JP5800735B2 - 耐酸露点腐食鋼および排ガス流路構成部材 - Google Patents

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硫黄酸化物や塩化水素を含むガスと接触する部材の表面では、ガスの露点より低温状態においていわゆる「硫酸凝結」が生じる。その部材が金属である場合には硫酸を含む凝結水によって腐食が進行し問題となることがある。このような凝結水中の酸による腐食を本明細書では「硫酸露点腐食」と呼んでいる。本発明は硫酸露点腐食に対する抵抗力を付与した鋼、およびそれを用いた排ガス流路構成部材に関する。
火力発電所の燃焼排ガスは主に、水分、硫黄酸化物(二酸化硫黄、三酸化硫黄)、塩化水素、窒素酸化物、二酸化炭素、窒素、酸素などで構成されている。特に排ガス中に三酸化硫黄が1ppmでも含まれていると排ガスの露点は100℃以上に達することが多く、硫酸凝結が生じやすい。このような排ガスの流路を構成する金属部材(例えば煙道のダクト壁や煙突を構成する部材、集塵器部材、排ガスの熱を利用するための熱交換部材など)には、耐硫酸露点腐食性に優れた材料を適用する必要がある。
特公昭43−14585号公報 特開2003−213367号公報
耐硫酸露点腐食性を改善した鋼としてSb添加鋼が知られている(特許文献1、2)。しかしながら、Sbは高価な元素であり鋼材のコスト増を招く要因となるとともに、鋼材原料としてSbを多量に消費する場合には原料調達面において不安がある。また、Sb添加により鋼の熱間加工性が低下する。さらに、人体に対するSbの毒性レベルについては必ずしも明確にはされておらず、腐食による金属元素の溶出を考慮するとSbの使用はできるだけ避けることが安全上望ましい。
一方、ステンレス鋼は一般に耐酸性も良好であるが、酸の濃度や温度によってはSb添加鋼よりも腐食が進行しやすい場合もある。すなわち、ステンレス鋼は高価であるとともに硫酸露点腐食に対して万全な材料であるとは言えない。
本発明はこのような現状に鑑み、普通鋼をベースとした鋼において、Sb添加に頼ることなく耐硫酸露点腐食性を改善すること、望ましくはさらに凝結水中に含まれる塩酸に対する耐食性(耐塩酸露点腐食性)をも改善することを目的とする。
発明者らは詳細な研究の結果、Cuを添加した鋼において、不純物元素のPとSの含有量を特定の狭い範囲に厳密にコントロールしたとき耐硫酸露点腐食性が改善できることを見出した。また、微量のMoを含有させた場合に耐硫酸露点腐食性を損なうことなく凝結水中に含まれる塩酸に対する耐食性(耐塩酸露点腐食性)をも改善できることがわかった。すなわち、Sbのような特殊元素を含有しない、一般的な鋼成分元素からなる鋼において、上記目的を達成しうる成分組成範囲の「解」が存在することが明らかとなった。本発明はこのような新規な知見に基づいて完成したものである。
上記目的を達成するために本発明では、質量%で、C:0.005〜0.200%、Si:0.20〜0.80%、Mn:0.05〜1.50%、P:0.002〜0.020%、S:0.005〜0.015%、Cu:0.10〜0.50%、Ni:0.05〜0.30%、Al:0.005〜0.100%、Mo:0.005%以上0.010%未満、残部Feおよび不純物からなる耐酸露点腐食鋼を提供する
また本発明では、上記の鋼からなる鋼板を用いた部材であって、石炭焚火力発電所の燃焼排ガスの流路において、前記排ガスに曝されて表面に凝結が生じる部位を構成する排ガス流路構成部材を提供する。
ここで、排ガス流路構成部材とは、排ガス流路の構造物(例えばダクトや煙突等)を構成する部材、および排ガス流路内に配置される部材(例えば集塵器や熱交換器の部材)をいう。熱交換器の部材としては例えば熱を受け取る流体が流れる管に取り付けられた「冷却フィン」が挙げられる。
本発明によれば、Sbを添加することなく耐硫酸露点腐食性あるいはさらに耐塩酸露点腐食性を改善した鋼が提供可能となった。この鋼は一般的に使用されている鋼成分元素のみからなり特殊元素を含まないので原料コストが安い。また、特殊元素添加による熱間加工性低下も回避される。さらに、人体に対する毒性が懸念されるSbを使用しないので安全面においても有利である。したがって本発明は、特に石炭焚火力発電所における燃焼排ガス流路の構築に有用である。
硫酸水溶液中での腐食速度に及ぼすP含有量の影響を例示したグラフ。 硫酸水溶液中での腐食速度に及ぼすS含有量の影響を例示したグラフ。 硫酸水溶液中での腐食速度に及ぼすMo含有量の影響を例示したグラフ。 塩酸水溶液中での腐食速度に及ぼすMo含有量の影響を例示したグラフ。
発明者らの詳細な検討によれば、Cu添加鋼において不純物元素であるPとSの含有量を厳密に調整することによって耐硫酸露点腐食性を向上させることができる。また微量のMoを含有させるとさらに耐塩酸露点腐食性をも向上させることができる。このような耐硫酸露点腐食性や耐塩酸露点腐食性の向上メカニズムについては必ずしも十分に解明されていないが、現時点において以下のような知見が得られている。
(1)Cuは難溶性のCuS皮膜の形成に有効であり、この皮膜が特に硫酸に対する抵抗力を高める。
(2)Pの低減はフェライトおよび旧オーステナイト結晶粒界を清浄化するため、結晶粒界の腐食を抑制する。
(3)Sの低減により鋼中の硫化物系介在物量が低減するため、腐食されやすい介在物と地鉄との境界面が減少し腐食速度が低減する。ただし、S含有量が過小であるとCuS皮膜が形成されにくくなり腐食減量は逆に増大する。
(4)Moの含有量が増大すると耐硫酸性が低下する。ただし、微量のMoを添加した領域において耐硫酸露点腐食性が最も改善される。
(5)一方、Moの含有により腐食電位が貴に移行して耐塩酸性が向上する。耐硫酸性に加えて耐塩酸性をも改善可能なMoの含有量範囲が存在する。
〔耐硫酸露点腐食性〕
図1、図2、図3に、それぞれ硫酸水溶液中での腐食速度に及ぼすP含有量、S含有量およびMo含有量の影響を例示する。この浸漬試験は重油(石炭)の燃焼ガスを想定した非常に厳しい条件として、硫酸濃度40質量%、温度60℃、浸漬時間6hの条件を採用したものである。使用した鋼は、図1のものはS:0.008〜0.010質量%、図2のものはP:0.010〜0.012質量%、図3のものはP:0.010〜0.012質量%、S:0.008〜0.010質量%であり、いずれもP、S、Mo以外の残部元素の含有量は全て本発明規定範囲内にある。
上記の硫酸浸漬試験条件において、Sb、Cu、Moを含有する従来の耐酸露点腐食鋼の腐食速度は概ね10〜20mg/cm2/hの範囲にある。図1、図2、図3からわかるように、P含有量が0.020質量%以下、S含有量が0.005〜0.015質量%、Mo含有量が0〜0.030質量%の組成範囲において、従来のSb添加鋼並みの優れた耐硫酸露点腐食性が得られる。
〔耐塩酸露点腐食性〕
図4に塩酸水溶液中での腐食速度に及ぼすMo含有量の影響を例示する。試験条件は、塩酸濃度1質量%、温度80℃とし、浸漬時間は6hである。図4からわかるように、Moの微量添加により耐塩酸性が急激に改善される。耐硫酸露点腐食性と耐塩酸露点腐食性の同時改善を重視する用途では図3の結果と併せてMo含有量を0.005〜0.030の範囲とすればよい。
〔成分元素〕
本発明鋼の成分元素について説明する。成分元素に関する「%」は質量%を意味する。
Cは、耐硫酸露点腐食性への影響が小さく、一般の構造用材料としての強度を確保するために0.005〜0.200%とする。
Siは、耐硫酸腐食性を向上させる作用を有するので0.20%以上の含有量を確保する。ただし、過度のSi添加は熱延時のデスケール性を低下させ、スケール疵の増大を招く。さらに溶接性を低下させる要因ともなる。種々検討の結果、Si含有量は0.80%以下に制限される。
Mnは、鋼の強度調整に有効であり、またSによる熱間脆性を防止する作用を有するので0.05%以上の含有量を確保する。0.30%以上とすることがより効果的であり、0.50%以上に管理してもよい。ただし多量のMn含有は耐食性低下の要因となることがある。Mn含有量は1.50%まで許容され、1.20%以下、あるいは1.00%以下の範囲に管理してもよい。
Pは、耐食性や熱間加工性、溶接性を劣化させるので0.020%以下に制限され、0.018%以下とすることがより好ましい。耐硫酸腐食性をより一層向上させるためにはP含有量の低減が有効となるが、過度の低減は製鋼負荷を増大させコストを押し上げる要因となるので、0.002%以上の含有量とすればよい。
Sは、耐食性や熱間加工性を劣化させるので0.015%以下に制限される。ただし、耐硫酸露点腐食性に関しては、S含有量を低減していくと腐食速度が逆に増大に転じるようになることがわかった(図2)。これは、Crを含有しない本発明対象鋼の場合、耐硫酸性向上に対するCuS皮膜の寄与が大きいものと考えられ、S含有量が少なくなると、このCuS皮膜の形成が不十分になるためではないかと推察される。種々検討の結果、S含有量は0.005%以上とすることが極めて効果的である。
Cuは、耐硫酸腐食性を向上させるために有効であり、0.10%以上の含有量を確保する必要がある。しかし、過度のCu含有は熱間加工性を低下させる要因となるので、0.50%以下に制限される。
Niは、Cu添加による熱間加工性の低下を抑制する作用があるので、0.05%以上の含有量を確保する。0.10%以上とすることがより効果的である。ただし、Niは耐硫酸腐食性を劣化させる要因となるので0.30%以下に制限される。
Alは、製鋼時の脱酸のために必要な元素であり、0.005%以上の含有量とする。0.010%以上とすることがより効果的である。しかし、Alは熱間加工性を低下させる要因となるので0.100%以下に制限される。
Moは、前述のように耐塩酸性を向上させるために極めて有効な元素であるため、必要に応じて耐塩酸露点腐食性を重視する場合に添加すればよい。耐塩酸性向上作用を十分に発揮させるためには0.005%以上のMo含有を確保することが効果的である(図4)。ただし、Mo含有量が増加すると耐硫酸露点腐食性の低下を招くので、Moを添加する場合は0.030%以下の範囲で行う。一方、特に優れた耐硫酸露点腐食性を安定して実現するためにはMo含有量を0〜0.010質量%未満の範囲にコントロールすることが好ましい。
表1に示す鋼を溶製し、常法により板厚2.0mmの熱間圧延鋼板(供試材)を作製した。各供試材から切り出した試験片を用いて、図1、図2、図3、図4のプロットを得た場合と同様の条件(前述)での硫酸浸漬試験および塩酸浸漬試験を行った。耐硫酸露点腐食性評価は、硫酸浸漬試験での腐食速度が20mg/cm2/h以下のものを○(良好)、それ以外のものを×(不良)と判定した。また、耐塩酸露点腐食性評価は、塩酸浸漬試験での腐食速度が4mg/cm2/h以下のものを◎(優秀)、4超え〜20mg/cm2/hのものを○(良好)、それ以外のものを×(不良)と判定した。
また、表1に示した各鋼の鋳造スラブからJIS13B号試験片を作製し、JIS G0567に従い850℃、900℃、950℃の3水準の温度で高温引張試験を行った。試験は、赤外線加熱炉を用い、大気中で試験片の平行部全体を加熱し、所定温度に達して10分間保持したあと、引張速度5mm/minとなるように引張荷重を付与して試験片を破断させた。試験片の温度は、平行部ほぼ中央に接続した熱電対により測定し、所定温度±10℃の範囲に制御した。
上記3水準すべての温度において破断面が延性であったものを○(熱間加工性;良好)、いずれかの温度で脆性破面が認められたものを△(熱間加工性;やや不良)と判定した。
これらの結果を表2に示す。
Figure 0005800735
Figure 0005800735
一方、Sb、Cu、Moを含有するNo.29(従来の耐酸露点腐食鋼に相当するもの)は、耐硫酸露点腐食性は良好であるが熱間加工性に劣った。なお、No.27はNiの添加量が少ないため熱間加工性に劣った。

Claims (2)

  1. 質量%で、C:0.005〜0.200%、Si:0.20〜0.80%、Mn:0.05〜1.50%、P:0.002〜0.020%、S:0.005〜0.015%、Cu:0.10〜0.50%、Ni:0.05〜0.30%、Al:0.005〜0.100%、Mo:0.005%以上0.010%未満、残部Feおよび不純物からなる耐酸露点腐食鋼。
  2. 請求項1に記載の鋼からなる鋼板を用いた部材であって、石炭焚火力発電所の燃焼排ガスの流路において、前記排ガスに曝されて表面に凝結が生じる部位を構成する排ガス流路構成部材。
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