JP5274286B2 - 研磨パッドの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、研磨パッドの製造方法に係り、特に、内部に気孔が形成された樹脂シートを備えた研磨パッドの製造方法に関する。
従来、レンズ、平行平面板、反射ミラー等の光学材料、ハードディスク用アルミニウム基板、半導体デバイス用シリコンウエハ、液晶ディスプレイ用ガラス基板等、高精度に平坦性が要求される材料(被研磨物)では、研磨パッドを使用した研磨加工が行われている。半導体デバイスでは、半導体回路の高密度化を目的とした微細化や多層配線化が進み、シリコンウエハを一層高度に平坦化する技術が重要となっている。液晶ディスプレイでも、大型化に伴い、ガラス基板のより高度な平坦性が求められている。このような被研磨物の研磨加工では、平坦性の向上を図るために一度研磨加工(一次研磨)した後に仕上げ加工(二次研磨)が行われている。研磨加工時には、被研磨物および研磨パッド間に研磨粒子を含む研磨液(スラリー)が供給される。
一般に、軟質(スエード様)研磨パッドには、湿式成膜法で形成されたポリウレタン樹脂製の樹脂シートが使用されている。湿式成膜法では、ポリウレタン樹脂を水混和性の有機溶媒に溶解させた樹脂溶液をシート状の成膜基材に塗布後、水を主成分とする凝固液中に案内することで樹脂がシート状に凝固再生される。得られた樹脂シートでは、内部にポリウレタン樹脂の凝固再生に伴う多数の気孔が形成されている。すなわち、被研磨物を研磨加工するための研磨面側に微多孔が形成された表面層(スキン層)を有し、表面層より内側の層(多孔層)にハニカム状のマクロ気孔が連続状に形成されている。マクロ気孔は、研磨面に対し略直交方向、すなわち、樹脂シートの厚さのほぼ全体にわたる大きさに形成されている。スキン層がバフ処理により除去された研磨パッドでは、マクロ気孔が研磨面で開孔している。このようなハニカム状マクロ気孔を有する研磨パッドでは、被研磨物と擦り合う表面に凹凸が形成されている。この開孔したマクロ気孔に研磨液が保持され、保持された研磨液が研磨加工時の押圧により放出されることで被研磨物が研磨加工される。研磨中に生じたスラッジ(研磨屑)等の異物はマクロ気孔内に貯留されるため、被研磨物表面におけるスクラッチ等の発生が抑制可能である。マクロ気孔が開孔した研磨パッドは種々の研磨加工に用いられている。
一方、上述した樹脂シートの表面をバフ処理しないことにより作製した研磨パッドで被研磨物を研磨することがある。このような研磨パッドは、マクロ気孔を開孔させることなく表面が略平坦なスキン層を残したいわゆるノンバフタイプの研磨パッドである。ノンバフタイプの研磨パッドでは、被研磨物表面の平坦性を評価するための測定項目の一つであるうねりの改善に有効である。現状では、このノンバフタイプの研磨パッドを使用する方法が、ハードディスク用基板の二次研磨の主流を占めている。
ところが、湿式成膜法で作製された樹脂シートは、表面層より内側にマクロ気孔を主体とした不均一な構造を有しているため、研磨パッドの摩耗により、研磨面の開孔径や開孔の割合が経時的に変化する。そのため、研磨レート等の研磨特性が変動し、また、うねり等の研磨性能が徐々に低下するため、研磨パッドの寿命という点で問題となる。研磨特性の経時変化を防ぎ、研磨性能を長く保つために、マクロ気孔ではなく、均一なミクロ気孔を有する研磨パッドが求められている。例えば、研磨パッドの多孔層をゲル化点が6以上の極性溶媒可溶性高分子材料により形成することで、マクロ気孔がなく、平均孔径が30μm以下の厚み方向に均一なミクロ気孔が形成された研磨パッドが開示されている(特許文献1参照)。また、研磨加工における慣らし研磨に要する時間を短縮することを目的とし、開孔が形成された部分の面積よりも開孔が形成されない壁となる部分の面積が大きい研磨面を有し、マクロ気孔より、微細で緻密なミクロ気孔が厚み方向に均一に形成された研磨パッドが開示されている(特許文献2参照)。更に、研磨パッドの製造過程において、ポリウレタン樹脂の樹脂溶液と混和可能な第2の有機溶媒を添加し、ポリウレタン樹脂の凝固を遅らせることにより、マクロ気孔が形成されずに厚み方向に均一なミクロ気孔が立体網目状に形成された構造を有する研磨パッドが開示されている(特許文献3参照)。
特開2005−34971号公報 特開2006−75914号公報 特開2005−153053号公報
しかしながら、特許文献1の技術では、マクロ気孔がなく、平均孔径が30μm以下の均一なミクロ気孔が形成された研磨パッドにより、研磨レートや寿命等の研磨特性を向上させることができるものの、多孔層に用いる樹脂のゲル化点が6以上に限定されてしまい、樹脂の選定が制限されるため、被研磨物や研磨条件によって研磨パッドの特性を変更させるには不適である。気孔形成が樹脂の特性に依存するため、平均孔径の制御が難しく、開孔径が小さな研磨パッドではスラリーや研磨屑による閉塞(目詰まり)が生じやすく、スクラッチの原因となる可能性がある。また、特許文献2の技術では、研磨パッドの開孔が形成されている部分の面積よりも開孔が形成されない壁となる部分の面積が大きい研磨面を有するため慣らし研磨に要する時間を短縮できるものの、開孔率を上げることができないためスラリーや研磨屑による閉塞(目詰まり)を抑制することが難しい、という欠点を有する。更に、特許文献3の技術では、研磨パッドの製造時に、第2の有機溶媒を添加することから、製造後の溶媒の回収や再利用に煩雑さを伴う。従って、ミクロ気孔を略均一な大きさで、略均等な分布状態に容易に形成することができれば、研磨レートの安定化や研磨パッドのうねりの低減を図ることが期待できる。
本発明は上記事案に鑑み、安定した研磨レートを保持しうねりの低減を図ることができる研磨パッドの製造方法を提供することを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明は、内部に気孔が形成された樹脂シートを備えた研磨パッドの製造方法であって、水混和性有機溶媒に樹脂を溶解させた樹脂溶液を基材にシート状に塗布する塗布ステップと、前記塗布ステップで基材に塗布された樹脂溶液の少なくとも表層に含まれる前記有機溶媒の一部を気化させる気化ステップと、前記気化ステップで有機溶媒の一部を気化させた樹脂溶液を、水を主成分とする凝固液中で凝固させる凝固ステップと、を含むことを特徴とする。
本発明では、気化ステップで少なくとも樹脂溶液の表層に含まれる有機溶媒の一部を気化させることで、樹脂溶液の表層部分の樹脂濃度が高まるため、凝固ステップで有機溶媒と凝固液との置換時に樹脂溶液内の表層側で緻密なスキン層が形成される。本発明によれば、気化ステップで有機溶媒の一部を気化させることで、凝固ステップで有機溶媒と凝固液との置換時に緻密なスキン層が形成されることにより、樹脂の凝集が抑制されるので、樹脂溶液の凝固が略均等に進行し樹脂の内部に略均一な球状の気孔を略均等な分布状態で形成することができる。
この場合において、気化ステップで、50℃〜80℃の範囲の雰囲気下で熱処理を10分〜60分間、施してもよい。また、このとき使用する樹脂はポリウレタン樹脂を使用してもよい。製造過程において、凝固ステップで凝固した樹脂の表層側ないし表層と反対側にバフ処理またはスライス処理を施す研削ステップを更に含んでもよい。
本発明によれば、気化ステップで有機溶媒の一部を気化させることで、凝固ステップで有機溶媒と凝固液との置換時に緻密なスキン層が形成されることにより、樹脂の凝集が抑制されるので、樹脂溶液の凝固が略均等に進行し樹脂の内部に略均一な球状の気孔を略均等な分布状態で形成することができる、という効果を得ることができる。
本発明を適用可能な実施形態の研磨パッドを模式的に示す断面図である。 実施形態の研磨パッドの製造工程の概略を示す工程図である。 本発明を適用可能な別の形態の研磨パッドを模式的に示す断面図である。 従来の研磨パッドを模式的に示す断面図である。 本発明を適用可能な実施形態の研磨パッドのセル構造を示し、(A)は研磨パッドの断面の電子顕微鏡写真であり、(B)はポリウレタンシートの断面を拡大した電子顕微鏡写真である。
以下、図面を参照して、本発明を適用した研磨パッドの実施の形態について説明する。
(研磨パッド)
図1に示すように、本実施形態の研磨パッド1は、ポリウレタン樹脂で形成された樹脂シートとしてのポリウレタンシート2を備えている。ポリウレタンシート2は、微多孔が形成された表層(スキン層)が除去されており、略平坦な研磨面Pを有している。ポリウレタンシート2には、ポリウレタン樹脂中に略均等に分散し、略均一な球状の気孔3が形成されている。これらの気孔3は、気孔3の平均孔径より小さく図示を省略した連通孔で立体網目状につながっている。従って、ポリウレタンシート2は、内部に略均一かつ略均等に形成されたセル構造を有する多孔状である。なお、研磨面Pの近傍に位置する気孔3は、研磨面Pで開孔し開孔4を形成している。研磨パッド1は、A硬度30〜70度、開孔率50〜90%、平均開孔径10〜50μmの特性を有している。
また、研磨パッド1は、ポリウレタンシート2の研磨面Pの反対面側(下面側)に、基材5aを有している。基材5aには、少なくともポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する。)製フィルム等の可撓性フィルム、不織布及び織布等から選択される1種が用いられており、ポリウレタンシート2の製造時に成膜基材として使用されたものである。本例では、基材5aにはPET製フィルムが用いられている。基材5aの下面側(ポリウレタンシート2と反対側)には、研磨機に研磨パッド1を装着するための両面テープ5bが貼り合わされている。両面テープ5bの下面側(最下面側)が図示しない剥離紙で覆われている。
(研磨パッドの製造)
図2に示すように、湿式成膜法の各工程を経て研磨パッド1が製造される。まず、準備工程(塗布ステップの一部)では、ポリウレタン樹脂、ポリウレタン樹脂を溶解可能な水混和性の有機溶媒のN、N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記する。)及び添加剤を混合してポリウレタン樹脂を溶解させる。水混和性の有機溶媒としては、水と任意の割合で混ざり合う有機溶媒であれば良く、DMF以外に、例えばN,N−ジメチルアセトアミド等を用いても良い。ポリウレタン樹脂には、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系等の樹脂から選択して用いられ、ポリウレタン樹脂が20〜50%となるようにDMFに溶解され、粘度が50〜300cPの範囲となるようにする。これは、塗布工程においてポリウレタン樹脂溶液を成膜基材に均一塗布する際に適度な流動性を必要とするためである。添加剤としては、気孔3の大きさや量(個数)を制御するため、カーボンブラック等の顔料、気孔の生成を促進させる親水性活性剤及びポリウレタン樹脂の凝固再生を安定化させる疎水性活性剤等を用いることができる。得られた溶液を濾過することで凝集塊等を除去した後、真空下で脱法してポリウレタン樹脂溶液を得る。
塗布工程(塗布ステップの一部)では、準備工程で得られたポリウレタン樹脂溶液を常温下でナイフコータ等により帯状の成膜基材に略均一となるように、連続的に塗布する。このとき、ナイフコータ等と成膜基材との間隙(クリアランス)を調整することで、ポリウレタン樹脂溶液の塗布厚さ(塗布量)が調整される。成膜基材にはPET樹脂等の樹脂製の不織布やフィルムを用いることができるが、本例では、成膜基材として基材5aのPET製フィルムが用いられる。
気化工程では、塗布工程で成膜基材に塗布されたポリウレタン樹脂溶液を、50〜80℃の加熱雰囲気下に案内し、10〜60分間熱処理を施す。これにより、ポリウレタン樹脂溶液の表層部に含まれる有機溶媒の一部が気化される。このとき、熱処理が不十分の場合は凝固工程でマクロ気孔が形成される可能性がある。逆に、熱処理が過度になると、次の凝固工程において凝固液中でDMFのポリウレタン樹脂溶液からの脱溶媒が起こりにくくなるため、凝固再生が不十分となる。このような熱処理の条件は、ポリウレタン樹脂の種類、濃度、処理機等により、適正に調整する。
凝固工程では、ポリウレタン樹脂溶液が塗布された成膜基材が、ポリウレタン樹脂に対して貧溶媒である水を主成分とする凝固液に案内される。凝固液中では、まず、ポリウレタン樹脂溶液の表面側に微多孔が形成され厚さ数μm程度のスキン層が形成される。その後、ポリウレタン樹脂溶液中のDMFと凝固液との置換の進行によりポリウレタン樹脂が成膜基材上にシート状に凝固再生されてポリウレタンシート2が形成される。DMFがポリウレタン樹脂溶液から脱溶媒し、DMFと凝固液とが置換することで、スキン層より内側のポリウレタン樹脂中に気孔3及び図示を省略した気孔が形成され、気孔3および図示を省略した気孔が立体網目状に連通する。図5(A)(B)に示すように、ポリウレタンシート2は気孔3が略均一かつ略均等に形成されたセル構造が形成されている。
ここで、ポリウレタンシート2のセル構造について説明する。まず、気化工程で、少なくともポリウレタン樹脂溶液の表層部に含まれる有機溶媒であるDMFの一部が気化することにより、表層部の樹脂濃度が上昇する。そのため、次の凝固工程で樹脂溶液内の表層側に、より緻密なスキン層が形成され、樹脂溶液のDMFと凝固液との置換速度が遅くなるので、マクロ気孔の形成が抑制される。これにより、樹脂溶液の凝固が略均等に進行し樹脂の内部に略均一な球状のミクロ気孔(気孔3)が略均等な分布状態で形成される。DMF及び凝固液との置換速度が遅いため、気孔3の空間体積は、凝固液中で速やかに形成される図示しない緻密な微多孔が形成されたスキン層の気孔より大きくなる。また、気孔3は、DMFの脱溶媒に伴い形成されるため、気孔3の平均孔径より小さい不図示の連通孔が立体網目状に連通される。従って、得られるポリウレタン樹脂は、ミクロ気孔(気孔3)が略均一かつ略均等に形成されたセル構造となる。
洗浄・乾燥工程では、凝固工程で凝固再生したポリウレタンシート2が、水等の洗浄液中で洗浄されてポリウレタン樹脂中に残留するDMFが除去される。洗浄後、ポリウレタン樹脂をシリンダ乾燥機で乾燥処理する。シリンダ乾燥機は内部に熱源を有するシリンダを備えている。ポリウレタン樹脂がシリンダの周面に沿って通過することで乾燥する。乾
燥後、研削工程において、得られたシート状のポリウレタン樹脂は、スキン層側にバフ処理が施されポリウレタン樹脂の表面に形成されたスキン層が除去される。すなわち、圧接治具の略平坦な表面をシート状のポリウレタン樹脂のスキン層と反対側の面に圧接し、スキン層側にバフ処理を施す。これにより、一部の気孔3が研磨面Pに開孔して開孔4が形成される。
ラミネート加工工程では、成膜基材(基材5a)の、ポリウレタンシート2と反対側の面に両面テープ5bを貼り合わせる。汚れや異物等の付着がないことを確認する等の検査を行い、研磨パッド1を完成させる。
(作用)
次に、本実施形態の研磨パッド1の作用等について説明する。
従来の湿式成膜法で製造される研磨パッドは図4に示される。まず、DMFにポリウレタン樹脂を溶解させ添加剤を混合しポリウレタン樹脂溶液を基材に塗布し、水を主成分とする凝固液に案内する。樹脂溶液を基材に均一に塗布するには、樹脂溶液が適度な流動性を必要とするため、通常樹脂溶液濃度を20〜50%、粘度を50〜300cPの範囲に調整する。DMFは、ポリウレタン樹脂の溶解に一般に用いられる溶媒であり、水に対して任意の割合で混合することができるため、まず樹脂溶液の表面でDMFと凝固液との置換(ポリウレタン樹脂の凝固再生)が起こり、スキン層が形成される。その後、スキン層の進入しやすい部分から樹脂溶液内部に凝固液が進入し、樹脂の分散状態によってDMFと凝固液との置換が生じ、マクロ気孔13が形成される。すなわち、従来の研磨パッド20では、ポリウレタン樹脂で形成された樹脂シートのポリウレタンシート12を有し、ポリウレタンシート12には、シートの厚さのほぼ全体にわたる大きさのマクロ気孔13が形成されている。成膜基材(基材5a)としてPET製フィルムなどの水を浸透させないものを使用すると、樹脂溶液の表面側からのみDMFは溶出しないため、形成されるマクロ気孔13は基材側が大きく丸みを帯びた気孔となる。
このような従来の湿式成膜法で形成される樹脂シートを備えた研磨パッド20では、マクロ気孔13を主体としたセル構造を有し、一部のマクロ気孔13は研磨面に開孔しているため被研磨物と擦り合う表面が凹凸を呈している。この開孔したマクロ気孔13に研磨液が保持され、保持された研磨液が研磨加工時の押圧により放出されることで被研磨物が研磨加工される。この開孔したマクロ気孔13を有する研磨パッドは、種々の研磨加工に用いられている。ところが、マクロ気孔13は不均一な構造であるため、摩耗に伴い、研磨パッドが摩耗すると研磨面のマクロ気孔13の開孔径が変化して研磨レート等が経時的に変化し、うねり等の研磨性能が徐々に低下する。また、磁気ディスク基板の二次研磨では、スキン層を除去しないノンバフタイプの研磨パッドを使用することが主流であるが、同様に研磨パッドの寿命は短いものとなる。そこで、研磨レートを安定化させ、研磨性能を長く保つために、マクロ気孔13ではなく、ミクロ気孔(気孔3)を略均一な大きさで、略均等な分布状態で容易に形成することが求められている。
本実施形態の研磨パッド1では、ポリウレタン樹脂溶液を成膜基材に塗布後、気化工程で、成膜基材に塗布されたポリウレタン樹脂溶液に50℃〜80℃の範囲の雰囲気下で10分〜60分間の範囲で熱処理を施す。気化工程で、少なくともポリウレタン樹脂溶液の表層部に含まれる有機溶媒であるDMFの一部が気化することにより、表層部の樹脂濃度が上昇する。そのため、凝固工程で樹脂溶液内の表層側に、より緻密なスキン層が形成され、樹脂溶液のDMFと凝固液との置換速度が遅くなるので、略均等かつ略均一にミクロ気孔(気孔3)が形成される。DMF及び凝固液との置換速度が遅いため、気孔3の空間体積は、凝固液中で速やかに形成されるスキン層の緻密な微多孔より大きくなる。また、気孔3は、DMFの脱溶媒に伴い形成されるため、気孔3の平均孔径より小さい連通孔が体網目状に連通される。従って、得られるポリウレタン樹脂は、略均一かつ略均等なミクロ気孔(気孔3)が形成されたセル構造となる。
得られたポリウレタン樹脂を用いた研磨パッド1では、研磨時に供給される研磨液がポリウレタンシート2に形成された気孔3に貯留する。研磨液は、気孔3を連通する連通孔を通じて移動し、開孔4を介して被研磨物表面に供給される。このため、研磨液が被研磨物表面と研磨パッド1との間に供給されるので、被研磨物表面を略均等に研磨することができ、表面のうねりを改善することができる。また、研磨パッド1は、ポリウレタンシート2に略均一な大きさで略均等な分布状態でミクロ気孔(気孔3)が形成されたため、研磨時にポリウレタンシート2が摩耗しても、研磨面Pで開孔の大きさや割合がほぼ一定となる。これにより、安定した研磨レートで高い研磨効率を保ち、研磨パッド1の長寿命化を図ることができる。
更に、本実施形態の研磨パッド1では、A硬度30〜70度、開孔率50〜90%、平均開孔径10〜50μmの特性を有し、従来よりも開孔率が高く、開孔径が大きいため、研磨加工時に生じるスラリーやスラッジによる目詰まりやスクラッチの発生を抑制することができる。更に、本実施形態の研磨パッド1では、従来の湿式成膜法を利用して製造できるため、煩雑な工程を経ることなく、また使用する樹脂を制限する必要が無いため、容易に製造することができる。
なお、本実施形態において、研削工程でポリウレタンシート2の研磨面P側の面にバフ処理を施す例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、スライス機等によりスキン層を除去可能な方法を用いても良い。また、ポリウレタンシート2の研磨面側と反対面側をバフ処理して、スキン層を残して使用してもよい。もちろん、バフ処理を施さずに用いることも可能である。このとき、図3に示すように研磨パッド10は、微多孔が形成されたミクロな平坦性を有するスキン層6を残しているため、二次研磨に適している。
また、本実施形態では、樹脂シートとしてポリウレタン樹脂製のシートを例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の樹脂を使用してもよい。例えば、ポリエステル樹脂等を使用してもよい。ポリウレタン樹脂を用いるようにすれば、湿式成膜法により連続気孔を容易に形成することができる。
更に、本実施形態では、ポリウレタンシート2の作製時に成膜基材を使用してポリウレタン樹脂を凝固再生させた後、両面テープ5bを貼り合わせ、成膜基材をそのまま基材5aとする例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。例えば、ポリウレタン樹脂を凝固再生させた後、成膜基材を剥離して、ポリ塩化ビニル(PVC)等の別の基材を基材5aとして貼り合わせてもよい。また、成膜基材に不織布を用いた場合は、ポリウレタンシート2から剥離することが難しいため、成膜基材を剥離せずそのまま乾燥させてもよい。つまり、不織布の成膜基材が研磨パッド1の基材5aとなる。更に、両面テープ5bとしては、基材の両面に粘着剤が塗布されていてもよく、基材を有することなく粘着剤のみで構成されても良い。
また更に、本実施形態では、特に言及していないが、ポリウレタンシート2に、被研磨物の研磨加工状態を光学的に検出するための光透過を許容する光透過部を、例えば、光透過部がポリウレタンシート2の厚み方向の全体にわたり貫通するように形成するようにしてもよい。光透過部を形成するには、例えば、樹脂シートに貫通口を形成しておき、樹脂シートと別の光透過性を有する部材を貫通口にはめ込むことで実現することができる。また、樹脂シートを構成する部材または光透過部を構成する部材が固化する前に両者を接触させて一体化させることで実現することもできる。光透過部を形成すれば、例えば、研磨機側に備えられた発光ダイオード等の発光素子、フォトトランジスタ等の受光素子により、研磨加工中に光透過部を通して被研磨物の加工面の研磨加工状態を検出することができる。これにより、研磨加工の終点を適正に検出することができ、研磨効率の向上を図ることができる。
以下、本実施形態に従い製造した研磨パッド1の実施例について説明する。なお、比較のために製造した比較例の研磨パッドについても併記する。
(実施例1)
実施例1では、ポリウレタン樹脂としてポリエステルMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)ポリウレタン樹脂を用いた。このポリウレタン樹脂を30重量%でDMFに溶解させた溶液100部に対して、粘度調整用のDMFの45部、カーボンブラックを30%含むDMF分散液の40部、疎水性活性剤の2部を混合してポリウレタン樹脂溶液を調製した。このポリウレタン樹脂溶液の粘度は100cPであった。得られたポリウレタン樹脂溶液を成膜基材に塗布した後、70℃の雰囲気下で40分間熱処理を施し、シート状のポリウレタン樹脂溶液を凝固液中で凝固再生させた。洗浄・乾燥させた後、研磨面P側にバフ処理を施し、実施例1の研磨パッド1を製造した。
(比較例1)
比較例1では、熱処理を施さないこと以外は実施例1と同様にして比較例1の研磨パッドを製造した。すなわち、比較例1はマクロ気孔13が形成された従来の研磨パッド20である(図4参照)。
(セル構造評価)
製造した実施例及び比較例の研磨パッドのセル構造について、ポリウレタンシート2の断面を電子顕微鏡にて観察することにより評価した。実施例1及び比較例1について大きなセル(マクロ気孔)の有無及び成膜性の評価結果を下表1に示す。
Figure 0005274286
表1に示すように、各実施例及び比較例1では、ポリウレタンシート2の成膜性は良好であり、いずれも支障なく成膜可能であった。従来の製造方法で製造した比較例1のポリウレタンシート12では、マクロ気孔13が観察された。これに対して、熱処理を施した実施例1のポリウレタンシート2には、マクロ気孔13が観察されなかった。これらの観察結果を図で比較すると、比較例1では、図4に示すように、基材側(図の下側)が大きく丸みを帯びたハニカム状の大きなマクロ気孔13が形成されていた。これに対して、実施例1では、図1に示すように、マクロ気孔13は形成されずミクロ気孔(気孔3)がポリウレタンシート2の厚さ方向にほぼ一様に形成されていた。従って、湿式成膜法の製造工程で熱処理を施すことで、マクロ気孔の形成が抑制されることが判明した。
(研磨加工)
次に、実施例1及び比較例1の研磨パッドを用いて、以下の研磨条件でアルミニウム基板の研磨加工を行い、研磨レート及びうねりにより研磨性能を評価した。また、研磨後のアルミニウム基板について、目視でアルミニウム基板の表面に対するキズ発生の有無を外観評価した。
(研磨条件)
使用研磨機:スピードファム社製、9B−5Pポリッシングマシン
研磨速度(回転数):30rpm
加工圧力:90g/cm
スラリ:アルミナスラリ(平均粒子径:0.8μm)
スラリ供給量:100cc/min
被研磨物:95mmφハードディスク用アルミニウム基板
研磨時間:300秒
(研磨レート)
研磨レートは、研磨効率を示す数値の一つであり、一分間当たりの研磨量を厚さで表したものである。研磨加工前後のアルミニウム基板の重量減少を測定し、アルミニウム基板の研磨面積及び比重から計算により算出した。
(うねり)
うねり(waviness)は、被研磨物の表面精度(平坦性)を評価するための測定項目の一つであり、光学式非接触表面粗さ計で観察した単位面積当たりの表面像のうねり量(Wa)を、オングストローム(Å)単位で表したものである。試験評価機として、オプチフラットを用いて評価した。測定結果の数値が低いと、被研磨物のうねりが少なく、より平坦であることとなる。
実施例1及び比較例1の研磨パッドを用いた研磨性能について、下表2に研磨レートの評価結果およびうねりの評価結果を示す。実施例1、比較例1の研磨パッドによる研磨加工では、いずれもアルミニウム基板の表面にキズは認められなかった。
Figure 0005274286
表2に示すように、従来の方法で製造した比較例1の研磨パッド20では、研磨レートが0.32μmであった。これに対して、熱処理を施して製造した実施例1の研磨パッド1では、0.24μmであり、比較例1の約3/4程度であった。比較例1の研磨パッド10はマクロ気孔13が形成されているため、摩耗されやすく、研磨レートは大きくなる。それに比べ、実施例1の研磨パッド1は略均一かつ略均等にミクロ気孔(気孔3)が形成されたため、研磨レートは小さく、比較例1より安定した研磨レートを長く保持できることが判った。
また、比較例1の研磨パッド20では、研磨によるアルミニウム基板の表面でのうねりの向上が小さく、研磨時間300秒のときのうねりは11.2Åであった。これに対して、実施例1の研磨パッド1では、研磨時間300秒のときのうねりが5.9Åであり、研磨によりうねりが大きく改善され平坦性に優れるアルミニウム基板を得ることができた。実施例1のうねりは比較例1よりも低下している。これは、比較例1の研磨パッド20の表面がマクロ気孔13の開孔によるハニカム状であるのに対して、実施例1の研磨パッド1の表面にはミクロ気孔(気孔3)による開孔4が形成されているため、表面の均一性に優れるので、うねりを改善することができたものと考えられる。従って、実施例1では、うねりの改善された研磨性能が得られることが判明した。
本発明は、安定した研磨レートを保持しうねりの低減を図ることができる研磨パッドの製造方法を提供するものであるため、研磨パッドの製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
1 研磨パッド
2 ポリウレタンシート(樹脂シート)
6 表層(スキン層)

Claims (5)

  1. 内部に気孔が形成された樹脂シートを備えた研磨パッドの製造方法であって、
    水混和性有機溶媒に樹脂を溶解させた樹脂溶液を基材にシート状に塗布する塗布ステップと、
    前記塗布ステップで基材に塗布された樹脂溶液の少なくとも表層に含まれる前記有機溶媒の一部を気化させる気化ステップと、
    前記気化ステップで有機溶媒の一部を気化させた樹脂溶液を、水を主成分とする凝固液中で凝固させる凝固ステップと、
    を含むことを特徴とする製造方法。
  2. 前記気化ステップにおいて、前記樹脂溶液に50℃〜80℃の範囲の雰囲気下で熱処理を施すことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
  3. 前記気化ステップにおいて、前記熱処理を10分〜60分間の範囲で施すことを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
  4. 前記樹脂シートはポリウレタン樹脂製であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
  5. 前記凝固ステップで凝固した樹脂の前記表層側ないし前記表層と反対側にバフ処理またはスライス処理を施す研削ステップを更に含むことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
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