以下に、添付図面を参照して、本発明にかかる石炭調湿装置および石炭調湿方法の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本実施の形態により、本発明が限定されるものではない。
(実施の形態)
まず、本発明の実施の形態にかかる石炭調湿装置の構成について説明する。図1は、本発明の実施の形態にかかる石炭調湿装置の一構成例を示す図である。図1に示すように、本実施の形態にかかる石炭調湿装置1は、石炭投入のための石炭ホッパ2および搬入コンベア3と、石炭投入量を計測する石炭流量計4と、調湿前の石炭含水率を計測する入側水分計5と、石炭の投入口6と、ドライヤ8内へ石炭を搬入する搬入部7とを備える。また、石炭調湿装置1は、石炭を加熱乾燥によって調湿するドライヤ8と、ドライヤ8を回転する回転駆動部9と、ドライヤ8に熱を伝える伝熱管10と、伝熱管10内へ蒸気元管12からの蒸気を導く蒸気管11と、蒸気圧力を調整するための圧力調整弁13とを備える。さらに、石炭調湿装置1は、ドライヤ8に対するキャリアガス流通のためのガス送風管14aおよびガス送出管14bと、ドライヤ8による調湿後の石炭を排出する排出部15と、調湿後の石炭含水率を計測する出側水分計16と、調湿後の石炭を外部へ搬送する搬出コンベア17と、伝熱管10からの水分を貯留するためのドレン管18およびタンク19とを備える。また、石炭調湿装置1は、各種情報を入力する入力部20と、各種情報を記憶する記憶部21と、石炭の調湿処理に必要な各種演算処理を行う演算処理部22と、石炭の調湿処理に必要な各種制御を行う制御部23とを備える。
石炭ホッパ2は、石炭ヤード等から搬入された調湿前の石炭を受け入れ、予め設定された石炭投入量に応じて、搬入コンベア3上に調湿前の石炭を送出する。搬入コンベア3は、石炭ホッパ2から送出された石炭25をドライヤ8側に向けて搬送し、ドライヤ8の入口に通じる投入口6内へ石炭25を投入する。このような石炭ホッパ2および搬入コンベア3は、ドライヤ8内に石炭25を投入する投入機構として機能する。
石炭流量計4は、ドライヤ8の入側における石炭投入量を計測する。具体的には、石炭流量計4は、搬入コンベア3の搬送面近傍に配置される。石炭流量計4は、搬入コンベア3によって石炭ホッパ2から投入口6へ搬送される石炭25の流量、すなわちドライヤ8に対する単位時間当たりの石炭投入量を時系列に沿って順次計測する。石炭流量計4は、このように計測した石炭投入量を順次、制御部23に送信する。
入側水分計5は、ドライヤ8の入側における石炭含水率を計測する。具体的には、入側水分計5は、搬入コンベア3の搬送面近傍、例えば石炭流量計4の後段に配置される。入側水分計5は、搬入コンベア3によって石炭ホッパ2から投入口6へ搬送される石炭25中の水分、すなわち含水率を時系列に沿って順次計測する。入側水分計5は、計測した石炭25中の含水率を、ドライヤ8内に投入前の石炭含水率(以下、入側石炭含水率という)として制御部23に順次送信する。
投入口6は、搬入コンベア3の搬出端近傍に配置され、搬入コンベア3によって搬送された石炭25を受け入れる。投入口6は、このように受け入れた石炭25をドライヤ8入側の搬入部7へ導く。搬入部7は、調湿前の石炭をドライヤ8内へ搬入するものである。具体的には、搬入部7は、石炭搬入のためのスクリューフィーダ7aと、スクリューフィーダ7aを回動する駆動部7bとによって構成される。スクリューフィーダ7aは、螺子状の構造を有し、ドライヤ8の入口に配置される。スクリューフィーダ7aは、駆動部7bの作用によって回動しつつ、投入口6からの石炭25をドライヤ8内へ順次供給する。
ドライヤ8は、調湿前の石炭を加熱乾燥によって調湿する加熱乾燥機として機能する。具体的には、ドライヤ8は、ドラム状の構造を有し、入口側に比して出口側が下方となるよう傾斜した状態に設置される。また、ドライヤ8には、配管を通じて蒸気G1を受け入れる伝熱管10が設けられる。ドライヤ8は、伝熱管10を介して伝わる蒸気G1の熱を蓄え、搬入部7によって供給された石炭25を、この蓄えた熱を用いて加熱乾燥する。これによって、ドライヤ8は、石炭25の含水率を調整(調湿)する。ドライヤ8は、その出側に形成された排出口8aから、加熱乾燥後(調湿後)の石炭25を排出する。
回転駆動部9は、ドライヤ8をその長手方向の軸周り(図1に示す矢印参照)に回転する。ドライヤ8内の石炭25は、この回転駆動部9の作用によるドライヤ8の回転とドライヤ8の傾斜とによって、入口側(搬送部7側)から出口側(排出口8a側)に向かって自然に移動する。
伝熱管10は、図1に示すように、その管部分がドライヤ8の長手方向に沿って延伸するようにドライヤ8に設けられる。伝熱管10には、蒸気元管12から分岐した蒸気管11が接続され、蒸気管11を通じて蒸気元管12から伝熱管10内へ高温の蒸気G1が流通する。伝熱管10は、この蒸気G1の熱をドライヤ8のドラム本体に伝える。一方、伝熱管10には、排水口10aが設けられる。この排水口10aには、タンク19に通じるドレン管18が接続される。伝熱管10内の蒸気G1は、ドライヤ8に対する凝集伝熱の結果、液体(例えば水)に変化する。このように蒸気G1から変化した液体は、排水口10aからドレン管18を通じてタンク19内に回収される。なお、蒸気G1は、水蒸気等の加熱気体であり、ドライヤ8による石炭25の調湿処理の熱源として作用する。
圧力調整弁13は、伝熱管10内に流入する蒸気G1の圧力を調整するものである。図1に示すように、圧力調整弁13は、蒸気管11に設けられ、弁開閉駆動を行って、蒸気管11の開度を調整する。これによって、圧力調整弁13は、蒸気G1の圧力(以下、蒸気圧力と適宜いう)の増減を調整する。
ガス送風管14aおよびガス送出管14bは、ドライヤ8内にキャリアガスG2を流通させるためのものである。具体的には、図1に示すように、ガス送風管14aは、ドライヤ8の入口側に接続され、ドライヤ8内にキャリアガスG2を送り込む。ガス送出管14bは、ドライヤ8の出口側に設けられた排気口8bに接続され、キャリアガスG2をドライヤ8の外部に向けて送出する。キャリアガスG2は、ガス送風管14aを通じてドライヤ8内に流入し、その後、ドライヤ8内の石炭25から蒸発した水分とともに、ドライヤ8の入口側から出口側へ流通する。これによって、キャリアガスG2は、石炭25からの蒸発水分をドライヤ8の内部に行き亘らせ、その後、この蒸発水分とともに排気口8bからガス送出管14bを通じてドライヤ8の外部に排出される。
排出部15は、調湿後の石炭をドライヤ8の外部へ排出するものである。具体的には、排出部15は、石炭排出のためのスクリューフィーダ15aと、スクリューフィーダ15aを回動する駆動部15bとによって構成される。スクリューフィーダ15aは、螺子状の構造を有し、ドライヤ8の排出口8aに配置される。スクリューフィーダ15aは、駆動部15bの作用によって回動しつつ、排出口8aからの石炭25(調湿後の石炭)をドライヤ8の外部へ順次排出する。このように排出部15によって排出された石炭25は、搬出コンベア17に受け入れられる。搬出コンベア17は、排出部15によって排出されたドライヤ8からの石炭25をコークス炉等の所定の設備に向けて順次搬送する。
出側水分計16は、ドライヤ8の出側における石炭含水率を計測する。具体的には、出側水分計16は、排出部15のスクリューフィーダ15aの近傍に配置される。出側水分計16は、排出部15によってドライヤ8内から排出された石炭25中の水分(含水率)を時系列に沿って順次計測する。出側水分計16は、計測した石炭25中の含水率を、ドライヤ8による調湿後の石炭含水率(以下、出側石炭含水率という)として制御部23に順次送信する。
入力部20は、入力キーおよびマウス等の入力デバイスを用いて実現され、操作者の入力操作に対応して各種情報を制御部23に入力する。なお、入力部20による入力情報として、例えば、制御部23に対して石炭調湿処理に関する各種制御の開始または停止を指示する指示情報、石炭25の出側石炭含水率の目標値(以下、目標石炭含水率という)を設定するための情報、ドライヤ8に対する石炭投入量の設備上限(以下、最大石炭投入量という)を設定するための情報、石炭調湿処理の制御に必要な各種データ等が挙げられる。
記憶部21は、ハードディスク等の更新可能に情報を蓄積可能な記憶デバイスを用いて実現される。記憶部21は、制御部23の制御に基づいて、石炭調湿処理の制御に必要な各種情報等を更新可能に記憶する。例えば、記憶部21は、石炭量データ21a、水分データ21b、および抜熱量データ21cを更新可能に記憶する。石炭量データ21aは、石炭流量計4によって計測された石炭投入量の時系列データである。水分データ21bは、入側水分計5によって計測された入側石炭含水率の時系列データと、出側水分計によって計測された出側石炭含水率の時系列データとを含むものである。抜熱量データ21cは、ドライヤ8による石炭25の加熱乾燥に伴ってドライヤ8から抜熱する熱量、すなわちドライヤ8の抜熱量を示すデータである。
演算処理部22は、石炭調湿処理の制御に必要な各種演算処理を行う。具体的には、演算処理部22は、ドライヤ8に対する石炭投入量、入側石炭含水率、および出側石炭含水率の各時系列データ等を用いて、上述した投入機構による石炭投入の停止前におけるドライヤ8の抜熱量を算出する。演算処理部22は、抜熱量を算出する都度、算出した抜熱量を抜熱量データ21cとして記憶部21に保存する。記憶部21は、抜熱量データ21cを、最新の抜熱量の算出値を含むデータに更新する。また、演算処理部22は、この算出した抜熱量に基づいて、石炭投入の停止中にドライヤ8によって過乾燥されると予測される石炭25の過乾燥熱量を算出する。ここで、上述した過乾燥は、石炭25の出側石炭含水率が目標石炭含水率未満になる程に石炭25が加熱乾燥されることである。石炭25の過乾燥熱量は、このような石炭25の過乾燥に用いられた熱量である。
また、演算処理部22は、石炭投入の再開後におけるドライヤ8内への石炭25の投入増量値(以下、石炭投入増量という)と、伝熱管10内へ流入する蒸気G1の減圧力(以下、蒸気減圧力という)とを算出する。この場合、ドライヤ8内への石炭投入の増量によって補償される石炭25からの蒸発水分量の補償量と、蒸気G1の圧力の減少によって補償される石炭25からの蒸発水分量の補償量との合計値が、この予測の過乾燥熱量に対応する石炭25からの蒸発水分量と等しくなるように、演算処理部22は、石炭投入増量と蒸気減圧力とを算出する。
制御部23は、石炭調湿装置1の機能を実現するためのプログラム等を記憶するメモリおよびこのメモリ内のプログラムを実行するCPU等を用いて実現される。制御部23は、石炭ホッパ2、ドライヤ8の回転駆動部9、圧力調整弁13、記憶部21、および演算処理部22を制御し、且つ、石炭流量計4、入側水分計5、出側水分計16、および入力部20との間における電気信号の入出力を制御する。例えば、制御部23は、演算処理部22によって算出された過乾燥熱量に基づき、上述した投入機構(石炭ホッパ2および搬入コンベア3)による石炭投入の増量と圧力調整弁13による蒸気圧力の減少とを制御する。この場合、制御部23は、演算処理部22によって算出された石炭投入増量に応じて石炭投入を増量するように投入機構の石炭ホッパ2を制御する。また、制御部23は、演算処理部22によって算出された蒸気減圧力に応じて蒸気G1の圧力を減少するように圧力調整弁13を制御する。これによって、制御部23は、演算処理部22が算出した予測の過乾燥熱量に対応する石炭25からの蒸発水分量、すなわち、石炭25の過乾燥による過剰な蒸発水分量を補償する。
ここで、石炭調湿装置1の運転モードには、ドライヤ8によって石炭25を連続的に加熱乾燥する通常調湿運転と、ドライヤ8への石炭投入が停止した際の保安運転と、この石炭投入が再開した際における石炭25の過乾燥抑制のための対策運転とがある。通常調湿運転では、ドライヤ8への石炭投入工程からドライヤ8による石炭加熱乾燥工程を経てドライヤ8外への石炭排出工程に至る各工程が、ドライヤ8に対する石炭投入毎に連続的に繰り返される。この通常調湿運転において、石炭ホッパ2、搬入コンベア3、石炭流量計4、入側水分計5、搬入部7、ドライヤ8の回転駆動部9、圧力調整弁13、排出部15、出側水分計16、および搬出コンベア17は、プロセスコンピュータ(図示せず)等によって制御される。
保安運転は、コークス炉への石炭装入が不可能な状態である場合等に対応してドライヤ8への石炭投入が停止した期間、ドライヤ8を正常な状態に保つための運転である。具体的には、保安運転では、ドライヤ8内に石炭25を滞留しつつ、回転駆動部9によるドライヤ8の回転数と圧力調整弁13による蒸気G1の圧力とを設定可能な最小値に制御する。これによって、ドライヤ8を保温しつつ、ドライヤ8内部における石炭接触部分と空間部分との温度差に起因するドライヤの変形を防止する。一方、対策運転では、ドライヤ8内へ投入する石炭25を通常調湿運転時に比して増量し、さらに、必要に応じて、蒸気G1の圧力を通常調湿運転時に比して低くする。これによって、石炭25の過乾燥を抑制する。なお、上述した保安運転および対策運転において、石炭ホッパ2、ドライヤ8の回転駆動部9、および圧力調整弁13は、制御部23によって制御される。
つぎに、本発明にかかる石炭調湿処理の制御の基本原理について説明する。石炭調湿装置1の通常調湿運転において、石炭25は、ドライヤ8内へ順次投入され、ドライヤ8の入口側から排出口8aに向けて移動する。これに並行して、ドライヤ8は、伝熱管10から伝わる蒸気G1の熱を蓄え、蓄えた熱を消費して、石炭25を加熱乾燥する。ドライヤ8内の石炭25は、ドライヤ8によって加熱乾燥されつつ、投入から所定時間が経過後にドライヤ8の排出口8aに到達し、その後、排出口8aから排出される。
このような通常調湿運転における単位時間当りのドライヤ8の抜熱量Qs[J/h]は、水の蒸発熱Qw[J/ton]と、ドライヤ8に対する単位時間当りの石炭投入量S[ton/h]と、石炭25の入側石炭含水率Ra[%]および出側石炭含水率Rb[%]とを用い、次式(1)によって表される。
Qs=Qw×S×(Ra−Rb) ・・・(1)
一方、ドライヤ8に対する石炭投入が停止した場合、ドライヤ8内には、既に投入された石炭25が滞留する。この石炭25のドライヤ8による加熱乾燥は、ドライヤ8内での石炭25の滞留期間、継続的に進行する。その後、この滞留状態の石炭25は、ドライヤ8によって過乾燥される。このような石炭25の加熱乾燥に用いられるドライヤ8の抜熱量Qa[J]は、ドライヤ8内における石炭25の滞留時間ta[h]分、上式(1)に基づく抜熱量Qsを積分処理したもの(式(2)参照)に等しい。また、この石炭25の過乾燥熱量Qb[J]は、石炭25の出側石炭含水率Rb[%]がその目標石炭含水率Rt[%]未満となる程に石炭25を乾燥した熱量に相当する。すなわち、過乾燥熱量Qb[J]は、蒸発熱Qw[J/ton]と、石炭投入量S[ton/h]と、石炭25の目標石炭含水率Rt[%]および出側石炭含水率Rb[%]とを用い、次式(3)によって表される。なお、式(3)の右辺では、滞留時間ta[h]分の積分処理が行われる。
Qa=Qw×∫{S×(Ra−Rb)}dt ・・・(2)
Qb=Qw×∫{S×(Rt−Rb)}dt ・・・(3)
本願発明者等は、石炭投入量S[ton/h]、入側石炭含水率Ra[%]、および出側石炭含水率Rb[%]等の石炭調湿処理の過去データを利用して、上述したドライヤ8の抜熱量Qa[J]と過乾燥熱量Qb[J]との相関を調査した。その結果、石炭投入の停止前における抜熱量Qa[J]の減少に伴って過乾燥熱量Qb[J]が増加するという相関が見出された。このような抜熱量Qa[J]と過乾燥熱量Qb[J]との相関を示すデータ群を回帰分析することによって、次式(4)に示すように、抜熱量Qa[J]を用いて過乾燥熱量Qb[J]を算出可能な回帰式が導出された。
Qb=A×Qa+B ・・・(4)
なお、式(4)において、係数A,Bは、抜熱量Qa[J]と過乾燥熱量Qb[J]との相関を回帰分析することによって算出可能な値である。また、係数Aは、負の値である。
ここで、ドライヤ8内における水分量を増加させるためには、ドライヤ8に対する調湿前の石炭25の投入量を増加すること、および、ドライヤ8による石炭25の加熱量を下げることが効果的である。また、ドライヤ8の加熱量を下げるためには、石炭25の加熱乾燥の熱源である蒸気G1の蒸気圧力Pv[kgf/cm2]を下げればよい。このような石炭25の投入量の増加分(石炭投入増量ΔS[ton/h])および蒸気G1の圧力減少分(蒸気減圧力ΔPv[kgf/cm2])は、上述した過乾燥熱量Qb[J]によって石炭25から蒸発する水分量を補償するように設定される。
すなわち、石炭投入増量ΔS[ton/h]は、過乾燥熱量Qb[J]と、蒸発熱Qw[J/ton]と、目標石炭含水率Rt[%]と、出側石炭含水率Rb[%]と、ドライヤ8内における石炭25の滞留時間ta[h]とを用い、次式(5)によって表される。ここで、ドライヤ8に対する石炭投入量S[ton/h]には、ドライヤ8の設備仕様としての上限(以下、最大石炭投入量Smaxという)がある。式(5)は、石炭投入増量ΔS[ton/h]が最大石炭投入量Smax[ton/h]から石炭投入量S[ton/h]を減じた値以下である場合に成立する。一方、式(5)による石炭投入増量ΔS[ton/h]が、この最大石炭投入量Smax[ton/h]と石炭投入量S[ton/h]との減算値を超過する場合、次式(6)に基づいて石炭投入増量ΔSが算出される。
ΔS=Qb/{Qw×(Rt−Rb)}×1/ta ・・・(5)
ΔS=Smax−S ・・・(6)
また、蒸気減圧力ΔPv[kgf/cm2]は、式(5)に基づく石炭投入増量ΔS[ton/h]と、目標石炭含水率Rt[%]と、出側石炭含水率Rb[%]とをパラメータとして含む関数(式(7)参照)によって算出される。
ΔPv=f(Rt,Rb,ΔS) ・・・(7)
石炭調湿装置1は、ドライヤ8に対する石炭投入が停止した場合、この石炭投入が再開した際にドライヤ8によって過乾燥されると予測される石炭25の過乾燥熱量Qb[J]を、式(2),(4)に基づいて予測する。ついで、石炭調湿装置1は、この予測の過乾燥熱量Qb[J]を用い、式(5)〜(7)に基づいて石炭投入増量ΔS[ton/h]および蒸気減圧力ΔPv[kgf/cm2]を算出する。その後、石炭調湿装置1は、石炭投入増量ΔS[ton/h]に対応して、石炭投入再開後の石炭投入量S[ton/h]を制御し、蒸気減圧力ΔPv[kgf/cm2]に対応して、石炭投入再開後の蒸気圧力Pv[kgf/cm2]を制御する。この結果、石炭調湿装置1は、石炭投入の再開後における石炭25の過乾燥を抑制することができる。なお、上述した式(2),(4),(5),(6),(7)は、石炭調湿装置1の演算処理部22に予めプログラミング設定される。
つぎに、本発明の実施の形態にかかる石炭調湿方法について説明する。図2は、本発明の実施の形態にかかる石炭調湿方法の一例を示すフローチャートである。図3は、本実施の形態にかかる石炭調湿方法における石炭投入量の制御を説明する図である。図4は、本実施の形態にかかる石炭調湿方法における蒸気圧力の制御を説明する図である。
図1に示した石炭調湿装置1は、通常調湿運転の期間、プロセスコンピュータ(図示せず)の制御に基づいて、連続的に石炭25を調湿処理し、調湿後の石炭25を順次排出する。このような石炭調湿装置1は、通常調湿運転が停止した後、すなわち、ドライヤ8に対する石炭投入が停止した後、図2に示すステップS101〜S109の各処理を適宜繰り返して、上述した保安運転および対策運転を行う。なお、以下では、単位の記載を適宜省略する。
詳細には、図2に示すように、石炭調湿装置1は、通常調湿運転期間における石炭投入量Sと入側石炭含水率Raと出側石炭含水率Rbとを取得する(ステップS101)。ステップS101において、制御部23は、連続的または所定時間毎に断続的に、石炭流量計4から石炭投入量Sを取得し、入側水分計5から入側石炭含水率Raを取得し、出側水分計16から出側石炭含水率Rbを取得する。これによって、制御部23は、石炭投入量S、入側石炭含水率Ra、および出側石炭含水率Rbの各時系列データを取得する。制御部23は、石炭投入量Sの時系列データを石炭量データ21aとして記憶部21に保存し、入側石炭含水率Raおよび出側石炭含水率Rbの各時系列データを水分データ21bとして記憶部21に保存する。
つぎに、石炭調湿装置1は、ドライヤ8内への石炭投入の停止前におけるドライヤ8の抜熱量Qaを算出し、算出した抜熱量Qaの更新処理を実行する(ステップS102)。ステップS102において、演算処理部22は、現時間を基点にドライヤ8内における石炭25の滞留時間taの分、遡った過去の時間から現時間までの所定期間における石炭投入量S、入側石炭含水率Ra、および出側石炭含水率Rbの各時系列データを記憶部21から読み込む。ついで、演算処理部22は、この所定期間分の石炭投入量S、入側石炭含水率Ra、および出側石炭含水率Rbの各時系列データを用い、式(2)に基づいて、この所定期間におけるドライヤ8の抜熱量Qaを算出する。このように算出された抜熱量Qaは、石炭25の加熱乾燥に伴ってドライヤ8から抜熱する熱量である。なお、後述するステップS103において石炭投入が停止したと判断された場合、このステップS102における現時間は、石炭投入の停止時間となる。制御部23は、ステップS102において演算処理部22が算出した抜熱量Qaを、最新の抜熱量データ21cとして記憶部21に保存する。これによって、記憶部21内の抜熱量データ21cは、最新の抜熱量Qaを含むデータに更新される。
続いて、石炭調湿装置1は、ドライヤ8に対する石炭投入が停止したか否かを判断する(ステップS103)。ステップS103において、制御部23は、上述したステップS101で石炭流量計4から取得した現時点の石炭投入量Sが零値であれば、石炭投入が停止したと判断し、この現時点の石炭投入量Sが零値でなければ、石炭投入が停止していないと判断する。
ステップS103において石炭投入が停止していない場合(ステップS103,No)、石炭調湿装置1は、上述したステップS101に戻り、このステップS101以降の処理を繰り返す。
一方、ステップS103において石炭投入が停止した場合(ステップS103,Yes)、石炭調湿装置1は、通常調湿運転を停止して保安運転を開始する(ステップS104)。ステップS104において、制御部23は、ドライヤ8の回転数が設定可能な最小値となるように回転駆動部9を制御する。これとともに、制御部23は、伝熱管10内へ流入する蒸気G1の圧力が設定可能な最小値となるように圧力調整弁13を制御する。
つぎに、石炭調湿装置1は、ドライヤ8の抜熱量Qaに基づいて、ドライヤ8による石炭25の過乾燥熱量Qbを予測する(ステップS105)。ステップS105において、演算処理部22は、上述したステップS102によって更新された最新の抜熱量Qaを記憶部21から読み込み、この最新の抜熱量Qaを用い、式(4)に基づいて、過乾燥熱量Qbを算出する。ここで、この最新の抜熱量Qaは、石炭投入の停止時間を基点にドライヤ8内における石炭25の滞留時間taの分、遡った過去の時間から石炭投入の停止時間までの所定期間におけるドライヤ8の抜熱量である。また、この過乾燥熱量Qbは、ドライヤ8によって過乾燥されることが予測される石炭25の予測過乾燥熱量である。
続いて、石炭調湿装置1は、ステップS105による予測の過乾燥熱量Qbに応じた石炭25からの蒸発水分量の補償に要する石炭投入増量ΔSと蒸気減圧力ΔPvとを算出する(ステップS106)。ステップS106において、演算処理部22は、ドライヤ8に対する石炭投入の増量によって補償される石炭25からの蒸発水分の補償量と蒸気圧力の減少によって補償される石炭25からの蒸発水分の補償量との合計値が過乾燥熱量Qbに対応する蒸発水分量と等しくなるように、石炭投入増量ΔSと蒸気減圧力ΔPvとを算出する。具体的には、演算処理部22は、過乾燥熱量Qbと、蒸発熱Qwと、石炭25の出側石炭含水率Rbおよび目標石炭含水率Rtと、ドライヤ8内における石炭25の滞留時間taとを用い、式(5)に基づいて、過乾燥熱量Qbに対応する蒸発水分量の少なくとも一部の補償に要する石炭投入増量ΔSを算出する。この算出した石炭投入増量ΔSのみでは過乾燥熱量Qbに対応する蒸発水分量を補償しきれない場合、演算処理部22は、この石炭投入増量ΔSと出側石炭含水率Rbと目標石炭含水率Rtと用い、式(7)に基づいて、この蒸発水分量の残分の補償に要する蒸気減圧力ΔPvを算出する。なお、この蒸発水分量の残分は、過乾燥熱量Qbに対応する蒸発水分量から石炭投入増量ΔSによる蒸発水分の補償量を減じた残りの蒸気水分量である。一方、石炭投入増量ΔSのみによって過乾燥熱量Qbに対応する蒸発水分量が補償される場合、演算処理部22は、最大石炭投入量Smaxと石炭投入量Sとを用い、式(6)に基づいて、過乾燥熱量Qbに対応する蒸発水分量の補償に要する石炭投入増量ΔSを算出する。
その後、石炭調湿装置1は、ドライヤ8に対する石炭投入が再開したか否かを判断する(ステップS107)。ステップS107において、制御部23は、石炭流量計4によって計測された現時点の石炭投入量Sを取得する。制御部23は、この石炭流量計4から取得した現時点の石炭投入量Sが零値でなければ、石炭投入が再開したと判断し、この現時点の石炭投入量Sが零値であれば、石炭投入が再開していないと判断する。
ステップS107において石炭投入が再開していない場合(ステップS107,No)、石炭調湿装置1は、このステップS107の処理を繰り返す。すなわち、石炭調湿装置1は、石炭投入停止後の保安運転を継続する。この場合、制御部23は、保安運転に応じた回転駆動部9の制御と圧力調整弁13の制御とを継続する。
一方、ステップS107において石炭投入が再開した場合(ステップS107,Yes)、石炭調湿装置1は、保安運転を解除する(ステップS108)。続いて、石炭調湿装置1は、石炭投入増量ΔSに応じて石炭投入量Sを制御し、且つ、蒸気減圧力ΔPvに応じて蒸気圧力Pvを制御して(ステップS109)、上述した対策運転を開始する。
ステップS108,S109において、制御部23は、ステップS105による予測の過乾燥熱量Qbに基づき、ドライヤ8内への石炭投入の増量と蒸気G1の圧力の減少とを制御して、この予測の過乾燥熱量Qbに対応する石炭25からの蒸発水分量を補償する。
具体的には、図3に示すように、制御部23は、石炭投入が停止した時間t0から保安運転の制御を開始し、この時間t0から石炭の投入再開までに経過した時間t1において、保安運転の制御を停止する。ついで、制御部23は、この時間t1以後、上述したステップS106による石炭投入増量ΔSに応じて、ドライヤ8内への石炭投入の増量を制御する。すなわち、制御部23は、この石炭投入が再開した時間t1以後、ドライヤ8に対する石炭投入量Sを、石炭投入の停止前(時間t0以前)の石炭投入量S1から石炭投入増量ΔS分、増加した石炭投入量S2に変更するよう、投入機構の石炭ホッパ2を制御する。制御部23は、この時間t1から所定時間(例えばドライヤ8内における石炭25の滞留時間ta)が経過後の時間t2まで、すなわち、対策運転の期間、ドライヤ8に対して石炭投入量S2の石炭25を投入するように石炭ホッパ2を継続的に制御する。これによって、制御部23は、上述した過乾燥熱量Qbに対応する石炭25からの蒸発水分量の少なくとも一部を補償する。制御部23は、この時間t2以後、対策運転を解除して、ドライヤ8に対する石炭投入量Sを通常調湿運転時の石炭投入量S1に戻すように石炭ホッパ2を制御する。
また、図4に示すように、制御部23は、石炭投入が再開した時間t1以後、上述したステップS106による蒸気減圧力ΔPvに応じて、蒸気圧力Pvの減少を制御する。すなわち、制御部23は、この時間t1以後、伝熱管10内へ流入される蒸気G1の蒸気圧力Pvを、石炭投入の停止前(時間t0以前)の蒸気圧力Pv1から蒸気減圧力ΔPv分、減少した蒸気圧力Pv2に変更するよう、圧力調整弁13を制御する。制御部23は、この時間t1から時間t2まで、すなわち、対策運転の期間、伝熱管10内へ蒸気圧力Pv2の蒸気G1を流入するように圧力調整弁13を段階的且つ継続的に制御する。これによって、制御部23は、上述した過乾燥熱量Qbに対応する蒸発水分量のうちの石炭投入増量ΔSでは補償しきれない残りの蒸発水分量を補償する。制御部23は、この時間t2以後、対策運転を解除して、蒸気G1の蒸気圧力Pvを通常調湿運転時の蒸気圧力Pv1に戻すように圧力調整弁13を制御する。
上述したステップS109を実行後、石炭調湿装置1は、上述したステップS101に戻り、このステップS101以降の処理を繰り返す。石炭調湿装置1は、ステップS101〜S109の各処理を繰り返して保安運転および対策運転を実行することにより、ドライヤ8による石炭25の過乾燥を抑制しつつ、石炭25を適切に調湿することができる。
つぎに、本発明の実施の形態にかかる石炭調湿装置1および石炭調湿方法の具体的な実施例について説明する。図5は、本実施例におけるドライヤの抜熱量と過乾燥熱量との相関を示す図である。図6は、本実施例におけるドライヤの抜熱量の算出処理を説明するための図である。図7は、本実施例における出側石炭含水率の計測結果を示す図である。
本実施例では、図1に示した石炭調湿装置1のドライヤ8が許容する最大石炭投入量Smaxを750[ton/h]とし、ドライヤ8内における石炭25の滞留時間taを1/3[h](=20分)とした。また、石炭調湿装置1の通常調湿運転時における石炭投入量Sを500[ton/h]に設定し、調湿後の石炭25の目標石炭含水率Rtを9.2[%]に設定した。一方、石炭調湿装置1について、石炭投入の停止前におけるドライヤ8の抜熱量Qaと、ドライヤ8によって石炭25が過乾燥された際の過乾燥熱量Qbとの相関を調査した。その結果、図5に示す抜熱量Qaと過乾燥熱量Qbとの相関結果が得られた。この相関結果を回帰分析することにより、抜熱量Qaと過乾燥熱量Qbとの相関を示す式(4)は、抜熱量Qaが400[J]未満である場合に成立し、この場合の係数Aは「−1.5」であり、係数Bは「600」であった。一方、抜熱量Qaが400[J]以上である場合、過乾燥熱量Qbは0[J]であった。
このような石炭調湿装置1に石炭25の通常調湿運転を行わせ、この通常調湿運転の期間中、ドライヤ8に対する石炭投入量S、入側石炭含水率Ra、および出側石炭含水率Rbの各時系列データを石炭調湿装置1によって計測した。得られた各時系列データは、石炭調湿装置1の記憶部21に蓄積した。また、記憶部21内の蓄積データのうち、過去20分間(=滞留時間ta)の石炭投入量S、入側石炭含水率Ra、および出側石炭含水率Rbの各時系列データを用い、式(2)に基づいて抜熱量Qaを順次算出した。この抜熱量Qaの算出処理は、石炭調湿装置1の演算処理部22に実行させた。演算処理部22が抜熱量Qaを算出する都度、記憶部21内の抜熱量データ21cを最新の抜熱量Qaを含むデータに更新した。
つぎに、石炭調湿装置1の石炭ホッパ2による石炭25の供給を停止して、ドライヤ8に対する石炭投入を停止した。この石炭投入の停止以後、石炭調湿装置1にはドライヤ8の保安運転を行わせた。この保安運転の期間、演算処理部22は、記憶部21内に蓄積した過去20分間の石炭投入量S、入側石炭含水率Ra、および出側石炭含水率Rbの各時系列データを用い、式(2)に基づいて、石炭投入の停止前における抜熱量Qaを算出した。この場合、演算処理部22は、図6に示すように、石炭投入の停止時を基点に石炭25の滞留時間ta=1/3[h]分遡った過去の時間から石炭投入の停止時までの所定期間(=20分間)について、式(2)の積分処理を行った。この結果、演算処理部22は、滞留時間ta分のドライヤ8の抜熱量Qaとして、300[J]を算出した。
続いて、演算処理部22は、この算出した抜熱量Qa=300[J]を用い、式(4)に基づいて、過乾燥熱量Qbを算出した。この結果、演算処理部22は、過乾燥熱量Qbとして、150[J]を得た。なお、この過乾燥熱量Qb=150[J]は、上述した石炭の投入停止に伴ってドライヤ8内に滞留する石炭25に発生することが予測される過乾燥の熱量である。すなわち、現在ドライヤ8内に滞留している石炭25の過乾燥熱量Qbは、150[J]であると予測した。
ついで、演算処理部22は、予測の過乾燥熱量Qb=150[J]と、水の蒸発熱Qw[J/ton]と、予め設定された目標石炭含水率Rt=9.2[%]と、出側石炭含水率Rb[%]と、滞留時間ta=1/3[h]とを用い、式(5)に基づいて、石炭投入増量ΔSを算出した。この結果、石炭投入増量ΔSの算出値は、ドライヤ8に許容される最大石炭投入量Smax=750[ton/h]から現在の石炭投入量S=500[ton/h]を減じた値(=250[ton/h])を超過した。このため、演算処理部22は、式(6)に基づき、石炭投入増量ΔSとして250[ton/h]を算出した。また、演算処理部22は、式(5)に基づき、この石炭投入増量ΔS=250[ton/h]に対応する過乾燥熱量Qbとして83[J]を算出した。すなわち、この石炭投入増量ΔS=250[ton/h]によって補償される石炭25からの蒸発水分量は、予測の過乾燥熱量Qb=150[J]のうちの83[J]分の蒸発水分量である。
上述したように、石炭投入増量ΔSのみでは、予測の過乾燥熱量Qbに対応する蒸発水分量を補償しきれない。このため、演算処理部22は、上述した石炭投入増量ΔS=250[ton/h]と、目標石炭含水率Rt=9.2[%]と、出側石炭含水率Rb[%]とを用い、式(7)に基づいて、蒸気減圧力ΔPv[kgf/cm2]を算出する。ここで、予測の過乾燥熱量Qb=150[J]に対応する蒸発水分量のうち、過乾燥熱量Qb=83[J]に対応する蒸発水分量は、石炭投入増量ΔS=250[ton/h]によって補償される。したがって、蒸気減圧力ΔPv[kgf/cm2]によって補償すべき石炭25の蒸発水分量は、予測の過乾燥熱量Qb=150[J]から石炭投入増量ΔS分の過乾燥熱量Qb=83[J]を減じた残りの過乾燥熱量Qb=67[J]に対応する蒸発水分量と同値である。この過乾燥熱量Qb=67[J]に対応する石炭投入増量ΔSは、式(5)に基づいて演算処理した結果、200[ton/h]である。演算処理部22は、式(7)に基づいて、石炭投入増量ΔS=200[ton/h]に相当する蒸気減圧力ΔPv[kgf/cm2]を算出した。
その後、石炭調湿装置1に石炭25の過乾燥を抑制するための対策運転を行わせた。この対策運転の期間、制御部23は、滞留時間taと同じ時間(=20分間)、ドライヤ8に対する石炭投入量Sを石炭投入増量ΔS分、増加するように石炭ホッパ2を制御した。この結果、対策運転時の石炭投入量Sは、図3に示したように、通常調湿運転時の石炭投入量S1=500[ton/h]よりも石炭投入増量ΔS=150[ton/h]だけ大きい石炭投入量S2=750[ton/h]に制御された。これと同時に、制御部23は、滞留時間taと同じ時間、伝熱管10内への蒸気G1の蒸気圧力Pvを蒸気減圧力ΔPv分、減少させるように圧力調整弁13を制御した。この結果、対策運転時の蒸気圧力Pvは、図4に示したように、通常調湿運転時の蒸気圧力Pv1[kgf/cm2]よりも、上述した石炭投入増量ΔS=200[ton/h]相当の蒸気減圧力ΔPv[kgf/cm2]だけ低い蒸気圧力Pv2[kgf/cm2]に制御された。
上述したように石炭投入の再開後に対策運転を行った結果、石炭調湿装置1による出側石炭含水率Rb[%]は、図7に示すように、目標石炭含水率Rt=9.2[%]に近い値となるように経時変化した。なお、図7において、期間Y1は、ドライヤ8に対する石炭投入が停止していた期間であり、且つ、石炭調湿装置1が保安運転を行っていた期間である。期間Y2は、ドライヤ8に対する石炭投入の再開以後の期間であり、石炭調湿装置1が対策運転を行っていた期間を含む。本実施例では、この期間Y2を約1時間にした。
ここで、石炭投入の停止期間中、ドライヤ8内に滞留している石炭25は、ドライヤ8によって過乾燥される場合が多く、この場合、滞留状態の石炭25の含水率は、目標石炭含水率Rtに比して過度に低くなる。仮に、石炭調湿装置1が、石炭投入の再開後、対策運転を行わずに通常調湿運転を再開した場合、ドライヤ8内への新たな調湿前石炭の投入量は、滞留状態の石炭25の低含水率を補償することを考慮した投入量になっていない。これに加え、ドライヤ8の蓄熱は、伝熱管10内の蒸気G1の圧力増加に伴って促進される。このような状態では、ドライヤ8による滞留状態の石炭25の過乾燥の進行を抑制できないのみならず、この滞留状態の石炭25に対し、新たな調湿前石炭からの蒸発水分を十分に補給することもできない。このため、石炭投入の再開以後の期間Y2では、過乾燥状態の石炭25がドライヤ8から排出されてしまう。これに起因して、期間Y2では、出側石炭含水率Rbが目標石炭含水率Rtに比して極めて低くなり、且つ、目標石炭含水率Rtに対する出側石炭含水率Rbの変動幅が大きくなる(図7の破線参照)。この結果、適切な石炭調湿処理を安定して行うことが困難となる。
これに対し、石炭調湿装置1が石炭投入の再開後に対策運転を経て通常調湿運転を行った場合、ドライヤ8内への新たな調湿前石炭の投入量は、滞留状態の石炭25の低含水率を補償するに十分な投入量に制御される。これに加え、ドライヤ8の蓄熱は、蒸気減圧力ΔPv分の蒸気G1の圧力減少によって抑制される。このような対策運転では、新たな調湿前石炭からの蒸発水分が滞留状態の石炭25に補給され、これによって、滞留状態の石炭25からの過度な蒸発水分量が補償される。さらには、ドライヤ8の蓄熱抑制によって、この滞留状態の石炭25に対する水分補給が促進される。以上のことから、この滞留状態の石炭25の過乾燥が抑制され、適切な含水率に再調整された石炭25がドライヤ8から排出される。この結果、図7に示すように、期間Y2における出側石炭含水率Rbの目標石炭含水率Rtに対する減少変動幅を、上述した対策運転なしの場合に比して、0.7[%]縮めることができた。すなわち、通常調湿運転時は勿論、石炭投入が停止後に再開した場合においても、石炭25の過乾燥を抑制して、目標石炭含水率Rtに近い含水率に調湿された石炭25を安定的に排出できるようになった。
また、図7の実線によって示されるように、目標石炭含水率Rtに対する出側石炭含水率Rbの変動幅を例えば0.7[%]縮めることができる。このため、目標石炭含水率Rtを一層低い値(例えば8.5[%])に設定しても、出側石炭含水率Rbを8.0[%]以下に低下させることなく、この低く設定した目標石炭含水率Rtに近づくように出側石炭含水率Rbを安定的に制御できる。この結果、石炭からの発塵やコークス炉内への石炭の押し詰まり等のコークス炉の操業上の問題を発生させることなく、コークス炉による石炭の乾留に要する熱量を低減でき、さらに、コークス炉内の石炭の嵩密度を向上してコークス品質を高めることができる。なお、出側石炭含水率Rbが8.0[%]以下となる含水率範囲(図7の斜線部分参照)では、コークス炉内への石炭の押し詰まり等、上述したコークス炉の操業上の問題が発生し易い。このため、石炭調湿処理において、出側石炭含水率Rbは、常に、8.0[%]を超過する範囲内に制御する必要がある。
以上、説明したように、本発明の実施の形態では、ドライヤ内への石炭投入の停止前におけるドライヤの抜熱量を算出し、算出した抜熱量に基づいて、ドライヤによる石炭の過乾燥熱量を予測し、この予測の過乾燥熱量に基づき、ドライヤ内への石炭投入の増量と、石炭を加熱乾燥するドライヤの熱源になる蒸気の圧力減少とを制御して、この予測の過乾燥熱量に対応する石炭からの蒸発水分量を補償している。
このため、石炭投入の停止期間中、ドライヤ内に滞留して乾燥され続けた石炭に対し、石炭投入の再開後に、ドライヤ内へ新たに投入された調湿前石炭からの蒸発水分を補給することができる。これとともに、ドライヤの蓄熱量増加を抑制して、ドライヤによる石炭の加熱乾燥の進行を抑制することができる。これによって、滞留状態の石炭からの過度な蒸発水分量を補償できるとともに、ドライヤの蓄熱抑制によって、この滞留状態の石炭に対する水分補給を促進できる。この結果、滞留状態の石炭の過乾燥を抑制して、適切な含水率に再調整した石炭をドライヤから排出できる。以上のことから、石炭を調湿処理する通常調湿運転の継続時は勿論、通常調湿運転を停止後に再開した場合であっても、石炭の過乾燥を抑制でき、この結果、コークス炉の操業上の問題を回避できるとともに、石炭乾留に要するコークス炉の熱量の低減およびコークス品質の向上を促進して、コークス炉の操業の安定化を図ることができる。
また、目標石炭含水率に対する出側石炭含水率の変動幅を低減することができる。このため、現状に比して目標石炭含水率を一層低い値に設定しても、コークス炉の操業上の問題を招来するレベルに出側石炭含水率を低下させることなく、目標石炭含水率に近づくように出側石炭含水率を安定的に制御できる。この結果、石炭からの発塵やコークス炉内への石炭の押し詰まり等のコークス炉の操業上の問題を発生させることなく、石炭乾留に要するコークス炉の熱量の低減およびコークス品質の向上を一層促進することができる。
なお、上述した実施の形態では、入側水分計5によって直接、調湿前の石炭25の入側石炭含水率を計測していたが、これに限らず、入側水分計5によって調湿前の石炭25の水分量を計測し、この水分量の計測値と石炭流量計4による石炭投入量とをもとに、調湿前の石炭25の含水率(入側石炭含水率)を算出してもよい。これと同様に、出側水分計16によって調湿後の石炭25の水分量を計測し、この水分量の計測値と調湿後の石炭25の排出量とをもとに、調湿後の石炭25の含水率(出側石炭含水率)を算出してもよい。この場合、ドライヤ8の出側に、調湿後の石炭25の流量を計測する石炭流量計を配置してもよい。
また、上述した実施の形態では、石炭ホッパ2を制御することによってドライヤ8に対する石炭投入の増量を制御していたが、これに限らず、制御部23は、搬入コンベア3の搬送速度等の搬送動作を制御することによって、石炭投入の増量を制御してもよいし、石炭ホッパ2および搬入コンベア3の双方を制御することによって、石炭投入の増量を制御してもよい。
また、上述した実施の形態により本発明が限定されるものではなく、上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。その他、上述した実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例および運用技術等は全て本発明に含まれる。