JP5834885B2 - 数値制御装置及び摩擦補償方法 - Google Patents

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Description

本発明は、数値制御装置及び摩擦補償方法に関する。
工作機械は二軸円弧補間運動を行う為にモータを制御する。工作機械はモータの回転方向が反転する時即座に反転できない。理由は送り駆動機構の摩擦の影響である。円弧切削時に象限が変わる時(移動体の運動方向が反転する時)、実際の移動体の移動軌跡は指令軌跡の外側に出る。移動軌跡が外側に出る現象は象限突起であり、加工精度は悪くなる。
特許文献1が開示するモータ制御装置は移動体の実位置信号を微分して速度信号を求める。モータ制御装置は速度信号を積分して移動体が運動方向を反転する位置からの変位信号を生成して絶対値を求める。モータ制御装置は変位と摩擦力又は摩擦トルクとの関係を表すモデルを用いて摩擦力又は摩擦トルクの変位に対する変化率を求める。モータ制御装置は変位に対する変化率に速度信号を乗算して時間に対する変化率を求める。モータ制御装置は時間に対する変化率を積分して摩擦力又は摩擦トルクを推定する。モータ制御装置は運動方向を反転する前後の速度又は加速度の影響を受けずに摩擦力又は摩擦トルクを推定する。
特開2008−210273号公報
しかしながら、特許文献1のモータ制御装置は、主にオーバーサイズボール予圧方式の送り駆動機構に対応する。オーバーサイズボール予圧方式の送り駆動機構は一つのナットとボール螺子軸を備える。ダブルナット予圧方式の送り駆動機構は二つのナットとボール螺子軸を備える。ダブルナット予圧方式の送り駆動機構はボール螺子軸が反転して一山目の象限突起を生じ、移動体が所定量移動した時に二山目の象限突起を生じる。モータ制御装置はダブルナット予圧方式に対応しておらず二山目の象限突起を補正できないという問題点があった。
また、工作機械の摩擦要因はボール螺子軸の他にリニアガイドとベアリングである。リニアガイドとベアリングは機械の剛性を上げる為に高い予圧を与える。故に反転時の摩擦トルク特性は突然変化する。他の摩擦要因はオイルシールと可動式切粉カバーのシール部材である。オイルシールはモータシャフト部に取り付けてある。オイルシールはモータ内部への切削油進入を防ぐものである。シール部材はボール螺子軸とリニアガイド部に切粉が侵入することを防ぐものである。シール部材とオイルシールはゴム材である。反転時の摩擦トルクはリニアガイド等に比べて緩やかに変化する。工作機械の反転時の摩擦特性は二種類の反転摩擦特性の合成である。
しかし、モータ制御装置は反転する位置からの変位と摩擦トルクとの関係を表すモデルについて単一のtanh関数しか用いていない。モータ制御装置は前述の二種類の反転摩擦特性を考慮していない。二種類の反転摩擦特性は反転後の急な摩擦トルクの変化と、反転後の緩やかな摩擦トルクの変化との両方を持った特性である。故に誤差が発生するという問題点があった。
さらに、特許文献1のモータ制御装置は移動体が運動方向を反転する位置からの変位と摩擦力又は摩擦トルクとの関係を表すモデルを用いる。モータ制御装置はモデルを用いて絶対値で表した変位信号の関数として摩擦力又は摩擦トルクの変位に対する変化率を求める。モータ制御装置は前記変位に対する変化率に前記速度信号を乗算して摩擦力又は摩擦トルクの時間に対する変化率を算出する。モータ制御装置は前記時間に対する変化率を積分して摩擦力又は摩擦トルクを推定する。故に速度が速い場合に積分誤差は大きくなり、推定した摩擦力又は摩擦トルクの誤差は大きくなるという問題点があった。
本発明の目的は、ダブルナット予圧方式の送り駆動機構においても低速から高速の領域まで摩擦力又は摩擦トルクを高精度で推定して象限突起を補正できる数値制御装置及び摩擦補償方法を提供することである。
本発明の請求項1に係る数値制御装置は、ボール螺子軸と該ボール螺子軸に外嵌するボールナットとを有し該ボールナットに固定した移動体を移動する送り機構と、前記ボール螺子軸を回転駆動するモータと、前記モータで移動した移動体の位置を検出する位置検出機構と、該位置検出機構によって検出した移動体の位置と制御手段が生成する位置指令とが一致するように速度指令を生成する速度生成手段と、前記モータの速度を検出する速度検出機構と、前記速度検出機構が検出した速度と前記速度生成手段が生成した速度指令とが一致するようにトルク指令を生成するトルク生成手段と、前記モータの回転方向が反転後に発生する摩擦力又は摩擦トルクを補償する摩擦補償手段と、前記摩擦補償手段で補償した摩擦力又は摩擦トルクに基づいて前記トルク指令を補正する補正手段とを備えた数値制御装置において、前記ボールナットは一対のボールナットで構成し、前記移動体の運動方向の反転後、前記移動体が所定量移動するまでに増加する前記送り機構に起因する第一の摩擦力又は摩擦トルクを補償する第一摩擦補償手段と、前記移動体の運動方向の反転後、前記移動体が前記所定量移動するまでに増加する前記送り機構に起因する第二の摩擦力又は摩擦トルクを補償する第二摩擦補償手段と、前記移動体の運動方向の反転後、前記移動体が前記所定量移動した後、前記ボール螺子軸と前記一対のボールナットに起因して増加する第三の摩擦力又は摩擦トルクを補償する第三摩擦補償手段とを備え、前記第一摩擦補償手段、前記第二摩擦補償手段、及び前記第三摩擦補償手段は、前記摩擦補償手段による前記移動体の運動方向が反転したときの前回の最終補償量と、前記移動体の運動方向が反転したときの運動方向における最大補償量とに基づき、各摩擦力又は摩擦トルクを夫々補償し、前記摩擦補償手段は、前記第一摩擦補償手段、前記第二摩擦補償手段及び前記第三摩擦補償手段の各補償量を加算することを特徴とする。故に数値制御装置は、ダブルナット予圧方式の送り機構においても摩擦力又は摩擦トルクを高精度で補償できるので象限突起を補正できる。
また請求項2に係る発明の数値制御装置は、請求項1に記載の発明の構成に加え、前記一対のボールナットは複数の球を有し、前記所定量は前記移動体の運動方向が反転後に前記複数の球の内少なくとも一個が前記一対のボールナットと前記ボール螺子軸に対して三点で接触するまで、前記移動体が移動する距離であることを特徴とする。故に第三摩擦補償部は移動体の運動方向が反転後に所定量移動した後、ボール螺子軸と一対のボールナットに起因して増加する摩擦力又は摩擦トルクを補償できる。
また請求項3に係る発明の数値制御装置は、請求項1又は2に記載の発明の構成に加え、前記位置指令に対応する前記移動体の実位置を推定する実位置推定手段と、前記実位置推定手段で推定した実位置に基づいて前記移動体の運動方向が反転した後の変位として算出する算出手段とを更に備え、前記第一摩擦補償手段と前記第二摩擦補償手段と前記第三摩擦補償手段とは、前記算出手段によって算出した変位を変数とした近似式で補償することを特徴とする。故に数値制御装置は、移動体の運動方向が反転後から増加する送り機構に起因する摩擦力又は摩擦トルクと、ボール螺子軸と一対のボールナットに起因して増加する摩擦力又は摩擦トルクとを容易に算出できる。
また請求項4に係る発明の数値制御装置は、請求項3に記載の発明の構成に加え、前記第一摩擦補償手段の前記近似式f、前記第二摩擦補償手段の前記近似式f、前記第三摩擦補償手段の前記近似式fについて、n=1〜3として、前記移動体の運動方向の反転後から変化する摩擦力又は摩擦トルクをfcn、前記移動体の運動方向の反転後から変化する摩擦力又は摩擦トルクの反転後の移動量に対しての傾きの立ち上がり係数をa、前記所定量をb、前記移動体の運動方向反転位置からの変位量をx'、前記最終補償量をfbm、前記移動体の運動方向が反転するまでの最終累積移動量をx'bmとした場合、前記摩擦補償手段は、初期状態を、
Figure 0005834885
とし、前記初期状態から前記移動体が一方向へ移動する場合、前記移動体の移動に従ってx'を更新し、前記初期状態から前記移動体が前記一方向とは反対方向へ移動する場合、反転時にx'=0とし、さらに、
Figure 0005834885
とした上で、前記移動体の移動に従ってx'を更新することを特徴とする。故に数値制御装置は、ダブルナット予圧方式の送り機構においても摩擦力又は摩擦トルクを高精度で補償できるので象限突起を補正できる。
また請求項5に係る発明の数値制御装置は、請求項4に記載の発明の構成に加え、
前記摩擦補償手段は、前記移動体の運動方向が前記反対方向から前記一方向に反転した場合、前記反対方向へ移動していたときの最終補償量をfbm、最終累積移動量をxbm、前記初期状態を基準とした補償量をfとした場合、
Figure 0005834885
Figure 0005834885
であって、さらに、f≦0の場合は、
Figure 0005834885
とし、f>0の場合は、
Figure 0005834885
として、前記移動体の移動に従ってx'を更新することを特徴とする。
また請求項6に係る発明の数値制御装置は、請求項4又は5に記載の発明の構成に加え、前記摩擦補償手段は、前記移動体の運動方向が前記一方向から前記反対方向に反転した場合、前記一方向へ移動していたときの最終補償量をfbm、最終累積移動量をxbm、前記初期状態を基準とした補償量をfとした場合、
Figure 0005834885
Figure 0005834885
であって、さらに、f≦0の場合は、
Figure 0005834885
とし、f>0の場合は、
Figure 0005834885
として、前記移動体の移動に従ってx'を更新することを特徴とする。故に数値制御装置は、移動体の運動方向がどの時点で反転しても、摩擦力又は摩擦トルクを高精度で補償できる。
また請求項7に係る発明の摩擦補償方法は、ボール螺子軸と該ボール螺子軸に外嵌するボールナットとを有し該ボールナットに固定した移動体を移動する送り機構と、前記ボール螺子軸を回転駆動するモータと、前記モータで移動した移動体の位置を検出する位置検出機構とを備えた数値制御装置によって行なわれ、該位置検出機構によって検出した移動体の位置と制御手段が生成する位置指令とが一致するように速度指令を生成する速度生成工程と、前記モータの速度を検出する速度検出機構が検出した速度と前記速度生成工程が生成した速度指令とが一致するようにトルク指令を生成するトルク生成工程と、前記モータの回転方向が反転後に発生する摩擦力又は摩擦トルクを補償する摩擦補償工程と、前記摩擦補償工程で補償した摩擦力又は摩擦トルクに基づいて前記トルク指令を補正する補正工程とを備えた数値制御装置の摩擦補償方法において、前記ボールナットは一対のボールナットで構成し、前記移動体の運動方向の反転後、前記移動体が所定量移動するまでに増加する前記送り機構に起因する第一の摩擦力又は摩擦トルクを補償する第一摩擦補償工程と、前記移動体の運動方向の反転後、前記移動体が前記所定量移動するまでに増加する前記送り機構に起因する第二の摩擦力又は摩擦トルクを補償する第二摩擦補償工程と、前記移動体の運動方向の反転後、前記移動体が前記所定量移動した後、前記ボール螺子軸と前記一対のボールナットに起因して増加する第三の摩擦力又は摩擦トルクを補償する第三摩擦補償工程とを備え、前記第一摩擦補償工程、前記第二摩擦補償工程及び前記第三摩擦補償工程は、前記摩擦補償工程による前記移動体の運動方向が反転したときの前回の最終補償量と、前記移動体の運動方向が反転したときの運動方向における最大補償量とに基づき、各摩擦力又は摩擦トルクを夫々補償し前記摩擦補償工程は、前記第一摩擦補償工程、前記第二摩擦補償工程及び前記第三摩擦補償工程の各補償量を加算することを特徴とする。故に摩擦報償方法はダブルナット予圧方式の送り機構においても摩擦力又は摩擦トルクを高精度で推定できるので象限突起を補正できる。

工作機械20の構造の一部を示す図。 数値制御装置10と送り機構の詳細な構成を示すブロック図。 送り駆動機構Aの断面図。 送り駆動機構Aにおける球37の周辺の断面図。 送り駆動機構Bの断面図。 送り駆動機構Bの球47の接触状態を示す図。 理想的な円弧軌跡と送り駆動機構Aの実際の軌跡との誤差を拡大した図。 理想的な円弧軌跡と送り駆動機構Bの実際の軌跡との誤差を拡大した図。 送り駆動機構Aのモータトルクと反転位置からの距離の関係を示したグラフ。 送り駆動機構Bのモータトルクと反転位置からの距離の関係を示したグラフ。 送り駆動機構Aのテーブル変位量と摩擦トルクの関係を示した図。 送り駆動機構Bのテーブル変位量と摩擦トルクの関係を示した図。 摩擦補償器13の構成を示したブロック図。 場面1におけるテーブル変位量と摩擦トルクの関係を示した図。 場面2におけるテーブル変位量と摩擦トルクの関係を示した図。 場面3におけるテーブル変位量と摩擦トルクの関係を示した図。 場面4(f≦0)におけるテーブル変位量と摩擦トルクの関係を示した図。 場面4(f>0)におけるテーブル変位量と摩擦トルクの関係を示した図。 場面5(f≦0)におけるテーブル変位量と摩擦トルクの関係を示した図。 場面5(f>0)におけるテーブル変位量と摩擦トルクの関係を示した図。 試験1における補償無しの実際の円弧軌跡を示すグラフ。 試験2における補償無しの実際の円弧軌跡を示すグラフ。 試験1における補償有りの実際の円弧軌跡を示すグラフ。 試験2における補償有りの実際の円弧軌跡を示すグラフ。
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1に示す数値制御装置10は本発明の実施形態である。数値制御装置10は加工プログラムが指令する経路に従い工作機械20の軸移動を制御しテーブル3に固定した加工物を切削する。
図1を参照して工作機械20のテーブル機構の一例について説明する。テーブル機構は基台1、中間テーブル50、テーブル3を備える。基台1は矩形状である。中間テーブル50は基台1上を移動する。テーブル3は中間テーブル50上を移動する。テーブル3は本発明の移動体の一例である。
基台1は一対のリニアガイド6Aを有する。一対のリニアガイド6Aは中間テーブル50を一軸方向に案内する。ボール螺子軸4Aとナット(図示略)は一対のリニアガイド6Aの間に配置する。中間テーブル50はナットに固定する。中間テーブル50は上部に一対のリニアガイド6Bを有する。リニアガイド6Bはテーブル3を前記一軸方向と直交する方向に案内する。ボール螺子軸4Bとナット5(図2参照)は一対のリニアガイド6Bの間に配置する。
図2に示すように、テーブル3は下部にブロック51を備える。ブロック51はリニアガイド6Bのレール61を摺動する。一対の軸受7はボール螺子軸4Bを支持する。一対の軸受7は中間テーブル50に固定してある。軸受7は内部にベアリング8を有する。中間テーブル50は下端にブロック(図示略)を備える。ブロックはリニアガイド6Aのレール(図示略)を摺動する。
一対の軸受(図示略)はボール螺子軸4Aを支持する。一対の軸受は基台1に固定してある。軸受は内部にベアリング(図示略)を有する。
図1に示すように、基台1は上部にモータ2Aを支持する。モータ2Aの軸とボール螺子軸4Aはカップリング(図示外)で接続する。モータ2Aは軸部の周囲にオイルシール(図示外)を有する。
図2に示すように、中間テーブル50は端部にモータ2Bを支持する。モータ2Bの軸とボール螺子軸4Bはカップリング9で接続する。モータ2Bは軸部の周囲にオイルシール52を有する。テーブル3は両端に固定カバー53を有する。シール部材55は可動カバー54のテーブル側端部とは反対側の端部に固定する。シール部材55はゴムで形成する。シール部材55は切粉等が固定カバー53と可動カバー54との間から入り込むのを防ぐ。
送り駆動機構56はテーブル3を一軸方向に移動する。送り駆動機構56はボール螺子軸4Bとナット5を備える。中間テーブル50を一軸方向に移動する送り駆動機構はテーブル3の送り駆動機構56と同じ構成である。テーブル3の送り機構は送り駆動機構56、リニアガイド6B、ブロック51、モータ2B、カップリング9、オイルシール52、可動カバー54、シール部材55、軸受7を少なくとも含む。
数値制御装置10の構成について説明する。図1に示すように、数値制御装置10はモータ2A、2Bに接続する。テーブル3はモータ2A、2Bの駆動により二軸方向に移動する。
各ボール螺子軸4A、4Bと各ナット5はモータ2A、2Bの回転運動を二軸方向におけるテーブル3の直進運動に変換する。数値制御装置10はモータ2A、2Bを制御してテーブル3の位置、速度と加速度を制御する。
図2に示すように、ロータリーエンコーダ60はモータ2A、2Bに取り付ける。図2はモータ2A、モータ2A側のロータリーエンコーダ60を図示していない。ロータリーエンコーダ60はモータ2A、2Bの位置を検出する。数値制御装置10はテーブル3の位置を、モータ2A、2Bの位置と、ボール螺子軸4A、4Bのピッチ(螺子山の間隔)とに基づいて算出する。
上位コントローラは位置指令信号を位置制御器11に出力する。ロータリーエンコーダ60はモータ2A、2Bの位置検出信号を位置制御器11に出力する。位置制御器11は位置指令信号と位置検出信号が一致するように速度指令信号を生成して速度制御器12に加える。微分器16は位置検出信号を速度検出信号に変換し速度制御器12に加える。
速度制御器12は速度指令信号と速度検出信号とが一致するようにトルク指令信号を生成して加算器14に加える。摩擦補償器13は上位コントローラからの位置指令信号に基づき摩擦補償信号を生成して加算器14に加える。摩擦補償信号はモータ2A、2Bの回転方向が反転する際に発生する摩擦力を補償する信号である。加算器14は速度制御器12からのトルク指令信号と摩擦補償器13からの摩擦補償信号とを加算する。加算器14は摩擦補償したトルク指令信号を電流制御増幅器15に加える。電流制御増幅器15はトルク制御器として機能する。電流制御増幅器15は摩擦補償したトルク指令信号にできる限り忠実なトルクを発生するようにモータ2A、2Bの電流を制御する。
位置制御器11、速度制御器12、加算器14、電流制御増幅器15、微分器16の構成と動作は周知である。故に本願発明に直接関連する摩擦補償器13の構成と動作について原理を中心に説明する。
送り駆動機構は第一の摩擦源と第二の摩擦源とに夫々起因する摩擦力を有する。第一の摩擦源に起因する摩擦力はリニアガイドのブロックの予圧、ボール螺子軸のナット部の予圧、ベアリングの予圧である。送り駆動機構としての剛性は予圧が高いほどが上がり且つ摩擦力も大きくなる。第二の摩擦源に起因する摩擦力はオイルシール52、可動カバー54のシールの摺動抵抗である。摩擦力はシール性が上がると大きくなる。
摩擦力はテーブル3の運動方向が反転する時急激に変化する。テーブル3の運動方向が反転する時はボール螺子軸4A、4Bの回転方向が反転する時である。例えば数値制御装置10は直交する2つの軸を使って上述の円弧補間運動を行い円弧切削を行う。このとき、摩擦力の変化に制御系が対応できない場合がある。図1の上部のグラフは理想的な円弧軌跡と実際の軌跡との誤差を示す。楕円で囲んだ部分71〜74は象限突起である。摩擦補償器13はテーブル3の運動方向反転時の摩擦力を高精度に推定して補償する。故に数値制御装置10は象限突起を極力小さくできる。
象限突起は送り駆動機構に発生する摩擦力の変化に起因する。象限突起はボール螺子軸の予圧方式により発生の仕方が異なる。ボール螺子軸の予圧方式の構造と特性の違いとについて説明する。ボール螺子軸の予圧方式はオーバーサイズボール予圧方式とダブルナット予圧方式とを有する。
図3に示すように、オーバーサイズボール予圧方式の送り駆動機構Aはシングルナット35(以下ナット35と呼ぶ)で予圧を与える方式である。ナット35はボールナットである。ナット35は球37を内部に備える。図4に示すように、球37はナット35とボール螺子軸34に対して常に四点で接触する。オーバーサイズボール予圧方式の特徴はナット35のサイズが小さく軽荷重である。故に小型の工作機械等はオーバーサイズボール予圧方式を採用する。
図5に示すように、ダブルナット予圧方式の送り駆動機構Bは2つのナット45、46を備える。ナット45、46はボールナットである。間座48はナット45、46の間にある。図6(a)、(b)、(c)に示すように、球47はナット45(図6では図示略)、46の運動方向に応じて移動する。球47はナット45、46とボール螺子軸44に対して二点又は三点接触で随時変化する。図6中の白抜き矢印は球47の回転方向を示す。
例えば図6(a)に示すように、ナット46は一方向に移動している。球47はナット46に一点、ボール螺子軸44に二点で接触するので三点で接触する。図6(b)に示すように、ナット46は移動が反転する途中である。球47はナット46に一点、ボール螺子軸44に一点で接触するので二点で接触する。故に三点接触に比べて摩擦は小さくなる。図6(c)に示すように、ナット46は運動方向が反転して反対方向に移動している。球47はナット46に二点、ボール螺子軸44に一点で接触するので三点で接触する。故に摩擦は再び大きくなる。ダブルナット予圧方式の特徴は剛性が高い。故に大型の工作機械等はダブルナット予圧方式を採用する。
ボール螺子軸の予圧方式が象限突起に及ぼす影響について説明する。送り駆動機構A、Bを駆動制御する各数値制御装置を用いて円弧補間運動を行った場合の理想軌跡に対する誤差を調べた。
図7、図8は理想的な円弧軌跡と実際の軌跡との誤差を拡大した図である。送り速度は3m/min、指令半径は25mmである。一目盛りは5μmである。
軌跡誤差は象限突起である。図7、図8の何れの結果においても、象限突起は0°、90°、180°、270°付近で生じている。X軸の運動方向は0°と180°で反転している。Y軸の運動方向は90°と270°で反転している。各反転位置付近における象限突起は摩擦力の変化に対するサーボ系の応答が円弧軌跡上に現れたものである。摩擦力は運動方向反転時の摩擦力である。
図7に示すように、送り駆動機構Aでは象限突起は一山である。送り駆動機構Aはオーバーサイズボール予圧方式である。図8に示すように、送り駆動機構Bでは象限突起は二山である。送り駆動機構Bはダブルナット予圧方式である。理由は以下の通りである。象限突起の一山目は象限が変わる時の摩擦の影響である。象限突起の二山目はボールがナットとボール螺子軸に対して二点接触から三点接触になる時に増加する摩擦の影響である。
ボール螺子軸単体での反転時の摩擦抵抗の挙動について調べた。図9、図10はボール螺子軸の反転位置からの距離とモータトルク〔Nm〕の関係のグラフである。
図9に示すように、オーバーサイズボール予圧方式ではモータトルクは反転後に一気に上昇して一定となる。図10に示すように、ダブルナット予圧方式では、モータトルクは反転後に僅かに上昇して一定になり、その後緩やかに上昇して再び一定となる。反転位置から球が二点で接触している間、モータトルクは僅かに上昇し一定となる。球は二点接触の状態から三点接触の状態に移り変わる。前述の場合、二点接触の状態と三点接触の状態とが混在する。故にモータトルクは緩やかに上昇する。その後、全ての球は三点接触になる。故にモータトルクは最大値となり一定となる。
図11、図12は工作機械の微小円弧動作のテーブル変位量と摩擦トルクの関係を示す。送り速度は5mm/min、指令半径は0.1mmである。微小円弧動作では摩擦力が速度と加速度に影響されない。
図11に示すように、オーバーサイズボール予圧方式では、モータトルクは運動方向反転後に非線形ばね特性を示す。モータトルクは変位がある程度大きくなるとほぼ一定の値となる。モータトルクの軌跡はヒステリシスループを描く。図12に示すようにダブルナット予圧方式では、モータトルクは運動方向が反転した後0.065mmの位置で緩やかな段差状に変化している。段差状の変化は象限突起を二山にする原因である。数値制御装置10はダブルナット予圧方式の摩擦特性に着目する。数値制御装置10は摩擦力又は摩擦トルクを高精度に推定することで二山の象限突起を補償できる。
図13を参照して、摩擦補償器13の詳細な構成と、摩擦補償器13による摩擦補償方法について説明する。摩擦補償器13は実位置推定部21、微分器22、符号反転検出部23、積分器24、第一摩擦特性推定部26、第二摩擦特性推定部27、第三摩擦特性推定部28、加算器29、応答遅れ補償部30を少なくとも備える。第一、第二、第三摩擦特性推定部26〜28は絶対値算出部と極性算出部とを内蔵する。絶対値算出部は入力した信号の絶対値を求める。極性算出部は入力した信号の時間微分した信号の極性を求める。
上位コントローラは位置指令信号を実位置推定部21に入力する。実位置推定部21はテーブル3の送り運動を行うサーボ制御系のモデルを用いる。実位置推定部21は位置指令信号に対応するテーブル3の実位置を推定して実位置信号を生成する。実位置推定部21は例えば一次遅れ要素等で構成しても良い。微分器22は実位置推定部21に接続してある。微分器22は実位置信号を微分して速度信号として出力する。符号反転検出部23と積分器24は微分器22に接続してある。
符号反転検出部23は速度信号の符号が反転することを検出する。符号反転検出部23はリセット信号を出力する。積分器24は速度信号を積分して実位置信号を復元する。積分器24は符号反転検出部23が出力するリセット信号ごとに積分値を零にリセットする。積分器24はテーブル3が運動方向を反転する位置からの変位信号を生成する。
第一摩擦特性推定部26と第二摩擦特性推定部27と第三摩擦特性推定部28とは積分器24に接続する。第一摩擦特性推定部26は摩擦トルクf〔N・m〕を求める。摩擦トルクfはテーブル3の運動方向反転後から急激に増加する。第二摩擦特性推定部27は摩擦トルクf〔N・m〕を求める。摩擦トルクfはテーブル3の反転後からなだらかに増加する。第三摩擦特性推定部28は摩擦トルクf〔N・m〕を求める。摩擦トルクfはテーブル3の運動方向反転後、所定量(後述するb)移動した後に増加する。加算器29は第一摩擦特性推定部26と第二摩擦特性推定部27と第三摩擦特性推定部28とに接続する。
加算器29はfとfとfを加算する。応答遅れ補償部30は加算器29の出力端に接続してある。応答遅れ補償部30は伝達関数の逆関数で構成する。伝達関数はトルク指令信号からモータ2が実際に出力するトルクまでの特性をモデル化したものである。トルク指令信号は電流制御増幅器15(図2参照)に入力する。応答遅れ補償部30は推定した摩擦トルクを乗算して摩擦補償信号を生成する。
次に、第一摩擦特性推定部26と第二摩擦特性推定部27と第三摩擦特性推定部28とによる摩擦補償方法について説明する。第一摩擦特性推定部26は近似式1を用いてfを算出する。第二摩擦特性推定部27は近似式2を用いてfを算出する。第三摩擦特性推定部28は近似式3を用いてfを算出する。近似式1〜3は、テーブル3の運動方向の反転位置によって夫々異なる近似式を採用する。
図14は、テーブル3がA地点からプラス方向に移動し、B地点を経由してC地点に移動するまでの摩擦補償量の変化を示す。摩擦補償量は摩擦補償器13が出力する摩擦補償信号である。図14は、後述する最大の摩擦補償量の1/2の値を0と設定する。なお電源投入後、テーブル3の運動方向は不明である。故に説明の便宜上、テーブル3が移動する一方向をプラス方向とし、その反対方向をマイナス方向とする。A地点は例えば前回の移動で運動方向が反転した地点である。C地点は例えば摩擦補償量が最大となる地点である。上記したように、送り駆動機構Bの摩擦トルクの象限突起は二山である。故にA地点からC地点に至るまでの摩擦補償量は二段階で増加する。一山目はA地点からB地点までである。二山目はB地点からC地点までである。一山目は摩擦トルクの二つの成分を有する。一方の成分はテーブル3の運動方向の反転後急激に増加する成分である。他方の成分はテーブル3の運動方向の反転後緩やかに増加する成分である。これら二つの成分が合成して摩擦補償量の一山目を形成する。
先ず、各種パラメータを以下のように定義する。nは1〜3である。
・f=総摩擦トルク[N・m]
・f=テーブル3の運動方向の反転後急激に増加する摩擦トルク[N・m]
・f=テーブル3の運動方向の反転後緩やかに増加する摩擦トルク[N・m]
・f=テーブル3の運動方向の反転後所定量移動した後に増加する摩擦トルク[N・m]
・fcn=クーロン摩擦トルク[N・m]
・a=テーブル3の運動方向の反転後から変化する摩擦トルクの傾きの立ち上がり係数[パルス]
・b=近似式3の開始位置[パルス](摩擦補償量の二山目が開始する位置)
更に、摩擦補償量を求める為に必要な値を以下のように定義する。
・x'=運動方向の反転位置からの累積距離[パルス]
・fbm=前回(反転前)の最終補償量
・x'bm=前回(反転前)の最終累積距離
図14に示す如く、A地点からB地点までの距離はbである。A地点からB地点までの一山目の摩擦補償量はfc1+fc2である。B地点からC地点までの二山目の摩擦補償量はfc3である。x'は正の値である。
[場面1:初期状態]
図14に示す如く、例えばテーブル3がA地点からプラス方向に移動し、C地点に到達したテーブル3の状態が初期状態である。C地点は例えば摩擦補償量が最大となる地点である。fbmとx'bmを以下のように夫々設定する。
・fbm=(fc1+fc2+fc3)/2
・x'bm=x'+bとする。
初期状態における摩擦補償量fとfとfは以下の通りである。
・f=fbm ・・・(1)
・f=0 ・・・(2)
・f=0 ・・・(3)
故に第一摩擦特性推定部26は(1)式を近似式1としてfを算出する。第二摩擦特性推定部27は(2)式を近似式2としてfを算出する。第三摩擦特性推定部28は(3)式を近似式3としてfを算出する。
[場面2:テーブル3が初期状態からそのままプラス方向へ移動した場合]
図15に示す如く、例えばテーブル3が初期状態であるC地点からそのままプラス方向に移動する。上述の通り、初期状態の摩擦補償量は最大である。初期状態からプラス方向へ移動する限り、摩擦補償量fをfbmとすればよい。故に第一摩擦特性推定部26は(1)式を近似式1としてfを算出する。第二摩擦特性推定部27は(2)式を近似式2としてfを算出する。第三摩擦特性推定部28は(3)式を近似式3としてfを算出する。但し、x'は移動する毎に随時更新する。
[場面3:テーブル3が初期状態からマイナス方向へ移動する場合]
図16に示す如く、テーブル3は初期状態からC地点で反転してマイナス方向へ移動する。x'は反転時にリセット(x'=0)する。摩擦補償量fとfとfは以下の通りである。
・f=−fc1tanh(x'/a)+fbm ・・・(4)
・f=−fc2tanh(x'/a) ・・・(5)
・f=−fc3tanh{(x'−b)/a} ・・・(6)
故に第一摩擦特性推定部26は(4)式を近似式1としてfを算出する。第二摩擦特性推定部27は(5)式を近似式2としてfを算出する。第三摩擦特性推定部28は(6)式を近似式3としてfを算出する。x'は移動する毎に随時更新する。
[場面4:テーブル3の運動方向がマイナス方向からプラス方向へ反転する場合]
図17に示す如く、テーブル3は例えば初期状態のC地点からマイナス方向に反転して移動し、更にD地点で反転してプラス方向へ移動する。マイナス方向へ移動していたときの補償量をfbm、移動量をxbmとする。第1評価基準量は、マイナス方向からプラス方向に反転して移動する際に、反転位置における摩擦補償量が一山目か二山目かを判定する為の基準量である。第1評価基準量は例えばB地点の摩擦補償量に相当する。fは第1評価基準量とfbmを比較するための値である。場面4におけるfは以下の通りである。
・f=fc1+fc2−{(fc1+fc2+fc3)/2}+fbm
={(fc1+fc2−fc3)/2}−fbm
・b=0 ならば x'=x'
・b>xbm ならば x'=x'(b/xbm
・b≦xbm ならば x'=x'
x'は移動する毎に更新する。例えば図17に示す如く、b>xbmの場合、摩擦補償量をD地点から(+)の最大補償量に向けて急峻に立ち上げる必要がある。故に本実施形態は、x'に(b/xbm)を乗ずる処理を行う。fが第1評価基準量よりも大きい場合、fは負の値である。fが第1評価基準量よりも小さい場合、fは正の値である。fが正か負かで、fとfとfを夫々導く近似式は異なる。
[f≦0の場合]
図17に示す如く、D地点におけるfは第1評価基準量よりも大きい。故にfは摩擦補償量の二山目の途中である。故にfとfとfは以下の通りである。
・f=fbm ・・・(7)
・f=0 ・・・(8)
・f=(fc3+f)tanh(x'/a) ・・・(9)
故に第一摩擦特性推定部26は(7)式を近似式1としてfを算出する。第二摩擦特性推定部27は(8)式を近似式2としてfを算出する。第三摩擦特性推定部28は(9)式を近似式3としてfを算出する。x'は移動する毎に更新する。
[f>0の場合]
図18に示す如く、テーブル3は例えばC地点からマイナス方向移動し、E地点を通過してF地点で反転してプラス方向へ移動する。F地点におけるfは第1評価基準量よりも小さい。故にfは摩擦補償量の一山目の途中である。fは一山目においてfc2より大きいか小さいかで、fとfとfを夫々導く近似式は異なる。
(1)f≧fc2の場合
・f=(f−fc2)tanh(x'/a)+fbm ・・・(10)
・f=fc2tanh(x'/a) ・・・(11)
・f=fc3tanh{(x'−b)/a} ・・・(12)
但し、x'≦bならばf=0
故に第一摩擦特性推定部26は(10)式を近似式1としてfを算出する。第二摩擦特性推定部27は(11)式を近似式2としてfを算出する。第三摩擦特性推定部28は(12)式を近似式3としてfを算出する。x'は移動する毎に更新する。
(2)f<fc2の場合
・f=fbm ・・・(13)
・f=ftanh(x'/a) ・・・(14)
・f=fc3tanh{(x'−b)/a} ・・・(15)
但し、x'≦bならばf=0
故に第一摩擦特性推定部26は(13)式を近似式1としてfを算出する。第二摩擦特性推定部27は(14)式を近似式2としてfを算出する。第三摩擦特性推定部28は(15)式を近似式3としてfを算出する。x'は移動する毎に更新する。
[場面5:テーブル3がプラス方向からマイナス方向へ反転する場合]
図19に示す如く、テーブル3は例えばF地点からプラス方向に移動してG地点で反転してマイナス方向へ移動する。上記同様に、C地点からA地点に至るまでの摩擦補償量は二段階で増加する。一山目はC地点からE地点までである。二山目はE地点からA地点までである。プラス方向へ移動していたときの補償量をfbm、移動量をxbmとする。第2評価基準量は、プラス方向からマイナス方向に反転して移動する際に、反転位置における摩擦補償量が一山目か二山目かを判定する為の基準量である。第2評価基準量は例えばE地点の摩擦補償量に相当する。fは第2評価基準量とfbmを比較するための値である。場面5におけるfは以下の通りである。
・f=fc1+fc2−{(fc1+fc2+fc3)/2}−fbm
={(fc1+fc2−fc3)/2}+fbm
・b=0 ならば x'=x'
・b>xbm ならば x'=x'(b/xbm
・b≦xbm ならば x'=x'
x'は移動する毎に更新する。例えば図19に示す如く、b>xbmの場合、摩擦補償量をG地点から(−)の最大補償量に向けて急峻に立ち上げる必要がある。故に本実施形態は、x'に(b/xbm)を乗ずる処理を行う。上記場面4と同様に、fが正か負かで、fとfとfを夫々導く近似式は異なる。
[f≦0の場合]
図19に示す如く、G地点におけるfは第2評価基準量よりも小さい。故にfは摩擦補償量の二山目の途中である。故にfとfとfは以下の通りである。
・f=fbm ・・・(16)
・f=0 ・・・(17)
・f=−(fc3+f)tanh(x'/a) ・・・(18)
故に第一摩擦特性推定部26は(16)式を近似式1としてfを算出する。第二摩擦特性推定部27は(17)式を近似式2としてfを算出する。第三摩擦特性推定部28は(18)式を近似式3としてfを算出する。x'は移動する毎に更新する。
[f>0の場合]
図20に示す如く、テーブル3は例えばプラス方向からH地点で反転してマイナス方向へ移動する。H地点におけるfは第2評価基準量よりも大きい。故にfは摩擦補償量の一山目の途中である。さらにfは一山目においてfc2より大きいか小さいかで、fとfとfを夫々導く近似式は異なる。
(1)f≧fc2の場合
・f=−(f−fc2)tanh(x'/a)+fbm ・・・(19)
・f=−fc2tanh(x'/a) ・・・(20)
・f=−fc3tanh{(x'−b)/a} ・・・(21)
但し、x'≦bならばf=0
故に第一摩擦特性推定部26は(19)式を近似式1としてfを算出する。第二摩擦特性推定部27は(20)式を近似式2としてfを算出する。第三摩擦特性推定部28は(21)式を近似式3としてfを算出する。x'は移動する毎に更新する。
(2)f<fc2の場合
・f=fbm ・・・(22)
・f=−ftanh(x'/a) ・・・(23)
・f=−fc3tanh{(x'−b)/a} ・・・(24)
但し、x'≦bならばf=0
故に第一摩擦特性推定部26は(22)式を近似式1としてfを算出する。第二摩擦特性推定部27は(23)式を近似式2としてfを算出する。第三摩擦特性推定部28は(24)式を近似式3としてfを算出する。x'は移動する毎に更新する。
次に、上記実施形態におけるダブルナット予圧方式の象限突起の削減効果を調べる為、補償した場合の円弧軌跡と、補償しなかった場合の円弧軌跡とを比較する試験を行った。試験1は、送り速度を141mm/min、指令半径を0.2mmとした場合の補償無しの円弧軌跡と、補償有りの円弧軌跡とを比較した。試験2は、送り速度を100mm/min、指令半径を0.1mmとした場合の補償無しの円弧軌跡と、補償有りの円弧軌跡とを比較した。図21,図23は試験1の各結果を示すグラフである。図22,図24は試験2の各結果を示すグラフである。グラフ中の実線は理想的な円弧軌跡を示す。グラフ中の点線は実際の円弧軌跡を示す。
試験1、2の結果について説明する。図21に示す如く、試験1における補償無しの円弧軌跡では、大きな象限突起を生じている。図22に示す如く、試験2における補償無しの円弧軌跡では、試験1の象限突起よりは小さいが象限突起を生じている。これらに対し、図23に示す如く、試験1における補償有りの円弧軌跡では、図21の象限突起はほぼ消失している。図24に示す如く、試験2における補所有りの円弧軌跡でも、図22の象限突起はほぼ消失している。理由は軸の反転後に二段階で生じる摩擦力を近似式1、2、3で何れも高精度に推定したからである。故に数値制御装置10はオーバーサイズボール予圧方式のみならず、ダブルナット予圧方式の送り駆動機構に対応できる。数値制御装置10は反転摩擦特性が複合化している工作機械にも対応できる。故に数値制御装置10は加工物の加工精度を効果的に向上できる。
ロータリーエンコーダ60は本発明の位置検出手段の一例である。位置制御器11は本発明の速度生成手段の一例である。微分器16は本発明の速度検出手段の一例である。速度制御器12は本発明のトルク生成手段の一例である。実位置推定部21は本発明の実位置推定手段の一例である。摩擦補償器13は本発明の摩擦推定手段の一例である。応答遅れ補償部30は本発明の応答遅れ補正手段の一例である。第一摩擦特性推定部26は本発明の第一摩擦推定手段の一例である。第二摩擦特性推定部27は本発明の第二摩擦推定手段の一例である。第三摩擦特性推定部28は本発明の第三摩擦推定手段の一例である。加算器29は本発明の加算手段の一例である。
以上説明したように、本実施形態の数値制御装置10と摩擦補償方法はオーバーサイズボール予圧方式のみならずダブルナット予圧方式の送り駆動機構にも十分に対応できる。ダブルナット予圧方式では、ボールはナットの運動方向に合わせてナットとボール螺子軸に二点又は三点で接触する。ダブルナット予圧方式はボール螺子軸が反転して一山目の象限突起を生じ、テーブル3が更に所定量移動した時に二山目の象限突起を生じる。従来の摩擦補償方法はオーバーサイズボール予圧方式のみ対応する。従来の摩擦補償方法はダブルナット予圧方式特有の二山目の象限突起を消失できない。本実施形態は二つの近似式を用いてダブルナット予圧方式の場合に二段階で生じる摩擦力の上昇を高精度に推定できる。象限突起の一山目は反転後の摩擦特性に起因する。反転後の摩擦特性には、反転後に急に摩擦特性が変化するものと、反転後から緩慢に摩擦特性が変化するものとがある。前者の一例はリニアスケールによるものである。後者の一例はモータシャフト部のオイルシールによるものである。本実施形態はこれらの摩擦特性を考慮して三つの近似式1〜3を用いることができる。本実施形態は一山目の象限突起を消失することに加え、従来消失できなかった二山目の象限突起も確実に消失できる。本実施形態はダブルナット予圧方式でも、オイルシール付きでも象限突起を効果的に消失できる。本実施形態は加工精度を確実に向上できる。
本実施形態は特に、テーブル3の運動方向が反転したときの前回の最終補償量と、反転したときの運動方向における最大補償量とに基づき、近似式1〜3を夫々変更して、各補償量を算出する。故に、テーブル3の運動方向がどの地点で反転しても、送り駆動機構で生じる摩擦の象限突起を効果的に消失できる。
なお、本発明は上記実施形態に限らず種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態はテーブル3を移動体とする。移動体は工具を掴んだ主軸を支持する機構としてもよい。テーブルは固定しておく。機構は主軸ヘッドとコラムで構成してもよい。主軸ヘッドは主軸を回転可能に支持する。コラムは主軸ヘッドを上下又は前後に移動可能に支持する。
10 数値制御装置
12 速度制御器
13 摩擦補償器
21 実位置推定部
24 積分器
30 応答遅れ補償部
26 第一摩擦特性推定部
27 第二摩擦特性推定部
28 第三摩擦特性推定部

Claims (7)

  1. ボール螺子軸と該ボール螺子軸に外嵌するボールナットとを有し該ボールナットに固定した移動体を移動する送り機構と、前記ボール螺子軸を回転駆動するモータと、前記モータで移動した移動体の位置を検出する位置検出機構と、該位置検出機構によって検出した移動体の位置と制御手段が生成する位置指令とが一致するように速度指令を生成する速度生成手段と、前記モータの速度を検出する速度検出機構と、前記速度検出機構が検出した速度と前記速度生成手段が生成した速度指令とが一致するようにトルク指令を生成するトルク生成手段と、前記モータの回転方向が反転後に発生する摩擦力又は摩擦トルクを補償する摩擦補償手段と、前記摩擦補償手段で補償した摩擦力又は摩擦トルクに基づいて前記トルク指令を補正する補正手段とを備えた数値制御装置において、
    前記ボールナットは一対のボールナットで構成し、
    前記移動体の運動方向の反転後、前記移動体が所定量移動するまでに増加する前記送り機構に起因する第一の摩擦力又は摩擦トルクを補償する第一摩擦補償手段と、
    前記移動体の運動方向の反転後、前記移動体が前記所定量移動するまでに増加する前記送り機構に起因する第二の摩擦力又は摩擦トルクを補償する第二摩擦補償手段と、
    前記移動体の運動方向の反転後、前記移動体が前記所定量移動した後、前記ボール螺子軸と前記一対のボールナットに起因して増加する第三の摩擦力又は摩擦トルクを補償する第三摩擦補償手段と
    を備え、
    前記第一摩擦補償手段、前記第二摩擦補償手段、及び前記第三摩擦補償手段は、前記摩擦補償手段による前記移動体の運動方向が反転したときの前回の最終補償量と、前記移動体の運動方向が反転したときの運動方向における最大補償量とに基づき、各摩擦力又は摩擦トルクを夫々補償し、
    前記摩擦補償手段は、前記第一摩擦補償手段、前記第二摩擦補償手段及び前記第三摩擦補償手段の各補償量を加算することを特徴とする数値制御装置。
  2. 前記一対のボールナットは複数の球を有し、
    前記所定量は前記移動体の運動方向が反転後に前記複数の球の内少なくとも一個が前記一対のボールナットと前記ボール螺子軸に対して三点で接触するまで、前記移動体が移動する距離であることを特徴とする請求項1に記載の数値制御装置。
  3. 前記位置指令に対応する前記移動体の実位置を推定する実位置推定手段と、
    前記実位置推定手段で推定した実位置に基づいて前記移動体の運動方向が反転した後の変位として算出する算出手段とを更に備え、
    前記第一摩擦補償手段と前記第二摩擦補償手段と前記第三摩擦補償手段とは、前記算出手段によって算出した変位を変数とした近似式で補償することを特徴とする請求項1又は2に記載の数値制御装置。
  4. 前記第一摩擦補償手段の前記近似式f、前記第二摩擦補償手段の前記近似式f、前記第三摩擦補償手段の前記近似式fについて、
    n=1〜3として、前記移動体の運動方向の反転後から変化する摩擦力又は摩擦トルクをfcn、前記移動体の運動方向の反転後から変化する摩擦力又は摩擦トルクの反転後の移動量に対しての傾きの立ち上がり係数をa、前記所定量をb、前記移動体の運動方向反転位置からの変位量をx'、前記最終補償量をfbm、前記移動体の運動方向が反転するまでの最終累積移動量をx'bmとした場合、
    前記摩擦補償手段は、
    初期状態を、
    Figure 0005834885
    とし、
    前記初期状態から前記移動体が一方向へ移動する場合、前記移動体の移動に従ってx'を更新し、
    前記初期状態から前記移動体が前記一方向とは反対方向へ移動する場合、反転時にx'=0とし、さらに、
    Figure 0005834885
    とした上で、前記移動体の移動に従ってx'を更新することを特徴とする請求項3に記載の数値制御装置。
  5. 前記摩擦補償手段は、
    前記移動体の運動方向が前記反対方向から前記一方向に反転した場合、前記反対方向へ移動していたときの最終補償量をfbm、最終累積移動量をxbm、前記初期状態を基準とした補償量をfとした場合、
    Figure 0005834885
    Figure 0005834885
    であって、さらに、
    ≦0の場合は、
    Figure 0005834885
    とし、
    >0の場合は、
    Figure 0005834885
    として、前記移動体の移動に従ってx'を更新することを特徴とする請求項4に記載の数値制御装置。
  6. 前記摩擦補償手段は、
    前記移動体の運動方向が前記一方向から前記反対方向に反転した場合、前記一方向へ移動していたときの最終補償量をfbm、最終累積移動量をxbm、前記初期状態を基準とした補償量をfとした場合、
    Figure 0005834885
    Figure 0005834885
    であって、さらに、
    ≦0の場合は、
    Figure 0005834885
    とし、
    >0の場合は、
    Figure 0005834885
    として、前記移動体の移動に従ってx'を更新することを特徴とする請求項4又は5に記載の数値制御装置。
  7. ボール螺子軸と該ボール螺子軸に外嵌するボールナットとを有し該ボールナットに固定した移動体を移動する送り機構と、前記ボール螺子軸を回転駆動するモータと、前記モータで移動した移動体の位置を検出する位置検出機構とを備えた数値制御装置によって行なわれ、該位置検出機構によって検出した移動体の位置と制御手段が生成する位置指令とが一致するように速度指令を生成する速度生成工程と、前記モータの速度を検出する速度検出機構が検出した速度と前記速度生成工程が生成した速度指令とが一致するようにトルク指令を生成するトルク生成工程と、前記モータの回転方向が反転後に発生する摩擦力又は摩擦トルクを補償する摩擦補償工程と、前記摩擦補償工程で補償した摩擦力又は摩擦トルクに基づいて前記トルク指令を補正する補正工程とを備えた数値制御装置の摩擦補償方法において、
    前記ボールナットは一対のボールナットで構成し、
    前記移動体の運動方向の反転後、前記移動体が所定量移動するまでに増加する前記送り機構に起因する第一の摩擦力又は摩擦トルクを補償する第一摩擦補償工程と、
    前記移動体の運動方向の反転後、前記移動体が前記所定量移動するまでに増加する前記送り機構に起因する第二の摩擦力又は摩擦トルクを補償する第二摩擦補償工程と、
    前記移動体の運動方向の反転後、前記移動体が前記所定量移動した後、前記ボール螺子軸と前記一対のボールナットに起因して増加する第三の摩擦力又は摩擦トルクを補償する第三摩擦補償工程と
    を備え、
    前記第一摩擦補償工程、前記第二摩擦補償工程及び前記第三摩擦補償工程は、前記摩擦補償工程による前記移動体の運動方向が反転したときの前回の最終補償量と、前記移動体の運動方向が反転したときの運動方向における最大補償量とに基づき、各摩擦力又は摩擦トルクを夫々補償し
    前記摩擦補償工程は、前記第一摩擦補償工程、前記第二摩擦補償工程及び前記第三摩擦補償工程の各補償量を加算することを特徴とする摩擦補償方法。
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