図1(a)は、平板型の固体酸化物形燃料電池セル1aにおける燃料ガス排出側の一端部を示す横断面図である。なお、以降の説明において、同一の部材については同一の符号を用いて説明するものとする。
平板型のセル1aにおいては、固体電解質層4の対向する一方の主面(図1においては上側)に燃料極層3、他方の主面(図1においては下側)に酸素極層5が設けられている。ここで、セル1aは、燃料極層3の酸素極層5と対面(対向)している部分が発電部として機能する。すなわち、酸素極層5の外側(セル1aの外側)に空気等の酸素含有ガスを流し、かつ燃料極層3側に燃料ガス(水素含有ガス)を流し、所定の作動温度まで加熱することにより発電する。そして、かかる発電によって生じた電流は、集電部材(図示せず)を介して集電される。以下、図1(a)に示すセル1aを構成する各部材について説明する。
燃料極層3は、電極反応を生じさせるものであり、それ自体公知の多孔質の導電性セラミックスにより形成されるのが好ましい。例えば、希土類元素が固溶したZrO2または希土類元素が固溶したCeO2と、Niおよび/またはNiOとから形成することができる。
燃料極層3中の希土類元素が固溶したZrO2または希土類元素が固溶したCeO2の含量は、35〜65体積%の範囲にあるのが好ましく、またNiあるいはNiOの含量は、65〜35体積%であるのが好ましい。さらに、この燃料極層3の開気孔率は、15%以上、特に20〜40%の範囲にあるのが好ましく、その厚みは、1〜30μmであるのが好ましい。
固体電解質層4は、3〜15モル%のY(イットリウム)、Sc(スカンジウム)、Yb(イッテルビウム)等の希土類元素を含有した部分安定化あるいは安定化ZrO2からなる緻密質なセラミックスを用いるのが好ましい。また、希土類元素としては、安価であるという点からYが好ましい。また、La(ランタン)、Sr(ストロンチウム)、Ga(ガリウム),Mg(マグネシウム)を含んでなるLSGM系の固体電解質層4とすることもできる。さらに、固体電解質層4は、ガス透過を防止するという点から、相対密度(アルキメデス法による)が93%以上、特に95%以上の緻密質であることが望ましく、かつその厚みが1〜50μmであることが好ましい。
酸素極層5は、いわゆるABO3型のペロブスカイト型酸化物からなる導電性セラミックスにより形成されるのが好ましい。かかるペロブスカイト型酸化物としては、遷移金属ペロブスカイト型酸化物、特にAサイトにLaが存在するLaMnO3系酸化物、LaFeO3系酸化物、LaCoO3系酸化物の少なくとも1種が好ましく、600〜1000℃程度の作動温度での電気伝導性が高いという点からLaCoO3系酸化物が特に好ましい。なお、上記ペロブスカイト型酸化物においては、AサイトにLaとともにSrやCa(カルシウム)が存在してもよく、またLaに代わって、Sm(サマリウム)やSrが存在しても良い。さらに、Bサイトに、Co(コバルト)とともにFe(鉄)やMn(マンガン)が存在しても良い。
また、酸素極層5は、ガス透過性を有する必要があり、従って、酸素極層5を形成する導電性セラミックス(ペロブスカイト型酸化物)は、開気孔率が20%以上、特に30〜50%の範囲にあることが好ましい。さらに、酸素極層5の厚みは、集電性という点から30〜100μmであることが好ましい。
ところで、このような平板型のセル1aにおいては、セル1aの一端部側(図1において右側)において、セル1aの外側を流れる酸素含有ガス(空気等)が燃料極層3側に流れ、燃料極層3の一端部側が酸化して、セル1aが破損するおそれがある。
本形態では、図1(a)に示すように、セル1aの一端部の表面を覆うように酸化抑制層10が設けられている。すなわち、セル1aの一端部における、燃料極層3の上面および側面、固体電解質層4の上下両面および側面が酸化抑制層10で被覆されている。
酸化抑制層10は、図1(b)に示すように、燃料極層3側に位置する内側抑制層10aと、内側抑制層10aの外側に位置する外側抑制層10bとを具備して構成されており、内側抑制層10aと外側抑制層10bとの間には中間層10cが形成されている。内側抑制層10aは、外側抑制層10bよりも多孔質とされている。
酸化抑制層10は、具体的には、後述する図4(b)に示すように構成されている。すなわち、内側抑制層10aは、例えば5μmの厚みを有しており、この内側抑制層10aの気孔率は、画像解析装置による分析によれば、8%以上、特には10%以上とされ、外側抑制層10bの気孔率は、7%以下、特には5%以下とされている。中間層10cでは、内側抑制層10aから外側抑制層10bに向けて次第に気孔率が減少する領域となっている。内側抑制層10aの気孔率は、30%以下、特には20%以下であることが望ましい。
本形態では、セル1aの一端部の表面を覆うように酸化抑制層10が設けられているため、酸素極層5側に供給される酸素含有ガスが燃料極層3に流れた場合であっても、燃料極層3が酸化することを抑制でき、信頼性の向上した平板型のセル1aとすることができる。
また、酸化抑制層10は、周期律表第2族元素のうち少なくとも1種を含むケイ酸塩を主成分として含有することが望ましい。
ここで、酸化抑制層10の主成分である周期律表第2族元素のうち少なくとも1種を含んでなるケイ酸塩(以下、単にケイ酸塩と略す場合がある。)としては、例えば、周期律表第2族元素としてMgを含有するフォルステライト(Mg2SiO4)、ステアタイト(MgSiO3)、アケルマナイト(Ca2MgSiO7)、ディオプサイト(Ca2MgSiO6)や、周期律表第2族元素としてCaを含有するワラストナイト(CaSiO3)、アノーサイト(CaAl2Si2O8)、ゲーレナイト(Ca2Al2SiO7)、周期律表第2族元素としてBaを含有するセルシアン(BaAl2Si2O8)等を例示することができ、セル1aを構成する各構成との熱膨張係数等を考慮して適宜選択して用いることが好ましい。特には、燃料極層3や固体電解質層4の熱膨張係数を考慮して、フォルステライト(Mg2SiO4)、ステアタイト(MgSiO3)およびワラストナイト(CaSiO3)のいずれか一種を用いることが好ましく、特にはフォルステライト(Mg2SiO4)を用いることが好ましい。
このような平板型のセル1aは、例えば、以下のようにして作製することができる。まず、例えば所定の調合組成に従いNiO、Y2O3が固溶したZrO2(YSZ)の素原料を秤量、混合する。この後、混合した粉体に、有機バインダーおよび溶媒を混合して燃料極層3用スラリーを調製する。
次に、希土類元素が固溶したZrO2粉末に、水、バインダー、市販の分散剤等を加えてスラリー化したものを、スプレードライ法等にて水を飛散させた後、プレス成形する。得られた固体電解質層4成形体の一方の主面上に燃料極層3用スラリーを塗布して燃料極層3成形体を形成する。
次いで、上記の積層成形体を脱バインダー処理し、酸素含有雰囲気中、1400〜1600℃にて2〜6時間、同時焼結(同時焼成)する。
続いて、平均粒径0.8〜3μmの粗粉の周期律表第2族元素のうち少なくとも1種を含んでなるケイ酸塩(例えば、フォルステライト等)95wt%以上と、ガラス成分と、溶媒等とを含有する溶液に、酸化抑制層10を設ける部位を浸漬して、内側抑制層10a成形体を作製し、この後、平均粒径0.3〜0.5μmの微粉の周期律表第2族元素のうち少なくとも1種を含んでなるケイ酸塩(例えば、フォルステライト等)95wt%以上と、ガラス成分と、溶媒等とを含有する溶液に浸漬して、内側抑制層10a成形体の外面に外側抑制層10b成形体を作製し、1200℃〜1400℃で焼成する。
多孔質な燃料極層3表面の内側抑制層10a成形体の焼成時には、燃料極層3の表面形状を反映し、また、粗粉を用いるためケイ酸塩粉末が焼結し難く、多孔質とな内側抑制層10aを形成でき、微粉を用いた外側抑制層10b成形体を焼成することにより、内側抑制層10aよりも緻密な外側抑制層10bを形成することができる。なお、浸漬時間により、内側抑制層10a、外側抑制層10bの厚みを適宜設定することができる。内側抑制層10a、外側抑制層10bの気孔率、厚みは、原料粉末の粒径、焼成温度、焼成時間等により制御できる。
続いて、酸素極層5用材料(例えば、LaCoO3系酸化物粉末)、溶媒及び増孔剤を含有するスラリーをディッピング等により固体電解質4の他方の主面上に塗布して、1000〜1300℃で、2〜6時間焼き付けることにより、図1(a)に示す構造の平板型のセル1aを製造できる。
上述の方法により、燃料ガス排出側の一端部に酸化抑制層10が形成された平板型のセル1aを容易に作製することができる。
図2(a)は中空平板型のセル1bの横断面を示し、(b)はセル1bの一部を破断して示す斜視図である。なお、(a)は後述する発電部での横断面を示しており、(b)は発電部で破断したセル1bの斜視図である。また、両図面において、セル1bの各構成を一部拡大等して示している。
図2に示すセル1bは、一対の平坦部(図2(a)においてnで示す)を有し、内部に長さ方向Lに貫通する燃料ガスを流通させるための複数の燃料ガス流路7を有する柱状の導電性支持体2を備え、この導電性支持体2の一方側の平坦部n上に、燃料極層3と固体電解質層4と酸素極層5とがこの順に積層され、他方側の平坦部n上にインターコネクタ6が積層されて構成されている。
より詳細には、導電性支持体2は一対の平坦部nと両端の弧状部mとから構成され、一方の平坦部nと両端の弧状部mを覆うように燃料極層3が積層され、この燃料極層3を覆うように、緻密質な固体電解質層4が積層されている。また、固体電解質層4の上には、中間層8を介して、燃料極層3と対面するように酸素極層5が積層されている。また、燃料極層3および固体電解質層4が積層されていない他方の平坦部nの表面には、インターコネクタ6が積層されている。なお燃料極層3および固体電解質層4は、両端の弧状部mを経由してインターコネクタ6の両サイドにまで延びており、導電性支持体2の表面が外部に露出しないように構成されている。
ここで、図2に示すセル1bは、燃料極層3の酸素極層5と対面(対向)している部分が発電部として機能する。すなわち、酸素極層5の外側(セル1bの外側)に空気等の酸素含有ガスを流し、かつ導電性支持体2の燃料ガス流路7に燃料ガス(水素含有ガス)を流し、所定の作動温度まで加熱することにより発電する。そして、かかる発電によって生じた電流は、導電性支持体2上に積層されたインターコネクタ6を介して集電される。以下、図2に示すセル1bを構成する各部材について説明する。なお、燃料極層3、固体電解質層4および酸素極層5については、上述の平板型のセル1aで示したものを例示できる。
導電性支持体2は、燃料ガスを燃料極層3まで透過させるためにガス透過性であること、インターコネクタ6を介して集電を行なうために導電性であることが要求されることから、例えば、鉄族金属成分とセラミック成分、例えば特定の希土類酸化物とにより形成されることが好ましい。具体的には、鉄族金属成分としては、安価であることおよび燃料ガス中で安定であることから、Niおよび/またはNiOを含有することが好ましく、セラミック成分、例えば希土類酸化物は、導電性支持体2の熱膨張係数を固体電解質層4の熱膨張係数に近づけるために用いられ、Niおよび/またはNiOとの固溶、反応が殆どなく、また、熱膨張係数が固体電解質層4と殆ど同程度であり、かつ安価であるという点から、Y2O3が好ましい。
また、導電性支持体2の良好な導電率を維持し、かつ熱膨張係数を固体電解質層4と近似させるという点で、Ni:Y2O3=35:65〜65:35の体積比で存在することが好ましい。なお、導電性支持体2中には、要求される特性が損なわれない限りの範囲で、他の金属成分や酸化物成分を含有していてもよい。
また、導電性支持体2は、燃料ガス透過性を有していることが必要であるため、通常、開気孔率が30%以上、特に35〜50%の範囲にあることが好ましい。また、導電性支
持体2の導電率は、300S/cm以上、特に440S/cm以上であることが好ましい。
なお、導電性支持体2の平坦部nの長さ(導電性支持体2の幅方向の長さ)は、通常、15〜35mm、弧状部mの長さ(弧の長さ)は、2〜8mmであり、導電性支持体2の厚み(平坦部nの両面間の厚み)は1.5〜5mmであることが好ましい。
燃料極層3としては、上述と同じものを用いることができる。なお、図2(a)および(b)の例では、燃料極層3は、インターコネクタ6の両サイドにまで延びているが、酸素極層5に対面する位置に存在して燃料極層3が形成されていればよいため、例えば酸素極層5が設けられている側の平坦部nにのみ燃料極層3が形成されていてもよい。
図2に示すセル1bにおいては、固体電解質層4と酸素極層5との間に、長時間の発電におけるセル1bの発電性能の劣化を抑制することを目的として、(CeO2)1−x(REO1.5)x(REはSm、Y、Yb、Gdの少なくとも1種であり、xは0<x≦0.3を満足する数)で表される中間層8を設けることもできる。
一方、導電性支持体2の他方の平坦部nには、インターコネクタ6と導電性支持体2との間の熱膨張係数差を軽減するために燃料極層3と類似する組成の密着層9を設けることができる。
そして、上記の酸素極層5と向かい合う位置において、密着層9を介して導電性支持体2上に設けられているインターコネクタ6は、導電性セラミックスにより形成されるのが好ましいが、燃料ガス(水素含有ガス)および酸素含有ガスと接触するため、耐還元性、耐酸化性を有していることが必要である。このため、耐還元性、耐酸化性を有する導電性セラミックスとしては、一般に、ランタンクロマイト系のペロブスカイト型酸化物(LaCrO3系酸化物)が使用される。また、導電性支持体2の内部を通る燃料ガスおよび導電性支持体2の外部を通る酸素含有ガスのリークを防止するため、かかる導電性セラミックスは緻密質でなければならず、例えば93%以上、特に95%以上の相対密度を有していることが好適である。なお、インターコネクタ6はセルの形状にあわせて、金属製とすることもできる。また、インターコネクタ6の厚みは、ガスのリーク防止と電気抵抗という点から、10〜500μmであることが好ましい。
なお、図には示していないが、インターコネクタ6の外面(上面)には、P型半導体層を設けることもできる。集電部材を、P型半導体層を介してインターコネクタ6に接続させることにより、両者の接触がオーム接触となり、電位降下を少なくでき、集電性能の低下を有効に回避することが可能となる。なお、同様に酸素極層5の上面にもP型半導体層を設けることが好ましい。このようなP型半導体層としては、LaSrCoFeO3系酸化物等の遷移金属のペロブスカイト型酸化物からなる層を例示することができる。
ところで、図2に示したセル1bにおいては、燃料電池セル1bの一端部が、導電性支持体2上に燃料極層3と固体電解質層4とがこの順で積層されており、酸素極層5が形成されていない非発電部として構成されている。
このような非発電部においては、セル1bの外側を流れる酸素含有ガス(空気等)が逆流し、導電性支持体2の一部(一端部側)や燃料極層3の一端部側が酸化して、セル1bが破損するおそれがある。
それゆえ、図2〜4に示すセル1bにおいては、非発電部の一端部における少なくとも導電性支持体2上および燃料極層3上に、酸化抑制層10が設けられている。
図3は、図2で示したセル1bの一端部における斜視図であり、図4(a)は、セル1bの一端部における縦断面図である。
図3に示したセル1bにおいては、導電性支持体2上に燃料極層3と固体電解質層4とがこの順に積層されており、酸素極層5が形成されていない非発電部において、固体電解質層4とインターコネクタ6とを覆うように酸化抑制層10が設けられており、また図4(a)に示すように、導電性支持体2の端部においては、導電性支持体2の燃料ガス流路7の内面を覆うように酸化抑制層10が設けられ、さらには、セル1bの端面に位置する、導電性支持体2の端面、燃料極層3の端面、固体電解質層4の端面、インターコネクタ6の端面、密着層9の端面を覆うように酸化抑制層10が設けられている。
導電性支持体2の燃料ガス流路7側の内面に形成された酸化抑制層10は、上記図1(b)に示すように、内側抑制層10a、中間層10c、外側抑制層10bとを具備して構成されている。酸化抑制層10の内側抑制層10aは、具体的には、図4(b)に示すように、任意断面におけるSEM写真において、導電性支持体2の突出した部分に直線(一点鎖線a)を引き、この一点鎖線aから5μmの厚みを上限とした。すなわち、内側抑制層10aは、導電性支持体2の表面から実線bまでの厚みであり、5μmの厚みを有している。この内側抑制層10aの気孔率は、画像解析装置による分析によれば、8%以上、特には10%以上とされている。特には、30%以下、20%以下が望ましい。
外側抑制層10bは、焼結体表面に直線(二点鎖線c)を引き、この二点鎖線cから10μmの厚みを下限とした。すなわち、外側抑制層10bは、焼結体表面から実線dまでの厚みである。外側抑制層10bの気孔率は、7%以下、特には5%以下とされている。内側抑制層10aと外側抑制層10bとは、5%以上の気孔率差を有している。
なお、内側抑制層10aと外側抑制層10bとの間には中間層10cを有しており、中間層10cは、内側抑制層10aから外側抑制層10bに向けて次第に気孔が減少する領域を有している。
内側抑制層10aの厚みを5μmの厚みと設定したが、逆に、気孔率が8%以上の部分を内側抑制層10aとすることができる。一方、外側抑制層10bは、気孔率が7%以下の部分を外側抑制層10bとすることができる。気孔率が8%以上の部分を内側抑制層10aとする場合には、内側抑制層10aの厚みは、後述するように、浸漬時間、原料粒径の大きさ、焼成温度等により制御することができる。気孔率が8%以上の部分を内側抑制層10aとする場合には、内側抑制層10aの厚みは3μm以上、特に5μm以上、さらには、10μm以上有することが望ましい。多孔質な内側抑制層10aの厚みが厚い程、クラック進展抑制効果が大きくなる。
一方、外側抑制層10bの厚みは、10〜50μmであることが望ましい。これにより、封止信頼性を向上できる。
なお、酸化抑制層10は、上述したように、周期律表第2族元素のうち少なくとも1種を含んでなるケイ酸塩を主成分とする。特に、NiとY2O3とを含んでなる導電性支持体2を有するセル1bにおいては、導電性支持体2の熱膨張係数を考慮して、フォルステライト(Mg2SiO4)、ステアタイト(MgSiO3)およびワラストナイト(CaSiO3)のいずれか一種を用いることが好ましく、特にはフォルステライト(Mg2SiO4)を用いることが好ましい。
図5および図6は、セルの他の形態を示す縦断面図であり、それぞれのセル1c、1d
の一端部において燃料ガス流路7で長さ方向Lに沿った断面図である。
上述した中空平板型のセル1bは、導電性支持体2上に、セル1bを構成する各層(例えば、燃料極層3等)を積層した積層体の一端部に、ケイ酸塩を主成分としてなる酸化抑制層10成形体を設けた後、焼成することにより作製されるが、この焼成により、セル1bの一端部に熱応力が生じる場合がある。また、燃料ガス排出側である一端部側で発電に用いられなかった余剰の燃料ガスを燃焼させる構成のセル1bにおいては、余剰の燃料ガスを燃焼させることにより、セル1bの一端部に熱応力が生じ、酸化抑制層10の一部にクラックが生じるおそれがある。
それゆえ、図5および図6に示すセル1c、1dにおいては、セル1c、1dの一端部、特には燃料ガス排出側である一端部は、焼成や燃料ガスの燃焼等による熱応力を緩和することができるよう、その一端部における外周の角部が、セル1の最外面から導電性支持体2にかけて面取りされ、この状態で酸化抑制層10が形成されている。
ここで、図5に示すセル1cは、セル1cの一端部における外周の角部に、酸化抑制層10を除く燃料電池セル1cの最外面から導電性支持体2にかけて、面取り後の形状がC面形状となるような面取りが施されており、図6に示すセル1dは、セル1dの一端部における外周の角部に、酸化抑制層10を除くセル1dの最外面から導電性支持体2にかけて、面取り後の形状がR面形状となるような面取りが施されている。なお、図5および図6に示しているように、それぞれの面取り後の最外面には、酸化抑制層10が形成されている。
それにより、燃料ガス排出側である一端部における外周の角部への熱応力集中を緩和することができ、セル1c、1dの製造時において、酸化抑制層10にクラックが生じることを抑制できる。それにより、セル1c、1dの作製時やセル1c、1dを収納してなる燃料電池装置の運転時に、セル1c、1dが破損することをさらに抑制することができる。
なお、セル1cまたは1dにおいて、一端部における外周の角部に施す面取りの大きさとしては、燃料ガス流路7にかからない範囲で適宜設定することができる。
また、セル1bの一端部における外周の角部における面取り形状としては、上述のC面形状、R面形状の他、C面形状とR面形状の組み合わせ等、一般的に知られている面取り形状を、適宜設定することができる。
さらに、上述したように、燃料ガス排出側である一端部側で発電に用いられなかった余剰の燃料ガスを燃焼させる構成のセルにおいては、燃料ガス排出側である一端部側で発電に用いられなかった余剰の燃料ガスを燃焼させることにより、セル1の一端部に加熱に伴う熱応力が特に集中し、セルが破損するおそれがある。
それゆえ、図3〜図6に示した中空平板型のセルにおいては、非発電部における固体電解質層4上および非発電部と向かい合う位置におけるインターコネクタ6上に、酸化抑制層10を設けている。
すなわち、燃料ガス排出側である一端部がケイ酸塩を主成分として含有する酸化抑制層10により被覆されている。それにより、燃料ガス排出側である一端部の厚みを厚くすることができ、それに伴い燃料ガス排出側である一端部の強度を向上することができ、余剰の燃料ガスを燃焼させて生じる燃焼熱によるセル1bの破損を抑制することができる。
なお、酸化抑制層10は、その厚みを適宜設定することができ、例えば、燃料ガス排出側である一端部における端面の酸化抑制層10はその厚みを20〜120μmとすることができ、燃料ガス排出側である一端部における燃料ガス流路7内における導電性支持体2上の酸化抑制層10は、その厚みを20〜60μmとすることができる。なお、この場合においては、固体電解質層4上およびインターコネクタ6上の酸化抑制層10は、その厚みを20〜60μmとすることができる。それにより、燃料ガス排出側である一端部における導電性支持体2の酸化を抑制することができるとともに、燃料ガス排出側である一端部の強度を向上することができ、セルの破損を抑制することができる。
以上説明した中空平板型のセル1bの製法について説明する。先ず、NiまたはNiOの粉末と、Y2O3の粉末と、有機バインダーと、溶媒とを混合して坏土を調製し、この坏土を用いて押出成形により、一対の平坦部と両端の弧状部を有する導電性支持体2成形体を作製し、これを乾燥する。なお、導電性支持体2成形体として、導電性支持体2成形体を900〜1000℃にて2〜6時間仮焼した仮焼体を用いてもよい。
次に、例えば所定の調合組成に従いNiO、Y2O3が固溶したZrO2(YSZ)の素原料を秤量、混合する。この後、混合した粉体に、有機バインダーおよび溶媒を混合して燃料極層3用スラリーを調製する。
さらに、希土類元素が固溶したZrO2粉末に、トルエン、バインダー、市販の分散剤等を加えてスラリー化したものをドクターブレード等の方法により、3〜75μmの厚さに成形してシート状の固体電解質層4成形体を作製する。得られたシート状の固体電解質層4成形体上に燃料極層3用スラリーを塗布して燃料極層3成形体を形成し、この燃料極層3成形体側の面を導電性支持体2成形体の一方側の平坦部から両方の弧状部にかけて積層する。なお、他方側の平坦部の一部にまで積層してもよい。
続いて、例えば、GdO1.5が固溶したCeO2粉末を800〜900℃にて2〜6時間、熱処理を行い、その後、湿式解砕して凝集度を5〜35に調整した中間層8成形体用の原料粉末を用いて中間層8用スラリーを作製し、このスラリーを固体電解質層4成形体上の所定の位置に塗布して中間層8の塗布膜を形成する。
次に、例えば所定の調合組成に従いNiO、Y2O3が固溶したZrO2(YSZ)の素原料を秤量、混合する。この後、混合した粉体に、有機バインダーおよび溶媒を混合して密着層9用スラリーを調製する。
続いて、インターコネクタ6用材料(例えば、LaCrO3系酸化物粉末)、有機バインダーおよび溶媒を混合してスラリー化したものをドクターブレード等の方法により成形してシート状のインターコネクタ6成形体を作製する。
インターコネクタ6成形体の一方側表面に、密着層9用スラリーを塗布し、その密着層9用スラリーを塗布した面を、燃料極層3成形体および固体電解質層4成形体が形成されていない導電性支持体2成形体の他方側の平坦部に積層する。
次いで、上記の積層成形体を脱バインダー処理し、酸素含有雰囲気中、1400〜1600℃にて2〜6時間、同時焼結(同時焼成)する。
続いて、平均粒径0.8〜3μmの粗粉の周期律表第2族元素のうち少なくとも1種を含んでなるケイ酸塩(例えば、フォルステライト等)95wt%以上と、ガラス成分と、溶媒等とを含有する溶液に、酸化抑制層10を設ける部位を浸漬して、内側抑制層10a成形体を作製し、この後、平均粒径0.3〜0.5μmの微粉の周期律表第2族元素のう
ち少なくとも1種を含んでなるケイ酸塩(例えば、フォルステライト等)95wt%以上と、ガラス成分と、溶媒等とを含有する溶液に浸漬して、内側抑制層10a成形体の外面に外側抑制層10b成形体を作製し、焼成することで、酸化抑制層10を作製できる。なお、酸化抑制層10を焼成するにあたって、同時焼成温度より200℃以上低いことが好ましく、例えば1200℃〜1400℃で行うことが好ましい。なお、導電性支持体2の端部にのみ酸化抑制層10を設ける場合には、酸化抑制層10の原料(スラリー)を導電性支持体2の端部にのみ塗布することにより設けることができる。
続いて、酸素極層5用材料(例えば、LaCoO3系酸化物粉末)、溶媒及び造孔材を含有するスラリーをディッピング等により中間層8上に塗布する。また、インターコネクタ6の所定の位置に、必要によりP型半導体層材料(例えば、LaCoO3系酸化物粉末)と溶媒を含むスラリーを、ディッピング等により塗布し、1000〜1300℃で、2〜6時間焼き付けることにより、図2に示す構造のセル1bを製造できる。なお、セル1bは、その後、内部に水素含有ガスを流し、導電性支持体2および燃料極層3の還元処理を行なうのが好ましい。その際、たとえば750〜1000℃にて5〜20時間還元処理を行なうのが好ましい。
なお、セル1bの燃料ガス排出側である一端部における外周の角部に、最外面から導電性支持体2にかけて面取りを施すにあたっては、導電性支持体2成形体の一方側の平坦部上に、燃料極層3成形体、固体電解質層4成形体、中間層8を積層し、他方側の平坦部上にインターコネクタ6成形体が積層された積層体を焼結した後に、積層体の最外面から導電性支持体2にかけて面取り加工(例えば、C面取り加工、R面取り加工等)することができる。なお、面取り加工は、リューターや、サンドペーパー、あるいは治具や、平面研削機などを用いて加工することができる。
以上のような製造方法により、導電性支持体2の燃料ガス排出側である一端部に酸化抑制層10を形成し、導電性支持体2、燃料極層3の酸化を抑制するとともに、破損を抑制することができ、信頼性の向上したセル1bを容易に作製することができる。
なお、図2の形態では、導電性支持体2上に燃料極層を形成したセルについて説明したが、導電性支持体2を別個に形成することなく、燃料極自体を支持体としたセルについても、本発明を適用できる、また、上記中空平板型のセルでは、固体電解質層4の内側に燃料極層3を外側に酸素極層5を形成したセルについて説明したが、固体電解質層の内側に酸素極層を外側に燃料極層を形成したセルについても、本発明を適用できる。
図7は、燃料電池モジュールの一例を示す(以下、モジュールと略す場合がある)の外観斜視図であり、同一の構成については同一の符号を用いるものとする。なお、セルとしては、上述した中空平板型のセル1bを用いて説明する。
モジュール11は、直方体状の収納容器12の内部に、本発明の一例である中空平板型のセル1bを複数立設させた状態で所定間隔をおいて配列し、隣接する燃料電池セル1b間に集電部材(図示せず)を配置して電気的に直列に接続してセルスタック14を構成するとともに、セル1bの下端をガラスシール材等の絶縁性接合材(図示せず)でマニホールド13に固定してなる燃料電池セルスタック装置17を収納容器12に収納して構成されている。
図7においては、セル1bの発電で使用する燃料ガスを得るために、天然ガスや灯油等の燃料を改質して燃料ガスを生成するための改質器18をセルスタック14(セル1)の上方に配置している。なお、図7に示した改質器18は、水を気化するための気化部16と改質触媒を備える改質部15とを具備しており、それにより効率の良い水蒸気改質を行
うことができる。そして、改質器18で生成された燃料ガスは、ガス流通管19によりマニホールド13に供給され、マニホールド13を介してセル1bの内部に設けられた燃料ガス流路7に供給される。なお、燃料電池セルスタック装置17は改質器18を含むものとしてもよい。
なお、図7においては、収納容器12の一部(前後面)を取り外し、内部に収納される燃料電池セルスタック装置17を後方に取り出した状態を示している。ここで、図7に示したモジュール11においては、燃料電池セルスタック装置17を、収納容器12内にスライドして収納することが可能である。
なお、収納容器12の内部には、マニホールド13に並置されたセルスタック14の間に配置され、酸素含有ガス(酸素含有ガス)が集電部材の内部を介して燃料電池セル1bの側方を下端部から上端部に向けて流れるように、酸素含有ガス導入部材20が配置されている。
このようなモジュール11においては、収納容器12内に、上述したようなセル1bを複数個収納してなることから、信頼性の向上したモジュール11とすることができる。
図8は、燃料電池装置21の一例を示す分解斜視図である。なお、図8においては一部構成を省略して示している。
図8に示す燃料電池装置21は、支柱22と外装板23から構成される外装ケース内を仕切板24により上下に区画し、その上方側を上述したモジュール11を収納するモジュール収納室25とし、下方側をモジュール11を動作させるための補機類を収納する補機収納室26として構成されている。なお、補機収納室26に収納する補機類を省略して示している。
また、仕切板24は、補機収納室26の空気をモジュール収納室25側に流すための空気流通口27が設けられており、モジュール収納室25を構成する外装板23の一部に、モジュール収納室25内の空気を排気するための排気口28が設けられている。
このような燃料電池装置21においては、上述したように、信頼性の向上した燃料電池セル1bを収納容器12内に収納してなるモジュール11をモジュール収納室25内に収納して構成されることにより、信頼性の向上した燃料電池装置21とすることができる。
先ず、平均粒径0.5μmのNiO粉末と、平均粒径0.9μmのY2O3粉末と、機バインダーと溶媒とで作製したスラリーを棒状に形成し、これを大気中1510℃にて2時間焼成し、気孔率31%の導電性支持体を作製した。導電性支持体は、体積比率がNiOが48体積%、Y2O3が52体積%であった。
この導電性支持体を、平均粒径1.3μmの粗粉のフォルステライトを95質量%と、ガラス成分を5質量%と、溶媒等とを含有する溶液に、酸化抑制層10を設ける導電性支持体の部位を浸漬して、内側抑制層10a成形体を作製し、この後、平均粒径0.5μmの微粉のフォルステライトを95質量%と、ガラス成分を5質量%と、溶媒等とを含有する溶液に浸漬して、内側抑制層10a成形体表面に外側抑制層10b成形体を作製し、1300℃にて3時間焼結処理を行なった。
その断面における操作電子顕微鏡(SEM)写真を図4(b)に記載した。酸化抑制層10の厚みは、上記したように、内側抑制層の厚みが5μm、外側抑制層の厚みは10μ
mであり、中間層、酸化抑制層10の全体厚みは表1に示す厚みであった。
画像解析装置を用いた内側抑制層、外側抑制層の気孔率を表1に記載した。また、酸化抑制層10を形成した導電性支持体を、大気中850℃で16時間保持して酸化処理した後、放冷して冷却し、室温から、水素ガス:窒素ガスを50:300cc/minで流しながら850℃で16時間保持して還元処理を行う酸化還元処理サイクルを3回繰り返し、外側抑制層10bにクラックが発生しているか否かを評価し、その結果を表1に記載した。なお、比較のため、微粉のフォルステライトを用いて1層の酸化抑制層を形成し、その評価も表1に記載した。
この表1から、気孔率が0.5%と小さい酸化抑制層からなる試料No.1の場合には、酸化還元処理にて酸化抑制層にクラックが存在しているのに対して、8〜15.2%の気孔率を有する内側抑制層と、1.2〜7%の気孔率を有する外側抑制層とを有する試料No.2〜4では、酸化還元処理した後でも外側抑制層にクラックが存在していないことがわかる。