以下、本発明に係る蒸発燃料処理装置の実施の形態について、図面を用いて説明する。
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る蒸発燃料処理装置を搭載した車両の要部構成、すなわち、走行駆動用の内燃機関とその燃料供給および燃料パージを行う燃料系システムの機構を示している。本実施の形態の内燃機関は、揮発性の高い燃料を使用するもので、図示しない車両に走行駆動用に搭載されている。
まず、構成について説明する。
図1に示すように、本実施の形態に係る車両1は、エンジン2と、燃料タンク31を有する燃料供給機構3と、蒸発燃料処理装置を構成する燃料パージシステム4とを含んで構成されている。
エンジン2は、火花点火式の多気筒内燃機関、例えば、4サイクルの直列4気筒エンジンによって構成されている。
エンジン2の4つの気筒2a(図1中に1つのみ図示する)の吸気ポート部分には、それぞれインジェクタ21(燃料噴射弁)が装着されており、複数のインジェクタ21は、デリバリーパイプ22に接続されている。
デリバリーパイプ22には、後述する燃料ポンプ32から、揮発性の高い燃料(例えばガソリン)がエンジン2に要求される燃圧(燃料圧力)に加圧されて供給されるようになっている。
また、エンジン2の吸気ポート部分には吸気管23が接続されており、この吸気管23には、吸気脈動や吸気干渉を抑える所定容積のサージタンク23aが設けられている。
吸気管23の内部には吸気通路23bが形成されており、吸気通路23b上には、スロットルアクチュエータ24aにより開度調整可能に駆動されるスロットルバルブ24が設けられている。このスロットルバルブ24は、吸気通路23bの開度を調整することにより、エンジン2に吸入される吸入空気量を調整するようになっている。
燃料供給機構3は、燃料タンク31と、燃料ポンプ32と、デリバリーパイプ22および燃料ポンプ32を接続する燃料供給管33と、燃料ポンプ32の上流側に設けられた吸入配管38とを含んで構成されている。なお、図1において、燃料ポンプ32は、燃料タンク31の内部に収容されているが、本発明においては、燃料タンク31の内部に収容されている必要はない。
燃料タンク31は、車両1の車体の下部側に配置されており、エンジン2で消費される燃料を補給可能に貯留するようになっている。燃料タンク31の内部の所定位置には、フィードポンプとしての燃料ポンプ32が、図示しない支持機構によって支持されている。
燃料ポンプ32は、燃料タンク31内の燃料を汲み上げて所定のフィード燃圧以上に加圧することができる吐出能力(吐出量および吐出圧)可変タイプのもので、例えば円周流ポンプによって構成されている。この燃料ポンプ32は、詳細な内部構成を図示しないが、ポンプ作動用の羽根車と、その羽根車を駆動する内蔵モータとを有している。
また、燃料ポンプ32は、内蔵モータの駆動電圧と負荷トルクとに応じてポンプ作動用の羽根車の回転速度および回転トルクのうち少なくとも一方を変化させることで、その単位時間当りの吐出能力を変化させることができるようになっている。
また、燃料供給管33は、燃料ポンプ32およびデリバリーパイプ22を相互に接続するよう、燃料タンク31内の一端からエンジン2の近傍の他端まで延びている。
吸入配管38は、燃料ポンプ32の上流側に吸入通路38aを形成しており、その吸入通路38aの最上流部分に燃料フィルタ38bが接続されている。この燃料フィルタ38bは、燃料ポンプ32に吸入される燃料をろ過する公知のものである。
なお、この燃料供給機構3は、その燃料ポンプ32が吐出量のみを可変し、燃料タンク31内に位置する燃料供給管33の一端側部分にフィード燃圧を一定に制御するプレッシャレギュレータが設けられた構成とすることもできる。
一方、燃料タンク31には、燃料タンク31から車両の側方または後方側に延びるように、給油管34が突出して設けられている。給油管34の突出方向の先端には、給油口34aが形成されている。この給油口34aは、車両1の図示しないボディに設けられたフューエルインレットボックス35内に収容されている。
また、給油管34には、燃料タンク31の上部と給油管34内の上流部分とを連通させる循環配管36が設けられている。
フューエルインレットボックス35には、燃料の給油時に外部に対して開放されるフューエルリッド37が設けられている。燃料の給油時には、このフューエルリッド37を開放し、給油口34aに着脱可能に取り付けられたキャップ34bを取り外すことにより、給油口34aから燃料タンク31内に燃料を注入できるようになっている。
燃料パージシステム4は、燃料タンク31と吸気管23との間、詳しくは燃料タンク31とサージタンク23aとの間に介装されている。
燃料パージシステム4は、燃料タンク31内で発生する蒸発燃料をエンジン2の吸気時に吸気通路23bに放出させて燃焼させることができるようになっている。
この燃料パージシステム4は、キャニスタ41(吸着器)と、キャニスタ41から燃料を脱離させて吸気管23内に放出させるパージ機構42と、パージ機構42の動作を制御するパージ制御機構45とを含んで構成されている。
キャニスタ41は、キャニスタケース41aの内部に活性炭等の吸着材41bを内蔵したものであり、燃料タンク31内に設置されている。このキャニスタ41の内部(吸着材収納空間)は、エバポ配管48および気液分離バルブ49を介して燃料タンク31内の上部空間に連通するようになっている。
したがって、キャニスタ41は、燃料タンク31内で燃料が蒸発し、燃料タンク31内の上部空間に蒸発燃料が溜まるとき、吸着材41bによって蒸発燃料を吸着することができる。また、燃料タンク31内の燃料の液面上昇や液面変動時には、逆止弁機能を有する気液分離バルブ49が浮上してエバポ配管48の先端部を閉止するようになっている。
パージ機構42は、キャニスタ41の内部を吸気管23の吸気通路23bのうちサージタンク23aの内部部分に連通させるパージ配管43と、キャニスタ41の内部を大気側、例えばフューエルインレットボックス35の内方の大気圧空間に開放させる大気配管44とを有している。
このパージ機構42は、エンジン2の運転時にサージタンク23aの内部に負圧が発生するとき、キャニスタ41の内部の一端側にパージ配管43を通して負圧を導入させつつ、キャニスタ41の内部の他端側に大気配管44を通して大気を導入させることができる。
したがって、パージ機構42は、キャニスタ41の吸着材41bに吸着されてキャニスタ41内に保持されている燃料を、キャニスタ41から脱離(放出)させてサージタンク23aの内部に吸入させることができる。
パージ制御機構45は、パージ用のバキュームソレノイドバルブ(以下、「パージ用VSV」という)46と、このパージ用VSV46を制御する電子制御ユニット(以下、「ECU」という)50と、を含んで構成されている。
パージ用VSV46は、パージ配管43の途中に設けられている。このパージ用VSV46は、パージ配管43の途中の開度を変化させることで、キャニスタ41から脱離させる燃料量を可変制御できるようになっている。
具体的には、パージ用VSV46は、その励磁電流がデューティ制御されることで開度を変化させることができ、そのデューティ比に応じたパージ率で、吸気管23内の吸気負圧によりキャニスタ41から脱離した燃料を空気と共にパージガスとしてサージタンク23a内に吸入させることができる。
ECU50には、キャニスタ温度センサ51を含む各種センサ類や、燃料ポンプ32、スロットルアクチュエータ24a、パージ用VSV46および後述する開閉弁53等の各種アクチュエータ類が接続されている。
キャニスタ温度センサ51は、例えばキャニスタ41とパージ配管43との連結部分、すなわち、キャニスタ41のパージポートの近傍に配置されている。キャニスタ温度センサ51は、そのパージポートの近傍においてキャニスタ41の内部の温度(以下、「キャニスタ内部温度Tc」という)を検出するようになっている。キャニスタ温度センサ51は、検出したキャニスタ内部温度Tcに応じた検出信号をECU50に送信するようになっている。
ECU50は、各種センサ情報に基づいて、パージ用VSV46をデューティ制御することにより、パージ率を制御することができる。
このように、燃料パージシステム4は、燃料タンク31からエンジン2への燃料供給機構3、特に、燃料タンク31内で生じた蒸発燃料を吸着するキャニスタ41と、キャニスタ41に空気を通してキャニスタ41から脱離した燃料および空気を含むパージガスをエンジン2の吸気管23内に吸入させるパージ動作を実行するパージ機構42と、パージガスの吸気管23内への吸入量を制御してエンジン2における空燃比の変動を抑制するパージ制御機構45と、を備えている。
燃料パージシステム4は、エンジン2が停止している状態であっても、燃料タンク31内で気化した蒸発燃料をキャニスタ41に吸着させることができる。また、燃料パージシステム4は、例えばエンジン2の所定の運転状態下でスロットルバルブ24の開度が予め設定された設定開度より小さい状態となるとき、パージ用VSV46を開弁させるようになっている。
ここで、本実施の形態の燃料パージシステム4におけるキャニスタ41周辺の構成について説明する。
まず、本実施の形態では、燃料フィルタ38bと燃料ポンプ32とを接続している吸入配管38の一部が、キャニスタ41の内部を通るように構成されている。
具体的には、吸入配管38は、燃料ポンプ32の吸入ポート部32aに接続するポンプ側接続部61と、燃料フィルタ38bに接続するフィルタ側接続部62と、これらポンプ側接続部61とフィルタ側接続部62との間に位置する熱伝達管部63とから構成されている。
特に、熱伝達管部63は、キャニスタ41の内部に配置されている。熱伝達管部63は、キャニスタ41の内部において例えば蛇行形状とされている。これにより、燃料ポンプ32に吸入される燃料と燃料吸着したキャニスタ41の吸着材41bとの接触面積を大きくとることができ、熱伝達量を大きくすることができる。
なお、熱伝達管部63の形状は、吸着材41bとの接触面積を大きくすることができるものであれば、蛇行形状に限らず、例えば吸着材41b内で複数経路に分岐し、これら複数経路を並列に配置した形状や渦巻き形状等、種々の形状を採用することができる。
ここで、吸入配管38の熱伝達管部63は、キャニスタケース41aに一体的に結合されており、熱伝達管部63の内壁面によって、キャニスタ41の内部通路の内壁面である熱伝達面41cが形成されている。
この熱伝達面41cは、燃料ポンプ32の作動時に燃料タンク31内で流動する燃料、特に燃料ポンプ32に吸入される燃料を吸入方向に案内することができる。また、熱伝達面41cは、燃料タンク31内の燃料のうち燃料ポンプ32に吸入される方向に流動する吸入側の燃料とキャニスタ41との間で熱伝達させることができるようになっている。
すなわち、熱伝達管部63は、その吸入側の燃料とキャニスタ41との間に温度差があるとき、熱伝達面41cにおいて良好な熱伝達がなされるとともに、熱伝達管部63から燃料を吸着した吸着材41bに良好に熱が伝達できるような低熱伝導率の金属素材等で形成されている。
また、燃料供給管33と吸入配管38との間には、燃料ポンプ32から吐出された燃料、より詳しくは、燃料ポンプ32から吐出され燃料供給管33内に供給されなかった燃料を燃料タンク31内でキャニスタ41より上流側の吸入通路38aに還流させる還流配管39が接続されている。
具体的には、還流配管39は燃料タンク31内に配置されており、還流配管39の還流方向上流側の一端が、燃料ポンプ32の吐出ポート部32cの近傍において燃料供給管33から分岐し、還流配管39の還流方向下流側の一端が、吸入配管38のフィルタ側接続部62に接続されている。
この還流配管39は、燃料ポンプ32によって吐出された燃料を燃料タンク31内で燃料ポンプ32の吸入側に還流させることができる還流機構を構成しており、本実施の形態では、燃料ポンプ32から吐出された燃料をキャニスタ41より上流側の吸入通路38a内に還流させるものとなっている。
なお、本発明にいう吸入通路は、吸入配管38の内部に形成される吸入通路38aと、この吸入通路38aと一体に連通する燃料フィルタ38bの内部の通路部分とを含む(以下、両者を併せて「吸入通路38a等」ともいう)。
つまり、ここでの吸入通路は、フィルタ38bおよび吸入配管38により取り囲まれることで、フィルタ38bおよび吸入配管38の周囲の燃料貯留領域とは区画されているが、燃料ポンプ32の吸入ポート部32aにフィルタ38bを通して燃料を吸入させることができ、フィルタ38bを通過した後の燃料を吸入方向に案内することができる通路である。
また、図1中では、還流配管39と燃料供給管33を略同等な配管として図示しているが、燃料供給管33内の燃料の最大流量に対する還流配管39内の燃料の最大流量の設定比率に応じて、還流配管39と燃料供給管33の通路断面積を相違させたり、適当な絞りを設けたりすることができる。
一方、還流配管39には、開閉弁53が設けられている。この開閉弁53は、ECU50によって開閉制御されるようになっている。
開閉弁53は、上述したパージ機構42によるパージが実行されることを条件として開弁し、パージ機構42によるパージが実行されないことを条件として閉弁するようになっている。
この開閉弁53は、ECU50からの開弁信号に基づいて開弁状態に切り替えられる常閉型のものである。具体的には、開閉弁53は、例えば圧縮スプリング等の付勢部材により弁体を常時閉弁側に付勢し、ECU50からの開弁信号に応じて電磁ソレノイドを励磁することで弁体を開弁方向に付勢する公知の常閉型の電磁弁で構成される。なお、開閉弁53は、ECU50からの閉弁信号に基づいて閉弁状態に切り替えられる常閉型のものであってもよい。
本実施の形態では、開閉弁53は、キャニスタ温度センサ51により検出されたキャニスタ内部温度Tcが予め定められた所定の温度(以下、「開弁温度To」という)未満であることを条件として、開弁させることが許可されるようになっている。例えば、開閉弁53は、燃料パージシステム4における燃料パージの実行または準備が要求される運転状態であって、キャニスタ温度センサ51によって検出されるキャニスタ内部温度Tcが開弁温度To未満であるとき、ECU50からの開弁信号により開弁駆動されるようになっている。
そして、開閉弁53がECU50からの開弁信号により開弁駆動されるとき、燃料ポンプ32の吸入側の燃料、特にフィルタ38bおよび吸入配管38の内部の燃料は、燃料ポンプ32から吐出され還流配管39を通して吸入側に還流される燃料と合流するので、燃料ポンプ32から吐出された燃料とフィルタ38bを通して吸入通路外から新たに吸入された燃料とを含むものとなる。
したがって、燃料ポンプ32から吐出された燃料を還流配管39を通して燃料タンク31内で燃料ポンプ32の吸入側に還流させるとき、キャニスタ41の熱伝達面41cは、燃料タンク31内の燃料のうち燃料ポンプ32から吐出された燃料を含んで燃料ポンプ32に吸入される方向に流動する吸入配管38および燃料フィルタ38b内の燃料とキャニスタ41との間で熱伝達させることができる。
なお、本実施の形態では、キャニスタ温度センサ51によってキャニスタ41のパージポートの近傍でキャニスタ41の内部温度を検出し、キャニスタ41の内部温度に応じて、開閉弁53の開閉制御を行うものとするが、キャニスタ41の内部温度をそれに応じて変化するキャニスタ41の内部圧力、例えばパージ開始前のキャニスタ41の内部圧力によって間接的に検出するようにしてもよい。
この場合、キャニスタ温度センサに代わる内圧センサ51によって、キャニスタ41のパージポートの近傍においてキャニスタ41の内部の圧力(以下、「キャニスタ内部圧力Pc」という)を検出する。そして、燃料パージシステム4における燃料パージの実行または準備が要求される運転状態であって、キャニスタ41の内圧センサ51により検出されたキャニスタ内部圧力Pcが予め定められた所定の圧力(以下、「開弁温度Po」という)未満であるとき、すなわち、キャニスタ内部温度Tcが開弁温度To程度に低くなっている状態であることが間接的に検出されたとき、ECU50により開閉弁53を開弁させることになる。
次に、作用について説明する。
上述のように構成された本実施の形態の蒸発燃料処理装置では、例えば、エンジン2の所定の運転状態下でスロットルバルブ24の開度が予め設定された設定開度より小さい状態になると、燃料パージが要求される状態となり、パージ要求が発生する。
このパージ要求が発生すると、ECU50は、所定時間毎に繰り返しキャニスタ41の内部温度Tcが予め定められた開弁温度To以上であるか否かを判断し、内部温度Tcが開弁温度To以上であれば、ECU50は、パージ用VSV46を開弁させてパージを実行させるとともに、パージ用VSV46によりパージ率を制御する。
このパージ実行状態においては、燃料の脱離に伴うキャニスタ41の温度低下が、相対的に高温となる吸入側の燃料からの熱により抑制されることになり、キャニスタ41の所要の脱離性能が確保される。
一方、パージ要求の発生したとき、キャニスタ41の内部温度Tcが開弁温度To未満であると判断された場合には、ECU50は、まず、燃料ポンプ32が駆動状態であることを確認するか、燃料ポンプ32を駆動状態にし、次いで、燃料ポンプ32の駆動状態下で開閉弁53を開弁させる。
また、ECU50は、開閉弁53を開弁後に再度キャニスタ41の内部温度Tcが予め定められた開弁温度To未満であるか否かを判断し、内部温度Tcが開弁温度To以上になるまで、開閉弁53の開弁状態を持続させる。
このとき、燃料ポンプ32内では、燃料加圧のための羽根車によるポンプ作動や内蔵モータ等からの受熱によって、加圧される燃料の温度が比較的高温となり、その比較的高温の燃料が燃料ポンプ32から吐出される。
そして、燃料ポンプ32からの高温の吐出燃料が還流配管39を介して吸入配管38のフィルタ側接続部62に還流されると、燃料ポンプ32の吸入側の燃料は、還流配管39を通して還流された燃料と合流して昇温されてから、熱伝達管部63内に入り、昇温後の燃料が熱伝達面41cに接触しながら吸入方向に流れる。
したがって、キャニスタ41の熱伝達面41cにおいて、燃料ポンプ32の吸入側の燃料とキャニスタ41との間で両者間の温度差や燃料吸入量(単位時間当りの流量)、熱伝達面41cの面積等に応じた熱伝達がなされることになる。
その結果、キャニスタ41の内部(燃料吸着した吸着材41b)の温度をパージ実行時に的確に上昇させるようにキャニスタ41の内部温度Tcを調節できることになり、吸着材41bに吸着されていた燃料が吸着材41bから脱離しやすくなる。
よって、本実施の形態は、キャニスタ41内部の温度Tcが燃料の脱離が容易でない温度域まで低下した状態であっても、燃料パージが必要な運転状態となるとき、開閉弁53を開弁させることにより、キャニスタ41内部の温度Tcを開弁温度Toを超える燃料脱離に適した温度に保温したり加熱したりすることができる。
また、本実施の形態は、エンジン2側で加熱された高温燃料を燃料タンク31内に戻すタンク外部のリターン配管を用いないで済む。したがって、燃料タンク内の燃料の温度が非常に高温となったリターン燃料によって過度に高まることがなく、燃料タンク31内のキャニスタ41の不要な温度上昇を抑えることができ、キャニスタ41の所要の吸着性能を適時に発揮させることができる。
すなわち、本実施の形態は、キャニスタ41の温度を的確に調節して、キャニスタ41の燃料吸着性能および燃料脱離性能を十分に発揮させることができる。
また、本実施の形態では、還流配管39は、燃料ポンプ32によって吐出された燃料を吸入配管38内に還流させるので、燃料ポンプ32から吐出された燃料がキャニスタ41より上流側の吸入配管38内に還流し、還流燃料を含む比較的高温の吸入側の燃料からキャニスタ41への熱伝達の効果が、吸入通路38a等の外部であって燃料タンク31内の比較的低温の燃料によって損なわれることがない。
さらに、前述のように、本実施の形態では、還流配管39の途中に装着された開閉弁53が、パージ機構42によって燃料パージが実行されることを条件として開弁し、パージ機構42による燃料パージが実行されないことを条件として閉弁する。したがって、必要に応じて開閉弁53を開弁させることで、キャニスタ41内部の温度を上昇させることができる。
その結果、キャニスタ41に燃料を吸着させるためにキャニスタ41内部の温度が上昇しない方が好ましいときには、開閉弁53を閉弁させてキャニスタ41内部の温度が上昇することを抑制することができる。
また、キャニスタ41から吸着燃料を脱離させるためにキャニスタ41内部の温度が低下しない方が好ましいときには、開閉弁53を開弁させてキャニスタ41内部の温度低下を抑制したり、キャニスタ41内部の温度を上昇させたりすることできる。
特に、ECU50は、キャニスタ41内の温度Tcが予め定められた開弁温度To未満であることを条件として、開閉弁53の開弁を許可する。したがって、キャニスタ41内部の温度Tcが燃料の脱離が容易でない温度域まで低下した状態で、燃料パージが必要な運転状態となるとき、開閉弁53を開弁させることにより、キャニスタ41内部の温度Tcを的確に調整できる。
または、キャニスタ41内の燃料蒸気圧相当の圧力Pcが予め定められた開弁圧力Po未満であることを条件として、開閉弁53の開弁を許可することによっても、キャニスタ41内部の温度を開弁温度Tcを超える燃料脱離に適した温度に保温したり加熱したりすることができる。
また、本実施の形態は、リターン配管が採用されていない車両に適用した場合であっても、キャニスタ41の温度を的確に調整することができる。この結果、本実施の形態は、リターン通路をエンジン2から燃料タンク31内に引きまわす必要がなくなるため、車両1に対する搭載を容易にしながら、キャニスタ41の性能を向上させることができる。特に、本実施の形態は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)車両のように、エンジンルーム内のスペースの確保が困難な車両に対して有益である。
このように、本実施の形態においては、キャニスタ41の温度を的確に調節できるようにして、キャニスタ41の性能を十分に発揮させることができる蒸発燃料処理装置を提供することができる。
(第2の実施の形態)
図2は、本発明の第2の実施の形態に係る蒸発燃料処理装置を搭載した車両の要部構成、すなわち、走行駆動用の内燃機関とその燃料供給および燃料パージを行う燃料系システムの機構を示している。
本実施の形態は、還流配管の構成が第1の実施の形態と相違するものの、他の主要構成は第1の実施の形態と同様なものである。したがって、第1の実施の形態と同様な構成要素については、図1中に示す対応する構成要素と同一の符号で示し、第1の実施の形態との相違点について、以下に説明する。
本実施の形態では、還流配管79が、燃料供給管33の上流端部に設けられた燃料フィルタ38bと燃料ポンプ32の吐出ポート部32cとの間に接続されている。
具体的には、この還流配管79は、燃料タンク31内に配置され、燃料ポンプ32の吐出側近傍の一端において燃料供給管33から分岐し、他端側において箱型に成形された燃料フィルタ38bの天井面部分に接続されている。
したがって、この還流配管79は、燃料ポンプ32によって吐出された燃料、より詳しくは、燃料ポンプ32から吐出され燃料供給管33内に供給されなかった燃料を燃料フィルタ38b内に還流させるものである。還流配管79の配管途中には、第1の実施の形態と同様、開閉弁53が設けられている。開閉弁53の開閉条件等は、第1の実施の形態と同様であるので説明を省略する。
本実施の形態においても、キャニスタ41の温度を的確に調節できるようにして、キャニスタ41の性能を十分に発揮させることができる蒸発燃料処理装置を提供することができる。
また、本実施の形態においては、吸入通路38a等の一部が、燃料ポンプ32に吸入される燃料をろ過する燃料フィルタ38bによってその内方に形成され、吸入通路38a等のうち燃料フィルタ38bの内方の通路部分に、燃料ポンプ32によって吐出された燃料が還流配管79を通して還流する。
したがって、燃料ポンプ32から吐出された燃料が吸入通路38a等の一部を形成する燃料フィルタ38b内に還流したとき、その還流燃料が合流した吸入燃料は、燃料フィルタ38bによって吸入方向と逆流する方向への流れを制限され、燃料フィルタ38bの周囲の低温の燃料によって冷却された状態で再度吸入されることがない。
この結果、還流燃料を含む比較的高温の燃料からキャニスタ41への熱伝達による燃料脱離促進の効果が、燃料フィルタ38bの周囲の低温の燃料によって損なわれることが防止される。
しかも、燃料フィルタ38b内に還流する燃料と吸入燃料とが燃料ポンプ32に吸入されるまでに十分に混合され、キャニスタ41の熱伝達面41cに接しつつキャニスタ41に熱伝達する燃料が十分に均熱化され、効率よく熱伝達可能となる。
(第3の実施の形態)
図3は、本発明の第3の実施の形態に係る蒸発燃料処理装置を搭載した車両の要部構成、すなわち、走行駆動用の内燃機関とその燃料供給および燃料パージを行う燃料系システムの機構を示している。
本実施の形態は、主として燃料タンク31内に内部タンクを設けた点で第1の実施の形態と相違するものの、他の主要構成は第1の実施の形態と同様なものである。したがって、第1の実施の形態と同様な構成要素については、図1中に示す対応する構成要素と同一の符号で示し、第1の実施の形態との相違点について、以下に説明する。
本実施の形態では、燃料タンク31の内部に略円筒状かつ有底の内部タンク80が設けられており、内部タンク80の内部に燃料を貯留させることができるようになっている。内部タンク80の形状としては、円筒状に限らず角筒状や箱型形状であってもよく、特にその形状が限定されるものではない。
内部タンク80の内部には、燃料ポンプ32、キャニスタ41および燃料フィルタ38bが収容されている。また、内部タンク80の外周部には、内部タンク80の内部と外部とを連通する連通孔80aが形成されている。この連通孔80aは、1つであってもよいし、複数であってもよい。
また、図3では、連通孔80aを給油管34から離隔した位置に設けたように図示しているが、勿論、連通孔80aは、給油管34に近い位置に設けてもよく、適宜最適な位置に設けられる。
また、連通孔80aの開口面積は、燃料ポンプ32によって内部タンク80内の燃料が吸入される際に内部タンク80内の燃料が不足することがないような最適な開口面積に設定されている。
すなわち、連通孔80aの開口面積は、燃料ポンプ32の最大吸入流量での運転下であっても、内部タンク80内の液面が内部タンク80の周囲の液面に対して大きく低下することがないように、設定されている。ここで、連通孔80aが複数である場合には、これら複数の連通孔80aの開口面積の総和が前述した最適な開口面積に設定されるよう、個々の開口面積がそれぞれ設定される。
また、本実施の形態では、本発明の第1、第2の実施の形態と異なり、還流配管89は、内部タンク80内に配置されている。この還流配管89は、燃料ポンプ32の吐出側近傍の一端側において燃料供給管33から分岐し、他端側において吸入配管38および燃料フィルタ38bのいずれにも接続せず、内部タンク80の内底部付近に下向きに開放されている。
したがって、還流配管89は、燃料ポンプ32によって吐出された燃料、より詳しくは、燃料ポンプ32から吐出され燃料供給管33内に供給されなかった燃料を内部タンク80の内底部付近の燃料フィルタ38bの周囲に還流させることができる。
また、燃料フィルタ38bの周囲は、内部タンク80の底部側の周壁部分によって、所定の径方向の間隔を隔てて取り囲まれている。燃料ポンプ32の吐出燃料のうち還流配管89を通して内部タンク80の内底部付近に流下した燃料は、燃料フィルタ38bの周囲で内部タンク80の周囲の相対的に低温の燃料からは隔てられた状態で、燃料フィルタ38bを通して燃料ポンプ32に確実に吸入されるようになっている。
また、還流配管89には、第1の実施の形態と同様、開閉弁53が設けられている。開閉弁53の開閉条件等は、第1の実施の形態と同様であるので説明を省略する。
本実施の形態では、内部タンク80内に燃料ポンプ32、キャニスタ41および燃料フィルタ38bが収納されるとともに、開閉弁53の開弁時に、燃料ポンプ32から吐出された比較的高温の燃料が還流配管89を介して内部タンク80の内底部側に還流する。
したがって、高温の燃料が内部タンク80内に留まることとなり、内部タンク80内の燃料の温度を、内部タンク80の周囲の燃料(燃料タンク31内の燃料)に比べて高温に維持することができる。
特に、還流配管89を通して内部タンク80の内底部付近に流下する燃料の大部分が燃料フィルタ38bを通して吸入される燃料の流れに合流しつつ、燃料ポンプ32に吸入される。よって、キャニスタ41の熱伝達面41cに接しつつ熱伝達する燃料が十分に昇温されることになる。
一方、開閉弁53の閉弁時には、内部タンク80の底部近傍に形成された連通孔80aを通して、内部タンク80の内底部側の燃料フィルタ38bの周囲に燃料タンク31内の比較的低温の燃料が流入し、その低温の燃料が燃料フィルタ38bを通して燃料ポンプ32に確実に吸入される。よって、キャニスタ41の熱伝達面41cに接しつつ流れる吸入燃料の温度が比較的低温に抑えられ、キャニスタ41の所要の吸着性能が確保される。
このように、本実施の形態においても、従来のものと比較して、キャニスタ41の温度を的確に調節できるようにして、キャニスタ41の性能を十分に発揮させることができる蒸発燃料処理装置を提供することができる。
また、本実施の形態においては、内部タンク80の内部、特に燃料フィルタ38bの周囲の部分が、実質的に吸入通路38a等の一部を形成していることになるから、還流配管89を燃料フィルタ38bやポンプ側接続部61に接続する必要がない。
しかも、開閉弁53の開弁時に、燃料ポンプ32から吐出された燃料が吸入通路38a等の一部を形成する内部タンク80内に還流する際、内部タンク80の周囲の低温の燃料によって冷却され難くなる。したがって、還流燃料を含む比較的高温の燃料からキャニスタ41への熱伝達による燃料脱離促進の効果が損なわれることが防止される。
(第4の実施の形態)
図4は、本発明の第4の実施の形態に係る蒸発燃料処理装置を搭載した車両の要部構成、すなわち、走行駆動用の内燃機関とその燃料供給および燃料パージを行う燃料系システムの機構を示している。
本実施の形態は、キャニスタおよびその近傍の構成が第1の実施の形態と相違するものの、他の主要構成は第1の実施の形態と同様なものである。したがって、第1の実施の形態と同様な構成要素については、図1中に示す対応する構成要素と同一の符号で示し、第1の実施の形態との相違点について、以下に説明する。
本実施の形態では、燃料ポンプ32の吸入ポート部32aに接続する吸入配管98内の吸入通路98aが、少なくともその上流部で、略直方体形状の箱型の燃料フィルタ100の内部に形成されている。
キャニスタ41は、その熱伝達面41cにより、燃料ポンプ32に吸入される燃料をろ過する燃料フィルタ100と燃料ポンプ32との間の吸入通路98aの一部の壁面を構成している。
ここで、燃料フィルタ100は、箱型形状をなすための骨格部分にメッシュ素材を装着したもの、あるいは、一定形状を保つ十分な剛性を有する箱型形状のメッシュ材で構成されたものである。そして、キャニスタ41の熱伝達面41cは、その燃料フィルタ71に取り囲まれている。
また、キャニスタ41と燃料フィルタ100との間の吸入通路98aは、キャニスタ41の全体を取り囲んでおり、キャニスタ41の熱伝達面41cは、キャニスタケース41aの上下面および外周面を含む外表面全体となっている。
さらに、燃料フィルタ100は、燃料ポンプ32に吸入される燃料がキャニスタ41の熱伝達面41cに接触しつつ、キャニスタ41の内部を均熱化できるように、キャニスタ41との間の隙間が多面体形状をなすキャニスタ41の各面毎に最適値に設定されている。
また、本実施の形態では、還流配管99が、燃料供給管33と吸入通路98aの一部として形成された燃料フィルタ100との間に接続されている。
具体的には、この還流配管99は、燃料タンク31内に配置され、燃料ポンプ32の吐出側近傍の一端側において燃料供給管33から分岐し、他端側において燃料フィルタ100の上部に接続されるか、燃料フィルタ100の内部に差し込まれている。
したがって、この還流配管99は、燃料ポンプ32によって吐出された燃料、より詳しくは、燃料ポンプ32から吐出され燃料供給管33内に供給されなかった燃料を燃料フィルタ100内に還流させるものである。還流配管99には、第1の実施の形態と同様、開閉弁53が設けられている。開閉弁53の開閉条件等は、第1の実施の形態と同様であるので説明を省略する。
本実施の形態では、開閉弁53の閉弁時には、吸入直後の比較的低温の燃料を熱伝達面41cに広範囲に接触させることができ、燃料ポンプ32に吸入される燃料によりキャニスタ41内の吸着材41bを吸着に適した温度に保持したり、パージ中の燃料脱離に伴うキャニスタ41の吸着材41bの温度低下を抑制したりすることができる。
また、開閉弁53の開弁時には、燃料ポンプ32から吐出された燃料が還流配管99を通して燃料ポンプ32の吸入通路内に還流することで、燃料ポンプ32に吸入される燃料が、順次熱伝達面41cを通してキャニスタ41に熱伝達する。したがって、燃料ポンプ32に吸入される燃料により、キャニスタ41を燃料の脱離に適した温度に的確に調節することができる。
したがって、本実施の形態においても、前述の第1の実施の形態と同様に、キャニスタ41の温度を的確に調節できるようにして、キャニスタ41の性能を十分に発揮させることができる蒸発燃料処理装置を提供することができる。
なお、前述の各実施の形態においては、熱伝達面41cがキャニスタ41内を貫通する吸入配管38の一部としての熱伝達管部63の円形断面の内周壁面として形成されていたが、任意の断面形状を採り得ることはいうまでもない。
(第5の実施の形態)
図5は、本発明の第5の実施の形態に係る蒸発燃料処理装置を搭載した車両の要部構成、すなわち、走行駆動用の内燃機関とその燃料供給および燃料パージを行う燃料系システムの機構を示している。
本実施の形態は、還流配管の構成が第1の実施の形態と相違するものの、他の主要構成は第1の実施の形態と同様なものである。したがって、第1の実施の形態と同様な構成要素については、図1中に示す対応する構成要素と同一の符号で示し、第1の実施の形態との相違点について、以下に説明する。
本実施の形態では、還流配管109が、燃料ポンプ32の吐出側近傍の一端側において燃料供給管33から分岐し、他端側において燃料タンク31の内底部付近に下向きに開放されている。
また、還流配管109の一部が、キャニスタ41の内部を通るように構成されている。具体的には、還流配管109は、燃料供給管33に接続するポンプ側接続部101と、開放側の開放部102と、これらポンプ側接続部101と開放部102との間に位置する熱伝達管部103とから構成されている。
特に、熱伝達管部103は、キャニスタ41の内部に配置されている。熱伝達管部63は、キャニスタ41の内部において例えば蛇行形状とされている。これにより、燃料ポンプ32に吸入される燃料と燃料吸着したキャニスタ41の吸着材41bとの接触面積を大きくとることができ、熱伝達量を大きくすることができる。
なお、熱伝達管部103の形状は、吸着材41bとの接触面積を大きくすることができるものであれば、蛇行形状に限らず、例えば吸着材41b内で複数経路に分岐し、これら複数経路を並列に配置した形状や渦巻き形状等、種々の形状を採用することができる。
ここで、還流配管109の熱伝達管部103は、キャニスタケース41aに一体的に結合されており、熱伝達管部103の内壁面によって、キャニスタ41の内部通路の内壁面である熱伝達面41cが形成されている。
この熱伝達面41cは、燃料ポンプ32の作動時に燃料タンク31内で流動する燃料、特に燃料ポンプ32から吐出された燃料を燃料タンク31内に案内することができる。また、熱伝達面41cは、燃料タンク31内の燃料のうち燃料ポンプ32から吐出される方向に流動する燃料とキャニスタ41との間で熱伝達させることができるようになっている。
すなわち、熱伝達管部103は、その吐出側の燃料とキャニスタ41との間に温度差があるとき、熱伝達面41cにおいて良好な熱伝達がなされるとともに、熱伝達管部103から燃料を吸着した吸着材41bに良好に熱が伝達できるような低熱伝導率の金属素材等で形成されている。
還流配管109は、燃料ポンプ32によって吐出された燃料、より詳しくは、燃料ポンプ32から吐出され燃料供給管33内に供給されなかった燃料を熱伝達管部103を介して燃料タンク31に還流させるものである。還流配管109には、キャニスタ41の上流側に、第1の実施の形態と同様な開閉弁53が設けられている。開閉弁53の開閉条件等は、第1の実施の形態と同様であるので説明を省略する。
本実施の形態においても、キャニスタ41の温度を的確に調節できるようにして、キャニスタ41の性能を十分に発揮させることができる蒸発燃料処理装置を提供することができる。
特に、本実施の形態では、還流配管109が燃料ポンプ32によって吐出された燃料をキャニスタ41の内部を介して燃料タンク31に還流させるので、燃料ポンプ32から吐出された比較的高温の燃料からキャニスタ41への熱伝達の効果が、燃料タンク31内の比較的低温の燃料によって損なわれることがない。
以上のように、本発明に係る蒸発燃料処理装置は、従来のものと比較して、吸着器の温度を的確に調節できるようにして、吸着器の性能を十分に発揮させることができるという効果を奏するものであり、特に、燃料タンク内に吸着器を設置した蒸発燃料処理装置に有用である。