以下、実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、同一の機能及び構成を有する要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
[基本構成]
実施形態は、クラスターイオンビームを用いて、磁気抵抗効果素子のパターニング又は磁気抵抗効果素子の側壁部の非磁性化を行う製造方法に関する。
コンベンショナルな技術では、磁気抵抗効果素子のパターニングは、Arなどの不活性ガスを用いるモノマーイオンビームエッチング(Ion beam etching: IBE)などによるのが一般的である。
ここで、モノマーイオンビームエッチングとは、1つの原子をイオン化し、加速電圧によりこれにエネルギーを与えて、モノマーイオンビームを発生させる方法であり、実施形態が対象とするクラスターイオンビームとは異なる。
また、モノマーイオンビームエッチングは、反応性イオンビームエッチング(Reactive ion beam etching)を含むものとする。
モノマーイオンビームによる磁気抵抗効果素子のパターニングでは、周知のように、磁性層のエッチング時に、被エッチング材としての磁性層の再付着層(re-deposition layer)が磁気抵抗効果素子の側壁部に形成され、磁気フリー層と磁気ピンド層とがショートしてしまう問題が発生する。
また、モノマーイオンビームは、磁気抵抗効果素子に、結晶劣化や結晶ひずみなどを発生させるため、磁気抵抗効果素子の磁気特性を劣化させる。
これに対し、クラスターイオンビームによる磁気抵抗効果素子のパターニングでは、再付着層によるショートや、磁気特性の劣化などの問題が発生しない。しかし、クラスターイオンビームエッチングにも、問題がないわけではない。
例えば、クラスターイオンビームエッチングでは、クラスターサイズを一定値に固定することが難しく、一般的には、クラスターサイズは、分布を持つことになる。この場合、加速電圧により1つのクラスターに与えられるエネルギーが同じであるとすると、クラスターサイズに応じて、原子又は分子の1個当たりのエネルギーにばらつき(分散)が発生することになる。結果として、大きなエネルギーを持つ原子又は分子によって、ハードマスクに覆われていない被エッチング面にダメージが発生する。
これを回避するためには、クラスターサイズをできるだけ大きく、例えば、10000以上にすればよい。この場合、クラスターサイズの分布の幅が狭くなり、原子又は分子の1個当たりのエネルギーの分散を小さくすることができるからである。
ここで、クラスターサイズとは、クラスターを構成する原子又は分子の個数のことである。クラスターサイズのカウント方法は、クラスターを構成する要素が原子であるか、又は分子であるか、によって異なる。
即ち、クラスターが分子から構成されるときは、分子を基本単位としてカウントする。例えば、Cl2−ガスクラスターイオンの場合、Cl2分子を1個として、クラスターサイズをカウントする。また、クラスターが原子から構成されるときは、原子を基本単位としてカウントする。例えば、Ar−ガスクラスターイオンの場合、Ar原子を1個として、クラスターサイズをカウントする。
尚、クラスターイオンが原子と分子の混合からなるときも、原子については原子を基本単位とし、分子については分子を基本単位として、クラスターサイズをカウントする。
クラスターイオンビームを用いて磁気抵抗効果素子のパターニングを行うときは、上記問題に加えて、ハードマスクが削り取られることによる磁気抵抗効果素子の加工精度の低下や、クラスターイオンを構成する原子又は分子がトンネルバリアと磁性層との界面に進入することによるトンネルバリアの実質的な厚さの増加などが問題となる。
これを解決するために、クラスターサイズについて検討を行った結果、クラスターイオンビームを構成するクラスターイオンのクラスターサイズの分布のピーク値は、2以上、1000以下に設定するのが望ましいことが判明した。
但し、上述のように、クラスターサイズが小さくなると、クラスターサイズの分布の幅が広くなり、原子又は分子の1個当たりのエネルギーの分散が大きくなる。
そこで、原子又は分子の1個当たりのエネルギーの分散による被エッチング面(例えば、磁性層)のダメージについては、ダメージを回復するアニール効果を有する補助的なGCIB(Gas cluster ion beam)照射を行うことにより、又は、ダメージが発生した部分を非磁性化(不活性化)することにより、解消する。
非磁性化については、例えば、磁気抵抗効果素子のパターニング後、又は、磁気抵抗効果素子のパターニングに並行して実行する。この非磁性化は、例えば、磁化方向が可変である磁気フリー層が下層(基板側)であり、磁化方向が不変である磁気ピンド層が上層である磁気抵抗効果素子に採用される技術でもある。
例えば、磁化方向が膜面に対して垂直方向を向くタイプ(垂直磁化)の磁気抵抗効果素子では、磁気フリー層を下層とすることにより磁気特性が向上することが知られている。この場合、磁気フリー層の平面サイズが磁気ピンド層の平面サイズよりも大きくなると、磁化反転特性が劣化するため、クラスターイオンの注入により磁気フリー層の一部を非磁性化(不活性化)し、磁気フリー層の実効的なサイズを小さくすることが行われる。
この磁気抵抗効果素子の側壁部の非磁性化においても、クラスターサイズについて検討を行った結果、クラスターイオンビームを構成するクラスターイオンのクラスターサイズの分布のピーク値は、2以上、1000以下であるのが望ましいことが判明した。
このクラスターサイズにすることにより、磁気抵抗効果素子の側壁部に注入されるクラスターイオンのドーズプロファイルのばらつきが緩和され、磁気抵抗効果素子の実効的なサイズのばらつき(エッジラフネス)が小さくなるからである。
尚、磁気抵抗効果素子のパターニング中に発生する全てのクラスターイオンのうちの70%以上を、2以上、1000以下の原子又は分子の集合体とする、即ち、クラスターサイズが1000を超えるクラスターイオンの割合(オーバー比)を、30%未満にするとき、上述の磁気抵抗効果素子の加工精度の低下、トンネルバリアの実質的な厚さの増加、磁気抵抗効果素子の実効的なサイズのばらつきなどの問題の解消にさらに有効であることも確認した。
また、上述のクラスターイオンビームを用いる製造方法は、特に、磁気抵抗効果素子の平面サイズが30nm以下になったときに有効である。
ここで、平面サイズとは、磁気抵抗効果素子をその上部(基板の上部)からみたときのサイズを意味する。例えば、基板の上部からみたときの磁気抵抗効果素子が円形のときは、平面サイズは、円の直径であり、基板の上部からみたときの磁気抵抗効果素子が正方形のときは、平面サイズは、一辺の長さである。
[第1の実施例]
図1及び図2は、磁気抵抗効果素子の製造方法の第1の実施例を示している。
この製造方法は、磁気抵抗効果素子のパターニングに関する。
まず、図1に示すように、例えば、スパッタ法を用いて、下地層11上に、第1の磁性層12、トンネルバリア層13、第2の磁性層14及びハードマスク層15を、順次、形成する。下地層11は、例えば、下部電極となり、ハードマスク層15は、上部電極となる。下地層11及びハードマスク層15は、例えば、共に、金属又は合金を備える。
第1及び第2の磁性層12,14は、面内磁化及び垂直磁化のうちの1つを有する。また、第1及び第2の磁性層12,14のうちの1つは、磁化方向が可変である磁気フリー層であり、他の1つは、磁化方向が不変である磁気ピンド層である。
ここで、「磁化方向が可変である」とは、磁化方向を反転するための磁化反転電流又は磁界を印加すると、磁化方向が変化することを意味する。また、「磁化方向が不変である」とは、磁化方向を反転するための磁化反転電流又は磁界を印加しても、磁化方向が変化しないことを意味する。
また、例えば、第1及び第2の磁性層12,14が垂直磁化を有するとき、第1の磁性層12が、磁化方向が可変である磁気フリー層であり、第2の磁性層14が、磁化方向が不変である磁気ピンド層であるのが望ましい(トップピン型)。この場合、下地層11は、その上部に垂直磁化の磁性層を成長させるために必要な材料(結晶構造及び組成を含む)を備える。
第1及び第2の磁性層12,14は、例えば、FePd、FePt、CoPd、CoPtなどのL10構造又はL11構造を持つ強磁性材料、CoFeBなどの軟磁性材料、TbCoFeなどのフェリ磁性材料、NiFe、Coなどの磁性材料とCu、Pd、Ptなどの非磁性材料との積層構造からなる人工格子のうちから選択される。
トンネルバリア層13は、例えば、酸化マグネシウム(MgO)である。この時点(クラスターイオンビームエッチング前)のトンネルバリア層13の厚さ(初期厚さ)は、t0である。また、ハードマスク層15は、例えば、タンタル(Ta)である。
尚、第2の磁性層14を磁気ピンド層として使用するとき、上述の積層構造を形成するステップにおいて、トンネルバリア層13と第2の磁性層14との間に、界面層(Interfacial layer: IFL)をさらに形成してもよい。この界面層は、例えば、CoFeBを備える。
また、第2の磁性層14を磁気ピンド層として使用するとき、第2の磁性層14は、磁気ピンド層としての磁性層と、磁気ピンド層からの漏洩磁界(stray magnetic field)を打ち消す働きを持つバイアス磁界層とを含むのが望ましい。また、この場合、下地層11も、バイアス磁界層を含んでいるのが望ましい。
次に、図2に示すように、周知の技術であるリソグラフィ及びクラスターイオンビームエッチングを用いて、磁気抵抗効果素子のパターニングを行なう。
即ち、PEP(Photo engraving process)を用いて、ハードマスク層15上にフォトレジスト層を形成し、このフォトレジスト層をマスクにして、ハードマスク層15をパターニングする。この後、フォトレジスト層を除去する。
続けて、ハードマスク層15をマスクにして、例えば、GCIB(ガスクラスターイオンビーム)エッチングにより、第2の磁性層14、トンネルバリア層13及び第1の磁性層12を、順次、エッチングする。
このGCIBエッチングは、クラスターサイズの分布のピーク値が、2以上、1000以下であるクラスターイオン16を用いて行われる。
クラスターイオン16は、例えば、F2、CHF3、CF4、C2F6、C2HF5、CHClF2、NF3、SF6、ClF3、Cl2、HCl、CClF3、CHCl3、CBrF3、Br2、CO2、CO、N2、O2、NH3、N2O、及び、CH3OCH3のうちから選択される1つの分子、又は、He、Ne、Ar、Kr、Sb、及び、Xeのうちから選択される1つの原子を含む。
このGCIBエッチングにより、磁気抵抗効果素子のパターニングが完了する。
尚、クラスターイオンビームエッチング後のトンネルバリア層13の厚さは、t1である。
[クラスターサイズとマスク残存率との関係]
磁気抵抗効果素子のパターニングに使用するクラスターイオンのクラスターサイズとハードマスク層のマスク残存率との関係について考察する。
サンプルとしての磁気抵抗効果素子は、上述の第1の実施例の構造を有する。
例えば、図1において、下地層11及びハードマスク層15は、Taとし、第1の磁性層(磁気フリー層)12は、[Co/Pt]6及びCoFeBの積層とし、トンネルバリア層13は、MgOとし、第2の磁性層(磁気ピンド層)14は、CoFeB、Ta、CoFeB、Tb−Co−Fe及びRuの積層とする。
即ち、磁気抵抗効果素子は、下層から上層に向かって、Ta / [Co/Pt]6 / CoFeB / MgO / CoFeB / Ta / CoFeB / Tb-Co-Fe / Ru / Ta の積層構造を有する。
但し、[Co/Pt]6は、Co層及びPt層の積層をさらに6層積み重ねた構造のことであり、Tb−Co−Feは、Tb、Co及びFeを含む、それらの組成比が限定されない合金のことである。
また、ハードマスク層15は、底面が直径25nmの円であり、高さが50nmの円柱形を有するものとする。
GCIBエッチングは、Cl原子及びKr原子を含む(Cl:20%)クラスターイオンを用いて行うものとする。また、クラスターイオンのクラスターサイズは、分布を持ち、かつ、ピーク値(最も多いクラスターサイズ)を有するものとする。
このような前提条件の下で、図2に示すように、ハードマスク層15をマスクにして、GCIBエッチングにより、磁気抵抗効果素子のパターニングを行う。
そして、クラスターサイズとハードマスク層の残存率(マスク残存率)との関係を調べてみたところ、図3に示すような関係を得ることができた。
但し、この結果は、以下のパラメータとしての各条件において、ピーク値のクラスターサイズを有するクラスターイオンにおける原子又は分子の1個当たりのエネルギー又はその平均値が同じ(例えば、5eV/個)であると仮定したものである。即ち、例えば、クラスターイオン内の原子又は分子には均等にエネルギーが配分されるものとする。
・条件1(○印)
クラスターサイズの分布のピーク値を10000とし、クラスターイオンの加速電圧を50kVとする。この場合、クラスターサイズ10000のクラスターイオンにおける原子又は分子の1個当たりのエネルギー又はその平均値は、5eV/個である。
・条件2(○印)
クラスターサイズの分布のピーク値を5000とし、クラスターイオンの加速電圧を25kVとする。この場合、クラスターサイズ5000のクラスターイオンにおける原子又は分子の1個当たりのエネルギー又はその平均値は、5eV/個である。
・条件3(○印)
クラスターサイズの分布のピーク値を1000とし、クラスターイオンの加速電圧を5kVとする。この場合、クラスターサイズ1000のクラスターイオンにおける原子又は分子の1個当たりのエネルギー又はその平均値は、5eV/個である。
・条件4(○印)
クラスターサイズの分布のピーク値を200とし、クラスターイオンの加速電圧を1kVとする。この場合、クラスターサイズ200のクラスターイオンにおける原子又は分子の1個当たりのエネルギー又はその平均値は、5eV/個である。
・条件5(□印)
クラスターサイズを特に規定しない(サイズセレクト無し)の場合であり、この場合は、条件2と同じであるものとする。
・条件6(○印)
モノマーイオンビームによりパターニングを行う。Cl原子及びKr原子を含むガス雰囲気中において、RIE(Reactive Ion beam Etching)により、加速電圧500Vで、磁気抵抗効果素子のパターニングを行う。基板温度(ステージ温度)は、250℃とする。
尚、マスク残存率は、図4に示すように、GCIBエッチング前(条件6においてはRIE前)のハードマスク層15の高さh1と、GCIBエッチング後(条件6においてはRIE後)のハードマスク層15の高さh2との比(h2/h1)のことであり、この比は、断面透過型電子顕微鏡(XTEM)により確認した。
図3及び図4から明らかなように、モノマーイオンビームによるマスク残存率(約0.7)のラインAを基準にすると、クラスターイオンのクラスターサイズの分布のピーク値が、2以上、1000以下であるときに、コンベンショナルなモノマーイオンビームエッチングよりも良好な結果が得られることが分かる。
例えば、条件1でのマスク残存率は、約0.25、条件2及び5のマスク残存率は、約0.4であり、コンベンショナルなモノマーイオンビームエッチングよりも悪い結果となっている。これに対し、条件3のマスク残存率は、約0.7、条件4のマスク残存率は、約0.8であり、コンベンショナルなモノマーイオンビームエッチングよりも良い結果となっている。
また、上記の結果は、クラスターイオンの成分に依存しないことも確認できた。
即ち、この例では、Cl原子とKr原子を含むクラスターイオンを用いたが、例えば、F2、CHF3、CF4、C2F6、C2HF5、CHClF2、NF3、SF6、ClF3、Cl2、HCl、CClF3、CHCl3、CBrF3、Br2、CO2、CO、N2、O2、NH3、N2O、及び、CH3OCH3のうちから選択される1つの分子、又は、He、Ne、Ar、Kr、Sb、及び、Xeのうちから選択される1つの原子を含むクラスターイオンにおいても、同様の結果を得ることができる。
[クラスターサイズとトンネルバリア層の厚さとの関係]
磁気抵抗効果素子のパターニングに使用するクラスターイオンのクラスターサイズとトンネルバリア層の厚さとの関係について考察する。
サンプルとしての磁気抵抗効果素子は、上述の「クラスターサイズとマスク残存率との関係」で使用したサンプルと同じ前提条件で製造するものとする。また、パラメータとしての条件(条件1〜条件6)についても、上述の「クラスターサイズとマスク残存率との関係」と同じとする。
このような条件の下で、図2に示すように、ハードマスク層15をマスクにして、GCIBエッチングにより、磁気抵抗効果素子のパターニングを行う。
そして、クラスターサイズとトンネルバリア層の厚さとの関係を調べてみたところ、図5に示すような関係を得ることができた。
ここで、トンネルバリア層の厚さは、パターニング後の磁気抵抗効果素子を上面からみたときの中心部の厚さとする。また、パターニング前の磁気抵抗効果素子のトンネルバリア層の厚さ(中心部)t0は、1nmであるものとする。
尚、トンネルバリア層の厚さ(中心部)は、GCIBエッチング前(条件6においてはRIE前)及びGCIBエッチング後(条件6においてはRIE後)において、それぞれ、断面透過型電子顕微鏡(XTEM)により確認した。
図5から明らかなように、モノマーイオンビームによるパターニング後のトンネルバリア層の厚さ(約1.5nm)t1のラインBを基準にすると、クラスターイオンのクラスターサイズの分布のピーク値が、2以上、1000以下であるときに、コンベンショナルなモノマーイオンビームエッチングよりも良好な結果が得られることが分かる。
例えば、条件1でのGCIBエッチング後のトンネルバリア層の厚さt1は、約2.8nm、条件2及び5でのGCIBエッチング後のトンネルバリア層の厚さt1は、約1.7nmであり、初期厚さt0(1nm)よりも大幅に増えており、コンベンショナルなモノマーイオンビームエッチングよりも悪い結果となっている。これに対し、条件3及び条件4でのGCIBエッチング後のトンネルバリア層の厚さt1は、共に、初期厚さt0(1nm)と同じ又はほぼ同じである約1nmであり、コンベンショナルなモノマーイオンビームエッチングよりも良い結果となっている。
また、上記の結果は、クラスターイオンの成分に依存しないことも確認できた。
即ち、この例では、Cl原子とKr原子を含むクラスターイオンを用いたが、例えば、F2、CHF3、CF4、C2F6、C2HF5、CHClF2、NF3、SF6、ClF3、Cl2、HCl、CClF3、CHCl3、CBrF3、Br2、CO2、CO、N2、O2、NH3、N2O、及び、CH3OCH3のうちから選択される1つの分子、又は、He、Ne、Ar、Kr、Sb、及び、Xeのうちから選択される1つの原子を含むクラスターイオンにおいても、同様の結果を得ることができる。
尚、パターニング後にトンネルアリア層の厚さt1が初期厚さt0よりも増加する原因について検証したところ、その原因は、クラスターイオンを構成する原子又は分子の一部がトンネルバリア層と磁性層との界面に進入し、磁性層を構成する磁性原子と化合物(非導電物質)を構成することにあることが判明した。
例えば、上述の条件1、2及び5のサンプルについて、GCIBエッチング後のトンネルバリア層(中心部)の組成をTEM-EELSにて分析したところ、クラスターイオンを構成するCl原子が検出された。
これは、クラスターサイズの分布のピーク値が1000を超えると、クラスターイオンの被エッチング面への多体衝突に伴い、磁気抵抗効果素子の表面温度が高温化すると共に、衝突後に大きなエネルギーを得た原子又は分子がトンネルバリア層の中心部に向かって拡散し、それが磁性層と化合物(Cl原子の場合は塩化物)を構成するためと想定される。
これに対し、上述の条件3及び4のサンプルについては、GCIBエッチング後のトンネルバリア層(中心部)の組成をTEM-EELSにて分析したところ、クラスターイオンを構成するCl原子が検出されなかった。
これは、クラスターサイズの分布のピーク値が、2以上、1000以下であるときは、クラスターイオンの被エッチング面への多体衝突に伴う磁気抵抗効果素子の表面温度の高温化が抑制されるためと想定される。
また、クラスターサイズによらず、衝突前のクラスターイオンの原子又は分子の1個当たりのエネルギーが同じであるとすると、クラスターサイズが小さいクラスターイオンの場合、エネルギー保存の法則により、衝突後に大きなエネルギーを持つ原子又は分子が発生する確率が低くなるためと想定される。
一方、モノマーイオンビームエッチング(条件6)の場合には、GCIBエッチングに比べて、イオン(単原子イオン)が被エッチング面の内部の深い位置まで進入することに加えて、さらに、基板温度(ステージ温度)を高温にしなければならないことから、イオンの一部がトンネルバリア層の中心部に向かって拡散するため、望ましくない。
[クラスターサイズと素子コンダクタンスとの関係]
上述の「クラスターサイズとマスク残存率との関係」及び[クラスターサイズとトンネルバリア層の厚さとの関係]を求めるに当たって使用したサンプルについて、さらに、クラスターサイズと素子コンダクタンスとの関係について考察した。
ここで、素子コンダクタンスとは、磁気抵抗効果素子のコンダクタンスのことである。
その結果、素子コンダクタンスは、マスク残存率の低下に比例して増加し、かつ、パターニング後のトンネルバリア層の厚さの増加に比例して増加することが判明した。
例えば、設計時の素子コンダクタンスを約50μSとしたとき、上述の条件2及び5では、素子コンダクタンス(実測)が約40μSに低下していた。また、この条件においては、同一条件で製造した複数のサンプルでのコンダクタンスのばらつきが、2.5〜25μSの範囲内で存在した。
その原因は、マスク残存率に関連して、上部電極としてのハードマスク層にテーパーが形成されることに一因があると推測される。また、トンネルバリア層の厚さに関連して、パターニング後のトンネルバリア層の厚さが初期厚さよりも増加することに一因があると推測される。
これに対し、上述の条件3及び4では、素子コンダクタンス(実測)が、設計時の素子コンダクタンスとほぼ同じ、即ち、約50μSであった。また、この条件においては、同一条件で製造した複数のサンプルでのコンダクタンスのばらつきが、1μS未満の範囲内に抑制できた。
[オーバー比とマスク残存率との関係]
既に述べたように、GCIBエッチングに使用するクラスターイオンに関しては、クラスターサイズに分布を有し、かつ、クラスターサイズのピーク値を有する。上述の実施例では、クラスターサイズの分布のピーク値を、2以上、1000以下にすることについて説明した。
しかし、クラスターサイズのピーク値を上述の範囲内に設定したときに、クラスターサイズは分布を持つことから、クラスターイオンの一部は、クラスターサイズが1000を超える場合もあり得る。
そこで、ここでは、GCIBエッチング(磁気抵抗効果素子のパターニング)中に発生する全てのクラスターイオンのうち、2以上、1000以下のクラスターサイズを持つクラスターイオンの割合が、どのくらいの範囲内であれば、上述の効果を得ることができるか、について検討する。
ここで、オーバー比なる文言を使用する。
オーバー比とは、磁気抵抗効果素子のパターニング中に発生する全てのクラスターイオンに対して、クラスターサイズが1000を超えるクラスターイオンの割合のことである。即ち、オーバー比をX%としたときは、磁気抵抗効果素子のパターニング中に発生する全てのクラスターイオンのうちの(100−X)%が、2以上、1000以下のクラスターサイズを有することになる。
そして、オーバー比とマスク残存率との関係を調べてみたところ、図6に示すような関係を得ることができた。
この結果は、上述の条件3(クラスターサイズの分布のピーク値が1000である場合)を前提としたものである。
図6から明らかなように、モノマーイオンビームによるマスク残存率のラインA(図3のラインAと同じ)を基準にすると、オーバー比が、0以上、30%未満であるときに、コンベンショナルなモノマーイオンビームエッチングよりも良好な結果が得られることが分かる。
即ち、磁気抵抗効果素子のパターニング中に発生する全てのクラスターイオンのうちの70%以上を、2以上、1000以下の原子又は分子の集合体とすることにより、磁気抵抗効果素子の加工精度の低下、トンネルバリアの実質的な厚さの増加、磁気抵抗効果素子の実効的なサイズのばらつきなどの問題を解消することができる。
例えば、オーバー比が40%のときのマスク残存率は、約0.6であり、コンベンショナルなモノマーイオンビームエッチングによるマスク残存率(約0.7)よりも悪い結果となっている。これに対し、オーバー比が0%のときのマスク残存率は、約1.0であり、オーバー比が10%のときのマスク残存率は、約0.95であり、オーバー比が20%のときのマスク残存率は、約0.9であり、オーバー比が30%のときのマスク残存率は、約0.75であり、いずれの場合も、コンベンショナルなモノマーイオンビームエッチングよりも良い結果となっている。
また、上記の結果は、クラスターサイズの分布のピーク値が、2以上、1000以下の場合(条件4を含む)において、全て同じであることを確認できた。
さらに、上記の結果は、クラスターイオンの成分に依存しないことも確認できた。
即ち、この例では、Cl原子とKr原子を含むクラスターイオンを用いたが、例えば、F2、CHF3、CF4、C2F6、C2HF5、CHClF2、NF3、SF6、ClF3、Cl2、HCl、CClF3、CHCl3、CBrF3、Br2、CO2、CO、N2、O2、NH3、N2O、及び、CH3OCH3のうちから選択される1つの分子、又は、He、Ne、Ar、Kr、Sb、及び、Xeのうちから選択される1つの原子を含むクラスターイオンにおいても、同様の結果を得ることができる。
[クラスターサイズと保磁力との関係]
磁気抵抗効果素子のパターニングに使用するクラスターイオンのクラスターサイズと保磁力との関係について考察する。
サンプルとしての磁気抵抗効果素子は、上述の「クラスターサイズとマスク残存率との関係」で使用したサンプルと同じ前提条件で製造するものとする。また、パラメータとしての条件(条件1〜条件6)についても、上述の「クラスターサイズとマスク残存率との関係」と同じとする。
但し、以下の検証では、各条件下での磁気抵抗効果素子の保磁力の変化を見極めるために、磁気抵抗効果素子のパターニング後に、さらに、Kr−不活性ガスクラスターを用いて、加速電圧25kVで、基板表面に垂直な方向に対して20°〜40°の角度から、磁気抵抗効果素子の側面にイオン注入を行った。
このような条件の下で、図2に示すように、ハードマスク層15をマスクにして、GCIBエッチングにより、磁気抵抗効果素子のパターニングを行う。
そして、クラスターサイズと保磁力との関係を調べてみたところ、図8に示すような関係を得ることができた。
ここで、磁気特性としての保磁力は、磁気ピンド層(CoFeB/Tb−Co−Fe)としての第2の磁性層について検証した。
図8から明らかなように、モノマーイオンビームによるパターニング後の磁気ピンド層の保磁力(約7kOe)のラインCを基準にすると、クラスターイオンのクラスターサイズにかかわらず、クラスターイオンビームによるパターニング後の磁気ピンド層の保磁力は、常に、コンベンショナルなモノマーイオンビームエッチングよりも良好な結果が得られることが分かる。
例えば、条件1でのGCIBエッチング後の磁気ピンド層のの保磁力は、約8kOeであり、条件2及び5でのGCIBエッチング後の磁気ピンド層の保磁力は、約9kOeであり、コンベンショナルなモノマーイオンビームエッチングよりも良い結果となっている。また、条件3及び条件4でのGCIBエッチング後の磁気ピンド層の保磁力は、共に、約10kOeであり、コンベンショナルなモノマーイオンビームエッチングよりも良い結果となっている。
また、クラスターサイズの分布のピーク値が、2以上、1000以下の場合における保磁力は、クラスターサイズの分布のピーク値が、1000を超える場合における保磁力よりも大きくなっていることが分かる。
また、上記の結果は、クラスターイオンの成分に依存しないことも確認できた。
即ち、この例では、Cl原子とKr原子を含むクラスターイオンを用いたが、例えば、F2、CHF3、CF4、C2F6、C2HF5、CHClF2、NF3、SF6、ClF3、Cl2、HCl、CClF3、CHCl3、CBrF3、Br2、CO2、CO、N2、O2、NH3、N2O、及び、CH3OCH3のうちから選択される1つの分子、又は、He、Ne、Ar、Kr、Sb、及び、Xeのうちから選択される1つの原子を含むクラスターイオンにおいても、同様の結果を得ることができる。
[クラスターサイズとテーパー角度との関係]
磁気抵抗効果素子のパターニングに使用するクラスターイオンのクラスターサイズとハードマスクのテーパー角度との関係について考察する。
サンプルとしての磁気抵抗効果素子は、上述の「クラスターサイズとマスク残存率との関係」で使用したサンプルと同じ前提条件で製造するものとする。また、パラメータとしての条件(条件1〜条件6)についても、上述の「クラスターサイズとマスク残存率との関係」と同じとする。
尚、テーパー角度とは、ハードマスク層の側壁の基板表面に垂直な方向に対する角度のことであり、ハードマスク層の側壁の角度が変化するときは、その平均値を意味する。また、テーパー角度は、図3及び図4に示すマスク残存率に依存する。
このような条件の下で、図2に示すように、ハードマスク層15をマスクにして、GCIBエッチングにより、磁気抵抗効果素子のパターニングを行う。
そして、クラスターサイズとテーパー角度との関係を調べてみたところ、図9に示すような関係を得ることができた。
図9から明らかなように、モノマーイオンビームによるパターニング後のハードマスク層のテーパー角度(約70°)のラインDを基準にすると、クラスターイオンのクラスターサイズの分布のピーク値が、2以上、1000以下であるときに、コンベンショナルなモノマーイオンビームエッチングよりも良好な結果が得られることが分かる。
例えば、条件1でのGCIBエッチング後のハードマスク層のテーパー角度は、約60°であり、条件2及び5でのGCIBエッチング後のハードマスク層のテーパー角度は、モノマーイオンビームエッチングのときと同等の値(約70°)である。また、条件3及び条件4でのGCIBエッチング後のハードマスク層のテーパー角度は、共に、約85°であり、コンベンショナルなモノマーイオンビームエッチングよりも良い結果となっている。
また、ハードマスク層のテーパー角度は、例えば、磁気抵抗効果素子の特性を考慮したとき、80°(ラインE)以上であるのが望ましい。一方、クラスターサイズの分布のピーク値が、2以上、1000以下の場合におけるハードマスク層のテーパー角度は、80°以上であるため、クラスターサイズの分布のピーク値を上述の範囲内に設定することは、非常に望ましいことである。
また、上記の結果は、クラスターイオンの成分に依存しないことも確認できた。
即ち、この例では、Cl原子とKr原子を含むクラスターイオンを用いたが、例えば、F2、CHF3、CF4、C2F6、C2HF5、CHClF2、NF3、SF6、ClF3、Cl2、HCl、CClF3、CHCl3、CBrF3、Br2、CO2、CO、N2、O2、NH3、N2O、及び、CH3OCH3のうちから選択される1つの分子、又は、He、Ne、Ar、Kr、Sb、及び、Xeのうちから選択される1つの原子を含むクラスターイオンにおいても、同様の結果を得ることができる。
[小さなクラスターサイズについて]
上述の実施例では、磁気抵抗効果素子のパターニングに使用するクラスターイオンビームのクラスターサイズが分布を有する。この場合、非常に小さなクラスターサイズ(例えば、2〜4)のクラスターイオンも含まれる場合がある。
クラスターサイズが、2以上、4以下のクラスターイオンについては、その重量が軽い分だけ、高速に、被エッチング面に衝突する。また、このような小さなクラスターサイズを持つクラスターイオンを構成する原子又は分子は、既に述べたように、衝突後に大きなエネルギーを持つ場合があり得る。この大きなエネルギーを持つ原子又は分子は、磁気抵抗効果素子の特性を多少なりとも低下させる。
従って、上述の実施例では、クラスターサイズの分布のピーク値が、2以上、1000以下のクラスターイオンを使用するが、非常に小さなクラスターサイズを有するクラスターイオンは、なるべく発生させないことが望ましい。
例えば、磁気抵抗効果素子のパターニング中に発生するクラスターイオンの全てが、5以上のクラスターサイズを有するのが望ましい。この場合、クラスターサイズの分布のピーク値も、5以上、1000以下の範囲内に設定される。
[変形例]
上述の実施例におけるGCIBエッチング後に、被エッチング面に吸着したガスクラスターを構成する原子又は分子の除去や、GCIBエッチングによるダメージの回復などを目的として、クラスターサイズが1000を超えるクラスターイオンを、被エッチング面に照射してもよい。
例えば、上述の実施例に係わるGCIBエッチングに、Cl−Kr混合ガスクラスターを用いる場合、そのGCIBエッチング後に、クラスターサイズの分布のピーク値(又はクラスターサイズの平均値)が10000程度のKr−ガスクラスターを用いるGCIB照射を行う。この時、原子又は分子の1個当たりのエネルギーは、1eV/個以下、例えば、0.3eV/個を目安に、加速エネルギーを設定する。例えば、加速エネルギー(加速電圧)は、3kVとする。
この補助的なGCIB照射により、被エッチング面に吸着した残留物(例えば、Cl)を効果的に除去することができる。この時、クラスターイオンビームの照射角度を10°以上に設定することにより、例えば、磁気抵抗効果素子の側壁部に吸着した残留物(例えば、Cl)も、同時に除去することが可能となる。
この効果は、被エッチング面や磁気抵抗効果素子の側壁部に吸着した残留物を除去するだけではなく、適度な格子振動を磁気抵抗効果素子の加工面に与える効果を有する。即ち、この補助的なGCIB照射は、アニールと同等な効果をもたらし、上述の実施例に係わるGCIBエッチングによるダメージの回復に寄与する。
[その他]
クラスターサイズの分布のピーク値が、2以上、1000以下のクラスターイオンを用いて磁気抵抗効果素子のパターニングを行うことにより、以下の付随的な効果を得ることができる。
ガスクラスターは、高圧の材料ガスをノズルと呼ばれるラッパ状の細い管を通して真空中に噴出することにより生成される。高圧のガスを真空中に噴出すると、断熱膨張によりガスが凝縮温度以下まで冷却され、ファンデルワールス力により複数の原子又は複数の分子が互いに結合し、ガスクラスターが生成される。
また、ガスクラスターは、例えば、電子衝突法によりイオン化される。これは、高速の電子がクラスターに衝突した際に、クラスターから電子が弾き飛ばされる現象を利用して、クラスターに正の電荷を持たせる方法である。
しかし、このような方法により、クラスターイオンを生成するに当たって、1000を超えるクラスターサイズを生成するためには、多大なコストを必要とする。
例えば、原子又は分子の1個当たりのエネルギーを10eV/個とする場合、クラスターサイズ10000のクラスターを使用するときは、100kVのイオン加速器が必要になる。これに対し、原子又は分子の1個当たりのエネルギーを10eV/個とする場合、クラスターサイズ200のクラスターを使用するときは、2kVのイオン加速器があればよい。
即ち、本実施例によれば、例えば、2kVの加速電圧を発生させることができるイオン加速器があれば十分であり、100kVの加速電圧を発生させることができる高価なイオン加速器は不要である。
このように、装置コストの削減により、磁気抵抗効果素子の製造コストを抑えることができるため、結果として、ハードディスクドライブや、磁気ランダムアクセスメモリなどのストレージデバイスを安価に提供できる。
尚、本実施例において使用したGCIBエッチングの条件(条件1〜条件5)では、原子又は分子の1個当たりのエネルギーを5eV/個としたが、既に述べたように、それに分布があってもよく、その場合には、クラスターイオンを構成する原子又は分子の1個当たりのエネルギーの平均値を採用すればよい。
また、原子又は分子の1個当たりのエネルギーについても、5eV/個に限られないが、GCIBによる低エネルギー照射効果を実効あらしめるため、原子又は分子の1個当たりのエネルギーは、30eV/個以下、さらには、15eV/個以下であるのが望ましい。原子又は分子の1個当たりのエネルギーが30eV/個を超えると、イオン注入効果が顕著に現われてくるからである。
また、クラスターイオンの帯電(価数)についても限定されない。ガスクラスターは、1価のイオンであってもよいし、2価のイオンであってもよい。また、クラスターイオンは、正に帯電していてもよいし、負に帯電していてもよい。
[第2の実施例]
図10は、磁気抵抗効果素子の製造方法の第2の実施例を示している。
本例は、第1の実施例の製造方法の変形例である。本例が第1の実施例と異なる点は、GCIBエッチングに並行して、被エッチング面及びパターニングされた磁気抵抗効果素子の側壁部に、所定のガスを供給することにある。その他の点は、第1の実施例と同じであるため、ここでの説明を省略する。
即ち、図10に示すように、クラスターサイズの分布のピーク値が、2以上、1000以下であるクラスターイオン16を用いて、GCIBエッチングにより磁気抵抗効果素子のパターニングを行う。
クラスターイオン16は、例えば、F2、CHF3、CF4、C2F6、C2HF5、CHClF2、NF3、SF6、ClF3、Cl2、HCl、CClF3、CHCl3、CBrF3、Br2、CO2、CO、N2、O2、NH3、N2O、及び、CH3OCH3のうちから選択される1つの分子、又は、He、Ne、Ar、Kr、Sb、及び、Xeのうちから選択される1つの原子を含む。
これに並行して、ガスノズル18から、F2、CHF3、CF4、C2F6、C2HF5、CHClF2、NF3、SF6、ClF3、Cl2、HCl、CClF3、CHCl3、CBrF3、Br2、CO2、CO、N2、O2、NH3、N2O、CH3OCH3、HF、HNO3、H3PO4、H2SO4、H2O2、及び、CH3COOHのうちから選択される1つの分子を含むガス19を、被エッチング面(クラスターイオンの照射面)及びパターニングされた磁気抵抗効果素子の側壁部に、供給する。
これにより、磁気抵抗効果素子のパターニングを効率的に行うことができる。
例えば、ガスノズル18から供給するガス19として、HClやHFなどの反応性ガスを使用する場合について考える。HClやHFなどの反応性ガスの分圧は、1×10−5Torr〜1×10−4Torrになるように、ガスの流量を制御するのが望ましい。
この場合、GCIBエッチング中に導入されたHClやHFなどの反応性ガスを構成する原子又は分子は、被エッチング面(クラスターイオンの照射面)に吸着する。この状態において、クラスターイオン(例えば、O2−クラスターイオン)は、被エッチング面に吸着した反応ガスを構成する原子又は分子と反応し、被エッチング面に存在する磁性層を効果的にエッチングする。
また、磁気ピンド層及び磁気フリー層が貴金属などの難エッチング材料を含むとき、このような酸化剤(例えば、O2−クラスターイオン)による酸化溶解反応が起きることは、磁気抵抗効果素子のエッチングを効率的に行うために非常に望ましい。
一般に、ガスクラスターイオンによるエッチングでは、ガスの種類に応じてクラスターが形成される条件が異なるため、複数の反応性ガスや希ガスを混合した混合クラスターを容易に形成することができない。また、そのような混合クラスターを発生させようとすれば、高価なクラスター発生装置を使用しなければならない。
そこで、上述のように、ガスノズル18からのガス19の供給により磁気抵抗効果素子の周囲にガス雰囲気を生成すれば、クラスター発生装置としては、単一の原子又は分子を含むクラスターのみを発生すればよいため、低コストで、磁気抵抗効果素子のエッチングを効率的に進めることができる。
また、この方法によれば、通常ではクラスターの形成が難しい液化ガスや、有機酸などの分子量の大きい化合物についても、エッチング反応に用いることができる。
尚、反応性ガスの分圧は、上述のように、1×10−5Torr〜1×10−4Torrの範囲内に設定するのが望ましい。
この範囲よりも低い分圧になると、被エッチング面に十分な量の反応性ガスを供給することができず、磁気抵抗効果素子のパターニングを効率的に行うことができないからである。また、この範囲よりも高い分圧になると、反応性ガスを構成する原子又は分子の被エッチング面への吸着量が飽和状態となり、クラスターイオンが被エッチング面の磁性層に到達できなくなるからである。即ち、クラスターイオンは、被エッチング面に吸着した原子又は分子と衝突し、被エッチング面の磁性層に到達する前に崩壊してしまう。
また、本例の方法は、例えば、磁気抵抗効果素子の側壁部に、低い電気伝導度及び低い飽和磁化量を有する薄膜31を形成するのに適している。即ち、磁気フリー層がこの薄膜31に覆われると、磁気フリー層の周囲が低い飽和磁束密度を有する状態となるため、良好な磁気特性を得ることができる。
例えば、Sb−クラスターイオンの照射に並行して、ガスノズル18から酸素ガス(O2)を供給すると、トンネルバリア層(MgO)、磁気フリー層(CoFeB)、酸素ガス(O2)及びSb原子が混合し、磁気フリー層の周囲に、酸化層としての薄膜31が形成される。
尚、この効果は、ガス19の種類として、N2O、CO2、CO、N2などを使用するときにも得ることができる。
[第3の実施例]
図11及び図12は、磁気抵抗効果素子の製造方法の第3の実施例を示している。
本例は、第1の実施例の製造方法の変形例である。本例が第1の実施例と異なる点は、まず、モノマーイオンビームエッチングにより第2の磁性層をエッチングし、この後、GCIBエッチングにより第1の磁性層をエッチングすることにある。その他の点は、第1の実施例と同じであるため、ここでの説明を省略する。
まず、図11に示すように、ハードマスク層15をマスクにして、モノマーイオンビームエッチングにより第2の磁性層14をエッチングする。
例えば、Arイオンを用いたモノマーイオン17を、加速エネルギー200Vにより加速することにより、モノマーイオンビームを発生させる。モノマーイオンビームエッチングは、照射角度を0°〜30°の範囲内で変化させながら実行する。ここで、照射角度とは、基板表面に垂直な方向に対するイオンビームの照射方向のことである。
本例では、モノマーイオンビームエッチングにより、第2の磁性層14及びトンネルバリア層13をエッチングする。即ち、モノマーイオンビームエッチングは、第1の磁性層12の表面が露出した時点で止める。
但し、モノマーイオンビームエッチングは、トンネルバリア層13の表面が露出した時点で止めることにより、トンネルバリア層13を残してもよい。
また、モノマーイオンビームエッチングは、トンネルバリア層13の表面が露出する前に止めてもよい。即ち、モノマーイオンビームエッチングは、第2の磁性層14のエッチングの途中で止めてもよい。
このエッチングは、例えば、イオンミリングチャンバー内で行う。
次に、図12に示すように、モノマーイオンビームエッチングに引き続き、GCIBエッチングにより、少なくとも第1の磁性層12をエッチングする。GCIBエッチングは、クラスターサイズの分布のピーク値が、2以上、1000以下であるクラスターイオン16を用いて行う。クラスターイオン16の種類については、第1の実施例と同じである。
このエッチングは、例えば、GCIBエッチングチャンバー内で行う。
GCIBエッチングは、モノマーイオンビームエッチング(RIEを含む)に比べて、磁気抵抗効果素子の加工精度や磁気特性などに関して優れた効果を得ることができるが、スループットが悪いという点も併せ持つ。
そこで、本例のように、第2の磁性層(例えば、磁気ピンド層)14については、スループットが良いモノマーイオンビームエッチングによりパターニングし、第1の磁性層(例えば、磁気フリー層)12については、磁気抵抗効果素子の加工精度や磁気特性などに優れるGCIBエッチングによりパターニングすれば、プロセス時間の短縮によるコストの削減と共に、磁気抵抗効果素子の加工精度や磁気特性の向上も図ることができる。
尚、本例におけるGCIBエッチングは、モノマーイオンビームエッチングによりドーズされたイオンの分布を修正するドーズで行うことが望ましい。例えば、モノマーイオンビームエッチングでは、磁気抵抗効果素子の中心部が周辺部に比べてエッチングレートが早い、という場合、GCIBエッチングでは、磁気抵抗効果素子の周辺部が中心部に比べてエッチングレートが早い、という条件で、クラスターイオンの照射を行う。
[第4の実施例]
図13は、磁気抵抗効果素子の製造方法の第4の実施例を示している。
本例は、第3の実施例の製造方法の変形例である。本例が第3の実施例と異なる点は、GCIBエッチングに並行して、被エッチング面及びパターニングされた磁気抵抗効果素子の側壁部に、所定のガスを供給することにある。その他の点は、第3の実施例と同じであるため、ここでの説明を省略する。
即ち、図13に示すように、クラスターサイズの分布のピーク値が、2以上、1000以下であるクラスターイオン16を用いて、GCIBエッチングにより、第2の磁性層12のエッチングを行う。クラスターイオン16の種類については、第3の実施例と同じである。
これに並行して、ガスノズル18から、F2、CHF3、CF4、C2F6、C2HF5、CHClF2、NF3、SF6、ClF3、Cl2、HCl、CClF3、CHCl3、CBrF3、Br2、CO2、CO、N2、O2、NH3、N2O、CH3OCH3、HF、HNO3、H3PO4、H2SO4、H2O2、及び、CH3COOHのうちから選択される1つの分子を含むガス19を、被エッチング面(クラスターイオンの照射面)及びパターニングされた磁気抵抗効果素子の側壁部に、供給する。
これにより、磁気抵抗効果素子のパターニングを効率的に行うことができる。
GCIBエッチングに並行して所定のガス(反応ガス)19を供給する効果については、上述の第2の実施例と同じである。即ち、GCIBエッチング中に導入された反応性ガスを構成する原子又は分子は、被エッチング面(クラスターイオンの照射面)に吸着するため、クラスターイオンが被エッチング面に吸着した反応ガスを構成する原子又は分子と反応し、被エッチング面に存在する磁性層を効果的にエッチングする。
また、本例の方法は、上述の第2の実施例で説明したように、例えば、磁気抵抗効果素子の側壁部に、低い電気伝導度及び低い飽和磁化量を有する薄膜31を形成するのに適している。即ち、磁気フリー層がこの薄膜31に覆われると、磁気フリー層の周囲が低い飽和磁束密度を有する状態となるため、良好な磁気特性を得ることができる。
[第5の実施例]
図14乃至図19は、磁気抵抗効果素子の製造方法の第5の実施例を示している。
本例は、第1の実施例の製造方法の変形例である。本例が第1の実施例と異なる点は、GCIBエッチングによる磁気抵抗効果素子のパターニング後に、第1及び第2の磁性層を部分的に非磁性化(不活性化)することにある。
まず、図14に示すように、例えば、スパッタ法を用いて、下地層11上に、第1の磁性層12、トンネルバリア層13、第2の磁性層14及びハードマスク層15を、順次、形成する。下地層11は、例えば、下部電極となり、ハードマスク層15は、上部電極となる。下地層11及びハードマスク層15は、例えば、共に、金属又は合金を備える。
第1及び第2の磁性層12,14は、面内磁化及び垂直磁化のうちの1つを有する。また、第1及び第2の磁性層12,14のうちの1つは、磁化方向が可変である磁気フリー層であり、他の1つは、磁化方向が不変である磁気ピンド層である。
尚、第2の磁性層14を磁気ピンド層として使用するとき、上述の積層構造を形成するステップにおいて、トンネルバリア層13と第2の磁性層14との間に、界面層をさらに形成してもよい。
また、第2の磁性層14を磁気ピンド層として使用するとき、第2の磁性層14は、磁気ピンド層としての磁性層と、磁気ピンド層からの漏洩磁界を打ち消す働きを持つバイアス磁界層とを含むのが望ましい。また、この場合、下地層11も、バイアス磁界層を含んでいるのが望ましい。
この後、周知の技術であるリソグラフィ及びクラスターイオンビームエッチングを用いて、磁気抵抗効果素子のパターニングを行なう。
即ち、PEPを用いて、ハードマスク層15上にフォトレジスト層を形成し、このフォトレジスト層をマスクにして、ハードマスク層15をパターニングする。この後、フォトレジスト層を除去する。
続けて、ハードマスク層15をマスクにして、例えば、GCIBエッチングにより、少なくとも第2の磁性層14をエッチングする。このGCIBエッチングは、クラスターサイズの分布のピーク値が、2以上、1000以下であるクラスターイオン16aを用いて行われる。
クラスターイオン16aは、例えば、F2、CHF3、CF4、C2F6、C2HF5、CHClF2、NF3、SF6、ClF3、Cl2、HCl、CClF3、CHCl3、CBrF3、Br2、CO2、CO、N2、O2、NH3、N2O、及び、CH3OCH3のうちから選択される1つの分子、又は、He、Ne、Ar、Kr、Sb、及び、Xeのうちから選択される1つの原子を含む。
このGCIBエッチングにより、磁気抵抗効果素子のパターニングが完了する。
尚、本例では、磁気抵抗効果素子のパターニングを、上述の第1の実施例と同様に、GCIBエッチングにより行ったが、これを、モノマーイオンビームエッチングに変更してもよい。なぜなら、本例の特徴は、以下の非磁性化にあるからである。
次に、図15に示すように、ハードマスク層15をマスクにして、例えば、GCIB照射を行い、第1及び第2の磁性層12,14を部分的に非磁性化する。このGCIB照射は、クラスターサイズの分布のピーク値が、2以上、1000以下であるクラスターイオン16bを用いて行われる。
クラスターイオン16bは、例えば、F2、CHF3、CF4、C2F6、C2HF5、CHClF2、NF3、SF6、ClF3、Cl2、HCl、CClF3、CHCl3、CBrF3、Br2、CO2、CO、N2、O2、NH3、N2O、及び、CH3OCH3のうちから選択される1つの分子、又は、He、Ne、Ar、Kr、Sb、及び、Xeのうちから選択される1つの原子を含む。
また、クラスターイオン16bは、非磁性原子を含んでいるのが望ましい。非磁性原子は、例えば、Ta、W、Hf、Zr、Nb、Mo、V、Cr、Si、Ge、P、As、Sb、O、N、Cl、及び、Fのうちから選択される。
その結果、第1及び第2の磁性層12,14内には、非磁性化された不活性領域17が形成される。本例では、不活性領域17は、第2の磁性層14の側壁部と、第1の磁性層12のハードマスク層15により覆われていない部分にそれぞれ形成される。
また、不活性領域17は、20at%を超える濃度の上述の非磁性原子を含むのが望ましい。
ところで、このGCIB照射は、クラスターイオンのイオン注入効果による第1及び第2の磁性層12,14の非磁性化を目的とする。従って、例えば、磁気抵抗効果素子のパターニングを目的とするGCIBエッチングとは、プロセス条件が異なる。
即ち、非磁性化では、ガスクラスターイオンを第1及び第2の磁性層12,14内に注入しなければならない。そのため、ガスクラスターを構成する原子又は分子の1個当たりのエネルギーは、30eVを超える値に設定するのが望ましい。
例えば、Sb−ガスクラスターを用いて非磁性化を行う場合、クラスターサイズの分布のピーク値を、200とし、加速電圧を10eVとする。この時、例えば、ピーク値のクラスターサイズ200を持つクラスターにおいて、原子又は分子の1個当たりのエネルギーは、50eVとなる。
このイオン注入により、例えば、トンネルバリア層13を構成するMgO、第1及び第2の磁性層12,14を構成するCoFeB及びSb原子が互いに混合し、第1及び第2の磁性層12,14の一部が、低い電気伝導度及び低い飽和磁化量を有する不活性領域17に変化する。
このように、第1及び第2の磁性層12,14の一部を非磁性化することにより、例えば、GCIBエッチングにより第1及び第2の磁性層12,14に形成されたダメージ部分を活性領域として使用せずに済む。即ち、磁気抵抗効果素子のスイッチング電流のばらつきを防止することができる。
また、第1の磁性層12が磁気フリー層であるとき(トップピン型の場合)に、磁気フリー層の平面サイズを小さくし、磁気抵抗効果素子の特性を向上させることができる。
さらに、この非磁性化(GCIB照射)において、クラスターサイズの分布のピーク値を、2以上、1000以下に設定することにより、磁気抵抗効果素子の側壁部に注入されるクラスターイオンのドーズプロファイルのばらつきによる磁気抵抗効果素子の実効的なサイズのばらつき(エッジラフネス)を小さくすることができる。
即ち、磁気抵抗効果素子の側壁部に注入されるクラスターイオンのドーズプロファイルが、場所によらず、均一かつシャープになる。
尚、図14及び図15に示す製造方法では、磁気抵抗効果素子のパターニング(GCIBエッチング)において、トンネルバリア層13が露出するまで、即ち、第2の磁性層14のみをエッチングしたが、これに代えて、以下の変形も可能である。
例えば、図16に示すように、ガスクラスター16aを用いた磁気抵抗効果素子のパターニング(GCIBエッチング)は、トンネルバリア層13が露出する前に止める。この場合、図17に示すように、ガスクラスター16bを用いたGCIB照射による不活性領域17は、第2の磁性層14の側壁部と、第1及び第2の磁性層12,14のハードマスク層15により覆われていない部分とにそれぞれ形成される。
また、例えば、図18に示すように、ガスクラスター16aを用いた磁気抵抗効果素子のパターニング(GCIBエッチング)は、第1及び第2の磁性層12,14について行うこともできる。本例では、ハードマスク層15に覆われていない被エッチング面がテーパー状(スカート状)にエッチングされる例を示す。
この場合、図19に示すように、ガスクラスター16bを用いたGCIB照射による不活性領域17は、第2の磁性層14の側壁部と、第1及び第2の磁性層12,14のハードマスク層15により覆われていない部分とにそれぞれ形成される。
[第6の実施例]
図20乃至図21は、磁気抵抗効果素子の製造方法の第6の実施例を示している。
本例は、第5の実施例の製造方法の変形例である。本例が第5の実施例と異なる点は、GCIBエッチング(磁気抵抗効果素子のパターニング)とGCIB照射(不活性領域の形成)とを並行して行うことにある。
まず、図20に示すように、例えば、スパッタ法を用いて、下地層11上に、第1の磁性層12、トンネルバリア層13、第2の磁性層14及びハードマスク層15を、順次、形成する。
この後、周知の技術であるリソグラフィ及びクラスターイオンビームエッチングを用いて、磁気抵抗効果素子のパターニングを行なう。
即ち、PEPを用いて、ハードマスク層15上にフォトレジスト層を形成し、このフォトレジスト層をマスクにして、ハードマスク層15をパターニングする。この後、フォトレジスト層を除去する。
続けて、ハードマスク層15をマスクにして、例えば、GCIBエッチングにより、少なくとも第2の磁性層14をエッチングする。このエッチングでは、図16及び図17に示すような変形や、図18及び図19に示すような変形なども可能である。
このGCIBエッチングは、クラスターサイズの分布のピーク値が、2以上、1000以下であるクラスターイオン16aを用いて行われる。
また、図21に示すように、このGCIBエッチング(磁気抵抗効果素子のパターニング)と並行して、ハードマスク層15をマスクにして、例えば、GCIB照射を行い、第1及び第2の磁性層12,14を部分的に非磁性化する。このGCIB照射も、クラスターサイズの分布のピーク値が、2以上、1000以下であるクラスターイオン16bを用いて行われる。
その結果、第1及び第2の磁性層12,14内には、非磁性化された不活性領域17が形成される。本例では、不活性領域17は、第2の磁性層14の側壁部と、第1の磁性層12のハードマスク層15により覆われていない部分にそれぞれ形成される。
本例では、磁気抵抗効果素子のパターニングのためのガスクラスターと、不活性領域17を形成するためのガスクラスターとを同時に生成する必要がある。このため、GCIBエッチング装置が高価になるが、パターニングと非磁性化を同時に行うことができるため、スループットを向上させることができる。
[クラスターサイズとドーズプロファイルとの関係]
上述の第5及び第6の実施例では、非磁性化(GCIB照射)において、クラスターサイズの分布のピーク値を、2以上、1000以下に設定することにより、磁気抵抗効果素子の側壁部に注入されるクラスターイオンのドーズプロファイルのばらつきによる磁気抵抗効果素子の実効的なサイズのばらつき(エッジラフネス)を小さくすることができる。
このエッジラフネスについて検討する。
図22乃至図24は、クラスターサイズと非磁性化によるエッジラフネスとの関係を3DAP (3 dimensional atomic probe)を用いて評価した結果を示している。尚、エッジラフネスは、イオン注入されたイオン(原子又は分子)のドーズプロファイルに基づいて評価する。
サンプルは、図22に示すように、ライン幅LWmのハードマスク層15と、それをマスクに加工された第2の磁性層14とを有する。上述のGCIB照射に用いるガスクラスターにより第2の磁性層14の側壁部の非磁性化を行い、それにより形成された不活性領域17のライン幅方向のドーズプロファイルを検証する。
イオン注入されたイオンのドーズプロファイルのピーク値の50%の位置を不活性領域17のエッジ、即ち、実効ライン閾値(図22において曲線で示す)と定義する。
そして、第2の磁性層14の一端側の実効ライン閾値の平均値(図22において点線で示す)と第2の磁性層14の他端側の実効ライン閾値の平均値(図22において点線で示す)との間の幅(実効ライン幅)をLWiとする。
また、第2の磁性層14の一端側(左側)の実効ライン閾値の最大振幅を、エッジラフネスLER-leftとし、第2の磁性層14の他端側(右側)の実効ライン閾値の最大振幅を、エッジラフネスLER-rightとする。
エッジラフネスLERは、LER-leftとLER-rightとの平均値とする。
エッジラフネスLERは、小さいほど望ましい。
図23は、クラスターサイズとエッジラフネスとの関係を示している。
同図から明らかなように、モノマーイオンビームにより非磁性化を行ったときは、エッジラフネスLERは、約0.6nmである。
但し、モノマーイオンビームの場合、エッジラフネスLERは、小さいものの、単原子イオンを用いるために、実効ライン閾値が第2の磁性層14の深い位置まで侵入するため、結果として、後述するように、実効ライン幅LWiは、小さくなる。
これに対し、クラスターサイズが、2以上、1000以下のガスクラスターを用いるGCIB照射によれば、エッジラフネスLERは、モノマーイオンビームの場合と同程度、即ち、約0.6nm近傍に集中している。
また、この場合、エッジラフネスLERが小さいことに加えて、モノマーイオンビームに比べて、実効ライン閾値が第2の磁性層14の深い位置まで侵入しないため、結果として、後述するように、実効ライン幅LWiは、ハードマスク層15のライン幅LWmに近くなる。
さらに、クラスターサイズが、1000を越えるガスクラスターを用いるGCIB照射によれば、エッジラフネスLERは、モノマーイオンビームの場合よりも悪くなる。
尚、エッジラフネスLERの許容値を0.75nm(ラインF)としたとき、クラスターサイズが、2以上、1000以下のガスクラスターを用いるGCIB照射によれば、エッジラフネスLERは、許容範囲内に入ることになる。
また、このエッジラフネスLERを見積もるために、ΔLW(=LWm−LWi)を計算する。
ΔLWは、ハードマスク層15のライン幅LWmと第2の磁性層14の実効ライン幅LWiとの差分であり、その大小は、エッジラフネスLERに依存する。
その結果、図23に示すような結果を得ることができた。
同図から明らかなように、モノマーイオンビームにより非磁性化を行ったときは、差分ΔLWは、約2.0nmである。これは、既に述べたように、モノマーイオンビームの場合、エッジラフネスLERは、小さいものの、単原子イオンを用いるために、実効ライン閾値が第2の磁性層14の深い位置まで侵入するからである。
これに対し、GCIB照射によれば、差分ΔLWは、約1.0nm近傍に集中しており、モノマーイオンビームによる差分(ラインG)ΔLWよりも良い結果が得られることが分かる。
また、GCIB照射に使用するガスクラスターのクラスターサイズを、2以上、1000以下にしたときは、それを、1000を超える値にしたときよりも、差分ΔLWが小さくなる。
例えば、クラスターサイズ200及び1000(○印)のときの差分ΔLWは、約0.8nmであるのに対し、クラスターサイズ5000及び10000(○印)並びにサイズセレクト無し(□印)のときの差分ΔLWは、約1.0nmである。
このように、非磁性化時のクラスターイオンのドーズプロファイルのばらつきによる磁気抵抗効果素子の実効的なサイズのばらつき(エッジラフネス)を抑制するためには、GCIB照射を利用し、かつ、ガスクラスターのクラスターサイズを、2以上、1000以下にするのが望ましいことが分かる。
尚、GCIB照射により上述の差分ΔLWが発生するとしたときは、磁気抵抗効果素子の平面サイズが30nm以下であっても、磁気抵抗効果素子の特性のばらつきは、許容範囲内である。
また、例えば、Ta、W、Hf、Zr、Nb、Mo、V、Cr、Si、Ge、P、As、Sb、O、N、Cl、及び、Fのうちから選択される非磁性原子を含むクラスターをドーパントとして用いる場合には、磁性層内に形成される不活性領域は、結果として、20at%を超える濃度の上述の非磁性原子を含むのが望ましい。
[第7の実施例]
図25乃至図26は、磁気抵抗効果素子の製造方法の第7の実施例を示している。
この製造方法は、磁気抵抗効果素子のパターニング後に、磁気フリー層及び磁気ピンド層の側壁部に形成される再付着層を、クラスターイオンビームエッチングにより除去する技術に関する。
まず、図25に示すように、例えば、スパッタ法を用いて、下地層11上に、第1の磁性層12、トンネルバリア層13、第2の磁性層14及びハードマスク層15を、順次、形成する。
この後、周知の技術であるリソグラフィ及びモノマーイオンビームエッチングを用いて、磁気抵抗効果素子のパターニングを行なう。
即ち、PEPを用いて、ハードマスク層15上にフォトレジスト層を形成し、このフォトレジスト層をマスクにして、ハードマスク層15をパターニングする。この後、フォトレジスト層を除去する。
続けて、ハードマスク層15をマスクにして、例えば、モノマーイオンビームエッチングにより、第2の磁性層14、トンネルバリア層13及び第1の磁性層12を、順次、エッチングする。
例えば、Arイオンを用いたモノマーイオンを、加速エネルギー200Vにより加速することにより、モノマーイオンビームを発生させる。モノマーイオンビームエッチングは、照射角度を0°〜30°の範囲内で変化させながら実行する。ここで、照射角度とは、基板表面に垂直な方向に対するイオンビームの照射方向のことである。
本例では、モノマーイオンビームエッチングにより、第2の磁性層14、トンネルバリア層13及び第1の磁性層12をエッチングする。この時、第1及び第2の磁性層12,14の側壁部には、第1及び第2の磁性層12,14を削り取った際に発生する再付着層20が形成される。
再付着層20は、第1及び第2の磁性層12,14を構成する磁性材料を備える。
次に、図26に示すように、GCIBエッチングにより、第1及び第2の磁性層12,14の側壁部に付着した再付着層20を除去する。GCIBエッチングは、クラスターサイズの分布のピーク値が、2以上、1000以下であるクラスターイオン16を用いて行う。クラスターイオン16の種類については、第1の実施例と同じである。
例えば、クラスターサイズのピーク値が500であるClガスクラスターイオンを、加速エネルギー2.5kVにより加速することにより、ガスクラスターイオンビームを発生させる。この時、クラスターサイズ500のクラスターイオンのCl原子1個当たりのエネルギーは、5eV/個である。
また、ガスクラスターイオンビームエッチングは、照射角度を20°程度に設定した状態で実行する。
これにより、第1及び第2の磁性層12,14の側壁部に付着した再付着層20のみが選択的に除去される。尚、このGCIBエッチングの最中において、サンプルを搭載するステージは、回転させ続けるのが望ましい。
本例では、再付着層20を除去する方法について説明したが、これに代えて、反応性ガスを供給することにより、再付着層20の除去を効率的に行ったり、又は、再付着層20を絶縁層に変換したりするプロセスを採用してもよい。
例えば、このようなプロセスは、上述の第4の実施例に係わる方法を採用することができる。
例えば、図27に示すように、クラスターサイズの分布のピーク値が、2以上、1000以下であるクラスターイオン16を用いて、GCIB照射を行うのに並行して、ガスノズル18から反応性ガス19を磁気抵抗効果素子の側壁部に供給する。
尚、反応性ガスは、例えば、F2、CHF3、CF4、C2F6、C2HF5、CHClF2、NF3、SF6、ClF3、Cl2、HCl、CClF3、CHCl3、CBrF3、Br2、CO2、CO、N2、O2、NH3、N2O、CH3OCH3、HF、HNO3、H3PO4、H2SO4、H2O2、及び、CH3COOHのうちから選択される1つの分子を含む。
これにより、再付着層20の除去を効率的に行うことができる。
また、例えば、Sb−クラスターイオンの照射に並行して、ガスノズル18から酸素ガス(O2)19を供給すると、トンネルバリア層(MgO)、再付着層(CoFeB)、酸素ガス(O2)及びSb原子が混合し、結果として、再付着層20が、酸化層としての絶縁層に変換される。
尚、この効果は、ガス19の種類として、N2O、CO2、CO、N2などを使用するときにも得ることができる。
[GCIB照射装置の概要]
図28は、上述の第1乃至第7の実施例に使用するGCIB照射装置の概要を示している。
高圧の原料ガスは、クラスター生成部のラッパ状のノズル101から、真空中に噴出される。これにより、真空中に噴出された複数の原子又は複数の分子は、断熱膨張により凝縮温度まで冷却され、ファンデルワールス力により互いに結合し、ガスクラスターが生成される。
ガスクラスターは、スキマー部102を経由して、ガスクラスターのイオン化部103に移動する。ガスクラスターのイオン化部102では、例えば、イオン源から電子がガスクラスターに向かって放出される。電子がガスクラスターに衝突した際に、その衝撃により、ガスクラスターから、さらに複数の電子が放出される。
その結果、ガスクラスターは、正の電荷を帯びたイオンとなる。
このようにして形成されたガスクラスターイオンは、イオン引き出し/加速部104により、加速される。イオンの加速電圧又はクラスターに与える加速エネルギーは、このイオン引き出し/加速部104により設定される。
そして、加速されたガスクラスターイオンは、照射部(レンズ部)105により、照射位置のアライメントを実行した後に、サンプル106に照射される。
[適用例]
上述の各実施例に係わる磁気抵抗効果素子は、高記録密度のハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)の磁気ヘッドや、高集積化された磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM:Magnetic Random Access Memory)のメモリセルなどのストレージデバイスに適用可能である。
ここでは、各実施例の製造方法を磁気メモリに適用した場合を説明する。
図29は、磁気メモリを示している。
この磁気メモリは、例えば、磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)である。MRAMは、少なくとも1個のメモリセルを有している。MRAMが複数個のメモリセルを備えるときは、複数のメモリセルは、マトリクス状に配列され、メモリセルアレイを構成する。1個のメモリセルは、磁気抵抗効果素子を備え、図29は、磁気抵抗効果素子について示している。
半導体基板21上には素子22が配置される。例えば、1個のメモリセルが1個のスイッチ素子と1個の磁気抵抗効果素子を備えるときは、素子22は、MOSトランジスタなどのスイッチ素子である。素子22は、層間絶縁層23に覆われ、コンタクトプラグ24は、素子22に電気的に接続する。
下地層11は、コンタクトプラグ24上に配置される。下地層11は、磁気抵抗効果素子の下部電極として機能していてもよいし、下地層11の他に、別途、下部電極を設けてもよい。
第1の磁性層(磁気フリー層)12は、下地層11上に配置される。第1の磁性層12は、その磁化方向が膜面に対して略垂直かつ可変である。トンネルバリア層13は、磁気フリー層12上に配置される。下地層11は、例えば、磁気フリー層12の磁化方向を膜面に対して略垂直に向けるために必要な層である。
磁気フリー層12は、例えば、Pd(厚さ0.4nm)とCo(厚さ0.4nm)とからなる層を6回積み重ねた構造と、この構造上のTa(厚さ0.3nm)及びCoFeB(厚さ1nm)とを備える。
また、トンネルバリア層13は、例えば、体心立方格子(BCC:Body-centered cubic lattice)構造で、(001)面に配向したMgO層(厚さ1nm)から構成される。
磁気ピンド層14は、トンネルバリア層13上に配置される。磁気ピンド層14は、その磁化方向が膜面に対して略垂直かつ不変である。磁気ピンド層14は、例えば、CoFeB(厚さ1nm)を備える。磁気ピンド層14としては、さらに、Ta(厚さ4nm)、Co(厚さ4nm)、Pt(厚さ6nm)/Co(厚さ4nm)を備えていてもよい。
ハードマスク層15は、磁気ピンド層14上に配置される。ハードマスク層15は、例えば、Ta層を含む。ハードマスク層15は、磁気抵抗効果素子の上部電極として機能していてもよいし、ハードマスク層15の他に、別途、上部電極を設けてもよい。また、本例では、磁気ピンド層14は、ハードマスク層15をマスクにしてパターニングされるが、磁気フリー層12及びトンネルバリア層13は、パターニングされない。
ここで、磁気フリー層12及び磁気ピンド層14に関して、磁化方向が膜面に対して略垂直とは、膜面に対して垂直となる場合の他、磁気フリー層12と磁気ピンド層14との磁化状態(平行/反平行)を判別可能な範囲(例えば、膜面に対してθ(45°<θ≦90°(垂直))の範囲)も含むものとする。
磁気フリー層12は、例えば、不活性領域(磁気的及び電気的に不活性な領域)17を有する。磁気抵抗効果素子の磁気フリー層として実際に機能する部分は、不活性領域17以外の活性領域(磁気的及び電気的に活性な領域)である。
磁気フリー層12、トンネルバリア層13及び磁気ピンド層14により磁気抵抗効果素子が構成される。そして、磁気抵抗効果素子に、膜面に対して垂直方向にスピン注入電流を流すことにより磁気フリー層12の磁化反転を行う。
スピン注入電流は、スピン偏極された電子を発生し、その角運動量が磁気フリー層12内の電子に伝達されることによって磁化反転(スピンの向き)が反転する。この方式によれば、スピン注入電流の向きを制御することによって、磁気フリー層12の磁化方向を制御することができる。
これに対して、磁気ピンド層14の磁化方向は、不変である。ここで、磁気ピンド層14の磁化方向が不変である、とは、磁気フリー層12の磁化方向を反転するための磁化反転電流を磁気ピンド層14に流したときに、磁気ピンド層14の磁化方向が変化しないことを意味する。
従って、磁気フリー層12として、磁化反転電流の小さい磁性層を用い、磁気ピンド層14として、磁化反転電流の大きい磁性層を用いれば、磁化方向が可変の磁気フリー層12と、磁化方向が不変の磁気ピンド層14とを実現できる。
また、スピン偏極された電子により磁化反転を引き起こす場合、その磁化反転電流は、減衰定数、異方性磁界、及び、磁気抵抗効果素子の体積に比例するため、これらを適切に調整することにより、磁気フリー層12と磁気ピンド層14との磁化反転電流に差を設けることができる。
尚、図29内の矢印は、磁化方向を示している。磁気ピンド層14の磁化方向は、一例であって、上向きに代えて、下向きにしてもよい。
磁気フリー層12及び磁気ピンド層14は、それぞれ、膜面に略垂直の磁気異方性を有するため、それらの磁化容易軸方向は、膜面に対して略垂直である(以下、垂直磁化という)。即ち、磁気抵抗効果素子は、磁気フリー層12及び磁気ピンド層14の磁化方向がそれぞれ膜面に対して略垂直である、いわゆる垂直磁化型の磁気抵抗効果素子である。
尚、磁化容易軸方向とは、あるマクロなサイズの強磁性体を想定して、外部磁界がない状態で自発磁化がその方向を向くと最も内部エネルギーが低くなる方向である。磁化困難軸方向とは、あるマクロなサイズの強磁性体を想定して、外部磁界がない状態で自発磁化がその方向を向くと最も内部エネルギーが大きくなる方向である。
絶縁層25,26は、磁気ピンド層14が多層であるときに、各層の側面に隙間を設けることなく、その側面を覆うためのものである。層間絶縁層27は、例えば、酸化Si(SiO2)又は窒化Si(SiN)である。層間絶縁層27の上面は、平坦化され、かつ、ハードマスク層15の上面は、層間絶縁層27から露出する。
そして、導電線(例えば、ビット線)28は、ハードマスク層(電極層)15に接続される。導電線28は、例えば、アルミニウム(Al)又は銅(Cu)である。
以上の磁気メモリにおいて、下地層11は、例えば、下部電極としての厚い金属層と、磁気フリー層12の磁化方向を膜面に対して略垂直にするためのバッファ層とで構成することができる。下地層11は、タンタル(Ta)、銅(Cu)、Ru(Ru)、イリジウム(Ir)等の金属層が積層された積層構造を有していてもよい。
磁気フリー層12及び磁気ピンド層14は、例えば、(1) FePd、FePt、CoPd、CoPt等のL10構造又はL11構造を持つ強磁性材料、(2) TbCoFe等のフェリ磁性材料、(3) NiFe、Co等の磁性材料とCu、Pd、Pt等の非磁性材料との積層構造からなる人工格子等を用いることができる。
トンネルバリア層13は、例えば、酸化マグネシウム(MgO)、Mg窒化物、酸化アルミニウム(Al2O3)、Al窒化物、又は、これらの積層構造等を用いることができる。
ハードマスク層15は、タンタル(Ta)、タングステン(W)等の金属、又は、窒化Ti(TiN)、窒化TiSi(TiSiN)、窒化タンタルSi(TaSiN)等の導電性化合物を用いることができる。
尚、磁気フリー層12及び磁気ピンド層14は、それぞれ、その磁化方向が膜面に対して略平行であっても構わない。
ここで、磁気フリー層12及び磁気ピンド層14に関して、磁化方向が膜面に対して略平行とは、膜面に対して平行となる場合の他、磁気フリー層12と磁気ピンド層14との磁化状態(平行/反平行)を判別可能な範囲(例えば、膜面に対してθ(0(平行)≦θ<45°)の範囲)も含むものとする。
この場合、磁気フリー層12及び磁気ピンド層14は、それぞれ、膜面に略平行の磁気異方性を有するため、それらの磁化容易軸方向は、膜面に対して略平行である(以下、面内磁化という)。即ち、磁気抵抗効果素子は、磁気フリー層12及び磁気ピンド層14の磁化方向がそれぞれ膜面に対して略平行である、いわゆる面内磁化型の磁気抵抗効果素子である。
面内磁化を実現する磁気フリー層12及び磁気ピンド層14としては、例えば、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)の群から選択される少なくとも1つの原子を含む磁性金属を挙げることができる。
尚、磁気抵抗効果素子として、垂直磁化型を採用するか、又は、面内磁化型を採用するかは、MRAMに必要とされる特性に応じて、適宜、使い分けることができる。
以上の磁気メモリは、スピン注入磁化反転方式、即ち、磁気抵抗効果素子に書き込み電流としてのスピン注入電流を流し、そこで発生するスピン偏極された電子を用いて磁化反転を実行する方式を採用する。
ここで、磁気フリー層に作用する磁気ピンド層からの漏洩磁界は、普通には磁気フリー層の磁化を磁気ピンド層の磁化と平行にする方向に作用する。しかし、磁気フリー層が磁気ピンド層よりも大きい場合には、磁気ピンド層からの漏洩磁界が磁気フリー層に不均一に働くため、スピン注入による磁化反転特性が劣化するという問題が生じる。そのため、磁気フリー層のサイズは、磁気ピンド層のサイズと同じ又はそれよりも小さくするのが望ましい。
また、スピン注入磁化反転方式を採用する磁気抵抗効果素子であって、特に、垂直磁化膜を用いる磁気抵抗効果素子では、磁気フリー層を下側(基板側)にして形成すると、磁気特性が向上する。
図30乃至図38は、上述の磁気メモリの製造方法を示している。
まず、図30に示すように、半導体基板21上に素子22を形成する。素子22は、MOSトランジスタなどのスイッチ素子、FEOL(Front End Of Line)などの導電線を含む。また、素子22上に層間絶縁層23を形成し、この層間絶縁層23内に素子22に達するコンタクトプラグ24を形成する。
この後、CMP(Chemical Mechanical Polishing)及びエッチバックにより、相間絶縁層23の上面を平坦化する。層間絶縁層23は、例えば、酸化Si(SiO2)であり、コンタクトプラグ24は、例えば、タングステン(W)である。
次に、図31に示すように、例えば、スパッタ法を用いて、コンタクトプラグ24上に、下地層11、磁気フリー層12、トンネルバリア層13、磁気ピンド層14及びハードマスク層15を、順次、形成する。
下地層11は、例えば、磁気フリー層12の磁化方向を膜面(下地層の上面)に対して垂直方向に向けるために必要な層である。磁気フリー層12は、例えば、Pd(厚さ0.4nm)とCo(厚さ0.4nm)とからなる層を6回積み重ねた構造と、この構造上のTa(厚さ0.3nm)及びCoFeB(厚さ1nm)とを備える。
また、トンネルバリア層13は、例えば、体心立方格子(BCC)構造で、(001)面に配向したMgO層(厚さ1nm)から構成される。
磁気ピンド層14は、例えば、CoFeB(厚さ1nm)を備える。磁気ピンド層14は、さらに、Ta(厚さ4nm)、Co(厚さ4nm)、Pt(厚さ6nm)/Co(厚さ4nm)を備えてもよく、この場合、磁気抵抗効果素子の磁気的バイアスを調整できる。
ハードマスク層15は、例えば、タンタル(Ta)層から構成される。
尚、磁気ピンド層14は、それからの漏洩磁界を打ち消す働きを持つバイアス磁界層を含んでいてもよい。また、下地層11についても、同様に、バイアス磁界層を含んでいてもよい。
次に、図32及び図33に示すように、周知の技術であるリソグラフィ及びガスクラスターイオンビームエッチングを用いて、磁気抵抗効果素子のパターニングを行なう。
即ち、図32に示すように、PEP(Photo engraving process)を用いて、ハードマスク層15上にフォトレジスト層を形成し、このフォトレジスト層をマスクにして、ハードマスク層15をパターニングする。この後、フォトレジスト層を除去する。
続けて、図33に示すように、ハードマスク層15をマスクにして、クラスターサイズが、2以上、1000以下であるガスクラスター16aを用いて、GCIBエッチングにより、磁気ピンド層14をパターニングする。
ここで、磁気ピンド層14は、トンネルバリア層13が露出するまでエッチングしてもよいし、エッチング領域においてトンネルバリア層13上に磁気ピンド層14を残し、トンネルバリア層13が露出しないようにしてもよい。
一般的には、トンネルバリア層13は極薄のため、トンネルバリア層13が露出した時点でエッチングを止めることは難しく、磁気フリー層12までエッチングしてしまうオーバーエッチングを考慮すると、磁気ピンド層14のエッチングは、途中(トンネルバリア層13が露出する前)に止めるのが望ましい。
次に、図34に示すように、ハードマスク層15をマスクにして、磁気フリー層12及び磁気ピンド層14に対して、非磁性化のためのGCIB照射を行う。
GCIB照射に用いるクラスター16bは、例えば、N2O、O、N、F、Cl、Ru、Si、B、C、Zr、Tb、Ti、P、Asのうちの1つを備える。また、GCIB照射に用いるクラスターの合計数をNとし、クラスターの平均原子数をAとしたとき、N×A>1×1017cm−2にするのが望ましい。
本例では、GCIB照射に用いるクラスターは、Nクラスターとし、これを、例えば、加速電圧5kVでイオンビーム照射する。Nクラスターの合計数Nは、例えば、1×1014cm−2であり、クラスターの平均原子数Aは、例えば、2000であり、N×Aは、例えば、2×1017cm−2である。この時、1原子当たりの平均エネルギーは、2.5eVである。
このGCIB照射により、磁気フリー層12及び磁気ピンド層14の一部が非磁性化及び高抵抗化され、その部分は、磁気的及び電気的に不活性な領域(不活性領域)17となる。不活性領域17は、ハードマスク層15により覆われていない部分にできるが、ハードマスク層15に覆われた部分にも多少形成される。
また、酸素を含むクラスターを、同時に、若しくは、順次に、照射することで照射部分の電気伝導率を確実に低下させることができるため、電流リークによる書き込み/読み出し効率の低下を防ぐことができる。また、GCIB照射により、磁気ピンド層14の不活性部分が除去される場合は、電流リークを確実に防ぐことができ、書き込み/読み出し効率の上昇を図ることができる。
また、この後、GCIB、若しくは、モノマーイオンビーム等のエッチング手段を用いて、不活性領域17の物理的な除去を行うことができる。
次に、図35に示すように、磁気ピンド層14及びハードマスク層15を覆う絶縁層25,26を形成する。この絶縁層25,26は、磁気ピンド層14が多層であるときに、各層の側面に隙間を設けることなく、その側面に付着する。
次に、図36に示すように、周知の技術であるリソグラフィ及びエッチングを用いて、磁気抵抗効果素子のパターニングを行なう。このパターニングは、磁気フリー層12、トンネルバリア層13及び磁気ピンド層14について行なう。
即ち、絶縁層26上にフォトレジスト層を形成した後、フォトレジスト層をマスクにして、RIEにより、絶縁層25,26、磁気ピンド層14、トンネルバリア層13、磁気フリー層12及び下地層11をエッチングし、独立した磁気抵抗効果素子を形成する。
ここで、この段階における磁気抵抗効果素子のパターニングでは、磁気フリー層12及び磁気ピンド層14の不活性領域17について行うため、仮に、金属の再付着物が、磁気フリー層12/トンネルバリア層13/磁気ピンド層14の側壁に付着したとしても、何ら問題が発生することはない。
この後、磁気抵抗効果素子を覆う層間絶縁層27を形成する。層間絶縁層27は、例えば、酸化Si(SiO2)又は窒化Si(SiN)である。この後、CMP法を用いて、層間絶縁層27の上面を平坦化する。
次に、図37に示すように、CMP法を用いて、層間絶縁層27の上面をさらに研磨し続け、ハードマスク層15の上面を露出させる。
最後に、図38に示すように、層間絶縁層27上に、ハードマスク層15に接続される導電線28を形成する。導電線28は、例えば、アルミニウム(Al)又は銅(Cu)である。
以上の製造方法により磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)の磁気抵抗効果素子を形成したところ、スピン注入磁化反転に必要とされる電流密度のマージンを広げることが可能になり、スピン注入磁化反転特性の向上、さらには、磁気抵抗効果素子の歩留りの向上を実現できた。
尚、磁気抵抗効果素子は、トップピン型であってもよいし、ボトムピン型であってもよい。また、本実施形態は、磁気抵抗効果素子の加工・処理等に顕著な効果を有するが、その他の金属、半導体、絶縁体等の加工・処理等に対しても適用可能である。
例えば、被パターニング層(金属、半導体、絶縁体等)を形成し、被パターニング層上にハードマスク層を形成する。そして、ハードマスク層をマスクにして、クラスターイオンビームにより、被パターニング層をパターニングする。
この時、クラスターイオンビームを構成するクラスターイオンは、上述の実施形態で示したように、クラスターサイズの分布を持ち、クラスターサイズの分布のピーク値は、2以上、1000以下であるように設定する。
これにより、被パターニング層の加工精度と特性の向上とを同時に図ることができる。
[むすび]
実施形態によれば、クラスターイオンビームを用いた新たな磁気抵抗効果素子の製造方法を実現できる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。