(発明が解決しようとする課題)
ところで、ローラダイスによりはすば歯車を転造成形する場合においては、図6に示すように転造用素材Wを対のローラダイスR1,R2で挟み込みながら回転させることで、転造用素材Wの側周面にはすば状の歯部Hが成形される。このとき、「歩み」と呼ばれる転造用素材Wの軸方向への移動現象が発生する。「歩み」が阻害された場合には歯車の成形精度が悪化する。また、「歩み」によって本来加工が不必要な箇所にローラダイスR1,R2が食いつくおそれがある。よって、「歩み」を阻害せず、且つ「歩み」によるローラダイスの食いつきを防止するため、従来では図7に示すような寸法に設計された転造用素材W1が用いられてきた。
図7に示す転造用素材W1は、転造により歯部が形成される部分である円柱状の加工部Aと、この加工部Aの両端(図において上下端)に同軸的に連結された円柱状の対の支持部BU,BDとを有する。加工部Aの軸方向長さbはローラダイスR1,R2の幅(歯幅)aよりも短くなるように形成されている。さらに、加工部Aの直径は支持部BU,BDの直径よりも大きい。
ローラダイスR1,R2との関係において上記のように寸法が設計された転造用素材W1を転造する場合、重なり噛み合い率が整数になるように転造部幅(加工部Aの軸方向長さ)を調整することができるので、歯すじ精度が向上した歯車部材を得ることができる。また、加工部Aの直径が支持部BU,BDの直径よりも大きいので、転造時にローラダイスR1,R2のダイスエッジ部(図7のE部)が支持部BU,BDに食いつかない。よって、端部の成形精度が良好な歯車部材を得ることができる。
図8は、図7に示す転造用素材W1の加工部AがローラダイスR1,R2で転造されることにより成形された歯車部材H1を示す図である。この図に示すように、歯車部材H1に形成された歯車成形部H1aの歯底直径cは、歯車成形部H1aの両端(図示上下端)に連結された支持部BU,BDの直径dよりも大きい。歯底直径cを支持部BU,BDの直径dよりも小さくした場合、ローラダイスR1,R2のダイスエッジ部が支持部に食いつくおそれがある。故に、図7に示す転造用素材W1を用いる場合は直径が小さい歯車部材を転造することができない。直径が小さい歯車部材を転造成形する場合、図9に示すような寸法に設計された転造用素材W2が用いられる。
図9に示す転造用素材W2は、軸方向に亘って直径が一定な円柱形状を呈している。つまり加工部Aの直径と支持部BU,BDの直径が同一である。また、転造用素材W2の軸方向長さfは、ローラダイスR1,R2の幅aよりも大きい。
図10は、図9に示す転造用素材W2がローラダイスR1,R2で転造されることにより成形された歯車部材H2を示す図である。この図に示すように、歯車部材H2に形成された歯車成形部H2aの歯底直径cは、支持部BU,BDの直径dよりも小さい。つまり、転造用素材W2を用いた場合、直径が小さい歯車部材を得ることができる。特に、歯底直径が支持部の直径よりも小さい歯車部材を得ることができる。
しかし、転造用素材W2においては、加工部Aの直径が支持部BU,BDの直径と等しいために、ローラダイスR1,R2のダイスエッジ部(図9のE部)が支持部BU,BDに食いつく。これにより、転造用素材W2の「歩み」が阻害されて成形精度が悪化する。また、ダイスエッジ部が転造用素材W2に食いつくことによりバリが発生する。さらに、歯車成形部H2aの軸方向両端(歯幅方向の端部)に不完全に成形された領域(図10のG部)が形成される。この不完全部は、歯車成形部H2aの成形精度を大きく悪化させる。また、不完全部が歯車の径方向外方に向けて出っ張るので、歯車部材のコンパクト化を阻害する。このように、従来においては、直径が小さい歯車部材を精度良く転造成形することができなかった。
本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、歯車成形部の直径が小さい歯車部材、特に、歯車形成部の歯底直径が支持部の直径よりも小さい歯車部材を精度良く転造成形することを目的とする。
(課題を解決するための手段)
本発明は、円柱状の加工部と、前記加工部の両端にそれぞれの一端側が連結した対の連結部と、前記連結部の他端側にそれぞれ連結するとともに前記加工部の直径に等しい直径を有する円柱状の対の支持部とを備え、前記加工部の軸方向に垂直な平面で切断した前記対の連結部の断面の外形が前記平面で切断した前記加工部の断面の外形に囲まれた領域内に収まるように、前記対の連結部が形成されている転造用素材の前記加工部の側周面を、はすば状の歯部を有するとともに前記加工部の軸方向長さよりも長く且つ前記加工部の軸方向長さと前記加工部の軸方向に沿った前記対の連結部の長さとを合わせた長さである支持部間距離よりも短い幅を持つ加工ダイスで転造することにより、前記加工部の側周面にはすば状の歯部を創成する歯車部材の転造方法であって、前記支持部間距離と前記加工ダイスの幅との差が、転造時に前記転造用素材が軸方向に移動する最大距離よりも大きくなるように、前記転造用素材が設計されている、転造方法を提供する。
本発明の転造方法によれば、転造に用いられる転造用素材の加工部と対の支持部との間に対の連結部が設けられる。この連結部は、加工部の軸直角平面で切断した断面外形が、同平面で切断した加工部の断面外形に囲まれた領域内に収まるように(含まれるように)形成される。例えば、加工部と連結部が同一軸を有する円柱形状である場合、連結部の直径が加工部の直径よりも小さくなるように、連結部が形成される。また、このような転造用素材の加工部の側周面が、加工部の軸方向長さよりも長く且つ加工部の軸方向長さと加工部の軸方向に沿った対の連結部の長さとを合わせた長さ(支持部間距離)よりも短い幅(歯幅)を持つ加工ダイスで転造される。
連結部の断面外形が加工部の断面外形で囲まれた領域内に収まるように連結部が形成されているので、加工ダイスによる加工部の転造時に加工ダイスのダイスエッジ部が連結部に食いつく可能性が低い。また、加工部と連結部とを合わせた軸方向長さ(支持部間距離)が加工ダイスの幅よりも長いので、加工部が転造されているときに転造用素材が「歩み」によって軸方向に移動しても、加工ダイスが連結部に連結された支持部に食いつく可能性も低い。さらに、加工ダイスの幅よりも短い範囲内で加工部の軸方向長さを調整することにより、重なり噛み合い率を整数値に設定することができる。このように、ダイスエッジ部の食いつきが防止され、且つ重なり噛み合い率を整数値に設定することができるので、成形精度の良好な歯車部材を転造により成形することができる。
また、支持部間距離が加工ダイスの幅よりも長いため、加工部が転造されているときに転造用素材が「歩み」によって軸方向に移動しても、加工ダイスが支持部に干渉する可能性が低い。このため支持部を大きく設定することができる。その結果、直径の小さい歯車部材、特に、歯車成形部の歯底直径が支持部の直径よりも小さい歯車部材を転造成形することができる。
前記加工ダイスは、はすば状の歯部を有するとともに前記加工部の軸方向長さよりも長く且つ前記支持部間距離よりも短い幅を有し、回転することにより転造用素材を転造するローラダイスであるのがよい。この場合、ローラダイスの「幅」とは、ローラダイスの軸方向長さを表す。また、この「幅」は、ローラダイスの歯幅を表す。
また、前記転造用素材は、前記支持部間距離と前記加工ダイスの幅との差が、転造時に前記転造用素材が軸方向に移動する最大距離よりも大きくなるように形成されている。これによれば、支持部間距離と加工ダイスの幅との差が、「歩み」により転造用素材が軸方向に移動する最大距離よりも大きいため、加工部が転造されているときに転造用素材が「歩み」によって軸方向に移動した場合に、加工ダイスが支持部に干渉することを確実に防止することができる。
また、前記連結部は前記加工部と同一軸を持つ円柱形状に形成されており、前記連結部の直径は、前記加工部に創成されるはすば状の歯部の歯底直径以下であるとよい。これによれば、加工部が転造されているときに加工ダイスのダイスエッジ部が連結部に食いつくことを確実に防止することができ、より精度の高い歯車部材を転造成形することができる。
また、本発明は、円柱状の素材の軸方向に異なる2箇所の部分を前記素材の直径よりも小さい直径に加工することにより、円柱状の加工部と、前記加工部の両端にそれぞれの一端側が連結するとともに前記加工部の軸線に一致した軸線を有し、前記加工部の直径よりも小さい直径を持つ円柱状の対の連結部と、前記連結部の他端側にそれぞれ連結するとともに前記加工部の軸線に一致した軸線を有し且つ前記加工部の直径と等しい直径を有する円柱状の対の支持部とを備える段付円柱状の転造用素材を成形する転造用素材成形工程と、前記転造用素材の前記加工部の側周面を、はすば状の歯部を有するとともに前記加工部の軸方向長さよりも長く且つ前記加工部の軸方向長さと前記加工部の軸方向に沿った前記対の連結部の長さとを合わせた長さである支持部間距離よりも短い幅を持つ加工ダイスで転造することにより、前記加工部の側周面にはすば状の歯部を創成する転造工程と、を含む、歯車部材の製造方法であって、前記支持部間距離と前記加工ダイスの幅との差が、転造時に前記転造用素材が軸方向に移動する最大距離よりも大きくなるように、前記転造用素材が設計されている、歯車部材の製造方法を提供する。
本発明の歯車部材の製造方法によれば、転造用素材成形工程により円柱状(丸棒状)の素材の軸方向の異なる2箇所の部分を切削等により加工することで、段付円柱状の転造用素材を簡単に成形することができる。また、転造時に加工ダイスのダイスエッジ部が連結部や支持部に食いつく可能性が低い。よって、成形精度の良好な歯車部材を転造により成形することができる。また、加工部が転造されているときに転造用素材が「歩み」によって軸方向に移動しても、加工ダイスが連結部に連結された支持部に干渉する可能性が低い。よって支持部の直径を大きく設定することができ、直径の小さい歯車部材、特に、歯車成形部の歯底直径が支持部の直径よりも小さい歯車部材を転造成形することができる。
また、本発明は、転造用素材であって、はすば状の歯部を有する加工ダイスによって転造されることにより側周面にはすば状の歯部が形成される円柱状の加工部と、前記加工部の両端にそれぞれの一端が連結した対の連結部と、前記対の連結部の他端側にそれぞれ連結するとともに前記加工部の直径と等しい直径を有する対の支持部とを備え、前記加工部の軸方向に垂直な平面で切断した前記対の連結部の断面の外形が前記平面で切断した前記加工部の断面の外形に囲まれた領域内に収まるように、前記対の連結部が形成されており、前記加工部の軸方向長さが前記加工ダイスの幅よりも短く、且つ、前記加工部の軸方向長さと前記加工部の軸方向に沿った前記対の連結部の長さとを合わせた長さである支持部間距離が前記加工ダイスの幅よりも長く形成されており、前記支持部間距離と前記加工ダイスの幅との差が、転造時に前記転造用素材が軸方向に移動する最大距離よりも大きくなるように、前記転造用素材が設計されている、転造用素材を提供する。
本発明の転造用素材によれば、転造用素材の加工部と対の支持部との間に連結部が設けられる。この連結部は、加工部の軸直角平面で切断した断面外形が、同平面で切断した加工部の断面外形に囲まれた領域内に収まるように形成される。また、転造用素材は、加工ダイスの幅(加工部の軸方向に沿った加工ダイスの長さ)よりも加工部の軸方向長さが短く、且つ加工ダイスの幅よりも加工部の軸方向長さと加工部の軸方向に沿った連結部の長さとを合わせた長さ(支持部間距離)が長くなるように、形成される。
連結部の断面外形が加工部の断面外形に囲まれた領域内に収まっているので、加工部が転造されているときに加工ダイスのダイスエッジ部が連結部に食いつく可能性が低い。また、加工部と連結部とを合わせた軸方向長さ(支持部間距離)が加工ダイスの幅よりも長いので、加工部が転造されているときに転造用素材が「歩み」によって軸方向に移動しても、加工ダイスが連結部に連結された支持部に干渉する可能性が低い。さらに、加工ダイスの幅よりも短い範囲内で加工部の軸方向長さを調整することにより、重なり噛み合い率を整数値に設定することができる。このように、ダイスエッジ部の食いつきが防止され、且つ重なり噛み合い率を整数値に設定することができるので、成形精度の良好な歯車部材を転造により成形することができる。また、加工ダイスが転造用素材の支持部に干渉する可能性が低いので、支持部を加工部と同等の大きさあるいはそれよりも大くしても、転造用素材の「歩み」を阻害する可能性が低い。よって、直径の小さい歯車部材、特に、歯車成形部の歯底直径が支持部の直径よりも小さい歯車部材を転造成形することができる。
また、前記転造用素材は、前記支持部間距離と前記加工ダイスの幅との差が、転造時に前記転造用素材が軸方向に移動する最大距離よりも大きくなるように形成されている。これによれば、支持部間距離と加工ダイスの幅との差が、「歩み」により転造用素材が軸方向に移動する距離よりも大きいため、加工部が転造されているときに転造用素材が「歩み」によって軸方向に移動した場合に、加工ダイスが連結部に連結された支持部に干渉することを確実に防止することができる。
また、前記連結部は前記加工部と同一軸を持つ円柱形状に形成されており、前記連結部の直径は、前記加工部に創成されるはすば状の歯部の歯底直径以下であるとよい。これによれば、加工部が転造されているときに加工ダイスのダイスエッジ部が連結部に食いつくことを確実に防止することができる。
また、前記対の連結部および前記対の支持部は、前記加工部の軸線に一致した軸線を有する円柱形状に形成されており、前記加工部の直径と前記支持部の直径は等しく、前記連結部の直径は前記加工部の直径および前記支持部の直径よりも小さく形成されているのがよい。これによれば、例えば軸方向に沿って一定の直径を有する丸棒状の素材の軸方向に異なる2箇所の部分に溝を形成する等の簡単な工程によって、本発明の転造用素材を成形することができる。
以下、本発明の実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係る転造装置1の要部概略図である。図1に示すように、この転造装置1は、第1ローラダイス部10および第2ローラダイス部20とを備える。第1ローラダイス部10は、第1モータ11と、第1ローラダイス12と、第1支持軸13と、第1支持プレート14と、第1ハウジング15と、第1シリンダ16とを備える。
第1ハウジング15は、上面部15aと、上面部15aに対面して上面部15aの下方に配置した下面部15cと、上面部15aと下面部15cとを上下に連結する側面部15bを備える。第1支持軸13は第1ハウジング15の上面部15aと下面部15cとの間に配設され、その一方端(上端)が上面部15aから突き出て第1モータ11の出力軸に同軸的に連結されている。第1支持軸13の軸方向略中央部分に円柱状の第1ローラダイス12が上記第1支持軸13に同軸的に且つ一体回転可能に取りつけられている。第1ローラダイス12の側周部には、転造用素材を転造するためのはすば状の歯部が形成されている。
第1ハウジング15の下面部15cの上面側に第1支持プレート14が固定配置されている。この第1支持プレート14には、第1支持軸13の他方端(下端)が回転可能に支持されている。また、第1ハウジング15の側面部15bに第1シリンダ16が取り付けられている。第1シリンダ16を駆動させることで、第1ハウジング15およびこの第1ハウジング15に取り付けられている各要素(第1モータ11、第1ローラダイス12、第1支持軸13、第1支持プレート14)が一体的に図において左右方向に平行に移動する。
第2ローラダイス部20は、第2モータ21と、第2ローラダイス22と、第2支持軸23と、第2支持プレート24と、第2ハウジング25と、第2シリンダ26とを備える。
第2ハウジング25は、上面部25aと、上面部25aに対面して上面部25aの下方に配置した下面部25cと、上面部25aと下面部25cとを上下に連結する側面部25bを備える。第2支持軸23は第2ハウジング25の上面部25aと下面部25cとの間に配設され、その一方端(上端)が上面部25aから突き出て第2モータ21の出力軸に同軸的に連結されている。第2支持軸23の軸方向略中央部分に円柱状の第2ローラダイス22が上記第2支持軸23に同軸的に且つ一体回転可能に取り付けられている。第2ローラダイス22の側周部には、第1ローラダイス12の側周部に形成されている歯部と同形状の歯部が形成されている。
第2ハウジング25の下面部25cの上面側に第2支持プレート24が固定配置されている。この第2支持プレート24には、第2支持軸23の他方端(下端)が回転可能に支持されている。また、第2ハウジング25の側面部25bに第2シリンダ26が取り付けられている。第2シリンダ26を駆動させることで、第2ハウジング25およびこの第2ハウジング25に取り付けられている各要素(第2モータ21、第2ローラダイス22、第2支持軸23、第2支持プレート24)が一体的に図において左右方向に平行に移動する。
第1ローラダイス12と第2ローラダイス22は、転造装置1内にて図の左右方向に所定の間隔を隔てて対面配置されている。また、第1ローラダイス12の軸方向と第2ローラダイス22の軸方向が一致するように、各ローラダイス部10,20に取り付けられている。この第1ローラダイス12と第2ローラダイス22との間に転造用素材30が固定される。転造用素材30は段付円柱形状をなしており、その軸方向が第1ローラダイス12および第2ローラダイス22の軸方向に一致するように、その上下端がセンタリング機構付きチャック40により固定される。なお、チャック40は、転造用素材30の軸周り方向への回転を許容し、且つ、転造成形時に発生する「歩み」に伴う転造用素材30の軸方向移動を許容し得るように、転造用素材30を固定する。
上述のように転造用素材30は段付円柱形状を呈する。転造用素材30は、軸方向に沿って一定の直径を有する円柱状の部材から成形される。図2は、転造用素材30を成形する工程を示す図である。転造用素材を成形するために、まず、図2(a)に示す円柱状の丸棒素材50を用意する。丸棒素材50は軸方向に沿って一定の直径を有する。この丸棒素材50の両端部に比較的近い2箇所の部分A,Bに、例えば切削により溝加工することにより、図2(b)に示すような転造用素材30が成形される(転造用素材成形工程)。
図2(b)に示すように、転造用素材30は、円柱状の加工部31と、この加工部31の両端(図示上下端)にその一方端が連結した対の円柱状の連結部32a,32bと、各連結部32a,32bの他方端にそれぞれ連結した対の円柱状の支持部33a,33bとを備える。加工部31、対の連結部32a,32b、対の支持部33a,33bは、同一軸線上に形成される。また、加工部31の直径kは支持部33a,33bの直径dと等しい。連結部32a,32bの直径sは、加工部31の直径kおよび支持部33a,33bの直径dよりも小さい。なお、連結部32a,32bの直径sは、その軸方向に亘って同一である。加工部31の側周面が、はすば状の歯部を有するローラダイス12,22によって転造される部分である。この図2(b)に示す形状の転造用素材30が、図1に示した転造装置1に取り付けられる。
転造用素材30を転造する際には、まず転造用素材30を転造装置1のチャック40に固定する。その後、第1モータ11および第2モータ21を同一方向に同一速度で回転させるとともに、第1シリンダ16および第2シリンダ26を駆動させて第1ローラダイス部10と第2ローラダイス部20とを図1において左右方向に接近させる。この接近によって、転造用素材30の加工部31が第1ローラダイス12および第2ローラダイス22に挟まれる。第1ローラダイス12および第2ローラダイス22は同一方向に同一速度で回転しているので、転造用素材30は両ローラダイス12,22に挟まれた状態のまま、両ローラダイス12,22に連れまわりして回転する。そして、第1ローラダイス12および第2ローラダイス22をさらに転造用素材30に近づけ、転造用素材30を加圧する。これにより転造用素材30の加工部31の側周面にはすば状の歯部が転造される(転造工程)。転造時に転造用素材30が「歩み」により軸方向(図において上下方向)に移動するが、この移動はチャック40により許容される。
図3は、転造用素材30の寸法と、両ローラダイス12,22の寸法との関係を示す図である。図3(a)に示すように、転造用素材30の加工部31の軸方向長さbは両ローラダイス12,22の幅(ローラダイス12,22の軸方向長さ:歯幅)aよりも短い。
また、図3(b)に示すように、対の支持部33a,33bのうちの一方の支持部33aの連結部32aに近い側の端部から、他方の支持部33bの連結部32bに近い側の端部までの軸方向距離である支持部間距離mは、両ローラダイス12,22の幅aよりも長い。なお、この支持部間距離mは、転造用素材30の加工部31の軸方向長さbと、加工部31の軸方向に沿った対の連結部32a,32bの長さ(r1、r2)との和(b+r1+r2)に等しい。
転造用素材30を転造装置1のチャック40で固定したときにおける転造用素材30の位置(基準位置)と両ローラダイス12,22の位置との相対関係(つまり、転造用素材30が「歩み」により軸方向移動していない場合における、転造用素材30と両ローラダイス12,22との相対位置関係)が図3(b)のようである場合において、支持部間距離mとローラダイス12,22の幅aとの差は、ローラダイス12,22の図示上面から支持部33aの連結部32aに近い側の端部までの軸方向距離n1と、ローラダイス12,22の図示下面から支持部33bの連結部32bに近い側の端部までの軸方向距離n2との和により表わされる(m−a=n1+n2)。
転造用素材30は、支持部間距離mとローラダイス12,22の幅aとの差(n1+n2)が、転造用素材30の加工部31をローラダイス12,22で転造している時に「歩み」により転造用素材30が軸方向に移動する最大距離よりも大きくなるように、形成されている。具体的には、転造時に「歩み」によって転造用素材30が図3(b)において上方に移動する最大距離をMUとし、下方に移動する最大距離をMDとすると、距離n1が距離MDよりも大きく、距離n2が距離MUよりも大きくなるように、連結部32a,32bおよび支持部33a,33bの軸方向長さが決められている。なお、「歩み」による一方向への最大移動距離と他方向への最大移動距離が等しいと考えられる場合には、距離n1およびn2が、転造用素材30の「歩み」による片側方向への最大移動距離よりも大きくなるように、連結部32a,32bおよび支持部33a,33bの軸方向長さが設計されていればよい。また、本実施形態においては、長さr1と距離n1との差(r1−n1)が距離MUよりも大きく、且つ、長さr2と距離n2との差(r2−n2)が距離MDよりも大きくなるように、転造用素材30が形成されている。
このように、本実施形態においては、ローラダイス12,22との関係において上記のように寸法が決められた転造用素材30の加工部31がローラダイス12,22で転造される。転造用素材30の加工部31の軸方向長さbがローラダイス12,22の幅aよりも小さく、且つ加工部31の両端に連結した連結部32a,32bの直径sが加工部31の直径kよりも小さいので、加工部31がローラダイス12,22により転造されているときにローラダイス12,22のダイスエッジ部(図3(a)のE部)が連結部32a,32bに食いつくことはない。
また、距離n1が距離MDよりも大きく、距離n2が距離MUよりも大きいので、転造時に「歩み」によって転造用素材30が軸方向移動しても、ローラダイス12,22が支持部33a,33bに干渉しない。よって、ローラダイス12,22が支持部33a,33bに食い込むこともなく、且つ、ローラダイス12,22と支持部33a,33bとの干渉により「歩み」が阻害されることもない。つまり、本実施形態で示した転造方法によれば、ローラダイス12,22のダイスエッジ部の食い込みが防止され、且つ転造用素材30の「歩み」も阻害されない。したがって、成形精度の良好なはすば状の歯部が加工部31に形成される。さらに、長さr1と距離n1との差(r1−n1)が距離MUよりも大きく、長さr2と距離n2との差(r2−n2)が距離MDよりも大きいので、転造時に「歩み」によって転造用素材30が軸方向移動しても、加工部31をローラダイス12,22の歯幅内に留めておくことができる。このためダイスエッジ部が加工部31に食いつくこともない。
図4は、転造用素材30を転造装置1で転造することにより成形された歯車部材100の概略図である。図に示すように、歯車部材100は、歯車成形部110と、歯車成形部110の両端に連結した対の連結部120a,120bと、対の連結部に連結し歯車部材100の両端を構成する対の支持部130a,130bとを備える。連結部120a,120bは転造用素材30に形成される連結部32a,32bと同一の部位であり、支持部130a,130bは転造用素材30に形成される支持部33a,33bと同一の部位である。歯車成形部110は転造用素材30の加工部31が転造されることにより形成される部位である。
図4に示すように、歯車成形部110に形成されたはすば歯車の歯底直径(図において直径c)は、連結部120a,120bの直径sよりも大きい。ここで、歯車部材100の連結部120a,120bは上述のように転造用素材30の連結部32a,32bと同一の部分である。つまり、転造用素材30は、その連結部32a,32bの直径sが、転造により形成される歯車部材100の歯車成形部110の歯底直径cよりも小さくなるように、予め設計されている。このように転造用素材30を形成することにより、転造時にローラダイス12,22のダイスエッジ部が連結部32a,32bに食い込むことが確実に防止される。
さらに、図4に示すように、歯車成形部110の歯底直径cは、支持部130a,130bの直径(図において直径d)よりも小さい。すなわち、本実施形態にて説明した転造方法により、歯底直径cが支持部130a,130bの直径dよりも小さく、且つ精度の良好な歯車部材100が成形される。
こうして成形された歯車部材100は、例えば支持部130a,130bにベアリングが取り付けられた状態で何らかの製品に組み込まれることにより、回転駆動を伝達する部品として使用され得る。この場合において、組み込まれる製品によっては歯車成形部を小さくしなければならない場合も想定される。一般に歯車成形部が小さい場合、それに連結する支持部も小さい。支持部が小さい場合、小さな支持部に取り付けるためのベアリングを特注しなければならず、コストの増大を招く。これに対し、本実施形態で説明した歯車部材100は、支持部130a,130bの径が歯車成形部110の歯底直径よりも大きいので、特注のベアリングを要しない。故に、コストの増大を抑えることができる。
なお、本実施形態に示した転造用素材30を転造することにより成形した歯車部材100と、図9に示した転造用素材W2を転造することにより成形した歯車部材H2とを比較したところ、歯車部材100の歯すじ形状誤差が、歯車部材H2の歯すじ形状誤差と比較して約35%減少した。
以上のように、本実施形態の転造用素材30によれば、円柱状の加工部31と対の支持部33a,33bとの間に連結部32a,32bが形成される。また、連結部32a,32bの直径sが加工部31の直径kよりも小さくなるように形成される(図2(b))。この連結部32a,32bの直径と加工部31の直径の関係は、転造用素材30の加工部31の軸方向に垂直な平面で切断した連結部32a,32bの断面外形が、同平面で切断した加工部31の断面外形に囲まれた領域内に収まるように(すなわち連結部32a,32bの断面が加工部31の断面に覆われるように)、連結部32a,32bが形成されていることについての一態様を表す。また、加工部31の軸方向長さbはローラダイス12,22の幅aよりも短く、且つ、加工部31の軸方向長さbと加工部31の軸方向に沿った対の連結部32a,32bの長さr1,r2を合わせた長さ(b+r1+r2)、つまり支持部間距離mがローラダイス12,22の幅aよりも長くなるように、加工部31、対の連結部32a,32bおよび対の支持部33a,33bが形成される。
このように形成された転造用素材30によれば、連結部32a,32bの直径が加工部31の直径よりも小さいので、加工部31の転造時に加工部31の直径よりも小さい直径を持つ連結部32a,32bにローラダイス12,22のダイスエッジ部が食いつくことを防止することができる。
また、転造用素材30は、支持部間距離mがローラダイス12,22の幅aよりも大きく、さらに、支持部間距離mとローラダイス12,22の幅aとの差(n1+n2)が、転造用素材30の転造時に転造用素材30が「歩み」により軸方向(図3(b)の上下方向)に移動する最大距離(MU+MD)よりも大きくなるように形成されている。具体的には、図3(b)に示される距離n1が、「歩み」により転造用素材30が図において下方へ移動する最大距離MDよりも大きく、距離n2が、「歩み」により転造用素材30が図において上方へ移動する最大距離MUよりも大きくなるように、転造用素材30が形成されている。したがって、転造用素材30が「歩み」によって軸方向に移動した場合であっても、ローラダイス12,22のダイスエッジ部の軸方向位置が支持部33a,33bの軸方向位置にまで達することはない。つまり、ローラダイス12,22が転造用素材30の支持部33a,33bに干渉することはない。その結果、ローラダイス12,22の支持部33a,33bへの食いつきを防止することができる。
さらに、ローラダイス12,22が支持部33a,33bに干渉しないので、支持部33a,33bにより転造用素材30の「歩み」が阻害されることはない。このため、支持部33a,33bの径を加工部31の径と同等の大きさ、あるいは加工部31の径よりも大きく設計することができる。すなわち、本実施形態によれば、歯車成形部の歯底直径が支持部33a,33bの直径よりも小さい歯車部材を、精度良く転造成形することができる。
また、ローラダイス12,22の食いつきが防止されるため、歯車成形部の端部に生じる不完全部を極めて小さくすることができる。このため、大きな不完全部が歯車の径方向外方に出っ張ることがない。よって、よりコンパクトな歯車を成形することができる。
また、加工部31の軸方向長さbを、ローラダイス12,22の幅aよりも小さい範囲内で、重なり噛み合い率が整数値になるように調整することにより、より精度が向上した歯車部材を転造することができる。
また、丸棒素材50の軸方向に異なる2箇所の部分を切削等で素材径よりも小さい直径に加工することにより、簡単に、円柱状の加工部31と、加工部31の両端にそれぞれの一端側が連結するとともに加工部31の軸線に一致した軸線を有し、且つ加工部31の直径よりも小さい直径を持つ円柱状の対の連結部32a,32bと、連結部32a,32bの他端側にそれぞれ連結するとともに加工部31の軸線に一致した軸線を有する円柱状の支持部33a,33bとを備えた段付円柱状の転造用素材30を成形することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるべきものではない。例えば、上記実施形態では、図5(a)に示すように、転造用素材30の連結部32a,32bの直径sがその軸方向(軸線Lに沿った方向)に亘って一定である例を示している。この場合、直径sを歯車成形部の歯底直径(図5(a)のc)よりも小さい値に設定することにより、転造加工時にローラダイス12,22が連結部32a,32bに食い込むことが確実に防止される。しかし、転造用素材30の連結部32a,32bの直径sは、軸線Lに沿った方向に変化するように設計してもよい。例えば、図5(b)に示すように、連結部32a,32bの端部を曲線状に形成してもよい。また、図5(c)に示すように、軸線Lを含む平面で切断した断面外形が円弧状となるように連結部32a,32bを形成してもよい。この場合は、連結部32a,32bを太くすることができるため、転造用素材30および転造された歯車部材100の強度を向上させることができる。
また、上記実施形態では、連結部32a,32bの形状が円柱形状である例について説明したが、その断面が加工部31の断面外形に囲まれた領域内に収められていれば、角柱形状でも良く、さらには軸方向が定義されないような形状でも良い。このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、変形可能である。