以下、本発明の車両用回転電機を適用した一実施形態の車両用発電機について、図面を参照しながら説明する。
(第1の実施形態)
図1に示すように、第1の実施形態の車両用発電機1は、2つの固定子巻線(電機子巻線)2、3、界磁巻線4、2つの整流器モジュール群5、6、発電制御装置7、MOSトランジスタ40を含んで構成されている。
一方の固定子巻線2は、多相巻線(例えばX相巻線、Y相巻線、Z相巻線からなる三相巻線)であって、固定子鉄心(図示せず)に巻装されている。同様に、他方の固定子巻線3は、多相巻線(例えばU相巻線、V相巻線、W相巻線からなる三相巻線)であって、上述した固定子鉄心に、固定子巻線2に対して電気角で30度ずらした位置に巻装されている。本実施形態では、これら2つの固定子巻線2、3と固定子鉄心によって固定子が構成されている。
界磁巻線4は、固定子鉄心の内周側に対向配置された界磁極(図示せず)に巻装されて回転子を構成している。励磁電流を流すことにより、界磁極が磁化される。界磁極が磁化されたときに発生する回転磁界によって固定子巻線2、3が交流電圧を発生する。本実施形態では、界磁巻線4と発電制御装置7のF端子(励磁電流制御端子)との間にはMOSトランジスタ40が挿入されている。このMOSトランジスタ40は、界磁巻線4に対する励磁電流の供給を停止するための励磁電流停止スイッチであり、異常発生時以外の通常動作時にはオン状態を維持し、異常発生時にはオフ状態となる。
一方の整流器モジュール群5は、一方の固定子巻線2に接続されており、全体で三相全波整流回路(ブリッジ回路)が構成され、固定子巻線2に誘起される交流電流を直流電流に変換する。この整流器モジュール群5は、固定子巻線2の相数に対応する数(三相巻線の場合には3個)の整流器モジュール5X、5Y、5Zを備えている。整流器モジュール5Xは、固定子巻線2に含まれるX相巻線に接続されている。整流器モジュール5Yは、固定子巻線2に含まれるY相巻線に接続されている。整流器モジュール5Zは、固定子巻線2に含まれるZ相巻線に接続されている。
他方の整流器モジュール群6は、一方の固定子巻線3に接続されており、全体で三相全波整流回路(ブリッジ回路)が構成され、固定子巻線3に誘起される交流電流を直流電流に変換する。この整流器モジュール群6は、固定子巻線3の相数に対応する数(三相巻線の場合には3個)の整流器モジュール6U、6V、6Wを備えている。整流器モジュール6Uは、固定子巻線3に含まれるU相巻線に接続されている。整流器モジュール6Vは、固定子巻線3に含まれるV相巻線に接続されている。整流器モジュール6Wは、固定子巻線3に含まれるW相巻線に接続されている。
発電制御装置7は、F端子を介して接続された界磁巻線4に流す励磁電流を制御する励磁制御回路であって、励磁電流を調整することにより車両用発電機1の出力電圧(発電電圧、各整流器モジュールの出力電圧)VB が調整電圧Vreg になるように制御する。例えば、発電制御装置7は、出力電圧VB が調整電圧Vreg よりも高くなったときに界磁巻線4への励磁電流の供給を停止し、出力電圧VB が調整電圧Vreg よりも低くなったときに界磁巻線4に励磁電流の供給を行うことにより、出力電圧VB が調整電圧Vreg になるように制御する。また、発電制御装置7は、固定子巻線のいずれかの相電圧(例えばX相)に基づいて回転子の回転数を検出し、回転停止を検出したときに界磁巻線4への励磁電流の供給を停止あるいは低減する。さらに、発電制御装置7は、通信端子Lおよび通信線を介してECU8(外部制御装置)と接続されており、ECU8との間で双方向のシリアル通信(例えば、LIN(Local Interconnect Network)プロトコルを用いたLIN通信)を行い、通信メッセージを送信あるいは受信する。
図2に示すように、発電制御装置7は、MOSトランジスタ71、還流ダイオード72、抵抗73、74、電圧比較回路75、励磁電流制御回路76、回転検出回路77、通信回路78、電源回路79、コンデンサ80を有している。通信回路78は、ECU8との間でシリアル通信を行う。これにより、ECU8から送られてくる調整電圧Vreg 等のデータを受信することができる。
抵抗73、74は、分圧回路を構成し、車両用発電機1の発電電圧(出力電圧)を分圧した電圧を電圧比較回路75に入力する。電圧比較回路75は、抵抗73、74で分圧された発電電圧と、通信回路78によって受信した調整電圧Vreg に対応する基準電圧とを比較する。例えば、比較結果として、基準電圧の方が発電電圧よりも高い場合にはハイレベルの信号が出力され、反対に発電電圧の方が基準電圧よりも高い場合にはローレベルの信号が出力される。
励磁電流制御回路76は、電圧比較回路75の出力(電圧比較結果)に基づいて決定した駆動デューティを有するPWM信号でMOSトランジスタ71をオンオフ制御する。なお、出力電流の急激な変動を抑えるために、励磁電流を徐々に変化させる徐励制御等を励磁電流制御回路76によって行うようにしてもよい。
回転検出回路77は、P端子を介して一方の固定子巻線2のX相巻線が接続されており、X相巻線の端部に現れる相電圧VP に基づいて、具体的には、相電圧と回転検出用の基準電圧の大小関係が周期的に変化することを検出して回転検出を行っている。整流器モジュール5Xや固定子巻線2などに短絡故障が発生していない正常時には、発電時にP端子には所定の振幅を有する相電圧VP が現れるため、この相電圧VP に基づく回転検出が可能となる。
励磁電流制御回路76は、回転検出回路77による回転検出結果が入力されており、回転検出中は発電動作に必要な励磁電流を界磁巻線4に供給するために必要なPWM信号を出力するが、所定時間(あるいは周期)以上回転停止(回転検出不能)状態が継続すると、励磁電流を初期励磁状態に対応した値にするために必要なPWM信号を出力する。
電源回路79は、発電制御装置7に含まれる各回路に動作電圧を供給する。コンデンサ80は、整流器モジュール群5、6の出力端子から侵入するノイズを除去するためのものであり、例えば1μF程度の容量を有している。
本実施形態の車両用発電機1はこのような構成を有しており、次に、整流器モジュール5X等の詳細について説明する。整流器モジュール5Xと他の整流器モジュール5Y、5Z、6U、6V、6Wは同じ構成を有している。以下では、整流器モジュール5Xについて詳細を説明する。
図3に示すように、整流器モジュール5Xは、2つのMOSトランジスタ50、51、制御回路54を備えている。MOSトランジスタ50は、ソースが固定子巻線2のX相巻線に接続され、ドレインが充電線12を介して電気負荷10やバッテリ9の正極端子に接続された上アーム(ハイサイド側)のスイッチング素子である。MOSトランジスタ51は、ドレインがX相巻線に接続され、ソースがバッテリ9の負極端子(アース)に接続された下アーム(ローサイド側)のスイッチング素子である。また、MOSトランジスタ50、51のそれぞれのソース・ドレイン間にはダイオードが並列接続されている。このダイオードはMOSトランジスタ50、51の寄生ダイオード(ボディダイオード)によって実現されるが、別部品としてのダイオードをさらに並列接続するようにしてもよい。なお、上アームおよび下アームの少なくとも一方を、MOSトランジスタ以外のスイッチング素子を用いて構成するようにしてもよい。
図4に示すように、制御回路54は、制御部100、電源190、出力電圧検出部110、上MOS VDS検出部120、下MOS VDS検出部130、下MOS VDS増幅部142、通電方向判定部144、上MOS温度検出部150、下MOS温度検出部151、励磁電流停止スイッチ駆動信号送信部170、ドライバ192、194を備えている。
電源190は、P端子に相電圧が印加されるタイミングで制御回路54に含まれる各素子に動作電圧を供給するとともに、この相電圧の印加が終了したときに動作電圧の供給を停止する。この電源190の起動、停止は、制御部100からの指示に応じて行われる。
ドライバ192は、出力端子(G1)がハイサイド側のMOSトランジスタ50のゲートに接続されており、MOSトランジスタ50をオンオフする駆動信号を生成する。同様に、ドライバ194は、出力端子(G2)がローサイド側のMOSトランジスタ51のゲートに接続されており、MOSトランジスタ51をオンオフする駆動信号を生成する。
出力電圧検出部110は、例えば差動増幅器とその出力をデジタルデータに変換するアナログ−デジタル変換器によって構成されており、車両用発電機1(あるいは整流器モジュール5X)の出力端子(B端子)の電圧に対応するデータを出力する。なお、アナログ−デジタル変換器は、制御部100側に設けるようにしてもよい。
上MOS VDS検出部120は、B端子とP端子に接続されており、ハイサイド側のMOSトランジスタ50のドレイン・ソース間電圧VDSを検出し、検出したドレイン・ソース間電圧VDSを所定のしきい値と比較してその大小に応じた信号を出力する。図5において、横軸はドレイン側の出力電圧VB を基準としたドレイン・ソース間電圧VDSを示している。また、縦軸は上MOS VDS検出部120から出力される信号の電圧レベルを示している。図5に示すように、相電圧VP が高くなって出力電圧VB よりも0.3V以上高くなるとVDSが0.3V以上になるため、上MOS VDS検出部120の出力信号がローレベル(0V)からハイレベル(5V)に変化する。その後、相電圧VP が出力電圧VB よりも1.0V以上低くなるとVDSが−1.0V以下になるため、上MOS VDS検出部120の出力信号がハイレベルからローレベルに変化する。
上述した出力電圧VB よりも0.3V高い値が図9のしきい値V10に対応している。このしきい値V10は、ダイオード通電期間の開始時点を確実に検出するためのものであり、出力電圧VB にオン時のMOSトランジスタ50のドレイン・ソース間電圧VDSを加算した値よりも高く、出力電圧VB にMOSトランジスタ50と並列接続されたダイオードの順方向電圧VFを加算した値よりも低い値に設定されている。また、上述した出力電圧VB よりも1.0V低い値が図9のしきい値V20に対応している。このしきい値V20は、ダイオード通電期間の終了時点を確実に検出するためのものであり、出力電圧VB よりも低い値に設定されている。相電圧VP がしきい値V10に達した後にしきい値V20に達するまでを上アームの「オン期間」としている。なお、このオン期間は、MOSトランジスタ50がオフ状態のときに実際にダイオードに通電される「ダイオード通電期間」とは開始時点と終了時点がずれているが、本実施形態の同期制御はこのオン期間に基づいて行われる。
下MOS VDS検出部130は、P端子とグランド端子(E端子)に接続されており、ローサイド側のMOSトランジスタ51のドレイン・ソース間電圧VDSを検出し、検出したドレイン・ソース間電圧VDSを所定のしきい値と比較してその大小に応じた信号を出力する。図6において、横軸はドレイン側のバッテリ負極端子電圧であるグランド端子電圧VGND を基準としたドレイン・ソース間電圧VDSを示している。また、縦軸は下MOS VDS検出部130から出力される信号の電圧レベルを示している。図6に示すように、相電圧VP が低くなってグランド電圧VGND よりも0.3V以上低くなるとVDSが−0.3V以下になるため、下MOS VDS検出部130の出力信号がローレベル(0V)からハイレベル(5V)に変化する。その後、相電圧VP がグランド電圧VGND よりも1.0V以上高くなるとVDSが1.0V以上になるため、下MOS VDS検出部130の出力信号がハイレベルからローレベルに変化する。
上述したグランド電圧VGND よりも0.3V低い値が図9のしきい値V11に対応している。このしきい値V11は、ダイオード通電期間の開始時点を確実に検出するためのものであり、グランド電圧VGND からオン時のMOSトランジスタ51のドレイン・ソース間電圧VDSを減算した値よりも低く、グランド電圧VGND からMOSトランジスタ51と並列接続されたダイオードの順方向電圧VFを減算した値よりも高い値に設定されている。また、上述した出力電圧VGND よりも1.0V高い値が図9のしきい値V21に対応している。このしきい値V21は、ダイオード通電期間の終了時点を確実に検出するためのものであり、グランド電圧VGND よりも高い値に設定されている。相電圧VP が第1のしきい値に達した後に第2のしきい値に達するまでを下アームの「オン期間」としている。なお、このオン期間は、MOSトランジスタ51がオフ状態のときに実際にダイオードに通電される「ダイオード通電期間」とは開始時点と終了時点がずれているが、本実施形態の同期整流はこのオン期間に基づいて行われる。
下MOS VDS増幅部142は、オン時のMOSトランジスタ51のドレイン・ソース間電圧VDSを、例えば5倍(−0.5V〜+0.5V)に増幅する(図11C)。また、通電方向判定部144は、例えば+0.35Vに設定されたしきい値電圧と、増幅後のドレイン・ソース間電圧VDSとを比較し、しきい値電圧の方が高いとき(範囲W)にハイレベルの信号を出力し、それ以外のときにローレベルの信号を出力する。
上MOS温度検出部150は、MOSトランジスタ50に隣接配置された感温ダイオードの順方向電圧に基づいてMOSトランジスタ50の温度を検出し、温度が高いときにハイレベル、低いときにローレベルの信号を出力する。同様に、下MOS温度検出部151は、MOSトランジスタ51に隣接配置された感温ダイオードの順方向電圧に基づいてMOSトランジスタ51の温度を検出し、温度が高いときにハイレベル、低いときにローレベルの信号を出力する。これらの上MOS温度検出部150、下MOS温度検出部151は、制御部100に含ませるようにしてもよい。図7において、横軸は温度(°C)を示している。また、縦軸は上MOS温度検出部150、下MOS温度検出部151から出力される信号の電圧レベルを示している。図7に示すように、温度が上昇していって200°C以上になると、上MOS温度検出部150、下MOS温度検出部151の出力信号がローレベル(0V)からハイレベル(5V)に変化する。その後、温度が低下していって170°Cよりも低くなると、上MOS温度検出部150、下MOS温度検出部151の出力信号がハイレベルからローレベルに変化する。
励磁電流停止スイッチ駆動信号送信部170は、整流器モジュール5Xにおいて異常が発生したときに、MOSトランジスタ40をオフする駆動信号をIF_STOP端子から出力する。異常であるか否かの判定は、P端子に接続された固定子巻線2のX相の相電圧と、発電制御装置7のF端子の電圧と、上MOS温度検出部150および下MOS温度検出部151の各出力とに基づいて異常判定部123(図8)によって行われる。
制御部100は、同期整流動作を開始および終了するタイミングの判定、同期整流を実施するためのMOSトランジスタ50、51のオン/オフタイミングの設定、このオン/オフタイミングの設定に対応したドライバ192、194の駆動、ロードダンプ保護動作、異常発生の有無判定や異常発生時の発電抑制動作などを行う。
図8に示すように、制御部100は、回転数演算部101、同期制御開始判定部102、上MOSオンタイミング判定部103、下MOSオンタイミング判定部104、目標電気角設定部105、上MOS・TFB時間演算部106、上MOSオフタイミング演算部107、下MOS・TFB時間演算部108、下MOSオフタイミング演算部109、ロードダンプ判定部111、電源起動・停止判定部112、オフタイミング異常判定部121、同期制御停止判定部122、異常判定部123、励磁オンオフ判定部124を備えている。これらの各構成は、例えばメモリ等に記憶された所定の動作プログラムをCPUで実行することにより実現されるが、各構成をハードウエアを用いて実現するようにしてもよい。各構成の具体的な動作内容については後述する。
上述したMOSトランジスタ40が第1のスイッチング素子に、整流器モジュール5X等がスイッチング部に、制御部100、ドライバ192、194がスイッチング制御部に、励磁オンオフ判定部124が電圧検出部に、異常判定部123が異常検出部に、励磁電流停止スイッチ駆動信号送信部170が駆動部にそれぞれ対応する。
本実施形態の整流器モジュール5X等はこのような構成を有しており、次にその動作を説明する。
(1)電源起動・停止判定
電源起動・停止判定部112は、P端子に接続されており、整流器モジュール5Xが接続された固定子巻線2のX相の相電圧(ピーク電圧)が所定値(例えば5V)を超えたことを検出したときに、電源190に起動を指示する。また、電源起動・停止判定部112は、この相電圧が所定値(5V)以下になった状態が所定時間(例えば1秒)継続したときに電源190に停止を指示する。このようにして車両用発電機1の正常動作時(発電時)のみ整流器モジュール5X等を動作させており、発電せずに停止している場合に、必要最小限の回路しか動作させないため、暗電流を低減し、バッテリ上がりを防止することができる。
(2)同期制御動作
図9において、「上アーム・オン期間」は上MOS VDS検出部120の出力信号を、「上MOSオン期間」はハイサイド側のMOSトランジスタ50のオン/オフタイミングを、「下アーム・オン期間」は下MOS VDS検出部130の出力信号を、「下MOSオン期間」はローサイド側のMOSトランジスタ51のオン/オフタイミングをそれぞれ示している。また、TFB1 、TFB2 、目標電気角、ΔTについては後述する。
上MOSオンタイミング判定部103は、上MOS VDS検出部120の出力信号(上アーム・オン期間)を監視しており、この出力信号のローレベルからハイレベルへの立ち上がりをハイサイド側のMOSトランジスタ50のオンタイミングとして判定し、ドライバ192に指示を送る。ドライバ192は、この指示に応じてMOSトランジスタ50をオンする。
上MOSオフタイミング演算部107は、MOSトランジスタ50がオンされてから所定時間経過後をMOSトランジスタ50のオフタイミングとして判定し、ドライバ192に指示を送る。ドライバ192は、この指示に応じてMOSトランジスタ50をオフする。
このオフタイミングを決定する所定時間は、上アーム・オン期間の終了時点(上MOS VDS検出部120の出力信号がハイレベルからローレベルに立ち下がる時点)よりも「目標電気角」だけ早くなるように、その都度可変設定される。
この目標電気角は、MOSトランジスタ50を常時オフしてダイオードを通して整流を行う場合を考えたときに、このダイオード整流における通電期間の終了時点よりもMOSトランジスタ50のオフタイミングが遅くならないようにするためのマージンであり、目標電気角設定部105によって設定される。目標電気角設定部105は、回転数演算部101によって演算された回転数に基づいて目標電気角を設定する。この目標電気角は、回転数に関係なく一定でもよいが、より望ましくは、低回転領域および高回転領域において目標電気角を大きく、その中間領域において目標電気角を小さく設定するようにしてもよい。
回転数演算部101は、下MOS VDS検出部130の出力信号の立ち上がり周期あるいは立ち下がり周期に基づいて回転数を演算している。下MOS VDS検出部130の出力信号を用いることにより、車両用発電機1の出力電圧VB の変動に関係なく、安定した回転数検出が可能になる。
同様に、下MOSオンタイミング判定部104は、下MOS VDS検出部130の出力信号(下アーム・オン期間)を監視しており、この出力信号のローレベルからハイレベルへの立ち上がりをローサイド側のMOSトランジスタ51のオンタイミングとして判定し、ドライバ194に指示を送る。ドライバ194は、この指示に応じてMOSトランジスタ51をオンする。
下MOSオフタイミング演算部109は、MOSトランジスタ51がオンされてから所定時間経過後をMOSトランジスタ51のオフタイミングとして判定し、ドライバ194に指示を送る。ドライバ194は、この指示に応じてMOSトランジスタ51をオフする。
このオフタイミングを決定する所定時間は、下アーム・オン期間の終了時点(下MOS VDS検出部130の出力信号がハイレベルからローレベルに立ち下がる時点)よりも「目標電気角」だけ早くなるように、その都度可変設定される。
この目標電気角は、MOSトランジスタ51を常時オフしてダイオードを通して整流を行う場合を考えたときに、このダイオード整流における通電期間の終了時点よりもMOSトランジスタ51のオフタイミングが遅くならないようにするためのマージンであり、目標電気角設定部105によって設定される。
ところで、実際には、上アーム・オン期間や下アーム・オン期間の終了時点は、MOSトランジスタ50、51をオフする時点ではわかっていないため、上MOSオフタイミング演算部107や下MOSオフタイミング演算部109は、半周期前の情報をフィードバックすることにより、MOSトランジスタ50やMOSトランジスタ51のオフタイミングの設定精度を上げている。
例えば、ハイサイド側のMOSトランジスタ50のオフタイミングは以下のようにして設定される。下MOS・TFB時間演算部108は、半周期前のローサイド側のMOSトランジスタ51をオフしてから下アーム・オン期間の終了時点までの時間(電気角)TFB2 (図9)を演算し、上MOSオフタイミング演算部107は、このTFB2 から目標電気角を差し引いたΔTを求める。回転等が安定していればTFB2 と目標電気角とが等しくなってΔT=0となるはずであるが、(1)車両の加減速に伴う回転変動、(2)エンジン回転の脈動、(3)電気負荷の変動、(4)所定のプログラムを実行して制御部100を実現する場合の動作クロック周期の変動、(5)ドライバ192、194にMOSトランジスタ50、51をオフする指示を出してから実際にオフされるまでのターンオフ遅れ、などに伴ってΔTが0にならないことが多い。
そこで、上MOSオフタイミング演算部107は、半周期前に下MOSオフタイミング演算部109で用いられた下MOSオン期間をΔTに基づいて補正して上MOSオン期間を設定し、MOSトランジスタ50のオフタイミングを決定している。具体的には、補正係数をαとしたときに、上MOSオン期間は、以下の式で設定される。
(上MOSオン期間)=(半周期前の下MOSオン期間)+ΔT×α
同様に、ローサイド側のMOSトランジスタ51のオフタイミングは以下のようにして設定される。上MOS・TFB時間演算部106は、半周期前のハイサイド側のMOSトランジスタ51をオフしてから上アーム・オン期間の終了時点までの時間(電気角)TFB1 (図9)を演算し、下MOSオフタイミング演算部109は、このTFB1 から目標電気角を差し引いたΔTを求める。下MOSオフタイミング演算部109は、半周期前に上MOSオフタイミング演算部107で用いられた上MOSオン期間をΔTに基づいて補正して下MOSオン期間を設定し、MOSトランジスタ51のオフタイミングを決定している。具体的には、補正係数をαとしたときに、下MOSオン期間は、以下の式で設定される。
(下MOSオン期間)=(半周期前の上MOSオン期間)+ΔT×α
このようにして、ダイオード整流を行う場合と同じ周期で、ハイサイド側のMOSトランジスタ50とローサイド側のMOSトランジスタ51が交互にオンされ、MOSトランジスタ50、51を用いた低損失の同期整流動作が行われる。
(3)同期制御の開始判定
次に、上述した同期制御に移行するか否かの判定動作について説明する。整流器モジュール5X等が起動された直後や、何らかの異常が発生して同期制御を一旦停止した後は、所定の同期制御開始条件を満たす場合に同期制御に移行する。同期制御開始判定部102は、同期制御開始条件を満たすか否かの判定を行い、満たすと判断した場合にその旨の通知が上MOSオンタイミング判定部103と下MOSオンタイミング判定部104に送られる。以後、上述した同期制御が実施されて、MOSトランジスタ50、51が交互にオンされる。
同期制御開始条件としては、以下の(A)〜(F)が用いられる。
(A)上アーム・オン期間と下アーム・オン期間(図9)が上下連続して32回発生する。なお、32回は、8極の回転子を想定し、機械角2回転分に相当する値である。この値は、1回転に相当する値である16や、3回転以上に相当する値、あるいは機械角1回転の整数倍に相当する値以外に変更してもよい。
(B)出力電圧VB が正常範囲である7Vより高く18Vよりも低い範囲に含まれる。なお、12V系の車両システムを想定して正常範囲の下限値を7V、上限値を18Vとしたが、これらの下限値および上限値は適宜変更するようにしてもよい。また、24V系等の車両システムでは、発電電圧に合わせて下限値および上限値を変更する必要がある。
(C)MOSトランジスタ50、51について異常判定部123によって異常発生の判定がなされていない。
(D)ロードダンプ保護動作中でない。
(E)出力電圧VB の変動が0.5V/200μ秒よりも小さい。なお、同期制御を開始したときにこの変動がどの程度許容されるかは、使用する素子やプログラムによって変化するため、この変動の許容値は、使用する素子等に応じて適宜変更するようにしてもよい。
(F)TFB1、TFB2がともに15μ秒より長い。なお、これらの期間がどの程度以下になると異常といえるかは、異常の発生原因等によって変化するため、この許容値(15μ秒)は、異常発生原因等に応じて適宜変更するようにしてもよい。また、TFB1、TFB2は、上MOS・TFB時間演算部106、下MOS・TFB時間演算部108によって同期制御動作中に演算されるものとして説明したが、同期制御開始前であってもこれらの演算は行われており、同期制御の開始判定に用いられる。
図10において、ロードダンプ判定部111は、出力電圧VB が20Vを超えたときに、車両用発電機1の出力端子やバッテリ端子が外れてサージ電圧が発生するロードダンプを検出し、ドライバ192、194に指示を送ってハイサイド側のMOSトランジスタ50をオフするとともに、ローサイド側のMOSトランジスタ51をオンするロードダンプ保護動作を開始する。また、ロードダンプ判定部111は、一旦20Vよりも高くなった出力電圧VB が低下して17Vより低くなったときに、ロードダンプ保護動作を終了する。ロードダンプ判定部111は、ロードダンプ保護動作中はハイレベル、それ以外のときにローレベルとなる信号を同期制御開始判定部102に向けて出力する。
なお、ロードダンプ保護動作の開始あるいは終了時にMOSトランジスタ50、51のオン/オフによって新たなサージ電圧が発生することを避けるため、ロードダンプ保護判定部111は、図9に示す下アーム・オン期間の間にロードダンプ保護動作の開始あるいは終了を行うようにしている。
同期制御が行われる通常時には、図11Aに示すように、相電圧VP は、出力電圧VB (バッテリ9の正極端子電圧)近傍の下限値とグランド端子電圧VGND 近傍の上限値との間で周期的に変化している。一方、ロードダンプ発生時には、ハイサイド側のMOSトランジスタ50がオフされ、ローサイド側のMOSトランジスタ51がオンされ、この状態が維持される。したがって、図11Bに示すように、相電圧VP は、グランド端子電圧VGND を中心に、MOSトランジスタ51のオン時のドレイン・ソース間電圧VDSの範囲で周期的に変化するようになる。なお、図11Bに示す例では、MOSトランジスタ51のオン時のドレイン・ソース間電圧VDSが、例えば0.1Vとして図示されている。但し、このドレイン・ソース間電圧VDSは、使用するMOSトランジスタ51の仕様やゲート電圧等に応じて異なる。
図4に示した下MOS VDS増幅部142は、オン時のMOSトランジスタ51のドレイン・ソース間電圧VDSを、例えば5倍(−0.5V〜+0.5V)に増幅する(図11C)。また、通電方向判定部144は、例えば+0.35Vに設定されたしきい値電圧と、増幅後のドレイン・ソース間電圧VDSとを比較し、しきい値電圧の方が高いとき(範囲W)にハイレベルの信号を出力し、それ以外のときにローレベルの信号を出力する。
図11Cにおいて、Wで示された範囲は、通常時にローサイド側のMOSトランジスタ51がオンされるタイミングにほぼ対応している。本実施形態では、このWの範囲を、ロードダンプ保護動作を開始あるいは終了させるタイミングとしている。すなわち、このWの範囲に含まれていれば、ロードダンプ保護動作を開始するためにローサイド側のMOSトランジスタ51をオンしたときに、このMOSトランジスタ51に並列接続されたダイオードの順方向と同じ方向にMOSトランジスタ51を介して電流が流れることになるため、サージ電圧の発生を抑制することができる。また、このWの範囲に含まれていれば、ロードダンプ保護動作を終了するためにローサイド側のMOSトランジスタ51をオフする前に、このMOSトランジスタ51を介して流れる電流の向きと、オフした後に、このMOSトランジスタ51に並列接続されたダイオードを介して流れる電流の向きが同じになるため、サージ電圧の発生を抑制することができる。
なお、上述したしきい値電圧にはヒステリシス特性を持たせるようにしてもよい。例えば、ドレイン・ソース間電圧VDSの方が低い場合のしきい値電圧を+0.35Vとし、ドレイン・ソース間電圧VDSの方が高くなった後のしきい値電圧を+0.3Vとする場合が考えられる。これにより、ドレイン・ソース間電圧VDSがしきい値電圧付近で変動した場合に、通電方向判定部144の出力信号のレベルが頻繁に切り替わることを防止することができる。
VB 範囲判定部113は、出力電圧検出部110によって検出された出力電圧VB が7〜18Vの範囲に含まれているか否かを判定し、含まれている場合にはローレベル、含まれていない場合(7V以下か18V以上の場合)にはハイレベルの信号を出力する。VB 変動判定部114は、出力電圧検出部110によって検出された出力電圧VB の変動が0.5V/200μ秒よりも小さいか否かを判定し、小さい場合にはローレベル、大きい場合にはハイレベルの信号を出力する。TFB時間判定部115は、上MOS・TFB時間演算部106によって検出されたTFB1 と、下MOS・TFB時間演算部108によって検出されたTFB2 のそれぞれが15μ秒よりも長いか否かを判定し、長い場合にはローレベル、以下の場合にハイレベルの信号を出力する。異常判定部123は、異常発生時にハイレベル、異常が発生していないときにローレベルの信号を出力する。
なお、図10では、VB 範囲判定部113、VB 変動判定部114、TFB時間判定部115を同期制御開始判定部102の外部に設けたが、同期制御開始判定部102に内蔵するようにしてもよい。また、上述した例では、(A)〜(F)の全ての条件を満たす場合に同期制御を開始する場合を想定したが、(B)〜(F)の少なくとも一つと(A)とを組み合わせて同期制御開始条件としてもよい。
図12において、「カウント値」は上アーム・オン期間と下アーム・オン期間のそれぞれの立ち上がり(開始タイミング)に同期したカウント値を、「TFB時間フラグ」はTFB時間判定部115の出力を、「電圧範囲フラグ」はVB 範囲判定部113の出力を、「LDフラグ」はロードダンプ判定部111の出力を、「異常判定フラグ」は異常判定部123の出力を、「電圧変動フラグ」はVB 変動判定部114の出力をそれぞれ示している。
同期制御開始判定部102は、上アーム・オン期間と下アーム・オン期間のそれぞれの立ち上がりに同期したカウント動作を行い、このカウント動作のカウント値が「32」に達したときに同期制御開始を示す信号(ローレベルが同期制御開始を示し、ハイレベルが同期制御停止を示している)を上MOSオンタイミング判定部103および下MOSオンタイミング判定部104に入力する。上MOSオンタイミング判定部103および下MOSオンタイミング判定部104では、同期制御開始を示す信号が入力されると、MOSトランジスタ50、51を交互にオンする同期制御を開始する。
ところで、同期制御開始判定部102は、上アーム・オン期間と下アーム・オン期間の立ち上がりの間隔が電気角で1周期以下であること、TFB時間判定部115、VB 範囲判定部113、ロードダンプ判定部111、異常判定部123、VB 変動判定部114の各出力(TFB時間フラグ、電圧範囲フラグ、LDフラグ、異常判定フラグ、電圧変動フラグ)が全てローレベルであること、を条件に上述したカウント動作を継続する。反対に、同期制御開始判定部102は、カウント値が32に達するまでに、上アーム・オン期間と下アーム・オン期間の立ち上がりの間隔が電気角で1周期を超えたり、TFB時間判定部115、VB 範囲判定部113、ロードダンプ判定部111、異常判定部123、VB 変動判定部114のいずれかの出力がハイレベルになった場合には、カウント値を0にリセットし、カウント動作継続の条件を満たすようになってからカウント動作を再開する。
(4)同期制御の停止判定
次に、上述した同期制御中に同期制御を停止するか否かの判定動作について説明する。同期制御停止判定部122は、同期制御中に所定の同期制御停止条件を満たすか否かの判定を行い、満たすと判断した場合にその旨の通知が同期制御開始判定部102、上MOSオンタイミング判定部103、下MOSオンタイミング判定部104、上MOSオフタイミング演算部107、下MOSオフタイミング演算部109に送られる。以後、同期制御開始判定部102によって同期制御が開始されるまで同期制御が停止される。
同期制御停止条件としては、以下の(a)〜(e)が用いられる。
(a)下MOSオフタイミング演算部109によって設定されたMOSトランジスタ51のオフタイミングから、相電圧VP が上昇していって次にMOSトランジスタ50のオンタイミングを判定するために用いられた第1のしきい値に達するまでの時間が所定時間よりも短い。
この所定時間は、下MOSオフタイミング演算部109によってオフタイミングを指示してから実際にドライバ194によってMOSトランジスタ51がオフされるまでの時間、具体的には、ドライバ194によってMOSトランジスタ51をオフする際のMOSトランジスタ51の駆動能力に応じて設定される。オフタイミング異常判定部121は、この条件を満たす場合(所定時間よりも短い場合)にハイレベル、それ以外のときにローレベルとなる信号を出力する。
図13に示すように、MOSトランジスタ51をオフするタイミングが下アーム・オン期間の終了タイミングよりも遅くなると、その時点でMOSトランジスタ51を通して流れていた電流を遮断することになるため、サージ電圧が発生する。図13では、サージ電圧がSで示されている。このサージ電圧は、MOSトランジスタ51をオフした直後に発生するものである。実際に下MOSオフタイミング演算部109によってオフタイミングが指示されてからMOSトランジスタ51がオフされるまでに要する時間をt0(図13)とすると、オフタイミング遅れに伴うサージ電圧の発生を検出するために、上述した所定時間は、下MOSオフタイミング演算部109によってオフタイミングを指示してから時間t0よりもβだけ長く設定されている。このβは、時間t0経過後に発生するサージ電圧が含まれる値であって、正常に同期制御を行っているとき(オフタイミング異常が発生していないとき)に、相電圧VP が上昇していって第1のしきい値に達するまでの時間よりも短い必要がある。
(b)上MOSオフタイミング演算部107によって設定されたMOSトランジスタ50のオフタイミングから、相電圧VP が低下していって次にMOSトランジスタ51のオンタイミングを判定するために用いられた第2のしきい値に達するまでの時間が所定時間よりも短い。
この所定時間は、上MOSオフタイミング演算部107によってオフタイミングを指示してから実際にドライバ192によってMOSトランジスタ50がオフされるまでの時間、具体的には、ドライバ192によってMOSトランジスタ50をオフする際のMOSトランジスタ50の駆動能力に応じて設定される。オフタイミング異常判定部121は、この条件を満たす場合(所定時間よりも短い場合)にハイレベル、それ以外のときにローレベルとなる信号を出力する。
なお、上述した(a)、(b)で示された所定時間は、同じ値であってもよいが、異なる値を用いるようにしてもよい。また、これらの所定時間は、主にドライバ192、194の駆動能力に応じて設定するものであるため、回転数に関係なく一定値を用いることが望ましい。
(c)出力電圧VB の変動が0.5V/200μ秒よりも大きくなった。
なお、同期制御を継続する場合にこの変動がどの程度許容されるかは、使用する素子やプログラムによって変化するため、この同期制御の停止判定に用いられる許容値は、使用する素子等に応じて適宜変更するようにしてもよい。
例えば、出力電流が150Aから15Aに急に減少すると、図14に示すように、出力電圧VB が上昇する。この出力電圧の上昇に伴って、上アーム・オン期間は、出力変動がない場合の値T10からT11、T12(<T10)に変化する。下アーム・オン期間についても同様である。このように、上アーム・オン期間あるいは下アーム・オン期間自体が短くなると、それまでと同じ手順でオフタイミングを設定しても、MOSトランジスタ50、51のオフタイミングが上アーム・オン期間あるいは下アーム・オン期間よりも遅くなる事態が生じるため、これを回避するために上述した許容値が用いられる。同期制御開始判定でも、同様の趣旨により同じ許容値が用いられているが、この許容値は、同期制御開始判定と同期制御停止判定で異なる値を用いるようにしてもよい。
(d)ロードダンプ保護動作に移行した。
(e)MOSトランジスタ50、51の異常(過熱状態、ショートあるいはレアショート)が発生した。
図15に示す構成は、図8に示した構成の中から同期制御停止判定に必要な構成を抜き出したものである。また、VB 変動判定部114については、図10に示された同期制御開始判定用のVB 変動判定部114がそのまま同期制御停止判定においても用いられている。
図15に示すように、同期制御停止判定部122には、オフタイミング異常判定部121、VB 変動判定部114、ロードダンプ判定部111、異常判定部123の各出力が入力されている。
オフタイミング異常判定部121からは、上述した同期制御停止条件(a)あるいは(b)を満たしているときにハイレベルの信号が出力される。また、VB 変動判定部114からは、出力電圧検出部110によって検出された出力電圧VB の変動が0.5V/200μ秒よりも大きく、上述した同期制御停止条件(c)を満たしているときにハイレベルの信号が出力される。また、ロードダンプ判定部111からは、ロードダンプ動作中であって、上述した同期制御停止条件(d)を満たしているときにハイレベルの信号が出力される。また、異常判定部123からは、上述した同期制御停止条件(e)を満たしているとき、具体的には、過熱状態が発生、あるいは、ショートあるいはレアショートが発生して異常判定フラグがセットされたときにハイレベルの信号が出力される。
同期制御停止判定部122は、オフタイミング異常判定部121、VB 変動判定部114、ロードダンプ判定部111、異常判定部123の各出力信号の中で一つでもハイレベルのものが含まれている場合には、同期制御停止条件を満たしていると判断し、同期制御を停止する旨の指示が同期制御開始判定部102、上MOSオンタイミング判定部103、下MOSオンタイミング判定部104、上MOSオフタイミング演算部107、下MOSオフタイミング演算部109に送られる。
(5)異常発生時の発電抑制動作
次に、MOSトランジスタ50、51の過熱状態やショートあるいはレアショートなどの異常が発生した場合の異常の有無判定動作と、異常発生時に行われる発電抑制動作について説明する。
励磁オンオフ判定部124は、F端子の電圧に基づいて励磁電流の駆動デューティ(オンデューティ)を判定する。異常判定部123は、P端子に接続された固定子巻線2のX相の相電圧と、発電制御装置7のF端子の電圧(正確には、このF端子電圧に基づいて判定された励磁電流の駆動デューティ)とに基づいて、MOSトランジスタ50、51のショートあるいはレアショートの発生の有無を判定する。ショートやレアショートが発生していない通常発電時には、P端子に接続された固定子巻線2のX相の相電圧は、バッテリ正極端子電圧とグランド端子電圧VGND との間を周期的に上下する。
このような相電圧の周期的な上下がない場合としては、以下の原因が考えられる。
・MOSトランジスタ50がショートあるいはレアショートしていて相電圧がバッテリ正極端子電圧の近傍にある(ケース1)。
・MOSトランジスタ51がショートあるいはレアショートしていて相電圧がグランド端子電圧VGND の近傍にある(ケース2)。
・界磁巻線4に励磁電流がほとんど流れていないため、ほぼ非発電状態にあって相電圧の振幅が小さい(ケース3)。
ケース3は特に異常ではないため、ショートやレアショートの有無を判定するためには除外する必要がある。そこで、異常判定部123は、F端子の電圧のデューティ(励磁駆動デューティ)が所定値(例えば50%)以上のときに、X相の相電圧がバッテリ正極端子電圧とグランド端子電圧VGND との間を周期的に上下していない場合に、MOSトランジスタ50、51にショートやレアショートの異常が発生している旨の判定を行い、ハイレベルの信号を出力する。
また、異常判定部123は、上MOS温度検出部150および下MOS温度検出部151の各出力に基づいて、MOSトランジスタ50、51の異常の有無を判定する。具体的には、異常判定部123は、上MOS温度検出部150および下MOS温度検出部151の少なくとも一方の出力がハイレベル(温度が200°C以上)の場合には、MOSトランジスタ50あるいは51が過熱状態の異常が発生している旨の判定を行い、ハイレベルの信号を出力する。
励磁電流停止スイッチ駆動信号送信部170は、異常判定部123からハイレベルの信号が出力されると、界磁巻線4に直列に接続されたMOSトランジスタ40をオフ駆動する。例えば、このMOSトランジスタ40は、ゲートにローレベルの信号が入力されるとオンされ、ハイレベルの信号が入力されるとオフされる。励磁電流停止スイッチ駆動信号送信部170は、異常発生時にハイレベルの駆動信号を出力するが、それ以外には出力端をハイインピーダンスに維持するようになっている。したがって、全ての整流器モジュール5X等を1本の信号線を介してMOSトランジスタ40のゲートに接続するとともに、整流器モジュール5X等のいずれかによってMOSトランジスタ40をオフすることが可能となる。以後、発電制御装置7のF端子から界磁巻線4への励磁電流の供給が停止され、発電抑制を確実に実施することができる。なお、励磁電流停止スイッチ駆動信号送信部170からの駆動信号の出力は、所定時間継続された後一旦解除される。この時点で、異常判定部123による異常判定(ハイレベルの信号出力)が継続していれば、再度駆動信号が出力される。このようにして所定時間毎の解除が繰り返される。
このように、本実施形態の車両用発電機1では、整流器モジュール5X等のMOSトランジスタ50、51に異常が生じた場合であって発電制御装置7による回転検出を不能にすることができない場合であっても、固定子巻線2のX相電圧とF端子の電圧とに基づいてMOSトランジスタ50、51の異常を検出することができ、界磁巻線4に対する励磁電流の供給を停止して確実に発電抑制を行うことが可能となる。
特に、固定子巻線2のX相電圧と、F端子電圧に基づいて判定される励磁電流の駆動デューティとに基づいて、MOSトランジスタ50、51の異常の有無を判定しており、駆動デューティと相電圧を組み合わせることにより、MOSトランジスタ50、51のショートやレアショートの異常を確実に検出することができる。
また、MOSトランジスタ40を界磁巻線4と直列に接続することにより、界磁巻線4に対する励磁電流の供給路を遮断することができ、確実に発電抑制を行うことが可能となる。
また、上MOS温度検出部150、下MOS温度検出部151を用いてMOSトランジスタ50、51の温度を検出して、この検出した温度が所定値以上になったときに、MOSトランジスタ50、51が異常である旨の判定を行っている。これにより、MOSトランジスタ50、51の温度が過度に上昇した場合に発電抑制を行うことが可能になり、過熱によるMOSトランジスタ50、51や制御回路54などの故障を防止することができる。特に、MOSトランジスタ50、51に隣接配置された感温ダイオードを用いて温度の検出を行うことにより、MOSトランジスタ50、51の温度を遅滞なく検出することができ、急激に温度が上昇する場合であっても発電抑制を迅速に実施してMOSトランジスタ50、51を保護することが可能となる。
また、励磁電流停止スイッチ駆動信号送信部170によるMOSトランジスタ40の駆動(オフ動作)は、所定時間が経過するごとに一旦解除されるため、異常発生を誤検出した場合に発電抑制を短時間で終わらせることができ、通常発電動作に迅速に復帰することが可能となる。
(第2の実施形態)
上述した実施形態では、発電制御装置7と界磁巻線4の間にMOSトランジスタ40を挿入したが、図16に示すように、これらの間に配置されたMOSトランジスタ40を省略し、代わりにMOSトランジスタ40を発電制御装置7Aの内部に設けるようにしてもよい。図17に構成を示す発電制御装置7Aは、図2に示した発電制御装置7に対してMOSトランジスタ71のソースとF端子の間にMOSトランジスタ40を挿入するとともに、このMOSトランジスタ40を外部から駆動するための専用端子(RIS端子)を設けた点が異なっている。このRIS端子には、整流器モジュール5X等のIF_STOP端子が接続されている。このように、発電制御装置7A内にMOSトランジスタ40を設けることにより、別部品としてのMOSトランジスタ40が不要になるため、車両用発電機1Aの組み付け工程を簡略化することができる。
(第3の実施形態)
上述した実施形態では、界磁巻線4と直列にMOSトランジスタ40が接続されていたが、図18に示すように、発電制御装置7と界磁巻線4の間に挿入されていたMOSトランジスタ40を省略し、代わりに界磁巻線4と並列にMOSトランジスタ40を接続するようにしてもよい。図19に示す発電制御装置7Bは、図2に示した発電制御装置7に対して短絡保護回路82が追加されている。この短絡保護回路82は、界磁巻線4の短絡を検出し(例えば、F端子の電圧に基づいて検出する)、短絡時に励磁電流の供給を停止する指示を励磁電流制御回路76に対して行う。励磁電流制御回路76は、この指示を受けてMOSトランジスタ71をオフする。
図18において界磁巻線4に並列に接続されたMOSトランジスタ40は、異常発生時に整流器モジュール5X等の励磁電流停止スイッチ駆動信号送信部170から出力される駆動信号がゲートに入力されるとオンされて、界磁巻線4の両端を短絡する。なお、第1および第2の実施形態では、駆動信号が入力されたときにMOSトランジスタ40がオフされるものとしていたため、本実施形態では、この点でMOSトランジスタ40の動作が異なっている。
このように、界磁巻線4と並列にMOSトランジスタ40を接続するとともに、発電制御装置7B内に短絡保護回路82を追加する本実施形態の車両用発電機1Bでは、異常発生時に、界磁巻線4と並列接続されたMOSトランジスタ40に一時的に大電流が流れるだけであるため、MOSトランジスタ40を小さくすることができる。
(第4の実施形態)
上述した第3の実施形態では、界磁巻線4と並列にMOSトランジスタ40を接続したが、このMOSトランジスタ40を省略し、代わりにMOSトランジスタ40を発電制御装置7Cの内部に設けるようにしてもよい。この場合の車両用発電機の全体構成は、図16に示した車両用発電機1Aにおいて発電制御装置7Aを発電制御装置7Cに置き換えたものとなる。
図20に構成を示す発電制御装置7Cは、図19に示した発電制御装置7Bに対してグランド端子とF端子の間にMOSトランジスタ40を挿入するとともに、このMOSトランジスタ40を外部から駆動するための専用端子(RIS端子)を設けた点が異なっている。このRIS端子には、整流器モジュール5X等のIF_STOP端子が接続されている。このように、発電制御装置7C内にMOSトランジスタ40を設けることにより、別部品としてのMOSトランジスタ40が不要になるため、車両用発電機の組み付け工程を簡略化することができる。
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の変形実施が可能である。例えば、上述した実施形態では、2つの固定子巻線2、3と2つの整流器モジュール群5、6を備えるようにしたが、一方の固定子巻線2と一方の整流器モジュール群5を備える車両用発電機についても本発明を適用することができる。
また、上述した実施形態では、各整流器モジュール5X等を用いて整流動作(発電動作)を行う場合について説明したが、MOSトランジスタ50、51のオン/オフタイミングを変更することにより、バッテリ9から印加される直流電流を交流電流に変換して固定子巻線2、3に供給して電動動作を行わせる車両用回転電機に本発明を適用することができる。
また、上述した実施形態では、2つの整流器モジュール群5、6のそれぞれに3つの整流器モジュールを含ませるようにしたが、整流器モジュールの数は3以外であってもよい。
また、上述した実施形態では、発電制御装置7等に励磁電流急変時にダイアグ(警報)を出力する機能が備わっていない場合を考えたが、図21に示す発電制御装置7Dのように、励磁電流が急に減少した場合にダイアグを通信端子Lから出力する警報回路84を備える場合も考えられる。この場合には、警報回路84は、異常発生の判定が誤りでないことを確認する間はダイアグの出力をマスクし、その後ダイアグを出力することが望ましい。例えば、励磁電流停止スイッチ駆動信号送信部170から出力される駆動信号は所定時間毎に解除されるが、異常発生の判定が正しい場合には何度も繰り返し駆動信号が出力される。したがって、この所定時間の整数倍の時間が経過した後ダイアグを出力するようにすれば、異常発生の誤検出に伴うダイアグの出力を回避することができる。