JP5821855B2 - セルロースエステル光学フィルムの製造方法 - Google Patents

セルロースエステル光学フィルムの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、液晶表示装置(LCD)あるいは有機EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレー等の各種の表示装置に用いられるセルロースエステル光学フィルムの製造方法に関するものである。
近年、液晶表示装置(LCD)は種々のところに使用されるに伴って、LCDに使用される液晶表示素子すなわち偏光板についても高生産性化(生産量増大)が求められている。そして、これらの表示装置に用いられる光学フィルムについても、さらなる低コスト化および高精度化が要望されている。
セルロースエステル光学フィルムは、溶液流延製膜法または溶融流延製膜法により製造するが、一般に、溶液流延製膜法の方が、溶融流延製膜法よりも平面性の高い良好なフィルムを製造することができるため、溶液流延製膜法が広く採用されている。
このような溶液流延製膜法によるセルロースエステル光学フィルムの製造においては、高生産性化および高精度化が進むにつれて、得られるセルロースエステル光学フィルムに輝点異物が発生し、コントラストが良好な広幅のセルロースエステル光学フィルムを高生産で製造することができないという問題があった。
そこで、従来、下記の特許文献1に記載のように、セルロースエステル樹脂材料を含むフィルム原料のドープ(樹脂溶液)を調製する際、溶媒をエタノールからメタノールに変更したり、下記の特許文献2に記載のように、セルロースエステル樹脂材料を含むフィルム原料を溶媒に加熱溶解してドープを調製したり、さらに下記の特許文献3に記載のように、セルロースエステル樹脂材料を含むフィルム原料のドープを濾過する条件を厳しく設定したりして、輝点異物の発生を防止する方法が行われていた。
また、下記の特許文献4には、アルコールを先に添加し膨潤することが記載されている。下記の特許文献5には、非膨潤性溶媒浸漬後乾燥させることが記載されている。下記の特許文献6には、低分子量成分を溶媒で溶出させることが記載されている。
特開2006−205474号公報 特開昭61−106628号公報 特開平11−254466号公報 特開2001−198935号公報 特開昭58−127737号公報 特開平08−337601号公報
しかしながら、上記特許文献1に記載の方法によれば、ドープを流延ダイから支持体上に流延し、支持体上に流延膜(ウェブ)を形成した際、該ウェブの膜強度(すなわち、wet膜強度)が弱く、その後のウェブの剥離工程、剥離後のウェブの延伸工程などにおいてウェブが破断しやすく、セルロースエステル光学フィルムの高生産性化に支障をきたすという問題があった。また上記特許文献2に記載の方法によれば、ドープ中のいわゆる未溶解物(ゲル異物)は減少するが、輝点異物の発生を阻止することはできないという問題があった。さらに上記特許文献3に記載の方法では、ドープの濾過の際、ドープ中の持ち込み異物が多いと、濾材のライフサイクルが短くなり、やはりセルロースエステル光学フィルムの高生産性化に支障をきたすという問題があった。
また、上記特許文献4に記載の方法によれば、乾燥工程がなく、溶解性が悪いという問題があった。上記特許文献5および6に記載の方法の条件によれば、輝点異物が減らないという問題があった。
本発明の目的は、上記の従来技術の問題を解決し、セルロースエステル樹脂材料であるセルロースエステルに前処理を施すことにより、輝点異物の発生が少なく、コントラストが良好な広幅のセルロースエステル光学フィルムを高生産で製造することができる、セルロースエステル光学フィルムの製造方法を提供することにある。
上記の目的を達成するために、発明は、セルロースエステル樹脂材料を含むフィルム原料を溶剤に溶解したドープ(樹脂溶液)を調製し、ドープを流延ダイから回転駆動金属製エンドレスベルトまたは回転ドラム(支持体)上に流延し、支持体上に流延膜(以下、ウェブともいう)を形成し、支持体上からウェブを剥離し、剥離後のウェブを延伸し、乾燥させたのち、フィルムを巻き取る溶液流延製膜法によるセルロースエステル光学フィルムの製造方法において、前記セルロースエステル樹脂材料であるセルロースエステルを、水、アルコール類、ケトン類、またはカルボン酸類から選ばれる前処理剤に3〜20時間接触させた後、前処理剤から分離して乾燥させることにより、溶媒浸透性が向上した易溶性セルロースエステルを調製し、この易溶性セルロースエステルを用いることを特徴としている。
さらに、本発明においては、上述したようなセルロースエステル光学フィルムの製造方法であって、前処理剤が、SP値(溶解パラメーター)12〜17の範囲内、好ましくは14〜17の範囲内にある、メタノール、グリセリン、またはエタノールであることが好ましい。
さらに、本発明に係るセルロースエステル光学フィルムの製造方法においては、前記前処理剤が酢酸溶液またはクエン酸溶液であり、セルロースエステルと接触させる際の前記前処理剤のpH値が、pH4〜pH6の範囲内であることが好ましい。
また、本発明に係るセルロースエステル光学フィルムの製造方法においては、前処理剤と接触後に前処理剤より分離したセルロースエステルを乾燥する際の乾燥温度が、20〜250℃であることが好ましい。
また、本発明に係るセルロースエステル光学フィルムの製造方法においては、前処理剤より分離したセルロースエステルを乾燥する際の乾燥温度が、50〜120℃であることが好ましい。
また、本発明に係るセルロースエステル光学フィルムの製造方法においては、前処理剤と接触後に前処理剤より分離したセルロースエステルを乾燥する際の乾燥時間が、3〜24時間であることが好ましい。
また、本発明に係るセルロースエステル光学フィルムの製造方法においては、前処理剤と接触後に前処理剤より分離したセルロースエステルを、まず20〜40℃の低温で乾燥し、ついで50〜120℃の高温で乾燥させることを特徴とし、かつ低温/高温の乾燥時間比が、0.3〜0.5の範囲内にあることが好ましい。
また、本発明に係るセルロースエステル光学フィルムの製造方法においては、前処理後の易溶性セルロースエステルの前処理剤残留濃度が、100〜10000ppmであることが好ましい。
また、本発明に係るセルロースエステル光学フィルムの製造方法においては、前処理後の易溶性セルロースエステルのpH値が、pH6〜pH8の範囲内であることが好ましい。
本発明は、溶液流延製膜法によるセルロースエステル光学フィルムの製造方法において、セルロースエステル樹脂材料であるセルロースエステルを、酸素原子(O)を有する溶剤または有機酸よりなる前処理剤に3〜20時間接触させた後、前処理剤から分離して乾燥させることにより、溶媒浸透性が向上した易溶性セルロースエステルを調製し、この易溶性セルロースエステルを用いることを特徴とするもので、このような構成により、セルロースエステル樹脂材料として、セルロースエステルに前処理を施すことにより、輝点異物の発生が少なく、かつリタデーション・ムラの発生が少ないコントラストが良好な広幅のセルロースエステル光学フィルムを高生産で製造することができるという効果を奏する。
さらに、本発明においては、前処理剤が、SP値(溶解パラメーター)12〜17の範囲内、好ましくは14〜17の範囲内にある酸素原子(O)を有する溶剤であれば、セルロースエステル樹脂材料であるセルロースエステルに、SP値12〜17の範囲内にある溶剤よりなる前処理剤で前処理を施すことにより、輝点異物の発生が少なく、コントラストが良好な広幅のセルロースエステル光学フィルムを高生産で製造することができるという効果を奏する。
また、セルロースエステルを、酸素原子(O)を有する有機酸よりなる前処理剤と接触させる際の前処理剤のpH値が、pH4〜pH6の範囲内とすることにより、セルロースエステルの変性がなく、輝点異物の発生が少なく、かつリタデーション・ムラの発生が少ないコントラストが良好な広幅のセルロースエステル光学フィルムを高生産で製造することができるという効果を奏する。
さらに、前処理剤と接触後に前処理剤より分離したセルロースエステルを乾燥する際の乾燥温度を、20〜250℃とすることによって、輝点異物の発生が少なく、かつヘイズおよびリタデーション・ムラの発生が少ないコントラストが良好な広幅のセルロースエステル光学フィルムを高生産で製造することができるという効果を奏する。
また、前処理剤より分離したセルロースエステルを乾燥する際の乾燥温度が、50〜120℃であれば、輝点異物の発生が少なく、かつヘイズおよびリタデーション・ムラの発生がさらに少ないコントラストが良好な広幅のセルロースエステル光学フィルムを高生産で製造することができるという効果を奏する。
さらに、前処理剤と接触後に前処理剤より分離したセルロースエステルを乾燥する際の乾燥時間が、3〜24時間であれば、輝点異物の発生が少なく、かつヘイズおよびリタデーション・ムラの発生が少ないコントラストが良好な広幅のセルロースエステル光学フィルムを高生産で製造することができるという効果を奏する。
また、前処理剤と接触後に前処理剤より分離したセルロースエステルを、まず20〜40℃の低温で乾燥し、ついで50〜120℃の高温で乾燥させ、かつ低温/高温の乾燥時間比を、0.3〜0.5の範囲内とすることにより、輝点異物の発生が少なく、かつヘイズおよびリタデーション・ムラの発生が少ないコントラストが良好な広幅のセルロースエステル光学フィルムを高生産で製造することができるという効果を奏する。
さらに、前処理後の易溶性セルロースエステルの前処理剤残留濃度が、100〜10000ppmであれば、輝点異物の発生が少なく、かつヘイズおよびリタデーション・ムラの発生が少ないコントラストが良好な広幅のセルロースエステル光学フィルムを高生産で製造することができるという効果を奏する。
さらに、前処理後の易溶性セルロースエステルのpH値が、pH6〜pH8の範囲内であれば、輝点異物の発生が少なく、かつヘイズおよびリタデーション・ムラの発生が少ないコントラストが良好な広幅のセルロースエステル光学フィルムを高生産で製造することができるという効果を奏する。
本発明の溶液流延製膜方法による光学フィルムの製造方法を実施する装置の例を示すフローシートである。
つぎに、本発明の実施の形態を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明のセルロースエステル光学フィルムの製造方法は、セルロースエステル樹脂材料を含むフィルム原料を溶剤に溶解したドープ(樹脂溶液)を調製し、ドープを流延ダイから回転駆動金属製エンドレスベルトまたは回転ドラム(支持体)上に流延し、支持体上に流延膜(ウェブ)を形成し、支持体上からウェブを剥離し、剥離後のウェブを延伸し、乾燥させたのち、フィルムを巻き取る溶液流延製膜法によるセルロースエステル光学フィルムの製造方法において、前記セルロースエステル樹脂材料として、セルロースエステルを、酸素原子(O)を有する溶剤または有機酸よりなる前処理剤に3〜20時間接触させた後、前処理剤から分離して乾燥させることにより、溶媒浸透性が向上した易溶性セルロースエステルを調製し、この易溶性セルロースエステルを用いることを特徴としている。
ここで、酸素原子(O)を有する溶剤または有機酸よりなる前処理剤としては、水、またはメタノール、エタノール、プロパノール、もしくはエチレングリコールなどのアルコール類、アセトンもしくはメチルエチルケトンなどのケトン類、あるいはまた蟻酸、酢酸、もしくはプロピオン酸などのカルボン酸類などがあげられる。場合によっては、これらの混合物を使用することもできる。
本発明のセルロースエステル光学フィルムの製造方法においては、酸素原子(O)を有する溶剤よりなる前処理剤が、SP値(溶解パラメーター)12〜17の範囲内、好ましくは14〜17の範囲内にある溶剤であることが好ましい。
ここで、SP値(溶解パラメーター)は、いわゆるヒルデブラントパラメーターを意味するものである。
こうして、セルロースエステル樹脂材料として用いるセルロースエステルに、SP値12〜17の範囲内、好ましくは14〜17の範囲内にある、酸素原子(O)を有する溶剤よりなる前処理剤で前処理を施すことにより、輝点異物の発生が少なく、コントラストが良好な広幅のセルロースエステルを高生産で製造することができるものである。
本発明のセルロースエステル光学フィルムの製造方法においては、セルロースエステルを、酸素原子(O)を有する有機酸よりなる前処理剤と接触させる際の前処理剤のpH値が、pH4〜pH6の範囲内であることが好ましい。
ここで、セルロースエステルを、酸素原子(O)を有する有機酸よりなる前処理剤と接触させる際の前処理剤のpH値が、pH4未満の強酸であれば、セルロースエステルが変性し、リタデーション・ムラが生じるので、好ましくない。
本発明のセルロースエステル光学フィルムの製造方法においては、前処理剤と接触後に前処理剤より分離したセルロースエステルを乾燥する際の乾燥温度が、20〜250℃であることが好ましく、50〜120℃であることが、さらに好ましい。
ここで、前処理剤より分離したセルロースエステルを乾燥する際の乾燥温度が、20℃未満であれば、結露起因のコンタミによるヘイズアップが生じ、好ましくない。また、前処理剤より分離したセルロースエステルを乾燥する際の乾燥温度が、250℃を超えると、セルロースエステルの熱劣化によるリタデーション・ムラが発生するので、好ましくない。
本発明のセルロースエステル光学フィルムの製造方法においては、前処理剤と接触後に前処理剤より分離したセルロースエステルを乾燥する際の乾燥時間が、3〜24時間であることが好ましい。
ここで、前処理剤より分離したセルロースエステルを乾燥する際の乾燥時間が、3時間未満であれば、乾燥不良によるヘイズアップが生じ、好ましくない。また、前処理剤より分離したセルロースエステルを乾燥する際の乾燥時間が、24時間を超えると、セルロースエステルの熱劣化によるリタデーション・ムラが発生するので、好ましくない。
本発明のセルロースエステル光学フィルムの製造方法においては、前処理剤と接触後に前処理剤より分離したセルロースエステルを、まず20〜40℃の低温で乾燥し、ついで50〜120℃の高温で乾燥させることを特徴とし、かつ低温/高温の乾燥時間比が、0.3〜0.5の範囲内にあることが好ましい。
ここで、前処理剤と接触後に前処理剤より分離したセルロースエステルは、できるだけ高温乾燥を避けるのが好ましく、低温/高温の乾燥時間比が、0.5を超えると、セルロースエステルの劣化によるリタデーション・ムラが発生するので、好ましくない。低温/高温の乾燥時間比が、0.3未満であれば、乾燥時間増大によるリタデーション・ムラ(加水分解)が発生するので、好ましくない。
本発明のセルロースエステル光学フィルムの製造方法においては、前処理後の易溶性セルロースエステルの前処理剤残留濃度が、100〜10000ppmであることが好ましい。
ここで、前処理後の易溶性セルロースエステルの前処理剤残留濃度が、100ppm未満であれば、水素結合が再結合するおそれがあるので、好ましくない。前処理後の易溶性セルロースエステルの前処理剤残留濃度が、10000ppmを超えると、コンタミ起因によるヘイズアップが生じ、好ましくない。
本発明のセルロースエステル光学フィルムの製造方法においては、前処理後の易溶性セルロースエステルのpH値が、pH6〜pH8の範囲内であることが好ましい。
ここで、前処理後の易溶性セルロースエステルのpH値が、pH6〜pH8の範囲以外となると、セルロースエステルが変性し、リタデーション・ムラが発生するので、好ましくない。
以下、本発明によるセルロースエステル光学フィルムの製造方法を、順に説明する。
本発明のセルロースエステル光学フィルムの製造方法において、セルロース樹脂材料として用いられるセルロースエステルは、セルロース由来の水酸基がアシル基などで置換されたセルロースエステルである。例えば、セルロースアセテート、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートブチレートなどのセルロースアシレートや、脂肪族ポリエステルグラフト側鎖を有するセルロースアセテートなどが挙げられる。中でも、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、脂肪族ポリエステルグラフト側鎖を有するセルロースアセテートが好ましい。本発明の効果を阻害しない範囲であれば、その他の置換基が含まれていてもよい。
本発明に用いられるセルロースエステルの原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ、ケナフなどを挙げることができる。また、それらから得られたセルロースエステルは、それぞれ任意の割合で混合使用することができる。
本発明に用いられるセルロースエステル樹脂材料の(平均)アセチル置換度は、2.64〜2.96であることが好ましい。アセチル置換度は、手塚(Tezuka,Carbonydr.Res.273,83(1995))の方法に従いNMRで測定できる。すなわち、セルロースアセテート試料の遊離水酸基をピリジン中で無水プロピオン酸によりプロピオニル化する。得られた試料を重クロロホルムに溶解し、炭素13のスペクトルを測定する。アセチル基の炭素シグナルは169〜171ppmの領域に高磁場から2位、3位、6位の順序で、そして、プロピオニル基のカルボニル炭素のシグナルは、172〜174ppmの領域に同じ順序で現れる。それぞれ対応する位置でのアセチルとプロピオニルの存在比から、元のセルロースアセテートにおける酢化度を求めることができる。
本発明のセルロースエステル光学フィルムの製造方法において用いるセルロースエステルの数平均分子量は、60000〜300000の範囲が、得られるフィルムの機械的強度が強く好ましい。さらに70000〜200000が好ましい。
本発明に用いられるセルロースアシレート樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定することができる。測定条件は以下の通りである。
溶媒:メチレンクロライド
カラム:Shodex K806、K805、K803G(昭和電工株式会社製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ:L6000(日立製作所株式会社製)
流量:1.0ml/min
校正曲線:標準ポリスチレンSTK standard
ポリスチレン(東ソー株式会社製)Mw=2,800,000〜500迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いることが好ましい。
本発明のセルロースエステル光学フィルムの製造方法においては、セルロースエステル樹脂材料として、重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で徐した分子量分布:Mw/Mnが1.0〜1.5であるセルロースアシレートを用いるのが好ましい。
ここで、セルロースエステル樹脂材料の分子量分布:Mw/Mnは、1.0が最小値であり、また、セルロースエステル樹脂材料の分子量分布:Mw/Mnが1.5を超えると、分子量にばらつきが多く、リタデーション・ムラが発生して、内部CNTが劣化するので、好ましくない。
本発明によるセルロースエステル光学フィルムの製造方法において、エタノール系溶媒においても効果的な輝点異物の減少方法として、上記のように、前処理剤に3〜20時間接触させた後、前処理剤から分離して乾燥させたセルロースエステルを使用することで、輝点異物が減少することが判った。
これは、前処理によりセルロースエステル内の水素結合を予め切断し、溶媒の浸透性を向上することで、輝点異物が減少したものと推測される。中でも、輝点の成分である未酢化物とSP値が近いメタノール処理が効果的であることが判った。また、弱酸性の有機酸よりなる前処理剤で浸漬・洗浄することでも、効果があることが判った。
本発明によるセルロースエステル光学フィルムの製造方法において、上記セルロースエステル樹脂材料に対して良好な溶解性を有する有機溶媒を良溶媒という。
良溶媒の例としては、アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、1,2−ジメトキシエタンなどのエーテル類、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、γ−ブチロラクトン等のエステル類の他、メチルセロソルブ、ジメチルイミダゾリノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、ジメチルスルフォキシド、スルホラン、ニトロエタン、塩化メチレン、アセト酢酸メチルなどが挙げられるが、1,3−ジオキソラン、THF、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸メチル、及び塩化メチレンが好ましい。
ドープには、上記有機溶媒の他に、1〜40重量%の炭素原子数1〜4のアルコールを含有させることが好ましい。これらは、ドープを支持体に流延した後、溶媒が蒸発し始めてアルコールの比率が多くなることで、ウェブをゲル化させ、ウェブを丈夫にして、支持体から剥離することを容易にするゲル化溶媒として用いられたり、これらの割合が少ない時は非塩素系有機溶媒のセルロースエステル樹脂材料の溶解を促進したりする役割もある。
炭素原子数1〜4のアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルを挙げることができる。これらのうち、ドープの安定性に優れ、沸点も比較的低く、乾燥性も良く、かつ毒性がないことなどからエタノールが好ましい。これらの有機溶媒は、単独ではセルロースエステル樹脂材料に対して溶解性を有しておらず、貧溶媒という。
本発明のセルロースエステル樹脂材料を高濃度に溶解する溶剤として好ましい組合せは、塩化メチレン:エチルアルコールの比が95:5〜80:20の混合溶剤である。あるいは、酢酸メチル:エチルアルコール60:40〜95:5の混合溶媒も好ましく用いられる。
これらの有機溶媒は、ドープ中の全溶媒に対し50重量%以上であることが好ましい。
本発明において、セルロースエステル光学フィルムを製造するための樹脂溶液(ドープ)は、主材としてセルロースエステル樹脂と溶剤を含み、これに、フィルムに加工性・柔軟性・防湿性を付与する可塑剤、フィルムに滑り性を付与する微粒子(マット剤)、紫外線吸収機能を付与する紫外線吸収剤、フィルムの劣化を防止する酸化防止剤等を含むものである。
本発明において使用する可塑剤としては、特に限定はないが、フィルムにヘイズを発生させたり、フィルムからブリードアウトあるいは揮発しないように、セルロースエステル等の樹脂と、水素結合などによって相互作用可能である官能基を有していることが好ましい。
このような官能基としては、水酸基、エーテル基、カルボニル基、エステル基、カルボン酸残基、アミノ基、イミノ基、アミド基、イミド基、シアノ基、ニトロ基、スルホニル基、スルホン酸残基、ホスホニル基、ホスホン酸残基等が挙げられるが、好ましくはカルボニル基、エステル基、ホスホニル基である。
このような可塑剤の例として、リン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、多価アルコールエステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤、カルボン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤などを好ましく用いることができるが、特に好ましくは多価アルコールエステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤等の非リン酸エステル系可塑剤である。
多価アルコールエステルは、2価以上の脂肪族多価アルコールとモノカルボン酸のエステルよりなり、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有することが好ましい。
ここで、好ましい多価アルコールの例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
好ましい多価アルコールの例としては、アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等を挙げることができる。特に、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールが好ましい。
また、多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸を用いると透湿性、保留性を向上させる点で好ましい。
好ましいモノカルボン酸の例としては、以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を有する脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数は1〜20であることがさらに好ましく、1〜10であることが特に好ましい。酢酸を含有させると、セルロースエステルとの相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
好ましい脂肪族モノカルボン酸の例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができるが、特に安息香酸が好ましい。
多価アルコールエステルの分子量は、特に制限はないが、300〜1500であることが好ましく、350〜750であることが、さらに好ましい。分子量が大きい方が揮発し難くなるため好ましく、透湿性、セルロースエステルとの相溶性の点では、小さい方が好ましい。
多価アルコールエステルに用いられるカルボン酸は1種類でもよいし、2種以上の混合であってもよい。また、多価アルコール中のOH基は、全てエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。
グリコレート系可塑剤は、特に限定されないが、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有するグリコレート系可塑剤を、好ましく用いることができる。好ましいグリコレート系可塑剤としては、例えばブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート等を用いることができる。
リン酸エステル系可塑剤では、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等、フタル酸エステル系可塑剤では、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート等を用いることができる。
これらの可塑剤は、単独あるいは2種以上混合して用いることができる。
可塑剤の使用量は、1〜10重量%が好ましい。5〜8重量%がさらに好ましい。可塑剤の使用量が、セルロースエステルに対して1重量%未満では、いわゆるボイドの発生があり、内部CNTが劣化するので、好ましくなく、10重量%を越えると、フィルムから可塑剤がブリードアウトし、内部CNTが劣化して、フィルムの物性が劣化するため、好ましくない。
本発明のセルロースエステル光学フィルムの製造方法においては、セルロースエステル光学フィルムに滑り性を付与するために、マット剤等の微粒子を添加するのが好ましい。微粒子としては、無機化合物の微粒子または有機化合物の微粒子が挙げられる。
ここで、本発明で用いられる微粒子としては、無機化合物または有機化合物が挙げられ、無機化合物の微粒子としては、例えば、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、クレイ、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、及びリン酸カルシウム等の金属酸化物、水酸化物、ケイ酸塩、リン酸塩、炭酸酸塩、珪酸カルシウム、チタン酸カリウム、硼酸アルミニウム、塩基性硫酸マグネシウム、ガラスファイバーなどが挙げられる。また、有機化合物の微粒子としては、例えば、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂等の微粒子を挙げることができる。
微粒子を樹脂中に分散させる方法としては、ボールミル、サンドミル、ダイノミル等の分散機によるものが挙げられ、メディアレス分散としては、超音波型、遠心型、高圧型等が挙げられるが、本発明では、高圧型分散装置での分散あるいは、混練機を使用した分散が好ましい。
無機化合物の微粒子の例としては、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化錫等の微粒子が挙げられる。この中では、ケイ素原子を含有する化合物の微粒子であることが好ましく、特に二酸化ケイ素微粒子が好ましい。二酸化ケイ素微粒子としては、例えばアエロジル株式会社製のAEROSIL 200、200V、300、R972、R972V、R974、R202、R812,R805、OX50、TT600などが挙げられる。
有機化合物の微粒子の例としては、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素化合物樹脂、ウレタン樹脂等の微粒子が挙げられる。
微粒子の1次粒径は、特に限定されないが、最終的にフィルム中での平均粒径は、0.05〜5.0μm程度が好ましい。さらに好ましくは、0.1〜1.0μmである。
微粒子の平均粒径は、セルロースエステルフィルムを電子顕微鏡や光学顕微鏡で観察した際に、フィルムの観察場所における、微粒子の長軸方向の長さの平均値を指す。フィルム中で観察される微粒子であれば、1次微粒子であっても、1次微粒子が凝集した2次微粒子であってもよいが、通常観察される多くは2次微粒子である。
ここで、微粒子の平均粒径が、5μmを超えた場合は、ヘイズの劣化等が見られたり、異物として巻状態での故障を発生する原因にもなる。また、微粒子の平均粒径が、0.05μm未満の場合は、フィルムに滑り性を付与するのが難しくなる。
上記の微粒子は、セルロースエステルに対して、0.04〜0.5重量%添加して使用される。好ましくは、0.05〜0.3重量%、さらに好ましくは0.05〜0.25重量%添加して使用される。微粒子の添加量が0.04重量%以下では、フィルム表面粗さが平滑になりすぎて、摩擦係数の上昇によりブロッキングを発生する。微粒子の添加量が0.5重量%を超えると、フィルム表面の摩擦係数が下がりすぎて、巻き取り時に巻きズレが発生したり、フィルムの透明度が低く、ヘイズが高くなるため、液晶表示装置用フィルムとしての価値を持たなくなるので、上記の範囲が必須である。
微粒子の分散は、微粒子と溶剤を混合した組成物を高圧分散装置で処理することが好ましい。本発明で用いる高圧分散装置は、微粒子と溶剤を混合した組成物を、細管中に高速通過させることで、高剪断や高圧状態など特殊な条件を作りだす装置である。
高圧分散装置で処理することにより、例えば、管径1〜2000μmの細管中で装置内部の最大圧力条件が980N/cm2以上であることが好ましい。さらに好ましくは、装置内部の最大圧力条件が1960N/cm2以上である。またその際、最高到達速度が100m/sec以上に達するもの、伝熱速度が100kcal/hr以上に達するものが、好ましい。
上記のような高圧分散装置としては、例えばMicrofluidics
Corporation社製の超高圧ホモジナイザー(商品名マイクロフルイダイザー)あるいはナノマイザー社製ナノマイザーが挙げられ、他にもマントンゴーリン型高圧分散装置、例えばイズミフードマシナリ製ホモゲナイザーなどが挙げられる。
本発明において、微粒子は、低級アルコール類を25〜100重量%含有する溶剤中で分散した後、セルロースエステルを溶剤に溶解したドープと混合し、該混合液をエンドレスベルト上に流延するのが好ましい。
ここで、低級アルコールの含有比率としては、好ましくは50〜100重量%、さらに好ましくは75〜100重量%である。
また、低級アルコール類の例としては、好ましくはメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等が挙げられる。
低級アルコール以外の溶剤としては、特に限定されないが、セルロースエステルの製膜時に用いられる溶剤を用いることが好ましい。
微粒子は、溶媒中で1〜30重量%の濃度で分散される。これ以上の濃度で分散すると、粘度が急激に上昇し、好ましくない。分散液中の微粒子の濃度としては、好ましくは、5〜25重量%、さらに好ましくは、10〜20重量%である。
フィルムの紫外線吸収機能は、液晶の劣化防止の観点から、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光学補償フィルムなどの各種光学フィルムに付与されていることが好ましい。このような紫外線吸収機能は、紫外線を吸収する材料をセルロースエステル中に含ませても良く、セルロースエステルからなるフィルム上に紫外線吸収機能のある層を設けてもよい。
本発明において、使用し得る紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等を挙げることができるが、着色の少ないベンゾトリアゾール系化合物が好ましい。また、特開平10−182621号公報、特開平8−337574号公報に記載の紫外線吸収剤、特開平6−148430号公報に記載の高分子紫外線吸収剤も好ましく用いられる。
紫外線吸収剤としては、偏光子や液晶の劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れており、かつ液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。
本発明において、有用な紫外線吸収剤の具体例としては、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物等を挙げることができるが、これらに限定されない。
また、紫外線吸収剤の市販品として、チヌビン(TINUVIN)109、チヌビン(TINUVIN)171、チヌビン(TINUVIN)326(何れもチバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を、好ましく使用できる。
また、本発明において使用し得る紫外線吸収剤であるベンゾフェノン系化合物の具体例として、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)等を挙げることができるが、これらに限定されない。
本発明において、これらの紫外線吸収剤の配合量は、セルロースエステル(セルロースエステル)に対して、0.01〜10重量%の範囲が好ましく、さらに0.1〜5重量%が好ましい。紫外線吸収剤の使用量が少なすぎると、紫外線吸収効果が不充分の場合があり、紫外線吸収剤の多すぎると、フィルムの透明性が劣化する場合があるので、好ましくない。紫外線吸収剤は熱安定性の高いものが好ましい。
また、本発明のセルロースエステル光学フィルムの製造方法に用いることのできる紫外線吸収剤は、特開平6−148430号公報及び特開2002−47357号公報に記載の高分子紫外線吸収剤(または紫外線吸収性ポリマー)を好ましく用いることができる。とりわけ特開平6−148430号公報に記載の一般式(1)、あるいは一般式(2)、あるいは特開2002−47357号公報に記載の一般式(3)、(7)で表わされる高分子紫外線吸収剤が、好ましく用いられる。
酸化防止剤は、一般に、劣化防止剤ともいわれるが、セルロースエステル光学フィルムとしてのセルロースエステルフィルム中に含有させるのが好ましい。すなわち、液晶画像表示装置などが高湿高温の状態に置かれた場合には、セルロースエステル光学フィルムとしてのセルロースエステルフィルムの劣化が起こる場合がある。酸化防止剤は、例えばフィルム中の残留溶媒中のハロゲンやリン酸系可塑剤のリン酸などによりフィルムが分解するのを遅らせたり、防いだりする役割を有するので、フィルム中に含有させるのが好ましい。
このような酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられ、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト等を挙げることができる。特に、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。
これらの化合物の添加量は、セルロースエステルに対して重量割合で1ppm〜1.0重量%が好ましく、10〜1000ppmがさらに好ましい。
本発明によるセルロースエステル光学フィルムの製造方法は、前述のように、セルロースエステル樹脂材料として、セルロースエステルを、酸素原子(O)を有する溶剤または有機酸よりなる前処理剤に3〜20時間接触させた後、前処理剤から分離して乾燥させることにより、溶媒浸透性が向上した易溶性セルロースエステルを調製し、この易溶性セルロースエステルを用いることを特徴とするもので、前処理剤から分離して乾燥させたセルロースエステルを使用することで、輝点異物が減少させることが可能である。中でも、輝点の成分である未酢化物とSP値が近いメタノール処理が効果的であることが判った。また、弱酸性の有機酸よりなる前処理剤で浸漬・洗浄することでも、効果があることが判った。
本発明によるセルロースエステル光学フィルムの製造方法においては、このようなセルロースエステル樹脂材料の前処理の後に乾燥させた易溶性セルロースエステルを、溶解釜中で、例えば撹拌溶解方法、加熱溶解方法、超音波溶解方法等の手段により溶解する。この場合、加圧下で、溶剤の常圧での沸点以上でかつ溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱し、攪拌しながら溶解する方法が、ゲルやママコと呼ばれる塊状未溶解物の発生を防止するため、より好ましい。また、特開平9−95538号公報記載の冷却溶解方法、あるいはまた特開平11−21379号公報記載の高圧下で溶解する方法なども用いてもよい。
セルロースエステルを貧溶剤と混合して湿潤、あるいは膨潤させた後、さらに良溶剤と混合して溶解する方法も好ましく用いられる。このとき、セルロースエステルを貧溶媒と混合して湿潤あるいは膨潤させる装置と、良溶剤と混合して溶解する装置を別々に分けても良い。
セルロースエステルの溶解に用いる加圧容器の種類は、特に問うところではなく、所定の圧力に耐えることができ、加圧下で加熱、攪拌ができればよい。加圧容器には、その他、圧力計、温度計などの計器類を適宜配設する。加圧は窒素ガスなどの不活性気体を圧入する方法や、加熱による溶剤の蒸気圧の上昇によって行なってもよい。加熱は外部から行なうことが好ましく、例えばジャケットタイプのものは温度コントロールが容易で好ましい。
溶剤を添加しての加熱温度は、使用する溶剤の沸点以上で、2種類以上の混合溶剤の場合は、沸点が低い方の溶剤の沸点以上の温度に加温しかつ該溶剤が沸騰しない範囲の温度が好ましい。加熱温度が高すぎると、必要とされる圧力が大きくなり、生産性が悪くなる。好ましい加熱温度の範囲は20〜120℃であり、30〜100℃がさらに好ましい。また圧力は、設定温度で、溶剤が沸騰しないように調整される。
セルロースエステルの溶解後は、冷却しながら容器から取り出すか、または容器からポンプ等で抜き出して、熱交換器などで冷却し、得られたポリマーのドープを製膜に供するが、このときの冷却温度は、常温まで冷却してもよい。
図1は、本発明の溶液流延製膜方法によるセルロースエステル光学フィルムの製造方法を実施する装置を例示するフローシートである。
同図を参照すると、まずドープ溶解釜1においてセルロースエステル樹脂溶液(ドープ)を調製する。セルロースエステル樹脂溶液(ドープ)には、上記の可塑剤、微粒子、紫外線吸収剤、酸化防止剤等が含まれている。
原料セルロースエステルと溶剤の混合物は、撹拌機を有するドープ溶解釜1で溶解し、このとき、撹拌翼の周速は少なくとも0.5m/秒以上で、かつ30分以上撹拌して溶解することが好ましい。
その後、ドープを送液ポンプ2の作動により濾過器3に導いて濾過する。
本発明において、セルロースエステル樹脂溶液(ドープ)の濾過は、ドープを、これの主たる溶剤の1気圧における沸点以上の温度で濾過を施す。
好ましい温度範囲は40〜60℃であり、45〜55℃の範囲であることがさらに好ましい。ここで、セルロースエステル樹脂溶液(ドープ)の濾過温度が、40℃未満であれば、例えばフィルタープレス等の濾過器により異物が充分にとれず、異物の混入により、内部CNTが劣化するので、好ましくない。また、濾過温度が、60℃を超えると、フィルムに泡の巻き込みが生じ、内部CNTが劣化するので、好ましくない。
本発明において、濾過の際のドープの流量が、10〜80kg/(hr・m2)、好ましくは20〜60kg/(hr・m2)であることが好ましい。
本発明において、濾過に使用する濾材は、絶対濾過精度が小さい方が好ましいが、絶対濾過精度が小さすぎると、濾過材の目詰まりが発生しやすく、濾材の交換を頻繁に行なわなければならず、生産性を低下させるという問題点ある。
このため、本発明において、セルロースエステルドープに使用する濾材は、絶対濾過精度0.008mm以下のものが好ましく、0.001〜0.008mmの範囲が、より好ましく、0.003〜0.006mmの範囲の濾材がさらに好ましい。
濾材の材質には、特に制限はなく、通常の濾材を使用することができるが、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のプラスチック繊維製の濾材やステンレス繊維等の金属製の濾材が繊維の脱落等がなく好ましい。
濾圧は、3500kPa以下であることが好ましく、3000kPa以下が、より好ましく、2500kPa以下であることがさらに好ましい。なお、濾圧は、濾過流量と濾過面積を適宜選択することで、コントロールできる。
濾過後のドープは、流延ダイ4に導入し、溶液流延製膜法によりセルロースエステル光学フィルムを作製する。
本発明においては、上記のようにして作製した流延用ドープを、流延ダイ4によって例えばステンレス鋼製エンドレスベルトよりなる支持体5上に流延する。
流延ダイ4としては、ダイの口金部分のスリット形状を調整でき、膜厚を均一にしやすい加圧ダイが好ましい。加圧ダイには、コートハンガーダイやTダイ等があり、いずれも好ましく用いられる。
また、支持体5には、ステンレス鋼製の回転駆動エンドレスベルトもしくはステンレス鋼製の回転駆動ドラムを鏡面仕上げした支持体が使用される。支持体5の温度は、一般的な温度範囲0℃〜溶剤の沸点未満の温度で、流延することができるが、5〜30℃の支持体5上に流延する方が、ドープをゲル化させ、剥離限界時間をあげられるため、好ましく、5〜15℃の支持体5上に流延することが、さらに好ましい。ここで、剥離限界時間とは、透明で平面性の良好なフィルムを連続的に得られる流延速度の限界において、流延されたドープが支持体5上にある時間をいう。剥離限界時間は、短い方が生産性に優れていて、好ましい。
支持体5上の乾燥工程では、流延したドープを一旦ゲル化させた後、流延から剥離ロール6によって剥離するまでの時間を100%としたとき、流延から30%以内にドープ温度を40〜70℃にすることで、溶剤の蒸発を促進し、それだけ早く支持体5上から剥離することができ、さらに剥離強度が増すため好ましく、30%以内にドープ温度を55〜70℃にすることがより好ましい。その後、この温度を20%以上維持することが好ましく、さらにこの温度を40%以上維持することが好ましい。
支持体5上での乾燥は、ウェブ10を、残留溶媒量60〜150%で支持体5から剥離ロール6によって剥離することが、支持体5からの剥離強度が小さくなるため好ましく、残留溶媒量80〜120%がより好ましい。剥離するときのドープの温度は0〜30℃にすることが剥離時のベース強度をあげることができ、剥離時のベース破断を防止できるため好ましく、5〜20℃がより好ましい。
溶液流延製膜法によるセルロースエステル光学フィルムの製造において、残留溶媒量は、次式で表わされる。
残留溶媒量(重量%)={(M−N)/N}×100
ここで、Mはウェブ(フィルム)の任意時点での重量、Nは重量Mのものを115℃で1時間加熱処理したときのフィルム重量である。
フィルム乾燥工程においては、支持体5より剥離ロール6によって剥離したフィルムをさらに乾燥し、残留溶媒量を3重量%以下、好ましくは1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下であることが、寸法安定性が良好なフィルムを得る上で好ましい。
支持体上から剥離後のウェブ10の搬送速度は、100〜150m/sであることが好ましい。
ついで、剥離後のウェブ10を、クリップ若しくはピンでウェブ10の両端を把持して搬送するテンター装置7を用いて、幅手方向に1.01〜2.00倍、好ましくは1.1〜2.00倍延伸する。
また、剥離後のウェブを延伸する際の延伸温度は、120〜180℃の範囲であるのが好ましい。ここで、延伸温度が120℃未満であれば、フィルムにひずみが生じて、コントラストが劣化するので、好ましくない。また、延伸温度が180℃を超えると、フィルムにたるみが生じて、リタデーション・ムラが発生するので、好ましくない。
テンター装置7による延伸工程の後には、乾燥装置8を設けることが好ましい。乾燥装置8内では、側面から見て千鳥配置させられた複数の搬送ロールによってウェブ10が蛇行させられ、その間にウェブ(またはフィルム)10が乾燥させられるものである。また、乾燥装置8でのフィルム搬送張力は、ドープの物性、剥離時及びフィルム搬送工程での残留溶媒量、乾燥装置8での温度等に影響を受けるが、30〜250N/mが好ましく、60〜150N/mがさらに好ましい。80〜120N/mが最も好ましい。
なお、ウェブ(またはフィルム)10を乾燥させる手段は、特に制限なく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等で行なう。簡便さの点から熱風で乾燥するのが好ましく、例えば乾燥装置の底の前寄り部分から吹込まれ、乾燥装置の天井の後寄り部分から排出せられる温風によって乾燥される。乾燥温度は40〜160℃が好ましく、50〜160℃が平面性、寸法安定性を良くするためさらに好ましい。
これら流延から乾燥までの工程は、空気雰囲気下でもよいし、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下でもよい。この場合、乾燥雰囲気を溶媒の爆発限界濃度を考慮して実施することは勿論のことである。
乾燥工程では、ウェブ(またはフィルム)10に含有される可塑剤が蒸発し、ロールや壁面においてコンデンスする現象を抑制する対策として、単位時間当たり供給風量に対して特定量以上の新鮮なガスを流入させることが好ましい。そして、供給する新鮮ガスの量は、全供給風量の5〜50%に設定することが好ましい。
乾燥終了後、巻き取り前にスリッターを設けて端部を切り落とすことが良好な巻姿を得るため好ましい。
上記の搬送乾燥工程を終えたフィルムに対し、巻取工程に導入する前段において、エンボス加工装置によりフィルムにエンボスを形成する加工が行なわれる。エンボス加工装置としては、特開昭63−74850号公報に記載されている装置が利用できる。
乾燥が終了したウェブ10を、フィルムとして巻取り装置9によって巻き取り、セルロースエステル光学フィルムの元巻を得る工程である。乾燥終了後のフィルムの残留溶媒量は、0.5重量%以下、好ましくは0.1重量%以下とすることにより寸法安定性の良好なフィルムを得ることができる。
フィルムの巻き取り方法は、一般に使用されているワインダーを用いればよく、定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等の張力をコントロールする方法があり、それらを使い分ければよい。
本発明において、セルロースエステル光学フィルムは、含水率としては0.1〜5%が好ましく、0.3〜4%がより好ましく、0.5〜2%であることがさらに好ましい。
本発明において、セルロースエステル光学フィルムは、透過率が90%以上であることが望ましく、さらに好ましくは92%以上であり、さらに好ましくは93%以上である。
また、本発明の方法により製造されたセルロースエステル光学フィルムは、3枚重ねた場合のヘイズが、0.3〜2.0であるもので、本発明のセルロースエステル光学フィルムによれば、フィルムのヘイズが非常に低いものであり、透明性、平面性に優れた光学特性を有するものである。
ここで、セルロースエステル光学フィルムのヘイズの測定は、例えば、JIS K6714に規定される方法に従って、ヘイズ・メーター(1001DP型、日本電色工業株式会社製)を用いて測定すれば、良い。
本発明のセルロースエステル光学フィルムでは、下記式で定義される面内リタデーション(Ro)が、温度23℃、湿度55%RHの条件下で30〜300nm、厚み方向リタデーション(Rt)が、温度23℃、湿度55%RHの条件下で70〜400nmであることが好ましい。
Ro=(nx−ny)×d
Rt={(nx+ny)/2−nz}×d
式中、Roはフィルム面内リタデーション値、Rtはフィルム厚み方向リタデーション値、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率、nzはフィルムの厚み方向の屈折率(屈折率は波長590nmで測定)、dはフィルムの厚さ(nm)を表す。
なお、リタデーション値Ro、Rtは、自動複屈折率計を用いて測定することができる。例えば、KOBRA−21ADH(王子計測機器株式会社製)を用いて、温度23℃、湿度55%RHの環境下で、波長が590nmで求めることができる。
以上のようにして得られた幅手方向に延伸された熱可塑性樹脂フィルムは、延伸により分子が配向されて、一定の大きさのリタデーションを持つ。リタデーションのバラツキは小さいほど好ましく、通常15nm以内、好ましくは10nm以下、より好ましくは4nm以下である。
本発明の方法により製造されたセルロースエステル光学フィルムの膜厚は、使用目的によって異なるが、液晶表示装置の薄型化とフィルム強度の観点から、仕上がりフィルムとして10〜150μmの範囲に調整するのが好ましく、さらに20〜100μmの範囲の範囲に調整するのがより好ましく、特に25〜80μmの範囲の範囲に調整するのが好ましい。
ここで、偏光板は、上記の本発明により製造されたセルロースエステル光学フィルムよりなる偏光板用保護フィルムを、少なくとも一方の面に有するものである。
また、液晶表示装置は、上記の偏光板を、液晶セルの少なくとも一方の面に有するものである。
本発明により作製されたセルロースエステル光学フィルムを用いた偏光板を、液晶セルの少なくとも一方の面に有する液晶表示装置は、表示品質が非常に優れているものである。
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
実施例1
本発明の溶液流延製膜法によるセルロースエステル光学フィルムの製造方法により、セルローストリアセテートフィルムをつぎのようにして製造した。
まず、セルロースエステル樹脂材料であるセルローストリアセテートを、エタノール(SP値:13.0)よりなる前処理剤に、3時間接触させた後、前処理剤から分離して、乾燥温度60℃で、3時間乾燥させることにより、溶媒浸透性が向上した易溶性セルローストリアセテートを調製し、この易溶性セルローストリアセテートを用いた。
(ドープの調製)
セルローストリアセテート(TAC) 100重量部
分子量分布:Mw/Mnは1.5
可塑剤 1.0重量部
トリフェニルホスフェート/ビフェニルジフェニルホスフェート
=10/3
微粒子
(アエロジルR972V、日本アエロジル株式会社製) 0.11重量部
紫外線吸収剤:チヌビン198 1.0重量部
溶媒:酢酸メチル/エタノール=5/1 550重量部
上記の材料を、順次、ドープ溶解釜に導入し、釜内温度を20℃から80℃まで昇温した後、温度を80℃に保ったままで3時間攪拌を行なって、セルローストリアセテートを完全に溶解した。その後、攪拌を停止し、液温を55℃まで下げた後、直ちに連結した配管を経て送液ポンプを介して濾過器に送液し、ドープを、温度40℃で、濾過を施した。
上記のように濾過したドープを、温水を循環して40℃に保温した流延ダイを通して、ステンレス鋼製エンドレスベルトよりなる支持体上に流延した。
そして、60℃の乾燥風で乾燥し、流延後60秒に、10℃に冷却されたステンレス支持体からウェブを剥離した。剥離後のウェブの搬送速度を100m/sとした。ついで、剥離後のウェブ10を、延伸温度120℃で、テンターで横方向(TD)及び縦方向(MD)に各々1.2倍及び1.05倍に延伸し、100℃で乾燥し、残存溶媒量が3%の時に幅把持を解放し、その後、ウェブ10を千鳥状に配置した搬送ロールを具備する乾燥装置で100℃の乾燥風にて乾燥させ、フィルム両端に幅10mm、高さ8μmのナーリング加工を施して、最終的に厚さ80μmのセルローストリアセテートフィルムを作製した。フィルム幅は1300mm、巻き取り長は2500mとした。
実施例2〜4
実施例1の場合と同様に実施するが、前処理剤による接触時間を、下記の表1に示すように、それぞれ変更した以外は、実施例1の場合と同様にして製膜を行ない、各種セルローストリアセテートフィルムを作製した。
比較例1〜3
比較のために、実施例1の場合と同様に実施するが、比較例1では、前処理剤によるセルローストリアセテートの前処理を実施しなかった。比較例2と3では、前処理剤による接触時間を、下記の表1に示すように、本発明の範囲外であるものにそれぞれ変更した以外は、実施例1の場合と同様にして製膜を行ない、比較用の各種セルローストリアセテートフィルムを作製した。
<輝点異物の評価>
つぎに、上記実施例1〜4および比較例1〜3で作製したセルローストリアセテートフィルムについて、フィルムの輝点異物をまず、直交状態(クロスニコル)に二枚の偏光板を配置して透過光を遮断し、二枚の偏光板の間に測定担体であるセルロースエステルフィルムを挿入する。次いで、その片側から白色光を照射し、反対側より50倍の光学顕微鏡で観察すると異物が存在する部分から光が漏れて、スポット状に光って見え、フィルムの輝点異物を下記の基準でランク分けした。得られた結果を下記の表1に示した。
◎:光学フィルムとして使用するのに非常に優良である
○:光学フィルムとして使用するのに優良である
△:光学フィルムとして使用するのに問題は無い
×:光学フィルムとして使用するのに問題がある
<リタデーション・ムラの評価>
つぎに、上記実施例1〜4および比較例1〜3で作製したセルローストリアセテートフィルムについて、フィルムのリタデーション・ムラを偏光顕微鏡で評価し、フィルムのリタデーション・ムラを下記の基準でランク分けした。得られた結果を下記の表1に示した。
◎:光学フィルムとして使用するのに非常に優良である
○:光学フィルムとして使用するのに優良である
△:光学フィルムとして使用するのに問題は無い
×:光学フィルムとして使用するのに問題がある
Figure 0005821855
上記表1の結果から明らかなように、本発明の実施例1〜4で作製したセルローストリアセテートフィルムによれば、フィルムの輝点異物およびリタデーション・ムラの発生がなく、コントラストが優れているものであった。
これに対し、比較例1と2で作製したセルローストリアセテートフィルムは、輝点異物の発生があり、比較例3で作製したセルローストリアセテートフィルムは、リタデーション・ムラの発生があり、コントラストが劣るものであった。
実施例5〜8
実施例1の場合と同様に実施するが、下記の表2に示すように、前処理剤として、エタノールの代わりに、メタノール、グリセリン、又は水を用いて、実施例1の場合と同様にして製膜を行ない、各種セルローストリアセテートフィルムを作製した。これらの前処理剤のSP値(溶解パラメーター)と接触時間を、表2にあわせて示した。
つぎに、上記実施例5〜8で作製したセルローストリアセテートフィルムについて、フィルムの輝点異物、およびリタデーション・ムラの発生を、上記の場合と同様の方法で評価し、得られた結果を下記の表2に示した。
Figure 0005821855
上記表2の結果から明らかなように、前処理剤として、エタノールの代わりに、メタノール、グリセリン、又は水を用いた場合にも、これら実施例5〜8で得られたセルローストリアセテートフィルムは、輝点異物の発生が非常に少なく、またリタデーション・ムラの発生もないことが判った。
実施例9〜13
実施例1の場合と同様に実施するが、下記の表3に示すように、前処理剤として、酢酸溶液、クエン酸溶液、又は水を用いて、実施例1の場合と同様にして製膜を行ない、各種セルローストリアセテートフィルムを作製した。
なお、実施例9では0.006質量%の酢酸溶液、実施例10では0.6質量%の酢酸溶液、実施例11では0.05質量%のクエン酸溶液、実施例12では6質量%の酢酸溶液を、それぞれ用いた。実施例13では、前処理剤として水を用いた。セルローストリアセテートを前処理剤と接触させる際の前処理剤のpH値を、表3に示した。
ここで、セルローストリアセテートと前処理剤との接触時間は、10時間で一定とした。
つぎに、上記実施例9〜13で作製したセルローストリアセテートフィルムについて、フィルムの輝点異物、およびリタデーション・ムラの発生を、上記の場合と同様の方法で評価し、得られた結果を下記の表3に示した。
Figure 0005821855
上記表3の結果から明らかなように、前処理剤として、酢酸溶液、クエン酸溶液、又は水を用いた場合にも、セルローストリアセテートを前処理剤と接触させる際の前処理剤のpH値が、pH4〜pH6の範囲内にあると、得られたセルローストリアセテートフィルムは、輝点異物の発生が非常に少なく、またリタデーション・ムラの発生が少ないことが判った。
実施例14〜21
実施例1の場合と同様に実施するが、下記の表4に示すように、前処理剤として、酢酸溶液、クエン酸溶液、エタノール、又はメタノールを用いた。
また、実施例14〜21では、前処理剤と接触後に前処理剤より分離したセルローストリアセテートを乾燥する際の乾燥温度を、種々変更させた。
なお、実施例14、15、17〜19では0.6質量%の酢酸溶液を用い、セルローストリアセテートを前処理剤と接触させる際の前処理剤のpH値が、4であった。また、実施例16では0.05質量%のクエン酸溶液を用い、セルローストリアセテートを前処理剤と接触させる際の前処理剤のpH値が、4であった。
そして、下記の表4に示すように、前処理剤と接触後に前処理剤より分離したセルローストリアセテートを乾燥する際の乾燥温度を設定して、実施例1の場合と同様にして製膜を行ない、各種セルローストリアセテートフィルムを作製した。
つぎに、上記実施例14〜21で作製したセルローストリアセテートフィルムについて、フィルムの輝点異物、およびリタデーション・ムラの発生を、上記の場合と同様の方法で評価し、得られた結果を下記の表4に示した。
Figure 0005821855
上記表4の結果から明らかなように、前処理剤と接触後に前処理剤より分離したセルローストリアセテートを乾燥する際の乾燥温度が、とくに20〜250℃の範囲内にあると、得られたセルローストリアセテートフィルムは、輝点異物の発生が非常に少なく、またリタデーション・ムラの発生が少ないことが判った。
実施例22〜30
実施例1の場合と同様に実施するが、下記の表5に示すように、前処理剤として、酢酸溶液、エタノール、又はメタノールを用いた。
なお、実施例22〜28では0.6質量%の酢酸溶液を用い、セルローストリアセテートを前処理剤と接触させる際の前処理剤のpH値は、4であった。
そして、下記の表5に示すように、前処理剤と接触後に前処理剤より分離したセルローストリアセテートを乾燥する際の乾燥時間を種々変更して、実施例1の場合と同様にして製膜を行ない、各種セルローストリアセテートフィルムを作製した。
つぎに、上記実施例22〜30で作製したセルローストリアセテートフィルムについて、フィルムの輝点異物、およびリタデーション・ムラの発生を、上記の場合と同様の方法で評価し、得られた結果を下記の表5に示した。
<ヘイズの評価>
また、上記実施例22〜30で作製したセルローストリアセテートフィルムについて、フィルム試料1枚をJIS K−6714に従って、ヘイズメーター(1001DP型、日本電色工業株式会社製)を使用して測定し、以下のようにヘイズをランク分けし評価する。
◎:ヘイズ0.4%未満
○:ヘイズ0.4%以上0.6%未満
△:ヘイズ0.6%以上0.8%未満
×:ヘイズ0.8%以上
Figure 0005821855
上記表5の結果から明らかなように、前処理剤と接触後に前処理剤より分離したセルローストリアセテートを乾燥する際の乾燥時間が、とくに3〜24時間の範囲内にあると、得られたセルローストリアセテートフィルムは、輝点異物の発生が非常に少なく、またリタデーション・ムラの発生が少ないうえに、優れたヘイズ値を有することが判った。
実施例31〜36
実施例1の場合と同様に実施するが、下記の表6に示すように、前処理剤として、酢酸溶液、エタノール、およびメタノールを用いた。
なお、実施例31〜34では0.6質量%の酢酸溶液を用い、セルローストリアセテートを前処理剤と接触させる際の前処理剤のpH値は、4であった。
そして、下記の表6に示すように、前処理剤と接触後に前処理剤より分離したセルローストリアセテートを、まず30℃の低温で乾燥し、ついで100℃の高温で乾燥させた。その際の低温/高温の乾燥時間比を、下記の表6に示すように種々設定した以外は、実施例1の場合と同様にして製膜を行ない、各種セルローストリアセテートフィルムを作製した。
つぎに、上記実施例31〜36で作製したセルローストリアセテートフィルムについて、フィルムの輝点異物、およびリタデーション・ムラの発生を、上記の場合と同様の方法で評価し、得られた結果を下記の表6に示した。
Figure 0005821855
上記表6の結果から明らかなように、前処理剤と接触後に前処理剤より分離したセルローストリアセテートを、まず低温で乾燥し、ついで高温で乾燥させ、かつ低温/高温の乾燥時間比が、とくに0.3〜0.5の範囲内にあると、得られたセルローストリアセテートフィルムは、輝点異物の発生が非常に少なく、またリタデーション・ムラの発生が少ないことが判った。
実施例37〜45
実施例1の場合と同様に実施するが、下記の表7に示すように、前処理剤として、エタノール又は酢酸溶液を用いた。
そして、下記の表7に示すように、前処理後の易溶性セルロースエステルの前処理剤残留濃度を種々設定して、実施例1の場合と同様にして製膜を行ない、各種セルローストリアセテートフィルムを作製した。
つぎに、上記実施例37〜45で作製したセルローストリアセテートフィルムについて、フィルムの輝点異物、およびヘイズの発生を、上記の場合と同様の方法で評価し、得られた結果を下記の表7に示した。
Figure 0005821855
上記表7の結果から明らかなように、前処理後の易溶性セルロースエステルの前処理剤残留濃度が、とくに100〜10000ppmの範囲内にあると、得られたセルローストリアセテートフィルムは、輝点異物の発生が非常に少なく、また優れたヘイズ値を有することが判った。
実施例46〜51
実施例1の場合と同様に実施するが、下記の表8に示すように、前処理剤として、酢酸溶液、エタノール、又はメタノールを用いた。
なお、実施例46〜49では0.6質量%の酢酸溶液を用い、セルローストリアセテートを前処理剤と接触させる際の前処理剤のpH値は、4であった。
そして、下記の表8に示すように、前処理後の易溶性セルロースエステルのpH値を種々設定して、実施例1の場合と同様にして製膜を行ない、各種セルローストリアセテートフィルムを作製した。
つぎに、上記実施例46〜51で作製したセルローストリアセテートフィルムについて、フィルムの輝点異物、およびリタデーション・ムラの発生を、上記の場合と同様の方法で評価し、得られた結果を下記の表8に示した。
Figure 0005821855
上記表8の結果から明らかなように、前処理後の易溶性セルロースエステルのpH値が、とくにpH6〜pH8の範囲内にあると、得られたセルローストリアセテートフィルムは、輝点異物の発生が非常に少なく、またリタデーション・ムラの発生が少ないことが判った。
実施例52〜55
実施例1〜4の場合と同様に実施するが、セルローストリアセテートを溶解する溶媒を、下記のドープ組成に示すように、メチレンクロライドおよびエタノールに変更した以外は、実施例1〜4の場合と同様にして製膜を行ない、各種セルローストリアセテートフィルムを作製した。
(ドープ組成)
セルローストリアセテート(TAC) 100重量部
分子量分布:Mw/Mnは1.5
可塑剤 1.0重量部
トリフェニルホスフェート/ビフェニルジフェニルホスフェート
=10/3
微粒子 0.11重量部
アエロジルR972V(日本アエロジル株式会社製)
紫外線吸収剤 1重量部
チヌビン198(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)
溶媒:メチレンクライド 418重量部
エタノール 23重量部
<フィルムの評価>
つぎに、上記実施例52〜55で作製したセルローストリアセテートフィルムについて、上記実施例1〜4の場合と同様に、フィルムの輝点異物、およびリタデーション・ムラを評価し、得られた結果を下記の表9に示した。
Figure 0005821855
上記表9の結果から明らかなように、セルローストリアセテートを溶解する溶媒として、メチレンクロライドおよびエタノールを用いた場合にも、得られたセルローストリアセテートフィルムは、輝点異物の発生が非常に少なく、またリタデーション・ムラの発生が少ないことが判った。
1:流延ダイ
2:送液ポンプ
3:濾過器
4:流延ダイ
5: エンドレスベルト支持体
6:剥離ロール
7:テンター装置
8:乾燥装置
9:巻取り機
10:ウェブ

Claims (9)

  1. セルロースエステル樹脂材料を含むフィルム原料を溶剤に溶解したドープを調製し、ドープを流延ダイから回転駆動金属製エンドレスベルトまたは回転ドラム上に流延し、支持体上にウブを形成し、支持体上からウェブを剥離し、剥離後のウェブを延伸し、乾燥させたのち、フィルムを巻き取る溶液流延製膜法によるセルロースエステル光学フィルムの製造方法において、
    ルロースエステル樹脂材料であるセルロースエステルを、水、アルコール類、ケトン類、またはカルボン酸類から選ばれる前処理剤に3〜20時間接触させた後、前処理剤から分離して乾燥させることにより、溶媒浸透性が向上した易溶性セルロースエステルを調製し、この易溶性セルロースエステルを用いることを特徴とする、セルロースエステル光学フィルムの製造方法。
  2. 前処理剤が、SP値12〜17の範囲内にある、メタノール、グリセリン、またはエタノールであることを特徴とする、請求項1に記載のセルロースエステル光学フィルムの製造方法。
  3. 前記前処理剤が酢酸溶液またはクエン酸溶液であり、セルロースエステルと接触させる際の前記前処理剤のpH値が、pH4〜pH6の範囲内であることを特徴とする、請求項1に記載のセルロースエステル光学フィルムの製造方法。
  4. 前処理剤と接触後に前処理剤より分離したセルロースエステルを乾燥する際の乾燥温度が、20〜250℃であることを特徴とする、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のセルロースエステル光学フィルムの製造方法。
  5. 前処理剤より分離したセルロースエステルを乾燥する際の乾燥温度が、50〜120℃であることを特徴とする、請求項4に記載のセルロースエステル光学フィルムの製造方法。
  6. 前処理剤と接触後に前処理剤より分離したセルロースエステルを乾燥する際の乾燥時間が、3〜24時間であることを特徴とする、請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載のセルロースエステル光学フィルムの製造方法。
  7. 前処理剤と接触後に前処理剤より分離したセルロースエステルを、まず20〜40℃の低温で乾燥し、ついで50〜120℃の高温で乾燥させることを特徴とし、かつ低温/高温の乾燥時間比が、0.3〜0.5の範囲内にあることを特徴とする、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のセルロースエステル光学フィルムの製造方法。
  8. 前処理後の易溶性セルロースエステルの前処理剤残留濃度が、100〜10000ppmであることを特徴とする、請求項1〜7のうちのいずれか一項に記載のセルロースエステル光学フィルムの製造方法。
  9. 前処理後の易溶性セルロースエステルのpH値が、pH6〜pH8の範囲内であることを特徴とする、請求項1〜8のうちのいずれか一項に記載のセルロースエステル光学フィルムの製造方法。
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