電力変換装置においては、装置の小型化、軽量化、高効率化、高速応答化、低コスト化を図るため、電解コンデンサや直流リアクトルなどで構成される直流平滑回路に代え、マトリックスコンバータなどに代表されるように、直接変換型電力変換回路を採用した装置が開発され、実用化に至っている。直接変換回路では双方向の電流遮断が可能なスイッチが必要であるが、汎用の半導体スイッチ素子は逆印加電圧に対する耐圧(逆耐圧)を持たない。そのため、逆耐圧を担うダイオードとの組み合わせなどにより双方向スイッチを機能させることも可能であるが、それでは回路構成が複雑になってしまい、電圧損失の原因ともなる。そこで逆耐圧性能を有する逆阻止型の半導体素子の開発が要望されている(非特許文献1参照)。
ここで、逆阻止型の半導体素子の構造上の特徴を、絶縁ゲート形バイポーラトランジスタ(IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor)(以下、IGBTという。)を例に、図を参照しながら説明する。
図11には従来型のIGBTの要部断面図を示す。このIGBTについて説明すると、高比抵抗のn形半導体基板の第一主面115にpベース領域102が選択的に複数形成され、裏面側の第二主面116にpコレクタ層103が形成されている。pベース領域102とpコレクタ層103とによって前記半導体基板の厚み方向において挟まれた領域がもともと半導体基板でもあるnベース領域101である。矢印で示す活性領域114におけるpベース領域102内の表面層には選択的にnエミッタ領域104が形成されている。この活性領域114の外側には矢印で示すプレーナ形pn接合表面の耐圧構造の一種であるガードリング構造113が形成され、このIGBTの順方向阻止耐圧を確保している。点線118は順方向電圧印加時のnベース側空乏層を示している。このガードリング構造113は、第一主面内で前記活性領域114の外側にあって、n形半導体基板の表面層にリング状に形成されるp端部領域111、酸化膜112および金属膜124等を組み合わせて作られる。nエミッタ領域104とnベース領域101に挟まれたpベース領域102の表面と、複数のpベース領域102間のnベース領域101の表面とにはゲート酸化膜105を介してそれぞれゲート電極106が形成される。nエミッタ領域104表面にエミッタ電極108、pコレクタ層103表面にはコレクタ電極109がそれぞれ被覆される。エミッタ電極108とゲート電極106との層間には絶縁膜107が設けられている。
従来型のIGBTは、エミッタをグラウンド電位としコレクタを負電位とする逆バイアスが加えられることを前提としないため、ウェハから半導体チップの切り出し(ダイシング)を行って形成されたダイシング面125は、特別な処理が施されておらず、結晶ひずみが大きく結晶欠陥密度が高い。このため逆バイアス印加時には、裏面pn接合から空乏層117、すなわち高電界領域が拡がり、ダイシング面125にも達するので、結晶欠陥で絶えず発生しているキャリヤ(図中Aで示す領域に発生している)が電界により輸送されて大きな漏れ電流となり、十分な逆耐圧が得られない。
図12には逆阻止型のIGBTの要部断面図を示す。この逆阻止型IGBTについて、従来型のIGBTとの比較において説明すると、その違いは、ダイシング面125に通じる半導体チップの側面に、裏面側の第二主面116に形成されたpコレクタ層103と、n形半導体基板の表面層に形成されたp端部領域111とをつなぐように、p分離層120が形成されていることにある。これにより、逆耐圧を維持するpn接合を半導体チップの裏面から表面まで延在させることができ、順阻止能力と同等の逆阻止能力が得られる。
上記分離層の形成方法としては、例えば、ウェハ表面からボロンソースを塗布し、マスク酸化膜の開口部から熱処理にてボロンをウェハ裏面に向けて数百μm程度の深さまで拡散し、当該ボロンがウェハ中に不純物として拡散することにより形成された分離層がウェハ裏面に現れるように研削した後に、その分離層の中央部分でダイシングして半導体チップとして切り出すなどの方法がある。この方法によれば、ウェハの前処理の一工程として分離層を形成することができる。図12は、そのようにして形成された分離層の構造が示される。
しかしながら、ウェハ表面から不純物としてボロンをウェハ裏面に向けて数百μm程度の深さまで拡散するためには、高温、長時間の拡散処理を必要とする。また、マスク酸化膜としては、長時間のボロン拡散に耐えるようにするため良質で厚い酸化膜が必要となるので、この酸化膜の形成の面でも生産性が悪い。更に、ボロン拡散はマスク酸化膜の開口部からウェハ内にほぼ等方的に進行するため、例えば深さ方向に200μmのボロン拡散を行う場合、横方向にもボロンは180μm程度拡散されてしまうため、分離層の半導体チップに占める占有割合が大きくなりデバイスピッチやチップサイズの縮小に対しての弊害となる。
このような問題に対して、ウェハの概形を保ったままの状態で半導体チップの側面となるべき面を形成し、これにイオンビーム照射によるイオン注入・アニール処理を行って分離層を形成する方法が提案されている。ドーズ量の精密制御が可能なイオンビーム照射による方法によれば、不純物の分布や導入量が一様な拡散深さの浅い分離層を形成できるので、分離層の層厚さを厚く形成しなくても、半導体装置に十分な逆耐圧性能を与えることができる。よって、導入する不純物の拡散時間の短縮を図れる。また、半導体チップに占める分離層の占有割合を小さくでき、デバイスピッチやチップサイズの縮小につながる。
例えば、特許文献1には、アルカリ溶液によるシリコンの湿式異方性エッチングにより、ウェハ上に55℃の傾斜角をもった(111)面方位の結晶面を露出させ、このダメージレスな斜面に対して上方からイオンビーム照射によるイオン注入・アニール処理を行って分離層を形成する方法が開示されている。
また、特許文献2には、ウェハをダイシングテープを介して支持台に固定して、断面形状がV字型もしくは逆台形型のブレードでブレードダイシングして、傾斜角を有するダイシング面を形成し、個片化した半導体チップがダイシングテープに貼り付いた状態で、上方からイオンビーム照射によるイオン注入・アニール処理を行って分離層を形成する方法が開示されている。
本発明は、逆バイアス印加時の漏れ電流を防ぐために半導体チップの側面に形成する分離層に関わる発明であり、その分離層の構造及びその形成プロセスに関わる発明である。したがって、逆阻止型IGBTなどに好ましく適用され、これに限らずその他の逆阻止型デバイスや双方向型デバイス、または分離層の形成プロセスを伴うMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)やバイポーラトランジスタ、MOSサイリスタなどの半導体デバイスにも適用が可能である。
本発明においては、ウェハのダイシングラインに沿ってレーザーを照射して、ウェハの表面又は所定深さのウェハ内にクラック起点を形成し、そのクラック起点を伸展させることで半導体チップの個片化を行い、ダイシング面を形成する。以下、図1〜図3を参照しつつ説明する。
図1には、典型的なウェハを表面層側から見た平面図を示す。このウェハ1には、その表面層に、エミッタ層、エミッタ電極、ゲート電極、それらを囲うように形成されたガードリング構造の耐圧部などからなる半導体チップの素子構造が複数作り込まれており(図示せず)、半導体チップの素子構造を覆うようにパッシベーション膜2が形成されている。半導体チップの素子構造の中央部分には、後の工程でワイヤボンディング配線するための電極パッドが設けられており、その部分にはパッシベーション膜が形成されていない。一方、後の工程で半導体チップを切り出すときにパッシベーション膜の剥離やダストの原因になることから、半導体チップのチップ間に相当する隙間領域にも、パッシベーション膜が形成されていない。よって図1では、パッシベーション膜2が、個々の半導体チップに対応する領域を覆うようにして、複数の窓枠模様をなすタイルパターンのように表わされている。
一般に、半導体チップの切り出しは、例えば図1中に示すダイシングライン3に沿ってウェハを切断することにより行うことができる。個片化した半導体チップがバラバラにならないようウェハをダイシングテープ等の粘着フィルムに貼付して支持台に固定したうえ、ダイシングブレードやレーザー照射などを利用してウェハを切断することができる。ところが、半導体チップを切り出すことが目的の場合には、ダイシング面として亀裂などのダメージの少ない清浄な面を形成する必要性に欠け、そのために特別に切断の条件を整えることは行われていなかった。
本発明においては、ウェハのダイシングラインに沿ってレーザーを照射して、ウェハの表面又は所定深さのウェハ内にクラック起点を形成する。このクラック起点は、照射するレーザーが焦点を結ぶ位置付近に生じる微小ダメージであり、シリコンウェハのような単結晶の脆性材料では、このクラック起点が壁開のきっかけとなり、伸展し、亀裂などのダメージの少ない清浄な壁開面が得られる。
図2には、ウェハの表面に焦点を設定してレーザーを照射して形成されたクラック起点が伸展する様子を、ウェハ断面上に模式的に表わす。まず、レンズ4を介してウェハ1の表面で焦点を結ぶようにレーザー5を照射して、ウェハ1の表面付近にクラック起点6を形成する(図2a)。このクラック起点6は、レーザー照射をダイシングラインに沿って走査することにより、ダイシングラインの全体にわたって形成されている。クラック起点6が形成されたウェハ1に応力を付加することによって、クラック起点6を起点として壁開7が進行し、これによりウェハ1の表面に対して垂直方向にクラック起点6を伸展させることができる(図2b,c)。
ウェハに応力を付加する方法については、特に制限されるものではなく、ウェハに超音波をかけたり、SUS治具、Al治具などの治具で叩いたりするなどの物理的な刺激により、クラック起点を伸展させることが可能である。また、ウェハを、弾性支持フィルムに粘着剤を介して貼付して、そのフィルムとウェハを挟んで反対側からレーザー照射を行った後、ウェハを貼付した状態の弾性支持フィルムを湾曲することにより、ウェハに応力を付加し、クラック起点を伸展させることもできる。更に、ウェハを、延伸性を有する弾性支持フィルムに粘着剤を介して貼付して、そのフィルムとウェハを挟んで反対側からレーザー照射を行った後、ウェハを貼付した状態の弾性支持フィルムを全方位方向又は所定の方位方向に延展することにより、ウェハに応力を付加し、クラック起点を伸展させることもできる。以上の方法を組み合わせて、ウェハに応力を付加してもよい。最終的に、上記図1に示すようなウェハ1のダイシング領域全体にわたって、ウェハ1が垂直方向に切断されて、ウェハ1から半導体チップが個片化し、その半導体チップの側面にはダイシング面8が形成される(図2d)。
図3には、ウェハの表面から深さ15μmのウェハ内に焦点を設定してレーザーを照射して形成されたクラック起点が伸展する様子を、ウェハ断面上に模式的に表わす。まず、レンズ4を介してウェハ1の表面から深さ15μmで焦点を結ぶようにレーザー5を照射して、ウェハ1の表面から深さ15μm付近にクラック起点6を形成する(図3a)。このクラック起点6は、レーザー照射をダイシングラインに沿って走査することにより、ダイシングラインの全体にわたって形成されている。クラック起点6が形成されたウェハ1に応力を付加することによって、クラック起点6を起点として壁開7が進行し、これによりウェハ1の表面に対して垂直方向にクラック起点6を伸展させることができる(図3b,c)。ウェハに応力を付加する方法については、特に制限されるものではなく、上記と同様のものが例示できる。最終的に、上記図1に示すようなウェハ1のダイシング領域全体にわたって、ウェハ1が垂直方向に切断されて、ウェハ1から半導体チップが個片化し、その半導体チップの側面にはダイシング面8が形成される(図3d)。
上記クラック起点は、照射するレーザーが焦点を結ぶ位置付近に生じる微小ダメージ(結晶性の乱れ)であり、微小ダメージの拡がりの程度は長径にして20〜50μm程度である。亀裂などのダメージの少ない清浄なダイシング面を得るためには、照射するレーザーがこのクラック起点以外に余計なダメージをウェハに与えないようにする必要がある。また、後述する実施例で示されるように、クラック起点を形成する際に照射するレーザーの焦点位置が、レーザーを照射するウェハの表面側からみて深すぎると、清浄なダイシング面が得にくく、分離層の形成に悪影響が出る。これは、レーザー照射で急加熱・急冷却を起こして結晶性が悪くなる領域が、逆バイアス印加時に漏れ電流が発生する領域(図11中Aで示す領域参照)にまで拡がってしまうためであると考えられる。したがって、本発明においては、そのクラック起点は、ウェハの表面又は表面から深さ30μm以内のウェハ内に焦点を設定してレーザーを照射することにより形成することが好ましい。
また、図4に示すように、ウェハ(例えばSi)に対するレーザーの透過スペクトルをみると、波長1.1μmの付近で透過スペクトルは激変し、波長1.1μm以下ではほぼ透過せず、波長1.1μm以上では透過率が20%程度であることが分かる。そこで、波長1.1μm以下のレーザーを照射する場合には、ウェハへのダメージを最小限に抑えるために、その焦点をウェハの表面に設定することが好ましい。また、波長1.1μm以上のレーザーを照射する場合には、急加熱・急冷却を起こして結晶性が悪くなる領域が、逆バイアス印加時に漏れ電流が発生する領域(図11中Aで示す領域参照)にまで拡がるのを避けつつ、ウェハ内にクラック起点を形成してその後の個片化を確実にするために、その焦点をウェハの表面から深さ30μm以内の該ウェハ内に設定することが好ましい。
照射するレーザーの種類や強度は、ウェハの種類に応じて適宜選択することができる。具体的に、シリコンウェハに対するレーザー照射の好ましい条件としては、以下の条件が挙げられる。
(A1)シリコン(Si)のエネルギーギャップ(1.12eV)よりも大きなエネルギーを有するレーザーでその焦点をウェハ表面に設定して、走査する。このときレーザーは、Siに効率的に吸収される波長である必要があるので、シリコン(Si)が吸収するYAGレーザーの第二高調波(532nm)やエキシマーレーザー、もしくは半導体レーザーを使用し、0〜5,000n秒遅延時間を設けて、その強度を50〜500μJとすることが好ましい。
(A2)シリコン(Si)のエネルギーギャップ(1.12eV)よりも小さなエネルギーを有するレーザーでその焦点をウェハ内、好ましくは、レーザーを照射する表面側のウェハ表面から2〜30μmの範囲内、より好ましくは、5〜15μmの範囲内の所定の深さに設定して、走査する。このときレーザーは、Siを透過する必要があるので、シリコン(Si)が吸収しないYAGレーザーの1.064μmなど赤外域の波長を使用し、0〜5,000n秒遅延時間を設けて、その強度は、2〜50μJとすることが好ましい。
なお、上記クラック起点の形成のために用いるレーザーは、そのスポット径が1−5μm程度であることを想定できる。そしてその照射は、ウェハをステージ上で支持し、そのステージを走査して行なうことが好ましい。
本発明においては、上記のようにして形成したダイシング面に、不純物を導入して分離層を形成する。このとき、量産プロセスのために、ウェハの概形を保ったままの状態でダイシング面に対して不純物の導入を行って分離層を形成することが好ましい。以下、その方法について説明する。
図5には、ウェハから個片化した半導体チップの隣どうしのダイシング面に、不純物導入のための所望の間隔を設け、これに不純物を導入して分離層を形成する手順を、その概略説明図とともに示す。なお、図5の概略説明図はウェハ又は半導体チップの断面像として表わされている。まず、ウェハ1を、エミッタ層、エミッタ電極、ゲート電極、それらを囲うように形成されたガードリング構造の耐圧部などからなる半導体チップの素子構造が形成された表面層1aを下にして、延伸性を有する弾性支持フィルム9に粘着剤を介して貼付する(S1)。このとき、ウェハ1の裏面1bにはコレクタ層やコレクタ電極は形成されていない。次に、ダイシングラインに沿ったレーザー照射とウェハへの応力の付加により、半導体チップ10を個片化し、ダイシング面8を形成する(S2)。次に、延伸性を有する弾性支持フィルム9を全方位方向又は所定の方位方向に延展して、個片化した半導体チップ10の隣どうしのダイシング面に間隔Wを設ける(S3)。次に、フィルム上に複数整列した半導体チップ10の裏面及び側面に対して、イオンビーム照射して、不純物を注入する(S4)。次に、フィルム上に複数整列した半導体チップ10の裏面及び側面に対して、ランプ光又はレーザーを照射して、注入した不純物の活性化ならびにチップの損傷の回復のための処理(アニール処理)を行う(S5)。
S4のステップのイオンビーム照射と、S5のステップのランプ光又はレーザーの照射とは、その照射を適宜角度を変えて行なうことにより、半導体チップ10の各片の側面及び裏面の全てにいきわたるようにすることができる、また、S4のステップのイオンビーム照射と、S5のステップのランプ光又はレーザーの照射とは、同時に行ってもよい。
S4のステップのイオンビーム照射では、半導体チップ10の側面に対して、例えば1×1014ions/cm2程度のボロンを注入し、これをS5のステップでアニールすることにより、分離層を形成することができる。分離層は、例えば0.1〜3μmの層状に形成することが好ましい。これにより、比較的薄い層厚さでも半導体装置に十分な逆耐圧性能を与えることができる。そして、不純物の導入をより短時間で行なうことができ、半導体チップに占める分離層の占有割合をより小さくできる。
また、S4のステップのイオンビーム照射では、上記と同時に、半導体チップ10の裏面に対して、例えば1×1014ions/cm2程度のボロンを注入し、これをS5のステップでアニールすることにより、厚さ0.1〜3μmの層状にコレクタ層を形成することができる。このコレクタ層の上に更にコレクタ電極を形成することにより、半導体チップのコレクタ層/コレクタ電極構造を形成することができる。例えば、個片化した半導体チップ10の隣どうしのダイシング面に間隔Wを設けるため、延伸性を有する弾性支持フィルム9にかけていた力をなくして、半導体チップ10を密着した状態に戻し、スパッタ法により電極を形成することができる。そのスパッタ前には、ドライプロセスでウェハ表面の洗浄を行ってもよい。
S5のステップのランプ光によるランプアニールでは、300〜500℃の低温アニールの条件で行なうことが好ましい。ランプアニールのための温度条件が300℃より低いと、不純物の活性化が不十分となる傾向があり、ランプアニールのための温度条件が500℃より高いと、ウェハを貼り付けているフィルムが熱により融けてしまうおそれがあるため、いずれも好ましくない。
S5のステップのレーザー照射によるレーザーアニールでは、そのレーザーアニール条件は、ウェハの種類、不純物の注入量、注入材料によって吸収率が変化するために、その都度、最適化することが好ましいが、シリコンウェハに1×1014ions/cm2程度のボロンを注入した場合の典型例では、シリコン(Si)が吸収するYAGレーザーの第二高調波(532nm)やエキシマーレーザー、もしくは半導体レーザーを使用し、0〜5,000n秒遅延時間を設けて、その強度を0.25〜100μJとすることが好ましい。
以下、図6〜図9を参照して、ウェハから個片化した半導体チップのダイシング面に不純物を導入して分離層を形成するための更に好ましい態様を説明する。
図6には、ステンシルマスクの孔を通したイオンビーム照射とランプ光照射により、イオン注入とランプアニールとを同時に行う態様を示す。なお、図6の概略説明図は半導体チップの断面像として表わされている。
図6aには、上記に説明した図5のS3に相当する状態、すなわち、ウェハを、素子構造が形成されている表面層を下にして、粘着剤付きフィルム(延伸性を有する弾性支持フィルム)に粘着剤を介して貼付し、その状態でレーザー照射によるクラック起点を伸展させて、半導体チップの個片化を行い、更に、延伸性を有する弾性支持フィルムを全方位方向又は所定の方位方向に延展して、個片化した半導体チップの隣どうしのダイシング面に所定の間隔を設けた状態が示されている。ここで、半導体チップの表面層のダイシング面近傍の領域には、すでに順方向阻止耐圧のための耐圧構造部が半導体の素子構造として作り込まれており、その耐圧構造部のガードリング構造を構成するp端部領域には、不純物が導入されP型イオン注入層が形成されている。図6aでは、フィルムと半導体チップを挟んで反対の上方に、更に、ステンシルマスクを配した状態が示されている。なお、ここでは2つの半導体チップのみが示されているが、ウェハから個片化された半導体チップが、もとのウェハの概形を崩さないように、同一フィルム上に複数整列している。
図6bには、図6aの状態で、図中斜め右上からイオンビーム照射とランプ光照射を同時に行う状態を示す。イオンビームとランプ光は、ステンシルマスクで遮られて粘着剤付きフィルムには照射されずに、ステンシルマスクの孔を通して半導体チップのみに照射される。そして、半導体チップの側面であって、図中右側の片側側面に、イオン注入とランプアニールとを同時に行うことができる。また、半導体チップの裏面にもイオン注入とランプアニールとを同時に行うことができる。
図6cには、図6bの状態からステンシルマスクの孔の位置をずらしたうえで、図中斜め左上からイオンビーム照射とランプ光照射を同時に行う状態を示す。図6bの状態と同様に、イオンビームとランプ光は、ステンシルマスクで遮られて粘着剤付きフィルムには照射されず、ステンシルマスクの孔を通して半導体チップのみに照射される。そして、半導体チップの側面であって、図中左側の片側側面に、イオン注入とランプアニールとを同時に行うことができる。また、半導体チップの裏面にもイオン注入とランプアニールとを同時に行うことができる。
このようにして、半導体チップの側面には分離層が形成され、半導体チップの裏面にはコレクタ層が形成される。そして、もともと順方向阻止耐圧のための耐圧構造の一部として不純物が導入されていた半導体チップの表面層のP型イオン注入層と、側面に形成した分離層と、裏面に形成したコレクタ層とを連続させ、逆耐圧を維持するpn接合を半導体チップの裏面から表面まで延在させることができる。
図7には、ステンシルマスクの孔を通したイオンビーム照射とレーザー照射により、イオン注入とレーザーアニールとを同時に行う態様を示す。なお、図7の概略説明図は半導体チップの断面像として表わされている。
図7aには、上記に説明した図6aと同じ状態が示されている。
図7bには、図7aの状態で、図中斜め右上からイオンビーム照射とレーザー照射を同時に行う状態を示す。イオンビームとレーザーは、ステンシルマスクで遮られて粘着剤付きフィルムには照射されずに、ステンシルマスクの孔を通して半導体チップのみに照射される。そして、半導体チップの側面であって、図中右側の片側側面に、イオン注入とレーザーアニールとを同時に行うことができる。また、半導体チップの裏面にもイオン注入とレーザーアニールとを同時に行うことができる。
図7cには、図7bの状態からステンシルマスクの孔の位置をずらしたうえで、図中斜め左上からイオンビーム照射とレーザー照射を同時に行う状態を示す。図7bの状態と同様に、イオンビームとレーザーは、ステンシルマスクで遮られて粘着剤付きフィルムには照射されず、ステンシルマスクの孔を通して半導体チップのみに照射される。そして、半導体チップの側面であって、図中左側の片側側面に、イオン注入とレーザーアニールとを同時に行うことができる。また、半導体チップの裏面にもイオン注入とレーザーアニールとを同時に行うことができる。
このようにして、半導体チップの側面には分離層が形成され、半導体チップの裏面にはコレクタ層が形成される。そして、もともと順方向阻止耐圧のための耐圧構造の一部として不純物が導入されていた半導体チップの表面層のP型イオン注入層と、側面に形成した分離層と、裏面に形成したコレクタ層とを連続させ、逆耐圧を維持するpn接合を半導体チップの裏面から表面まで延在させることができる。
図8には、ステンシルマスクの孔を通したイオンビーム照射を行い、その後、ステンシルマスクの孔を通したレーザー照射により、イオン注入とレーザーアニールとを段階的に行う態様を示す。なお、図8の概略説明図は半導体チップの断面像として表わされている。
図8aには、上記に説明した図6aと同じ状態(図7aも同様)が示されている。
図8bには、図8aの状態で、図中斜め右上からイオンビーム照射を行う状態を示す。イオンビームは、ステンシルマスクで遮られて粘着剤付きフィルムには照射されず、ステンシルマスクの孔を通して半導体チップのみに照射される。そして、半導体チップの側面であって、図中右側の片側側面にイオン注入を行うことができる。また、半導体チップの裏面にもイオン注入を行うことができる。
図8cには、図8bの状態からステンシルマスクの孔の位置をずらしたうえで、図中斜め左上からイオンビーム照射を行う状態を示す。図8bの状態と同様に、イオンビームは、ステンシルマスクで遮られて粘着剤付きフィルムには照射されず、ステンシルマスクの孔を通して半導体チップのみに照射される。そして、半導体チップの側面であって、図中左側の片側側面にイオン注入を行うことができる。また、半導体チップの裏面にもイオン注入を行うことができる。
図8dには、ステンシルマスクの孔の位置を図8bの状態に戻したうえで、図中斜め右上から、上記図8bの状態でイオン注入を行った位置に、レーザー照射を行う状態を示す。レーザーは、ステンシルマスクで遮られて粘着剤付きフィルムには照射されず、ステンシルマスクの孔を通して半導体チップのみに照射される。そして、半導体チップの側面であって、図中右側の片側側面において、図8bの状態でイオン注入を行って注入した不純物についてのレーザーアニールを行うことがすることができる。また、半導体チップの裏面においても、図8bの状態でイオン注入を行って注入した不純物についてのレーザーアニールを行うことができる。
図8eには、ステンシルマスクの孔の位置を図8cの状態に戻したうえで、図中斜め左上から、上記図8cの状態でイオン注入を行った位置に、レーザー照射を行う状態を示す。図8dの状態と同様に、レーザーは、ステンシルマスクで遮られて粘着剤付きフィルムには照射されず、ステンシルマスクの孔を通して半導体チップのみに照射される。そして、半導体チップの側面であって、図中左側の片側側面において、図8cの状態でイオン注入を行って注入した不純物についてのレーザーアニールを行うことがすることができる。また、半導体チップの裏面においても、図8cの状態でイオン注入を行って注入した不純物についてのレーザーアニールを行うことができる。
このようにして、半導体チップの側面には分離層が形成され、半導体チップの裏面にはコレクタ層が形成される。そして、もともと不純物が導入されていたP型イオン注入層と、側面に形成した分離層と、裏面に形成したコレクタ層とを連続させ、逆耐圧を維持するpn接合を半導体チップの裏面から表面まで延在させることができる。
図9には、ステンシルマスクを用いずに、イオン注入とレーザーアニールとを同時に行う態様を示す。なお、図9の概略説明図は半導体チップの断面像として表わされている。
図9aには、上記に説明した図6aと同じ状態(図7a、図8aも同様)が示されている。
図9bには、図9aの状態で、図中斜め右上からイオンビーム照射とレーザー照射を同時に行う状態を示す。イオンビームとレーザーは、所定間隔をあけて配列した半導体チップの影になって粘着剤付きフィルムには照射されないように設定された所定角度で照射される。よって半導体チップのみに照射される。そして、半導体チップの側面であって、図中右側の片側側面に、イオン注入とレーザーアニールとを同時に行うことができる。また、半導体チップの裏面にもイオン注入とレーザーアニールとを同時に行うことができる。
図9cには、図9bの状態で、図中斜め左上からイオンビーム照射とレーザー照射を同時に行う状態を示す。図9bの状態と同様に、イオンビームとレーザーは、所定間隔をあけて配列した半導体チップの影になって粘着剤付きフィルムには照射されないように設定された所定角度で照射される。よって半導体チップのみに照射される。そして、半導体チップの側面であって、図中左側の片側側面に、イオン注入とレーザーアニールとを同時に行うことができる。また、半導体チップの裏面にもイオン注入とレーザーアニールとを同時に行うことができる。
このようにして、半導体チップの側面には分離層が形成され、半導体チップの裏面にはコレクタ層が形成される。そして、もともと順方向阻止耐圧のための耐圧構造の一部として不純物が導入されていた半導体チップの表面層のP型イオン注入層と、側面に形成した分離層と、裏面に形成したコレクタ層とを連続させ、逆耐圧を維持するpn接合を半導体チップの裏面から表面まで延在させることができる。
上記図6〜図8に説明した態様においては、ステンシルマスクを使用することで、イオンビームおよびレーザーもしくはランプ光が半導体チップのみに照射され、粘着剤付きフィルムには直接照射されないようにすることができる。また、上記図9に説明した態様のように、半導体チップの間隔と照射の角度を設定することによっても、イオンビームおよびレーザーもしくはランプ光が半導体チップのみに照射され、粘着剤付きフィルムには直接照射されないようにすることができる。これにより、粘着剤付きフィルムが高温になってガスを生じるなどの不具合を回避することができる。
上記図6〜図8に説明した態様において用いるステンシルマスクは、イオンビームやレーザーもしくはランプ光が照射されても発ガスしない材料であることが好ましく、そのような材料としてはSUSなどを好ましく例示できるが、SiCなどセラミック材料を用いることもできる。また、レーザーは、ステンシルマスクの位置では焦点を結ばせないことで、その高温化を防ぐことが可能である。
上記図6,図7、又は図9に説明した態様においては、イオン注入とともにアニール処理を同時に行っている。これにより、より効率的な不純物の導入が可能となる。また、ランプアニールの場合には、300〜500℃程度の低温条件でのアニール処理が可能になる。この場合、イオンビームと、レーザーもしくはランプ光の光軸を近接させることで、同じステンシルマスクの孔の位置からでも、半導体チップの近傍の非常に近い位置にアニール処理をすることができる。
なお、不純物の導入のために用いるイオンビーム、レーザー、ランプ光は、それらのスポット径が、イオンビームでは100μm〜数cm程度、レーザーでは100μm〜5mm程度、ランプ光では100μm〜5mm程度であることを想定できる。そしてそれらの照射は、ウェハの概形を保ったままの状態でフィルム上に複数整列した半導体チップをステージ上で支持し、そのステージを走査して行なうことが好ましい。
図10には、本発明による逆阻止型IGBTの要部断面図を示す。この逆阻止型IGBTについて、従来の逆阻止型のIGBT(図12)との比較において説明すると、その違いは、p分離層120が半導体チップのダイシング面125にほぼ平行に、層厚さ薄く形成されていることにある。このように、層厚さが薄い形状であっても十分な逆耐圧性能が得られることが本発明の特徴の一つであり、これにより、半導体装置に十分な逆耐圧性能を与えるための不純物の導入を短時間で行なうことができ、デバイスピッチやチップサイズの縮小が図れ、量産プロセスにも適した半導体装置及びその製造方法を提供することができる。
以下に例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの例は本発明の範囲を限定するものではない。
<試験例1>
本発明の方法を採用して逆阻止型IGBTを製造し、本発明による効果を検証した。そのために、上記図2〜図9を参照して説明した方法に準じて、表面層に半導体チップの素子構造が複数作り込まれたウェハの裏面側から半導体チップを個片化してダイシング面を形成し、半導体チップのダイシング面に不純物(ボロンイオン)を導入して分離層を形成して、逆阻止型IGBTを製造した。この逆阻止型IGBTは、分離層の構造以外の構造は、通常の逆阻止型IGBTの構造(逆耐圧1.2kVを狙った板厚200μm)とされ、分離層形成以外は、常法に準じて製造した。なお、レーザーにはNd:YAGレーザーを、イオンビームにはB+イオンを、ランプにはXeランプを、それぞれの照射装置で照射して、使用した。また、ステンシルマスクはSiで厚さ200μmのものを作成して使用した。
具体的には、表1に示すように、ダイシング時のレーザーの波長、焦点位置、イオン注入条件、活性化条件を変えて逆阻止型IGBTを製造した。なお、実施例1〜3、7、比較例1、2では、上記図6を参照して説明した方法にてイオン注入・活性化を行い、実施例4、8では、上記図7を参照して説明した方法にてイオン注入・活性化を行い、実施例5、9では、上記図8を参照して説明した方法にてイオン注入・活性化を行い、実施例6、10、11、比較例3、4では、上記図6を参照して説明した方法にてイオン注入・活性化を行った。また、比較例5、6では、レーザーダイシングではなくブレードダイシングによりダイシング面を形成し、それ以外はそれぞれ実施例10、11と同様にして製造した。
その結果、実施例1〜10で示されるように、ダイシング面を形成するレーザーダイシング時のレーザーの焦点位置を、ウェハの表面又はウェハ内15μmとした場合には、拡散時間3時間で十分な逆耐圧が得られた。また、実施例11で示されるように、レーザーダイシング時のレーザーの焦点位置を、ウェハ内25μmとした場合には、拡散時間7時間で十分な逆耐圧が得られた。これらのプロセス時間は、従来の典型的なプロセス時間に比べて1/10以下であり、分離層の層厚さを厚く形成しなくても、半導体装置に十分な逆耐圧性能を与えることができるためであると考えられた。
また、実施例1〜3で示されるように、イオン注入と同時にランプアニールを行った場合、それぞれ300℃、400℃、450℃でのランプアニールにより、拡散時間3時間で十分な逆耐圧が得られた。従って、イオン注入時の同時加熱を用いることで、アニール処理の低温化が図れることが明らかとなった。一方、比較例1および比較例2では十分な逆耐圧が得られなかった。比較例1ではランプアニールが不十分であり、比較例2では加熱が強すぎ、ウェハを貼り付けていたフィルムが熱により融けてしまったためであった。
一方、比較例3,4で示されるように、ダイシング面を形成するレーザーダイシング時のレーザーの焦点位置を、ウェハ内65μmとした場合には、拡散時間3時間で十分な逆耐圧が得られず、十分な逆耐圧を得るには拡散時間45時間を要した。よって、レーザーダイシング時のレーザーの焦点位置を、ウェハ内の浅い位置に設定することが重要であることが明らかとなった。
また、比較例5,6で示されるように、レーザーダイシングではなくブレードダイシングによりダイシング面を形成した場合には、十分な逆耐圧が得るには、それぞれ拡散時間140時間、100時間を要し、従来の典型的なプロセス時間を要した。これは、ブレードダイシングによるダイシング面に分離層を形成する場合には、分離層の層厚さを十分に厚く形成しなければ、半導体装置に十分な逆耐圧性能を与えることができないためであると考えられた。
以上の検証の結果、本発明によれば、分離層の層厚さを厚く形成しなくても、半導体装置に十分な逆耐圧性能を与えることができ、プロセス時間の大幅な短縮を実現できることが明らかとなった。また、半導体チップに占める分離層の占有割合を小さくでき、デバイスピッチやチップサイズの縮小を実現できることが明らかとなった。