(実施の形態1)
図1から図6を参照して、実施の形態1における内燃機関について説明する。本実施の形態においては、気体燃料としての水素を燃料に用いる内燃機関を例に取り上げて説明する。
図1に、本実施の形態における内燃機関の概略図を示す。内燃機関は、機関本体1を備える。機関本体1は、各気筒の燃焼室2と、それぞれの燃焼室2内に燃料を噴射するための燃料噴射弁3とを含む。本実施の形態における内燃機関は、燃料噴射弁3が気筒内に直接的に燃料を噴射する直噴型である。それぞれの気筒には点火栓7が配置されている。
機関本体1は、吸気マニホールド4と排気マニホールド5とを含む。吸気マニホールド4は、吸気ダクト6を介して吸入空気量検出器8に連結されている。吸入空気量検出器8は、エアクリーナ9に連結されている。吸気ダクト6内にはステップモータにより駆動されるスロットル弁10が配置されている。一方、排気マニホールド5は、排気管51を介して排気処理装置としての排気浄化触媒55に連結されている。排気処理装置としては、排気を浄化する任意の装置を採用することができる。たとえば、三元触媒、酸化触媒、またはNOX還元触媒等を採用することができる。本実施の形態の排気浄化触媒55の下流の排気管51内には、排気ガスに含まれる炭化水素(未燃燃料)と空気との比率である排気ガスの空燃比(A/F)を検出するための空燃比センサ56が配置されている。
排気マニホールド5と吸気マニホールド4との間には、排気ガス再循環(EGR)を行うためにEGR通路52が配置されている。EGR通路52の途中には電子制御式のEGR制御弁53が配置されている。また、EGR通路52の途中には、EGR通路52内を流れるEGRガスを冷却するためのEGR冷却装置54が配置されている。
本実施の形態における内燃機関は、燃料噴射弁3と、燃料噴射弁3に加圧された気体燃料を供給する燃料供給装置とを備える。本実施の形態における燃料供給装置は、燃料タンク61および圧力調整器としての減圧弁62を含む。燃料タンク61は、燃料供給管63を介してそれぞれの燃料噴射弁3に接続されている。
本実施の形態における燃料供給装置は、充填口67から加圧された気体燃料が補給される。燃料タンク61には気体燃料が加圧された状態で貯蔵されている。燃料タンク61に貯蔵されている気体燃料は、減圧弁62により減圧されて、それぞれの燃料噴射弁3に供給される。本実施の形態における燃料供給装置は、減圧弁62により予め定められた設定圧力まで気体燃料を減圧する。本実施の形態における減圧弁62は、燃料タンクの気体燃料の残量が多い状態から気体燃料が減少しても、出口圧力がほぼ一定になるように形成されている。本実施の形態においては、燃料タンク61と減圧弁62との間には、燃料タンク61内の圧力を検出する圧力センサ66が配置されている。減圧弁62から燃料噴射弁3に気体燃料を供給する流路には、燃料噴射弁3に供給する気体燃料の温度を検出する温度センサ65が配置されている。また、減圧弁62から燃料噴射弁3に燃料を供給する流路には、燃料噴射弁3に供給する燃料の圧力を検出する圧力センサ64が配置されている。
本実施の形態における内燃機関は、電子制御ユニット30を備える。本実施の形態における電子制御ユニット30は、デジタルコンピュータにより構成されている。電子制御ユニット30は、双方性バス31によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)32、RAM(ランダムアクセスメモリ)33、CPU(マイクロプロセッサ)34、入力ポート35および出力ポート36を備える。ROM32には、制御を行なうために必要なマップ等の情報が予め記憶されている。CPU34は、任意の演算や判断を行なうことができる。RAM33は、読み書きが可能な記憶装置である。
吸入空気量検出器8の出力信号は、対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。また、圧力センサ64,66、温度センサ65および空燃比センサ56等のセンサの出力信号は対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。
アクセルペダル40には、アクセルペダル40の踏込み量に比例した出力電圧を発生する負荷センサ41が接続されている。負荷センサ41の出力により要求負荷を検出することができる。負荷センサ41の出力信号は、対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。更に入力ポート35には、クランクシャフトが例えば15°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ42が接続されている。クランク角センサ42の出力により、機関回転数やクランク角度を検出することができる。
一方、出力ポート36は、対応する駆動回路38を介して、燃料噴射弁3、点火栓7、スロットル弁10の駆動用ステップモータおよびEGR制御弁19等に接続されている。
図2に、本実施の形態における内燃機関の燃焼室の部分の拡大概略断面図を示す。本実施の形態における燃料噴射弁3は、燃焼室2の内部に直接的に燃料を噴射するように形成されている。シリンダブロック12の内部には、ピストン11が配置されている。ピストン11の頂面には、気体燃料が噴射される形状に対応して、キャビティ11aが形成されている。シリンダブロック12には、シリンダヘッド13が固定されている。シリンダヘッド13には、燃料噴射弁3および点火栓7が配置されている。点火栓7は、先端に気体燃料の点火を行なうための点火部7aを有する。点火部7aは、例えば放電が生じることにより、気体燃料を点火することができるように形成されている。
図1および図2を参照して、本実施の形態における燃料噴射弁3は、それぞれの気筒の燃焼室2を平面視したときに、平面形状のほぼ中央に配置されている。燃料噴射弁3は、燃焼室2の周方向の壁面に向かって燃料を噴射するように形成されている。燃料噴射弁3の側方には、点火栓7が配置されている。点火栓7は、燃料噴射弁3から噴射された燃料が直接的に点火部7aに供給されるように配置されている。点火部7aは、燃料噴射弁3から噴射される気体燃料の経路に配置されている。本実施の形態における内燃機関は、燃料噴射弁3から噴射した気体燃料に直接的に点火するように形成されている。
図3に、本実施の形態における内燃機関の燃料の噴射期間と点火時期とを説明するグラフを示す。図3は、通常運転時の燃料の噴射期間と点火時期とを示している。本実施の形態の内燃機関においては、機関負荷の領域を高負荷運転の領域と低負荷運転の領域とに分割している。高負荷運転の領域にて運転を行う高負荷運転と低負荷運転の領域にて運転を行う低負荷運転とに応じて、燃料の噴射期間および点火時期を変更している。なお、本発明においては、燃料の噴射開始時期から燃料の噴射終了時期までが燃料の噴射期間である。燃料の噴射期間には、燃料の噴射開始時期、燃料の噴射終了時期、および噴射開始時期と噴射終了時期とにより定まる燃料を噴射している時間長さが含まれる。たとえば、燃料の噴射期間を変更するとは、燃料の噴射開始時期および燃料を噴射している時間長さのうち少なくとも一方を変更することを示している。
本実施の形態における内燃機関は制御装置を備え、制御装置は、燃料の噴射期間と点火時期とを変更することにより、点火時の混合気の状態を変更することができる。本実施の形態における点火時の混合気の状態は、燃料と空気とが十分に混合されておらず、点火するときに気筒内に燃料の濃度の偏りが生じている成層の状態を含む。なお、成層の状態で点火を行なうことにより、いわゆる成層燃焼を行なうことができる。
また、燃料の噴射期間と点火時期とを変更することによって、燃焼室における燃焼形態を変更することができる。本実施の形態における燃焼形態は、点火栓の点火部から火炎が外側に向かって広がる火炎伝播燃焼と、燃料が燃料噴射弁から噴射された直後に点火され、拡散しながら空気と混合して燃焼が進行する拡散燃焼とを有する。
本実施の形態の内燃機関は、低負荷運転の領域においては、圧縮行程において燃料を噴射する。本実施の形態の燃料の噴射は、できるだけ圧縮上死点(TDC)に近い期間に燃料の噴射を行っている。本実施の形態の燃料の噴射は、圧縮上死点の近傍において行なっている。燃料の噴射期間が終了した直後に点火を行なっている。気筒内において混合気は十分に混合されておらずに成層の状態で点火する。また、このときの燃焼形態は、火炎伝播燃焼である。このような成層の状態で点火して火炎伝播燃焼を行うことにより、熱効率の向上を図ることができる。低負荷運転の領域の運転制御については、実施の形態2において説明する。
本実施の形態における気体燃料の水素は、火炎伝播速度が早いという特徴を有する。すなわち、燃焼速度が速い。たとえば、水素の火炎伝播速度は、天然ガスの火炎伝播速度よりも非常に大きい。また、機関負荷が高負荷である場合には、燃焼室に供給する気体燃料の量が多くなる。本実施の形態の内燃機関では、高負荷運転の領域において、低負荷運転の領域のように火炎伝播燃焼にて燃焼を行なうと、燃焼室にて急峻な燃焼が生じてノッキング等の異常燃焼が発現する。
一方で、気体燃料の水素は、着火性に優れている。たとえば、水素の可燃範囲は天然ガスよりも広い。このために、燃料噴射弁から噴射した直後に気体燃料を点火することができる。燃料噴射弁から噴射した燃料をピストンのキャビティ等で反射させた後に点火しなくても、燃料噴射弁から噴射した燃料を直接的に点火することができる。
本実施の形態の内燃機関は、燃料噴射弁から噴射した燃料を直接的に点火することができるように形成されている。点火時の混合気の状態は、気体燃料と空気とが十分に混合されておらずに成層の状態である。本実施の形態における内燃機関の高負荷運転の領域にて運転を行なう時には、圧縮上死点の近傍において点火前に燃料の噴射を開始し、燃料の噴射期間中に点火する。燃料噴射弁から噴射された燃料に直接的に点火することにより、拡散燃焼を行なうことができる。拡散燃焼は火炎伝播燃焼よりも燃焼が穏やかであるために、異常燃焼の発生を抑制することができる。このように高負荷運転の領域では、着火時の混合気の状態が成層であり、燃焼形態を拡散燃焼にすることにより、異常燃焼を抑制しながら高負荷運転を行なうことができる。
図3には、本実施の形態における内燃機関の制御に加えて、比較例1から比較例3の制御が記載されている。比較例1は、直噴型のガソリンエンジンの制御である。比較例1のガソリンエンジンにおいては、吸気行程の初期において燃料を噴射して、圧縮上死点の近傍において点火を行なっている。比較例1においては、燃料の噴射期間から点火までの吸気行程および圧縮行程において、燃料と空気とが十分に混合されるために、点火時の混合気の状態は、燃料が空気と十分に混合されて燃料の濃度が均質になっている均質予混合の状態になる。また、このときの燃焼形態としては、火炎伝播燃焼になる。比較例2は、直噴型のガソリンエンジンの制御であり、比較例2のガソリンエンジンにおいては、圧縮行程において燃料を噴射した後に点火を行なっている。点火時の混合気の状態が成層であり、このときの燃焼形態は火炎伝播燃焼になる。
さらに、比較例3は、圧縮自着火式の燃料の内燃機関の制御であり、ディーゼルエンジンが例示されている。ディーゼルエンジンにおいては、圧縮上死点の近傍において燃料を噴射することにより、点火しなくても燃料を噴射すると同時に燃焼が生じる。このときの点火時の混合気の状態は成層であり、燃焼形態としては拡散燃焼になる。
本実施の形態における内燃機関は、高負荷運転の領域において、ガソリンを燃料とする内燃機関および圧縮自着火式の内燃機関とは燃料の噴射方法および点火方法が異なっている。すなわち、燃料の噴射期間中に点火を行なうことにより、混合気が成層の状態にて点火し、拡散燃焼にて燃焼を行なうことができる。
図4に、本実施の形態の内燃機関における点火時の混合気の状態と燃焼形態とを説明するグラフを示す。機関回転数と負荷とを関数にして、高負荷運転の領域と低負荷運転の領域とが定められている。任意の一つの機関回転数を定めると高負荷運転の領域と低負荷運転の領域が定められる。それぞれの機関回転数において、低負荷運転の領域では点火時の混合気の状態が成層であり、火炎伝播燃焼を行なう。高負荷運転の領域では点火時の混合気の状態が成層であり、拡散燃焼を行なう。高負荷運転の領域と低負荷運転の領域との境界は、例えば予め定めておくことができる。機関回転数が高くなるほど、成層火炎伝播燃焼を行なうことが難しくなるために火炎伝播燃焼の領域が小さくなっている。機関回転数が高くなるに従って低負荷運転の領域と高負荷運転の領域との境界の負荷が徐々に小さくなっている。
本実施の形態の内燃機関は、機関負荷を低負荷運転の領域と高負荷運転の領域とに分割し、低負荷運転の領域における制御と高負荷運転の領域における制御とに切り替えている。本実施の形態の内燃機関は、通常運転時には、機関回転数と負荷とに基づいて燃料の噴射期間および点火時期を設定している。
本実施の形態における内燃機関は、燃料タンクの残量が少なくなった場合においても運転を継続し、燃料タンクに貯蔵された気体燃料を有効に使用する。本実施の形態においては、高負荷運転の領域および低負荷運転の領域のうち高負荷運転の領域の運転制御について説明する。
図5は、機関負荷が高負荷運転の領域であるときの運転制御を説明するタイムチャートである。図5は、所定の機関回転数および所定の負荷にて運転を行なっているときのタイムチャートである。燃料タンクの内部に十分な量の気体燃料が残存しているときには、燃料タンクの圧力は、減圧弁の設定圧力よりも大きくなっている。気体燃料は、減圧弁の出口において設定圧力まで減圧されて燃料噴射弁に供給される。
内燃機関の運転を継続することにより燃料タンクの圧力は徐々に低下する。図5に示す例においては、時刻txにおいて、燃料タンクの圧力が、減圧弁の設定圧力まで減少している。時刻txまでの運転状態においては、図3および図4に示したように、圧縮行程の圧縮上死点の近傍において燃料の噴射を開始し、燃料を噴射しながら点火することにより、拡散燃焼を行なっている。
時刻txより後には、燃料タンクの圧力が減圧弁の予め定められた設定圧力未満になる。本実施の形態における内燃機関は、燃料タンクの圧力が減圧弁の予め定められた設定圧力未満になった場合にも運転を継続する。この場合に減圧弁は完全に開いた状態になり、燃料タンクの圧力にて気体燃料が燃料噴射弁に供給される。すなわち燃料噴射弁に供給される気体燃料の圧力は、燃料タンクの圧力とほぼ同じになる。燃料噴射弁からは、燃料タンクの圧力にて気体燃料が噴射される。
本実施の形態の内燃機関は、時刻txより後では、燃料タンクの圧力が減圧弁の設定圧力以上である場合よりも、燃料噴射弁からの燃料の噴射期間を進角するとともに、気筒内における点火時期を遅角する制御を行なう。燃料タンクの圧力が減圧弁の設定圧力未満になった場合でも、燃料タンクの圧力にて燃料を噴射する。燃焼室の圧力は、圧縮上死点近傍で最も高くなる。燃料タンクの圧力が低下し、減圧弁の設定圧力未満になると、圧縮上死点近傍において燃料を噴射することが困難になる。このため、本実施の形態の内燃機関は、燃料タンクの圧力低下に応じて燃料噴射期間を進角する(早くする)ことにより、燃料を噴射する制御を行う。本実施の形態においては、燃料の噴射開始時期および燃料の噴射終了時期を進角する制御を行っている。
本実施の形態においては、燃料タンクの圧力が減圧弁の設定圧力未満の場合に、燃料タンクの圧力が低くなるほど燃料の噴射期間の進角量を大きくする制御を行なっている。この制御を行なうことにより、徐々に燃料の噴射期間を進角することができて、圧縮行程において燃料を噴射する制御を継続することができる。吸気行程における燃料の噴射を避けて圧縮行程において燃料を噴射することにより、点火時の混合気の状態を成層に近づけて極力拡散燃焼を行っている。この制御により、混合気の状態が均質予混合に近づくことを抑制できて異常燃焼を抑制することができる。
ところで、燃料の噴射期間を進角すると、燃焼室において燃料と空気とが混合される時間が長くなり、点火時の混合気の状態が成層の状態から均質予混合の状態に徐々に移行する。すなわち、燃料の濃度の偏りが徐々に小さくなって混合気が均質に近づく。このために、燃料の噴射期間を進角すると、点火後の燃焼状態が、拡散燃焼から火炎伝播燃焼へと徐々に移行する。燃焼室においては、燃焼が急峻になって異常燃焼が発生する虞が生じる。
このために、本実施の形態の内燃機関の制御においては、燃料の噴射期間を進角するとともに点火時期を遅角している。本実施の形態においては、燃料タンクの圧力が低くなるほど点火時期の遅角量を大きくする制御を行なっている。この制御により、より効果的に異常燃焼の発生を抑制することができる。
本実施の形態の内燃機関では、燃料の噴射期間に対して点火時期を設定するための判定圧力が予め定められている。判定圧力は、減圧弁の設定圧力よりも低い圧力である。本実施の形態における判定圧力は、燃料の噴射終了時期と点火時期とが同一になる燃料タンクの圧力(燃料噴射弁から噴射されるときの気体燃料の圧力)である。
図5の運転例においては、時刻tyにおいて、燃料タンクの圧力が判定圧力まで低下している。燃料タンクの圧力が減圧弁の設定圧力未満であり、予め定められた判定圧力以上の場合には、燃料の噴射期間中に点火を行なっている。すなわち、時刻txから時刻tyまでの期間においては、燃料の噴射期間中に点火して拡散燃焼を行なっている。時刻tyより後においては、燃料タンクの圧力が判定圧力未満になる。時刻tyより後においては、気筒内において燃料の噴射が終了してから点火している。すなわち、燃料の噴射期間の終了後に点火を行なっている。このときの燃焼形態は、拡散燃焼から火炎伝播燃焼に移行する。
燃料タンクの圧力が判定圧力以上の領域では、火炎伝播燃焼よりも拡散燃焼による燃焼方法の方が異常燃焼の発生を抑制することができる。判定圧力としては、このような異常燃焼の発生に基づいて設定することができる。この制御を行なうことにより、より効果的に異常燃焼の発生を抑制しながら熱効率の向上を図ることができる。
図6に、本実施の形態における内燃機関の燃料噴射期間と点火時期とを設定する運転制御のフローチャートを示す。図6に示す制御は、例えば予め定められた時間間隔ごとに繰り返して行なうことができる。
ステップ101においては、機関回転数および負荷を検出する。図1を参照して、機関回転数は、クランク角センサ42の出力により検出することができる。負荷としては、負荷センサ41の出力により要求負荷を検出することができる。
次に、ステップ102においては、検出した機関回転数および負荷に基づいて、燃料タンクの圧力が減圧弁の設定圧力以上の場合の通常運転時における基準燃料噴射期間を設定する。基準燃料噴射期間としては、燃料の噴射開始時期および燃料を噴射している時間長さを設定することができる。または、燃料の噴射開始時期と燃料の噴射終了時期とを設定することができる。機関回転数および負荷を関数にする基準燃料噴射期間のマップを予め電子制御ユニットに記憶させておくことができる。このマップにより、基準燃料噴射期間を設定することができる。
ステップ103において、燃料タンクの圧力が減圧弁の設定圧力以上の場合の通常運転時における基準点火時期を設定する。基準点火時期においては、機関回転数および負荷を関数にする点火時期のマップを予め電子制御ユニットに記憶させておくことができる。
次に、ステップ104においては、燃料タンクの圧力を検出する。図1を参照して、本実施の形態において、燃料タンクの圧力は、圧力センサ66にて検出することができる。
ステップ105においては、燃料タンクの圧力が減圧弁の設定圧力未満であるか否かを判別する。ステップ105において、燃料タンクの圧力が減圧弁の設定圧力以上である場合には、ステップ109に移行する。
ステップ109においては、設定された基準燃料噴射期間にて燃料を噴射すると共に基準点火時期にて点火する。ステップ105において、燃料タンクの圧力が減圧弁の設定圧力未満である場合には、ステップ106に移行する。
ステップ106においては、検出した燃料タンクの圧力に基づいて燃料の噴射期間を補正する。すなわち、燃料の噴射開始時期および燃料を噴射している時間長さを補正する。または、燃料の噴射開始時期および燃料の噴射終了時期を補正する。例えば、燃料タンクの圧力、機関回転数および負荷を関数にする燃料の噴射期間の補正量のマップを、予め電子制御ユニットに記憶させておくことができる。本実施の形態においては、噴射開始時期の進角量および噴射終了時期の進角量をマップから読み込む。マップから読み込んだ燃料の噴射期間の進角量に基づいて、基準燃料噴射期間を補正し、補正後の燃料噴射期間を設定することができる。
次に、ステップ107においては、検出した燃料タンクの圧力に基づいて点火時期を補正する。点火時期の補正においても、燃料の噴射期間の補正と同様に、例えば、燃料タンクの圧力、機関回転数および負荷を関数にする点火時期の遅角量のマップを、予め電子制御ユニットに記憶させておくことができる。マップから読み込んだ点火時期の遅角量に基づいて、基準点火時期を補正し、補正後の点火時期を設定することができる。
ステップ108においては、補正後の燃料噴射期間にて燃料を噴射する。また、補正後の点火時期にて点火を行なう。
図6に示す内燃機関の運転制御においては、燃料タンクの圧力が減圧弁の設定圧力以上の通常運転における基準燃料噴射期間および基準点火時期に対して補正を行なっているが、この形態に限られず、燃料タンクの圧力が減圧弁の設定圧力未満における燃料の噴射期間および点火時期のマップを予め電子制御ユニットに記憶させておいても構わない。例えば、燃料タンクの圧力、機関回転数および負荷を関数にする燃料の噴射期間等のマップを予め電子制御ユニットに記憶させておくことができる。このように、燃料タンクの圧力が予め定められた設定圧力未満になった場合には、読み込むマップを変更する制御を行っても構わない。
本実施の形態の内燃機関は、燃焼室のほぼ中央に配置した燃料噴射弁から噴射された燃料を、燃料噴射弁の側方に配置された点火栓にて点火するように形成されているが、この形態に限られず、燃料噴射弁から噴射した燃料を直接的に点火することができる任意の内燃機関に本発明を適用することができる。
本実施の形態においては、気体燃料として水素を例に取り上げて説明したが、この形態に限られず、着火性に優れた任意の気体燃料に本発明を適用することができる。特に、水素を含み、水素の含有率の高い気体燃料が好適である。水素を含む気体燃料としては、水素と天然ガスとを含む混合気体燃料を例示することができる。
また、本実施の形態の上記の運転制御においては、気体燃料の温度の補正項を更に加えても構わない。燃料噴射弁に供給する気体燃料の温度を検出し、気体燃料の温度に基づいて、燃料の噴射期間および点火時期を補正しても構わない。
本実施の形態の高負荷運転時の運転制御においては、燃料の噴射開始の後に点火しているが、この形態に限られず、例えば、主噴射の直前に主噴射よりも噴射量の少ないプレ噴射等の補助噴射を採用することができる。主噴射の噴射期間と補助噴射の噴射期間との間に点火して、補助噴射の燃料を燃焼させて火種を予め形成するこができる。このような補助噴射を行った場合においても、成層の状態にて混合気を点火させて更に拡散燃焼を行なうことができる。
(実施の形態2)
図7から図11を参照して、実施の形態2における内燃機関について説明する。本実施の形態の内燃機関の構造は、実施の形態1と同様である(図1および図2参照)。本実施の形態においては、内燃機関の低負荷運転の領域の運転制御について説明する。
図7に、本実施の形態の内燃機関の低負荷運転の領域において、燃料の噴射期間と熱効率との関係を説明するグラフを示す。横軸が燃料の噴射期間であり、縦軸が熱効率である。燃料の噴射期間を連続的に変化させたときの熱効率の変化が示されている。点火は、圧縮上死点近傍にて行っている。
図3、図4および図7を参照して、燃料の噴射期間を進角する(早くする)ことにより、気筒内において空気と燃料とを混合する時間を長くすることができて、点火時の混合気の状態を均質予混合に近づけることができる。一方で、燃料の噴射期間を遅角する(遅くする)ことにより、気筒内において空気と燃料とを混合せずに燃料濃度の偏りを大きくすることができて点火時の混合気の状態を成層に近づけることができる。図7を参照すると、内燃機関の低負荷運転の領域において、燃料の噴射期間を下死点から圧縮上死点の近傍に近づけることによって熱効率を大きくできることが分かる。すなわち、均質予混合の状態よりも成層の状態に近づけることにより、熱効率が向上することが分る。
本実施の形態の内燃機関では、低負荷運転の領域において、圧縮行程において燃料を噴射し、燃料の噴射期間が終了した後に点火を行なっている。点火時の混合気の状態は、成層になり、燃焼形態は火炎伝播燃焼になっている。低負荷運転の領域では、燃料の噴射量が高負荷運転の領域の燃料の噴射量に比べて少なく、火炎伝播燃焼の速度の速い量論付近の混合気の量が少なくなるために、火炎伝播燃焼を行なってもノッキングのような異常燃焼は抑制される。
ところで、低負荷運転の領域においても、実施の形態1の高負荷運転の領域と同様に、燃料の噴射期間中に点火する拡散燃焼を行なうことができる。ところが、拡散燃焼を行なうと、燃料の燃焼により発生するNOX量が多くなってしまう。このために、本実施の形態の低負荷運転の領域においては、燃料の噴射期間の後に点火を行なう火炎伝播燃焼を行なっている。
図8は、本実施の形態の低負荷運転の領域にて運転を行なっているときの運転制御を説明するタイムチャートである。図8に示す例は、所定の機関回転数および所定の負荷にて運転を行なっている。
内燃機関の運転を継続することにより、燃料タンクの圧力が徐々に低下する。時刻txにおいて、燃料タンクの圧力が減圧弁の設定圧力まで低下している。燃料タンクの圧力が減圧弁の設定圧力以上の状態においては、通常運転を行なっている。すなわち、圧縮行程において燃料を噴射し、燃料の噴射期間の後に点火する。
時刻txより後においては、燃料タンクの圧力が減圧弁の設定圧力未満になっている。本実施の形態においては、燃料タンクの圧力が減圧弁の設定圧力未満になった場合にも内燃機関の運転を継続する。減圧弁は開いた状態になり、燃料タンクの圧力により燃料噴射弁に気体燃料が供給される。燃料噴射弁からは、燃料タンクの圧力にて燃料が噴射される。
本実施の形態の内燃機関においては、時刻txよりも後においても、圧縮行程において燃料を噴射し、成層の状態で混合気を点火して、火炎伝播燃焼を行なっている。燃料タンクの圧力は、運転を継続するとともに徐々に低下するために、時刻txより後においては、燃料噴射弁に供給する圧力、すなわち、燃料の噴射圧力が徐々に低下する。本実施の形態においては、燃料タンクの圧力が低くなるほど、燃料の噴射期間を長くする制御を行なっている。換言すると、燃料タンクの圧力が低くなるほど、燃料の噴射開始時期から燃料の噴射終了時期までの時間を長くする制御を行なっている。
ところで、燃料を燃焼するときに、燃料濃度が高いほど、燃焼時の温度が高くなってNOXが発生しやすくなる。このために、成層の状態にて点火する場合には、NOXが多く発生する。燃焼室から排出されるNOX量は、混合気の成層の程度により制御することができる。すなわち、燃料の噴射終了時期から点火までの時間長さで、凡その制御を行うことができる。たとえば、燃料の噴射終了時期から点火までの時間が長くなるほど、混合気が均質化される。混合気における燃料濃度の最大値が小さくなるために、燃焼室から排出されるNOX量を低下させることができる。ところが、混合気が均質化されるために熱効率は低下してしまう。
そこで、本実施の形態の内燃機関においては、燃料タンクの圧力が減圧弁の設定圧力未満になった場合においても、燃料タンクの圧力が減圧弁の設定圧力以上である場合とほぼ同一の時期に燃料の噴射を終了させている。すなわち、燃料の噴射終了時期は、時刻txの前後において、ほぼ同じになるように制御を行なっている。燃料の噴射開始時期は、燃料タンクの圧力が減圧弁の設定圧力以上である場合よりも進角させる制御を行なっている。本実施の形態においては、時刻txより後に燃料の噴射開始時期を進角させている。また、燃料タンクの圧力が低下するほど、燃料の噴射開始時期の進角量を大きくする制御を行っている。燃料の噴射終了時期を時刻txの前後でほぼ一定にすることにより、燃焼室から流出するNOX量を抑制することができる。
このように、本実施の形態の内燃機関は、低負荷運転の領域において、均質予混合の状態よりも成層の状態に近づけて点火を行なうことにより、熱効率の低下を抑制しながら排出されるNOX量の増加を抑制することができる。
ここで、図9から図11を参照して、比較例の内燃機関について説明する。比較例としては、圧縮天然ガス(CNG)を燃料にする内燃機関を例に取り上げて説明する。
図9は、天然ガスを燃料にする内燃機関の燃焼室の部分の拡大概略断面図である。比較例の内燃機関において、燃料噴射弁3は、燃焼室2の内部の領域のうち側方から中央に向けて気体燃料を噴射するように配置されている。点火栓7は、燃焼室2を平面視したときにほぼ中央に配置されている。燃焼室2には、吸気ポート15および排気ポート16が接続されている。吸気ポート15の端部には、機関吸気通路を開閉する吸気弁17配置されている。排気ポート16の端部には、機関排気通路を開閉する排気弁18が配置されている。
燃料噴射弁3から噴射された気体燃料は、ピストン11のキャビティ11aに衝突する。気体燃料は、キャビティ11aの形状に応じて点火栓7に向けて流れる。天然ガスは、水素と比べて着火性が劣るために、燃料噴射弁3から噴射した気体燃料を直接的に点火栓7の点火部7aに接触させて点火することは困難である。このために比較例の内燃機関においては、気体燃料をピストン11のキャビティ11aに衝突させて空気と混合した後に、点火栓7の点火部7aに衝突させるようにしている。
図10に、比較例の内燃機関における燃料の噴射期間と熱効率との関係を説明するグラフを示す。ピストンが吸気上死点から下死点までの間に位置している吸気行程において燃料を噴射することにより、点火する時の混合気の状態は均質予混合になる。また、ピストンが下死点から圧縮上死点までの間に位置している圧縮行程において、燃料を噴射することにより、点火時の混合気の状態を成層にすることができる。
また、機関負荷が大きくなることにより、矢印151に示すように、燃焼時の空燃比をリーンの状態からストイキの状態に向かって移行させることができる。例えば、負荷が大きくなると共に混合気の燃料濃度を高くすることができる。ここで、図10に示すように、比較例の内燃機関では、吸気行程にて燃料を噴射する場合と圧縮行程にて燃料を噴射する場合との間に、実質的に燃焼を行なうことができない運転不可領域が存在する。均質予混合の状態で点火する領域と成層の状態で点火する領域との間には運転不可領域が存在する。このために、燃料の噴射期間を圧縮行程から吸気行程に徐々に移行する制御を行うことが困難であり、使用可能な燃料の噴射期間が限定的になる。
図11に、比較例の内燃機関の低負荷運転時のタイムチャートを示す。時刻txにおいて、燃料タンクの圧力が減圧弁の設定圧力に到達している。燃料タンクの圧力が減圧弁の設定圧力以上の場合には、圧縮行程にて燃料を噴射し、成層の状態で点火することができる。しかしながら、比較例の内燃機関においては運転不可領域が存在するために、燃料タンクの圧力が減圧弁の設定圧力未満になった場合には、燃料の噴射期間を圧縮行程から吸気行程に変更している。すなわち、天然ガスの直噴型の内燃機関においては、燃料噴射弁の噴射圧が低下した場合には、圧縮行程の噴射から吸気行程の噴射に切替えて均質予混合の状態で点火を行なっていた。
これに対して、本実施の形態の内燃機関は、図7に示すように、広い範囲で燃料の噴射期間の変更が可能である。また、燃料の噴射期間を連続的に変化させることができる。このために、図8に示すように、時刻txより後においても、燃料の噴射終了時期をほぼ一定に保ちながら、燃料の噴射開始時期を徐々に進角する制御を行なうことができる。低負荷運転の領域において、気体燃料の残量が少なくなった場合にも、混合気の状態を極力成層に近づけて点火を行なうことができて、熱効率を向上させることができる。
本実施の形態における低負荷運転の領域の運転制御は、実施の形態1の図6に示す運転制御と同様に行うことができる。
図6を参照して、ステップ105において、燃料タンクの圧力が減圧弁の設定圧力よりも低い場合にはステップ106に移行する。ステップ106において燃料の噴射期間を補正する制御を行うことができる。本実施の形態においては、燃料の噴射開始時期を進角する補正を行うことができる。燃料タンクの圧力が低くなるほど燃料の噴射開始時期の進角量を大きくする補正を行うことができる。また、燃料の噴射終了時期は、燃料タンクの圧力が減圧弁の設定圧力以上の場合と同様になるように設定することができる。
また、ステップ107において、本実施の形態においては点火時期の補正量を零にしている。ステップ108においては、補正後の燃料の噴射期間にて燃料を噴射することができる。また、本実施の形態においては、補正後の点火時期として基準点火時期にて点火を行なうことができる。
本実施の形態の内燃機関においても、実施の形態1と同様に気体燃料は水素に限られず、任意の気体燃料に本発明を適用することができる。また、気体燃料としては、着火性に優れた燃料が好適であり、たとえば、水素の含有量が多い混合気体燃料が好適である。
本実施の形態における運転制御は、実施の形態1における運転制御と組み合わせることができる。たとえば、高負荷運転の領域においては実施の形態1における運転制御を行なって、低負荷運転の領域においては実施の形態2における運転制御を行なうことができる。
その他の構成、作用および効果については、実施の形態1と同様であるので、ここでは説明を繰り返さない。
(実施の形態3)
図12を参照して、実施の形態3における内燃機関について説明する。本実施の形態の内燃機関の構造は、実施の形態1と同様である(図1および図2参照)。本実施の形態の内燃機関は、燃料噴射弁において気体燃料を噴射する時に臨界流になるように燃料の噴射期間を制御する。本実施の形態における内燃機関は、気体燃料として水素を用いている。
燃料噴射弁に供給する気体燃料の圧力に対して気筒内の圧力が所定圧力よりも小さければ、燃料噴射弁において臨界流にて燃料を噴射することができる。臨界流にて燃料を噴射することにより、圧力変動等が生じても燃料の噴射流量を一定にすることができる。
本実施の形態の内燃機関においては、燃料タンクの圧力が減圧弁の設定圧力未満になった場合においても、燃料噴射弁において臨界流にて燃料の噴射が可能なように、噴射開始時期を設定する。本実施の形態においては、燃料噴射弁に供給する気体燃料の圧力と、臨界流を生じる条件とに基づいて、臨界流にて燃料の噴射が可能な気筒内の圧力を推定する。本実施の形態においては、臨界流にて燃料の噴射が可能な気筒内の最大圧力を臨界筒内圧力と称する。
本実施の形態においては、燃料の噴射終了時期における気筒内の圧力が、臨界筒内圧を超える場合には、臨界流にて燃料を噴射することが困難である。このために、燃料の噴射期間を進角する制御を行う。本実施の形態においては、燃料の噴射開始時期および燃料の噴射終了時期を進角する。燃料の噴射終了時期を進角することにより、燃料の噴射終了時期における気筒内圧力が低下し、燃料噴射弁において臨界流による燃料噴射を維持することができる。
図12に、本実施の形態の内燃機関の運転制御のフローチャートを示す。図12に示す運転制御は、たとえば、予め定められた時期に繰り返して行うことができる。
ステップ110においては、燃料噴射弁に供給する気体燃料の圧力を検出する。図1を参照して、燃料噴射弁3に供給する気体燃料の圧力は、圧力センサ64により検出することができる。
ステップ111においては、気体燃料の要求噴射量を設定する。ステップ112においては、燃料の第1の噴射開始時期を設定する。要求噴射量および第1の噴射開始時期は、例えば、機関回転数と負荷とに基づいて設定することができる。
ステップ113においては、臨界流にて燃料を噴射している時間を算出する。臨界流にて燃料を噴射する場合には気体燃料の流速が音速にて噴射される。このために、ステップ111にて設定した要求噴射量と噴射される流速とに基づいて、燃料を噴射している時間を算出することができる。
次に、ステップ114においては、臨界流を達成することができる臨界筒内圧力を算出する。臨界筒内圧力の算出においては、たとえば、燃料噴射弁に供給する気体燃料の圧力を気体燃料の種類に依存する定数で除算した圧力を臨界筒内圧力に設定することができる。たとえば、本実施の形態においては、燃料が水素であり、燃料噴射弁に供給する気体燃料の圧力を2.1で除算した圧力を臨界筒内圧力に設定することができる。
ステップ115においては、気筒内の圧力が臨界筒内圧力になる時期tcriを推定する。気筒内の圧力が臨界筒内圧力になる時期tcriは、たとえば、吸入空気量と機関回転数とに基づいて推定することができる。また、このステップにおいては、時期tcriの代わりに気筒内の圧力が臨界筒内圧力になるクランク角度を推定しても構わない。
ステップ116においては、臨界流にて燃料の噴射を行なうことができる第2の噴射開始時期を設定する。ステップ115において推定した気筒内の圧力が臨界筒内圧力になる時期tcriに基づいて、第2の噴射開始時期を算出することができる。気筒内の圧力が臨界筒内圧力になる時期tcriを燃料の噴射終了時期に設定し、この燃料の噴射終了時期とステップ113において算出された燃料の噴射時間とにより、第2の燃料の噴射開始時期を算出することができる。第2の燃料の噴射開始時期は、燃料の噴射期間中に臨界流を達成することができる最も遅い噴射開始時期になる。
ステップ117においては、第1の噴射開始時期が第2の噴射開始時期よりも早いか否かを判別する。ステップ117において、第1の噴射開始時期が第2の噴射開始時期よりも早い場合にはステップ118に移行する。
ステップ118においては、燃料の噴射開始時期として第1の噴射開始時期を選定し、ステップ119においては燃料の噴射終了時期を算出する。
ステップ117において、第1の噴射開始時期が第2の噴射開始時期と同一、または、第1の噴射開始時期が第2の噴射開始時期よりも遅い場合には、ステップ120に移行する。ステップ120においては、第2の噴射開始時期を選定する。この場合の噴射終了時期は、ステップ115において設定した時期tcriになる。
ステップ121においては、選定された燃料の噴射開始時期と燃料の噴射終了時期とに基づいて、燃料の噴射を行う。
このように、本実施形態においては、機関回転数等に基づいて設定した燃料の噴射開始時期と、臨界流にて噴射することができる最も遅い燃料の噴射開始時期とを比較する。そして、燃料の噴射開始時期の早い方を選定する制御を行なっている。機関回転数等に基づいて設定した第1の噴射開始時期にて噴射を行ったときに、燃料の噴射終了時期まで臨界流が維持できない場合には、第2の噴射開始時期を選定し、燃料の噴射期間を進角する制御を行なっている。
本実施の形態の運転制御においては、燃料の噴射終了時期における気筒内の圧力が臨界筒内圧力を超える場合には、燃料の噴射期間を進角側に補正し、燃料の噴射終了時期でも気筒内の圧力が臨界筒内圧以下の状態になるように制御することができる。
本実施の形態における内燃機関の制御を採用することにより、燃料タンクの圧力が減圧弁の設定圧力未満になった場合においても、臨界流にて燃料噴射弁から燃料を噴射することができる。このために、燃料噴射弁から噴射する燃料の量を高精度に制御することができる。たとえば、燃料噴射弁の開閉時間を制御することにより、精度良く燃料の噴射量を調整することができる。この結果、例えばドライバビリティが向上したり、排気性状の悪化を抑制したりすることができる。
本実施の形態における内燃機関の運転制御は、実施の形態1または実施の形態2と組み合わせることができる。例えば、第1の噴射開始時期として、実施の形態1において設定した燃料の噴射開始時期を設定することができる。または、実施の形態2において設定した燃料の噴射開始時期を設定することができる。
例えば、実施の形態1において、燃料タンクの圧力が減圧弁の設定圧力未満になって小さくなると、燃料噴射弁において臨界流が達成できなくなってしまう。このような場合においても、燃料の噴射期間を進角側に補正することにより、燃料の噴射開始時期から燃料の噴射終了時期までにおいて臨界流を維持することができる。燃料タンクの内部の圧力が小さくなった場合においても、臨界流を維持することができる。
本実施の形態においては、燃料の噴射期間について説明を行なったが、点火時期についても燃料の噴射期間の進角に応じて変更しても構わない。
その他の構成、作用および効果については、実施の形態1または実施の形態2と同様であるので、ここでは説明を繰り返さない。
上記のそれぞれの実施の形態は、適宜組み合わせることができる。たとえば、内燃機関の高負荷時には実施の形態1における運転制御を行って、低負荷時には実施の形態2における運転制御を行うことができる。また、上述のそれぞれの制御は、作用または機能を変更しない限り適宜ステップの順序を変更することができる。
上述のそれぞれの図において、同一または相等する部分には同一の符号を付している。なお、上記の実施の形態は例示であり発明を限定するものではない。また、実施の形態においては、特許請求の範囲に示される変更が含まれている。