JP5789355B2 - 熱交換器用アルミニウム合金 - Google Patents

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この発明は、車両等に搭載されているエアコン等の空調機に用いる熱交換器用のアルミニウム合金に関し、特に冷媒通路となるチューブ状のアルミニウム合金押出材に好適である。
熱交換器用の冷媒チューブには、軽量で耐食性に優れたアルミニウム合金が使用されており、従来は、日本工業規格JISA1050合金が用いられている。
熱交換器の冷媒としては、従来からフッ素化合物(フロン)が用いられているが、近年、地球温暖化などへの対策としてCO冷媒が注目されている。
ところが、CO冷媒はフロンの冷媒と比較して、冷媒圧力が高いので、熱交換器のチューブには高強度のアルミニウム材料が求められている。
そこで本発明者は、比較的強度の高いJISA3003合金にてチューブ材の押出成形を検討した。
その結果、熱交換器用の押出チューブ材は断面積が小さく、冷媒通路孔の通路壁となる内柱部の肉厚も薄いために、押出断面形状が確保できず、また押出速度が低下して製造が困難であった。
一方、従来の押出性の良い材料(JISA1050)で強度を確保しようとした場合、チューブの断面肉厚を厚くするしかないため、熱交換器の重量が増加する問題があった。
アルミニウム合金の押出材からなるチューブを腐食環境下で使用した場合、孔食などの局部腐食を生じることがあり、軽量化を目的に薄肉化を図った場合、早期に貫通孔が生じ、使用できなくなる恐れがあることから、チューブ表面に亜鉛(Zn)を被覆して、ろう付け時の加熱でこの亜鉛をチューブ内部に拡散させ、亜鉛の犠牲陽極効果により腐食の進行を抑える方法が用いられている。
従って、これまでの押出設備と連動した亜鉛溶射設備では、押出速度が低下すると、未溶射や亜鉛塗布量が局部的に厚くなり、ろう付け時に亜鉛が拡散しないためろう付け不良や耐食性の問題が生じることから、生産性の維持の観点から押出性が低下するのを防止する必要があるのみならず、亜鉛被覆層の均一性を確保する観点からも押出性が高く、高強度のアルミニウム合金が必要となった。
特開2007−70699号公報には、Si:0.31〜0.7質量%、Fe:0.3〜0.6質量%、Mn:0.01〜0.4質量%で残部がアルミニウムからなるアルミニウム合金を開示する。
しかし、この文献に明記してあるとおり、Mn成分は強度の向上に必要だが、0.4%を超えると押出性が低下するので、Mn成分を0.4%以下に抑えている。
従って、CO冷媒用のアルミニウム合金としては未だ強度が不十分であり、Zr、Cr等を添加したり、押出後にひずみ加工等を加え、高強度化しなければならなかった。
特開2007−70699号公報
本発明は上記背景技術に鑑みて、高強度でありながら押出性に優れた熱交換器用のアルミニウム合金の提供を目的とする。
本発明に係る熱交換器用アルミニウム合金は、内柱肉厚が0.1〜0.5mmの複数の穴数を有するチューブ材を押出成形するためのアルミニウム合金であって、Si:0.79〜1.0質量%、Mn:0.5〜1.2質量%(ただし、Mn=0.5を除く)、Cu:0.2〜0.55質量%(ただし、Cu=0.2を除く)、Fe:0.1〜0.6質量%、Ti:0.01〜0.05質量%、残部がアルミニウムと不可避的不純物からなることを特徴とする。
ここで、成分範囲を設定した理由を以下説明する。
なお、単位は全て質量%で以下単に%と称する。
<Si:0.1〜1.0%>
特許文献1にも開示するように、強度の向上にMn成分が必要であるが、Al−Mn系化合物の晶出物、析出物が形成されると押出性が著しく低下する。
本発明者は、Siを含有させると、Al−Mn−Si系化合物が形成されて、Al−Mn系化合物が形成されるのを防止し、押出性を向上させる作用があることを見い出した。
また、ろう付け後の強度を向上させる作用もある。
これらの作用を得るためには、0.1%以上の含有が必要であり、また、過剰のSi含有は、晶出物の形成により押出性の低下と合金の融点が低下し、ろう付け時に材料が溶融するので上限1.0%とした。
従って、Al−Mn−Si系化合物を形成することでAl−Mn系化合物の形成を抑えつつ、過剰のSi晶出を防止するには、Si成分は、0.5〜1.0%の範囲が好ましく、さらには、Si成分は、0.5〜0.7%の範囲が望ましい。
<Mn:0.5〜1.2%>
MnはAl−Mn系金属間化合物として合金中に晶出または析出し、ろう付け後の強度を向上させるが押出性が低下することは先にも述べた。
本発明では、Mn成分を0.5%以上添加しつつ、Al−Mn−Si系化合物を誘導し他の添加成分を調整したものである。
過剰のMn含有は、押出性を低下させるので上限1.2%とした。
より好ましい範囲としては、Mn成分0.5〜0.8%の範囲である。
<Cu:0.1〜0.55%>
Cuは合金中に固溶し、ろう付け後の強度を向上させる作用がある。
この作用を得るためには0.1%以上の含有が必要であり、過剰のCu含有は、チューブの耐食性と押出性を低下させるので上限0.55%とした。
<Fe:0.1〜0.6%>
FeはAl−Fe系金属間化合物として合金中に晶出または析出し、ろう付け後の強度を向上させる作用がある。
この作用を得るためには0.1%以上の含有が必要であり、過剰のFe含有は、チューブの耐食性と押出性を低下させるので上限0.6%とした。
<Ti:0.01〜0.05%>
Tiは結晶粒を微細化し金属間化合物を形成して強度を向上させる作用がある。
この作用を得るためには0.01%以上の含有が必要であり、過剰なTi含有は、チューブの耐食性と押出性を低下させるので上限0.05%とした。
熱交換器用アルミニウム合金は、内柱肉厚が0.1〜0.5mmの複数の穴数を有するチューブ材を押出成形するためのアルミニウム合金であって、Si:0.1〜1.0質量%、Mn:0.5〜1.2質量%、Cu:0.1〜0.55質量%、Fe:0.1〜0.6質量%、Ti:0.01〜0.05質量%、押出性の改善を目的にNi:0.05〜0.5質量%添加し、残部がアルミニウムと不可避的不純物からなるものであってもよい。
<Ni:0.01〜0.5%>
Niは結晶粒を微細化しAl−Ni系金属間化合物を形成して強度を向上させる作用があることを見い出した。
この作用を得るためには0.01%以上の含有が必要であり、Niを0.05%以上添加した合金はJISA3003合金より引張強さが高いにもかかわらず、押出性が向上することが判明した。
Niを添加することで、結晶粒の微細化が促進され強度を確保しつつ、押出性が向上したと考えられる。
過剰なNi含有は、チューブの耐食性を低下させるので上限0.5%とした。
本発明において、不可避的不純物とはアルミニウム合金の鋳造において一般的に混入してくる成分をいい、Znは0.04%以下であれば影響がなく、Mgは0.03%以下であれば影響がない。
本発明においては、Mn、Si、Fe、Cuの成分量を調整することで、特にMnを従来技術より多く添加してもSiの添加量を調整することで押出性を低下させることなく高強度化を図ることができる。
また、さらにNi成分を添加することで強度が向上した押出性に優れた熱交換器用アルミニウム合金を得ることができる。
これにより、熱交換器のチューブの薄肉化、軽量化に寄与できる。
以下、実験評価した結果に基づいて本発明を説明する。
図1の表に示す化学成分の合金を試作し、次のように試験評価した。
<押出条件>
ビレット:φ176mm
均質化処理:600℃×10時間保持
ビレット加熱温度:500℃
<断面形状>
試験評価に用いた押出チューブ材1の断面例を図2に示す。
図2は拡大した断面図で、図2において左右の幅18mm,上下の厚み1.8mm,内柱肉厚0.3mm,穴数は6つである。
なお、本発明にて好ましい寸法は左右の幅10〜30mm,上下の厚み1.0〜3.0mm,内柱肉厚0.1〜0.5mm,穴数は5〜25位である。
<亜鉛溶射条件>
押出後、冷却前にZnを連続溶射した。
Zn溶射塗布量:5〜15g/m
<評価項目>
a)引張強さ
熱交換器用の押出材からなる押出チューブ材1は、図3に示すようにチューブ1aとチューブ1bとの間にフィン2をろう付けして使用することから、次の条件にて評価した。
ろう付け処理を想定した窒素雰囲気の加熱処理600℃×3分間実施し、冷却後、引張試験を実施した。
b)押出性
押出性の評価判定は以下のようにした。
◎:押出速度60m/分以上 (非常に良好)
○:押出速度40〜60m/分(良好)
△:押出速度20〜40m/分(やや不良)
×:押出速度20m/分以下 (不良)
c)内柱部肉厚引け
内柱部肉厚引けの評価判定は図4に拡大図を示し、以下のようにした。
○:肉厚引け無し (良好)
△:肉厚引け少し有るが実用上問題ない(やや不良)
×:肉厚引け有り (不良)
d)亜鉛溶射性
亜鉛溶射性の評価判定は以下のようにした。
○:亜鉛が均一に塗布されている (良好)
△:亜鉛の塗布ばらつきが少しある(やや不良)
×:亜鉛の塗布ばらつきがある (不良)
e)静圧破壊圧力
図2に示した押出チューブ材を長さ100mmに切断し、両端をパイプ付きの治具で挟み、油圧ポンプを用いて内柱部に圧力を負荷し、破壊時の圧力を調査した。
<評価結果>
本発明において、熱交換器のチューブの薄肉化、軽量化を図るねらいから、引張強さ100MPa以上がよく、更には引張強さ120MPa以上が好ましい。
また、静圧破壊試験による静圧破壊圧力35MPa以上が好ましい。
図1の表に発明合金NO.1〜17と比較合金NO.20〜23の評価結果を示す。
発明合金NO.1,2,4は引張強さ100MPa以上あり、発明合金NO.3,5〜17は引張強さ120MPa以上あった。
これに対して比較合金NO.20は、Mnが0.12%と低いために引張強さが目標値をクリアーできなかったものと思われる。
発明合金の内、代表的なものを静圧破壊試験にかけた。
発明合金N0.7は静圧破壊圧力53MPaで目標値35MPaを満足し、引張強さ160MPa、押出性40〜60m/分と良好であった。
発明合金N0.14〜NO.17は、Si成分0.5〜0.7%、Mn成分0.5〜0.8%の範囲のものであり、静圧破壊圧力が38〜45MPaで目標値を満足し、引張強さ122MPa〜141MPa、押出性60m/分以上(非常に良好)、内柱部の肉厚引けは無し(良好)、亜鉛溶射性は良好な結果が得られた。
これに対して比較合金NO.20は静圧破壊圧力が24MPaと目標値を満足しなかった。
比較合金NO.21は静圧破壊圧力33MPaで目標値に近く、引張強さ124MPaと強度目標をクリアーするが、押出性20〜40m/分(やや不良)と押出性が低下した。
次に、他の合金を比較検討する。
発明合金NO.1〜3、NO.7〜13は押出速度40〜60m/分で押出性は良好な結果が得られた。
この発明合金NO.1〜3を比較すると引張強さにはMnの他にCu成分の影響も大きいことが分かる。
また、発明合金NO.1〜3、NO.7〜10は内柱部の肉厚引けが無く、亜鉛溶射性は亜鉛が均一に塗布されている。
なお、発明合金NO.11〜13は実用上問題がないレベルであるが内柱部にやや肉厚引けが発生した。
発明合金NO.4〜6は押出速度60m/分以上で押出性は非常に良好な結果が得られた。
また、内柱部の肉厚引けが無く、亜鉛溶射性は亜鉛が均一に塗布されている。
比較合金NO.21は、Feを0.62%添加しており、押出性が悪化した。
比較合金NO.22は、押出速度は20〜40m/分で押出性はやや不良な結果が得られた。
また、内柱部は肉厚引けが有り、亜鉛の塗布ばらつきが少し見られた。
この合金はSiを1.22%添加しており押出性が悪化したため、内柱部の肉厚引けが悪化したと考えられる。
また、押出性が悪化し押出速度が遅くなると、亜鉛溶射が不安定になり塗布ばらつきが発生すると考えられる。
比較合金NO.23は、押出速度は20m/分以下で押出性は不良な結果が得られた。
内柱部は肉厚引けが有り、亜鉛の塗布ばらつきが見られた。
この合金はMnを1.5%添加しており押出性が著しく悪化したためと考えられる。
次に、Ni添加の効果について考察した。
Ni添加した発明合金NO.7、8、9は押出速度40〜60m/分で押出性は良好な結果が得られ、内柱部は肉厚引けが無く、亜鉛が均一に塗布され良好な結果が得られる。
Ni添加しない発明合金NO.10、11、12を見ると、発明合金NO.11、12、13は押出速度40〜60m/分で押出性は良好な結果が得られるが、内柱部は肉厚引けが少し見られる。
Ni添加合金は高強度でありながら押出性が良好で、内柱部の肉厚引けが無く、亜鉛溶射性に優れた押出チューブ材を得ることが明らかになった。
本発明に係るアルミニウム合金と比較アルミニウム合金の化学成分と評価結果を示す。 評価に用いた押出チューブ材の断面形状を示す。 押出チューブとフィンをろう付けした状態を示す。 内柱部の拡大図を示す。
符号の説明
1 押出チューブ材

Claims (1)

  1. 内柱肉厚が0.1〜0.5mmの複数の穴数を有するチューブ材を押出成形するためのアルミニウム合金であって、
    Si:0.79〜1.0質量%、Mn:0.5〜1.2質量%(ただし、Mn=0.5を除く)、Cu:0.2〜0.55質量%(ただし、Cu=0.2を除く)、Fe:0.1〜0.6質量%、Ti:0.01〜0.05質量%、残部がアルミニウムと不可避的不純物からなることを特徴とする熱交換器用アルミニウム合金。
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