JP5771026B2 - パラジウム合金の製造方法 - Google Patents
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近年、貴金属素材の高騰を受け、白金又は白金合金や、金又は金合金を使用した装身具の価格が高くなり、装飾品の消費市場は縮小する傾向を示してきている。特に、高品位な宝飾品はその影響が大きい。
そこで、このような環境変化に対応するため、高品位な貴金属で素材価値を維持しつつ白金合金や金合金より安価な装飾品としての素材が求められるようになってきている。
また、筆記具においては、付加価値を出すため装飾用の金輪やペン先の部材等に金合金等を用いて機械的性質を確保しながら、高級感を出しているものがあるが、こうした筆記具においても、前記したような理由により、また顧客へのアピールとなるように、白金合金や金合金に代わって新たな貴金属素材により製造することが検討され始めている。
かかるパラジウム合金には、一部輸入されたPd990という製品もあるが、国内で製造されているパラジウム合金としてはPd950までの純度が主流である。その理由は、パラジウムは、純度が高すぎると装身具の加工時に必要な機械的性質を確保できないだけでなく、柔らかすぎるが故に変形しやすく傷がつきやすいからである。具体的には、例えば指輪等においては、現実問題として要求されるビッカース硬度は80Hv以上であるが、パラジウムは高純度になればなる程ビッカース硬度が低く、純パラジウムのビッカース硬度は40Hv程度と低い。
また、ホウ素が侵入したパラジウム等の表面は硬化してビッカース硬度が高いものの、パラジウム等の内部にはホウ素が存在しないため内部のビッカース硬度は高くなっておらず、例えば板材から指輪等への加工時の耐変形性能は十分とはいえなかった。
また、上記の方法では、パラジウム等の表面を硬化させることはできるものの、表面に肌荒れが起こり易く、例えば指輪等を製造する際には、加工後に表面を磨く後工程が必要となる場合が多く、製造コストのアップに繋がるという問題もある。
しかしながら、パラジウムの内部までホウ素が均一に含まれた均一組成のパラジウム合金を得ることは未だ達成されていない。
具体的には、例えば、パラジウムとホウ素とを一緒に溶解したとしても、両者は融点差が大きい上に、ホウ素は高融点(約2092℃)で酸化し易いため、均一組成の合金とはなり難いという問題がある。
また、一般に貴金属を溶解する場合、例えば、ZrO2、SiO2などの酸化物を含んだ坩堝(セラミックス坩堝)を使用するが、こうした坩堝の耐熱限界は昇温しても2000℃程度であるのに対し、ホウ素の融点が2092℃であるため、これらの坩堝に所定配合比率でパラジウムとホウ素とを投入して溶解しても、安定した溶融ができず、均質な合金を得るのは難しいという問題がある。
パラジウム合金の製造方法であって、
パラジウム:94.5〜97.6質量%、ホウ素:2.4〜5.5質量%の組成割合のパラジウムとホウ素とを水冷坩堝を用いて溶解し、均一組成の母合金を製造する第1工程と、
前記第1工程により製造した前記母合金と所定量のパラジウムとを水冷坩堝を用いて溶解し、0.03〜1.40質量%の範囲内のホウ素を含み、残部がパラジウムであるパラジウム合金を製造する第2工程と、
を有することを特徴とするパラジウム合金の製造方法。
そして、このような高純度なパラジウム合金であるため、例えば、指輪やネックレス等の装身具の材料として、或いは筆記具のペン先や装飾用の金輪等の部材として、広い用途で用いることができる。
また、装身具としての指輪等や、筆記具に装着する金輪等に用いる場合には、加工時に変形したり傷が付き難くなるので、変形や傷による後工程の必要性がなくなり、製造コストを抑えることができる。
また、色的にもプラチナ合金と比較して遜色ない装身具を材料費を安くして提供することができるようになる。
また、高純度を維持しているので、顧客に貴金属としての高級感を印象付けることができるとともにプラチナ合金で製造した装身具より安価に提供することができる。
一方、ホウ素の含有量を1.40質量%よりも多くすると、例えば指輪等の製造の際に合金を所望の厚みにするための圧延加工や、所望の形状にするための加工を行った場合に、加工硬化による硬度上昇が大きくなる。このため、製品とするための加工が困難となったり、加工時に割れが生じやすくなったりすることで、生産性が低下するという問題が生じるため好ましくない。
ホウ素の含有量を0.03質量%以上とする理由としては、上記した通りである。
一方、ホウ素の含有量を0.30質量%以下とする理由としては、本明細書の出願時現在、日本国内で実施されていない、造幣局によるパラジウム検定が実施された場合を想定して、各種純度のパラジウム合金に適用できるようにするためである。
具体的には、日本国内では、現在貴金属の純度保障として、造幣局の検定制度があり、例えば、Pt1000の場合、0.30質量%の公差が認められており、99.70質量%以上の純度であればPt1000の刻印を受けることができる。
また、Pt900の場合、±0.50質量%の公差が認められており、89.50質量%以上でPt900の刻印を受けることができる。
ここで、パラジウムについての検定は、日本国内では現在実施されていないが、上記と同じ基準で実施されると考えると、パラジウムの純度の公差を純白金と同じ0.30質量%以下にしておけば、同じ基準で検定が実施された場合にPd1000(純パラジウム)の刻印を受けることができると思われる。
また、ホウ素の含有量を0.30質量%以下とする他の理由としては、ホウ素の含有量が0.30質量%以下であればパラジウム合金が硬すぎることなく、加工し易い硬度を有することとなるため好ましい。
本発明のパラジウム合金の製造方法は、均一組成の母合金を製造する第1工程と、前記母合金を用いて高純度パラジウム合金を製造する第2工程と、を有している。
かかる製造方法は、パラジウムにホウ素を表面から内部まで均一に含有させて合金化する方法として、パラジウムとホウ素が共晶点を持つことに注目し、先ず、共晶点近傍で合金(母合金)を作り、次に、融点を下げた均質な合金(母合金)を使用して所定の配合のパラジウムとホウ素の合金(所望の高純度なパラジウム合金)を製造するものである。
なお、パラジウムとホウ素の共晶点は、3.1質量%近傍、5.3質量%近傍の2カ所に存在するが、以下、3.1質量%近傍の共晶点を例にとって説明する。
この水冷坩堝であれば3000℃以上の高温まで昇温できるため、パラジウムと、高融点(2092℃)のホウ素とを、均一に溶解することができる。
また、パラジウム−ホウ素系合金は、例えばセラミックス坩堝を使用して溶解すると坩堝成分が還元されて溶解中の合金の中に混入し3元系の合金になってしまうが、水冷坩堝であれば坩堝成分の合金への混入が起こらず、均質な2元系のパラジウム合金を製造することができる。
こうした水冷坩堝により、パラジウムとホウ素の両者が溶解過程でともに溶解し合金化が進むと固相線と液相線が同じとなる共晶点1065℃が融点となる。共晶点付近では凝固温度範囲が狭く、所謂「てこの原理」が働きにくいので偏析が起きにくく、繰り返し溶解することで共晶点では均一な合金が得られることとなる。
実際に、共晶点に対して約115℃の凝固温度範囲を持つ、最大のホウ素量である5.50質量%で母合金50gを作成後、破砕して4ブロックに分け、各ブロックからサンプリングしてICP分析を実施した結果、ホウ素の分析値が5.25質量%〜5.42質量%で最大誤差率4.5質量%だった。同様に、最小のホウ素量である2.40質量%で母合金50gを作成後、破砕して5ブロックに分け、各ブロックからサンプリングしてICP分析を実施した結果、ホウ素の分析値が2.29〜2.37質量%で最大誤差率4.6質量%だった。
また、ホウ素が5.5質量%配合の母合金を使用してパラジウム−1質量%ホウ素の合金となるように溶解を行ったが、実際の母合金のホウ素の分析値が5.25質量%だった場合、パラジウム−0.96質量%ホウ素の合金となる。ホウ素が2.4質量%配合の母合金を使用してパラジウム−1質量%ホウ素の合金となるように溶解を行ったが、実際の母合金のホウ素の分析値が2.29質量%だった場合、パラジウム−0.95質量%ホウ素の合金となり、ホウ素量の0.05質量%レベルのずれは機械的性質にほとんど影響を与えないレベルであると言える。
また、ホウ素が5.5質量%配合の母合金を使用してパラジウム−0.03質量%ホウ素の合金となるように溶解を行ったが、実際の母合金のホウ素の分析値が5.25質量%だった場合、パラジウム−0.029質量%ホウ素の合金となる。ホウ素が2.4質量%配合の母合金を使用してパラジウム−0.03質量%ホウ素の合金となるように溶解を行ったが、実際の母合金のホウ素の分析値が2.29質量%だった場合、パラジウム−0.029質量%ホウ素の合金となり、ホウ素量の0.001質量%レベルのずれは機械的性質にほとんど影響を与えないレベルであると言える。
従って、115℃程度の凝固温度範囲であれば、実生産上問題のない母合金を作製することができ、ホウ素量2.4質量%〜5.5質量%の範囲であれば、安定した母合金を作製することができ、パラジウムが94.5〜97.6質量%であって、ホウ素が2.4〜5.5質量%の範囲で配合することができる。
実際に、共晶点に対して約50℃の凝固温度範囲を持つ、最大のホウ素量である5.40質量%で母合金50gを作成後、破砕して4ブロックに分け、各ブロックからサンプリングしてICP分析を実施した結果、ホウ素の分析値が5.29質量%〜5.35質量%で最大誤差率2.0質量%だった。同様に、最小のホウ素量が2.80質量%で母合金を作製後、破砕して5ブロックに分け、各ブロックからサンプリングしてICP分析を実施した結果、ホウ素の分析値が2.74質量%〜2.77質量%で最大誤差率2.1質量%だった。従って、50℃程度の凝固温度範囲であれば、安定した母合金を作製することができ、ホウ素量2.8質量%〜3.9質量%、5.0質量%〜5.4質量%の範囲であれば、安定した母合金を作製することができる。
従って、パラジウムが94.6〜95.0質量%であって、ホウ素が5.0〜5.4質量%、パラジウムが96.1〜97.2質量%であって、ホウ素が2.8〜3.9質量%の範囲で配合することができる。
ホウ素が5.3質量%近傍の共晶組成はβB相を含むため酸化しやすい面があるが、3.1質量%近傍の共晶組成はパラジウムを主成分とする相のみからなり酸化しにくく、また凝固温度範囲の立ち上がりが緩慢で管理がしやすく好ましい。
即ち、第1工程により製造した母合金に所定量のパラジウムを加えて水冷坩堝を用いて溶解し、95.0質量%以上のパラジウムに、少なくとも0.03〜1.40質量%の範囲内のホウ素(より好ましくは0.03〜0.30質量%の範囲内のホウ素)を含んだ、均一組成のパラジウム合金を製造する。
そして、このような高純度パラジウム合金であるため、例えば、指輪やネックレス等の装身具の材料として、或いは筆記具のペン先や装飾用の金輪等の部材として、広い用途で用いることができる。
また、装身具としての指輪等や、筆記具に装着する金輪等に用いる場合には、加工時に変形したり傷が付き難くなるので、変形や傷による後工程の必要性がなくなり、製造コストを抑えることができる。
また、色的にもプラチナ合金と比較して遜色ない装身具を材料費を安くして提供することができるようになる。
また、高純度を維持しているので、顧客に貴金属としての高級感を印象付けることができるとともにプラチナ合金で製造した装身具より安価に提供することができる。
以下、実施例により、本発明のパラジウム合金について具体的に説明する。
先ず、純度99.95質量%以上のパラジウム48.45gと、純度99.9質量%以上のホウ素1.55gを銅製の水冷ハース上にのせ、真空排気後、アルゴン置換したアーク炉(以下、真空置換型アーク炉という)で溶解して、ホウ素をパラジウムとホウ素の共晶点である3.1質量%含有したパラジウムとホウ素とからなる均一組成の母合金を50g製造した。
純度99.95質量%以上のパラジウム50gの板材を、比較例1とした。
(1.硬度)
実施例1〜13、参考例1、2及び比較例1〜4の板材について、表面の3箇所にてビッカース硬度(Hv)を測定し、その平均値を求めた。
また、各板材を切断して内部の3箇所にてビッカース硬度(Hv)を測定し、その平均値を求めた。その結果は表1に示した通りである。
実施例1〜13、参考例1、2及び比較例1〜4の板材について、圧延加工して割れが生じたか否かを目視検査し、下記のように評価した。その結果は表1に示した通りである。
割れが生じない・・・○
割れが生じた・・・×
実施例1〜13、参考例1、2及び比較例1〜4の板材について、表面の肌荒れ状態を目視観察したが、各板材の表面状態はどれも良好で、実施例と比較例においての差はみられなかった。
比較例3及び比較例4は、硬度が硬すぎ、指輪等の製造において圧延加工した際に割れてしまうという問題があり、好ましくない。
Claims (1)
- パラジウム合金の製造方法であって、
パラジウム:94.5〜97.6質量%、ホウ素:2.4〜5.5質量%の組成割合のパラジウムとホウ素とを水冷坩堝を用いて溶解し、均一組成の母合金を製造する第1工程と、
前記第1工程により製造した前記母合金と所定量のパラジウムとを水冷坩堝を用いて溶解し、0.03〜1.40質量%の範囲内のホウ素を含み、残部がパラジウムであるパラジウム合金を製造する第2工程と、
を有することを特徴とするパラジウム合金の製造方法。
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