[第1実施形態]
本発明の第1実施形態を以下に図1〜図6を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態の動力伝達装置1は、一次側要素としての駆動プーリ2と、二次側要素としての被動プーリ3と、これらのプーリ2,3間の回転伝達を行うワイヤ4と、駆動プーリ2に回転駆動力を付与するアクチュエータとしての電動モータ5と、被動プーリ3と一体に回転するように該被動プーリ3に固定された負荷部材6とを備える。
なお、負荷部材6は、図1では一体の構造物として記載されているが、一体の構造物でなくてもよい。例えば、負荷部材6は、複数の関節を有するリンク機構であってもよい。
駆動プーリ2は、電動モータ5の出力軸5aに減速機7を介して接続されている。そして、駆動プーリ2は、電動モータ5の出力軸5aから減速機7を介して付与される回転駆動力(トルク)によって、電動モータ5の出力軸5aの回転に連動して回転するようになっている。
なお、減速機7は、任意の構造のものでよく、例えば、ハーモニックドライブ(登録商標)もしくは複数のギヤにより構成される減速機を採用することができる。あるいは、減速機7は、直動を回転運動に変換する機構を備えるものであってもよい。その場合には、アクチュエータとして、例えば、電動モータ及びボールネジにより構成される直動アクチュエータや、電動式のリニアモータ等を採用してもよい。
また、図1では、電動モータ5と駆動プーリ2とが同軸心に配置されているが、それらの回転軸心は、同軸心でなくてもよい。
被動プーリ3は、その回転軸心が駆動プーリ2の回転軸心と平行になるようにして、該駆動プーリ2の側方に並設されている。そして、両プーリ2,3は、それらの外周部がワイヤ4を介して連結されている。
さらに詳細には、ワイヤ4は、その両端部の一方が駆動プーリ2に固定されると共に他方が被動プーリ3に固定されて、両プーリ2,3の接線方向に延在するようにして張設されている。このため、ワイヤ4の張力によって、駆動プーリ2及び被動プーリ3の間の回転伝達が行なわれるようになっている。
なお、ワイヤ4は、駆動プーリ2及び被動プーリ3の回転軸心方向で見て、両プーリ2,3の間隔方向と直交する方向での両側にそれぞれ設けられていてもよい。
上記ワイヤ4は、弾性変形部材(弾性変形可能な部材)により構成されている。従って、駆動プーリ2から被動プーリ3への回転駆動力(トルク)の伝達は、ワイヤ4の弾性変形(ここでは伸縮)により発生する弾性力(ここでは張力)を介して行なわれるようになっている。そして、ワイヤ4の弾性変形に伴い、駆動プーリ2の回転角度θinと、被動プーリ3の回転角度θoutとの角度差(=θin−θout。以降、プーリ間回転角度差という)が発生するこのプーリ間回転角度差は、ワイヤ4の変形量に相当するものである。
この場合、駆動プーリ2から被動プーリ3への回転駆動力の伝達によって該被動プーリ3に付与されるトルク(以降、二次側トルクτという)は、次式(1)で示すように、プーリ間回転角度差に比例(又はほぼ比例)する。
τ=Ksp・(θin−θout) ……(1)
式(1)のKspはワイヤ4の剛性の度合いを示す弾性変形係数であり、本実施形態では、プーリ間回転角度差(換言すれば、ワイヤ4の変形量)の変化に対する二次側トルクτ(換言すれば、ワイヤ4の発生弾性力)の変化の比率(プーリ間回転角度差の単位変化量あたりの二次側トルクτの変化量)を意味する。
そして、本実施形態では、ワイヤ4は、式(1)の弾性変形係数Kspは、一定(もしくはほぼ一定)に保たれるように構成されている。なお、ワイヤ4の弾性変形係数Kspは、動力伝達装置1における実用上の二次側トルクτ又はプーリ間回転角度差の値の範囲内で一定(もしくはほぼ一定)であればよく、当該範囲外では、弾性変形係数Kspの値は一定でなくてもよい。
以上が、本実施形態の動力伝達装置1の機構的な構成である。
本実施形態は、さらに動力伝達装置1の動作制御のための構成として、制御装置10と、駆動プーリ2の回転角度θin及び被動プーリ3の回転角度θoutをそれぞれ検出する角度検出器11,12とを備える。
角度検出器11,12は、例えばロータリエンコーダにより構成され、それぞれ駆動プーリ2、被動プーリ3に対向して設けられている。なお、角度検出器11,12は、それぞれ、ポテンショメータ等、ロータリエンコーダ以外の角度センサにより構成されていてもよい。
制御装置10は、CPU、RAM、ROM、インターフェース回路等を含む電子回路ユニットにより構成され、角度検出器11,12の出力信号(検出信号)が入力される。また、制御装置10には、二次側トルクτの目標値τ_cmd(以降、二次側目標トルクτ_cmdという)が外部の他の制御装置もしくはサーバ等から逐次入力される。
上記二次側目標トルクτ_cmdは、負荷部材6の所望の動作を行なうための目標値である。なお、この二次側目標トルクτ_cmdは、制御装置10で逐次決定するようにしてもよい。
そして、制御装置10は、入力される検出信号及び二次側目標トルクτ_cmdを用いて所定のプログラム処理を実行することで、電動モータ5の作動を制御するための制御入力を逐次決定し、その制御入力に応じて電動モータ5の作動を制御するように構成されている。
この場合、制御装置10は、そのプログラム処理により実現される機能(ソフトウェアにより実現される機能)又はハードウェア構成により実現される主要な機能として、実際の二次側トルクτ(観測値)を二次側目標トルクτ_cmdに追従させるように上記制御入力を逐次決定する制御入力決定部13と、該制御入力に応じて図示しないモータドライブ回路を介して電動モータ5の通電電流(ひいては出力トルク)を制御するモータ制御部14とを備える。
上記制御入力は、本実施形態では、例えば、電動モータ5の目標トルク(出力トルクの目標値)である。ただし、制御入力は、電動モータ5の目標トルクを規定できるものであればよく、該目標トルク以外のものであってもよい。例えば、該制御入力として、駆動プーリ2自体に電動モータ5側から付与されるトルクの目標値、あるいは、電動モータ5の通電電流の目標値等を用いることも可能である。
制御入力決定部13は、実際の二次側トルクτ(観測値)を二次側目標トルクτ_cmdに追従させるための制御入力を、スライディングモード制御の制御処理によって、決定するように構成されている。
ここで、このスライディングモードの制御処理に関する基礎的な事項について説明しておく。
本実施形態における制御対象の系としての動力伝達装置1の挙動は、離散系において、次式(2)の状態方程式によりモデル化される。
ここで、θinは駆動プーリ2の回転角度、θoutは被動プーリ3の回転角度、dθinはθinの時間的変化率(すなわち、駆動プーリ2の回転角速度)、dθoutはθoutの時間的変化率(すなわち、被動プーリ3の回転角速度)、DTは制御処理周期、Kspはワイヤ4の弾性変形係数、Iinは駆動プーリ2側のイナーシャ(入力側イナーシャ)、Ioutは被動プーリ3側のイナーシャ(出力側イナーシャ)、uは駆動プーリ2側の入力トルク(例えば電動モータ5の出力トルク)である。また、括弧付きの添え字n、n-1は、離散系の時刻を表す番数である。
一方、前記式(1)によって、二次側トルクτと、その時間的変化率dτ(以降、二次側トルク変化速度dτという)とに関して、次式(3a),(3b)が成立する。
τ(n)=Ksp・(θin(n)−θout(n)) ……(3a)
dτ(n)=Ksp・(dθin(n)−dθout(n)) ……(3b)
これらの式(3a),(3b)を用いて、前記式(2)を整理すると、本実施形態の動力伝達装置1におけるτ、dτに関する挙動を表現するモデルとして、次式(4)の状態方程式が得られる。
本実施形態におけるスラディングモード制御では、この式(4)の状態方程式(モデル)に基づいて、制御入力を決定するための制御処理が構築されている。
さらに詳細には、本実施形態では、スライディングモード制御の制御対象の状態変数として、次式(5)で示す如く、実際の二次側トルクτ(観測値)と目標二次側トルクτ_cmdとの偏差である二次側トルク偏差τ_errと、該偏差τ_errの時間的変化率(微分値)である二次側トルク偏差速度dτ_errとを2成分として構成される状態変数X(2行1列の縦ベクトル)が用いられる。なお、式(5)の上付き添え字“T”は転置を意味する。
X=[τ_err,dτ_err]T ……(5)
ただし、τ_err=τ−τ_cmd、dτ_err=τ_errの時間的変化率(微分値)
この場合、スライディングモード制御による制御入力としての電動モータ5の目標トルクτm_cmd(制御処理周期毎に決定する新たな目標トルク)は、前記式(4)のただし書きで定義されるA、Bと、次式(7)により表される切換関数σとを用いて、例えば次式(6)により決定することができる。
τm_cmd(n)=−(S・B)-1・(S・A・X(n)
+Ksld・(σ(n)/(|σ(n)|+δ)))
……(6)
σ(n)=S・X(n)=s1・τerr(n)+s2・dτ_err(n) ……(7)
ただし、S=[s1,s2] (:2行1列のベクトル)
この式(6),(7)が本実施形態において、制御入力としての電動モータ5の目標トルクτm_cmdを決定するための基本式である。
この場合、式(6)の右辺の演算に必要なA、Bの各成分は、前記式(4)のただし書きの定義式に基づいてあらかじめ定められる所定値(定数値)である。また、Sの各成分(切換関数σを構成する係数成分)s1,s2は、後述する如くあらかじめ設定される所定値(定数値)である。
ここで、式(6)、(7)の技術的な意味合いについて説明すると、式(6)の右辺の第1項は、τ_err、dτ_errの値の組が、切換超平面上に存在する状態で、τ_err及びdτ_errをゼロに収束させるように機能する制御入力成分を意味する。
上記切換超平面は、σ=0という式により表されるものである。従って、τ_err、dτ_errを2つの座標軸成分とする位相平面における切換超平面σ=0(ここでは直線)の傾きは、Sの各成分s1,s2の比によって規定されることとなる。
例えば図2に示すように、二次側トルク偏差速度dτ_errの座標軸を縦軸、二次側トルク偏差τ_errの座標軸を横軸とする位相平面を想定した場合、該位相平面における切換超平面σ=0(直線)の傾きは−s1/s2となる。なお、二次側トルク偏差速度dτ_errの座標軸を横軸、二次側トルク偏差τ_errの座標軸を縦軸とする位相平面を想定した場合には、該位相平面での切換超平面σ=0の傾きは、−s2/s1となる。
そして、切換超平面σ=0上では、dτ_err=(−s1/s2)・τ_errとなるので、(−s1/s2)が負の値に設定されておれば、切換超平面σ=0上でのτ_errはゼロに収束することとなる。また、この場合、切換超平面σ=0上でのτ_errの収束応答の時定数Tcは、次式(8)により与えられる。
Tc=s2/s1 ……(8)
このように切換超平面σ=0の傾き、あるいは、切換超平面σ=0上でのτ_errの収束応答の時定数Tcは、係数成分s1,s2の比により規定される。
補足すると、二次側トルク偏差速度dτ_errの座標軸を縦軸、二次側トルク偏差τ_errの座標軸を横軸とする位相平面を想定した場合、該位相平面における切換超平面σ=0の傾きは、−s1/s2であるので、この傾きと時定数Tcとの間の関係は、傾き=−1/Tcとなる。
一方、二次側トルク偏差速度dτ_errの座標軸を横軸、二次側トルク偏差τ_errの座標軸を縦軸とする位相平面を想定した場合、該位相平面における切換超平面σ=0の傾きは、−s2/s1であるので、この傾きと時定数Tcとの間の関係は、傾き=−Tcとなる。
本実施形態では、切換超平面σ=0の傾きが、後述する如くあらかじめ決定され、その傾きに対応して、式(7)の演算に必要な係数成分s1,s2の値があらかじめ設定される。
この場合、s1,s2の一方の値は、定数値でよく、例えばs1=1(又はs2=1)とされる。その場合には、切換超平面σ=0の傾きを決定することによって、係数成分s2(又は係数成分s1)の値が一義的に決定されることとなる。
なお、前記時定数Tcは、切換超平面σ=0の傾きに応じて一義的に定まるので、切換超平面σ=0の傾きを決定するということは、前記時定数Tcを決定することと等価である。
前記式(6)の右辺の第2項は、切換関数σの値を、ゼロに収束させる(換言すれば、τ_err、dτ_errの値の組を切換超平面σ=0上に収束させる)ように機能する制御入力成分を意味する。そして、Ksld、δは、それぞれ、切換関数σの値の収束特性を規定するパラメータである。
この場合、δは、本実施形態では、あらかじめ実験等に基づいて設定した所定値(定数値)とされる。
また、Ksldの値は、例えば次のような指針で、所定値(一定値)又は切換関数の値に応じて決定される。
すなわち、切換関数σの値をゼロに収束させるためには、σのリアプノフ関数σ2の微分値(時間的変化率)が負の値となることが必要となる。
この必要条件は、離散系において、(σ(n))2−(σ(n-1))2<0を満たすという条件と同等である。そして、この条件と、前記式(6)、(7)とから、Ksldに関する次式(9)の条件が得られる。
|Ksld|<|σ(n)|+δ ……(9)
従って、Ksldの値は、上記式(9)の条件を満たすように設定されていればよい。
本実施形態では、Ksldの値は、制御処理周期毎の切換関数σの絶対値が大きいほど、Ksldの大きさが大きくなるように、σの値に応じて可変的に決定される。
例えば、Ksldは、制御処理周期毎に、次式(10)で示すように、|σ(n)|に比例する値となるように決定される。
Ksld=(1/K0)・|σ(n)| ……(10)
式(10)のK0は、σ(n)が取り得る実際の値の範囲内で、式(9)の条件を満たすようにあらかじめ設定した定数値(例えば3以上の整数値)である。
なお、Ksldの値は、一定値であってもよい。また、|Ksld|<δとなるようにKsldの値を設定してもよい。
次に、前記切換関数σの係数成分s1,s2の値を決定するための事前準備処理について説明する。この事前準備処理は、本実施形態では、次のような手順で行なわれる。
(手順1)まず、任意の制御手法(例えばPD制御等)によって、動力伝達装置1の二次側トルクτを、該動力伝達装置1の種々様々な任意の初期状態から種々様々な任意の目標値(ステップ状に変化させた目標値)に収束させる制御を行う実験(もしくはシミュレーション)が行なわれる。
この実験では、二次側トルクτの目標値と実際の値の観測値との偏差に応じて、PD制御則等の汎用的な制御則により該偏差をゼロに収束させるように電動モータ5の出力トルクを操作する。なお、この場合、二次側トルクτの実際の値の観測値は、例えば動力伝達装置1のプーリ間回転角度差の検出値から前記式(1)に基づいて算出することができる。あるいは、適宜のトルクセンサを用いて二次側トルクτの実際の値を検出するようにしてもよい。また、電動モータ5の作動制御は、適宜のコンピュータ等を使用して行なうようにすればよい。
そして、上記収束制御の各実験における二次側トルク偏差τ_errの値及び二次側トルク偏差速度dτ_errの値の組の推移(時間的な変化)が計測される。さらに、その計測データを、τ_err及びdτ_errを2つの座標軸成分とする位相平面上にプロットすることで、τ_err及びdτ_errの値の組の推移の軌跡を示す応答特性データが作成される。
このようにして初期状態や二次側トルクτの目標値等の条件を種々様々に異ならせた複数の応答特性データが作成される。
このようにして作成された応答特性データのいくつかの代表例を示したものが図3である。図3中の参照符号a1〜a6を付した軌跡のそれぞれが応答特性データの例を示している。
(手順2)次に、上記のように作成された複数の応答特性データのうちの所定の要件を満たす応答特性データが、位相平面における切換超平面σ=0の傾きを決定するための特定の応答特性データ(以降、傾き決定用応答特性データという)として選出される。
ここで選出される傾き決定用応答特性データは、該傾き決定用応答特性データにより示される軌跡上での二次側トルク偏差τ_errの値の大きさ(絶対値)が、所定の第1許容限界値τ_err_lim以下の大きさとなると共に、該軌跡上での二次側トルク偏差速度dτ_errの値の大きさ(絶対値)が、所定の第2許容限界値dτ_err_lim以下の大きさとなるという要件(以下、選出要件1という)と、τ_err,dτ_errを2つの座標軸成分とする位相平面において、τ_errの値の大きさ(絶対値)があらかじめ設定された第1設定値τ_err_aに一致するライン(当該位相平面においてτ_err=+τ_err_a又はτ_err=−τ_err_aという式により表されるライン)と、dτ_errの値の大きさ(絶対値)があらかじめ設定された第2設定値dτ_err_aに一致するライン(当該位相平面においてdτ_err=+dτ_err_a又はdτ_err=−dτ_err_aという式により表されるライン)とのうちのいずれかのラインに当該軌跡が交わるという要件(以下、選出要件2という)を満たす応答特性データである。
上記選出要件1は、換言すれば、応答特性データにより示される軌跡上の任意の点におけるτ_err及びdτ_errの値が、−τ_err_lim≦τ_err≦+τ_err_lim、且つ、−τ_err_lim≦dτ_err≦dτ_err_limという条件を満たすという要件である。
また、上記選出要件2は、換言すれば、応答特性データにより示される軌跡上に|τ_err|=|τ_err_a|又は|dτ_err|=|dτ_err_a|となる点が少なくとも1つ存在するという要件である。
手順2では、具体的には、まず、前記選出要件1に関する第1許容限界値τ_err_lim(>0)及び第2許容限界値dτ_err_lim(>0)が決定される。(手順2−1)。
第1許容限界値τ_err_limは、二次側トルク偏差τ_errの値の大きさの許容限界値を意味し、第2許容限界値dτ_err_limは、二次側トルク偏差速度dτ_errの値の大きさの許容限界値を意味する。。
ここで、τ_errの大きさが大き過ぎると、該τ_errをゼロに収束させるように電動モータ5の出力トルクを制御しようとしたときに、駆動プーリ2(一次側要素)の回転角速度又は回転角加速度がそれぞれの許容限界値を超えてしまう場合がある。上記第1許容限界値τ_err_limは、駆動プーリ2(一次側要素)の回転角速度及び回転角加速度がそれぞれの許容限界値を超えることがないようにするためのτ_errの大きさの限界値である。
なお、駆動プーリ2の回転角速度及び回転角加速度のそれぞれの許容限界値は、電動モータ5の能力、あるいは、動力伝達装置1の機構的な制約等の条件下であらあじめ設計的に定められる値である。その値は、実際の許容限界に対してある程度のマージンを見込んだものであってもよい。
本実施形態では、第1許容限界値τ_err_limは、駆動プーリ2の回転角速度の許容限界値ω1_lim(以降、一次側速度限界値ω1_limという)と、駆動プーリ2の回転角加速度の許容限界値dω1_lim(以降、一次側加速度限界値dω1_limという)と、ワイヤ4の弾性変形係数Kspとに応じて次のように決定されている。
二次側トルク偏差τ_errがある値τ_err_0(≠0)となっている初期状態からτ_errをゼロに収束させる場合に必要なプーリ間回転角度差の変化量は、τ_err_0/Kspである。
ここで、図4(c)に示すように、プーリ間回転角度差をτ_err_0/Kspだけ変化させるのに要する時間をtaとおく。そして、例えば図4(a)に示すように、時間taの前半期間(0からta/2までの期間)で、一次側加速度限界値dω1_limの大きさを有する正の向きの回転角加速度で駆動プーリ2を増速させるように被動プーリ3に対して相対回転させ、続いて、時間taの後半期間(ta/2からtaまでの期間)で、一次側加速度限界値dω1_limの大きさを有する負の向きの回転角加速度で駆動プーリ2を減速させるように被動プーリ3に対して相対回転させる場合を想定する。
換言すれば、一次側加速度限界値dω1_limの大きさの回転角加速度で駆動プーリ2の回転角速度の増速及び減速を順次行なって、駆動プーリ2をτ_err_0/Kspの回転角度だけ被動プーリ3に対して相対回転させると共に、被動プーリ3に対する駆動プーリ2の相対的な回転角度がτ_err_0/Kspに達した時に、被動プーリ3に対する駆動プーリ2の相対回転を停止させる場合を想定する。
この場合、τ_err_0/Kspとdω1_limとtaとの間の関係は、次式(11)により表される。
(1/4)・dω1_lim・ta2=τ_err_0/Ksp ……(11)
そして、この場合の駆動プーリ2の最大の回転角速度は、図4(b)に示す如く、(1/2)・dω1_lim・taであるから、次式(12)の条件が成立する必要がある。
(1/2)・dω1_lim・ta≦ω1_lim ……(12)
上記式(11)及び式(12)から、τ_err_0の大きさ(絶対値)に関する次式(13)の条件が得られる。
|τ_err_0|≦(ω1_lim2/dω1_lim)・Ksp ……(13)
そこで、本実施形態では、二次側トルク偏差τ_errの値の大きさの許容限界値である第1許容限界値τ_err_limを、次式(14)により決定した。
τ_err_lim=(ω1_lim2/dω1_lim)・Ksp ……(14)
このように決定されるτ_err_limは、弾性変形係数Kspが大きいほど、大きな値になる。なお、τ_err_limは、式(14)により決定される値よりも若干小さい値であってもよい。
また、二次側トルク偏差速度dτ_errの大きさが大き過ぎると、二次側トルク偏差τ_errをゼロに収束させるように電動モータ5の出力トルクを制御しようとしたときに、電動モータ5から被動プーリ3への動力伝達系の固有振動に起因する共振現象によって、該動力伝達系の発振が発生しやすくなる。前記第2許容限界値dτ_err_limは、かかる発振の発生を防止するようにするためのdτ_errの大きさの限界値である。
この場合、電動モータ5から被動プーリ3への動力伝達系の固有振動数(角周波数の次元での固有振動数)をω_vbとおくと、この固有振動数ω_vbで駆動プーリ2の回転角度が被動プーリ3に対して相対的に振動したときの二次側トルク変化速度dτ_vbは、次式(15)により与えられる。
dτ_vb=Ksp・ωvb ……(15)
そこで、本実施形態では、二次側トルク偏差速度dτ_errの値の大きさの許容限界値である第2許容限界値dτ_err_limを、次式(16)により決定した。
dτ_err_lim=Ksp・ωvb ……(16)
このように決定されるdτ_err_limは、弾性変形係数Kspが大きいほど、大きな値になる。
この場合、固有振動数ωvbの値は、例えば実験及び測定に基づいて特定することができる。あるいは、ωvbの値を、次式(17)により近似的に決定してもよい。
ωvb=sqrt(Ksp/(Iin+Iout)) ……(17)
上式(17)におけるsqrt( )は、平方根関数である。また、Iinは、動力伝達装置1のうちの駆動プーリ2側の系(ここでは、駆動プーリ2、減速機7及び電動モータ5により構成される系)のイナーシャ、Ioutは、被動プーリ3側の系(ここでは、被動プーリ3及び負荷部材6により構成される系)のイナーシャである。
なお、第2許容限界値dτ_err_limは、式(16)により決定される値よりも若干小さい値に決定するようにしてもよい。
図3の位相平面において、第1許容限界値τ_err_limにより規定される正側及び負側のライン(τ_err=+τ_err_limという式及びτ_err=−τ_err_limという式によりそれぞれ示されるライン)の例が、ラインL1p,L1nであり、第2許容限界値dτ_err_limにより規定される正側及び負側のライン(dτ_err=+dτ_err_limという式及びdτ_err=−dτ_err_limという式によりそれぞれ示されるライン)の例が、ラインL2p,L2nである。
手順2では、次に、前記選出要件2に関する第1設定値τ_err_a(>0)及び第2設定値dτ_err_a(>0)が決定される(手順2−2)。
第1設定値τ_err_aは、ゼロと第1許容限界値τ_err_limとの間の値(0<τ_err_a<τ_err_limとなる値)で、ゼロに近づき過ぎないように、第1許容限界値τ_err_limに応じて決定される。例えば、τ_err_aは、τ_err_limのMa1倍の値(=Ma1・τ_err_lim)に決定される。ただし、Ma1は、1よりも小さい正の定数で、例えば0.25〜0.75程度の範囲内の値である。
同様に、第2設定値dτ_err_aは、ゼロと第2許容限界値dτ_err_limとの間の値(0<dτ_err_a<dτ_err_limとなる値)で、ゼロに近づき過ぎないように、第2許容限界値dτ_err_limに応じて決定される。例えば、dτ_err_aは、dτ_err_limのMa2倍の値(=Ma2・dτ_err_lim)に決定される。ただし、Ma2は、1よりも小さい正の定数で、例えば1/4〜1/6程度の範囲内の値である。
図3の位相平面において、第1設定値τ_err_aより規定される正側及び負側のライン(τ_err=+τ_err_aという式及びτ_err=−τ_err_aという式によりそれぞれ示されるライン)の例が、ラインLL1p,LL1nであり、第2設定値dτ_err_a(dτ_err=+dτ_err_aという式及びdτ_err=−dτ_err_aという式によりそれぞれ示されるライン)の例が、ラインLL2p,LL2nである。
手順2では、次に、上記の如く決定した第1許容限界値τ_err_lim及び第2許容限界値dτ_err_limと、第1設定値τ_err_a及び第2設定値dτ_err_aとを用いて、前記選出要件1、2を満たす傾き決定用応答特性データが選出される(手順2−3)。
例えば図3に示す例では、参照符号a1〜a6を付した応答特性データは、いずれも選出要件1を満たす。一方、参照符号a1〜a5を付した応答特性データは、選出要件2を満たすものの、参照符号a6を付した応答特性データは、選出要件2を満たさない。
従って、a6の応答特性データを除く応答特性データ(a1〜a5の応答特性データ)が傾き決定用応答特性データとして選出される。
以上のようにして、手順2では傾き決定用応答特性データが選出される。
(手順3)次に、上記のように選出された傾き決定用応答特性データの軌跡と、第1設定値τ_err_a及び第2設定値dτ_err_aによりそれぞれ示されるラインLL1p,LL1n,LL2p,LL2nとの交点のうち、該交点に関する所定の要求条件(以下、交点要求条件という)を満たす交点を用いて切換超平面σ=0の傾きが決定される。
上記交点要求条件は、当該交点と、位相平面の原点(τ_err=0,dτ_err=0となる点)とを結ぶラインの傾きが、あらかじめ定められた傾き要求範囲内にあるという条件である。
ここで、前記したように、切換超平面σ=0の傾きは、該切換超平面σ=0上でのτ_errの収束応答の時定数Tcを規定するものとなる。そして、上記傾き要求範囲は、この時定数Tcの要求範囲に対応する切換超平面σ=0の傾きの要求範囲である。
動力伝達装置1における二次側トルクτを目標値(目標二次側トルクτ_cmd)に制御するシステムを構築する場合、通常、二次側トルクτの収束応答の時定数Tcをどの程度の範囲内の値にしたいという設計的な要求(目標)がある。従って、上記傾き要求範囲は、一例として、時定数Tcの値の設計的な要求範囲に対応させて設定される。
この場合には、時定数Tcの値の設計的な要求範囲がTc_L≦Tc≦Tc_Hという範囲であるとし、また、切換超平面σ=0の傾きと時定数Tcとの間の関係が、傾き=−1/Tcという関係であるとした場合、傾き要求範囲は、−(1/Tc_L)≦傾き≦−(1/Tc_H)という範囲として設定すればよい。また、切換超平面σ=0の傾きと時定数Tcとの間の関係が、傾き=−Tcという関係であるとした場合には、傾き要求範囲は、−Tc_H≦傾き≦−Tc_Lという範囲として設定すればよい。
ただし、駆動プーリ2の回転角加速度は、前記一次側加速度限界値dω1_lim以下の大きさに制限する必要があるので、時定数Tcの値を無制限に小さくすることはできない。
さらに詳細には、二次側トルク偏差τ_errの大きさが、前記第1許容限界値τ_err_limに一致する初期状態から、前記一次側加速度限界値dω1_limの大きさの回転角加速度で、図4(a)〜(c)に示したように、駆動プーリ2を被動プーリ3に対して相対回転させて、τ_errをゼロに収束させた場合の収束応答の時定数Tcの値をTcxとおく。
このとき、初期状態での二次側トルク偏差τ_errの大きさが、前記第1許容限界値τ_err_limであるときのτ_errの収束応答の時定数Tcは、Tcx(以降、これを特定時定数Tcxという)よりも小さくなることはできない。
従って、切換超平面σ=0の傾きは、それに対応する時定数Tcが、上記特定時定数Tcx以上の値になるという制約条件(以降、時定数制約条件という)を満たすように決定する必要がある。
ここで、二次側トルク偏差τ_errの大きさが、前記第1許容範囲τ_err_limに一致する初期状態から、前記一次側加速度限界値dω1_limの大きさの回転角加速度で、図4(a)〜(c)に示したように、駆動プーリ2を被動プーリ3に対して相対回転させて、τ_errをゼロに収束させた場合において、その収束に要する時間taをtaxとおくと、このtaxと上記特定時定数Tcxとの間の関係は、近似的に、次式(18)により表される。
Tcx=tax/3 ……(18)
そして、taxは、前記式(11)におけるτ_err_0にτ_err_limを代入したときのtaの値であるから、次式(19)が成立する。
(1/4)・dω1_lim・tax2=τ_err_lim/Ksp ……(19)
上記式(18)、(19)から、次式(20)が得られる。
Tcx=(2/3)・sqrt((τ_err_lim/dω1_lim)/Ksp) ……(20)
そこで、本実施形態では、切換超平面σ=0の傾きに対応する時定数Tcが、上記式(20)により算出される特定時定数Tcx以上であること(Tc≧Tcxであること)を前記時定数制約条件として、この時定数制約条件を満たす範囲で、切換超平面σ=0の傾き要求範囲を設定しておくようにした。
この場合、時定数Tcの値の設計的な要求範囲の下限値Tc_Lが上記時定数制約条件を満たしている場合(Tc_L≧Tcxである場合)には、切換超平面σ=0の傾き要求範囲は、Tc_L≦Tc≦Tc_Hという時定数Tcの要求範囲に対応する範囲に設定される。例えば、切換超平面σ=0の傾きと時定数Tcとの間の関係が、傾き=−1/Tcという関係であるとした場合、傾き要求範囲は、−(1/Tc_L)≦傾き≦−(1/Tc_H)という範囲として設定される。
また、時定数Tcの値の設計的な要求範囲の下限値Tc_Lが上記時定数制約条件を満たしていない場合(Tc_L<Tcxである場合)には、切換超平面σ=0の傾き要求範囲は、Tcx≦Tc≦Tc_Hという時定数Tcの要求範囲に対応する範囲に設定される。例えば、切換超平面σ=0の傾きと時定数Tcとの間の関係が、傾き=−1/Tcという関係であるとした場合、傾き要求範囲は、−(1/Tcx)≦傾き≦−(1/Tc_H)という範囲として設定される。
手順3における前記交点要求条件は、前記交点と、位相平面の原点とを結ぶラインの傾きが、上記の如くあらかじめ定められた傾き要求範囲内にあるという条件である。
図3の位相平面において、二点鎖線で示すラインLb_max,Lb_minがそれぞれ、上記の如く設定されている傾き要求範囲における最大の大きさの傾きのライン、最小の大きさの傾きのラインの例を示している。この場合、図3の位相平面では、傾き=−1/Tcという関係が成立するので、ラインLb_maxの傾きの大きさは、1/max(Tc_L,Tcx)、ラインLb_minの傾きの大きさは、1/Tc_Hである。
手順3では、この傾き要求範囲により規定される前記交点要求条件を満たす交点が抽出される。例えば、図3に示す例では、図3の破線枠部Aの拡大図としての図5(a)に示す白丸の交点と、図3の破線枠部Bの拡大図としての図5(b)に示す白丸の交点とが、前記交点要求条件を満たす交点として抽出される。
そして、これらの抽出された複数の交点におけるτ_err及びdτ_errの値の組を用いて、各交点と原点とを結ぶラインの傾きに極力一致もしくは近似する傾きが最小自乗法により算出され、その算出された傾きが切換超平面σ=0の傾きとして決定される。
例えば図3に示す例では、図中の一点鎖線で示すラインLcの傾きが切換超平面σ=0の傾きとして決定される。
なお、切換超平面σ=0の傾きを最小自乗法以外の統計的な同定手法により決定するようにしてもよい。例えば、前記交点要求条件を満たす各交点と原点とを結ぶラインの傾きの平均値を、切換超平面σ=0の傾きとして決定するようにしてもよい。
(手順4)次に、上記の如く(手順3)で決定された切換超平面σ=0の傾きに基づいてて、切換関数σの前記係数成分s1,s2の値が決定される。具体的には、傾き=−s1/s2(又は−s2/s1)であるので、−s1/s2(又は−s2/s1)が、(手順3)で決定された切換超平面σ=0の傾きに一致するように、s1,s2の値が決定される。この場合、s1,s2のうちの一方の値は、任意の定数値(例えば1)でよい。
なお、s1,s2のうちの一方の値を定数値とした場合には、他方の値は、切換超平面σ=0の傾きに応じて一義的に定まる。例えば、傾き=−s1/s2である場合、係数成分s2の値を“1”とした場合、s1の値は、傾きの(−1)倍の値となる。従って、s1,s2のうちの一方の値を定数値とした場合は、手順4は実質的には省略してよい。
以上が、本実施形態における切換関数σの係数成分s1,s2の値の決定手法である。
なお、本実施形態では、手順3における交点要求条件を規定する傾き要求範囲を、前記時定数制約条件を反映させて設定しておくようにしたが、該傾き要求範囲は、時定数制約条件を考慮せずに、単に時定数Tcの設計的な要求範囲に応じて決定しておくようにしてもよい。
その場合、この傾き要求範囲により規定される交点要求条件を満たす交点に基づいて、上記と同様に、最小自乗法等の手法により暫定的に切換超平面σ=0の傾きを決定する。そして、その暫定的な傾きにより規定される時定数Tcの値が時定数制約条件を満たしている場合には、その暫定的な傾きをそのまま切換超平面σ=0の傾きとして決定するようにしてもよい。
また、暫定的な傾きにより規定される時定数Tcの値が時定数制約条件を満たしていない場合に、時定数制約条件を前記した如く反映させた傾き要求範囲により規定される交点要求条件を満たす交点だけを用いて、切換超平面σ=0の傾きを決定するようにしてもよい。
次に、動力伝達装置1の二次側トルクτを二次側目標トルクτ_cmdに追従させるようにで電動モータ5の出力トルクを制御するときの制御装置10の作動を説明する。
なお、以降の説明では、任意の状態量(角度、トルク等)の実際の値、又はその観測値(検出値又は推定値)を示す参照符号に添え字“_act”を付する。
本実施形態では、制御装置10は、制御入力決定部13により図6のブロック線図で示す処理を実行することによって、制御入力としての電動モータ5の目標トルクτm_cmdを逐次決定する。
制御装置10の各制御処理周期において、制御入力決定部13には、角度検出器11,12の出力信号(検出信号)によりそれぞれ示される駆動プーリ2の実際の回転角度θin_act(検出値)と、被動プーリ3の実際の回転角度θout_act(検出値)とが逐次入力されると共に、目標二次側トルクτ_cmdが逐次入力される。
そして、制御入力決定部13は、二次側トルク検出部13fによって、現在の制御処理周期でのθin_act、θout_actの値(今回値)と、ワイヤ4の弾性変形係数Kspの値(図示しないメモリに記憶保持された既定値)とを用いて前記式(1)の右辺の演算を行なうことで、実際の二次側トルクτ_actの推定値を算出する。
また、制御入力決定部13は、入力された目標二次側トルクτ_cmd(今回値)にローパスフィルタ13bの出力値を演算部13aで加算することで、τ_cmdを補正する。以降、この補正後のτ_cmdを補正後目標二次側トルクτ_cmd_cという。
この補正は、二次側トルクτ_actに含まれるオフセット成分(定常誤差成分)の影響を補償するための補正である。この場合、ローパスフィルタ13bには、演算部13cの演算結果の出力値が逐次入力される。
該演算部13cは、前回の制御処理周期で前記演算部13aに算出された補正後目標二次側トルクτ_cmd_cの値(前回値)と、今回の制御処理周期で二次側トルク検出部13fによって算出された二次側トルクτ_actの推定値(今回値)の差を算出する。
そして、ローパスフィルタ13bは、該演算部13cの演算結果の出力値にローパス特性のフィルタリング処理を施すことで、上記オフセット成分を抽出し、このオフセット成分を前記演算部13aに出力する。
次いで、制御入力決定部13は、演算部13aにより算出した補正後目標二次側トルクτ_cmd_cの値(今回値)と、二次側トルク検出部13fによって算出した二次側トルクτ_actの推定値(今回値)との偏差、すなわち、二次側トルク偏差τ_errを演算部13dで算出する。
そして、制御入力決定部13は、この二次側トルク偏差τ_errをスライディングモード制御処理部13eに逐次入力する。
スライディングモード制御処理部13eは、前記式(7)に従って、切換関数σの値を算出し、さらにこの切換関数σの算出値を用いて前記式(6)の右辺の演算を行なうことで、制御入力としての電動モータ5の目標トルクτm_cmdを逐次算出する。
この場合、式(7)の演算に必要な二次側トルク偏差速度dτ_errは、スライディングモード制御処理部13eに入力される二次側トルク偏差τ_errの時間的変化率として算出される。また、係数成分s1,s2の値は、前述の如くあらかじめ決定された既定値であり、図示しないメモリに記憶保持されている。
また、式(6)の演算に必要なA、Bの各成分は、前記式(4)のただし書きの定義式に基づいて決定された既定値であり、図示しないメモリに記憶保持されている。
制御入力決定部13は、以上の処理によって、電動モータ5の目標トルクτm_cmd(制御入力)を逐次決定する。
なお、二次側トルクτ_actに含まれるオフセット成分(定常誤差成分)が十分に微小である場合には、演算部13a,13c及びローパスフィルタ13bを省略し、τ_cmdをそのまま演算部13dに入力するようにしてもよい。
制御装置10は、以上の如く制御入力決定部13で逐次決定される目標トルクτm_cmdをモータ制御部14に入力し、該モータ制御部14の処理を実行する。このモータ制御部14は、入力された目標トルクτ_cmdに応じて電動モータ5の図示しない電機子巻線の通電電流の指令値(目標値)を決定し、その指令値に実際の通電電流を一致させるように該電機子巻線の通電電流をフィードバック制御する。
これにより、電動モータ5の実際の出力トルクが目標トルクτm_cmdに制御される。ひいては、実際の二次側トルクτ_actが目標二次側トルクτ_cmdに追従するように制御される。
以上説明した実施形態によれば制御装置10による二次側トルクτの制御のためのスライディングモード制御用の切換超平面σ=0の傾きが、PD制御則等等の汎用的な制御手法を用いて作成した複数の応答特性データのうち、前記選出要件1,2を満たす傾き決定用応答特性データを用いて決定されている。
この場合、傾き決定用応答特性データは、前記選出要件1を満たすことで、駆動プーリ2の回転角加速度及び回転角速度の大きさが、それぞれの許容限界値である一次側加速度限界値dω1_lim、及び一次側速度限界値ω1_limを超えないという条件を満たし得る適切なデータである。
また、応答特性データの軌跡は、位相平面の原点付近の領域で、振動を生じるものとなることが多々あるものの、傾き決定用応答特性データは、前記選出要件2を満たすことで、ゼロ近辺の微小な大きさではない二次側トルク偏差τ_err及び二次側トルク偏差速度dτ_errの値の組を含むデータである。
そして、τ_errの値の大きさが前記第1設定値τ_err_aとなるラインLL1p,LL1nと、dτ_errの値の大きさが前記第2設定値dτ_err_aとなるラインLL2p,LL2nとのうちのいずれかと、前記選出要件1、2を満たす傾き決定用応答特性データの軌跡との交点のうち、前記時定数Tcの要求範囲に対応する前記交点要求条件を満たす交点に基づいて、最小自乗法等の手法によって、切換超平面σ=0の傾きが決定される。
この場合、当該交点における二次側トルク偏差τ_errの値の大きさ(=第1設定値τ_err_a)は、前記第1許容限界値τ_err_limよりも小さく、且つ、ゼロに近づき過ぎないある程度の大きさを有する。同様に、当該交点における二次側トルク偏差速度dτ_errの値の大きさ(=第2設定値τ_err_a)は、前記第2許容限界値dτ_err_limよりも小さく、且つ、ゼロに近づき過ぎないある程度の大きさを有する。
しかも、当該交点は、前記交点要求条件を満たすので、時定数Tcに関する設計的な要求及び前記時定数制約条件を満たす。
従って、切換超平面σ=0の傾きの決定に用いられる交点は、二次側トルク偏差τ_errを好適にゼロに収束させ得る応答特性データの軌跡上の点して、信頼性及び安定性の高いものとなる。このため、当該交点を用いて切換超平面σ=0の傾きを決定することで、二次側トルク偏差τ_errを好適にゼロに収束させ得るように該傾きが決定されることとなる。
また、応答特性データは、汎用的な制御手法を用いて得るようにすればよいので、多数の応答特性データを効率よく容易に収集することができる。ひいては、好適な切換超平面σ=0の傾きの決定を効率よく行なうことができる。
そして、制御装置10の制御入力決定部13の処理では、上記のように決定した傾き(ひいては、係数成分s1、s2の値)を有する切換超平面σ=0を用いてスライディングモード制御の処理により制御入力(電動モータ5の目標トルクτm_cmd)を決定するので、二次側トルクτの制御を所要の収束特性と高いロバスト性とを実現し得るように適切に行うことができる。
特に、本実施形態では切換超平面σ=0の傾き(ひいては、該傾きに対応する時定数Tc)が前記時定数制約条件を満たすように設定されているので、動力伝達装置1の幅広い動作領域で、二次側トルクτの制御を高いロバスト性で安定に行なうことができる。
ここで、以上説明した本実施形態と本願発明との対応関係について補足しておく。前記駆動プーリ2、被動プーリ3、ワイヤ4、電動モータ5がそれぞれ本発明における一次側要素、二次側要素、弾性変形部材、アクチュエータに相当する。そして、駆動プーリ2の回転が、本発明における一次側要素の変位に相当し、二次側トルクτが、本発明における二次側動力に相当し、弾性変形係数Kspが本発明における弾性変形係数に相当する。
また、制御装置10の制御入力決定部13が本発明における制御入力決定手段に相当する。
また、前記二次側トルク偏差τ_err、二次側トルク偏差速度dτ_errがそれぞれの本発明における第1変数成分、第2変数成分に相当する。また、本実施形態における第1許容限界値τ_err_limが、本発明における第1許容限界値に相当する。
さらに、前記特定時定数Tcxが、本発明における特定時定数に相当する。
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態を図7を参照して説明する。なお、本実施形態は、制御装置10の制御入力決定部13の一部の処理だけが、第1実施形態と相違するものである。そのため、本実施形態の説明は、第1実施形態と相違する事項を中心に行い、第1実施形態と同一の事項については説明を省略する。
本実施形態では、制御入力決定部13の処理において、外乱の影響を低減するために、二次側トルク偏差τ_err及び二次側トルク偏差速度dτ_errの値を、オブザーバを用いて逐次推定する。そして、実際の二次側トルクτ_act(前記二次側トルク検出部13fによる推定値)をそのまま用いて算出される実際の二次側トルク偏差τ_err_actと、その時間的変化率として得られる実際の二次側トルク偏差速度dτ_err_actとの代わりに、オブザーバによる推定値τ_err_hat,dτ_err_hatを用いてスライディングモード制御の処理を実行して、制御入力(目標トルクτm_cmd)を決定する。
具体的には、本実施形態では、図7に示すように、制御入力決定部13のスライディングモード制御処理部13gは、オブザーバ13hとしての機能を含む。
そして、スライディングモード制御処理部13gには、前記二次側トルク検出部13fにより算出された実際の二次側トルクτ_actの推定値と、前記補正後目標二次側トルクτ_cmd_cとの偏差(演算部33dの出力)が実際の二次側トルク偏差τ_err_actとして入力される。なお、補正後目標二次側トルクτ_cmd_cの算出処理は、第1実施形態と同じである。
オブザーバ13hは、次式(21)の演算によって、外乱成分を低減した二次側トルク偏差τ_errの推定値τ_err_hat(以降、二次側トルク偏差推定値τ_err_hatという)と、外乱成分を低減した二次側トルク偏差速度dτ_errの推定値dτ_err_hat(以降、二次側トルク偏差速度推定値dτ_err_hatという)を、制御装置10の制御処理周期で、逐次更新しつつ算出する。
この式(21)は、前記式(4)の状態方程式を前提として構成されたものであり、式(21)におけるA、Bは、それぞれ、前記式(4)のただし書きで定義される行列(2行2列)、ベクトル(2行1列)である。これらのA、Bの各成分の値は、所定の既定値であり、制御装置10の図示しないメモリに記憶保持されている。
この場合、式(21)の右辺のu(n-1)の値としては、前回の制御処理周期で決定された目標トルクTm_cmdの値(前回値)が用いられる。また、Kobsは、所定の既定値であり、制御装置10の図示しないメモリに記憶保持されている。
また、dτ_err_act_filtは、スライディングモード制御処理部13gに入力される二次側トル偏差τ_err_actの時間的変化率の値に、ローパス特性のフィルタリング処理を施した値である。
なお、ローパス特性のフィルタリング処理以外の適宜の処理(例えば本願出願人が特願2011−159322にて提案した処理等)によって、二次側トルク偏差τ_err_actの推定値の時間的変化率の値からノイズ成分を除去したものをdτ_err_act_filtの代わりに用いるようにしてもよい。
本実施形態におけるスライディングモード制御処理部13gは、上記の如くオブザーバ13hにより算出される二次側トルク偏差推定値τ_err_hatと、二次側トルク偏差速度推定値dτ_err_hatとを用いて、前記式(7)に従って、切換関数σの値を算出し、さらにこの切換関数σの算出値を用いて前記式(6)の右辺の演算を行なうことで、制御入力としての電動モータ5の目標トルクτm_cmdを逐次算出する。
本実施形態は、以上説明した事項以外は、前記第1実施形態と同じである。
かかる本実施形態においても、前記第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
加えて、本実施形態では、オブザーバ13hにより算出した二次側トルク偏差推定値τ_err_hat及び二次側トルク偏差速度推定値dτ_err_hatを、二次側トルク検出部13fにより逐次算出される実際の二次側トルクτ_actの推定値をその用いて算出される実際の二次側トルク偏差τ_err_act及びその時間的変化率である二次側トルク偏差速度dτ_err_actの代わりに用いてスライディンモード制御の制御処理を行なうので、二次側トルクτ_actの推定値や、その時間的変化率に含まれる外乱成分の影響を低減して、制御入力(目標トルクτm_cmd)を決定できる。
このため、制御装置10による二次側トルクτの制御のロバスト性をより一層高めることができる。
ここで、以上説明した本実施形態と本願発明との対応関係について補足しておく。本実施形態では、前記オブザーバ13hが、本発明におけるオブザーバに相当する。これ以外は、本実施形態と本願発明との対応関係は、第1実施形態と同じである。
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態を図8〜図11を参照して説明する。なお、本実施形態は、動力伝達装置の一部の構造と、一部の制御処理が前記第1実施形態と相違するものである。このため、本実施形態の説明は、第1実施形態と相違する事項を中心に行い、第1実施形態と同一の事項については説明を省略する。
図8を参照して、本実施形態の動力伝達装置21は、第1実施形態の動力伝達装置1と同様に、駆動プーリ2、被動プーリ3、ワイヤ4、電動モータ5、負荷部材6を備えており、電動モータ5の出力軸5aから減速機7を介して駆動プーリ2に付与される回転駆動力(トルク)を、弾性変形部材により構成されたワイヤ4を介して被動プーリ3に伝達して、該被動プーリ3を負荷部材6と共に回転駆動するように構成されている。
ただし、本実施形態の動力伝達装置21は、ワイヤ4の剛性(ひいては、弾性変形係数)を可変化するための剛性可変機構22をさらに備えている。
上記剛性可変機構22は、例えば図9及び図10に示すように構成されている。すなわち、剛性可変機構22は、両端部にローラ23,23が回転自在に枢着された回転バー24を備えている。この回転バー24の中央部に固定された回転軸24aの軸心まわりに該回転軸24aと一体に回転可能とされている。この場合、回転軸24aは、駆動プーリ2及び被動プーリ3の間の位置で、これらのプーリ2,3の回転軸心と平行な方向に向けて配置されている。
回転バー24の両端部のローラ23,23は、それぞれの回転軸心が駆動プーリ2及び被動プーリ3の回転軸心と平行な方向に向けられている。
また、駆動プーリ2と被動プーリ3とは、2つのワイヤ4,4より連結されている。これらのワイヤ4,4は、両プーリ2,3の間隔方向とほぼ直交する方向に間隔を存するように配設され、それぞれの両端部が、各々、駆動プーリ2の外周部と被動プーリ3の外周部とに固定されている。
そして、ローラ23,23のうちの一方のローラ23の内端側(他方のローラ23に臨む側)の外周部が、ワイヤ4,4の一方に圧接され、他方のローラ23の内端側(上記一方のローラ23に臨む側)の外周部が、ワイヤ4,4の他方に圧接されている。
さらに、剛性可変機構22は、回転バー24に回転軸24aを介して連結されて該回転バー24と一体に回転可能に設けられたギヤ(平歯車)25と、このギヤ25に噛合されたウォームギヤ26と、このウォームギヤ26を回転駆動する電動モータ27とを備えている。
従って、電動モータ27によりウォームギヤ26を回転駆動することで、ギヤ25が回転バー24と一体に回転するようになっている。
この場合、回転バー24の回転に伴い、ローラ23,23のそれぞれが、接しているワイヤ4に圧接したまま回転軸24aの軸心まわりに回転(公転)する。そして、例えば図9に示す状態から、図10に示す状態に回転バー24が回転したとき、ワイヤ4,4が伸張方向に付勢される。
ここで、本実施形態のワイヤ4,4は、伸張するに伴い、剛性が高まるような性質を有する弾性変形部材により構成されている。このため、本実施形態の動力伝達装置21では、プーリ間回転角度と、それに伴うワイヤ4,4の弾性変形(伸縮)によって駆動プーリ2側から被動プーリ3側に伝達されるトルク(二次側トルクτ)との間の関係を規定する弾性変形係数Ksp(プーリ間回転角度の変化に対する二次側トルクτの変化の比率)は、回転バー24の回転角度に依存して変化するようになっている。
より詳しくは、本実施形態では、回転バー24が、図9に示すように、駆動プーリ2及び被動プーリ3の間隔方向と直交する方向に延在する状態で、ワイヤ4,4の剛性が最も小さい(弾性変形係数Kspが最も小さい)ものとなる。以降、この状態を最小剛性状態という。
そして、この最小剛性状態から、回転バー24を回転させると、その回転角度(最小剛性状態を基準とする回転角度)の増加に伴い、ワイヤ4,4の剛性が増加していく(弾性変形係数Kspが増加していく)ようになっている。
なお、回転バー24の回転駆動は、電動モータ5により駆動プーリ2の回転駆動を行なう機構と同様の構成の機構によって行なうようにしてもよい。
図8に戻って、本実施形態は、さらに動力伝達装置21の動作制御のための構成として、第1実施形態と同様に、電子回路ユニットにより構成された制御装置30と、駆動プーリ2の回転角度θin及び被動プーリ3の回転角度θoutをそれぞれ検出する角度検出器11,12とを備え、角度検出器11,12の出力信号(検出信号)が制御装置30に入力されるようになっている。
さらに、制御装置30には、第1実施形態と同様に外部の他の制御装置あるいはサーバー等から目標二次側トルクτ_cmdが逐次入力される他、ワイヤ4,4の弾性変形係数Kspの目標値Ksp_cmd(以降、目標弾性変形係数Kspという)が外部の他の制御装置あるいはサーバ等から逐次入力されるようになっている。
なお、本実施形態では、弾性変形係数Kspは、剛性可変機構22の回転バー24の回転角度に応じて規定されるので、目標弾性変形係数Kspの代わりに、回転バー24の回転角度の目標値又は剛性可変機構22の電動モータ27の出力軸の回転角度の目標値を制御装置30に入力するようにしてもよい。
そして、制御装置30は、プログラム処理により実現される機能(ソフトウェアにより実現される機能)又はハードウェア構成により実現される主要な機能として、第1実施形態と同様の機能をそれぞれ有する制御入力決定部33及びモータ制御部34を備える他、剛性可変機構22の電動モータ27を制御することで、ワイヤ4,4の剛性を目標弾性変形係数Ksp_cmdに応じて制御する剛性制御部35を備える。
ここで、本実施形態では、制御入力決定部33は、第1実施形態と同様に、スライディングモード制御の制御処理によって、制御入力としての電動モータ5の目標トルクτm_cmdを逐次決定する。すなわち、制御入力決定部33は、前記式(7)に基づいて、切換関数σの値を算出しつつ、そのσの値を用いて前記式(6)の演算によって、τm_cmdを決定する。
ただし、本実施形態では、ワイヤ4,4の弾性変形係数Kspが可変であるために、二次側トルク偏差τ_errを適切にゼロに収束させるためには、切換超平面σ=0の傾き(ひいては、該切換超平面σ=0上での二次側トルク偏差τ_errの収束応答の時定数Tc)を、Kspの値に応じて変化させる必要がある。
そのため、本実施形態では、ワイヤ4,4の弾性変形係数Kspの値に応じて、切換超平面σ=0の傾き(又は時定数Tc)を決定するための相関データをあらかじめ以下に説明するように作成しておくようにした。
具体的には、弾性変形係数Kspの可変範囲内で、Kspの値の複数の代表値Ksp_i(i=1,2,…,M)を選定しておく。そして、ワイヤ4,4の実際の弾性変形係数Ksp_actを、各代表値Ksp_iに一定に維持するように剛性可変機構22を制御した状態(回転バー24の回転角度を代表値Ksp_iに対応する回転角度に保持した状態)で、前記第1実施形態で説明した前記手順1〜3の処理と同じ事前準備処理を実行する。これにより、弾性変形係数Kspの各代表値Ksp_i毎に、好適な切換超平面σ=0の傾き(あるいは、切換超平面σ=0上でのτ_errの収束応答の時定数Tc)を決定しておく。
なお、この場合、前記手順3の処理によって、弾性変形係数Kspの各代表値Ksp_i毎の切換超平面σ=0の傾きは、それに対応する時定数Tcが、該代表値Ksp_iに応じて前記式(20)により決定される特定時定数Tcx以上の時定数となるように(前記時定数制約条件を満たすように)決定されることとなる。
そして、本実施形態に事前準備処理では、さらに、弾性変形係数Kspの複数の代表値Ksp_i(i=1,2,…,M)と、そのそれぞれに対応して決定した切換超平面σ=0の傾き(又は該傾きに対応する時定数Tc)とを用いて、Kspの値と、切換超平面σ=0の傾き(又は該傾きに対応する時定数Tc)との間の関係を近似する演算式が決定される。
具体的には、本願発明者の実験及び検討によれば、上記の如く決定される切換超平面σ=0の傾きに対応する時定数Tcの値と、弾性変形係数Kspの値との間の関係は、概ね次式(22)の形式で近似することができる。
Tc=c2/sqrt(Ksp)+c1・Ksp+c0 ……(22)
そこで、本実施形態では、弾性変形係数Kspの複数の代表値Ksp_i(i=1,2,…,M)と、そのそれぞれに対応して決定した切換超平面σ=0の傾きに対応する時定数Tcの値とを用いて、式(22)の上辺の各項の係数c2、c1、c0の値を最小自乗法等の統計的な同定手法により決定した。これにより、Kspと、切換超平面σ=0の傾きに対応する時定数Tcとの関係を近似する演算式を決定するようにした。
なお、この場合において、弾性変形係数Kspの各代表値Ksp_iに対応して上記式(22)により算出される時定数Tcの値が、該代表値Ksp_iに対応して前記式(20)により決定される特定時定数Tcx以上の値となるように、係数c2、c1、c0の値が決定される。
本実施形態では、以上のように事前準備処理によって決定された演算式及びその係数c2、c1、c0の値が制御装置30の図示しないメモリに記憶保持されている。
なお、切換超平面σ=0の傾きと時定数Tcとの間の関係式(傾き=−1/Tc、又は傾き=−Tcという関係式)を用いて、式(22)を、切換超平面σ=0の傾きと、弾性変形係数Kspの値との関係を近似する演算式に変換しておき、その演算式と該演算式に係る係数の値とを制御装置30の図示しないメモリに記憶保持しておいてもよい。
次に、動力伝達装置21の二次側トルクτを二次側目標トルクτ_cmdに追従させるようにで電動モータ5の出力トルクを制御するときの制御装置30の作動を説明する。
本実施形態では、制御装置30は、各制御処理周期において、入力される目標弾性変形係数Ksp_cmdに応じて前記剛性制御部35の処理を実行する。
該剛性制御部35は、例えば、あらかじめ図示しないメモリに記憶保持された既定のマップ(又は既定の演算式)により、目標弾性変形係数Ksp_cmd(今回値)に対応する前記回転バー24の回転角度の目標値を決定する。そして、剛性可変機構22の電動モータ27の図示しない電機子巻線の通電電流を公知のサーボ制御の手法によって制御することで、回転バー24の実際の回転角度を目標値に制御する。この制御により、ワイヤ4,4の実際の弾性変形係数Ksp_actが目標弾性変形係数Ksp_cmdに制御される。
この剛性制御部35の制御処理と並行して、制御装置30は、制御入力決定部33により図11のブロック線図で示す処理を実行することによって、制御入力としての電動モータ5の目標トルクτm_cmdを逐次決定する。
制御装置30の各制御処理周期において、制御入力決定部33には、角度検出器11,12の出力信号(検出信号)によりそれぞれ示される駆動プーリ2の実際の回転角度θin_act(検出値)と、被動プーリ3の実際の回転角度θout_act(検出値)とが逐次入力されると共に、目標二次側トルクτ_cmdと目標弾性変形係数Ksp_cmdとが逐次入力される。
そして、制御入力決定部33は、二次側トルク検出部33f、演算部33c、ローパスフィルタ33b、演算部33a、及び演算部33dの処理を実行することで、二次側トルク偏差τ_errを算出する。これら処理は、第1実施形態における二次側トルク検出部13f、演算部13c、ローパスフィルタ13b、演算部13a、及び演算部13dの処理と同じである。
ただし、この場合において、二次側トルク検出部33fには、目標弾性変形係数Ksp_cmdの値(今回値)が入力されるようになっている。そして、二次側トルク検出部33fは、このKsp_cmdの値と、θin_act、θout_actの値(今回値)とを用いて前記式(1)の右辺の演算を行なうことで、実際の二次側トルクτ_actの推定値を算出する。
次に、制御入力決定部33は、上記の如く算出した二次側トルク偏差τ_errと、目標弾性変形係数Ksp_cmdとをスライディングモード制御処理部33eに入力する。
このスライディングモード制御処理部33eは、切換超平面σ=0の傾き(又はこれに対応する時定数Tc)を可変的に決定する切換超平面可変設定部33gを含んでおり、各制御処理周期において、まず、この切換超平面可変設定部33gの処理を実行する。
切換超平面可変設定部33gは、前記式(22)の右辺のKspの値として、目標弾性変形係数Ksp_cmdの現在の制御処理周期での値(今回値)を用いて、該式(22)の右辺の演算を行なうことで、時定数Tcの値を算出する。これにより切換超平面σ=0の傾きも実質的に決定されることとなる。なお、式(22)により算出した時定数Tcの値を切換超平面σ=0の傾きの値に変換してもよい。
そして、スライディングモード制御処理部33eは、上記の如く算出された時定数Tcの値により規定される切換関数σの係数成分s1,s2の値(この場合、s1,s2の一方の値は、定数値(例えば1)とする)を用いて、前記式(7)により切換関数σの値を算出し、さらにこの切換関数σの算出値を用いて前記式(6)の右辺の演算を行なうことで、制御入力としての電動モータ5の目標トルクτm_cmdを逐次算出する。
この場合、式(7)の演算に必要な二次側トルク偏差速度dτ_errは、スライディングモード制御処理部33eに入力される二次側トルク偏差τ_errの時間的変化率として算出される。
また、式(6)の演算に必要なA、Bの各成分のうち、行列Aの第2行第1列の成分以外の成分は、前記式(4)のただし書きの定義に基づく既定値として、図示しないメモリに記憶保持されている。一方、行列Aの第2行第1列の成分(=−rin・DT−rout・DT)は、本実施形態では、目標弾性変形係数Ksp_cmdの値(今回値)に応じて算出される。
すなわち、前記式(2)のただし書きの定義に従って、rin、routの値が、それぞれ、Ksp_cmdの値(今回値)に応じて算出され、このrin、routの算出値と、制御処理周期DTの値(既定値)とから、行列Aの第2行第1列の成分が算出される。なお、rin、routを算出するために用いる入力側イナーシャIin、及び出力側イナーシャIoutの値は既定値である。
制御入力決定部33は、以上の処理によって、電動モータ5の目標トルクτm_cmd(制御入力)を逐次決定する。
なお、第1実施形態の場合と同様に、二次側トルクτ_actに含まれるオフセット成分(定常誤差成分)が十分に微小である場合には、演算部33a,33c及びローパスフィルタ33bを省略し、τ_cmdをそのまま演算部33dに入力するようにしてもよい。
制御装置30は、以上の如く制御入力決定部33で逐次決定される目標トルクτm_cmdをモータ制御部34に入力し、該モータ制御部34の処理を実行する。このモータ制御部34は、第1実施形態のモータ制御部14と同様に、入力された目標トルクτ_cmdに応じて電動モータ5の図示しない電機子巻線の通電電流の指令値(目標値)を決定し、その指令値に実際の通電電流を一致させるように該電機子巻線の通電電流をフィードバック制御する。
これにより、電動モータ5の実際の出力トルクが目標トルクτm_cmdに制御される。ひいては、ワイヤ4,4の弾性変形係数Ksp(ワイヤ4,4の剛性)が適宜変更されながら、実際の二次側トルクτ_actが目標二次側トルクτ_cmdに追従するように制御される。
以上説明した実施形態によれば、前記事前準備処理において、ワイヤ4,4の弾性変形係数Kspの複数の代表値Ksp_i(i=1,2,…,M)のそれぞれに対応する切換超平面σ=0の傾き(又はこれに対応する時定数Tc)は、前記第1実施形態と同じ仕方で、複数の応答特性データを用いて決定される。
このため、Kspの各代表値Ksp_iに対応する切換超平面σ=0の傾き(又はこれに対応する時定数Tc)は、Kspを該代表値Ksp_iに維持した状態で、二次側トルク偏差τ_errを好適にゼロに収束させ得るように決定されることとなる。
さらに、これらの複数の代表値Ksp_i(i=1,2,…,M)に対応する切換超平面σ=0の傾き(又はこれに対応する時定数Tc)を基に、切換超平面σ=0の傾き(又はこれに対応する時定数Tc)と弾性変形係数Kspの値と関係を近似する演算式が最小自乗法等の手法により決定される。
そして、制御装置30による動力伝達装置21の二次側トルクτの制御処理では、任意の値の目標弾性変形係数Ksp_cmdに対応する切換超平面σ=0の傾き(又はこれに対応する時定数Tc)が、上記演算式に基づいて決定されるので、ワイヤ4,4の任意の値のKspに対して好適な切換超平面σ=0の傾き(又はこれに対応する時定数Tc)が決定される。ひいてはスライディングモード制御の処理で制御入力を決定するために用いる切換関数σの好適な(各制御処理周期でのワイヤ4,4の弾性変形係数Kspに対して好適な)係数成分s1,s2の値を決定することができる。
その結果、ワイヤ4,4の弾性変形係数Kspを任意の値に可変的に制御しつつ、二次側トルクτの制御を高いロバスト性で適切に行うことができるように、スライディングモード制御の処理によって、制御入力(電動モータ5の目標トルクτm_cmd)を決定するようにすることができる。すなわち、ワイヤ4,4の剛性を所望の剛性に制御しつつ、いずれの剛性においても、二次側トルクτの制御を高いロバスト性で適切に行うことができる。
特に、切換超平面可変設定部33gが、前記演算式(22)により目標弾性変形係数Ksp_cmdに応じて決定する切換超平面σ=0の傾きは、基本的には、該傾きに対応する時定数Tcが、Ksp_cmdに対応して前記式(20)により算出される特定時定数Tcx以上となるように決定されることとなる。このため、弾性変形係数Ksp_cmdの制御状態によらずに、動力伝達装置1の幅広い動作領域で、二次側トルクτの制御を高いロバスト性で安定に行なうことができる。
ここで、以上説明した本実施形態と本願発明との対応関係について補足しておく。第1実施形態の場合と同様に、前記駆動プーリ2、被動プーリ3、ワイヤ4、電動モータ5がそれぞれ本発明における一次側要素、二次側要素、弾性変形部材、アクチュエータに相当する。そして、駆動プーリ2の回転が、本発明における一次側要素の変位に相当し、二次側トルクτが、本発明における二次側動力に相当し、弾性変形係数Ksp(剛性可変機構22により可変とされた弾性変形係数Ksp)が本発明における弾性変形係数に相当する。
また、制御装置30の制御入力決定部33が本発明における制御入力決定手段に相当し、スライディングモード制御処理部33eの切換超平面可変設定部33gが本発明における切換超平面可変設定手段に相当する。
また、第1実施形態の場合と同様に、前記二次側トルク偏差τ_err、二次側トルク偏差速度dτ_errがそれぞれの本発明における第1変数成分、第2変数成分に相当する。また、本実施形態における第1許容限界値τ_err_limが、本発明における第1許容限界値に相当する。
さらに、前記特定時定数Tcxが、本発明における特定時定数に相当する。また、目標弾性変形係数Ksp_cmdが、本発明における弾性変形係数の制御値に相当する。
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態を図12を参照して説明する。なお、本実施形態は、スライディングモード制御処理部の一部の処理だけが、第3実施形態と相違するものである。そのため、本実施形態の説明は、第3実施形態と相違する事項を中心に行い、第3実施形態と同一の事項については説明を省略する。
本実施形態では、制御入力決定部33の処理において、前記第2実施形態と同様に、外乱の影響を低減するために、二次側トルク偏差τ_err及び二次側トルク偏差速度dτ_errの値を、オブザーバを用いて逐次推定する。そして、実際の二次側トルクτ_act(前記二次側トルク検出部13fによる推定値)をそのまま用いて算出される実際の二次側トルク偏差τ_err_actと、その時間的変化率として得られる実際の二次側トルク偏差速度dτ_err_actとの代わりに、オブザーバによる推定値である二次側トルク偏差推定値τ_err_hat及び二次側トルク偏差速度推定値dτ_err_hatを用いてスライディングモード制御の処理を実行して、制御入力(目標トルクτm_cmd)を決定する。
具体的には、本実施形態では、図12に示すように、制御入力決定部33のスライディングモード制御処理部33hは、オブザーバ33iとしての機能を含む。
そして、制御入力決定部33は、二次側トルク検出部33f、演算部33c、ローパスフィルタ33b及び演算部33aで第3実施形態と同じ処理を実行することで、補正後目標二次側トルクτ_cmd_cを決定する。
スライディングモード制御処理部33hには、二次側トルク検出部33fにより算出された実際の二次側トルクτ_actの推定値と、前記補正後目標二次側トルクτ_cmd_cとの偏差(演算部33dの出力)が実際の二次側トルク偏差τ_err_actとして入力される。さらに、スライディングモード制御処理部33hには、目標弾性変形係数Ksp_cmdが入力される。
制御装置30の各制御処理周期において、オブザーバ33iは、前記式(21)の演算によって、第2実施形態と同様に、外乱成分を低減した二次側トルク偏差推定値τ_err_hat及び二次側トルク偏差速度推定値dτ_err_hatとを算出する。
ただし、本実施形態では、前記式(21)の右辺のKobsは、目標弾性変形係数Ksp_cmdの値(今回値)に応じて、既定のマップ又は演算式により可変的に決定される。また、式(21)の行列Aの第2行第1列の成分は、前記第3実施形態で説明した算出手法と同じ算出手法で、目標弾性変形係数Ksp_cmdの値(今回値)に応じて算出される。
本実施形態における二次側トルク偏差推定値τ_err_hat及び二次側トルク偏差速度推定値dτ_err_hatの算出処理(オブザーバ33iの処理)は、式(21)のKobsの値、及び行列Aの第2行第1列の成分の値に関すること以外は、前記第2実施形態と同じである。
本実施形態におけるスライディングモード制御処理部33hは、切換超平面可変設定部33gで第3実施形態と同じ処理を行うことで、目標弾性変形係数Ksp_cmdの今回値に対応する切換超平面σ=0の傾きに対応する時定数Tcを算出する。
そして、スライディングモード制御処理部33hは、切換超平面可変設定部33gにより算出された時定数Tcの値により規定される切換関数σの係数成分s1,s2の値(この場合、s1,s2の一方の値は、定数値(例えば1)とする)と、オブザーバ33iにより算出された二次側トルク偏差推定値τ_err_hat及び二次側トルク偏差速度dτ_err_hatとを用いて、前記式(7)に従って、切換関数σの値を算出し、さらにこの切換関数σの算出値を用いて前記式(6)の右辺の演算を行なうことで、制御入力としての電動モータ5の目標トルクτm_cmdを逐次算出する。
本実施形態は、以上説明した事項以外は、前記第3実施形態と同じである。
かかる本実施形態においても、前記第3実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
加えて、本実施形態では、オブザーバ33iにより算出した二次側トルク偏差推定値τ_err_hat及び二次側トルク偏差速度推定値dτ_err_hatを、二次側トルク検出部13fにより逐次算出される実際の二次側トルクτ_actの推定値をその用いて算出される実際の二次側トルク偏差τ_err_act及びその時間的変化率である二次側トルク偏差速度dτ_err_actの代わりに用いてスライディンモード制御の制御処理を行なうので、二次側トルクτ_actの推定値や、その時間的変化率に含まれる外乱成分の影響を低減して、制御入力(目標トルクτm_cmd)を決定できる。
このため、制御装置30による二次側トルクτの制御のロバスト性をより一層高めることができる。
ここで、以上説明した本実施形態と本願発明との対応関係について補足しておく。本実施形態では、前記オブザーバ33iが、本発明におけるオブザーバに相当する。これ以外は、本実施形態と本願発明との対応関係は、第3実施形態と同じである。
[変形態様]
次に、前記各実施形態に関連する変形態様をいくつか説明する。
前記各実施形態では、実際の二次側トルクτ_actを、駆動プーリ2の回転角度θin_actの検出値と被動プーリ3の回転角度θout_actの検出値とから算出されるロータ間角度差に、弾性変形係数Kspの値(既定値又は目標値)を乗じることによって、算出するようにした。
ただし、二次側トルクτ_actを、ひずみゲージ等により構成される適宜のトルクセンサを使用して、直接的に検出するようにしてもよい。
また、前記各実施形態では、駆動力を発生するアクチュエータとして、電動モータ5を用いたが、電動モータ5以外の電動アクチュエータ、あるいは、油圧アクチュエータ等の他の形態のアクチュエータを用いてもよい。
また、前記第3実施形態及び第4実施形態では、動力伝達装置21の動作制御時に、切換超平面可変設定部33gは、所定の演算式である前記式(22)を用いて切換超平面σ=0の傾きに対応する時定数Tcを目標弾性変形係数Kspに応じて決定するようにした。
ただし、弾性変形係数Kspの前記複数の代表値Ksp_i(i=1,2,…,M)と、それぞれに対応する時定数Tc(又は切換超平面σの傾き)とをマップデータをして作成しておき、このマップデータを用いて、目標弾性変形係数Kspに対応する時定数Tc(又は切換超平面σの傾き)を決定するようにしてもよい。
この場合は、目標弾性変形係数Kspが、いずれかの代表値Ksp_iに一致する場合には、該マップデータにおいて、その代表値Ksp_iに対応する時定数Tc(又は切換超平面σの傾き)をそのまま、目標弾性変形係数Kspに対応する時定数Tc(又は切換超平面σの傾き)として決定すればよい。
また、前記目標弾性変形係数Kspが、いずれかの代表値Ksp_iにも一致しない場合には、マップデータに基づく補間演算によって、目標弾性変形係数Kspに対応する時定数Tc(又は切換超平面σの傾き)を決定すればよい。
また、前記第1及び第2実施形態では、実験(又はシミュレーション)により取得した複数の応答特性データの軌跡における前記交点を用いて、切換超平面σ=0の傾きをあらかじめ決定しておくようにした。
同様に、前記第2及び第3実施形態では、動力伝達装置21の動作制御時に切換超平面σの傾きに対応する時定数Tc(又は傾き)を決定するために用いる前記演算式(22)を得るために、実験(又はシミュレーション)により取得した複数の応答特性データの軌跡における前記交点を用いて、弾性変形係数Kspの複数の代表値Ksp_i(i=1,2,…,M)のそれぞれに対応する切換超平面σ=0の傾きを決定しておくようにした。
ただし、第1及び第2実施形態では、切換超平面σ=0の傾きに対応する時定数Tcが、前記式(22)により算出される特定時定数Tcx以上になるように切換超平面σ=0の傾きを設定する限り、前記第1実施形態で説明した手法以外の手法によって、切換超平面σ=0の傾くを決定するようにしてもよい。
例えば、最適制御の手法における評価関数の重み係数を適宜調整することで、切換超平面σ=0の傾きに対応する時定数Tcが、前記式(22)により算出される特定時定数Tcx以上になるように、切換超平面σ=0の傾きを決定するようにしてもよい。
また、第3及び第4実施形態においても、弾性変形係数Kspの複数の代表値Ksp_i(i=1,2,…,M)のそれぞれに対応する切換超平面σ=0の傾きを決定するときに、前記第1実施形態で説明した手法以外の手法によって、切換超平面σ=0の傾くを決定するようにしてもよい。
また、各実施形態では、駆動プーリ2及び被動プーリ3間の動力伝達を弾性変形部材としてのワイヤ4を介して行なうようにしたが、プーリ2,3の如き2つの要素間(一次側要素と二次側要素との間)の動力伝達を行なうために該2つの要素を連結する弾性変形部材は、種々様々な形態を採用することができる。
例えば、一次側要素及び二次側要素としての2つの回転要素間の動力伝達(回転伝達)を弾性変形部材としてのトーションバーを介して行なうようにしてもよい。
また、2つの回転要素間の動力伝達を、剛性を変更可能な弾性変形部材により行なう場合には、該弾性変形部材として、例えば導電性高分子アクチュエータを採用してもよい。
例えば図13に例示する如く、先端部に中空の筒状部41aを形成した駆動側回転部材41(一次側要素)の筒状部41aに、被動側回転部材42(二次側要素)を挿入し、該被動側回転部材42の外周面と筒状部41aの内周面との間に介装した導電性高分子アクチュエータ43(弾性変形部材)を介して駆動側回転部材41と被動側回転部材42との間の動力伝達を行うようにしてもよい。
この場合、導電性高分子アクチュエータ43に印加する電圧を変化させることで、該導電性高分子アクチュエータ43の剛性(ひいては、弾性変形係数)を所望の剛性に変化させることがでできる。
また、本発明の対象とする動力伝達装置は、回転駆動力を伝達するものに限らず、一次側要素の並進変位に伴う並進力を、弾性変形部材を介して二次側要素に伝達する構成のものであってもよい。
また、一次側要素と二次側要素との間の動力伝達を行う弾性変形部材は、弾性変形可能であることに加えて、粘性を有するものであってもよい。
この場合は、弾性変形部材の粘性を考慮した状態方程式(動力伝達系のモデル)の基づいて、スライディングモード制御による制御入力を決定することが望ましい。
例えば、図1(又は図8)に示した動力伝達装置1(又は21)と同様に、駆動プーリ2と被動プーリ3との間の動力伝達(回転伝達)を適宜の弾性変形部材を介して行なうようにした動力伝達装置において、該弾性変形部材が粘性を有する場合には、該動力伝達装置の挙動は、離散系において、次式(23)の状態方程式によりモデル化することができる。
この式(23)におけるθin、θout、Ksp、DT、Iin、Ioutの意味は、前記式(1)と同じである。
また、Kdmpは、両プーリ2,3間の弾性変形部材の粘性係数に相当するものであり、被動プーリ3に対する駆動プーリ2の相対的な角速度の単位変化量あたりの粘性力(ここでは、トルクの次元での粘性力)の変化量である。
そして、前記式(3a),(3b)を用いて上記式(23)を整理すると、粘性を有する弾性変形部材を両プーリ2,3間に備える動力伝達装置の二次側トルクτ及びその時間的変化率(二次側トルク変化速度)dτに関する挙動を表現するモデルとして、次式(24)の状態方程式が得られる。
従って、スライディングモード制御による制御入力(電動モータ5の目標トルクτm_cmd)は、前記式(6)のA、Bを、式(24)のただし書きで定義されるA’,B’に置き換えた式によって算出するようにすればよい。