動力伝達装置における被動側要素の位置制御は、外界物の位置や形状、あるいは外乱等を事前に特定もしくは予測しておくことが困難となるような種々様々な外界環境下では柔軟性に乏しい。例えば、被動側要素が予期しない外界物に接触した場合等に、該被動側要素を適切に動かすことが困難となったり、あるいは、被動側要素に過大な外力が作用するような状況が発生しやすい。
このため、近年は、種々様々な外界環境下で柔軟に動作し得るロボット等を実現するために、動力伝達装置の動力伝達経路中に、ばね部材等の弾性力発生機構を介して連結された一次側要素(駆動側要素)と二次側要素(被動側要素)とを備えておき、該一次側要素と二次側要素との間の相対変位に応じて弾性力発生機構が発生する弾性力によって二次側要素に付与される動力を目標値に制御するようにしたものが本願発明者等により研究されている。
このように一次側要素と二次側要素とを弾性力発生機構を介して連結した構造の動力伝達装置の動作制御(動力制御)においては、PD制御等の汎用的な制御手法では、負荷のイナーシャの変動等の種々様々な条件変動に対して、制御系の発振等を生じ難い安定した制御を行うことは一般には難しい。
このため、本願発明者は、弾性変形部材を有する上記動力伝達装置の動作制御において、外乱の変動等に対してロバスト性が高いという特性を有するスライディングモード制御の手法を採用することを試みている。
このスライディングモード制御は、切換関数により規定される切換超平面(切換関数=0という形式で表される超平面)にて、制御対象の状態量を目標値に収束させようとする制御手法である。
なお、「超平面」というのは、複数次元の位相空間での平面を一般化した表現であり、二次元の位相空間では直線、三次元の位相空間では通常の平面を意味する。
ところで、上記のように、弾性力発生機構を備える動力伝達装置を、種々様々な環境下で作動し得るロボットの関節等に採用する上では、弾性力発生機構が、上記一次側要素と二次側要素との間に、当該両要素の間の相対速度に応じた粘性力を発生可能である共に、該相対速度の変化に対する粘性力の変化の比率を表す粘性特性係数(所謂、粘性係数)を可変的に設定可能であることが望ましいと考えられる。
この場合、二次側要素に付与される動力をスライディングモード制御により目標値に制御するためには、該動力の値と、その時間的変化率とを逐次観測する必要がある。
ここで、二次側要素に付与される動力は、基本的には、弾性力発生機構が発生する弾性力に起因する成分(以下、弾性力成分という)と、弾性力発生機構が発生する粘性力に起因する成分(以下、粘性力成分という)との総和となる。そして、弾性力成分は、一次側要素及び二次側要素の間の相対変位量に依存し、粘性力成分は、一次側要素及び二次側要素の間の相対速度(相対変位量の時間的変化率)に依存する。
従って、二次側要素に付与される動力の値を、一次側要素及び二次側要素の間の相対変位量の計測値から特定される弾性力成分と、該相対変位量の計測値の時間的変化率(微分値)から特定される粘性力成分の総和として計測し、さらに該動力の計測値の時間的変化率を、該動力の時間的変化率の計測値として算出することが考えられる。
しかるに、一次側要素及び二次側要素の間の相対変位量の計測値の時間的変化率には、一般に、実際の相対変位量の時間的変化率(すなわち両要素間の実際の相対速度)に対して誤差が含まれやすく、また、その誤差のばらつきも生じやすい。
このため、上記粘性力成分の値を、一次側要素及び二次側要素の間の相対変位量の計測値の時間的変化率から精度よく特定することは一般には難しい。さらに、このように、粘性力成分の値を精度よく特定することが困難であることから、二次側要素に付与される動力の時間的変化率の計測値を精度よく取得することも困難となる。
従って、スライディングモード制御によって、二次側要素に付与される動力を目標値に制御するための制御入力を逐次決定しようとしても、その制御入力を決定するために必要となる計測値(特に二次側要素に付与される動力の時間的変化率の計測値)を精度よく取得することが困難となる。ひいては、スライディングモード制御によって決定される制御入力が、二次側要素に付与される実際の動力を制御する上で不適切なものとなる場合が頻繁に生じるようになって、当該制御のロバスト性を十分に高めることができない虞がある。
本発明はかかる背景に鑑みてなされたものであり、一次側要素と二次側要素との間に弾性力に加えて、粘性力を発生可能な弾性力発生機構を備える動力伝達装置において、二次側要素に付与される動力を高いロバスト性で制御することができる制御装置を提供することを目的とする。
本発明の動力伝達装置の制御装置は、かかる目的を達成するために、アクチュエータの駆動力により変位する一次側要素と、該一次側要素に対して相対変位可能に該一次側要素に弾性力発生機構を介して連結された二次側要素とを備え、該一次側要素及び二次側要素の間の相対変位に応じて当該両要素の間で前記弾性力発生機構により発生する弾性力によって、当該両要素の間の動力伝達を行うように構成された動力伝達装置において、前記動力伝達によって前記二次側要素に付与される動力である二次側動力を目標値に制御する制御装置であって、
前記弾性力発生機構は、前記一次側要素と二次側要素との間の相対速度に応じた粘性力を発生すると共に、当該両要素の間の相対速度の変化に対する前記粘性力の変化の比率を表す粘性特性係数を可変的に制御可能に構成されており、
前記一次側要素と前記二次側要素との間の相対変位量を計測し、該相対変位量の計測値と、該相対変位量の変化に対する前記弾性力発生機構の発生弾性力の変化の比率を表す剛性特性係数の値とから、該発生弾性力によって前記二次側要素に付与される前記二次側動力の計測値を取得する二次側動力計測手段と、
前記二次側動力の計測値と前記目標値との偏差を第1変数成分、該偏差の時間的変化率を第2変数成分として構成される切換関数を用いるスライディングモード制御の制御処理により、該切換関数により規定される切換超平面上で前記第1変数成分をゼロに収束させるように前記アクチュエータの駆動力を制御するための制御入力を逐次決定する制御入力決定手段と、
前記第1変数成分及び第2変数成分を2つの座標軸成分とする位相平面での前記切換超平面の傾きを、前記粘性特性係数の制御値に応じて変化させるように設定する切換超平面可変設定手段とを備え、
前記制御入力決定手段は、前記設定された傾きを有する前記切換超平面に対応する前記切換関数を用いて前記制御入力を決定するように構成されていることを特徴とする(第1発明)。
かかる第1発明によれば、前記二次側動力計測手段が取得する計測値は、前記弾性力発生機構の発生弾性力によって前記二次側要素に付与される二次側動力の計測値であるので、該計測値には、弾性力発生機構が発生する粘性力に起因する成分は含まれていない。そして、該二次側動力の計測値は、前記一次側要素と前記二次側要素との間の相対変位量の計測値を用いて取得されるものであるから、弾性力発生機構の発生弾性力によって二次側要素に付与される実際の二次側動力の値としての信頼性が高いものとなる。
第1発明では、上記の如く二次側動力の計測値には、弾性力発生機構が発生する粘性力に起因する成分は含まれないので、弾性力発生機構が前記一次側要素及び二次側要素の間の相対速度に応じて粘性力を発生する状況では、二次側動力の計測値は、実際の二次側動力の値に対して誤差を有するものとなる。
しかるに、第1発明では、前記切換超平面の傾きが、前記弾性力発生機構の粘性特性係数の制御値に応じて可変的に設定される。このため、前記弾性力発生機構が発生する粘性力の影響で、二次側動力の計測値が実際の値に対して過渡的に誤差を有するものとなっていても、前記制御入力決定手段は、当該誤差の影響を補償するように前記制御入力を決定できる。
すなわち、前記第1変数成分や第2変数成分の値が過剰に変動したり振動したりすることを防止しつつ、安定した時定数で第1変数成分をゼロに収束させる(ひいては、二次側動力の計測値を前記目標値に収束させる)ようにすることができる。
よって、第1発明によれば、二次側要素に付与される動力を高いロバスト性で制御することができる。
なお、第1発明における粘性特性係数の制御値は、該粘性特性係数の制御により実現される値を意味し、その値としては例えば粘性特性係数の目標値を用いることができる。このことは、後述の他の発明においても同様である。
上記第1発明では、前記弾性力発生機構は、例えば前記剛性特性係数が一定値になるように構成される。この場合においては、前記切換超平面可変設定手段は、前記切換超平面上での前記第1変数成分のゼロへの収束の時定数として該切換超平面の傾きにより規定される切換超平面上収束時定数と、前記粘性特性係数との間の相関関係が次式(A)により表される関係になるように、前記粘性特性係数の制御値に応じて前記切換超平面の傾きを決定するように構成されていることが好ましい(第2発明)。
Tc=a+b・Kdp/Ksp ……(A)
ただし、
Tc:前記切換超平面上収束時定数
a,b:あらかじめ決定された定数値
Ksp:前記剛性特性係数の値
Kdp:前記粘性特性係数の値
すなわち、本願発明者の各種実験、検討によれば、前記弾性力発生機構の剛性特性係数の値が一定である場合、切換超平面の傾きにより規定される切換超平面上収束時定数と、前記粘性特性係数との間の相関関係が式(A)により表される関係になるように、前記粘性特性係数の制御値に応じて前記切換超平面の傾きを決定することで、二次側動力の計測値を安定に目標値に収束させることを好適に行うことができる。
また、第1発明において、前記弾性力発生機構は、前記粘性特性係数と前記剛性特性係数とをそれぞれ可変的に制御可能に構成されていてもよい。この場合にあっては、前記切換超平面可変設定手段は、前記切換超平面上での前記第1変数成分のゼロへの収束の時定数として該切換超平面の傾きにより規定される切換超平面上収束時定数と、前記粘性特性係数と、前記剛性特性係数との間の相関関係が次式(B)により表される関係になるように、前記粘性特性係数の制御値と前記剛性特性係数の制御値とに応じて前記切換超平面の傾きを決定するように構成されていることが好ましい(第3発明)。
Tc=(a2/sqrt(Ksp))+a1・Ksp+a0+b・Kdp/Ksp ……(B)
ただし、
Tc:前記切換超平面上収束時定数
a2,a1,a0,b:あらかじめ決定された定数値
Ksp:前記剛性特性係数の値
Kdp:前記粘性特性係数の値
すなわち、本願発明者の各種実験、検討によれば、前記弾性力発生機構の粘性特性係数と剛性特性係数とがそれぞれ可変的に制御される場合、切換超平面の傾きにより規定される切換超平面上収束時定数と、前記粘性特性係数と、前記剛性特性係数との間の相関関係が式(B)により表される関係になるように、前記粘性特性係数の制御値と前記剛性粘性係数の制御値とに応じて前記切換超平面の傾きを決定することで、二次側動力の計測値を安定に目標値に収束させることを好適に行うことができる。
なお、第3発明における剛性特性係数の制御値は、該剛性特性係数の制御により実現される値を意味し、その値としては例えば剛性特性係数の目標値を用いることができる。このことは、後述の他の発明においても同様である。
上記第2発明又は第3発明では、前記制御入力決定手段は、より具体的には、例えば、前記切換超平面上で前記第1変数成分をゼロに収束させる機能を有する制御入力成分として次式(C)により算出される第1制御入力成分と、前記切換関数の値をゼロに収束させる機能を有する制御入力成分として該切換関数の値に応じて決定される第2制御入力成分とを合成してなる値を前記制御入力として決定するように構成される(第4発明)。
なお、本発明における動力伝達装置は、一次側要素と二次側要素との間で並進力を伝達する直動型の動力伝達装置(一次側要素と二次側要素との間の相対変位が直線的な変位となる動力伝達装置)と、一次側要素と二次側要素との間で回転力(トルク)を伝達する回転型の動力伝達装置(一次側要素と二次側要素との間の相対変位が回転変位となる動力伝達装置)とのいずれであってもよい。そして、上記Iinは、直動型の動力伝達装置では入力側慣性質量であり、回転型の動力伝達装置では入力側イナーシャである。、また、上記Ioutは、直動型の動力伝達装置では出力側慣性質量であり、回転型の動力伝達装置では出力側イナーシャである。これらのことは、後述の第14発明でも同様である。
上記第4発明によれば、前記第1変数成分と第2変数成分との組が前記切換超平面上に達した後は、前記第1制御入力成分によって、安定に第1変数成分をゼロに収束させることができる。
また、前記第1発明において、前記弾性力発生機構が、前記剛性特性係数が一定値になるように構成されている場合には、前記切換超平面可変設定手段は、前記切換超平面の傾きと、前記粘性特性係数の値との間の相関関係であって、前記粘性特性係数の複数の代表値と、該粘性特性係数の各代表値に対応してあらかじめ決定された前記切換超平面の傾きとに基づいてあらかじめ特定された相関関係に従って、前記粘性特性係数の制御値に応じて前記切換超平面の傾きを決定するように構成されており、
前記粘性特性係数の各代表値に対応する前記切換超平面の傾きは、前記弾性力発生機構の粘性特性係数を当該代表値に制御した状態で、前記第1変数成分を任意の値からゼロに収束させるときの該第1変数成分の値と前記第2変数成分の値と組の推移の軌跡を示すデータとしてあらかじめ取得された複数の応答特性データのうちの所定の要件を満たす特定の応答特性データに基づいて決定されており、
前記第1変数成分の値の大きさの許容限界値である第1許容限界値とゼロとの間で該第1許容限界値に応じて設定された第1設定値を前記位相平面において示すラインを第1設定値ライン、前記第2変数成分の値の大きさの許容限界値である第2許容限界値とゼロとの間で該第2許容限界値に応じて設定された第2設定値を前記位相平面において示すラインを第2設定値ラインと定義したとき、前記所定の要件を満たす特定の応答特性データは、該特定の応答特性データにより示される前記軌跡上での前記第1変数成分の値の大きさと前記第2変数成分の値の大きさとがそれぞれ前記第1許容限界値以下と第2許容限界値以下とに収まり、且つ、該軌跡が前記第1設定値ライン又は第2設定値ラインと交わるという要件を満たす応答特性データであり、
前記粘性特性係数の各代表値に対応する前記切換超平面の傾きは、前記位相平面において、前記特定の応答特性データのそれぞれにより示される前記軌跡と前記第1設定値ライン又は第2設定値ラインとの交点のうち、該交点と前記位相平面の原点とを結ぶライン上での前記第1変数成分のゼロへの収束の時定数が、あらかじめ定めた要求範囲内の値であるという制約条件を満たす交点と、該位相平面の原点とを結ぶラインの傾きに一致又は近似するように決定されていることが好ましい(第5発明)。
上記第5発明によれば、前記切換超平面の傾きと、前記粘性特性係数との間の相関関係が前記粘性特性係数の複数の代表値と、該粘性特性係数の各代表値に対応してあらかじめ決定された前記切換超平面の傾きとに基づいてあらかじめ特定されている。
そして、この場合、粘性特性係数の各代表値に対応する切換超平面の傾きは、前記弾性力発生機構の粘性特性係数を該代表値に制御した状態であらかじめ取得された前記複数の応答特性データのうち、前記所定の要件を満たす特定の応答特性データに基づいて決定されている。
従って、前記応答特性データのうち、該応答特性データにより示される前記軌跡上での前記第1変数成分の値の大きさが前記第1許容限界値を超えるような過大なものとなったり、あるいは、前記第2変数成分の値の大きさが前記第2許容限界値を超えてしまうような過大なものとなるような応答特性データは、粘性特性係数の各代表値に対応する切換超平面の傾きを決定するための特定の応答特性データとしては利用されない。
また、前記応答特性データのうち、該応答特性データにより示される前記軌跡上での前記第1変数成分の値の大きさが、前記第1設定値よりも小さい大きさに保たれ、且つ、該軌跡上での前記第2変数成分の値の大きさが、前記第2設定値よりも小さい大きさに保たれるような応答特性データ、すなわち、該軌跡上の任意の点の第1変数成分及び第2変数成分の値の大きさが、いずれも小さ過ぎるような応答特性データは、粘性特性係数の各代表値に対応する切換超平面の傾きを決定するための特定の応答特性データとしては利用されない。
すなわち、前記軌跡上の点の第1変数成分の値の大きさが、前記第1許容限界値を超えるような過大なものとなったり、あるいは、該軌跡上の点の第2変数成分の値の大きさが、第2許容限界値を超えるような過大なものとなることがなく、しかも、第1変数成分の値の大きさが第1設定値以上の大きさ(小さすぎない大きさ)となるか、もしくは、第2変数成分の値の大きさが第2設定値以上の大きさ(小さすぎない大きさ)となるような点を軌跡上に含む応答特性データだけが、粘性特性係数の各代表値に対応する切換超平面の傾きを決定するための特定の応答特性データとして利用される。
従って、第1変数成分のゼロへの収束を良好に行い得るものとして信頼性の高い応答特性データを、粘性特性係数の各代表値に対応する切換超平面の傾きを決定するための特定の応答特性データとして用いることができる。
そして、粘性特性係数の各代表値に対応する切換超平面の傾きは、前記位相平面において、前記特定の応答特性データのそれぞれにより示される前記軌跡と前記第1設定値ライン又は第2設定値ラインとの交点のうち、該交点と前記位相平面の原点とを結ぶライン上での前記第1変数成分のゼロへの収束の時定数が、あらかじめ定めた要求範囲内の値であるという制約条件を満たす交点と、該位相平面の原点とを結ぶラインの傾きに一致又は近似するように決定されている。
この場合、上記交点は、第1変数成分の値が前記第1設定値に一致するか、又は第2変数成分の値が前記第2設定値に一致するような点であるから、第1変数成分の値の大きさ又は第2変数成分の値の大きさが、過大もしくは過小ではない適度な大きさとなるような点である。
そして、このような交点のうち、該交点と前記位相平面の原点とを結ぶライン上での前記第1変数成分のゼロへの収束の時定数が、あらかじめ定めた要求範囲内の値であるという制約条件を満たす交点(以降、要求適合交点ということがある)を用いて、該要求適合交点と、位相平面の原点とを結ぶラインの傾きに一致又は近似するように、粘性特性係数の各代表値に対応する切換超平面の傾きが決定されている。
このように粘性特性係数の各代表値に対応する切換超平面の傾きが決定されているので、取得した複数の応答特性データから、該切換超平面の傾きを決定することを効率よく容易に行なうことができる。
この場合、応答特性データを取得するための制御手法は、特定の制御手法に限定されるものではないので、PD制御等の汎用的な制御手法を用いて容易に取得することができる。
さらに、粘性特性係数の各代表値に対応する切換超平面の傾きを、前記要求適合交点を用いて決定することは、例えば最小二乗法等の公知の統計的な同定手法によって行なうことができる。
そして、第5発明では、粘性特性係数の複数の代表値と、その代表値のそれぞれに対応して上記の如く決定された切換超平面の傾きとに基づいて、切換超平面の傾きと、粘性特性係数との間の前記相関関係(制御入力決定手段が、粘性特性係数の制御値に応じて切換超平面の傾きを決定するために用いる相関関係)が特定されている。
このため、前記制御入力決定手段は、高いロバスト性と所望の収束特性とで、二次側動力の計測値を目標値に制御することができるように、スライディングモード制御の制御処理により前記制御入力を決定することができる。
なお、第5発明を前記第2発明又は第4発明と組み合わせてもよい。第5発明と第2発明とを組み合わせた場合には、前記相関関係は、前記式(A)により表されることとなる。この場合、粘性特性係数の複数の代表値と、その代表値のそれぞれに対応して上記の如く決定された切換超平面の傾きとに基づいて、最小二乗法等の統計的な同定手法によって、前記式(A)の変数a,bの値を特定することで、当該相関関係が決定されることとなる。
ただし、第5発明における相関関係は、例えば、粘性特性係数の複数の代表値と、その代表値のそれぞれに対応して上記の如く決定された切換超平面の傾きとをマップデータとして決定された相関関係であってもよい。
上記第5発明では、前記第1許容限界値は、前記アクチュエータの駆動力による前記一次側要素の変位速度及び変位加速度がそれぞれあらかじめ定められた許容限界値を超えないように、該一次側要素の変位速度の許容限界値と該一次側要素の変位加速度の許容限界値と前記剛性特性係数の値とに応じて設定された値であることが好ましい(第6発明)。
この第6発明によれば、粘性特性係数の各代表値毎に、前記複数の応答特性データのうち、前記一次側要素の変位速度及び変位加速度がそれぞれあらかじめ定められた許容限界値を超えることがないような応答特性データを用いて、粘性特性係数の各代表値に対応する切換超平面の傾きを決定できる。
このため、前記動力伝達装置の動作制御時に、前記一次側要素の変位速度及び変位加速度がそれぞれあらかじめ定められた許容限界値を超えないように動力伝達装置を動作を制御することを、前記弾性力発生機構の粘性特性係数の制御状態によらずに、高い信頼性で行うようにすることができる。ひいては、前記弾性力発生機構の粘性特性係数の制御状態によらずに、前記一次側要素の変位速度あるいは変位加速度が許容限界値に近いものとなるような領域での動力伝達装置の動作を安定して行なうようにすることが可能となる。
また、上記第5発明又は第6発明では、前記第2許容限界値は、前記アクチュエータから前記二次側要素に至る動力伝達系の固有振動に応じた該動力伝達系の振動の発生を防止するように、前記剛性特性係数の値に応じて設定された値であることが好ましい(第7発明)。
この第7発明によれば、粘性特性係数の各代表値毎に、前記複数の応答特性データのうち、前記固有振動に応じた動力伝達系の振動が発生しないような応答特性データを用いて、前記粘性特性係数の各代表値に対応する切換超平面の傾きを決定できる。
このため、前記弾性力発生機構の粘性特性係数の制御状態によらずに、前記固有振動に応じた動力伝達系の振動が生じないか、もしくは生じ難いものとなるように動力伝達装置を動作を制御することを高い信頼性で行うようにすることができる。
また、前記第1発明において、前記弾性力発生機構が、前記粘性特性係数と前記剛性特性係数とをそれぞれ可変的に制御可能に構成されている場合には、前記切換超平面可変設定手段は、前記切換超平面の傾きと、前記粘性特性係数と、前記剛性特性係数との間の相関関係であって、前記粘性特性係数の複数の代表値と、前記剛性特性係数の複数の代表値と、該粘性特性係数及び剛性特性係数の各代表値の組のそれぞれに対応してあらかじめ決定された前記切換超平面の傾きとに基づいてあらかじめ決定された相関関係に従って、前記粘性特性係数の制御値と、前記剛性特性係数の制御値とに応じて前記切換超平面の傾きを決定するように構成されており、
前記粘性特性係数及び剛性特性係数の各代表値の組のそれぞれに対応する前記切換超平面の傾きは、前記弾性力発生機構の粘性特性係数及び剛性特性係数をそれぞれ当該代表値に制御した状態で、前記第1変数成分を任意の値からゼロに収束させるときの該第1変数成分の値と前記第2変数成分の値と組の推移の軌跡を示すデータとしてあらかじめ取得された複数の応答特性データのうちの所定の要件を満たす特定の応答特性データに基づいて決定されており、
前記第1変数成分の値の大きさの許容限界値である第1許容限界値とゼロとの間で該第1許容限界値に応じて設定された第1設定値を前記位相平面において示すラインを第1設定値ライン、前記第2変数成分の値の大きさの許容限界値である第2許容限界値とゼロとの間で該第2許容限界値に応じて設定された第2設定値を前記位相平面において示すラインを第2設定値ラインと定義したとき、前記所定の要件を満たす特定の応答特性データは、該特定の応答特性データにより示される前記軌跡上での前記第1変数成分の値の大きさと前記第2変数成分の値の大きさとがそれぞれ前記第1許容限界値以下と第2許容限界値以下とに収まり、且つ、該軌跡が前記第1設定値ライン又は第2設定値ラインと交わるという要件を満たす応答特性データであり、
前記粘性特性係数及び剛性特性係数の各代表値の組のそれぞれに対応する前記切換超平面の傾きは、前記位相平面において、前記特定の応答特性データのそれぞれにより示される前記軌跡と前記第1設定値ライン又は第2設定値ラインとの交点のうち、該交点と前記位相平面の原点とを結ぶライン上での前記第1変数成分のゼロへの収束の時定数が、あらかじめ定めた要求範囲内の値であるという制約条件を満たす交点と、該位相平面の原点とを結ぶラインの傾きに一致又は近似するように決定されていることが好ましい(第8発明)。
上記第8発明によれば、前記切換超平面の傾きと、前記粘性特性係数と、前記剛性特性係数との間の相関関係が前記粘性特性係数の複数の代表値と、前記剛性特性係数の複数の代表値と、該粘性特性係数及び剛性特性係数の各代表値の組のそれぞれに対応してあらかじめ決定された前記切換超平面の傾きとに基づいてあらかじめ特定されている。
そして、この場合、粘性特性係数及び剛性特性係数の各代表値の組のそれぞれに対応する切換超平面の傾きは、前記弾性力発生機構の粘性特性係数と剛性特性係数とを当該代表値(任意の一つの組の代表値)に制御した状態であらかじめ取得された前記複数の応答特性データのうち、前記所定の要件を満たす特定の応答特性データに基づいて決定されている。
従って、前記第5発明の場合と同様に、前記応答特性データのうち、該応答特性データにより示される前記軌跡上での前記第1変数成分の値の大きさが前記第1許容限界値を超えるような過大なものとなったり、あるいは、前記第2変数成分の値の大きさが前記第2許容限界値を超えてしまうような過大なものとなるような応答特性データは、粘性特性係数及び剛性特性係数の各代表値の組のそれぞれに対応する切換超平面の傾きを決定するための特定の応答特性データとしては利用されない。
また、前記応答特性データのうち、該応答特性データにより示される前記軌跡上での前記第1変数成分の値の大きさが、前記第1設定値よりも小さい大きさに保たれ、且つ、該軌跡上での前記第2変数成分の値の大きさが、前記第2設定値よりも小さい大きさに保たれるような応答特性データ、すなわち、該軌跡上の任意の点の第1変数成分及び第2変数成分の値の大きさが、いずれも小さ過ぎるような応答特性データは、粘性特性係数及び剛性特性係数の各代表値の組のそれぞれに対応する切換超平面の傾きを決定するための特定の応答特性データとしては利用されない。
すなわち、前記第5発明の場合と同様に、前記軌跡上の点の第1変数成分の値の大きさが、前記第1許容限界値を超えるような過大なものとなったり、あるいは、該軌跡上の点の第2変数成分の値の大きさが、第2許容限界値を超えるような過大なものとなることがなく、しかも、第1変数成分の値の大きさが第1設定値以上の大きさ(小さすぎない大きさ)となるか、もしくは、第2変数成分の値の大きさが第2設定値以上の大きさ(小さすぎない大きさ)となるような点を軌跡上に含む応答特性データだけが、粘性特性係数及び剛性特性係数の各代表値の組のそれぞれに対応する切換超平面の傾きを決定するための特定の応答特性データとして利用される。
従って、第1変数成分のゼロへの収束を良好に行い得るものとして信頼性の高い応答特性データを、粘性特性係数及び剛性特性係数の各代表値の組のそれぞれに対応する切換超平面の傾きを決定するための特定の応答特性データとして用いることができる。
そして、粘性特性係数及び剛性特性係数の各代表値の組のそれぞれに対応する切換超平面の傾きは、前記位相平面において、前記特定の応答特性データのそれぞれにより示される前記軌跡と前記第1設定値ライン又は第2設定値ラインとの交点のうち、該交点と前記位相平面の原点とを結ぶライン上での前記第1変数成分のゼロへの収束の時定数が、あらかじめ定めた要求範囲内の値であるという制約条件を満たす交点と、該位相平面の原点とを結ぶラインの傾きに一致又は近似するように決定されている。
この場合、上記交点は、第1変数成分の値が前記第1設定値に一致するか、又は第2変数成分の値が前記第2設定値に一致するような点であるから、第1変数成分の値の大きさ又は第2変数成分の値の大きさが、過大もしくは過小ではない適度な大きさとなるような点である。
そして、このような交点のうち、該交点と前記位相平面の原点とを結ぶライン上での前記第1変数成分のゼロへの収束の時定数が、あらかじめ定めた要求範囲内の値であるという制約条件を満たす交点(すなわち、前記要求適合交点)を用いて、該要求適合交点と、位相平面の原点とを結ぶラインの傾きに一致又は近似するように、粘性特性係数及び剛性特性係数の各代表値の組のそれぞれに対応する切換超平面の傾きが決定されている。
このように粘性特性係数及び剛性特性係数の各代表値の組のそれぞれに対応する切換超平面の傾きが決定されているので、取得した複数の応答特性データから、該切換超平面の傾きを決定することを効率よく容易に行なうことができる。
この場合、応答特性データを取得するための制御手法は、特定の制御手法に限定されるものではないので、PD制御等の汎用的な制御手法を用いて容易に取得することができる。
さらに、粘性特性係数及び剛性特性係数の各代表値の組のそれぞれに対応する切換超平面の傾きを、前記要求適合交点を用いて決定することは、例えば最小二乗法等の公知の統計的な同定手法によって行なうことができる。
そして、第8発明では、粘性特性係数の複数の代表値と、剛性特性係数の複数の代表値と、それらの代表値の組のそれぞれに対応して上記の如く決定された切換超平面の傾きとに基づいて、切換超平面の傾きと、粘性特性係数と、剛性特性係数との間の前記相関関係(制御入力決定手段が、粘性特性係数の制御値と剛性特性係数の制御値とに応じて切換超平面の傾きを決定するために用いる相関関係)が特定されている。
このため、前記制御入力決定手段は、高いロバスト性と所望の収束特性とで、二次側動力の計測値を目標値に制御することができるように、スライディングモード制御の制御処理により前記制御入力を決定することができる。
なお、第8発明を前記第3発明又は第4発明と組み合わせてもよい。第8発明と第3発明とを組み合わせた場合には、前記相関関係は、前記式(B)により表されることとなる。この場合、剛性特性係数の複数の代表値と、それらの代表値の組のそれぞれに対応して上記の如く決定された切換超平面の傾きとに基づいて、最小二乗法等の統計的な同定手法によって、前記式(B)の変数a2、a1,a0,bの値を特定することで、当該相関関係が決定されることとなる。
ただし、第8発明における相関関係は、例えば、粘性特性係数の複数の代表値と、剛性特性係数の複数の代表値と、それらの代表値の組のそれぞれに対応して上記の如く決定された切換超平面の傾きとをマップデータとして決定された相関関係であってもよい。
上記第8発明では、前記第1許容限界値は、前記剛性特性係数の各代表値に対応して設定される値であり、該剛性特性係数の各代表値に対応する前記第1許容限界値は、前記弾性力発生機構の剛性特性係数を当該代表値に制御した状態で、前記アクチュエータの駆動力による前記一次側要素の変位速度及び変位加速度がそれぞれあらかじめ定められた許容限界値を超えないように、該一次側要素の変位速度の許容限界値と該一次側要素の変位加速度の許容限界値と前記剛性特性係数の当該代表値とに応じて設定された値であることが好ましい(第9発明)。
この第9発明によれば、前記粘性特性係数及び剛性特性係数の各代表値の組のそれぞれ毎に、前記複数の応答特性データのうち、前記一次側要素の変位速度及び変位加速度がそれぞれあらかじめ定められた許容限界値を超えることがないような応答特性データを用いて、前記切換超平面の傾きを決定できる。
このため、前記動力伝達装置の動作制御時に、前記一次側要素の変位速度及び変位加速度がそれぞれあらかじめ定められた許容限界値を超えないように動力伝達装置を動作を制御することを、前記弾性力発生機構の粘性特性係数及び剛性特性係数の制御状態によらずに、高い信頼性で行うようにすることができる。ひいては、前記弾性力発生機構の粘性特性係数及び剛性特性係数の制御状態によらずに、前記一次側要素の変位速度あるいは変位加速度が許容限界値に近いものとなるような領域での動力伝達装置の動作を安定して行なうようにすることが可能となる。
また、上記第8発明又は第9発明では、前記第2許容限界値は、前記剛性特性係数の各代表値に対応して設定される値であり、該剛性特性係数の各代表値に対応する前記第2許容限界値は、前記弾性力発生機構の剛性特性係数を当該代表値に制御した状態で、前記アクチュエータから前記二次側要素に至る動力伝達系の固有振動に応じた該動力伝達系の振動の発生を防止するように、前記剛性特性係数の当該代表値に応じて決定された値であることが好ましい(第10発明)。
この第10発明によれば、、前記粘性特性係数及び剛性特性係数の各代表値の組のそれぞれ毎に、前記複数の応答特性データのうち、前記固有振動に応じた動力伝達系の振動が発生しないような応答特性データを用いて、前記粘性特性係数及び剛性特性係数の各代表値の組のそれぞれに対応する切換超平面の傾きを決定できる。
このため、前記弾性力発生機構の粘性特性係数及び剛性特性係数の制御状態によらずに、前記固有振動に応じた動力伝達系の振動が生じないか、もしくは生じ難いものとなるように動力伝達装置を動作を制御することを高い信頼性で行うようにすることができる。
また、前記第5〜第10発明では、前記第1変数成分の値をゼロから前記第1許容限界値までステップ状に変化させると共に該第1変数成分の値のゼロへの収束を前記アクチュエータの駆動力による前記一次側要素の変位加速度が該変位加速度の許容限界値になるように行なったと仮定した場合に実現される時定数を特定時定数と定義しとき、前記制約条件は、前記第1変数成分のゼロへの収束の時定数を、前記特定時定数以上の範囲の値に制限する条件であることが好ましい(第11発明)。
すなわち、前記第1変数成分の値をゼロから、第1許容限界値以下のある値にステップ状に変化させることを想定した場合、第1変数成分の値をゼロから第1許容限界値まで変化させる場合に、前記一次側要素と二次側要素との間の相対変位量が最大となる。
この場合、二次側要素に対する一次側要素の変位は、許容限界値以下の変位加速度での変位に制限されるので、第1変数成分の値のゼロへの収束の時定数は、前記特定時定数よりも小さくなることはできない。
そこで、第11発明では、前記要求適合交点を規定する前記制約条件を、前記第1変数成分のゼロへの収束の時定数を前記特定時定数以上の範囲の値に制限する条件となるように設定した。
従って、第11発明によれば、動力伝達装置の動作制御時に、該動力伝達装置の幅広い動作領域で、二次側動力を目標値に制御することを高いロバスト性で安定に行なうことができる。
また、前記第1〜第11発明では、前記二次側動力の計測値と該二次側動力の目標値とから算出される前記第1変数成分の値である第1変数成分計測値と、該第1変数成分計測値の時間的変化率として算出される前記第2変数成分の値である第2変数成分計測値とから外乱による影響を低減してなる前記第1変数成分の推定値と前記第2変数成分の推定値とを逐次算出するオブザーバをさらに備えており、前記制御入力決定手段は、前記第1変数成分計測値と前記第2変数成分計測値との代わりに、前記オブザーバにより算出された前記第1変数成分の推定値と第2変数成分の推定値とを用いて前記切換関数の値を算出しつつ、該切換関数の値を用いて前記制御入力を逐次生成するように構成されていることが好ましい(第12発明)。
この第12発明によれば、前記オブザーバにより算出された前記第1変数成分の推定値と第2変数成分の推定値とを用いて前記切換関数の値を算出しつつ、該切換関数の値を用いてスライディングモード制御の制御処理により前記制御入力を逐次生成することにより、外乱の影響が抑制される。
このため、制御入力決定手段により逐次決定される制御入力の安定性が高まる。ひいては、二次側動力の制御のロバスト性をより一層高めることができる。
本発明の動力伝達装置の制御装置は、前記第1〜第11発明の形態に限らず、以下の形態を採用してもよい。
すなわち、本発明の動力伝達装置の制御装置は、前記の目的を達成するために、アクチュエータの駆動力により変位する一次側要素と、該一次側要素に対して相対変位可能に該一次側要素に弾性力発生機構を介して連結された二次側要素とを備え、該一次側要素及び二次側要素の間の相対変位に応じて当該両要素の間で前記弾性力発生機構により発生する弾性力によって、当該両要素の間の動力伝達を行うように構成された動力伝達装置において、前記動力伝達によって前記二次側要素に付与される動力である二次側動力を目標値に制御する制御装置であって、
前記弾性力発生機構は、前記一次側要素と二次側要素との間の相対速度に応じた粘性力を発生すると共に、当該両要素の間の相対速度の変化に対する前記粘性力の変化の比率を表す粘性特性係数を可変的に制御可能に構成されており、
前記一次側要素と前記二次側要素との間の相対変位量を計測し、該相対変位量の計測値と、該相対変位量の変化に対する前記弾性力発生機構の発生弾性力の変化の比率を表す剛性特性係数の値とから、該発生弾性力によって前記二次側要素に付与される前記二次側動力の計測値を取得する二次側動力計測手段と、
前記二次側動力の計測値と前記目標値との偏差を第1変数成分、該偏差の時間的変化率を第2変数成分として構成される切換関数を用いるスライディングモード制御の制御処理により、該切換関数により規定される切換超平面上で前記第1変数成分をゼロに収束させるように前記アクチュエータの駆動力を制御するための制御入力を逐次決定する制御入力決定手段とを備え、
前記制御入力決定手段は、前記粘性特性係数の制御値をあらかじめ決定された補正係数により補正してなる補正値と、前記第1変数成分及び第2変数成分を2つの座標軸成分とする位相平面における前記切換超平面の傾きが前記粘性特性係数の制御値の変化に依存しない傾きになるように決定された前記切換関数とを用いて前記制御入力を決定するように構成されていることを特徴とする(第13発明)。
かかる第13明によれば、前記二次側動力計測手段が取得する計測値は、前記第1発明と同様に、前記弾性力発生機構の発生弾性力によって前記二次側要素に付与される二次側動力の計測値であるので、該計測値には、弾性力発生機構が発生する粘性力に起因する成分は含まれていない。そして、該二次側動力の計測値は、前記一次側要素と前記二次側要素との間の相対変位量の計測値を用いて取得されるものであるから、弾性力発生機構の発生弾性力によって二次側要素に付与される実際の二次側動力の値としての信頼性が高いものとなる。
第13発明では、上記の如く二次側動力の計測値には、弾性力発生機構が発生する粘性力に起因する成分は含まれないので、前記第1発明と同様に、弾性力発生機構が前記一次側要素及び二次側要素の間の相対速度に応じて粘性力を発生する状況では、二次側動力の計測値は、実際の二次側動力の値に対して誤差を有するものとなる。
ここで、第13発明では、前記制御入力決定手段が前記制御入力を決定するために用いる前記切換関数により規定される前記切換超平面の傾きは、前記粘性特性係数の制御値の変化に依存しない傾きになるように決定される一方、前記粘性特性係数の制御値をあらかじめ決定された補正係数により補正してなる補正値が、前記制御入力を決定するために用いられる。
このため、前記弾性力発生機構が発生する粘性力の影響で、二次側動力の計測値が実際の値に対して過渡的に誤差を有するものとなっていても、前記制御入力決定手段は、当該誤差の影響を補償するように前記制御入力を決定できる。
すなわち、前記第1変数成分や第2変数成分の値が過剰に変動したり振動したりすることを防止しつつ、安定した時定数で第1変数成分をゼロに収束させる(ひいては、二次側動力の計測値を前記目標値に収束させる)ようにすることができる。
よって、第13発明によれば、二次側要素に付与される動力を高いロバスト性で制御することができる。
上記第13発明では、前記制御入力決定手段は、より具体的には、例えば前記切換超平面上で前記第1変数成分をゼロに収束させる機能を有する制御入力成分として次式(D)により算出される第1制御入力成分と、前記切換関数の値をゼロに収束させる機能を有する制御入力成分として該切換関数の値に応じて決定される第2制御入力成分とを合成してなる値を前記制御入力として決定するように構成されていることを特徴とする動力伝達装置の制御装置。
なお、上記Iinが入力側イナーシャであるか、入力側慣性質量であるか、並びに、上記Ioutが出力側イナーシャであるか、出力側慣性質量であるかは、前記第4発明の場合と同様である。
上記第14発明によれば、前記粘性特性係数の制御値をあらかじめ決定された補正係数により補正してなる補正値(=b・Kdp)を、前記第1制御入力成分に適切に反映させることができる。このため、前記第1変数成分と第2変数成分との組が前記切換超平面上に達した後は、前記第1制御入力成分によって、安定に第1変数成分をゼロに収束させることができる。
上記第13発明又は第14発明では、前記弾性力発生機構は、例えば前記剛性特性係数が一定値になるように構成される。この場合には、前記第1変数成分をゼロに収束させるための適正時定数と、前記粘性特性係数との間の相関関係であって、前記粘性特性係数の複数の代表値と、該粘性特性係数の各代表値に対応してあらかじめ決定された前記適正時定数の値とに基づいてあらかじめ特定された相関関係において、前記粘性特性係数の値がゼロであるときの前記適正時定数の値に、前記切換超平面上での前記第1変数成分のゼロへの収束の時定数である切換超平面上収束時定数が一致するように、前記切換超平面の傾きが決定されていると共に、該相関関係において、任意の粘性特性係数の値に対応する前記適正時定数の値が、前記粘性特性係数の値がゼロであるときの前記適正時定数の値との差が、当該任意の粘性特性係数の値を前記補正係数により補正してなる補正値の関数値となるように前記補正係数が決定されており、
前記粘性特性係数の各代表値に対応する前記適正時定数値は、前記弾性力発生機構の粘性特性係数を当該代表値に制御した状態で、前記第1変数成分を任意の値からゼロに収束させるときの該第1変数成分の値と前記第2変数成分の値と組の推移の軌跡を示すデータとしてあらかじめ取得された複数の応答特性データのうちの所定の要件を満たす特定の応答特性データに基づいて決定されており、
前記第1変数成分の値の大きさの許容限界値である第1許容限界値とゼロとの間で該第1許容限界値に応じて設定された第1設定値を前記位相平面において示すラインを第1設定値ライン、前記第2変数成分の値の大きさの許容限界値である第2許容限界値とゼロとの間で該第2許容限界値に応じて設定された第2設定値を前記位相平面において示すラインを第2設定値ラインと定義したとき、前記所定の要件を満たす特定の応答特性データは、該特定の応答特性データにより示される前記軌跡上での前記第1変数成分の値の大きさと前記第2変数成分の値の大きさとがそれぞれ前記第1許容限界値以下と第2許容限界値以下とに収まり、且つ、該軌跡が前記第1設定値ライン又は第2設定値ラインと交わるという要件を満たす応答特性データであり、
前記粘性特性係数の各代表値に対応する前記適正時定数の値は、前記位相平面において、前記特定の応答特性データのそれぞれにより示される前記軌跡と前記第1設定値ライン又は第2設定値ラインとの交点のうち、該交点と前記位相平面の原点とを結ぶライン上での前記第1変数成分のゼロへの収束の時定数が、あらかじめ定めた要求範囲内の値であるという制約条件を満たす交点と、該位相平面の原点とを結ぶライン上での前記第1変数成分のゼロへの収束の時定数に一致又は近似するように決定されていることが好ましい(第15発明)。
上記第15発明によれば、前記第1変数成分をゼロに収束させるための適正時定数と、前記粘性特性係数との間の相関関係が、前記粘性特性係数の複数の代表値と、該粘性特性係数の各代表値に対応してあらかじめ決定された前記適正時定数の値とに基づいてあらかじめ特定されている。
そして、この場合、粘性特性係数の各代表値に対応する適正時定数の値は、前記弾性力発生機構の粘性特性係数を該代表値に制御した状態であらかじめ取得された前記複数の応答特性データのうち、前記所定の要件を満たす特定の応答特性データに基づいて決定されている。
従って、前記応答特性データのうち、該応答特性データにより示される前記軌跡上での前記第1変数成分の値の大きさが前記第1許容限界値を超えるような過大なものとなったり、あるいは、前記第2変数成分の値の大きさが前記第2許容限界値を超えてしまうような過大なものとなるような応答特性データは、粘性特性係数の各代表値に対応する適正時定数の値を決定するための特定の応答特性データとしては利用されない。
また、前記応答特性データのうち、該応答特性データにより示される前記軌跡上での前記第1変数成分の値の大きさが、前記第1設定値よりも小さい大きさに保たれ、且つ、該軌跡上での前記第2変数成分の値の大きさが、前記第2設定値よりも小さい大きさに保たれるような応答特性データ、すなわち、該軌跡上の任意の点の第1変数成分及び第2変数成分の値の大きさが、いずれも小さ過ぎるような応答特性データは、粘性特性係数の各代表値に対応する適正時定数の値を決定するための特定の応答特性データとしては利用されない。
すなわち、前記軌跡上の点の第1変数成分の値の大きさが、前記第1許容限界値を超えるような過大なものとなったり、あるいは、該軌跡上の点の第2変数成分の値の大きさが、第2許容限界値を超えるような過大なものとなることがなく、しかも、第1変数成分の値の大きさが第1設定値以上の大きさ(小さすぎない大きさ)となるか、もしくは、第2変数成分の値の大きさが第2設定値以上の大きさ(小さすぎない大きさ)となるような点を軌跡上に含む応答特性データだけが、粘性特性係数の各代表値に対応する適正時定数の値を決定するための特定の応答特性データとして利用される。
従って、第1変数成分のゼロへの収束を良好に行い得るものとして信頼性の高い応答特性データを、粘性特性係数の各代表値に対応する適正時定数の値を決定するための特定の応答特性データとして用いることができる。
そして、粘性特性係数の各代表値に対応する適正時定数の値は、前記位相平面において、前記特定の応答特性データのそれぞれにより示される前記軌跡と前記第1設定値ライン又は第2設定値ラインとの交点のうち、該交点と前記位相平面の原点とを結ぶライン上での前記第1変数成分のゼロへの収束の時定数が、あらかじめ定めた要求範囲内の値であるという制約条件を満たす交点と、該位相平面の原点とを結ぶライン上での前記第1変数成分のゼロへの収束の時定数に一致又は近似するように決定されている。
この場合、上記交点は、第1変数成分の値が前記第1設定値に一致するか、又は第2変数成分の値が前記第2設定値に一致するような点であるから、第1変数成分の値の大きさ又は第2変数成分の値の大きさが、過大もしくは過小ではない適度な大きさとなるような点である。
そして、このような交点のうち、該交点と前記位相平面の原点とを結ぶライン上での前記第1変数成分のゼロへの収束の時定数が、あらかじめ定めた要求範囲内の値であるという制約条件を満たす交点(すなわち、前記要求適合交点)を用いて、該要求適合交点と、位相平面の原点とを結ぶライン上での前記第1変数成分のゼロへの収束の時定数に一致又は近似するように、粘性特性係数の各代表値に対応する適正時定数の値が決定されている。
このように粘性特性係数の各代表値に対応する適正時定数の値が決定されているので、取得した複数の応答特性データから、該適正時定数の値を決定することを効率よく容易に行なうことができる。
この場合、応答特性データを取得するための制御手法は、特定の制御手法に限定されるものではないので、PD制御等の汎用的な制御手法を用いて容易に取得することができる。
さらに、粘性特性係数の各代表値に対応する適正時定数の値を、前記要求適合交点を用いて決定することは、例えば最小二乗法等の公知の統計的な同定手法によって行なうことができる。
第15発明では、粘性特性係数の複数の代表値と、その代表値のそれぞれに対応して上記の如く決定された適正時定数の値とに基づいて、適正時定数と、粘性特性係数との間の前記相関関係が特定されている。なお、この相関関係は、前記第5発明における切換超平面の傾きと、粘性特性係数との間の相関関係に対応するものである。
そして、第15発明では、この相関関係において、前記粘性特性係数の値がゼロであるときの前記適正時定数の値に、前記切換超平面上での前記第1変数成分のゼロへの収束の時定数である切換超平面上収束時定数が一致するように、前記切換超平面の傾きが決定されている。
また、該相関関係において、任意の粘性特性係数の値に対応する前記適正時定数の値が、前記粘性特性係数の値がゼロであるときの前記適正時定数の値との差が、当該任意の粘性特性係数の値を前記補正係数により補正してなる補正値の関数値となるように前記補正係数が決定されている。
このため、前記制御入力決定手段は、切換超平面の傾きを粘性特性係数の制御値に応じて変化させずとも、高いロバスト性と所望の収束特性とで、二次側動力の計測値を目標値に制御することができるように、適切な補正係数により粘性特性係数の制御値を補正してなる補正値を用いて、スライディングモード制御の制御処理により前記制御入力を決定することができる。
上記第15発明では、前記相関関係は、例えば次式(E)により表される関係とされる(第16発明)。
Tc=a+b・Kdp/Ksp ……(E)
ただし、
Tc:前記適正時定数
Ksp:前記剛性特性係数の値
Kdp:前記粘性特性係数の値
a:あらかじめ決定された所定値
b:前記補正係数としてあらかじめ決定された所定値
すなわち、本願発明者の各種実験、検討によれば、前記弾性力発生機構の剛性特性係数の値が一定である場合、前記第1変数成分をゼロに収束させるための適正時定数と、前記粘性特性係数との間の相関関係は、式(E)により近似できる。
この場合、式(E)の相関関係において、上記aの値が、前記粘性特性係数の値がゼロであるときの前記適正時定数の値であるから、このaの値が第16発明における切換超平面上収束時定数として決定されることとなる。
また、式(E)の相関関係において、上記bの値が、前記補正係数として決定される。すなわち、式(E)の相関関係において、任意の粘性特性係数の値と、上記aの値との差に、弾性力発生機構の剛性特性係数の値を乗じてなる値に、当該粘性特性係数の値を係数bにより補正してなる値(=b・Kdp)が一致するように補正係数bの値が決定される。
このように切換超平面の傾きと、補正係数とを決定しておくことで、二次側動力の計測値を安定に目標値に収束させることを好適に行うことができる。
上記第15発明又は第16発明では、前記第1許容限界値は、前記アクチュエータの駆動力による前記一次側要素の変位速度及び変位加速度がそれぞれあらかじめ定められた許容限界値を超えないように、該一次側要素の変位速度の許容限界値と該一次側要素の変位加速度の許容限界値と前記剛性特性係数の値とに応じて決定された値であることが好ましい(第17発明)。
この第17発明によれば、粘性特性係数の各代表値毎に、前記複数の応答特性データのうち、前記一次側要素の変位速度及び変位加速度がそれぞれあらかじめ定められた許容限界値を超えることがないような応答特性データを用いて、粘性特性係数の各代表値に対応する前記適正時定数の値を決定できる。
このため、前記動力伝達装置の動作制御時に、前記一次側要素の変位速度及び変位加速度がそれぞれあらかじめ定められた許容限界値を超えないように動力伝達装置を動作を制御することを、前記弾性力発生機構の粘性特性係数の制御状態によらずに、高い信頼性で行うようにすることができる。ひいては、前記弾性力発生機構の粘性特性係数の制御状態によらずに、前記一次側要素の変位速度あるいは変位加速度が許容限界値に近いものとなるような領域での動力伝達装置の動作を安定して行なうようにすることが可能となる。
また、上記第15〜第17発明において、前記第2許容限界値は、前記アクチュエータから前記二次側要素に至る動力伝達系の固有振動に応じた該動力伝達系の振動の発生を防止するように、前記剛性特性係数の値に応じて決定された値であることが好ましい(第18発明)。
この第18発明によれば、粘性特性係数の各代表値毎に、前記複数の応答特性データのうち、前記固有振動に応じた動力伝達系の振動が発生しないような応答特性データを用いて、前記粘性特性係数の各代表値に対応する前記適正時定数の値を決定できる。
このため、前記弾性力発生機構の粘性特性係数の制御状態によらずに、前記固有振動に応じた動力伝達系の振動が生じないか、もしくは生じ難いものとなるように動力伝達装置を動作を制御することを高い信頼性で行うようにすることができる。
また、前記第13発明又は第14発明において、前記弾性力発生機構は、前記粘性特性係数と前記剛性特性係数とをそれぞれ可変的に制御可能に構成されており、
前記切換超平面の傾きを前記剛性特性係数の制御値に応じて変化させるように設定する切換超平面可変設定手段とを備え、
該切換超平面可変設定手段は、前記第1変数成分をゼロに収束させるための適正時定数と、前記粘性特性係数と、前記剛性特性係数との間の相関関係であって、前記粘性特性係数の複数の代表値と、前記剛性特性係数の複数の代表値と、該粘性特性係数及び剛性特性係数の各代表値の組のそれぞれに対応してあらかじめ決定された前記適正時定数の値とに基づいてあらかじめ特定された相関関係において、前記粘性特性係数の値をゼロとし、且つ、前記剛性特性係数の値を該剛性特性係数の制御値に一致させたときの前記適正時定数の値に、前記切換超平面上での前記第1変数成分のゼロへの収束の時定数である切換超平面上収束時定数が一致するように、前記剛性特性係数の制御値に応じて前記切換超平面の傾きを決定するように構成されており、
さらに、前記相関関係において、任意の粘性特性係数の値に対応する前記適正時定数の値と前記粘性特性係数の値がゼロであるときの前記適正時定数の値との差が、当該任意の粘性特性係数の値を前記補正係数により補正してなる補正値の関数値となるように前記補正係数があらかじめ決定されており、
前記粘性特性係数及び剛性特性係数の各代表値の組のそれぞれに対応する前記適正時定数の値は、前記弾性力発生機構の粘性特性係数及び剛性特性係数をそれぞれ当該代表値に制御した状態で、前記第1変数成分を任意の値からゼロに収束させるときの該第1変数成分の値と前記第2変数成分の値と組の推移の軌跡を示すデータとしてあらかじめ取得された複数の応答特性データのうちの所定の要件を満たす特定の応答特性データに基づいて決定されており、
前記第1変数成分の値の大きさの許容限界値である第1許容限界値とゼロとの間で該第1許容限界値に応じて設定された第1設定値を前記位相平面において示すラインを第1設定値ライン、前記第2変数成分の値の大きさの許容限界値である第2許容限界値とゼロとの間で該第2許容限界値に応じて設定された第2設定値を前記位相平面において示すラインを第2設定値ラインと定義したとき、前記所定の要件を満たす特定の応答特性データは、該特定の応答特性データにより示される前記軌跡上での前記第1変数成分の値の大きさと前記第2変数成分の値の大きさとがそれぞれ前記第1許容限界値以下と第2許容限界値以下とに収まり、且つ、該軌跡が前記第1設定値ライン又は第2設定値ラインと交わるという要件を満たす応答特性データであり、
前記粘性特性係数及び剛性特性係数の各代表値の組のそれぞれに対応する前記適正時定数の値は、前記位相平面において、前記特定の応答特性データのそれぞれにより示される前記軌跡と前記第1設定値ライン又は第2設定値ラインとの交点のうち、該交点と前記位相平面の原点とを結ぶライン上での前記第1変数成分のゼロへの収束の時定数が、あらかじめ定めた要求範囲内の値であるという制約条件を満たす交点と、該位相平面の原点とを結ぶライン上での前記第1変数成分のゼロへの収束の時定数に一致又は近似するように決定されていることが好ましい(第19発明)。
上記第19発明によれば、前記第1変数成分をゼロに収束させるための適正時定数と、前記粘性特性係数と、前記剛性特性係数との間の相関関係が、前記粘性特性係数の複数の代表値と、前記剛性特性係数の複数の代表値と、該粘性特性係数及び剛性特性係数の各代表値の組のそれぞれに対応してあらかじめ決定された前記適正時定数の値とに基づいてあらかじめ特定されている。
そして、この場合、粘性特性係数及び剛性特性係数の各代表値の組のそれぞれに対応する適正時定数の値は、前記弾性力発生機構の粘性特性係数及び剛性特性係数をそれぞれ当該代表値に制御した状態であらかじめ取得された前記複数の応答特性データのうち、前記所定の要件を満たす特定の応答特性データに基づいて決定されている。
従って、前記応答特性データのうち、該応答特性データにより示される前記軌跡上での前記第1変数成分の値の大きさが前記第1許容限界値を超えるような過大なものとなったり、あるいは、前記第2変数成分の値の大きさが前記第2許容限界値を超えてしまうような過大なものとなるような応答特性データは、粘性特性係数及び剛性特性係数の各代表値の組のそれぞれに対応する適正時定数の値を決定するための特定の応答特性データとしては利用されない。
また、前記応答特性データのうち、該応答特性データにより示される前記軌跡上での前記第1変数成分の値の大きさが、前記第1設定値よりも小さい大きさに保たれ、且つ、該軌跡上での前記第2変数成分の値の大きさが、前記第2設定値よりも小さい大きさに保たれるような応答特性データ、すなわち、該軌跡上の任意の点の第1変数成分及び第2変数成分の値の大きさが、いずれも小さ過ぎるような応答特性データは、粘性特性係数及び剛性特性係数の各代表値の組のそれぞれに対応する適正時定数の値を決定するための特定の応答特性データとしては利用されない。
すなわち、前記軌跡上の点の第1変数成分の値の大きさが、前記第1許容限界値を超えるような過大なものとなったり、あるいは、該軌跡上の点の第2変数成分の値の大きさが、第2許容限界値を超えるような過大なものとなることがなく、しかも、第1変数成分の値の大きさが第1設定値以上の大きさ(小さすぎない大きさ)となるか、もしくは、第2変数成分の値の大きさが第2設定値以上の大きさ(小さすぎない大きさ)となるような点を軌跡上に含む応答特性データだけが、粘性特性係数及び剛性特性係数の各代表値の組のそれぞれに対応する適正時定数の値を決定するための特定の応答特性データとして利用される。
従って、第1変数成分のゼロへの収束を良好に行い得るものとして信頼性の高い応答特性データを、粘性特性係数及び剛性特性係数の各代表値の組のそれぞれに対応する適正時定数の値を決定するための特定の応答特性データとして用いることができる。
そして、粘性特性係数及び剛性特性係数の各代表値の組のそれぞれに対応する適正時定数の値は、前記位相平面において、前記特定の応答特性データのそれぞれにより示される前記軌跡と前記第1設定値ライン又は第2設定値ラインとの交点のうち、該交点と前記位相平面の原点とを結ぶライン上での前記第1変数成分のゼロへの収束の時定数が、あらかじめ定めた要求範囲内の値であるという制約条件を満たす交点と、該位相平面の原点とを結ぶライン上での前記第1変数成分のゼロへの収束の時定数に一致又は近似するように決定されている。
この場合、上記交点は、第1変数成分の値が前記第1設定値に一致するか、又は第2変数成分の値が前記第2設定値に一致するような点であるから、第1変数成分の値の大きさ又は第2変数成分の値の大きさが、過大もしくは過小ではない適度な大きさとなるような点である。
そして、このような交点のうち、該交点と前記位相平面の原点とを結ぶライン上での前記第1変数成分のゼロへの収束の時定数が、あらかじめ定めた要求範囲内の値であるという制約条件を満たす交点(すなわち、前記要求適合交点)と、該位相平面の原点とを結ぶライン上での前記第1変数成分のゼロへの収束の時定数に一致又は近似するように、粘性特性係数及び剛性特性係数の各代表値の組のそれぞれに対応する適正時定数の値が決定されている。
このように粘性特性係数及び剛性特性係数の各代表値の組のそれぞれに対応する適正時定数の値が決定されているので、取得した複数の応答特性データから、該適正時定数の値を決定することを効率よく容易に行なうことができる。
この場合、応答特性データを取得するための制御手法は、特定の制御手法に限定されるものではないので、PD制御等の汎用的な制御手法を用いて容易に取得することができる。
さらに、粘性特性係数及び剛性特性係数の各代表値の組のそれぞれに対応する適正時定数の値を、前記要求適合交点を用いて決定することは、例えば最小二乗法等の公知の統計的な同定手法によって行なうことができる。
第19発明では、粘性特性係数の複数の代表値と、剛性特性係数の複数の代表値と、それらの代表値の組のそれぞれに対応して上記の如く決定された適正時定数の値とに基づいて、適正時定数と、粘性特性係数と、剛性特性係数との間の前記相関関係が特定されている。なお、この相関関係は、前記第8発明における切換超平面の傾きと、粘性特性係数との間の相関関係に対応するものである。
そして、第19発明では、動力伝達装置の動作制御時に、前記切換超平面可変設定手段によって、上記相関関係において、前記粘性特性係数の値をゼロとし、且つ、前記剛性特性係数の値を該剛性特性係数の制御値に一致させたときの前記適正時定数の値に、前記切換超平面上での前記第1変数成分のゼロへの収束の時定数である切換超平面上収束時定数が一致するように、前記剛性特性係数の制御値に応じて前記切換超平面の傾きが決定される。
また、該相関関係において、任意の粘性特性係数の値に対応する前記適正時定数の値と前記粘性特性係数の値がゼロであるときの前記適正時定数の値との差が、当該任意の粘性特性係数の値を前記補正係数により補正してなる補正値の関数値となるように前記補正係数があらかじめ決定されている。
このため、前記制御入力決定手段は、切換超平面の傾きを粘性特性係数の制御値に応じて変化させずとも、高いロバスト性と所望の収束特性とで、二次側動力の計測値を目標値に制御することができるように、適切な補正係数により粘性特性係数の制御値を補正してなる補正値を用いて、スライディングモード制御の制御処理により前記制御入力を決定することができる。
上記第19発明では、前記相関関係は、例えば次式(F)により表される関係とされる(第20発明)。
Tc=(a2/sqrt(Ksp))+a1・Ksp+a0+b・Kdp/Ksp ……(F)
ただし、
Tc:前記適正時定数
Ksp:前記剛性特性係数の値
Kdp:前記粘性特性係数の値
a2,a1,a0:あらかじめ決定された所定値
b:前記補正係数としてあらかじめ決定された所定値
すなわち、本願発明者の各種実験、検討によれば、前記弾性力発生機構の粘性特性係数と剛性特性係数とがそれぞれ可変的に制御される場合、前記第1変数成分をゼロに収束させるための適正時定数と、前記粘性特性係数と、前記剛性特性係数との間の相関関係は、式(F)により近似できる。
この場合、式(F)の相関関係において、上記(a2/sqrt(Ksp))+a1・Ksp+a0の値が、前記粘性特性係数の値がゼロであるときの前記適正時定数の値であるから、この(a2/sqrt(Ksp))+a1・Ksp+a0の値が第20発明における切換超平面上収束時定数として、剛性特性係数の制御値に応じて決定されることとなる。
また、式(F)の相関関係において、上記bの値が、前記補正係数として決定される。すなわち、式(F)の相関関係において、任意の粘性特性係数の値と、上記(a2/sqrt(Ksp))+a1・Ksp+a0の値との差に、弾性力発生機構の剛性特性係数の値を乗じてなる値に、当該粘性特性係数の値を係数bにより補正してなる値(=b・Kdp)が一致するように補正係数bの値が決定される。
このように切換超平面の傾きと、補正係数とを決定しておくことで、二次側動力の計測値を安定に目標値に収束させることを好適に行うことができる。
上記第19発明又は第20発明では、前記第1許容限界値は、前記剛性特性係数の各代表値に対応して設定される値であり、該剛性特性係数の各代表値に対応する前記第1許容限界値は、前記弾性力発生機構の剛性特性係数を当該代表値に制御した状態で、前記アクチュエータの駆動力による前記一次側要素の変位速度及び変位加速度がそれぞれあらかじめ定められた許容限界値を超えないように、該一次側要素の変位速度の許容限界値と該一次側要素の変位加速度の許容限界値と前記剛性特性係数の当該代表値とに応じて決定された値であることが好ましい(第21発明)。
この第21発明によれば、前記粘性特性係数及び剛性特性係数の各代表値の組のそれぞれ毎に、前記複数の応答特性データのうち、前記一次側要素の変位速度及び変位加速度がそれぞれあらかじめ定められた許容限界値を超えることがないような応答特性データを用いて、前記適正時定数の値を決定できる。
このため、前記動力伝達装置の動作制御時に、前記一次側要素の変位速度及び変位加速度がそれぞれあらかじめ定められた許容限界値を超えないように動力伝達装置を動作を制御することを、前記弾性力発生機構の粘性特性係数及び剛性特性係数の制御状態によらずに、高い信頼性で行うようにすることができる。ひいては、前記弾性力発生機構の粘性特性係数及び剛性特性係数の制御状態によらずに、前記一次側要素の変位速度あるいは変位加速度が許容限界値に近いものとなるような領域での動力伝津装置の動作を安定して行なうようにすることが可能となる。
また、上記第19〜第21発明では、前記第2許容限界値は、前記剛性特性係数の各代表値に対応して設定される値であり、該剛性特性係数の各代表値に対応する前記第2許容限界値は、前記弾性力発生機構の剛性特性係数を当該代表値に制御した状態で、前記アクチュエータから前記二次側要素に至る動力伝達系の固有振動に応じた該動力伝達系の振動の発生を防止するように、前記剛性特性係数の当該代表値に応じて決定された値であることが好ましい(第22発明)。
この第22発明によれば、、前記粘性特性係数及び剛性特性係数の各代表値の組のそれぞれ毎に、前記複数の応答特性データのうち、前記固有振動に応じた動力伝達系の振動が発生しないような応答特性データを用いて、前記粘性特性係数及び剛性特性係数の各代表値の組のそれぞれに対応する適正時定数の値を決定できる。
このため、前記弾性力発生機構の粘性特性係数及び剛性特性係数の制御状態によらずに、前記固有振動に応じた動力伝達系の振動が生じないか、もしくは生じ難いものとなるように動力伝達装置を動作を制御することを高い信頼性で行うようにすることができる。
また、前記第15〜第22発明では、前記第1変数成分の値をゼロから前記第1許容限界値までステップ状に変化させると共に該第1変数成分の値のゼロへの収束を前記アクチュエータの駆動力による前記一次側要素の変位加速度が該変位加速度の許容限界値になるように行なったと仮定した場合に実現される時定数を特定時定数と定義しとき、前記制約条件は、前記第1変数成分のゼロへの収束の時定数を、前記特定時定数以上の範囲の値に制限する条件であることが好ましい(第23発明)。
すなわち、前記第1変数成分の値をゼロから、第1許容限界値以下のある値にステップ状に変化させることを想定した場合、第1変数成分の値をゼロから第1許容限界値まで変化させる場合に、前記一次側要素と二次側要素との間の相対変位量が最大となる。
この場合、二次側要素に対する一次側要素の変位は、許容限界値以下の変位加速度での変位に制限されるので、第1変数成分の値のゼロへの収束の時定数は、前記特定時定数よりも小さくなることはできない。
そこで、第23発明では、前記要求適合交点を規定する前記制約条件を、前記第1変数成分のゼロへの収束の時定数を前記特定時定数以上の範囲の値に制限する条件となるように設定した。
従って、第23発明によれば、動力伝達装置の動作制御時に、該動力伝達装置の幅広い動作領域で、二次側動力を目標値に制御することを高いロバスト性で安定に行なうことができる。
また、前記第13〜第23発明では、前記二次側動力の計測値と該二次側動力の目標値とから算出される前記第1変数成分の値である第1変数成分計測値と、該第1変数成分計測値の時間的変化率として算出される前記第2変数成分の値である第2変数成分計測値とから外乱による影響を低減してなる前記第1変数成分の推定値と前記第2変数成分の推定値とを逐次算出するオブザーバをさらに備えており、前記制御入力決定手段は、前記第1変数成分計測値と前記第2変数成分計測値との代わりに、前記オブザーバにより算出された前記第1変数成分の推定値と第2変数成分の推定値とを用いて前記切換関数の値を算出しつつ、該切換関数の値を用いて前記制御入力を逐次生成するように構成されていることが好ましい(第24発明)。
この第24発明によれば、前記オブザーバにより算出された前記第1変数成分の推定値と第2変数成分の推定値とを用いて前記切換関数の値を算出しつつ、該切換関数の値を用いてスライディングモード制御の制御処理により前記制御入力を逐次生成することにより、外乱の影響が抑制される。
このため、制御入力決定手段により逐次決定される制御入力の安定性が高まる。ひいては、二次側動力の制御のロバスト性をより一層高めることができる。
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態を以下に図1〜図9を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態の動力伝達装置1は、一次側要素としての駆動プーリ2と、二次側要素としての被動プーリ3と、これらのプーリ2,3の間に弾性力と粘性力とを発生させる弾性力発生機構4と、駆動プーリ2に回転駆動力を付与するアクチュエータとしての電動モータ5と、被動プーリ3と一体に回転するように該被動プーリ3に固定された負荷部材6とを備える。
なお、負荷部材6は、図1では一体の構造物として記載されているが、一体の構造物でなくてもよい。例えば、負荷部材6は、1つ以上の関節を含むリンク機構であってもよい。
駆動プーリ2は、電動モータ5の回転駆動軸5aに減速機7を介して接続されている。そして、駆動プーリ2は、電動モータ5の回転駆動軸5aから減速機7を介して付与される回転駆動力(トルク)によって、電動モータ5の回転駆動軸5aの回転に連動して回転するようになっている。
なお、減速機7は、任意の構造のものでよく、例えば、ハーモニックドライブ(登録商標)もしくは複数のギヤにより構成される減速機を採用することができる。あるいは、減速機7は、直動を回転運動に変換する機構を備えるものであってもよい。その場合には、アクチュエータとして、例えば、電動モータ及びボールネジにより構成される直動アクチュエータ、あるいは、電動式のリニアモータ等を採用してもよい。
また、図1では、電動モータ5と駆動プーリ2とが同軸心に配置されているが、それらの回転軸心は、同軸心でなくてもよい。
被動プーリ3は、その回転軸心が駆動プーリ2の回転軸心と平行になるようにして、該駆動プーリ2の側方に並設されている。
弾性力発生機構4は、駆動プーリ2及び被動プーリ3の間に架け渡されたワイヤ11と、両プーリ2,3間の剛性及び粘性を変更するための剛性/粘性可変機構12とを備える。
ワイヤ11は、図2に示すように、両プーリ2,3の間で延在する二条の張設部分11a,11bを有し、該張設部分11a,11b以外の部分が両プーリ2,3の外周のうちの内端側の部分(駆動プーリ2の外周のうちの被動プーリ3に臨む部分、及び被動プーリ3の外周のうちの駆動プーリ2に臨む部分)を除く箇所に滑らないように巻き掛けられている。なお、ワイヤ11は、多少の伸縮性を有する。
剛性/粘性可変機構12は、例えば図2〜図4に示すように構成されている。すなわち、剛性/粘性可変機構12は、両端部にローラ13a,13bが回転自在に枢着された回転バー14を備えている。この回転バー14は、その中央部に固定された回転軸15の軸心まわりに該回転軸15と一体に回転可能とされている。回転軸15は、駆動プーリ2及び被動プーリ3の間の位置で、両プーリ2,3の回転軸心と平行な姿勢で配置されている。
回転バー14の両端部のローラ13a,13bは、それぞれの回転軸心が駆動プーリ2及び被動プーリ3の回転軸心と平行な方向に向けられている。
そして、ローラ13a,13bのうちの一方のローラ13aの内端側(他方のローラ13bに臨む側)の外周部が、ワイヤ11の二条の張設部分11a,11bのうちの一方の張設部分11aに圧接され、他方のローラ13bの内端側(一方のローラ13aに臨む側)の外周部が、ワイヤ11の他方の張設部分11bに圧接されている。この場合、ワイヤ11の張設部分11a,11bは、それぞれ、ローラ13a,13bの圧接箇所で湾曲されている。
剛性/粘性可変機構12は、さらに、回転バー14に回転軸15を介して連結されて該回転バー14と一体に回転可能に設けられたギヤ(平歯車)16と、このギヤ16に噛合されたスプリングウォーム17と、このスプリングウォーム17を回転駆動する電動モータ18と、粘性オイルが内部に封入されたシリンダ19とを備えている。
スプリングウォーム17は、ウォームギヤとして機能可能にコイルスプリング状に形成されたばね部材であり、電動モータ18の回転駆動軸18aに外挿されている。そして、スプリングウォーム17の電動モータ18の本体寄りの一端は、回転駆動軸18aに固定されたバネ座部材20aに固定されている。従って、スプリングウォーム17は、電動モータ18の回転駆動軸18aと一体に回転し、このスプリングウォーム17の回転に伴い、ギヤ16が回転するようになっている。
シリンダ19は、スプリングウォーム17の他端側で回転駆動軸18aと同軸心に配置された筒部21を有する。この筒部21の内部を電動モータ18の回転駆動軸18aが貫通し、該筒部21が、回転駆動軸18aに沿って、その軸心方向に摺動可能とされている。そして、筒部21のスプリングウォーム17側の端面に固定されたバネ座部材20bにスプリングウォーム17の他端が固定されている。従って、スプリングウォーム17の伸縮に伴い、シリンダ19の筒部21が電動モータ18の回転駆動軸18aの軸心方向に摺動するようになっている。
また、筒部21の内部には、回転駆動軸18aに固定されたピストン22が設けられており、このピストン22の外周面が筒部21の内周面に摺接されている。
そして、筒部21の内部でピストン22により画成された2つの油室23a,23bに粘性オイルが封入されている。これらの油室23a,23bは、オリフィス部24を有する連通管25により連通されている。この場合、オリフィス部24は、図示しない弁機構等により開口面積を変化させることが可能となっている。
ここで、以上の構成の弾性力発生機構4の動作を説明しておく。電動モータ18により、スプリングウォーム17を回転駆動することで、該スプリングウォーム17に噛合されたギヤ16を介して回転バー14が回転する。従って、電動モータ18のサーボ制御によって、回転バー14の回転角度(位相角)を制御することができる。ここで、以降の説明では、回転バー14の位相角を、図2に示すように、回転バー14の延在方向(ローラ13a,13bの間隔方向)が駆動プーリ2及び被動プーリ3の間隔方向と直交する状態からの該回転バー14の回転角度φとして定義する。
両プーリ2,3間の動力伝達(回転駆動力の伝達)を行っていない状態で、回転バー14の位相角φをある既定の角度値(例えば図2のφ0)に制御し、その状態で電動モータ18の回転駆動軸18aの回転(ひいては、スプリングウォーム17の回転)を停止させた状態(以降、この状態を基準状態という)を想定する。
この基準状態において、前記電動モータ5から駆動プーリ2に回転駆動力(トルク)を付与すると、ワイヤ11の張設部分11a,11bの一方に、当該回転駆動力に比例した張力が発生し、その張力を介して、駆動プーリ2から被動プーリ3に回転駆動力が伝達される。
同時に、ワイヤ11の張設部分11a,11bの一方に発生する上記張力に起因して、ローラ13a,13bのうちの該張設部分11a又は11bに接触するローラ13a又は13bに、両プーリ2,3の間隔方向とほぼ直交する方向の並進力が作用する。
例えば、図2に示すように、駆動プーリ2に反時計まわり方向のトルクτdを付与すると、ワイヤ11の張設部分11aにトルクτdに比例する張力Te(=τd/駆動プーリ2の有効回転半径)が発生し、この張力Teによってローラ13aに並進力Fが作用する。なお、この並進力Fの大きさは、トルクτdにほぼ比例する。また、図2中の張力Teは、ローラ13aに対して作用する張力を示している。
基準姿勢状態での回転バー14の位相角がゼロでない場合(例えば図2に示す状況)では、ローラ13a又は13bに作用する上記並進力(以降、これをFと表記する)に起因して、回転バー14に回転駆動力(トルク)が作用することとなる。これにより、駆動プーリ2が被動プーリ3に対して相対回転すると共に、回転バー14が回転する。ひいては、前記スプリングウォーム17に噛合しているギヤ16が回転バー14と一体に回転する。
この場合、ローラ13a又は13bに作用する上記並進力Fに起因して回転バー14に作用するトルク(以降、τaと表記する)は、上記並進力Fに対して、次式(1)の関係を有する。なお、図2に示す如く、φ0は、基準姿勢状態での回転バー14の位相角φの値、Raは、回転軸15の軸心まわりでのローラ13a,13bの軸心部の回転半径である。
τa=F・sin(φ0)・Ra ……(1)
このように回転バー14にトルクτaが作用している状況で、スプリングウォーム17は回転しないので、ギヤ16の回転によってスプリングウォーム17の一部(詳しくは、ギヤ16の噛合部分と前記電動モータ18側のバネ座部材19aとの間の部分)が伸長又は短縮され、その伸縮量に応じた弾性力をスプリングウォーム17が発生する。
この場合、スプリングウォーム17の基準状態からの伸縮量、ひいては、回転バー14の基準状態からの回転量(位相角の変化量)は、該スプリングウォーム17の弾性力(並進力)によってギヤ16に作用するトルクと、ワイヤ11の張力によってローラ13a又は13bに作用する上記並進力Fに起因して回転バー14に作用するトルク(=ギヤ16に作用するトルク)とが釣り合う状態で平衡する。この平衡状態で、駆動プーリ2に付与されるトルクτdが弾性力発生機構4を介して被動プーリ3に伝達されることとなる。
上記平衡状態での回転バー14の基準状態からの回転量をΔφ[rad]、ギヤ16の回転半径をRb、スプリングウォーム17の剛性(スプリングウォーム17の伸縮量の単位変化量あたりに発生する弾性力の変化量)をKsp_wとおくと、上記平衡状態でのスプリングウォーム17の弾性力によってギヤ16に作用するトルク(以降、これをτbと表記する)は、次式(2)により与えられる。
τb=Ksp_w・sin(Δφ)・Rb≒Ksp_w・Δφ・Rb ……(2)
この式(2)と前記式(1)とから、上記平衡状態における並進力Fと、回転バー14の基準状態からの回転量Δφとの関係は、次式(3)により与えられる。
F=(Ksp_w・Rb/(sin(φ0)・Ra)・Δφ ……(3)
従って、ワイヤ11の張力によってローラ13a又は13bに作用する並進力Fは、回転バー14の基準状態からの回転量Δφに比例するものとなる。
ここで、ワイヤ11の張力によってローラ13a又は13bに作用する並進力Fは、駆動プーリ2に付与されるトルク(ひいては被動プーリ3に伝達されるトルク)が大きいほど、大きくなる。また、被動プーリ3に対する駆動プーリ2の相対回転量(基準状態からの相対回転量)は、上記平衡状態での回転バー14の基準状態からの回転量が大きいほど、大きくなる。
従って、両プーリ2,3間の相対回転量が一定に維持される定常状態で、駆動プーリ2から被動プーリ3に伝達されるトルク(被動プーリ3に付与されるトルク)をτspと表記し、両プーリ2,3間の相対回転量をΔθと表記すると、τspとΔθとの間には、近似的に次式(4)の比例関係が成立する。
τsp=Ksp・Δθ ……(4)
よって、弾性力発生機構4は、駆動プーリ2と被動プーリ3との動力伝達を行うバネ部材として機能する。そして、上記トルクτspは、弾性力発生機構4によって両プーリ2,3間に発生する弾性力によって伝達されるトルク(以降、弾性力トルクτspという)に相当する。この場合、式(4)におけるKspは、両プーリ2,3間の相対回転量Δθ(以降、プーリ間回転角度差Δθという)の変化に対する弾性力トルクτspの変化の比率であり、以降、剛性特性係数Kspという。
この剛性特性係数Kspは、両プーリ2,3間の剛性を示しており、Kspの値が大きいほど、両プーリ2,3間の剛性が高い(両プーリ2,3間の回転量の差が発生しにくくなる)ことを意味する。そして、本実施形態における弾性力発生機構4の剛性特性係数Kspの値は、基本的には、基準状態での回転バー14の位相角φ0に応じたものとなり、φ0が大きいほど、Kspの値が小さくなる。
また、本実施形態の弾性力発生機構4では、回転バー14が基準状態から回転するとき、スプリングウォーム17の伸縮に伴い、シリンダ19の筒部21がピストン22に対して相対的に摺動する。
このとき、油室23a,23b間で、オリフィス部24を有する連通管25を介して粘性オイルが流通することで、筒部21の摺動に対する抵抗力となる粘性力が発生する。これにより、回転バー14の基準状態からの回転、ひいては、被動プーリ3に対する駆動プーリ2の相対回転に対する抵抗力となる粘性力が、両プーリ2,3間で発生することとなる。そして、この粘性力は、オリフィス部24の開口面積を変化させることで、変化することとなる。
この場合、オリフィス部24の開口面積を一定に維持した場合にシリンダ19で発生する粘性力は、ピストン22に対する筒部21の移動速度、ひいては、スプリングウォーム17の伸縮速度に比例する。そして、スプリングウォーム17の伸縮速度は、回転バー14の回転速度にほぼ比例する。
また、両プーリ2,3間の相対回転量の時間的変化率、すなわち、両プーリ2,3間の相対回転速度(両プーリ2,3のそれぞれの回転角度の差)は、回転バー14の回転速度に応じたものとなり、回転バー14の回転速度が大きいほど、両プーリ2,3間の相対回転速度が大きいものとなる。
従って、両プーリ2,3間の相対回転速度をΔω[rad/s]と表記し、両プーリ2,3間の粘性力によって被動プーリ3に付与されるトルク(以降、粘性力トルクという)をτdpと表記すると、Δωとτdpとの間には、近似的に次式(5)の関係が成立する。
τdp=Kdp・Δω ……(5)
よって、弾性力発生機構4は、駆動プーリ2と被動プーリ3との間に粘性力を発生する機能も有する。この場合、式(5)におけるKdpは、両プーリ2,3間の相対回転速度Δω(以降、プーリ間回転速度差Δωという)の変化に対する粘性力トルクτdpの変化の比率であり、以降、粘性特性係数Kdpという。
この粘性特性係数Kdpは、両プーリ2,3間の粘性の度合を示しており、Kdpの値が大きいほど、両プーリ2,3間の粘性が高い(両プーリ2,3間に発生する粘性力が大きくなりやすい)ことを意味する。そして、本実施形態における弾性力発生機構4の粘性特性係数Kdpの値は、基本的には、オリフィス部24の開口面積に応じたものとなり、該開口面積が大きいほど、Kdpの値が小さくなる。
以上が、本実施形態の動力伝達装置1の機構的な構成である。
本実施形態は、さらに動力伝達装置1の動作制御のための構成として、制御装置30と、駆動プーリ2の回転角度θin及び被動プーリ3の回転角度θoutをそれぞれ検出する角度検出器31,32と、剛性/粘性可変機構12の電動モータ18の回転駆動軸18aの回転角度θwを検出する角度検出器33とを備える。
角度検出器31,32,33は、例えばロータリエンコーダにより構成される。そして、角度検出器31,32は、それぞれ駆動プーリ2、被動プーリ3に対向して設けられ、角度検出器33は、電動モータ18に装着されている。なお、角度検出器31,32,33は、それぞれ、ポテンショメータ等、ロータリエンコーダ以外の角度センサにより構成されていてもよい。
制御装置30は、CPU、RAM、ROM、インターフェース回路等を含む電子回路ユニットにより構成され、角度検出器31,32,33の出力信号(検出信号)が入力される。また、制御装置30には、駆動プーリ2から被動プーリ3への回転駆動力の伝達によって該被動プーリ3に付与されるトルク(以降、二次側トルクτという)の目標値τ_cmd(以降、二次側目標トルクτ_cmdという)と、前記剛性特性係数Kspの目標値Ksp_cmd(以降、目標剛性特性係数Kspという)と、前記粘性特性係数Kdpの目標値Kdp_dmp(以降、目標粘性特性係数Kdpという)とが外部の他の制御装置もしくはサーバ等から逐次入力される。
上記二次側目標トルクτ_cmd、目標剛性特性係数Ksp、及び目標粘性特性係数Kdpは、負荷部材6の所望の動作を行なうための目標値である。本実施形態では、二次側目標トルクτ_cmd及び目標粘性特性係数Kdpは、それぞれ既定の範囲内で任意に可変的に設定される目標値である。一方、目標剛性特性係数Ksp_cmdは、本実施形態では、既定の一定値(固定値)の目標値である。
なお、本実施形態における目標剛性特性係数Kspは、より詳しくは、弾性力発生機構4の前記基準状態での剛性特性係数Kspの目標値である。
制御装置30は、角度検出器31,32,33から入力される検出信号と二次側目標トルクτ_cmd、目標剛性特性係数Ksp、及び目標粘性特性係数Kdpとを用いて前記電動モータ5(以降、動力源モータ5という)、弾性力発生機構4の電動モータ18(以降、剛性可変用モータ18という)及びオリフィス部24を制御するように構成されている。
より詳しくは、制御装置30は、実装されるプログラムを実行することにより実現される機能(ソフトウェアにより実現される機能)又はハードウェア構成により実現される機能として、実際の二次側トルクτ(観測値)を二次側目標トルクτ_cmdに追従させるように、動力源モータ5の作動制御用の制御入力を逐次決定する制御入力決定部34と、該制御入力に応じて図示しないモータドライブ回路を介して動力源モータ5の通電電流(ひいては出力トルク)を制御するモータ制御部35を備える。
上記制御入力は、本実施形態では、例えば、動力源モータ5の目標トルク(出力トルクの目標値)である。ただし、上記制御入力は、動力源モータ5の目標トルクを規定できるものであればよく、該目標トルク以外のものであってもよい。例えば、該制御入力として、駆動プーリ2自体に動力源モータ5側から付与されるトルクの目標値、あるいは、動力源モータ5の通電電流の目標値等を用いることも可能である。
制御入力決定部34は、詳細は後述するが、実際の二次側トルクτ(観測値)を二次側目標トルクτ_cmdに追従させるための制御入力を、スライディングモード制御の制御処理によって逐次決定する。
また、モータ制御部35は、上記制御入力により規定される目標トルクを、動力源モータ5に出力させるように、動力源モータ5の通電電流を制御する。例えば、目標トルクに応じて動力源モータ5の通電電流の目標値を決定し、その通電電流の目標値に実際の通電電流(観測値)をフィードバック制御する。
さらに、制御装置30は、その機能として、前記目標剛性特性係数Ksp_cmdに応じて剛性可変用モータ18を制御する(ひいては、両プーリ2,3間の剛性を制御する)剛性制御部36と、前記目標粘性特性係数Kdp_cmdに応じて、オリフィス部24を制御する(ひいては、両プーリ2,3間の粘性を制御する)粘性制御部37とを備える。
剛性制御部36は、基準状態での回転バー14の位相角φを、目標剛性特性係数Ksp_cmdに対応する角度値にするための剛性可変用モータ18の回転駆動軸18aの回転角度の目標値を、Ksp_cmdから既定のマップ又は演算式により決定する。そして、剛性制御部36は、回転駆動軸18aの実際の回転角度(角度検出器33の出力により示される観測値)を、サーボ制御によって、Ksp_cmdから決定した目標値に制御する。
粘性制御部37は、目標粘性特性係数Kdp_cmdに対応するオリフィス部24の開口面積の目標値を、Kdp_cmdから既定のマップ又は演算式により決定する。そして、粘性制御部37は、オリフィス部24の実際の開口面積を、決定した目標値に図示しない弁機構等を介して制御する。
補足すると、弾性力発生機構4の剛性特性係数Kspは、基準状態での前記回転バー14の位相角φの値に応じて規定されるので、目標剛性特性係数Ksp_cmdの代わりに、回転バー14の位相角φの目標値(Ksp_cmdに対応する回転バー14の位相角φの値)、あるいは、剛性可変用モータ18の回転駆動軸18aの回転角度の目標値(Ksp_cmdに対応する回転駆動軸18aの回転角度の値)を制御装置30に入力するようにしてもよい。
さらに、本実施形態のように、動力伝達装置1の動作時に使用する目標剛性特性係数Ksp_cmdが一定値である場合、剛性可変用モータ18及び剛性制御部36を省略し、スプリングウォーム17の一端(シリンダ19と反対側の一端)を、駆動プーリ2及び被動プーリ3等を回転自在に軸支する部材(図示省略)に固定しておくと共に、両プーリ2,3間の動力伝達を行わない状態(基準状態)での回転バー14の位相角φが、目標剛性特性係数Ksp_cmdに対応する位相角となるように、ギヤ16をスプリングウォーム17に噛合させておくようにしてもよい。この場合は、スプリングウォーム17は、ウォームギヤとしての機能を持たない単なるスプリングとして機能するものとなる。
また、弾性力発生機構4の粘性特性係数Kdpは、前記オリフィス部24の開口面積に応じて規定されるので、目標粘性特性係数Kdp_cmdの代わりに、オリフィス部24の開口面積の目標値(Kdp_cmdに対応するオリフィス部24の開口面積の値)を制御装置30に入力するようにしてもよい。
また、二次側目標トルクτ_cmd、目標剛性特性係数Ksp、及び目標粘性特性係数Kdpは、制御装置30で逐次決定するようにしてもよい。
次に、制御入力決定部34における制御処理に関する基礎的な事項について説明しておく。
本実施形態における制御対象の系としての動力伝達装置1の挙動は、離散系において、次式(10)の状態方程式によりモデル化される。
ここで、θinは駆動プーリ2の回転角度、θoutは被動プーリ3の回転角度、dθinはθinの時間的変化率(すなわち、駆動プーリ2の回転角速度)、dθoutはθoutの時間的変化率(すなわち、被動プーリ3の回転角速度)、DTは制御処理周期、Kspは前記剛性特性係数、Kdpは前記粘性特性係数、Iinは駆動プーリ2側の系(ここでは、駆動プーリ2、減速機7及び電動モータ5により構成される系)のイナーシャ(入力側イナーシャ)、Ioutは、被動プーリ3側の系(ここでは、被動プーリ3及び負荷部材6により構成される系)のイナーシャ(出力側イナーシャ)、uは駆動プーリ2側の入力トルク(例えば動力源モータ5の出力トルク)である。また、括弧付きの添え字n、n-1は、離散系の時刻を表す番数である。
一方、二次側トルクτは、弾性力発生機構4により両プーリ2,3間に発生する弾性力に起因するトルク成分(すなわち、前記式(4)により表される弾性力トルクτsp)と、弾性力発生機構4により両プーリ2,3間に発生する粘性力に起因するトルク成分(すなわち、前記式(5)により表される粘性力トルクτdp)との合成トルクとなる。
従って、二次側トルクτと、その時間的変化率dτ(以降、二次側トルク変化速度dτという)とに関して、次式(11a),(11b)が成立する。
τ(n)=Ksp・Δθ(n)+Kdp・Δω(n) ……(11a)
dτ(n)=Ksp・Δω(n)+Kdp・dΔω(n) ……(11b)
ただし、
Δθ(n)≡θin(n)−θout(n) ……(12a)
Δω(n)≡ωin(n)−ωout(n)=dθin(n)−dθout(n) ……(12b)
dΔω(n)≡dωin(n)−dωout(n) ……(12c)
なお、式(11b)におけるdΔωは、式(12b)により表されるプーリ間回転速度差Δω(両プーリ2,3のそれぞれの回転角速度ωin(=dθin),ωout(=dθout)の差)の時間的変化率、ただし書きの式(12c)におけるdωinは、駆動プーリ2の回転角速度ωin(=dθin)の時間的変化率(=回転角加速度)、dωoutは、被動プーリ3の回転角速度ωout(=dθout)の時間的変化率(=回転角加速度)である。
ここで、二次側トルクτをフィードバック制御するために、該二次側トルクτと、その時間的変化率である二次側トルク変化速度dτとを計測(観測)することを考える。この場合、Δθを計測するようにすれば、Δωの計測値は、Δθの計測値の時間的変化率(微分値)として算出することができ、dΔωの計測値は、Δωの計測値の時間的変化率(微分値)として算出することができる。
従って、原理的には、角度検出器31,32の出力により示されるθin,θoutの計測値から得られるΔθの計測値に基づいて、前記式(11a),(11b)によりτ及びdτをそれぞれ計測することができる。
ただし、この場合、Δωの計測値は、Δθの計測値の時間的変化率(微分値)として算出されるものであるので、一般に、実際の値(真値)に対して誤差が生じやすい。ひいては、このΔωの計測値の時間的変化率(微分値)として算出されるdΔωの計測値はさらに誤差が生じやすい。また、弾性力発生機構4のシリンダ19の粘性オイルの粘性は環境温度等の影響を受けやすいことから、前記式(5)における粘性特性係数Kdpの実際の値は、目標粘性特性係数Kdp_cmdに対して誤差を生じやすい。
これらのことから、特に、式(11a)の右辺第2項(=粘性力トルクτdp)の計測値と、式(11b)の右辺第2項(=τdpの時間的変化率)の計測値とを精度よく取得することは困難である。ひいては、前記式(11a),(11b)をそのまま用いてτ、dτを計測しようとしても、信頼性の高い計測値を取得することは困難である。また、このようなτ、dτの計測値を用いて、実際の二次側トルクτを二次側目標トルクτ_cmdに制御しようとしても、安定性の高い制御を適切に行うことは難しい。
一方、前記式(4)における剛性特性係数Kspの実際の値(前記基準状態での値)は、比較的精度よく目標剛性特性係数Ksp_cmdに制御することが可能である。従って、式(11a)の右辺第1項(=弾性力トルクτsp)の計測値と、式(11b)の右辺第1項(=τspの時間的変化率)の計測値とは、粘性力トルクτdpやその時間的変化率の計測値に比べて、精度よく取得することが可能である。また、プーリ間回転角度差Δθが一定に維持される定常状態では、粘性力トルクτdpはゼロとなるので、実際の二次側トルクτは、弾性力トルクτspに一致する。
そこで、本実施形態では、角度検出器31,32の出力により示されるθin、θoutの計測値の差として得られるΔθの計測値から、式(11a)の右辺の第2項を除去した次式(13a)と、式(11b)の右辺の第2項を除去した次式(13b)とに基づいて、τ、dτの計測値を取得する。
換言すれば、両プーリ2,3間の実際の粘性力トルクτdp及びその時間的変化率dτdpがゼロであると仮定して(τ=τspであると仮定して)、τ、dτの計測値をそれぞれ、次式(13a),(13b)に基づいて取得する。
τ(n)=Ksp・Δθ(n)=Ksp・(θin(n)−θout(n)) ……(13a)
dτ(n)=Ksp・Δω(n) =Ksp・(dθin(n)−dθout(n))……(13b)
なお、これらの式(13a),(13b)によりτ、dτの計測値を取得するために必要となるKspの値としては、目標剛性特性係数Ksp_cmdが使用される。
そして、本実施形態では、このように取得されるτ、dτの計測値を使用しつつ、これらの計測値には反映されていない両プーリ2,3間の粘性力(弾性力発生機構4によってが発生する粘性力)による影響を補償するように、スライディングモード制御の処理を実行することで、実際の二次側トルクτを二次側目標トルクτにフィードバック制御するための制御入力を決定する。
本実施形態では、スライディングモード制御の手法により制御入力を決定するための演算処理は、前記弾性力発生機構4の粘性特性係数Kdpがゼロであると仮定した場合、すなわち、両プーリ2,3間に粘性力が発生しないと仮定した場合における動力伝達装置1の挙動を表現するモデルに基づいて構築される。
この場合の動力伝達装置1の挙動は、前記式(10)のCin、Coutをゼロとした状態方程式、すなわち、次式(14)の状態方程式により表される。
この状態方程式を、前記式(13a),(13b)を用いて整理すると、弾性力発生機構4の粘性特性係数Kdpがゼロであると仮定した場合におけるτ、dτに関する挙動を表現するモデルとして、次式(15)の状態方程式が得られる。
本実施形態におけるスラディングモード制御では、この式(15)の状態方程式(モデル)を基礎として、制御入力を決定するための制御処理が構築されている。
さらに詳細には、本実施形態では、スライディングモード制御の制御対象の状態変数として、次式(16)で示す如く、二次側トルクτの計測値と目標二次側トルクτ_cmdとの偏差である二次側トルク偏差τ_errと、該偏差τ_errの時間的変化率(微分値)である二次側トルク偏差速度dτ_errとを2成分として構成される状態変数X(2行1列の縦ベクトル)が用いられる。なお、式(16)の上付き添え字“T”は転置を意味する。
X=[τ_err,dτ_err]T ……(16)
ただし、τ_err=τ−τ_cmd、 dτ_err=τ_errの時間的変化率(微分値)
この場合、スライディングモード制御による制御入力としての動力源モータ5の目標トルクτm_cmd(制御処理周期毎に決定する新たな目標トルク)は、前記式(15)のただし書きで定義される行列A及び列ベクトルBと、次式(18)により表される切換関数σとを用いて、例えば次式(17)により決定することができる。
τm_cmd(n)=−(S・B)-1・(S・A・X(n)
+Ksld・(σ(n)/(|σ(n)|+δ)))
……(17)
σ(n)=S・X(n)=s1・τ_err(n)+s2・dτ_err(n) ……(18)
ただし、S=[s1,s2] (:1行2列の行ベクトル)
この式(17),(18)が本実施形態において、制御入力としての動力源モータ5の目標トルクτm_cmdを決定するための基本式である。
この場合、式(18)のτ_err、dτ_errを算出するために必要なτ、dτの計測値は、前記したように式(13a),(13b)に基づいて取得される計測値である。
また、式(17)の右辺の演算に必要な行列A及び列ベクトルBの各成分は、前記式(15)のただし書きの定義式に基づいて算出される値である。A、Bの各成分を算出するために必要となる、制御処理周期DT、駆動プーリ2側のイナーシャ(入力側イナーシャ)Iin、被動プーリ3側のイナーシャ(出力側イナーシャ)Ioutの値は、本実施形態では、それぞれ、あらかじめ決定された所定値(一定値)である。
また、剛性特性係数Kspの値としては、目標剛性特性係数Ksp_cmdの値(本実施形態では一定値)が使用される。
一方、Sの各成分(切換関数σを構成する係数成分)s1,s2は、後述する如く、目標粘性特性係数Kdp_cmdに応じて可変的に決定される所定値である。
ここで、式(17)、(18)の技術的な意味合いについて説明すると、式(17)の右辺の第1項は、τ_err、dτ_errの値の組が、切換超平面上に存在する状態で、τ_errをゼロに収束させるように機能する制御入力成分を意味する。
上記切換超平面は、σ=0という式により表されるものである。従って、τ_err、dτ_errを2つの座標軸成分とする位相平面における切換超平面σ=0(ここでは直線)の傾きは、Sの各成分s1,s2の比によって規定されることとなる。
例えば図5に示すように、二次側トルク偏差速度dτ_errの座標軸を縦軸、二次側トルク偏差τ_errの座標軸を横軸とする位相平面を想定した場合、該位相平面における切換超平面σ=0(直線)の傾きは−s1/s2となる。なお、二次側トルク偏差速度dτ_errの座標軸を横軸、二次側トルク偏差τ_errの座標軸を縦軸とする位相平面を想定した場合には、該位相平面での切換超平面σ=0の傾きは、−s2/s1となる。
そして、切換超平面σ=0上では、dτ_err=(−s1/s2)・τ_errとなるので、(−s1/s2)が負の値に設定されておれば、切換超平面σ=0上でのτ_errはゼロに収束することとなる。この場合、切換超平面σ=0上でのτ_errの収束の時定数Tc(以降、収束時定数Tcという)は、次式(19)により与えられる。また、切換超平面σ=0上でのτ_errとdτ_errとの間の関係は、式(19)の収束時定数Tcを用いて、次式(20)により表される。
Tc=s2/s1 ……(19)
τ_err=−Tc・dτ_err ……(20)
このように切換超平面σ=0の傾き、あるいは、収束時定数Tcは、係数成分s1,s2の比により規定される。
補足すると、二次側トルク偏差速度dτ_errの座標軸を縦軸、二次側トルク偏差τ_errの座標軸を横軸とする位相平面を想定した場合、該位相平面における切換超平面σ=0の傾きは、−s1/s2であるので、この傾きと収束時定数Tcとの間の関係は、傾き=−1/Tcとなる。
一方、二次側トルク偏差速度dτ_errの座標軸を横軸、二次側トルク偏差τ_errの座標軸を縦軸とする位相平面を想定した場合、該位相平面における切換超平面σ=0の傾きは、−s2/s1であるので、この傾きと収束時定数Tcとの間の関係は、傾き=−Tcとなる。
このように切換超平面σ=0の傾きと、切換超平面σ=0上での収束時定数Tcとは、1対1に対応している。従って、切換超平面σ=0の傾きを決定するということは、切換超平面σ=0上での収束時定数Tcの値を決定することと等価である。
本実施形態では、前記式(17),(18)により目標トルクτm_cmdを決定するために用いるτ、dτの計測値は、前記式(13a),(13b)に基づく計測値であるので、弾性力発生機構4により両プーリ2,3間に粘性力が発生する状況では、τ、dτの計測値は、実際の値に対して誤差を有するものとなる。
また、前記式(17)の基礎となる状態方程式(15)では、両プーリ2,3間の粘性が無視されており、前記行列Aに、弾性力発生機構4の粘性特性係数Kdpに依存する成分が含まれない。さらに、本実施形態では、弾性力発生機構4の粘性特性係数Kdpは可変的に制御される。
このため、弾性力発生機構4で粘性力が発生する状況では、仮に切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc)を、弾性力発生機構4の粘性特性係数Kdpに依存させないように設定すると、τ_errを適切な時定数で安定にゼロに収束させることができないものとなりやすい。例えば、τ_errの振動等が生じやすくなる。
そこで、本実施形態では、前記式(13a),(13b)に基づく計測値と、式(15)の状態方程式とに反映されていない弾性力発生機構4の粘性力(両プーリ2,3間の粘性力)の影響を補償するために、切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc)と、弾性力発生機構4の粘性特性係数Kdpの制御値(制御により実現する値)としての目標粘性特性係数Kdp_cmdとの間の相関関係をあらかじめ決定しておき、その相関関係に従って、目標粘性特性係数Kdp_cmdに応じて切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc)を可変的に決定するようにした。
ここで、本願発明者の各種実験、検討によれば、弾性力発生機構4の剛性特性係数Kspが一定もしくはほぼ一定に保たれている場合、τ_errが安定にゼロに収束する場合におけるτ_errとdτ_errとの間の関係は、次式(21)の関係で近似される。
τ_err=−(a+(b・Kdp_cmd)/Ksp_cmd)・dτ_err ……(21)
そこで、本実施形態では切換超平面σ=0上でのτ_errとdτ_errとの間の関係が、式(21)の関係となるように、切換超平面σ=0上の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc)を目標粘性特性係数Kdp_cmdに応じて決定する。
換言すれば、切換超平面σ=0上の収束時定数Tcと、Kdp_cmdとの間の相関関係が、次式(22)により表されるように、切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc)を目標粘性特性係数Kdp_cmdに応じて決定する。
Tc=(a+(b・Kdp_cmd)/Ksp_cmd) ……(22)
式(21)及び式(22)における変数aは、弾性力発生機構4の粘性特性係数Kdpがゼロである場合(Kdp_cmd=0である場合)における切換超平面σ=0上の収束時定数Tcの値を意味する。
また、式(21)及び式(22)における変数bは、目標粘性特性係数Kdp_cmdに対して実際の粘性特性係数Kdpの誤差が生じやすいことから、目標粘性特性係数Kdp_cmdを、弾性力発生機構4の実際の粘性特性係数Kdpの推定値(=b・Kdp_cmd)に補正するための補正係数を意味する。
ここで、粘性力トルクτdpと、弾性力トルクτspの時間的変化率dτspとの間の関係は、前記式(4),(5)によって次式(23)により表される。
τdp=(Kdp/Ksp)・dτsp ……(23)
従って、式(21)の右辺は、弾性力発生機構4の実際の粘性特性係数Kdpがゼロである場合(両プーリ2,3間の粘性力がゼロである場合)には、実際の二次側トルクτとしての弾性力トルクτspと二次側目標トルクτ_cmdとの偏差としての意味を持つ。また、弾性力発生機構4の実際の粘性特性係数Kdpがゼロでない場合には、該弾性力トルクτspと粘性力トルクτdpとを合成してなる実際の二次側トルクτと二次側目標トルクτ_cmdとの偏差としての意味を持つ。
本実施形態では、式(22)の変数a,bの値を後述するようにあらかじめ決定しておくことで、切換超平面σ=0上の収束時定数Tcと、弾性力発生機構4の目標粘性特性係数Kdp_cmdとの間の相関関係(ひいては、切換超平面σ=0の傾きとKdp_cmdとの間の相関関係)が、式(22)の関係としてあらかじめ決定されている。そして、この相関関係に基づいてKdp_cmdに応じて決定される収束時定数Tcに対応して、式(17)、(18)の演算に必要な係数成分s1,s2の値が決定される。
この場合、s1,s2の一方の値は、定数値でよく、例えばs1=1(又はs2=1)とされる。その場合には、切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc)を決定することによって、係数成分s2(又は係数成分s1)の値が一義的に決定されることとなる。
前記式(17)の右辺の第2項は、切換関数σの値を、ゼロに収束させる(換言すれば、τ_err、dτ_errの値の組を切換超平面σ=0上に収束させる)ように機能する制御入力成分を意味する。そして、Ksld、δは、それぞれ、切換関数σの値の収束特性を規定するパラメータである。
この場合、δは、本実施形態では、あらかじめ実験等に基づいて設定した所定値(定数値)とされる。
また、Ksldの値は、例えば次のような指針で、所定値(一定値)に決定され、又は切換関数σの値に応じて決定される。
すなわち、切換関数σの値をゼロに収束させるためには、σのリアプノフ関数σ2の微分値(時間的変化率)が負の値となることが必要となる。
この必要条件は、離散系において、(σ(n))2−(σ(n-1))2<0を満たすという条件と同等である。そして、この条件と、前記式(17)、(18)とから、Ksldに関する次式(24)の条件が得られる。
|Ksld|<|σ(n)|+δ ……(24)
従って、Ksldの値は、上記式(24)の条件を満たすように設定されていればよい。
本実施形態では、Ksldの値は、制御処理周期毎の切換関数σの絶対値が大きいほど、Ksldの大きさが大きくなるように、σの値に応じて可変的に決定される。
例えば、Ksldは、制御処理周期毎に、次式(25)で示すように、|σ(n)|に比例する値となるように決定される。
Ksld=(1/K0)・|σ(n)| ……(25)
式(25)のK0は、σ(n)が取り得る実際の値の範囲内で、式(24)の条件を満たすようにあらかじめ設定した定数値(例えば3以上の整数値)である。
なお、Ksldの値は、一定値であってもよい。また、|Ksld|<δとなるようにKsldの値を設定してもよい。
次に、切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc)と、目標粘性特性係数Kdp_cmdとの間の相関関係を決定するための事前準備処理について説明する。この事前準備処理は、本実施形態では、次のような手順で行なわれる。
(手順1)まず、目標粘性特性係数Kdp_cmdのあらかじめ定めた複数の代表値のうちから選択した1つの代表値に応じて弾性力発生機構4のオリフィス部24の開口面積を制御した状態で、適宜の制御手法(例えばPD制御等)によって、動力伝達装置1の二次側トルクτを、該動力伝達装置1の種々様々な任意の初期状態から種々様々な任意の目標値(ステップ状に変化させた目標値)に収束させる制御を行う実験(もしくはシミュレーション)が行なわれる。
この実験では、二次側トルクτの目標値と計測値(前記式(13a)に基づく計測値)との偏差に応じて、PD制御則等の汎用的な制御則により該偏差をゼロに収束させるように動力源モータ5の出力トルクを操作する。なお、この場合、剛性可変用モータ18の回転駆動軸18aの回転角度(=スプリングウォーム17の回転角度)は、目標剛性特性係数Ksp_cmd(本実施形態では一定値)に対応する回転角度で一定に保持される。
また、動力源モータ5及び剛性可変用モータ18の作動制御は、適宜のコンピュータ等を使用して行なうようにすればよい。
そして、上記収束制御の各実験における二次側トルク偏差τ_errの値(前記式(13a)に基づくτの計測値を用いて算出される値)及び二次側トルク偏差速度dτ_errの値(前記式(13b)に基づくdτの計測値を用いて算出される値)の組の推移(時間的な変化)が計測される。さらに、その計測データを、τ_err及びdτ_errを2つの座標軸成分とする位相平面上にプロットすることで、τ_err及びdτ_errの値の組の推移の軌跡を示す応答特性データが作成される。
このようにして初期状態や二次側トルクτの目標値等の条件を種々様々に異ならせた複数の応答特性データ(目標粘性特性係数Kdp_cmdの選択中の代表値に対応する応答特性データ)が作成される。
このように作成された応答特性データのいくつかの代表例を図6に示した。図6中の参照符号a1〜a6を付した軌跡のそれぞれが応答特性データの例を示している。
(手順2)次に、上記のように作成された複数の応答特性データのうちの所定の要件を満たす応答特性データが、位相平面における切換超平面σ=0の傾き(目標粘性特性係数Kdp_cmdの選択中の代表値に対応する傾き)を決定するための特定の応答特性データ(以降、傾き決定用応答特性データという)として選出される。
ここで選出される傾き決定用応答特性データは、該傾き決定用応答特性データにより示される軌跡上での二次側トルク偏差τ_errの値の大きさ(絶対値)が、所定の第1許容限界値τ_err_lim以下の大きさとなると共に、該軌跡上での二次側トルク偏差速度dτ_errの値の大きさ(絶対値)が、所定の第2許容限界値dτ_err_lim以下の大きさとなるという要件(以下、選出要件1という)と、τ_err,dτ_errを2つの座標軸成分とする位相平面において、τ_errの値の大きさ(絶対値)があらかじめ設定された第1設定値τ_err_aに一致するライン(当該位相平面においてτ_err=+τ_err_a又はτ_err=−τ_err_aという式により表されるライン)と、dτ_errの値の大きさ(絶対値)があらかじめ設定された第2設定値dτ_err_aに一致するライン(当該位相平面においてdτ_err=+dτ_err_a又はdτ_err=−dτ_err_aという式により表されるライン)とのうちのいずれかのラインに当該軌跡が交わるという要件(以下、選出要件2という)を満たす応答特性データである。
上記選出要件1は、換言すれば、応答特性データにより示される軌跡上の任意の点におけるτ_err及びdτ_errの値が、−τ_err_lim≦τ_err≦+τ_err_lim、且つ、−τ_err_lim≦dτ_err≦dτ_err_limという条件を満たすという要件である。
また、上記選出要件2は、換言すれば、応答特性データにより示される軌跡上に|τ_err|=|τ_err_a|又は|dτ_err|=|dτ_err_a|となる点が少なくとも1つ存在するという要件である。
手順2では、具体的には、まず、前記選出要件1に関する第1許容限界値τ_err_lim(>0)及び第2許容限界値dτ_err_lim(>0)が決定される。(手順2−1)。
第1許容限界値τ_err_limは、二次側トルク偏差τ_errの値の大きさの許容限界値を意味し、第2許容限界値dτ_err_limは、二次側トルク偏差速度dτ_errの値の大きさの許容限界値を意味する。。
ここで、τ_errの大きさが大き過ぎると、該τ_errをゼロに収束させるように動力源モータ5の出力トルクを制御しようとしたときに、駆動プーリ2(一次側要素)の回転角速度又は回転角加速度がそれぞれの許容限界値を超えてしまう場合がある。上記第1許容限界値τ_err_limは、駆動プーリ2(一次側要素)の回転角速度及び回転角加速度がそれぞれの許容限界値を超えることがないようにするためのτ_errの大きさの限界値である。
なお、駆動プーリ2の回転角速度及び回転角加速度のそれぞれの許容限界値は、動力源モータ5の能力、あるいは、動力伝達装置1の機構的な制約等の条件下であらあじめ設計的に定められる値である。その値は、実際の許容限界に対してある程度のマージンを見込んだものであってもよい。
本実施形態では、第1許容限界値τ_err_limは、駆動プーリ2の回転角速度の許容限界値ω1_lim(以降、一次側速度限界値ω1_limという)と、駆動プーリ2の回転角加速度の許容限界値dω1_lim(以降、一次側加速度限界値dω1_limという)と、弾性力発生機構4の剛性特性係数Kspとに応じて次のように決定されている。
二次側トルク偏差τ_errがある値τ_err_0(≠0)となっている初期状態からτ_errをゼロに収束させる場合に必要なプーリ間回転角度差Δθの変化量は、τ_err_0/Kspである。
ここで、図7(c)に示すように、プーリ間回転角度差をτ_err_0/Kspだけ変化させるのに要する時間をtaとおく。そして、例えば図7(a)に示すように、時間taの前半期間(0からta/2までの期間)で、一次側加速度限界値dω1_limの大きさを有する正の向きの回転角加速度で駆動プーリ2を増速させるように被動プーリ3に対して相対回転させ、続いて、時間taの後半期間(ta/2からtaまでの期間)で、一次側加速度限界値dω1_limの大きさを有する負の向きの回転角加速度で駆動プーリ2を減速させるように被動プーリ3に対して相対回転させる場合を想定する。
換言すれば、一次側加速度限界値dω1_limの大きさの回転角加速度で駆動プーリ2の回転角速度の増速及び減速を順次行なって、駆動プーリ2をτ_err_0/Kspの回転角度だけ被動プーリ3に対して相対回転させると共に、被動プーリ3に対する駆動プーリ2の相対的な回転角度がτ_err_0/Kspに達した時に、被動プーリ3に対する駆動プーリ2の相対回転を停止させる場合を想定する。
この場合、τ_err_0/Kspとdω1_limとtaとの間の関係は、次式(26)により表される。
(1/4)・dω1_lim・ta2=τ_err_0/Ksp ……(26)
そして、この場合の駆動プーリ2の最大の回転角速度は、図7(b)に示す如く、(1/2)・dω1_lim・taであるから、次式(27)の条件が成立する必要がある。
(1/2)・dω1_lim・ta≦ω1_lim ……(27)
上記式(26)及び式(27)から、τ_err_0の大きさ(絶対値)に関する次式(28)の条件が得られる。
|τ_err_0|≦(ω1_lim2/dω1_lim)・Ksp ……(28)
そこで、本実施形態では、二次側トルク偏差τ_errの値の大きさの許容限界値である第1許容限界値τ_err_limを、次式(29)により決定した。
τ_err_lim=(ω1_lim2/dω1_lim)・Ksp ……(29)
この場合、Kspの値としては、目標剛性特性係数Ksp_cmd(本実施形態ではあらかじめ定めれた一定値)が用いられる。
このように決定されるτ_err_limは、剛性特性係数Kspが大きいほど、大きな値になる。なお、τ_err_limは、式(29)により決定される値よりも若干小さい値であってもよい。
また、二次側トルク偏差速度dτ_errの大きさが大き過ぎると、二次側トルク偏差τ_errをゼロに収束させるように電動モータ5の出力トルクを制御しようとしたときに、電動モータ5から被動プーリ3への動力伝達系の固有振動に起因する共振現象によって、該動力伝達系の発振が発生しやすくなる。前記第2許容限界値dτ_err_limは、かかる発振の発生を防止するようにするためのdτ_errの大きさの限界値である。
この場合、電動モータ5から被動プーリ3への動力伝達系の固有振動数(角周波数の次元での固有振動数)をω_vbとおくと、この固有振動数ω_vbで駆動プーリ2の回転角度が被動プーリ3に対して相対的に振動したときの二次側トルク変化速度dτ_vbは、次式(30)により与えられる。
dτ_vb=Ksp・ωvb ……(30)
そこで、本実施形態では、二次側トルク偏差速度dτ_errの値の大きさの許容限界値である第2許容限界値dτ_err_limを、次式(31)により決定した。
dτ_err_lim=Ksp・ωvb ……(31)
このように決定されるdτ_err_limは、剛性特性係数Kspが大きいほど、大きな値になる。
この場合、式(31)の右辺の演算に用いるKspの値としては、目標剛性特性係数Ksp_cmd(本実施形態ではあらかじめ定めれた一定値)が用いられる。
また、固有振動数ωvbの値は、例えば実験及び測定に基づいて特定することができる。あるいは、ωvbの値を、次式(32)により近似的に決定してもよい。
ωvb=sqrt((Ksp/(Iin+Iout)) ……(32)
上式(32)におけるsqrt( )は、平方根関数である。また、Iin,Ioutはそれぞれ、前記式(10)に示した駆動プーリ2側の系のイナーシャ、被動プーリ3側の系のイナーシャである。
なお、第2許容限界値dτ_err_limは、式(31)により決定される値よりも若干小さい値に決定するようにしてもよい。
図6の位相平面において、第1許容限界値τ_err_limにより規定される正側及び負側のライン(τ_err=+τ_err_limという式及びτ_err=−τ_err_limという式によりそれぞれ示されるライン)の例が、ラインL1p,L1nであり、第2許容限界値dτ_err_limにより規定される正側及び負側のライン(dτ_err=+dτ_err_limという式及びdτ_err=−dτ_err_limという式によりそれぞれ示されるライン)の例が、ラインL2p,L2nである。
手順2では、次に、前記選出要件2に関する第1設定値τ_err_a(>0)及び第2設定値dτ_err_a(>0)が決定される(手順2−2)。
第1設定値τ_err_aは、ゼロと第1許容限界値τ_err_limとの間の値(0<τ_err_a<τ_err_limとなる値)で、ゼロに近づき過ぎないように、第1許容限界値τ_err_limに応じて決定される。例えば、τ_err_aは、τ_err_limのMa1倍の値(=Ma1・τ_err_lim)に決定される。ただし、Ma1は、1よりも小さい正の定数で、例えば0.25〜0.75程度の範囲内の値である。
同様に、第2設定値dτ_err_aは、ゼロと第2許容限界値dτ_err_limとの間の値(0<dτ_err_a<dτ_err_limとなる値)で、ゼロに近づき過ぎないように、第2許容限界値dτ_err_limに応じて決定される。例えば、dτ_err_aは、dτ_err_limのMa2倍の値(=Ma2・dτ_err_lim)に決定される。ただし、Ma2は、1よりも小さい正の定数で、例えば1/4〜1/6程度の範囲内の値である。
図6の位相平面において、第1設定値τ_err_aより規定される正側及び負側のライン(τ_err=+τ_err_aという式及びτ_err=−τ_err_aという式によりそれぞれ示されるライン)の例が、ラインLL1p,LL1nであり、第2設定値dτ_err_a(dτ_err=+dτ_err_aという式及びdτ_err=−dτ_err_aという式によりそれぞれ示されるライン)の例が、ラインLL2p,LL2nである。
手順2では、次に、上記の如く決定した第1許容限界値τ_err_lim及び第2許容限界値dτ_err_limと、第1設定値τ_err_a及び第2設定値dτ_err_aとを用いて、前記選出要件1、2を満たす傾き決定用応答特性データが選出される(手順2−3)。
例えば図6に示す例では、参照符号a1〜a6を付した応答特性データは、いずれも選出要件1を満たす。一方、参照符号a1〜a5を付した応答特性データは、選出要件2を満たすものの、参照符号a6を付した応答特性データは、選出要件2を満たさない。
従って、a6の応答特性データを除く応答特性データ(a1〜a5の応答特性データ)が傾き決定用応答特性データとして選出される。
以上のようにして、手順2では傾き決定用応答特性データが選出される。
(手順3)次に、上記のように選出された傾き決定用応答特性データの軌跡と、第1設定値τ_err_a及び第2設定値dτ_err_aによりそれぞれ示されるラインLL1p,LL1n,LL2p,LL2nとの交点のうち、該交点に関する所定の要求条件(以下、交点要求条件という)を満たす交点を用いて切換超平面σ=0の傾きが決定される。
上記交点要求条件は、当該交点と、位相平面の原点(τ_err=0,dτ_err=0となる点)とを結ぶラインの傾きが、あらかじめ定められた傾き要求範囲内にあるという条件である。
ここで、切換超平面σ=0の傾きと切換超平面σ=0上の収束時定数Tcとは1対1に対応するので、上記傾き要求範囲は、切換超平面σ=0上の収束時定数Tcの要求範囲に対応する切換超平面σ=0の傾きの要求範囲である。
動力伝達装置1における二次側トルクτを目標値(目標二次側トルクτ_cmd)に制御するシステムを構築する場合、通常、二次側トルクτの目標値への収束(τ_errのゼロへの収束)の時定数である収束時定数Tcをどの程度の範囲内の値にしたいという設計的な要求(目標)がある。従って、上記傾き要求範囲は、一例として、収束時定数Tcの値の設計的な要求範囲に対応させて設定される。
例えば、収束時定数Tcの値の設計的な要求範囲がTc_L≦Tc≦Tc_Hという範囲であるとし、また、切換超平面σ=0の傾きと収束時定数Tcとの間の関係が、傾き=−1/Tcという関係であるとした場合、傾き要求範囲は、−(1/Tc_L)≦傾き≦−(1/Tc_H)という範囲として設定すればよい。また、切換超平面σ=0の傾きと収束時定数Tcとの間の関係が、傾き=−Tcという関係であるとした場合には、傾き要求範囲は、−Tc_H≦傾き≦−Tc_Lという範囲として設定すればよい。
ただし、駆動プーリ2の回転角加速度は、前記一次側加速度限界値dω1_lim以下の大きさに制限する必要があるので、収束時定数Tcの値を無制限に小さくすることはできない。
本実施形態では、二次側トルク偏差τ_errの大きさが、前記第1許容限界値τ_err_limに一致する初期状態から、駆動プーリ2に動力源モータ5から付与するトルクを、許容限界の最大の大きさのトルクとして、被動プーリ3に対する駆動プーリ2の相対回転速度の増速及び減速を順次行うことで、τ_errをゼロに収束させた場合に実現可能な最短の収束時定数Tcとしての特定収束時定数Tcxがあらかじめ決定されている。この場合、特定収束時定数Tcxは、前記手順1で選択する目標粘性特性係数Kdp_cmdの各代表値毎にあらかじめ決定されている。
そして、手順3では、切換超平面σ=0上の収束時定数Tcが、上記特定収束時定数Tcx以上であること(Tc≧Tcxであること)を制約条件(以下、時定数制約条件という)として、この時定数制約条件を満たす範囲で、切換超平面σ=0の傾き要求範囲を設定される。
上記特定収束時定数Tcxは、次のように決定される。
両プーリ2,3間に粘性力が発生しない状態(Kdp=0であると仮定した状態)で、二次側トルク偏差τ_errの大きさが前記第1許容限界値τ_err_limに一致する初期状態から、図7(a)〜(c)に示したように、被動プーリ3に対する駆動プーリ2の回転角速度の増速及び減速を同じ時間づつ行うことで、τ_errをゼロに収束させた場合を想定する。そして、この場合にτ_errを第1許容限界値τ_err_limからゼロに収束させるまでに要する時間である収束必要時間taをtax0、その収束必要時間tax0に対応する収束時定数TcをTcx0とおく。
なお、この場合において、駆動プーリ2の回転角速度を増速させる期間で駆動プーリ2に付与するトルクの大きさと、該回転角速度を減速させる期間で駆動プーリ2に付与するトルクの大きさとは、動力源モータ5から駆動プーリ2に付与し得る許容最大限の大きさのトルクとされる。
上記収束必要時間tax0と収束時定数Tcx0との間の関係は、近似的に、次式(33)により表される。
Tcx0=tax0/3 ……(33)
そして、tax0は、前記式(26)におけるτ_err_0にτ_err_limを代入したときのtaの値であるから、次式(34)が成立する。
(1/4)・dω1_lim・tax02=τ_err_lim/Ksp ……(34)
上記式(33)、(34)から、次式(35)が得られる。
Tcx0=(2/3)・sqrt((τ_err_lim/dω1_lim)/Ksp) ……(35)
次に、両プーリ2,3間に粘性力が発生する状態(Kdp≠0である状態)で、二次側トルク偏差τ_errの大きさが前記第1許容限界値τ_err_limに一致する初期状態から、被動プーリ3に対する駆動プーリ2の回転角速度の増速、及び減速を順次行うことで、τ_errをゼロに収束させた場合を想定する。
なお、この場合においても、駆動プーリ2の回転角速度を増速させる期間で駆動プーリ2に付与するトルクの大きさと、該回転角速度を減速させる期間で駆動プーリ2に付与するトルクの大きさとは、動力源モータ5から駆動プーリ2に付与し得る許容最大限の大きさのトルクとされる。
この場合、仮に、駆動プーリ2の回転角速度を増速させる期間の時間と、該回転角速度を減速させる期間の時間とを、tax0の半分の時間にした場合には、図7(a)〜(c)に破線で示すように駆動プーリ2の回転角加速度、回転角速度、プーリ間回転角度差が変化することとなるので、tax0の時間内でτ_errをゼロに収束させることはできない。
ただし、両プーリ2,3間に粘性力がさほど大きくならない状態(Kdpが比較的小さい状態)では、図7(a),(b)に二点鎖線でしめすように、駆動プーリ2の回転角速度を増速させる期間の時間をtax0/2よりも増やすことで、tax0の時間内でτ_errをゼロに収束させることが可能である。
他方、両プーリ2,3間に粘性力が比較的大きなものとなる状態(Kdpが比較的小さい状態)では、tax0の時間内では、τ_errをゼロに収束させるができない場合がある。
そこで、本実施形態では、目標粘性特性係数Kdp_cmdの各代表値に対して、前記式(34)により規定される収束必要時間tax0の期間内で、τ_errを第1許容限界値τ_err_limからゼロに収束させることが可能である場合には、式(35)により算出される収束時定数Tcx0を、当該代表値に対応する前記特定時定数Tcxとして決定する。
また、目標粘性特性係数Kdp_cmdの各代表値に対して、前記式(34)により規定される収束必要時間tax0の期間内で、τ_errを第1許容限界値τ_err_limからゼロに収束させることができない場合には、τ_errを第1許容限界値τ_err_limからゼロに収束させることが可能な収束必要時間tax(>tax0)を決定し、その収束必要時間taxに対応する収束時定数Tc(=tax/3)を前記特定時定数Tcxとして決定する。
この場合、前記式(34)により規定される収束必要時間tax0の期間内で、τ_errを第1許容限界値τ_err_limからゼロに収束させることが可能であるか否かは、次のように判断される。
駆動プーリ2に動力源モータ5から許容最大限の大きさのトルクτ1_maxを付与した状態を想定する。このとき、被動プーリ3に対する駆動プーリ2の相対的な回転運動に関して、次式(36)の動力学的関係(離散系での関係)が成立する。
I・dΔω(n)=τ1_max−Kdp・Δω(n-1) ……(36)
なお、Iは、駆動プーリ2を含む回転系のイナーシャ、Δωは、前記式(12b)により定義される如く、被動プーリ3に対する駆動プーリ2の相対的な回転角速度、dΔωは前記式(12c)により定義される如く、被動プーリ3に対する駆動プーリ2の相対的な回転角加速度(=Δωの時間的変化率)である。そして、式(36)の右辺第2項が、粘性力トルクτdpを表している。
この式(36)から、次式(37)が得られる。
dΔω(n)=dΔω_max−Mu・Δω(n-1) ……(37)
ただし、
dΔω_max≡τ1_max/I
Mu≡Kdp/I
なお、dΔω_maxは、前記一次側加速度限界値dω1_limに一致する。
また、被動プーリ3に対する駆動プーリ2の相対的な回転角速度Δωと、被動プーリ3に対する駆動プーリ2の相対的な回転角度Δθ(すなわち、前記プーリ間回転角度差Δθ)とに関して、それぞれ、次式(38)、(39)の漸化式が成立する。
Δω(n)=Δω(n-1)+DT・dΔω(n) ……(38)
Δθ(n)=Δθ(n-1)+DT・Δω(n) ……(39)
式(37)と式(38)とから、次式(40)が得られる。
Δω(n)=(dΔω_max/Mu)・(1−Edpn)+Edpn・Δω(0) ……(40)
ただし、Edp≡1−DT・Mu
さらに、この式(40)と、式(39)とから、次式(41)が得られる。
Δθ(n)=Δθ(0)
+(dΔω_max/Mu)・n・DT
+DT・(Δω(0)−(dΔω_max/Mu))・Edp・(1−Edpn)/(1−Edp)
……(41)
ここで、Δω(0)=0、Δθ(0)=0である場合において、初期時刻0から、N1・DTの時間の期間でdΔω_maxの回転角加速度で駆動プーリ2を被動プーリ3に対して相対回転させ、続いて、N2・DTの時間の期間で−dΔω_max回転角加速度で駆動プーリ2を被動プーリ3に対して相対回転させた場合を想定する。なお、N1、N2は、ある整数値である。
この場合、N1・DT+N2・DTの時間の期間の経過時におけるΔθ(=Δθ(N1+N2))は、上記式(40),(41)によって次式(42)により与えられる。
Δθ(N1+N2)=(dΔω_max/Mu)・N1・DT
−DT・(dΔω_max/Mu)・Edp・(1−EdpN1)/(1−Edp)
−(dΔω_max/Mu)・N2・DT
+DT・(dΔω_max/Mu)・(2−EdpN1)・Edp・(1−EdpN2)/(1−Edp)
……(42)
ここで、(N1+N2)・DT=tax0となり、且つ、Δθ(N1+N2)=τ_err_lim/Kspとなれば、前記式(34)により規定される収束必要時間tax0の期間で、τ_errが第1許容限界値τ_err_limからゼロに収束することとなる。また、dΔω_max=dω1_limであるから、前記式(34)によって、次式(43)が得られる。
τ_err_lim/Ksp=(1/4)・dΔω_max・tax02 ……(43)
従って、前記式(34)により規定される収束必要時間tax0の期間で、τ_errを第1許容限界値τ_err_limからゼロに収束させることができるようにするための条件は、次式(44)が成立するようなN1(<tax0/DT)が存在することである。
(1/Mu)・N1・DT−DT・(1/Mu)・Edp・(1−EdpN1)/(1−Edp)
−(1/Mu)・(N−N1)・DT
+DT・(1/Mu)・(2−EdpN1)・Edp・(1−EdpN-N1)/(1−Edp)
=(1/4)・tax02 ……(44)
そこで、本実施形態では、目標粘性特性係数Kdp_cmdの各代表値に対応する特定収束時定数Tcxを決定するにあたって、前記式(34)により規定される収束必要時間tax0の期間内で、τ_errを第1許容限界値τ_err_limからゼロに収束させることが可能であるか否かの判断は、目標粘性特性係数Kdp_cmdの各代表値と式(43)により規定される収束必要時間tax0とを用いて、式(44)が成立するようなN1が存在するか否かを判断することによって行われる。
すなわち、目標粘性特性係数Kdp_cmdのある1つの代表値に対して、式(44)が成立するようなN1が存在する場合には、収束必要時間tax0の期間内で、τ_errを第1許容限界値τ_err_limからゼロに収束させることが可能であると判断される。そして、この場合には、収束必要時間tax0に対応して、前記式(35)により決定される収束時定数Tcx0が目標粘性特性係数Kdp_cmdの当該一つ代表値に対応する前記特定時定数Tcx0として決定される。
また、目標粘性特性係数Kdp_cmdのある1つの代表値に対して、式(44)が成立するようなN1が存在しない場合には、収束必要時間tax0の期間内で、τ_errを第1許容限界値τ_err_limからゼロに収束させることができないと判断される。そして、この場合には、式(44)における収束必要時間tax0を未知数tax0’で置き換えた式が成立するN1が存在するようなtax0’を探索的に決定する。この場合、tax0’は、式(34)により収束必要時間tax0よりも長い時間の範囲内で、可能な限り短い時間に決定される。
そして、このように決定したtax0’を目標粘性特性係数Kdp_cmdの当該一つ代表値に対応する収束必要時間として、この収束必要時間tax0’に対応する収束時定数(=tax’/3)が特定収束時定数Tcxとして決定される。
本実施形態では、切換超平面σ=0上での収束時定数Tcが、目標粘性特性係数Kdp_cmdの各代表値毎に上記の如く決定した特定時定数Tcx以上であること(Tc≧Tcxであること)を前記時定数制約条件として、この時定数制約条件を満たす範囲で、目標粘性特性係数Kdp_cmdの各代表値毎の切換超平面σ=0の傾き要求範囲が設定されている。
この場合、収束時定数Tcの値の設計的な要求範囲の下限値Tc_Lが上記時定数制約条件を満たしている場合(Tc_L≧Tcxである場合)には、切換超平面σ=0の傾き要求範囲は、Tc_L≦Tc≦Tc_Hという収束時定数Tcの要求範囲に対応する範囲に設定される。例えば、切換超平面σ=0の傾きと収束時定数Tcとの間の関係が、傾き=−1/Tcという関係であるとした場合、傾き要求範囲は、−(1/Tc_L)≦傾き≦−(1/Tc_H)という範囲として設定される。
また、収束時定数Tcの値の設計的な要求範囲の下限値Tc_Lが上記時定数制約条件を満たしていない場合(Tc_L<Tcxである場合)には、切換超平面σ=0の傾き要求範囲は、Tcx≦Tc≦Tc_Hという時定数Tcの要求範囲に対応する範囲に設定される。例えば、切換超平面σ=0の傾きと時定数Tcとの間の関係が、傾き=−1/Tcという関係であるとした場合、傾き要求範囲は、−(1/Tcx)≦傾き≦−(1/Tc_H)という範囲として設定される。
手順3における前記交点要求条件は、前記交点と、位相平面の原点とを結ぶラインの傾きが、前記手順1で選択した目標粘性特性係数Kdp_cmdの一つの代表値に対応して、上記の如くあらかじめ定められた傾き要求範囲内にあるという条件である。
図6の位相平面において、二点鎖線で示すラインLb_max,Lb_minがそれぞれ、上記の如く設定されている傾き要求範囲における最大の大きさの傾きのライン、最小の大きさの傾きのラインの例を示している。この場合、図6の位相平面では、傾き=−1/Tcという関係が成立するので、ラインLb_maxの傾きの大きさは、1/max(Tc_L,Tcx)、ラインLb_minの傾きの大きさは、1/Tc_Hである。
手順3では、この傾き要求範囲により規定される前記交点要求条件を満たす交点が抽出される。例えば、図6に示す例では、図6の破線枠部Aの拡大図としての図8(a)に示す白丸の交点と、図6の破線枠部Bの拡大図としての図8(b)に示す白丸の交点とが、前記交点要求条件を満たす交点として抽出される。
そして、これらの抽出された複数の交点におけるτ_err及びdτ_errの値の組を用いて、各交点と原点とを結ぶラインの傾きに極力一致もしくは近似する傾きが最小自乗法により算出され、その算出された傾きが、目標粘性特性係数Kdp_cmdの選択中の代表値に対応する切換超平面σ=0の適切な傾きとして決定される。
例えば図6に示す例では、図中の一点鎖線で示すラインLcの傾きが切換超平面σ=0の適切な傾きとして決定される。
なお、切換超平面σ=0の傾きを最小二乗法以外の統計的な同定手法により決定するようにしてもよい。例えば、前記交点要求条件を満たす各交点と原点とを結ぶラインの傾きの平均値を、切換超平面σ=0の傾きとして決定するようにしてもよい。
また、手順3では、切換超平面σ=0の傾きに対応する収束時定数Tc(目標粘性特性係数Kdp_cmdの各代表値に対応する収束時定数Tc)を決定するようにしてもよい。
以上説明した手順1〜手順3の処理が、目標粘性特性係数Kdp_cmdの全ての代表値のそれぞれについて実行される。これにより、目標粘性特性係数Kdp_cmdの全ての代表値のそれぞれに対応する切換超平面σ=0の適切な傾き(又は切換超平面σ=0上の適切な収束時定数Tc)が決定される。
(手順4)次に、目標粘性特性係数Kdp_cmdの各代表値と、該代表値に対応して以上の如く決定された切換超平面σ=0の傾きに対応する収束時定数Tcとの組(当該代表値の個数分の組)を用いて、例えば最小二乗法の手法によって、前記式(22)の相関関係における変数a,bの値を決定する。これにより、目標粘性特性係数Kdp_cmdと、切換超平面σ=0上の収束時定数Tcとの間の相関関係、ひいては、目標粘性特性係数Kdp_cmdと、切換超平面σ=0の傾きとの間の相関関係が最終的に決定されることとなる。
以上が、切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc)と、目標粘性特性係数Kdp_cmdとの間の相関関係を決定するための事前準備処理である。
なお、本実施形態では、手順3における交点要求条件を規定する傾き要求範囲を、前記時定数制約条件を反映させて設定しておくようにしたが、該傾き要求範囲は、時定数制約条件を考慮せずに、単に収束時定数Tcの設計的な要求範囲に応じて決定しておくようにしてもよい。
その場合、この傾き要求範囲により規定される交点要求条件を満たす交点に基づいて、上記と同様に、最小二乗法等の手法により暫定的に切換超平面σ=0の傾きを決定する。そして、その暫定的な傾きにより規定される収束時定数Tcの値が時定数制約条件を満たしている場合には、その暫定的な傾きをそのまま切換超平面σ=0の傾きとして決定するようにしてもよい。
また、暫定的な傾きにより規定される収束時定数Tcの値が時定数制約条件を満たしていない場合に、時定数制約条件を前記した如く反映させた傾き要求範囲により規定される交点要求条件を満たす交点だけを用いて、切換超平面σ=0の傾きを決定するようにしてもよい。
次に、動力伝達装置1の二次側トルクτを二次側目標トルクτ_cmdに追従させるように動力源モータ5の出力トルクを制御するときの制御装置30の作動を説明する。
なお、以降の説明では、任意の状態量(角度、トルク等)の実際の値、又はその観測値(計測値又は推定値)を示す参照符号に添え字“_act”を付する。
本実施形態では、制御装置30は、制御入力決定部34により図9のブロック線図で示す処理を実行することによって、制御入力としての動力源モータ5の目標トルクτm_cmdを逐次決定する。
制御装置30の各制御処理周期において、制御入力決定部34には、角度検出器31,32の出力信号によりそれぞれ示される駆動プーリ2の実際の回転角度θin_act(計測値)と、被動プーリ3の実際の回転角度θout_act(計測値)とが逐次入力されると共に、目標二次側トルクτ_cmdが逐次入力される。
なお、この状況において、剛性可変用モータ18の回転駆動軸18aの実際の回転角度θw_act(ひいては、前記基準状態での回転バー14の位相角φ)は、目標剛性特性係数Ksp_cmd(本実施形態では一定値)に対応する所定の回転角度に制御され、この状態で、回転駆動軸18aの回転が停止されている。
そして、制御入力決定部34は、二次側トルク計測部34fによって、現在の制御処理周期でのθin_act、θout_actの値(今回値)と、弾性力発生機構4の実際の剛性特性係数Kspの値としての目標剛性特性係数Ksp_cmdの値とを用いて前記式(13a)の右辺の演算を行なうことで、実際の二次側トルクτ_actの計測値(推定値)を算出する。
なお、目標剛性特性係数Ksp_cmdの値は、本実施形態では一定値であるので、図示しないメモリにあらかじめ記憶保持しておいてもよい。
また、制御入力決定部34は、入力された目標二次側トルクτ_cmd(今回値)にローパスフィルタ34bの出力値を演算部34aで加算することで、τ_cmdを補正する。以降、この補正後のτ_cmdを補正後目標二次側トルクτ_cmd_cという。
この補正は、二次側トルクτ_act(計測値)に含まれるオフセット成分(定常誤差成分)の影響を補償するための補正である。この場合、ローパスフィルタ34bには、演算部34cの演算結果の出力値が逐次入力される。
該演算部34cは、前回の制御処理周期で前記演算部34aで算出された補正後目標二次側トルクτ_cmd_cの値(前回値)と、今回の制御処理周期で二次側トルク計測部34fによって算出された二次側トルクτ_actの計測値(今回値)の差を算出する。
そして、ローパスフィルタ34bは、該演算部34cの演算結果の出力値にローパス特性のフィルタリング処理を施すことで、上記オフセット成分を抽出し、このオフセット成分を前記演算部34aに出力する。
次いで、制御入力決定部34は、演算部34aにより算出した補正後目標二次側トルクτ_cmd_cの値(今回値)と、二次側トルク計測部34fによって算出した二次側トルクτ_actの計測値(今回値)との偏差を、実際の二次側トルク偏差τ_err_actとして演算部34dにより算出する。
そして、制御入力決定部34は、この二次側トルク偏差τ_err_actをスライディングモード制御処理部34eに逐次入力する。
このスライディングモード制御処理部34eは、切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc)を決定する切換超平面可変設定部34gとしての機能を含んでいる。このため、スライディングモード制御処理部34eには、二次側トルク偏差τ_errに加えて、目標粘性特性係数Kdp_cmdが逐次入力される。
そして、スライディングモード制御処理部34eの切換超平面可変設定部34gは、入力された目標粘性特性係数Kdp_cmd(今回値)を用いて、前記式(22)の右辺の演算を実行することで、現在の目標粘性特性係数Kdp_cmdに対応する収束時定数Tcを決定する。さらに、切換超平面可変設定部34gは、収束時定数Tcに対応する切換超平面σ=0の傾きを決定する。
切換超平面可変設定部34gは、さらに、切換関数σの前記係数成分s1,s2の値を決定される。具体的には、切換超平面σ=0に対応する収束時定数Tcに対して、前記式(19)の関係(Tc=s2/s1という関係)が満たされるように、s1,s2の値が決定される。この場合、s1,s2のうちの一方の値は、任意の定数値(例えば1)でよい。従って、例えば、s1=1、s2=Tc、あるいは、s1=1/Tc、s2=1とされる。
スライディングモード制御処理部34eは、前記式(18)に従って、切換関数σの値を算出し、さらにこの切換関数σの算出値を用いて前記式(17)の右辺の演算を行なうことで、制御入力としての動力源モータ5の目標トルクτm_cmdを逐次算出する。
この場合、式(18)の演算に必要な二次側トルク偏差dτ_errの値は、演算部34dから入力されるτ_err_actであり、二次側トルク偏差速度dτ_errの値は、τ_err_actの時間的変化率として算出される値である。また、係数成分s1,s2の値は、切換超平面可変設定部34gにより上記の如く決定された値である。
また、式(17)の演算に必要な行列A、及び列ベクトルBの各成分は、前記式(15)のただし書きの定義式に基づいて決定された値である。これらの値は、本実施形態で、一定値であるので、図示しないメモリにあらかじめ記憶保持されている。
さらに、式(17)の演算に必要なKsldの値は、本実施形態では、前記式(25)により切換関数σの算出値に応じて決定される。また、δの値は、あらかじめ決定された定数値であり、図示しないメモリに記憶保持されている。
制御入力決定部34は、以上の処理によって、動力源モータ5の目標トルクτm_cmd(制御入力)を逐次決定する。
なお、二次側トルクτ_actに含まれるオフセット成分(定常誤差成分)が十分に微小である場合には、演算部34a,34c及びローパスフィルタ34bを省略し、τ_cmdをそのまま演算部34dに入力するようにしてもよい。
制御装置30は、以上の如く制御入力決定部34で逐次決定される目標トルクτm_cmdをモータ制御部35に入力し、該モータ制御部35の処理を実行する。このモータ制御部35は、入力された目標トルクτm_cmdに応じて動力源モータ5の図示しない電機子巻線の通電電流の指令値(目標値)を決定し、その指令値に実際の通電電流を一致させるように該電機子巻線の通電電流をフィードバック制御する。
これにより、動力源モータ5の実際の出力トルクが目標トルクτm_cmdに制御される。ひいては、実際の二次側トルクτ_actが目標二次側トルクτ_cmdに追従するように制御される。
以上説明した第1実施形態によれば、制御装置30の制御入力決定部34は、制御入力(動力源モータ5の目標トルクτm_cmd)をスライディグモード制御の手法により決定するために用いる二次側トルクτの計測値を、二次側トルク計測部34fによって、前記式(13a)に基づいて逐次取得する。この計測値は、弾性力発生機構4で発生する弾性力によるトルク(弾性力トルクτsp)の計測値に相当するものであるので、駆動プーリ2と被動プーリ3との間の相対回転Δθの計測値から高い信頼性で取得することができる。
この場合、二次側トルクτの計測値及びその時間的変化率には、弾性力発生機構4で発生する粘性力によるトルク成分が含まれないこととなるものの、スライディングモード制御用の切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc)が、弾性力発生機構4の粘性特性係数Kdpの制御値としての目標粘性特性係数Kdp_cmdに応じて可変的に決定される。
このため、弾性力発生機構4の粘性特性係数の制御状態によらずに、弾性力発生機構4で発生する粘性力による影響を適切に補償して、二次側トルクτの計測値の振動等が発生するのを抑制しつつ、実際の二次側トルクτを、高いロバスト性で、安定に二次側目標トルクτ_cmdに収束させるようにすることができる。
また、スライディングモード制御用の切換超平面σ=0の傾き(又は収束時定数Tc)と、目標粘性特性係数Kdp_cmdとの相関関係が、Kdp_cmdの複数の代表値のそれぞれ毎に、PD制御則等の汎用的な制御手法を用いて作成した複数の応答特性データのうち、前記選出要件1,2を満たす傾き決定用応答特性データを用いて決定されている。
この場合、傾き決定用応答特性データは、前記選出要件1を満たすことで、駆動プーリ2の回転角加速度及び回転角速度の大きさが、それぞれの許容限界値である一次側加速度限界値dω1_lim、及び一次側速度限界値ω1_limを超えないという条件を満たし得る適切なデータである。
また、応答特性データの軌跡は、位相平面の原点付近の領域で、振動を生じるものとなることが多々あるものの、傾き決定用応答特性データは、前記選出要件2を満たすことで、ゼロ近辺の微小な大きさではない二次側トルク偏差τ_err及び二次側トルク偏差速度dτ_errの値の組を含むデータである。
そして、τ_errの値の大きさが前記第1設定値τ_err_aとなるラインLL1p,LL1nと、dτ_errの値の大きさが前記第2設定値dτ_err_aとなるラインLL2p,LL2nとのうちのいずれかと、前記選出要件1、2を満たす傾き決定用応答特性データの軌跡との交点のうち、前記収束時定数Tcの要求範囲に対応する前記交点要求条件を満たす交点に基づいて、最小二乗法等の手法によって、切換超平面σ=0の傾き(又は収束時定数Tc)が決定される。
この場合、当該交点における二次側トルク偏差τ_errの値の大きさ(=第1設定値τ_err_a)は、前記第1許容限界値τ_err_limよりも小さく、且つ、ゼロに近づき過ぎないある程度の大きさを有する。同様に、当該交点における二次側トルク偏差速度dτ_errの値の大きさ(=第2設定値τ_err_a)は、前記第2許容限界値dτ_err_limよりも小さく、且つ、ゼロに近づき過ぎないある程度の大きさを有する。
しかも、当該交点は、前記交点要求条件を満たすので、収束時定数Tcに関する設計的な要求及び前記時定数制約条件を満たす。
従って、目標粘性特性係数Kdp_cmdの各代表値毎の切換超平面σ=0の傾きの決定に用いられる交点は、二次側トルク偏差τ_errを好適にゼロに収束させ得る応答特性データの軌跡上の点として、信頼性及び安定性の高いものとなる。このため、当該交点を用いて目標粘性特性係数Kdp_cmdの各代表値毎の切換超平面σ=0の傾きを決定することで、二次側トルク偏差τ_errを好適にゼロに収束させ得るように該傾きが決定されることとなる。
そして、弾性力発生機構4の目標粘性特性係数Kdpの各代表値と、そのそれぞれに対応して決定した切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc)とに基づいて、粘性特性係数Kdpと、切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc)との間の相関関係(本実施形態では、前記式(22)により表される相関関係)が特定される。
このため、上記相関関係を、動力伝達装置1の実際の挙動特性に即して好適に特定しておくことができる。
また、応答特性データは、汎用的な制御手法を用いて得るようにすればよいので、多数の応答特性データを効率よく容易に収集することができる。ひいては、目標粘性特性係数Kdp_cmdの各代表値毎の好適な切換超平面σ=0の傾きを特定し、さらに、粘性特性係数Kdpと切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc)との間の好適な相関関係を特定することを効率よく行うことができる。
そして、制御装置30の制御入力決定部34の処理では、上記のように特定された相関関係に基づいて、切換超平面σ=0の傾き(ひいては、係数成分s1、s2の値)を決定する。そして、制御入力決定部34は、その傾きに対応して規定される切換関数σを用いてスライディングモード制御の処理(前記式(17)の演算処理)により制御入力(電動モータ5の目標トルクτm_cmd)を決定する。
このため、二次側トルクτの制御を所要の収束特性と高いロバスト性とで行うことを、弾性力発生機構4の粘性特性係数の制御状態によらずに好適に実現することができる。
特に、本実施形態では切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc)が前記時定数制約条件を満たすように設定されているので、動力伝達装置1の幅広い動作領域で、二次側トルクτの制御を高いロバスト性で安定に行なうことができる。
ここで、以上説明した第1実施形態と本願発明との対応関係について補足しておく。第1実施形態は、前記第1発明、第2発明、第4〜第7発明、及び第11発明に関連する実施形態である。この場合、前記駆動プーリ2、被動プーリ3、弾性力発生機構4、電動モータ5がそれぞれ本発明における一次側要素、二次側要素、弾性力発生機構、アクチュエータに相当する。そして、駆動プーリ2の回転が、本発明における一次側要素の変位に相当し、二次側トルクτが、本発明における二次側動力に相当し、剛性特性係数Kspが本発明における剛性特性係数に相当し、粘性特性係数Kdpが本発明における粘性特性係数に相当する。
また、制御装置30の制御入力決定部34、二次側トルク計測部34f、切換超平面可変設定部34gがそれぞれ、本発明における制御入力決定手段、二次側動力計測手段、切換超平面可変設定手段に相当する。
また、前記二次側トルク偏差τ_err、二次側トルク偏差速度dτ_errがそれぞれの本発明における第1変数成分、第2変数成分に相当する。また、本実施形態における第1許容限界値τ_err_lim、第2許容限界値dτ_err_lim、第1設定値τ_err_a、第2設定値dτ_err_aが、それぞれ、本発明における第1許容限界値、第2許容限界値、第1設定値、第2設定値に相当する。
さらに、ラインLL1p,LL1nが本発明における第1設定値ラインに相当し、ラインLL2p,LL2nが本発明における第2設定値ラインに相当する。さらに、前記特定時定数Tcxが、本発明における特定時定数に相当する。
また、前記式(22)が本発明における式(A)に相当する。さらに、前記式(17)右辺第1項が、本発明における式(C)により表される第1制御入力成分に相当し、式(17)の右辺第2項が、本発明における第2制御入力成分に相当する。
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態を図10を参照して説明する。なお、本実施形態は、制御装置30の制御入力決定部34の一部の処理だけが、第1実施形態と相違するものである。そのため、本実施形態の説明は、第1実施形態と相違する事項を中心に行い、第1実施形態と同一の事項については説明を省略する。
本実施形態では、制御入力決定部34の処理において、外乱の影響を低減するために、二次側トルク偏差τ_err及び二次側トルク偏差速度dτ_errの値を、オブザーバを用いて逐次推定する。そして、前記二次側トルク計測部34fによる計測値をそのまま用いて算出される二次側トルク偏差τ_err、その時間的変化率として得られる二次側トルク偏差速度dτ_errとの代わりに、オブザーバによる推定値τ_err_hat,dτ_err_hatを用いてスライディングモード制御の処理を実行して、制御入力(目標トルクτm_cmd)を決定する。
具体的には、本実施形態では、図10に示すように、制御入力決定部34のスライディングモード制御処理部34eは、オブザーバ34hとしての機能をさらに含む。
そして、スライディングモード制御処理部34eには、前記二次側トルク計測部34fにより算出された二次側トルクτ_actの計測値と、前記補正後目標二次側トルクτ_cmd_cとの偏差(演算部34dの出力)が実際の二次側トルク偏差τ_err_actとして入力される。なお、補正後目標二次側トルクτ_cmd_cの算出処理は、第1実施形態と同じである。
オブザーバ34hは、次式(51)の演算によって、外乱成分を低減した二次側トルク偏差τ_errの推定値τ_err_hat(以降、二次側トルク偏差推定値τ_err_hatという)と、外乱成分を低減した二次側トルク偏差速度dτ_errの推定値dτ_err_hat(以降、二次側トルク偏差速度推定値dτ_err_hatという)を、制御装置30の制御処理周期で、逐次更新しつつ算出する。
この式(51)におけるA、Bは、それぞれ、前記式(15)のただし書きで定義される行列(2行2列)、列ベクトル(2行1列)であり、それぞれの各成分値は、第1実施形態と同様に、式(15)のただし書きの定義に従って決定される。
この場合、式(51)の右辺のu(n-1)の値としては、前回の制御処理周期で決定された目標トルクTm_cmdの値(前回値)が用いられる。また、Kobsは、所定の既定値であり、制御装置30の図示しないメモリに記憶保持されている。
また、dτ_err_act_filtは、スライディングモード制御処理部34eに入力される二次側トルク偏差τ_err_actの時間的変化率の値に、ローパス特性のフィルタリング処理を施した値である。
なお、ローパス特性のフィルタリング処理以外の適宜の処理によって、二次側トルク偏差τ_err_actの推定値の時間的変化率の値からノイズ成分を除去したものをdτ_err_act_filtの代わりに用いるようにしてもよい。
本実施形態におけるスライディングモード制御処理部34eは、上記の如くオブザーバ34hにより算出される二次側トルク偏差推定値τ_err_hatと、二次側トルク偏差速度推定値dτ_err_hatとを用いて、前記式(18)に従って、切換関数σの値を算出し、さらにこの切換関数σの算出値を用いて前記式(17)の右辺の演算を行なうことで、制御入力としての動力源モータ5の目標トルクτm_cmdを逐次算出する。
本実施形態は、以上説明した事項以外は、前記第1実施形態と同じである。
かかる本実施形態においても、前記第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
加えて、本実施形態では、オブザーバ34hにより算出した二次側トルク偏差推定値τ_err_hat及び二次側トルク偏差速度推定値dτ_err_hatを、二次側トルク計測部34fにより逐次算出される実際の二次側トルクτ_actの計測値をその用いて算出される実際の二次側トルク偏差τ_err_act及びその時間的変化率である二次側トルク偏差速度dτ_err_actの代わりに用いてスライディンモード制御の制御処理を行なうので、二次側トルクτ_actの計測値や、その時間的変化率に含まれる外乱成分の影響を低減して、制御入力(目標トルクτm_cmd)を決定できる。
このため、制御装置30による二次側トルクτの制御のロバスト性をより一層高めることができる。
ここで、以上説明した第2実施形態と本発明との対応関係について補足しておく。第2実施形態は、前記第1発明、第2発明、第4〜第7発明、第11発明、及び第12発明に関連する実施形態である。この場合、第2実施形態では、前記オブザーバ34hが、本発明におけるオブザーバに相当する。これ以外は、第2実施形態と本発明との対応関係は、第1実施形態と同じである。
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態を図1及び図11を参照して説明する。なお、本実施形態は、動力伝達装置の一部の制御処理だけが前記第1実施形態と相違するものである。このため、本実施形態の説明は、第1実施形態と相違する事項を中心に行い、第1実施形態と同一の事項については説明を省略する。
前記第1実施形態では、弾性力発生機構4の目標剛性特性係数Ksp_cmdは一定に保持するようにした。これに対して、本実施形態では、目標剛性特性係数Ksp_cmdは、既定の範囲内で可変的に設定されるようになっており、かかる目標剛性特性係数Ksp_cmdが、制御装置30に逐次入力される。
そして、制御装置30の剛性制御部36は、弾性力発生機構4の基準状態での回転バー14の位相角φを目標剛性特性係数Ksp_cmdに対応する角度値にするための剛性可変用モータ18の回転駆動軸18aの回転角度の目標値を、Ksp_cmdから既定のマップ又は演算式により決定する。そして、剛性制御部36は、回転駆動軸18aの実際の回転角度(角度検出器33の出力により示される観測値)を、サーボ制御によって、Ksp_cmdから決定した目標値に制御する。
このとき、剛性可変用モータ18の回転駆動軸18aの回転角度は、目標剛性特性係数Ksp_cmdの変化に追従して、変化するように制御される。これにより、弾性力発生機構4の実際の剛性特性係数Kspが可変的に制御される。
また、本実施形態では、図11に示すように、制御入力決定部34のスライディングモード制御処理部34eには、目標粘性特性係数Kdp_cmdに加えて、目標剛性特性係数Ksp_cmdも逐次入力される。そして、スライディングモード制御処理部34eの切換超平面可変設定部34gは、前記式(13a),(13b)に基づく計測値と、式(15)の状態方程式とに反映されていない弾性力発生機構4の粘性力(両プーリ2,3間の粘性力)の影響を補償するために、弾性力発生機構4の粘性特性係数Kdpの制御値(制御により実現する値)としての目標粘性特性係数Kdp_cmdと、弾性力発生機構4の剛性特性係数Kspの制御値(制御により実現する値)としての目標剛性特性係数Ksp_cmdとに応じて、切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc)を可変的に決定する。
この場合、切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc)と、目標粘性特性係数Kdp_cmd及び目標剛性特性係数Ksp_cmdとの間の相関関係があらかじめ決定されており、その相関関係に従って、切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc)が可変的に決定される。
本実施形態では、切換超平面可変設定部34gは、Kdp_cmd、Ksp_cmdに応じて決定した切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc)に応じて、第1実施形態と同様に、切換関数σの係数成分s1,s2の値を決定する。そしてスライディングモード制御処理部34eは、この係数成分s1,s2の値を用いて、第1実施形態と同様に、前記式(17)、(18)により制御入力τm_cmdを決定する。
ここで、本願発明者の各種実験、検討によれば、弾性力発生機構4の剛性特性係数Kspを可変的に制御するようにした場合、τ_errが安定にゼロに収束する場合におけるτ_errとdτ_errとの間の関係は、次式(61)の関係で近似される。
τ_err=−((a2/sqrt(Ksp_cmd)+a1・Ksp_cmd+a0)
+(b・Kdp_cmd)/Ksp_cmd)・dτ_err ……(61)
そこで、本実施形態では切換超平面σ=0上でのτ_errとdτ_errとの間の関係が、式(61)の関係となるように、切換超平面σ=0上の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc)を目標粘性特性係数Kdp_cmd及び目標剛性特性係数Ksp_cmdに応じて決定する。
換言すれば、切換超平面σ=0上の収束時定数Tcと、Kdp_cmd及びKsp_cmdとの間の相関関係が、次式(62)により表されるように、切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc)を目標粘性特性係数Kdp_cmd及び目標剛性特性係数Ksp_cmdに応じて決定する。
Tc=(a2/sqrt(Ksp_cmd)+a1・Ksp_cmd+a0)
+(b・Kdp_cmd)/Ksp_cmd ……(62)
式(61)及び式(62)における(a2/sqrt(Ksp_cmd)+a1・Ksp_cmd+a0)は、弾性力発生機構4の粘性特性係数Kdpがゼロである場合(Kdp_cmd=0である場合)における切換超平面σ=0上の収束時定数Tcの値を意味する。従って、弾性力発生機構4の粘性特性係数Kdpがゼロである場合における切換超平面σ=0上の収束時定数Tcは目標剛性特性係数Ksp_cmdに応じて変化するものとなる。
補足すると、前記第1実施形態では、Ksp_cmdが一定値であるために、(a2/sqrt(Ksp_cmd)+a1・Ksp_cmd+a0)が一定値となり、その値が、前記式(22)の変数aの値に相当するものとなる。
また、式(61)及び式(62)における変数bは、第1実施形態における前記式(22)の変数bと同様に、目標粘性特性係数Kdp_cmdを、弾性力発生機構4の実際の粘性特性係数Kdpの推定値に補正するための補正係数を意味する。
なお、本実施形態においても、粘性力トルクτdpと、弾性力トルクτspの時間的変化率dτspとの間の関係は、前記式(23)により表される。
従って、第1実施形態の場合と同様に、式(62)の右辺は、弾性力発生機構4の実際の粘性特性係数Kdpがゼロである場合(両プーリ2,3間の粘性力がゼロである場合)には、実際の二次側トルクτとしての弾性力トルクτspと二次側目標トルクτ_cmdとの偏差としての意味を持つ。また、弾性力発生機構4の実際の粘性特性係数Kdpがゼロでない場合には、該弾性力トルクτspと粘性力トルクτdpとを合成してなる実際の二次側トルクτと二次側目標トルクτ_cmdとの偏差としての意味を持つ。
以下に、本実施形態において、切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc)と、目標粘性特性係数Kdp_cmd及び目標剛性特性係数Ksp_cmdとの間の相関関係を決定するための事前準備処理について説明する。
本実施形態における事前準備処理では、まず、目標粘性特性係数Kdp_cmdの複数の代表値と、目標剛性特性係数Ksp_cmdの複数の代表値とがあらかじめ決定される。
そして、目標粘性特性係数Kdp_cmdの1つの代表値と、目標剛性特性係数Ksp_cmdの1つの代表値との組が選択され、その選択された目標粘性特性係数Kdp_cmdの代表値に応じて弾性力発生機構4のオリフィス部24の開口面積が制御されると共に、選択された目標剛性特性係数Ksp_cmdに応じて剛性可変用モータ18の回転駆動軸18aの回転角度(=スプリングウォーム17の回転角度)が制御される。
この状態で、第1実施形態で説明して手順1〜3の処理と同じ処理が実行され、これにより、選択中の目標粘性特性係数Kdp_cmdの1つの代表値と、目標剛性特性係数Ksp_cmdの1つの代表値との組に対応する切換超平面σ=0の適切な傾き(又は切換超平面σ=0上の適切な収束時定数Tc)が決定される。
なお、この場合において、Kdpの値を必要とする処理(例えば前記式(44)のMu、Edpの値を算出する処理等)では、Kdpの値として、目標粘性特性係数Kdp_cmdの選択中の代表値が用いられる。同様に、Kspの値を必要とする処理(例えば前記式(29)により第1許容限界値τ_err_limを決定する処理等)では、Kspの値として、目標剛性特性係数Ksp_cmdの選択中の代表値が用いられる。
そして、手順1〜3の処理と同じ処理を繰り返すことで、目標粘性特性係数Kdp_cmdの代表値と、目標剛性特性係数Ksp_cmdの代表値との全ての組に対して、各々、切換超平面σ=0の適切な傾き(又は切換超平面σ=0上の適切な収束時定数Tc)が決定される。
次に、目標粘性特性係数Kdp_cmdの各代表値と目標剛性特性係数Ksp_cmdの各代表値との組と、当該代表値の各組に対応して決定された切換超平面σ=0の傾きに対応する収束時定数Tcとを用いて、例えば最小二乗法の手法によって、前記式(62)の相関関係における変数a2、a1、a0、bの値を決定する。これにより、目標粘性特性係数Kdp_cmdと、目標剛性特性係数Ksp_cmdと、切換超平面σ=0上の収束時定数Tcとの間の相関関係、ひいては、目標粘性特性係数Kdp_cmdと、目標剛性特性係数Ksp_cmdと、切換超平面σ=0の傾きとの間の相関関係が最終的に決定されることとなる。
以上が、本実施形態において、切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc)と、目標粘性特性係数Kdp_cmd及び目標剛性特性係数Ksp_cmdとの間の相関関係を決定するための事前準備処理である。
本実施形態における制御装置30の処理は、以上説明した事項以外は、第1実施形態と同じである。
従って、弾性力発生機構4の粘性特性係数Kdp及び剛性特性係数Kspが適宜変更されながら、実際の二次側トルクτ_actが目標二次側トルクτ_cmdに追従するように制御される。
以上説明した第3実施形態によれば、制御装置30の制御入力決定部34は、二次側トルクτの計測値を第1実施形態と同様に前記式(13a)に基づいて取得すると共に、スライディングモード制御用の切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc)を、弾性力発生機構4の粘性特性係数Kdpの制御値としての目標粘性特性係数Kdp_cmdと、弾性力発生機構4の剛性特性係数Kspの制御値としての目標剛性特性係数Ksp_cmdとに応じて可変的に決定する。
このため、弾性力発生機構4の粘性特性係数及び剛性特性係数の制御状態によらずに、弾性力発生機構4で発生する粘性力による影響を適切に補償して、二次側トルクτの計測値の振動等が発生するのを抑制しつつ、実際の二次側トルクτを、高いロバスト性で、安定に二次側目標トルクτ_cmdに収束させるようにすることができる。
また、前記事前準備処理において、弾性力発生機構4の目標粘性特性係数Kdp及び目標剛性特性係数Kspとの各代表値の組にそれぞれ対応する切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc)は、前記第1実施形態と同じ仕方で、複数の応答特性データを用いて決定される。
さらに、弾性力発生機構4の目標粘性特性係数Kdp及び目標剛性特性係数Kspとの各代表値の組と、そのそれぞれに対応して決定した切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc)とに基づいて、粘性特性係数Kdp及び剛性特性係数Kspと、切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc)との間の相関関係(本実施形態では、前記式(62)により表される相関関係)が特定される。
このため、上記相関関係を、動力伝達装置1の実際の挙動特性に即して好適に特定しておくことができる。
また、第1実施形態と同様に、応答特性データを、汎用的な制御手法を用いて効率よく容易に収集することができる。ひいては、目標粘性特性係数Kdp_cmd及び目標剛性特性係数Ksp_cmdの各代表値の組毎の好適な切換超平面σ=0の傾きを特定し、さらに、粘性特性係数Kdpと、剛性特性係数と、切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc)との間の好適な相関関係を特定することを効率よく行うことができる。
そして、制御装置30の制御入力決定部34の処理では、上記のように特定された相関関係に基づいて、切換超平面σ=0の傾き(ひいては、係数成分s1、s2の値)を決定する。そして、制御入力決定部34は、その傾きに対応して規定される切換関数σを用いてスライディングモード制御の処理(前記式(17)の演算処理)により制御入力(電動モータ5の目標トルクτm_cmd)を決定する。
このため、二次側トルクτの制御を所要の収束特性と高いロバスト性とで行うことを、弾性力発生機構4の粘性特性係数Kdp及び剛性特性係数Kspの制御状態によらずに好適に実現することができる。
特に、切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc)が前記時定数制約条件を満たすように設定されているので、動力伝達装置1の幅広い動作領域で、二次側トルクτの制御を高いロバスト性で安定に行なうことができる。
ここで、以上説明した第3実施形態と本願発明との対応関係について補足しておく。第3実施形態は、前記第1発明、第3発明、第4発明、及び第8〜第11発明に関連する実施形態である。この場合、前記式(62)が本発明における式(B)に相当する。これ以外は、第3実施形態と本発明との対応関係は、第1実施形態と同様である。
なお、第1実施形態の場合と同様に、第3実施形態においても、二次側トルクτ_actに含まれるオフセット成分(定常誤差成分)が十分に微小である場合には、図11に示した演算部34a,34c及びローパスフィルタ34bを省略し、τ_cmdをそのまま演算部34dに入力するようにしてもよい。
また、第3実施形態において、前記第2実施形態と同様に、スライディングモード制御処理部34eにオブザーバ34hを備えるようにしてもよい。
この場合には、スライディングモード制御処理部34eは、前記式(51)によりオブザーバ34hが逐次算出する二次側トルク偏差推定値τ_err_hatと、二次側トルク偏差速度推定値dτ_err_hatとを、演算部34dにより算出されるτ_err_actと、その時間的変化率として算出されるdτ_err_actとの代わりに用いて、前記式(17)、(18)の演算を行うことで、制御入力としての動力源モータ5の目標トルクτm_cmdを逐次算出する。そして、これ以外の処理は、上記第3実施形態の処理と同じでよい。このようにすることで、前記第12発明の他の実施形態が構築されることとなる。
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態を図1及び図12を参照して説明する。なお、本実施形態は、スライディングモード制御処理部の一部の処理だけが、第1実施形態と相違するものである。そのため、本実施形態の説明は、第1実施形態と相違する事項を中心に行い、第1実施形態と同一の事項については説明を省略する。
前記第1実施形態において、スライディングモード制御の手法により制御入力を決定するための演算処理は、前記したように、前記弾性力発生機構4の粘性特性係数Kdpがゼロであると仮定した場合、すなわち、両プーリ2,3間に粘性力が発生しないと仮定した場合における動力伝達装置1の挙動を表現するモデルに基づいて構築される。
そして、弾性力発生機構4で発生する粘性力の影響を補償するために、切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上での収束時定数Tc)を目標粘性特性係数Kdp_cmdに応じて可変的に決定するようにした。
これに対して、本実施形態では、スライディングモード制御の手法により制御入力を決定するための演算処理は、前記弾性力発生機構4の粘性特性係数Kdpがゼロでないとして動力伝達装置1の挙動を表現するモデルに基づいて構築される。そして、切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上での収束時定数Tc)を、目標粘性特性係数Kdp_cmdに依存させないように決定する一方、制御入力を決定するために用いる1つのパラメータ(切換関数σに係るパラメータ以外のパラメータ)の値を、目標粘性特性係数Kdp_cmdに応じて変化させるようにすることで、弾性力発生機構4で発生する粘性力の影響を補償する。
具体的には、前記式(10)の状態方程式を、前記式(13a),(13b)を用いて整理すると、二次側トルクτ及び二次側トルク変化速度dτに関する挙動を表現するモデルとして、次式(71)の状態方程式が得られる。
本実施形態におけるスラディングモード制御では、この式(71)の状態方程式(モデル)を基礎として、制御入力を決定するための制御処理が構築されている。
この場合、式(71)は、前記式(15)の行列Aを上記式(71)のただし書きで定義される行列Aに置き換えた式である。従って、本実施形態におけるスライディングモード制御による制御入力としての動力源モータ5の目標トルクτm_cmdは、前記式(17)と同じ形式の演算式により決定される。
ただし、本実施形態では、前記式(18)により表される切換関数σの係数成分s1,s2は、切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上での収束時定数Tc)が、前記第1実施形態とは異なる仕方であらかじめ決定される。
具体的には、本実施形態では、第1実施形態と同様に事前準備処理をあらかじめ実行しておくことで、弾性力発生機構4の目標粘性特性係数Kdp_cmdと、収束時定数Tcとの間の相関関係を規定する前記式(22)の変数a,bの値が決定される。
ここで、前記第1実施形態では、式(22)におけるTc、すなわち、Kdp_cmdの関数値としてのTcをそのまま切換超平面σ=0上の収束時定数として用いた。これに対して、本実施形態では、式(22)におけるTcを、切換超平面σ=0上の収束時定数とせずに、τ_errをゼロに収束させるための好適な収束時定数としての適正収束時定数とみなす。そして、式(22)における変数aの値の値、すなわち式(22)により規定される適正時定数TcとKdp_cmdとの間の相関関係において、目標粘性特性係数Kdp_cmdがゼロであるとしたときの適正収束時定数Tc(=a)の値を、切換超平面σ=0上での収束時定数として決定した。
従って、本実施形態では、切換超平面σ=0の傾きは、切換超平面σ=0上の収束時定数(切換超平面上収束時定数)が、あらかじめ決定された変数aの値(本実施形態では一定値)となるように決定されている。以降、本実施形態における切換超平面σ=0上の収束時定数を改めてTc0と表記する。この場合、この収束時定数Tc0は、次式(72)により与えられる。
Tc0=a ……(72)
このため、本実施形態における切換超平面σ=0上の収束時定数Tc0は、目標粘性特性係数Kdp_cmdに依存しない一定値となっている。
そして、s2/s1が、切換超平面σ=0上の収束時定数Tc0(=−a)に一致するように、前記式(18)の切換関数σの係数成分s1,s2の値があらかじめ決定されている。例えば、s1=1、s2=a、あるいは、s1=1/a、s2=1とされている。
一方、本実施形態では、前記式(17)により制御入力としての動力源モータ5の目標トルクτm_cmdを算出するために用いる行列Aは、前記式(71)のただし書きで定義される行列であるから、該行列Aの2行2列成分は、粘性特性係数Kdpに依存する値となる。
ここで、前記第1実施形態において前記したように、式(22)における変数bの値を、目標粘性特性係数Kdp_cmdに乗じてなる値(=b・Kdp_cmd)は、弾性力発生機構4の実際の粘性特性係数Kdpの推定値に相当する。
そこで、本実施形態では、行列Aの2行2列成分を算出するためのKspの値として、b・Kdp_cmdが用いられる。すなわち、行列Aの2行2列成分におけるCin、Coutの値は、それぞれ、次式(72a),(72b)により算出される。なお、イナーシャIin,Ioutの値は、第1実施形態と同様に、あらかじめ決定された所定値である。
Cin=b・Kdp_cmd/Iin ……(72a)
Cout=b・Kdp_cmd/Iout ……(72b)
以上を前提として、本実施形態における制御装置30の制御入力決定部34を図12を参照して説明する。図12に示すように、本実施形態における制御入力決定部34は、第1実施形態と同様に、演算部34a,34c,34d,ローパスフィルタ34b、二次側トルク計測部34f、及びスライディングモード制御処理部34eを備える。ただし、本実施形態では、スライディングモード制御処理部34eは、切換超平面可変設定部を備えておらず、切換超平面σ=0の傾きに対応する切換超平面σ=0上の収束時定数aは、前記した如くあらかじめ決定されている。そして、切換関数σの係数成分s1,s2の値も収束時定数aに対応してあらかじめ決定されており、その値が図示しないメモリにあらかじめ記憶保持されている。
そして、スライディングモード制御処理部34eには、演算部34dにより逐次算出される実際の二次側トルク偏差τ_err_actの計測値が逐次入力されると共に、目標粘性特性係数Kdp_cmdが逐次入力される。
そして、スライディングモード制御処理部34eは、あらかじめ決定された係数成分s1,s2の値(一定値)と、演算部34dから入力された二次側トルク偏差τ_err_actと、その時間的変化率として算出される二次側トルク偏差速度dτ_er_actとから、前記式(18)の演算により切換関数σの値を算出する。
さらに、この切換関数σの値と、あらかじめ図示しないメモリに記憶保持された係数成分s1,s2の値と、前記式(71)の但し書きで定義される行列A及び列ベクトルBと、τ_err_act及びdτ_er_actとを用いて前記式(17)の右辺の演算を行うことで、制御入力としての動力源モータ5の目標トルクτm_cmdを算出する。
この場合、行列Aの2行2列成分は、前記したように、Kspの値として、b・Kdp_cmdを用いて算出される。
なお、行列Aの2行2列成分を算出するために必要なIin、Ioutの値はあらかじめ決定された値であり、図示しないメモリにあらかじめ記憶保持されている。
さらに、行列Aの2行2列成分以外の各成分と、列ベクトルBの各成分と、式(17)におけるδとは、本実施形態では第1実施形態と同様に定数値であり、図示しないメモリに記憶保持されている。また、式(17)のKsldの値は、第1実施形態と同様に、切換関数σの値に応じて、前記式(25)により算出される。
本実施形態は、以上説明した事項以外は、前記第1実施形態と同じである。
以上説明した第4実施形態によれば、制御装置30の制御入力決定部34は、制御入力(動力源モータ5の目標トルクτm_cmd)をスライディグモード制御の手法により決定するために用いる二次側トルクτの計測値を、第1実施形態と同様に、二次側トルク計測部34fによって、前記式(13a)に基づいて逐次取得する。
一方、第4実施形態では、第1実施形態と異なり、スライディングモード制御用の切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc0)は、目標粘性特性係数Kdp_cmdに依存しないように決定される。具体的には、切換超平面σ=0の傾きは、あらかじめ決定された一定値(=a)の収束時定数Tc0に対応する傾きに決定される。
この場合、切換超平面σ=0の傾きに対応する収束時定数Tc0は、前記第1実施形態と同様に行われる事前準備処理によって、あらかじめ特定された適正収束時定数Tcと粘性特性係数Kdpとの間の相関関係において、粘性特性係数Kdpの値がゼロであるときの適正収束時定数Tcの値とされる。
また、第4実施形態では、上記のようにスライディングモード制御用の切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc0)を、目標粘性特性係数Kdp_cmdに依存しない傾きとする一方、制御入力(τm_cmd)を算出するための演算式(17)の行列Aに、弾性力発生機構4の粘性特性係数Kdpに依存する成分が含まれる。
そして、当該成分の値を規定する粘性特性係数Kdpの値として、目標粘性特性係数Kdp_cmdを、上記相関関係に基づいてあらかじめ決定された補正係数bにより補正してなる値(=b・Kdp_cmd)が使用される。
このため、第4実施形態においても、結果的には第1実施形態と同様に、弾性力発生機構4の粘性特性係数の制御状態によらずに、弾性力発生機構4で発生する粘性力による影響を適切に補償して、二次側トルクτの計測値の振動等が発生するのを抑制しつつ、実際の二次側トルクτを、高いロバスト性で、安定に二次側目標トルクτ_cmdに収束させるようにすることができる。
また、前記事前準備処理において、弾性力発生機構4の目標粘性特性係数Kdp_cmdの各代表値にそれぞれ対応する適正収束時定数Tcは、前記第1実施形態と同様の仕方で、複数の応答特性データを用いて決定される。
さらに、弾性力発生機構4の目標粘性特性係数Kdp_cmdの各代表値と、そのそれぞれに対応して決定した適正時定数Tcとに基づいて、粘性特性係数Kdpと適正収束時定数Tcとの間の相関関係(本実施形態では、前記式(22)により表される相関関係)が特定される。
このため、上記相関関係を、動力伝達装置1の実際の挙動特性に即して好適に特定しておくことができる。
また、第1実施形態と同様に、応答特性データを、汎用的な制御手法を用いて効率よく容易に収集することができる。ひいては、目標粘性特性係数Kdp_cmdの各代表値毎の好適な適正収束時定数Tcを特定し、さらに、粘性特性係数Kdpと、適正収束時定数Tcとの間の好適な相関関係を特定することを効率よく行うことができる。
そして、制御装置30の制御入力決定部34は、上記のように特定された相関関係により規定される傾き(又は収束時定数Tc0)を有する切換超平面σ=0に対応する切換関数σと、上記相関関係により規定される補正係数bとを用いて、スライディングモード制御の処理(前記式(71)の状態方程式に基づく前記(17)の演算処理)により制御入力(電動モータ5の目標トルクτm_cmd)を決定する。
このため、二次側トルクτの制御を所要の収束特性と高いロバスト性とで行うことを、弾性力発生機構4の粘性特性係数Kdpの制御状態によらずに好適に実現することができる。
特に、前記式(22)の相関関係の適正収束時定数Tcが前記時定数制約条件を満たすように設定されているので、動力伝達装置1の幅広い動作領域で、二次側トルクτの制御を高いロバスト性で安定に行なうことができる。
ここで、以上説明した第4実施形態と本願発明との対応関係について補足しておく。第4実施形態は、前記第13〜第18発明、及び第23発明に関連する実施形態である。この場合、前記式(22)が本発明における式(E)に相当する。さらに、前記式(17)右辺第1項が、本発明における式(D)により表される第1制御入力成分に相当し、式(17)の右辺第2項が、本発明における第2制御入力成分に相当する。また、前記式(72)により表される収束時定数Tc0が本発明における切換超平面上収束時定数に相当する。これ以外は、第4実施形態と本発明との対応関係は、第1実施形態と同様である。
なお、第1実施形態の場合と同様に、第4実施形態においても、二次側トルクτ_actに含まれるオフセット成分(定常誤差成分)が十分に微小である場合には、図12に示した演算部34a,34c及びローパスフィルタ34bを省略し、τ_cmdをそのまま演算部34dに入力するようにしてもよい。
また、第4実施形態において、前記第2実施形態と同様に、スライディングモード制御処理部34eにオブザーバ34hを備えるようにしてもよい。
この場合には、オブザーバ34hは、前記式(51)の行列Aとして、前記式(71)のただし書きで定義される行列Aを用いて、二次側トルク偏差推定値τ_err_hatと、二次側トルク偏差速度推定値dτ_err_hatを算出する。なお、この場合のKsp、Kdpの値としては、それぞれ、Ksp_cmd、b・Kdp_cmdが用いられる。
そして、スライディングモード制御処理部34eは、オブザーバ34hが逐次算出する二次側トルク偏差推定値τ_err_hatと、二次側トルク偏差速度推定値dτ_err_hatとを、演算部34dにより算出されるτ_err_actと、その時間的変化率として算出されるdτ_err_actとの代わりに用いて、前記式(17)、(18)の演算を行うことで、制御入力としての動力源モータ5の目標トルクτm_cmdを逐次算出する。そして、これ以外の処理は、上記第4実施形態の処理と同じでよい。このようにすることで、前記第24発明の一実施形態が構築されることとなる。
[第5実施形態]
次に、本発明の第5実施形態を図1及び図13を参照して説明する。なお、本実施形態は、動力伝達装置の一部の処理だけが第4実施形態と相違するものである。そのため、本実施形態の説明は、第4実施形態と相違する事項を中心に行い、第4実施形態と同一の事項については説明を省略する。
前記第4実施形態では、弾性力発生機構4の目標剛性特性係数Ksp_cmdは一定に保持するようにした。これに対して、本実施形態では、目標剛性特性係数Ksp_cmdは、既定の範囲内で可変的に設定されるようになっており、かかる目標剛性特性係数Ksp_cmdが、制御装置30に逐次入力される。
そして、制御装置30の剛性制御部36は、前記第3実施形態と同様に、目標剛性特性係数Ksp_cmdに応じて剛性可変用モータ18の回転駆動軸18aの回転角度の目標値を決定し、その決定した目標値に、回転駆動軸18aの実際の回転角度(角度検出器33の出力により示される観測値)を制御する。これにより、弾性力発生機構4の実際の剛性特性係数Kspが、可変的に設定される目標剛性特性係数Ksp_cmdに制御される。
また、本実施形態では、図13に示すように、制御入力決定部34のスライディングモード制御処理部34eには、目標粘性特性係数Kdp_cmdに加えて、目標剛性特性係数Ksp_cmdも逐次入力される。
本実施形態におけるスライディングモード制御処理部34eは、切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数)を可変的に設定する切換超平面可変設定部34gを備えている。この切換超平面可変設定部34gは、入力される目標剛性特性係数Ksp_cmdに応じて切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数)を可変的に決定する。
さらに詳細には、本実施形態では、前記第3実施形態と同様に事前準備処理をあらかじめ実行しておくことで、弾性力発生機構4の目標粘性特性係数Kdp_cmd及び目標剛性特性係数Ksp_cmdと、収束時定数Tcとの間の相関関係を規定する前記式(62)の変数a2,a1,a0,bの値が決定される。
そして、本実施形態では、切換超平面可変設定部34gは、式(62)における(a2/sqrt(Ksp_cmd)+a1・Ksp_cmd+a0)の値、すなわち、式(62)により規定されるTcとKdp_cmd及びKsp_cmdとの間の相関関係において、目標粘性特性係数Kdp_cmdがゼロであるとしたときの収束時定数Tc(=a2/sqrt(Ksp_cmd)+a1・Ksp_cmd+a0)の値を、切換超平面σ=0上での収束時定数として、Ksp_cmdに応じて可変的に決定する。
従って、本実施形態では、切換超平面σ=0の傾きは、切換超平面σ=0上の収束時定数が、(a2/sqrt(Ksp_cmd)+a1・Ksp_cmd+a0)となるように、目標剛性特性係数Ksp_cmdに応じて可変的に決定される。以降、本実施形態における切換超平面σ=0上の収束時定数を改めてTc0と表記する。この場合、この収束時定数Tc0は、次式(81)により与えられる。
Tc0=a2/sqrt(Ksp_cmd)+a1・Ksp_cmd+a0 ……(81)
このため、本実施形態における切換超平面可変設定部34gが決定する切換超平面σ=0上の収束時定数Tc0は、目標粘性特性係数Kdp_cmdに依存しない値で、且つ、目標剛性特性係数Ksp_cmdに応じた値となる。
そして、切換超平面可変設定部34gは、s2/s1が、切換超平面σ=0上の収束時定数Tc0(式(81)により規定される収束時定数Tc0に一致するように、前記式(18)の切換関数σの係数成分s1,s2の値を決定する。例えば、s1=1、s2=Tc0、あるいは、s1=1/Tc0、s2=1とされる。
本実施形態における制御装置30の処理は、以上説明した事項以外は、第4実施形態と同じである。
従って、弾性力発生機構4の粘性特性係数Kdp及び剛性特性係数Kspが適宜変更されながら、実際の二次側トルクτ_actが目標二次側トルクτ_cmdに追従するように制御される。
以上説明した第5実施形態によれば、制御装置30の制御入力決定部34は、二次側トルクτの計測値を第1実施形態及び第4実施形態と同様に前記式(13a)に基づいて逐次取得する。
また、第5実施形態では、スライディングモード制御用の切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc0)は、第4実施形態と同様に、目標粘性特性係数Kdp_cmdに依存しないように決定される。ただし、第5実施形態では、その傾きは、目標剛性特性係数Kspに応じて、前記式(81)により表される収束時定数Tc0に対応する傾きに決定される。
この場合、切換超平面σ=0の傾きに対応する収束時定数Tc0は、前記第4実施形態と同様に行われる事前準備処理によって、あらかじめ特定された適正収束時定数Tcと粘性特性係数Kdpと剛性特性係数Kspとの間の相関関係において、粘性特性係数Kdpの値がゼロであるときの適正収束時定数Tcの値とされる。
また、第5実施形態では切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc0)を、目標粘性特性係数Kdp_cmdに依存せずに、目標剛性特性係数Ksp_cmdに依存して変化する傾きとする一方、制御入力(τm_cmd)を算出するための演算式(17)の行列Aに、弾性力発生機構4の粘性特性係数Kdpに依存する成分が含まれる。
そして、当該成分の値を規定する粘性特性係数Kdpの値として、目標粘性特性係数Kdp_cmdを、上記相関関係に基づいてあらかじめ決定された補正係数bにより補正してなる値(=b・Kdp_cmd)が使用される。
このため、第5実施形態においては、結果的には前記第3実施形態と同様に、弾性力発生機構4の粘性特性係数及び剛性特性係数の制御状態によらずに、弾性力発生機構4で発生する粘性力による影響を適切に補償して、二次側トルクτの計測値の振動等が発生するのを抑制しつつ、実際の二次側トルクτを、高いロバスト性で、安定に二次側目標トルクτ_cmdに収束させるようにすることができる。
また、前記事前準備処理において、弾性力発生機構4の目標粘性特性係数Kdp_cmd及び目標剛性特性係数Ksp_cmdの各代表値の組にそれぞれ対応する適正収束時定数Tcは、前記第1実施形態と同様の仕方で、複数の応答特性データを用いて決定される。
さらに、弾性力発生機構4の目標粘性特性係数Kdp_cmd及び目標剛性特性係数Ksp_cmdの各代表値の組と、そのそれぞれに対応して決定した適正時定数Tcとに基づいて、粘性特性係数Kdpと剛性特性係数Kspと適正収束時定数Tcとの間の相関関係(本実施形態では、前記式(62)により表される相関関係)が特定される。
このため、上記相関関係を、動力伝達装置1の実際の挙動特性に即して好適に特定しておくことができる。
また、第1実施形態と同様に、応答特性データを、汎用的な制御手法を用いて効率よく容易に収集することができる。ひいては、目標粘性特性係数Kdp_cmd及び目標剛性特性係数Ksp_cmdの各代表値の組毎の好適な適正収束時定数Tcを特定し、さらに、粘性特性係数Kdpと、剛性特性係数Kspと、適正収束時定数Tcとの間の好適な相関関係を特定することを効率よく行うことができる。
そして、制御装置30の制御入力決定部34は、上記のように特定された相関関係により規定される傾き(又は収束時定数Tc0)を有する切換超平面σ=0に対応する切換関数σと、上記相関関係により規定される補正係数bとを用いて、第4実施形態と同様に、スライディングモード制御の処理(前記式(71)の状態方程式に基づく前記(17)の演算処理)により制御入力(電動モータ5の目標トルクτm_cmd)を決定する。
このため、二次側トルクτの制御を所要の収束特性と高いロバスト性とで行うことを、弾性力発生機構4の粘性特性係数Kdp及び剛性特性係数Kspの制御状態によらずに好適に実現することができる。
特に、前記式(62)の相関関係の適正収束時定数Tcが前記時定数制約条件を満たすように設定されているので、動力伝達装置1の幅広い動作領域で、二次側トルクτの制御を高いロバスト性で安定に行なうことができる。
ここで、以上説明した第5実施形態と本願発明との対応関係について補足しておく。第5実施形態は、前記第13発明、第14発明、及び第19〜第23発明に関連する実施形態である。この場合、前記式(62)が本発明における式(F)に相当する。また、切換超平面可変設定部34gが本発明における切換超平面可変設定手段に相当する。また、式(81)により表される収束時定数Tc0が本発明における切換超平面上収束時定数に相当する。これ以外は、第5実施形態と本発明との対応関係は、第4実施形態と同様である。
なお、第1実施形態の場合と同様に、第5実施形態においても、二次側トルクτ_actに含まれるオフセット成分(定常誤差成分)が十分に微小である場合には、図13に示した演算部34a,34c及びローパスフィルタ34bを省略し、τ_cmdをそのまま演算部34dに入力するようにしてもよい。
また、第5実施形態において、前記第2実施形態と同様に、スライディングモード制御処理部34eにオブザーバ34hを備えるようにしてもよい。
この場合には、第4実施形態に関して補足説明した場合と同様に、オブザーバ34hは、前記式(51)の行列Aとして、前記式(71)のただし書きで定義される行列Aを用いて、二次側トルク偏差推定値τ_err_hatと、二次側トルク偏差速度推定値dτ_err_hatを算出する。
そして、スライディングモード制御処理部34eは、オブザーバ34hが逐次算出する二次側トルク偏差推定値τ_err_hatと、二次側トルク偏差速度推定値dτ_err_hatとを、演算部34dにより算出されるτ_err_actと、その時間的変化率として算出されるdτ_err_actとの代わりに用いて、前記式(17)、(18)の演算を行うことで、制御入力としての動力源モータ5の目標トルクτm_cmdを逐次算出する。そして、これ以外の処理は、上記第4実施形態の処理と同じでよい。このようにすることで、前記第24発明の他の実施形態が構築されることとなる。
[変形態様]
次に、前記各実施形態に関連する変形態様をいくつか説明する。
前記各実施形態では、駆動力を発生するアクチュエータとして、電動モータ5(動力源モータ5)を用いたが、電動モータ5以外の電動アクチュエータ、あるいは、油圧アクチュエータ等の他の形態のアクチュエータを用いてもよい。
また、前記第1実施形態では、粘性特性係数Kdpと切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc)との間の相関関係を、前記式(22)により表される演算式によって特定する代わりに、マップデータによって特定しておき、動力伝達装置1の動作制御時に、該マップデータに基づいて、切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc)を、目標粘性特性係数Kdp_cmdに応じて決定するようにしてもよい。
同様に、前記第3実施形態では、粘性特性係数Kdpと剛性特性係数Kspと切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc)との間の相関関係を、前記式(62)により表される演算式によって特定する代わりに、マップデータによって特定しておき、動力伝達装置1の動作制御時に、該マップデータに基づいて、切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc)を、目標粘性特性係数Kdp_cmd及び目標剛性特性係数Ksp_cmdに応じて決定するようにしてもよい。
また、前記第5実施形態では、動力伝達装置1の動作制御時に、切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc)を、目標剛性特性係数Ksp_cmdに応じて前記式(81)に基づき決定する代わりに、式(81)に対応するマップデータに基づき、切換超平面σ=0の傾き(又は切換超平面σ=0上の収束時定数Tc)を、目標剛性特性係数Ksp_cmdに応じて決定するようにしてもよい。
また、弾性力発生機構4の剛性特性係数Kspを一定に保持する前記第1実施形態、第2実施形態及び第4実施形態では、弾性力発生機構4における剛性可変用モータ18を省略し、スプリングウォーム17のシリンダ19と反対側の一端(バネ座部材20a側の一端)を、駆動プーリ2及び被動プーリ3等を回転自在に支持する部材に固定しておくようにしてもよい。
また、前記各実施形態では、図2〜図4に示した構成の弾性力発生機構4を採用したが、弾性力発生機構4は、駆動プーリ2(一次側要素)と、被動プーリ3(二次側要素)との間に弾性力及び粘性力を発生可能で、且つ、粘性特性係数を可変的に制御可能であるか、あるいは、粘性特性係数及び剛性特性係数の両方を制御可能なものであれば、他の任意の構造のものでよい。
例えば、弾性力発生機構は、導電性高分子アクチュエータを用いて構成されたものであってもよい。
また、前記各実施形態における動力伝達装置1は、回転駆動力を伝達するものであるが、本発明における動力伝達装置は、二次側要素が、一次側要素に対して相対的に並進移動するように弾性力発生機構で連結され、両要素間で並進力を伝達するように構成されていてもよい。