JP5803150B2 - ピロロキノリンキノンーシクロデキストリン包接体 - Google Patents

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Description

本発明はピロロキノリンキノンを含むシクロデキストリンの技術に関する。
本発明で取り扱うピロロキノリンキノン(以下、PQQと記す)は一般式(1)で表される構造の物質で、このフリー体又は塩を取り扱う。
PQQは新しいビタミンの可能性があることが提案されて(例えば、非特許文献1参照)、健康補助食品、化粧品などに有用な物質として注目を集めている。さらには細菌に限らず、真核生物のカビ、酵母に存在し、補酵素として重要な働きを行っている。また、PQQについて近年までに細胞の増殖促進作用、抗白内障作用、肝臓疾患予防治療作用、創傷治癒作用、抗アレルギ−作用、逆転写酵素阻害作用およびグリオキサラーゼI阻害作用−制癌作用など多くの生理活性が明らかにされている。
一方、シクロデキストリン(以下、CDと略す場合がある)とはデンプンに酵素を作用させて得られる天然環状分子であり、例えばグルコースが6個繋がったαーシクロデキストリン、グルコースが7個繋がったβーシクロデキストリン、及びグルコースが8個繋がったγーシクロデキストリン等が知られている。
シクロデキストリンは、分子内に他の機能性成分を取り込み、包接体と呼ばれる複合体を形成する。シクロデキストリンの分子内は疎水性であり、一般的に疎水性物質を包接し、包接体として親水性が向上し、疎水性物質の吸収性が向上することが考えられている。
更に、熱や紫外線等の外部環境に対して不安定な機能性成分であっても、シクロデキストリン包接体を構成することにより、化学的に安定性が向上することが一般的に知られ、経口、皮膚に塗布する用途で広く使用されている。
PQQはカルボニル化合物やアミノ基を有する化合物と反応しやすく、食品や薬のような多成分を混合した際の安定性の確保に懸念があるとされている。食品には糖やアミノ酸が含まれることが多く、PQQとの反応が心配される。また、PQQは濃い赤色をしており、嗜好性の高い食品分野ではそれを弱める必要がある。しかし、PQQは親水性の化合物であるため、包接は困難であると考えられてきた。
これまでにシクロデキストリンとPQQを同時に使用することによりPQQを要求する酵素が安定化されるとして多くの報告がある(例えば特許文献4)。しかし、これは酵素の安定化を目的とするものであって、PQQのシクロデキストリン包接体ではなく、その具体的な構造や製法については知られていない。特許文献5にPQQを含む食品にシクロデキストリンを添加することが記載されているが、包接体ではない。このように、PQQを包接するシクロデキストリンの提供とそれにより機能性が向上した組成物、その製造方法が求められている。
特開平1−218597号公報 特許第2072284号公報 特表2006−508519号公報 特開2006−149378号公報 特開2005−080502号公報
nature,vol422, 24April,2003, p832 JACS、第103巻、第5599〜5600頁(1981)
安定性の向上したピロロキノリンキノンの提供とその効率的な製造方法を提供することにある。
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、以下に示す項目によって解決できることを見出した。
〔1〕下記式(1);
で表されるピロロキノリンキノンフリー体をシクロデキストリンが包接している包接体。
〔2〕ピロロキノリンキノンとシクロデキストリンの比が1:1から1:5である〔1〕の包接体。
〔3〕シクロデキストリンがγーシクロデキストリンであることを特徴とする〔1〕または〔2〕いずれか記載の包接体。
〔4〕ピロロキノリンキノンのフリー体を含む溶液中にシクロデキストリンを混合し、超音波処理する工程を含むピロロキノリンキノンーシクロデキストリン包接体の製造方法。
本発明により、安定性の向上及び細胞への吸収性が改善したピロロキノリンキノンーシクロデキストリン包接体とその効率的な製造方法も提供することを可能とした。また、ピロロキノリンキノンの濃い赤色を弱めることを可能とした。
ピロロキノリンキノンのNMRスペクトル ピロロキノリンキノンーシクロデキストリン包接体のNMRスペクトル シクロデキストリンのNMRスペクトル シクロデキストリンとピロロキノリンキノン混合物のNMRスペクトル ピロロキノリンキノンのDSC測定結果 ピロロキノリンキノンーシクロデキストリン包接体のDSC測定結果 細胞吸収性試験結果
本発明で用いられるPQQは下記式(1)で表される構造式のフリー体又はその塩である。
PQQの塩としては、金属塩、例えば、モノナトリウム塩、ジナトリウム塩、トリナトリウム塩、モノカリウム塩、ジカリウム塩、トリカリウム塩、モノリチウム塩、ジリチウム塩、トリリチウム塩等が挙げられる。
特に入手しやすい、フリー体、ジナトリウム体、ジカリウム体が使用しやすい。より好ましくは、製造が容易であるフリー体である。
フリー体をそのまま使用することが可能であるが、PQQ塩を使用し、溶液中で酸性にすることでフリー体を発生させて使用することも可能である。この場合、pHは混合する溶媒や塩によって変わるが、一般的な水溶液の場合、2以下にしなければならない。
使用するシクロデキストリンはα、β、γーシクロデキストリンのどれでも特に制限はない。より好ましくはγーシクロデキストリンである。
本発明のPQQーシクロデキストリン包接体は、PQQ1に対して、シクロデキストリンの比率は1から5であり、より好ましくは1:2である。γーシクロデキストリンの場合は、PQQ1に対してシクロデキストリン2の割合で包接体を形成していると考えられる。
PQQーシクロデキストリン包接体を作る際にはPQQとシクロデキストリンの混合比が1:0.5から20である混合物を使用するのが好ましい。そのため、シクロデキストリンの比率が小さすぎると包接体の形成率が小さくなる。また、大過剰のシクロデキストリンの添加は存在比率が低下して好ましくない。
PQQーシクロデキストリン包接体の製造には、飽和水溶液法、混錬法、混合粉砕法等の一般的な包接体の製造方法を用いることができる。
飽和水溶液法とは、シクロデキストリンの飽和水溶液を作り、一定量のPQQを混合し、シクロデキストリンの種類やゲスト化合物の種類に応じ30分〜数時間攪拌混合することで、包接物が沈殿を得て、続いて、水を蒸発させるか、温度を下げて沈殿物を取り出した後、乾燥することで、包接体を単離する方法である。
混練法とは、シクロデキストリンに水を少量加えてペースト状にして、一定量のゲスト化合物を添加してミキサー等でよく攪拌し、続いて水を蒸発させることで包接体を単離する方法であり、混合時間は飽和水溶液法より長めとなる。
混合粉砕法とは、シクロデキストリンとゲスト化合物をミルにより粉砕して得る方法である。
PQQーシクロデキストリンの乾燥には、噴霧乾燥、凍結乾燥法等の一般的な乾燥方法を用いることができる。
PQQーシクロデキストリン包接体を製造する方法について具体的に説明する。
PQQのフリー体をそのまま用いてもよいし、PQQの塩を酸性条件下にすることでPQQのフリー体を形成して用いても良い。
PQQフリー体をPQQの金属塩、例えばPQQアルカリ金属塩から製造する場合は、水溶液中で無機酸、若しくは有機酸を使用してpHを2以下にすると析出し、濾過や遠心分離等で単離することができる。単離せず、酸性状態の溶液として取り扱うことも可能である。こうして得られるPQQのフリー体とγーシクロデキストリンを溶解させた溶液とを混合させ、超音波処理等による撹拌をすることで包接体を形成することが可能である。さらに該包接体を凍結乾燥することで包接体粉末を得ることができる。
PQQの金属塩とγーシクロデキストリンを水溶液に共存させ、無機酸、若しくは有機酸を使用してpHを2以下にして、混合撹拌しても包接体が形成される。
このようにして調製される包接体は、薬剤学的に許容されている他の製剤素材を常法により適宜添加混合してもよい。添加しうる製剤素材としては特に限定されず、例えば、乳化剤、緊張化剤、緩衝剤、溶解補助剤、矯臭剤、防腐剤、安定化剤、抗酸化剤などが挙げられる。
本発明による溶液組成物の保存方法としては、特に限定されず、低温保存、密閉容器による嫌気的保存、遮光保存などを用いることができる。
上記のようにして調製される本発明の溶液は、冷蔵あるいは室温で保存した際に、析出物なく安定に保存できる。本発明の溶液は、医療用、化粧用、食品用、園芸用、酪農用など広い範囲で使用できる。具体的な形態としては注射剤、輸液、液剤、点眼剤、内服用液剤、ローション剤、ヘヤートニック、化粧用乳液、スプレー液、エアロゾル、ドリンク液、液体肥料、保存用溶液などが挙げられる。
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例及び比較例のみに限定されるものではない。
PQQジナトリウムは三菱ガス化学製を使用した。
実施例1
3g/LのPQQジナトリウム水溶液に37重量%の濃塩酸を加えpHを2以下にすると赤色のPQQフリー体が析出してくる。これをろ過し、減圧乾燥することでPQQフリー体粉末を得ることができる。
PQQフリー体 3.0gとγーシクロデキストリン 23.6gを水 1500gに加え、室温・遮光下で超音波処理を60分行った。これを24時間室温・遮光下で置いたあと、凍結乾燥して橙色のPQQーγシクロデキストリン包接体粉末を24g得た。
包接前のPQQフリー体は濃い赤色であったが、シクロデキストリン包接体とすることにより、色は淡くなり、橙色のPQQーγシクロデキストリン包接体になっていた。
該粉末内のPQQ含有量を高速液体クロマトグラフィーで分析した結果、超音波処理による損失は見られず、PQQの分解は起こっていなかった。
実施例2、比較例1−3
PQQーシクロデキストリン包接体の核磁気共鳴(NMR)分析
固体NMRにより、包接状態の解析を行なった。
分析は固体NMR:日本電子ECAー500で行った。分析条件は以下のとおりである。
固体NMR分析条件、プローブ:NMーSH50T6/HS、
観測核:13C、
回転速度:9.0kHz、
試料管:6mmφ(材質 酸化ジルコニア及び窒化珪素)、
試料量:約130mg、
測定モード:1H→13C CP/MAS法(Cross Polarization Magic Angle Spinning)
CP/MAS測定設定値、コンタクト時間:3ms
各試料は以下の通りである。
〔実施例2〕PQQーシクロデキストリン包接体(実施例1で調製したものを使用した(モル比 PQQフリー体:γーシクロデキストリン=1:2))
〔比較例1〕PQQフリー体
〔比較例2〕γーシクロデキストリン
〔比較例3〕PQQフリー体とγーシクロデキストリンの混合試料(モル比がPQQフリー体:γーシクロデキストリン=1:2となるようにPQQフリー体とγーシクロデキストリンを乳鉢に加え、手で均一になるまで混合し試料を調製した。)
実施例2のPQQーシクロデキストリン包接体のNMRスペクトルを図2に、比較例1のPQQフリー体の結果を図1に、比較例2のγーシクロデキストリンのNMRスペクトルを図3、比較例3のPQQフリー体とγーシクロデキストリンの混合物のNMRスペクトルを図4に示す。
γーシクロデキストリンでは103〜60ppmにピークが検出され、PQQフリー体では180〜110ppmに検出された。包接体は、単体(PQQフリー体、γーシクロデキストリン)と同じであり、変化はなかった。γーシクロデキストリンのピーク形状について比較すると、γーシクロデキストリン単体では細かい分裂があるのに対し、γーシクロデキストリン包接体ではブロードになっていた。
緩和時間T1測定をおこなった。
実施例2のPQQーシクロデキストリン包接体、比較例1のPQQフリー体、比較例2のγーシクロデキストリン、比較例3のPQQフリー体とγーシクロデキストリン混合試料(モル比1:2)について、緩和時間T1測定を行った。測定はCP/MAS法で行った。なお、交差分極(CP)により1Hの磁化を13Cに移しているため、1HのT1を測定している。結果を表1に示す。
PQQーシクロデキストリン包接体と単体(γーシクロデキストリン、PQQ)のT1回復曲線を比較し、包接体の方が磁化の回復が遅くなっていることを確認した。
緩和時間(1H T1)については、γーシクロデキストリン単体は1.6〜2.0s、PQQフリー体単体は3.6〜4.2sであった。これに対し、包接体のγーシクロデキストリンは2.0〜2.8s、包接体のPQQは7.6〜12.6sであり、包接体は単体よりも緩和時間が長くなっていた(γーシクロデキストリン 1.3倍、PQQ2〜3倍)。包接体では緩和時間T1が長くなっていることを確認した。
また、PQQフリー体とγーシクロデキストリン混合試料の緩和時間(1H T1)は、γーシクロデキストリンで1.3〜2.6s、PQQで2.4〜3.5sであり、単体の緩和時間と同程度であった。混合しただけでは緩和時間は長くならないことを確認した。
高分子ーシクロデキストリン包接体の13C CP/MASスペクトル例(Lu.J Shin ID,NojimaS Tonelli AE(2000)、Polymer 41:5871)ではシクロデキストリン単体では細かい分裂を示し、包接体ではブロードになっている。PQQーシクロデキストリン包接体のCP/MASスペクトルにおいても、ブロードになっており、同じ傾向であった。
緩和時間(T1)が長くなったことは、分子構造の変化を表していると考えられた。固体分子の緩和時間(T1)は分子運動が速いほど短くなり、一方、液体分子の緩和時間(T1)は分子運動が速いほど長くなる傾向がある。γーシクロデキストリン包接体の緩和時間(T1)が長くなった要因は、PQQが包接されることにより固体分子運動が低下したためと考えられた。これに対し、包接体のゲスト分子は、あたかも溶液のように全体的な運動が可能なことが多くある。包接体におけるPQQの緩和時間(T1)が長くなった要因は、分子運動が比較的自由になり、溶液分子の様に運動が活発になったと考えられた。
このように本発明で作製した包接体は予想通り、シクロデキストリンにPQQが入った構造であると考えられた。PQQは親水性にも関わらず、シクロデキストリンによる包接が可能であることが示された。
実施例3 DSC測定
実施例1で得られた粉末のDSC測定を、島津製作所DSCー60を用いて空気雰囲気下アルミニウムセルで昇温速度10℃/minで30から250℃測定を行った。サンプルの使用量はPQQフリー体 9.9mg, PQQーγーシクロデキストリン包接体 9.1mgで行った。結果を図5と図6に示す。PQQフリー体の融点である180℃付近のピークが大幅に低減しており、PQQーシクロデキストリン包接体の形成が確認された。PQQーシクロデキストリン包接体の包接率は、得られたピーク面積の消失率から計算して94%となった。
実施例4、比較例4 細胞吸収性試験
PQQは培養動物細胞に対して高濃度にすると細胞の増殖を抑える。動物細胞を使用して細胞吸収がどのように変化するかを試験した。
チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHOーDHFR)をαーMEM+10%牛胎児血清の培地で5%CO,37℃で培養してした。ポリスチレン製96穴プレート使用し、1個の穴に2400個の細胞になるように100μlの培地とともに加え、一晩培養した。培養液を抜き、所定の試験濃度の培地を加えた。PQQ単体については0から3360μM、PQQーシクロデキストリン包接体については0から1680μMまで試験した。同一条件で3回行い再現性も確認した。1日培養後、培地を入れ替え同仁化学 WSTアッセイキットを使用して1時間反応させ、450nmの吸光度を測定した。同一条件で3つ行った。この時の吸光度は細胞数に比例する。結果を図7に示す。これよりPQQーシクロデキストリン包接体の方がPQQ単体よりも低い濃度で細胞増殖を阻害しており、吸収性が向上していることが分かる。
特に細胞の増殖が停止する濃度を測定したところ表2の結果が得られた。
上記のようにPQQーシクロデキストリン包接体は細胞へ低濃度で作用することができ、吸収性が向上していると考えられる。
尚、シクロデキストリン単体で添加したところ、細胞増殖の阻害は見られなかった。
実施例5 安定性試験
PQQはアスコルビン酸と反応すると黒色に変色する。アスコルビン酸は食品用途に使用されることからPQQと混合される機会が多い。
L−アスコルビン酸(和光純薬製)を水にとかし、20重量%の水溶液を作製した。
実施例5 PQQーシクロデキストリン包接体 10mgと20重量%アスコルビン酸100μLを混合した。30分後、色に変化はなかった。1時間後においても変化はなかった。
比較例5
PQQ10mgと20重量%アスコルビン酸100μLを混合した。3分後、茶色に変色した。5分後には黒色の懸濁液になった。
シクロデキストリンによって包接した場合、変色のスピードは包接しない場合に比べて、10倍以上遅くなっていた。シクロデキストリンによってPQQを包接することで、安定性が向上し、変色が抑えられたことが分かる。
比較例6 PQQジナトリウムとγーシクロデキストリン
PQQジナトリウム1g/Lの溶液にγーシクロデキストリンを5倍モルになるように加えた。溶液からの析出物はなく、包接による分子量の増大が生じている様子はなかった。
NMR分析を使用して重水中でPQQジナトリウムとγーシクロデキストリンを2倍モル混合した。PQQ単体での1HーNMRと化学シフトに変化がなかった。
混合物の核オーバーハウザー効果(NOE)測定を行った。PQQジナトリウムとγーシクロデキストリン間では相関は見られなかった。核オーバーハウザー効果は空間的に近い位置にあれば相関が見られる。このことから、PQQジナトリウムはγーシクロデキストリンに包接していないと判断した。
本発明は、ヒト用または動物用として、医薬品または医薬部外品、食品、機能性食品、飼料として幅広く利用することができる。

Claims (4)

  1. 下記式(1);
    で表されるピロロキノリンキノンフリー体をシクロデキストリンが包接している包接体。
  2. ピロロキノリンキノンとシクロデキストリンの比が1:1から1:5である請求項1の包接体。
  3. シクロデキストリンがγーシクロデキストリンであることを特徴とする請求項1または2いずれか記載の包接体。
  4. ピロロキノリンキノンのフリー体を含む溶液中にシクロデキストリンを混合し、超音波処理する工程を含むピロロキノリンキノンーシクロデキストリン包接体の製造方法。
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