JP5830234B2 - Cu−Zn系銅合金板材 - Google Patents

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この発明は、電子機器、精密機械等に使用される金属部品、特に切削加工により製造される銅合金部品に関し、さらにこの銅合金部品に適する銅合金材に関するものである。
金属部品を製造する方法として旋削、穿孔などの切削加工がある。切削加工は、特に複雑な形状を持つ部品や高い寸法精度を要する部品の製造には有効な加工方法である。切削加工を行う場合、被削性がしばし問題となる。被削性には切削屑処理、工具寿命、切削抵抗、切削面粗さなどの項目があり、これらが向上するように材料に改良が施されている。
銅合金は、強度が高い、導電性・熱伝導性に優れる、耐食性に優れる、色調に優れるなどの理由から多くの金属部品に使用されている。切削による加工も多く実施されており、例えば水道の蛇口、バルブ、歯車、装飾品などの用途があり、黄銅(Cu−Zn系)、青銅(Cu−Sn系)、アルミ青銅(Cu−Al系)、洋白(Cu−Zn−Ni系)に被削性を向上させるために鉛を添加した合金が使用されている(特許文献1〜4参照)。
このように銅合金材の被削性を向上させるために、一般的には鉛が添加されている。これは、鉛が銅合金に固溶しないため材料内に微細に分散し、切削加工時に切削屑がその部分で分断されやすくなることによる。しかし、鉛は人体や環境に影響を及ぼすとされていることから使用が制限されつつあり、鉛を含有せずに被削性を向上させた材料の要求が高まっている。鉛を含有する銅合金の代替材料として、黄銅や青銅にビスマスを添加した銅合金(特許文献5〜6参照)が知られている(特許文献5〜6参照)。また黄銅では、亜鉛濃度を高くして銅−亜鉛系化合物であるβ相やγ相を形成させ、あるいはケイ素を添加して銅−亜鉛−ケイ素系化合物であるκ相を形成させ、これらの化合物を切削屑分断の起点として作用させることで被削性を向上させることも知られている(特許文献7、8)。
特開昭60−056036号公報 特開昭58−113336号公報 特開昭51−101716号公報 特開平01−177327号公報 特開2001−059123号公報 特開2000−336442号公報 特開2000−319737号公報 特開2004−183056号公報
しかし、各特許文献に記載された技術は、以下の問題点を有する。特許文献1〜4の各技術では、前述のとおり被削性を向上させるための添加元素として鉛を用いており、環境への負荷が懸念される。また、特許文献5および6の技術では、ビスマスを添加すると被削性は改善されるが、加工中に割れやすくなり、特に熱間加工が困難となる。すなわち、熱間加工性の改善を図ることが改めて必要となる。特許文献7および8では、銅−亜鉛系化合物のγ相や銅−亜鉛−ケイ素系化合物のκ相は被削性を向上させるが、脆弱な相であるために冷間加工性に劣る。
上述のように鉛を含有しない従来の被削銅合金の発明では、被削性と加工性(熱間加工・冷間加工性)との両立が課題として残されている。歯車、時計地板等の精密機械用の金属部品には、板の形状の金属素材からプレス加工後切削加工を施す、などの工程にて作成されるため、板形状までの加工が可能な銅合金材料が求められる。しかしながら、板形状への加工が可能な銅合金は被削性が不十分であり、まだに鉛を含有させた被削黄銅が使用されているのが現状であり、環境および人体への影響から鉛を含有せずに被削性を向上させたCu−Zn板の開発が望まれている。
このような問題に鑑み本発明はなされたもので、被削性および展伸性に優れ、環境負荷を軽減するCu−Zn合金板材を提供することを課題とするものである。
本発明者らは鋭意検討した結果、特定の組成のCu−Zn系合金において、Cu−Zn系以外の金属間化合物が、サイズ(平均径)が1μm以上10μm以下で、且つ、面積率1%以上10%以下に均一分散することによって、展伸性(熱間圧延性・冷間圧延性)および被削性に優れるCu−Zn合金を見出し、また上述の化合物を得るための組成を見出した。
すなわち、本発明は、以下の解決手段を提供するものである。
(1)Znを15〜45mass%、Siを0.7〜2.0mass%含有し、さらにNi 3.0〜4.75mass%およびCr 0.2〜2.5mass%から選ばれる1種または2種を含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる銅合金であって、金属間化合物が母相に分散しており、該金属間化合物の平均径は1〜10μmであり、該金属間化合物の面積率は1〜10%であることを特徴とする切削加工に用いるCu−Zn系銅合金材、
(2)Znを15〜45mass%、Siを0.7〜2.0mass%含有し、さらにNi 3.0〜4.75mass%およびCr 0.2〜2.5mass%から選ばれる1種または2種と、MgおよびSnから選ばれる1種を単独で0.05〜0.3mass%、又は、両者を併せて総量で0.1〜0.5mass%含有し残部がCuおよび不可避的不純物からなる銅合金であって、金属間化合物が母相に分散しており、該金属間化合物の平均径は1〜10μmであり、該金属間化合物の面積率は1〜10%であることを特徴とする切削加工に用いるCu−Zn系銅合金材、及
)(1)または(2)記載の切削加工に用いるCu−Zn系銅合金材を切削加工して用いてなる電子機器用または精密機械用の金属部品
である。
本発明のCu−Zn銅合金材は、鉛などの環境負荷物質を利用することなく、被削性に優れ展伸性(熱間圧延性・冷間圧延性)が良好である。また、本発明の銅合金材は、切削加工により製造される精密部品等の部品用材料として好適である。
本発明において銅合金材とは、その形状や厚さや幅を制限するものでないが、好ましくは板材であり、外観的にはいわゆる条材といわれるものも包含する。
本発明の銅合金材の好ましい実施の態様について、詳細に説明する。まず、各合金元素の作用効果とその含有量の範囲について説明する。
本発明の銅合金材に好ましい実施の態様において亜鉛(Zn)は、母相を強化し被削性を向上させると共に、被削後の表面を円滑にする。その添加量はα相もしくはα+β2相の組織を呈する範囲が好ましく、15〜45mass%を含有することが好ましい。より好ましくは20〜40mass%である。15mass%未満だと母相の強化が足りなく被削性が劣り、45mass%を超えて添加した場合、γ相などの相が形成するため冷間加工性が劣化する。
ニッケル(Ni)とケイ素(Si)は、NiとSiの含有比を制御することにより金属母相中に金属間化合物であるNi−Si析出物(NiSi、NiSiなど)を形成させる。それら金属間化合物を制御し母相に分散させることで、材料の被削性を向上させる。Niの含有量は3.0〜4.75mass%、好ましくは3.5〜4.5mass%であり、Siの含有量は0.7〜2.0mass%、好ましくは0.8〜1.5mass%である。Ni量が3.0mass%より少ないと、Ni−Si析出物による被削性向上効果が得られない。Ni量が4.75mass%を超えて添加された場合は、被削性に寄与する化合物のサイズが大きくなりすぎて、被削性向上に寄与しなくなる。Si量が0.7mass%より少ない場合には、Ni−Si析出物による被削性向上効果が得られない。Si量が2.0mass%を超えて添加された場合、Cu−Zn−Si系のκ相が形成し、冷間加工性を著しく劣化させる。
Cr(クロム)はSiと複合で添加することによりその効果を発揮する。Cr−Si化合物(CrSiなど)を形成し、材料の被削性を向上させる。Crの含有量は0.2〜2.5mass%、好ましくは0.2〜2.0mass%である。0.2mass%未満では、Cr−Si化合物の形成量が少なく、被削性の向上が期待できない。2.5mass%を超えて添加した場合には、熱間加工性を劣化させる。
さらにSi、Ni及びCrが上記の含有量で共存する場合は(Ni,Cr)Siなどの金属間化合物などが析出し、銅母相を強化して屑の分断性に寄与するという付加的な効果がある。
さらに、本発明の銅合金材に対して、Mg(マグネシウム)およびSn(錫)は母相に固溶することで母相を強化し、被削性を向上させる効果があり、これらをさらに添加しても良い。MgおよびSnの添加量は各々0.05mass%〜0.3mass%、MgとSnを複合で添加する場合には合わせて、0.1mass%〜0.5mass%が望ましい。含有量が0.05mass%より少ない場合は、強度向上や被削性改善の効果がこれらの元素を含有しない場合と変わらなくなる。また、含有量が上述の範囲より多い場合は、強度および被削性向上の効果が飽和する。
次に、被削性向上に寄与する金属間化合物のサイズと面積率の規定、並びに特徴について述べる。金属間化合物は、切削加工時に発生する切削屑を細かく分断する作用があり、それにより被削性が向上する。ただし、サイズ(平均径)が1μmより小さいと、大きな効果は得られない。またサイズが10μmより大きい場合にもまた、被削性向上への寄与が小さくなり、切削屑分断性が劣化する。金属間化合物のサイズは好ましくは2〜8μmである。
また、サイズ(平均径)が1μm以上の金属間化合物があったとしても、トータルの面積率が小さいと切削屑は細かく分断されない。具体的には、1μm以上の平均径の金属間化合物が面積率で1〜10%の密度で分布していないと、切削屑が十分には分断されない。面積率は好ましくは4.5〜9.5%である。
次いで、本発明の好ましい実施の態様における製造条件について述べる。本発明の銅合金材の製造工程は、常法により製造した上記合金組成の鋳塊を、熱間加工後、冷間加工、熱処理の一連の工程を含む製造工程で処理して行うことができる。上記の金属間化合物は熱間圧延もしくはその後の熱処理にて析出する。そのため、熱間圧延から熱処理までの一連の工程を制御することが必要となる。
熱間圧延前の、合金組成物(鋳塊)の保持温度は700〜850℃好ましくは700〜800℃で行い、保持時間は1〜2時間、好ましくは1〜1.5時間である。保持温度が850℃を超えて高い場合、Cu−Zn系の相が溶解する可能性がある。700℃未満の場合、熱間圧延前に金属間化合物が多く析出するため、熱間加工性を低下するおそれがある。熱間圧延中に一部金属間化合物が析出する。そのため、熱間圧延は550℃までで完了することが望ましい。550℃以下では、金属間化合物が微細であり、被削性の向上が見込めない形状で形成する。熱間圧延の圧下率は特に制限するものではないが好ましくは10〜30%である。熱間圧延後は速やかに水冷を行い、金属組織変化を抑制する。
熱間圧延後は、酸化膜の除去を実施後、冷間圧延を実施することが必要である。冷間加工は次工程の熱処理で、母相を均一な結晶粒にするための再結晶を促す。また、冷間加工時に導入される転位は、粒界に形成し易い金属間化合物を均一に析出することを促し、被削性が向上させる。冷間圧延の圧下率は特に制限するものではないが、好ましくは5〜50%である。
冷間加工後の熱処理は550〜850℃、好ましくは600〜800℃で、0.5〜6時間好ましくは1〜4時間で行う。550℃未満では、金属間化合物のサイズが小さく被削性向上に寄与しない。850℃を超えて高い場合、Cu−Zn系の相が溶解する可能性がある。0.5時間未満では、金属間化合物の形成量が不十分となり、6時間を超える場合には、金属間化合物のサイズが大きくなり、被削性を低下させる。上述の温度範囲内において低温の場合は、比較して長時間の熱処理を行い、金属間化合物のサイズおよび形成量を所望の値になるように調整する。また、上述の温度範囲内において、一度高温で熱処理を実施した後、続けて低温で複数回熱処理しても良い。
熱処理後は、用途に応じて、さらなる冷間加工および歪み取り焼鈍を実施しても良い。歪み取り焼鈍は、前述の熱処理で形成した金属間化合物の状態に影響を与えない温度で実施することが望ましい。
以下に、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
表1の合金成分で示される組成の銅合金原料を高周波溶解炉にて溶解し、厚さ30mm、幅120mm、長さ150mmの鋳鉄製鋳型に鋳造し鋳塊を得た。次にこれら鋳塊を800℃に加熱し、この温度に1時間保持後、厚さ12mmに熱間圧延施した。熱間圧延は600℃以上で完了し、その後速やかに水冷を行った。次いで両面を各1.5mmずつ切削して酸化皮膜を除去したのち、冷間圧延により厚さ3mmまで加工した。この際、比較例6はCrが多すぎたため、熱間圧延中にコバ割れを発生し、次工程以降を中止した。また、比較例7はSiが多すぎたために冷間圧延中に割れを発生し、次工程以降を中止した。
その後、発明例および比較例に関して、Arガス雰囲気炉にて熱処理を施した。熱処理の条件は次の通りである。発明例1〜9および14〜17、比較例1〜4については、800℃で1時間の熱処理を施し室温まで炉内で冷却した。比較例9および10については、780℃で1時間の熱処理を施し室温まで炉内で冷却した。発明例10に関しては、840℃で2時間の熱処理を施し、室温まで炉内で冷却した。発明例11に関しては、550℃で3時間の熱処理を施し室温まで炉内で冷却した。発明例12に関しては、650℃で0.5時間の熱処理を施し室温まで炉内で冷却した。発明例13に関しては、800℃で時間の熱処理後に一度水冷を行った後に、続けて、500℃で5時間の熱処理を施し室温まで炉内で冷却した。比較例5については、400℃で3時間の熱処理を施し室温まで炉内で冷却した。比較例6については、840℃で8時間の熱処理を施した。
このようにして得られた各々の銅合金板材のサンプルについて被削性を調べた。被削性として、汎用ボール盤を用いて切削屑の分断性を評価した。切削屑(厚さ約0.1mmの切削)が5mm以下に分断されるものは良、切削屑が分断されるがその長さが5mmを超えるものは可、切削屑が螺旋状につながっているものは不良とした。使用可能な水準は良および可である。なお切削条件は、2mmφの超硬製ドリルを用い、回転数420rpmとし、切削油は不使用とした。
また得られた銅合金板材において母相中に金属間化合物が分散していることは走査型電子顕微鏡(SEM)による観察で確認された。
また、母相中に分散した金属間化合物のサイズと面積率は、板状サンプルの任意の3か所の圧延面について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてそれぞれ3視野について組織観察を行うことにより求めた。粒子サイズ(金属間化合物を円と仮定したときの直径相当径)は、1視野当たり20個の、金属間化合物のサイズを測定し、その平均をとった。面積率は、1視野に見られる、金属間化合物の数をカウントし、金属間化合物を円と仮定して平均径より求めた面積を乗じることで、金属間化合物の1視野当たりの総面積を求め、1視野の面積で除することで求めた。
表1に結果を示す。本発明例1〜17は、成分が本発明の範囲内であり、いずれも、板形状の加工が可能であった。金属間化合物の粒子サイズは1〜10μmを、金属間化合物の面積率は〜10%を満足しており、被削性も満足している。
比較例1〜10は、本発明の範囲外の例である。比較例1および3はNiおよびSi量が発明の範囲外であり、金属間化合物の粒子サイズが発明の範囲より小さいため、被削性が劣った。比較例2および4はNi量が本発明の範囲外であり、金属間化合物の粒子サイズおよび粒子面積率が本発明の範囲外であったため、被削性が劣った。比較例5および6は金属間化合物の粒子サイズが本発明の範囲外であったため、被削性が劣った。比較例7および8は、Cr量およびSi量が多いため、板形状への加工が不可であった。比較例9はNiおよびSiを含有していないため、粒子面積率が本発明の範囲外であ、被削性が劣った。また、比較例10はNiおよびCrのいずれも含有せず、さらに、Siを含有していないため、粒子サイズおよび粒子面積率が本発明の範囲外であり、被削性が劣った。
Figure 0005830234

Claims (3)

  1. Znを15〜45mass%、Siを0.7〜2.0mass%含有し、さらにNi 3.0〜4.75mass%およびCr 0.2〜2.5mass%から選ばれる1種または2種を含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる銅合金であって、金属間化合物が母相に分散しており、該金属間化合物の平均径は1〜10μmであり、該金属間化合物の面積率は1〜10%であることを特徴とする切削加工に用いるCu−Zn系銅合金材。
  2. Znを15〜45mass%、Siを0.7〜2.0mass%含有し、さらにNi 3.0〜4.75mass%およびCr 0.2〜2.5mass%から選ばれる1種または2種と、MgおよびSnから選ばれる1種を単独で0.05〜0.3mass%、又は、両者を併せて総量で0.1〜0.5mass%含有し残部がCuおよび不可避的不純物からなる銅合金であって、金属間化合物が母相に分散しており、該金属間化合物の平均径は1〜10μmであり、該金属間化合物の面積率は1〜10%であることを特徴とする切削加工に用いるCu−Zn系銅合金材。
  3. 請求項1または2記載の切削加工に用いるCu−Zn系銅合金材を切削加工して用いてなる電子機器用または精密機械用の金属部品。
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