<第一実施形態>
以下、本発明を具現化した第一実施形態について、図面を参照して説明する。図1を参照し、ミシン1の構成について説明する。図1の紙面手前側、紙面奥行き側、上側、下側、左側、右側を、それぞれミシン1の前側、後側、上側、下側、左側、右側と定義する。
ミシン1は、ベッド部11、脚柱部12、アーム部13、および頭部14を備える。ベッド部11は、ミシン1の土台部であり左右方向に延びる。脚柱部12は、ベッド部11の右端部から上方へ延びる。アーム部13は、ベッド部11に対向して脚柱部12の上端から左方へ延びる。頭部14は、アーム部13の左先端に設けられる。ベッド部11の上面には、針板34が配設されている。針板34の下側(つまり、ベッド部11内)には、図示しない送り歯、送り機構、釜機構、および送り量調整用モータ83(図5参照)が設けられる。送り歯は、送り機構によって駆動されて、加工布100(図6参照)を所定の送り量で移送する。送り歯の送り量は、送り量調整用モータ83によって調整される。
頭部14には、針棒機構(図示せず)、針振りモータ80(図5参照)等が設けられる。針棒機構は、縫針(図示せず)を上下方向に駆動させる。針振りモータ80は、針棒29を左右方向に揺動させる。頭部14の下端の後部に、超音波を受信(検出)する受信器94、95が設けられる。受信器94と受信器95は同一構成のものである。受信器94は、頭部14の左下端、且つ、頭部14の下側面の後方に設けられる。受信器95は、頭部14の右下端、且つ、頭部の下側面の後方に設けられる。受信器94、95は、頭部14の左右方向の長さ分、左右に離間する。受信器94、95の詳細は後述する。
アーム部13は、開閉可能なカバー16を上部に備える。カバー16の下方、つまりアーム部13内の略中央部に、糸駒(図示せず)が収容される。糸駒に巻回された上糸(図示せず)は、糸駒から、頭部14に設けられた糸掛部(図示せず)を経由して、針棒29に装着された縫針に供給される。針棒29は、頭部14内に設けられた針棒機構により、上下動するように駆動される。針棒機構は、ミシンモータ79(図5参照)によって駆動される。頭部14の下端部から押え棒31が下方に延びる。押え棒31の下端に押え足30が交換可能に装着される。押え足30は、加工布100を押える。アーム部13の前面下部に、開始・停止スイッチを含む複数の操作スイッチ21が設けられる。
脚柱部12の前面に液晶ディスプレイ(以下、LCDという)15が設けられる。LCD15には、コマンド、イラスト、設定値、メッセージ等の様々な項目を含む画像が表示される。LCD15の前面側に、タッチパネル26が設けられる。ユーザが、指や専用のタッチペンを用いてタッチパネル26の押圧操作を行うと(以下、この操作を「パネル操作」と言う。)、タッチパネル26によって検知される押圧位置に対応して、どの項目が選択されたかが認識される。ユーザは、このようなパネル操作によって、縫製したい模様や実行すべきコマンドを選択できる。
脚柱部12の右側面に、コネクタ39、40が設けられる。コネクタ39には、メモリーカード等の外部記憶装置(図示せず)を接続することができる。ミシン1は、コネクタ39に接続された外部記憶装置から、模様のデータおよび各種プログラムを取り込む。コネクタ40には、コネクタ916が接続される。コネクタ916は、超音波ペン91(後述)から延びるケーブル912が連結されている。ミシン1は、コネクタ40、コネクタ916、及びケーブル912を介して超音波ペン91に電力を供給すると共に、超音波ペン91から出力される電気信号を取得する。
超音波ペン91について説明する。超音波ペン91は、ペン本体910およびペン先911を備える。ペン本体910の形状は棒状である。ペン先911は、ペン本体910の先端側に設けられる。ペン先911の先端は尖っている。通常、ペン先911はペン本体910から外側に僅かに突出した突出位置にある。一方、ペン先911に対してペン本体910側に向かう方向の力が作用すると、ペン先911はペン本体910に入り込む。そして、ペン先911に作用している力が無くなると、ペン先911は元の突出位置に戻る。
ペン本体910の内部には、スイッチ913(図5参照)、信号出力回路914(図5参照)、および超音波発信器915(図5参照)を備える。スイッチ913は、ペン先911の位置に応じてON/OFFする。スイッチ913は、信号出力回路914および超音波発信器915の出力状態を切り替える。
ペン先911に力が作用していないとき(ペン先911が突出位置のとき)、スイッチ913はOFF状態である。スイッチ913がOFF状態のときには、信号出力回路914は電気信号を出力せず、超音波発信器915は超音波を出力しない。一方、ユーザが加工布100上の任意の位置にペン先911を押し当てることによって、ペン先911に力が作用する。このとき、ペン先911はペン本体910に入り込んで、スイッチ913がONする。スイッチ913がONすると、信号出力回路914はケーブル912を介してミシン1に電気信号を出力し、超音波発信器915は超音波を発信する。
なお詳細は後述するが、ミシン1は、超音波ペン91から発信された超音波を、受信器94、95で検出(受信)する。ミシン1は、検出された超音波に基づいて、超音波の発信源、すなわち、超音波ペン91に設けられた超音波発信器915の位置を特定する。ミシン1は、特定された位置に基づいて縫製を行う。従ってユーザは、加工布100上に超音波ペン91のペン先911を押し当てる(接触させる)ことで、加工布100のうち指定した位置に縫製を行うことができる。
図2から図4を参照して、受信器94について説明する。受信器95は、受信器94と同一構成であるので説明を省略する。図2の紙面左下側、右上側、左上側、右下側、上側、下側を、それぞれ受信器94の前側、後側、左側、右側、上側、下側とする。
図2および図3に示すように、受信器94の形状は、上下方向にやや長い直方体形状である。受信器94は、前面の下端部の中央に開口部941を備える。開口部941の形状は、左右方向に長い楕円形である。開口部941の周囲942は、外側程拡大するテーパ面(傾斜面)である。図4に示すように、受信器94の内部には、基板943およびマイク944を備える。マイク944は、開口部941の内側に位置する。基板943の上端の後面に、コネクタ945が実装される。コネクタ945は、ミシン1に設けられたコネクタ(図示せず)に接続する。
図5を参照して、ミシン1の電気的構成について説明する。ミシン1の制御部60は、CPU61、ROM62、RAM63、EEPROM64、及び入出力インターフェース65を備える。CPU61、ROM62、RAM63、EEPROM64、及び入出力インターフェース65は、バス67を介して相互接続する。ROM62には、CPU61が処理を実行するためのプログラム、データ等が記憶される。EEPROM64には、ミシン1が縫製を実行するための複数種類の縫製模様のデータが記憶される。
入出力インターフェース65には、操作スイッチ21、タッチパネル26、および駆動回路71、72、74、75、76が電気的に接続される。駆動回路71、72、74、75、76は、それぞれ、送り量調整用モータ83、ミシンモータ79、針振りモータ80、液晶ディスプレイ15、受信器94、95、および超音波ペン91を駆動する。駆動回路76には、受信器94、95で検出された超音波の信号を増幅してCPU61に伝達する増幅回路が含まれる。
超音波ペン91の電気的構成について説明する。超音波ペン91は、スイッチ913、信号出力回路914、および超音波発信器915を備える。スイッチ913は、信号出力回路914、および、超音波発信器915に接続する。信号出力回路914は、入出力インターフェース65に接続する。信号出力回路914は、入出力インターフェース65を介してCPU61に電気信号を出力する。
図6を参照し、ユーザが超音波ペン91で指定した加工布100上の位置を特定する方法について説明する。ユーザは、加工布100に超音波ペン91のペン先911を接触させることによって、ミシン1による縫製を行う位置を加工布100上に指定する。以下、超音波ペン91のペン先911が接触した加工布100上の位置を、指定位置ともいう。なお後述するように、ミシン1は、超音波の発信源の位置を特定することによって指定位置を特定する。このため厳密には、ペン先911が接触した加工布100上の位置ではなく、超音波ペン91に設けられた超音波発信器915の位置が特定される。しかしながら、ペン先911と超音波発信器915とは非常に近接して配置されている。このため、超音波発信器915の位置を、ペン先911が接触した加工布100上の位置、すなわち指定位置として見做すことができる。以下、ミシン1の左右方向、前後方向、および上下方向を、それぞれX方向、Y方向、およびZ方向とする。図6の左右方向および上下方向が、それぞれ、X方向およびY方向に相当し、紙面手前側から紙面奥行側の方向が、Z方向に相当する。
ミシン1は、指定位置を座標情報(X座標、Y座標、およびZ座標)として特定する。ここで、座標の原点(0,0,0)は、針板34(図1参照)に形成され、縫針が挿通する穴(針穴)の中心点(後述する針落ち点)であるとする。Z座標が0である面が、針板34の上面を示す。受信器94の位置を示す座標Bを、(Xb,Yb,Zb)とする。受信器95の位置を示す座標Cを、(Xc,Yc,Zc)とする。指定位置を示す座標Eを、(Xe,Ye,Ze)とする。受信器94、95のZ座標は、針板34の上面に対する受信器94、95の高さを表す。座標B(Xb,Yb,Zb)および座標C(Xc,Yc,Zc)は、ROM62に予め記憶される。以下、座標Eを「指定座標E」ともいう。指定座標Eと座標Bとの間の距離を「距離EB」といい、指定座標Eと座標Cとの間の距離を「距離EC」という。
距離EB、ECは、三平方の定理に基づき、座標B、C、Eによって表すことができる。距離EB、座標B、C、Eは、以下の式(1)の関係を満たす。同様に、距離EC、座標B、C、Eは、以下の式(2)の関係を満たす。
(Xb−Xe)2+(Yb−Ye)2+(Zb−Ze)2=(EB)2・・・(1)
(Xc−Xe)2+(Yc−Ye)2+(Zc−Ze)2=(EC)2・・・(2)
なお式(1)は、座標Bを原点とし、指定座標Eを通る球面(半径:距離EB)の方程式と同一である。同様に(2)は、座標Cを原点とし、座標Eを通る球面(半径:距離EC)の方程式と同一である。
超音波が進行する速度を、音速Vとする。指定座標Eにある超音波ペン91から発信された超音波が、受信器94に到達するまでに要する時間を、伝達時間Tbとする。指定座標Eにある超音波ペン91から発信された超音波が、受信器95に到達するまでに要する時間を、伝達時間Tcとする。この場合、距離EB、ECは、以下の式(3)(4)で表すことができる。
EB=V×Tb・・・(3)
EC=V×Tc・・・(4)
上記式(1)(2)に式(3)(4)を代入することによって、以下の式(5)(6)が得られる。
(Xb−Xe)2+(Yb−Ye)2+(Zb−Ze)2=(V×Tb)2・・・(5)
(Xc−Xe)2+(Yc−Ye)2+(Zc−Ze)2=(V×Tc)2・・・(6)
式(5)(6)のうち、座標B(Xb,Yb,Zb)、座標C(Xc,Yc,Zc)、及び音速Vは既知の値であり、ROM62に予め記憶されている。到達時間Tb、Tcは、超音波ペン91の超音波発信器915から超音波が発信されたタイミング(以下、「発信タイミングT1」という。)、および、受信器94、95において超音波が検出されたタイミング(以下、「検出タイミングT2」という。)との差を算出することによって特定できる。指定座標E(Xe,Ye,Ze)のうちZeは、加工布100の布厚がXe、Yeと比較して無視できる程度に小さいので、0と見做してよい。よって、XeおよびYeは、式(5)(6)の連立方程式を解くことによって算出される。このようにして、ユーザが超音波ペン91で指定した加工布100上の指定座標E(Xe,Ye,Ze(=0))は算出される。
ここで、受信器94、95は、次の条件(A)〜(F)を満たす位置にミシン1に設けられることが好ましい。なお、条件(A)〜(F)の説明においては、便宜上、受信器94、95を受信器93と称す。
(A)超音波ペン91と受信器93との間に、遮蔽物が入り込み難い。
(B)受信器93間の距離ができるだけ離れている。
(C)加工布100の上面から受信器93までの高さが低い。
(D)針板34の針穴(原点)から受信器93までのX方向およびY方向の距離が大きい。
(E)針板34の針穴(原点)から受信器93までの間の距離が極端に大きすぎない。
(F)受信器93は、ベッド部11上に載置された加工布100に対して上側に設けられる。
理由は以下のとおりである。
条件(A)の理由は、超音波ペン91と受信器93との間に遮蔽物が入り込んだ場合、超音波ペン91から発信された超音波を受信器93が受信できなくなるためである。遮蔽物の一例として、ユーザの手や腕が挙げられる。例えば、ユーザが超音波ペン91を持って指定位置を指定する作業を行う最中に、ペン先911と受信器93との間に手や腕が入り込むことによって、超音波ペン91から発信された超音波が遮蔽され、受信器93が超音波を受信できない場合が発生し得る。このため受信器93は、超音波ペン91による作業中に、ユーザの手や腕が超音波ペン91と受信器93との間に入り込まない位置に設けられることが好ましい。
条件(B)の理由は、上述の式(5)(6)の連立方程式が解かれる場合、座標B、Cの差分が小さいと、式(5)(6)が近似することになり、算出される指定座標Eの誤差が大きくなるためである。
条件(C)の理由は、加工布100の上面から受信器93までの高さが高い場合、加工布100の布厚が算出結果に及ぼす影響が大きくなるためである。加工布100の面から受信器93までの高さが高くなる程、式(5)(6)におけるZeを0で近似したことによる影響が大きくなり、算出される指定座標Eの誤差は大きくなる。
条件(D)の理由は、原点から受信器93までのX方向およびY方向の距離が大きい程、座標B、CのZ座標の値が、X座標およびY座標の値よりも相対的に小さくなり、加工布100の布厚が算出結果に及ぼす影響を小さくすることができるためである。
条件(E)の理由は、原点から受信器93までの間の距離が極端に大きい場合、超音波ペン91から発信された超音波が受信器93に伝達するまでの間で減衰し、受信器93が超音波を正確に受信できなくなるためである。
条件(F)の理由は、加工布100の上面に超音波ペン91のペン先911を接触させるからである。受信器93は、加工布100の上面に接触させた超音波ペン91から発信される超音波を精度よく受信できるように、加工布100に対して上側、即ち、ベッド部11上に載置された加工布100に対して上側に設けられることが好ましい。
第一実施形態では、図1に示すように、受信器94、95は頭部14に設けられる。受信器94は頭部14の左下端に設けられ、受信器95は頭部14の右下端に設けられる。ユーザが超音波ペン91を手で持って加工布100上の位置を指定するのは、針穴よりも手前側であるので、条件(A)をほぼ満たす。受信器94、95間の距離は、頭部14の左右方向の長さ分離間する。このため、受信器94、95間は十分離れることになるので、条件(B)を満たす。また受信器94、95は、頭部14の下側面の後方に設けられる。従って、原点から受信器94、95までのX方向およびY方向の距離は、受信器94、95が頭部14の下側面の前後方向略中央に設けられる場合よりも大きくなるので、条件(D)を満たす。また、原点から受信器94、95までの間の距離は極端に大きくならないので、条件(E)を満たす。さらに、受信器94、95は、ベッド部11上に載置された加工布100に対して上側に設けられるので、条件(F)を満たす。このように、第一実施形態において、受信器94、95が設けられる位置は、条件(C)以外を全て満たすことになるので、ミシン1は指定座標Eをより高精度に算出できる。ここで、条件(C)を満たす為には、受信器94、95を加工布100上面に近い距離の位置、即ち高さが低い位置に設ける必要があるが、縫製作業における加工布100の取り回しの邪魔になる為、条件(C)を満たすことは困難である。
図7を参照し、ミシン1のCPU61が指定位置を特定する処理を具体的に説明する。メイン処理は、ROM62に記憶されたプログラムに従って、CPU61が実行する。CPU61は、例えば、ユーザのパネル操作によって縫製を実行する指示が入力された場合に、メイン処理を開始する。
CPU61は、超音波ペン91の信号出力回路914から出力される電気信号を、ケーブル912を介して検出したか判断する(S11)。電気信号を検出していない場合(S11:NO)、処理はS11に戻る。加工布100上の任意の位置をユーザが超音波ペン91で指定し、超音波ペン91のペン先911が加工布100に接触したとする。超音波ペン91のペン先911はペン本体910内に入り込み、スイッチ913はONする。信号出力回路914は電気信号を出力する。CPU61は、この電気信号を検出する(S11:YES)。なお、超音波ペン91のスイッチ913がONした場合、信号出力回路914が電気信号を出力すると同時に、超音波発信器915が超音波を発信する。しかしながら、電気信号の伝達する速度は、超音波の伝達する速度よりも非常に速く、スイッチ913がONしたタイミングと略同時にCPU61に電気信号が到達する。
超音波ペン91の信号出力回路914から出力された電気信号を検出した場合(S11:YES)、CPU61は、電気信号が検出された時刻を特定する。CPU61は、特定した時刻を、超音波の発信タイミングT1として取得する(S13)。CPU61は、取得した発信タイミングT1をRAM63に記憶する。
CPU61は、超音波ペン91から発信された超音波を、受信器94又は受信器95を介して検出したか判断する(S15)。受信器94又は受信器95を介して超音波を検出していない場合(S15:NO)、CPU61は、所定時間(例えば、1秒)が経過したかを判断する(S35)。所定時間が経過していない場合(S35:NO)、処理はS15に戻る。CPU61は、受信器94、95が超音波を検出するまで、所定時間待機する。
ここで、超音波ペン91の超音波発信器915から発信した超音波が、例えばユーザの手や腕、加工布100等によって遮蔽され、受信器94、95に到達しなかったとする。つまり、受信器94、95が超音波を検出できない状態のまま所定時間が経過すると(S35:YES)、CPU61は、超音波が検出できなかった旨を示すエラーメッセージを液晶ディスプレイ15に表示する(S37)。このエラーメッセージを見たユーザは、超音波ペン91によって加工布100上の任意の位置を再度指定する。処理は、超音波ペン91の信号出力回路914から出力される電気信号を再度検出するためにS11に戻る。
一方、電気信号を検出してから所定時間内に、受信器94又は受信器95を介して超音波を検出した場合(S15:YES)、CPU61は、超音波が検出された時刻を特定する。CPU61は、特定した時刻を、検出タイミングT2として取得する(S17)。CPU61は、取得した検出タイミングT2をRAM63に記憶する。
CPU61は、受信器94、95の両方から超音波を検出したか判断する(S19)。受信器94、95のうちいずれか一方が超音波を検出していない場合(S19:NO)、処理はS15に戻る。受信器94、95の両方から超音波を検出した場合(S19:YES)、CPU61は、伝達時間Tb、Tcを算出する(S21)。CPU61は、検出タイミングT2から発信タイミングT1を減算することによって、伝達時間Tb、Tcを算出する。
CPU61は算出したTb、Tcに音速Vを乗算することによって、距離EB、ECを算出する(S23)(式(3)(4)参照)。CPU61は、座標B(Xb,Yb,Zb)、座標C(Xc,Yc,Zc)、距離EB、ECを式(5)(6)に適用し、連立方程式を解くことによって、指定座標E(Xe,Ye,Ze(=0))を算出する。これによってCPU61は、超音波ペン91によって指定された加工布100上の位置、すなわち指定位置を特定する(S25)。
CPU61は、指定座標(Xe,Ye,Ze)によって示される指定位置と加工布100との関係を示す表示画像を、液晶ディスプレイ15に表示する(S27)。CPU61は、操作スイッチ21のうち開始・停止スイッチが押下されたかを判断する(S29)。開始・停止スイッチが押下されていない場合(S29:NO)、処理はS29に戻る。開始・停止スイッチが押下された場合(S29:YES)、CPU61は、S25で算出された指定座標EのX座標「Xe」Y座標「Ye」の位置が針落ち点と一致するように、送り歯を駆動して加工布100を搬送する(S31)。そして、CPU61は縫製を開始する(S33)。これによって、加工布100のうちユーザが超音波ペン91によって指定した位置、すなわち指定位置から縫製が開始される。縫製が終了すると、メイン処理は終了する。ここで、針落ち点とは、縫針が加工布100を貫通する点、即ち、針板34に形成された針穴の中心点である。
以上説明したように、ミシン1は、ユーザが超音波ペン91を用いて加工布100上の任意の位置を指定した場合、指定された位置を特定し、縫製を開始することができる。このように、ユーザは、加工布100上の位置の指定を超音波ペン91を用いて行うことができるので、容易且つ適切に指定することができる。また、ミシン1は、複数の受信器94、95によって超音波を検出し、発信タイミングT1および検出タイミングT2に基づいて指定座標Eを算出できる。従って、ミシン1は、指定位置を精度よく特定できる。
なお、本発明は第一実施形態に限定されず、種々の変更が可能である。上述において、受信器94、95が設けられる位置は、ミシン1の頭部14に限定されない。例えば、押え足30又は押え棒31に設けられてもよい。具体的には、押え足30又は押え棒31の左側に受信器94が設けられ、押え足30又は押え棒31の右側に受信器95が設けられてもよい。
また例えば、頭部14、押え足30、および押え棒31のいずれかに受信器94が設けられ、脚柱部12のうちアーム部13が延びる側、すなわち脚柱部12の左側面17(図1参照)のいずれかの部位に、受信器95が設けられてもよい。このとき、受信器95の開口部941は左方を向く姿勢で設けられる。この場合、頭部14に受信器95が設けられる場合と比べて、受信器94、95間の距離は大きくなり(条件(B)参照)、針板34の針穴(原点)から受信器95までのX方向およびY方向の距離も大きくなる((D)参照)。さらに、受信器93は加工布100に対して上側に設けられる((F)参照)。このように、受信器94、95が設けられる位置は、第一実施形態と同様、条件(A)〜(F)の条件のうち複数を満たすことになるので、ミシン1は指定座標Eを高精度に算出できる。また、特にこの構成の場合、受信器94、95間の距離を大きくすることができる。
なお、受信器94、95を設ける位置の組み合わせは、上述の第一実施形態および変形例に限定されない。また、頭部14に受信器94、95が設けられる場合、頭部14の下側面後方に限定されない。例えば、頭部14の下側面前方や、下側面且つ前後方向略中央等に設けられてもよい。脚柱部12の左側面17に受信器95が設けられる場合、その高さは特に限定されないが、条件(C)を考慮すると、低い位置の方が好ましい。
受信器94、95は、頭部14、押え足30、押え棒31、および脚柱部12の左側面17以外の部位に設けられても良い。例えば受信器94、95は、アーム部13の下側面、頭部14の前側面または後側面、ベッド部11の左端且つ上側面等に設けられても良い。また、超音波ペン91はミシン1に付属されていなくてもよい。ミシン1は、超音波を出力する周知の装置から出力された超音波を検出し、超音波の発信源の位置を指定位置として特定してもよい。
なお、上述の受信器94、95が本発明の「検出手段」に相当する。S11、S13、S15、S17、S19、S21、S23、およびS25の処理を行うCPU61が本発明の「特定手段」に相当する。S33の処理を行うCPU61が本発明の「制御手段」に相当する。S13の処理を行うCPU61が本発明の「取得手段」に相当する。
<第二実施形態>
第二実施形態について説明する。第二実施形態では、図8に示すように、受信器は、ミシン1ではなく、ミシン1のベッド部11に着脱可能に装着される刺繍装置2に設けられる。図9、図10には、ミシン1に装着していない状態の刺繍装置2を示す。刺繍装置2は、本体部51、およびキャリッジ52を備える。
図9、図10に示すように、刺繍装置2の本体部51は、右側面に接続部54を備える。接続部54は、ミシン1に刺繍装置2が装着された状態で、ミシン1の被接続部(図示せず)に接続し、刺繍装置2とミシン1は電気的に接続される。
キャリッジ52は、本体部51の上側に設けられる。キャリッジ52は、前後方向に長い直方体形状である。キャリッジ52は、枠ホルダ55、Y軸移送機構(図示せず)、及びY軸モータ(図示せず)を備える。枠ホルダ55は、刺繍枠(図示せず)を着脱可能なホルダである。枠ホルダ55は、キャリッジ52の右側面に設けられる。刺繍枠は、詳しく図示しない内枠と外枠で構成される周知のものであり、加工布100を挟持して保持する。刺繍枠に保持された状態の加工布100は、ベッド部11の上面、且つ、針棒29および押え足30の下方に配置する。Y軸移送機構は、枠ホルダ55を前後方向(Y方向)に移送する。刺繍枠は、枠ホルダ55が前後方向に移送されることに伴い、加工布100を前後方向に移送する。Y軸モータはY軸移送機構を駆動する。CPU61(図5参照)は、Y軸モータを制御する。
本体部51の内部には、キャリッジ52を左右方向(X方向)に移送するX軸移送機構(図示せず)及びX軸モータ(図示せず)を備える。刺繍枠は、キャリッジ52が左右方向に移送されることに伴って、加工布100を左右方向に移送する。X軸モータはX軸移送機構を駆動する。CPU61は、X軸モータを制御する。
キャリッジ52の前端且つ上側面に受信器84が設けられ、後端且つ上側面に受信器85が設けられる。受信器84、85は超音波を受信する。受信器84、85の構成は、受信器94、95と同一である。刺繍枠は、キャリッジ52の右側面から右方に設けられるので、受信器84、85は、刺繍枠に保持された状態の加工布100よりも上方、即ち、加工布100に対してベッド部11が設けられる側と反対側に位置する。受信器84、85の開口部は、右方を向いている。受信器84、85が超音波を受信した場合、受信器84、85は、ミシン1側に電気信号を送信する。CPU61は、受信器84、85から電気信号を受信することによって、超音波ペン91から発信された超音波を検出する。
ミシン1のCPU61が指定位置を特定する処理について、図7を参照して説明する。CPU61は、超音波ペン91の信号出力回路914から出力される電気信号を、ケーブル912を介して検出し(S11:YES)、発信タイミングT1を取得する(S13)。CPU61は、受信器84、85から電気信号を受信する(S15:YES)。CPU61は、受信器84、85から電気信号を受信した時刻を特定し、検出タイミングT2として取得する(S17)。CPU61は指定座標Eを算出し、ユーザが指定した加工布100上の指定位置を特定する(S21〜S25)。CPU61は、X軸モータおよびY軸モータを制御することによって、加工布100上の指定座標Eの位置が針落ち点と一致するように、刺繍枠を搬送する(S31)。次に、CPU61は、加工布100への縫製を開始する。CPU61は、刺繍枠を左右方向(X方向)および前後方向(Y方向)に移送すると同時に、針棒29および釜機構(図示略)を駆動する。針棒29に装着された縫針は、刺繍枠に保持された加工布100に対して刺繍模様を縫製する。これによって、加工布100上の指定位置に刺繍模様が縫製される。
第二実施形態では、図9および図10に示すように、キャリッジ52の前後端部に受信器84、85がそれぞれ設けられる。このため、ペン先911が加工布100に接触した状態の超音波ペン91から発信される超音波を、ユーザの手や腕が遮蔽しない(条件(A)参照)。また、受信器84、85間の距離は、キャリッジ52の前後方向の長さ分離間する。このため、受信器84、85間は十分離れる(条件(B)参照)。また、加工布100の上面から受信器84、85までの高さは低い(条件(C)参照)。また、針板34の針穴(原点)から受信器84、85までのX方向およびY方向の距離は、受信器84、85がミシン1の頭部14、押え足30、および押え棒31に設けられる場合よりも大きくなる(条件(D)参照)。また、原点から受信器84、85までの間の距離は極端に大きすぎず、且つ、受信器84、85は、刺繍枠に保持された加工布100に対して上側に設けられる(条件(E)、(F)参照)。このように、第二実施形態では、上述した条件(A)〜(F)の全てを満たすことになる。このためミシン1は、指定座標Eをさらに精度よく算出し、加工布100に対して縫製を行うことができる。
なお第二実施形態において、受信器84、85は、キャリッジ52のうち上面以外の部位に設けられても良い。例えば、キャリッジ52の前側の側面に受信器84が設けられ、後側の側面に受信器85が設けられてもよい。また例えば、キャリッジ52の右側面且つ前方に受信器84が設けられ、右側面且つ後方に受信器85が設けられてもよい。
なお、上述の「受信器84、85」が本発明の「検出手段」に相当する。接続部54が本発明の「通知手段」に相当する。キャリッジ52が本発明の「移送機構」に相当する。
<第三実施形態>
第三実施形態について説明する。第三実施形態では、図11に示すように、ミシン1は、ケーブルで接続されていない超音波ペン92を備えるという点で、第一実施形態と異なる。超音波ペン92は、信号出力回路914(図5参照)の代わりに電磁波出力回路921(図12参照)および電池(図示せず)を内部に備える。超音波ペン92は電池で駆動する。電磁波出力回路921は、所定の周波数の電磁波信号を出力する。スイッチ913(図12参照)がOFFした状態では、電磁波出力回路921は電磁波信号を出力しない。一方、スイッチ913がONした場合、電磁波出力回路921は電磁波信号を出力する。CPU61は、電磁波出力回路921から出力された電磁波信号を、電磁波検出器97(図12参照)により受信する。電磁波検出器97は、ミシン1の内部に設けられている。ここで、電磁波検出器97が設けられる位置は、電磁波信号が受信可能な位置であればよく、限定はされない。
図12を参照し、第三実施形態におけるミシン1の電気的構成について説明する。第一実施形態と異なる点は、超音波ペン92が電磁波出力回路921を備える点、および、ミシン1が電磁波検出器97を備える点にある。電磁波出力回路921は、スイッチ913に接続する。電磁波検出器97は、入出力インターフェース65に接続する。電磁波検出器97は、超音波ペン92の電磁波出力回路921から出力された電磁波信号を受信した場合、入出力インターフェース65を介してCPU61に信号を出力する。
図7を参照し、第三実施形態におけるメイン処理について説明する。CPU61は、超音波ペン92の電磁波出力回路921から出力された電磁波信号を、電磁波検出器97が検出したか判断する(S11)。電磁波検出器97が電磁波信号を検出しない場合(S11:NO)、処理はS11に戻る。一方、電磁波検出器97が電磁波信号を検出した場合(S11:YES)、CPU61は、電磁波信号を検出した時刻を特定する。CPU61は、特定した時刻を、超音波の発信タイミングT1として取得する(S13)。CPU61は、取得した発信タイミングT1をRAM63に記憶する。S15〜S33の処理は、第一実施形態と同一であるので、説明を省略する。
以上説明したように、第三実施形態では、超音波ペン92が出力した電磁波信号を検出することによって、ミシン1は超音波の発信タイミングを特定できる。即ち、超音波ペン92とミシン1とを接続するためのケーブルは不要である。従って、ケーブルが作業の邪魔になることがないので、ユーザは、超音波ペン92を用いて加工布100上に指定位置を指定する操作を容易に行うことができる。なお、上述の電磁波検出器97が本発明の「受信手段」に相当する。
なお、第三実施形態において、超音波ペン92は、周知のタイマ回路を備え、電磁波出力回路921に接続される構成であってもよい。この場合、超音波ペン92の電磁波出力回路921は、スイッチ913がONした時刻を通知する電磁波信号を出力してもよい。CPU61は、電磁波検出器97を介して電磁波信号を受信し、電磁波信号によって通知された時刻を特定してもよい。CPU61は、特定した時刻を、超音波の発信タイミングとして取得してもよい。
電磁波出力回路921から出力される電磁波信号として、任意の周波数の電磁波信号を使用することができる。例えば電磁波信号は、マイクロ波であってもよいし、赤外線であってもよい。
<第四実施形態>
第四実施形態について説明する。第四実施形態では、図13に示すように、ミシン1が受信器94、95に加えて受信器96を備える点、および、詳しくは後述するが超音波ペン92が電磁波出力回路921を備えないという点で、第三実施形態と異なる。受信器96は、脚柱部12の左側面17に設けられる。受信器96は、受信器94、95と同一構成である。受信器96は、開口部(図示せず)が左方を向くように設けられる。CPU61は、受信器94、95、96により超音波を検出し、それぞれの検出タイミングT2に基づいて、指定座標Eを算出する。ここで、第一実施形態乃至第三実施形態とは異なり、CPU61は、超音波の発信タイミングT1を取得せず、指定座標Eの算出時に発信タイミングT1を使用しない。第四実施形態におけるミシン1の電気的構成は、図12で示した第三実施形態におけるミシン1のブロック図のうち、電磁波検出器97と電磁波出力回路921を除いた構成である。
図14を参照し、ユーザが超音波ペン92で指定した加工布100上の位置を特定する方法について説明する。ユーザは、加工布100に超音波ペン92のペン先911を接触させることによって、指定位置を加工布100上に指定する。図14の左右方向および上下方向が、それぞれ、X方向およびY方向に相当する。また図14の紙面手前側から紙面奥行側の方向が、Z方向に相当する。受信器96の座標Dを、(Xd,Yd,Zd)とする。指定座標Eと受信器96の座標Dとの間の距離を「距離ED」という。
距離EDは、三平方の定理に基づき、座標B、C、D、Eによって表すことができる。距離ED、座標B、C、D、Eは、以下の式(7)の関係を満たす。
(Xd−Xe)2+(Yd−Ye)2+(Zd−Ze)2=(ED)2・・・(7)
式(7)は、上述した式(1)(2)と同様、座標Dを原点とし、指定座標Eを通る球面(半径:距離ED)の方程式と同一である。
指定座標Eにある超音波ペン92から発信された超音波が、受信器96に到達するまでに要する時間を、伝達時間Tdとする。この場合、距離EDは、以下の式(8)で表すことができる。
ED=V×Td・・・(8)
さらに、式(4)(8)は、以下の式(9)(10)のように変形できる。
EC=V×Tc=V×(Tc−Tb)+V×Tb・・・(9)
ED=V×Td=V×(Td−Tb)+V×Tb・・・(10)
式(9)中の伝達時間の差(Tc−Tb)は、受信器95を介して超音波が検出された場合の検出タイミングT2と、受信器94を介して超音波が検出された場合の検出タイミングT2との差に等しい。同様に、式(10)中の到達時間の差(Td−Tb)は、受信器96を介して超音波が検出された場合の検出タイミングT2と、受信器94を介して超音波が検出された場合の検出タイミングとの差に等しい。従って、式(9)(10)は、以下の式(11)(12)のように変形することができる。なお、受信器94、95、および96を介して超音波が検出された場合の検出タイミングを、それぞれ、T2b、T2c、およびT2dという。
EC=V×(T2c−T2b)+V×Tb・・・(11)
ED=V×(T2d−T2b)+V×Tb・・・(12)
式(3)(11)(12)を、式(1)(2)(7)に代入することによって、以下の式(13)(14)(15)のように表わすことができる。
(Xb−Xe)2+(Yb−Ye)2+(Zb−Ze)2=(V×Tb)2・・・(13)
(Xc−Xe)2+(Yc−Ye)2+(Zc−Ze)2
={V×(T2c−T2b)+V×Tb}2・・・(14)
(Xd−Xe)2+(Yd−Ye)2+(Zd−Ze)2
={V×(T2d−T2b)+V×Tb}2・・・(15)
式(13)(14)(15)のうち、座標B(Xb,Yb,Zb)、座標C(Xc,Yc,Zc)、座標D(Xd,Yd,Zd)、及び音速Vは既知の値であり、ROM62に予め記憶されている。検出タイミングT2b,T2c,T2dは、CPU61が受信器94、95、96を介して超音波を検出した時刻に相当する(S43、図15参照)。指定座標E(Xe,Ye,Ze)のうちZeは0とみなされる。以上から、Xe、Ye、およびTbは、式(13)(14)(15)の連立方程式を解くことによって算出される。このようにして、ユーザが超音波ペン92で指定した加工布100上の指定座標E(Xe,Ye,Ze(=0))は算出される。
図15を参照し、ミシン1のCPU61が指定位置を特定する処理を説明する。メイン処理は、ROM62に記憶されたプログラムに従って、CPU61が実行する。CPU61は、例えば、ユーザのパネル操作によって縫製を実行する指示が入力された場合に、メイン処理は開始される。
CPU61は、超音波ペン92から発信された超音波を、受信器94、95、96が検出したかを判断する(S41)。受信器94、95、96が超音波を検出しない場合(S41:NO)であって、受信器94、95、96のいずれからも超音波を検出しない場合(S61:YES)、処理はS41に戻る。一方、受信器94、95、96のいずれかから超音波を検出した場合(S61:NO)、CPU61は、超音波を検出してから所定時間(例えば、1秒)が経過したかを判断する(S63)。所定時間が経過していない場合(S63:NO)、処理はS41に戻る。所定時間が経過した場合(S63:YES)、CPU61は、超音波が検出できなかった旨を示すエラーメッセージを液晶ディスプレイ15に表示する(S65)。処理はS41に戻る。
一方、所定時間内に、受信器94、95、96のいずれかが超音波を検出した場合(S41:YES)、CPU61は、超音波が検出された時刻を特定する。CPU61は、特定した時刻を、検出タイミングT2として取得する(S43)。CPU61は、取得した検出タイミングT2をRAM63に記憶する。
CPU61は、受信器94、95、96のすべてが超音波を検出したか判断する(S45)。超音波を検出していない受信器94、95、96がある場合(S45:NO)、処理はS41に戻る。受信器94、95、96のすべてが超音波を検出した場合(S45:YES)、CPU61は、検出タイミング間の差分「T2c−T2b」「T2d−T2b」を算出する(S47)。CPU61は算出した差分、および検出タイミングTbに基づいて、距離EB、EC、EDを算出する(S49)(式(3)(11)(12)参照)。CPU61は、座標B(Xb,Yb,Zb)、座標C(Xc,Yc,Zc)、座標D(Xd,Yd,Zd)、距離EB、EC、EDを式(13)(14)(15)に適用し、連立方程式を解くことによって、指定座標E(Xe,Ye,Ze(=0))を算出する。これによってCPU61は、超音波ペン92によって指定された加工布100上の位置、すなわち指定位置を特定する(S51)。S27〜S33の処理は、第一実施形態乃至第三実施形態(図7参照)と同様であるので、説明を省略する。
以上のように、第四実施形態では、第一実施形態乃至第三実施形態と異なり、発信タイミングT1を用いず、検出タイミングT2のみを用いることによって、ミシン1は指定座標Eを算出できる。このため、発信タイミングT1を特定するために必要な構成、例えば、第一実施形態における信号出力回路914(図5参照)、第三実施形態における電磁波検出器97と電磁波出力回路921が不要となる。従って、第一実施形態乃至第三実施形態に比べて簡単な構成で、指定座標Eを算出することができる。
なお上述の第四実施形態において、受信器94、95、96が設けられる3つの場所は、ミシン1の頭部14の左下端、右下端、および脚柱部12の左側面17に限定されない。例えば、受信器94、95、96のすべてが頭部14に設けられてもよい。例えば、頭部14の左下端且つ後方に受信器94が設けられ、頭部14の右下端且つ後方に受信器95が設けられ、頭部14の右略中央下端且つ前方に受信器96が設けられてもよい。
また、押え棒31又は押え足30の左右両側に受信器94、95が設けられ、脚柱部12の左側面17に受信器96が設けられてもよい。また、アーム部13の下側面に受信器96が設けられてもよい。
また、押え棒31又は押え足30の左右両側に受信器94、95が設けられ、頭部14の左右方向略中央下端且つ前方に、受信器96が設けられてもよい。
以上のように、受信器94、95、96は、頭部14、押え足30、押え棒31、脚柱部12の左側面17、アーム部13の下側面のいずれかに設けられればよく、その組み合わせは、上述の第四実施形態および変形例に限定されない。
刺繍装置2がミシン1に装着されて使用される場合、受信器94、95、96はキャリッジ52に設けられてもよい。このとき、キャリッジ52の上面且つ前後端部に受信器94、95がそれぞれ設けられ、キャリッジ52の上面且つ前後方向略中央に受信器96が設けられる。また、キャリッジ52の上面且つ前後端部に受信器94、95がそれぞれ設けられ、頭部14右下端且つ後方に受信器96が設けられてもよい。また、キャリッジ52の上面且つ前後端部に受信器94、95がそれぞれ設けられ、脚柱部12の左側面17に受信器96が設けられてもよい。
<第五実施形態>
第五実施形態について説明する。第五実施形態は、図16に示すように、複数の針棒を有する多針ミシン3に受信器131、132を備えた構成である。図16から図18を参照し、多針ミシン3(以下、ミシン3と称す。)の構成について説明する。以下の説明では、図16の上側、下側、左側、右側、紙面手前側、および紙面奥行き側を、それぞれ、ミシン3の上側、下側、左側、右側、正面側、および背面側とする。
図16、図17に示すように、ミシン3の本体120は、支持部102、脚柱部103、およびアーム部104を備える。支持部102は平面視逆U字形に形成され、ミシン3全体を支持する。支持部102の上面には、前後方向に伸びる左右一対のガイド溝125がある。脚柱部103は、支持部102の後端部から上方へ立設される。アーム部104は、脚柱部103の上端部から前方に延びる。アーム部104の先端には、針棒ケース121が左右方向に移動可能に装着されている。針棒ケース121の内部には、上下方向に伸びる10本の針棒(図示せず)が左右方向に等間隔で配置されている。10本の針棒のうち、縫製位置にある1本の針棒が、針棒ケース121の内部に設けられた針棒駆動機構(図示せず)によって上下方向に摺動される。針棒の下端には、縫針135が着脱可能である。
アーム部104の前後方向中央部の右側には、操作部106が設けられている。操作部106は、液晶ディスプレイ(以下、LCDという)107、タッチパネル108、操作スイッチ141とを備える。LCD107には、例えば、ユーザが指示を入力するための操作画像といった各種情報が表示される。タッチパネル108は、ユーザからの指示を受け付けるために用いられる。LCD107に表示された入力キー等の位置に対応したタッチパネル108の箇所を、ユーザが、指又はタッチペンを用いて押圧操作すること(以下、この操作を「パネル操作」という)によって、縫製される模様及び縫製条件といった各種条件を選択又は設定できる。操作スイッチ141は、縫製の開始又は停止を指示するためのスイッチである。
アーム部104の下方に、脚柱部103の下端部から前方へ延びる筒状のシリンダベッド110が設けられる。シリンダベッド110の先端部の内部には、釜(図示せず)が設けられる。釜は、下糸(図示せず)が巻回されたボビン(図示せず)を収納する。シリンダベッド110の内部には、釜機構(図示せず)がある。釜機構(図示せず)は、釜を回転駆動する。シリンダベッド110の上面には、平面視矩形の針板116がある。針板116には、縫針135が挿通される針穴(図示せず)が設けられる。
アーム部104の上面の背面側には、左右一対の糸駒台112が設けられている。一対の糸駒台112には、針棒の数と同じ10個の糸駒(図示せず)を設置可能である。上糸(図示せず)は、糸駒台112に設置された糸駒から供給される。上糸は、糸案内117、糸調子器118、天秤119等を経由して、針棒の下端に装着された各縫針135の針孔(図示せず)に供給される。ミシン3には、第一実施形態と同様、ケーブル912を介して超音波ペン91が接続される。
アーム部104の下方に、刺繍枠移動機構111(図18参照)が設けられる。刺繍枠移動機構111は、様々な種類の刺繍枠184(図18参照)を着脱可能に支持する。刺繍枠184は、加工布100を保持する。刺繍枠移動機構111は、X軸モータ(図示せず)及びY軸モータ(図示せず)により駆動され、刺繍枠184を前後左右に移動させる。
図18を参照し、刺繍枠移動機構111について説明する。刺繍枠移動機構111は、ホルダ124、Xキャリッジ122、X軸駆動機構(図示せず)、Yキャリッジ123、およびY軸移動機構(図示せず)を備える。ホルダ124は、刺繍枠184を着脱可能に支持する。Xキャリッジ122は、左右方向に長い板部材であり、一部分がYキャリッジ123の正面から前方に突出している。Xキャリッジ122には、ホルダ124が取り付けられる。Xキャリッジ122は、X軸モータを駆動源として左右方向(X軸方向)に移動する。
Yキャリッジ123は、左右方向に長い箱状である。Yキャリッジ123は、Xキャリッジ122を左右方向に移動可能に支持する。Y軸移動機構(図示せず)は、左右一対の移動体(図示せず)を備える。移動体は、Yキャリッジ123の左右両端の下部に連結され、ガイド溝125(図16参照)を上下方向に貫通している。移動体は、Y軸モータを駆動源として、ガイド溝125に沿って前後方向(Y軸方向)に移動する。移動体に連結されたYキャリッジ123、および、Yキャリッジ123に支持されたXキャリッジ122は、これに伴って前後方向(Y軸方向)に移動する。加工布100を保持する刺繍枠184をホルダ124に装着した状態では、加工布100は、針棒と、針板116との間に配置される。
図16から図18に示すように、Yキャリッジ123の上面且つ左端に受信器131が設けられ、上面且つ右端に受信器132が設けられる。受信器131、132は、超音波を受信する。受信器131、132の構成は、受信器94と同一である。刺繍枠184はYキャリッジ123の前面に設けられているので、受信器131、132は、刺繍枠184に保持された状態の加工布100よりも上方に位置する。受信器131、132に設けられた開口部は、前方を向いている。
ミシン3のCPU(図示せず)が指定位置を特定する処理について、図7を参照して簡単に説明する。CPUは、超音波ペン91の信号出力回路914から出力される電気信号を、ケーブル912を介して検出し(S11:YES)、発信タイミングT1を取得する(S13)。CPUは、受信器131、132を介して、超音波ペン91から発信された超音波を検出する(S15:YES)。CPUは、受信器131、132を介して超音波を検出した時刻を特定し、検出タイミングT2として取得する(S17)。CPUは指定座標Eを算出し、ユーザが指定した加工布100上の指定位置を特定する(S21〜S25)。ユーザによって縫製を開始するためのパネル操作が実行された場合(S29:YES)、CPUは、X軸モータおよびY軸モータを制御することによって、加工布100上の指定座標Eの位置が針落ち点と一致するように、刺繍枠184を移送する(S31)。CPUは、加工布100への縫製を開始する。CPUは、刺繍枠を左右方向(X方向)および前後方向(Y方向)に移送すると同時に、針棒および釜機構を駆動する。針棒に装着された縫針は、刺繍枠に保持された加工布100に対して刺繍模様を縫製する。これによって、加工布100上の指定位置に刺繍模様が縫製される(S33)。
受信器131、132はYキャリッジ123に直接設けられているので、ペン先911が加工布100に接触した状態の超音波ペン91から発信される超音波は、超音波ペン91を使用するユーザの手や腕によって遮蔽され難い(条件(A)参照)。また、受信器131、132間の距離は、Yキャリッジ123の左右方向の長さ分離間する。このため、受信器131、132間は十分離れる(条件(B)参照)。また、刺繍枠184に保持された加工布100に対して受信器131、132の高さは十分低い(条件(C)参照)。また、針板116の針穴(原点)から受信器131、132までのX方向およびY方向の距離は大きい(条件(D)参照)。また、原点と受信器131、132との間の距離は極端に大きすぎず、且つ、受信器131、132は、刺繍枠184に保持された加工布100に対して上側に設けられる(条件(E)、(F)参照)。
以上のように、第五実施形態では、ミシン3が受信器131、132を備え、受信器131、132を介してミシン3が超音波を検出することによって、指定位置を特定することができる。受信器131、132が設けられる位置は、上述した条件(A)〜(F)のすべての条件を満たすことになる。このためミシン3は、指定座標Eをより高精度に算出し、加工布100に対して縫製を行うことができる。
上述の第五実施形態において、ミシン3は、超音波ペン91の代わりに、電磁波信号を出力する超音波ペン92を備えていてもよい。受信器131、132は、ミシン3のYキャリッジ123以外の場所に設けられてもよい。例えば受信器131、132は、脚柱部103の前側面、アーム部104の下側面に設けられてもよい。
ミシン3は、第四実施形態のように、受信器を3つ以上備え、検出タイミングのみから指定位置を特定してもよい。この場合、受信器は、Yキャリッジ123の他、ミシン3のいずれの部位に設けられてもよい。例えば受信器は、脚柱部103の前側面、アーム部104の下側面に設けられてもよい。