(第1実施形態)
以下、本発明にかかるハイブリッド車両の制御装置をハイブリッドシステムの出力制御を行うパワーマネジメントコントロールコンピュータとして具体化した第1実施形態について、図1〜6を参照して説明する。
図1に示すように本実施形態にかかるハイブリッドシステム10は、エンジン20と2つのモータジェネレータ120,150とを動力分割機構130並びにリダクションギア140を介して連結することによって構成されている。
第1のモータジェネレータ120及び第2のモータジェネレータ150は、いずれも内部に永久磁石が埋め込まれたロータと三相コイルが巻回されたステータとを備える周知の同期発電電動機である。
動力分割機構130は、外歯歯車のサンギア131と、このサンギア131を取り囲む内歯歯車を備えるリングギア132と、サンギア131及びリングギア132の双方に噛合する複数のプラネタリギア133とを備える遊星歯車機構である。それぞれのプラネタリギア133はプラネタリキャリア134によって連結され、自転自在且つ公転自在に支持されている。プラネタリキャリア134は図1の中央右側に示されるようにダンパ110を介してエンジン20のクランクシャフト50に連結されている。サンギア131は第1のモータジェネレータ120に連結されている。リングギア132にはカウンターギア160が噛合されており、リングギア132の動力はこのカウンターギア160とファイナルギア170を介してディファレンシャル180に伝達される。
また、図1の中央左側に示されるようにリングギア132には、リダクションギア140を介して第2のモータジェネレータ150が接続されている。リダクションギア140は動力分割機構130と同様にサンギア141と、複数のプラネタリギア143を備える遊星歯車機構である。しかし、リダクションギア140にあってはプラネタリキャリア144が固定されている。そのため、リダクションギア140のプラネタリギア143は自転自在であるものの公転不能になっている。なお、第2のモータジェネレータ150はサンギア141に連結されている。
このように構成されたハイブリッドシステム10にあっては、プラネタリキャリア134から入力されるエンジン20からの動力が動力分割機構130を通じてサンギア131側とリングギア132側に分配されることになる。なお、リングギア132の歯数に対するサンギア131の歯数の比であるプラネタリ比は「ρ」であり、動力はこのプラネタリ比に応じて分配される。
リングギア132は、動力分割機構130を通じて入力されるエンジン20の動力と、リダクションギア140を通じて入力される第2のモータジェネレータ150の動力とを統合してディファレンシャル180に伝達する。これにより、ハイブリッドシステム10から出力された動力は、ディファレンシャル180を介して左右の駆動輪191a,191b(右前輪191a及び左前輪191b)に分配される。
第1のモータジェネレータ120及び第2のモータジェネレータ150はインバータ210及びコンバータ220を介してバッテリ200に接続されている。インバータ210は第1のモータジェネレータ120と第2のモータジェネレータ150のそれぞれに対して6個の絶縁ゲートバイポーラトランジスタにより3相ブリッジ回路を構成している。これにより、インバータ210では、半導体スイッチング素子として絶縁ゲートバイポーラトランジスタのオン・オフを切り替えることにより、直流電流を三相交流電流に変換したり、三相交流電流を直流電流に変換したりすることができる。
コンバータ220はリアクトルと2つの絶縁ゲートバイポーラトランジスタとにより構成されており、一方の絶縁ゲートバイポーラトランジスタのオン・オフを切り替えることにより、バッテリ200から供給される電力を昇圧してインバータ210に供給する。また、他方の絶縁ゲートバイポーラトランジスタのオン・オフを切り替えることにより、インバータ210から供給される電力を降圧してバッテリ200に供給することもできる。
これにより、第1のモータジェネレータ120によって発電された交流電流は、インバータ210に伝達されるとともに同インバータ210によって直流電流に変換され、コンバータ220を通じて降圧された後にバッテリ200に充電される。
また、エンジン20の始動時には、バッテリ200から供給される直流電流がコンバータ220を通じて昇圧された後にインバータ210によって交流電流に変換されて第1のモータジェネレータ120に供給される。
第2のモータジェネレータ150も、第1のモータジェネレータ120と同じくインバータ210及びコンバータ220を介してバッテリ200に接続されている。そして、発進時や低速時、加速時にはバッテリ200から供給される直流電流がコンバータ220で昇圧された後にインバータ210によって交流電流に交換されて第2のモータジェネレータ150に供給される。
第1のモータジェネレータ120は、エンジン20の始動時にはエンジン20をクランキングするスタータモータとして機能する一方、エンジン20の運転中にはエンジン20の動力を利用して発電を行う発電機として機能する。
また、定常走行時や加速時には、第1のモータジェネレータ120によって発電された交流電流がインバータ210を介して第2のモータジェネレータ150に供給される。こうして供給された電流によって第2のモータジェネレータ150が駆動されると、その動力はリダクションギア140に伝達される。そして、リダクションギア140に伝達された動力がディファレンシャル180を介して駆動輪191a,191bに伝達される。
また、減速時には、駆動輪191a,191bから伝達される動力により第2のモータジェネレータ150が駆動される。このとき、第2のモータジェネレータ150が発電機として機能し、発電することで、駆動輪191a,191bから第2のモータジェネレータ150に伝達された動力が電力に変換される。こうして変換された電力は、インバータ210によって交流電流から直流電流に変換され、コンバータ220を通じて降圧された後にバッテリ200に充電される。
すなわち、減速時には、運動エネルギーを電気エネルギーに変換してバッテリ200に蓄えることにより、エネルギーを回収するようにしている。
図2に示すように、エンジン20は過給機21を備えている。エンジン20では、燃焼室26に吸気通路25と排気通路27とが接続されており、吸気通路25には、燃焼室26に供給される空気の量を調整するためのスロットルバルブ28が設けられている。また、吸気通路25には、過給機21のコンプレッサホイール22が設けられるとともに、排気通路27には、過給機21のタービンホイール23が設けられている。コンプレッサホイール22とタービンホイール23は同一の回転軸24で連結されている。また、排気通路27には過給機21のタービンホイール23を迂回するようにバイパス通路29が形成され、同通路29には排気の流量を調節するウェイストゲートバルブ30が設けられている。
エンジン20では、過給機21のコンプレッサホイール22によって圧縮された空気を吸入空気として、吸気通路25を通じて燃焼室26に吸入する。そして、この吸入空気は燃料と混合されて燃焼室26内で燃焼され、この焼燃後のガスが排気として排気通路27に送り出される。過給機21では、こうして排気通路27に送り出された排気によりタービンホイール23が回転することで、コンプレッサホイール22が回転し、吸気通路25の下流側へ空気が送り出されるようになる。また、ウェイストゲートバルブ30の開度を制御してバイパス通路29を通過する排気の量を調節することにより、タービンホイール23側に流れる排気の量が調節され、タービンホイール23の回転速度が変更される。すなわち、こうしたタービンホイール23の回転速度の調整を通じて、過給機21による過給圧が制御される。
図1に示すように、ハイブリッド車両は、上記の左右の駆動輪191a,191bの他に、右後輪191c及び左後輪191dを備えている。上記のように、エンジン20の動力と、第2のモータジェネレータ150の動力とは、ディファレンシャル180を介して左右の駆動輪191a,191bに分配される。しかし、右後輪191c及び左後輪191dはエンジン20及び第2のモータジェネレータ150と連結されていないため、右後輪191c及び左後輪191dにはこうした動力は分配されない。
これらの4つの車輪191a,191b,191c,191dには、それぞれブレーキ機構196a,196b,196c,196dが設けられている。本実施形態では、それらブレーキ機構196a,196b,196c,196dの作動を個別に制御することにより、車輪の回転を制動するための制動力を車輪毎に調節することが可能になっている。
こうしたハイブリッドシステム10の制御は、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500から出力される制御信号に基づいて実行される。パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は、ハイブリッドシステム10の各部を制御するための各種演算処理を実施する中央演算処理装置(CPU)、制御用のプログラムやデータが記憶された読み込み専用メモリ(ROM)、演算処理の結果などを一時的に記憶するランダムアクセスメモリ(RAM)などを備えて構成されている。
また、図1に示すように、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500には、バッテリ監視ユニット250、モータ制御ユニット300、エンジン制御ユニット400、トラクションコントロール装置(以下、「TRC装置」と称する)600が接続されている。
バッテリ監視ユニット250には、バッテリ200とコンバータ220との間の電力ラインに設けられた電流センサ230からの電流値信号、バッテリ温度センサ240からのバッテリ温度信号などが入力される。バッテリ監視ユニット250は、こうしたセンサから入力されたバッテリ200の状態に関するデータを必要に応じてパワーマネジメントコントロールコンピュータ500に送信する。なお、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は、バッテリ監視ユニット250から送信される電流センサ230の検出値の積算値に基づいてバッテリ200の蓄電量を演算する。
モータ制御ユニット300は、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500からの出力要求に従い、インバータ210とコンバータ220を制御し、第1のモータジェネレータ120及び第2のモータジェネレータ150を制御する。また、モータ制御ユニット300には第1のモータジェネレータ120の回転速度Nm1を検出する回転センサ320と第2のモータジェネレータ150の回転速度Nm2を検出する回転センサ350が接続されている。モータ制御ユニット300は、これら回転センサ320,350によって検出された回転速度Nm1,Nm2の情報など、車両制御に必要な情報をパワーマネジメントコントロールコンピュータ500に送信する。
エンジン制御ユニット400は、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500からの出力要求に従い、エンジン20における燃料噴射制御や、点火時期制御、吸入空気量制御、過給機21の過給圧制御などを行う。エンジン制御ユニット400には、吸入空気量を検出するエアフロメータ410や、クランクシャフト50の回転速度であるエンジン回転速度Neを検出するクランクポジションセンサ420が接続されている。また、スロットルバルブ28の開度を検出するスロットルポジションセンサ430や、過給機21による過給圧を検出する過給圧センサ440なども接続されている。エンジン制御ユニット400は、必要に応じてこれらのセンサによって検出された情報をパワーマネジメントコントロールコンピュータ500に送信する。
TRC装置600は、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500との間で情報を送受信可能に構成されている。TRC装置600は、駆動輪191a,191bについてのスリップの有無を判定し、駆動輪191a,191bがスリップしていると判定されると、スリップを抑制するトラクションコントロール制御を行う。
具体的には、TRC装置600には、各車輪191a,191b,191c,191dの回転速度を検出する速度センサ192,193,194,195や、が接続されている。TRC装置600は、速度センサ192,193,194,195からの入力信号に基づいて、各車輪191a,191b,191c,191dの回転速度を把握する。そして、例えば前輪191a,191bと後輪191c,191dとの速度差を求めるとともに同速度差が所定の閾値より大きくなったこともって駆動輪191a,191bがスリップしていることを検出する。
TRC装置600は、駆動輪191a,191bのスリップが検出されると、スリップが検出された旨の情報をパワーマネジメントコントロールコンピュータ500に送信する。そして、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は、この情報を受信すると、エンジン制御ユニット400に、エンジン20の出力を低下させる旨の要求を送信するとともに、TRC装置600に、スリップしている駆動輪191a,191bの回転を制動する制動力を大きくする旨の要求を送信する。これにより、エンジン制御ユニット400は、スロットルバルブ28の開度が小さくなるように制御し、エンジン20の出力を小さくして、駆動輪191a,191bのスリップを抑制する。また、TRC装置600は、スリップしている駆動輪191a,191bの回転を制動する制動力が大きくなるように同駆動輪191a,191bに対応するブレーキ機構196a,196bの作動状態を変更する。このようにして、駆動輪191a,191bがスリップした場合に、駆動輪191a,191bのスリップを抑制することができる。
TRC装置600によるこうした制御は、ハイブリッド車両の運転者によって機能する状態と機能しない状態とに切り替え可能に構成されている。この切り替えは、切り替え手段としてのトラクションコントロールスイッチ(以下、「TRCスイッチ」と称する)601をオン状態とオフ状態とに切り替えることにより行われる。TRCスイッチ601は、TRC装置600との間で情報を送受信可能に構成されており、TRCスイッチ601がオン状態に設定されると、この情報がTRC装置600に送信され、TRC装置600が機能する状態となり、駆動輪191a,191bがスリップしたときには、上記の態様でこのスリップが抑制される。TRCスイッチ601がオフ状態に設定されると、この情報がTRC装置600に送信され、TRC装置600が機能しない状態となり、TRC装置600は、駆動輪191a,191bがスリップしても、このスリップを抑制するための制御を実行しない。
パワーマネジメントコントロールコンピュータ500には、さらに、アクセルの操作量を検出するアクセルポジションセンサ510、シフトレバーの操作位置を検出するシフトポジションセンサ520、車速を検出する車速センサ530などが接続されている。
パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は、アクセルの操作量と車速とに基づいてリングギア132に出力すべき要求トルクを算出し、この要求トルクに対応する要求動力がリングギア132に出力されるように、エンジン20、第1のモータジェネレータ120、第2のモータジェネレータ150を制御する。
例えば、エンジン20が出力する動力の一部を利用して第1のモータジェネレータ120を駆動し、そこで発電された電力を利用して第2のモータジェネレータ150を駆動することによってエンジン20の動力に第2のモータジェネレータ150の動力を加えて駆動輪191a,191bを駆動する。こうしてエンジン20が出力する動力の一部を第1のモータジェネレータ120に分配するととともに、第2のモータジェネレータ150の動力によって駆動をアシストすることにより、エンジン回転速度Neを調整し、エンジン20を効率のよい運転領域で運転させつつ、要求動力が得られるようにする。
また、要求動力が大きい加速時などには、バッテリ200から第2のモータジェネレータ150に電力を供給し、第2のモータジェネレータ150によるアシスト量を増大させてより大きな動力を出力する。
さらに、バッテリ200の蓄電量が少ないときには、エンジン20の運転量を増大させ、第1のモータジェネレータ120における発電量を増大させることにより、バッテリ200に電力を供給する。エンジン20の運転量を増大させる場合には、過給機21による過給を実行することもある。一方で、バッテリ200の蓄電量が十分に確保されている場合には、エンジン20の運転を停止して要求動力に見合う動力を第2のモータジェネレータ150のみからリングギア132に出力するモータ運転も可能である。
なお、本実施形態では、バッテリ200の劣化抑制や性能維持の観点から、バッテリ200には目標とする蓄電量の範囲が設定されている。バッテリ200の蓄電量が、この目標とする範囲の上限値を超えるとバッテリ200が過充電状態となり、この目標とする範囲の下限値よりも低くなるとバッテリ200が過放電状態となる。したがって、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は、バッテリ200の蓄電量がこの目標とする蓄電量の範囲となるように、第1のモータジェネレータ120による発電、及び第2のモータジェネレータ150による駆動輪191a,191bの駆動のアシストを制御する。
上記のように、本実施形態のハイブリッド車両には、TRC装置600が搭載されている。ここで、このTRC装置600を非作動にするようにTRCスイッチ601がオフ状態に設定されている場合や、TRC装置600が故障している場合など、TRC装置600が機能しない場合には、TRC装置600が機能する状態のときよりも、駆動輪191a,191bのスリップが生じやすい状態となっている。駆動輪191a,191bのスリップが生じた場合、バッテリ200には以下のような問題が生じる。
図3及び図4は、エンジン20のクランクシャフト50、2つのモータジェネレータ120,150、及び駆動輪191a,191bの回転速度を示している。図3において、実線Aは定常走行中であって、エンジン20の過給機21が稼動していない状態を示し、破線Bは過給機21が稼働して駆動輪191a,191bがスリップしたときの状態を示している。また、図4において、破線Bは、図3の破線Bと同じ状態を示し、一点鎖線Cは、スリップしていた駆動輪191a,191bがグリップしたときの状態を示している。
図3の破線Bに示すように、エンジン20の過給機21が稼動して過給圧が上昇すると、エンジンのトルクが急激に増大して矢印aで示すようにクランクシャフト50の回転速度が急上昇する。このように、エンジンが出力するトルクが増大すると、駆動輪191a,191bがスリップすることがあり、この場合、矢印bで示すように、駆動輪191a,191bの回転速度が急激に上昇する。上記のように、リダクションギア140ではプラネタリキャリア144が固定されているため、駆動輪191a,191bの回転速度が急上昇すると、矢印cで示すように第2のモータジェネレータ150の回転速度が急激に上昇して、バッテリ200の放電量が大きくなる。
一方、図4に示すように、駆動輪191a,191bがスリップしている状態からタイヤがグリップすると、矢印dで示すように、駆動輪191a,191bの回転速度が急激に低下する。そのため、動力分割機構130を介して駆動輪191a,191bに分配されていたエンジン20の動力のほとんどが第1のモータジェネレータ120に分配されるようになり、矢印eで示すように第1のモータジェネレータ120の回転速度が急上昇して過回転し、バッテリ200の充電量が急激に増大する。なお、このとき第2のモータジェネレータ150の回転速度は矢印fで示すように低下することになるため、バッテリ200の放電量は急激に減少する。
上記のようにTRC装置600が機能しない状態では、駆動輪191a,191bのスリップが生じやすい状態となっている。そのため、この状態で過給圧が高められると、図3及び図4に示したように、駆動輪191a,191bがスリップしてバッテリ200からの放電量やバッテリ200への充電量が急激に増大するおそれがある。
そこで、本実施形態では、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500が、TRC装置600が機能しない状態のときには、TRC装置600が機能する状態のときよりもエンジン20の過給機21による過給を制限するようにしている。具体的には、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は、TRC装置600が機能しない状態のときには、エンジン制御ユニット400に過給機21による過給を制限する旨の情報を送信する。そして、エンジン制御ユニット400が、この情報に基づいてウェイストゲートバルブ30を全開にして過給機21による過給を禁止する。
また、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は、過給機21による過給の実行中であり且つTRCスイッチ601がオン状態であるときには、この情報をTRC装置600に送信することで、TRCスイッチ601がオフ状態に切り替えられることを禁止する。すなわち、過給機21による過給が実行されることによって駆動輪191a,191bがスリップしやすい状態となっているときに、TRC装置600が機能しない状態に切り替えられることを禁止して、駆動輪191a,191bがスリップすることを抑制する。これにより、スリップに起因してバッテリ200の充電量及び放電量が過大となることを抑制するようにしている。
本実施形態では、TRCスイッチ601がオフ状態に切り替えられることを禁止する方法として、運転者によりTRCスイッチ601をオン状態からオフ状態に切り替える動作が行われても、TRCスイッチ601は、TRC装置600から過給機21による過給が実行中である情報を受信していれば、TRC装置600に同スイッチ601がオン状態である旨の信号を送信するようにしている。なお、TRCスイッチ601の切り替えを禁止する他の方法として、TRCスイッチ601はTRC装置600への情報の送信のみが可能であって、TRCスイッチ601からTRC装置600にオフ状態である旨の信号が送信されても、TRC装置600が、この信号を無視してTRCスイッチ601がオン状態であるときと同じように動作するようにしてもよい。また、TRCスイッチ601の切り替えを機械的に禁止するような手段を設けることで、同スイッチ601の切り替えを禁止するようにしてもよい。
パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は、具体的には、図5のフローチャートに示す処理手順に従って、過給機21を制御する。図5に示す一連の処理は、所定周期毎の割り込み処理としてパワーマネジメントコントロールコンピュータ500により実行される。
図5に示すように、過給機21の制御がスタートすると、まず、ステップS11において、TRC装置600が機能しているか否かが判定される。ステップS11では、具体的には、TRCスイッチ601がオン状態であり、且つTRC装置600が故障していないか否かが判定される。なお、TRC装置600の故障は、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500が、TRC装置600との情報の送受信を通じて、速度センサ192,193,194,195や、ブレーキ機構196a,196b,196c,196dの状態を予め把握してTRC装置600の故障診断をしておくことで判断することができる。
ステップS11で、TRC装置600が機能している、すなわち、TRC装置600のTRCスイッチ601がオン状態であり、且つTRC装置600が故障していないと判定されると(ステップS11:YES)、ステップS12に移り、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は、過給機21による目標過給圧を導出する。目標過給圧は、例えば車両の加速要求やバッテリの蓄電量などから導出される。すなわち、車両の加速要求があり、バッテリ200の蓄電量が多いときには、第2のモータジェネレータ150によって車両を加速させるための駆動輪191a,191bの駆動をアシストする。一方で、車両の加速要求があり、バッテリ200の蓄電量がさほど多くないときには、過給機21による過給圧を高くしてエンジン20の出力を増大させる。また、加速要求が大きい場合には、バッテリ200の蓄電量が多いときでも、過給機21による過給が必要となる場合がある。したがって、目標過給圧は、例えば、加速要求が大きいほど高く、バッテリの蓄電量が少ないほど高い値に設定される。
ステップS12で、目標過給圧が導出されると、ステップS13で、過給機21による過給圧が目標過給圧となるように制御する。具体的には、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は、導出した目標過給圧をエンジン制御ユニット400に送信する。これにより、エンジン制御ユニット400が、図2に示すエンジン20においてウェイストゲートバルブ30の開度を調整することで、タービンホイール23を流れる排気の量を調整し、過給圧センサ440によって検出される過給圧が目標過給圧となるように制御する。
こうして過給機21による過給を実行した後に、エンドに移り、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は本処理を一旦終了する。
一方、ステップS11で、TRCスイッチ601がオフ状態である場合や、同スイッチ601がオン状態であってもTRC装置600が故障していると判定される場合には、TRC装置600が機能していないと判定され(ステップS11:NO)、ステップS14に移る。ステップS14では、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500が、過給機21による過給を禁止する旨の信号をエンジン制御ユニット400に送信し、エンジン制御ユニット400は、過給機21による過給を禁止する。具体的には、エンジン制御ユニット400が、バイパス通路29に設けられるウェイストゲートバルブ30を全開に制御する。
すなわち、図3及び図4を示して説明したように、TRC装置600が機能しない状態のときには、同装置600が機能する状態のときよりも、駆動輪191a,191bのスリップが生じやすく、これに起因してバッテリ200の充電量及び放電量が大きくなるといった事態が生じやすい。そこで、過給機21による過給を禁止することで、過給機21の過給によってエンジン20のトルクが増大することを抑制し、駆動輪191a,191bがスリップすることを抑制する。これにより、スリップに起因してバッテリ200の充電量及び放電量が過大となることを抑制することができる。
パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は、ステップS14で過給機21による過給を禁止した後に、エンドに移り、本処理を一旦終了する。
次に、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500によって実行されるTRCスイッチ601の切り替え禁止制御について説明する。パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は、図6のフローチャートに示す処理手順に従って、TRCスイッチ601の切り替え禁止制御を実行する。図6に示す一連の処理も、所定周期毎の割り込み処理としてパワーマネジメントコントロールコンピュータ500により実行される。
TRCスイッチ601の切り替え禁止制御がスタートすると、まず、ステップS21でTRCスイッチ601がオン状態であるか否かが判定される。この判定は、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500が、TRC装置600との情報の送受信を通じてTRCスイッチ601の状態を把握することにより行われる。ステップS21でTRCスイッチ601がオン状態でないと判定されると(ステップS21:NO)、ステップS22に移り、TRCスイッチ601の切り替えを許可する。すなわち、ステップS21でTRCスイッチ601がオン状態でない判定される場合には、TRCスイッチ601がオフ状態であるため、TRCスイッチ601がオン状態である場合よりも、駆動輪191a,191bのスリップが生じやすい状態となっている。したがって、このようなときは、TRCスイッチ601がオン状態に切り替えられることを許可することで、駆動輪191a,191bのスリップが抑制される状態に変更されることを許可する。
なお、このようにTRCスイッチ601の切り替えを許可した場合でも、運転者によってTRCスイッチ601の切り替えがなされず、TRCスイッチ601がオフ状態に設定されたままの場合もある。しかしながら、そのような場合であっても、図5に示した過給機21の制御によって、TRCスイッチ601がオフ状態に設定されていれば、過給機21による過給が禁止されるため、駆動輪191a,191bのスリップを抑制することができ、バッテリ200の充電量及び放電量が過大となることが抑制される。そして、ステップS22の処理の後に、エンドに移り、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は本処理を一旦終了する。
ステップS21において、TRCスイッチ601がオン状態であると判定されると(ステップS21:YES)、ステップS23に移り、エンジン20において過給機21による過給が実行中か否かが判定される。具体的には、エンジン20において、過給機21のタービンホイール23に排気が流れるようにウェイストゲートバルブ30の開度が全開よりも小さい開度に調整されているか否かが判定される。ウェイストゲートバルブ30が全開に設定されている場合には、ステップS23において、過給機21による過給が実行されていないと判定され(ステップS23:NO)、ステップS22に移り、TRCスイッチ601の切り替えが許可される。すなわち、過給機21による過給が実行されていない場合には、TRCスイッチ601がオフ状態に切り替えられたとしても、エンジン20から出力されるトルクがさほど大きくないため、駆動輪191a,191bのスリップが生じにくい。したがって、過給機21による過給が実行されていない場合には、TRCスイッチ601の切り替えを許可する。その後、エンドに移り、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は本処理を一旦終了する。
ステップS23において、過給機21による過給が実行中であると判定されると(ステップS23:YES)、ステップS24に移り、TRCスイッチ601の切り替えを禁止する。すなわち、過給機21による過給の実行中でエンジン20から出力されるトルクが大きいときには、駆動輪191a,191bのスリップが生じやすい状態であることが推定されるため、TRCスイッチ601がオフ状態に切り替えられることを禁止してTRC装置600が機能する状態とする。これにより、駆動輪191a,191bのスリップを抑制し、駆動輪191a,191bのスリップに起因してバッテリ200の充電量及び放電量が過大となることを抑制することができる。ステップS24で、TRCスイッチ601の切り替えが禁止された後、エンドに移り、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は本処理を一旦終了する。
以上のようにして、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は過給機21及びTRCスイッチ601の切り替えを制御することで、バッテリ200の充電量及び放電量が過大となることを抑制する。
以上、詳述した上記実施形態によれば、以下の作用が生じるようになる。
TRC装置600が機能しない状態のときには、図5を示して説明した過給機21の制御を通じて過給機21による過給が禁止されるようになる。また、TRCスイッチ601がオン状態であり且つ過給機21による過給が実行されているときには、図6を示して説明したTRCスイッチ601の切り替え禁止制御を通じてTRCスイッチ601のオフ状態への切り替えが禁止されるようになる。
したがって、上記実施形態によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本実施形態では、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500が、TRC装置600が機能しない状態のときには、TRC装置600が機能する状態のときよりも過給機21による過給を制限している。これにより、TRC装置600が機能しない状態であり、駆動輪191a,191bのスリップが発生しやすいときには、過給機21による過給を制限してトルクの増大を抑制するため、スリップの発生を抑制することができ、スリップに起因してバッテリ200の充電量及び放電量が過大となることを抑制することができる。
(2)本実施形態では、TRC装置600が機能しない状態のときには、過給機21による過給を禁止するようにしている。これにより、TRC装置600が機能しておらず、駆動輪191a,191bのスリップが生じやすい状態のときには、過給機21による過給を行わないようにすることで、駆動輪191a,191bのスリップをより適切に抑制して、スリップに起因してバッテリの充電量及び放電量が過大となることをより適切に抑制することができる。
(3)本実施形態では、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500が、過給機21による過給の実行中であって、TRCスイッチ601がオン状態であるときには、TRCスイッチ601がオフ状態に切り替えられることを禁止するようにしている。これにより、過給機21による過給の実行中であって、エンジン20から出力されるトルクが大きいため、スリップが生じやすい状態であることが推定されるときには、TRC装置600を機能させない状態への切り替えが禁止される。そのため、スリップが生じやすい状態のときに、TRC装置600が機能しなくなり、スリップが生じてしまうことを抑制することができる。したがって、スリップに起因してバッテリ200の充電量及び放電量が過大となることを抑制することができる。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について、図7及び図8を参照して説明する。本実施形態では、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500により実行される過給機21による過給制限及びTRCスイッチ601の切り替え禁止制御の態様が、上記第1実施形態とは異なっている。ハイブリッド車両の構成は、図1及び図2に示した第1実施形態と同じであるため、その説明は省略し、同じ構成については同じ符号を用いて説明する。また、特に説明しない構成及び作用については、第1実施形態と同じである。
本実施形態では、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500が、TRC装置600が機能しない状態のときには、TRC装置600が機能する状態のときよりもエンジン20の過給機21による過給を制限するようにしている。そして、本実施形態では、この過給機21による過給の制限態様が、バッテリ200の状態に応じて変更される。
すなわち、バッテリ200の状態によっては、バッテリ200の性能維持や劣化抑制などの点から、充電量及び放電量を小さく制限する必要があるときもあれば、充電量及び放電量が大きくなってもさほど問題とならないときもある。したがって、こうしたバッテリ200の状態に応じて過給機21による過給の制限態様を変更する。すなわち、バッテリ200の状態によって、充電量及び放電量を小さく制限する必要があるときには、そうでないときよりも、過給機21による過給を制限する。
具体的には、本実施形態では、バッテリ200の蓄電量が目標とする蓄電量の範囲の中央値から乖離しているときほど、過給機21による過給を制限するようにしている。これは、バッテリ200の蓄電量が、目標とする範囲の中央値から乖離して上限値に近づいたときには、バッテリ200の充電量が大きくなったときに過充電状態となりやすく、蓄電量が目標とする範囲の中央値から乖離して下限値に近づいたときには、バッテリ200の放電量が大きくなったときに過放電状態となりやすいためである。そのため、このように蓄電量が目標とする範囲の中央値から乖離して目標とする範囲の上限値または下限値に近づいているときほど、過給機21による過給を制限する。すなわち、駆動輪191a,191bがスリップしたときに過充電状態や過放電状態に陥りやすいときには過給を大幅に制限する一方、スリップが発生したとしても過充電状態や過放電状態に陥りにくいときには過給の制限の度合いを緩和する。
また、本実施形態では、バッテリ200に温度によっても、過給機21による過給の制限態様を変更する。これは、バッテリ200の温度が低いときには性能維持や劣化抑制のために適した蓄電量の範囲が狭くなるため、バッテリ200が過充電状態や過放電状態に陥りやすく、バッテリ200の温度が高いときには、バッテリ200の充電量及び放電量が大きくなる場合にバッテリ200の劣化がより進行しやすくなるためである。そこで、本実施形態では、バッテリ200の温度が、所定の温度範囲(例えば、−10℃〜50℃)外にあるとき、すなわち、バッテリ200の温度が低すぎる場合や高すぎる場合には、バッテリ200の温度が所定の温度範囲内にあるときよりも、過給機21による過給を制限する。これにより、駆動輪191a,191bのスリップが発生したときに過充電状態や過放電状態に陥りやすいとき、またスリップが発生したときにバッテリ200の劣化が進行しやすいときには過給が大幅に制限される。その一方で、スリップが発生したとしても過充電状態や過放電状態に陥りにくいとき、またスリップが発生したとしてもバッテリ200の劣化が進行しにくいときには過給の制限の度合いが緩和される。
なお、本実施形態のバッテリ200は、過充電や過放電、バッテリ200の劣化を抑制する上では、その温度が−10℃〜50℃の範囲にあることが好ましいため、上記の所定の温度範囲が−10℃〜50℃に設定されている。なお、この温度範囲は、−10℃〜50℃に限定されるものではない。すなわちこの温度範囲はバッテリ200の性質に応じて設定することができ、バッテリ200の温度がこの温度範囲外にあることに基づいてバッテリ200の温度が過充電や過放電、バッテリの劣化を抑制する上で適切な温度範囲を逸脱していることを推定できるように設定すればよい。
上記のように、本実施形態では、バッテリ200の蓄電量が目標とする蓄電量の範囲の中央値から乖離しているときほど、過給機21による過給を制限し、バッテリ200が所定の温度範囲外にあるときには、所定の温度範囲内にあるときよりも、過給機21による過給を制限する。具体的には、バッテリ200の過充電や過放電を抑制し、且つバッテリ200の劣化の進行を抑制できるように、バッテリ200の蓄電量及び温度に基づいて、バッテリ200の充電量の上限値である充電制限量Winと放電量の上限値である放電制限量Woutとを導出する。そして、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は、この充電制限量Win及び放電制限量Woutが小さいほど、過給機21による過給圧の上限値を小さく設定する。すなわち、バッテリ200の充電制限量Win及び放電制限量Woutが小さいほど、駆動輪191a,191bがスリップした場合に、バッテリ200が過充電や過放電の状態となったり、充電量及び放電量が大きいことによってバッテリ200が劣化したりするといった事態が生じやすい。したがって、こうしたバッテリ200の問題が生じやすい場合ほど、過給機21による過給圧の上限値を小さくして過給を制限することで、仮に駆動輪191a,191bがスリップした場合でも、バッテリ200が過充電や過放電の状態とならないようにするとともに、バッテリ200の劣化が進行しないようにする。
また、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は、過給機21による過給圧がこの上限値を超えており、且つTRC装置600が機能する状態にあるときには、この情報をTRC装置600に送信することで、TRCスイッチ601がオフ状態に切り替えられることを禁止するようにしている。これにより、過給機21の過給圧が上限値を超えておりスリップが生じた場合にバッテリ200が過充電や過放電の状態となったり、劣化が進行したりしやすい場合には、TRC装置600が機能しない状態に切り替えられることを禁止して、駆動輪191a,191bのスリップの発生を抑制している。
パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は、具体的には、図7のフローチャートに示す処理手順に従って、過給機21を制御する。図7に示す一連の処理は、所定周期毎の割り込み処理としてパワーマネジメントコントロールコンピュータ500により実行される。
図7に示すように、過給機21の制御がスタートすると、まず、ステップS31において、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は、過給機21の目標過給圧を導出する。過給機21の目標過給圧は、第1実施形態と同様に、ハイブリッド車両の加速要求の度合いやバッテリ200の蓄電量に応じて導出される。
ステップS31において、過給機21の目標過給圧が導出されると、ステップS32において、TRC装置600が機能しているか否かが判定される。具体的には、TRCスイッチ601がオン状態であり、且つTRC装置600が故障していないか否かが判定される。ステップS31で、TRC装置600が機能している、すなわち、TRCスイッチ601がオン状態であり、且つTRC装置600が故障していないと判定されると(ステップS32:YES)、ステップS33に移り、過給機21による過給圧を目標過給圧とする制御が行われる。すなわち、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は、ステップS31で導出した目標過給圧をエンジン制御ユニット400に送信する。そして、エンジン制御ユニット400が、図2に示すエンジン20においてウェイストゲートバルブ30の開度を調整してタービンホイール23を流れる排気の量を調整することで、過給圧センサ440によって検出される過給圧が目標過給圧となるように制御する。このように、TRC装置600が機能している場合には、駆動輪191a,191bのスリップが抑制されるため、過給機21による過給圧が目標過給圧となるように制御する。その後、エンドに移り、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は本処理を一旦終了する。
一方、ステップS32で、TRC装置600が機能していないと判定されると(ステップS32:NO)、ステップS34に移り、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は、以下のようにして、バッテリ200の状態に基づいて充電制限量Winと放電制限量Woutを導出する。
まず、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500には、バッテリ監視ユニット250からバッテリ200の温度及び蓄電量の情報が送信される。そして、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は、バッテリ200の温度を所定の温度範囲と比較する。
バッテリ200の温度が所定の温度範囲外にあり所定の温度範囲の下限値よりも低い場合には、この低い温度に対応してバッテリ200の蓄電能力が低下しているため、目標とする蓄電量の範囲が狭くなっている。したがって、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は、バッテリ200の蓄電量と、この低い温度に対応して狭く設定されている目標とする蓄電量の範囲の上限値との乖離の大きさに相当する充電量を充電制限量Winとして導出する。また、バッテリ200の蓄電量と目標とする蓄電量の範囲の下限値との乖離の大きさに相当する放電量を放電制限量Woutとして導出する。
パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は、バッテリ200の温度が所定の温度範囲内に入っている場合には、バッテリ200の蓄電量と目標とする蓄電量の範囲の上限値との乖離の大きさに相当する充電量を充電制限量Winとして導出する。また、バッテリ200の蓄電量と目標とする蓄電量の範囲の下限値との乖離の大きさに相当する放電量を放電制限量Woutとして導出する。なお、バッテリの温度が所定の温度範囲内に入っている場合には、目標とする蓄電量の範囲は、バッテリの温度が所定の温度範囲よりも低い場合と比べて広くなっている。
バッテリ200の温度が所定の温度範囲外にあり所定の温度範囲の上限値よりも高い場合には、まず、バッテリ200の蓄電量と目標とする蓄電量の範囲の上限値との乖離の大きさに相当する充電量を第1の充電制限量として導出する。また、バッテリ200の蓄電量と目標とする蓄電量の範囲の下限値との乖離の大きさに相当する放電量を第1の放電制限量として導出する。そして、バッテリ200の温度に基づいてバッテリ200の劣化を抑制するための第2の充電制限量及び第2の放電制限量を導出する。なお、バッテリ200の温度が高いほど、充電量及び放電量が大きい場合に、バッテリ200の劣化が進行しやすくなるため、第2の充電制限量及び第2の放電制限量はバッテリ200の温度が高いほど小さな値に設定される。そして、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は、第1の充電制限量と第2の充電制限量とのうちの小さいほうを充電制限量Winとし、第1の放電制限量と第1の放電制限量のうちの小さいほうを放電制限量Woutとする。
以上のようにして、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は、バッテリ200の状態に応じて、バッテリ200の充電制限量Winと放電制限量Woutを導出する。
次に、ステップS35に移り、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は、ステップS34で導出された充電制限量Win及び放電制限量Woutに基づいて過給機21の過給圧の上限値を導出する。この上限値は、仮に過給機21による過給圧が上限値となるように実行されることによって駆動輪191a,191bがスリップした場合であっても、バッテリ200の充電量及び放電量が、導出した充電制限量Win及び放電制限量Wout以下となるように設定される。したがって、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は、ステップS34で導出された充電制限量Win及び放電制限量Woutが小さいほど、過給機21による過給圧の上限値を小さい値に導出する。なお、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は、こうして導出された過給圧の上限値を記憶し、図7のフローチャートに示す処理が実行される毎に、記憶している上限値を最新の上限値に更新する。
次に、ステップS36において、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は、先にステップS31において導出した過給機21の目標過給圧が、ステップS35で導出した上限値以下か否かを判定する。ステップS36において、目標過給圧が上限値以下であると判定されると(ステップS36:YES)、ステップS37に移り、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は、エンジン制御ユニット400の制御を通じて、過給機21による過給圧が目標過給圧となるように制御する。この場合には、目標過給圧が上限値以下であるため、過給機21による過給を実行することで仮に駆動輪191a,191bのスリップが発生したとしても、バッテリ200の充電量及び放電量を充電制限量Win及び放電制限量Wout以下に抑えることができる。したがって、バッテリ200が過充電や過放電の状態となったり、劣化が進行したりすることが抑制される。このように、目標過給圧が上限値以下である場合には、必要以上に過給を制限することなく、過給圧を加速要求などに適した目標過給圧に設定する。その後、エンドに移り、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は本処理を一旦終了する。
一方、ステップS36において、目標過給圧が上限値を超えていると判定されると(ステップS36:NO)、ステップS37に移り、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は、エンジン制御ユニット400の制御を通じて、過給機21による過給圧を上限値とするように制御する。すなわち、過給機21による過給圧が上限値を超えていると、仮に駆動輪191a,191bのスリップが発生した場合に、バッテリ200が過充電や過放電の状態となったり、充電量及び放電量が大きいことにより劣化が進行したりする。したがって、過給機21による過給圧を上限値となるように制御することで、駆動輪191a,191bのスリップが発生した場合でもバッテリ200の充電量及び放電量を充電制限量Win及び放電制限量Wout以下に抑え、バッテリ200が過充電や過放電の状態となったり、バッテリ200が劣化したりすることを抑制する。また、過給機21による過給圧が上限値を超えていても、単に過給を禁止するのではなく、過給圧が上限値となるように過給が実行されるため、過給を必要以上に制限することが抑制される。そして、エンドに移り、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は本処理を一旦終了する。
次に、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500によって実行されるTRCスイッチ601の切り替え禁止制御について説明する。パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は、具体的には、図8のフローチャートに示す処理手順に従って、TRCスイッチ601の切り替え禁止制御を実行する。図8に示す一連の処理も、所定周期毎の割り込み処理としてパワーマネジメントコントロールコンピュータ500により実行される。
まず、ステップS41でTRCスイッチ601がオン状態であるか否かが判定される。ステップS41でTRCスイッチ601がオン状態でないと判定されると(ステップS41:NO)、ステップS42に移り、TRCスイッチ601の切り替えを許可する。ステップS41でTRCスイッチ601がオン状態でないと判定される場合には、TRCスイッチ601がオフ状態であるため、TRCスイッチ601がオン状態である場合よりも、駆動輪191a,191bのスリップが生じやすい状態となっている。したがって、このようなときは、TRCスイッチ601がオン状態に切り替えられることを許可することで、駆動輪191a,191bのスリップが生じにくい状態に変更されることを許可する。なお、このようにTRCスイッチ601の切り替えを許可した場合でも、運転者によってTRCスイッチ601の切り替えがなされず、TRCスイッチ601がオフ状態に設定されたままの場合もある。しかしながら、そのような場合であっても、図7のフローチャートに示した過給機21の制御によって、TRCスイッチ601がオフ状態であれば、過給機21による過給圧がバッテリ200の状態に基づいて導出された上限値以下となるように制御される。したがって、駆動輪191a,191bのスリップが生じやすいときには、過給機21による過給圧がバッテリ200の状態に応じて制限されて、充電量及び放電量が過大となることが抑制される。そして、ステップS42の処理の後に、エンドに移り、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は本処理を一旦終了する。
ステップS41において、TRCスイッチ601がオン状態であると判定されると(ステップS41:YES)、ステップS43に移り、エンジン20の過給機21による過給が実行中か否かが判定される。具体的には、エンジン20において、過給機21のタービンホイール23に排気が流れるようにウェイストゲートバルブ30の開度が全開よりも小さい開度に調整されているか否かが判定される。ウェイストゲートバルブ30が全開に設定されている場合には、ステップS43において、過給機21による過給が実行されていない(ステップS43:NO)と判定され、ステップS42に移り、TRCスイッチ601の切り替えが許可される。すなわち、過給機21による過給が実行されていない場合には、過給機21による過給の実行中に比べてエンジン20から出力されるトルクがさほど大きくないため、TRCスイッチ601がオフ状態に切り替えられたとしても、駆動輪191a,191bのスリップが生じにくい。したがって、過給機21による過給が実行されていない場合には、TRCスイッチ601の切り替えを許可する。その後、エンドに移り、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は本処理を一旦終了する。
ステップS43において、過給機21による過給が実行中であると判定されると(ステップS43:YES)、ステップS44において、過給圧センサ440によって検出される過給圧が、図7のステップS35で導出されて記憶されている上限値以上か否かが判定される。ステップS44において、過給圧が上限値以下であると判定されると(ステップS44:NO)、ステップS43に移り、TRCスイッチ601の切り替えを許可する。すなわち、過給機21による過給圧が上限値以下であれば、駆動輪191a,191bのスリップが発生しても、バッテリ200の充電量及び放電量を充電制限量Win及び放電制限量Wout以下に抑えることができ、バッテリ200が過充電や過放電の状態となったり、劣化が進行したりするといった事態が生じることが抑制される。したがって、この場合は、TRCスイッチ601がオフ状態に切り替えられることを許可する。その後、エンドに移り、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は本処理を一旦終了する。
ステップS44において、過給圧が上限値を超えていると判定されると(ステップS44:YES)、ステップS45に移り、TRCスイッチ601の切り替えを禁止する。すなわち、過給機21による過給圧が上限値を超えていれば、駆動輪191a,191bのスリップが発生した場合に、バッテリ200の充電量及び放電量が充電制限量Win及び放電制限量Woutを超えてバッテリ200が過充電や過放電の状態となったり、劣化が進行したりするといった事態が生じやすい。したがって、このような場合は、TRCスイッチ601がオフ状態に切り替えられることを禁止して、TRC装置600が機能する状態としておくことで、駆動輪191a,191bのスリップを抑制する。その後、エンドに移り、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は本処理を一旦終了する。
以上、詳述した上記第2実施形態によれば、以下の作用が生じるようになる。
TRC装置600が機能しない状態のときには、図7を示して説明した過給機21の制御を通じて過給機21による過給が制限されるようになる。
また、図7を示して説明した過給機21の制御では、バッテリ200の蓄電量と目標とする蓄電量の範囲の上限値との乖離の大きさにあわせて充電制限量Winを導出するとともに、バッテリ200の蓄電量と目標とする蓄電量の範囲の下限値との乖離の大きさにあわせて放電制限量Woutを導出している。そして、この充電制限量Win及び放電制限量Woutが小さいほど、過給機21による過給圧の上限値を小さく設定するようにしている。そのため、バッテリ200の蓄電量が目標とする蓄電量の範囲の中央値から乖離しており、目標とする範囲の上限値に近づいているときほど充電制限量Winが小さくなり、目標とする範囲の下限値に近づいているときほど放電制限量Woutが小さくなる。したがって蓄電量が目標とする蓄電量の範囲の中央値から乖離しているときほど過給圧が制限される。
さらに、バッテリ200の温度が所定の温度範囲外にあり所定の温度範囲の下限値よりも低いときには、バッテリ200の温度が所定の温度範囲内にあるときよりも目標とする蓄電量の範囲が狭められるため、充電制限量Win及び放電制限量Woutがバッテリ200の温度が所定の温度範囲内にあるときよりも小さくなる。また、バッテリ200の温度が所定の温度範囲外にあり所定の温度範囲の上限値よりも高いときには、上述したようにバッテリ200の温度が高いときほど小さな値に設定される第2の充電制限量及び第2の放電制限量に基づいて充電制限量Win及び放電制限量Woutが設定される。そのため、充電制限量Win及び放電制限量Woutがバッテリ200の温度が所定の温度範囲内にあるときよりも小さくなる。したがって、バッテリ200の温度が所定の温度範囲外にあるときには、バッテリ200の温度が所定の温度範囲内にあるときよりも過給が制限される。
さらに、上記第2実施形態によれば、TRCスイッチ601がオン状態であり且つ過給機21による過給が実行されており、過給圧が上限値以上であるときには、図8を示して説明したTRCスイッチ601の切り替え禁止制御を通じてTRCスイッチ601のオフ状態への切り替えが禁止されるようになる。
したがって、上記第2実施形態によれば、第1実施形態の(1)及び(3)に記載した効果と同等の効果と、以下の効果を奏することができる。
(4)第2実施形態では、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500が、バッテリ200の状態に応じて、過給機21による過給の制限態様を変更するようにしている。具体的には、バッテリが性能維持や劣化抑制などの点から、充電量及び放電量を小さくする必要があるほど、過給機21の過給圧の上限値を小さい値に設定し、TRC装置600が機能せず駆動輪191a,191bがスリップしやすい状態にあるときには、過給機21の過給圧がこの上限値以下となるように制御するようにしている。これにより、TRC装置600が機能しないことによって、駆動輪191a,191bがスリップした場合であっても、バッテリ200が過充電過放電状態となったり、劣化が進行したりすることを極力抑制しつつ、バッテリ200にこうした問題が生じにくいときには、過給圧を必要以上に制限することを抑制することができる。
(5)パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は、バッテリ200の蓄電量を目標とする範囲に維持するように第1のモータジェネレータ120及び第2のモータジェネレータ150を制御している。そして、第2実施形態では、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は、TRC装置600が機能しない状態のときには、バッテリ200の蓄電量が目標とする範囲の中央値から乖離しているときほど、過給機による過給圧の上限値を小さい値に設定し、過給機21による過給圧がこの上限値以下となるように制御する。これにより、TRC装置600が機能しないことによって、駆動輪191a,191bがスリップした場合であっても、過給機21による過給圧を上限値以下に制御することでバッテリ200の充電量及び放電量が過大となることが抑制され、バッテリ200が過充電過放電状態となることが抑制される。また、バッテリ200が比較的過充電や過放電の状態となりにくい状態のときには、過給圧の上限値が比較的大きい値に設定されるため、過給機21による過給を必要以上に制限することを抑制することができる。
(6)第2実施形態では、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500がバッテリ200の温度が所定の温度範囲外にあるときには、バッテリ200の温度が所定の温度範囲内にあるときよりも、過給機21による過給を制限するようにしている。これは、
バッテリ200の温度が低いときには、過充電状態や過放電状態に陥りやすく、バッテリ200の温度が高いときには、充電量及び放電量が大きい場合に、バッテリ200の劣化がより進行しやすくなるためである。したがって、バッテリ200の温度が低すぎる場合や高すぎる場合には、過給機21による過給圧の上限値を小さく設定することで、仮に駆動輪191a,191bのスリップが発生した場合でも、このスリップに起因してバッテリ200の充電量及び放電量が過大となることを抑制することができる。また、その一方で、スリップが発生したとしても過充電状態や過放電状態に陥りにくいときやバッテリ200の劣化が進行しにくいときには過給の制限の度合いが緩和されて、必要以上に過給が制限されてしまうことを抑制することができる。
(その他の実施形態)
なお、本発明にかかるハイブリッド車両の制御装置は、上記第1実施形態及び第2実施形態にて例示した構成に限定されるものではなく、これを適宜変更した例えば次のような形態として実施することもできる。
・上記第2実施形態では、TRC装置600が機能しておらず、目標過給圧が上限値を超えている場合には、過給機21による過給圧を上限値に制御するようにしている。しかしながら、TRC装置が機能していない状態において目標過給圧が上限値を超えている場合には、過給機による過給を禁止するようにしてもよい。
・上記第2実施形態では、バッテリ200の状態に基づいて過給機21の過給圧の上限値を導出するにあたって、バッテリ200の蓄電量と目標とする蓄電量との関係と、バッテリ200の温度との2つの観点から、バッテリ200の充電制限量Win及び放電制限量Woutを導出するようにしている。しかしながら、バッテリの蓄電量と目標とする蓄電量との関係のみから、過給機の過給圧の上限値を導出してもよいし、バッテリの温度のみから、過給機の過給圧の上限値を導出してもよい。また、バッテリの温度や蓄電量などの状態に応じて過給の制限態様を変更する方法としては、上記のように、過給圧の上限値を設定する方法に限定されない。さらに、バッテリの温度や蓄電量以外の状態(例えば、劣化度合いなど)によって、過給機による過給の制限態様を変更するようにしてもよい。
・路面状態によっては、スリップが生じにくく、バッテリの充電量及び放電量が大きくなるという問題が生じにくい場合もある。したがって、路面状態によって駆動輪のスリップが生じやすいと判定されるときのみ、TRC装置が機能しない状態のときに、TRC装置が機能する状態のときよりも、過給を制限するようにしてもよい。この場合、図5及び図7のフローチャートに示した過給機の制御において、まず、ステップS11及びS31に先だって路面状態が駆動輪のスリップがしやすい状態となっているか否かを判定する。そして、否定判定がなされた場合には、過給機による過給圧を目標過給圧に制御し、肯定判定がなされた場合にのみ、ステップS11又はS31に移るといった態様を採用することができる。なお路面状態は、外気温度や車両のワイパースイッチの状態などから推定することができる。
また、こうした路面状態などによって過給圧の上限値を設け、TRC装置が機能していないときには、過給機による過給圧をこの上限値以下とするように制御してもよい。なお、この上限値は、駆動輪のスリップを抑制するための上限値であり、第2実施形態における、駆動輪がスリップした場合にバッテリの充電量及び放電量がその制限値以下となるようにするための上限値とは異なる。
・上記各実施形態では、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500が過給機21の過給を制限する制御とTRCスイッチ601の切り替えを禁止する制御との両方を行うようにしている。しかしながら、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500は、これらのうちの何れかの制御のみを行ってもよい。
・上記各実施形態では、過給機21による過給圧制御をウェイストゲートバルブ30の開度を制御することにより行うようにしている。しかしながら、例えば、過給機がタービンハウジング内に開度調整可能なノズルベーンを有している場合には、このノズルベーンの開度を調整することで過給圧を制御するようにしてもよく、過給圧を制御する方法は限定されない。
・上記各実施形態では、パワーマネジメントコントロールコンピュータ500が、TRC装置600が機能していないときには、過給機21による過給を制限するようにしている。しかしながら、TRC装置が機能していないときには、過給機による過給を制限することに加え、エンジンの回転数も制限するようにしてもよい。具体的には、TRC装置が機能していないとき、又はスリップが検出されたときには、エンジンの回転数の上限値を設けることで、より好適に第1モータジェネレータが過回転して充電量が多くなることを抑制することができる。