以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係るアイソレータの構成を示す概略図である。
図1に示すように、実施形態1に係るアイソレータ1は、作業室10と、滅菌室40と、滅菌物質供給部200と、制御部300とを備える。
作業室10は、細胞抽出、細胞培養などの生体由来材料を対象とする作業を行うための空間である。作業室10には前面扉12が開閉可能に設けられており、前面扉12の所定の位置には、作業室10内で作業を行うための作業用グローブ14が設けられている。作業者は前面扉12に設けられた図示しない開口部から作業用グローブ14に手を挿入して、作業用グローブ14を通じて作業室10内で作業を行うことができる。ここで、生体由来材料とは、細胞を含む生物そのもの、あるいは生物を構成する物質、または生物が生産する物質などを含む材料を意味する。
また、作業室10は、第1滅菌物質供給口16と、第1気体供給口18と、第1気体排出口20とを備える。第1滅菌物質供給口16には、ファン22が設けられている。また、第1気体供給口18および第1気体排出口20には、それぞれHEPAフィルタ24、HEPAフィルタ26(HEPA:High Efficiency Particulate Air)が設けられている。なお、第1滅菌物質供給口16には、HEPAフィルタは設けられていない。また、作業室10には、滅菌室40が配置される側の側壁28に開口が設けられ、当該開口を覆うように扉30が開閉可能に設けられている。さらに、作業室10には、作業室10内を照らす照明32が設けられている。
滅菌室40は、作業室10内に搬入する培養器具、培地などの物品を滅菌するための空間である。滅菌室40は、第2滅菌物質供給口42と、第2気体供給口44と、第2気体排出口46とを備える。第2滅菌物質供給口42には、ファン48が設けられている。また、第2気体供給口44および第2気体排出口46には、それぞれHEPAフィルタ50、HEPAフィルタ52が設けられている。なお、第2滅菌物質供給口42には、HEPAフィルタは設けられていない。また、滅菌室40には、作業室10が配置される側の側壁54に開口が設けられ、滅菌室40は当該開口と作業室10の側壁28に設けられた開口とが一致するように配置されている。これにより、作業室10と滅菌室40とは、互いの内部空間が扉30を介して連通している。さらに、滅菌室40の側壁56には、物品を滅菌室40内に搬入するための開口が設けられ、当該開口を覆うように搬入扉58が開閉可能に設けられている。
滅菌物質供給部200は、作業室10および滅菌室40内に滅菌物質を供給するためのものであり、アイソレータ1は、作業室10および滅菌室40内に滅菌物質を供給することで作業室10および滅菌室40内を無菌環境とすることができる。ここで、無菌環境とは、作業室で行われる作業に必要な物質以外の混入を回避するために限りなく無塵無菌に近い環境をいう。滅菌物質供給部200は、滅菌ガス生成部202と、滅菌物質原料を収容する滅菌物質カートリッジ260と、滅菌物質カートリッジ260に貯留された滅菌物質原料を滅菌ガス生成部202に供給するためのポンプ264とを備える。本実施形態において、滅菌物質は過酸化水素ガスであり、滅菌物質原料は過酸化水素水である。なお、滅菌物質は過酸化水素ガスに限定されず、たとえばオゾンなどの活性酸素種を含む物質であってもよい。
滅菌物質供給部200の具体的な構成について、図2(A)および図2(B)を用いて説明する。図2(A)は、実施形態1に係る滅菌物質供給部200の構成を示す概略図である。図2(B)は、図2(A)のA−A線に沿った断面図である。
図2(A)に示すように、滅菌物質供給部200は、霧化部210および気化部220からなる滅菌ガス生成部202を有する。
霧化部210は、収容部材211、仕切り部材212、超音波振動子213および貯蔵部に当たるカップ214を有する。
収容部材211は、霧化部210を構成する容器である。収容部材211の底面に超音波振動子213が設けられている。超音波振動子213は、電気エネルギーを超音波振動に変換する素子である。本実施形態では、超音波振動子213は、収容部材211の底面の中央部分ではなく、後述する開口252の方へずれた位置に設置されている。
収容部材211には、上部外周に沿ってフランジ216が形成されている。フランジ216の上面には、Oリング218aを嵌め込むための溝217が設けられている。
仕切り部材212は、フランジ216の上に設けられている。仕切り部材212は、中央部分に開口が形成されたドーナツ状の部材である。仕切り部材212の外径は、フランジ216の外径と同等である。仕切り部材212の上面には、Oリング218bを嵌め込むための溝229が設けられている。
カップ214は、仕切り部材212に設けられた開口に取り付けられており、カップ214の底部が超音波振動子213の側へ突出している。カップ214は、たとえば、樹脂製または厚さ0.05mm程度の金属薄板製である。
収容部材211、仕切り部材212およびカップ214によって密閉された空間234に、超音波振動子213で発生した超音波振動を伝播する超音波伝播用液240が満たされている。なお、超音波伝播用液には、水のような粘性の小さい液体が適している。
以上のような構成の霧化部210では、カップ214に供給された過酸化水素水が超音波伝播用液240を伝搬した超音波振動によりミスト化され、ミスト化された過酸化水素は気化部220に送り込まれる。この際、ミスト化されずに気化部220の内側に付着した過酸化水素の液滴は、重力によりカップ214に落下し、再びミスト化される。
なお、超音波振動子213から発せられる超音波振動の波面の進行方向は、カップ214の方へ、たとえば約7度傾いていることが好ましい。これによれば、カップ214に貯留された過酸化水素水による水柱が斜めに立ち上がるため、過酸化水素水の霧化を安定的に行うことができる。
気化部220は霧化部210の上部に設けられており、主に加熱管221、ヒータ222、配管224、および温度計225、227を有する。
加熱管221は軸方向が鉛直方向になるように収容部材211の上部に組み付けられている。より詳しくは、加熱管221の下部外周に沿ってフランジ228が形成されている。フランジ228の外径は、仕切り部材212およびフランジ216の外径と同等である。
フランジ216、仕切り部材212およびフランジ228には、所定箇所にネジ穴251が設けられている。溝217、229にそれぞれOリング218a、218bを嵌め込んだ状態で、ネジ穴251にネジ255を螺合することにより、霧化部210と気化部220とが組み付けられている。フランジ216と仕切り部材212との間の密閉性はOリング218aにより高められている。また、フランジ228と仕切り部材212との間の密閉性はOリング218bにより高められている。
加熱管221の下部側面には、開口250および開口252が設けられている。本実施形態では、開口250および開口252は、互いに対向する位置に設置されている。開口250には、滅菌物質カートリッジ260に貯留された過酸化水素水をカップ214に供給するための配管262が挿入されている。配管262の途中には滅菌物質カートリッジ260に貯留された過酸化水素水を汲み上げるためのポンプ264(たとえばペリスタポンプ)が設けられている。
一方、開口252には、配管272が接続されている。配管272の開口252と反対側の端部には、第1循環路114および第2循環路116の最下流側が接続されている。
加熱管221の内部には、過酸化水素および空気が下方から上方へ流れる流路226が形成されている。
本実施形態では、加熱管221はカップ214の直上に設けられている。このため、加熱管221内でミスト状の過酸化水素が再結合し液滴化した場合でも、重力によりカップ214に落下する。カップ214に戻った過酸化水素は超音波振動により再びミスト化され、加熱管221に送られる。これにより、加熱管221内で液化した過酸化水素を簡便な構造でカップ214に戻し、再びミスト化することにより、カップ214内の過酸化水素水を無駄なく、確実にガス化することができる。
加熱管221の軸に沿って加熱管221の内部に、ヒータ222が設けられている。ヒータ222は、制御部300によるON/OFFの制御により約180℃に温調される。ヒータ222の温度は温度計227によって検出され、検出された温度が制御部300に伝送される。ヒータ222の温度が220℃を超えると、制御部300によりヒータ222への電力供給が遮断される。なお、ヒータ222には複数のフィン223が設けられていることが望ましい。これにより、ヒータ222と流路226を流れる過酸化水素との接触面積が増加し、過酸化水素のガス化を促進することができる。
ヒータ222の上部には、固定用のフランジ(フィン)270が設けられている。蓋部材273にはヒータ222の周りに沿って溝236が設けられており、この溝236にOリング218cが嵌め込まれている。また、蓋部材273には開口が設けられており、この開口にヒータ222の上部が挿入されている。ネジ232を用いてヒータ222が蓋部材273に締結されており、Oリング218cによりフランジ230と蓋部材273との密閉性が高められている。
また、加熱管221の上部には、フランジ238が設けられている。フランジ238には、蓋部材273と対向する面に溝241が設けられており、この溝241にOリング218dが嵌め込まれている。フランジ238はネジ239により蓋部材273と締結されている。これにより、Oリング218dにより密閉性を高めながら蓋部材273が加熱管221に取り付けられるとともに、加熱管221の内部にヒータ222が挿入された状態が保たれる。
加熱管221の上部側面には、配管224の一方の端部が接続された開口254が設けられている。配管224には、配管224の内部温度を測定するための温度計225が設けられている。温度計225で測定された配管224の内部温度は制御部300に送信される。配管224の他方の端部は、第1滅菌物質供給路60および第2滅菌物質供給路62の最上流側に接続されている。
図1に戻り、アイソレータ1は、第1滅菌物質供給路60と、第2滅菌物質供給路62と、第1気体供給路64と、第2気体供給路66と、第1気体排出路68と、第2気体排出路70とを備える。
第1滅菌物質供給路60は、滅菌物質供給部200と第1滅菌物質供給口16とを、HEPAフィルタを介さずに連結している。第1滅菌物質供給路60には、開閉弁72が設けられている。滅菌物質供給部200で生成された滅菌物質は、開閉弁72が開、ファン22がONの状態で、第1滅菌物質供給路60を通って作業室10内に供給される。
第2滅菌物質供給路62は、滅菌物質供給部200と第2滅菌物質供給口42とを、HEPAフィルタを介さずに連結している。第2滅菌物質供給路には、開閉弁74が設けられている。滅菌物質供給部200で生成された滅菌物質は、開閉弁74が開、ファン48がONの状態で、第2滅菌物質供給路62を通って滅菌室40内に供給される。
第1気体供給路64は、アイソレータ1の外部と第1気体供給口18とを連結している。第1気体供給口18にはHEPAフィルタ24が設けられているため、アイソレータ1の外部と作業室10とはHEPAフィルタ24を介して連結されている。第1気体供給路64には開閉弁76が設けられ、第1気体供給路64の作業室10側の端部はブロワ78に連結されている。ブロワ78は作業室10に向けて送風するように設けられており、開閉弁76が開、ブロワ78がONの状態で、アイソレータ1の外部にある空気などの気体(以下、空気という)が第1気体供給路64を通って作業室10内に供給される。第1気体供給路64の外部側端部には、白金などの金属触媒を含む滅菌物質分解処理フィルタ80が設けられており、これにより作業室10から滅菌物質が逆流し、アイソレータ1の外部に滅菌物質が流出するのを防いでいる。
第2気体供給路66は、アイソレータ1の外部と第2気体供給口44とを連結している。
第2気体供給口44にはHEPAフィルタ50が設けられているため、アイソレータ1の外部と滅菌室40とはHEPAフィルタ50を介して連結されている。第2気体供給路66には開閉弁82が設けられ、第2気体供給路66の滅菌室40側の端部はファン84に連結されている。ファン84は滅菌室40に向けて送風するように設けられており、開閉弁82が開、ファン84がONの状態で、アイソレータ1の外部の空気が第2気体供給路66を通って滅菌室40内に供給される。第2気体供給路66の外部側端部には、白金などの金属触媒を含む滅菌物質分解処理フィルタ86が設けられており、これにより滅菌室40から滅菌物質が逆流し、アイソレータ1の外部に滅菌物質が流出するのを防いでいる。
第1気体排出路68は、アイソレータ1の外部と第1気体排出口20とを連結している。第1気体排出口20にはHEPAフィルタ26が設けられているため、アイソレータ1の外部と作業室10とはHEPAフィルタ26を介して連結されている。第1気体排出路68には開閉弁88が設けられ、第1気体排出路68の外部側端部はブロワ90に連結されている。ブロワ90はアイソレータ1の外部に向けて送風するように設けられており、開閉弁88が開、ブロワ90がONの状態で、作業室10内の空気が第1気体排出路68を通ってアイソレータ1の外部に排出される。第1気体排出路68の開閉弁88とブロワ90との間には、白金などの金属触媒を含む滅菌物質分解処理フィルタ92が設けられており、これにより作業室10からアイソレータ1の外部に滅菌物質が流出するのを防いでいる。
第2気体排出路70は、アイソレータ1の外部と第2気体排出口46とを連結している。第2気体排出口46にはHEPAフィルタ52が設けられているため、アイソレータ1の外部と滅菌室40とはHEPAフィルタ52を介して連結されている。第2気体排出路70には開閉弁94が設けられており、開閉弁94が開、ファン84またはファン48がONの状態で、滅菌室40内の空気が第2気体排出路70を通ってアイソレータ1の外部に排出される。第2気体排出路70の外部側端部には、白金などの金属触媒を含む滅菌物質分解処理フィルタ96が設けられており、これにより滅菌室40からアイソレータ1の外部に滅菌物質が流出するのを防いでいる。
また、アイソレータ1は、作業室圧調整流路98と、滅菌室圧調整流路100とを備える。
作業室圧調整流路98は、アイソレータ1の外部と第1気体排出口20とを連結している。作業室圧調整流路98には開閉弁102が設けられており、開閉弁102が開、ブロワ78がONの状態で、作業室10内の空気が作業室圧調整流路98を通ってアイソレータ1の外部に排出される。作業室圧調整流路98の流路径は、第1気体供給路64の流路径よりも小さく設定されている。したがって、第1気体供給路64を介した作業室10内への空気の供給量が、作業室圧調整流路98を介した作業室10外への空気の排出量よりも多い。そのため、開閉弁88が閉状態で第1気体排出路68を介した空気の流出がないか、第1気体排出路68を介した空気の流出量と作業室圧調整流路98を介した空気の流出量の総量が所定量以下の状態では、作業室10内が陽圧に維持され、外部から作業室10内に異物が入り込むのを防いでいる。作業室圧調整流路98の外部側端部には、白金などの金属触媒を含む滅菌物質分解処理フィルタ104が設けられており、これにより作業室10からアイソレータ1の外部に滅菌物質が流出するのを防いでいる。
滅菌室圧調整流路100は、アイソレータ1の外部と第2気体排出口46とを連結している。滅菌室圧調整流路100には開閉弁106が設けられており、開閉弁106が開、ファン84がONの状態で、滅菌室40内の空気が滅菌室圧調整流路100を通ってアイソレータ1の外部に排出される。滅菌室圧調整流路100の流路径は、第2気体供給路66の流路径よりも小さく設定されている。したがって、第2気体供給路66を介した滅菌室40内への空気の供給量が、滅菌室圧調整流路100を介した滅菌室40外への空気の排出量よりも多い。そのため、開閉弁94が閉状態で第2気体排出路70を介した空気の流出がないか、第2気体排出路70を介した空気の流出量と滅菌室圧調整流路100を介した空気の流出量の総量が所定量以下の状態では、滅菌室40内が陽圧に維持され、外部から滅菌室40内に異物が入り込むのを防いでいる。滅菌室圧調整流路100の外部側端部には、白金などの金属触媒を含む滅菌物質分解処理フィルタ108が設けられており、これにより滅菌室40からアイソレータ1の外部に滅菌物質が流出するのを防いでいる。
また、本実施形態に係るアイソレータ1は、作業室10に設けられた第1滅菌物質排出口110と、滅菌室40に設けられた第2滅菌物質排出口112とを備える。また、アイソレータ1は、第1滅菌物質排出口110と滅菌物質供給部200とを、HEPAフィルタを介さずにつなぐ第1循環路114と、第2滅菌物質排出口112と滅菌物質供給部200とを、HEPAフィルタを介さずにつなぐ第2循環路116とを備える。
第1循環路114の滅菌物質供給部200側の端部は、配管272(図2参照)に連結されている。これにより、滅菌物質供給部200で生成された滅菌物質が、第1滅菌物質供給路60、作業室10、第1循環路114、滅菌物質供給部200の順で循環する流路が形成される。第1循環路114には開閉弁118が設けられており、開閉弁118が開、ファン22がONの状態で、作業室10内の滅菌物質が第1循環路114を通って滅菌物質供給部200に送られる。
第2循環路116の滅菌物質供給部200側の端部は、配管272(図2参照)に連結されている。これにより、滅菌物質供給部200で生成された滅菌物質が、第2滅菌物質供給路62、滅菌室40、第2循環路116、滅菌物質供給部200の順で循環する流路が形成される。第2循環路116には開閉弁120が設けられており、開閉弁120が開、ファン48がONの状態で、滅菌室40内の滅菌物質が第2循環路116を通って滅菌物質供給部200に送られる。
さらに、本実施形態に係るアイソレータ1は、第1フィルタ経由循環路122と、第2フィルタ経由循環路124とを備える。
第1フィルタ経由循環路122は、作業室10の外側において第1気体排出口20と第1気体供給口18とをつないでいる。第1フィルタ経由循環路122には開閉弁126が設けられ、第1フィルタ経由循環路122の第1気体供給口18側の端部はブロワ78に連結されている。開閉弁126が開、ブロワ78がONの状態で、作業室10内の滅菌物質が第1気体排出口20、第1フィルタ経由循環路122、第1気体供給口18、作業室10の順で循環する。このとき、滅菌物質がHEPAフィルタ26およびHEPAフィルタ24を通過する。
また、アイソレータ1は、第1分解処理部経由路128を備えている。第1分解処理部経由路128は、作業室10の外側において第1気体排出口20と第1気体供給口18とをつなぎ、第1気体供給口18側の端部はブロワ78に連結されている。第1分解処理部経由路128には開閉弁130が設けられている。また、第1分解処理部経由路128には、滅菌物質を分解する白金などの触媒を有する滅菌物質分解処理フィルタ132が設けられている。滅菌物質分解処理フィルタ132は、滅菌物質分解処理部を構成している。開閉弁130が開、ブロワ78がONの状態で、作業室10内の滅菌物質が第1気体排出口20、第1分解処理部経由路128、第1気体供給口18、作業室10の順で循環し、その過程で滅菌物質が滅菌物質分解処理フィルタ132を繰り返し通過して分解される。これにより、外部に排出される滅菌物質の濃度をより低減することができる。
第2フィルタ経由循環路124は、滅菌室40の外側において第2気体排出口46と第2気体供給口44とをつないでいる。第2フィルタ経由循環路124には開閉弁134が設けられ、第2フィルタ経由循環路124の第2気体供給口44側の端部はファン84に連結されている。開閉弁134が開、ファン84がONの状態で、滅菌室40内の滅菌物質が第2気体排出口46、第2フィルタ経由循環路124、第2気体供給口44、滅菌室40の順で循環する。このとき、滅菌物質がHEPAフィルタ52およびHEPAフィルタ50を通過する。
また、アイソレータ1は、第2分解処理部経由路136を備えている。第2分解処理部経由路136は、滅菌室40の外側において第2気体排出口46と第2気体供給口44とをつなぎ、第2気体供給口44側の端部はファン84に連結されている。第2分解処理部経由路136には開閉弁138が設けられている。また、第2分解処理部経由路136には、滅菌物質を分解する白金などの触媒を有する滅菌物質分解処理フィルタ140が設けられている。滅菌物質分解処理フィルタ140は、滅菌物質分解処理部を構成している。開閉弁138が開、ファン84がONの状態で、滅菌室40内の滅菌物質が第2気体排出口46、第2分解処理部経由路136、第2気体供給口44、滅菌室40の順で循環し、その過程で滅菌物質が滅菌物質分解処理フィルタ140を繰り返し通過して分解される。これにより、外部に排出される滅菌物質の濃度をより低減することができる。
また、アイソレータ1は、制御部300を備える。制御部300は、各開閉弁の開閉と、各ブロワおよびファンのON/OFFとを制御し、これにより滅菌物質および外部から取り込んだ空気の流路切り換えを制御する。また、制御部300は、滅菌物質供給部200での滅菌物質の生成を制御する。また、アイソレータ1は指示部310を備え、ユーザは、指示部310から後述する各種の滅菌処理を選択可能である。制御部300は図示しない記憶部を有し、記憶部には各種の滅菌処理用の制御プログラムや、各滅菌処理における各開閉弁、ブロワおよびファンとその状態とを関連付けた変換テーブルが格納されている。そして、制御部300は、ユーザが選択した滅菌処理に対応した制御プログラムおよび変換テーブルを記憶部から読み出し、当該制御プログラムおよび変換テーブルにしたがって流路切り換えを制御して選択された滅菌処理を実行する。
続いて、上述の構成を備えたアイソレータ1において実施される滅菌処理について説明する。まず、作業室10で作業が行われている状態では扉30は閉状態であり、また、制御部300は、開閉弁76、88、102を開、開閉弁118、126、130を閉、ブロワ78、90をONにする。これにより、外部の空気が第1気体供給路64を経由して作業室10に供給され、作業室10内の空気が第1気体排出路68および作業室圧調整流路98を経由して外部に排出される流路が形成される。ブロワ78、90の送風量は、第1気体供給路64を介した作業室10への空気の供給量が、第1気体排出路68および作業室圧調整流路98を介した作業室10からの空気の排出量よりも多くなるように調整されている。これにより、作業室10内が陽圧に保たれている。
アイソレータ1の滅菌処理は、前処理工程と、滅菌工程と、置換工程とを含む。前処理工程では、滅菌対象となる作業室10もしくは滅菌室40に滅菌物質が供給され、室内が滅菌物質で満たされる。前処理工程において作業室10もしくは滅菌室40内の滅菌物質濃度が滅菌に必要な濃度以上となったら、作業室10もしくは滅菌室40内を滅菌する滅菌工程が開始される。所定時間が経過して滅菌工程が終了すると、置換工程が開始される。置換工程では、滅菌物質が作業室10もしくは滅菌室40から排出され、触媒で分解されて濃度が低減されるとともに、作業室10もしくは滅菌室40内が外部の空気と置換される。
本実施形態に係るアイソレータ1は、滅菌処理として、作業室10内を滅菌する第1滅菌処理と、滅菌室40内を滅菌する第2滅菌処理とを有し、第1滅菌処理と第2滅菌処理とを独立に実行することができる。したがって、アイソレータ1は、作業室10と滅菌室40とを独立に滅菌することができる。第1滅菌処理と第2滅菌処理とは、並行して実行することができる。すなわち、どちらか一方の滅菌処理を実行中であっても、当該滅菌処理を実行したまま他方の滅菌処理を実行することができる。なお、第2滅菌処理は、滅菌室40を滅菌する場合だけでなく、作業室10内に搬入する物品を滅菌する場合にも実行される。
(第1滅菌処理:作業室の滅菌)
制御部300は、指示部310から第1滅菌処理実行の指示を受けると、第1滅菌処理を実行する。まず、前面扉12および扉30が閉じた状態で、制御部300は前処理工程を開始する。前処理工程では、滅菌物質供給部200が滅菌物質の生成および供給を開始し、開閉弁76、88、102、118、126、130が閉じ、ブロワ78、90がOFFとなる。そして、開閉弁72が開、ファン22がONの状態で、滅菌物質が第1滅菌物質供給路60を介して作業室10に供給される。作業室10内に滅菌物質が充満して、滅菌物質濃度が作業室10内の滅菌に必要な濃度以上となったら、前処理工程が終了する。
前処理工程が終了すると、制御部300は滅菌工程を開始する。滅菌工程では、開閉弁118が開き、滅菌物質を含む作業室10内の気体が第1循環路114を介して滅菌物質供給部200に送られる。これにより、滅菌物質が、第1滅菌物質供給路60、作業室10、第1循環路114、滅菌物質供給部200の順で循環する循環経路が形成される。所定時間の経過後、もしくは滅菌物質原料の消費量が所定量になったときに滅菌工程が終了する。たとえば、滅菌工程は滅菌物質カートリッジ260が空になったときに終了するようにしてもよい。
滅菌工程が終了すると、制御部300は置換工程を開始する。置換工程では、滅菌物質供給部200が滅菌物質の生成と供給を停止し、開閉弁88が開き、ブロワ90がONになる。これにより、滅菌物質を含む作業室10内の空気が、第1気体排出路68に排出される。また、開閉弁76が開き、ブロワ78がONになって、アイソレータ1の外部の空気が作業室10内に供給される。これにより、作業室10内の滅菌物質が空気に置換される。また、第1滅菌物質供給路60および第1循環路114内の滅菌物質も除去され、空気に置換される。第1気体排出路68に排出された空気は、第1気体排出路68を通ってアイソレータ1の外部に排気されるが、空気が滅菌物質分解処理フィルタ92を通過する際に、当該空気に含まれる滅菌物質は滅菌物質分解処理フィルタ92で分解される。なお、開閉弁102が開いて、滅菌物質が作業室圧調整流路98にも排出されるようにしてもよい。
置換工程で作業室10内の滅菌物質濃度が所定濃度以下となったときに、置換工程が終了し、作業室10が使用可能な状態となる。ここで、作業室10が使用可能な状態となる滅菌物質の濃度は、作業に用いられる生体由来材料に作業上無視できない程度の影響を与えない濃度である。この濃度は、滅菌物質が過酸化水素ガスであった場合、たとえばACGIH(American Conference of Governmental Industrial Hygienists)によって規定されている1ppm(TWA:時間加重平均値)以下の濃度である。作業室10内の滅菌物質濃度は、作業室10内に赤外吸光式センサなどのセンサを設けることで求めることができる。あるいは作業室10内の滅菌物質濃度が所定値になるまでの時間を算出し、当該時間の経過を監視することで作業室10内の滅菌物質濃度が所定値となったことを検知するようにしてもよい。
(第2滅菌処理:滅菌室の滅菌)
制御部300は、指示部310から第2滅菌処理実行の指示を受けると、第2滅菌処理を実行する。まず、扉30および搬入扉58が閉じ、物品を滅菌する場合には当該物品が滅菌室40内に搬入された状態で、制御部300は前処理工程を開始する。前処理工程では、滅菌物質供給部200が滅菌物質の生成および供給を開始し、開閉弁82、94、106、120、134、138が閉じ、ファン84がOFFとなる。そして、開閉弁74が開、ファン48がONの状態で、滅菌物質が第2滅菌物質供給路62を介して滅菌室40に供給される。滅菌室40内に滅菌物質が充満して、滅菌物質濃度が滅菌室40内の滅菌、もしくは作業室10に搬入する物品の滅菌に必要な濃度以上となったら、前処理工程が終了する。
前処理工程が終了すると、制御部300は滅菌工程を開始する。滅菌工程では、開閉弁120が開き、滅菌物質を含む滅菌室40内の気体が第2循環路116を介して滅菌物質供給部200に送られる。これにより、滅菌物質が、第2滅菌物質供給路62、滅菌室40、第2循環路116、滅菌物質供給部200の順で循環する循環経路が形成される。所定時間の経過後、もしくは滅菌物質原料の消費量が所定量になったときに滅菌工程が終了する。たとえば、滅菌工程は滅菌物質カートリッジ260が空になったときに終了するようにしてもよい。
滅菌工程が終了すると、制御部300は置換工程を開始する。置換工程では、滅菌物質供給部200が滅菌物質の生成と供給を停止し、開閉弁94が開く。これにより、滅菌物質を含む滅菌室40内の空気が、第2気体排出路70に排出される。また、開閉弁82が開き、ファン84がONになって、アイソレータ1の外部の空気が滅菌室40内に供給される。これにより、滅菌室40内の滅菌物質が空気に置換される。また、第2滅菌物質供給路62および第2循環路116内の滅菌物質も除去され、空気に置換される。第2気体排出路70に排出された空気は、第2気体排出路70を通ってアイソレータ1の外部に排気されるが、空気が滅菌物質分解処理フィルタ96を通過する際に、当該空気に含まれる滅菌物質は滅菌物質分解処理フィルタ96で分解される。なお、開閉弁106が開いて、滅菌物質が滅菌室圧調整流路100にも排出されるようにしてもよい。
置換工程で滅菌室40内の滅菌物質濃度が所定濃度以下となったときに、置換工程が終了し、扉30または側壁56を開くことができる状態、すなわち滅菌室40を開放可能な状態となる。滅菌室40を開放可能な滅菌物質の濃度は、滅菌室40からアイソレータ1の外部または作業室10内に滅菌物質が放出されても作業者または生体由来材料などに悪影響を与えない濃度であり、この濃度は、滅菌物質が過酸化水素ガスであった場合、たとえばACGIHによって規定されている1ppm(TWA:時間加重平均値)以下の濃度である。滅菌室40内の滅菌物質濃度は、滅菌室40内に赤外吸光式センサなどのセンサを設けることで求めることができる。あるいは滅菌室40内の滅菌物質濃度が所定値になるまでの時間を算出し、当該時間の経過を監視することで滅菌室40内の滅菌物質濃度が所定値となったことを検知するようにしてもよい。
(第3滅菌処理:作業室および滅菌室の滅菌)
本実施形態に係るアイソレータ1は、滅菌処理として、作業室10および滅菌室40内を一緒に滅菌する第3滅菌処理を有する。制御部300は、指示部310から第3滅菌処理実行の指示を受けると、第3滅菌処理を実行する。まず、前面扉12および搬入扉58が閉じ、扉30が開いた状態で、制御部300は前処理工程を開始する。前処理工程では、滅菌物質供給部200が滅菌物質の生成および供給を開始し、開閉弁74、76、82、88、94、102、106、118、120、126、130、134、138が閉じ、ブロワ78、90、ファン48、84がOFFとなる。そして、開閉弁72が開、ファン22がONの状態で、滅菌物質が第1滅菌物質供給路60を介して作業室10に供給される。作業室10に供給された滅菌物質は扉30を介して滅菌室40に移動し、これにより作業室10および滅菌室40内に滅菌物質が供給されて、滅菌物質濃度が作業室10および滅菌室40内の滅菌に必要な濃度以上となったら、前処理工程が終了する。
前処理工程が終了すると、制御部300は滅菌工程を開始する。滅菌工程では、開閉弁120が開き、滅菌物質を含む滅菌室40内の気体が第2循環路116を介して滅菌物質供給部200に送られる。これにより、滅菌物質が、第1滅菌物質供給路60、作業室10、滅菌室40、第2循環路116、滅菌物質供給部200の順で循環する循環経路が形成され、作業室10および滅菌室40が滅菌される。所定時間の経過後、もしくは滅菌物質原料の消費量が所定量になったときに滅菌工程が終了する。たとえば、滅菌工程は滅菌物質カートリッジ260が空になったときに終了するようにしてもよい。
滅菌工程が終了すると、制御部300は置換工程を開始する。置換工程では、滅菌物質供給部200が滅菌物質の生成と供給を停止し、開閉弁88、94が開き、ブロワ90、ファン84がONになる。これにより、滅菌物質を含む作業室10および滅菌室40内の気体が、第1気体排出路68および第2気体排出路70に排出される。また、開閉弁76、82が開き、ブロワ78がONになって、アイソレータ1の外部の空気が作業室10および滅菌室40内に供給される。これにより、作業室10および滅菌室40内の滅菌物質が空気に置換される。また、第1滅菌物質供給路60および第2循環路116内の滅菌物質も除去され、空気に置換される。第1気体排出路68および第2気体排出路70に排出された滅菌物質は、滅菌物質分解処理フィルタ92および滅菌物質分解処理フィルタ96で分解される。なお、開閉弁102、106が開いて、滅菌物質が作業室圧調整流路98、滅菌室圧調整流路100にも排出されるようにしてもよい。
置換工程で作業室10および滅菌室40内の滅菌物質濃度が所定濃度以下となったときに、置換工程が終了する。
なお、滅菌工程において、第2循環路116を介した滅菌物質の滅菌物質供給部200への送出と、第1循環路114を介した滅菌物質の滅菌物質供給部200への送出とを並行して、もしくは切り換えて実行してもよい。これによれば、作業室10と滅菌室40とで滅菌物質の供給量を異ならせることができ、作業室10と滅菌室40とで滅菌の程度を調整することができる。具体的には、たとえば滅菌工程の初期段階では、第1循環路114を介した滅菌物質の循環により、滅菌物質が主に第1滅菌物質供給口16から第1滅菌物質排出口110に向けて移動する。そのため、滅菌物質の主な流れが作業室10内のみを通過するように形成される。そして、所定時間の経過後に第1循環路114を介した循環から第2循環路116を介した滅菌物質の循環に切り換えられることにより、滅菌物質が主に第1滅菌物質供給口16から第2滅菌物質排出口112に向けて移動する。そのため滅菌物質の主な流れが滅菌室40内も通過するように形成される。これにより、作業室10内の滅菌をより重点的に行うことができる。
あるいは、滅菌工程の初期段階では、第1循環路114を介した滅菌物質の循環と第2循環路116を介した滅菌物質の循環とが並行して行われることで、作業室10内を通過する滅菌物質の主な流れと、この流れから滅菌室40に分岐する滅菌物質の流れとが形成される。ただし、滅菌物質が供給される位置は第1滅菌物質供給口16であるため、作業室10内を通過する滅菌物質の量の方が、滅菌室40内に流れる量よりも多い。そして、所定時間の経過後に第1循環路114を介した滅菌物質の循環が遮断されることにより、滅菌物質の主な流れが滅菌室40内を通過するように形成される。これにより、第1循環路114と第2循環路116とを切り換える場合よりも滅菌室40内に供給する滅菌物質の量を増やしつつ、作業室10内の滅菌を重点的に行うことができる。
また、前処理工程において、滅菌物質が第2滅菌物質供給路62を介して滅菌室40に供給され、扉30を介して作業室10に移動し、滅菌工程において、滅菌物質が第2滅菌物質供給路62、滅菌室40、作業室10、第1循環路114、滅菌物質供給部200の順で循環するようにしてもよい。この場合、第1循環路114を介した滅菌物質の循環と、第2循環路116を介した滅菌物質の循環とを並行して、もしくは切り換えて実行することで、作業室10と滅菌室40とで滅菌物質の供給量を異ならせることができる。これにより、作業室10と滅菌室40とで滅菌の程度を調整することができる。
ここで、滅菌物質がHEPAフィルタを通過すると、その一部がHEPAフィルタに吸着してしまう。そして、HEPAフィルタに吸着した滅菌物質は、HEPAフィルタから剥離しにくく、比較的長い時間をかけて徐々に剥離していく。したがって、たとえば作業室10の吸気側に設けられたHEPAフィルタ24に滅菌物質が吸着して残っていた場合、作業室10での作業中に滅菌物質がHEPAフィルタ24から剥離して、作業室10内に混入してしまうおそれがある。そのため、滅菌物質をHEPAフィルタから確実に除去するために、置換工程の時間を長くする必要があった。これに対し、上述した第1滅菌処理、第2滅菌処理、および第3滅菌処理では、作業室10の吸気側に設けられたHEPAフィルタ24と、滅菌室40の吸気側に設けられたHEPAフィルタ50を介さずに、滅菌物質が作業室10および滅菌室40に供給されている。そのため、HEPAフィルタを通過させた場合と比べて置換工程の時間を短くすることができ、よって、滅菌処理に要する時間を短縮することができる。
(HEPAフィルタの滅菌)
上述した第1滅菌処理または第3滅菌処理では、滅菌物質がHEPAフィルタ24を通過しないため、HEPAフィルタ24が十分に滅菌されない場合がある。そこで、アイソレータ1は、HEPAフィルタ24を滅菌するために、以下のフィルタ滅菌処理を実行可能である。当該フィルタ滅菌処理は、第1滅菌処理または第3滅菌処理の選択とともに、ユーザがHEPAフィルタ24の滅菌処理を選択した場合に実行される。あるいは、当該フィルタ滅菌処理は、第1滅菌処理と組み合わせた第4滅菌処理、第3滅菌処理と組み合わせた第5滅菌処理として選択可能であってもよい。
HEPAフィルタ24のフィルタ滅菌処理が選択されると、制御部300は第1滅菌処理または第3滅菌処理において、作業室10に供給された滅菌物質を所定のタイミングで第1フィルタ経由循環路122を介して循環させる。具体的には、第1滅菌処理または第3滅菌処理の滅菌工程において、所定のタイミングで開閉弁126が開き、ブロワ78がONになる。これにより、滅菌物質を含む作業室10内の気体が、HEPAフィルタ26、第1フィルタ経由循環路122、HEPAフィルタ24、作業室10の順で循環し、HEPAフィルタ24が滅菌される。
また、同様に上述した第2滅菌処理または第3滅菌処理では、滅菌物質がHEPAフィルタ50を通過しないため、HEPAフィルタ50が十分に滅菌されない場合がある。そこで、アイソレータ1は、HEPAフィルタ50を滅菌するために、以下のフィルタ滅菌処理を実行可能である。当該フィルタ滅菌処理は、第2滅菌処理または第3滅菌処理の選択とともに、ユーザがHEPAフィルタ50の滅菌処理を選択した場合に実行される。あるいは、当該フィルタ滅菌処理は、第2滅菌処理と組み合わせた第6滅菌処理、第3滅菌処理と組み合わせた第7滅菌処理、第5滅菌処理と組み合わせた第8滅菌処理として選択可能であってもよい。
HEPAフィルタ50のフィルタ滅菌処理が選択されると、制御部300は、第2滅菌処理または第3滅菌処理において、滅菌室40に供給された滅菌物質を所定のタイミングで第2フィルタ経由循環路124を介して循環させる。具体的には、第2滅菌処理または第3滅菌処理の滅菌工程において、所定のタイミングで開閉弁134が開き、ファン84がONになる。これにより、滅菌物質を含む滅菌室40内の気体が、HEPAフィルタ52、第2フィルタ経由循環路124、HEPAフィルタ50、滅菌室40の順で循環し、HEPAフィルタ50が滅菌される。
さらに、上述のHEPAフィルタ24のフィルタ滅菌処理において、制御部300は、作業室10に供給された滅菌物質を所定のタイミングで第1分解処理部経由路128を介して循環させる。具体的には、第1滅菌処理または第3滅菌処理の滅菌工程において、第1フィルタ経由循環路122を介して滅菌物質が循環した後、所定のタイミングで開閉弁130が開き、開閉弁126が閉じる。これにより、滅菌物質を含む作業室10内の空気が、HEPAフィルタ26、第1分解処理部経由路128、HEPAフィルタ24、作業室10の順で循環し、滅菌物質が滅菌物質分解処理フィルタ132を繰り返し通過して分解除去される。作業室10内の滅菌物質濃度が所定値以下となったら、制御部300は、滅菌工程を終了して置換工程を開始する。
同様に、上述のHEPAフィルタ50のフィルタ滅菌処理において、制御部300は、滅菌室40に供給された滅菌物質を所定のタイミングで第2分解処理部経由路136を介して循環させる。具体的には、第2滅菌処理または第3滅菌処理の滅菌工程において、第2フィルタ経由循環路124を介して滅菌物質が循環した後、所定のタイミングで開閉弁138が開き、開閉弁134が閉じる。これにより、滅菌物質を含む滅菌室40内の空気が、HEPAフィルタ52、第2分解処理部経由路136、HEPAフィルタ50、滅菌室40の順で循環し、滅菌物質が滅菌物質分解処理フィルタ140を繰り返し通過して分解除去される。滅菌室40内の滅菌物質濃度が所定値以下となったら、制御部300は、滅菌工程を終了して置換工程を開始する。
上述のように置換工程に先立って滅菌物質を分解除去しなかった場合、置換工程の初期では滅菌物質濃度が高いため、滅菌物質分解処理フィルタ92、滅菌物質分解処理フィルタ96での滅菌物質の分解に長い時間がかかってしまう。一方、本実施形態では、滅菌工程において作業室10内の気体が繰り返し第1分解処理部経由路128を通り、また滅菌室40内の気体が繰り返し第2分解処理部経由路136を通って滅菌物質が分解される。そのため、短時間のうちに作業室10または滅菌室40内の滅菌物質濃度を低減することができ、その結果、滅菌処理時間を短縮することができる。また、滅菌物質濃度を十分に低減した後に作業室10または滅菌室40内の気体がアイソレータ1の外部に排出されているため、滅菌物質の外部への漏出をより確実に防止できる。ここで、前記「所定値」は、たとえば滅菌処理時間の短縮と滅菌物質の漏出の防止を両立し得る値であり、その値は設計者による実験やシミュレーションに基づき設定することができる。
上述のフィルタ滅菌処理を実行する場合には、吸気側のHEPAフィルタ24、HEPAフィルタ50に滅菌物質を通しているため、フィルタ滅菌処理を実行しない場合に比べて置換工程が長く設定される。そこで、たとえば、作業室内における1つの作業が終了した後、次の作業に際して滅菌処理を実施する場合などに、第1滅菌処理、第2滅菌処理、もしくは第3滅菌処理を実行する。これにより、滅菌処理時間を短くし、早期に次の作業を開始できるようになる。一方、たとえば一日の作業が終了し、次の作業が翌日実施されるような場合、あるいは定期的なメンテナンスを実施する場合には、第1滅菌処理、第2滅菌処理、もしくは第3滅菌処理とともにフィルタ滅菌処理を実行する。これにより、吸気側のHEPAフィルタも滅菌されて、アイソレータ1での作業の信頼性を向上させることができる。
なお、第1滅菌処理、および第3滅菌処理において、作業室10に供給された滅菌物質が排気側のHEPAフィルタ26を通過するため、HEPAフィルタ26には滅菌物質が吸着する。そして、HEPAフィルタ26に吸着した滅菌物質の剥離には比較的長時間を要する。しかしながら、HEPAフィルタ26から剥離した滅菌物質は、作業中に生じている作業室10からアイソレータ1の外部に向かう空気の流れに乗って第1気体排出路68側に送り出され、作業室10内に逆流する可能性は低い。そのため、フィルタ滅菌処理を伴わない場合は、HEPAフィルタ26に吸着した滅菌物質の存在にかかわらず、フィルタ滅菌処理を伴う場合よりも滅菌処理時間を短くすることができる。
以上説明した構成による作用効果を総括すると、実施形態1のアイソレータ1は、HEPAフィルタを介さずに滅菌物質供給部200と作業室10とをつなぐ第1滅菌物質供給路60と、HEPAフィルタを介さずに滅菌物質供給部200と滅菌室40とをつなぐ第2滅菌物質供給路62とを備えている。そのため、作業室および滅菌室の吸気側に設けられたHEPAフィルタを介さずに作業室および滅菌室内の滅菌が可能である。これにより、前処理工程において滅菌物質濃度が規定濃度に到達するまでの時間が短縮され、また、置換工程の時間が短縮されるため、滅菌処理に要する時間を短縮することができる。さらに、HEPAフィルタへの吸着による滅菌物質の無駄な消費を抑えることができ、作業室および滅菌室内をより確実に滅菌することができる。
また、アイソレータ1は、作業室10と滅菌物質供給部200とをHEPAフィルタを介さずにつなぐ第1循環路114と、滅菌室40と滅菌物質供給部200とをHEPAフィルタを介さずにつなぐ第2循環路116とを備えている。そのため、作業室および滅菌室の排気側に設けられたHEPAフィルタを介さずに、滅菌物質供給部に滅菌物質を送出することができる。したがって、作業室と滅菌物質供給部との間、もしくは滅菌室と滅菌物質供給部との間にHEPAフィルタを介さない循環路を形成することができる。これにより、作業室および滅菌室の滅菌効率が向上してより確実に滅菌することが可能となり、アイソレータの信頼性を向上させることができる。
また、アイソレータ1は、外部と作業室10とをつなぐ第1気体供給路64および第1気体排出路68と、外部と滅菌室40とをつなぐ第2気体供給路および第2気体排出路70とを備えている。そのため、作業室および滅菌室内の滅菌物質をより迅速、かつ確実に除去することができる。これにより、アイソレータの信頼性を向上させることができる。
また、アイソレータ1は、第1滅菌物質供給路60を介して滅菌物質を作業室10に供給して作業室10内を滅菌する第1滅菌処理と、第2滅菌物質供給路62を介して滅菌物質を滅菌室40に供給して滅菌室40内を滅菌する第2滅菌処理とを互いに独立に実施可能である。したがって、作業室の滅菌と滅菌室の滅菌とを開始時間をずらして実施することができる。例えば、作業室で作業をしている間に滅菌室の滅菌処理を開始し、滅菌室の滅菌中に作業室での作業が終了した場合、滅菌室の滅菌処理の終了を待つことなく作業室の滅菌処理を開始することができる。これにより、アイソレータでの作業効率が向上し、被処理物の生成量を増大させることができる。
また、アイソレータ1は、扉30が開いた状態で、滅菌物質を第1滅菌物質供給路60を介して作業室10に供給し、作業室10から滅菌室40に移動した滅菌物質を第2循環路116を介して滅菌物質供給部200に送るか、滅菌物質を第2滅菌物質供給路62を介して滅菌室40に供給し、滅菌室40から作業室10に移動した滅菌物質を第1循環路114を介して滅菌物質供給部200に送る第3滅菌処理を実行可能である。これにより、作業室および滅菌室を一緒に滅菌することができる。また、第1滅菌物質供給路60から滅菌物質を供給した場合には第2循環路116から滅菌物質を送り出し、第2滅菌物質供給路62から滅菌物質を供給した場合には第1循環路114から滅菌物質を送り出している。そのため、作業室から滅菌室へ、もしくは滅菌室から作業室への滅菌物質の流れを作り出すことができる。したがって、作業室および滅菌室を双方とも確実に滅菌することができる。
また、アイソレータ1は、第3滅菌処理において、第1滅菌物質供給路60を介して滅菌物質を作業室10および滅菌室40に供給し、第2循環路116を介した滅菌物質の滅菌物質供給部200への送出と、第1循環路114を介した滅菌物質の滅菌物質供給部200への送出とを並行して、もしくは切り換えて行っている。これにより、作業室と滅菌室とで滅菌物質の供給量を異ならせることができ、作業室と滅菌室とで滅菌の程度を調整することができる。そのため、アイソレータの使用状況に応じて最適な滅菌処理を実施することができる。
また、アイソレータ1は、作業室10に設けられた第1気体供給口18と第1気体排出口20とをつなぐ第1フィルタ経由循環路122を備えている。そして、アイソレータ1は、第1滅菌処理または第3滅菌処理において、作業室10に供給された滅菌物質を所定のタイミングで第1フィルタ経由循環路122を介して循環させている。あるいは、アイソレータ1は、滅菌室40に設けられた第2気体供給口44と第2気体排出口46とをつなぐ第2フィルタ経由循環路124を備えている。そして、アイソレータ1は、第2滅菌処理または第3滅菌処理において、滅菌室40に供給された滅菌物質を所定のタイミングで第2フィルタ経由循環路124を介して循環させている。これにより、作業室および滅菌室の吸気側に設けられたHEPAフィルタを滅菌することができ、作業室および滅菌室内をより確実に無菌状態とすることができる。
また、第1フィルタ経由循環路122は、滅菌物質分解処理フィルタ132を通る第1分解処理部経由路128を含み、アイソレータ1は、第1滅菌処理において、作業室10に供給された滅菌物質を所定のタイミングで第1分解処理部経由路128を介して循環させている。あるいは、第2フィルタ経由循環路124は、滅菌物質分解処理フィルタ140を通る第2分解処理部経由路136を含み、アイソレータ1は、第2滅菌処理において、滅菌室40に供給された滅菌物質を所定のタイミングで第2分解処理部経由路136を介して循環させている。これにより、作業室および滅菌室内の滅菌物質が滅菌物質分解処理フィルタを繰り返し通過して分解される。そのため、より短時間で滅菌物質を低減でき、よって、滅菌処理時間を短縮することができる。また、滅菌物質の外部への漏出をより確実に防止でき、アイソレータの安全性を向上させることができる。
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうるものである。
たとえば、各弁は開閉弁に限らず、三方弁であってもよい。また、扉30に開閉検知センサを設け、扉30の開状態が検知されている間は、少なくとも第2滅菌処理が実行されないようにしてもよい。これによれば、作業室10での作業中に滅菌室40で物品を滅菌しようとした場合に、扉30が開いていたために滅菌物質が作業室10内に流入してしまうという事態を防ぐことができる。また、扉30の開状態が検知されている間は、第1滅菌処理および第2滅菌処理が実行されず、扉30の閉状態が検知されている間は、第3滅菌処理が実行されないようにしてもよい。これによれば、たとえば第1滅菌処理または第2滅菌処理を実行して作業室10または滅菌室40を滅菌しようとした場合に、扉30が開いていたために滅菌物質が滅菌室40内または作業室10内に流入してしまい、滅菌物質濃度が低下して滅菌が不十分になってしまうという事態を防ぐことができる。また、第3滅菌処理を実行して作業室10および滅菌室40の両方を滅菌しようとした場合に、扉30が閉じていたために作業室10または滅菌室40のどちらか一方しか滅菌されなかったという事態を防ぐことができる。同様に、前面扉12または搬入扉58にも開閉検知センサを設け、当該センサの検知結果に応じて、滅菌処理の実行を制御してもよい。