JP5851169B2 - 可塑性油脂組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、ソフトでしっとり感のある食感が焼き上げ直後だけではなく、経日的に持続するベーカリー製品を製造することができる可塑性油脂組成物に関する。
可塑性油脂組成物に用いる油脂原料として、パーム油の活用が求められている。
しかし、パーム油は、結晶化が遅いPOP(1,3‐ジパルミトイル‐2−オレオイルグリセロール)を20〜30質量%と多く含有していることにより結晶化が遅い。そのため、パーム油を用いてマーガリンあるいはショートニングを製造すると、捏和機中で結晶化が起こりにくく、そのため微細な結晶ができず、さらに経時的に結晶が粗大化してブツやザラが発生し、物性を維持するのが困難であるという欠点があった。
このパーム油の欠点を解決するために、例えば水素添加やエステル交換によりパーム油を改質する方法がなされてきた。
しかし、上記の水素添加により得られた硬化油はトランス酸を含有する。トランス酸は近年の市場・需要者における健康意識の高まりとともに忌避されつつあるのが現状である。
また、上記のエステル交換では、得られる油脂は、生成する非対称型油脂の影響で全般的に結晶化スピードが遅くなり、さらにエステル交換するためには大型の装置が必要であり、簡便にエステル交換油脂を製造することは困難であった。
そこで、パーム油を水素添加やエステル交換以外の方法で改質する検討がなされてきている。
例えば特許文献1では、ベヘン酸を遊離脂肪酸の形態でパーム油に添加し、結晶性を改善した油脂加工食品が記載されている。
特許文献2では、薄膜蒸留等により結晶性を改善したパーム系油脂を用いた可塑性油脂組成物が記載されている。
しかし、特許文献1や2で得られた油脂加工食品や可塑性油脂組成物をベーカリー製品に使用した場合、ソフトでしっとり感のある食感が経日的に持続するベーカリー製品が得られにくいことに加え、ねちゃついた食感のベーカリー製品になってしまうという問題もあった。
また特許文献3では、パーム系油脂を含むカカオバター代用脂と、ラウリン系油脂を含有し、且つ硬化油やエステル交換油を一切使用しないシート状油中水型乳化油脂組成物が記載されている。しかし、特許文献3の油脂組成物を得るには、冷却捏和装置を高圧仕様にする等特別な装置が必要であるため、簡便な方法ではない。また高圧仕様ではない一般的な冷却捏和装置を用いた場合では、可塑性が得られないという問題点があった。
特開2010−47634号公報 特開2010−248340号公報 特開2007−60912号公報
従って、本発明は、結晶が粗大化しやすいパーム油を使用しても、貯蔵中に粗大結晶が生じにくい可塑性油脂組成物を提供することを課題とし、さらにベーカリー製品に用いた場合において、該ベーカリー製品のソフトでしっとり感のある食感が焼き上げ直後だけではなく、経日的に持続する可塑性油脂組成物を提供することを課題とする。
本発明者らは上記課題を解決すべく種々検討した結果、従来、可塑性油脂組成物では用いられることがなかったパーム油系油脂とラウリン系油脂を用いた可塑性油脂組成物が意外にも上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち本発明は、下記の条件(1)〜(5)をすべて満たす可塑性油脂組成物に関するものである。
(1)パーム系油脂としてパーム油及び/又はパーム分別油を含有
(2)ラウリン系油脂を含有
(3)SUSで表されるトリグリセリドを油相基準で10〜20質量%含有
(4)構成脂肪酸組成においてラウリン酸を2〜12質量%含有
(5)融点が50℃以上の油脂としてハイエルシン酸ナタネ極度硬化油及び/又はパーム極度硬化油を油相基準で0.3〜質量%含有
(ただしSは炭素数16以上の飽和脂肪酸残基、Uは炭素数16以上の不飽和脂肪酸残基である。)
本発明によれば、パーム油を使用しても、貯蔵中に粗大結晶が生じにくい可塑性油脂組成物を得ることができる。また、本発明の可塑性油脂組成物をベーカリー製品に用いた場合、ソフトでしっとり感のある食感が焼き上げ直後だけではなく、経日的にも持続するベーカリー製品を得ることができる。さらに、本発明の可塑性油脂組成物をベーカリー製品に用いた場合、ボリュームと内相が良好なベーカリー製品を得ることができる。
以下、本発明の可塑性油脂組成物について詳細に説明する。
まず、本発明における条件(1)及び(2)について述べる。
本発明の可塑性油脂組成物はパーム系油脂とラウリン系油脂を含有する。
上記のパーム系油脂としては、パーム油、パーム分別油をあげることができる。
上記のパーム分別油としては、例えば1段分別油であるパームオレイン、パームステアリン、パームオレインの2段分別油であるパームオレイン(パームスーパーオレイン)及びパームミッドフラクション、パームステアリンの2段分別油であるパームオレイン(ソフトパーム)及びパームステアリン(ハードステアリン)等を用いることができる。パーム油を分別する方法には特に制限はなく、溶剤分別、乾式分別、乳化分別のいずれの方法を用いてもよい。
本発明では上記のパーム系油脂の中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。広い温度範囲で可塑性を得ることができる点でパーム油を用いることが特に好ましい。
また、上記のパーム系油脂は、食品への練り込み適性の観点から、沃素価が40〜70であるものが好ましい。パーム系油脂は、沃素価が40〜65であるものが更に好ましく、50〜65であるものが特に好ましい。
上記のラウリン系油脂としては、ヤシ油、パーム核油、ババス油等のラウリン酸を多量に含む油脂や、これらを分別して得られた分別油を挙げることができ、これらのラウリン系油脂の中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。本発明ではラウリン系油脂として、ヤシ油及び/又はパーム核油を用いることが好ましい。
本発明の可塑性油脂組成物において、上記のパーム系油脂とラウリン系油脂は、下記で説明する(3)SUSで表されるトリグリセリドを油相基準で10〜20質量%含有、(4)構成脂肪酸組成においてラウリン酸を2〜12質量%含有という2つの条件を満たすように含有させる。
本発明における条件(3)について述べる。
本発明の可塑性油脂組成物は、SUSで表されるトリグリセリド(以下SUSともいう)を油相基準で10〜20質量%、好ましくは12〜20質量%、さらに好ましくは12〜18質量%含有する。
本発明の可塑性油脂組成物においてSUSが、油相基準で10質量%よりも少ないとベーカリー生地にべたつきが生じ、またベーカリー製品の食感が硬くなり、油相基準で20質量%よりも多いと経日的にソフトでしっとり感のある食感が持続したベーカリー製品を得ることができない。
上記のSUSは、トリグリセリドの1位と3位がSであり、2位がUであるトリグリセリドである。Sは炭素数16以上(好ましくは炭素数20以下)の飽和脂肪酸残基を、Uは炭素数16以上(好ましくは炭素数20以下)の不飽和脂肪酸残基である。好ましくは、Sはパルミチン酸残基及び/又はステアリン酸残基であり、Uはオレイン酸残基である。
本発明における条件(4)について述べる。
本発明の可塑性油脂組成物は、構成脂肪酸組成においてラウリン酸を2〜12質量%、好ましくは4〜12質量%、さらに好ましくは4〜10質量%を含有する。
本発明の可塑性油脂組成物の構成脂肪酸組成においてラウリン酸が、2質量%よりも少ないと経日的にソフトでしっとり感のある食感が持続したベーカリー製品が得られず、12質量%よりも多いとベーカリー生地にべたつきが生じ、またベーカリー製品の食感も硬くなる。
本発明の可塑性油脂組成物において、油相中のSUSの含有量と構成脂肪酸組成におけるラウリン酸の含有量の質量比率は、該SUSの含有量を1としたときに、該ラウリン酸の含有量が好ましくは0.1〜1.2、さらに好ましくは0.1〜1.1、最も好ましくは0.1〜1とする。
本発明における条件(5)について述べる。
本発明の可塑性油脂組成物は、融点が50℃以上の油脂を油相基準で0.3〜3質量%、好ましくは0.3〜2質量%、さらに好ましくは0.3〜1.5質量%、最も好ましくは0.3〜0.9質量%含有する。
本発明の可塑性油脂組成物において、融点が50℃以上の油脂の含有量が油相基準で0.3質量%よりも少ないと、可塑性油脂組成物を用いたベーカリー製品において、ボリューム低下や内相の目詰まりが起こり、3質量%よりも多いと、ソフトでしっとり感のある食感が持続したベーカリー製品が得られない。
上記の融点が50℃以上の油脂としては、ナタネ極度硬化油、ハイエルシン酸ナタネ極度硬化油、大豆極度硬化油、パーム極度硬化油、パームステアリン等を挙げることができ、これらの融点が50℃以上の油脂の中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。本発明では融点が50℃以上の油脂として、口溶けへの影響の点でハイエルシン酸ナタネ極度硬化油、パーム極度硬化油、パームステアリンの中から選ばれた1種又は2種以上を用いるのが好ましい。
さらに、本発明の可塑性油脂組成物では、必要により、液状油脂を用いることが好ましい。本発明の可塑性油脂組成物においては、液状油脂を用いることにより、可塑性を有する温度範囲を調整することができる。
上記の液状油脂とは、常温(30℃)で液状の油脂を指し、好ましくは融点20℃未満である油脂、最も好ましくは融点10℃未満である油脂である。尚、融点は低いほど好ましい。
本発明の可塑性油脂組成物は、条件(6)として、液状油脂を油相基準で好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは5〜35質量%、一層好ましくは10〜30質量%、最も好ましくは20〜30質量%含有する。
上記液状油脂としては、例えば大豆油、ナタネ油、米油、綿実油、とうもろこし油、サフラワー油、ひまわり油、落花生油、ゴマ油、キャノーラ油、ハイオレイックキャノーラ油、ハイオレイックサフラワー油、ハイオレイックひまわり油、オリーブ油等を挙げることができ、本発明ではこれらの液状油脂の中から選ばれた1種又は2種以上の油脂を用いることができる。特に本発明では、ナタネ油、米油、ゴマ油、キャノーラ油、ハイオレイックキャノーラ油、ハイオレイックサフラワー油、ハイオレイックひまわり油の中から選ばれた1種又は2種以上の油脂を用いることが好ましい。
本発明の可塑性油脂組成物は、植物性油脂のみを油脂として用いた純植物性の可塑性油脂組成物とすることが好ましい。植物性油脂は、コレステロールをほとんど含まず、血液中の中性脂肪や悪玉コレステロールを減らす働きをする不飽和脂肪酸を多く含むからである。
本発明の可塑性油脂組成物は、部分水素添加油脂及びエステル交換油脂を含有しないことが好ましい。
上記の部分水素添加油脂を含有しないとは、部分水素添加油脂には通常、構成脂肪酸中にトランス酸が10〜50質量%程度含まれているためであり、トランス酸に起因する健康阻害回避のため本発明では含有しないことが好ましい。
ただし、極度硬化油脂は完全に水素添加されており、トランス酸を含まない。このため、部分水素添加油脂は、水素添加処理を施された油脂のうち、極度硬化油脂以外の油脂を指す。ここでいう極度硬化油脂は、原料油脂に対し、沃素価が好ましくは3%以下、更に好ましくは2%以下、特に好ましくは1%以下となるまで水素添加した油脂である。
本発明の可塑性油脂組成物の油相は、構成脂肪酸組成においてトランス酸を好ましくは10質量%未満、さらに好ましくは5質量%以下、最も好ましくは2質量%以下の含有量とする。
上記エステル交換油脂は、特別な設備が必要であるため、本発明の可塑性油脂組成物では含有しないことが好ましい。
本発明の可塑性油脂組成物では必要に応じ、本発明の効果を妨げない範囲において、上記のパーム系油脂、ラウリン系油脂、融点が50℃以上の油脂及び液状油脂以外の「その他の油脂」を含有させることができる。
上記の「その他の油脂」としては、天然油脂、ならびに天然油脂に分別及び/又は完全水素添加を施した加工油脂から選択される1種又は2種以上を組合せて用いることができる。
本発明の可塑性油脂組成物は、油相基準で「その他の油脂」を好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下、最も好ましくは10質量%以下含有させることができる。
本発明の可塑性油脂組成物中の全油脂の含有量は、好ましくは40〜100質量%、さらに好ましくは50〜100質量%、最も好ましくは60〜100質量%である。本発明の可塑性油脂組成物において、全油脂の含有量が、40質量%よりも少ないと可塑性油脂組成物の乳化が不安定となりやすく、可塑性油脂組成物を用いたベーカリー製品においてソフトでしっとり感のある食感が得られにくい。尚、上記の油脂として、本発明の可塑性油脂組成物で含有させることができる下記の「その他の成分」に由来する油分も含めるものとする。
本発明の可塑性油脂組成物は、必要に応じ、本発明の効果を妨げない範囲において、「その他の成分」を含有することができる。「その他の成分」としては、水、乳化剤、乳製品、糖類、甘味料、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、CMC、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、澱粉、化工澱粉等の増粘安定剤、アミラーゼ、プロテアーゼ、アミログルコシダーゼ、プルラナーゼ、ペントサナーゼ、セルラーゼ、リパーゼ、ホスフォリパーゼ、カタラーゼ、リポキシゲナーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、スルフィドリルオキシダーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ等の酵素、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、β―カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、調味料、原料アルコール、焼酎、ウイスキー、ウオッカ、ブランデー等の蒸留酒、ワイン、日本酒、ビール等の醸造酒、各種リキュール、アミノ酸、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、コーヒー、紅茶、緑茶、穀類、豆類、卵類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、着香料等をあげることができる。
上記の水は、水道水や天然水等の水や、本発明の可塑性油脂組成物に含有させることができる「その他の成分」に由来する水分も含めたものとする。上記の水の含有量は、本発明の可塑性油脂組成物中、好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下、最も好ましくは40質量%以下である。
上記の乳化剤としては、例えばグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリン酒石酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等の合成乳化剤や、例えば大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄、サポニン、植物ステロール類、乳脂肪球皮膜等の天然乳化剤が挙げられる。本発明では、これらの乳化剤の中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。上記の乳化剤の含有量は本発明の可塑性油脂組成物中、好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、最も好ましくは3質量%以下である。
特に、本発明の可塑性油脂組成物では健康志向や風味の点で、上記の合成乳化剤を用いないことが好ましく、合成乳化剤や天然乳化剤を用いないことがさらに好ましい。
上記乳製品としては、生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、部分脱脂乳、脱脂乳、加工乳、クリームチーズ、ナチュラルチーズ、プロセスチーズ、アイスクリーム類、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリーム、クリームパウダー、サワークリーム、乳清蛋白質、ホエイ、ホエイパウダー、脱乳糖ホエイ、脱乳糖ホエイパウダー、ホエイ蛋白質濃縮物(WPC及び/又はWPI)、ミルクプロテインコンセントレート(MPC)、バターミルク、バターミルクパウダー、加糖粉乳、調製粉乳、はっ酵乳、ヨーグルト、乳酸菌飲料、乳飲料、カゼインカルシウム、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、カゼインマグネシウム、ホエイプロテインコンセートレート、トータルミルクプロテイン、乳清ミネラル等が挙げられる。本発明ではこれらの乳製品の中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
上記乳製品の含有量は、本発明の可塑性油脂組成物中、固形物換算で好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
上記糖類としては、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、酵素糖化水飴、乳糖、還元澱粉糖化物、異性化液糖、ショ糖結合水飴、はちみつ、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、還元乳糖、ソルビトール、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、トレハロース等が挙げられる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
上記の甘味料としては、スクラロース、ステビア、アスパルテーム、ソーマチン、サッカリン、ネオテーム、アセスルファムカリウム、甘草、羅漢果等があげられる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
上記の糖類や甘味料の含有量は、本発明の可塑性油脂組成物中、固形物換算で好ましくは25質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
本発明の可塑性油脂組成物において、上記の「その他の成分」の含有量は合計で、好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下、最も好ましくは40質量%以下である。
本発明の可塑性油脂組成物の好ましい製造方法について以下に説明する。
まず下記条件(1)〜(5)をすべて満たし、必要に応じて更に下記条件(6)を満たし、また必要に応じて「その他の成分」を添加した油相を用意する。
(1)パーム系油脂を含有
(2)ラウリン系油脂を含有
(3)SUSで表されるトリグリセリドを油相基準で10〜20質量%含有
(4)構成脂肪酸組成においてラウリン酸を2〜12質量%含有
(5)融点が50℃以上の油脂を油相基準で0.3〜3質量%含有
(6)液状油脂を油相基準で40質量%以下含有
上記の油相に、必要により水に「その他の成分」を添加した水相を加え、混合する。
そして得られた混合物を殺菌処理するのが望ましい。殺菌方式は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続方式でも構わない。また殺菌温度は好ましくは80〜100℃、さらに好ましくは80〜95℃、最も好ましくは80〜90℃とする。その後、必要により油脂結晶が析出しない程度に予備冷却を行なう。予備冷却の温度は好ましくは40〜60℃、さらに好ましくは40〜55℃、最も好ましくは40〜50℃とする。
次に急冷可塑化を行なう。この急冷可塑化は、コンビネーター、ボテーター、パーフェクター、ケムテーター等の密閉型連続式掻き取りチューブチラー冷却機(Aユニット)、プレート型熱交換機等を用いて行うことができ、また開放型冷却機のダイヤクーラーとコンプレクターの組み合わせにより行ってもよい。この急冷可塑化を行なうことにより、可塑性を有する油脂組成物となる。
急冷可塑化の際に、ピンマシン等の捏和装置(Bユニット)やレスティングチューブ、ホールディングチューブを使用してもよい。
また、急冷可塑化時の冷却速度は、好ましくは−0.5℃/分以上、更に好ましくは−5℃/分以上である。
また、本発明の可塑性油脂組成物を製造する際のいずれかの製造工程で、窒素、空気等を含気させても、含気させなくても構わない。
得られた本発明の可塑性油脂組成物は、マーガリンタイプでもショートニングタイプでもどちらでもよく、また、乳化物とする場合、その乳化形態は、油中水型、水中油型、及び二重乳化型のいずれでも構わない。
本発明の可塑性油脂組成物を乳化物とする場合、油相と水相の質量比率は好ましくは油相40〜99質量%、水相1〜60質量%、さらに好ましくは油相50〜99質量%、水相1〜50質量%、最も好ましくは油相60〜99質量%、水相1〜40質量%とする。
本発明の可塑性油脂組成物は、各種食品に用いることができ、例えば食パン、菓子パン、デニッシュ・ペストリー、パイ、シュー、ドーナツ、ケーキ、クッキー、ハードビスケット、ワッフル、スコーン等のベーカリー製品に、練り込み用、ロールイン用、サンド・フィリング用、スプレー・コーティング用、フライ用として使用することができる。さらには、カレールウ用、バッター用、ソース用、フライ用等の調理・総菜用としてもまた使用することができる。
本発明の可塑性油脂組成物は、特にイーストを用いたベーカリー食品であるパン類に好適に用いることができる。
以下に実施例、比較例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例1〜8のうち、実施例2及び5は参考例である。
(実施例1)
配合油80質量%(配合油の組成はパーム油60質量%、ヤシ油10.3質量%、ナタネ油29質量%、ナタネ極度硬化油0.7質量%)を60℃前後に加温し、乳化剤としてグリセリン脂肪酸エステル0.5質量%、レシチン0.5重量%、トコフェロール0.01重量%を混合溶解した油相と、水18.89質量%に香料0.1重量%を混合した水相を混合、攪拌し油中水型の乳化物とし、殺菌し、急冷可塑化工程(冷却速度−20℃/分以上)にかけ、急冷可塑化することで実施例1の可塑性油脂組成物を得た。得られた実施例1の可塑性油脂組成物は経日的にブツやザラの発生はなかった。
また、表1に得られた可塑性油脂組成物のSUSの含有量(油相基準)、構成脂肪酸組成におけるラウリン酸の含有量、トランス酸の含有量及び該ラウリン酸の含有量/該SUSの含有量(油相基準)を示した。
(実施例2〜7、比較例1〜6)
表1に記載の配合としたほかは実施例1と同様の製造方法にて、実施例2〜7及び比較例1〜6の可塑性油脂組成物を得た。得られた比較例4の可塑性油脂組成物は経日的にブツやザラが発生してしまったが、その他の実施例及び比較例の可塑性油脂組成物は経日的なブツやザラの発生はなかった。
また、表1に得られた可塑性油脂組成物のSUSの含有量(油相基準)、構成脂肪酸組成におけるラウリン酸の含有量、トランス酸の含有量及び該ラウリン酸の含有量/該SUSの含有量(油相基準)を示した。
(実施例8)
配合油99.99質量%(配合油の組成はパーム油60質量部、ヤシ油10.3質量部、ナタネ油29質量部、ナタネ極度硬化油0.7質量部)を60℃前後に加温し、トコフェロール0.01重量%を混合溶解した油相を急冷可塑化工程(冷却速度−20℃/分以上)にかけ、急冷可塑化することで実施例8の可塑性油脂組成物を得た。得られた実施例8の可塑性油脂組成物は経日的なブツやザラの発生はなかった。
また、表1に得られた可塑性油脂組成物のSUSの含有量(油相基準)、構成脂肪酸組成におけるラウリン酸の含有量、トランス酸の含有量及び該ラウリン酸の含有量/該SUSの含有量(油相基準)を示した。
<食パンの配合と製法>
実施例1〜8、比較例1〜6の可塑性油脂組成物を用い、下記の配合と製法により食パンを製造した。
(配合)
中種配合
強力粉 700質量部
パン酵母 23質量部
イーストフード 1質量部
水 400質量部
本捏配合
強力粉 300質量部
上白糖 60質量部
可塑性油脂組成物 60質量部
脱脂粉乳 20質量部
食塩 20質量部
水 250質量部
(製法)
上記の中種配合の全原料を、縦型ミキサーに入れ、低速2分、中速2分ミキシングし、中種生地(捏ね上げ温度=24℃)を得た。この中種生地を28℃、相対湿度80%にて4時間発酵させた。
上記の本捏配合に記載の可塑性油脂組成物以外の材料と上記の発酵を行った中種生地を、縦型ミキサーに入れ、低速3分、中速3分ミキシングした後、本捏配合の可塑性油脂組成物を添加して、低速3分、中速4分ミキシングし、本捏生地(捏ね上げ温度=28℃)を得た。得られた本捏生地は、20分フロアタイムをとり、分割(380g)、丸めし、25分ベンチタイムを取った後、モルダーを使用してワンローフ成形し、ワンローフ型にいれ、38℃、相対湿度80%、60分のホイロを取った後、210℃のオーブンで30分焼成してワンローフ型食パンを得た。
<評価>
(1)分割後の本捏生地の評価
実施例1〜8、比較例1〜6の可塑性油脂組成物を用いた分割後の本捏生地のべたつき具合について以下の基準にて評価を行い、結果を表2に示した。
(べたつき評価基準)
◎:べたつきなし
○:ややべたつきあり
△:べたつきあり
×:非常にべたつく
(2)食パンの評価
実施例1〜8、比較例1〜6の可塑性油脂組成物を用いて得られたワンローフ型食パンについて、焼成1日後のボリュームを以下の評価方法及び評価基準にて評価し、また、焼成1日後の内相を以下の評価基準にて評価し、結果を表2に示した。
また、得られたワンローフ型食パンの焼成1日後と3日後の食感(ソフト性、しっとり感)について、下記評価基準にて評価を行い、結果を表2に示した。
(ボリューム評価方法)
焼成1日後のワンローフ型食パンを用い、3Dレーザースキャナー(アステックス社製「WINNM2000」)により比容積を測定した。
(ボリューム評価基準)
○:比容積1450ml以上
△:比容積1350以上1450ml未満
×:比容積1350ml未満
(内相評価基準)
○:気泡膜が薄く、均一である。
△:気泡膜が不均一で、やや目が詰まっている。
×:気泡膜が厚く、不均一で、目が詰まっている。
(ソフト感評価基準)
◎:非常にソフトな食感
○:ソフトな食感
△:やや硬い食感
×:硬い食感
(しっとり感評価基準)
◎:非常にしっとりした食感
○:しっとりした食感
△:ややぱさつく食感
×:ぱさつきが激しい食感
Figure 0005851169
Figure 0005851169

Claims (8)

  1. 下記の条件(1)〜(5)をすべて満たす可塑性油脂組成物。
    (1)パーム系油脂としてパーム油及び/又はパーム分別油を含有
    (2)ラウリン系油脂を含有
    (3)SUSで表されるトリグリセリドを油相基準で10〜20質量%含有
    (4)構成脂肪酸組成においてラウリン酸を2〜12質量%含有
    (5)融点が50℃以上の油脂としてハイエルシン酸ナタネ極度硬化油及び/又はパーム極度硬化油を油相基準で0.3〜質量%含有
    (ただしSは炭素数16以上の飽和脂肪酸残基、Uは炭素数16以上の不飽和脂肪酸残基である。)
  2. さらに下記の条件(6)を満たす請求項1記載の可塑性油脂組成物。
    (6)液状油脂を油相基準で40質量%以下含有
  3. 部分水素添加油脂及びエステル交換油脂を含有しない請求項1又は2記載の可塑性油脂組成物。
  4. 上記のSUSで表されるトリグリセリドの含有量(油相基準)と上記の構成脂肪酸組成におけるラウリン酸の含有量との質量比率は、該トリグリセリドの含有量を1としたときに、該ラウリン酸の含有量が0.1〜1.2である、請求項1〜3の何れか一項に記載の可塑性油脂組成物。
  5. 上記(1)の条件におけるパーム系油脂として、パーム油を用いる、請求項1〜4の何れか一項に記載の可塑性油脂組成物。
  6. 上記(2)の条件におけるラウリン系油脂として、ヤシ油及び/又はパーム核油を用いる、請求項1〜5の何れか一項に記載の可塑性油脂組成物。
  7. 請求項1〜の何れか一項に記載の可塑性油脂組成物を用いた食品。
  8. 請求項1〜の何れか一項に記載の可塑性油脂組成物を用いたベーカリー製品。
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