JP5753677B2 - 研磨パッドおよび研磨パッドの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、研磨パッドおよび研磨パッドの製造方法に係り、特に、湿式凝固法により複数の空隙が形成され被研磨物を研磨加工するための研磨面に空隙の開孔が形成された樹脂シートを備えた研磨パッドおよび該研磨パッドの製造方法に関する。
従来半導体デバイス等の各種材料(被研磨物)では、平坦性を確保するために研磨パッドを使用した研磨加工が行われている。半導体デバイスの製造では、通常、銅配線の層や絶縁層が順次形成され多層化されるが、各層を形成した後の表面(加工面)に研磨加工が行われている。近年では、半導体回路の集積度が増大するにつれて高密度化を目的とした微細化や多層配線化が進められており、加工面を一層高精度に平坦化する技術が重要となっている。
一般に、半導体デバイスの製造では、化学的機械的研磨(以下、CMPと略記する。)法が用いられている。CMP法では、通常、砥粒(研磨粒子)をアルカリ溶液または酸溶液に分散させたスラリ(研磨液)が供給される。すなわち、被研磨物(の加工面)は、スラリ中の砥粒による機械的研磨作用と、アルカリ溶液または酸溶液による化学的研磨作用とで平坦化される。CMP法による半導体デバイスの研磨加工では、通常、乾式成型法や湿式凝固法により形成され、被研磨物を研磨加工するための研磨面に開孔が形成された樹脂シートを備えた研磨パッドが用いられている。研磨加工時には、研磨面に形成された開孔に砥粒が保持されつつ加工面内に分散するように供給される。
ところが、乾式成型法による樹脂シートでは、硬質で独立発泡タイプのものが主体となる。このため、研磨面に形成された開孔が砥粒や研磨屑(スラッジ)等により目詰まりし閉塞しやすくなる、という問題がある。開孔が閉塞すると、砥粒等が凝集しやすくなり、結果として、被研磨物の加工面に研磨キズ(スクラッチ)を生じさせるおそれがある。半導体デバイスの研磨加工では、スクラッチが生じると配線が切断されるおそれがあり、致命的な欠点となる。研磨加工を中断し、表面をドレッシングすれば、開孔が再生され研磨加工の継続が可能となるものの、研磨効率の低下を招くこととなる。これに対して、湿式凝固法により形成された樹脂シートでは、一般に多数の空隙が網目状に連通した連通構造が得られるため、砥粒等の凝集による開孔の閉塞は生じにくくなる。その反面、本来軟質であるうえ、硬質の樹脂を用いても構造的に硬度を高めることが難しく、また、樹脂シートの厚み方向全体にわたる長さを有するような縦長で円錐状の多数の巨大気泡が互いに連結するくらいに近接して形成されやすくなる。縦長円錐状の巨大気泡が形成された樹脂シートでは、研磨加工に伴い研磨面側が摩耗するにつれて、研磨面における開孔の大きさが大きくなるため、研磨レートが増大するものの、被研磨物の平坦性を向上させることが難しくなる。また、高精度の平坦性確保を目的とする場合は、研磨パッドの寿命(ライフ)が短くなってしまう、という問題もある。
これらの問題を回避するために、半導体デバイスの研磨加工に用いられる研磨パッドでは、縦長円錐状の巨大気泡が形成されることなく細孔が連続状に形成された樹脂シートが求められてきている。細孔が形成された樹脂シートについては、樹脂の凝固価(ゲル化点)を大きくすることで得られやすくなることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。すなわち、ゲル化点を高くすると緻密なスキン層が形成されにくくなり、樹脂溶液の溶媒の凝固液への拡散が速くなる。また、凝固液としてポリウレタン樹脂溶解用の有機溶媒と水とを混合した水系凝固液を用いると、凝固液中の水の割合が少なくなる分浸透圧が小さくなるので、凝固液中の水の樹脂溶液内部への浸入が遅くなる。結果として、樹脂シートの厚み方向全体にわたる長さを有するような巨大気泡の形成が抑えられ、細孔が形成されやすくなる。このような概念から、ゲル化点が6以上の極性溶媒可溶性高分子材料で形成され、気孔の平均孔径が30μm以下の樹脂シートを用いた研磨パッドの技術が開示されている(特許文献1参照)。
ところが、特許文献1の技術のように細孔が形成された研磨パッドでは、ポリウレタン樹脂のゲル化点を高くすることから、一般的にポリエステルポリオール系ポリウレタン樹脂が用いられることとなる。ポリエステル系のポリウレタン樹脂では、耐加水分解性、とりわけ、耐アルカリ加水分解性が劣っているため、CMP法による研磨加工において研磨液にさらされることで樹脂シートの劣化を招くことがある。この結果、安定した研磨加工を継続することができず、研磨レートや被研磨物の平坦性を低下させることとなる。また、開孔が細孔のみで形成された研磨パッドでは、高精度の平坦性が期待されるものの、研磨加工時にスラリやスラッジが蓄積されやすく、目詰まりを起こしやすくなる。ドレス処理により目詰まりを解消することができるが、ドレス処理による摩耗でライフを短くしてしまう、という欠点がある。そこで、縦長円錐状の巨大気泡が形成された研磨パッドを用い、研磨面にエンボス加工を施し研磨面に凹部と凸部とを設ける技術が開示されている(例えば、特許文献2、特許文献3参照)。
特許第4373152号公報 特開平08−197434号公報 特開2004−140130号公報
福島ら:「ポリウレタンのスポンジ構造」、高分子論文集、Vol.39、No.9、pp.543−548(1982)
しかしながら、特許文献2、特許文献3の技術のように、縦長円錐状の多数の巨大気泡が互いに連結するくらいに近接して形成された研磨パッドにエンボス加工を施した場合は、凹部にも巨大気泡が残り凹部の表面に巨大気泡の開孔が形成されていることとなる。このため、凹部の巨大気泡にスラリやスラッジが溜まり、却ってスクラッチを招きやすくなる、という問題が生じる。これは、凹部の巨大気泡では研磨加工時に圧縮を受けにくいことから、巨大気泡内に流入したスラリ等が排出されにくくなるためと考えられる。巨大気泡内でスラリ等の凝集物が形成され、その凝集物が偶発的に放出されることでスクラッチを引き起こすこととなる。一方、細孔が形成された研磨パッドにエンボス加工を施す場合は、巨大気泡が形成されていない分、高密度となるためにエンボス加工条件をより高温高圧にしなければならなくなる。従って、凸部でも表面が押圧されたり熱変形したりすることで、開孔が小さくなり、脆化が促進されてしまう。このため、むしろ目詰まりを促進させる結果となる。
本発明は上記事案に鑑み、被研磨物に対するスクラッチ発生を抑制することができる研磨パッドおよび該研磨パッドの製造方法を提供することを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様は、湿式凝固法により複数の空隙が形成され被研磨物を研磨加工するための研磨面に前記空隙の開孔が形成された樹脂シートを備えた研磨パッドにおいて、前記樹脂シートは、厚み方向に沿う断面を観察したときに、前記空隙の最大径が50μm〜300μmの範囲にあり、かつ、前記厚み方向に縦長で前記樹脂シートの厚みの半分未満の長さを有する気泡と、前記気泡間に前記空隙の最大径が1μm〜10μmの範囲にある多数の細孔とが形成されたものであるとともに、一面側に、前記気泡および細孔の開孔が表面に形成され該表面により前記研磨面が構成される凸部と、前記凸部の間に形成された凹部とを有しており、前記凹部の形成位置が加熱されるように加圧され形成されたものであるとともに、前記凹部において、前記気泡および細孔が前記凸部に形成された細孔より縮径ないし閉塞され、かつ、前記厚み方向に沿う断面に前記気泡が観察されないものであることを特徴とする。
第1の態様では、樹脂シートに形成された空隙として最大径が50μm〜300μmの範囲にあり、かつ、厚み方向に縦長で樹脂シートの厚みの半分未満の長さを有する気泡と、気泡間に最大径が1μm〜10μmの範囲の多数の細孔とが形成されるとともに、研磨面を構成する凸部の表面に気泡および細孔の開孔が形成されたことで、気泡の開孔により細孔の開孔での目詰まりを抑制することができ、樹脂シートが凹部の形成位置が加熱されるように加圧され形成されたものであり、凹部において、気泡および細孔が凸部に形成された細孔より縮径ないし閉塞され、かつ、厚み方向に沿う断面に気泡が観察されないため、凹部内で研磨液や研磨屑の貯留が抑制され凹部により円滑に研磨液が循環供給され研磨屑が排出されるので、被研磨物に対するスクラッチ発生を抑制することができる。
第1の態様において、気泡が、樹脂シートの厚み方向と交差する方向における凸部の長さ10mmあたりに3個〜50個の範囲の割合で形成されていてもよい。
本発明の第2の態様は、第1の態様の研磨パッドの製造方法であって、樹脂を極性溶媒に均一となるように混合し溶解させた樹脂溶液を準備する準備ステップと、前記準備ステップで準備した樹脂溶液をシート状の基材に塗布した後、水系凝固液中で凝固させ樹脂シートを形成させるシート形成ステップと、前記シート形成ステップで形成された樹脂シートの一面側に凸部と凹部とが形成されるように熱エンボス加工を施すエンボス加工ステップと、を含み、前記エンボス加工ステップにおいて、前記凹部に対応する位置が加熱されるように加圧することを特徴とする。この場合において、準備ステップで、樹脂溶液に、樹脂を溶解可能であり、水に対する溶解度が極性溶媒の水に対する溶解度より小さい有機溶媒を更に混合することができる。このとき、有機溶媒を、樹脂溶液中に5wt%〜15wt%の範囲の割合で混合してもよい。また、シート形成ステップで、水系凝固液として極性溶媒が10wt%〜20wt%の範囲で混合された水を用いてもよい。
本発明によれば、樹脂シートに形成された空隙として最大径が50μm〜300μmの範囲にあり、かつ、厚み方向に縦長で樹脂シートの厚みの半分未満の長さを有する気泡と、気泡間に最大径が1μm〜10μmの範囲の多数の細孔とが形成されるとともに、研磨面を構成する凸部の表面に気泡および細孔の開孔が形成されたことで、気泡の開孔により細孔の開孔での目詰まりを抑制することができ、樹脂シートが凹部の形成位置が加熱されるように加圧され形成されたものであり、凹部において、気泡および細孔が凸部に形成された細孔より縮径ないし閉塞され、かつ、厚み方向に沿う断面に気泡が観察されないため、凹部内で研磨液や研磨屑の貯留が抑制され凹部により円滑に研磨液が循環供給され研磨屑が排出されるので、被研磨物に対するスクラッチ発生を抑制することができる、という効果を得ることができる。
本発明を適用した実施形態の研磨パッドを模式的に示す断面図である。 研磨パッドに形成された凹部と凸部との位置関係を模式的に示す平面図であり、(A)は凹部が格子状に形成された位置関係、(B)は凹部が同心円状に形成された位置関係をそれぞれ示す。 研磨パッドの製造工程の概略を示す工程図である。 実施例の研磨パッドを構成するウレタンシートを示す電子顕微鏡写真であり、(A)は熱エンボス加工前のウレタンシートの断面、(B)は熱エンボス加工前の微細孔が形成された部分を拡大して示す断面、(C)は熱エンボス加工後の凹部と凸部とを有するウレタンシートの断面、(D)は熱エンボス加工後の凹部を拡大して示す断面である。 従来の研磨パッドを模式的に示す断面図である。
以下、図面を参照して、本発明を適用した研磨パッドの実施の形態について説明する。
(構成)
本実施形態の研磨パッド10は、図1に示すように、樹脂シートとしてのウレタンシート2を備えている。ウレタンシート2は、湿式凝固法によりポリウレタン樹脂でシート状に形成されている。
ウレタンシート2は、一面側に熱エンボス加工が施されており、凸部5と、凸部5の間に形成された凹部6とを有している。凸部5の表面が被研磨物を研磨加工するための研磨面Pを構成している。凸部5には、ウレタンシート2の厚み方向に縦長で丸みを帯びた円錐状の複数の気泡3が形成されている。気泡3は、ウレタンシート2の厚み方向に沿う断面を観察したときの最大径が50〜300μmの範囲に調整されている。気泡3の形成割合は、ウレタンシート2の厚み方向と交差する方向における凸部5の長さ10mmあたりに3〜50個の範囲に調整されている。なお、気泡3の形成割合を凸部5の長さを基準として定めているが、1つの凸部5の長さが10mmに満たない場合は、凹部6を介して隣り合う2つの凸部5における累計の長さ10mmを基準とする。
凸部5に形成された気泡3の間のポリウレタン樹脂中には、気泡3の平均孔径より小さい平均孔径を有する多数の細孔4が略均等に分散した状態で形成されている。細孔4は、ウレタンシート2の厚み方向に沿う断面を数千倍の倍率で観察したときに視認できる球状の空隙であり、最大径が1μm以上、10μm以下の範囲を有している。また、細孔4は、ウレタンシート2の厚み方向の断面における単位面積あたりの形成割合が、1000〜10000個/mmの範囲に調整されている。一方、凹部6では、凹部6の形成前に凸部5の気泡3や微細孔4と同じ形成割合で形成された気泡3が押し潰されており、細孔4が縮径ないし閉塞されている。このため、凹部6では、ポリウレタン樹脂中に、平均孔径が細孔4の平均孔径より小さい微細孔4sが形成されている。また、凹部6では、細孔4や気泡3の一部が押し潰され閉塞されたことで、数千倍の倍率で視認できる微細孔4sの形成割合は、凸部5における細孔4の形成割合より小さくなっている。従って、ウレタンシート2では、湿式凝固法により作成された1枚のウレタンシートに熱エンボス加工が施されたことにより、気泡3および細孔4が形成された凸部5と、微細孔4sが形成された凹部6とで空隙構造が異なることとなる。
凸部5に形成された気泡3、細孔4は、湿式凝固法による成膜時の溶媒置換に伴い細孔4の平均孔径より小さい孔径を有し数千倍の倍率でも視認できないチャネル(不図示)で連通している。すなわち、ウレタンシート2は気泡3、細孔4が直接またはチャネルを通じて相互に連通した連通構造を有している。ウレタンシート2では、湿式凝固法による成膜時に形成されるスキン層が研削処理(バフ処理)で除去されている。このため、研磨面P、すなわち、凸部5の表面では、気泡3および細孔4が開孔しており、それぞれ開孔3aおよび開孔4aが形成されている。気泡3、細孔4が連通していることで、開孔3a、開孔4aがチャネルを通じて気泡3、細孔4と連通していることとなる。これに対して、凹部6の表面では、研削処理で形成された開孔が凹部6の形成時に押し潰されている。このため、凹部6の表面には開孔が(実質的には)形成されていない。
図2(A)に示すように、研磨面Pでは、凹部6が凸部5の間に均等に位置するように格子状に形成されている。換言すれば、凹部6は、研磨面Pで格子溝状に形成されている。凸部5、凹部6の幅は、ウレタンシート2の大きさの範囲でそれぞれ調整することができる。凸部5の表面が研磨面Pを構成しており、研磨加工の効率を考慮すれば、凸部5の幅が凹部6の幅より大きくなるように設定することが好ましい。
また、研磨パッド10は、ウレタンシート2の研磨面Pと反対の面側に、研磨機に研磨パッド10を装着するための両面テープ8が貼り合わされている。両面テープ8は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する。)製フィルム等の可撓性フィルムの基材を有しており、基材の両面に粘着剤等の粘着剤層(不図示)がそれぞれ形成されている。両面テープ8は、基材の一面側の粘着剤層でウレタンシート2と貼り合わされており、他面側(ウレタンシート2と反対側)の粘着剤層が剥離紙9で覆われている。なお、この両面テープ8の基材は、研磨パッド10の基材を兼ねている。
(製造)
研磨パッド10は、図3に示すように、湿式凝固法によりウレタンシート2を作製し、得られたウレタンシート2と両面テープ8とを貼り合わせることにより製造される。湿式凝固法では、ポリウレタン樹脂を極性溶媒に溶解させた樹脂溶液を準備する準備工程、樹脂溶液を成膜基材にシート状に塗布する塗布工程、樹脂溶液を凝固液中で凝固させシート状のポリウレタン樹脂を形成するシート形成工程、形成されたシート状のポリウレタン樹脂を洗浄し乾燥させる洗浄・乾燥工程、スキン層をバフ処理で除去するバフ処理工程、研磨面P側に凸部5、凹部6を形成するために熱エンボス加工する熱エンボス工程を経てウレタンシート2が作製される。以下、工程順に説明する。
(準備工程)
準備工程では、ポリウレタン樹脂、ポリウレタン樹脂を溶解可能な水混和性の極性溶媒および添加剤を均一となるように混合し樹脂溶液を準備する。ポリウレタン樹脂としては、例えば、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系等のいずれのポリウレタン樹脂も用いることができるが、100%モジュラスが2〜50MPaの範囲のポリウレタン樹脂を選択し用いる。極性溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリドン(NMP)等を用いることができる。本例では、極性溶媒としてDMFを用いる。添加剤としては、気泡3および細孔4の大きさや量(個数)を制御するため、カーボンブラック等の顔料、空隙形成を促進させる親水性活性剤、樹脂の凝固再生を安定化させる疎水性活性剤等を用いることができる。ポリウレタン樹脂を、例えば、30wt%となるようにDMFに溶解させ、減圧下で脱泡することで樹脂溶液を調製する。
(塗布工程)
塗布工程では、準備工程で準備した樹脂溶液を常温下でナイフコータ等の塗布装置により帯状の成膜基材にシート状に略均一に塗布する。このとき、ナイフコータ等と成膜基材との間隙(クリアランス)を調整することで、樹脂溶液の塗布厚さ(塗布量)を調整する。成膜基材としては、布帛や不織布等を用いることもできるが、本例では、PET製フィルムを用いる。
(シート形成工程)
シート形成工程では、成膜基材に塗布された樹脂溶液を、ポリウレタン樹脂に対して貧溶媒である水を主成分とする凝固液(水系凝固液)に連続的に案内する。凝固液には、ポリウレタン樹脂の凝固再生速度を調整するために、上述した極性溶媒が10〜20wt%の範囲の割合で混合された水を使用することができる。本例では、水に15wt%のDMFが混合された凝固液を使用する。凝固液中で樹脂溶液が凝固し、連通構造を有するシート状のポリウレタン樹脂が再生する。
ここで、ポリウレタン樹脂の再生に伴う連通構造の形成について説明する。凝固液中では、まず、樹脂溶液と凝固液との界面に皮膜が形成され、皮膜の直近のポリウレタン樹脂中にスキン層が形成される。その後、樹脂溶液中のDMFの凝固液中への拡散と、凝固液中の水の樹脂(溶液)中への浸入との協調現象、すなわち、溶媒置換によりポリウレタン樹脂の再生が進行する。ポリウレタン樹脂の溶解に用いた極性溶媒のDMFが凝固液に含有されているため、凝固液に水のみを用いた場合と比べてスキン層の形成が遅くなり、緻密さがゆるやかになる。このため、樹脂溶液中のDMFの凝固液への拡散が速くなる。また、凝固液としては、水に極性溶媒が上述した割合で混合されているため、凝固液中の水の割合が少なくなる分で浸透圧が低くなるので、凝固液中の水の樹脂溶液への浸入が遅くなる。結果として、シート厚みの全体にわたる長さを有するような巨大気泡の形成が抑制される。凝固液中に占める極性溶媒の割合を30〜45wt%程度にすることで、巨大気泡を無形成とし、細孔のみが形成されたウレタンシートを得ることができる。これに対して、本例では、極性溶媒の割合を10〜20wt%の範囲としたことで、気泡の形成が認められるが、その大きさが巨大気泡より小さくなり、更にその数も少なくなる。すなわち、本例では、気泡3が上述した範囲の大きさで形成される。また、気泡3の間には、細孔4がウレタンシート2の厚み方向に沿う断面を数千倍の倍率で観察したときに視認できる最大径1μm以上、10μm以下の範囲の大きさで形成される。DMFが樹脂溶液から脱溶媒し水と置換することで、気泡3、細孔4間にチャネルが形成され、気泡3、細孔4が連通する。従って、得られるシート状のポリウレタン樹脂では、従来の巨大気泡より小さく更にその数が少ない複数の気泡3が形成され、気泡3の間に多数の細孔4がほぼ一様に形成され、気泡3および細孔4が直接またはチャネルを通じて相互に連通した連通構造を有するものとなる。
(洗浄・乾燥工程)
図3に示すように、洗浄・乾燥工程では、シート形成工程で形成されたシート状のポリウレタン樹脂(以下、成膜樹脂という。)を水等の洗浄液中で洗浄して成膜樹脂中に残留するDMFを除去した後、乾燥させる。成膜樹脂の乾燥には、本例では、内部に熱源を有するシリンダを備えたシリンダ乾燥機を用いる。成膜樹脂がシリンダの周面に沿って通過することで乾燥する。乾燥後の成膜樹脂をロール状に巻き取る。
(バフ処理工程)
バフ処理工程では、洗浄・乾燥工程で乾燥させた成膜樹脂のスキン層が形成された面側にバフ処理を施す。成膜樹脂では、湿式凝固法による成膜時に厚みバラツキが生じているため、スキン層と反対の面側に、表面が平坦な圧接治具を圧接することで、スキン層側の表面に凹凸を出現させる。この凹凸をバフ処理で除去する。本例では、連続的に製造された成膜樹脂を、圧接ローラに圧接しながら、連続的または断続的にバフ処理を施す。成膜樹脂がバフ処理されて形成された成膜樹脂では厚みが均一化され、表面に開孔3a、開孔4aが形成される。
(熱エンボス工程)
熱エンボス工程では、成膜樹脂のバフ処理された面側に熱エンボス加工を施し、凸部5、凹部6を形成する。本例では、凸部5の形成位置に合わせて矩形状の開孔が形成された格子状の金属製の治具を使用する。この治具を加熱し、平板上に載置した成膜樹脂の表面(バフ処理された面)に押し付けることで凸部5、凹部6を有するウレタンシート2を作製する。このとき、治具の温度を120〜140℃の範囲に調整し、1〜5分間加圧処理する。換言すれば、格子状の治具により凹部6の形成位置が加圧され、凸部5が加圧されることなく形成される。ここで、熱エンボス加工で形成された凹部6における空隙構造について詳述する。熱エンボス工程では、気泡3、細孔4がほぼ一様に分散した状態で形成された成膜樹脂に(バフ処理後に)熱エンボス加工が施される。このため、凹部6では、気泡3が縮径されて細孔4より小さくなるか、または、押し潰されてなくなる。細孔4についても、縮径されるか、または、閉塞してなくなる。結果として、凹部6におけるウレタンシート2の厚み方向に沿う断面では、凸部5における気泡3のような大きな空隙が観察されず、微細孔4sのみが細孔4の形成割合より小さい形成割合で形成された空隙構造が観察される。
得られたウレタンシート2と両面テープ8とを貼り合わせることで研磨パッド10が製造される。このとき、ウレタンシート2の研磨面Pと反対の面側と、両面テープ8の一面側の粘着剤層とが貼り合わされる。両面テープ8の他面側には剥離紙9が残されている。そして、円形や角形等の所望の形状、所望のサイズに裁断した後、キズや汚れ、異物等の付着がないことを確認する等の検査を行い、研磨パッド10を完成させる。
被研磨物、例えば、半導体デバイスの研磨加工を行うときは、研磨機の研磨定盤に研磨パッド10を装着する。研磨定盤に研磨パッド10を装着するときは、剥離紙9を取り除き、露出した粘着剤層で貼着する。研磨定盤と対向配置された保持定盤に、例えば、保持パッドを介して被研磨物を保持させる。研磨定盤および保持定盤間で被研磨物を押圧し、スラリを供給しながら研磨定盤ないし保持定盤を回転させることで、被研磨物の加工面を研磨加工する。
(作用等)
次に、本実施形態の研磨パッド10の作用等について説明する。
ここで、説明をわかりやすくするために、従来の湿式凝固法により巨大セルが形成されたウレタンシートを用い、研磨面側に凸部と凹部とを形成した研磨パッド20について説明する。図5に示すように、ウレタンシート12は、一面側に研磨面Pを有している。従来の湿式凝固法では、厚み方向のほぼ全体にわたる長さや厚みの半分程度の長さを有する多数の巨大気泡13が形成される。巨大気泡13の間には多数の細孔4が形成されている。研磨面P側がバフ処理され、エンボス加工により凸部15と凹部16とが形成されている。研磨面P(凸部15の表面)では、巨大気泡13の開孔13aが形成されている。凸部15には巨大気泡13や細孔4が形成されたままの状態となるのに対して、凹部16ではポリウレタン樹脂中に気孔14が形成されていることとなる。この気孔14は、巨大気泡13が凹部6の形成に伴う加圧により圧縮されたものの閉塞することなく残されたものである。このため、凹部6の表面においても、残された気孔14の開孔14aが形成されていることとなる。このようなウレタンシート12を用いた研磨パッド20では、研磨加工時にスラリや研磨屑が凹部16内に流れ込むことで、研磨効率の向上や研磨屑の排出が期待される。また、研磨加工時に研磨パッド20にかかる押圧力により、巨大気泡13が変形するため、開孔13aを通じてスラリや研磨屑が巨大気泡13内に入り込んでも長時間滞留することなく放出されることとなる。ところが、研磨加工時の押圧力が凹部16にはかかりにくく、気孔14が変形しにくくなる。このため、開孔14aを通じて気孔14内に入り込んだスラリや研磨屑が放出されず、長時間滞留することで凝集することがある。このような凝集物が偶発的に放出されると、被研磨物にスクラッチを生じさせることとなる。一方、湿式凝固法では、研磨パッド20と異なる発泡構造を有する研磨パッドを得ることができる。すなわち、巨大気泡が形成されることなく細孔が連続状に形成されたウレタンシートを得ることができる。このウレタンシートにエンボス加工を施すと、凸部の表面に形成された開孔も小さくしてしまうことがある。この結果、研磨面における開孔の目詰まりが起こりやすくなり、却って被研磨物にスクラッチを生じさせることとなる。本実施形態は、これらの問題を解決することができる研磨パッド10である。
本実施形態の研磨パッド10では、凸部5の表面で構成される研磨面Pに気泡3の開孔3a、細孔4の開孔4aが形成されている。開孔3aが形成されたことで、研磨液や研磨屑が発泡3内に流出入しやすくなるため、開孔4aの目詰まりを抑制することができ、被研磨物のスクラッチ発生を抑制することができる。また、凹部6のポリウレタン樹脂中には、微細孔4sが形成されているものの、気泡が形成されておらず、表面に気泡由来の開孔3aが形成されていない。このため、研磨液や研磨屑が貯留せず、凹部6により円滑に研磨液が循環供給され研磨屑が排出される。これにより、研磨液等の貯留に伴う偶発的な凝集物の放出がなくなるので、研磨加工における研磨レートを確保し被研磨物にスクラッチを発生させることなく平坦性向上を図ることができる。
また、本実施形態では、ウレタンシート2の凸部5に形成された気泡3の断面観察における最大径が50〜300μmの範囲に調整されている。このため、研磨加工時の押圧力により発泡3が変形することで、研磨液の流出入が効率よく行われる。これにより、被研磨物の加工面と研磨パッド10の研磨面Pとの間への研磨液の循環供給性が確保されるので、被研磨物の平坦性向上を図ることができる。また、本実施形態では、凸部5に断面を数千倍の倍率で観察したときに視認できる最大径が1μm〜10μmの範囲の多数の細孔4が形成されており、研磨面Pに開孔4aが形成されている。このため、研磨加工に伴い研磨面P側で摩耗が生じたときに、開孔3aの大きさが若干増大するのに対して、開孔4aの大きさは、内部側の細孔4が順次開孔することでほとんど変わることなく研磨加工を継続することができる。これにより、開孔4aによる高精度な研磨加工が可能となり、開孔3aにより開孔4aの目詰まりが抑制されるので、被研磨物の高精度な平坦性を確保することができる。
更に、本実施形態では、ウレタンシート2の作製に100%モジュラスが2〜50MPaの範囲のポリウレタン樹脂が用いられている。このため、研磨加工時に生じる摩擦熱等によりウレタンシート2が適度に軟化することとなり、被研磨物を押圧するときに適度な弾性力が発揮されるので、被研磨物の平坦性向上を図ることができる。
また更に、本実施形態では、湿式凝固法によるウレタンシート2の作製時に、シート形成工程での凝固液として、ポリウレタン樹脂の溶解に用いた極性溶媒のDMFが10〜20wt%の範囲の割合で含有された水が使用されている。このため、凝固液に水のみを使用した場合と比べてスキン層の形成が遅くなり、緻密さがゆるやかになることで、樹脂溶液中のDMFの凝固液への拡散が速くなり、凝固液中の水の樹脂溶液への浸入が、凝固液中の水の割合が少ない分浸透圧が低くなるために遅くなる。その結果、巨大気泡(図5の符号13も参照。)の形成が抑制される。極性溶媒の割合を30〜45wt%程度としたときに巨大気泡が無形成のウレタンシートを得ることができるのに対して、極性溶媒の割合を減少させたことで、気泡の形成が認められるものの、その大きさを巨大気泡より小さくすることができ、上述した範囲の大きさを有する気泡3を形成することができる。また、溶媒置換速度を遅くしたことにより、気泡3の形成割合も上述した範囲に減少させることができ、シート形成工程で得られた成膜樹脂中には気泡3が点在するように形成されることとなる。従って、熱エンボス工程での熱エンボス加工により、凸部5に気泡3が形成され、凹部6に気泡3が実質的に形成されないウレタンシート2を得ることができる。
なお、本実施形態では、ウレタンシート2を形成する樹脂としてポリウレタン樹脂を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。用いる樹脂としては、湿式凝固法により発泡構造を形成することができる樹脂であればよい。例えば、ポリウレタン樹脂でも、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系のいずれを用いてもよく、ポリウレタンを主体とするポリウレタンポリウレア等の共重合体を用いることもできる。また、ポリウレタン樹脂に代えて、例えば、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル等のアクリル系、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリフッ化ビニリデン等のビニル系、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン等のポリサルホン系、アセチル化セルロース、ブチリル化セルロース等のアシル化セルロース系、ポリアミド系、ポリスチレン系、等の中から選択される樹脂を単独または混合して用いてもよい。また、ポリウレタン樹脂の100%モジュラスとして、2〜50MPaの範囲を例示したが、本発明はこれに制限されるものではない。研磨加工時に適度に軟化させることを考慮すれば、100%モジュラスを上述した範囲とすることが好ましい。
また、本実施形態では、凸部5における気泡3の形成割合を、ウレタンシート2の厚み方向と交差する方向における凸部5の長さ10mmあたりに3〜50個の範囲に調整する例を示した。研磨面Pに開孔3aが形成されることによる開孔4aの目詰まりを抑制し、研磨加工時の摩耗に伴い開孔3aの大きさが増大することによる研磨性能の低下を抑制することを考慮すれば、気泡3の形成割合を上述した長さ10mmあたりに5〜30個の範囲とすることが好ましく、5〜20個の範囲とすることがより好ましい。
更に、本実施形態では、研磨面Pにおける凸部5と凹部6との配置として格子状の例を示したが本発明はこれに制限されるものではない。例えば、格子状の配置に代えて、図2(B)に示すように、同心円状に配置してもよい。このようにしても、本実施形態と同様の効果を得ることができることを確認している。
また更に、本実施形態では、湿式凝固法によるシート形成時の凝固液中にポリウレタン樹脂の溶解に用いた極性溶媒を混合しておくこと、すなわち、水とDMFとを混合した凝固液を用い、ウレタンシート2を形成する例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。凝固再生時の緻密なスキン層形成を抑制し溶媒置換を調整できればよく、凝固液に極性溶媒を混合することに代えて、樹脂溶液に調整溶媒を添加しておくことでも実現することができる。調整溶媒としては、水に対する溶解度がDMFより小さく、DMFに溶解させたポリウレタン樹脂を凝固(ゲル化)させることなく、樹脂溶液に均一に混合、分散できるものを用いることができる。このような調整溶媒の具体例として、酢酸エチル、イソプロピルアルコール、ヘキサン等の低極性溶媒を挙げることができる。この場合でも、凝固液中での凝固初期の溶媒置換が遅くなり、緻密なスキン層が形成されにくくなるため、本実施形態と同様のウレタンシート2を得ることができる。
更にまた、本実施形態では、凝固再生後に得られた成膜樹脂のスキン層側にバフ処理を施す例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。ウレタンシート2の厚みの均一化向上を図るためにスキン層側に加えて、スキン層と反対の面側にバフ処理を施すようにしてもよい。また、バフ処理に代えて、スライス処理等を施すことも可能である。ウレタンシート2の厚みが均一化されることで、研磨加工時に被研磨物にかけられる押圧力が均等化され、被研磨物の平坦性向上を図ることができる。
また、本実施形態では、ウレタンシート2の研磨面Pと反対の面側に両面テープ8を貼り合わせ、両面テープ8の基材が研磨パッド10の基材を兼ねる例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、両面テープ8に代えて粘着剤のみを配しておくようにしても、研磨機への装着を行うことができる。また、両面テープ8とウレタンシート2との間に別の基材を貼り合わせるようにしてもよい。基材としては、織布、不織布、フィルム等のいずれも用いることができる。研磨パッド10の搬送時や定盤への装着時の取扱いを考慮すれば、基材を有していることが好ましい。
以下、本実施形態に従い製造した研磨パッド10の実施例について説明する。なお、比較のために製造した比較例の研磨パッドについても併記する。
(実施例1の1)
実施例1の1では、樹脂シート2の作製に100%モジュラスが6MPaのジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(MDI)系のポリウレタン樹脂を用いた。このポリウレタン樹脂を固形分濃度が30wt%となるようにDMFに溶解させ樹脂溶液を調製した。樹脂溶液を成膜基材に塗布する際に、塗布装置のクリアランスを1.6mmに設定し、水と10wt%のDMFとが混合された凝固液を使用した。スキン層側にバフ処理を施した後、凸部5の幅が3mm、凹部6の幅が1mmとなる格子状に熱エンボス加工を施した。得られたウレタンシート2とPET製の基材を有する両面テープ8とを貼り合わせ、研磨パッド10を製造した(図1も参照)。得られた研磨パッド10では、気泡3の最大径が50〜300μmの範囲、平均径が120μmであり、凸部の長さ累計10mmあたりに平均48個の割合で気泡3が形成されていることが確認された。また、気泡3間には最大径が1〜10μmの範囲の多数の細孔4が形成されており、凹部6では、最大径が50〜300μmの気泡が認められず、細孔の開孔が縮径ないし閉塞されていることが確認された。
(実施例1の2)
実施例1の2では、シート形成時に、水と20wt%のDMFとが混合された凝固液を使用する以外は実施例1の1と同様にして研磨パッド10を製造した。得られた研磨パッド10では、気泡3の最大径が50〜300μmの範囲、平均径が80μmであり、凸部の長さ累計10mmあたりに平均9個の割合で気泡3が形成されていることが確認された。また、気泡3間には最大径が1〜10μmの範囲の多数の細孔4が形成されており、凹部6では、最大径が50〜300μmの気泡が認められず、細孔の開孔が縮径ないし閉塞されていることが確認された。
(実施例2)
実施例2では、実施例1の1と同じポリウレタン樹脂を用い、ポリウレタン樹脂固形分濃度が30wt%となるように樹脂溶液を調製した。樹脂溶液の溶媒としては、DMFの一部を、水に対する溶解度がDMFの水に対する溶解度より小さい酢酸エチルに置き換え、ポリウレタン樹脂に対して質量比2/3の割合で添加した。樹脂溶液の溶媒を変えること以外は実施例1の1と同様にして研磨パッド10を製造した。得られた研磨パッド10では、気泡3の最大径が50〜300μmの範囲、平均径が58μmであり、凸部の長さ累計10mmあたりに平均5個の割合で気泡3が形成されていることが確認された。また、気泡3間には最大径が1〜10μmの範囲の多数の細孔4が形成されており、凹部6では、最大径が50〜300μmの気泡が認められず、細孔の開孔が閉塞されていることが確認された。
(比較例1の1)
比較例1の1では、実施例1と同じポリウレタン樹脂を用い、水のみの凝固液中で樹脂溶液を凝固させた以外は実施例1と同様にして研磨パッドを製造した。すなわち、比較例1の1は従来の研磨パッド20である(図5も参照)。得られた研磨パッド20では、気泡の平均径が160μmであったものの、最大径が50〜300μmの範囲にはなく、凸部の長さ累計10mmあたりに平均52個の割合で気泡が形成されており、気泡のうち約2割の気泡が最大径300μmを超える巨大気泡であることが確認された。また、気泡間には最大径が1〜10μmの範囲の多数の細孔が形成されているものの、凹部では、最大径が50〜300μmの気泡が形成されており、細孔の開孔も確認された。
(比較例1の2)
比較例1の2では、シート形成時に、水と30wt%のDMFとが混合された凝固液を使用する以外は比較例1の1と同様にして研磨パッドを製造した。得られた研磨パッドでは、最大径50μmを超える気泡や巨大気泡の形成が認められず、最大径が1〜10μmの範囲の多数の細孔のみが形成されていることが確認された。
(評価)
各実施例および比較例の研磨パッドについて、以下の研磨条件で研磨加工を行い、研磨レート、研磨均一性およびスクラッチの有無を測定した。被研磨物としては、12インチのシリコンウェハ上にCVD(化学気相成長)によりテトラエトキシシランの絶縁膜を1μmの厚さとなるように形成した基板を用いた。この基板では、絶縁膜の厚さ均一性(CV%)が13.2%であった。研磨レートは、1分間あたりの研磨量を厚さで表したものであり、研磨加工前後の基板の絶縁膜について17箇所の厚み測定結果から求めた。厚み測定は、光学式膜厚膜質測定器(KLAテンコール社製、ASET−F5x)のDBSモードにて測定した。また、研磨均一性については、研磨加工後の絶縁膜の厚さ均一性(CV%)を示すものであり、研磨レートの測定における17箇所の厚み測定結果のバラツキ(標準偏差/平均値)から求めた。スクラッチの評価では、25枚の基板を繰り返し3回順次研磨加工を行い、研磨加工後の21枚目〜25枚目の基板5枚について、パターンなしウェハ表面検査装置(KLAテンコール社製、Surfscan SP1DLS)の高感度測定モードにて測定し、基板表面におけるスクラッチの有無を評価した。研磨レート、研磨均一性およびスクラッチの有無の測定結果を下表1に示す。
(研磨条件)
使用研磨機:株式会社荏原製作所製、F−REX300
研磨速度:定盤回転数70rpm、研磨ヘッド回転数71rpm
加工圧力:220g/cm
スラリ:コロイダルシリカスラリ(キャボット社製、商品名SS25を純水で2倍容量に希釈)
スラリ供給量:200ml/分
表1に示すように、従来のウレタンシート12を有する比較例1の1の研磨パッド20では、研磨レートが211nm/minを示した。また、研磨均一性では、研磨前のCV%が13.2%であったことと比較して、研磨後の厚さの均一性、つまり平坦性が改善されているものの、研磨後でも11.2%であった。また、比較例1の2の研磨パッドでは、気泡の形成が認められず細孔のみが形成されたため、研磨レートが低いものとなった。これに対して、実施例1の1、実施例1の2、実施例2の研磨パッド10では、研磨レートがそれぞれ、238nm/min、213nm/min、208nm/minを示し、研磨均一性についても、それぞれ、4.5%、3.7%、3.9%に改善された。このことから、実施例の研磨パッド10では、いずれも、平坦性精度を向上させることのできることが明らかとなった。また、各実施例および比較例の研磨パッドで、研磨加工を繰り返し行った結果、比較例1の1の研磨パッド20ではスクラッチの発生が見られたのに対して、実施例の研磨パッド10では、いずれも、厚さの均一性が維持されたまま、長期にわたり安定した研磨性能を得られることが確認された。
本発明は被研磨物に対するスクラッチ発生を抑制することができる研磨パッドおよび該研磨パッドの製造方法を提供するものであるため、研磨パッドの製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
P 研磨面
2 ウレタンシート
3 気泡
3a 開孔
4 細孔
4a 開孔
5 凸部
6 凹部
10 研磨パッド

Claims (6)

  1. 湿式凝固法により複数の空隙が形成され被研磨物を研磨加工するための研磨面に前記空隙の開孔が形成された樹脂シートを備えた研磨パッドにおいて、前記樹脂シートは、厚み方向に沿う断面を観察したときに、前記空隙の最大径が50μm〜300μmの範囲にあり、かつ、前記厚み方向に縦長で前記樹脂シートの厚みの半分未満の長さを有する気泡と、前記気泡間に前記空隙の最大径が1μm〜10μmの範囲にある多数の細孔とが形成されたものであるとともに、一面側に、前記気泡および細孔の開孔が表面に形成され該表面により前記研磨面が構成される凸部と、前記凸部の間に形成された凹部とを有しており、前記凹部の形成位置が加熱されるように加圧され形成されたものであるとともに、前記凹部において、前記気泡および細孔が前記凸部に形成された細孔より縮径ないし閉塞され、かつ、前記厚み方向に沿う断面に前記気泡が観察されないものであることを特徴とする研磨パッド。
  2. 前記気泡は、前記樹脂シートの厚み方向と交差する方向における前記凸部の長さ10mmあたりに3個〜50個の範囲の割合で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
  3. 請求項1または請求項に記載の研磨パッドの製造方法であって、
    樹脂を極性溶媒に均一となるように混合し溶解させた樹脂溶液を準備する準備ステップと、
    前記準備ステップで準備した樹脂溶液をシート状の基材に塗布した後、水系凝固液中で凝固させ樹脂シートを形成させるシート形成ステップと、
    前記シート形成ステップで形成された樹脂シートの一面側に凸部と凹部とが形成されるように熱エンボス加工を施すエンボス加工ステップと、
    を含み、
    前記エンボス加工ステップにおいて、前記凹部に対応する位置が加熱されるように加圧することを特徴とする製造方法。
  4. 前記準備ステップにおいて、前記樹脂溶液に、前記樹脂を溶解可能であり、水に対する溶解度が前記極性溶媒の水に対する溶解度より小さい有機溶媒を更に混合することを特徴とする請求項に記載の製造方法。
  5. 前記有機溶媒は、前記樹脂溶液中に5wt%〜15wt%の範囲の割合で混合されることを特徴とする請求項に記載の製造方法。
  6. 前記シート形成ステップにおいて、前記水系凝固液として前記極性溶媒が10wt%〜20wt%の範囲の割合で混合された水を用いることを特徴とする請求項に記載の製造方法。
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