JP5820521B1 - リチウム二次電池用正極材料及びその製造方法 - Google Patents

リチウム二次電池用正極材料及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】表面を炭素で被覆したオリビン型リン酸マンガン鉄リチウム自体が水分を吸着しにくい性質を有し、安定した電池性能を発現するリチウム二次電池を得ることのできるリチウム二次電池用正極材料を提供する。【解決手段】リチウム源として炭酸リチウムを用い、かつリン1モルに対して2.7〜3.3モルのリチウムを含むリン酸三リチウム水溶液を用いて得られ、表面に炭素が均一に被覆されてなるオリビン型リン酸マンガン鉄リチウムを含有するリチウム二次電池用正極材料であって、温度20℃及び相対湿度50%にて平衡に達するまで水分を吸着させたときから、温度150℃まで昇温して20分間保持したときまでに揮発する水分量として測定される吸着水分量が、2200〜3500ppmであるリチウム二次電池用正極材料。【選択図】なし

Description

本発明は、安定した電池性能を有するリチウム二次電池を得ることのできるリチウム二次電池用正極材料及びその製造方法に関する。
携帯電子機器、ハイブリッド自動車、電気自動車等に用いられる二次電池の開発が行われており、特にリチウムイオン二次電池は広く知られている。こうしたなか、オリビン型構造を有するLi(Fe,Mn)PO4等のリチウム遷移金属リン酸塩化合物は、資源的な制約に大きく左右されることがなく、しかも高い安全性を発揮することができるため、高出力で大容量のリチウムイオン二次電池を得るのには最適な正極材料となる。しかしながら、これらの化合物は、結晶構造に由来する導電性を十分に高めるのが困難な性質を有しており、またリチウムイオンの拡散性にも改善の余地があるため、従来より種々の開発がなされている。
例えば、特許文献1では、一次結晶粒子を超微粒子化して、オリビン型正極活物質内のリチウムイオン拡散距離の短縮化を図ることにより、得られる電池の性能向上を試みている。また、特許文献2では、正極活物質の粒子表面に伝導性炭質材料を均一に堆積させ、かかる粒子表面で規則的な電場分布を得ることにより、電池の高出力化を図っている。
一方、特許文献3には、炭素で被覆したリチウム鉄リン酸系複合酸化物複合体を正極活物質として用いた際、10サイクル後の放電容量が正極活物質の水分含有量に影響され、かかる水分含有量を低減すれば放電容量を向上し得る旨記載されており、こうした思想の下、炭質材料を含む原料混合物の焼成処理後は、粉砕処理や分級処理を乾燥雰囲気下で行うことにより、正極活物質の水分含有量を一定値以下に低減する技術が開示されている。
さらに、特許文献4には、比表面積を増大させた一次粒子を用いて得られる活物質は、その表面に炭素を被覆すると、かえって湿った空気による劣化に敏感となる場合もあることを考慮し、乾燥雰囲気において所定の原料を合成反応等させることにより、正極用材料の製造、保管及び使用の間にわたって湿度レベルを一定以下に保持する技術が開示されている。
特開2010−251302号公報 特開2001−15111号公報 特開2003−292309号公報 特表2010−508234号公報
上記特許文献3〜4に記載の技術は、電池に加工する際にまで、敢えて正極活物質の水分含有量を低減するための乾燥処理を施すものであるため、電池を得るに至るまでの工程が煩雑になりかねず、より簡易な手段で有効に電子特性の性能低下を防止できる技術が望まれる。
したがって、本発明の課題は、表面を炭素で被覆したオリビン型リン酸マンガン鉄リチウム自体が水分を吸着しにくい性質を有し、安定した電池性能を発現するリチウム二次電池を得ることのできるリチウム二次電池用正極材料を提供することにある。
そこで本発明者らは、種々検討したところ、リチウム源に炭酸リチウムを用いつつ、リン及びリチウムを特定量で含むリン酸三リチウム水溶液を用いることにより得られる、表面に炭素を被覆してなるオリビン型リン酸マンガン鉄リチウムであれば、水分を吸着しにくい性質を有するため、これを含有する正極材料を用いれば、優れた電池特性を発現できるリチウム二次電池が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、リチウム源に炭酸リチウムを用い、かつリン1モルに対して2.7〜3.3モルのリチウムを含むリン酸三リチウム水溶液を用いて得られ、表面に炭素が均一に被覆されてなるオリビン型リン酸マンガン鉄リチウムを含有するリチウム二次電池用正極材料であって、
温度20℃及び相対湿度50%にて平衡に達するまで水分を吸着させたときから、温度250℃まで昇温して20分間保持したときまでに揮発する水分量として測定される吸着水分量が、2000ppm以下であるリチウム二次電池用正極材料を提供するものである。
また、本発明は、リチウム源として炭酸リチウムを用い、リン1モルに対して2.7〜3.3モルのリチウムを含むリン酸三リチウム水溶液を調整する工程(I)、及び
工程(I)において得られたリン酸三リチウム水溶液、マンガン化合物、及び鉄化合物を水熱反応に付してオリビン型リン酸マンガン鉄リチウムを得る工程(II)
を備える、上記リチウム二次電池用正極材料の製造方法を提供するものである。
本発明のリチウム二次電池用正極材料であれば、水分を吸着しにくいため、製造環境として強い乾燥条件を必要とすることなく、簡易な工程によりリチウム二次電池を得ることができ、またかかる電池において、様々な使用環境下でも優れた電池特性を安定して発現することが可能となる。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のリチウム二次電池用正極材料は、リチウム源に炭酸リチウムを用い、かつリン1モルに対して2.7〜3.3モルのリチウムを含むリン酸三リチウム水溶液を用いて得られ、表面に炭素が均一に被覆されてなるオリビン型リン酸マンガン鉄リチウムを含有する。
本発明では、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムを得るにあたり、不要な金属水和物が生成して混合物の粘度が増大して、工程中の反応を良好に進行させることができなくなるおそれや、得られる正極材料の吸着水分量を十分に低減できなくなるおそれを有効に回避する観点から、リン1モルに対して2.7〜3.3モルのリチウムを含むリン酸三リチウム水溶液を用いる。かかるリン酸三リチウム水溶液は、より好ましくは、リン1モルに対し、リチウムを2.79〜2.97モル含有する。
上記特定量のリン及びリチウムを含むリン酸三リチウム水溶液を用いることによって、本発明のオリビン型リン酸マンガン鉄リチウムを得るには、具体的には、例えば、
リチウム源として炭酸リチウムを用い、リン1モルに対して2.7〜3.3モルのリチウムを含むリン酸三リチウム水溶液を調整する工程(I)、及び
工程(I)において得られたリン酸三リチウム水溶液、マンガン化合物、及び鉄化合物を水熱反応に付してオリビン型リン酸マンガン鉄リチウムを得る工程(II)
を備える製造方法を採用するのがよい。
工程(I)は、リチウム源として炭酸リチウムを用い、リン酸三リチウムを含有する水溶液を調整する工程である。リチウム源として炭酸リチウムを用いることにより、吸着水分量が十分に低減された正極材料を容易に得ることのできるオリビン型リン酸マンガン鉄リチウムを製造することができる。
かかる工程(I)では、得られる水溶液の分散性等を高める観点から、予め炭酸リチウム(Li2CO3)と水とを混合し、スラリー水を得るのが好ましい。炭酸リチウムと水とを混合して得られるスラリー水は、水100質量部に対し、20〜50質量部の炭酸リチウムを含有するのが好ましく、25〜45質量部の炭酸リチウムを含有するのがより好ましく、30〜40質量部の炭酸リチウムを含有するのがさらに好ましい。
次いで、得られたスラリー水からリン酸三リチウムを含有する水溶液を得るにあたり、リン酸を用い、これを滴下しながら撹拌するのが好ましい。リン酸を滴下して少量ずつ加えながら撹拌することで、得られる水溶液中において良好に反応が進行して、リン酸三リチウム粒子が均一に分散しつつ生成され、かかる粒子が不要に凝集するのをも効果的に抑制することができる。
リン酸とは、いわゆるオルトリン酸(H3PO4)であり、70〜90質量%濃度の水溶液として用いるのが好ましい。リン酸の上記スラリー水への滴下速度は、好ましくは15〜50mL/分であり、より好ましくは20〜45mL/分であり、さらに好ましくは28〜40ml/分である。また、スラリー水の撹拌時間は、好ましくは1〜24時間であり、より好ましくは5〜15時間である。
スラリー水を撹拌する際における、スラリー水の温度は、好ましくは20〜90℃であり、より好ましくは20〜70℃である。
なお、スラリー水を撹拌する際、さらにスラリー水の沸点温度以下に冷却するのが好ましい。具体的には、80℃以下に冷却するのが好ましく、20〜60℃に冷却するのがより好ましい。
工程(II)では、上記工程(I)において得られたリン酸三リチウムを含有する水溶液、マンガン化合物、及び鉄化合物を含む混合物を水熱反応に付する。マンガン化合物としては、2価のマンガン化合物であればよく、例えば、ハロゲン化マンガン、硫酸マンガン、酢酸マンガン等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、電池特性を高める観点から、硫酸マンガンを用いるのが好ましい。また、鉄化合物としても2価の鉄化合物及びこれらの水和物等であればよく、例えば、ハロゲン化鉄等のハロゲン化物;硫酸鉄等の硫酸塩;シュウ酸鉄、酢酸鉄等の有機酸塩;並びにこれらの水和物等が挙げられる。なかでも、電池特性を高める観点から、硫酸鉄を用いるのが好ましい。
これらマンガン化合物及び鉄化合物の使用モル比(マンガン化合物:鉄化合物)は、好ましくは99:1〜51:49であり、より好ましくは95:5〜70:30であり、さらに好ましくは90:10〜75:25である。
上記リン酸三リチウムを含有する水溶液、マンガン化合物、及び鉄化合物を含む混合物は、さらにマンガン化合物及び鉄化合物以外の金属(M)化合物を含んでもよい。金属(M)化合物におけるMは、Mg、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdであり、後述する式(A)中のMと同義である。かかる金属(M)化合物として、ハロゲン化物、硫酸塩、有機酸塩、及びこれらの水和物等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。なかでも、電池特性を高める観点から、MがMg、又はZrである金属(M)化合物を用いるのが好ましい。
これら金属(M)化合物を用いる場合、マンガン化合物、鉄化合物、及び金属(M)化合物の合計添加量は、上記工程(I)において得られた水溶液中のリン酸三リチウム1モルに対し、好ましくは0.99〜1.01モルであり、より好ましくは0.995〜1.005モルである。
水熱反応に付する際に用いる水の使用量は、マンガン化合物、鉄化合物、及び金属(M)化合物の溶解性、撹拌の容易性、及び合成の効率等の観点から、上記工程(I)において得られたリン酸三リチウムを含有する水溶液中のリン酸イオン1モルに対し、好ましくは10〜30モルであり、より好ましくは12.5〜25モルである。
マンガン化合物、鉄化合物、及び金属(M)化合物の添加順序は特に制限されない。また、これらの化合物を添加するとともに、必要に応じて酸化防止剤を添加してもよい。かかる酸化防止剤としては、亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)、ハイドロサルファイトナトリウム(Na224)、アンモニア水等を使用することができる。酸化防止剤の添加量は、過剰に添加されることでリン酸マンガン鉄リチウムの生成が抑制されるのを防止する観点から、マンガン化合物、鉄化合物、及び金属(M)化合物合計1モルに対し、好ましくは0.01〜1モルであり、より好ましくは0.03〜0.5モルである。
水熱反応における温度は、100℃以上であればよく、110〜210℃が好ましい。水熱反応は耐圧容器中で行うのが好ましく、110〜180℃で反応を行う場合、この時の圧力は0.2〜0.9MPaであるのが好ましく、160〜210℃で反応を行う場合の圧力は0.5〜1.8MPaであるのが好ましい。水熱反応時間は0.5〜24時間が好ましく、さらに0.5〜12時間が好ましい。
得られたオリビン型リン酸マンガン鉄リチウムは、ろ過後、水で洗浄し、乾燥することにより単離できる。洗浄する際における水の使用量は、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウム1質量部に対し、好ましくは5〜100質量部であり、より好ましくは5〜50質量部である。乾燥手段は、凍結乾燥、真空乾燥が用いられる。
本発明で用いるオリビン型リン酸マンガン鉄リチウムは、上記リン酸三リチウム水溶液を用いて得られ、表面に炭素が均一に被覆されてなる。本発明のリチウム二次電池用正極材料が、かかるオリビン型リン酸マンガン鉄リチウムを含有することにより、吸着水分量を有効に低減しつつ、より優れた電池特性を発現する電池を得ることができる。すなわち、本発明で用いるオリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの表面に炭素を均一に被覆し、これを含有するリチウム二次電池用正極材料を製造するには、上記工程(I)〜(II)に加え、さらに工程(III)として、工程(II)で得られたオリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの表面に炭素を被覆する工程を備えるのが好ましい。
オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの表面に炭素を被覆するには、常法により、グルコース、フルクトース、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、サッカロース、デンプン、デキストリン、クエン酸等の炭素源、或いはアセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラックの炭素源、及び水を添加し、次いで焼成すればよい。
焼成条件は、不活性ガス雰囲気下又は還元条件下に400℃以上、好ましくは400〜800℃で10分〜3時間、好ましくは0.5〜1.5時間行うのが好ましい。かかる処理により、粒子表面に炭素が均一に被覆されてなるオリビン型リン酸マンガン鉄リチウムとすることができる。炭素源の使用量は、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウム100質量部に対し、炭素源に含まれる炭素として3〜15質量部が好ましく、炭素源に含まれる炭素として5〜10質量部がさらに好ましい。
なお、本発明において、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの表面に炭素を被覆したのち、焼成することによって得られるリチウム二次電池用正極材料を用いるのが好ましい。
本発明で用いる上記オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムは、具体的には、例えば下記式(A):
LiFeaMnbcPO4・・・(A)
(式中、MはMg、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示す。a、b及びcは、0<a<0.5、0.5<b<1、及び0≦c≦0.2を満たし、かつ2a+2b+(Mの価数)×c=2を満たす数を示す。)
で表される。
上記式(A)で表されるオリビン型リン酸マンガン鉄リチウムは、少なくとも遷移金属であるマンガン(Mn)及び鉄(Fe)を含む。式(A)中、Mは、Mg、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示し、好ましくはMg、又はZrである。aは、0<a<0.5であって、好ましくは0.1≦a≦0.3である。bは、0.5<b<1であって、好ましくは0.7≦b≦0.9である。cは、0≦c≦0.2を満たし、好ましくは0≦c≦0.1である。そして、これらa、b及びcは、2a+2b+(Mの価数)×c=2を満たす数である。上記式(A)で表されるオリビン型リン酸マンガン鉄リチウムとしては、具体的には、例えばLiMn0.8Fe0.2PO4、LiMn0.75Fe0.15Mg0.1PO4、LiMn0.75Fe0.19Zr0.03PO4等が挙げられる。
本発明で用いる上記オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムのBET比表面積は、後述する適度な値の結晶子径を有することとも相まって、吸着水分量を効果的に低減する観点から、好ましくは5〜40m/gであり、より好ましくは5〜20m/gである。
また、本発明で用いる上記オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの結晶子径は、上記適度な値のBET比表面積を有しながら微細な粒子とし、吸着水分量を低減しつつ優れた電池特性を確保する観点から、好ましくは10〜150nmであり、より好ましくは10〜100nmである。なお、かかる結晶子径とは、シェラーの式を適用することにより求められる値である。
本発明のリチウム二次電池用正極材料は、上記リン酸三リチウム水溶液を用いて得られ、表面に炭素が均一に被覆されてなるオリビン型リン酸マンガン鉄リチウムを含有し、かつ温度20℃及び相対湿度50%にて平衡に達するまで水分を吸着させたときから、温度250℃まで昇温して20分間保持したときまでに揮発する水分量として測定される吸着水分量が、本発明のリチウム二次電池用正極材料中に2000ppm以下である。すなわち、本発明では、リチウム二次電池用正極材料の吸着水分量と、温度20℃及び相対湿度50%にて平衡に達するまで水分を吸着させたときから温度250℃まで昇温して20分間保持したときまでに揮発する水分量とが、同量であるとみなし、かかる揮発する水分量の測定値をリチウム二次電池用正極材料の吸着水分量とするものである。このように所定の条件下で測定される吸着水分量が極限られた範囲内であることにより、様々な使用環境下でも優れた電池特性を安定して発現することが可能となる。かかる吸着水分量は、本発明のリチウム二次電池用正極材料中に、好ましくは1990ppm以下であり、より好ましくは1985ppm以下である。
なお、温度20℃及び相対湿度50%にて平衡に達するまで水分を吸着させたときから、温度250℃まで昇温して20分間保持したときまでに揮発する水分量は、例えばカールフィッシャー水分計を用いて測定することができる。
本発明のリチウム二次電池用正極材料を含むリチウム二次電池用正極を適用できるリチウム二次電池としては、正極と負極と電解液とセパレータを必須構成とするものであれば特に限定されない。
ここで、負極については、リチウムイオンを充電時には吸蔵し、かつ放電時には放出することができれば、その材料構成で特に限定されるものではなく、公知の材料構成のものを用いることができる。たとえば、リチウム金属、グラファイト又は非晶質炭素等の炭素材料等である。そしてリチウムを電気化学的に吸蔵・放出し得るインターカレート材料で形成された電極、特に炭素材料を用いることが好ましい。
電解液は、有機溶媒に支持塩を溶解させたものである。有機溶媒は、通常リチウムイオン二次電池の電解液の用いられる有機溶媒であれば特に限定されるものではなく、例えば、カーボネート類、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ケトン類、ニトリル類、ラクトン類、オキソラン化合物等を用いることができる。
支持塩は、その種類が特に限定されるものではないが、LiPF6、LiBF4、LiClO4及びLiAsF6から選ばれる無機塩、該無機塩の誘導体、LiSO3CF3、LiC(SO3CF32及びLiN(SO3CF32、LiN(SO2252及びLiN(SO2CF3)(SO249)から選ばれる有機塩、並びに該有機塩の誘導体の少なくとも1種であることが好ましい。
セパレータは、正極及び負極を電気的に絶縁し、電解液を保持する役割を果たすものである。たとえば、多孔性合成樹脂膜、特にポリオレフィン系高分子(ポリエチレン、ポリプロピレン)の多孔膜を用いればよい。
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
Li2CO3 11.084gと水 30mLを混合してスラリー水を得た。次いで、得られたスラリー水を、25℃の温度に保持しながら2〜3分間撹拌しつつ85%のリン酸水溶液 11.529gを35mL/分で滴下し、続いて12時間撹拌することによりリン酸三リチウムを含有する水溶液を得た。かかる水溶液は、リン1モルに対し、2.97モルのリチウムを含有していた。
次に、得られたリン酸三リチウムを含有する水溶液全量に対し、MnSO4・5H2O 19.286g、FeSO4・7H2O5.560gを添加して、混合液を得た。このとき、添加したMnSO4とFeSO4のモル比(マンガン化合物:鉄化合物)は、80:20であった。
次いで、得られた混合液をオートクレーブに投入し、170℃で0.5時間水熱反応を行った。オートクレーブ内の圧力は、0.8MPaであった。生成した結晶をろ過し、次いで結晶1質量部に対し、12質量部の水により洗浄した。洗浄した結晶を60℃1Torrの条件で真空乾燥してリン酸マンガン鉄リチウム(LiMn0.8Fe0.2PO4)を得た。
得られたリン酸マンガン鉄リチウムは、粉末X線回折測定により単一相であることを確認した。
そして、得られたリン酸マンガン鉄リチウム3g、グルコース 0.15g、エタノール 28mL、及び水 2mLを1時間ボールミルにて粉砕・混合し、アルゴン水素雰囲気下(水素濃度3%)、700℃で1時間焼成して、表面に炭素が均一に被覆されてなるリン酸マンガン鉄リチウムを得た。
[実施例2]
オートクレーブ内の圧力を0.5MPaとして、水熱反応を150℃で0.5時間行った以外、実施例1と同様にして、表面に炭素が均一に被覆されてなるリン酸マンガン鉄リチウムを得た。
なお、水熱反応後に得られたリン酸マンガン鉄リチウムは、粉末X線回折測定により単一相であることを確認した。
[実施例3]
オートクレーブ内の圧力を0.25MPaとして、水熱反応を130℃で0.5時間行った以外、実施例1と同様にして、表面に炭素が均一に被覆されてなるリン酸マンガン鉄リチウムを得た。
なお、水熱反応後に得られたリン酸マンガン鉄リチウムは、粉末X線回折測定により単一相であることを確認した。
[実施例4]
オートクレーブ内の圧力を0.8MPaとして、水熱反応を170℃で12時間行った以外、実施例1と同様にして、表面に炭素が均一に被覆されてなるリン酸マンガン鉄リチウムを得た。
なお、水熱反応後に得られたリン酸マンガン鉄リチウムは、粉末X線回折測定により単一相であることを確認した。
[実施例5]
オートクレーブ内の圧力を1.5MPaとして、水熱反応を200℃で12時間行った以外、実施例1と同様にして、表面に炭素が均一に被覆されてなるリン酸マンガン鉄リチウムを得た。
なお、水熱反応後に得られたリン酸マンガン鉄リチウムは、粉末X線回折測定により単一相であることを確認した。
[実施例6]
Li2CO3を10.972gとし、オートクレーブ内の圧力を1.5MPaとして、水熱反応を200℃で12時間行った以外、実施例1と同様にして、表面に炭素が均一に被覆されてなるリン酸マンガン鉄リチウムを得た。
なお、用いたリン酸三リチウムを含有する水溶液は、リン1モルに対し、2.94モルのリチウムを含有しており、水熱反応後に得られたリン酸マンガン鉄リチウムは、粉末X線回折測定により単一相であることを確認した。
[実施例7]
Li2CO3を10.860gとした以外、実施例1と同様にして、表面に炭素が均一に被覆されてなるリン酸マンガン鉄リチウムを得た。
なお、用いたリン酸三リチウムを含有する水溶液は、リン1モルに対し、2.91モルのリチウムを含有しており、水熱反応後に得られたリン酸マンガン鉄リチウムは、粉末X線回折測定により単一相であることを確認した。
[実施例8]
Li2CO3を11.195gとした以外、実施例1と同様にして、表面に炭素が均一に被覆されてなるリン酸マンガン鉄リチウムを得た。
なお、用いたリン酸三リチウムを含有する水溶液は、リン1モルに対し、3モルのリチウムを含有しており、水熱反応後に得られたリン酸マンガン鉄リチウムは、粉末X線回折測定により単一相であることを確認した。
[実施例9]
Li2CO3を11.307gとした以外、実施例1と同様にして、表面に炭素が均一に被覆されてなるリン酸マンガン鉄リチウムを得た。
なお、用いたリン酸三リチウムを含有する水溶液は、リン1モルに対し、3.03モルのリチウムを含有しており、水熱反応後に得られたリン酸マンガン鉄リチウムは、粉末X線回折測定により単一相であることを確認した。
[比較例1]
Li2CO3 11.084gの代わりにLiOH・H2O 12.588gを用いた以外、実施例1と同様にして、表面に炭素が均一に被覆されてなるリン酸マンガン鉄リチウムを得た。
なお、用いたリン酸三リチウムを含有する水溶液は、リン1モルに対し、2.97モルのリチウムを含有しており、水熱反応後に得られたリン酸マンガン鉄リチウムは、粉末X線回折測定により単一相であることを確認した。
[比較例2]
リン酸リチウム(Li3PO4) 5.7897gとリン酸鉄水和物(Fe3(PO42・8H2O) 25.08gを水25mL中に入れ、マグネティックスターラーで12時間攪拌し、混合水溶液を得た。
次に、この混合水溶液にエチレングリコール 7.5gを添加して3時間攪拌し、真空乾燥することにより前駆体粉末を得た。続いて、この前駆体粉末を遊星型ボールミルを用いて湿式粉砕した。具体的には、容器としてジルコニア製容器(80cc)を用い、粉砕メディアとしてφ1mm ジルコニアボール30gを用い、上記の前駆体試料5gとエタノール30mLを容器に入れ、3時間粉砕を行った。
次に、得られたスラリーを80℃の恒温槽中で24時間乾燥し、前駆体粉砕処理粉末を得た。この前駆体粉砕処理粉末をアルゴン雰囲気下600℃で5時間焼成し、冷却後に遊星ボールミルを用いて粉砕を行った後に75μmのふるいを用いて分級を行い、リン酸鉄リチウム活物質を得た。得られたリン酸鉄リチウムは、粉末X線回折測定により単一相であることを確認した。
《結晶子径及びBET比表面積の測定》
実施例1〜9及び比較例1において水熱反応後に得られたリン酸マンガン鉄リチウムを用い、また、比較例2においては焼成反応後に得られた炭素を担持したリン酸鉄リチウムについて、粉末試料成形機(TK−750、東京科学製)にて、70kgの圧力でプレスした粉末X線回折測定用試料を準備した。次いで、得られた各測定用試料について、管電圧−電流を35kV−350mAに設定した粉末X線回折測定装置(D8 Advance、ブルカー製)にて、回折角2θ 10°〜80°をステップサイズ0.023°、測定速度0.13秒/ステップで測定し、X線回折パターンを得た。かかるX線回折パターンの全角にシェラーの式を適用することにより、結晶子径を求めた。また、BET比表面積測定装置(フローソープII 2300、島津製作所製)にて、窒素吸着法によるBET比表面積の測定を行った。
結果を表1に示す。
《吸着水分量の測定》
実施例1〜9及び比較例1で得られた、表面に炭素が均一に被覆されてなるリン酸マンガン鉄リチウム、及び比較例2で得られた、表面に炭素が均一に被覆されてなるリン酸鉄リチウムについて、温度20℃、相対湿度50%の環境に1日間静置して平衡に達するまで水分を吸着させ、温度150℃まで昇温した後、20分間保持したときまでに揮発した水分量をカールフィッシャー水分計(MKC−610、京都電子工業(株)製)で測定し、リチウム二次電池用正極材料における吸着水分量として求めた。
結果を表1に示す。
ここで、比較例2では、吸着水分量は3510ppmと高い値を示しており、特許文献3に記載されるような、2000ppm以下の低い水分含有量であるリチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体を得るためには、リチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体を製造した後に乾燥工程が必須であることがわかる。一方、本発明の実施例は、敢えてかかる段階で乾燥工程を介することなく吸着水分量の低い正極材料を実現できることがわかる。
Figure 0005820521
《充放電特性の評価》
実施例1〜9及び比較例1〜2で得られた、表面に炭素が均一に被覆されてなるリン酸マンガン鉄リチウム又はリン酸鉄リチウムを用い、リチウムイオン二次電池の正極を作製した。具体的には、得られたリン酸マンガン鉄リチウム又はリン酸鉄リチウム、ケッチェンブラック、ポリフッ化ビニリデンを重量比75:15:10の配合割合で混合し、これにN−メチル−2−ピロリドンを加えて充分混練し、正極スラリーを調製した。正極スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔からなる集電体に塗工機を用いて塗布し、80℃で12時間の真空乾燥を行った。その後、φ14mmの円盤状に打ち抜いてハンドプレスを用いて16MPaで2分間プレスし、正極とした。
次いで、上記の正極を用いてコイン型リチウムイオン二次電池を構築した。負極には、φ15mmに打ち抜いたリチウム箔を用いた。電解液には、エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比1:1の割合で混合した混合溶媒に、LiPF6を1mol/lの濃度で溶解したものを用いた。セパレータには、ポリプロピレンなどの高分子多孔フィルムなど、公知のものを用いた。これらの電池部品を露点が−50℃以下の雰囲気で常法により組み込み収容し、コイン型リチウム二次電池(CR−2032)を製造した。
製造したリチウム二次電池を用い、放電容量測定装置(HJ−1001SD8、北斗電工製)にて気温30℃環境での、0.1C(17mAh/g)の初期放電容量と10サイクル後の放電容量を測定した。
結果を表2に示す。
Figure 0005820521
上記結果より、実施例のリン酸マンガン鉄リチウムは、比較例のリン酸マンガン鉄リチウムに比して、いずれも100nm以下の結晶子径でありながら比表面積が低められた微細粒子であり、これを用いた正極材料は、吸着水分量を有効に低減してなるものであることがわかる。そして、これら実施例の正極材料を用いたリチウム二次電池であれば、上記条件での使用環境下において、比較例の正極材料を用いたリチウムイオン電池と同等若しくはそれ以上の電池特性を発現できることもわかる。

Claims (2)

  1. 温度20℃及び相対湿度50%にて平衡に達するまで水分を吸着させたときから、温度250℃まで昇温して20分間保持したときまでに揮発する水分量として測定される吸着水分量が、2000ppm以下であるリチウム二次電池用正極材料の製造方法であって、
    リチウム源として炭酸リチウムを用い、リン1モルに対して2.7〜3.3モルのリチウムを含むリン酸三リチウム水溶液を調整する工程(I)、及び
    工程(I)において得られたリン酸三リチウム水溶液、マンガン化合物、及び鉄化合物を水熱反応に付してオリビン型リン酸マンガン鉄リチウムを得る工程(II)
    を備えるリチウム二次電池用正極材料の製造方法。
  2. さらに、工程(II)で得られたオリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの表面に炭素を被覆する工程(III)
    を備える、請求項に記載のリチウム二次電池用正極材料の製造方法。
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