JP5856764B2 - 過共晶アルミニウム−シリコン合金圧延板成形品およびその製造方法 - Google Patents
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Description
従来、過共晶アルミニウム−シリコン合金の圧延板は、加工性が悪く、圧延加工以外の方法で更に成形することが極めて困難であった。
しかし、本願発明者らは、初晶シリコンおよび共晶シリコンから成るシリコン晶出物の大きさを70μm以下に制御し、さらに最適な加工温度を選択することで過共晶アルミニウム−シリコン合金圧延板に張り出し加工または深絞り加工のような塑性加工を施し成形品を得ることが可能であることを見出したものである。
T(℃)=(540−5×<Mg>) (1)
ここで、<Mg>は、質量%で示されるマグネシウムの含有量である。
このようにシリコン晶出物が微細化した圧延材を400℃と(1)式で規定されるT(℃)との間に加熱して塑性加工することで、従来塑性加工が極めて困難であった過共晶アルミニウム−シリコン合金圧延版の塑性加工が可能となり、成形品を得ることができる。
そして、加熱温度の下限は400℃であり、上限は以下の(1)式で示される温度T(℃)である。
ここで、<Mg>は、質量%で示されるマグネシウムの含有量である。
圧延材をさらに塑性加工して本願発明の成形品を得ることできる理由は、このようにSi晶出物が微細であるためと推定される。しかし、これは本願発明者らが現時点で推測するメカニズムであって本願発明の技術的範囲を限定するものではない。
図1は、アルミニウム(Al)−シリコン(Si)合金の平衡状態図である。本願発明の対象は過共晶Al−Si合金であるため、共晶点組成(Si:12.6質量%)以上、より具体的には13.0〜30.0質量%のシリコン(Si)を含有している。そして、図1から判るようにSi濃度が高くなるほど液相線と固相線の間隔が大きくなっており、例えばSi量が25%の場合は、液相線温度が761℃であり、固相線温度が577℃となっている。
このように、ロールキャスティングを行うことで、Si晶出物を微細化できる。
そして、初晶Siが70μm以下に微細化している圧延材を400℃と(1)式で示される温度T(℃)との間の温度に加熱することで、材料の変形能を高める適正温度に加熱することの効果と圧延により初晶Siを微細化した効果との相乗効果により、従来不可能と思われていた、ロールキャスティング材を圧延して得た過共晶アルミニウム−シリコン合金圧延材の塑性加工(圧延以外の塑性加工)を可能にしたものである。
ただし、これらのメカニズムは組織観察結果から本願発明者が現時点において推定しているメカニズムであって、本願発明の技術的範囲を制限するものではない。
本願発明に過共晶アルミニウム−シリコン合金圧延材成形品は、シリコン:13.0〜30.0質量%とマグネシウム:8.0質量%未満(0質量%を含む)とを含み、アルミニウムの含有量が50質量%以上である。
次にシリコンおよびマグネシウムの組成範囲を詳述する。
シリコンの含有量は、13.0〜30.0質量%である。
共晶点組成である12.6質量%を超える13.0質量%以上を含有することにより、初晶Siおよび共晶Siを確実に形成できる。これにより低い熱膨張係数と高い耐摩耗性を得ることができる。
一方、Si量が30.0質量%を超えると初晶Siの粗大化が起こり、延性が低下する場合がある。
なお、Si量が多いほど、熱膨張係数は低下することから、好ましくは、Si量は20.0〜30.0質量%であり、より好ましくは23.0〜30.0質量%である。
マグネシウムは、得られた成形品の強度を向上させることができる。また、伸びが向上することから成形性を向上できる。マトリクスの強化により得られた成形品の表面状態も美麗になる。さらにロールキャスト性の向上、すなわちバリの発生および表面の窪みの発生を抑制できる効果がある。
これらの効果をより確実に得るためには、2.0質量%以上含有するのが好ましく、4.0質量%以上含有するのがより好ましい。これは,ロールキャスト性が向上すること、特にロール周速を向上できるので生産性が向上できること、およびロールキャスト時のロール荷重を低減することが可能なことから、ロールの摩耗を低減することができるからである。
しかし、8.0質量%以上添加すると得られた成形品の靱性を低下させる場合があるため上限は8.0%未満である。そして、より好ましくは、上限は6.0質量%以下である。
しかし、これに限定されるものではなく、シリコン:13.0〜30.0質量%とマグネシウム:8.0質量%未満(0質量%を含む)と、アルミニウム50質量%とを含有している限りは、得られた成形品の各種の特性の向上を目的に、さらに任意の元素を添加してよい。
このように特性の向上を目的として添加してよい元素の例を以下に示す。
鉄(Fe)を2.0質量%以下含有してよい。
鉄は、張り出し加工および深絞り加工等の塑性加工の際に、被加工物(加熱された圧延材)が、パンチやダイス等への焼き付くのを防止する効果がある。また、ロールキャスト性を向上する効果と得られた成形品の耐摩耗性を向上させる効果も有する。
2.0質量%を超えると材料の延性を低下させる場合がある。
また、添加する場合は、その効果を確実に得るために0.5質量%以上添加することが好ましい。
マンガン(Mn)を0.05〜2.0質量%含有してよい。
マンガンを過共晶アルミニウム−シリコン合金に添加すると、合金が鋳造時および塑性加工の加熱時等に高温となった場合に、表面の酸化を抑制する効果を有する。また、鉄と同様に焼き付き防止効果を有する。
添加する場合、添加量が0.05質量%より少ないとその効果を充分に得られない場合がある。一方、2.0質量%を超えて添加すると延性を低下させる等の問題を生ずる場合がある。
銅(Cu)を0.06〜6.0質量%含有してよい。
銅は、得られた成形品の強度を向上させる効果、およびマグネシウムと同様のロールキャスト性を向上させる効果を有する。
添加する場合、添加量が0.06質量%より少ないとその効果を充分に得られない場合がある。一方、6.0質量%を超えて添加すると延性を低下させる等の問題を生ずる場合がある。
ベリリウム(Be)を0.001〜0.01質量%含有してよい。
ベリリウムはロール鋳造時に晶出する初晶Siを微細化する効果を有する。
しかしながら0.001%未満ではその効果が小さく、0.01%を超えると、得られた板状のロールキャスト材の靭性が低下する場合があるため、0.001〜0.01%の範囲が好ましい。
リン(p)を0.001〜0.02質量%含んでもよい。リンは初晶Siを晶出させる際にシードとして機能する異質核AlP(リン化アルミニウム)を生成する。0.001重量%未満の含有量では、十分な量の異質核が生成せず、初晶Siの微細化作用が充分でない場合がある。一方、リンの添加効果は、0.02重量%で飽和するため、0.02重量%を超える量を添加しても添加量に見合った改善が得られないことが多い。
ニッケル(Ni)を0.05〜3.0質量%含有してよい。ニッケルは、得られた成形品の強度を向上させる効果を有する。
添加する場合、添加量が0.05質量%より少ないとその効果を充分に得られない場合がある。一方、3.0質量%を超えて添加すると延性を低下させる等の問題を生ずる場合がある。
Ti(チタン)を0.01〜0.30質量%含有してよい。チタンはロール鋳造の際に微細化材として作用しロール鋳造性を向上させるとともに、組織を均一化することにも有効な元素である。これらの効果を確実に得るためには、0.05質量%以上含有させることが好ましい。しかし、0.30質量%を超えると、機械的性質が低下する場合がある。
ホウ素(B)を0.0005〜0.01質量%含有してよい。ホウ素はロール鋳造の際に微細化材として作用しロール鋳造性を向上させるとともに、組織を均一化することにも有効な元素である。これらの効果を確実に得るためには、0.0005質量%以上含有させることが好ましい。しかし、0.01質量%を超えると、機械的性質が低下する場合がある。
合金原料を加熱溶融させて、上述の組成を有する過共晶アルミニウム−シリコン合金の溶湯(溶融金属)を得る。溶湯を得る際の加熱溶融は、高周波誘導溶融等既知の方法を用いてよい。
図4に示すロールキャスター100では、ロール2とロール4より成る1組のリールがそれぞれの矢印の方向に回転する。坩堝6内の溶湯10aは樋7を介してロール2、4の上部に供給される。ロール2とロール4との間に設けた所定の間隔を有するギャップに溶湯10aを安定して供給できるように、ロール2とロール4とのギャップの上にダムプレート(耐熱材)9により四方を囲んだ溶湯プールが形成されており、そこに溶湯10aが蓄えられている。
上述のように、この急冷凝固により、ロールキャスティング材10bは、微細な初晶Siと共晶Siを含む。
このように溶湯10aを確実に急冷凝固できるように、ロールキャスティング材10bの厚さは、5mm以下であることが好ましい。また、引き続いて圧延することを考慮するとロールキャスティング材10bは薄すぎるとハンドリングし難くなるため、厚さは1mm以上であることが好ましい。
さらに、図4に示すロールキャスター100において、ロール2はその内部に冷却水流路2aを有している。この冷却水流路2aに冷却水を流して、ロール2内部に冷却水を循環させてロール2を水冷している。
図5に示すロールキャスター100Aでは、上述のロールキャスター100と異なり、ロール2およびロール4は、冷却水流路を有していない。このため、ロール2およびロール4は、空冷により冷却される。
ロール2および4を空冷により、より速く冷却するように、図5に示すように、ロール2および4は内部に空洞を有してよい。
図6に示すロールキャスター100Bは、上述のロールキャスター100と異なり、ロール2とロール4の直径が異なる、所謂異径双ロールキャスターである。
角度αは例えば10°と40°との間の任意の角度に設定される。
次に上述のロールキャスティングにより得られた板状の鋳造材を圧延し、初晶Siを微細化する。
圧延は、冷間圧延および熱間圧延のいずれでもよく、また両者を組み合わせてもよい。熱間圧延を行う際は、より確実に初晶Siを粉砕し微細化するために、圧延温度は400〜540℃であることが好ましい。また、この圧延温度で0〜60分保持した後圧延を行うのが好ましい。
なお、ここでいう0分とは所定の温度に達した後、意図的に遅延させることなく直ちに圧延を行うことを意味する。
また、過度な歪による割れの発生等を避けるためにトータル圧下率は、70%以下であることが好ましい。
この塑性加工の際には上述のように、400℃とT(℃)=(540−5×<Mg>)間(ただし<Mg>は質量%で表されるマグネシウムの含有量)の温度に加熱を行った後、塑性加工を行う。
加熱温度が400℃より低いと、圧延材の変形抵抗が大きく、充分な塑性加工を行うことが難しい。一方、温度が540℃を超えると固相線温度(577℃)に近づき材料が軟化してしまい塑性加工が困難である。特に、マグネシウムを添加している場合は、この軟化の傾向が顕著である。このことから、加熱温度の上限を(1)式に示すようにマグネシウム含有量1質量%あたり5℃下げる必要がある。
このような塑性加工として、例えばパンチを圧延材に接触させて後、さらにパンチを押し込んで変形する、張り出し加工および深絞り加工がある。また、これ以外にも曲げ加工(例えば、曲げ加工よる表面に突起を有する板を成形する)を例示できる。
そして、その直径が金型22の貫通孔より少し小さいパンチ20を押し下げて貫通孔の中に挿入し、パンチ20を圧延材30に接触させる。そして、接触させたまま、パンチ20をさらに押し下げることで、圧延材30がパンチ20により塑性変形する。
なお、図7に示すようにパンチ20の先端にRを付けてもよい。
張り出し加工または深絞り加工で材料の破断が起こる時は多くの場合、パンチの先端部または肩部と接触している部分より破壊が進展し破断に至る。これは、これらの部分がパンチにより拘束されているため、他の部分より強い力がこれらの部分に作用するためと思われる。
そこで、パンチ20を冷却することで、これらの部分を優先的に冷却し、他の部分よりも強度を向上させることで、破断を抑制することができる。
なお、上述の張り出し加工(図7に示した)および深絞り加工では、ダイス24に設けた孔として貫通孔を示したが、言うまでもなく、貫通孔に代えて、図7において、上方が開口し、下方が閉じている凹部を用いてよい。
図4に示すロールキャスター100を用いて、表1に有する成分を有する厚さ2.4mmの板状のロールキャスティング材(ロール鋳造材)を得た。
ロールキャスティングは、直径300mmの軟鋼製のロール2、4を用いてロール周速20m/分でロール2、4を回転させ、試料とロールの接触距離(凝固距離)100mm、注湯温度760℃で行った。
図2は、ロールキャスト材サンプルAl−25Siの金属観察結果を示しており、図2(a)は、光学顕微鏡写真であり、初晶Siの分布が分かるように撮影されており、図2(b)は図2(a)と同じ金属組織を共晶Siの分布を見るために図2(a)よりも高い倍率で観察したSEM写真である。
Al−25Si以外のマグネシウムを含む他のサンプルも全て同様の金属組織であった。すなわち、全てのサンプルにおいて、初晶Siの大きさは、大きいものでも100〜250μm程度と300μmよりも小さく、また、共晶Siの大きさは、大きいもので4μmであった。
得られた厚さ2.4mmのロールキャスト材を500℃に加熱して30分間保持した後、厚さ1.0mmに熱間圧延した。圧延は2パスで行い、1パス目で1.5mmまで圧延し、2パス目で1.0mmまで圧延した。加熱は1パス毎に行った。
図7に示す張り出し方法により張り出し試験を行った。
また、圧延材30として、表1に示すそれぞれのサンプルを表2に示す380℃〜570℃まで、加熱温度を変えて加熱した。加熱は電気炉により行い、所定の温度到達後直ちに、圧延材30を予め圧延材30と同じ所定の温度に加熱しておいた金型22とダイス24により挟み、張り出し試験を開始した。
張り出し加工により成形を行うことができた場合には、その変形量(張り出し量)ミリ単位で記載した。そして、成形部外表面の状態を◎、○、△で示した。すなわち、外表面に欠陥がなく健全な場合は「◎」とし、肌荒れが認められた場合は「○」とし、微細なクラック(貫通していない)が発生した場合は「△」とした。
また、これら以外の場合は、数値を記載せずに「×」とした。そして、さらに×の状態を3種類に分類してL、SS、BFで示した。すなわち、半凝固状態で液相が過多で、圧延板の破断が、パンチ20が接触していない個所でも起った場合は「L」とし、半凝固状態で成形部にて破断が起った場合は「SS」とし、固相で温度が低くそのため成形が不可能であった場合は「BF」とした。
また、表2には(1)式により計算したT(℃)の値を示している。
初晶Siの大きさの観察には、光学顕微鏡の倍率を変えて1mm×0.7mmの視野サイズにて行い、共晶Siの大きさの観察には、SEMの倍率を変えて24μm×14.5μmの視野サイズにて行った。
2a、4a 冷却水路
6 坩堝
7 樋
8 バックダムプレート
9 ダムプレート
10a 溶湯
10b ロールキャスティング材(ロール鋳造材)
20 パンチ
22 金型
24 ダイス
100、100A、100B ロールキャスター
Claims (3)
- シリコン:20.0〜30.0質量%と、マグネシウム:2.0〜6.0質量%とを含み、残部がアルミニウムと不可避の不純物からなる、過共晶アルミニウム−シリコン合金の溶湯を回転する1組のロール間に供給し、該溶湯を該1組のロールにより冷却し、過共晶アルミニウム−シリコン合金鋳造材を作製する工程と、
該過共晶アルミニウム−シリコン合金ロール鋳造材を圧延して、過共晶アルミニウム−シリコン合金ロール圧延材を得る工程と、
該過共晶アルミニウム−シリコン合金ロール圧延材を400℃以上でかつ、下記(1)式で規定される温度T(℃)以下の温度に加熱し、塑性変形する工程と、
を含むことを特徴とする過共晶アルミニウム−シリコン合金圧延板成形品の製造方法。
T(℃)=(540−5×<Mg>) (1)
ここで、<Mg>は、質量%で示されるマグネシウムの含有量である。
- 過共晶アルミニウム−シリコン合金の溶湯が、マグネシウムを4.0〜6.0質量%含有することを特徴とする請求項1に記載の過共晶アルミニウム−シリコン合金圧延材成形品の製造方法。
- 前記塑性加工が、パンチを前記過共晶アルミニウム−シリコン合金圧延板に接触させて行う深絞り加工または張り出し加工であって、前記パンチを冷却しながら前記深絞り加工または前記張り出し加工を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の製造方法。
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