以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両10は、エンジン12と第1回転機MG1と第2回転機MG2と動力伝達装置14と駆動輪16とを備えるハイブリッド車両である。
図2は、エンジン12の概略構成を説明する図である。図2において、エンジン12は、車両10の走行用駆動力源であり、過給機18を有するガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関、すなわち過給機18付きエンジンである。エンジン12の吸気系には吸気管20が設けられており、吸気管20はエンジン本体12aに取り付けられた吸気マニホールド22に接続されている。エンジン12の排気系には排気管24が設けられており、排気管24はエンジン本体12aに取り付けられた排気マニホールド26に接続されている。過給機18は、吸気管20に設けられたコンプレッサー18cと排気管24に設けられたタービン18tとを有する、公知の排気タービン式の過給機すなわちターボチャージャーである。タービン18tは、排出ガスすなわち排気の流れにより回転駆動させられる。コンプレッサー18cは、タービン18tに連結されており、タービン18tによって回転駆動させられることでエンジン12への吸入空気すなわち吸気を圧縮する。
排気管24には、タービン18tの上流側から下流側へタービン18tを迂回させて排気を流す為の排気バイパス28が並列に設けられている。排気バイパス28には、タービン18tを通過する排気と排気バイパス28を通過する排気との割合を連続的に制御する為のウェイストゲートバルブ(=WGV)30が設けられている。ウェイストゲートバルブ30は、後述する電子制御装置100によって不図示のアクチュエータが作動させられることにより弁開度が連続的に調節される。ウェイストゲートバルブ30の弁開度が大きい程、エンジン12の排気は排気バイパス28を通って排出され易くなる。従って、過給機18の過給作用が効くエンジン12の過給状態において、過給機18による過給圧Pchgはウェイストゲートバルブ30の弁開度が大きい程低くなる。過給機18による過給圧Pchgは、吸気の圧力であり、吸気管20内でのコンプレッサー18cの下流側気圧である。尚、過給圧Pchgの低い側は、例えば過給機18の過給作用が全く効いていないエンジン12の非過給状態における吸気の圧力となる側、見方を換えれば過給機18を有していないエンジンにおける吸気の圧力となる側である。
吸気管20の入口にはエアクリーナ32が設けられ、エアクリーナ32よりも下流であってコンプレッサー18cよりも上流の吸気管20には、エンジン12の吸入空気量Qairを測定するエアフローメータ34が設けられている。コンプレッサー18cよりも下流の吸気管20には、吸気と外気又は冷却水とで熱交換を行うことで過給機18により圧縮された吸気を冷却する熱交換器であるインタークーラ36が設けられている。インタークーラ36よりも下流であって吸気マニホールド22よりも上流の吸気管20には、後述する電子制御装置100によって不図示のスロットルアクチュエータが作動させられることにより開閉制御される電子スロットル弁38が設けられている。インタークーラ36と電子スロットル弁38との間の吸気管20には、過給機18による過給圧Pchgを検出する過給圧センサ40、吸気の温度である吸気温度THairを検出する吸気温センサ42が設けられている。電子スロットル弁38の近傍例えばスロットルアクチュエータには、電子スロットル弁38の開度であるスロットル弁開度θthを検出するスロットル弁開度センサ44が設けられている。
吸気管20には、コンプレッサー18cの下流側から上流側へコンプレッサー18cを迂回させて空気を再循環させる為の空気再循環バイパス46が並列に設けられている。空気再循環バイパス46には、例えば電子スロットル弁38の急閉時に開弁させられることによりサージの発生を抑制してコンプレッサー18cを保護する為のエアバイパスバルブ(=ABV)48が設けられている。
エンジン12は、後述する電子制御装置100によって、電子スロットル弁38や燃料噴射装置や点火装置やウェイストゲートバルブ30等を含むエンジン制御装置50(図1参照)が制御されることによりエンジン12の出力トルクであるエンジントルクTeが制御される。
図1に戻り、第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、電動機(モータ)としての機能及び発電機(ジェネレータ)としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、車両10の走行用駆動力源となり得る。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、各々、車両10に備えられたインバータ52を介して、車両10に備えられたバッテリ54に接続されている。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、各々、後述する電子制御装置100によってインバータ52が制御されることにより、第1回転機MG1の出力トルクであるMG1トルクTg及び第2回転機MG2の出力トルクであるMG2トルクTmが制御される。回転機の出力トルクは、例えば正回転の場合、加速側となる正トルクでは力行トルクであり、減速側となる負トルクでは回生トルクである。バッテリ54は、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の各々に対して電力を授受する蓄電装置である。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、車体に取り付けられる非回転部材であるケース56内に設けられている。
動力伝達装置14は、ケース56内に、変速部58、差動部60、ドリブンギヤ62、ドリブン軸64、ファイナルギヤ66、ディファレンシャルギヤ68、リダクションギヤ70等を備えている。変速部58と差動部60とは、変速部58の入力回転部材である入力軸72と同軸心に配置されている。変速部58は、入力軸72などを介してエンジン12に連結されている。差動部60は、変速部58と直列に連結されている。ドリブンギヤ62は、差動部60の出力回転部材であるドライブギヤ74と噛み合っている。ドリブン軸64は、ドリブンギヤ62とファイナルギヤ66とを各々相対回転不能に固設する。ファイナルギヤ66は、ドリブンギヤ62よりも小径である。ディファレンシャルギヤ68は、デフリングギヤ68aを介してファイナルギヤ66と噛み合っている。リダクションギヤ70は、ドリブンギヤ62よりも小径であって、ドリブンギヤ62と噛み合っている。リダクションギヤ70には、入力軸72とは別にその入力軸72と平行に配置された、第2回転機MG2のロータ軸76が連結されており、第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。又、動力伝達装置14は、ディファレンシャルギヤ68に連結された車軸78等を備えている。
このように構成された動力伝達装置14は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)方式或いはRR(リヤエンジン・リヤドライブ)方式の車両に好適に用いられる。又、動力伝達装置14では、エンジン12、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2から各々出力される動力は、ドリブンギヤ62へ伝達され、そのドリブンギヤ62から、ファイナルギヤ66、ディファレンシャルギヤ68、車軸78等を順次介して駆動輪16へ伝達される。このように、第2回転機MG2は、駆動輪16に動力伝達可能に連結されている。又、動力伝達装置14では、エンジン12、変速部58、差動部60、及び第1回転機MG1と、第2回転機MG2とが異なる軸心上に配置されることで、軸長が短縮化されている。又、第2回転機MG2の減速比を大きくとることができる。尚、上記動力は、特に区別しない場合にはトルクや力も同意である。また、駆動輪16には、ホイールブレーキ79が設けられ、ホイールブレーキ79の図示しないアクチュエータに付与されるホイールブレーキ油圧Pbrが制御されることにより、駆動輪16に付与される制動トルクが調整される。
変速部58は、第1遊星歯車機構80、クラッチC1、及びブレーキB1を備えている。差動部60は、第2遊星歯車機構82を備えている。第1遊星歯車機構80は、第1サンギヤS1、第1ピニオンP1、第1ピニオンP1を自転及び公転可能に支持する第1キャリアCA1、第1ピニオンP1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を備える公知のシングルピニオン型の遊星歯車装置である。第2遊星歯車機構82は、第2サンギヤS2、第2ピニオンP2、第2ピニオンP2を自転及び公転可能に支持する第2キャリアCA2、第2ピニオンP2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備える公知のシングルピニオン型の遊星歯車装置である。
第1遊星歯車機構80において、第1キャリアCA1は、入力軸72に一体的に連結されており、その入力軸72を介してエンジン12が動力伝達可能に連結された回転要素である。第1サンギヤS1は、ブレーキB1を介してケース56に選択的に連結される回転要素である。第1リングギヤR1は、差動部60の入力回転部材である第2遊星歯車機構82の第2キャリアCA2に連結された回転要素であり、変速部58の出力回転部材として機能する。又、第1キャリアCA1と第1サンギヤS1とは、クラッチC1を介して選択的に連結される。
クラッチC1及びブレーキB1は、何れも湿式の摩擦係合装置であり、油圧アクチュエータによって係合制御される多板型の油圧式摩擦係合装置である。このクラッチC1及びブレーキB1は、車両10に備えられた油圧制御回路84が後述する電子制御装置100によって制御されることにより、その油圧制御回路84から出力される調圧された各油圧Pc1,Pb1に応じて、各々、係合や解放などの状態である作動状態が切り替えられる。
クラッチC1及びブレーキB1が共に解放された状態においては、第1遊星歯車機構80の差動が許容される。よって、この状態では、第1サンギヤS1にてエンジントルクTeの反力トルクが取れない為、変速部58は機械的な動力伝達が不能な中立状態すなわちニュートラル状態とされる。又、クラッチC1が係合され且つブレーキB1が解放された状態においては、第1遊星歯車機構80は各回転要素が一体回転させられる。よって、この状態では、エンジン12の回転は等速で第1リングギヤR1から第2キャリアCA2へ伝達される。一方で、クラッチC1が解放され且つブレーキB1が係合された状態においては、第1遊星歯車機構80は第1サンギヤS1の回転が止められ、第1リングギヤR1の回転が第1キャリアCA1の回転よりも増速される。よって、この状態では、エンジン12の回転は増速されて第1リングギヤR1から出力される。このように、変速部58は、変速比が「1.0」の直結状態となるローギヤと、変速比が例えば「0.7」のオーバードライブ状態となるハイギヤとに切り替えられる2段の有段変速機として機能する。又、クラッチC1及びブレーキB1が共に係合された状態においては、第1遊星歯車機構80は各回転要素の回転が止められる。よって、この状態では、変速部58の出力回転部材である第1リングギヤR1の回転が停止させられることで、差動部60の入力回転部材である第2キャリアCA2の回転が停止させられる。
第2遊星歯車機構82において、第2キャリアCA2は、変速部58の出力回転部材である第1リングギヤR1に連結された回転要素であり、差動部60の入力回転部材として機能する。第2サンギヤS2は、第1回転機MG1のロータ軸86に一体的に連結されており、第1回転機MG1が動力伝達可能に連結された回転要素である。第2リングギヤR2は、ドライブギヤ74に一体的に連結されており、駆動輪16に動力伝達可能に連結された回転要素であり、差動部60の出力回転部材として機能する。第2遊星歯車機構82は、変速部58を介して第2キャリアCA2に入力されるエンジン12の動力を第1回転機MG1及びドライブギヤ74に機械的に分割する動力分割機構である。つまり、第2遊星歯車機構82は、エンジン12の動力を駆動輪16と第1回転機MG1とに分割して伝達する差動機構である。第2遊星歯車機構82において、第2キャリアCA2は入力要素として機能し、第2サンギヤS2は反力要素として機能し、第2リングギヤR2は出力要素として機能する。差動部60は、第2遊星歯車機構82に動力伝達可能に連結された第1回転機MG1とともに、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより第2遊星歯車機構82の差動状態が制御される電気式変速機構例えば電気式無段変速機を構成する。第1回転機MG1は、エンジン12の動力が伝達される回転機である。変速部58はオーバードライブであるので、第1回転機MG1の高トルク化が抑制される。尚、第1回転機MG1の運転状態を制御することは、第1回転機MG1の運転制御を行うことである。
図3は、差動部60における各回転要素の回転速度を相対的に表す共線図である。図3において、3本の縦線Y1、Y2、Y3は、差動部60を構成する第2遊星歯車機構82の3つの回転要素に対応している。縦線Y1は、第1回転機MG1(図中の「MG1」参照)が連結された第2回転要素RE2である第2サンギヤS2の回転速度を表している。縦線Y2は、変速部58を介してエンジン12(図中の「ENG」参照)が連結された第1回転要素RE1である第2キャリアCA2の回転速度を表している。縦線Y3は、ドライブギヤ74(図中の「OUT」参照)と一体的に連結された第3回転要素RE3である第2リングギヤR2の回転速度を表している。ドライブギヤ74と噛み合うドリブンギヤ62には、リダクションギヤ70等を介して第2回転機MG2(図中の「MG2」参照)が連結されている。第2キャリアCA2には、車両10に備えられた機械式のオイルポンプ(図中の「MOP」参照)が連結されている。この機械式のオイルポンプは、第2キャリアCA2の回転に伴って駆動されることで、クラッチC1及びブレーキB1の各係合作動や各部の潤滑や各部の冷却に用いられるオイルを供給する。第2キャリアCA2の回転が停止される場合には、車両10に備えられた電動式のオイルポンプ(不図示)によりオイルが供給される。縦線Y1、Y2、Y3の相互の間隔は、第2遊星歯車機構82の歯車比ρ(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)に応じて定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリアとの間が「1」に対応する間隔とされると、キャリアとリングギヤとの間が歯車比ρに対応する間隔とされる。
図3の実線Lefは、少なくともエンジン12を動力源として走行するハイブリッド走行(=HV走行)が可能な走行モードであるHV走行モードでの前進走行における各回転要素の相対速度の一例を示している。又、図3の実線Lerは、HV走行モードでの後進走行における各回転要素の相対速度の一例を示している。このHV走行モードでは、第2遊星歯車機構82において、例えば変速部58を介して第2キャリアCA2に入力される正トルクのエンジントルクTeに対して、第1回転機MG1による負トルクの反力トルクとなるMG1トルクTgが第2サンギヤS2に入力されると、第2リングギヤR2には正トルクのエンジン直達トルクTdが現れる。例えば、クラッチC1が係合され且つブレーキB1が解放されて変速部58が変速比「1.0」の直結状態とされている場合、第2キャリアCA2に入力されるエンジントルクTeに対して、反力トルクとなるMG1トルクTg(=-ρ/(1+ρ)×Te)が第2サンギヤS2に入力されると、第2リングギヤR2にはエンジン直達トルクTd(=Te/(1+ρ)=-(1/ρ)×Tg)が現れる。そして、要求駆動力に応じて、ドリブンギヤ62に各々伝達されるエンジン直達トルクTdとMG2トルクTmとの合算トルクが車両10の駆動トルクとして駆動輪16へ伝達され得る。第1回転機MG1は、正回転にて負トルクを発生する場合には発電機として機能する。第1回転機MG1の発電電力Wgは、バッテリ54に充電されたり、第2回転機MG2にて消費される。第2回転機MG2は、発電電力Wgの全部又は一部を用いて、或いは発電電力Wgに加えてバッテリ54からの電力を用いて、MG2トルクTmを出力する。前進走行時のMG2トルクTmは正回転の正トルクとなる力行トルクであり、後進走行時のMG2トルクTmは負回転の負トルクとなる力行トルクである。また、減速走行時のMG2トルクは正回転の負トルクとなる回生トルクである。
差動部60は、電気的な無段変速機として作動させられ得る。例えば、HV走行モードにおいて、駆動輪16の回転に拘束されるドライブギヤ74の回転速度である出力回転速度Noに対して、第1回転機MG1の運転状態が制御されることによって第1回転機MG1の回転速度つまり第2サンギヤS2の回転速度が上昇或いは低下させられると、第2キャリアCA2の回転速度が上昇或いは低下させられる。第2キャリアCA2は変速部58を介してエンジン12と連結されているので、第2キャリアCA2の回転速度が上昇或いは低下させられることで、エンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Neが上昇或いは低下させられる。従って、ハイブリッド走行では、エンジン動作点OPengを効率の良い動作点に設定する制御を行うことが可能である。この種のハイブリッド形式は、機械分割式或いはスプリットタイプと称される。第1回転機MG1は、エンジン回転速度Neを制御可能な回転機である。動作点は、回転速度とトルクとで表される運転点であり、エンジン動作点OPengは、エンジン回転速度NeとエンジントルクTeとで表されるエンジン12の運転点である。
図3の破線Lm1は、モータ走行(=EV走行)モードのうちの第2回転機MG2のみを動力源とするモータ走行が可能な単独駆動EVモードでの前進走行における各回転要素の相対速度の一例を示している。図3の破線Lm2は、EV走行モードのうちの第1回転機MG1及び第2回転機MG2の両方を動力源とするモータ走行が可能な両駆動EVモードでの前進走行における各回転要素の相対速度の一例を示している。EV走行モードは、エンジン12の運転を停止した状態で第1回転機MG1及び第2回転機MG2のうちの少なくとも一方の回転機を動力源として走行するモータ走行が可能な走行モードである。
前記単独駆動EVモードでは、クラッチC1及びブレーキB1が共に解放されて変速部58がニュートラル状態とされることで差動部60もニュートラル状態とされ、この状態でMG2トルクTmが車両10の駆動トルクとして駆動輪16へ伝達され得る。単独駆動EVモードでは、例えば第1回転機MG1における引き摺り損失等を低減する為に、第1回転機MG1はゼロ回転に維持される。例えば第1回転機MG1をゼロ回転に維持する制御を行っても、差動部60はニュートラル状態であるので、駆動トルクに影響を与えない。
前記両駆動EVモードでは、クラッチC1及びブレーキB1が共に係合されて第1遊星歯車機構80の各回転要素の回転が止められることで第2キャリアCA2はゼロ回転で停止状態とされ、この状態でMG1トルクTg及びMG2トルクTmが車両10の駆動トルクとして駆動輪16へ伝達され得る。
図1に戻り、車両10は、更に、エンジン12、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2などの制御に関連する車両10の制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置100を備えている。電子制御装置100は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置100は、必要に応じてエンジン制御用、回転機制御用、油圧制御用等の各コンピュータを含んで構成される。
電子制御装置100には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエアフローメータ34、過給圧センサ40、吸気温センサ42、スロットル弁開度センサ44、エンジン回転速度センサ88、出力回転速度センサ90、MG1回転速度センサ92、MG2回転速度センサ94、シフトポジションセンサ95、アクセル開度センサ96、バッテリセンサ98など)による検出値に基づく各種信号等(例えば吸入空気量Qair、過給圧Pchg、吸気温度THair、スロットル弁開度θth、エンジン回転速度Ne、車速Vに対応する出力回転速度No、第1回転機MG1の回転速度であるMG1回転速度Ng、第2回転機MG2の回転速度であるMG2回転速度Nm、車両10に備えられたシフト切替装置としてのシフトレバー97のシフト操作ポジションPOSsh、運転者の加速操作の大きさを表す運転者のアクセル操作量であるアクセル開度θacc、バッテリ54のバッテリ温度THbatやバッテリ充放電電流Ibatやバッテリ電圧Vbatなど)が、それぞれ供給される。又、電子制御装置100からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置50、インバータ52、油圧制御回路84など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Se、第1回転機MG1及び第2回転機MG2を各々制御する為の回転機制御指令信号Smg、クラッチC1及びブレーキB1の各々の作動状態を制御する為の油圧制御指令信号Sp、ホイールブレーキ79の作動状態を制御する為のホイールブレーキ油圧Pbrの油圧制御指令信号Sbrなど)が、それぞれ出力される。
電子制御装置100は、例えばバッテリ充放電電流Ibat及びバッテリ電圧Vbatなどに基づいてバッテリ54の充電状態(充電量)を示す値としての充電状態値SOC[%]を算出する。又、電子制御装置100は、例えばバッテリ温度THbat及びバッテリ54の充電状態値SOCに基づいて、バッテリ54のパワーであるバッテリパワーPbatの使用可能な範囲を規定する入出力電力制限値Win,Woutを算出する。入出力電力制限値Win,Woutは、バッテリ54の入力電力の制限を規定する入力可能電力(又は充電可能電力)としての入力電力制限値Win、及びバッテリ54の出力電力の制限を規定する出力可能電力(又は放電可能電力)としての出力電力制限値Woutである。入出力電力制限値Win,Woutは、例えばバッテリ温度THbatが常用域より低い低温域ではバッテリ温度THbatが低い程小さくされ、又、バッテリ温度THbatが常用域より高い高温域ではバッテリ温度THbatが高い程小さくされる(図7(a)参照)。又、入力電力制限値Winは、例えば充電状態値SOCが高い領域では充電状態値SOCが高い程小さくされる。又、出力電力制限値Woutは、例えば充電状態値SOCが低い領域では充電状態値SOCが低い程小さくされる。
電子制御装置100は、車両10における各種制御を実現する為に、ハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部102を備えている。
ハイブリッド制御部102は、エンジン12の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部としての機能と、インバータ52を介して第1回転機MG1及び第2回転機MG2の作動を制御する回転機制御手段すなわち回転機制御部としての機能と、変速部58における動力伝達状態を切り替える動力伝達切替手段すなわち動力伝達切替部としての機能とを含んでおり、それら制御機能によりエンジン12、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2によるハイブリッド駆動制御等を実行する。
ハイブリッド制御部102は、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である例えば駆動力マップにアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで車両10に対して要求される駆動トルクTwである要求駆動トルクTwdemを算出する。この要求駆動トルクTwdemは、見方を換えればそのときの車速Vにおける要求駆動パワーPwdemである。ここでは、車速Vに替えて出力回転速度Noなどを用いても良い。
ハイブリッド制御部102は、バッテリ54に対して要求される充放電パワーである要求充放電パワー等を考慮して、エンジン12、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2のうちの少なくとも1つの動力源によって要求駆動パワーPwdemを実現するように、エンジン12を制御する指令信号であるエンジン制御指令信号Seと、第1回転機MG1及び第2回転機MG2を制御する指令信号である回転機制御指令信号Smgとを出力する。
例えばHV走行モードにて走行させる場合、エンジン制御指令信号Seは、要求駆動パワーPwdemに要求充放電パワーやバッテリ54における充放電効率等を加味した要求エンジンパワーPedemを実現する、最適エンジン動作点OPengf等を考慮した目標エンジン回転速度Netgtにおける目標エンジントルクTetgtを出力するエンジンパワーPeの指令値である。又、回転機制御指令信号Smgは、エンジン回転速度Neを目標エンジン回転速度Netgtとする為の反力トルクとしての指令出力時のMG1回転速度NgにおけるMG1トルクTgを出力する第1回転機MG1の発電電力Wgの指令値、及び、指令出力時のMG2回転速度NmにおけるMG2トルクTmを出力する第2回転機MG2の消費電力Wmの指令値である。HV走行モードにおけるMG1トルクTgは、例えばエンジン回転速度Neが目標エンジン回転速度Netgtとなるように第1回転機MG1を作動させるフィードバック制御において算出される。HV走行モードにおけるMG2トルクTmは、例えばエンジン直達トルクTdによる駆動トルクTw分と合わせて要求駆動トルクTwdemが得られるように算出される。最適エンジン動作点OPengfは、例えば要求エンジンパワーPedemを実現するときに、エンジン12単体の燃費にバッテリ54における充放電効率等を考慮した車両10におけるトータル燃費が最も良くなるエンジン動作点OPengとして予め定められている。目標エンジン回転速度Netgtは、エンジン回転速度Neの目標値であり、目標エンジントルクTetgtは、エンジントルクTeの目標値であり、エンジンパワーPeはエンジン12のパワーである。このように、車両10は、エンジン回転速度Neが目標エンジン回転速度Netgtとなるように第1回転機MG1の反力トルクとなるMG1トルクTgを制御する車両である。
図4は、エンジン回転速度Ne及びエンジントルクTeを変数とする二次元座標上に、最適エンジン動作点OPengfの一例を示す図である。図4において、実線Lengは、最適エンジン動作点OPengfの集まりを示している。等パワー線Lpw1,Lpw2,Lpw3は、各々、要求エンジンパワーPedemが要求エンジンパワーPe1,Pe2,Pe3であるときの一例を示している。点Aは、要求エンジンパワーPe1を最適エンジン動作点OPengf上で実現するときのエンジン動作点OPengAであり、点Bは、要求エンジンパワーPe3を最適エンジン動作点OPengf上で実現するときのエンジン動作点OPengBである。点A,Bは、各々、目標エンジン回転速度Netgtと目標エンジントルクTetgtとで表されるエンジン動作点OPengの目標値すなわち目標エンジン動作点OPengtgtでもある。アクセル開度θaccの増大により、例えば目標エンジン動作点OPengtgtが点Aから点Bへ変化させられた場合、最適エンジン動作点OPengf上を通る経路aでエンジン動作点OPengが変化させられるように制御される。
ハイブリッド制御部102は、走行モードとして、EV走行モード或いはHV走行モードを走行状態に応じて選択的に成立させて、各走行モードにて車両10を走行させる。例えば、ハイブリッド制御部102は、要求駆動パワーPwdemが予め定められた閾値よりも小さなモータ走行領域にある場合には、EV走行モードを成立させる一方で、要求駆動パワーPwdemが予め定められた閾値以上となるハイブリッド走行領域にある場合には、HV走行モードを成立させる。ハイブリッド制御部102は、要求駆動パワーPwdemがモータ走行領域にあるときであっても、バッテリ54の充電状態値SOCが予め定められたエンジン始動閾値未満となる場合やエンジン12の暖機が必要な場合などには、HV走行モードを成立させる。前記エンジン始動閾値は、エンジン12を強制的に始動してバッテリ54を充電する必要がある充電状態値SOCであることを判断する為の予め定められた閾値である。
図5は、モータ走行とハイブリッド走行との切替制御に用いる動力源切替マップの一例を示す図である。図5において、実線Lswpは、モータ走行とハイブリッド走行とを切り替える為のモータ走行領域とハイブリッド走行領域との境界線である。車速Vが比較的低く且つ要求駆動トルクTwdemが比較的小さい、要求駆動パワーPwdemが比較的小さな領域がモータ走行領域に予め定められている。車速Vが比較的高い又は要求駆動トルクTwdemが比較的大きい、要求駆動パワーPwdemが比較的大きな領域がハイブリッド走行領域に予め定められている。バッテリ54の充電状態値SOCがエンジン始動閾値未満となるとき又はエンジン12の暖機が必要なときには、図5におけるモータ走行領域がハイブリッド走行領域に変更されても良い。
ハイブリッド制御部102は、EV走行モードを成立させたときに、第2回転機MG2のみで要求駆動パワーPwdemを実現できる場合には、単独駆動EVモードを成立させる。一方で、ハイブリッド制御部102は、EV走行モードを成立させたときに、第2回転機MG2のみでは要求駆動パワーPwdemを実現できない場合には、両駆動EVモードを成立させる。ハイブリッド制御部102は、第2回転機MG2のみで要求駆動パワーPwdemを実現できるときであっても、第2回転機MG2のみを用いるよりも第1回転機MG1及び第2回転機MG2を併用した方が効率が良い場合には、両駆動EVモードを成立させても良い。
ハイブリッド制御部102は、エンジン12の運転停止時にHV走行モードを成立させた場合には、エンジン12を始動する始動制御を行う。ハイブリッド制御部102は、エンジン12を始動するときには、例えば第1回転機MG1によりエンジン回転速度Neを上昇させつつ、エンジン回転速度Neが点火可能な所定回転速度以上となったときに点火することでエンジン12を始動する。すなわち、ハイブリッド制御部102は、第1回転機MG1によりエンジン12をクランキングすることでエンジン12を始動する。
ハイブリッド制御部102は、成立させた走行モードに基づいて、クラッチC1及びブレーキB1の各係合作動を制御する。ハイブリッド制御部102は、成立させた走行モードにて走行する為の動力伝達が可能となるように、クラッチC1及びブレーキB1を各々係合及び/又は解放させる油圧制御指令信号Spを油圧制御回路84へ出力する。
図6は、各走行モードにおけるクラッチC1及びブレーキB1の各作動状態を示す図表である。図6において、○印はクラッチC1及びブレーキB1の各々の係合を示し、空欄は解放を示し、△印は回転停止状態のエンジン12を連れ回し状態とするエンジンブレーキの併用時に何れか一方を係合することを示している。又、「G」は第1回転機MG1を主にジェネレータとして機能させることを示し、「M」は第1回転機MG1及び第2回転機MG2の各々を駆動時には主にモータとして機能させ、回生時には主にジェネレータとして機能させることを示している。車両10は、走行モードとして、EV走行モード及びHV走行モードを選択的に実現することができる。EV走行モードは、単独駆動EVモードと両駆動EVモードとの2つのモードを有している。
単独駆動EVモードは、クラッチC1及びブレーキB1が共に解放された状態で実現される。単独駆動EVモードでは、クラッチC1及びブレーキB1が解放されることで、変速部58がニュートラル状態とされる。変速部58がニュートラル状態とされると、差動部60は第1リングギヤR1に連結された第2キャリアCA2にてMG1トルクTgの反力トルクが取れないニュートラル状態とされる。この状態で、ハイブリッド制御部102は、第2回転機MG2から走行用のMG2トルクTmを出力させる(図3の破線Lm1参照)。単独駆動EVモードでは、前進走行時に対して第2回転機MG2を逆回転させて後進走行することも可能である。
単独駆動EVモードでは、第1リングギヤR1は第2キャリアCA2に連れ回されるが、変速部58はニュートラル状態であるので、エンジン12は連れ回されずゼロ回転で停止状態とされる。よって、単独駆動EVモードでの走行中に第2回転機MG2にて回生制御を行う場合、回生量を大きく取ることができる。単独駆動EVモードでの走行時に、バッテリ54が満充電状態となり回生エネルギーが取れない場合、エンジンブレーキを併用することが考えられる。エンジンブレーキを併用する場合は、ブレーキB1又はクラッチC1が係合される(図6の「エンブレ併用」参照)。ブレーキB1又はクラッチC1が係合されると、エンジン12は連れ回し状態とされて、エンジンブレーキが作用させられる。
両駆動EVモードは、クラッチC1及びブレーキB1が共に係合された状態で実現される。両駆動EVモードでは、クラッチC1及びブレーキB1が係合されることで、第1遊星歯車機構80の各回転要素の回転が停止させられ、エンジン12はゼロ回転で停止状態とされ、又、第1リングギヤR1に連結された第2キャリアCA2の回転も停止させられる。第2キャリアCA2の回転が停止させられると、第2キャリアCA2にてMG1トルクTgの反力トルクが取れる為、MG1トルクTgを第2リングギヤR2から機械的に出力させて駆動輪16へ伝達することができる。この状態で、ハイブリッド制御部102は、第1回転機MG1及び第2回転機MG2から各々走行用のMG1トルクTg及びMG2トルクTmを出力させる(図3の破線Lm2参照)。両駆動EVモードでは、前進走行時に対して第1回転機MG1及び第2回転機MG2を共に逆回転させて後進走行することも可能である。
HV走行モードのロー状態は、クラッチC1が係合された状態且つブレーキB1が解放された状態で実現される。HV走行モードのロー状態では、クラッチC1が係合されることで、第1遊星歯車機構80の回転要素が一体回転させられ、変速部58は直結状態とされる。その為、エンジン12の回転は等速で第1リングギヤR1から第2キャリアCA2へ伝達される。HV走行モードのハイ状態は、ブレーキB1が係合された状態且つクラッチC1が解放された状態で実現される。HV走行モードのハイ状態では、ブレーキB1が係合されることで、第1サンギヤS1の回転が停止させられ、変速部58はオーバードライブ状態とされる。その為、エンジン12の回転は増速されて第1リングギヤR1から第2キャリアCA2へ伝達される。HV走行モードにおいて、ハイブリッド制御部102は、エンジントルクTeに対する反力トルクとなるMG1トルクTgを第1回転機MG1の発電により出力させると共に、第1回転機MG1の発電電力により第2回転機MG2からMG2トルクTmを出力させる(図3の実線Lef参照)。HV走行モードでは例えばHV走行モードのロー状態では、前進走行時に対して第2回転機MG2を逆回転させて後進走行することも可能である(図3の実線Ler参照)。HV走行モードでは、バッテリ54からの電力を用いたMG2トルクTmを更に付加して走行することも可能である。HV走行モードでは、例えば車速Vが比較的高く且つ要求駆動トルクTwdemが比較的小さいときには、HV走行モードのハイ状態が成立させられる。
又、HV走行モードで走行中に、アクセルペダルの踏込を解除したり、シフト切替装置のシフトレバー97のシフト操作ポジションPOSshがエンジンブレーキを作動させるブレーキポジションに切り替えられたりしたとき、駆動輪16側から伝達される被駆動トルクによってエンジン12を回転させることによるエンジンブレーキが作動させられる。エンジンブレーキによって発生させられる制動トルクは車両減速度の応答性が低く、車両減速要求に対する車両減速度が速やかに得られない可能性がある。
これに対して、電子制御装置100は、車両減速要求に対する車両減速度の応答性を確保する為の回生制御部106を機能的に備えている。回生制御部106は、車両減速時において、第2回転機MG2の回生トルクであるMG2トルクTmを入力電力制限値Winに基づいて制限しつつ、第2回転機MG2のMG2トルクTm(回生トルク)によって車両10を減速させるための減速トルクを補うように第2回転機MG2を回生制御する。車両減速時において、エンジンブレーキによる制動トルクに、そのエンジンブレーキによる制動トルクに比べて応答性の高い第2回転機MG2のMG2トルクTm(回生トルク)が補われることで、車両10の減速に必要な減速トルクが速やかに得られ、車両減速度の応答性が確保される。尚、減速トルクは、車両減速要求に対する車両減速度を実現するために必要なトルクであり、車速V等に応じて適切な値に設定される。
又、電子制御装置100は、バッテリ54の蓄電状態に対応する充電状態値SOCに基づいてバッテリ54への充電が許容される電力の上限閾値である入力電力制限値Winを設定する入力電力制限値設定部108を機能的に備えている。入力電力制限値設定部108は、バッテリ54のバッテリ温度THbatに基づいて入力電力制限値Winの基本値Winstを設定し、さらに、設定された基本値Winstに、充電状態値SOCに基づいて設定される入力電力用補正係数αを乗算することで入力電力制限値Winを設定する。
図7(a)は、バッテリ54のバッテリ温度THbatに基づいて入力電力制限値Win及び出力電力制限値Woutの基本値Winst,Woutstを設定する為の入出力電力制限値マップである。図7(a)の入出力電力制限値マップは、予め実験的又は設計的に求められて記憶されている。図7(a)に示すように、バッテリ温度THbatの高温領域において高温になるほど、入力電力制限値Winの基本値Winst及び出力電力制限値Woutの基本値Woutstが低下している。又、バッテリ温度THbatの低温領域において低温になるほど、入力電力制限値Winの基本値Winst及び出力電力制限値Woutの基本値Woutstが低下している。
図7(b)は、バッテリ54の充電状態値SOCに基づいて入力電力用補正係数α及び出力電力用補正係数βを求める為の入出力電力用補正係数マップである。図7(b)の充放電用補正係数マップは、予め実験的又は設計的に求められて記憶されている。図7(b)に示すように、充電状態値SOCの高い領域において充電状態値SOCが高くなるほど、入力電力用補正係数αが低下している。又、充電状態値SOCの低い領域において充電状態値SOCが低くなるほど、出力電力用補正係数βが低下している。
入力電力用補正係数αについて説明すると、充電状態値SOCが制限閾値SOCcri以下の領域では、入力電力用補正係数αが1.0となる。すなわち、図7(a)に基づいて求められた基本値Winstが、入力電力制限値Winとなる。又、充電状態値SOCが制限閾値SOCcriを越える領域では、充電状態値SOCが高くなるほど入力電力用補正係数αが低下している。言い換えれば、充電状態値SOCが制限閾値SOCcriを越える領域では、充電状態値SOCが高くなるほど入力電力制限値Winが減少し、入力電力制限値Winが制限されることとなる。
入力電力制限値設定部108は、図7(a)に示す入出力電力制限値マップにバッテリ温度THbatを適用することで、入力電力制限値Winの基本値Winstを設定する。さらに、入力電力制限値設定部108は、設定された入力電力制限値Winの基本値Winstに、図7(b)に示す入出力電力用補正係数マップに充電状態値SOCを適用することで設定される入力電力用補正係数αを乗算することで、入力電力制限値Winを設定する。このようにして、入力電力制限値Winが、バッテリ温度THbat、及び、バッテリ54の蓄電状態に対応する充電状態値SOCに基づいて設定される。尚、出力電力制限値Woutについても同様に、図7(a)の入出力電力制限値マップにバッテリ温度THbatを適用することで出力電力制限値Woutの基本値Woutstを求め、さらに、図7(b)の入出力電力用補正係数マップに充電状態値SOCを適用することで設定される出力電力用補正係数βを基本値Woutstに乗算することで求められる。
回生制御部106は、車両減速時において、第2回転機MG2の回生トルクであるMG2トルクTmを、設定された入力電力制限値Winに基づいて制限しつつ第2回転機MG2の回生制御を実行する。具体的には、回生制御部106は、車両減速時において、第2回転機MG2の回生制御によって発電される電力が入力電力制限値Winを越えないように、第2回転機MG2のMG2トルクTmを制御する。
ところで、エンジン12は過給機18を有する為、エンジン12の過給機18が作動している状態からエンジンブレーキを作動させる場合には、エンジン12に残存する過給圧Pchgによってエンジンブレーキの作動に遅れが生じやすく、エンジンブレーキの応答性が悪化しやすい。そこで、回生制御部106は、エンジン12の過給圧Pchgに基づいて第2回転機MG2を回生制御する。
図8は、エンジン12の過給圧Pchgと第2回転機MG2のMG2トルクTm(回生トルク)との関係を示す関係マップである。図8の関係マップに示されるように、同じ車速Vにおいて、エンジン12の過給圧Pchgが高い場合の方が、過給圧Pchgが低い場合に比べて第2回転機MG2のMG2トルクTmが高い値に設定されている。回生制御部106は、図8の関係マップに基づいて第2回転機MG2のMG2トルクTmを制御することで、エンジン12の過給圧Pchgが高い方が過給圧Pchgが低い場合に比べて第2回転機MG2のMG2トルクTmが高くなる。
エンジン12の過給圧Pchgが高くなるほどエンジン12の燃焼室内に残存する圧力が高くなることから、過給圧Pchgが高くなるほどエンジンブレーキによる制動トルクの応答性が悪くなる。これに対して、エンジン12の過給圧Pchgが高い場合の方が過給圧Pchgが低い場合に比べて第2回転機MG2の回生トルクが高くなる為、過給圧Pchgが高い場合であっても、減速トルクを発生させるための第2回転機MG2のMG2トルクTmの割合が高くなる為、所望の車両減速度を速やかに得ることができ、車両減速度の応答性が確保される。
上述したように、エンジン12の過給圧Pchgが高いほど第2回転機MG2のMG2トルクTm(回生トルク)が高くなる為、第2回転機MG2の回生制御によって発電される電力も増加し、バッテリ54に蓄電される蓄電電力も増加する。このとき、バッテリ54の充電状態値SOCが高なり、バッテリ54の入力電力制限値Winが低くなると、入力電力制限値Winによって第2回転機MG2のMG2トルクTmが制限されてしまい、車両10の減速に必要な減速トルクが得られなくなり、車両減速度の応答性が確保できない虞がある。これを解消する為、電子制御装置100は、バッテリ54の充電状態値SOCが高くなった場合においてバッテリ54に蓄電される蓄電電力を放電制御する放電制御部112、第2回転機MG2の回生制御によって車両10の減速トルクを補う場合において、入力電力制限値Winを一時的に緩和する入力電力制限値緩和部114、及び入力電力制限値Winの緩和が制限される場合において、エンジン12の過給圧Pchgを制限する過給圧制限部116を機能的に備えている。
放電制御部112は、バッテリ54の充電状態値SOCが予め設定されている所定値SOC1よりも高いかを判定し、充電状態値SOCが所定値SOC1よりも高い場合であって、且つ、減速走行以外の走行状態である場合には、エンジン12の過給圧Pchgに基づいてバッテリ54に蓄電されている蓄電電力を放電する放電制御を実行する。所定値SOC1は、予め実験的又は設計的に求められ、例えば図7(b)に示す制限閾値SOCcriよりも所定値だけ小さい値に設定されている。
放電制御部112は、バッテリ54の充電状態値SOCが所定値SOC1よりも高く、且つ、減速走行以外の走行状態であった場合には、要求駆動トルクTwdemを出力する為の第2回転機MG2のMG2トルクTmの割合を増加する一方で、エンジン12のエンジン直達トルクTdの割合を減少させる。結果として、第2回転機MG2において消費される電力が増加する一方で、第1回転機MG1の回生による電力が減少することから、バッテリ54から電力が放電される。
バッテリ54に蓄電される電力を放電する放電制御が実行されることで、バッテリ54の充電状態値SOCが低下させられ、車両減速時に第2回転機MG2による回生制御が開始されたときにバッテリ54に蓄電可能な容量が増加する。従って、第2回転機MG2の回生制御において、入力電力制限値Winに基づいて回生トルクであるMG2トルクTmが制限されることが抑制される。
又、放電制御部112は、エンジン12の過給圧Pchgが高いほど、放電制御における第2回転機MG2のMG2トルクTm(力行トルク)を増加することで、バッテリ54からの放電量を増加させる。
図9は、エンジン12の過給圧Pchgに基づいて設定される充電状態値SOCの低減量を示している。図9において破線は、充電状態値SOCの所定値SOC1に対応し、実線で示す制限閾値SOCcriよりも低い値となっている。一点鎖線は、過給圧Pchgに基づいて低減される充電状態値SOCに対応している。図9の一点鎖線で示されるように、過給圧Pchgが高くなるほど充電状態値SOCが減少している。放電制御部112は、過給圧Pchgが高くなるほど充電状態値SOCが減少するように、過給圧Pchgが高くなるほど第2回転機MG2のMG2トルクTmを増加する。従って、過給圧Pchgが高くなるほど第2回転機MG2で消費される電力が増加し、バッテリ54からの放電量が増加することで、バッテリ54の充電状態値SOCが減少する。
エンジン12の過給圧Pchgが高くなるほどエンジンブレーキによる車両減速度の応答性が悪くなることから、車両減速度の応答性を確保する為、エンジン12の過給圧Pchgが高くなるほど、車両減速時における第2回転機MG2のMG2トルクTm(回生トルク)が高くなる。一方、第2回転機MG2のMG2トルクTmが高くなるほど、車両減速時において第2回転機MG2の回生制御によって発電される電力も増加する。これに対して、上述したようにエンジン12の過給圧Pchgが高くなるほど充電状態値SOCの低減量が増加する為、車両減速時においてバッテリ54に充電可能な電力量が多く確保され、車両減速時の回生制御中の第2回転機MG2のMG2トルクTmが高くなってもそのトルクを出力することができる。
入力電力制限値緩和部114は、第2回転機MG2のMG2トルクTm(回生トルク)によって減速トルクを補う場合において、エンジン12の過給圧Pchgに基づいて入力電力制限値Winを一時的に緩和する。
入力電力制限値緩和部114は、先ず、入力電力制限値設定部108が設定した入力電力制限値Winに基づいて設定される第2回転機MG2のMG2トルクTmでは、車両減速時において車両減速度が不足するかを判定する。入力電力制限値Winに基づいて設定される第2回転機MG2のMG2トルクTm(回生トルク)の上限値(制限値)は予め決まっている為、入力電力制限値緩和部114は、その第2回転機MG2の回生トルクの上限値とエンジンブレーキが作動したときの制動トルクとによって、車両10の減速に必要な減速トルクが得られるかを判定する。具体的には、第2回転機MG2のMG2トルクTmとエンジンブレーキによる制動トルクの合算値が、減速トルクよりも小さいかを判定し、前記合算値が減速トルクよりも小さい場合には、車両減速度が不足するものと判定され、合算値が所望の減速トルクよりも大きい場合には、車両減速度が不足しないと判定される。尚、エンジンブレーキによる制動トルクは、例えば車速V及びエンジン回転速度Ne等に基づいて求められる。
入力電力制限値緩和部114は、車両減速時に車両減速度が不足すると判定されると、入力電力制限値Winを一時的に緩和する。入力電力制限値Winが緩和される場合、図7(b)の実線で示す入力電力用補正係数αを入力電力制限値Winの緩和前の値としたとき、入力電力用補正係数αが、破線又は一点鎖線で示すように変更される。具体的には、入力電力制限値Winが緩和される場合、図7(b)に示すように、入力電力用補正係数αが、全体として右側に移動している。すなわち、充電状態値SOCの高い領域において、入力電力用補正係数αが高い値となるように変更されている。又、図7(b)において、エンジン12の過給圧Pchgが高くなるほど入力電力用補正係数αが高くなるように変更される。図7(b)においては、エンジン12の過給圧Pchgが高くなるほど入力電力用補正係数αが全体として右側に移動する。従って、図7(b)の一点鎖線で示す入力電力用補正係数αの方が、破線で示す入力電力用補正係数αよりも過給圧Pchgが高い値となる。
これより、図7(b)に示すように、過給圧Pchgが高くなるほど、入力電力用補正係数αが1.0になる閾値である制限閾値SOCcriが高くなる。例えば、一点鎖線で示す入力電力用補正係数αの制限閾値SOCcri2の方が、破線で示す入力電力用補正係数αの制限閾値SOCcri1よりも高くなる。このことから、エンジン12の過給圧Pchgが高くなるほど、入力電力制限値Winの制限が緩和される。また、充電状態値SOCが高い領域であって、入力電力用補正係数αが1.0よりも低くなるような領域においても、エンジン12の過給圧Pchgが高いときの方が低いときに比べて入力電力用補正係数αが高い値となることから、入力電力制限値Winが高い値となる。例えば、充電状態値SOCが制限閾値SOCcri2のとき、一点鎖線で示す入力電力用補正係数αに基づくとその値が1.0であるのに対して、過給圧Pchgが一点鎖線よりも低圧で適用される破線で示す入力電力用補正係数αに基づくと、その値が1.0よりも小さくなる。従って、過給圧Pchgが高くなるほど、入力電力制限値Winの制限が緩和される。
図10は、充電状態値SOCが制限閾値SOCcriよりも高い領域における、エンジン12の過給圧Pchgと入力電力制限値Winとの関係を示している。図10において、実線が、過給機18が非作動状態における入力電力制限値Winを示し、一点鎖線が、過給圧Pchgに応じて変更される入力電力制限値Winを示している。図10に示すように、エンジン12の過給圧Pchgが高いほど、入力電力制限値Winが高くなっている。これは、エンジン12の過給圧Pchgが高いほど入力電力用補正係数αが高くなるためである。これより、エンジン12の過給圧Pchgが高いほど入力電力制限値Winによる制限が緩和される。又、図10において、一点鎖線で示す入力電力制限値Winと実線で示す入力電力制限値Winとの差分ΔWinが、入力電力制限値Winの緩和量ΔWinに対応し、エンジン12の過給圧Pchgが高くなるほど入力電力制限値Winの緩和量ΔWinが大きくなる。
入力電力制限値緩和部114は、図7(b)においてエンジン12の過給圧Pchgに基づいて変更された入力電力用補正係数αを適用して入力電力制限値Winを算出する。過給圧Pchgに基づいて変更された入力電力用補正係数αに基づいて入力電力制限値Winが算出されることで、充電状態値SOCの高い領域において入力電力制限値Winが大きくなる。このように、入力電力制限値緩和部114は、充電状態値SOCの高い領域において、エンジン12の過給圧Pchgに基づいて入力電力制限値Winの制限を緩和し、エンジン12の過給圧Pchgが高いほど入力電力制限値Winの緩和量ΔWinを大きくする。
回生制御部106は、算出された入力電力制限値Winに基づいて第2回転機MG2のMG2トルクTmを制限しつつ回生制御を実行する。従って、エンジン12の過給圧Pchgが高い場合であっても、過給圧Pchgが低い場合に比べて入力電力制限値Winが大きくなる為、第2回転機MG2において所望の車両減速度を発生させる為に必要なMG2トルクTm(回生トルク)を発生させることができ、車両減速要求に対する車両減速度の応答性を確保することができる。
又、例えば、バッテリ54の充電状態値SOCが過充電領域近傍にある場合などにおいては、入力電力制限値Winの緩和が制限される。このような入力電力制限値Winの緩和が制限される走行状態にあるとき、過給圧制限部116は、エンジン12の過給圧Pchgを制限する。エンジン12の過給圧Pchgが制限されることで、車両減速時の第2回転機MG2のMG2トルクTmを小さくすることができ、MG2トルクTmが入力電力制限値Winによって制限されることも抑制される。
図11は、電子制御装置100の制御作動の要部すなわちエンジン12の過給圧Pchgが高くなっても、車両減速時に車両減速度の応答性を確保できる制御作動を説明する為のフローチャートである。このフローチャートは、車両走行中において繰り返し実行される。
先ず、放電制御部112の制御機能に対応するステップST1(以下、ステップを省略)において、バッテリ54の充電状態値SOCが所定値SOC1よりも高いかが判定される。ST1が否定される場合、ハイブリッド制御部102の制御機能に対応するST7において、通常走行時の制御が実行される。ST1が肯定される場合、ハイブリッド制御部102の制御機能に対応するST2において、車両減速中であるかが判定される。ST2が否定される場合、放電制御部112の制御機能に対応するST6において、充電状態値SOCを低減する放電制御が実施される。
ST2が肯定される場合、入力電力制限値緩和部114の制御機能に対応するST3において、入力電力制限値Winに基づいて制限される第2回転機MG2のMG2トルクTm(回生トルク)では、車両減速度が不足するかが判定される。ST3が否定される場合、入力電力制限値Winを緩和する必要がない為、ST7において、通常走行時の制御が実行される。ST3が肯定される場合、入力電力制限値Winに基づいて制限される第2回転機MG2のMG2トルクTmでは車両減速度が不足することから、入力電力制限値緩和部114の制御機能に対応するST4において、入力電力制限値Winがエンジン12の過給圧Pchgに基づいて一時的に緩和される。次いで、回生制御部106の制御機能に対応するST5において、ST4で緩和された入力電力制限値Winに基づいて第2回転機MG2の回生制御が実施される。
図12は、電子制御装置100の制御機能に基づく制御結果の一態様を示すタイムチャートであり、走行中に充電状態値SOCが所定値SOC1を越えた状態で車両10が減速されたときの態様が一例として示されている。図12において、縦軸は、上から順番に、充電状態値SOC、エンジントルクTe、エンジン回転速度Ne、第1回転機MG1のMG1トルクTg、第1回転機MG1のMG1回転速度Ng、第2回転機MG2のMG2トルクTm、第2回転機MG2のMG2回転速度Nm、駆動輪16に備えられるホイールブレーキ79のホイールブレーキ油圧Pbr、アクセル開度θaccを、それぞれ示している。
t1時点以前において通常走行が実行され、第1回転機MG1の回生制御によってバッテリ54の充電状態値SOCが増加している。t1時点では、充電状態値SOCの増加によって、充電状態値SOCが所定値SOC1よりも大きくなったと判断される。t2時点では、充電状態値SOCを低減する為の放電制御が開始される。t2時点~t3時点の間において、エンジントルクTeが低減される一方で、第2回転機MG2のMG2トルクTm(力行トルク)が増加されることにより、第2回転機MG2による電力消費が増加することで、充電状態値SOCが減少している。
t3時点において、アクセルペダルが踏み戻されてアクセル開度θaccが減少することで、車両10の減速が開始され、エンジンブレーキによる制動トルクに加えて、第2回転機MG2のMG2トルクTm(回生トルク)が出力される。ここで、t3時点では、充電状態値SOCが所定値SOC1よりも大きいことから、入力電力制限値Winがエンジン12の過給圧Pchgに基づいて一時的に緩和される。図7(b)に示す入力電力用補正係数αが過給圧Pchgに基づいて変更されることで、図12に示すように、入力電力用補正係数αが1.0となる閾値である制限閾値SOCcriが大きくなる。従って、入力電力制限値Winの制限が緩和される前の制限閾値SOCcriでは、入力電力制限値Winが制限されるのに対して、入力電力制限値Winの制限が緩和されることで、車両減速に必要な減速トルクを実現する第2回転機MG2のMG2トルクTmを出力することが可能になる。t3時点~t4時点の間では、第2回転機MG2のMG2トルクTmが負の値である回生トルクとなることで、第2回転機MG2で回生された電力がバッテリ54に充電される。従って、バッテリ54の充電状態値SOCが増加している。
t4時点において、エンジン12が停止すると、HV走行モードから第2回転機MG2によるEV走行モードに切り替えられる。これに関連して、t4時点以降では、第2回転機MG2において電力が消費されることで、バッテリ54の充電状態値SOCが減少している。t5時点において、バッテリ54の充電状態値SOCが所定値SOC1以下になると、入力電力制限値Winの緩和が中止される。ここで、図12のt3時点~t4時点において、第2回転機MG2に回生制御が禁止される場合や第2回転機MG2のMG2トルクTmが制限される場合には、一点鎖線で示すように、ホイールブレーキ79を一時的に作動させることで車両減速度を確保するものであっても構わない。
上述のように、本実施例によれば、第2回転機MG2のMG2トルクTm(回生トルク)によって減速トルクを補う場合において、エンジン12の過給圧Pchgに基づいて入力電力制限値Winの制限を緩和し、且つ、エンジン12の過給圧Pchgが高いときは低いときに比べて入力電力制限値Winの緩和量ΔWinが大きくされる。従って、エンジン12の過給圧Pchgが高くなるほどエンジンブレーキの応答性が低下するのに対して、エンジン12の過給圧Pchgが高いときには低いときに比べて第2回転機MG2のMG2トルクTmの制限が緩和されるため、車両減速要求に対する車両減速度の応答性を確保することができる。又、エンジン12の過給圧Pchgに基づいて入力電力制限値Winの緩和量ΔWinが適切になるため、バッテリ54にかかる負担も低減されてバッテリ54の寿命悪化も抑制される。
また、本実施例によれば、エンジン12の過給圧Pchgに基づいて第2回転機MG2が回生制御されるため、過給圧Pchgに基づいて第2回転機MG2のMG2トルクTmが適切に制御され、車両減速要求に対する車両減速度の応答性を確保することができる。又、エンジン12の過給圧Pchgに基づいてバッテリに蓄電される電力が放電制御されるため、車両減速時のバッテリ54に充電される電力が制限されることで、第2回転機MG2のMG2トルクTmが制限されてしまうのを抑制することができる。
つぎに、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において前述の実施例と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
本実施例では、前述の実施例1で示した車両10とは別の、図13に示すような車両200を例示する。図13は、本発明が適用される車両200の概略構成を説明する図である。図13において、車両200は、エンジン202と第1回転機MG1と第2回転機MG2と動力伝達装置204と駆動輪206とを備えるハイブリッド車両である。
エンジン202、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2は、前述の実施例1で示したエンジン12、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2と同様の構成である。エンジン202は、後述する電子制御装置240によって、車両200に備えられたスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置やウェイストゲートバルブ等のエンジン制御装置208が制御されることによりエンジントルクTeが制御される。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、各々、車両200に備えられたインバータ210を介して、車両200に備えられたバッテリ212(蓄電装置)に接続されている。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、各々、電子制御装置240によってインバータ210が制御されることにより、MG1トルクTg及びMG2トルクTmが制御される。
動力伝達装置204は、車体に取り付けられる非回転部材としてのケース214内において共通の軸心上に直列に配設された、電気式無段変速部216及び機械式有段変速部218等を備えている。電気式無段変速部216は、直接的に或いは図示しないダンパーなどを介して間接的にエンジン202に連結されている。機械式有段変速部218は、電気式無段変速部216の出力側に連結されている。又、動力伝達装置204は、機械式有段変速部218の出力回転部材である出力軸220に連結された差動歯車装置222、差動歯車装置222に連結された一対の車軸224等を備えている。
動力伝達装置204において、エンジン202や第2回転機MG2から出力される動力は、機械式有段変速部218へ伝達され、その機械式有段変速部218から差動歯車装置222等を介して駆動輪206へ伝達される。このように構成された動力伝達装置204は、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)方式の車両に好適に用いられる。尚、以下、電気式無段変速部216を無段変速部216、機械式有段変速部218を有段変速部218という。又、無段変速部216や有段変速部218等は上記共通の軸心に対して略対称的に構成されており、図13ではその軸心の下半分が省略されている。上記共通の軸心は、エンジン202のクランク軸、そのクランク軸に連結された連結軸226などの軸心である。
無段変速部216は、エンジン202の動力を第1回転機MG1及び無段変速部216の出力回転部材である中間伝達部材228に機械的に分割する動力分割機構としての差動機構230を備えている。第1回転機MG1は、エンジン202の動力が伝達される回転機である。中間伝達部材228には第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。中間伝達部材228は、有段変速部218を介して駆動輪206に連結されているので、第2回転機MG2は、駆動輪206に動力伝達可能に連結された回転機である。又、差動機構230は、エンジン202の動力を駆動輪206と第1回転機MG1とに分割して伝達する差動機構である。無段変速部216は、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構230の差動状態が制御される電気式無段変速機である。第1回転機MG1は、エンジン回転速度Neを制御可能な回転機である。
差動機構230は、シングルピニオン型の遊星歯車装置にて構成されており、サンギヤS0、キャリアCA0、及びリングギヤR0を備えている。キャリアCA0には連結軸226を介してエンジン202が動力伝達可能に連結され、サンギヤS0には第1回転機MG1が動力伝達可能に連結され、リングギヤR0には第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。差動機構230において、キャリアCA0は入力要素として機能し、サンギヤS0は反力要素として機能し、リングギヤR0は出力要素として機能する。
有段変速部218は、中間伝達部材228と駆動輪206との間の動力伝達経路の一部を構成する有段変速機としての機械式変速機構、つまり差動機構230と駆動輪206との間の動力伝達経路の一部を構成する自動変速機である。中間伝達部材228は、有段変速部218の入力回転部材としても機能する。有段変速部218は、例えば第1遊星歯車装置232及び第2遊星歯車装置234の複数組の遊星歯車装置と、ワンウェイクラッチF1を含む、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、ブレーキB2の複数の係合装置とを備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。以下、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、及びブレーキB2については、特に区別しない場合は単に係合装置CBという。
係合装置CBは、油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される、油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、車両200に備えられた油圧制御回路236内のソレノイドバルブSL1-SL4等から各々出力される調圧された係合装置CBの各係合油圧PRcbによりそれぞれのトルク容量である係合トルクTcbが変化させられることで、各々、係合や解放などの状態である作動状態が切り替えられる。
有段変速部218は、第1遊星歯車装置232及び第2遊星歯車装置234の各回転要素が、直接的に或いは係合装置CBやワンウェイクラッチF1を介して間接的に、一部が互いに連結されたり、中間伝達部材228、ケース214、或いは出力軸220に連結されている。第1遊星歯車装置232の各回転要素は、サンギヤS1、キャリアCA1、リングギヤR1であり、第2遊星歯車装置234の各回転要素は、サンギヤS2、キャリアCA2、リングギヤR2である。
有段変速部218は、複数の係合装置の何れかが係合されることによって、変速比γat(=AT入力回転速度Ni/AT出力回転速度No)が異なる複数のギヤ段のうちの何れかのギヤ段が形成される。本実施例では、有段変速部218にて形成されるギヤ段をATギヤ段と称す。AT入力回転速度Niは、有段変速部218の入力回転速度であって、中間伝達部材228の回転速度と同値であり、又、MG2回転速度Nmと同値である。AT出力回転速度Noは、有段変速部218の出力回転速度である出力軸220の回転速度であって、無段変速部216と有段変速部218とを合わせた全体の変速機である複合変速機238の出力回転速度でもある。
有段変速部218は、例えば図14の係合作動表に示すように、複数のATギヤ段として、AT1速ギヤ段(図中の「1st」)-AT4速ギヤ段(図中の「4th」)の4段の前進用のATギヤ段が形成される。AT1速ギヤ段の変速比γatが最も大きく、ハイ側のATギヤ段程、変速比γatが小さくなる。又、後進用のATギヤ段(図中の「Rev」)は、例えばクラッチC1の係合且つブレーキB2の係合によって形成される。つまり、後述するように、後進走行を行う際には、例えばAT1速ギヤ段が形成される。図14の係合作動表は、各ATギヤ段と複数の係合装置の各作動状態との関係をまとめたものである。図14において、「○」は係合、「△」はエンジンブレーキ時や有段変速部218のコーストダウンシフト時に係合、空欄は解放をそれぞれ表している。
有段変速部218は、後述する電子制御装置240によって、ドライバー(すなわち運転者)のアクセル操作や車速V等に応じて形成されるATギヤ段が切り替えられる、すなわち複数のATギヤ段が選択的に形成される。例えば、有段変速部218の変速制御においては、係合装置CBの何れかの掴み替えにより変速が実行される、すなわち係合装置CBの係合と解放との切替えにより変速が実行される、所謂クラッチツゥクラッチ変速が実行される。
車両200は、更に、ワンウェイクラッチF0を備えている。ワンウェイクラッチF0は、キャリアCA0を回転不能に固定することができるロック機構である。すなわち、ワンウェイクラッチF0は、エンジン202のクランク軸と連結された、キャリアCA0と一体的に回転する連結軸226を、ケース214に対して固定することができるロック機構である。ワンウェイクラッチF0は、相対回転可能な2つの部材のうちの一方の部材が連結軸226に一体的に連結され、他方の部材がケース214に一体的に連結されている。ワンウェイクラッチF0は、エンジン202の運転時の回転方向である正回転方向に対して空転する一方で、エンジン202の運転時とは逆の回転方向に対して自動係合する。従って、ワンウェイクラッチF0の空転時には、エンジン202はケース214に対して相対回転可能な状態とされる。一方で、ワンウェイクラッチF0の係合時には、エンジン202はケース214に対して相対回転不能な状態とされる。すなわち、ワンウェイクラッチF0の係合により、エンジン202はケース214に固定される。このように、ワンウェイクラッチF0は、エンジン202の運転時の回転方向となるキャリアCA0の正回転方向の回転を許容し且つキャリアCA0の負回転方向の回転を阻止する。すなわち、ワンウェイクラッチF0は、エンジン202の正回転方向の回転を許容し且つ負回転方向の回転を阻止することができるロック機構である。
車両200は、更に、エンジン202、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2などの制御に関連する車両200の制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置240を備えている。電子制御装置240は、前述の実施例1で示した電子制御装置100と同様の構成である。電子制御装置240には、電子制御装置100に供給される信号と同様の各種信号等が供給される。電子制御装置240からは、電子制御装置100が出力する信号と同様の各種指令信号が出力される。電子制御装置240は、電子制御装置100が備える、ハイブリッド制御部102、回生制御部106、入力電力制限値設定部108、放電制御部112、入力電力制限値緩和部114、及び過給圧制限部116の各機能と同様の機能を有している。従って、電子制御装置240は、前述の実施例1で示したような電子制御装置100によって実現されたものと同様の第2回転機MG2による回生制御を実行することで、エンジン12の過給圧Pchgが高い状態であっても、入力電力制限値Winが緩和されることで、車両を減速させる為に必要な減速トルクを第2回転機MG2のMG2トルクTm(回生トルク)によって得ることができる。よって、本実施例によっても、前述した実施例1と同様に、車両減速要求に対する車両減速度の応答性を確保することができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例では、入力電力用補正係数αが、図7(b)の破線又は一点鎖線に示すように、実線で示す入力電力用補正係数αに対して、エンジン12の過給圧Pchgに応じて全体として右側に移動するように変更されていたが、本発明は必ずしもこの態様に限定されない。例えば、エンジン12の過給圧Pchgが高くなるほど、図7(b)の充電状態値SOCが高い領域における入力電力用補正係数αの低下勾配が緩やか変化されるものであっても構わない。要は、エンジン12の過給圧Pchgが高くなるほど入力電力用補正係数αが高い値となるように変更されるものであれば適宜適用され得る。
又、前述の実施例1において、車両10は、車両200のように、変速部58を備えず、エンジン12が差動部60に連結される車両であっても良い。差動部60は、第2遊星歯車機構82の回転要素に連結されたクラッチ又はブレーキの制御により差動作用が制限され得る機構であっても良い。又、第2遊星歯車機構82は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置であっても良い。又、第2遊星歯車機構82は、複数の遊星歯車装置が相互に連結されることで4つ以上の回転要素を有する差動機構であっても良い。又、第2遊星歯車機構82は、エンジン12によって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車に第1回転機MG1及びドライブギヤ74が各々連結された差動歯車装置であっても良い。又、第2遊星歯車機構82は、2以上の遊星歯車装置がそれらを構成する一部の回転要素で相互に連結された構成において、それらの遊星歯車装置の回転要素にそれぞれエンジン、回転機、駆動輪が動力伝達可能に連結される機構であっても良い。
又、前述の実施例2では、キャリアCA0を回転不能に固定することができるロック機構としてワンウェイクラッチF0を例示したが、この態様に限らない。このロック機構は、例えば連結軸226とケース214とを選択的に連結する、噛合式クラッチ、クラッチやブレーキなどの油圧式摩擦係合装置、乾式の係合装置、電磁式摩擦係合装置、磁粉式クラッチなどの係合装置であっても良い。或いは、車両200は、必ずしもワンウェイクラッチF0を備える必要はない。
又、前述の実施例では、過給機18は、公知の排気タービン式の過給機であったが、この態様に限らない。例えば、過給機18は、エンジン或いは電動機によって回転駆動される機械ポンプ式の過給機であっても良い。又、過給機として、排気タービン式の過給機と機械ポンプ式の過給機とが併用で設けられていても良い。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。