JP5040140B2 - Cu−Ni−Si−Zn系銅合金 - Google Patents

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Description

本発明は、コネクタ、リレー、スイッチ、ソケット、リードフレーム等の電気・電子部品に適したCu−Ni−Si−Zn系銅合金に関する。
近年のエレクトロニクスの発達により、様々な機械の電気配線は複雑化、高集積化が進み、コネクタ、リレー、スイッチ等の電気・電子部品には一層の軽量化や信頼性向上が望まれている。特にパーソナルコンピュータや携帯電話などに使用されるコネクタ、ソケットなどでは、省スペース化と高機能化が同時に進んでおり、これらの通電部品を構成する銅合金に対しては、薄肉化した状態で従来の材料と同等以上のばね特性や信頼性を発揮できる優れた特性が求められている。具体的には、小型化・薄肉化に対応するための「強度」および「ばね特性」の向上、複雑な部品の形状に対応するための「プレス加工性」や「曲げ加工性」の向上、単位断面積あたりの通電量の増加、電気信号の高速化に対応するための「導電性」の向上、などが求められている。更に電気、電子部品は接触信頼性を向上させるために用途に応じてSn、Ag、Au等のめっきが施されることが多く、また、はんだ付け工程を伴うことも多い。このため、「めっき密着性」や「はんだ濡れ性」が良好であることも重要である。自動車向けのコネクタ材として用いられる場合には、エンジンルーム内の環境に耐えうるように「耐応力緩和特性」に優れることも要求される。
このように、昨今では素材に対する要求がますます厳しくなっているが、その素材の普及を図るには、安価であること、およびリサイクルに寄与できることも重要な条件となる。コストとリサイクル性を考慮すると、各種銅合金スクラップが利用できる合金系を採用することが極めて有利である。例えば、パーソナルコンピュータや携帯電話などに使用されるコネクタではNiめっきが施される場合が多く、自動車向け小型端子などではSnめっきが施されることが多い。また、自動車向け用途では黄銅のSnめっき材が多く使用されている。これらのめっき金属や黄銅の成分であるZnを成分元素として含む合金系によって前記諸特性に優れた材料を開発することができれば、スクラップの利用を通じてコスト低減およびリサイクルの促進にも寄与できる。
強度特性に優れた銅合金としては、リン青銅やベリリウム銅が挙げられる。また、Ni-Si系の金属間化合物を析出させることにより、導電性、強度、ばね特性の改善を図った銅合金としてCu−Ni−Si系合金が挙げられる。
特許文献2にはCu−Ni−Si系合金をベースとしてMgを添加し、強度、耐応力緩和性を改善することが記載されている。特許文献3にはCu−Ni−Si系合金においてNi−Si金属間化合物のサイズなどを制御することによって、はんだ付け性、めっき密着性などを向上させることが記載されている。
一方、特許文献1、4、5、6にはCu−Ni−Si系にZnを加えたCu−Ni−Si−Zn系銅合金が記載されている。Znは比較的安価な元素であり、銅合金に添加することではんだ付け性が改善され、また耐食性の改善効果もある。
特開昭56−90942号公報 特開昭61−250134号公報 特開昭58−123846号公報 特開平2−205645号公報 特開平2−205642号公報 特開平4−224645号公報
しかし、強度に優れるリン青銅は導電率が例えばJIS C5210で12%IACS程度と低く、また耐応力緩和特性についても改善が望まれている。ベリリウム銅はコストが高く、また安定供給にも難がある。Cu−Ni−Si系銅合金は導電性、強度、ばね特性のバランスが比較的良好であるが、薄肉化した材料としては昨今の通電部品に求められる厳しい要求に十分対応できない。特許文献2、3のような第三元素を添加した改良型のCu−Ni−Si系銅合金でも曲げ加工性等が必ずしも十分とは言えず、また、黄銅スクラップを原料として有効利用できないという弱みがある。
特許文献1、4、5、6のCu−Ni−Si−Zn系銅合金の場合は黄銅スクラップが利用できる。またZnを添加することによりはんだ濡れ性が向上する点でも有利である。しかし、Znを添加することにより導電率が低下することから、Zn添加量を1%程度以下と低く抑えることが一般的であり、Zn添加による材料コスト低減効果が十分に享受できていなかった。
また、Znを添加することにより、鋳造工程で発生する酸化物巻き込みが低減できる点では有利となるものの、熱間圧延工程での割れや焼鈍時のふくれ等が発生しやすいという欠点があった。さらに、最終的な板材製品の曲げ加工性や伸びにバラツキが生じやすく、部品への加工時に局部的な破断が発生する場合があるという欠点もあった。
本発明は、通電部品に必要な前記各特性を基本的に具備するCu−Ni−Si−Zn系銅合金において、材料の薄肉化に伴う昨今の厳しい要求に対応すべく、特に強度、導電性、曲げ加工性、はんだ濡れ性の同時改善を図るとともに、製造性が良好で、かつ曲げ加工性のバラツキが少ない、信頼性およびコストメリットの高い銅合金材料を開発し提供しようというものである。
発明者らの詳細な研究の結果、上記目的は、H含有量およびS含有量が厳しく制限され、粗大なボイドや析出物の存在量が一定以下に抑えられたCu−Ni−Si−Zn系銅合金によって達成されることを見出した。
すなわち本発明では、質量%で、Ni:0.4〜4.5%、Si:0.15〜0.9%、Zn:5〜15%を含有し、さらに必要に応じてSn:2.0%以下、あるいはさらにP:0.2%以下を含有し、かつH:0.0003%以下、S:0.002%以下であり、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有し、径が3μm以上のボイドおよび径が3μm以上のNi−Si系析出物の合計存在密度が20個/mm2未満である断面組織を有する銅合金板材が提供される。さらにFe:1.0%以下、Co:4.0%以下、Cr:4.0%以下、B:0.1%以下の1種以上を含有することができる。
このような銅合金のうち、引張強さが680N/mm 2 以上好ましくは750N/mm2以上であり、かつ導電率が25%IACS以上であるものが特に好適な対象となる。また、90°W曲げ試験におけるBWでのMBR/t(tは板厚)が2.0未満となるものが好適な対象となる。200℃×2hの熱履歴を付与した後においても上記MBR/tが2.0未満となるものが一層好ましい。
ここで、ボイド(空孔)およびNi−Si系析出物の「径」は断面組織に現れている長径を意味する。長径は、断面組織の画像上(例えば写真上)において当該ボイドあるいは析出物が内部に含まれる最も小さい円の直径に相当する。断面組織の観察は、材料の圧延方向に垂直な断面について、合計0.20mm2以上の領域を観察して径が3μm以上のボイドおよび径が3μm以上のNi−Si系析出物の合計個数を調べ、1mm2当たりの個数に換算することによって求められる。Ni−Si系析出物は、析出物を構成する元素のうちNiとSiの含有量が合計80質量%以上を占めるものであり、主としてNi2Si相からなるものである。90°W曲げ試験はJBMA T307(日本伸銅協会規格)に準じた試験方法が採用される。
このような銅合金は、溶解・鋳造、熱間圧延、冷間圧延、溶体化処理、時効処理の工程を有する製造法、あるいはさらに冷間圧延、低温焼鈍の工程を有する製造法により銅合金を製造するに際し、鋳造工程においてH含有量が0.0005質量%以下であり、径が5μm以上のボイドおよび径が5μm以上のNi−Si系析出物の合計存在密度が30個/mm2未満である断面組織を有する鋳片を製造し、溶体化処理工程において材料を680〜850℃に保持したのち少なくとも680〜250℃域の平均冷却速度を200℃/min以上として冷却し、時効処理工程において材料を400〜550℃に保持したのち少なくとも450〜150℃域の平均冷却速度を5℃/min以下として徐冷することを特徴とする銅合金の製造法によって得ることができる。
「鋳片」は鋳造された状態の材料であり、鋳塊、連続鋳造による鋳片等が含まれる。鋳片におけるボイドおよびNi−Si系析出物の存在密度は、鋳片の鋳造方向に垂直な断面について、合計1.0mm2以上の領域を観察して径が5μm以上のボイドおよび径が5μm以上のNi−Si系析出物の合計個数を調べ、1mm2当たりの個数に換算することによって求められる。
本発明によれば、コネクタ、リレー、スイッチ等の電気・電子部品に必要な基本特性を具備する銅合金において、特に強度、導電性、曲げ加工性を高水準で同時に改善することが可能になった。この銅合金は、素材の薄肉化に伴う昨今の厳しい要求に対応し得るものである。また、Znを比較的多量に含有することによる素材コストの低減効果が高く、さらにNiめっきやSnめっきを有する銅合金スクラップ、Znを含む黄銅スクラップを原料として使用できるのでリサイクル性にも優れる。また、Znを多く添加することによる製造上の問題点が解決され、バラツキが少ない安定した加工性を呈する銅合金材料が実現できる。したがって本発明は、電気・電子機器の小型・軽量化、性能・信頼性向上、およびコスト低減に寄与するものである。
〔合金組成〕
本発明ではCu−Ni−Si−Zn系銅合金を採用する。
NiおよびSiは、析出物を形成し、強度上昇および導電性・熱伝導度向上に寄与する。その作用を十分に得るには、少なくとも0.4質量%以上のNi含有と、0.15質量%以上のSi含有が必要となる。しかし、これら元素の含有量が多すぎると特に粒界で析出物が粗大化しやすくなり、曲げ加工性の低下を招く。種々検討の結果、Niは4.5質量%以下、Siは0.9質量%以下の範囲で含有させることが望ましい。したがってNi含有量は0.4〜4.5質量%の範囲とすることが望ましく、1.5〜3.5質量%がより好ましい。特に引張強さ750N/mm2以上高強度化を図る場合は、Ni含有量を2.0質量%以上確保することが望ましい。またSi含有量は0.15〜0.9質量%とすることが望ましく、0.3〜0.6質量%がより好ましい。
NiとSiによって形成される析出物は主としてNi2Si系の金属間化合物であると考えられる。ただし、添加したNiおよびSiは時効処理によってすべてが析出物になるとは限らず、ある程度はCuマトリックス中に固溶した状態で存在する。固溶状態のNiおよびSiは、若干の強度上昇をもたらすものの析出状態と比べてその効果は小さく、また導電率を低下させる要因になる。このためNiとSiの含有量の比はできるだけ析出物Ni2Siの組成比に近づけることが望ましい。したがって本発明では質量%で表したNi/Si比を3.5〜6.0の範囲に調整することが好ましい。
Znは、強度およびはんだ付け性を向上させる作用を有する。鋳造時に酸化物等の異物の巻き込みを低減する効果もある。また、Znを添加すると、素材の色が銅色(赤褐色)から黄銅色(金色)に変化するため装飾的な効果を呈するようになるとともに、スクラップの分別も容易になる。さらにZnを合金元素として比較的多量に含むことにより、安価な黄銅スクラップを原料として使用できるメリットがある。Zn含有量が5質量%未満だと黄銅スクラップの使用に大きな制約が生じ、また色の面からも銅との区別がつきにくい。発明者らは種々検討の結果、5質量%以上という比較的多量のZnを含有させた場合でも後述の製造法により導電性が十分確保できることを見出した。一方、Zn含有量が15質量%を超えると製造条件を適正化しても十分な導電性を確保することが難しくなり、曲げ加工性や耐応力腐食割れ性も低下するようになるため、適用可能な用途が限られてしまう。Zn含有量は5〜15質量%の範囲とすることが望ましく、6〜9質量%がより好ましい。
Snは、強度向上や耐応力緩和特性の向上に有効な元素である。これらの作用を十分に引き出すためには0.001質量%以上のSn含有量を確保することが望ましく、0.03質量%以上とすることが一層好ましい。Ni含有量を1.5質量%以上確保したものにおいてSn含有量を0.3質量%以上確保すると、730N/mm2以上の高強度が実現できる。またSnを合金成分とすることによりSnめっきスクラップの使用が可能になり、コスト低減に有利となる。特にZnとSnの両方を合金成分とすることで黄銅のSnめっきスクラップが使用できるようになり、原料コスト低減効果とリサイクル性向上効果が一層高まる。一方、2.0質量%を超えるSn含有は導電性、曲げ加工性、熱間圧延性の低下を招くため好ましくない。Snを含有させる場合は0.01〜2.0質量%の範囲とすることが望ましく、0.03〜2.0質量%とすることがより好ましい。Ni含有量を例えば2.0質量%未満に抑えながら高強度化を図る場合は0.3〜2.0質量%好ましくは0.5〜2.0質量%のSn含有量を確保することが望ましい。
上述のように、ZnおよびSnは、Ni−Si系析出物とともに、本系銅合金の高強度化に寄与する元素である。種々検討の結果、Ni含有量を2.0質量%以上確保し、かつNi/Si比を3.5〜6.0に調整したものにおいては、ZnとSnの総量を一定以上にコントロールすることによって、良好な引張強さと曲げ加工性を両立できることがわかった。すなわち、「Zn+3Sn」が7.0以上となるようにZnを単独で、あるいはZnとSnを複合で添加することによる固溶強化と、Ni2Siの析出強化を組み合わせることによって、引張強さ750N/mm2以上でかつ90°W曲げのBW方向のMBR/tが2.0以下という、極めて高い強度と加工性が両立できるのである。しかも、Znは少なくとも5.0質量%以上含有されるので、優れたはんだ濡れ性も維持される。ここで、「Zn+3Sn」のZnおよびSnの箇所には質量%で表された各元素の含有量の値が代入される。
ただし、Ni−Si系析出物の析出状態が適正化されていることが前提となるため、後述のように、溶体化処理後の冷却速度を十分大きくし、かつ時効処理後の冷却を徐冷とする「溶体化処理」−「時効処理」の組み合わせによって製造することが重要である。
Pは、脱酸剤としての効果があり、鋳造性を改善する。その効果を十分に得るには0.005質量%以上のP含有量を確保することが望ましい。しかし、P含有量が0.2質量%を超えると導電性が著しく低下するようになる。したがってPを含有させる場合は0.005〜0.2質量%の含有量とすることが好ましい。
Feは、固溶強化を呈する元素であり、その作用を十分に発揮させるためには0.005質量%以上の含有量を確保することが望ましい。しかし、Fe含有量が1.0質量%を超えると導電率や曲げ加工性の大幅な低下を招くことがあり好ましくない。したがってFeを含有させる場合は0.005〜1.0質量%の範囲とすることが望ましい。なお、FeはCu−Ni−Si系合金のスクラップから混入しやすい元素であり、そのスクラップを使用することによってFe含有量を上記の範囲に調整することも可能である。
Mgは、熱間加工性、強度、耐応力緩和特性の向上に有効であり、その作用を十分に発揮させるためには0.005質量%以上の含有量を確保することが望ましい。しかし、Mg含有量が0.5質量%を超えると導電率や曲げ加工性の大幅な低下を招くことがあり好ましくない。したがってMgを含有させる場合は0.005〜0.5質量%の範囲とすることが望ましい。なお、MgもFeと同様にCu−Ni−Si系合金のスクラップから混入しやすい元素であり、そのスクラップを使用することによってMg含有量を上記の範囲に調整することも可能である。
CoおよびCrは、いずれもNiと置換することでSiとの金属間化合物をつくり、材料の強度を向上させる。その作用を十分発揮させるためには、Co、Crいずれの場合も0.005質量%以上の含有量とすることが望ましく、0.03質量%以上とすることが一層好ましい。しかし、いずれも4.0質量%を超えて多量に含有させると曲げ加工性と導電率の低下を招く。したがって、CoまたはCrを含有させる場合は、いずれの場合も0.005〜4.0質量%の範囲とすることが望ましく、0.03〜4.0質量%とすることがより好ましく、0.05〜0.5質量%が一層好ましい。
任意添加元素であるSn、P、Fe、Mg、Cr、Coは単独で含有させてもよいし複合して含有させてもよい。
Bは結晶粒径を微細化する作用を有する。結晶粒径の微細化は強度の向上や曲げ加工性の向上に有効である。このような作用を十分に発揮させるためには0.003質量%以上のB添加が効果的である。ただし、0.1質量%を超える過剰なB添加は圧延加工時の割れの原因となる。したがってBを含有させる場合には0.003〜0.1質量%が望ましい。
任意添加元素であるSn、P、Fe、Mg、Cr、Co、Bは単独で含有させてもよいし複合して含有させてもよい。
Hは、製造過程で粒界にトラップされてボイドとなり、熱間圧延割れの原因となったり、焼鈍割れの原因となったりするばかりか、製品の水素脆化などを引き起こす原因となる。 5質量%以上のZnを添加した本合金系ではZnの酸素親和力が高く、溶湯中の酸素濃度が低下しやすくなる。そのため、溶湯中の水素濃度が上昇しやすくなり、鋳片中に持ち込まれるH量も多くなりやすい。鋳片中のH含有量が高いと熱間圧延工程の加熱中に結晶粒界にボイドが発生し、熱間圧延時の割れの要因となるほか、焼鈍時にふくれなどの問題を引き起こす要因となる。種々検討の結果、鋳片の段階で、H含有量は0.0005質量%以下に抑制されていることが望ましい。熱間加工性を重視する場合は、鋳片中のH含有量を0.0003質量%以下に低減することが一層好ましい。
部品に加工する前の板材製品の段階で、結晶粒界にボイドがない状態であっても、当該板材中のH含有量が高い場合には、その後の工程における熱処理時や、部品としての使用時に温度が上昇した場合に、板材中のHが粒界に拡散してボイドを形成し、曲げ加工性の劣化などを引き起こす要因となる。種々検討の結果、板材製品においてH含有量が0.0003質量%以下に低減されていれば、その後、粒界におけるボイドの形成は顕著に抑止されることがわかった。したがって、本発明の銅合金板材では、H含有量は0.0003質量%以下に制限され、0.0002質量%以下であることが一層好ましい。
Sも粒界に偏析し、熱間圧延性低下の要因となる。また、板材製品でははんだ濡れ性低下の要因となる。このため、S含有量は少ない方が望ましい。種々検討の結果、鋳片中におけるS含有量が0.003質量%以下であれば、熱間圧延割れのない状態で操業できることがわかった。また、板材製品においてS含有量が0.002質量%以下であれば、良好なはんだ濡れ性が確保できることが確認された。板材製品のS含有量は0.001質量%以下であることが一層好ましい。
その他の元素として、例えば、C、Ca、V、Nb、Mo、Al、Ag、In、Sb、Au、Cdの元素が合計0.1質量%以下の範囲で混入されていても構わない。これらの元素は原料から不可避的に混入する場合がある他、強度やプレス打抜き性を改善するために添加される場合もある。その場合は、これらの元素の1種以上を個々の元素につき0.001〜0.1質量%の範囲で含有させると効果的である。ただし、合計含有量は0.5質量%以下に制限される。これを超えると導電率や曲げ加工性の低下が顕著になり、好ましくない。
〔ボイドおよびNi−Si系析出物の存在密度〕
鋳片中に粗大なボイドやNi−Si系析出物が存在すると、熱間圧延割れなどの原因となり製造性が著しく低下する。本発明ではZnを5質量%以上含有する銅合金を対象としているので、それによりNi、Siの固溶限が小さくなり、鋳造工程では粒界においてNi−Si系析出物の形成および粗大化が起こりやすい。また鋳片中のH含有量が高くなりやすいので粒界にボイドが発生しやすい。鋳片中の粗大なNi−Si系析出物は、熱間圧延前の加熱時においてマトリクス中に固溶する際、粒界へのHの濃縮およびボイド化を引き起こしやすく、これが熱間圧延割れを生じやすくする原因となっている。種々検討の結果、径が5μm以上のボイドおよび径が5μm以上のNi−Si系析出物の合計存在密度が30個/mm2未満である断面組織を有する鋳片を製造すれば、HやSの含有量が上記のように低減されている限り、熱間圧延での割れが顕著に抑止できることがわかった。鋳片中におけるこれらの合計存在密度が20個/mm2未満であることが一層好ましい。
また、部品に加工する前の板材製品においては、粒界上の粗大なボイドやNi−Si系析出物は応力集中の起点となりやすく、曲げ加工性や伸びのバラツキが大きくなる原因となる。詳細な検討の結果、径が3μm以上のボイドおよび径が3μm以上のNi−Si系析出物の合計存在密度が20個/mm2未満である断面組織を有する板材製品を製造すれば、HやSの含有量が上記のように低減されている限り、その後の部品への加工に際し、良好な加工性が得られ、特性のバラツキも小さく抑えられる。板材製品中におけるこれらの合計存在密度が10個/mm2未満であることが一層好ましい。
〔特性〕
コネクタ、リレー、スイッチ、ソケット、さらにはリードフレーム等の電気・電子部品に信頼性をもって適用するには、板材において圧延方向に引張試験を行ったときの引張強さが650N/mm2以上となる強度レベルを呈することが望ましい。特に今後ますます薄肉化への要求が強まることを考慮すると、引張強さが680N/mm2以上、あるいは700N/mm2以上、あるいはさらに730N/mm2以上の強度レベルを呈することが極めて有利となる。750N/mm2以上の強度レベルが要求される場合もある。また同時に導電性は25%IACS以上の導電率を具備することが望まれる。後述の製造法に従えば、本発明で規定する銅合金組成において、このような優れた特性を実現することが可能である。
種々の電気・電子部品への加工を考慮すると、優れた曲げ加工性を具備していることが望ましい。また、試験片間における曲げ加工性のバラツキが少ないことが、局部的な割れの発生を防止するために極めて重要である。すなわち、Znを多量に含有するCu−Ni−Si−Zn系銅合金では粒界に粗大なボイドや析出物が存在しやすい。粗大なボイドや析出物が多く存在する粒界部分を有する板材では、曲げ試験片の曲げ加工部にそのような粒界部分が当たっているかどうかによって、曲げ加工性の数値は大きく変動する。実際の部品加工に当てはめれば、一部の部品においてのみ割れが発生したり、あるいは1つの部品中に存在する複数の曲げ加工部のうち一部の加工部においてのみ割れが発生したりする事態が生じる。したがって、1つの板材から採取した多くの試験片において、優れた曲げ加工性が安定して得られるものでなければ、その板材は信頼性の高いものであるとは認められない。発明者らの詳細な検討によれば、電気・電子部品への加工における信頼性を考慮すると、繰り返し数n=30とした曲げ試験においてGW、BWともMBR/tが2.0未満に収まり、かつその標準偏差が0.20未満であることが望ましい。MBR/tが1.5以下に収まり、かつその標準偏差が0.17以下であることが一層好ましい。
さらに、曲げ加工性は、ある程度の熱履歴を付与した後のサンプルについても評価することが望ましい。前述のように、板材製品において粗大なボイドや析出物があまり見られない場合でも、板材中のH含有量が高い場合には、材料が昇温されたときにHの拡散が活発化して粒界に新たなボイドを形成する場合があるからである。種々検討の結果、具体的には板材製品に例えば窒素雰囲気中で200℃×2hの熱履歴を付与した後において、曲げ試験を行うことによって、板材中のHに起因した曲げ加工性の低下を評価することができる。この熱履歴を付与した後に、BWにおけるMBR/tが2.0以下に収まる材料は、加工性に対する信頼性が極めて高いものであると言える。この値が1.5以下に収まる材料が特に好ましい。この熱履歴後の曲げ試験もn=30にて行えばよい。BWにおけるMBR/tの標準偏差についても、0.20未満であることが望ましく、0.17以下であることが一層好ましい。
その他の特性としては、圧延方向に引張試験を行ったときの伸びが5%以上であることが望ましく、7%以上、あるいはさらに9%以上であることが一層好ましい。また、はんだ濡れ性に優れること、および熱間圧延割れや焼鈍不良、鋳造時の酸化物巻き込みなどの発生がなく、製造性に優れることも重要である。
〔製造法〕
以上のような優れた特性をCu−Ni−Si−Zn系銅合金に付与するための手法について、発明者らは詳細な検討を行ってきた。その結果、鋳造工程においてH、Sの含有量を低く抑えること、および溶体化処理後の冷却速度を十分大きくし、かつ時効処理後の冷却を徐冷とする「溶体化処理」−「時効処理」の組み合わせにより、上記特性の付与が可能となることを見出した。銅合金材料は一般に、熱間圧延後に、熱処理と冷間圧延を複数回付与する工程で製造される。時効析出を利用する銅合金の場合は、通常、途中のいずれかの熱処理工程で溶体化処理を行い、その後に行われるいずれかの熱処理工程で時効処理を行う。本発明の銅合金の製造においてもそのような工程が採用できる。例えば以下のような製造工程が例示できる。
「溶解・鋳造→熱間圧延→冷間圧延→溶体化処理→冷間圧延→時効処理→冷間圧延→歪取り焼鈍」
ただし溶体化処理後の冷間圧延や、時効処理後の冷間圧延は省かれる場合がある。
鋳造工程で鋳片中のH含有量を0.0005質量%以下とするためには、溶解および出湯、鋳造時の水素混入をできるだけ少なくする必要がある。そのためには例えば、溶解時において、脱ガス処理を行うこと、添加元素の溶解順や溶解保持時間を最適化することで酸素分圧を制御すること、水素分圧の上昇を防ぐこと、溶湯時の溶湯被覆材の種類やその使用量を制御すること、熱源に用いるガスや脱酸のための藁など水蒸気の発生しやすいものを使用しないことなどが有効である。また、出湯・鋳造時においては、鋳造機やタンディッシュ、被覆材の十分な乾燥を行うこと、水蒸気の発生しやすい被覆材を使用しないこと、鋳造雰囲気を制御することなどが有効でとなる。鋳造時の被覆材としては、例えば木炭に酸化物、塩化物、弗化物などを含有したものを用いることができる。
鋳片中のS含有量の低減には、使用原料中の油分を燃焼などによって除去すること、被覆材や炉材中にSが混入しにくい素材を使用することなどが有効となる。また、微量のZrやMgなど、HやSをトラップする効果のある元素を添加することも有効である。
鋳片におけるNi−Si系析出物サイズは、凝固後の冷却速度の適正化と、鋳片内の温度バラツキを低減することでコントロール可能である。冷却速度は900℃から400℃までの冷却速度を10℃/min以上とすることが望ましい。さらに900℃から600℃までの冷却速度を20℃/min以上とすることが一層好ましい。鋳片内の同一平面での温度バラツキは、ズンプ深さを浅くすることで低減できる。
溶体化処理では、加熱温度を680〜850℃の範囲とする。合金組成によって最適温度は多少変動するが、上記温度範囲への加熱により目的を達成できる。概ね80%以上の熱間圧延と、その後に概ね60%以上の冷間圧延を経た材料を対象とするならば、上記温度域での保持時間は30min以下でよい。多くの場合、10min以下、例えば30sec〜10minの加熱保持で良好な結果が得られる。そして、上記温度域から冷却する際は、少なくとも250℃に達するまでの平均冷却速度を200℃/min以上とする。この冷却速度が200℃/min未満になると、その冷却過程で粗大なNi−Si系の析出相が生成しやすくなり、曲げ加工性の低下を招く。また、後工程の時効処理によって十分な析出強化が得られず、強度および導電性の改善が困難になる。
時効処理では、上記の方法で十分に溶体化された材料を、400〜550℃の温度域で保持する。合金組成によって最適温度は多少変動するが、上記温度範囲での保持により目的を達成できる。保持時間(時効処理時間)は20min〜8h、好ましくは1〜5hとすればよい。そして、本発明では時効処理において加熱保持後の冷却を「徐冷」とすることが重要である。すなわち、上記温度域 から少なくとも150℃に達するまでの平均冷却速度を5℃/min以下で徐冷する。このような徐冷処理により、急冷の場合と比較して均一かつ微細な析出物が多く得られ、これがZnを比較的多量に含む当該合金系において強度および導電性の顕著な改善をもたらすのである。
全般的な工程についてみると、例えば以下のような製造プロセスが採用できる。
鋳造は、原料および炉材や鋳造機などを十分に乾燥させた後、Znを含有する一般的な銅合金の溶製方法に従い、1100〜1300℃で溶解した後、半連続鋳造または連続鋳造で行うことができる。ただし、前述のように鋳片中のH、S含有量を抑制する措置を講じることが望ましい。
鋳造後に熱間圧延を行う場合は、鋳造組織中に生じているSn、Mg、Ni2Si相などの偏析を熱間圧延前の加熱によってできるだけ均質化しておくことが望ましい。具体的には平衡状態で均質な固溶状態となる800℃以上の温度域に1h以上保持する加熱が有効である。加熱温度は800〜950℃が好ましい。熱間圧延は650℃以上の温度で最終パスを終了し、650℃以下の温度域を水冷等により急冷する。熱間圧延後は適正な厚みの面削を行い、表面に発生しているNi−Si系の粗大析出物や酸化物を除去する。
熱間圧延を行わない場合は、組織の均質化のために、鋳造後に800℃以上の温度で2h以上の加熱処理を行うことが望ましい。850〜900℃の加熱温度とすることが好ましい。
次いで例えば60%以上の加工率で冷間圧延を行い、その後650〜850℃の温度で30min以下の溶体化処理を行う。その際、前述のように少なくとも250℃に達するまでの平均冷却速度を200℃/min以上とすることが重要である。溶体化処理後は直接上述の時効処理に供することも可能であるが、15%以上の冷間圧延を施した後に時効処理に供することが一層好ましい。一般に銅合金の製造は熱処理と冷間圧延を繰り返すことによって行われるが、本発明では、前記溶体化処理後に行われる最初の熱処理で時効処理を行う。その時効処理は上述したとおり徐冷を伴う条件で行う必要がある。時効処理後には、得られた析出物が形態変化しないよう、時効処理温度以上の加熱は避けるべきである。時効処理後には必要に応じて最終的な冷間圧延を冷延率30%以下の範囲好ましくは10〜30%の範囲で行い、その後例えば250〜500℃未満、好ましくは250〜400℃の温度に20sec〜10min保持する歪取り焼鈍を行うことが望ましい。これにより強度、導電性、曲げ加工性等をさらに向上させることができる。
表1に示す組成の銅合金を高周波溶解炉を用いて溶解し、以下の製造工程により銅合金板材を製造した。
「溶解・鋳造→熱間圧延→冷間圧延→溶体化処理→冷間圧延→時効処理→冷間圧延→歪取り焼鈍」
溶解・鋳造では、大気中かつ木炭被覆下で半連続鋳造法により鋳造してNo.1、4およびNo.15、16については厚さ180mm、幅500mm、長さ4000mmの鋳片を得た。その他の本発明例および比較例については厚さ20mm、幅40mm、長さ250mmの鋳片とした。溶解に際しては、溶湯をArにより脱ガス処理した。坩堝やタンディッシュには十分乾燥させた黒鉛の被覆剤を用い、藁などによる脱酸は行わなかった。鋳造後は鋳片をNo.1、4およびNo.15、16では900℃から400℃まで25℃/minで水冷した。但し、No.15では被覆材の加熱乾燥をおこなわず、また藁による脱酸を行った。No.16では鋳造後の鋳片を7℃/minで冷却した。その他の本発明例および比較例は900℃から400℃まで20℃/min〜30℃/minの範囲で冷却した。なお、本発明例における鋳片中のS含有量はいずれも0.003質量%以下であった。
鋳造後のこの鋳片を910℃で2hr加熱保持したのち抽出して、圧下率80〜95%で熱間圧延をおこない、最終パス終了後700℃から水冷した。得られた熱延板を面削し表面の酸化物を除去したのち、圧下率80〜98%の圧下率となるように冷間圧延を行った。その後、溶体化処理を700〜800℃×20sec〜5minの加熱条件で行った。溶体化処理における冷却は、一部の試料(No.15)において炉外で放冷することにより250℃までの平均冷却速度を約170℃/minと遅くした以外は、強制空冷または水冷することにより250℃までの平均冷却速度を200℃/min以上にコントロールした。なお、冷却速度は試料表面に取り付けた熱電対により測定した。その後、圧下率20〜35%で冷間圧延したのち、400〜550℃×2〜4hの時効処理を施した。時効処理における冷却は炉冷とし、一部の試料(No.14)において150℃までの平均冷却速度を10℃/minと速くした以外は、150℃までの平均冷却速度を5℃/min以下にコントロールした。この場合も冷却速度は熱電対により測定した。次いでNo.1、4およびNo.15、16については0.15mm、その他の本発明例および比較例については0.25mmまで冷間圧延したのち、350℃×5minの歪取り焼鈍に供した。
Figure 0005040140
得られた各銅合金板材について、引張強さ、伸び、硬さ、導電率、曲げ加工性、はんだ濡れ性、ボイドおよび析出物個数を調べた。また、鋳片についてもボイドおよび析出物の個数、ならびに異物巻き込み欠陥の有無を調べた。さらに、途中工程での熱間圧延割れ、焼鈍不良の発生状況を調べた。
引張強さおよび伸びは圧延方向に直角方向のJIS 5号試験片を用いてJIS Z2241に基づいて測定した。
硬さは板の表面についてマイクロビッカース硬度計により測定した。
導電率はJIS H0505に基づいて測定した。
曲げ加工性は、JBMA T307(日本伸銅協会規格)に準じたW曲げ試験方法にて、曲げ軸が圧延方向に対し平行方向(BW)および直角方向(GW)となる曲げ試験をそれぞれ実施してMBR/t(tは板厚)により評価した。GW、BWともn=10で実施し、各試験片のMBR/tの平均値を表示した。なお、本発明例のものはいずれも、n=30のMBR/t値の最大値がGW、BWとも2.0未満であった。
はんだ濡れ性はJIS C0053に準拠した方法で調べ、非活性ロジンフラックスに5sec浸漬した後、215℃のはんだ(60%Sn、40%Pb)に3sec浸漬し、濡れ面積が90%以上のものを○(良好)、90%未満のものを×(不良)と評価した。
板材におけるボイドおよび析出物の存在密度は、圧延方向と板厚方向に平行な断面について、EPMAにより、無作為に選択した7視野、合計0.20mm2の領域をSEM観察し、粒界上に存在する3μm径以上のサイズのボイドおよびNi−Si系析出物の合計数をカウントし、1mm2当たりの存在密度に換算することによって求めた。なお、本発明例のものは結晶粒界以外の場所(マトリクス中)に径が3μm以上のボイドや析出物は観察されなかった。
鋳片中におけるボイドおよび析出物の存在密度は、鋳造方向に垂直な断面について上記と同様の手法で粒界上に存在する5μm径以上のサイズのボイドおよびNi−Si系析出物の合計数をカウントし、1mm2当たりの存在密度に換算することによって求めた。ただし、観察領域は35視野、合計1mm2とした。なお、本発明例のものは結晶粒界以外の場所(マトリクス中)に径が5μm以上のボイドや析出物は観察されなかった。
鋳片における異物の巻き込みは、得られた鋳片の外観を目視観察し、1本の鋳片あたり酸化物等の異物の巻き込みが1個以下であったものを○(良好)、2個以上であったものを×(不良)と判定した。
熱間圧延割れは、熱延コイルを目視観察し、1本のコイルあたり熱間圧延加工時に発生した割れが1個以下であったものを○(良好)、2個以上であったものを×(不良)と判定した。
焼鈍不良は、各焼鈍後のコイルのサイドおよび表面を目視観察し、いずれかの焼鈍工程において焼鈍割れやふくれなどの焼鈍不良が1本のコイル中に3個以上発生したものを×(不良)、全ての焼鈍工程において焼鈍不良が2個以下であったものを○(良好)と判定した。
結果を表2に示す。
Figure 0005040140
表2からわかるように、本発明例のものはいずれも引張強さ、導電率、はんだ濡れ性、伸びなどの特性が良好であった。鋳片および板材製品中における粗大なボイドおよびNi−Si系析出物の存在密度、並びにH含有量が十分低く抑えられ、その結果、良好な曲げ加工性が確保された。また、熱間圧延時の割れや鋳造時の酸化物巻き込み、焼鈍不良といった製造上の問題も生じなかった。
これに対し比較例No.11はZn含有量が多いため導電率が低く、曲げ加工性、はんだ濡れ性にも劣った。No.12はZn含有量が少なすぎ、No.17はZnを含有しない合金であるため、いずれも酸化物の巻き込み不良が発生し、製造性およびはんだ濡れ性に劣った。No.13および14はそれぞれSi含有量およびNi含有量が少ないため、Ni−Si析出物による強度向上が不十分であった。No.15は鋳造時に被覆材の加熱乾燥を省略し、また藁による脱酸を行ったことにより鋳片におけるH含有量が高くなり、熱間圧延時の割れや焼鈍不良が発生した。No.16は鋳造時の冷却速度が遅かったことにより鋳片中に粗大な析出物が多数存在し、熱間圧延割れが発生し、板材製品の曲げ加工性にも劣った。No.18は鋳片中のS含有量が0.003質量%を超えて多かったものであり、熱間圧延割れが発生したほか、板材製品のはんだ濡れ性も悪かった。
板材製品に200℃×2hの熱履歴を付与したときの曲げ加工性の劣化有無を調べた。
実施例1で得られたNo.1および4(本発明例)、並びにNo.15および16(比較例)の板材製品(板厚0.25mm)を窒素雰囲気下で200℃×2h保持し、その後炉外で放冷した。この熱処理後の板材について、上記と同様の方法によりBWの90°W曲げ試験をn=30で行った。
結果を表3に示す。表3には、実施例1で行った90°W曲げ試験結果の詳細も、「板材製品」として併記した。
Figure 0005040140
表3からわかるように、本発明例であるNo.1、4では、熱履歴を付与することによる曲げ加工性の劣化は認められず、高い信頼性を有していることが確認された。
これに対し、比較例であるNo.15および16は板材製品において粒界に粗大なボイドあるいはNi−Si系析出物が多く存在していることにより、当該板材製品(熱履歴付与前)における曲げ加工性のバラツキが大きく、熱履歴付与後の板材では曲げ加工性のバラツキがさらに大きくなった。特に、板材製品中のH含有量が高いNo.15では、熱履歴付与後における曲げ加工性のバラツキ増大が顕著であった。これは、材料を昇温したことによってHの拡散が促進され、粒界に新たなボイドが形成されたことが要因になっているものと考えられる。

Claims (9)

  1. 質量%で、Ni:0.4〜4.5%、Si:0.15〜0.9%、Zn:5〜15%を含有し、かつH:0.0003%以下、S:0.002%以下であり、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有し、径が3μm以上のボイドおよび径が3μm以上のNi−Si系析出物の合計存在密度が20個/mm2未満である断面組織を有し、引張強さが680N/mm 2 以上、導電率が25%IACS以上であり、90°W曲げ試験におけるBWでのMBR/t(tは板厚)が2.0未満である銅合金板材。
  2. さらにSn:2.0%以下を含有する組成を有する請求項1に記載の銅合金板材。
  3. さらにP:0.2%以下を含有する請求項1または2に記載の銅合金板材。
  4. さらにFe:1.0%以下、Co:4.0%以下、Cr:4.0%以下、B:0.1%以下の1種以上を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の銅合金板材。
  5. 引張強さが750N/mm2以上である請求項1〜4のいずれかに記載の銅合金板材。
  6. 溶解・鋳造、熱間圧延、冷間圧延、溶体化処理、冷間圧延、時効処理、冷間圧延、歪取り焼鈍の工程を順に行う製造法により、質量%でNi:0.4〜4.5%、Si:0.15〜0.9%、Zn:5〜15%を含有し、かつH:0.0003%以下、S:0.002%以下、残部がCuおよび不可避的不純物からなる銅合金を製造するに際し、鋳造工程においてH含有量が0.0005質量%以下であり、径が5μm以上のボイドおよび径が5μm以上のNi−Si系析出物の合計存在密度が30個/mm2未満である断面組織を有する鋳片を製造し、溶体化処理工程において材料を680〜850℃に保持したのち少なくとも680〜250℃域の平均冷却速度を200℃/min以上として冷却し、時効処理工程において材料を400〜550℃に保持したのち少なくとも450〜150℃域の平均冷却速度を5℃/min以下として徐冷することを特徴とする銅合金板材の製造法。
  7. 前記銅合金がさらにSn:2.0%以下を含有する請求項6に記載の製造法。
  8. 前記銅合金がさらにP:0.2%以下を含有する請求項6または7に記載の製造法。
  9. 前記銅合金がさらにFe:1.0%以下、Co:4.0%以下、Cr:4.0%以下、B:0.1%以下の1種以上を含有する請求項6〜8のいずれかに記載の製造法。
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