以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る目標追随装置10の機能構成を示すブロック図である。図1の目標追随装置10は、アンテナ11、レーダ受信機12、サンプル選択部13及びトッラキングフィルタ部14を具備する。
アンテナ11は、図示しないイルミネータ(レーダ送信機)から出力されて目標で反射してきた反射波を受信する。なお、図1では、図を簡略化するために、アンテナ11が1つのアンテナから成るように図示したが、実際には、少なくとも2素子以上のアレイアンテナである。これは、後段での処理に目標反射波の角度が必要になるためであり、角度を算出するには、少なくとも2素子以上のアレイアンテナが必要だからである。
レーダ受信機12は、アンテナ11で受信された受信信号を復調し、目標に関する測定値を取得する。測定値には、目標反射波の電力及び角度が含まれる。レーダ受信機12は、アンテナ11に含まれる複数のアレイアンテナからの受信波を検証し、目標反射波の角度を検出する。また、レーダ受信機12は、例えば、以下のようにレンジを測定し、測定値にレンジを含めて出力してもよい。すなわち、レーダ受信機がレーダ送信機と異なる場所にある場合、レーダ受信機12に対するレーダ送信機の位置が既知であり、このレーダ送信機からの直接波が受信可能であるならば、レーダ受信機12は、直接波と目標反射波の遅延差と、検出された目標の角度とからおおよそのレンジを算出する。また、レーダ受信機12は、目標追随装置10の軌道及び目標の軌道からレンジを計算する等の方法を用いても良い。レーダ受信機がレーダ送信機と同一の場所にあるならば、送受信の遅延差より計算する。レーダ受信機12は、アンテナ11で目標反射波を受信した時刻をタイムスタンプとして測定値に付し、タイムスタンプを付した測定値をサンプル選択部13へ出力する。
サンプル選択部13は、電力変化検出部131、サンプル除去部132及び欠測監視部133を備える。図2は、第1の実施形態に係り、レーダ受信機12が出力する測定値にレンジが含まれる場合の電力変化検出部131の機能構成を示すブロック図である。電力変化検出部131は、電力補正値生成部1311、電力補正部1312及び閾値判定部1313を備える。
電力補正値生成部1311は、レーダ受信機12で取得された測定値を受信する。電力補正値生成部1311は、レーダ送信機とレーダ受信機とが同一の場所にある場合、受信した測定値のうち、レンジを4乗する。また、電力補正値生成部1311は、レーダ送信機とレーダ受信機とが異なる場所にある場合、レーダ送信機と目標の間との距離を2乗、目標とレーダ受信機との間の距離を2乗する。以下、この場合も含めて「4乗されたレンジ」と記述する。電力補正値生成部1311は、4乗したレンジを電力補正部1312へ出力する。
電力補正部1312は、レーダ受信機12で取得された測定値を受信する。電力補正部1312は、受信した測定値のうち電力に、電力補正値生成部1311で4乗されたレンジを乗算する。これにより、電力補正部1312は、取得した電力値を補正する。これは、レーダ方程式に従い、受信電力がレンジの4乗に反比例することに基づく。電力補正部1312は、補正した電力値を閾値判定部1313へ出力する。
閾値判定部1313は、電力補正部1312からの電力値と、閾値とを比較する。ここで、閾値は、例えば以下のように設定される。目標の接近の始めの段階に、予想される目標の動揺周期より若干長い程度の期間における、補正後の電力値の最大値を求める。そして、求めた最大値を基準値とし、この基準値から所定の大きさだけ電力値の低い値を閾値とする。なお、所定の大きさとしては、例えば、10dB又は15dBが設定される。電力補正部1312からの電力値が閾値以下である場合、閾値判定部1313は、その時刻にはグリント雑音が発生しているとみなし、サンプル除去部132に対して、その時刻の測定値の除去を指示する。グリント雑音は、目標内の複数の反射点からの反射波が互いに打ち消し合うように干渉する時に発生するため、グリント雑音が発生する時には、受信電力は必ず減少するからである。
サンプル除去部132は、レーダ受信部12から出力される測定値列から、グリント雑音が発生していると判断された測定値を除去する。すなわち、サンプル除去部132は、レーダ受信部12から出力される測定値列から、閾値判定部1313により指示された測定値を除去する。サンプル除去部132は、指示された測定値を除去した測定値列をトラッキングフィルタ部14へ出力する。
また、サンプル除去部132は、過去の幾つかの測定値を記憶しておく機能を有する。サンプル除去部132は、レーダ受信機12から供給される測定値を順次記憶し、記憶する測定値の数が所定数を超えると最も古い測定値を削除する。サンプル除去部132は、閾値判定部1313から測定値を復活させる旨の指示を受けると、記憶している測定値から、指示に応じた測定値を読み出す。サンプル除去部132は、復活させた測定値をトラッキングフィルタ部14へ出力する。
閾値判定部1313は、測定値の除去の状況、すなわち、除去することを指示した測定値の時刻と、そのときの電力値の基準値に対する値とを欠測監視部133へ通知する。欠測監視部133は、閾値判定部1313から測定値の除去の状況を通知されると、予め設定された期間より長い期間で欠測が続いているか否かを判断する。欠測が続いている場合、欠測監視部133は、欠測期間が予め設定された期間より短縮される時刻にある測定値のうち、電力値が基準値に近いものを1つ以上選択する。欠測監視部133は、選択した測定値を示す情報を閾値判定部1313へ通知する。
欠測監視部133は、除去された測定値のうち、選択した測定値を復活させるよう閾値判定部1313に通知する。閾値判定部1313は、欠測監視部133から、選択した測定値を通知されると、その測定値を復活して出力するようサンプル除去部132に対して指示を出す。複数の測定値を復活させる場合、欠測監視部133は、その時間的順序が入れ替わらないように、逐次的にサンプル除去部132に対して指示を出す。なお、時間的順序が入れ替わってもトラッキングできる手法が種々提案されているため、そのような手法を利用する場合、サンプル除去部132に対して逐次的に指示を出さなくても構わない。
トラッキングフィルタ部14は、カルマンフィルタから成る。トラッキングフィルタ部14は、サンプル除去部132からの測定値列を用いて、目標の、少なくとも角度をトラッキングし、その推定値又は予測値を目標のトラックとして出力する。なお、トラッキングフィルタ部14は、角度とレンジを併せて、目標の位置をトラッキングしても良い。
トラッキングフィルタ部14は、非同期なサンプル間隔で供給される測定値列に基づいて目標のトラッキングを行うように設定されている。すなわち、トラッキングフィルタ部14は、供給された測定値列のタイムスタンプの間隔に対応して目標のトラッキングを行う。
次に、以上のように構成された目標追随装置10による目標追随処理を説明する。
図3は、第1の実施形態に係る目標追随装置10が目標をトラッキングする際の処理手順を示すフローチャートである。
まず、レーダ受信機12は、アンテナ11で受信された受信波に基づいて測定値を取得する(ステップS31)。図4は、広がりを有する目標が広がり方向に動揺しながらレーダに向かって近付いている場合の電力値及び角度値のシミュレーション結果である。図4のシミュレーションでは、目標追随装置10がレーダ送信機と、レーダ受信機とを有するアクティブレーダである場合を想定する。図4によれば、矢印で示すレンジにおいて、角度値が、雑音から予測される以上に大きく外れている。これがグリント雑音である。また、電力値は目標の動揺及びレーダに対する姿勢角の変化に伴って時々刻々と変動しているが、目標が近づくに従って平均的に増加している。これは、レーダ方程式に従い、受信電力がレンジの4乗に反比例するためである。
電力補正部1312は、測定値に含まれる電力値を補正する(ステップS32)。図5は、シミュレーションの際に想定した目標の真の角度と図4に示す角度値との誤差、及び、図4に示す電力値からレンジに伴う受信電力の変化分を除去した補正電力値を示すシミュレーション結果である。図5によれば、角度を誤差の形に変換することにより、図4よりも明確に角度の外れ値の発生が確認できる。外れ値に矢印を付した。また、図5によれば、電力値は、目標の動揺等によって、大きく揺らいでいるものの、おおよそ一定のレベルとなっている。ここで、矢印を付したグリント雑音発生点では、必ず、補正電力値が大きく減少していることが分かる。
閾値判定部1313は、補正後の電力値と、閾値とを比較し、電力値が閾値以下であるか否かを判定する(ステップS33)。電力値が閾値以下である場合(ステップS33のYes)、閾値判定部1313は、サンプル除去部132に対して、この測定値の除去を指示する。サンプル除去部132は、閾値判定部1313からの指示に応じ、レーダ受信機12から供給される測定値を除去する(ステップS34)。電力値が閾値より大きい場合、(ステップS33のNo)、サンプル除去部132は、レーダ受信機12から供給される測定値をトラッキングフィルタ部14へ出力する。トラッキングフィルタ部14は、この測定値を用いて目標をトラッキングする(ステップS35)。ステップS35に続いて、目標追随装置10は、処理をステップS38へ移行する。
なお、除去の基準とする電力値は絶対値ではなく相対値である。すなわち、周囲の近い他の時刻の測定値より電力が下がっているかどうかを基準とする。これは、例えば、図5のレンジ300m近傍及び500m近傍では非常に大きいグリント雑音が発生しているが、図4を見る限り、その点の電力は周囲の他の点より明らかに下がってはいるものの、例えばレンジ2000m地点のグリント雑音が発生していない点の電力よりも大きい。このように、長期間絶対値で評価し続けると正しい評価が出来ないためである。
図6は、移動目標をレーダで実測した場合の角度誤差分布である。実測であるため、真の角度は不明であるが、角度変化をスムージングすることによっておおよその角度推定値を得ることができるため、推定値と実測値との誤差を角度誤差として、誤差分布のヒストグラムを作成した。「正規分布」で示した曲線は、理想的な正規分布を示す。「修正無し」で示した曲線は、サンプル選択部13における修正を行っていない場合の角度誤差分布である。「グリント除去」で示した曲線は、サンプル選択部13により、補正電力値の最大値から15dB以上低い電力値を閾値として修正を行った場合の角度誤差分布である。図6によれば、「修正無し」の角度誤差分布は、分布の裾野が広がり、明らかに正規分布とは異なっている。また、「グリント除去」の角度誤差分布は、ほぼ正規分布となっている。このように、電力を基準に測定値を除去することにより、角度誤差の分布を正規分布に近付けることが可能となる。
ステップS34に続いて、欠測監視部133は、閾値判定部1313からの通知に基づいて予め設定された期間より長い期間で欠測が続いているか否かを判断する(ステップS36)。予め設定された期間より長い期間で欠測が続いている場合(ステップS36のYes)、欠測監視部133は、欠測期間が予め設定された期間より短縮される時刻にある測定値のうち、電力値が基準値に近いものを1つ以上選択し、選択した電力値についての時刻を閾値判定部1313へ通知する。閾値判定部1313は、欠測監視部133から通知された時刻の測定値を復活して出力するようサンプル除去部132に対して指示を出す。サンプル除去部132は、閾値判定部1313から指定された測定値を復活させ(ステップS37)、復活させた測定値をトラッキングフィルタ部14へ出力する。トラッキングフィルタ部14は、復活した測定値に基づいてステップS35を実施する。また、欠側期間が予め設定された期間より短い場合(ステップS36のNo)、さらに、欠測が発生しなかった場合、目標追随装置10は、ステップS38において、目標のトラッキングが継続するか否かを判断する(ステップS38)。目標追随装置10は、継続する場合(ステップS38のYes)、処理をステップS31へ移行し、継続しない場合(ステップS38のNo)、処理を終了する。
図7は、図4の測角値からグリント雑音による影響を除去し、除去後の測角値に基づいてトラッキングフィルタ部14で目標の角度をトラッキングしたシミュレーション結果である。トラッキングフィルタ部14により出力されたトラックを実線で示す。横軸が時刻となっているため、図4とは左右が反転している。時刻0.9秒の近傍は、図4のレンジ500mの近傍に相当する。この近傍では、グリント雑音が比較的長期間発生し続けたため、欠測が続いている。そのため、再び入力が得られるようになったときに、トラックが不安定になってスパイクが発生している。これは、予測値と測定値との差が大きくなりすぎ、トラックの予測値が乱れたためである。
図8は、サンプル除去部132で過去の測定値を復活させて目標をトラッキングしたシミュレーション結果を示す。図8では、欠測監視部133は、基準値からの減少量が図7で示すよりも2dB少ない電力値を超える測定値を選択するようにしている。図8によれば、図7で示す不安定な部分がなくなり良好なトラッキングが行われていることが分かる。
以上のように、第1の実施形態では、測定値における電力値が閾値よりも低い場合、その測定値をトラッキングフィルタ部14へ供給する測定値列から除去するようにしている。これにより、グリント雑音が発生した測定値のみを、目標の角度の本当の角度変化とは区別して除去することが可能となる。このため、図6に示すように角度分布を正規分布に近付けることが可能となる。
また、第1の実施形態では、サンプル選択部13は、欠測が連続する場合には、除去した測定値から、基準値からの減少量が小さい測定値を選択して復活させる。そして、サンプル選択部13は、復活させた測定値をトラッキングフィルタ部14へ出力するようにしている。この操作は実質的には、グリント雑音が発生していると判定する基準値からの減少量を小さくする操作に対応する。図1では、レーダ受信機が1系統である。この場合、グリント雑音発生が疑われる測定値を除去することで、グリント雑音の影響を完全かつ非常に容易に排除することが可能である。しかしながら、グリント雑音が長期間発生し続けた場合は、欠測が連続するため、トラックが不安定になることがある。サンプル選択部13で、除去した測定値を復活させることにより、グリント雑音が発生したと予想される測定値を除去しつつ、連続的な欠測による不安定なトラックの発生を抑圧することが可能となる。
また、第1の実施形態では、トラッキングフィルタ部14は、非同期なサンプル間隔に対応するように設定されている。これにより、測定値を除去することで、欠測が発生した場合であっても、問題なくトラッキングを継続することが可能となる。また、欠測が連続した場合に、除去済みの測定値を復活させても、その時系列の順番が入れ替わっていない限り、トラッキングを継続することが可能となる。
なお、グリント雑音が発生する場合、カルマンフィルタでは目標のトラッキングができない問題に対処する方法の1つとして、非特許文献2に示されるように、正規分布しない分布を正規分布に整形して用いる方法がある。この方法では、角度測定値と角度予測値との差が一定範囲を超えた場合、その測定値は除外するか、又は、一定範囲の上限の誤差を持つように測定値を修正してトラッキングフィルタに入力する。図9は、非特許文献2に示される、入力測定値整形関数の例である。横軸は、測定値と予測値との誤差を示し、縦軸は整形出力を示す。図9(a)は誤差が一定範囲の外に出た外れ値を除去する関数を示し、図9(b)は外れ値を範囲の限界の値に戻す関数を示す。これにより、入力の分布が正規分布に近付くため、カルマンフィルタでの目標のトラッキングが可能となる。
しかしながら、この方法では、予測値から一定範囲を超えて異なる全ての測定値を除去したり修正したりするため、目標の角度が本当に変化したために測定値が予測値から大きくずれた場合でも、その測定値に整形を加えてしまう。その結果、目標の角度変化に追随できず、トラッキング不能に陥る可能性がある。また、グリント雑音は、目標に含まれる複数の反射点からの反射波の位相の合成の具合によって発生するため、ランダムには発生せず、継続して発生し続けることがある。そのため、予測値から一定範囲を超えて異なる全ての測定値を除去する方法を採用した場合、トラッキングフィルタへの入力が長期間途絶え、トラッキングが困難になることがある。
これに対し、第1の実施形態によれば、グリント雑音が発生したと予想される測定値を除去しつつ、連続的な欠測による不安定なトラックの発生を抑圧することが可能となる。
したがって、第1の実施形態に係る目標追随装置10によれば、カルマンフィルタを用いて正確に目標をトラッキングすることができる。
(第2の実施形態)
図10は、第2の実施形態に係る目標追随装置20の機能構成を示すブロック図である。図10に示す目標追随装置20は、アンテナ21、レーダ受信機22−1〜22−3、サンプル選択部23及びトッラキングフィルタ部24を具備する。
アンテナ21は、レーダ送信機Tx1〜Tx3から送信されたレーダ信号が目標で反射してきた反射波を受信する。なお、レーダ送信機Tx1〜Tx3は、それぞれ異なる場所にあるか、又は、同じ場所にあるならば、波長及び帯域幅等の諸元が大きく異なっているものとする。
レーダ受信機22−1〜22−3は、レーダ送信機Tx1〜Tx3から送信されるレーダ信号のいずれかの反射波を処理するように予め設定されている。例えば、レーダ受信機22−1はレーダ送信機Tx1からのレーダ信号の反射波を処理し、レーダ受信機22−2はレーダ送信機Tx2からのレーダ信号の反射波を処理し、レーダ受信機22−3はレーダ送信機Tx3からのレーダ信号の反射波を処理するように予め設定されている。レーダ受信機22−1〜22−3は、アンテナ21で受信された受信信号のうちそれぞれに対応する受信信号を復調し、目標に関する測定値を取得する。レーダ受信機22−1〜22−3は、アンテナ21で目標反射波を受信した時刻をタイムスタンプとして測定値に付し、サンプル選択部23へ出力する。
サンプル選択部23は、電力変化検出部231−1〜231−3及びサンプル除去部232−1〜232−3を備える。電力変化検出部231−1〜231−3及びサンプル除去部232−1〜232−3には、レーダ受信機22−1〜22−3で取得された測定値が非同期にばらばらのタイミングで供給される。そのため、サンプル選択部23における受信系統毎の処理遅延は、トラッキングフィルタ24へ供給される測定値の時間の順序が入れ替わらないように予め調整してある。電力変化検出部231−1〜231−3の動作及びサンプル除去部232−1〜232−3の動作はそれぞれ同様であるため、以下では、電力変化検出部231−1及びサンプル除去部232−1について説明する。
図11は、第2の実施形態に係る電力変化検出部231−1の機能構成を示すブロック図である。電力変化検出部231−1は、電力補正値生成部2311、電力補正部2312及び閾値判定部2313を備える。
電力補正値生成部2311は、レーダ受信機22−1で取得された測定値を受信する。電力補正値生成部2311は、受信した測定値のうち、レンジを4乗する。電力補正値生成部2311は、4乗したレンジを電力補正部2312へ出力する。
電力補正部2312は、レーダ受信機22−1で取得された測定値を受信する。電力補正部2312は、受信した測定値のうち電力に、電力補正値生成部2311で4乗されたレンジを乗算する。これにより、電力補正部2312は、取得した電力値を補正する。電力補正部2312は、補正した電力値を閾値判定部2313へ出力する。
閾値判定部2313は、電力補正部2312からの電力値と、閾値とを比較する。ここで、閾値は、例えば以下のように設定される。目標の接近の始めの段階に、予想される目標の動揺周期より若干長い程度の期間における、補正後の電力値の最大値を求める。そして、求めた最大値を基準値とし、この基準値から所定の大きさだけ電力値の低い値を閾値とする。なお、所定の大きさとしては、例えば、10dB又は15dBが設定される。電力補正部2312からの電力値が閾値以下である場合、閾値判定部2313は、その時刻にはグリント雑音が発生しているとみなし、サンプル除去部232−1に対して、その時刻の測定値の除去を指示する。
サンプル除去部232−1は、レーダ受信部22−1から出力される測定値列から、グリント雑音が発生していると判断された測定値を除去する。すなわち、サンプル除去部232−1は、レーダ受信部22−1から出力される測定値列から、閾値判定部2313により指示された測定値を除去する。サンプル除去部232−1は、指示された測定値を除去した測定値列をトラッキングフィルタ部24へ出力する。
トラッキングフィルタ部24は、サンプル除去部232−1〜232−3からの測定値に基づいて目標をトラッキングする。ここで、レーダ受信機22−1〜22−3毎に、測定値における雑音量が異なる。そのため、トラッキングフィルタ部24は、雑音量と各受信系列とを対応付けておき、サンプル除去部232−1〜232−3からの測定値に基づいて目標をトラッキングする際には、その雑音量に関するパラメータを受信系列毎に変えながら目標をトラッキングする。
次に、以上のように構成された目標追随装置20による目標追随処理を説明する。
図12は、第2の実施形態に係る目標追随装置20が目標をトラッキングする際の処理手順を示すフローチャートである。なお、ステップS121からステップS124までは、受信系統毎に同様の処理を行うため、ここでは、レーダ受信機22−1の受信系統を例に説明する。
まず、レーダ受信機22−1は、アンテナ21で受信された受信波に基づいて測定値を取得する(ステップS121)。電力補正部2312は、測定値に含まれる電力値を補正する(ステップS122)。閾値判定部2313は、補正後の電力値と、閾値とを比較し、電力値が閾値以下であるか否かを判定する(ステップS123)。電力値が閾値以下である場合(ステップS123のYes)、閾値判定部2313は、サンプル除去部232−1に対して、この測定値の除去を指示する。サンプル除去部232−1は、閾値判定部2313からの指示に応じ、レーダ受信機22−1から供給される測定値を除去する(ステップS124)。ステップS124に続いて、目標追随装置20は、処理をステップS126へ移行する。電力値が閾値より大きい場合、(ステップS123のNo)、サンプル除去部232−1は、レーダ受信機22−1から供給される測定値をトラッキングフィルタ部24へ出力する。
トラッキングフィルタ部24は、サンプル除去部232−1〜232−3からの測定値を用いて目標をトラッキングする(ステップS125)。続いて、目標追随装置20は、ステップS126において、目標のトラッキングが継続するか否かを判断する(ステップS126)。目標追随装置20は、継続する場合(ステップS126のYes)、処理をステップS121へ移行し、継続しない場合(ステップS126のNo)、処理を終了する。
図13は、第2の実施形態に係る目標追随装置20が目標をトラッキングする際のシミュレーション結果を示す。図13(a)は目標追随装置20がレーダ送信機Tx1〜Tx3から送信されたレーダ信号の反射波を受信し、トラッキングフィルタ部24での測定値の欠測がない場合のシミュレーション結果を示し、図13(b)は目標追随装置20が一つのレーダ送信機から送信されたレーダ信号の反射波を受信し、トラッキングフィルタ部24での測定値の欠測がない場合のシミュレーション結果を示し、図13(c)は目標追随装置20がレーダ送信機Tx1〜Tx3から送信されたレーダ信号の反射波を受信し、トラッキングフィルタ部24において測定値にランダムで連続的な欠測がある場合のシミュレーション結果を示し、図13(d)は目標追随装置20が一つのレーダ送信機から送信されたレーダ信号の反射波を受信し、トラッキングフィルタ部24において測定値にランダムで連続的な欠測がある場合のシミュレーション結果を示す。グラフの横軸は時刻であり、縦軸はトラッキング後の推定トラックと正解角度との誤差である。なお、計算毎に異なる雑音を発生させていて、入力される測定値が毎回少しずつ異なっているため、同一の条件下においても結果のグラフの形は同一とはならない。
図13(a)及び図13(b)によれば、測定値に欠測が無い場合には、レーダ送信機Tx1〜Tx3を併用した場合と、一つのレーダ送信機を使用した場合とでは大きな差は無い。また、図13(a)及び図13(c)によれば、レーダ送信機Tx1〜Tx3を併用している場合には、測定値に欠測がある場合と、欠測が無い場合とでは大きな差は無い。一方、図13(d)によれば、一つのレーダ送信機を使用し、かつ、測定値にランダムで連続的な欠測が発生する場合には、欠測した時刻で角度誤差が直線的に同じ傾きのまま変化し続けている。本シミュレーションでは、大きな誤差には至らなかったが、条件次第ではトラックを見失う可能性が見て取れる。すなわち、レーダ送信機Tx1〜Tx3を併用することによって、グリント雑音と思われる測定値を除去しても、トラック不能に陥る確率を著しく小さくすることが可能であることが分かる。
以上のように、第2の実施形態では、レーダ受信機22−1〜22−3でそれぞれ取得された測定値の電力値が閾値よりも低い場合、その測定値をサンプル除去部232−1〜232−3で除去する。そして、閾値よりも電力値の低い測定値が除去された測定値列が、サンプル除去部232−1〜232−3からトラッキングフィルタ部24へ供給されるようにしている。これにより、グリント雑音が発生した測定値のみを、目標の角度の本当の角度変化とは区別して除去することが可能となる。
また、グリント雑音は、前述のように、目標内の複数の反射点からの反射波が干渉して、打ち消しあって受信されたときに発生する。干渉の状態は、レーダ送信機Tx1〜Tx3及びレーダ受信機22−1〜22−3の目標に対する角度、波長及び解像度によって変化する。つまり、レーダ受信機22−1〜22−3でほぼ同じ時刻に測定された同じ目標に関する測定値であっても、レーダ送信機Tx1〜Tx3が異なる場所にあったり、波長及び帯域幅が大きく異なるならば、グリント雑音は基本的にばらばらの時刻に発生し、ほぼ同時に発生する確率はあまり大きくない。このため、図10のようにレーダ受信機22−1〜22−3を併用し、全ての測定値をトラッキングフィルタ部24に入力する構成では、いずれかのレーダ受信機でグリント雑音が発生して測定値が除去され欠測が続いても、他のレーダ受信機では、グリント雑音が発生していない確率が高い。そのため、トラッキングフィルタへの入力が途絶える確率が低く、継続的なトラッキングが可能となる。また、複数の系列を同じトラッキングフィルタ部24へ入力することによって、トラッキングの精度が向上するという効果もある。
したがって、第2の実施形態に係る目標追随装置20によれば、カルマンフィルタを用いて正確に目標をトラッキングすることができる。
なお、第2の実施形態では、レーダ受信機22−1〜22−3を同一の場所、つまり、目標追随装置20の内部に配置する場合を例に説明した。本発明のようにレーダ受信機22−1〜22−3で取得された測定値を一つのトラッキングフィルタ部24へ出力する場合、通信の容易さから、レーダ受信機22−1〜22−3は同一の場所に配置されることが望ましいが、これに限定される訳ではない。例えば、レーダ受信機22−1〜22−3は、異なる場所に配置されても構わない。その場合、レーダ受信機22−1〜22−3間はネットワークで接続される。レーダ受信機22−1〜22−3は、取得した測定値をネットワークを介し、一箇所に設置されたトラッキングフィルタ部へ出力する。このとき、トラッキングフィルタ部へ測定値が正しい時間順で出力されるように、バッファに測定値を一旦集める等の方法が必要であり、また、十分な容量を持った伝送路が必要である。なお、レーダ受信機22−1〜22−3が異なる場所にある場合は、レーダ送信機は一つでも良い。一つのレーダ送信機からの電波が目標で反射して四方八方に散乱した反射波を、異なる場所に配置されたレーダ受信機22−1〜22−3で受信すれば、グリント雑音は基本的にレーダ受信機毎に独立して発生するからである。
また、第2の実施形態では、目標追随装置20は、外部に配置されたレーダ送信機Tx1〜Tx3から送信され目標で反射された反射波を受信する場合を例に説明したが、これに限定される訳ではない。例えば、図14に示す目標追随装置30のように、内部にレーダ送信機31及びサーキュレータ32を具備する場合であっても構わない。この場合、レーダ送信機Tx1,Tx2と、レーダ受信機22−1〜22−3のうち二つのレーダ受信機とはバイスタティックレーダの形態を取り、レーダ送信機31とレーダ受信機22−1〜22−3のうち一つのレーダ受信機とはアクティブレーダの形態を取る。
レーダ送信機31は、レーダ信号をサーキュレータ32を介してアンテナ21から放射する。アンテナ21は、レーダ送信機31から放射されて目標で反射して戻ってきた反射波を受信し、サーキュレータ32を介してレーダ受信機22−1〜22−3へ出力する。レーダ受信機22−1〜22−3のうちいずれかのレーダ受信機は、レーダ送信機31からレーダ信号の反射波に基づいて測定値を取得するように予め設定されている。
バイスタティックレーダでは、角度測定は問題なく行えるが、精度の高いレンジ測定は難しいことが多い。一方、アクティブレーダでは、レンジ測定が問題なく行える。このように、一系統をアクティブレーダとすることで、電力を補正する際のレンジ情報を容易に得ることが可能となる。
なお、外部のレーダ送信機を用いると、目標の反射断面積が小さい場合等に、より送信電力の大きいレーダ送信機を選択して利用すること、及び、目標がレーダ信号を反射しやすい角度となっているレーダ送信機を選択して利用すること等が可能となる。これにより、目標の検出がより容易となる場合もある。
また、第2の実施形態では、イルミネータがレーダ送信機である場合を例に説明した。しかしながら、これに限定される訳ではない。例えば、イルミネータは、テレビ放送の電波等、本来レーダとして利用する目的ではない電波を送信する送信機であっても構わない。
また、第2の実施形態では、目標追随装置20が、サンプル選択部23を具備する場合を例に説明した。しかしながら、これに限定される訳ではない。例えば、目標追随装置20は、図15に示すサンプル選択部25を代わりに具備しても構わない。図15に示すサンプル選択部25は、電力変化検出部251−1〜251−3、サンプル除去部252−1〜252−3及び欠測監視部253を備える。なお、電力変化検出部251−1〜251−3及びサンプル除去部252−1〜252−3の動作はそれぞれ同様であるため、以下では、電力変化検出部251−1及びサンプル除去部252−1について説明する。
図16は、電力変化検出部251−1の機能構成を示すブロック図である。電力変化検出部251−1は、電力補正値生成部2511、電力補正部2512及び閾値判定部2513を備える。
電力補正値生成部2511は、レーダ受信機22−1で取得された測定値を受信する。電力補正値生成部2511は、受信した測定値のうち、レンジを4乗する。電力補正値生成部2511は、4乗したレンジを電力補正部2512へ出力する。
電力補正部2512は、レーダ受信機22−1で取得された測定値を受信する。電力補正部2512は、受信した測定値のうち電力に、電力補正値生成部2511で4乗されたレンジを乗算する。これにより、電力補正部2512は、取得した電力値を補正する。電力補正部2512は、補正した電力値を閾値判定部2513へ出力する。
閾値判定部2513は、電力補正部2512からの電力値と、閾値とを比較する。電力補正部2512からの電力値が閾値以下である場合、閾値判定部2513は、その時刻にはグリント雑音が発生しているとみなし、サンプル除去部252−1に対して、その時刻の測定値の除去を指示する。
サンプル除去部252−1は、レーダ受信部22−1から出力される測定値列から、グリント雑音が発生していると判断された測定値を除去する。すなわち、サンプル除去部252−1は、レーダ受信部22−1から出力される測定値列から、閾値判定部2513により指示された測定値を除去する。サンプル除去部252−1は、指示された測定値を除去した測定値列をトラッキングフィルタ部24へ出力する。
また、サンプル除去部252−1は、過去の幾つかの測定値を記憶しておく機能を有する。サンプル除去部252−1は、レーダ受信機22−1から供給される測定値を順次記憶し、記憶する測定値の数が所定数を超えると最も古い測定値を削除する。サンプル除去部252−1は、閾値判定部2513から測定値を復活させる旨の指示を受けると、記憶している測定値から、指示に応じた測定値を読み出す。サンプル除去部252−1は、復活させた測定値をトラッキングフィルタ部24へ出力する。
閾値判定部2513は、測定値の除去の状況、すなわち、除去することを指示した測定値の時刻と、そのときの電力値の基準値に対する値とを欠測監視部253へ通知する。
欠測監視部253は、閾値判定部2513から測定値の除去の状況を通知されると、予め設定された期間より長い期間で欠測が続いているか否かを判断する。欠測が続いている場合、欠測監視部253は、欠測期間が予め設定された期間より短縮される時刻にある測定値のうち、電力値が基準値に近いものを1つ以上選択する。欠測監視部253は、選択した測定値に関する情報を閾値判定部2513へ通知する。
閾値判定部2513は、欠測監視部253から、選択した測定値に関する情報が通知されると、通知された時刻の測定値を復活して出力するようサンプル除去部252−1に対して指示を出す。複数の測定値を復活させる場合、欠測監視部253は、その時間的順序が入れ替わらないように、逐次的にサンプル除去部252−1に対して指示を出す。
複数のレーダ受信機を併用しても、偶然同時にグリント雑音が発生してしまって、トラッキングフィルタ部24に全く測定値が供給されない期間が続いてしまうことがある。目標追随装置20は、サンプル選択部25を具備することで、グリント雑音が発生したと予想される測定値を除去しつつ、連続的な欠測による不安定なトラックの発生を抑圧することが可能となる。したがって、安定して目標をトラッキングすることができる。
(その他の実施形態)
図17は、第1及び第2の実施形態に係る目標追随装置10,20又は30を利用した誘導装置100の機能構成を示すブロック図である。図17に示す誘導装置100は、目標追随装置10,20又は30と、誘導信号生成部101とを備える。
目標追随装置10,20又は30は、目標の角度に関するトラック又は目標の位置に関するトラック(推定値又は予測値)を、誘導信号生成部101へ出力する。
誘導信号生成部101は、目標の角度に関するトラック又は目標の位置に関するトラックに基づき、飛翔体を誘導するための誘導信号を生成する。誘導信号生成部101は、生成した誘導信号を、図示しない飛翔体の駆動部へ出力し、飛翔体を制御する。
これにより、安定したトラックに基づいて飛翔体を誘導することが可能となる。
なお、第1及び第2の実施形態では、レーダ受信機12、22−1〜22−3が、角度、レンジ及び電力を含む測定値を取得する場合を例に説明した。しかしながら、前述のように、特にバイスタティックレーダでは、レンジ測定が可能であるとは限らない。補正に用いるレンジは正確な値である必要は無く、予想される軌道などから計算したおおよそのものでいいが、それすら不明であることもある。そのような場合には、次のように、電力の変化を検出すると良い。
すなわち、図1、図10及び図15で示す電力変化検出部131,231−1〜231−3,251−1〜251−3は、例えば、図18に示すように、閾値決定部1314及び閾値判定部1315を備える。
グリント雑音が発生する周期、すなわち、電力の増加減少の周期は、おおよそ、目標の角度方向の広がりという第1の要因、目標の動揺の速さという第2の要因、及び、レーダ送信機とレーダ受信機とに対する目標の姿勢角の変化の速さという第3の要因に依存する。このうち第3の要因は、レーダ送信機が目標から十分に遠く、かつ、目標追随装置と目標が対向する条件である場合に無視できる。また、第1の要因は、目標のおおよそのサイズが既知であれば、おおよその推定が可能である。さらに、第2の要因は、目標の種類、例えば、飛翔体、船舶又は航空機と、目標のそのおおよそのサイズ及び移動速度が既知であれば、おおよその推定が可能である。すなわち、おおよそのグリント雑音発生周期は予め予測することが可能である。なお、目標の動揺の速さが気象条件などによって変化する場合には、遅めの周期となる条件を選択し、長めの周期を予測するとよい。それより早く変動する分には、変動幅の検出には影響を及ぼさない。
閾値決定部1314は、上記のように予測したグリント雑音の発生周期より長い期間で、かつ、その間にレンジ変化による電力変化があまり大きくない期間を設定し、直近の過去でのその期間内の電力の最大値を検出する。閾値決定部1314は、それぞれの時刻に対して、それぞれ直近の過去で最大値を設定していく。閾値決定部1314は、グリント雑音発生を判定する電力減少量、例えば、10dB又は15dBといった値を予め設定し、それぞれの直近の過去の最大値から設定した電力減少量だけ下がった電力を閾値として決定する。閾値決定部1314は、決定した閾値を閾値判定部1315へ通知する。
閾値判定部1315は、レーダ受信機12,22−1〜22−3から供給される測定値に含まれる電力値と、閾値決定部1314から通知される閾値とを比較する。電力値が閾値以下である場合、閾値判定部1315は、その時刻にはグリント雑音が発生しているとみなし、サンプル除去部132,232−1〜232−1,252−1〜252−3に対して、その時刻の測定値の除去を指示する。
このような方法は、例えば、ステルス機のような著しく平面的な形状の目標であって、レンジが測定出来たとしても、レンジで補正した電力が複数反射点の干渉の状態の変化を除いても状態によって著しく変化し、電力減少量の基準値が設定できない目標である場合にも適用できる。
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。