JP5848855B2 - 織物及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、乗り物の衝突時乗員保護装置であるエアバッグ装置の袋体として用いられるエアバッグ用途などに適した織物に関するものである。とりわけ、エアバッグ用途などに適した熱安定性に優れた織物に関するものである。
自動車など乗り物の衝突事故における人体への衝撃緩和のための装置として、乗り物へのエアバッグの装着が進んできている。衝突の際、ガスにより膨張し、人体への衝撃を吸収緩和するエアバッグとして、運転席用および助手席用エアバッグに加えて、カーテンエアバッグやサイドエアバッグ、ニーエアバッグ、リアエアバッグなどの車両中への装着が、乗員保護のために実用化されつつある。さらには、歩行者保護のために、車両の客室の外側に膨張するように装着されるエアバッグも提案されてきている。
これらのエアバッグは、平常時は小さく折り畳まれて収納されている。事故の衝撃をセンサーが検出し、エアバッグが展開膨張する際は、インフレータで発生したガスによって折り畳みが押し拡げられながら、収納箇所のカバー部分を押し破ってエアバッグが飛び出し、充分に膨らんだところで人体を受け止めることになる。
近年、エアバッグは広範な衝突条件に対応できるように、より高速で展開することが求められるようになってきた。そこで、より高出力の推薬を用いたインフレータにより、高温高圧ガスで展開するようになってきている。そのため、より安全性の高いエアバッグとするためには、袋体の耐熱耐圧性を高める必要がある。また、長期に性能を維持するために、経熱後の高圧通気度を抑制するという課題がある。
下記特許文献1には、樹脂被膜を有するエアバッグ織物において、特定の樹脂組成物の塗布により、示差走査熱量計による融点が上昇するため、エアバッグの高温展開時の損傷が回避されることが示されている。通気度の抑制には、布帛に樹脂被膜を設ける方法が有効であるが、より高速展開のためには、樹脂被膜のない軽量な織物が有利である。
特開2004−149992号公報
本発明は、エアバッグ用途などに有用な、エラストマーや樹脂の被膜や含浸のない軽量な織物において熱安定性を改善することを目的とするものである。
本発明者は、織物の織糸同士の相互拘束力を高め、織物の示差走査熱量計による溶融挙動をより高温にすることにより、熱安定性に優れた織物が得られることを見出して本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は下記の発明を提供する。
(1)ポリアミド66繊維からなる織物であって、その織物の昇温DSC吸熱曲線において、織物構成糸の昇温DSC吸熱曲線の溶融吸熱極大温度に対して高温度側の吸熱量の、全体の吸熱量に対する比率が45%を超え、該織物構成糸の単糸断面が丸断面であることを特徴とする織物。
(2)織物構成糸の粘弾性のtanδピーク温度が115℃以上である、請求項1に記載の織物。
(3)油付率が0.05重量%以上0.20重量%以下である、請求項1又は2に記載の織物。
(4)織物を構成する経糸と緯糸の集束の扁平度(平面方向の単糸の広がり/厚み方向の単糸の広がり)のうち大きいほうが3.0以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の織物。
(5)110℃の環境に100時間暴露後のフラジール通気度が0.5cc/cm2/sec以下である、請求項1〜のいずれか一項に記載の織物。
(6)製織に用いる織糸原糸の強度が8.0cN/dtex上である、請求項1〜のいずれか一項に記載の織物。
(7)製織時の経糸張力が0.20〜0.65cN/dtexである、請求項1〜のいずれか一項に記載の織物。
(8)ウォータージェット織機で製織し、引き続き精練せずに、又は80℃以下の精練を経て、続いて乾燥仕上をして、製造された、請求項1〜のいずれか一項に記載の織物。
(9)製織後の乾燥仕上が140℃以下で行なわれた、請求項8に記載の織物。
(10)樹脂被覆されていない、請求項1〜のいずれか一項に記載の織物。
(11)請求項1〜10のいずれか一項に記載の織物を用いたエアバッグ。
本発明の織物は、樹脂被膜のない軽量な織物であって、エアバッグに用いた場合、経熱後の高圧通気度の抑制に優れ、高温高圧展開時の損傷回避性が高いなど、優れた熱安定性を有する。
本発明の織物のDSC吸熱曲線の図である。 本発明の織物の構成糸(経)のDSC吸熱曲線の図である。 本発明の織物の構成糸(緯)のDSC吸熱曲線の図である。 展開評価用エアバッグの図である。
以下、本願発明について具体的に説明する。
本発明の織物は合成繊維からなり、織物を構成する合成繊維は、熱可塑性樹脂からなる繊維であって、例えば、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維などから選ぶことができる。
織物を構成するポリアミド繊維としては、ポリアミド6、ポリアミド6・6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6・10、ポリアミド6・12、ポリアミド4・6、それらの共重合体およびそれらの混合物の樹脂からなる繊維が挙げられる。特にポリアミド6・6繊維としては、主としてポリヘキサメチレンアジパミド樹脂からなる繊維である事が好ましい。ポリヘキサメチレンアジパミド樹脂とは100%のヘキサメチレンジアミンとアジピン酸とから構成される融点が250℃以上のポリアミド樹脂を指すが、本発明で用いられるポリアミド6・6樹脂からなる繊維は、樹脂の融点が250℃未満とならない範囲で、ポリヘキサメチレンアジパミドにポリアミド6、ポリアミド6・I、ポリアミド6・10、ポリアミド6・Tなどを共重合、あるいはブレンドした樹脂からなる繊維でもよい。
なお、かかる合成繊維には、原糸の製造工程や加工工程での生産性あるいは特性改善のために通常使用される各種添加剤を含んでいても良い。例えば熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、平滑剤、帯電防止剤、可塑剤、難燃剤などを含有せしめることができる。
合成繊維は、整経時に糊付けせずに高密度製織が可能となるように、フィラメント切れによる毛羽が108mあたりに100個以下であることが好ましい。また、マルチフィラメントの集束性を得るためにエア交絡が5から30回/mであることが好ましい。エア交絡が30回/m以下であれば、織物中での単糸群の集束が適度で、塗布樹脂の織物への浸透を抑制しすぎることなく、樹脂被膜の接着や強さに寄与する。エア交絡が5回/m以上であれば、高密度製織工程での単糸ばらけや単糸切れによる停台などが防げる。
合成繊維からなる織糸は、好ましくは糊付けすること無しに整経工程に送られ、荒巻を経たのち、経糸用として整経ビームに捲返される。また、一部は緯糸として供給され、製織が実施される。
製織に用いられる合成繊維からなる織糸原糸は、引張強度が8.0cN/dtex以上が好ましい。より好ましくは、8.5cN/dtex以上である。引張強度が大きい合成繊維は高温高延伸で製造され、構成糸の粘弾性測定のtanδピーク温度を高めることに寄与する。一方、合成繊維からなる織糸原糸の引張強度は、10.0cN/dtex以下が好ましい。引張強度が10.0cN/dtex以下であれば、毛羽品位が良好で製織可能な繊維の入手が容易である。
織物を構成する織糸は、粘弾性測定のtanδがピークを示すtanδピーク温度が115℃以上であることが好ましい。さらに好ましくは120℃以上である。tanδピーク温度は、高分子の不定形部分の分子鎖の大勢が熱運動し始める温度である。このピーク温度が高いほど、熱経時安定性が高い。本発明では、tanδピーク温度が115℃以上であれば、熱経時後の通気度の安定に寄与し、通気度増が抑制される。経済的に入手が容易な合成繊維という観点から、tanδピーク温度は150℃以下が好ましい。
織物を構成する合成繊維の繊度は、好ましくは、200から800dtexである。また、織物を構成する合成繊維は多数の単糸からなるマルチフィラメント繊維であり、単糸の繊度は1から8dtexが好ましい。単糸繊度は8dtex以下で小さい方が織糸同士が食い込み合った織物形態を取りやすくなる。単糸繊度が1dtex以上であれば加工工程中にフィラメント損傷を受けることがなく、織物の機械特性を損なうことがない。単糸の断面形状は、実質的に丸断面であることが好ましい。単糸断面形状が扁平状になるほど織物の動的な高圧通気度が抑制しにくい。ここで、丸断面とは断面の長径と短径の比(アスペクト比)が0.8〜1.0のものを言う。
本発明の織物は、昇温DSC(示差走査熱量計)で計測される溶融吸熱曲線において、高温度側吸熱量の比率が全体の吸熱量に比べて45%を超えるものである。より好ましくは50%を超えるものである。さらに好ましくは55%を超えるものである。織物試料を室温から5℃/分で昇温し、溶融による吸熱曲線を観測し、この溶融挙動を基準温度の低温度側溶融と高温度側溶融に分け、高温度側溶融の吸熱量の比率を求める。基準温度は、織物を解体して得られた織物構成糸を同じ昇温条件でDSC観測した際の極大吸熱温度である。この極大吸熱温度は、通常、融点として観測されるものである。織物の溶融において、構成糸の融点より高温で溶融する比率が高いことにより、エアバッグの高温展開における通気抑制や損傷回避性が高まる。この高温吸熱部分は、織物構成糸が示す融点ピークよりも高温側に大きなピークを有することで、織糸が相互に拘束し合うことにより、織糸の高分子鎖が配向緩和による吸熱をすることなく結晶溶融しているものと考えられる。一方、低温吸熱部分は、構成糸が示す融点ピークよりも低温に細かいピークを示すことが多く、織物のクリンプ構造の中で拘束されずに熱配向緩和し、吸熱してゆくためと考えられる。構成糸の融点より低温での吸熱量が少なければ、熱経時による通気度変化が少なく、許容できる通気度範囲を超えることがなくなる。
高温度側吸熱量の比率が高く100%であることが好ましいが、織物構造による織糸拘束に限りがあり、80%程度までである。
高温側吸熱量の比率が高く、織糸の相互拘束性が高いと、織物のバイアス方向の伸びが抑制される。通常、織物の引張伸度は、織糸方向よりもバイアス方向の伸びが大きく、エアバッグにおける縫製ラインが織糸方向ではなくバイアス方向に走る部分においては、ガス展開で応力が掛かった場合にガスリークが多い部分になる。したがって、高温側吸熱量の比率が高い織物は、ガス漏洩が抑制されたエアバッグとなる。さらに、縫製ラインがバイアス方向に沿った部分は、歪が集中してガス展開の応力集中点になるが、高温側吸熱量の比率が高い織物は、応力集中による縫製部損傷が抑制されたエアバッグとなる。
本発明では、織機上で織糸が十分に噛み合った屈曲形態を作ることが重要であり、高温側吸熱量比率を高めることになる。織糸が十分に噛み合った屈曲形態は、まず、経糸張力を高めに設定し、効果的な筬打ち条件を作ることで形成される。経糸張力は0.20〜0.65cN/dtexとするのが好ましい。経糸張力が0.20cN/dtex以上で接触角度が大きくなる。一方、経糸張力が0.65cN/dtex以下で経糸切れなどの製織阻害にあわずにすむ。より好ましくは、0.25〜0.55cN/dtexである。経糸張力は、整経ビームとバックローラー(テンショニングローラー)間の経糸張力を計測して調整できる。製織で形成された織り糸の屈曲形態を、これ以降の工程では維持し、緩和しないようにするべきである。織機は、ウォータージェット織機、エアジェット織機、レピア織機などを用いることができる。中でもウォータージェット織機を用いると、後の精練工程無しに油分付着量を少なく制御できて好ましい。
織物のカバーファクタは2000から2600が好ましい。カバーファクタ(CF)は以下の計算による。
CF=経糸密度(本/2.54cm)× √経糸繊度(dtex)+
緯糸密度(本/2.54cm)× √緯糸繊度(dtex)
カバーファクタは、平面における繊維の充填度合いであり、2000以上であれば、静的通気度が抑制されている。カバーファクタが2600以下であれば、製織工程での困難が回避できる。
織物の織組織は、基本的に経緯とも同一繊維で単一繊維による平織物が好ましい。高密度の平織物を得るために、経緯とも2本の斜子織で織って平織物を得ても良い。
本発明の織物は、織物を構成する織糸の経緯のいずれかの単糸群が広がることで、織糸同士が拘束し合っていることが好ましい。つまり、織物断面において、織糸の単糸の集束具合として、織物厚み方向の単糸の広がりに対して織物平面方向の単糸の広がりの比率(平面方向/厚み方向)を織糸の扁平度とすると、経糸扁平度および緯糸扁平度のいずれか大きいほうが4.5以下で3.0以上であることが好ましい。より好ましくは、3.5以上である。織糸扁平度が3.0以上であれば単糸群がよく広がり、経糸および緯糸のいずれかの扁平度が3.0以上であれば、経糸および緯糸が相互に拘束し合うことに寄与する。織糸の扁平度を高めるためには、製織時に、経糸張力を高めにすることが有効である。経糸張力を高めれば、経糸の扁平度が高まることで経緯の織糸同士の相互拘束が強固になる。
織糸は無撚、無糊で製織に供することが好ましい。織糸を撚糸して製織した場合は、織糸の扁平度が2.5未満になるなど単糸群の集束性がよくなりすぎて、経緯の拘束が強固にならない。
製織後の精練工程では、製織工程で形成された織糸が十分に噛み合った屈曲形態が、温水中の合成繊維の収縮作用で解消される傾向があるため注意が必要である。好ましくは80℃以下、より好ましくは60℃以下、さらに好ましくは50℃以下の温度で、拡幅状態のままで、揉みなどの刺激を与えない精練方法を用いるべきである。最も好ましいのは精練工程を省略することである。
乾燥仕上工程でも製織工程で形成された、織糸が十分に噛み合った形態が解消されないような注意が必要である。合成繊維の収縮が急激に発現してしまうのを避ける必要がある。好ましくは140℃以下、さらに好ましくは120℃以下で乾燥処理する。乾燥は多段で実施してもよい。また、シリンダー乾燥機やテンター装置などを用い、さらにはそれらを組み合わせて乾燥してもよい。
本発明の織物は、シクロヘキサンで抽出される油分(油付率)が織物重量に対して0.05重量%から0.20重量%が好ましい。より好ましくは0.05〜0.15重量%である。一層好ましくは0.05〜0.10重量%である。シクロヘキサン抽出油分が0.05重量%以上であれば、織糸繊維の表面を低摩擦にし、織物の引裂き強力の低下を防止できる。したがって、エアバッグの耐破袋性を高めることが出来る。一方、0.20重量%以下とすることで、構成糸の素抜けを防止し、エアバッグの展開ガスが漏れたり、熱ガスが集中通過することによる破袋を回避できる。抽出される油分が0.05重量%以上で0.20重量%以下であるためには、織糸の製造工程に由来する紡糸油分や織糸の経糸整経工程での整経油分を、織物を作るウォータージェット織機工程で脱油させたり、製織後の精練工程での条件を適宜選定したり、織物に油分を付与して仕上げとすることが出来る。好ましくは、紡糸油分や整経油分をウォータージェット織機工程の水流によって適切な油分量とし、別途の精練工程を省略することである。
本発明の織物の通気度は、125Pa差圧でのFRAZIER法により、0.3cc/cm2/s以下で、できる限り通気が検出されないことが好ましい。
また、織物は110℃で100時間の熱風オーブン処理後に通気度が0.5cc/cm2/s以下が好ましく、さらには、0.3cc/cm2/s以下がより好ましい。通気度が検出されないことが好ましい。
本発明の織物は、樹脂加工せずにそのまま裁断縫製してエアバッグに用いるのに適している。
本発明の織物からなる縫製エアバッグを組み込んで、エアバッグモジュール、エアバッグ装置として用いることができる。
次に、実施例および比較例によって本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。先ず、本明細書で用いた測定方法および評価方法について説明する。
(1)織物試料の準備:JIS L0105:2006の標準状態に調整して、各種測定および評価に供した。
(2)tanδピーク温度:動的粘弾性測定はオリエンテック社製レオバイブロンDDV−01FPを用いた。試料は、織物を解体して得られた構成糸の単糸を10本程度取り出した束を用いた。チャック間距離30mm、周波数35Hz、昇温速度5℃/分、温度範囲40℃から200℃でtanδの測定を行った。tanδ−温度曲線からtanδピーク温度(℃)を求めた。
(3)DSC解析:織物試料は、織物の織状態を崩さずにサンプリングパンに投入できる程度の大きさに切り、約5mg投入した。織物構成糸は、織物を経緯糸にほぐし、サンプリングパン(型番346−66963−91)に投入できる程度の長さに切り、約5mg投入した。株式会社島津製作所製DSC−60にて、空気流100ml/分の雰囲気下で5℃/分の昇温速度で溶融させ吸熱曲線を得た。230℃から280℃の間でベースラインを引き、吸熱量を分析した。織物構成糸の経緯糸における吸熱ピーク温度(融点)の平均を基準温度とした。織物の吸熱曲線を、基準温度の低温度側と高温度側に分け、吸熱曲線中の高温度側吸熱量比率(%)を求めた。
(4)原糸の特性:強度はJISL1013(2010)8.5引っ張り強さの評価法に基づき、 つかみ間隔を25cm、定長緊張速度を30cm/分として測定し、沸水収縮率はJISL1017(2002)8.14沸騰水収縮率の評価に基づいて測定した。
(5)織密度:JIS L1096:2010 8.6.1b)B法で附属書FAにより計測した。
(6)油付率:織物試料をシクロヘキサン溶媒にて8時間のソックスレー抽出をした。得られた抽出液から揮発分を留去した後、抽出分を秤量し、抽出前の織物重量に対する抽出油分重量を油付率(重量%)とした。
(7)構成糸の繊度:JIS L1096:2010 8.9.1.1a)2)B法で附属書Hの(方法B)により計測した。
(8)織物構成糸の扁平度:織物の織糸中心を切断し、断面から経緯それぞれにつき織糸の単糸束の集束外形を観察した。織物厚み方向の単糸の広がりに対して、織物平面方向の単糸の広がりの比率(平面方向/厚み方向)を扁平度とした。
(9)フラジール法通気度:JIS L1096:2010 8.26.1 A法で通気度を求めた。
(10)通気度の熱経時評価:織物試料を110℃のエアオーブン中に置き、100時間放置した後、上記(9)に記載の通気度を評価した。
(11)高温展開損傷:2枚の織物試料で、相互に織方向を45°傾けて図5(a)に示したような形状に縫製作成された直径50cmのモデルエアバッグを、図5(b)に示したように直径25mm以内になるようロール状に巻いて、図5(c)に示したように30dtexモノフィラメント糸で2か所縛り、マイクロシス社製CGSシステムのガス噴射装置に取り付けた。バッグ部分を熱風オーブンに入れ、105℃で30分放置した。引き続き、一気に、Heガス(6MPa、1L)をガス挿入口から高速流入させ、流入時から内圧が50kPaを超えて最高圧に達した後20kPaにガス漏えいするまでの時間(msec)を測定し、保圧時間とした。
[実施例1]
ポリヘキサメチレンアジパミド樹脂を溶融紡糸し、熱延伸して得られた強度8.5cN/dtexの繊維を織糸として用いた。繊維には樹脂重合時に添加した銅が50ppm含有され、沃素が1500ppm含有されていた。この繊維は、繊度が470dtex、単糸数が136本、沸水収縮率が7.5%であり、水浸法の交絡数は15個/mであった。この繊維を経糸用に無撚無糊で引き揃え、整経ビームとし、緯糸用には無撚無糊で巻取りパッケージからそのまま織機に供給した。ウォータージェット織機にて織機上での経糸張力を0.40cN/dtex設定し、400回転/分で平織物を得た。得られた織物を精練すること無しに、120℃の4対のシリンダーで乾燥し、次いで、ピンテンターを用いて110℃の30秒滞留で仕上げて、経のオーバーフィード縮み分が0.5%、幅出し分が0.5%とした。製織時の機上密度を調整して、仕上がり織物の織密度が経緯とも53.0本/2.54cmになるようにした。織物の製造条件と評価結果を表1に示す。
織物の油付率は0.12重量%で、ウォータージェット織機で適度に脱油していた。織糸断面観察では、単糸群の扁平度は経糸のほうが高く、4.0であった(なお、後述する実施例2〜5および比較例1〜4においても、織物構成糸の扁平度は経糸のほうが高かった)。織物をほぐして得られた構成糸の粘弾性測定ではtanδピーク温度が125℃であった。また、構成糸のDSC解析では融点(極大吸熱温度)が経緯とも259.0℃であり、吸熱曲線における融点の高温側吸熱量比率は経緯とも32%であった(図2および図3)。織物のDSC解析では、高温側吸熱量比率は54%であった(図1)。
この織物は、通気度が低く、熱経時後も低いままであった。また、この織物からなるエアバッグは、高温展開による通気度抑制に優れており、熱安定性の良いエアバッグとなっていた。
[実施例2]
製織時の経糸張力を0.30cN/dtexとしたことを除いて、実施例1と同様にして実施した。織物の製造条件と評価結果を表1に示す。熱経時後の通気度が増加気味だが、十分低通気度である。高温展開による通気度抑制も優れている。
[実施例3]
製織後に、50℃の温水で1分間の精練工程を追加したことを除いて、実施例1と同様にして実施した。織物の製造条件と評価結果を表1に示す。熱経時後の通気度が増加気味だが、低通気度である。高温展開による通気度抑制も優れている。
[実施例4]
織糸原糸の強度を8.0cN/dtexにしたことを除いて、実施例1と同様にして実施した。織物の製造条件と評価結果を表1に示す。織物構成糸のtanδピーク温度は121℃であった。熱経時後の通気度が増加気味だが、十分低通気度である。高温展開による通気度抑制も優れている。
[実施例5]
織糸原糸の強度を8.0cN/dtexに、沸水収縮率を10.5%にしたことを除いて、実施例1と同様にして織物を得た。織物の製造条件と評価結果を表1に示す。織物構成糸のtanδピーク温度は115℃であった。熱経時後の通気度が増加気味だが、十分低通気度である。高温展開による通気度抑制も優れている。
[比較例1]
製織時の経糸張力を0.25cN/dtexとし、製織後に90℃の温水で3分間の精練工程を追加したことを除いて、実施例1と同様にして織物を得た。織物の製造条件と評価結果を表1に示す。熱経時後の通気度が増加してしまっている。高温展開による通気度抑制も損なわれている。織物のDSC解析では、高温側吸熱量比率は36%である。構成糸の溶融吸熱曲線に近似してきて、織糸拘束に由来する高温側の吸熱ピークがあまり観測されなかった。
[比較例2]
精練を行なわなかったことを除いて、比較例1と同様にして織物を得た。織物の製造条件と評価結果を表1に示す。熱経時後の通気度は増加してしまっている。高温展開による通気度抑制も損なわれている。
[比較例3]
製織時の経糸張力を0.30cN/dtexとし、製織後に90℃の温水で3分間の精練工程を追加したことを除いて、実施例1と同様にして織物を得た。織物の製造条件と評価結果を表1に示す。熱経時後の通気度が増加してしまっている。高温展開による通気度抑制も損なわれている。
[比較例4]
織糸原糸の強度を7.5cN/dtexに、沸水収縮率を11.0%にしたことを除いて、実施例1と同様にして織物を得た。織物の製造条件と評価結果を表1に示す。織物構成糸のtanδピーク温度は110℃であった。熱経時後の通気度が増加してしまっている。高温展開による通気度抑制も損なわれている。
Figure 0005848855
本発明の織物はエアバッグ用織物として好適である。とりわけ、熱安定性に優れたノンコート縫製エアバッグに用いるエアバッグ織物として好適である。

Claims (11)

  1. ポリアミド66繊維からなる織物であって、その織物の昇温DSC吸熱曲線において、織物構成糸の昇温DSC吸熱曲線の溶融吸熱極大温度に対して高温度側の吸熱量の、全体の吸熱量に対する比率が45%を超え、該織物構成糸の単糸断面が丸断面であることを特徴とする織物。
  2. 織物構成糸の粘弾性のtanδピーク温度が115℃以上である、請求項1に記載の織物。
  3. 油付率が0.05重量%以上0.20重量%以下である、請求項1又は2に記載の織物。
  4. 織物を構成する経糸と緯糸の集束の扁平度(平面方向の単糸の広がり/厚み方向の単糸の広がり)のうち大きいほうが3.0以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の織物。
  5. 110℃の環境に100時間暴露後のフラジール通気度が0.5cc/cm2/sec以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の織物。
  6. 製織に用いる織糸原糸の強度が8.0cN/dtex上である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の織物の製造方法
  7. 製織時の経糸張力が0.20〜0.65cN/dtexである、請求項に記載の方法
  8. ウォータージェット織機で製織し、引き続き精練せずに、又は80℃以下の精練を経て、続いて乾燥仕上を行う工程を含む、請求項6又は7に記載の方法
  9. 製織後の乾燥仕上140℃以下で行う、請求項8に記載の方法
  10. 樹脂被覆されていない、請求項1〜のいずれか一項に記載の織物。
  11. 請求項1〜5、及び10のいずれか一項に記載の織物を用いたエアバッグ。
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