以下に、本発明にかかる運転支援装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
[1.構成]
本実施の形態のECU(電子制御ユニット)の構成について図1を参照しながら説明する。図1は、本実施の形態のECUの構成を示すブロック図である。
運転者が搭乗する車両(以下、単に「自車両CA」と称する)は、少なくとも運転支援装置が搭載されている。運転支援装置は、図1に示すように、車速センサ1と、距離センサ2と、操作量センサ3と、ECU4と、出力装置5とを含んで構成されている。また、図1において、ECU4は、接近度合演算部41と、接近変化率演算部42と、操作変化率演算部43と、車両支援判定部44とを含んで構成されている。
ここで、運転操作とは、実施の形態において、例えば、自車両CAを減速させる制動操作(運転者がブレーキペダルを操作しない状態から車両を減速させる制御、運転者がブレーキペダルを操作している状態から車両をさらに減速させる制御を含む)や、自車両CAの進行方向を変更するための操舵(ステアリング操作)等である。減速制御は、例えばアダプティブクルーズコントロールに代表される自車両CAを知覚対象物TAである先行車両に追従走行させる追従制御や、プリクラッシュセーフティー(PCS)に代表される自車両CAと知覚対象物TAである自車両CAの進行方向、例えば前方に位置する障害物(動体、静止体を含む)との衝突を回避あるいは衝突時の衝撃を軽減するための衝突回避軽減制御の一部として行われる。つまり、実施の形態における自車両CAは、知覚対象物TAである前方車両と自車両CAとの衝突を回避あるいは衝突時の衝撃を軽減することを目的とする衝突回避軽減制御の一部として減速制御を行うこととなる。ここで、知覚対象物TAとは、自車両CAの外部に存在し、かつ運転者に直接、間接を問わず知覚可能な物であればよく、動体(自車両CAの周辺を走行している車両、歩行者など)、静止体(自車両CAの周辺に存在する信号機(信号機の現在の状態も含む)、一時停止などの標識、ガードレール、構造物や、これらから判別可能なコーナー、交差点など)が含まれる。
車速センサ1は、自車両CAの車速Vm〔m/s〕を検出するものである。車速センサ1は、ECU4と接続されており、検出された車速VmはECU4に出力され、ECU4が車速Vmを取得する。取得された車速Vmは、後述する接近度合演算部41または接近変化率演算部42において接近度合PRE(Perceptual Risk Estimate)または操作量Mの変化を取得する際に用いられる。ここで、車速センサ1は、実施の形態では、自車両CAの各車輪に取り付けられている車輪速センサであり、各車輪速センサが検出した各車輪の車輪速がECU4に出力され、ECU4により各車輪の車輪速に基づいて自車両CAの車速Vmが算出され、車速Vmが取得される。なお、車速センサ1は、車輪速センサに限定されるものではなく、自車両CAの動力源(例えば、エンジン、モータなど)が発生した動力を駆動輪に伝達する動力伝達経路状の回転体の回転数を検出するセンサにより検出された回転数や、GPSに代表される自車両CAの位置データを検出するセンサにより検出された位置データに基づいて自車両CAの車速Vmを算出し、車速Vmを取得しても良い。
距離センサ2は、自車両CAと知覚対象物TAとの間の実際の相対距離である実相対距離Dr〔m〕を検出するものである。距離センサ2は、ECU4と接続されており、検出された実相対距離DrはECU4に出力され、ECU4が実相対距離Drを取得する。取得された実相対距離Drは、後述する接近度合演算部41において知覚相対距離Ds〔m〕を取得する際に用いられる。ここで、距離センサ2は、実施の形態では、ミリ波を用いた検出方法により自車両CAと知覚対象物TAとの相対関係を示す相対物理量である実相対距離Dr、実相対速度Vr〔m/s〕を検出するミリ波レーダである。ミリ波レーダは、例えば自車両CAの前面部の中央部、例えばフロントグリル内に取り付けられている。ミリ波レーダは、ミリ波を出射、自車両CAの前面から進行方向の所定の範囲で出射し、自車両CAの進行方向に存在する知覚対象物TAにより反射したミリ波を受信するものである。そして、ミリ波レーダは、出射から受信までの時間を計測することによって、ミリ波レーダから自車両CAの知覚対象物TAまでの距離を算出することで実相対距離Drを検出し、ECU4に出力する。また、ミリ波レーダは、ドップラー効果を用いることで、ミリ波レーダが設けられている自車両CAの車速Vmと自車両CAの進行方向に存在する知覚対象物TAの移動速度Vtとの速度差を算出することで実相対速度Vrを検出し、ECU4に出力する。なお、距離センサ2は、ミリ波レーダに限定されるものではなく、例えばレーザや赤外線などを用いたレーダ、CCDカメラなどの撮像装置により自車両CAの進行方向を撮像した画像データに基づいて実相対距離Drを算出する画像認識装置などであっても良い。また、距離センサ2により実相対速度Vrを検出することができない場合、ECU4は、車速センサ1により検出された車速Vmと距離センサ2により検出された実相対距離Drとに基づいて実相対速度Vrを算出し、取得しても良い。この場合、検出された実相対距離Drは、ECU4において実相対速度Vrを取得する際に用いられる。
操作量センサ3は、運転者の運転操作による物理的な操作量Mを検出するものである。ここで、本実施の形態において、操作量Mとは、運転者が直接入力した操作量(ブレーキの踏み量や操舵角やシフトポジション等)のほか、操作した結果の指標(走行速度の減少量や横方向の移動量、ヨー角の変化量等)を含む。そのため、操作量Mは、必ずしも操作量センサ3によって検出されることに限られず、上述した車速センサ1によって検出されてもよいものである。なお、実施の形態において、操作量センサ3は、ECU4と接続されており、検出された操作量MはECU4に出力され、ECU4が操作量Mを取得する。取得された操作量Mは、後述する操作変化率演算部43において操作変化率ΔM/Δtを取得する際に用いられる。ここで、操作量センサ3は、実施の形態では、自車両CAに取り付けられている操舵角センサであってもよく、各操舵角センサが検出した操舵角(ステアリング角度、入力舵角)がECU4に出力され、ECU4により各車輪の角度が取得される。なお、これに限らず、操作量センサ3により検出される操作量Mは、ブレーキの踏み量(ブレーキペダルのペダルストロークやブレーキペダルに入力される踏力等に基づきブレーキペダルに対する操作量等)、シフトの位置(シフトペダルの踏込み量であるペダル開度や、シフトレバーのポジション等)、横方向の移動量、ヨーレートセンサによるヨー角等であってもよい。
ECU4は、運転者の運転感覚を考慮して推定した対象物に対する接近度合の変化(本実施の形態において接近度合変化率と呼ぶ場合がある。)と、運転者の実際の運転操作による物理的な操作量の変化(本実施の形態において操作変化率と呼ぶ場合がある。)と、に基づいて、車両支援制御を実施するか否か又は車両支援内容を決定するものである。ECU4は、接近度合演算部41、接近変化率演算部42、操作変化率演算部43、および、車両支援判定部44としての機能を有するものである。なお、ECU4のハード構成は、主に演算処理を行うCPU(Central Processing Unit)、プログラムや情報を格納するメモリ(SRAMなどのRAM、EEPROMなどのROM(Read Only Memory))、入出力インターフェースなどから構成され、既知の車両に搭載されるECUと同様であるため、詳細な説明は省略する。
接近度合演算部41は、運転者の運転感覚を考慮して推定した対象物に対する接近度合を取得するものである。自車両CAの運転者は、実相対距離Drが遠いほど相対距離が実相対距離Drよりも近いと錯覚を生じる。例えば、自車両CAの進行方向に等間隔に並んでいる電柱を見たとき、電柱が遠方に位置するほど電柱の間隔が狭く見えるため、遠方の電柱の位置を実際の位置よりも近くにあると錯覚する。従って、取得された実相対距離Drに基づいて車両制御を行えば、例えば実相対距離Drが遠くなると自車両CAの運転者の知覚に基づいた車両の操作(操作タイミングや操作量)と異なる制御タイミングや制御量で車両制御が行われる虞がある。そこで、接近度合演算部41は、実施の形態では、入力値である実相対距離Drに基づいて運転者の知覚による知覚対象物TAと自車両CAとの相対距離である知覚相対距離Dsを取得する。すなわち、接近度合演算部41は、物理的な実相対距離Drに距離の誤差を補正することで、知覚相対距離Dsを取得する。一例として、接近度合演算部41は、取得された実相対距離Drと、下記の式(1)とに基づいて知覚相対距離Dsを算出する。
Ds=Drn …(1)
ここで、nは、0<n<1の範囲である。
知覚相対距離Dsは、取得された実相対距離Drと、上記の式(1)とに基づいて算出されると、取得された実相対距離Drをそのまま知覚相対距離Dsとする場合と比較して、取得された実相対距離Drが遠いほど実相対距離Drよりも小さい値となる。つまり、知覚相対距離Dsが反映された制御値に基づいて車両制御を行うことで、自車両CAの運転者の知覚にあった車両制御を行うことができる。従って、運転支援装置により行われる車両制御が運転者の感覚にあったものとなり、車両制御における運転者の違和感を抑制することができる。
ここで、自車両CAの運転者による相対距離に対する錯覚においては、自車両CAと知覚対象物TAとが接近した際に、運転者が知覚対象物TAの接近を許容できない最大相対距離D0〔m〕を考慮しても良い。つまり、取得された実相対距離Drが遠いほど実相対距離Drよりも小さい値とするとともに、最大相対距離D0未満の値とならないように知覚相対距離Dsを算出し、算出された知覚相対距離Dsに基づいて車両制御を行えば、車両制御における運転者の違和感をさらに抑制することができる。
例えば、知覚相対距離Dsは、取得された実相対距離Drと、自車両CAと知覚対象物TAとが接近した際に、運転者が知覚対象物TAの接近を許容できない最大相対距離D0〔m〕と、下記の式(2)とに基づいて算出しても良い。ここで、最大相対距離D0は、4程度が好ましい。aは、20程度が好ましい。なお、最大相対距離D0は、一定値として予め設定されていても良く、自車両CAの運転者ごとに設定されても良い。
Ds=a・log(Dr/D0) …(2)
知覚相対距離Dsは、取得された実相対距離Drと、設定された最大相対距離D0と、上記の式(2)とに基づいて算出されると、取得された実相対距離Drをそのまま知覚相対距離Dsとする場合と比較して、取得された実相対距離Drが遠いほど実相対距離Drよりも小さい値となるとともに、最大相対距離D0未満の値とならない。つまり、知覚相対物理量である知覚相対距離Dsに基づいて車両制御を行えば、自車両CAの運転者の知覚にあった制御タイミングや制御量で車両制御をさらに行うことができる。従って、運転支援装置により行われる車両制御が運転者の感覚にあったものとなり、車両制御における運転者の違和感をさらに抑制することができる。
また、接近度合演算部41は、実施の形態では、入力値である実相対速度Vrに基づいて運転者の知覚による知覚対象物TAと自車両CAとの相対速度である知覚相対速度Vsを取得する。自車両CAの運転者は、自車両CAの車速Vmが速いほど、相対速度が実相対速度Vrよりも速いと錯覚を生じる。例えば、自車両CAが一般道路を時速40km/h程度で走行している場合と、自車両CAが高速道路を時速100km/h程度で走行している場合とでは、実相対距離Drが同一であれば、自車両CAが高速道路を走行している場合のほうが一般道路を走行している場合よりも相対速度が速いと錯覚する。従って、取得された実相対速度Vrに基づいて車両制御を行えば、例えば自車両CAの車速Vmが速くなると自車両CAの運転者の知覚に基づいた自車両CAの操作(操作タイミングや操作量)と異なる制御タイミングや制御量で車両制御が行われる虞がある。そこで、接近度合演算部41は、実施の形態において、運転者に知覚可能な知覚対象物TAと自車両CAとの相対関係を示す相対物理量である相対速度を運転者の知覚に基づいた値にするために、取得された自車両CAの車速Vmが速いほど実相対速度Vrよりも大きい値に知覚相対速度Vsを算出する。例えば、接近度合演算部41は、実施の形態では、取得された実相対速度Vrと、取得された自車両CAの車速Vmと、下記の式(3)とに基づいて知覚相対速度Vsを算出する。
Vs=Vr+αVm …(3)
ここで、αは、0<n<1の範囲である。なお、実相対速度Vrは、実施の形態では、知覚対象物TAと自車両CAとが接近する方向をプラスとする。
知覚相対速度Vsは、取得された実相対速度Vrと、取得された自車両CAの車速Vmと、上記の式(3)とに基づいて算出されると、自車両CAの車速Vmが速いほど、取得された実相対速度Vrよりも大きい値となる。つまり、知覚相対物理量である知覚相対速度Vsが反映された制御値に基づいて、すなわち知覚相対速度Vsに基づいて車両制御を行うことで、自車両CAの運転者の知覚にあった車両制御を行うことができる。従って、運転支援装置により行われる車両制御が運転者の感覚にあったものとなり、車両制御における運転者の違和感を抑制することができる。
ここで、自車両CAの運転者による相対速度に対する錯覚は、上記自車両CAの車速Vmが主な原因であるが相対物理量である知覚対象物TAと自車両CAとの相対加速度も原因となる。つまり、実相対速度Vrと、自車両CAの車速Vmと、実相対加速度Ar(m/s2)とに基づいて、知覚相対速度Vsを算出し、算出された知覚相対速度Vsに基づいて車両制御を行えば、車両制御における運転者の違和感をさらに抑制することができる。
接近度合演算部41は、上述の例のように演算した知覚相対距離Dsおよび知覚相対速度Vsに基づいて、知覚対象物TAに対する接近度合変化率PREを取得する。例えば、接近度合演算部41は、運転者が障害物等の知覚対象物TAに接近している際、以下の式(4)に示すように、運転者が認識する衝突リスクとして、前後方向の接近度合PREを演算する。
PRE(t)=Vs/Ds …(4)
ここで、自車両CAの運転者による相対速度に対する錯覚は、上記自車両CAの車速Vmが主な原因であるが相対物理量である知覚対象物TAと自車両CAとの相対加速度も原因となる。つまり、実相対速度Vrと、自車両CAの車速Vmと、実相対加速度Ar(m/s2)とに基づいて、知覚相対速度Vsを算出し、算出された知覚相対速度Vsに基づいて車両制御を行えば、車両制御における運転者の違和感をさらに抑制することができる。
例えば、知覚相対速度Vsは、取得された実相対速度Vrと、取得された自車両CAの車速Vmと、実相対加速度Arと、下記の式(5)とに基づいて算出しても良い。ここで、実施の形態において、βは、0<δ<3の範囲であり、1.0程度が好ましい。なお、実相対加速度Arは、実施の形態では、知覚対象物TAと自車両CAとが接近する方向をプラスとする。なお、実相対加速度Arは、実相対距離Dr、自車両CAの車速Vm、実相対速度Vr、算出あるいはセンサにより検出された自車両CAの加速度などに基づいてECU4により算出することができる。
Vs=Vr+αVm+βAr …(5)
従って、実施の形態において、接近度合演算部41は、以下の式(6)に基づいて、前後方向の接近度合PREを演算してもよい。
PRE(t)={Vr(t)+αVm(t)+βAr(t)}/Dr(t)n …(6)
ここで、Drは、実相対距離(m)であり、Vmは、自車両CAの車速(m/s)であり、Vrは、実相対速度(m/s)であり、Arは、知覚対象物TAとの実相対加速度(m/s2)である。αは、自車両CAの車速Vmに対する感度(定数)であり、βは、知覚対象物TAの減速時に対する反応時間(定数)であり、nは、運転者の距離知覚補正定数である。なお、上述した式の記号と同一の記号については同様の入力値や定数を適用してもよい。
接近変化率演算部42は、接近度合演算部41により演算された接近度合PREの時間変化、すなわち接近度合変化率ΔPREを演算するものである。例えば、接近変化率演算部42は、以下の式(7)に基づいて、前後接近感覚のPRE変化率を算出する。
ΔPRE=ΔPRE/Δt=PRE(t2)−PRE(t1) …(7)
ここで、Δt=t2−t1である。
操作変化率演算部43は、操作量Mの時間変化、すなわち操作変化率ΔM/Δtを演算するものである。実施の形態において、操作変化率演算部43は、以下の式(8)に基づいて、操作量センサ3により取得される操作量Mの時間変化ΔMを演算する。
ΔM=ΔM/Δt=PRE(t2)−PRE(t1) …(8)
ここで、Δt=t2−t1である。
車両支援判定部44は、接近変化率演算部42により演算された接近度合変化率ΔPREと、操作変化率演算部43により演算された操作変化率ΔM/Δtと、に基づいて、車両支援制御を実施するか否か又は車両支援内容を決定する車両制御を行うものである。上述のように、自車両CAの運転者は、相対距離や相対速度などの相対物理量に対して錯覚を生じる。自車両CAの運転者の知覚に基づいた自車両CAの操作時(自車両CAに備えられている運転者が操作する操作対象物である図示しないブレーキペダルやステアリングホイールの操作時)における実相対距離Drと実相対速度Vrとの関係は、自車両CAの車速Vmによって一定ではなく、自車両CAの車速Vmが同一であっても一定ではない。従って、運転者の操作量Mとの関係で、取得された実相対距離Drと取得された実相対速度Vrとの比である実相対比が一定であるとして車両制御を行っても、自車両CAの運転者の知覚に基づいた車両の操作(操作タイミングや操作量)と異なる制御タイミングや制御量で車両制御が行われる虞がある。そこで、車両支援判定部44は、運転者の運転感覚を考慮して推定した対象物に対する接近度合変化率ΔPREと、運転者の操作変化率ΔM/Δtとの関係に基づいて、車両支援制御を実施するか否か又は車両支援内容を決定する。操作量Mとの関係で、接近度合PREの時間変化は、同一運転者であれば一定値となる。つまり、自車両CAの運転者は、通常、知覚対象物TAと自車両CAが接近するまでの時間変化と操作量の時間変化が一定となるように、自車両CAの操作を行っている。従って、操作量Mおよび接近度合PREの時間変化の関係で車両制御を行うことで、接近度合PREを算出するために用いられたパラメータ、例えば、相対距離、相対速度、自車両CAの車速Vm、相対加速度、知覚対象物TAの加速度Apが変化しても、自車両CAの運転者の知覚にあった車両制御を行うことができる。従って、運転支援装置により行われる車両制御が運転者の感覚にあったものとなり、車両制御における運転者の違和感を抑制することができる。
一例として、車両支援判定部44は、実施の形態では、接近度合変化率ΔPREおよび操作変化率ΔM/Δtの関係で領域判定を行い、車両制御を行うものである。ここで、図2は、接近度合変化率ΔPREおよび操作変化率ΔM/Δtの関係に基づく判定方法の一例を模式的に示した図である。
図2に示すように、車両支援判定部44は、接近度合変化率ΔPREが設計値以上であるか否か、および、操作変化率ΔM/Δtが設計値以上であるか否かによって、4領域を判定し、各領域に応じた車両制御を行う。例えば、車両支援判定部44は、接近度合変化率ΔPREが設計値未満である場合、運転者に余裕感があるとして、操作変化率ΔM/Δtが設計値以上であり操作度合が通常より早い場合(領域1)であっても、操作変化率ΔM/Δtが設計値未満であり操作度合が通常通りである場合(領域2)であっても、車両支援制御を行わない。
一方、接近度合変化率ΔPREが設計値以上であり、運転者に余裕感がない場合、車両支援判定部44は、操作変化率ΔM/Δtに応じた車両支援内容で車両支援制御を行う。より具体的には、車両支援判定部44は、接近度合変化率ΔPREが設計値以上であって、操作変化率ΔM/Δtが設計値未満である場合(領域4)に、通常時の車両支援制御を行う。そして、車両支援判定部44は、接近度合変化率ΔPREが設計値以上であって、操作変化率ΔM/Δtが設計値以上である場合(領域3)に、PCS(Pre−Crash SafetyまたはPre−Collision System)制御等の緊急時の車両支援制御を行う。
ここで、設計値は、一定値として予め設定されていても良く、運転者あるいは自車両CAの走行環境の少なくともいずれか一方に基づいて変更しても良い。設計値が一定値の場合は、実施の形態では、例えば、運転者ごとに、相対距離、相対速度、自車両CAの車速Vm、相対加速度、知覚対象物TAの加速度Apを種々変更した状態での自車両CAのブレーキペダルやステアリングホイール等の操作時における操作量Mならびに実相対距離Drおよび実相対速度Vrをサンプリングし、サンプリングに基づいて実接近度合PRErと操作変化率ΔM/Δtを算出し、その平均値などに基づいて予め設定することができる。また、設計値を自車両CAの運転者に基づいて変更する場合は、自車両CAに備えられている運転者が操作する操作対象物の操作時における操作量ならびに実相対距離Drおよび実相対速度Vrに基づいて行う。例えば、ブレーキ操作が早い運転者は、遅い運転者よりも実接近度合PRErが大きくなるので、設計値は、実施の形態では、自車両CAを運転する複数の運転者に対応させるために、運転者ごとに設定し、自車両CAを運転する運転者に応じて変更する。従って、自車両CAを運転する運転者が複数人いても、運転者ごとに設計値が変更されるので、運転者ごとの違和感を抑制することができる。なお、設計値を自車両CAの走行環境に基づいて変更する場合は、自車両CAの走行環境に応じて運転者が感じるストレスの強度に基づいて行う。ここで、走行環境としては、自車両CAが走行している道路の種類、混雑状況、路面状況、天候、視界などがある。例えば、設計値は、自車両CAが走行している道路が一般道路、渋滞、スリップしやすい路面、悪天候、視界不良などに応じて設定する。つまり、自車両CAの走行環境、例えば運転者のストレス強度に基づいて、設計値を変更することができる。従って、自車両CAの走行環境に対する運転者の知覚の変化に車両制御を追従させることができ、運転者の違和感を抑制することができる。
なお、車両支援判定部44は、操作変化率ΔM/Δtとの関係で接近度合変化率ΔPREを車両支援制御の制御タイミングに関する制御値とし、制御値に基づいて車両支援制御の制御タイミングを決定してもよい。つまり、実施の形態では、操作変化率ΔM/Δtに対する接近度合変化率ΔPREに基づいて制御タイミングが判定されるので、自車両CAの運転者の知覚にあった制御タイミングで車両支援制御を行うことができる。ここで、車両支援判定部44は、接近度合変化率ΔPREが小さい場合に車両支援制御を実施せず、接近度合変化率ΔPREが大きい場合に車両支援制御を実施してもよい。また、車両支援判定部44は、操作変化率ΔM/Δtが小さい場合に通常時の車両支援内容にて車両支援制御を実施し、操作変化率ΔM/Δtが大きい場合に緊急時の車両支援内容にて車両支援制御を実施してもよい。また、車両支援判定部44は、通常時の車両支援内容にて車両支援制御を実施する場合、操作変化率ΔM/Δtが小さいほど強い車両支援制御を実施してもよい。また、車両支援判定部44は、運転者の実際の運転操作が制動回避操作である場合に、接近度合変化率ΔPREと、操作変化率ΔM/Δtと、に基づいて、制動回避操作を支援する車両支援制御を実施するタイミングを決定してもよい。また、車両支援判定部44は、運転者の実際の運転操作が操舵回避操作である場合に、接近度合変化率ΔPREと、操作変化率ΔM/Δtと、に基づいて、操舵回避操作を支援する車両支援制御を実施するタイミングを決定してもよい。
出力装置5は、車両支援制御を実際に行うものであり、例えば、実施の形態では、光や音や振動等により運転者に対して報知を行う出力のほか、減速制御や操舵制御等の車両支援制御を行うものである。例えば、減速制御を行う場合、出力装置5は、実施の形態では、運転者のブレーキペダルの操作により発生した制動力を自車両CAに作用させるブレーキ装置である。出力装置5は、車両支援判定部44により判定された内容の減速制御を制御量、例えば加速度、制動力などに基づいて開始する。従って、出力装置5は、制御量に基づいて自車両CAを減速する。なお、制御量は、ECU4により自車両CAの運転状態(実相対距離Dr、実相対速度Vr、自車両CAの車速Vmなど)に基づいて取得されるものである。制御量の取得方法は、既知であるのでその説明は省略する。なお、出力装置5は、ブレーキ装置のみならず、制動力のように、自車両CAに発生している駆動力を減少させ、自車両CAを減速させるものであってもよく、上述のように操舵支援を行うものであってもよい。例えば、自車両CAに搭載されているエンジン(出力制御により出力を減少させることで自車両CAを減速可能)、自車両CAの動力伝達経路に配置されている変速機(変速制御によりエンジンからの出力を駆動輪に変化させて伝達でき、フューエルカット時におけるエンジンが発生するフリクションを変化させることができるので自車両CAを減速可能)、自車両CAに搭載されている動力源としてのモータ(駆動制御により回生制動を行うことで自車両CAを減速可能)、エンジンの出力により駆動する補機類(駆動制御によりエンジンに与える負荷を増加することで自車両CAを減速可能)などであっても良い。また、ブレーキ装置とこれら(エンジン、モータ、補機類など)とを組み合わせて出力装置5としても良い。
ここで、出力装置5は、車両支援判定部44により緊急時の車両支援制御を判定された場合、PCS制御を実施してもよい。具体的には、出力装置5は、図示しない車載カメラやミリ波レーダにより障害物を感知して衝突に備える各種処理(運転者への警告やブレーキの補助操作など)を行う。また、出力装置5は、衝突に備える各種処理として、車両CAに備えられた乗員の保護を行うことのできる乗員保護装置を駆動させるようにしてもよい。乗員保護装置の役割を果たすアクチュエータとしては、運転者の制動操作に対する制動力をアシストするブレーキアシストに用いるアクチュエータや、シートベルトの巻取り動作を行うシートベルト巻取りモータ等がある。
[2.動作]
次に、運転支援装置による車両制御方法について説明する。図3は、実施の形態にかかる運転支援装置による車両制御方法を示す制御フロー図である。なお、運転支援装置による車両制御方法は、例えばECU4により予め記憶されている車両制御プログラムを実行することで実現される。また、車両制御プログラムは、所定の制御周期で実行される。従って、運転支援装置による車両制御方法は、自車両CAが走行中に繰り返し行われる。なお、この例では、障害物等の知覚対象物TAに接近している時の運転者の操作を観察し、運転感覚を補正した前後方向の接近度合PREの変化と、物理的な変化量Mの変化との関係から、運転者が衝突リスクを緩和するための操作度合が通常通りかを推定し、支援領域を判定する。
図3に示すように、まず、運転支援装置のECU4は、上述のように、自車両CAの車速Vm、実相対距離Dr、実相対速度Vr、知覚対象物TAの加速度Ap等を取得する接近情報のセンシングとともに、操作量Mを取得する(ステップSA−1)。
次に、接近度合演算部41は、接近度合PRE(t)を演算する(ステップSA−2)。ここでは、接近度合演算部41は、知覚相対距離Dsおよび知覚相対速度Vsの比を接近度合PREとして算出する。例えば、接近度合演算部41は、上述のように取得された車速Vm、実相対距離Dr、実相対速度Vr、加速度Apと、上記の式(6)とに基づいて接近度合PRE(t)を算出する。
次に、車両支援判定部44は、接近度合PREがトリガー値を越えるか否かを判定する(ステップSA−3)。ここで、トリガー値は、運転者が衝突リスクを感じると推定される接近度合の閾値である。
次に、ECU4は、車両支援判定部44により接近度合PREがトリガー値を超えると判定する(ステップSA−3肯定)と、接近変化率演算部42は、PRE(t)の変化率であるΔPREを演算し、操作変化率演算部43は、操作量Mの変化率であるΔMを演算する(ステップSA−4)。ここでは、ECU4は、接近度合PREに基づいて所定の条件を満たすと、以降の処理において、接近度合変化率ΔPREと操作変化率ΔM/Δtに応じた車両支援制御を実行する。なお、後述するが、接近度合変化率ΔPREと操作変化率ΔM/Δtの関係によっては、車両支援制御を行わない場合もある。
ここでは、車両支援判定部44は、接近度合PREがトリガー値を超えるか否かを判定することで、接近度合PREに基づいて車両支援制御の判定が開始可能か否かを判定する。なお、ECU4は、車両支援判定部44により接近度合PREがトリガー値を越えないと判定する(ステップSA−3否定)と、今回の制御周期を終了し、次回の減速制御に移行する。
接近変化率演算部42が接近度合変化率ΔPREを演算し、操作変化率演算部43が操作変化率ΔM/Δtを演算すると(ステップSA−4)、車両支援判定部44は、接近度合変化率ΔPREおよび操作変化率ΔM/Δtに基づいて、車両支援制御を実施するか否か又は車両支援内容を決定するための支援領域を判定する(ステップSA−5)。例えば、車両支援判定部44は、上述した図2に示すように、接近度合変化率ΔPREが設計値以上であるか否か、および、操作変化率ΔM/Δtが設計値以上であるか否かによって、4領域を判定し、各領域に応じた車両制御を行う。
以上のように、実施の形態にかかる車両制御方法では、運転者の運転感覚を考慮して推定した対象物に対する接近度合変化率ΔPREと、運転者の実際の運転操作による物理的な操作変化率ΔM/Δtと、の関係に基づいて、車両支援制御を実施するか否か又は車両支援内容を決定する。これにより、運転者の運転感覚を考慮した接近度合の変化と実際の物理的な操作量の変化の関係に基づいて車両支援制御を行うこととなり、自車両CAの前後方向を中心とした外部環境に関する少ないセンサ構成による簡易な構成にて、運転者の操作感覚や操作意図にあわせた運転支援を実施することができる。ここで、運転者は、接近度合変化率ΔPREが大きいと衝突リスクに伴うギリギリ感を感じ、それに応じた車両を操作(制動回避や操舵回避等)するが、操作変化率ΔM/Δtが小さくゆっくりとした車両操作であれば、通常時の車両支援制御でよい。一方、操作変化率ΔM/Δtが大きく速い車両操作であり異常な操作度合だと判定すれば、緊急時の車両支援制御を行う。従って、接近度合PREの時間変化と操作量Mの時間変化の関係で、車両制御を行うので、車両制御を運転者が車両を操作する感覚にあったものとすることができる。また、運転者毎や外部環境に応じてパラメータを適合させることにより、個人間差や個人内差を吸収することができる。
[3−1.実用例1]
つづいて、車両支援制御開始の判定方法の実用例1について説明する。この実用例1では、先行車両等の知覚対象物TAに接近している時に、運転者が制動回避と操舵回避を組み合せて操作している場合に、当該車両操作に応じた支援領域の判定方法を提供する。
例えば、接近度合演算部41は、下記の式(9)に基づいて、制動回避および操舵回避の両方を考慮して補正した接近度合PREを演算する。
PRE(t)=制動PRE(t)+K1×操舵PRE(t) …(9)
ここで、K1は設計値(パラメータ)である。
ここで、制動PRE(t)および操舵PRE(t)は、以下の式(10)および(11)にて求められる。
ここで、Dは、実相対距離(m)であり、Vmは、自車両CAの車速(m/s)であり、Vrは、実相対速度(m/s)であり、Arは、知覚対象物TAとの実相対加速度(m/s
2)である。αは、自車両CAの車速Vmに対する感度(定数)であり、βは、知覚対象物TAの減速時に対する反応時間(定数)であり、nは、運転者の距離知覚補正定数である。なお、上述した式の記号と同一の記号については同様の入力値や定数を適用してもよい。
また、操作変化率演算部43は、下記の式(12)または(13)に基づいて、制動回避および操舵回避の両方を考慮した操作量Mの変化量ΔMを演算する。
運転操作の変化量ΔM=制動操作の変化量ΔMbrk(t)+K2×操舵操作の変化量ΔMstr(t) …(12)
操作結果の変化量ΔM=制動結果の変化量ΔMbrk(t)+K3×操舵結果の変化量ΔMstr(t) …(13)
ここで、K2およびK3は、設計値(パラメータ)である。
なお、実施の形態において、制動操作の変化量ΔMbrk(t)は、ブレーキペダルの踏み角度の変化量であり、制動結果の変化量ΔMbrk(t)は、走行速度の減少量である。また、実施の形態において、操舵操作の変化量ΔMstr(t)は、操舵角度の変化量であり、操舵結果の変化量ΔMstr(t)は、白線と車両とのヨー角度の変化量である。
以上のように、ECU4は、制動回避および操舵回避の両方を考慮した接近度合PREの変化および操作変化率ΔM/Δtを演算すると、車両支援判定部44の制御により車両支援制御開始のためのタイミングを制御する。ここで、図4は、接近度合変化率ΔPREおよび操作変化率ΔM/Δtの関係に基づく車両支援制御開始の判定方法の一例を模式的に示した図である。
図4に示すように、車両支援判定部44は、接近度合変化率ΔPREおよび操作変化率ΔM/Δtに基づいて領域判定を行い、操作度合が通常通りまたは早いと判断した場合(未支援領域)は、車両支援制御を行わない。一方、接近度合変化率ΔPREおよび操作変化率ΔM/Δtに基づいて領域判定を行い、操作度合が適切でなく不足していると判定した場合(支援領域)は、車両支援制御を開始する。
以上のように、実用例1にかかる判定方法では、自車両CAの前後方向の制動操作だけではなく、運転者が制動回避と操舵回避の両方を考慮して判定を行うので、自車両CAが先行車両に対して追い越し運転を行っている場合等にも運転者に違和感の少ない車両支援制御を行うことができる。
[3−2.実用例2]
つづいて、車両支援内容の決定方法の実用例2について説明する。ここでは、衝突リスクが未だ低い時に、運転者の操作感覚や操作意図に合った車両支援制御を行うことを目的とする。具体的には、実用例2では、知覚対象物TAに接近している時に、運転感覚を補正した前後方向の接近度合の変化と、物理的な操作量の変化との関係に基づいて、通常時の支援内容を決定する。
ここで、図5は、接近度合変化率ΔPREおよび操作変化率ΔM/Δtの関係に基づく車両支援内容の決定方法の一例を模式的に示した図である。
図5に示すように、車両支援判定部44は、接近度合変化率ΔPREおよび操作変化率ΔM/Δtに基づいて領域判定を行い、操作度合が通常通りまたは早いと判断した場合(未支援領域)は、車両支援制御を行わない。一方、接近度合変化率ΔPREおよび操作変化率ΔM/Δtに基づいて領域判定を行い、操作度合が適切でなく不足していると判定した場合(支援領域)は、車両支援制御を開始する。ただし、車両支援制御を実施するにあたって、車両支援判定部44は、図5に示すように、領域判定結果から車両支援内容(支援レベル1〜支援レベルi〜支援レベルn)を決定する。例えば、車両支援判定部44は、操作変化率ΔM/Δtが小さいほど強い車両支援制御を実施する車両支援内容を決定してもよい。
例えば、支援レベル1の場合、運転者の操作意図はあるが操作度合や操舵度合が少し不足していると推定される。よって、光や音や振動等で運転者に報知する場合に、低い強さや周波数で出力する車両支援内容を決定する。なお、制動回避や操舵回避等の操作支援を行う場合には、強さの弱いもしくは支援を行わない車両支援内容を決定する。一方、支援レベルnの場合、運転者の操作意図はあるが操作度合や操舵度合が大きく不足していると推定される。よって、光や音や振動等で運転者に報知する場合に、高い強さや周波数で出力する車両支援内容を決定する。なお、制動回避や操舵回避等の操作支援を行う場合には、強さの高い支援を行う車両支援内容を決定する。このように、支援レベルiの場合に(1≦i≦n)、そのレベルに応じた強さや高さで、車両支援内容を決定する。
以上のように、実用例2にかかる車両支援内容の決定方法では、衝突リスクが未だ低い時から高い時まで、運転者の接近感覚に応じた支援レベルで、繋がり感のあるシームレスな車両支援内容を決定することができる。したがって、運転者の操作意図に合った分かり易い車両支援制御が実現できる。
[3−3.実用例3]
つづいて、横方向の知覚対象物TA(歩行者等)の動きを考慮した車両支援制御の判定方法の実用例3について説明する。横方向に移動する障害物に抵触しないような進行経路を算出するためには、精度の高い周辺情報の取得が求められるが、センサの搭載等のシステムの設定やコスト面で制限がある。そこで、この実用例3では、横方向に移動する障害物への接近時に、運転感覚を補正した前後方向の接近度合の変化ΔPREと、物理的な操作量の変化ΔMとの関係から、現時点の運転者の制動回避の度合が通常通りか否かを推定し、衝突リスク軽減のための車両支援制御を行う。ここで、図6は、本実用例3で想定する障害物の移動方向と自車両CAの移動方向を示す図である。
図6に示すように、自車両CAがt1時からt2時にかけて前後方向に移動する間に、障害物は、横方向に移動する。したがって、本実用例3では、仮想的な衝突ポイントを考慮して、運転者の運転感覚を補正した接近度合PREを求める。
例えば、接近度合演算部41は、以下の式(14)に基づいて、接近度合PRE(t)を演算する。
ここで、Dは、実相対距離(m)であり、Vmは、自車両CAの車速(m/s)であり、Vrは、前後方向の実相対速度(m/s)である。ここで、Vr=Vm−Vp(知覚対象物TAの前後速度)であるが、本実施例3ではVp=0であるので、Vr=Vmとなる。また、Asは、自車両CAの加速度(m/s
2)であり、Arは、知覚対象物TAとの実相対加速度(m/s
2)である。ここで、Ar=As−Ap(知覚対象物TAの前後減速度)であるが、本実施例3ではAp=0であるので、Ar=Asとなる。αは、自車両CAの車速Vmに対する感度(定数)であり、βは、知覚対象物TAの反応時間(定数)であり、nは、運転者の距離知覚補正定数である。なお、上述した式の記号と同一の記号については同様の入力値や定数を適用してもよい。
なお、接近変化率演算部42は、以下の式(15)に基づいて、接近度合変化率ΔPREを演算する。
ΔPRE=ΔPRE(ΔT)=ΔPRE/ΔT=PRE(t2)−PRE(t1) …(15)
ここで、ΔT=t2−t1である。
また、操作変化率演算部43は、以下の式(16)または(17)に基づいて、制動回避操作もしくは制動した結果の変化量ΔMを演算する。
制動回避操作の変化量ΔM=Δμ(ΔT)=│μ(t2)−μ(t1)│/ΔT …(16)
ここで、μは、その時点でのブレーキペダルの踏み角度である。
制動回避操作の結果の変化量ΔM=ΔV(ΔT)=V(t2)−V(t1) …(17)
ここで、V(t)は、t時点における車両の速度(m/s)である。
以上のように、ECU4は、横方向の障害物の移動を考慮した接近度合PREの変化および操作変化率ΔM/Δtを演算すると、車両支援判定部44の制御により車両支援制御開始のためのタイミングを制御する。ここで、図7は、接近度合変化率ΔPREおよび操作変化率ΔM/Δtの関係に基づく車両支援制御開始の判定方法の一例を模式的に示した図である。
図7に示すように、車両支援判定部44は、接近度合変化率ΔPREおよび操作変化率ΔM/Δtに基づいて領域判定を行い、操作度合が適切でなく不足していると判定した場合(支援領域)は、車両支援制御を開始する。
以上のように、実用例3にかかる車両支援内容の決定方法では、道路を横断するような自車両CAに対して横方向に移動する知覚対象物TAを考慮して、運転者の接近感覚に応じた車両支援制御を行うことができる。したがって、運転者の操作意図に合った分かり易い車両支援制御を提供することができる。
[3−4.実用例4]
つづいて、先行車両等の知覚対象物TAを追い越す場面を考慮した車両支援制御の判定方法の実用例4について説明する。周辺の知覚対象物TAに抵触しないような進行経路を産出するためには、周辺情報を取得するセンサの構成が複雑になり計算負担も大きいという問題がある。そこで、この実用例4では、前方に移動する障害物への接近時に、運転感覚を補正した前後方向の接近度合の変化ΔPREと、物理的な操作量の変化ΔMとの関係から、運転者の操舵回避の度合を推定し、衝突リスク軽減のための車両支援制御を行う。ここで、図8は、本実用例4で想定する先行車両と自車両CAの移動方向を示す図である。
図8に示すように、t1時からt2時にかけて、自車両CAは先行車両を追い越すため前方に移動している。その際、運転者は、通常、操舵回避を行って先行車両との衝突を防いでいる。本例では、このような前方に移動する障害物への接近時に、運転感覚を補正した前後方向の接近度合の変化を考慮する。
一例として、接近度合演算部41は、以下の式(18)に基づいて、接近度合PRE(t)を演算する。
ここで、Dは、実相対距離(m)であり、Vmは、自車両CAの車速(m/s)であり、Vrは、実相対速度(m/s)であり、Apは、知覚対象物TAとの実相対加速度(m/s
2)である。αは、自車両CAの車速Vmに対する感度(定数)であり、βは、知覚対象物TAの反応時間(定数)であり、nは、運転者の距離知覚補正定数である。なお、上述した式の記号と同一の記号については同様の入力値や定数を適用してもよい。
なお、接近変化率演算部42は、上述した式(15)に基づいて、接近度合変化率ΔPREを演算する。
また、操作変化率演算部43は、以下の式(19)または(20)に基づいて、制動回避操作もしくは制動した結果の変化量ΔMを演算する。
操舵回避操作の変化量ΔM=Δφ(ΔT)=│φ(t2)−φ(t1)│/ΔT …(19)
ここで、φは、t時点での操舵角度である。
操舵回避操作の結果の変化量ΔM=Δγ(ΔT)=γ(t2)−γ(t1)
ここで、γ(t)は、t時点における道路区間線と自車両CAとのヨー角度(rad)である。
以上のように、ECU4は、操舵回避を考慮した接近度合PREの変化および操作変化率ΔM/Δtを演算すると、車両支援判定部44の制御により車両支援制御開始のためのタイミングを制御する。ここで、図9は、接近度合変化率ΔPREおよび操作変化率ΔM/Δtの関係に基づく車両支援制御開始の判定方法の一例を模式的に示した図である。
図9に示すように、車両支援判定部44は、接近度合変化率ΔPREおよび操作変化率ΔM/Δtに基づいて領域判定を行い、操作度合が適切でなく不足していると判定した場合(支援領域)は、車両支援制御を開始する。なお、支援開始タイミングを決定する勾配Kは、設計値であり、運転者毎や外部環境に応じて変更してもよい。
以上のように、実用例4にかかる車両支援内容の決定方法では、先行車両を追い越し時における操舵回避において適切な車両支援制御のタイミングを決定することができる。したがって、運転者の操作意図に合った車両支援制御を提供することができる。また、周辺車両の有無に依存することなく、リアルタイムに判定を行うことができる。また、前方に対するミリセンサ等の簡易な外部環境のセンサ構成で、車両支援制御システムの普及が期待できる。
本実施の形態にかかる運転支援装置は、運転者の運転感覚を考慮して推定した対象物に対する接近度合の変化ΔPREと、運転者の実際の運転操作による物理的な操作量の変化ΔMと、に基づいて、車両支援制御を実施するか否か又は車両支援内容を決定する。これにより、運転者の運転感覚を考慮した接近度合の変化と実際の物理的な操作量の変化の関係に基づいて車両支援制御を行うこととなり、簡易な構成にて、運転者の操作感覚や操作意図にあわせた運転支援を実施することができる。
また、本実施の形態にかかる運転支援装置は、接近度合の変化が小さい場合に車両支援制御を実施せず、接近度合の変化が大きい場合に車両支援制御を実施するので、接近度合に応じて車両支援制御を行うこととなり、運転者の操作感覚や操作意図にあわせた運転支援を実施することができる。
また、本実施の形態にかかる運転支援装置は、操作量の変化ΔMが小さい場合に通常時の車両支援内容にて車両支援制御を実施し、操作量の変化ΔMが大きい場合に緊急時の車両支援内容にて車両支援制御を実施するので、操作の度合いが不足している場合には通常の車両支援を行い異常な操作度合いの場合に緊急時の車両支援を行うこととなり、運転者の操作感覚や操作意図にあわせた運転支援を実施することができる。
また、本実施の形態にかかる運転支援装置は、通常時の車両支援内容にて車両支援制御を実施する場合、操作量の変化ΔMが小さいほど強い車両支援制御を実施するので、運転者の接近感覚に応じて車両支援制御を行うこととなり、運転者の操作感覚や操作意図にあわせた運転支援を実施することができる。
また、本実施の形態にかかる運転支援装置は、運転者の実際の運転操作が制動回避操作であって、接近度合の変化ΔPREと、物理的な操作量の変化ΔMと、に基づいて、制動回避にかかる車両支援制御を実施するタイミングを決定するので、制動時において運転者の操作感覚や操作意図にあわせた運転支援を実施することができる。
また、本実施の形態にかかる運転支援装置は、運転者の実際の運転操作が操舵回避操作であって、接近度合の変化ΔPREと、物理的な操作量の変化ΔMと、に基づいて、車両支援制御を実施するタイミングを決定するので、操舵回避時において運転者の操作感覚や操作意図にあわせた運転支援を実施することができる。
なお、車両制御は、上述の自車両CAの走行状態を変化させる制御に限定されるものではなく、運転者や自車両CAの外部に警報を発する報知制御であってもよい。また、車両制御は、衝突回避軽減制御の一部として行われても良い。例えば、上記接近度合PREがトリガー値を越えると判定されると、接近度合変化率ΔPREと操作変化率ΔMの関係から、自車両CAの衝突を回避するための制御(例えば、アラームを発する、運転者が操作するアクセルペダルのペダルを戻す、アクセルペダルのペダル反力を増加する反力を増大するなどの制御)を開始しても良い。また、例えば、上記接近度合PREがトリガー値を越えると判定されると、接近度合変化率ΔPREと操作変化率ΔMの関係から、自車両CAの衝突時の衝撃を軽減するための制御(例えば、シートベルトを乗員に密着させるためにシートベルトを予め巻上げる、出力装置5が発生する制動力を増大する、出力装置5が制動力を素早く発生するために制動力を発生させるための制動圧を予め増圧する制御)を開始しても良い。
また、ECU4による実相対距離Drおよび実相対速度Vrの取得方法は、上記実施の形態に限定されるものではなく、知覚対象物TAの位置データや車速Vtなどを含む知覚対象物データを自車両CAのECU4が取得し、取得された知覚対象物データと自車両CAの位置データや車速Vmなどを含む自車両データとに基づいてECU4が実相対距離Drおよび実相対速度Vrを算出し、取得しても良い。知覚対象物データの取得は、知覚対象物TAが構造物であれば自車両CAに搭載されているナビゲーションシステムにおける地図データや自車両CAのECU4が通信可能な道路インフラなどで行うことが好ましい。また、知覚対象物TAが先行車両であれば、知覚対象物TAと自車両CAとの車間通信装置や、知覚対象物TAおよび自車両CAのECU4が通信可能な道路インフラを介して取得しても良い。
また、自車両CAに対する知覚対象物TAの位置は、上記実施の形態のように前方に限定されるものではなく、自車両CAの外部に存在し、かつ運転者に知覚可能であれば、知覚対象物TAの自車両CAに対する位置はいずれであっても良い。例えば、知覚対象物TAが自車両CAに対して側方に位置する場合は、運転者が直接知覚可能であるため、本発明の車両制御方法を適用することができる。また、知覚対象物TAが自車両CAに対して後方に位置する場合は、運転者が直接、あるいはサイドミラーやバックミラーを介して知覚可能であるため、本発明の車両制御方法を適用することができる。従って、例えば自車両CAの走行車線の隣車線を走行する後方車が知覚対象物TAである場合は、運転者が自車両CAの走行車線を隣車線に変更する際、すなわち車線変更や合流時に、知覚相対物理量に基づいて車両制御を行うことができる。ここでの車両制御とは、上記減速制御、加速制御、旋回制御、警報制御などである。
また、接近度合PREは、上記実施の形態のように知覚相対距離Dsと知覚相対速度Vsとの比に限定されるものではなく、分母と分子のいずれかに知覚相対物理量が含まれていれば良く、例えば知覚相対距離Dsと実相対速度Vrとの比、実相対距離Drと知覚相対速度Vsとの比でも良い。また、接近度合PREは、知覚相対距離Dsを分子、知覚相対速度Vsを分母としたが、知覚相対速度Vsを分子、知覚相対距離Dsを分母としても良い。また、知覚相対物理量が反映された制御値は、制御タイミングに関するものに限定されるものではなく、車両制御の制御量に関するものでも良い。例えば、相対比、相対距離あるいは相対速度のいずれかに基づいて車両制御の制御量が取得される場合は、接近度合PRE、知覚相対距離Dsあるいは知覚相対速度Vsに基づいて制御量に関する制御値として制御量を取得しても良い。
また、トリガー値等の設計値を自車両CAの運転者ごとに設定する場合は、設定された設計値に対応する運転者における自車両CAのブレーキペダルの操作時における実相対距離Drおよび実相対速度Vrに基づいて算出された実接近度合PRErが設定値を越える場合は、運転者の注意力が低下していると判定することができる。つまり、実接近度合PRErと設計値とに基づいて運転者の状態を推定することができる。従って、例えば実接近度合PRErが設計値を越える場合は、接近度合変化率ΔPREと操作変化率ΔM/Δtの関係から、警報制御、自車両CAの衝突を回避するための制御、自車両CAの衝突時の衝撃を軽減するための制御などを行っても良い。
なお、知覚相対距離Ds、知覚相対速度Vs、接近度合PREは、これら各値とこれら各値を算出するためのパラメータ(実相対距離Dr、実相対速度Vr、車速Vmなど)との関係を予め実験等により求めることで作成されたデータベースに基づいてECU4が取得しても良い。さらに、制御タイミングに関する制御値や制御量に関する制御値などの知覚相対物理量(接近度合PRE)が反映された制御値は、各値とこれら各値を算出するためのパラメータ(実相対距離Dr、実相対速度Vr、車速Vmなど)との関係を知覚相対物理量(知覚相対距離Ds、知覚相対速度Vs)や接近度合PREに基づいて、予め実験等により求めることで作成されたデータベースに基づいてECU4が取得しても良い。