図を用いて実施形態について説明する。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なっている場合がある。従って、具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
〔電動パーキングブレーキ装置の構成〕
《全体構成》
実施形態に係る電動パーキングブレーキ装置は車両に搭載される。図1に示すように、車両1は、電動パーキングブレーキ装置2と、車輪3と、を有している。そして、電動パーキングブレーキ装置2は、パーキングブレーキ4と、アクチュエータ5と、ケーブル6と、勾配センサ7と、車速センサ8と、操作スイッチ9と、電子制御装置20と、を有している。
パーキングブレーキ4は、車輪3を制動する。パーキングブレーキ4は、車輪3のうち左右の後輪に取り付けられる。本実施形態では、パーキングブレーキ4は、ブレーキドラム(図示せず)と、ブレーキドラムの内周面に接触可能に配置され、加圧されることによりブレーキドラムに押し付けられるブレーキシュー(図示せず)と、を有している。なお、パーキングブレーキ4は車両1の移動を防止できれば他の機構が用いられてもよい。
アクチュエータ5は、パーキングブレーキ4を作動または解除する。アクチュエータ5は、ケーブル6を介してパーキングブレーキ4に荷重を供給する。アクチュエータ5がケーブル6を引っ張ることにより、パーキングブレーキ4のブレーキシューがブレーキドラムに押し付けられる。これにより、パーキングブレーキ4は車輪3を制動する。パーキングブレーキ4が車輪3を制動している状態がパーキングブレーキ4の作動した状態である。一方で、アクチュエータ5がケーブル6を繰り出すあるいは緩めることによりパーキングブレーキ4のブレーキシューがブレーキドラムから離れる。この状態がパーキングブレーキ4の解除された状態である。
ケーブル6は、いわゆるボーデンケーブルであり、アクチュエータ5とパーキングブレーキ4との間で荷重を伝達する。
勾配センサ7は、車両1の乗る路面の勾配を検出するための装置である。勾配センサ7は勾配値を出力する。勾配値は路面の勾配の情報を含んでいる。本実施形態では、勾配センサは加速度センサであり、検出された加速度に応じた信号の時系列を出力する。ここで、本実施形態の勾配センサ7は、路面の勾配を直接測定するのではなく、鉛直方向に対する車両1の傾きを検出することにより、間接的に路面の勾配を検出する。なお、勾配センサ7は路面の勾配を検出できればよく、加速度センサ以外の装置であってもよい。例えば、勾配センサ7はジャイロを用いて車両1の傾きを検出してもよいし、あるいは容器内に封入された液体の表面の位置から車両1の傾きを検出してもよい。
車速センサ8は、車両1の速度を検出する。本実施形態では、車速センサ8は車軸の回転数を計測することにより車速を検出する。なお、前後左右の車輪3のそれぞれの回転数に基づいて、各車輪の回転速度を個別に計測することにより、車両1の速度が検出されてもよい。
操作スイッチ9は、パーキングブレーキ4の作動または解除を指示する操作を受け付ける。操作スイッチ9は、ドライバーが容易に操作できる位置に配置される。操作スイッチ9に所定の操作が入力されると、パーキングブレーキ4を作動または解除させるための処理が開始される。本実施形態では、操作スイッチ9はレバーを有しており、ON位置、OFF位置、もしくは中間位置にレバーが配置される。ON位置にレバーが配置されると、パーキングブレーキ4を作動させるために、アクチュエータ5の作動が指示される。OFF側にレバーが配置されると、パーキングブレーキ4を解除する処理が開始される。中間位置にレバーが配置されると、パーキングブレーキ4の停止状態が維持される。
電子制御装置20は、電動パーキングブレーキ装置2の動作を制御する。電子制御装置20の動作については後述する。電子制御装置20には、アクチュエータ5、勾配センサ7、車速センサ8、および操作スイッチ9が接続されている。なお、各センサがアナログ信号として検出した情報は、電子制御装置20における処理が可能となるようにデジタル信号化される。
《勾配センサの出力値》
ここで、車両1が勾配のある路面(つまり、斜面)に停止した場合の勾配センサ7の出力値について説明する。車両1がフットブレーキ(主ブレーキ)により減速すると、車両1はやがて停止する。車両1が停止したと判断したドライバーが操作スイッチ9をONにすると、アクチュエータ5が作動し、パーキングブレーキ4が車輪3を制動する。このとき、パーキングブレーキ4が車輪3に与える制動力は、車両1の停止状態を維持できる大きさである必要がある。つまり、勾配Sを有する路面に沿って動き出そうとする車両1を停止させるために、平坦路おいて必要とされる制動力よりも大きな制動力が必要となる。
そこで、勾配を有する路面上での車両1の動き出しを防止するために、パーキングブレーキ4に供給される荷重の目標値を大きい値に設定しておくことが考えられる。このときに供給される荷重の大きさは、現実に想定される路面の勾配のうち、最も大きな勾配を想定して決定される。つまり、車両1が平坦路もしくは勾配の小さい路面に乗っている場合には、パーキングブレーキ4には余分に荷重が供給される。これにより、車両1が勾配のある路面に停止する場合であっても、車両1の動き出しを防止することができる。
また、パーキングブレーキ4に供給される荷重を2段階で制御することも考えられる。例えば、車両1の動き出しが生じた場合に、追加でパーキングブレーキ4に荷重を供給し、車両1を制動する。このような制御においては、追加の荷重をパーキングブレーキ4に供給するために、ケーブル6に作用する引張り力を急激に増加させる必要がある。
これらの制御においては、パーキングブレーキ4に余分に荷重を供給するために、アクチュエータ5はケーブル6に対して余分または追加の引張り力を加える。アクチュエータ5のこの動作を増し引きという。増し引きを行うことにより、ケーブル6に大きな引張り力が加わる。したがって、増し引きを行わない場合に比べて、ケーブル6の伸びは大きくなる。ケーブル6の伸びとは、ケーブル6に繰り返し引張り力を与えることにより発生する不可逆的な変形のことである。ケーブル6の伸びが大きい場合と小さい場合とを比較すると、同じ荷重をパーキングブレーキ4に供給するためには、アクチュエータ5は伸びの大きいケーブル6を伸びの差分だけ余計に引っ張る必要がある。同様に、パーキングブレーキ4を解除する場合にも、ケーブル6の伸び量を考慮する必要が生じる。したがって、増し引きを主体とした機構を採用する場合には、ケーブル6の伸びを監視し、伸び量に応じてアクチュエータ5の作動を制御することになり、アクチュエータ5の制御が複雑になる。
一方で、路面の勾配に応じて、必要な荷重のみをアクチュエータ5からパーキングブレーキ4に供給してもよい。これにより、増し引きの頻度を減らすことができる。必要な荷重を設定するためには、勾配センサ7を用いて路面の勾配を検出する必要がある。
ここで、図2を用いて、車両1が停止した場合の勾配センサ7の出力値の振る舞いについて説明する。図2の横軸は時間に、左側の縦軸は勾配センサ7の出力値に、そして右側の縦軸は車速センサ8の出力値に対応している。基準値Fは車両1が平坦路上に静止しているときの勾配センサ7の出力値である。また、値Uは車両1が勾配Sを有する路面上に静止しているときの勾配センサ7の出力値である。
図2に示すように、車速がゼロになった時点が、車両1が停止した時点だと判断される。車速がゼロになった時点で車両1は進行方向に対しては停止するが、慣性が働くので、車両1は停止する時に一旦前のめりの姿勢をとる。そして、安定姿勢に落ち着くまでの間、車両1はしばらく揺れ続ける。このとき、勾配センサ7は、車両1の揺れを検出する。つまり、勾配センサ7の出力値には、車両1の揺れに応じた変動が生じる。具体的には、勾配センサ7の出力値は、勾配Sに対応する値Uの周りを変動する。停止状態が継続し、車両1の揺れが収まるにしたがって、勾配センサ7の出力値は値U(以下、収束値Uともいう)に収束する。
このように、車両1の揺れが概ね収まった時点で勾配センサ7の出力値を取得し、その出力値に基づいて路面の勾配を検出することができる。しかしながら、勾配センサ7の出力値が収束値に安定するまでには時間を要するので、ドライバーが操作スイッチ9をONにした時点で、勾配センサ7の出力値が収束値に安定していない場合ある。この場合には、勾配の有無および大きさを正確に検出することができない。このとき、車両1を確実に制動するためにとり得る方法の一つは、最大の勾配を想定した荷重をパーキングブレーキ4に供給するために増し引きを行うことである。
したがって、車両1が停止した直後にパーキングブレーキ4を作動させ、かつ増し引きを回避するためには、路面の勾配を短時間で検出する必要がある。この課題を解決するために、実施形態に係る電動パーキングブレーキ装置2は以下に説明する構成を有している。
《周辺構成》
図3に示すように、電動パーキングブレーキ装置2は、前述の構成に加えて、モータ回転センサ11と、荷重センサ12と、車両CAN(Controller Area Network)制御通信バス13と、作動ランプ14と、を有している。また、アクチュエータ5は、電動のモータ10を有している。
モータ10は、ケーブル6を駆動する。モータ10がケーブル6を作動方向に引っ張ることにより、パーキングブレーキ4に荷重が供給される。また、モータ10がケーブル6を解除方向に繰り出すことにより、パーキングブレーキ4が解除される。モータ10の動作は、電子制御装置20により制御される。
モータ回転センサ11は、モータ10の回転数を計数する。モータ回転センサ11により計数された回転数は、電子制御装置20に入力され、モータ10の制御に用いられる。
荷重センサ12は、パーキングブレーキ4に供給された荷重を検出する。本実施形態では、パーキングブレーキ4に供給される荷重とは、ケーブル6に加えられた引張り力の大きさを意味している。荷重センサ12により検出された荷重は、電子制御装置20に入力されモータ10の制御に用いられる。
車両CAN制御通信バス13は、装置間のデータ転送および制御信号の転送を行う。車両CAN制御通信バス13は、勾配センサ7、車速センサ8、および電子制御装置20と接続されている。作動ランプ14は、パーキングブレーキ4の状態に応じて点灯あるいは消灯する。パーキングブレーキ4が作動した状態にあるときに、作動ランプ14が点灯する。パーキングブレーキ4が解除された状態にあるときに、作動ランプ14は消灯している。
《電子制御装置の構成》
図4は、電子制御装置20のブロック図である。電子制御装置20は、制御部30および不揮発性記憶部40を有している。そして、制御部30は、低域通過フィルタ処理部31と、メモリ部32と、変曲点検出部33と、無限インパルス応答フィルタ処理部34と、推定勾配決定部35と、目標値決定部36と、モータ制御部37と、車速判定部38と、モード決定部39と、を有している。なお、以下では、無限インパルス応答をIIR(Infinite Impulse Response)とも表記する。
制御部30は、演算装置であり、電子制御装置20の機能を実現するための処理を実行する。本実施形態では、制御部30はCPU(Central Processing Unit)であり、所定のプログラムを読み込むことにより、プログラムに規定された処理を実行する。
不揮発性記憶部40は、電子制御装置20の設定データおよび制御部30が実行するプログラムが格納される不揮発性の記憶装置である。本実施形態では、不揮発性記憶部40はROM(Read Only Memory)である。
低域通過フィルタ処理部31は、勾配センサ7の出力値を処理し、ノイズなどの高周波成分を除去する。メモリ部32は制御部30で処理されるデータを一時的に格納する。例えば、メモリ部32は、低域通過フィルタ処理部31により処理された勾配センサ7の出力値を一時的に記憶する。本実施形態では、メモリ部32はRAM(Random Access Memory)である。変曲点検出部33は、勾配センサ7の出力値の時系列において、変曲点を検出する。IIRフィルタ処理部34は、勾配センサ7の出力値と予め定められたフィルタ係数とを用いて、IIRフィルタ処理を実行する。推定勾配決定部35は、IIRフィルタ処理部34が出力する算出値を取得し、所定の時間内での算出値の変動幅を評価する。また、推定勾配決定部35は推定勾配を決定する。
目標値決定部36は、アクチュエータ目標荷重値を決定する。アクチュエータ目標荷重値は、アクチュエータ5からパーキングブレーキ4に供給される荷重の目標値である。モータ制御部37は、モータ10を制御する。モータ10の回転数はモータ回転センサ11により計数され、モータ制御部37に入力される。また、荷重センサ12により検出された荷重の値、および目標値決定部36で決定されたアクチュエータ目標荷重値が、モータ制御部37に入力される。
モータ制御部37は、パーキングブレーキ4を作動させるために、駆動制御を行う。つまり、制御部30が有するモータ制御部37は、荷重がアクチュエータ目標荷重値まで到達するようにアクチュエータ5を制御する。駆動制御において、モータ制御部37は、荷重センサ12により検出された荷重の値、モータ10の回転数、およびアクチュエータ目標荷重値に基づいてアクチュエータ5を制御する。具体的には、パーキングブレーキ4を作動させる場合には、モータ制御部37により、アクチュエータ目標荷重値の荷重がアクチュエータ5からパーキングブレーキ4に供給されるようにモータ10が制御される。一方で、パーキングブレーキ4が解除される場合には、モータ制御部37により、解除方向にケーブル6が繰り出されるようにモータ10が制御される。
車速判定部38は、車速センサ8の出力値に基づいて車両1の車速を判定する。モード決定部39は、後述する推定勾配の算出を実行するかどうかを決定する。
本実施形態では、変曲点検出部33、IIRフィルタ処理部34、推定勾配決定部35、および目標値決定部36により、すなわち制御部30によりアクチュエータ目標荷重値を決定する荷重値決定が実行される。これらの機能ブロックは、荷重値決定を実行するために協働して動作する。
〔推定勾配の決定方法〕
次に、図5を用いて勾配センサ7の出力値から推定勾配を決定する方法を説明する。
《決定方法のフロー》
ステップS101において、車速判定部38は、車両1の速度が2km/h以下かどうかを判定する。車速判定部38は、車速センサ8の出力値を取得し、車速の判定を行う。車速が2km/h以下である場合には、車両1が十分に減速したと判断され、フローはステップS102に進む。一方、車速が2km/h以下でない場合には、ステップS105に進む。
ステップS102では、メモリ部32は、勾配センサ7の出力値の保存を開始する。ここで、電動パーキングブレーキ装置2の起動状態では、勾配センサ7は常に車両1の傾きを検出し、出力値を電子制御装置20に出力している。勾配センサ7の出力値は低域通過フィルタ処理部31により処理される。そして、ステップS101において車両1の速度が2km/h以下と判定された場合には、メモリ部32は勾配センサ7の出力値の保存を開始する。つまり、勾配センサ7の出力値の時系列は、低域通過フィルタ処理部31により処理された後に、メモリ部32に格納される。
ステップS103では、車速判定部38は、車両1の停止状態が継続しているかどうかを判定する。具体的には、車速判定部38は車速が0km/hの状態(つまり、車速ゼロの状態)の継続時間を計測し、継続時間が規定時間に達した場合には、車両1の停止状態が継続していると判定する。ここで、車速判定部38は、車速センサ8の出力値が所定のしきい値を下回っている場合に、車速が0km/hであると判断する。車両1の停止状態が継続している場合には、フローはステップS104に進み、そうでなければフローはステップS101に戻る。
ステップS104では、モード決定部39は、勾配判定モードを有効にする。
ステップS105では、モード決定部39は、勾配判定モードを無効にする。つまり、車速が2km/h以下にならない場合には勾配判定モードが無効となる。
ステップS106では、制御部30は、勾配判定モードが有効であるかを判定する。勾配判定モードが有効である場合には、フローはステップS107に進む。一方、勾配判定モードが無効である場合には、推定勾配は決定されず、フローが終了する。
ステップS107では、変曲点検出部33は、勾配センサ7の出力値の時系列における変曲点を判定する。変曲点が検出された場合には、フローはステップS108に進む。変曲点が検出されない場合には、フローはステップS109に進み、制御部30により勾配センサ7の出力値が取得され、メモリ部32に格納される。その後、フローはステップS107に戻り、変曲点の判定が実行される。変曲点が検出されるまでステップS107およびS109の処理が繰り返し実行される。
ステップS108では、IIRフィルタ処理部34により、IIRフィルタ処理が実行される。IIRフィルタ処理部34は、勾配センサ7の出力値の時系列のうち、変曲点以降の時系列に対してフィルタ処理を実行し、算出値を出力する。メモリ部32から勾配センサ7の出力値が読み出され、フィルタ処理が施される。IIRフィルタ処理部34から出力された算出値はメモリ部32に格納される。
ステップS110では、推定勾配決定部35は、IIRフィルタ処理部34の出力した算出値の安定性を判定する。具体的には、推定勾配決定部35は、算出値の時系列をメモリ部32から取得し、算出値が安定性の条件を満たしているかどうかを判定する。本実施形態では、安定性の条件は、算出値の変動幅が0.3m/s2よりも小さい状態が100ミリs以上継続することである。メモリ部32に格納された算出値の最大値と最小値の差を演算することにより変動幅が導出される。安定性の条件が満たされている場合には、フローはステップS112に進み、条件が満たされない場合には、フローはステップS111に進む。
ステップS111では、制御部30は勾配センサ7の出力値を取得し、メモリ部32に格納する。その後、再びフローはステップS108に戻る。ステップS110において安定性の条件が満たされるまで、ステップS108およびS111が繰り返し実行される。
ステップS112では、推定勾配決定部35は推定勾配を決定する。IIRフィルタ処理部34の出力した最新の算出値が推定勾配として採用される。採用された推定勾配は、安定性の条件を満たした値であるので、勾配センサ7の出力値の収束値Uを近似している。つまり、推定勾配は、車両1の揺れが収まった時点における勾配センサ7の出力値を近似している。このように、IIRフィルタ処理部34および推定勾配決定部35を有する制御部30は、勾配センサ7の出力値である勾配値の収束値Uを推定する。
推定勾配は、勾配の有無および大きさを評価するために用いられる。具体的には、推定勾配に所定の変換を行うことにより、垂直距離と水平距離の比を表す量が得られる。なお、推定勾配がゼロになる場合もある。例えば、IIRフィルタ処理部34の算出値が所定のしきい値を下回る場合に、推定勾配がゼロに決定される。
以上のように、推定勾配が決定される。
《推定勾配の算出方法》
ここで、図6および図7を用いて、推定勾配の算出方法についてより詳細に説明する。
図6に示すように、勾配センサ7の出力値の時系列のうち、変曲点I以降の時系列が推定勾配の算出に用いられる。
変曲点Iは、勾配センサ7の出力値の時系列が減少から増加に転じる点、もしくは増加から減少に転じる点(変化点)のうち、車速が2km/h以下に達してから最初に現れる点である。変曲点Iは車両1の停止に伴って現れる。車両1は停止する際に慣性によって前に振れ、この振れにより勾配センサ7の出力値の時系列は大きく変動する。その結果、変曲点Iが現れる。変曲点Iは、勾配センサ7の出力値の時系列を監視することにより検出される。変曲点Iを検出するために、前述のように、車速が2km/h以下に到達した時点から、勾配センサ7の出力値がメモリ部32に格納される。ただし、制御部30は、車速とは無関係に、勾配センサ7の出力値を一定のサンプリング周期STで取得している。本実施形態では、このサンプリング周期STは20ミリsである。
変曲点Iでの勾配センサ7の出力値をX(1)とし、変曲点I以降に取得された勾配センサ7の出力値の個数(サンプリング数)をN(Nは1以上の整数)とする。このとき、変曲点I以降の勾配センサ7の出力値をX(n)(ただし、n=1,2,...,N)、出力値の時系列{X(1),X(2),X(3),...,X(N)}を{X(N)}と表記する。例えば、図6に示す例では、サンプリング時刻P1〜P6において、それぞれ、勾配センサ7から出力値X(1)〜X(6)が取得されている。この場合、N=6であるので、{X(6)}={X(1),X(2),X(3),X(4),X(6)}となる。時系列{X(N)}および予め定められたフィルタ係数に基づいて、IIRフィルタ処理部34は、IIRフィルタ処理を実行する。
図7は、IIRフィルタ処理部34のブロック図を示している。IIRフィルタ処理部34は、加算器51と、乗算器52と、遅延器53と、乗算器54と、を有している。
加算器51は、入力される値の和を出力する。乗算器52は、入力される値と1/nとの積を出力する。遅延器53は、入力される値を1周回遅れで出力する。乗算器54は、入力される値とn−1との積を出力する。
IIRフィルタ処理部34は、勾配センサ7の出力値の時系列{X(N)}と予め定められたフィルタ係数とに基づいて算出値Y(n)(ただし、n=1,2,...,N)を算出する。具体的には、IIRフィルタ処理部34の出力方程式は(式1)のように表される。
また、(式1)に基づいて、Y(n)は(式2)のようにも表現される。
時系列{X(N)}と同様に、算出値Y(n)の列を算出値列{Y(N)}と表記する。(式1)および(式2)に示されるように、{X(N)}に掛け合わされるフィルタ係数は、予め定められている。本実施形態でのフィルタ係数は、(式1)における(n−1)/nおよび1/n、もしくは(式2)における1/nである。ここで、フィルタ係数が「予め定められている」とは、予め定められた所定の関係に従ってフィルタ係数が決定されることを意味している。したがって、予め定められたフィルタ係数とは、定数だけではなく、数式(n−1)/nもしくは1/nによって定義されたフィルタ係数を含む概念である。
勾配センサ7の出力値の時系列{X(N)}は、低域通過フィルタ処理部31により処理され、メモリ部32に格納される。サンプリング周期STが経過する毎にサンプリング数Nは1ずつ増加する。そして、勾配センサ7の出力値が新たに取得されると、その出力値が時系列{X(N)}に付け加えられる。また、メモリ部32に格納された時系列{X(N)}を用いて算出値Y(N)が算出される。本実施形態では、時系列{X(N)}がフィルタ処理により算術平均され、Y(N)が算出される。このように、勾配センサ7の出力値の取得と算出値Y(N)の算出とが繰り返されることにより、時系列としての算出値列{Y(N)}が得られる。算出値列{Y(N)}はメモリ部32に格納される。
〔電動パーキングブレーキ装置の動作〕
次に、図8を用いて、電動パーキングブレーキ装置2の全体の動作について説明する。電動パーキングブレーキ装置2は、起動状態にあり、操作スイッチ9の操作を待ち受けている。
《動作のフロー》
ステップS201では、制御部30は、操作スイッチ9がONであるかどうかを判定する。操作スイッチ9がONであると判定されると、フローはステップS202に進む。操作スイッチ9がONでない場合には、電動パーキングブレーキ装置2は動作を終了し、再び操作スイッチ9の操作を待ち受ける状態に戻る。このとき、パーキングブレーキ4は解除された状態に戻る。
ステップS202では、アクチュエータ5が作動する。具体的には、モータ制御部37がアクチュエータ5のモータ10を制御し、モータ10を回転させる。モータ10が回転すると、ケーブル6が作動方向に引っ張られ、パーキングブレーキ4に荷重が供給される。
このとき、目標値決定部36は、不揮発性記憶部40に予め記憶されている初期値を取得し、アクチュエータ目標荷重値として設定する。モータ制御部37は、パーキングブレーキ4に供給される荷重が初期値に到達するようにモータ10を制御する。
ステップS203では、目標値決定部36は、推定勾配が既に決定されているかどうかを判定する。具体的には、目標値決定部36は、決定された推定勾配がメモリ部32に格納されているかどうかを判定する。推定勾配が既に決定されている場合には、フローはステップS204に進む。一方、推定勾配が決定されていない場合には、フローはステップS207に進む。
ステップS204では、目標値決定部36は勾配の有無を判定する。目標値決定部36は、メモリ部32から推定勾配を取得し、推定勾配がゼロであるかを判定する。推定勾配がゼロである場合には、路面に勾配は無いと判定され、フローはステップS206に進む。推定勾配がゼロ以外の値を持つ場合には、勾配があると判定され、フローはステップS205に進む。
ステップS205では、目標値決定部36はアクチュエータ目標荷重値を設定する。目標値決定部36は、決定された推定勾配に基づいてアクチュエータ目標荷重値を決定する。ここで、推定勾配とアクチュエータ目標荷重値との関係を表す情報は不揮発性記憶部40に予め記憶され、推定勾配に基づいてアクチュエータ目標荷重値が決定される。具体的には、複数のアクチュエータ目標荷重値が、勾配時目標荷重値として不揮発性記憶部40に記憶されている。さらに、推定勾配の大きさに応じて、推定勾配と特定の勾配時目標荷重値とが関連付けられて、推定勾配に対応する勾配時目標荷重値が決定される。目標値決定部36は、推定勾配をメモリ部32から取得し、推定勾配に対応する勾配時目標荷重値を不揮発性記憶部40から取得する。そして、目標値決定部36は、取得した勾配時目標荷重値をアクチュエータ目標荷重値に設定する。
ステップS206では、目標値決定部36はアクチュエータ目標荷重値を設定する。ただし、勾配が無いので、目標値決定部36は、標準目標荷重値をアクチュエータ目標荷重値に設定する。標準目標荷重値は、勾配が無い場合のアクチュエータ目標荷重値として不揮発性記憶部40に予め記憶されており、目標値決定部36により読み出される。
ステップS207では、目標値決定部36はアクチュエータ目標荷重値を設定する。ただし、推定勾配が決定されていないので、目標値決定部36は、最大荷重値をアクチュエータ目標荷重値に設定する。最大荷重値は不揮発性記憶部40に予め記憶されており、目標値決定部36により読み出される。
ステップS208では、モータ制御部37は、アクチュエータ5からパーキングブレーキ4に供給される荷重がアクチュエータ目標荷重値に到達したかどうかを判定する。パーキングブレーキ4に供給される荷重を表す信号は、荷重センサ12から制御部30に、より詳細にはモータ制御部37に入力される。モータ制御部37は、荷重センサ12から入力された信号に基づいて、パーキングブレーキ4に供給される荷重の値とアクチュエータ目標荷重値とを比較し、判定を行う。供給された荷重がアクチュエータ目標荷重値に到達している場合には、フローはステップS209に進み、そうでなければ、フローはステップS201に戻る。
ステップS209では、モータ制御部37はアクチュエータ5を停止させる。つまり、モータ制御部37がアクチュエータ5のモータ10を停止させる。これにより、制御部30によるアクチュエータ5の駆動制御が完了する。この状態では、パーキングブレーキ4が作動しており、車輪3はパーキングブレーキ4により制動されている。また、アクチュエータ5の駆動制御が完了すると、制御部30は作動ランプ14を点灯させる。ドライバーは作動ランプ14の点灯を確認することにより、パーキングブレーキ4が作動していることを知ることができる。なお、パーキングブレーキ4が解除されると、制御部30は作動ランプ14を消灯する。
《動作と時間経過》
次に、図9を用いて電動パーキングブレーキ装置2の動作の一例を時間の経過に沿って説明する。図9(a)は、車速を示している。図9(b)は、勾配センサ7の出力値を示している。図9(c)は、IIRフィルタ処理部34の出力する算出値を示している。図9(d)は、サンプリング数Nを示している。図9(e)は、操作スイッチ9の状態を示している。図9(f)は、アクチュエータ5の状態を示している。
時刻t0では、車速が2km/h以下に達したことが車速判定部38により判定される。時刻t0以降の勾配センサ7の出力値はメモリ部32に保存される。
時刻t1では、車速が0km/hに達したことが車速判定部38により判定される。
時刻t2では、勾配センサ7の出力の時系列において変曲点Iが現れる。また、時刻t2はサンプリング数Nのカウントの起点となる。
時刻t3では、モード決定部39により、勾配判定モードが有効化される。車速判定部38は、車速0km/hの状態が時刻t1から所定の規定時間V1の間継続していることを検出する。車速判定部38の検出結果に基づいて、モード決定部39は勾配判定モードを有効化する。また、IIRフィルタ処理部34は、IIRフィルタ処理を開始する。
時刻t4では、制御部30により、操作スイッチ9がONになったことが検出される。さらに、モータ制御部37に制御されることにより、アクチュエータ5が作動する。
時刻t5では、制御部30により、推定勾配が決定される。また、推定勾配に基づいてアクチュエータ目標荷重値が決定される。ここで、推定勾配決定部35は、時刻t5の直前の期間V2の間に、IIRフィルタ処理部34の出力する算出値の安定性を判断する。つまり、算出値の変動幅が基準値Wよりも小さい状態が少なくとも期間V2の間継続していることが検出される。前述のように、本実施形態では、変動幅の基準値Wは0.3m/s2であり、期間V2は100ミリsである。
時刻t5以降は、IIRフィルタ処理部34による処理は実行されない。ただし、図9(c)および図9(d)では、時刻t5以降もIIRフィルタ処理が引き続き実行された場合を、二点鎖線により示している。
時刻t6では、モータ制御部37に制御されることにより、アクチュエータ5が停止する。
《アクチュエータ目標荷重値》
ここで、図10を用いてアクチュエータ目標荷重値について説明する。図10は、路面の勾配とアクチュエータ目標荷重値との関係を模式的に示したグラフである。図10の横軸は路面の勾配を表している。ここでの勾配は、垂直距離に対する水平距離の比により表されている。T0は初期値、T1は標準目標荷重値、T4は最大荷重値である。T2およびT3は、勾配時目標荷重値であり、T1およびT4の中間の値である。なお、T1およびT4は勾配時目標荷重値でもある。
アクチュエータ5が作動する時点では、アクチュエータ目標荷重値として初期値T0が設定される。そして、勾配が無いと判定された場合には、目標値決定部36により、アクチュエータ目標荷重値として標準目標荷重値T1が設定される。また、勾配があると判定された場合には、勾配の大きさに応じて勾配時目標荷重値T1、T2、T3、およびT4のいずれかがアクチュエータ目標荷重値に設定される。
具体的には、目標値決定部36は、推定勾配から導出される勾配が6%より大きく、12%以下である場合には、この範囲の勾配に対応する勾配時目標荷重値T2を選択し、不揮発性記憶部40から読み出す。そして、目標値決定部36は、読み出された勾配時目標荷重値T2をアクチュエータ目標荷重値として設定する。
〔実施形態の作用効果〕
上記実施形態は、下記のように表現可能である。
(1)この電動パーキングブレーキ装置2は、車両1の車輪3を制動するパーキングブレーキ4と、パーキングブレーキ4を作動または解除するアクチュエータ5と、勾配センサ7と、荷重センサ12と、アクチュエータ5を制御する制御部30と、を備えている。制御部30は、アクチュエータ目標荷重値を決定する荷重値決定と、荷重センサ12の出力に基づいてアクチュエータ5による荷重がアクチュエータ目標荷重値まで到達するようにアクチュエータ5を制御する駆動制御とを行なう。制御部30は、荷重値決定において、勾配センサ7の出力値の時系列における変曲点Iを判定し、変曲点I以降の出力値の時系列{X(N)}と予め定められたフィルタ係数とに基づいて、出力値の収束値を推定することにより推定勾配を算出するフィルタ処理を行い、推定勾配に基づいて、アクチュエータ目標荷重値を決定する。
この電動パーキングブレーキ装置2では、勾配センサ7の出力値の変動が持続している状態であっても、勾配値の収束値Uが推定され、推定勾配が算出される。そして、推定勾配に基づいてアクチュエータ目標荷重値が算出される。これにより、勾配値の変動が収まってからアクチュエータ目標荷重値が決定される場合に比べて、路面の勾配に適したアクチュエータ目標荷重値をより短時間で決定することができる。
したがって、車両1が停止した後に直ぐにアクチュエータ5を作動させる場合でも、増し引きすることなく、路面の勾配に合わせてアクチュエータ目標荷重値を変更して、パーキングブレーキ4を作動することができる。
(2)この電動パーキングブレーキ装置2では、制御部30は、フィルタ処理において、IIRフィルタ処理を実行する。
これにより、使用される構成ブロックの個数を減らしつつ、IIRフィルタ処理により得られる算出値を短時間で収束値Uに近づけることができる。
(3)この電動パーキングブレーキ装置2は、車両1の速度を検出する車速センサ8を備える。制御部30は、勾配センサ7の出力値の時系列における変曲点Iの判定を、車速センサ8により検出された車両1の速度が2km/h以下に達した後に行う。
ここで、車両1が十分に減速した状態では、通常の場合、車両1の加速度には急激な変化は生じない。つまり、勾配センサ7の出力値の時系列は比較的緩やかに変化する。このような状態で車両1が停止すると、勾配センサ7の出力値の時系列には、一般に、変曲点Iが顕著に現れる。これにより、車両1が十分に減速した状態では、変曲点Iの判定をより確実に行うことができる。結果として、推定勾配の決定精度が向上する。
(4)この電動パーキングブレーキ装置2では、制御部30は、アクチュエータ目標荷重値に予め初期値T0を設定し、推定勾配に基づいて勾配の有無を判定し、勾配がある場合には、推定勾配に対応する勾配時目標荷重値T1、T2、T3、またはT4を決定し、アクチュエータ目標荷重値として勾配時目標荷重値T1、T2、T3、またはT4を設定し、勾配がない場合には、アクチュエータ目標荷重値として、勾配がない場合の値である標準目標荷重値T1を設定する。
このように、荷重のアクチュエータ目標荷重値に予め初期値T0が設定されることにより、アクチュエータ目標荷重値には何らかの値が設定されている。アクチュエータ目標荷重値が設定されているので、アクチュエータ5の制御が可能となる。つまり、推定勾配が決定していない状態であっても、アクチュエータ5を作動させることができる。これにより、車両1が停止してからアクチュエータ5を作動させるまでの時間を短縮することができる。具体的には、操作スイッチ9がドライバーによりONにされた時点で、推定勾配が決定していなくても、アクチュエータ5を作動させることができる。
また、勾配の有無および大きさに応じて適切なアクチュエータ目標荷重値が選択されるので、増し引きの頻度を減らすことができる。
(5)この電動パーキングブレーキ装置2では、推定勾配に基づいてアクチュエータ目標荷重値が決定された後に、駆動制御が完了する。これにより、勾配の有無および大きさに応じてアクチュエータ5が駆動制御されるので、増し引きの頻度を減らすことができる。
〔他の実施形態〕
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の実施形態および変形例は必要に応じて任意に組み合せ可能である。
(1)前述の実施形態における各値は、特性が相関する他の値に置き換えが可能である。例えば、前述の実施形態では車速センサ8の出力値は時速であったが、車速を表す値として車軸の回転数が用いられてもよい。また、前述の実施形態では勾配センサ7の出力値は加速度であったが、車両1の傾きを表す量として角度が用いられてもよい。
(2)前述の実施形態では、IIRフィルタ処理部34の出力する算出値の安定性を判定するために、算出値の変動幅を監視する期間V2が設けられていた。しかしながら、算出値の安定性を判定する方法として、期間V2設ける以外の方法が用いられても構わない。
例えば、時間方向に連続する2つの算出値を用いて安定性が判定されてもよい。具体的には、算出値Y(N−1)の次に算出値Y(N)が得られた場合に、Y(N−1)とY(N)との差を算出する。この差が所定の値(例えば、0.3m/s2)以下である場合に、算出値が安定したと判定してもよい。
(3)前述の実施形態では、勾配センサ7の出力値の時系列のうち変曲点Iから開始する時系列を用いて推定勾配が算出されていた。しかしながら、変曲点Iとは別の時刻から開始する時系列を用いて推定勾配を算出することも可能である。
図11は、路面が下り坂である場合の、勾配センサ7の出力値の時系列、車速センサ8の出力値の時系列、時系列C1、および時系列C2を示している。時系列C1は、前述の実施形態に係る電動パーキングブレーキ装置2において、IIRフィルタ処理部34から出力される算出値の時系列である。一方、時系列C2は、他の実施形態に係る電動パーキングブレーキ装置において、IIRフィルタ処理部34から出力される算出値の時系列である。なお、値D(以下、収束値Dともいう)は、車両1の乗る下り坂に対応する勾配センサ7の出力値である。
他の実施形態に係る電動パーキングブレーキ装置では、勾配センサ7の出力値のうち、開始点I2以降の出力値のみを用いてIIRフィルタ処理が実行される。つまり、変曲点I1および変曲点I1と開始点I2との間に取得された勾配センサ7の出力値は、IIRフィルタ処理に用いられていない。このような処理を行なった場合であっても、時系列C2を勾配センサ7の出力値の時系列よりも早く収束値Dに収束させることができる。これにより、推定勾配をより短時間で決定することできるので、アクチュエータ目標荷重値の決定を早めることができる。
なお、図11に示すように、時系列C2は時系列C1に比べて激しく変動しており、収束値Dへの収束が時系列C1よりも遅い。このことから、より有利な効果を得るためには、勾配センサ7の出力値の時系列のうち、車両1の停止に伴って最初に現れる変曲点I1(またはI)から開始する時系列を用いて、IIRフィルタ処理を実行するのが好ましい。
また、図11に示すように、勾配センサ7の出力値の時系列には、変曲点I1よりも後の変曲点として、第1変曲点I3、第2変曲点I4、および第3変曲点I5が現れる。時系列C1は第2変曲点I4と第3変曲点I5との間で収束値Dに概ね収束している。このことから、推定勾配を算出するためには、少なくとも第2変曲点I4以降の勾配センサ7の出力値を含んだ時系列{X(N)}を用いるのが好ましい。
(4)前述の実施形態では、IIRフィルタ処理部34での処理は、算出値の安定性が検出されたときに終了していた。しかしながら、算出値の安定性以外の条件を用いて、IIRフィルタ処理部34を制御してもよい。
例えば、サンプリング数Nを予め定めておいてもよい。このときのサンプリング数を固定値M(Mは1以上の整数)とする。IIRフィルタ処理部34は、M回の処理が終了すると、算出値Y(M)を出力する。出力されたY(M)が推定勾配に決定される。このとき、Y(M)が収束値Uに近い値となるように、固定値Mが定められている。このように、所定の回数のみIIRフィルタ処理を実施する構成を用いても、勾配センサ7の出力値の収束値を推定することが可能である。
また、サンプリング数を予め定めておく場合には、(式2)の処理を有限インパルス応答フィルタ処理により実現してもよい。
(5)前述の実施形態では、ステップS101において、車速のみに基づいて勾配判定モードの有効もしくは無効が判断されているが、他の条件が基準に用いられていても構わない。
例えば、勾配センサ7の出力値が電子制御装置20に入力されない状態が一定時間続いた場合には、勾配センサ7に不具合が生じていると判断し、勾配判定モードを無効にしてもよい。
また、勾配センサ7の出力値に基づいて、勾配判定モードの有効および無効を判断してもよい。例えば、メモリ部32に格納された勾配センサ7の出力値の時系列において、変曲点Iよりも前に取得された出力値の最大値と最小値との差を計算する。その差が0.3m/s2以上である場合には、勾配判定モードを無効にする。この条件により、勾配センサ7の出力値が過剰に変動する場合を除外できるので、推定勾配の信頼性を高めることができる。
なお、前述の実施形態においてステップS101における車速は2km/hであったが、車両1が減速したことを確認できればよいので、これ以外の値の所定速度以下に達したことを基準に用いても構わない。例えば、2km/h以上5km/h以下の範囲にある値を基準として用いることができる。
(6)前述の実施形態では、勾配が無いと判定された場合には、アクチュエータ目標荷重値として標準目標荷重値T1が設定されているが、この場合に、アクチュエータ目標荷重値として初期値T0が設定されてもよい。つまり、この構成においては、勾配が無いと判断した場合であっても、目標値決定部36は、アクチュエータ目標荷重値として初期値T0が設定された状態を維持する。
なお、本実施形態では、初期値T0は最小のアクチュエータ目標荷重値であるが、初期値T0は勾配時目標荷重値T1〜T4よりも小さくなくても構わない。例えば、初期値T0を標準目標荷重値T1と勾配時目標荷重値T2との間の値する、あるいは、初期値T0を最大荷重値T4と等しくすることも考えられる。
(7)前述の実施形態の各処理はハードウェアにより実現されてもよいし、ソフトウェア(OS(Operating System)、ミドルウェア、あるいは、所定のライブラリとともに実現される場合を含む。)により実現されてもよい。さらに、前述の実施形態の各処理は、ソフトウェアおよびハードウェアの混在処理により実現されても良い。
例えば、荷重値決定を行う機能ブロックである、変曲点検出部33、IIRフィルタ処理部34、推定勾配決定部35、および目標値決定部36を荷重値決定部として一つのハードウェアまたは装置により実現してもよい。そして、駆動制御を行うモータ制御部37を駆動制御部として一つのハードウェアまたは装置により実現してもよい。
なお、前述の実施形態での処理をハードウェアにより実現する場合、各処理を行うためのタイミング調整を行う必要があるのは言うまでもない。前述の実施形態においては、説明便宜のため、実際のハードウェア設計で生じる各種信号のタイミング調整の詳細については省略している。
また、前述の実施形態における処理方法の実行順序は、必ずしも、前述の実施形態の記載に制限されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、実行順序が入れ替えられても構わない。