JP5788773B2 - 回動式パラペットおよび津波防災構造物 - Google Patents

回動式パラペットおよび津波防災構造物 Download PDF

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本発明は、防波堤や防潮堤等に設置される回動式パラペットおよびそれを備えた津波防災構造物に関する。
津波災害を軽減する海岸構造物として、防波堤、護岸、防潮堤などがあり、これらは津波防壁を構築するものである。一般的には防壁が高い程、効果を発揮するものと考えられる。津波防波堤を建設する際は、ケーソン本体工とそれを据え付ける基礎マウンドからなる混成堤が用いられることが多い。基礎マウンドは、基礎捨て石や根固め・被覆ブロック等からなる。ケーソン本体工へ上部工を設置する際、パラペットを付加する場合がある。パラペットを後退させて設置する技術については、特許文献1があげられる。また、防壁を回転させる関連技術としては特許文献2があげられる。
特開2001-207423号公報 特開2009-57799号公報
高い防壁は、作用波力も大きくなる。このため、設計を超える津波が襲来した場合、防壁が高い構造は防波堤などに滑動や転倒が発生するリスクが高くなる。逆に、混成堤において防壁が低く、津波が構造物を越流した後、陸側のマウンド基礎が洗掘されるおそれがある。マウンドが洗掘されると防波堤本体工が滑動・転倒し易くなる。
津波は一波だけでなく何波にも渡って襲来するため、第二波、第三波といった後続波によって構造物が破壊へ至ることもある。設計超過津波に対する対策工は、膨大な施工費用および施工期間を要するため現実的と言えない。また、設計を超える津波が来襲し滑動や転倒に至った防波堤は、その復旧に多くの費用と期間を要する。
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、通常は防波、防潮の機能を発揮し、想定以上の津波が来襲した場合に、津波による流体力・波力を低減可能な回動式パラペットおよびそれを備えた津波防災構造物を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本実施形態による回動式パラペットは、防波堤または防潮堤の上部工に設置されるパラペットであって、前記上部工の陸側に設けられて直立する直立壁と、前記上部工に設けられかつ前記直立壁を回動可能とするヒンジ部と、を備え、前記直立壁は、通常、前記上部工に直立し、津波による流体力・波力が作用したとき、前記ヒンジ部を支点として陸側へ回動することを特徴とする。
この回動式パラペットによれば、想定以上の津波が来襲したとき、直立壁に対しその流体力・波力が作用して、直立壁がヒンジ部を支点として陸側へ回動することで、その流体力・波力による上部工への伝達力を低減することができる。これにより、防波堤または防潮堤の破壊を未然に防止することができる。また、通常時は、直立壁が防波や防潮の機能を発揮する。
上記回動式パラペットにおいて、前記直立壁の下部で前記直立壁を支持しかつ前記上部工から陸側に突き出た支承版を備え、前記支承版は、前記ヒンジ部を支点として前記直立壁とともに回動したとき、前記上部工の陸側背面に当接することで、前記直立壁をほぼ水平に保つように構成することが好ましい。
このように回動式パラペットを構成することで、想定以上の津波により設計超過外力が作用したときのみ、パラペットの直立壁が回動し陸側へ水平に張り出すことにより、越流した津波が背後の防波堤の基礎マウンドを洗掘することを効果的に防止することができる。
また、前記直立壁はカウンターウエイト部を有し、前記カウンターウエイト部の重量を調整することで、前記直立壁の抵抗モーメントを調整することが好ましい。
上述のように、直立壁の基部等に設けたカウンターウエイト部によって抵抗モーメントを調整可能とし、設計超過外力作用時にのみ直立壁が回動する構造を実現できる。
本実施形態による津波防災構造物は、上述の回動式パラペットを防波堤または防潮堤の上部工に設置したことを特徴とする。
この津波防災構造物によれば、想定以上の津波が来襲したとき防波堤または防潮堤を海水が越流する状態下において、上部工の陸側に設置したパラペットの直立壁が回動することで、津波の流体力および後続する津波波力を低減する構造物を実現できる。
本発明によれば、通常は防波、防潮の機能を発揮し、想定以上の津波が来襲した場合に、津波による流体力・波力を低減可能な回動式パラペットおよびそれを備えた津波防災構造物を提供することができる。
本実施形態による回動式パラペットを示す斜視図(a)および正面図(b)である。 本実施形態による防波堤の構造の概略的な側断面図で、(a)は平時時、(b)は津波来襲時をそれぞれ示す。 図2と同様の側断面図で、(a)は回動式パラペットの回動前の津波波力を示し、(b)は回動式パラペットの回動後の津波波力を示す。 従来の防波堤における基礎マウンドに生じる洗掘を概略的に説明するための図である。 本実施形態の防波堤による基礎マウンドの洗掘防止を概略的に説明するための図である。 図1の回動式パラペットに作用する回転モーメント、抵抗モーメントを説明するための図である。 本計算例における設計津波(レベル1)の波圧分布例を示す図である。 本計算例における想定以上の津波(レベル2)の波圧分布例を示す図である。
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。図1は本実施形態による回動式パラペットを示す斜視図(a)および正面図(b)である。
図1(a)(b)に示すように、回動式パラペット10は、防波堤等の上部工22において陸側の端部で直立する直立壁11と、直立壁11を支持し水平方向に延びる支承版12と、上部工22の端部に設けられたヒンジ部13と、を備える。直立壁11は支承版12とともにヒンジ部13を支点として回動可能に構成されている。
直立壁11は支承版12と直立壁11の下部で接続され、支承版12は上部工22の端部から水平方向へ陸側に突き出している。直立壁11と支承版12とは、左右両端で補強リブ14a,14bにより補強され、また、側面から見ると、L字状に構成されている。
ヒンジ部13は内管13aと外管13bとの二重管構造から構成され、外管13bが上部工22の角部22bに固定され、上部工22に固定された外管13b内で内管13aが回動可能になっている。図1(b)のように、支承版12の下面にはパッド部12aが取り付けられており、パッド部12aが外管13bに形成された開口部13dを通して内管13aに固定されている。
上述のように、ヒンジ部13は上部工22と一体化するとともに、支承版12が開口部13dの周方向範囲内で内管13aとともに回動可能となっている。したがって、直立壁11もヒンジ部13の外管13bに対し回動可能である。
直立壁11は、下側の基部にカウンターウエイト部11aを有し、その重量を調整することで津波の流体力や波力に対する抵抗モーメントを調整することができる。カウンターウエイト部11aは、たとえば、鋼板の厚さを厚く調整することにより構成できる。
なお、直立壁11と支承版12は鋼板から構成でき、内管13aと外管13bは鋼管から構成できる。また、図1(b)のように上部工22のヒンジ部13を設けた部分の近傍のコンクリートには差筋SKが配置されている。
上述のように、本実施形態の回動式パラペット10は、防波堤の上部工22の上にパラペットを陸側へ後退させて設置する構造を有し、L字型の直立壁11と支承版12から構成され、直立壁11と支承版12の接続部をヒンジ構造としている。
次に、図1の回動式パラペット10を備える防波堤について図2、図3を参照して説明する。図2は本実施形態による防波堤の構造の概略的な側断面図で、(a)は平時時、(b)は津波来襲時をそれぞれ示す。図3は図2と同様の側断面図で、(a)は回動式パラペットの回動前の津波波力を示し、(b)は回動式パラペットの回動後の津波波力を示す。
図2(a)のように、防波堤20は、港湾に設置され、水底地盤Gに基礎捨石STからなる基礎マウンドMの上に構築された重力式ケーソンからなる本体工21と、本体工21の上部に設けられた上部工22と、上部工22上の港内側の後端部に設置された図1の回動式パラペット10と、から構成される。
なお、基礎マウンドM上の本体工21の周囲には、洗掘防止のために根固め工NGが配置され、また、基礎マウンドMは被覆工HFに覆われている。
図2(a)のように、平常時の常時波浪〜設計波浪までは、防波堤20の本体工21,上部工22および回動式パラペット10が一体となって港外側からの波NAの港内側への浸入を防ぐ。
一方、図3(a)のように設計を超えた想定外の津波TUが防波堤20の上部工22を乗り越え、さらにパラペット10の直立壁11に過大な津波波力あるいは流体力が作用すると、図2(b)のように直立壁11がヒンジ部13を支点として回動方向Rに回動する。このとき、支承版12は、直立壁11とともに回動し、上部工22の港内側の背面22aに当たり、その回動が止まり、直立壁11は水平方向に港内側へ突き出すようになる。
上述のように、回動後のパラペット10は、図2(b)、図3(b)のように、直立壁11が回動して上部工22よりも上の突出部が無くなり、津波波力は本体工21と上部工22にのみ作用し、パラペット10には作用しないので、津波波力による上部工22へ伝達する力が低減する。
次に、図2(b)、図3(b)のように直立壁11の回動後の効果について図4,図5を参照して説明する。図4は、従来の防波堤における基礎マウンドに生じる洗掘を概略的に説明するための図である。図5は本実施形態の防波堤による基礎マウンドの洗掘防止を概略的に説明するための図である。
図4のように、従来の防波堤に津波TUが来襲しその上部工を越流すると、その波の作用により、港内側において基礎マウンドM上の本体工の下部周囲で根固め工NGや被覆工HFや捨石STが流されて基礎マウンドMの洗掘が生じるおそれがあった。これに対し、図5のように、津波TUの来襲により回動式パラペット10が作動し、直立壁11が回動して水平方向に港内側へ張り出すことで、津波TUが上部工22を越流しても、その波の作用が本体工21の下部へと及び難くなり、根固め工NGや被覆工HFや捨石STが流されずに基礎マウンドMの洗掘が生じ難くなる。
上述のように、本実施形態による回動式パラペット10を備える防波堤20によれば、想定外の津波来襲により直立壁11が回動することで、津波による流体力・波力の上部工22への伝達力を低減するとともに、直立壁11が港内側へ水平に張り出すことにより、防波堤を越流した津波による基礎マウンドMの洗掘を防止する効果を発揮し、基礎マウンド洗掘による本体工21の滑動や転倒を未然に防止できる。
本実施形態による防波堤は、想定外の津波が来襲しても、その津波による流体力・波力の上部工22への伝達力を低減できるので、本体工21の滑動や転動が発生せず、防波堤20が破壊されないので、その最低限の機能を維持することができる。さらに、上述のような基礎マウンド洗掘防止効果により、本体工21の滑動や転動を効果的に防止でき、防波堤20の破壊を未然に防止できる。
本実施形態の防波堤構造によれば、新規建設の防波堤に対しては回動式パラペットを上部工の製作時に一体化して施工することが可能である。一方、既設の防波堤に対しては、上部工の一部を取り除いた後、回動式パラペットを施工することが可能である。
また、従来の後退パラペットは回転・回動する機能を有さず、また回動する防壁は防波堤上で用いられることはなかった。また、カウンターウエイトによって抵抗モーメントを調整する機能や設計超過外力作用時にのみ波力を低減し、かつ、基礎マウンド洗掘を防ぐ効果を併せ持つ構造はこれまで提案されていない。
なお、設計超過津波が作用した後、回動したパラペットは、クレーン船や上部工上にウィンチ等を取り付けることにより、直立壁を元の状態へ復旧することができる。
次に、本実施形態の回動式パラペット10による津波波力に対する抵抗モーメントの調整について図6を参照して説明する。図6は、図1の回動式パラペットに作用する回転モーメント、抵抗モーメントを説明するための図である。
図6に示すように、直立壁11に設けたカウンターウエイト部11aの重量およびヒンジ部13の支点からの距離であるアーム長L1,L2を調整することで、パラペットの直立壁11が回転する津波限界波力を決定できる。すなわち、津波波力Pと支承版12の重量W2等による回転モーメントM2に対し、直立壁11とカウンターウエイト部11aとの重量W1とアーム長L1との積が抵抗モーメントM1として機能する。抵抗モーメントM1および回転モーメントM2は次式により求めることができる。
M1=L1×W1 (1)
M2=L2×W2+h×P (2)
ただし、
L1:ヒンジ部13の支点から直立壁11までのアーム長さ
W1:直立壁11の重量W1(カウンターウエイト部11aを含む)
L2:ヒンジ部13の支点から支承版12の重心までのアーム長さ
W2:支承版12の重量
h:津波波力P(高さ方向に波圧分布を有する)による平均作用高さ
P:津波波力
抵抗モーメントM1が、回転モーメントM2よりも大きければ(M1>M2)、津波波力Pに対して直立壁11は回動しないが、回転モーメントM2が抵抗モーメントM1よりも大きくなる(または両者が等しくなる)と(M2≧M1)、回動を始める。したがって、津波波力P、作用高さh、支承版重量W2を一定とすると、カウンターウエイト部11aの重量およびアーム長L1,L2を調整することで、抵抗モーメントM1を調整することができ、直立壁11が回転する津波限界波力を決定できる。特に、アーム長L1,L2も一定であれば、カウンターウエイト部11aの重量によって調整する。
(計算例)
本実施形態における防波堤に関する構造設計例として、以下の諸元に対する滑動安全率および転倒安全率を算定した。設計津波(レベル1)に対して各安全率が1.2以上、想定以上の津波(レベル2)に対して各安全率が1.0以上を基準とする。設計津波(レベル1)を津波高3.0m、想定以上津波(レベル2)を津波高4.0mとする。ケーソンおよびパラペット諸元をそれぞれ表1,表2に示す。図7に本計算例における設計津波(レベル1)の波圧分布例を示す。図8に本計算例における想定以上の津波(レベル2)の波圧分布例を示す。表3に本計算例による計算結果を示す。
表3,図7に示されるように、本計算例は、設計津波(レベル1)に対しては、パラペットの抵抗モーメントが津波波力の回転モーメントに対して大きいため、パラペットは回動しない。また、滑動安全率、転倒安全率はともに1.2以上であり、防波堤は安定である。
また、表3,図8に示されるように、想定以上の津波(レベル2)に対しては、パラペットの抵抗モーメントが津波波力の回転モーメントに対して小さいため、パラペットが回動する。通常の防波堤等と同様にパラペットが回動しない場合、想定以上の津波(レベル2)に対して滑動安全率・転倒安全率がともに1.0を下回ってしまう。これに対し、パラペットが回動する例では、滑動安全率・転倒安全率がともに1.0を上回るため、防波堤は安定である。
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。例えば、本実施形態では、回動式パラペットを防波堤に設置し、津波防災構造物としたが、本発明は、これに限定されず、防潮堤や護岸に設置してもよい。
また、本実施形態では、パラペット10の直立壁11が支承版12とともに回動したとき、直立壁11が水平方向に港内側へ張り出すようにしたが、必ずしも水平方向でなくともよく、基礎マウンドの洗掘防止の効果が得られれば、上下にある程度傾斜してもよい。
また、直立壁が回動する構造を二重管式のヒンジ構造から構成したが、本発明はこれに限定されず、他の回動構造であってもよいことはもちろんである。
また、カウンターウエイト部11aの重量調整は、鋼板の厚さ調整で可能であるが、本発明はこれに限定されず、他の手段であってもよく、たとえば、カウンターウエイト部11aにおいて重量のある鋼板等(ウエイト)を着脱可能に構成するようにしてもよい。
10 回動式パラペット 11 直立壁 11a カウンターウエイト部 12 支承版 13 ヒンジ部 20 防波堤 21 本体工 22 上部工 G 水底地盤 M 基礎マウンド TU 津波

Claims (4)

  1. 防波堤または防潮堤の上部工に設置されるパラペットであって、
    前記上部工の陸側に設けられて直立する直立壁と、
    前記上部工に設けられかつ前記直立壁を回動可能とするヒンジ部と、を備え、
    前記直立壁は、通常、前記上部工に直立し、津波による流体力・波力が作用したとき、前記ヒンジ部を支点として陸側へ回動することを特徴とする回動式パラペット。
  2. 前記直立壁の下部で前記直立壁を支持しかつ前記上部工から陸側に突き出た支承版を備え、
    前記支承版は、前記ヒンジ部を支点として前記直立壁とともに回動したとき、前記上部工の陸側背面に当接することで、前記直立壁をほぼ水平に保つことを特徴とする請求項1に記載の回動式パラペット。
  3. 前記直立壁はカウンターウエイト部を有し、
    前記カウンターウエイト部の重量を調整することで、前記直立壁の抵抗モーメントを調整することを特徴とする請求項1または2に記載の回動式パラペット。
  4. 請求項1乃至3のいずれか1項に記載の回動式パラペットを防波堤または防潮堤の上部工に設置したことを特徴とする津波防災構造物。
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