JP5804936B2 - 超電導線の製造方法 - Google Patents
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Description
このRE系超電導体を用いた超電導線は、ケーブルやSMES(超電導エネルギー貯蔵装置)への応用が期待されており、これらの応用には超電導線の臨界電流(Ic)特性を向上させる必要がある。
そこで、本発明の上記課題は下記の手段によって解決された。
<1>長尺の基材を化学気相蒸着装置の一方の基材導出入領域、成膜領域、他方の基材導出入領域を移動させながら、前記基材の主面にRE系超電導体を主体とする多層構造の超電導層を成膜する超電導線の製造方法であって、前記一方の基材導出入領域及び前記他方の基材導出入領域のいずれかの基材導出入領域において、前記基材を移動させながら昇温する昇温工程と、前記成膜領域において、前記基材を移動させながら前記昇温工程で昇温した前記基材の温度を維持するとともに、酸素含有雰囲気中で前記超電導層の超電導層構成層を一層成膜する成膜工程と、前記昇温工程の基材導出入領域とは異なる前記一方の基材導出入領域又は前記他方の基材導出入領域において、前記基材の温度を降温しつつ、降温中の前記基材の温度に応じて前記超電導層構成層の成分状態を維持するように酸素分圧を調整したガスを領域中に流す降温工程と、を順に複数回繰り返し行う超電導線の製造方法。
<2>前記複数回のうち少なくとも2回目以降の前記昇温工程では、前記基材の温度を昇温しつつ、昇温中の前記基材の温度に応じて既に成膜されている前記超電導層構成層の成分状態を維持するように酸素分圧を調整したガスを流す、<1>に記載の超電導線の製造方法。
<3>前記昇温工程では、前記基材の温度を1003K以上1103K以下まで昇温し、前記昇温工程及び前記降温工程では、調整する前記酸素分圧をPO2(Pa)とし、前記基材の温度をT(K)とし、y=logPO2、x=1000/T(K)とすると、前記基材の温度Tに応じて−13x+14≦y≦−12x+15の条件(ただし、0.9≦x、−2≦y<2.8)を満たすように酸素分圧PO2を調整したガスを領域中に流す、<2>に記載の超電導線の製造方法。
<4>前記昇温工程及び前記降温工程では、降温中の前記基材の温度Tに応じてy≦−10x+12の条件を満たすように領域中の酸素分圧PO2を調整したガスを領域中に流す、<3>に記載の超電導線の製造方法。
まず、本発明の実施形態に係る超電導線の製造方法について説明する前に、当該製造方法により製造される超電導線について説明する。
ここで、REをPrとしたPrBa2Cu3O7−δだけは、現在、超電導現象が確認されていないが、将来酸素不定比量δを制御するなどして超電導現象が確認できた場合には、本発明の実施形態に係わる酸化物超電導体にPrBa2Cu3O7−δも含むものとする。
また、REBa2Cu3O7−δ中の各陽イオンの組成比は、厳密に1:2:3となる必要はなく、REBa2Cu3O7−δの結晶構造を維持できる程度にずれていてもよい。
図2は、図1に示す超電導線1の断面構造を示す図であって、特に超電導層13の層構造を詳細化したものである。
ただし、超電導層構成層間の区別ができない場合もあり得るが、以下で説明する製造方法の各段階では各層の区別ができるため、本実施形態では便宜上規定している。
次に、以上で説明した超電導線1の製造に用いる化学気相蒸着装置の一例としてMOCVD装置について説明する。図3は、MOCVD装置20の概要構成を示す図である。
基材搬送部32は、内部にテープ巻き取り器32A,32Bを有し、テープ巻き取り器32A,32Bを連動させることによって、基材11を往復搬送可能に構成されており、反応室22内において基材11を所定速度で搬送する。
具体的に、各領域B1には、例えば酸素分圧がPO21(Pa)のAr+O2の混合ガスが導入される。各領域B2には、例えば酸素分圧がPO22(Pa)のAr+O2の混合ガスが導入される。各領域B3には、例えば酸素分圧がPO23(Pa)のAr+O2の混合ガスが導入される。各領域B4には、例えば酸素分圧がPO24(Pa)のArのガスが導入される。
次に、以上で説明したMOCVD装置20を用いた超電導線1の製造方法について説明する。
すなわち、長尺の基材11をMOCVD装置20の一方の基材導出入領域A1、成膜領域A2、他方の基材導出入領域A3を移動させながら、基材11の主面にRE系超電導体を主体とする多層構造の超電導層13を成膜する超電導線1の製造方法であって、
前記一方の基材導出入領域A1及び前記他方の基材導出入領域A2のいずれかの基材導出入領域において、前記基材11を移動させながら昇温する昇温工程と、
前記成膜領域A2において、前記基材11を移動させながら前記昇温工程で昇温した前記基材11の温度を維持するとともに、酸素含有雰囲気中で前記超電導層13の超電導層構成層を成膜する成膜工程と、
前記昇温工程の基材導出入領域とは異なる前記一方の基材導出入領域A1又は前記他方の基材導出入領域A3において、前記基材11の温度を降温しつつ、降温中の前記基材11の温度に応じて前記超電導層構成層の成分状態を維持するように酸素分圧を調整したガスを領域中(基材導出入領域A1又はA3)に流す降温工程と、
を順に複数回繰り返し行う超電導線の製造方法を想到した。
なお、上記「成分状態を維持する」の「成分」とは、超電導層の構成成分の全部である必要はなく、一部の成分であってもよく、この「成分」には例えばRE系超電導体や異相CuOの他、Y2O3やGd2O3等のReOx、RECuO2、RE2BaCuO5、BaCeO3などの不純物が含まれる。
なお、上記基材11の移動は、A1、A2、A3を通ってA3、A2、A1と戻る往復移動であってもよいし、A1、A2、A3を通って再びA1、A2、A3を通る反復移動であってもよい。
前記降温工程で、降温中の基材11の温度に応じて超電導層構成層の成分状態を維持するように酸素分圧を調整したガスを領域中(基材導出入領域A1又はA3)に流すには、成膜目標温度から予測した各領域B1、B2、B3、B4を通過するときの基材11の温度(領域中の温度と同じとみなす)に応じて、各領域に導入するガスの酸素分圧PO21(Pa)、PO22(Pa)、PO23(Pa)、PO24(Pa)をそれぞれ調整しておけばよい。例えば、図5に示すように、成膜領域A2中の酸素分圧をPO25(Pa)とすると、PO25(Pa)≧PO21(Pa)>PO22(Pa)>PO23(Pa)>PO24(Pa)とする。
そして、上記のような酸素分圧下で超電導層構成層を成膜した後、特許文献1のように急に酸素分圧が極端に低い不活性ガス(約10−4Torr=1.3×10−2Pa)が流された基材導出入領域A1又はA3中で基材11の温度を降温すると、超電導層構成層中に存在する異相CuOの成分状態が変化し得る。すなわち、図6に示す相図(出典:O. Bottger, Ann. Physik 10, 232 (1952))の境界線(1)を越えて、CuOがCu2Oに変化する還元反応が起こり、また、この超電導層構成層の成膜をした後に、続いて超電導層構成層を成膜する場合、昇温工程でも既に成膜した超電導層構成層中の還元反応したCu2Oが境界線(1)を越えてCuOに変化する酸化反応が起こり得る。そして、超電導層構成層の成膜を繰り返し行うと、既に成膜されている超電導層構成層の異相CuOの還元反応・酸化反応が繰り返し発生して、マイクロクラックや格子伸縮が頻繁に生じてしまい、この結果、超電導層構成層の構造が潰され、Ic特性に悪影響を及ぼすことを見出した。
なお、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかであり、例えば上述の複数の実施形態は、適宜、組み合わされて実施可能である。また、以下の変形例を、適宜、組み合わせてもよい。
以下に、本発明に係る超電導線の製造方法について、実験例により説明するが、本発明はこれら実験例により何ら限定されるものではない。
実験例1では、長尺の基材11をMOCVD装置20の一方の基材導出入領域A1、成膜領域A2、他方の基材導出入領域A3を往復移動させながら、前記基材11の主面にRE系超電導体を主体とする多層構造(11層)の超電導層13を成膜する超電導線1の製造方法であって、以下の工程を順に繰り返し行った。すなわち、前記一方の基材導出入領域A1及び前記他方の基材導出入領域A3のいずれかの基材導出入領域において、前記基材11を移動させながら昇温しつつ、昇温中の前記基材11の温度に応じて既に成膜している超電導層構成層の成分状態を維持するように酸素分圧を調整したガスを領域中に流す昇温工程と、前記成膜領域A2において、前記基材11を移動させながら前記昇温工程で昇温した前記基材11の温度を維持するとともに、酸素含有雰囲気中で前記超電導層の超電導層構成層を一層成膜する成膜工程と、前記昇温工程の基材導出入領域とは異なる前記一方の基材導出入領域A1又は前記他方の基材導出入領域A3において、前記基材11の温度を降温しつつ、降温中の前記基材11の温度に応じて前記超電導層構成層の成分状態を維持するように酸素分圧を調整したガスを領域中に流す降温工程と、を順に複数回繰り返し行った。
より具体的に、成膜工程では、成膜温度を770℃(1043K)とし、成膜領域(酸素含有雰囲気)中の酸素分圧PO25を133Paとした。
また、昇温工程及び降温工程では、基材11の温度Tに応じて−13x+14≦y≦−10x+12の条件(ただし、0.9≦x、−2≦y<2.8)を満たすように酸素分圧PO2を調整したガスを基材導出入領域A1及びA3(各領域B1、B2、B3、B4)中に流した。このとき、各領域B1、B2、B3、B4に流すガスの酸素分圧はPO21(Pa)=110(温度=1043K時)、PO22(Pa)=17(温度=973K時)、PO23(Pa)=1(温度=873K時)、PO24(Pa)=0.0133(温度=773K時)とした。なお、上記昇温工程及び降温工程の条件は、図7に示す領域Q内の条件を満たすものである。
実験例2では、実験例1と同様の製造方法を行った。ただし、昇温工程及び降温工程では、基材11の温度Tに応じて−10x+12<y<−12x+15の条件(ただし、0.9≦x、−2≦y<2.8)を満たすように酸素分圧PO2を調整したガスを基材導出入領域A1及びA3(各領域B1、B2、B3、B4)中に流した。このとき、各領域B1、B2、B3、B4に流すガスの酸素分圧はPO21(Pa)=133(温度=1043K時)、PO22(Pa)=110(温度=973K時)、PO23(Pa)=6(温度=873K時)、PO24(Pa)=0.17(温度=773K時)とした。なお、上記昇温工程及び降温工程の条件は、図7に示す領域R内の条件を満たすものである。
実験例3では、実験例1と同様の製造方法を行った。ただし、昇温工程及び降温工程では、Arガスを基材導出入領域A1及びA3(各領域B1、B2、B3、B4)中に流した。なお、上記昇温工程及び降温工程の条件は、図7に示す領域O内の条件を満たすものである。
実験例4では、実験例1と同様の製造方法を行った。ただし、昇温工程及び降温工程では、成膜工程時に流すガスと同一のガス(酸素分圧133Pa)を基材導出入領域A1及びA3(各領域B1、B2、B3、B4)中に流した。なお、上記昇温工程及び降温工程の条件は、図7に示す領域P内の条件を満たすものである。
以上のように作製した各実験例の超電導線に対して、臨界電流Icをそれぞれ評価した。Icの評価は、得られた超電導線(線幅10mm)を液体窒素に浸漬した状態で四端子法を用いて測定することにより行った。電圧端子は1cm、電界基準は1μV/cmとした。
以下、表1に各実験例の超電導線のIc特性の測定結果を示す。なお、各実験例2〜4のIc特性は、実験例1のIc特性を基準(100%)として値を算出した。
11 基材
13 超電導層
Claims (4)
- 長尺の基材を化学気相蒸着装置の一方の基材導出入領域、成膜領域、他方の基材導出入領域を移動させながら、前記基材の主面にRE系超電導体を主体とする多層構造の超電導層を成膜する超電導線の製造方法であって、
前記一方の基材導出入領域及び前記他方の基材導出入領域のいずれかの基材導出入領域において、前記基材を移動させながら昇温する昇温工程と、
前記成膜領域において、前記基材を移動させながら前記昇温工程で昇温した前記基材の温度を維持するとともに、酸素含有雰囲気中で前記超電導層の超電導層構成層を一層成膜する成膜工程と、
前記昇温工程の基材導出入領域とは異なる前記一方の基材導出入領域又は前記他方の基材導出入領域において、前記基材の温度を降温しつつ、降温中の前記基材の温度に応じて前記超電導層構成層の成分状態を維持するように酸素分圧を調整したガスを領域中に流す降温工程と、
を順に複数回繰り返し行う超電導線の製造方法。 - 前記複数回のうち少なくとも2回目以降の前記昇温工程では、前記基材の温度を昇温しつつ、昇温中の前記基材の温度に応じて既に成膜されている前記超電導層構成層の成分状態を維持するように酸素分圧を調整したガスを流す、
請求項1に記載の超電導線の製造方法。 - 前記昇温工程では、前記基材の温度を1003K以上1103K以下まで昇温し、
前記昇温工程及び前記降温工程では、調整する前記酸素分圧をPO2(Pa)とし、前記基材の温度をT(K)とし、y=logPO2、x=1000/T(K)とすると、前記基材の温度Tに応じて−13x+14≦y≦−12x+15の条件(ただし、0.9≦x、−2≦y<2.8)を満たすように酸素分圧PO2を調整したガスを領域中に流す、
請求項2に記載の超電導線の製造方法。 - 前記昇温工程及び前記降温工程では、降温中の前記基材の温度Tに応じて−13x+14≦y≦−10x+12の条件を満たすように領域中の酸素分圧PO2を調整したガスを領域中に流す、
請求項3に記載の超電導線の製造方法。
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