JP5834573B2 - 2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の精製方法、粉末、及びそれを用いたポリイミド - Google Patents

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本発明は、着色の少ない2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の精製方法、該粉末、及びそれを用いたポリイミドに関する。ここで、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末とは、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を主成分とした、実質的に2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物からなる化学原料として好適に用いられる粉末のことである。
高度情報化社会の到来に伴い、光通信分野の光ファイバーや光導波路等、表示装置分野の液晶配向膜やカラーフィルター用保護膜等の光学材料の開発が進んでいる。さらに表示装置分野では、ガラス基板代替として軽量でフレキシブル性に優れたプラスチック基板の検討が行なわれ、それを用いて曲げたり丸めたりすることが可能なディスプレイの開発が進んでいる。
ポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られる樹脂であり、高寸法安定性や高耐熱性などの優れた特性を有することから高性能光学材料としての用途展開が望まれている。しかし、ポリイミドはその化学構造に起因して容易に着色する。さらに、ポリイミド原料のテトラカルボン酸二無水物やジアミンも着色を抑制することが容易ではなく、高性能光学材料用のポリイミドを得る上では改良の余地があった。
ポリイミドの原料の一つに2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物がある。この2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物は、ポリイミドの原料として多用されているピロメリット酸二無水物や3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物などの他の酸二無水物に比べると、精製方法などについて十分な検討がなされていなかった。
特許文献1には、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸を不活性ガス雰囲気下、180〜195℃で無水化を完了するのに十分な時間、加熱して無水化することを特徴とする粉末状の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の製造方法が開示されている。
特許文献2には、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸を不活性ガスの流通下、200℃以上の温度で溶融させた状態で溶融物を撹拌して、加熱無水化して2,3,3,4−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を製造する方法が開示されている。ここでは、得られた2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物は冷却固化後、粉砕機などによって粉砕されて、粉末状の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を得ている。
特許文献3には、ビフェニルテトラカルボン酸テトラメチルを加水分解、脱水し、溶媒中で吸着剤を加え濾過後、再結晶することからなるビフェニルテトラカルボン酸無水物の精製方法が記載され、再結晶に用いる溶媒として無水酢酸が好適であることが記載されている。しかしながら、ここに記載されているのは、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の精製方法であって、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物についての記載はなかった。
特開2006−328040号公報 特開2009−019014号公報 特開2004−196687号公報
特許文献1,2の製造方法は、高対数粘度のポリアミック酸を得ることができる高純度2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の粉末を製造することを目的とするものであって、その目的を達成しているが、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の粉末の着色の低減に関する検討はおこなわれておらず、着色について改良の余地があった。
なお、特許文献2(段落0032〜0033など)に記載のように、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の粉末は、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の粉末とは全く違った挙動を示す。すなわち、結晶性が低く、容易に結晶部とともに非晶部を生成する。この非晶部は、品質劣化を引き起こす原因になると考えられ、結晶性と非晶性との相違だけでなく、色合いや、例えば水分含量などの成分組成が明らかに相違する。
本発明は、このような特異な性質を持った2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の着色を改良する目的で種々検討した結果なされたものである。
すなわち、本発明は、簡単な操作によって容易に着色の少ない2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を得る精製方法、着色の少ない2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末、及び高性能光学材料用として好適に用いることができる光透過性が改良されたポリイミドを提供することを目的とする。
本発明は、以下の各項に関する。
1. 2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物に対する25℃の溶解度が1g/100g以上の溶剤と、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末とを、少なくとも一部の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末が溶解していない不均一な状態で混合し、次いで混合液から未溶解の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を分離回収することを特徴とする2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の精製方法。
2. 溶剤の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物に対する25℃の溶解度が、1g/100g〜30g/100gであることを特徴とする前記項2に記載の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の精製方法。
3. 溶剤が、アセトンであることを特徴とする前記項1または2に記載の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の精製方法。
4. 2規定の水酸化ナトリウム水溶液に10質量%の濃度で溶解した溶液に対する波長400nm、光路長1cmの光透過率が85%以上であることを特徴とする2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末。
5. 波長400nm、光路長1cmの光透過率が90%以上であることを特徴とする前記項4に記載の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末。
6. 前記項4または5に記載の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を用いて製造した、フィルムにしたときの光透過率が改良されたことを特徴とすることを特徴とするポリイミド。
7. 膜厚10μmのフィルムにしたときの400nmにおける光透過率が70%以上であることを特徴とする前記項6に記載のポリイミド。
本発明によって、簡単な操作によって容易に着色の少ない2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を得る精製方法、着色の少ない2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末、及び高性能光学材料用として好適に用いることができる光透過性が改良されたポリイミドを提供することができる。
本発明の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の精製方法は、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物に対する25℃の溶解度が1g/100g以上の溶剤と、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末とを、少なくとも一部の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末が溶解していない不均一な状態で混合し、次いで混合液から未溶解の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を分離回収することを特徴とする。
本発明において用いる溶剤は、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物に対する25℃の溶解度が1g/100g以上、好ましくは3g/100g以上、より好ましくは7g/100g以上であって、好ましくは100g/100g以下、より好ましくは50g/100g以下、更に好ましくは30g/100g以下、特に好ましくは20g/100g以下の溶剤である。溶解度が小さ過ぎると着色の少ない2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を容易に得ることが難しくなる。溶解度が大きすぎると原料が過剰に溶解して回収率が低下するので経済的ではなくなる。この溶剤は単一種の溶剤である必要はなく、複数種の溶剤の混合物であっても、混合物としての溶解度が1g/100g以上であれば構わない。
本発明で使用する溶剤としては、特に限定するものではないが、例えばn−ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、ブタノール、ターシャリーブタノール、ブタンジオール、エチルヘキサノール、ベンジルアルコールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシブチル、酢酸セロソルブ、酢酸アミル、酢酸ノルマルプロピル、酢酸イソプロピル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトンなどのエステル類、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、フラン、ジベンゾフラン 、オキセタン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、ジオキサン、メチルターシャリーブチルエーテル、ブチルカルビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのエーテル類、アセトニトリル、プロピオニトリル、 ブチロニトリルなどのニトリル類、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメトルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類、ジメチルスルホキシドなどのスルホン類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどのカーボネート類、m−クレゾール、p−クレゾール、3−クロロフェノール、4−クロロフェノールなどのフェノール類、その他、アセトフェノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン、水などを例示することができる。溶解度が1g/100gより小さい溶剤では、溶解度が1g/100g以上の溶剤と組み合わせて、混合物の溶解度を1g/100g以上として用いることができる。アルコール類や水などを用いる場合には、酸無水物と反応して開環反応を起こすことがあるため、精製後に加熱処理などを行うことが好ましい。また、精製後の加熱処理なしで済ませるためには、これらの溶剤は水分やアルコール分を含まない高純度溶剤が好ましい。
これらの溶剤の中では、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、テトラヒドロフランなどが、精製効率が高く且つ取扱いが容易であることから特に好適である。
2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物に対する25℃の溶解度とは、25℃において2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が当該溶剤100gに溶解する量(g)である。
本発明において、この溶解度は以下の方法で測定した。
すなわち、純度99%以上の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末10gと当該溶剤20gとを混合し、25℃で3時間撹拌して混合液を得る。(この攪拌条件で飽和状態となることを事前に確認した。飽和にならないときは粉末の量を2倍、3倍・・・と増やす。)この混合液中の未溶解の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末をアドバンテック社製のろ紙5Aを用いてろ別し、ろ液として2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の飽和溶液を得る。この2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の飽和溶液の5gをシャーレに秤取り、それを80℃で1時間次いで200℃で1時間加熱して溶剤を除去する。加熱後のシャーレの2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の質量を求め、その値から25℃の溶解度を算出する。
本発明の精製方法では、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物に対する25℃の溶解度が1g/100g以上の溶剤と、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末とを、少なくとも一部の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末が溶解していない不均一な状態で混合する。すなわち、ここで得られる混合液は、溶剤に、その溶解度を越える量の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を混合し、その一部は溶解するが、残りの粉末は未溶解の不均一な混合状態の混合液である。したがって、溶剤と2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末との混合割合は、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末が、混合した混合液の温度における(好ましくは25℃における)溶解度を超える割合にすればよいが、好ましくは溶解度の2〜100倍、より好ましくは2〜50倍、特に好ましくは5〜20倍程度の割合が好適である。少な過ぎると溶解して回収できない割合が高くなるので経済的ではなく、多過ぎると精製効果が不十分になることがある。
混合液を取り扱う温度は、特に限定はないが、好ましくは室温程度(0〜50℃程度)が簡便且つ経済的であり好適である。低温や高温にするのは、工程を複雑にし、経済的でもない。なお、溶剤が水或いは水を含む場合、溶剤が酸無水物と反応しやすい官能基を持つ場合などは、水や官能基が酸無水物と反応するのを抑制するために、混合液をより低温で取り扱うことが好ましい。
なお、ここで用いる2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末は、特に限定されるものではなく従来公知のものを好適に用いることができる。例えば特許文献1,2に記載された製造方法で製造したものであってもよく、それ以外の公知の製造方法で製造したものであっても構わない。精製後直ちに化学原料として好適に用いためには、純度が98質量%以上、好ましくは99質量%以上、より好ましくは99.5質量%以上のものが好適である。粒子径や粒子の形態についても特に限定はないが、通常は粒子径が5mm以下、好ましくは1mm以下の粉末が好適である。また、粉末の結晶性の度合いには特に限定はない。
本発明において、溶剤に2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を混合して得られた、一部の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末が溶解し、残りの2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末が未溶解の不均一な状態の混合液は、好ましくは撹拌装置を用いて撹拌される。撹拌時間は、精製効果が十分に得られれば特に限定されることはない。本発明において、混合液中の溶液部分は必ずしも飽和状態である必要はなく、粉末の一部が溶解して着色が改善されれば特に限定されない。撹拌時間は、通常0.5〜6時間程度である。
混合液が十分に撹拌された後で、混合液中の未溶解の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末は溶剤と分離されて回収される。この分離によって、着色原因は溶剤と共に分離され、着色が少ない2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を好適に回収することができる。分離工程は、通常、ろ別によって好適に行うことができる。分離された2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末は溶剤を含有している。このため、必要に応じて不活性雰囲気中で、加熱、送風、減圧などによって十分に乾燥される。なお、溶剤として水や含水溶剤を用いた場合、精製工程中に無水環の一部(極めて少量)が加水分解によってジカルボン酸基になっている場合があるが、その時には、溶剤の乾燥を、容易に無水化が起こる高温(100℃以上、好ましくは150度以上)で行って、乾燥と無水化を同時に行うことが好ましい。
下記比較例3で示すとおり、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を再結晶しても着色が少ないものを得るのは難しい。しかしながら、本発明の精製方法によれば、着色が少ない2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を容易に得ることができる。その理由は、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末が、結晶部と非晶部とから形成された特殊な構成をしており、さらに、非晶部が着色の原因物質をより多量に含有するとともに、結晶の表層部により多く存在し、しかも溶剤に溶解し易いという特殊な条件に依っていると推定できる。
本発明の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末は、着色が少なく透明性が高いものであり、2規定の水酸化ナトリウム水溶液に10質量%の濃度で溶解した溶液に対する波長400nmの光透過率が85%以上、好ましくは90%以上であることを特徴とする。このような光透過率を有する2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物は、それを用いたポリイミドの透明性を高くすることができるので、高性能光学材料用のポリイミドのテトラカルボン酸成分として極めて好適である。
本発明のポリイミドは、2規定の水酸化ナトリウム水溶液に10質量%の濃度で溶解した溶液に対する波長400nmの光透過率が85%以上、好ましくは90%以上である2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を、テトラカルボン酸成分として用いたポリイミドであって、フィルムにしたときの光透過率が改良されたことを特徴とするポリイミドである。また、好ましくは膜厚10μmのフィルムにしたときの400nmにおける光透過率が70%以上であることを特徴とするポリイミドである。
本発明のポリイミドは、2規定の水酸化ナトリウム水溶液に10質量%の濃度で溶解した溶液に対する波長400nmの光透過率が85%以上、好ましくは90%以上である2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を、テトラカルボン酸成分の少なくとも一部として用いることによって好適に得ることができる。テトラカルボン酸成分としては、2規定の水酸化ナトリウム水溶液に10質量%の濃度で溶解した溶液に対する波長400nmの光透過率が85%以上、好ましくは90%以上である2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物以外の他のテトラカルボン酸成分を含んでも構わない。他のテトラカルボン酸成分としては、限定するものではないが、例えばピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物などを好適に挙げることができる。
本発明のポリイミドで用いるジアミン成分は特に限定はなく、ポリイミドのジアミン成分として既に公知のジアミン成分のいずれを用いてよい。特に高い透明性を得られることから、例えばジアミノブタン、ジアミノペンタン、ジアミノヘキサン、ジアミノヘプタン、ジアミノオクタン、ジアミノノナン、ジアミノデカン、ジアミノウンデカン、ジアミノドデカンなどの直鎖状および分枝状の脂肪族ジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、3−メチル−1,4−ジアミノシクロヘキサン、3−メチル−、3−アミノメチル−、5,5−ジメチルシクロヘキシルアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス(4,4′−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3,3′−メチル−4,4′−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(アミノメチル)ノルボルナン、ビス(アミノメチル)−トリシクロ〔5,2,1,0〕デカン、イソホロンジアミン、1,3−ジアミノアダマンタンなどの脂環構造を有するジアミン、3,5−ジアミノベンゾトリフルオライド、2−(トリフルオロメチル)−1,4−フェニレンジアミン、 5−(トリフルオロメチル)−1,3−フェニレンジアミン、1,3 −ジアミノ−2,4,5,6−テトラフルオロベンゼン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2’−ビス−(4−アミノフェニル)−ヘキサフルオロプロパン、4,4−ビス(トリフルオロメトキシ)ベンジジン、3,3’−ジアミノ−5,5’−トリフルオロメチルビフェニル、3,3’−ジアミノ−6,6’−トリフルオロメチルビフェニル、3,3’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン;2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル] ヘキサフルオロプロパン、4,4’−トリフルオロメチル−2,2’− ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3−ジクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’,5,5’−ジクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−メチレン−ビス(2−クロロアニリン)などのハロゲン基を有する芳香族ジアミン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4−アミノフェニルー4−アミノベンゾエート、テレフタル酸ビス(4−アミノフェニル)エステル、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸ビス(4−アミノフェニル)1,4−ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)ベンゼン、4,4’−ジアミノベンズアニライド、N,N−ビス(4−アミノフェニル)テレフタルアミド、N,N’−p−フェニレンビス(p−アミノベンズアミド)、N,N’−m−フェニレンビス(p−アミノベンズアミド)などのカルボニル基を有する芳香族ジアミン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3、3’−ジアミノー4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、O−トリジンスルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホンなどのスルホニル基を有する芳香族ジアミンが好ましい。これらの中でも、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ビス(4,4′−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホンは、得られるポリイミドの耐熱性が優れるためより好ましく、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンは、さらに熱線膨張係数が低いため特に好ましい。
本発明のポリイミドは、従来公知の製造方法によって好適に得ることができる。比較的低温で溶媒中テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応させてポリイミド前駆体のポリアミック酸を生成した後で、それを加熱処理してイミド化したり、無水酢酸などによって化学的にイミド化したりすることによって好適に得ることができる。或いは、比較的高温で溶媒中テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応させて直接ポリイミドを生成することによって好適に得ることができる。電子部品や表示装置分野などでは、ポリイミドは特にフィルム状に成形されて好適に用いることができる。
以下、実施例及び比較例によって本発明を更に説明する。尚、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
以下の各例で使用した原材料は、次のとおりである。
2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDA):宇部興産株式会社製 純度99.6%(開環した2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸のHPLC分析で求めた純度)、酸無水化率 99.5%
1,3−ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)ベンゼン(13P−BABB):三國製薬工業株式会社製 を活性炭処理後、昇華精製したものを用いた。
各溶剤:和光純薬株式会社製 特級もしくは1級相当品
2N 水酸化ナトリウム水溶液:東京化成株式会社製 水酸化ナトリウム水溶液
以下の各例において評価は次の方法で行った。
2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDA)の評価
[25℃のa−BPDAの溶解度]
ガラス製容器に純度99.6%、酸無水化率99.5%のa−BPDA粉末 10.0g、溶剤 20.0gを仕込み、25℃で3時間、十分に攪拌した。溶け残ったa−BPDAをアドバンテック製のろ紙5Aを用いてろ別し、a−BPDA飽和溶液を得た。a−BPDA飽和溶液5gをアルミ製シャーレに入れ、80℃で1時間、200℃で1時間加熱した。加熱後残分より飽和溶液中に含まれていたa−BPDAの質量を求め、溶解度を算出した。
[光透過率]
所定量のa−BPDA粉末を、2規定の水酸化ナトリウム水溶液に溶解し、10質量%水溶液を得た。大塚電子製MCPD−300、光路長1cmの標準セルを用いて、2規定の水酸化ナトリウム水溶液をブランクとし、10質量% a−BPDA粉末/2規定水酸化ナトリウム水溶液の400nmにおける光透過率を測定した。
ポリイミド前駆体の評価
[対数粘度]
0.5g/dLのポリイミド前駆体のN,N−ジメチルアセトアミド溶液を、ウベローデ粘度計を用いて、30℃で測定した。
[光透過率]
10質量%のポリイミド前駆体溶液となる様に、ポリイミド前駆体をN,N−ジメチルアセトアミドで希釈した。大塚電子製MCPD−300、光路長1cmの標準セルを用いて、N,N−ジメチルアセトアミドをブランクとし、10質量%のポリイミド前駆体溶液の400nmにおける光透過率を測定した。
ポリイミドの評価
[光透過率]
大塚電子製MCPD−300を用いて、膜厚が10μmのポリイミド膜の400nmにおける光透過率を測定した。
[弾性率]
ポリイミド膜をIEC450規格のダンベル形状に打ち抜いて試験片とし、ORIENTEC社製TENSILONを用いて、チャック間 30mm、引張速度 2mm/minで、初期の弾性率を測定した。
[熱膨張係数(CTE)]
ポリイミド膜を幅4mmの短冊状に切り取って試験片とし、島津製作所製TMA−50を用い、チャック間長15mm、荷重2g、昇温速度20℃/minで300℃まで昇温した。得られたTMA曲線から、50℃から200℃までの平均熱膨張係数を求めた。
〔実施例1〕
ガラス製容器に原料のa−BPDA粉末 10.0g、溶剤としてジメチルスルホキシド 10.0gを仕込み、25℃で3時間、十分に攪拌した。その溶液をろ別し、得られた粉末を100℃で2時間真空乾燥し、着色が低減されたa−BPDA粉末を得た。用いた溶剤の溶解度、得られたa−BPDA粉末の光透過率や回収率の結果を表1に示す。
〔実施例2〜5〕
溶剤を表1記載の溶剤へ変更した以外は、実施例1と同様にして着色が低減されたa−BPDA粉末を得た。用いた溶剤の溶解度、得られたa−BPDA粉末の光透過率や回収率の結果を表1に示す。
〔比較例1〕
本発明の精製方法を行う前の原料のa−BPDA粉末の光透過率を表1に示す。
〔比較例2〜3〕
溶剤を表1記載の溶剤へ変更した以外は、実施例1と同様にしてa−BPDA粉末を得た。用いた溶剤の溶解度、得られたa−BPDA粉末の光透過率や回収率の結果を表1に示す。
〔比較例4〕
ガラス製容器に原料のa−BPDA 10.0g、無水酢酸 90.0gを仕込み、120℃3時間攪拌し、すべてのa−BPDA溶解した。加熱溶解時に溶液へ着色が確認された。攪拌しながら25℃まで冷却し、結晶を析出させた。溶液をろ別し、得られた固体を100℃ 2時間真空乾燥した。収量は、6.0gであった。再結晶により得られたa−BPDA粉末の光透過率の結果を表1に示す。
Figure 0005834573
表1に示した結果から分かるとおり、本発明の着色性が低減したa−BPDAは、400nmにおける光透過率が85%以上、好ましくは90%以上まで改善されており、高性能光学材料用のポリイミドの原料として好適である。
〔実施例6〕
反応容器に、活性炭処理後、昇華精製した1,3−ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)ベンゼン(13p−BABB) 3.484g(0.01モル)、モレキュラーシーブを用い脱水したN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc) 37.31gを加え、50℃、窒素気流下で溶解した。この溶液に実施例3で得られた2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末(a−BPDA粉末) 3.102g(0.01モル)を徐々に加え、50℃で12時間撹拌し、均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。
得られたポリイミド前駆体溶液をガラス基板に塗布し、窒素雰囲気下120℃で1時間、150℃で30分、200℃で30分、350℃で5分加熱して熱的にイミド化を行なって、無色透明なポリイミド/ガラス積層体を得た。次いで、得られたポリイミド/ガラス積層体を水に浸漬した後で剥離し、膜厚が約10μmのポリイミドフィルムを得た。このフィルムの特性を測定した結果を表2に示す。
〔比較例5〕
原料のa−BPDA粉末を未精製のまま用いた以外は、実施例6と同様にして、ポリイミド前駆体溶液、及びポリイミドフィルムを得た。特性を測定した結果を表2に示す。
Figure 0005834573
表2に示した結果から分かるとおり、本発明の着色性が低減したa−BPDAを用いたポリイミドフィルムは、フィルムとしての光透過性が改良された。
本発明によって、簡単な操作によって容易に着色の少ない2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を得る精製方法、着色の少ない2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末、及び高性能光学材料用として好適に用いることができる光透過性が改良されたポリイミドを提供することができる。

Claims (8)

  1. 2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物に対する25℃の溶解度が1g/100g以上の溶剤と、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末とを、少なくとも一部の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末が溶解していない不均一な状態で混合し、次いで混合液から未溶解の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を分離回収することを特徴とする2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の精製方法。
  2. 溶剤の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物に対する25℃の溶解度が、1g/100g〜30g/100gであることを特徴とする請求項1に記載の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の精製方法。
  3. 溶剤が、アセトンであることを特徴とする請求項1または2に記載の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の精製方法。
  4. 請求項1〜3のいずれかの精製方法を用いた2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の製造方法
  5. 2規定の水酸化ナトリウム水溶液に10質量%の濃度で溶解した溶液に対する波長400nmの、光路長1cmの光透過率が85%以上であることを特徴とする2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末。
  6. 波長400nm、光路長1cmの光透過率が90%以上であることを特徴とする請求項に記載の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末。
  7. 請求項またはに記載の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を用いて製造したポリイミド。
  8. 膜厚10μmのフィルムにしたときの400nmにおける光透過率が70%以上であることを特徴とする請求項に記載のポリイミド。
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