上述したようなスクロール圧縮機では、固定スクロールと旋回スクロールとの間に、大別して2種類の圧縮室が形成される。即ち、固定スクロールのラップの内周壁と旋回スクロールのラップの外周壁との間には、第1の圧縮室(いわゆるA室)が形成され、同時に、固定スクロールのラップの外周壁と旋回スクロールのラップの内周壁との間には、第2の圧縮室(いわゆるB室)が形成される。従って、この種のスクロール圧縮機では、A室とB室とにおいて、それぞれ冷媒が別に圧縮され、両室で高温高圧となった冷媒が吐出されることになる。
これに対し、特許文献1に開示されたスクロール圧縮機では、中間圧のガス冷媒を圧縮室へ供給するための供給口が、A室とB室とに跨るように配設されている。具体的には、特許文献1では、供給口(いわゆるインジェクションポート)が固定スクロールの鏡板部において、径方向に隣り合う固定側のラップ壁面の中間位置に設けられている。これにより、特許文献1の供給口は、旋回スクロールの回転角度位置(旋回角度位置)に応じて、A室とB室とに交互にしか連通できなかった。従って、この方式のスクロール圧縮機では、2つの圧縮室に冷媒(中間圧冷媒等)を安定的且つ連続的に供給することができなかった。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、2つの圧縮室でそれぞれ冷媒が圧縮されるスクロール圧縮機において、冷媒を安定的且つ連続的に圧縮室に供給できるようにすることである。
第1の発明は、冷凍サイクルが行われる冷媒回路に接続されるスクロール圧縮機を対象とする。そして、このスクロール圧縮機は、固定鏡板部(31)及び渦巻き状の固定ラップ(32)を有する固定スクロール(30)と、旋回鏡板部(41)及び渦巻き状の旋回ラップ(42)を有する旋回スクロール(40)とを有する圧縮機構(20)と、前記固定ラップ(32)の内周壁(32b)と前記旋回ラップ(42)の外周壁(42c)との間に第1圧縮室(25A)を形成し、前記固定ラップ(32)の外周壁(32c)と前記旋回ラップ(42)の内周壁(42b)との間に第2圧縮室(25B)を形成しながら、前記固定スクロール(30)に対して前記旋回スクロール(40)を偏心回転させる駆動機構(50)と、前記冷媒回路の冷媒を前記第1圧縮室(25A)と前記第2圧縮室(25B)とに導入するインジェクション機構(70)とを備え、該インジェクション機構(70)は、固定鏡板部(31)における固定ラップ(32)の内周壁(32b)寄りに形成されて第1圧縮室(25A)に開口する第1ポート(73)と、固定鏡板部(31)における固定ラップ(32)の外周壁(32c)寄りに形成されて第2圧縮室(25B)に開口する第2ポート(74)とを有し、該2つのポート(73,74)のうちの一方又は両方は、前記旋回スクロール(40)が所定の回転角度位置から少なくとも360°回転するまでの間、対応する圧縮室(25A,25B)に連続して連通するように構成され、前記2つのポート(73,74)のうちの一方又は両方は、前記固定ラップ(32)と前記旋回ラップ(42)との接触部を跨いで、周方向に隣接する2つの圧縮室(25)に同時に連通可能に構成される開口穴(73a,74a)で構成され、前記インジェクション機構(70)は、前記固定鏡板部(31)の背面側に形成される1つの冷媒導入路(72)を備え、前記2つのポート(73,74)は、それぞれ前記冷媒導入路(72)と連通するとともに前記固定スクロール(30)の径方向に隣接して配列され、上記2つのポート(73,74)のうちの一方又は両方は、前記開口穴(73a,74a)に近接する側の固定ラップ(32)に沿うように固定鏡板部(31)に形成されて、該開口穴(73a,74a)と連通する長溝(73b,74b)を有し、該長溝(73b,74b)の長手方向の長さは、上記開口穴(73a,74a)の周方向の開口幅よりも長いことを特徴とする。
第1の発明では、インジェクション機構(70)によって第1ポート(73)及び第2ポート(74)から各圧縮室(25A,25B)に冷媒が導入される。ここで、第1ポート(73)は、固定ラップ(32)の内周壁(32b)寄りに形成されて第1圧縮室(25A)に冷媒を供給する。第2ポート(74)は、固定ラップ(32)の外周壁(32c)寄りに形成されて第2圧縮室(25B)に冷媒を供給する。従って、従来例と異なり、本発明では、第1圧縮室(25A)及び第2圧縮室(25B)へ冷媒が安定して供給される。
また、本発明では、2つのポート(73,74)のうちの少なくとも一方が、対応する圧縮室(25A,25B)に対して、比較的広範囲の角度域に亘って連続的に連通するように構成されている。具体的に、2つのポート(73,74)のうちの少なくとも一方は、旋回スクロール(40)が所定の角度位置から少なくとも360°回転するまでの間、対応する圧縮室(25A,25B)と連続して連通する。従って、対応する圧縮室(25A,25B)には、少なくとも360°以上の回転角度域に亘って、連続的に冷媒が供給される。
本発明では、2つのポート(73,74)のうちの少なくとも一方が、近接する固定ラップと周方向に所定の角度域を以て形成されている。即ち、圧縮機構(20)では、例えば固定ラップ(32)の内周壁(32b)と旋回ラップ(42)の外周壁(42c)との接触部(シール部)を挟んで周方向の両側に2つの第1圧縮室(25A-1,25A-2)が形成され、固定ラップ(32)の外周壁(32c)と旋回ラップ(42)の内周壁(42b)の接触部(シール部)を挟んで周方向の両側に2つの第2圧縮室(25B-1,25B-2)が形成される。2つのポート(73,74)のうちの少なくとも一方が、近接する固定ラップ(32)と周方向に所定の角度域を以て形成されているため、この開口穴(73a,73b)は、対応するこれらの隣り合う2つの第1圧縮室(25A-1,25A-2)や第2圧縮室(25B-1,25B-2)に連通可能となる。従って、本発明では、旋回スクロール(40)の回転時に、例えば第1圧縮室(25A-1)と第1ポート(73)とが連通した後、更に旋回スクロール(40)が360°旋回して、第1圧縮室(25A-1)が中心寄りの第1圧縮室(25A-2)になった後も、前記所定の角度域の間、第1圧縮室(25A-2(元の25-1))が第1ポート(73)と連通している。その結果、例えば第1ポート(73)を360°以上の回転角度域に亘って、連続的に第1圧縮室(25A)と連通させることができる。このことは、第2ポート(74)においても同様である。
本発明の固定鏡板部(31)には、圧縮室(25)に開口する開口穴(73a,74a)と連通して長溝(73b,73b)が形成される。この長溝(73b,74b)は、開口穴(73a,74a)と同様、固定ラップ(32)の壁部(第1ポートの場合、固定ラップ(32)の内周壁(32b)、第2ポート(74)なら固定ラップ(32)の外周壁(42c)に近接するように、この壁部に沿って形成される。よって、この長溝(73b,74b)は、開口穴(73a,74a)と同様、対応する圧縮室(25)に連通できる。このため、ポート(73,74)は、開口穴(73a,74a)及び長溝(73b,74b)を通じて、対応する圧縮室(25)と連通する。つまり、本発明では、対応する圧縮室(25A,25B)とポート(73,74)とが連通する旋回角度の範囲が、長溝(73b,74b)によって拡張される。従って、対応する圧縮室(25A,25B)に対して、ポート(73,74)から安定的且つ連続的に冷媒を導入できる。
第2の発明は、第1の発明において、前記2つのポート(73,74)のうちの一方又は両方は、対応する圧縮室(25)が吸入閉じきり状態になると同時に、該圧縮室(25)と連通し始めるように構成されていることを特徴とする。
第2の発明では、2つのポート(73,74)のうちの少なくとも一方は、対応する圧縮室(25A,25B)の吸入閉じきり位置を考慮して構成される。即ち、スクロール圧縮機に冷媒回路の冷媒が圧縮室(25)に吸入され、更に旋回スクロール(40)が回転して圧縮室(25)が閉じきり状態となると、冷媒の吸入行程が終了し、同時に冷媒の圧縮行程が始まる。本発明では、このような吸入行程の終了と同時に(圧縮室(25)が吸入閉じきり状態になると同時)に、ポート(73,74)が対応する圧縮室(25A,25B)と連通する。つまり、本発明では、圧縮室(25)の圧力が最も低い状態において、ポート(73,74)と圧縮室(25)が連通するため、ポート(73,74)へ導入される冷媒の圧力と圧縮室(25)内の圧力との差を最大限に大きくできる。従って、ポート(73,74)から圧縮室(25)へ安定的に冷媒を供給できる。
第1の発明では、固定鏡板部(31)の背面側に冷媒導入路(72)が設けられる。前記2つのポート(73,74)は、固定スクロール(30)の径方向に隣接するように配設されて冷媒導入路(72)と連通する。このため、冷媒導入路(72)を流れた冷媒は、第1ポート(73)と第2ポート(74)とに分流して、対応する圧縮室(25A,25B)へ供給される。
本発明によれば、インジェクション機構(70)に含まれる第1のポート(73)を第1圧縮室(25A)と連通させ、第2のポート(74)を第2圧縮室(25B)に連通させている。このため、本発明では、従来例のように、第1圧縮室(25A)や第2圧縮室(25B)に対して、交互、あるいは間欠的に冷媒が供給されることがないため、各圧縮室(25A,25B)に安定的に冷媒を供給することができる。また、本発明では、インジェクション機構(70)に含まれる2つのポート(73,74)のうちの少なくとも一方又は両方を、対応する圧縮室(25A,25B)に対して360°以上の回転角度域に亘って連続的に連通させるように構成している。このため、スクロール圧縮機の運転時において、各圧縮室(25A,25B)へ冷媒を供給できる継続時間を長くでき、冷媒によるインジェクション効果を高めることができる。
第1の発明では、インジェクション用のポート(73,74)を、周方向に隣接する2つの圧縮室(25)と同時に連通可能としたので、圧縮室(25)に対して360°以上の旋回角度に亘って冷媒を連続供給できる。
第1の発明では、開口穴(73a,74a)に対して、固定ラップ(32)の壁面に沿うような長溝(73b,74b)を連通させる構成としたため、長溝(73b,74b)の長さに応じて、圧縮室(25)への冷媒の連続供給時間を長期化できる。また、単純に長穴を空けるのではなく、開口穴(73a,73b)と連通する溝形状としたため、圧縮室(25)では、冷媒の圧縮に寄与しない容積(いわゆる死容積)を必要最低限に抑えることができる。
第2の発明では、圧縮室(25)が吸入閉じきり状態になるタイミングから、この閉じきり状態の圧縮室(25)へ冷媒を導入するようにしている。このため、充分な圧力差を確保して、冷媒や油を圧縮室(25)に安定的に供給できる。
第1の発明では、第1ポート(73)と第2ポート(74)へ冷媒を送るための冷媒導入路(72)を1本とする構成としたため、装置構造の簡素化を図ることができる。また、第1ポート(73)と第2ポート(74)とは、径方向に隣接して配置されるため、第1圧縮室(25A)と第2圧縮室(25B)とへ冷媒を導入するタイミングのずれを極力防止できる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
《発明の実施形態1》
実施形態1に係る発明について説明する。
〈スクロール圧縮機の全体構成〉
スクロール圧縮機(10)の全体構成について、図1を参照しながら説明する。
図1に示すように、本実施形態のスクロール圧縮機(10)は、全密閉圧縮機である。このスクロール圧縮機(10)は、冷凍サイクルを行う冷媒回路に接続され、冷媒回路の冷媒を吸入して圧縮する。
スクロール圧縮機(10)では、ケーシング(15)の内部空間に、圧縮機構(20)と、電動機(50)と、下部軸受部材(55)と、駆動軸(60)とが収容されている。ケーシング(15)は、縦長の円筒状に形成された密閉容器である。ケーシング(15)の内部空間では、上から下へ向かって順に、圧縮機構(20)と電動機(50)と下部軸受部材(55)とが配置されている。また、駆動軸(60)は、その軸方向がケーシング(15)の高さ方向に沿う姿勢で配置されている。
ケーシング(15)には、吸入管(16)と、インジェクション管(71)と、吐出管(18)とが取り付けられている。吸入管(16)、インジェクション管(17)、及び吐出管(18)は、何れもケーシング(15)を貫通している。吸入管(16)とインジェクション管(17)は、圧縮機構(20)に接続されている。吐出管(18)は、ケーシング(15)の内部空間における電動機(50)と圧縮機構(20)の間の部分に開口している。インジェクション管(17)は、詳細は後述するインジェクション機構(70)に含まれている。
下部軸受部材(55)は、ケーシング(15)に固定されている。この下部軸受部材(55)は、駆動軸(60)の下端部を回転自在に支持している。一方、電動機(50)は、固定子(51)と回転子(52)とを備えている。固定子(51)は、ケーシング(15)に固定されている。回転子(52)は、固定子(51)と同軸に配置されている。この回転子(52)には、駆動軸(60)が挿通されている。
駆動軸(60)には、主軸部(61)と、バランスウェイト部(62)と、偏心部(63)とが形成されている。バランスウェイト部(62)は、主軸部(61)の軸方向の途中に配置されている。主軸部(61)は、バランスウェイト部(62)よりも下側の部分が電動機(50)の回転子(52)を貫通し、その下端部が下部軸受部材(55)によって支持されている。また、主軸部(61)は、バランスウェイト部(62)よりも上側の部分が、後述する圧縮機構(20)のハウジング(21)によって回転自在に支持されている。偏心部(63)は、主軸部(61)の上端面に突設されている。偏心部(63)は、その軸心が主軸部(61)の軸心に対して偏心しており、後述する圧縮機構(20)の旋回スクロール(40)に係合している。
図示しないが、駆動軸(60)には、給油通路が形成されている。この給油通路は、その一端が駆動軸(60)の下端に開口し、その他端が駆動軸(60)の上端に開口している。駆動軸(60)が回転すると、ケーシング(15)の底部に貯留された冷凍機油が、給油通路へ吸い上げられる。また、給油通路には、駆動軸(60)の半径方向へ延びる分岐通路が形成されている。給油通路を流れる冷凍機油の一部は、この分岐通路へ流入し、下部軸受部材(55)や圧縮機構(20)との摺動部に供給される。
〈圧縮機構〉
圧縮機構(20)の構成について、図1〜図3を参照しながら説明する。
図1及び図2に示すように、圧縮機構(20)は、ハウジング(21)と、固定スクロール(30)と、旋回スクロール(40)とを備えている。また、圧縮機構(20)には、旋回スクロール(40)の自転運動を規制するためのオルダムリング(22)が設けられている。
ハウジング(21)は、厚肉の円板状に形成されており、その中央部が図1の下方へ膨出している。ハウジング(21)は、その外周面がケーシング(15)の内周面と接しており、ケーシング(15)に固定されている。ハウジング(21)では、その中央部を駆動軸(60)の主軸部(61)が貫通している。そして、ハウジング(21)は、主軸部(61)のうちバランスウェイト部(62)よりも上側の部分を回転自在に支持するジャーナル軸受を構成している。
ハウジング(21)の上には、固定スクロール(30)と旋回スクロール(40)とが載置されている。固定スクロール(30)は、ボルト等によってハウジング(21)に固定されている。一方、旋回スクロール(40)は、ハウジング(21)には固定されておらず、駆動軸(60)に係合して公転運動を行う。
旋回スクロール(40)は、旋回鏡板部(41)と、旋回ラップ(42)と、円筒部(43)とを一体に形成した部材である。旋回鏡板部(41)は、円板状に形成されている。旋回ラップ(42)は、渦巻き壁状に形成されており、旋回鏡板部(41)の前面(図1における上面)に突設されている。円筒部(43)は、円筒状に形成され、旋回鏡板部(41)の背面(同図における下面)に突設されている。この円筒部(43)には、後述する駆動軸(60)の偏心部(63)が挿入されている。
固定スクロール(30)は、固定鏡板部(31)と、固定ラップ(32)とを一体に形成した部材である。固定鏡板部(31)は、円板状に形成されている。固定ラップ(32)は、渦巻き壁状に形成されており、固定鏡板部(31)の前面(図1における下面)に突設されている。固定鏡板部(31)は、固定ラップ(32)の周囲を囲う部分(33)を備えている。この部分(33)の内周側面は、固定ラップ(32)と共に旋回ラップ(42)と摺接して圧縮室(25)を形成する。
固定鏡板部(31)の外周付近には、吸入管(16)が挿入されている。また、固定鏡板部(31)には、吐出ポート(26)が形成されている。吐出ポート(26)は、固定鏡板部(31)の中央付近に形成された貫通孔であって、固定鏡板部(31)を厚さ方向に貫通している。固定鏡板部(31)の前面において、吐出ポート(26)は、固定ラップ(32)の内周側端部の近傍に開口している。
圧縮機構(20)には、吐出ガス通路(28)が形成されている。この吐出ガス通路(28)は、固定スクロール(30)からハウジング(21)に亘って形成された通路である。吐出ガス通路(28)は、その一端が吐出ポート(26)に連通し、その他端がハウジング(21)の下面に開口している。
圧縮機構(20)において、固定スクロール(30)と旋回スクロール(40)は、固定鏡板部(31)の前面と旋回鏡板部(41)の前面が互いに向かい合い、固定ラップ(32)と旋回ラップ(42)が互いに噛み合うように配置されている。具体的に、固定ラップ(32)の先端面(32a)は、旋回鏡板部(41)の前面と対向している。旋回鏡板部(41)では、固定ラップ(32)の先端面(32a)と対向する部分が歯底面(41a)となっている。一方、旋回ラップ(42)の先端面(42a)は、固定鏡板部(31)の前面と対向している。固定鏡板部(31)では、旋回ラップ(42)の先端面(42a)と対向する部分が歯底面(31a)となっている。そして、圧縮機構(20)では、図3に示すように、固定スクロール(30)の固定ラップ(32)と旋回スクロール(40)の旋回ラップ(42)とが互いに噛み合うことによって、三日月形の圧縮室(25)が複数形成される。
具体的に、圧縮機構(20)の内部では、大別すると2種類の圧縮室(25A,25B)が形成される。例えば図3に示すように、固定ラップ(32)の内周壁(32b)と旋回ラップ(42)の外周壁(42c)との間には、第1の圧縮室を成すA室(25A)が形成される。また、固定ラップ(32)の外周壁(32c)と旋回ラップ(42)の内周壁(42b)との間には、第2圧縮室を成すB室(25B)が形成される。圧縮機構(20)では、旋回スクロール(40)の偏心回転に伴って、閉じきり状態となったA室(25A)やB室(25B)の容積が次第に小さくなっていき、両室(25A,25B)で冷媒が圧縮される。
スクロール圧縮機(10)は、冷媒回路の冷媒を圧縮機構(20)の圧縮室へ導入するためのインジェクション機構(70)を備えている。インジェクション機構(70)は、インジェクション管(71)と冷媒導入路(72)と2つのインジェクションポート(73,74)とを備えている。
インジェクション管(71)は、流入端が冷媒回路に接続され、流出端がスクロール圧縮機(10)のケーシング(15)を貫通している。インジェクション管(71)の一端は、例えば冷媒回路における中間圧回路(吸入低圧ラインと吐出高圧ラインのと間の中間圧となる回路)に接続している。また、インジェクション管(71)の流入側のラインには、インジェクション管(71)へ供給される冷媒の流量を調節するための弁(電動弁、膨張弁等)が接続されている。
冷媒導入路(72)は、固定スクロール(30)の固定鏡板部(31)の背面側の内部に形成されている。冷媒導入路(72)は、例えば上下に延びる円柱状の空間によって構成されている。冷媒導入路(72)の上端には、インジェクション管(71)の下端(流出端)が接続されている。冷媒導入路(72)には、第1ポート(73)と第2ポート(74)とが分岐するように接続されている。
図3及び図4に示すように、第1ポート(73)は、第1開口穴(73a)と第1拡張溝(73b)とを有している。第1開口穴(73a)は、円柱状に形成され、その軸方向の一端(流入端)が冷媒導入路(72)と接続している。第1開口穴(73a)の他端(流出端)は、固定スクロール(30)の固定鏡板部(31)に開口して、第1圧縮室(25A)に臨んでいる。より詳細に、第1開口穴(73a)は、固定ラップ(32)の内周壁(32b)寄りに形成されており、本実施形態では、第1開口穴(73a)の開口縁部と固定ラップ(32)の内周壁(32b)とが軸方向において概ね一致している。
第1拡張溝(73b)は、第1開口穴(73a)から連続するように固定ラップ(32)の外方端側(吸入側)へ延びている。第1拡張溝(73b)は、第1開口穴(73a)と連通しており、固定ラップ(32)の内周壁(32b)に沿うように延びる長穴形状に形成されている。
同様に、図3及び図4に示すように、第2ポート(74)は、第2開口穴(74a)と第2拡張溝(74b)とを有している。第2開口穴(74a)は、円柱状に形成され、その軸方向の一端(流入端)が冷媒導入路(72)と接続している。第2開口穴(74a)の他端(流出端)は、固定スクロール(30)の固定鏡板部(31)に開口して、第2圧縮室(25B)に臨んでいる。より詳細に、第2開口穴(74a)は、固定ラップ(32)の外周壁(32c)寄りに形成されており、本実施形態では、第2開口穴(74a)の開口縁部と外周壁(32c)とが軸方向において概ね一致している。
第1開口穴(73a)と第2開口穴(74a)とは、1つの冷媒導入路(72)に跨るように隣接している。つまり、第1開口穴(73a)と第2開口穴(74a)とは、径方向において旋回ラップ(42)を挟むように近接している。これにより、1本の冷媒導入路(72)から第1開口穴(73a)と第2開口穴(74a)とへそれぞれ冷媒を送ることができる。これら第1開口穴(73a)及び第2開口穴(74a)の位置は、吐出ポート(26)を中心として、図3における径線Lを基準線とした場合に、この基準線Lから反時計回りに約120°を成す径線上に位置している。また、上記第1拡張溝(73b)及び第2拡張溝(74b)の溝の終端は、基準線Lから反時計回りに約90°を成す径線上に位置している。
なお、上記のような各開口穴(73a,74a)や拡張溝(73b,74b)の終端の角度位置は、単なる一例であり、圧縮室(25A,25B)の吸入閉じきり位置等に応じて、これらの角度位置を任意に設定することができる。
以上のような構成の第1ポート(73)及び第2ポート(74)では、第1ポート(73)がA室(25A)の用のインジェクションポートを構成し、第2ポート(74)がB室(25B)の用のインジェクションポートを構成している。また、第1ポート(73)は、旋回スクロール(40)が所定の回転角度位置から少なくとも360°回転するまでの間、対応するA室(25A)に連続して連通可能に構成されている。同様に、第2ポート(74)は、旋回スクロール(40)が所定の回転角度位置から少なくとも360°回転するまでの間、対応する第2圧縮室(25B)に連続して連通可能に構成されている。
また本実施形態では、A室(25A)における冷媒の吸入行程が終了してA室(25A)が吸入閉じきり状態になると、この状態(タイミング)から第1ポート(73)とA室(25A)とが連通し始めるように構成されている。同様に、本実施形態では、B室(25B)における冷媒の吸入行程が終了してB室が吸入閉じきり状態になると、この状態(タイミング)から第2ポート(74)とB室(25B)とが連通し始めるように構成されている。このような、スクロール圧縮機(10)における冷媒の導入動作(インジェクション動作)の詳細は後述する。
−運転動作−
スクロール圧縮機(10)の運転動作について説明する。
スクロール圧縮機(10)において、電動機(50)へ通電すると、駆動軸(60)によって旋回スクロール(40)が駆動される。旋回スクロール(40)は、その自転運動がオルダムリング(22)によって規制されており、自転運動は行わずに公転運動だけを行う。旋回スクロール(40)が公転運動(偏心回転運動)を行うと、冷媒回路の低圧のガス冷媒が、吸入管(16)を通って圧縮機構(20)の内部へ吸入される。このような状態から、旋回スクロール(40)が更に回転すると、A室(25A)とB室(25B)とでは、それぞれ吸入行程、圧縮行程、吐出行程が順に行われる。また、同時にA室(25A)とB室(25B)とでは、インジェクション機構(70)によるインジェクション動作も行われる。以下には、これらの動作について、A室(25A)とB室(25B)とに分けて詳細に説明する。なお、A室(25A)及びB室(25B)で圧縮された冷媒は、吐出ポート(26)、吐出ガス通路(28)、ケーシング(15)の内部空間を経由して、吐出管(18)から冷媒回路へ吐出される。
〈A室の動作〉
まず、A室の動作について説明する。以下には、図5(A)の状態(旋回スクロール(40)の回転角度が0の状態)を基準として説明する。なお、図5(A)の状態は、旋回スクロール(40)の中心(偏心軸P)が、固定スクロール(30)の中心(吐出ポートの中心O]から、図5における上方側に偏心した状態である。駆動軸(60)が回転すると、旋回スクロール(40)は、図5(A)→図5(B)→図5(C)→図5(D)の順に、反時計回りに偏心回転する。
図5(A)の状態の旋回スクロール(40)が回転すると、吸入管(16)の冷媒が固定ラップ(32)や旋回ラップ(42)の間に流入していく(吸入行程)。そして、旋回スクロール(40)が図5(B)の状態になると、最外周側の固定ラップ(32)の内周壁(32b)と、最外周側の旋回ラップ(42)の外周壁(42c)との間の空間が閉じきり状態となる。これにより、この閉じきり状態の空間(図5(B)においてドットを付した空間)が、A室(25A)(最外周側のA室(25A-1)を構成する。本実施形態では、このようにしてA室(25A-1)が閉じきり状態になるのと同じタイミングで、第1拡張溝(73b)がA室(25A-1)と連通する。これにより、インジェクション管(71)の内部は、冷媒導入路(72)、第1開口穴(73a)、第1拡張溝(73b)を通じて、A室(25A-1)と連通する。つまり、本実施形態では、A室(25A-1)が閉じきり状態になると同時に、第1ポート(73)がA室(25A-1)と連通し始める。この状態のA室(25A-1)では、未だ冷媒の圧縮が始まるタイミングであり、冷媒の圧力は低いままである。従って、インジェクション管(71)側の冷媒の圧力と、A室(25A-1)の冷媒の圧力との間の圧力差を十分確保できる。従って、インジェクション管(71)内の冷媒は、第1開口穴(73a)、第1拡張溝(73b)を通じて速やかにA室(25A-1)へ導入され、いわゆるインジェクション動作が行われる。
図5(B)の状態の旋回スクロール(40)が図5(C)→図5(D)→図5(A)の順に更に回転すると、A室(25A-1)の体積が小さくなっていき、冷媒が圧縮されていく(圧縮行程)。同時に、第1ポート(73)は、引き続きA室(25A-1)と連通した状態を維持し、インジェクション動作が継続して行われる。
このようにして、旋回スクロール(40)の回転角度が450°(図5(B)の状態を越えると、再び最外周側で閉じきり状態のA室(25A-1)が形成される。同時に、これまで最外周側のA室(25A-1)であったA室が、その内側に形成されるもう1つのA室(内周側A室(25A-2))となる。従って、旋回スクロール(40)の回転角度が450°から約480°に至るまでの間は、第1ポート(73)が、周方向に隣接する2つのA室(25A-1,25A-2)に同時に連通する状態になる。従って、本実施形態では、旋回スクロール(40)の回転角度が450°の位置であっても、A室(25A-2(元の25A-1))へのインジェクション動作が継続して行われる。
その後、旋回スクロール(40)が更に回転すると、新たに形成された最外周側のA室(25A-1)と第1ポート(73)とが連通して、上述のようなインジェクション動作が再び開始されると同時に、内周側A室(25A-2)の容積が小さくなっていき、冷媒が更に圧縮されていく(圧縮行程)。旋回スクロール(40)が更に回転して内周側A室(25A-2)が吐出ポート(26)と連通すると、A室(25A)の高圧冷媒が吐出ポート(26)から流出する(吐出行程)。
〈B室の動作〉
次いで、B室の動作について説明する。以下には、図6(A)の状態(旋回スクロール(40)の回転角度が0の状態)を基準として説明する。なお、図6(A)の状態は、旋回スクロール(40)の中心(偏心軸P)が、固定スクロール(30)の中心(吐出ポートの中心O]から、図6における上方側に偏心した状態である。駆動軸(60)が回転すると、旋回スクロール(40)は、図6(A)→図6(B)→図6(C)→図6(D)の順に、反時計回りに偏心回転する。
図6(A)の状態の旋回スクロール(40)が回転すると、吸入管(16)の冷媒が固定ラップ(32)や旋回ラップ(42)の間に流入していく(吸入行程)。そして、旋回スクロール(40)が図6(D)の状態になると、最外周側の旋回ラップ(42)の内周壁(42b)と、最外周側から2番目の固定ラップ(32)の外周壁(32c)との間の空間が閉じきり状態となる。これにより、この閉じきり状態の空間(図6(D)においてドットを付した空間)が、B室(25B)(最外周側のB室(25B-1)を構成する。本実施形態では、このようにしてB室(25B-1)が閉じきり状態になるのと同じタイミングで、第2拡張溝(74b)がB室(25B-1)と連通する。これにより、インジェクション管(71)の内部は、冷媒導入路(72)、第2開口穴(74a)、第2拡張溝(74b)を通じて、B室(25B-1)と連通する。つまり、本実施形態では、B室(25B-1)が閉じきり状態になると同時に、第2ポート(74)がB室(25B-1)と連通し始める。この状態のB室(25B-1)では、未だ冷媒の圧縮が始まるタイミングであり、冷媒の圧力は低いままである。従って、インジェクション管(71)側の冷媒の圧力と、B室(25B-1)の冷媒の圧力との間の圧力差を十分確保できる。従って、インジェクション管(71)内の冷媒は、第2開口穴(74a)、第2拡張溝(74b)を通じて速やかにB室(25B-1)へ導入され、いわゆるインジェクション動作が行われる。
図6(D)の状態の旋回スクロール(40)が図6(A)→図6(B)→図6(C)の順に更に回転すると、B室(25B-1)の体積が小さくなっていき、冷媒が圧縮されていく(圧縮行程)。同時に、第2ポート(74)は、引き続きB室(25B-1)と連通した状態を維持し、インジェクション動作が継続して行われる。
このようにして、旋回スクロール(40)の回転角度が630°(図6(D))の状態を越えると、再び最外周側で閉じきり状態のB室(25B-1)が形成される。同時に、これまで最外周側のB室(25B-1)であったB室が、その内側に形成されるもう1つのB室(内周側B室(25B-2))となる。従って、旋回スクロール(40)の回転角度が630°から約660°に至る間は、第2ポート(74)が、周方向に隣接する2つのB室(25B-1,25B-2)と同時に連通する状態になる。従って、本実施形態では、旋回スクロール(40)の回転角度が630°の位置であっても、B室(25B-2(元の25B-1))へのインジェクション動作が継続して行われる。
その後、旋回スクロール(40)が更に回転すると、新たに形成された最外周側のB室(25B-1)と第2ポート(74)とが連通して、上述のようなインジェクション動作が再び開始されると同時に、内周側B室(25B-2)の容積が小さくなっていき、冷媒が更に圧縮されていく(圧縮行程)。旋回スクロール(40)が更に回転して内周側B室(25B-2)が吐出ポート(26)と連通すると、B室(25B)の高圧冷媒が吐出ポート(26)から流出する(吐出行程)。
−実施形態1の効果−
実施形態1に係る発明では、インジェクション機構(70)において、第1ポート(73)をA室(25A)に連続的に連通させ、第2ポート(74)をB室(25B)に連続的に連通させるようにしている。このため、例えば従来例のように、1つのポートをA室とB室とに交互に連通させる方式と比較して、同じ圧縮室(25A,25B)に連続的に冷媒を導入することができる。しかも、第1ポート(73)は、隣接する固定ラップ(32)の内周壁(32b)に接する第1開口穴(73a)と、前記固定ラップ(32)の内周壁(32b)と周方向に所定の角度域を以て接するとともに、この第1開口穴(73a)に連通する第1拡張溝(73b)によって構成されている。このため、第1ポート(73)とA室(25A)とを連続的に連通できる範囲を拡張できる。その結果、A室(25A)では、360°以上の角度範囲に亘って冷媒を連続的にインジェクションすることができる。同様に、第2ポート(74)は、隣接する固定ラップ(32)の外周壁(32c)に接する第2開口穴(74a)と、前記固定ラップ(32)の外周壁(32c)と周方向に所定の角度域を以て接するとともに、この第2開口穴(74a)に連通する第2拡張溝(74b)によって構成されている。このため、第2ポート(74)とB室(25B)とを連続的に連通できる範囲を拡張できる。その結果、B室(25B)においても、360°以上の角度範囲に亘って冷媒を連続的にインジェクションすることができる。
以上のように、実施形態1では、A室(25A)とB室(25B)との双方において、冷媒を安定的且つ連続的に導入することができる。従って、このスクロール圧縮機(10)が接続される冷凍装置において、所望とするインジェクション効果を得ることができる。
また、上記実施形態では、第1ポート(73)や第2ポート(74)の開口面積を広げるのではなく、固定鏡板部(31)に拡張溝(73b,74b)を形成するようにしている。このため、圧縮室(25)において、冷媒の圧縮に寄与しない死容積の低減を図ることができる。また、拡張溝(73b,74b)は、固定ラップ(32)の壁面に沿うように形成されるため、これらの溝(73b,74b)を比較的容易に加工することができる。
《発明の参考形態1》
参考形態1は、上記実施形態1とインジェクション機構(70)の構成が異なるものである。図7及び図8に示すように、参考形態1のインジェクション機構(70)では、上記実施形態1と同様、冷媒導入路(72)から分岐して第1ポート(73)と第2ポート(74)が設けられている。
第1ポート(73)に対応する第1円形穴(73a)は、固定ラップ(32)の内周壁(32b)に沿うように形成されている。具体的に、第1円形穴(73a)は、圧縮機構(20)の外周側寄りの一部が、固定ラップ(32)と軸方向に重複するように配置されている。つまり、図9に示すように、第1円形穴(73a)の流出端の一部は、固定ラップ(32)の基部に面している。第2ポート(74)に対応する第2円形穴(74a)は、固定ラップ(32)の外周壁(32c)に沿うように形成されている。具体的に、第2円形穴(74a)は、圧縮機構(20)の中心側寄りの一部が、固定ラップ(32)と軸方向に重複するように配置されている。つまり、第2円形穴(74a)の流出端の一部は、固定ラップ(32)の基部に面している。
参考形態1においても、第1円形穴(73a)がA室(25A)に対応し、第2円形穴(74a)がB室(25B)に対応している。
また、参考形態1の第1円形穴(73a)及び第2円形穴(74a)は、隣接する固定ラップ(32)と周方向に所定の角度域を以て接している。このため、実施形態2においても、周方向に隣り合う2つのA室(25A-1,25A-2)に第1円形穴(73a)を同時に連通させることができ、360°以上の回転角度に亘ってA室(25A)に冷媒を導入できる。同様に、周方向に隣り合う2つのB室(25B-1,25B-2)に第2円形穴(74a)を同時に連通させることができ、360°以上の回転角度に亘ってB室(25B)に冷媒を導入できる。
更に、参考形態1では、第1円形穴(73a)の一部を固定ラップ(32)と軸方向に重複させ、第2円形穴(74a)の一部を固定ラップ(32)と軸方向に重複させるように、固定スクロール(30)の固定ラップ(32)が形成されていない側(背面側)から加工されている。これにより、各円形穴(73a,74a)が固定ラップ(32)等と干渉することなく、これらの円形穴(73a,74a)の直径を大きくできる。また、第1ポート(73)における固定ラップ(32)の内周壁(32b)に沿う方向の開口角度域や、第2ポート(74)における固定ラップ(32)の外周壁(32c)に沿う方向の開口角度域を広くできる。従って、第1ポート(73)とA室(25A)との連通時間や、第2ポート(74)とB室(25B)との連通時間を更に長くできる。
《参考形態2》
上記参考形態2は、上記実施形態1とインジェクション機構(70)の構成が異なるものである。図9及び図10に示すように、参考形態2のインジェクション機構(70)では、上記参考形態1と同様、冷媒導入路(72)から分岐して第1ポート(73)と第2ポート(74)が設けられている。
また、参考形態2では、上記参考形態1と同様、第1円形穴(73a)における圧縮機構(20)の外周側寄りの一部が、固定ラップ(32)と軸方向に重複するように配置され、第2円形穴(73b)における圧縮機構(20)の内周側寄りの一部が固定ラップ(32)と軸方向に重複するように配置されている。これにより、第1円形穴(73a)及び第2円形穴(73b)は、固定ラップ(32)と周方向に所定の角度域を以て接するように形成されている。
一方、参考形態2では、上記参考形態1よりも第1円形穴(73a)及び第2円形穴(73b)の直径が大きくなっている。具体的に、参考形態2では、第1円形穴(73a)のうち、圧縮室(25)側に面する開口についての固定スクロール(30)の径方向の開口幅が、旋回ラップ(42)の厚さ(歯厚)よりも大きくなっている。同様に、参考形態2では、第2円形穴(73b)のうち圧縮室(25)側に面する開口についての固定スクロール(30)の径方向の開口幅が、旋回ラップ(42)の厚さ(歯厚)よりも大きくなっている。以上により、参考形態2では、A室(25A)に連続的に連通する第1ポート(第1円形穴(73a))が、一時的にB室(25B)にも連通する。同様に、B室(25B)に連続的に連通する第2ポート(第2円形穴(73b))が、一時的にA室(25A)にも連通する。
具体的に、例えば図9に示すように、旋回ラップ(42)の外周壁(42c)と固定ラップ(32)の内周壁(32b)との接触部(シール部)が、第1円形穴(73a)と軸方向に重なる位置になったとする。この回転角度位置では、第1円形穴(73a)が、旋回ラップ(42)を跨いで径方向内側寄りのB室(25B)に連通する。従って、この状態では、B室(25B)にも冷媒がインジェクションされる。
また、例えば図10に示すように、旋回ラップ(42)の内周壁(42b)と固定ラップ(32)の外周壁(32c)との接触部(シール部)が、第2円形穴(73b)と軸方向に重なる位置になったとする。この回転角度位置では、第2円形穴(73b)が、旋回ラップ(42)を跨いで径方向外側寄りのA室(25A)に連通する。従って、この状態では、A室(25A)にも冷媒がインジェクションされる。
以上のように、参考形態2では、第1ポート(73)が、A室(25A)と連続的に連通し、且つ一時的にB室(25B)にも連通する。また、第2ポート(74)が、B室(25B)と連続的に連通し、且つ一時的にA室(25A)にも連通する。従って、参考形態2では、インジェクション動作による冷媒のインジェクション量を更に増大させることができる。
《発明の参考形態3》
参考形態3は、上記実施形態1とインジェクション機構(70)の構成が異なるものである。具体的に、参考形態2では、冷媒導入路(72)と分岐する2つのポート(73,74)が、それぞれ長穴状の開口穴(73a,74b)を構成している。
具体的に、図11に示すように、第1開口穴(73a)は、固定ラップ(32)の内周壁(32b)に沿うように延びる長穴状、繭状、ないし楕円形状に形成されている。第2開口穴(74a)は、固定ラップ(32)の外周壁(32c)に沿うように延びる長穴状、繭状、ないし楕円形状に形成されている。参考形態3の開口穴(73a,74a)は、固定鏡板部(31)を軸方向に貫通している。
参考形態3においても、長穴状の開口穴(73a)がA室(25A)に対応し、長穴状の開口穴(74a)がB室(25B)に対応している。
また、参考形態3では、開口穴(73a,74a)は、隣接する固定ラップ(32)と周方向に特定の角度域を以て接している。このため、周方向に隣り合うA室(25A-1,25A-2)やB室(25B-1,25B-2)に開口穴(73a,74a)をそれぞれ同時に連通させることができる。従って、参考形態3においても、360°以上の回転角度に亘って、冷媒を圧縮室(25)へ連続的に供給できる。
《発明の参考形態4》
図12に示す参考形態4は、上記実施形態1とインジェクション機構(70)の構成が異なるものである。参考形態4の第1ポート(73)は、複数の開口穴(第1開口穴群(73d,73d))を有している。また、第2ポート(74)も、複数の開口穴(第2開口穴群(74d,74d))を有している。第1ポート(73)では、各開口穴(73d)が固定ラップ(32)の内周壁(32d)に沿うように配列されている。第2ポート(74)では、各開口穴(74d)が固定ラップ(32)の外周壁(32c)に沿うように配列されている。第1ポート(73)の第1開口穴群(73d,73d)と、第2ポート(74)の第2開口穴群(74d,74d)とは、全て1つの冷媒導入路(72)に連通している。
参考形態4において、第1開口穴群(73d,73d)は、全てA室(25A)に連通するように構成され、第2開口穴群(74d,74d)は、全てB室(25B)に連通するように構成されている。また、このように複数の開口穴(73d,73d,74d,74d)を固定ラップ(32)に沿うように配列することで、周方向に隣り合う2つのA室(25A-1,25A-2)に第1ポート(73)を同時に連通させることができ、同様に、周方向に隣り合う2つのB室(25B-1,25B-2)に第2ポート(74)を同時に連通させることができる。従って、参考形態4においても、360°以上の回転角度に亘って、冷媒を圧縮室(25)へ連続供給できる。なお、参考形態4では、開口穴群として、2つの開口穴を配列しているが、3つ以上の開口穴を固定ラップ(32)の壁部(32b,32c)に沿うように配列していも良い。
〈その他の実施形態〉
上記実施形態では、第1ポート(73)と第2ポート(74)との双方が、少なくとも360°以上の開度範囲に亘って圧縮室(25)に連通するように構成されているが、第1ポート(73)と第2ポート(74)のいずれか一方のみを、このような構成としても良い。
また、上述した実施形態では、各開口穴(73a,74a)や長溝(73b,74b)を固定ラップ(32)と接するように形成しているが、隣り合う圧縮室(25A-1,25A-2,25B-1,25B-2)に同時に連通できる構成であれば、開口穴(73a,73b)や長溝(73b,74b)を加工時の歯具等が干渉しない程度に、固定ラップ(32)から僅かに離すように形成しても良い。
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。