過ぎると揮発成分の除去に時間を要して炭材製造の生産性が悪くなり、また、微粉サイズまで粉砕処理をすると、直接ガス加熱により高温炭化処理をした場合に、燃焼ガスにより吹き飛ばされるという現象が起こり、炭化・乾留処理が困難となるからである。さらに、高温炭化処理をして得られる固体炭化物の性状としては、次の二つの条件を満たすことが望ましい。一つ目は、主還元材であるコークスと同等な炭素濃度を有すること、すなわち高温炭化処理で除去が可能な不純物としての揮発分をできるだけ低位に保つことであり、二つ目は、燃焼性が良好であることである。
検討の結果、これらの条件を満たすものとして、アブラ椰子核殻(PKS)が最適であるとの結論に達し、本発明においては、バイオマス原料としてPKSを用いることとした。前述のように、PKSは、アブラ椰子の実を粉砕して油を採取する過程で粒径(メジアン粒径)が8mm程度の粒状破片となり、さらに、高温炭化処理をすることにより、低揮発性であって、しかも燃焼性の良好なバイオマス炭を得ることができるからである。
この高温炭化処理により、非特許文献1に記載のとおり、バイオマス特有の難粉砕性の繊維系セルロース結合は切断され、さらに炭化により、8mm以下となる粒状破片は、通常の高炉微粉炭用粉砕機のローラー型ミルにより粉砕しやすいサイズとなることから、特許文献1に記載のバイオマス特有の難粉砕性の課題は解決できる。
また、PKSの高温炭化処理により、揮発分を低下させ、炭素濃度を高めて、真発熱量を上昇させることができる。高炉の補助還元材として現状用いられている標準的な微粉炭の30MJ/kg程度以上の真発熱量を得るためには、揮発分が15質量%以下であることが望ましい。
通常の微粉炭のうち揮発分が15質量%以下の微粉炭は、いわゆる低揮発分の部類に属し、燃焼性に劣るとされている。しかしながら、以下に述べるように、PKS炭は燃焼性がきわめて良好であると考えられる。
図1は、PKS炭の比表面積を高炉の補助還元材として用いられている微粉炭等と対比して示す図である。BET法による測定結果で、測定の対象はいずれも粒径74μm以下の粉末である。同図に示したように、PKS炭の比表面積は、コークス、微粉炭、バイオマスの1種である木炭に比較して、1オーダー高く、このことがPKS炭の燃焼性がきわめて良好であることの主要因であると考えられる。
本発明者らは、このような前提の下でアブラ椰子核殻(PKS)を炭化・乾留処理し、低揮発性であってしかも燃焼性の良好な固体炭化物(PKS炭)として、高炉の補助還元材用の炭材に利用するとともに、炭酸ガスの発生を抑制することができるアブラ椰子核殻の有効活用方法を確立することができた。
なお、以下において、アブラ椰子核殻(PKS)および固体炭化物(PKS炭)に含まれる各成分の含有量を表す「%」は「質量%」を意味する。
本発明は、下記(1)〜(3)のアブラ椰子核殻炭による高炉操業方法を要旨とする。
(1)高炉炉頂部から鉄鉱石とコークスを装入するとともに、高炉羽口部から銑鉄1トンあたり150kg以上の補助還元材を吹き込む高炉操業において、補助還元材比の10%以上を、アブラ椰子核殻を加熱処理して製造した固体炭化物とすることを特徴とするアブラ椰子核殻炭による高炉操業方法。
ここで、「補助還元材比」とは、銑鉄1トンの生産に必要な補助還元材(すなわち、炉頂からの装入コークス以外の還元材)の量をkgで表示したものである。
(2)アブラ椰子核殻を加熱処理して製造した固体炭化物の揮発分を15%以下とすることを特徴とする上記(1)に記載の高炉操業方法。
(3)アブラ椰子核殻を加熱処理して製造した固体炭化物の灰分中Al2O3濃度が15%以下であり、かつ灰分中CaO濃度が10%以上であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の高炉操業方法。
本発明のアブラ椰子核殻炭による高炉操業方法によれば、バイオマスとしてのアブラ椰子核殻(PKS)を炭化・乾留処理して得られたPKS炭を高炉で補助還元材として利用することができる。PKS炭はカーボンニュートラル材であり、しかも低揮発性で、燃焼性が良好であることから、高炉操業に際し、地球温暖化ガスである炭酸ガス排出量を抑制するとともに、高炉操業において補助還元材の多量吹き込みが可能となり、低コークス比を維持しかつ還元材比上昇を抑制することができる。
羽口から吹き込まれる補助還元材としては、重油等の液体燃料、天然ガスやコークス炉ガス等の気体燃料、および、石炭を微粉砕した微粉炭、あるいは破砕した廃プラスチックのような粉体が使用されている。微粉炭の吹き込みは1980年代から国内では主流となっている。
粉体還元材は、N2のようなキャリアガスで羽口先まで輸送され、吹き込み量に応じた酸素を富化した2200℃程度の高温場で、且つ220〜240m/s程度の高流速場の送風ガス雰囲気に吹き込まれた直後、急速に昇温され、10ミリ秒程度で補助還元材中の揮発分が揮発すると同時に着火し、その後、100ミリ秒程度の間で炭材が燃焼する。吹き込み量が多い場合は、揮発ガス種、炭材種により局所的な酸素不足が生じ、全体の燃焼率は低下する。
この燃焼率は、揮発分に影響されることが知られている。従来は、化石燃料由来の石炭や石油系の補助還元材が使用されてきたが、特に揮発ガス量の多い石油系の還元材では燃焼率が高い。最近では主流の石炭系の還元材でも揮発分の高い銘柄のものがあり、揮発分が高いほど燃焼率が高い。しかし、高揮発分の補助還元材の場合、燃焼率は高いが、一般に炭素濃度が低いため、熱源としてのコークスとの置換率が低下する。一方、低揮発分の補助還元材では、燃焼初期の着火ガスとなる揮発性ガスが不足し、一般的には燃焼率が低い。そのため、コークスとの置換のために十分な炭素を含有していても、燃え残るので、置換率が低下する。
本発明者らは、PKS炭が、低揮発分であっても燃焼率が高いことを実証するために、操業中の実高炉の羽口の1本から、粒径74μm以下の粒子が70%以上になるまで微粉砕したPKS炭を吹き込み、羽口前の燃焼空間のガス組成分布を測定してPKS炭の燃焼性について評価した。このときの操業における前提条件は、微粉炭比183kg/ptレベル、出銑比1.9である。
図2は、PKS炭の燃焼性の評価結果を微粉炭のそれと対比して示す図で、(a)は羽口前の燃焼空間のガス組成分布を、(b)は羽口先端からの距離と炉内温度の関係をそれぞれ示す図である。揮発分は、PKS炭で4.8%、微粉炭で6%であり、いずれも低揮発分である。
図2に示したように、PKS炭吹き込み時のガス組成(CO2)および炉内温度のピークが、微粉炭の場合に比較して、100mm以上羽口側にシフトしており、COガス濃度が非常に高い。この値は、従来の微粉炭のうち、最も燃焼性が高い高揮発分石炭と同レベルであることが判明した。以上の結果により、低揮発分のPKS炭の燃焼性が微粉炭に比較して良好であることが示された。
PKS炭の燃焼性が高いのは、従来の微粉炭の燃焼性を支配する揮発性ガスの着火に起因するのではなく、図1に示したように、比表面積が1オーダー大きいことにより、炭材そのものが容易に着火するようになり、燃焼性が高いという結果が得られていることによるものと考えられる。
また、図2に示した結果に基づき、高炉定常反応評価モデル計算により、PKS炭と微粉炭の混焼時に、PKS炭と微粉炭の吹き込み総量に及ぼす置換率について調査した。ここで、高炉定常反応評価モデルとは、高炉を高さ方向に予熱帯から各反応領域にわたり五段に分割し、各段において物質、熱収支を満たすように、高炉実績データに基づいた炉内状態を最適化により定めたのち、得られた炉内状態を前提として、未知の操業条件の予測を行うことができる数式シミュレータである。
微粉炭100%時の置換率=1の場合のベース条件は、出銑比1.90、還元材比500kg/ptとし、微粉炭比180kg/ptまでの高炉実績解析に基づいている。
計算結果によると、微粉炭比150kg/pt以上の操業では、置換率が低下し、還元材比が上昇するが、PKS炭を10%以上配合することにより置換率の低下はほとんど抑制されると評価された。これは、羽口前の燃焼率増加の効果に加え、PKS炭の含有H2濃度が微粉炭の約4分の1程度であるため、微粉炭比上昇時の羽口前における発生ガス量の増大が抑制され、炉上部の熱損失上昇が抑制された効果が寄与していることによるものと考えられる。
このように、PKS炭は、炭化・乾留処理により揮発分が低位に抑制されるとともに、高濃度の炭素を含有するので発熱量が高く、かつ比表面積が大きく、高い燃焼性を有している。さらに、一般の石炭を吹き込む場合に比べてボッシュガス量の増加を抑制できるため、炉上部ヒートロスを抑制することができ、羽口からの吹き込み量を増加させても、置換率が低下しない優れた補助還元材であることが判明した。
本発明は、このような性状を備えたPKS炭を補助還元材として活用する方法であり、前記のとおり、高炉炉頂部から鉄鉱石とコークスを装入するとともに、高炉羽口部から銑鉄1トンあたり150kg以上の補助還元材を吹き込む高炉操業を前提としている。高炉操業においては、補助還元材(微粉炭)の吹き込み比率を高めてコークス比を低減させるとともに、補助還元材を含めた低還元材比での操業が指向されているからである。
本発明のアブラ椰子核殻炭による高炉操業方法の特徴は、このような高炉操業において、補助還元材比の10%以上を、アブラ椰子核殻(PKS)を加熱処理して製造した固体炭化物(PKS炭)で代替することにある。
補助還元材としてPKS炭を使用するのは、前記のとおり、PKS炭が、揮発分が低くかつ燃焼性がよいという高炉用補助還元材として必要な要件を満たしており、補助還元材として使用されている微粉炭の使用量を節減するとともに、バイオマスとして炭酸ガス排出量を抑制することができるからである。
PKS炭による代替比率を補助還元材比の10%以上とするのは、前述のとおり、また後述する実施例にも示すように、10%以上配合することにより置換率の低下をほとんど抑制することができ、還元材比の上昇抑制ならびに炭酸ガスの排出抑制に対して十分な効果が認められるからである。なお、上限は特に限定しない。PKS炭の吹き込み量の増大について、操業技術上は大きな問題はなく、主に経済性により定まるからである。
PKS炭は、PKSを加熱処理により炭化・乾留処理することによって製造することができる。炭化・乾留処理方法としては、内燃式の回転キルンを用いる方法が好適である。この方法には、PKS原料と乾留ガスの流れが同一方向となる並流型の回転キルンを用いる方法と、前記流れが逆方向となる向流型の回転キルンを用いる方法とがあるが、比表面積が大きく、固定炭素濃度、真発熱量が高く、燃焼性が良好で良質のPKS炭が得られる並流型の回転キルンを用いる方法がより適している。
図3は、並流型の回転キルンを備えたPKS炭の製造装置の概略構成例を示す図である。図3に示したように、原料であるPKS1を供給ホッパー2に入れ、スクリューフィーダーにより切り出し、回転キルン3の上方側端部からキルン内に投入する。回転キルン3は上方側から下方側に向けて下り傾斜勾配が付けられており、原料PKS1はキルン3の回転にともなって下方側に移動する。また、PKS投入側(上方側)端部には、点火用のバーナー4が設置されており、このバーナー4よって投入されたPKS1は着火が始まる。さらに、同端部には燃焼用空気を送る管が設けられており、下方側に向けて空気が供給される。
回転キルン3内では、着火したPKSはゆるやかな回転運動が与えられ、供給された空気によって部分的に燃焼する。燃焼に伴う発熱によりPKS1は炭化・乾留され、PKS炭5としてキルン3から排出される。なお、PKSの熱分解にともなって生成した揮発ガスの一部は供給空気により燃焼し発熱する。部分燃焼したガスは下方側に向かって流れ、炭化・乾留処理されたPKS炭5とともに乾留ガス(白抜き矢印は乾留ガスの流れを表す)として排出される。排出された乾留ガスは、ガス清浄冷却装置6によりダストおよびタールが除かれ、その後有効利用される。
キルンから排出されたPKS炭は、前記のとおり、高炉微粉炭用粉砕機のローラー型ミルを用いて、羽口から吹き込み可能な所定の粒度に微粉砕される。具体的には、粒径74μm以下が、40〜100%の範囲の微粉PKS炭を得ることが可能である。なお、粒径74μm以下が40%を超えない粉体は、高炉吹込み用粉体としては粗い範囲に属し、搬送等に配慮が必要となるので好ましくない。粉砕の結果、粒径74μm以下が100%となるような微粉化をしても、搬送過程や炉内の燃焼挙動に特に問題はない。
本発明の高炉操業方法においては、アブラ椰子核殻(PKS)を加熱処理して製造した固体炭化物(PKS炭)の揮発分を15%以下とすることが望ましい。
これは、前述のとおり、揮発分を15%以下とすることにより、高炉の補助還元材として現在用いられている標準的な微粉炭の30MJ/kg程度以上の真発熱量を得ることができるからである。
また、後述する実施例に示すように、揮発分が15%以下になると、置換率が0.99を超え、還元材比の上昇を抑制することができる。この効果は、特に補助還元材の多量吹き込み操業時において顕著である。
本発明の高炉操業方法においては、アブラ椰子核殻(PKS)を加熱処理して製造した固体炭化物(PKS炭)の灰分中Al2O3濃度が15%以下であり、かつ灰分中CaO濃度が10%以上とするのが望ましい。
PKS原料は、バイオマスであることから前記表1に示したように、元来灰分量は3〜4%程度である。しかし、炭化・乾留処理により揮発分を15%程度まで低下させることによって、後述する表2に示すように、灰分10%程度(例えば、PKS炭2参照)と、従来使用されている微粉炭と同程度とすることができる。
この灰分組成について、PKS炭には以下に述べる利点がある。
PKS炭の灰分組成は、表2に示すように、石炭に比較して、Al2O3濃度が低く、CaOが高いという特徴を有している。そのため、灰分の融点が石炭に比べてきわめて低い。これは、本来、PKS炭が、石炭に含まれる高融点のムライト系の鉱物組織を含まないためである。なお、ここでいう灰分の融点とは、JIS−M8801に規定される灰の溶融性試験方法によって測定される溶流点のことを言う。灰化した試料で作製した三角すいを電気炉で加熱して、溶融により形状変化が生じる温度を測定し、原型の1/3の高さになったときの温度で規定される特性である。
石炭の場合でも炭種によっては融点が低めのものもあり、これら低融点灰分を含む炭種は従来、羽口へ吹き込んだ直後に吹き込みランスやブローパイプ周辺への付着が懸念されていた。しかし、近年、粉体吹き込み用のランスを羽口ブローパイプ中でできるだけ炉内側に移動してきた結果、これらの問題は解消している。
前述の実高炉における羽口からの吹き込み試験においても、これらの付着の影響は観測されず、吹き込み羽口前の圧力は、吹き込み量の増加によっても上昇しなかった。
また、従来は、前述のように、微粉炭吹き込み時に羽口前に、鳥の巣と称される石炭灰分に由来するSiO2とAl2O3からなる高融点の通気阻害物が形成される場合があったが、このような通気阻害物形成の徴候も認められなかった。高融点の通気阻害物に、PKS炭の灰分が同化して融点を下げ、羽口前の通気改善に寄与したと考えられる。
本発明の高炉操業方法における望ましい実施形態として、上記のように、PKS炭の灰分中Al2O3濃度が15%以下であり、かつ灰分中CaO濃度が10%以上であることとしたのは、灰分の融点を石炭灰分の融点に比べて低く維持するとともに、安定操業の阻害因子を極力排除するためである。すなわち、CaO濃度が10%を超えると、一般の石炭灰分の主成分であり、鳥の巣の主成分となる高融点のムライト系の鉱物組織はほとんど形成されず、融点を低下させることができる。また、Al2O3濃度が15%を超えると、高炉への投入Al2O3量が増加して、出銑口から排出されるスラグの粘度が上昇し、安定操業の阻害因子になりうるからである。
灰分中Al2O3濃度を15%以下、CaO濃度が10%以上とすることにより、微粉炭およびPKS炭を吹き込む際に羽口前のレースウエイ空間の周辺部に形成される通気阻害物にPKS炭の灰分が同化して融点を下げる効果が得られる。
以上説明したように、本発明の高炉操業方法によれば、揮発分が低くかつ燃焼性がよいPKS炭を羽口から吹き込む補助還元材として利用することにより、炭酸ガス排出量を増加させずに、低コークス比を維持しかつ還元材比上昇を抑制することができる。
表2に示す石炭1、PKS炭1a、PKS炭1bおよびPKS炭2を用い、高炉定常反応評価モデル計算により燃焼性を反映した炉内シミュレーションを行った。
PKS炭1aとPKS炭1bは、原料であるPKSが同一で、揮発分を調整する乾留・炭化処理の条件を変えたものであり、工業分析成分(固定炭素、揮発分、灰分)は異なるが、灰分の組成は同一である。また、PKS炭1とPKS炭2は、原料であるPKSが異なり、灰分の組成がPKS炭1a、1bと異なっている。
高炉定常反応評価モデルによる計算結果を表3に示す。
計算の前提は、出銑比1.9で、微粉炭比183kgの実績をベースとし、それに基づいて定めた最適炉内状態(このときの置換率を1とした)の場合の前提としての還元材比を500kg/ptとした。表3の実施例2がこれに該当する。
表3において、比較例1は、吹き込み量合計を183kg/ptとし、PKS炭吹き込みを行わず、全量PC(微粉炭)吹き込みとした場合である。比較例2、実施例1および2では、吹き込み量合計が同じく183kg/ptで一定となるように、微粉炭吹き込み量(微粉炭比)とPKS炭吹き込み量(PKS炭比)を調整し、比較例3および実施例3では、吹き込み量合計が223kg/ptとなるように微粉炭吹き込み量とPKS炭吹き込み量を調整した。
比較例1の実績解析では、置換率は、0.968となり、還元材比は前提還元材比の500kg/ptより約10kg/pt多い510.5kg/ptとなった。PKS炭吹き込みを行わず、全量(183kg/pt)を微粉炭吹き込みとしたことにより、実施例2に比べて約10kg/pt分の還元材比が余分に使用されることになる。
還元材比10kg/ptは、高炉生産性に影響を与える量であるため、この余分な還元材比は、最低限、通常操業時の変動範囲である5〜6kg/pt程度に抑えることが重要である。
この還元材比の許容変動範囲は、補助還元材とコークスとの置換率では0.98以上となるので、ここでは、置換率0.98以上をガイドラインとして評価した。
表3の「評価」の欄の記号の意味は次のとおりである。
◎:優良。置換率が0.99以上。
○:良。置換率が0.98以上。
×:不可。置換率が0.98未満。
また、表3には、吹き込んだ粉体(微粉炭およびPKS炭)の灰分が同化することを前提に、熱力学的平衡を仮定した計算融点(液相率85%として計算)を記載した。表3中に、「粉体平均灰分平衡計算融点」として表示している。なお、微粉炭、PKS炭の各灰分の組成については、表2に示した値を用いた。この計算は、二種類の高温融体灰分スラグの混合を想定した場合、例えば融点は算術平均的にはならず、各温度と組成に応じて形成させる鉱物の生成と溶解によってその高温融体の状態を提示するものであり、表2に示した理想的な平衡条件では、実測値を精度よく予測できることに特徴がある。
表3に示したように、比較例2では、PKS炭を8.2%吹き込んだが、置換率は、比較例1の場合とほとんど変化がなかった。
実施例1は、PKS炭を13.7%吹き込んだ場合であるが、置換率は0.98以上に上昇し、還元材比は505.5kg/ptで、前提還元材比(500kg/pt)に対して前記許容変動範囲内の5.5kg/ptの上昇に留まる良好な結果となった。比較例2と実施例1との対比から、PKS炭の吹込み量は、補助還元材比の10%以上とすることが必要と考えられる。
実施例2は、前記のとおり最適炉内状態に該当するケースで、置換率を1.0としている。実施例1で使用したPKS炭のVM(揮発分)は22.6%であったが、揮発分を8.91(実施例2)に低下させることにより、さらに良好な結果となっている。
実施例1および2での計算結果から、揮発分が15%以下になると置換率は、0.99を超えることがわかる。この結果から、揮発分は15%以下が望ましいことが確認できた。
比較例3は、PKS炭吹き込み量を200kg/pt以上に増加させ、PKS炭吹き込み割合が比較例2より高い9.0%とした場合であるが、置換率は0.97程度で比較例2に比べてほとんど変化しなかった。
しかし、実施例3のように、PKS炭吹き込み割合が13.5%になると、置換率は0.99を超えることが示された。比較例3と実施例3との対比から、補助還元材の多量吹き込み時において、PKS炭の吹込み量を補助還元材比の10%以上とすることにより顕著な効果が得られることがわかる。
また、実施例3では、粉体平均灰分平衡計算融点が1400℃以下に低下している。これは、灰分の融点がPKS炭1よりも低いPKS炭2を使用していることによるもので、羽口前の高融点通気阻害領域による通気性悪化の抑制に有効であると推測される。