以下、本発明に係る実施形態について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
[トリアリールアミン誘導体]
本発明の実施形態に係るトリアリールアミン誘導体は、下記式(1)で表される化合物である。
上記式(1)中、Ar1、Ar2、Ar3、R1及びR2は、以下に示すものである。
Ar1は、1個以上の置換基を有するフェニル基、未置換若しくは置換の縮合多環炭化水素基、又は未置換若しくは置換のヘテロアリール基を示す。
また、Ar1における、1個以上の置換基を有するフェニル基について説明する。
1個以上の置換基を有するフェニル基は、フェニル基の水素を1個以上置換基に置換したものであれば、特に限定されない。具体的には、以下のものが挙げられる。
1個以上の置換基を有するフェニル基における置換基としては、炭素数1〜6のアルキル基、及び炭素数1〜10のオルガニルオキシ基等が挙げられる。また、ここでのアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基等が挙げられる。また、ここでのオルガニルオキシ基としては、例えば、メトキシ基等のアルコキシ基やフェノキシ基等が挙げられる。
また、1個以上の置換基を有するフェニル基における置換基の置換基数としては、1個以上であればよく、例えば、1〜3であることが好ましい。
よって、1個以上の置換基を有するフェニル基としては、例えば、2−メチル−4−メトキシフェニル基、2−メトキシフェニル基、2−エチル−6−メチルフェニル基、及び4−フェノキシフェニル基等が挙げられる。この中でも、2−エチル−6−メチルフェニル基及び2−メトキシフェニル基が好ましく、2−エチル−6−メチルフェニル基がより好ましい。
次に、Ar1における、未置換又は置換の縮合多環炭化水素基としては、特に限定されないが、例えば、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、インデニル基、アセナフテニル基、テトラヒドロナフチル基、及びジオキサインダニル基等が挙げられる。
次に、Ar1における、未置換若しくは置換のヘテロアリール基としては、特に限定されないが、例えば、ピリジル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、トリアゾリル基、トリアジニル基、テトラゾリル基、オキサゾリル基、インドリジニル基、インドリル基、イソインドリル基、インダゾリル基、プリニル基、キノリジニル基、イソキノリル基、キノリル基、フタラジニル基、ナフチリジニル基、キノキサリニル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、ベンズイミダゾリル基、フリル基、チエニル基等が挙げられる。
また、Ar2とAr3とは、同一であっても、異なっていてもよい。すなわち、Ar2及びAr3は、それぞれ独立している。この中でも、Ar2とAr3とは、同一であることが好ましい。また、Ar2及びAr3は、未置換若しくは置換のフェニル基、未置換若しくは置換の縮合多環炭化水素基、又は未置換若しくは置換のヘテロアリール基を示す。
Ar2及びAr3における、未置換若しくは置換のフェニル基とは、特に限定されないが、例えば、炭素数1〜6のアルキル基、及び炭素数1〜10のオルガニルオキシ基で置換されたフェニル基等が挙げられる。より具体的には、例えば、フェニル基やブチルフェニル基等が挙げられる。
Ar2及びAr3における、未置換若しくは置換の縮合多環炭化水素基や未置換若しくは置換のヘテロアリール基は、特に限定されず、Ar1におけるものと同様の置換基が挙げられる。
また、R1とR2とは、同一であっても、異なっていてもよい。すなわち、R1及びR2は、それぞれ独立している。この中でも、R1とR2とは、同一であることが好ましい。また、R1及びR2は、未置換若しくは置換のアルキル基、未置換若しくは置換のアルコキシ基、未置換若しくは置換のアラルキル基、又は未置換若しくは置換のアリール基を示す。
R1及びR2における、未置換若しくは置換のアルキル基とは、特に限定されないが、例えば、炭素数1〜6のアルキル基等が挙げられる。より具体的には、例えば、メチル基やペンチル基等が挙げられる。
R1及びR2における、未置換若しくは置換のアルコキシ基とは、特に限定されないが、例えば、炭素数1〜6のアルコキシ基等が挙げられる。より具体的には、例えば、メトキシ基やエトキシ基等が挙げられる。
R1及びR2における、未置換若しくは置換のアリール基とは、特に限定されないが、例えば、フェニル基、ベンジル基、トリル基、及びキシリル基等が挙げられる。
このようなトリアリールアミン誘導体は、電子写真感光体の感光層に含ませた場合には、長期間にわたって、高画質な画像を形成することができる電子写真感光体が得られる。また、このようなトリアリールアミン誘導体は、優れた正孔輸送能を有するので、電子写真感光体だけではなく、例えば、有機EL素子や色素増感太陽電池等にも利用することができる。具体的には、例えば、有機EL素子の、正孔輸送層等の有機層に含有させることによって、発光効率に優れた有機EL素子を得ることができると考えられる。また、色素増感太陽電池の正孔輸送層等に含有させることによって、発電効率に優れた色素増感太陽電池を得ることができると考えられる。
(合成方法)
前記トリアリールアミン誘導体の合成方法としては、上記式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体を合成することができれば、特に限定されない。具体的には、例えば、下記式(2)〜(5)に示すように合成することができる。
上記式(2)〜(5)中、Ar1、Ar2、Ar3、R1及びR2は、上記式(1)と同様のものを示す。具体的には、Ar1は、1個以上の置換基を有するフェニル基、未置換若しくは置換の縮合多環炭化水素基、又は未置換若しくは置換のヘテロアリール基を示す。また、Ar2及びAr3は、同一又は異なって、未置換若しくは置換のフェニル基、未置換若しくは置換の縮合多環炭化水素基、又は未置換若しくは置換のヘテロアリール基を示す。また、R1及びR2は、同一又は異なって、未置換若しくは置換のアルキル基、未置換若しくは置換のアルコキシ基、未置換若しくは置換のアラルキル基、又は未置換若しくは置換のアリール基を示す。また、X1及びX2は、それぞれハロゲン原子を示し、塩素が好ましい。
前記トリアリールアミン誘導体の合成方法としては、より具体的には、以下のように行う。
まず、上記式(A)で表される化合物と、亜リン酸トリエチル[P(OC2H5)3]とを、加熱下で攪拌する。そうすることによって、上記式(2)の反応が進行し、上記式(B)で表される化合物が合成される。その後、亜リン酸トリエチルを減圧留去させることによって、上記式(B)で表される化合物が得られる。
次に、上記式(B)で表される化合物を、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で、乾燥テトラヒドロフラン(dryTHF)等の有機溶媒に添加し、ナトリウムメトキシド(NaOMe)のアルコール溶液をさらに添加した後、所定時間攪拌する。攪拌後、その混合物に、上記式(C)で表される化合物を添加し、室温でさらに攪拌する。そうすることによって、上記式(3)の反応、すなわち、wittig反応が進行し、上記式(D)で表される化合物が合成される。その後、反応液をトルエンで抽出した後、得られた有機層の溶媒を留去させることによって、上記式(D)で表される化合物が得られる。
また、上記式(C)で表される化合物の代わりに、上記式(E)で表される化合物を用いること以外、上記式(D)で表される化合物の合成と同様の方法により、上記式(4)の反応、すなわち、wittig反応が進行し、上記式(F)で表される化合物が合成される。なお、上記式(4)の反応は、Ar2とAr3とが、同一であって、R1とR2とが、同一である場合、上記式(3)の反応と同じである。
そして、上記式(D)で表される化合物に、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で、2−(ジシクロヘキシルホスフィノ)ビフェニル、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム[Pd2(dba)3]等のパラジウム触媒、ナトリウムtert−ブトキシド(t−BuONa)、上記式(G)で表される化合物、及び蒸留したo−キシレン(dist. o−キシレン)等の有機溶媒を添加し、加熱しながら、攪拌する。そうすることによって、上記式(5)の反応、すなわち、カップリング反応が進行し、上記式(1)で表される化合物が合成される。その後、反応液を、ろ過し、溶媒を減圧留去する。そして、カラムクロマトグラフィー等を用いた精製を行う。そうすることによって、前記トリアリールアミン誘導体、すなわち、上記式(1)で表される化合物が得られる。
なお、Ar2とAr3とが、同一であって、R1とR2とが、同一である場合、上記のように、出発物質として、上記式(D)で表される化合物を用いればよいが、いずれかが異なる場合、出発物質として、上記式(D)で表される化合物と上記式(F)で表される化合物との混合物を用いればよい。
このようにして得られたトリアリールアミン誘導体は、上述したように、電子写真感光体の感光層、有機EL素子の、正孔輸送層等の有機層、及び色素増感太陽電池の正孔輸送層等に含有させる材料として用いることができる。この中でも、電子写真感光体について説明する。
[電子写真感光体]
本発明の他の実施形態に係る電子写真感光体(単に、「感光体」とも称する。)は、少なくとも導電性基体と感光層とを備え、前記感光層が、前記トリアリールアミン誘導体を含有する電子写真感光体である。
このような電子写真感光体は、画像形成装置の像担持体として用いた場合、長期間にわたって、高画質な画像を形成することができる。なお、この電子写真感光体は、正帯電型であるので、正帯電型電子写真感光体や正帯電型感光体とも称する場合がある。
また、前記感光体は、上記構成を満たしていれば、すなわち、上記式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体が感光層に含有された電子写真感光体であれば、その他は特に限定されない。具体的には、例えば、図1に示すような、前記感光層が、電荷発生剤、正孔輸送剤や電子輸送剤等の電荷輸送剤、及び結着樹脂が同一層に含有される層である感光体、いわゆる単層型感光体であってもよい。後に詳述するが、単層型感光体の感光層(単層型感光層)に用いる結着樹脂をバインダー樹脂と呼ぶ。
また、図2に示すような、前記感光層が、電荷発生剤及び結着樹脂を含有する電荷発生層と、正孔輸送剤等の電荷輸送剤及び結着樹脂を含有する電荷輸送層との少なくとも2つの層を積層したものである感光体、いわゆる積層型感光体であってもよい。後に詳述するが、電荷発生層に結着樹脂を用いる場合はベース樹脂と呼び、電荷輸送層に用いる結着樹脂を前述の単層型感光層に用いる結着樹脂と同様、バインダー樹脂と呼ぶ。
また、本実施形態においては、上記式(1)で表される前記トリアリールアミン誘導体が感光層に含有された電子写真感光体であればよいが、単層型感光体においても積層型感光体においても、前述のバインダー樹脂に上記式(1)で表される前記トリアリールアミン誘導体が含有されていることがより好ましい。
なお、図1は、本発明の実施形態に係る電子写真感光体の一例である単層型感光体の構造を示す概略断面図である。また、図2は、本発明の実施形態に係る電子写真感光体の他の一例である積層型感光体の構造を示す概略断面図である。
まず、前記単層型感光体10は、図1に示すように、導電性基体12と、前記導電性基体12上に、感光層14として、電荷発生剤、電荷輸送剤、及び単層型感光体に用いる結着樹脂であるバインダー樹脂が同一層に含有される層とが備えられたものである。そして、前記単層型感光体10は、前記導電性基体12と、前記感光層14とを備えていれば、特に限定されない。具体的には、例えば、図1(a)に示すように、前記導電性基体12上に前記感光層14を直接備えていてもよいし、図1(b)に示すように、前記導電性基体12と前記感光層14との間に中間層16を備えていてもよい。また、図1(a)や図1(b)に示すように、前記感光層14が最外層となって露出していてもよいし、図1(c)に示すように、前記感光層14上に保護層18を備えていてもよい。
次に、前記積層型感光体20は、図2に示すように、導電性基体12と、前記導電性基体12上に、感光層として、電荷発生剤及びベース樹脂を含有する電荷発生層24と、電荷輸送剤及びバインダー樹脂を含有する電荷輸送層22との少なくとも2つの層を積層した層とが備えられたものである。そして、前記積層型感光体20は、前記導電性基体12と、前記電荷発生層24及び前記電荷輸送層22を積層した感光層とを備えていれば、特に限定されない。具体的には、前記積層型感光体20は、図2(a)に示すように、前記導電性基体12上に、前記電荷発生層24及び前記電荷輸送層22の順で積層したものであってもよいし、図2(b)に示すように、前記導電性基体12上に、前記電荷輸送層22及び前記電荷発生層24の順で積層したものであってもよい。また、図2(a)や図2(b)に示すように、前記導電性基体12上に前記感光層を直接備えていてもよいし、図2(c)や図2(e)に示すように、前記導電性基体12と前記感光層との間に中間層16を備えていてもよい。また、図2(d)や図2(f)に示すように、前記電荷輸送層22と前記電荷発生層24との間に中間層16を備えていてもよい。また、前記感光層が最外層となって露出していてもよいし、前記感光層上に保護層を備えていてもよい。
また、前記感光体は、上記構成を満たしていれば、すなわち、前記感光層に、前記トリアリールアミン誘導体が含有された感光体であれば、長期間にわたって、高画質な画像を形成することができる感光体が得られる。そして、感光体の構造としては、上述したような、単層型感光体、及び積層型感光体が挙げられる。この中でも、単層型感光体が好ましい。すなわち、前記感光層が、少なくとも電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤、及び結着樹脂が同一層に含有される層であって、前記電子輸送剤が、前記トリアリールアミン誘導体を含有することが好ましい。
そうすることによって、長期間にわたって、高画質な画像を形成することができるだけではなく、感光層の構成が簡単で製造が容易になり、皮膜欠陥の発生をも抑制することができる。このことは、具体的には、以下のことである。
まず、このような単層型感光体は、前記感光層として、少なくとも電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤、及び結着樹脂が同一層に含有される層を形成すればよく、感光層の構成が簡単で製造が容易であると考えられる。より具体的には、感光層が、電荷発生剤及び結着樹脂を含有する電荷発生層と、電荷輸送剤及び結着樹脂を含有する電荷輸送層との少なくとも2つの層を積層したものである、いわゆる積層型感光体を製造するには、少なくとも2つの層を形成しなければならず、単層型感光体のほうが、容易に製造できる。
また、積層型感光体は、前記電荷発生層及び前記電荷輸送層のそれぞれが、単層型感光体の感光層より薄い場合が多く、また、前記電荷発生層及び前記電荷輸送層のうちの外層を構成する方の層が損傷しやすい。比較的薄く、損傷しやすい外層を構成する層が損傷するだけで、電子写真感光体の性能が著しく低下する。これに対して、単層型感光体は、積層型感光体の前記電荷発生層や前記電荷輸送層より厚い場合が多いので、感光層が完全に損傷することが少ないと考えられる。よって、単層型感光体は、皮膜欠陥の発生を抑制できると考えられる。
また、前記電子写真感光体が、像担持体と、前記像担持体の表面を帯電するための直流電圧印加型接触帯電方式の帯電装置と、帯電された像担持体の表面を露光して、前記像担持体の表面に静電潜像を形成するための露光装置と、前記静電潜像をトナー像として現像するための現像装置と、前記トナー像を前記像担持体から被転写体へ転写するための転写装置とを備える画像形成装置に備えられる像担持体として用いられることが好ましい。すなわち、前記電子写真感光体が、直流電圧印加型接触帯電方式の帯電装置を備える画像形成装置に用いることが好ましい。
前記電子写真感光体は、このような直流電圧印加型接触帯電方式の帯電装置を備えた画像形成装置の像担持体として用いた場合、より長期間にわたって、より高画質な画像を形成することができる。すなわち、前記電子写真感光体は、直流電圧印加型接触帯電方式の帯電装置を備えた画像形成装置の像担持体として用いた場合、画像形成直後に形成された画像(初期画像)だけではなく、画像形成を長期間行った後に形成された画像(耐久画像)であっても、高画質な画像を形成できる。
このことは、以下のことによると考えられる。
まず、接触帯電方式の帯電装置において、印加電圧として、直流電圧のみを用いると、以下のような好ましい点があることによると考えられる。
一般的に、接触帯電方式の帯電装置は、放電領域が狭いため、非接触帯電方式の帯電装置よりも帯電能力が乏しいことが知られている。
また、非接触帯電方式の帯電装置では、帯電均一性を高めるために、印加電圧として、交流電圧や、直流電圧に交流電圧を重畳した重畳電圧等の交流成分を有する電圧を用いることが多い。しかしながら、交流成分を有する電圧を印加電圧として用いると、その交流成分におけるマイナス成分により、帯電電位が低下する。このマイナス成分による帯電電位の低下がないという点において、印加電圧として、直流電圧のみを用いることが好ましいと考えられる。
そして、直流電圧に交流電圧を重畳した重畳電圧を用いることを前提とした画像形成装置において、接触帯電方式の帯電装置による帯電時に印加する電圧として、直流電圧のみを適用するように単に変更しただけでは、帯電むらの効率的な抑制という効果を充分に発揮できる構成にはならず、充分に高画質な画像を形成できない場合があった。
次に、前記電子写真感光体が、転写メモリー現象の発生しにくい感光体であることによると考えられる。
転写メモリー現象とは、画像を形成した際、先の画像形成にかかる画像が残像として残る現象、いわゆるメモリー現象の1つである。そして、転写メモリー現象とは、メモリー現象の中でも、感光体ドラム等の像担持体の表面上に形成したトナー像を、中間転写ベルト等の被転写体に転写する転写工程後の、像担持体の表面電位の状態に起因して発生するメモリー現象である。具体的には、以下のような理由により発生すると考えられている。
まず、転写メモリー現象について説明する前に、電子写真方式を利用した画像形成方法について説明する。電子写真方式を利用した画像形成方法は、一般的に、以下の工程により行われる。なお、ここでの説明は、像担持体として、正帯電型電子写真感光体を用いた場合を中心に説明する。
まず、帯電装置によって、像担持体の表面を正に帯電する帯電工程が行われる。この帯電工程によって、像担持体の表面が正の電位を帯びた状態になる。
次に、露光装置によって、その帯電された像担持体の表面を露光して、前記像担持体の表面に静電潜像を形成する露光工程が行われる。この露光工程は、画像データー等に基づいて、後の現像工程でトナー像が形成されるべきところを露光する。この露光によって、帯電された像担持体の表面電位を低下させた露光部が形成される。また、後の現像工程でトナー像が形成されないところは、露光せず、非露光部が形成される。この露光部の表面電位が、非露光部の表面電位より低くなるので、この露光部と非露光部との電位差が生じる。この電位差によって、露光部には、後の現像工程で、トナーが優先的に付着する。すなわち、この露光部が画像部に相当し、非露光部が非画像部に相当する。すなわち、露光工程によって、露光部(画像部)と非露光部(非画像部)とを含む静電潜像が形成される。なお、露光部は、後に形成される画像の濃淡に応じて、露光される程度を調整し、表面電位を調整する。
次に、現像装置によって、前記静電潜像をトナー像として現像する現像工程が行われる。具体的には、前記露光部には、トナーが付着し、前記非露光部には、トナーが付着されないことにより、画像データー等に基づいたトナー像が形成される。
次に、転写装置によって、前記トナー像を前記像担持体から被転写体へ転写する転写工程が行われる。この転写は、例えば、被転写体が中間転写ベルトの場合、中間転写ベルトに対して、像担持体の表面電位とは逆の電荷の転写バイアス電圧を印加させて行う。そうすることによって、像担持体上のトナー像が、中間転写ベルトに移行する。
この中間転写ベルトに移行されたトナー像を、さらに用紙等に転写させることにより、画像が形成される。
そして、中間転写ベルトにトナー像を転写した後の像担持体に対しては、新たな画像形成が行われる。
このような画像形成方法において、以下の理由により、転写メモリー現象が発生すると考えられる。
上記のような画像形成方法における転写工程において、中間転写ベルトに対して、転写バイアス電圧を印加したら、転写バイアス電圧が像担持体の表面電位とは逆の電荷を有するものであるので、像担持体の表面電位を低下させる。その際、露光部には、トナー像が形成されているため、露光部の表面電位の低下が抑制されると考えられる。よって、非露光部の表面電位は、大きく低下するのに対して、露光部の表面電位は、低下しにくいことになると考えられる。このことから、トナー像を中間転写ベルトに好適に転写させることができる程度、高い転写バイアス電圧を印加すると、例えば、非露光部の表面電位は、逆極性(正帯電型電子写真感光体の場合は負)にまで低下するのに対して、露光部の表面電位は、極性が変わらないまま(正帯電型電子写真感光体の場合は、正に帯電されたまま維持される)ということにもなりえると考えられる。
また、転写工程後、次の画像形成が開始されるまでの間に、除電装置によって、像担持体を除電する除電工程が行われることもある。具体的には、除電装置から除電光を像担持体に照射して除電する。この除電の作用により、上述の露光部と非露光部との電位差は緩和される。
しかしながら、このような除電工程を行わない場合、上記電位差を維持したまま、次の画像形成が行われることになる。
また、非露光部が逆極性(正帯電型電子写真感光体の場合は負)にまで低下した場合、除電工程が行われても、逆極性に帯電された場合、感光体の光感度が乏しくなるため、その電位差が解消されにくいと考えられる。よって、除電工程を行った場合であっても、露光部と非露光部との電位差が発生した状態のまま、次の画像形成が行われることもあると考えられる。
よって、このように発生した電位差が、次の画像形成に残像として発現すると考えられる。
転写メモリー現象は、このような理由により発生すると考えられる。
そして、本実施形態に係る電子写真感光体は、転写バイアス電圧を印加することによる、表面電位の低下が小さいものである。すなわち、転写バイアス電圧を印加する前の非露光部の表面電位と、転写バイアス電圧を印加した後の非露光部の表面電位との差の絶対値が小さいものである。また、非露光部の表面電位の、転写バイアス電圧の印加前後の電位差(転写メモリー電位)の絶対値が、小さいものである。なお、転写メモリー電位は、像担持体が正帯電型電子写真感光体の場合、負となるので、大きいものである。
このことから、本実施形態に係る電子写真感光体を像担持体として用いれば、トナー像を中間転写ベルトに好適に転写させることができる程度、高い転写バイアス電圧を印加しても、転写メモリー現象の発生が抑制されると考えられる。
また、直流電圧印加型接触帯電方式の帯電装置、例えば、像担持体の表面に接触する帯電ローラーを備え、前記帯電ローラーに直流電圧を印加する帯電装置は、交流電圧も印加したほうが均一に帯電できる傾向があるが、本実施形態に係る電子写真感光体を用いれば、上述したように、転写メモリー電位の絶対値が小さいので、充分に均一に帯電できると考えられる。そして、直流電圧のみを印加した場合のほうが、像担持体である電子写真感光体の感光層の損傷を抑制できると考えられる。
以上のことから、本実施形態に係る電子写真感光体を用いることによって、転写メモリー現象の発生を抑制し、長期間にわたって、高画質な画像を形成できると考えられる。さらに、電子写真感光体の感光層の損傷も抑制できると考えられる。
以下、電子写真感光体を構成する層について説明する。
[導電性基体]
前記導電性基体は、電子写真感光体の導電性基体として用いることができるものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、導電性を有する材料で少なくとも表面部が構成されるもの等が挙げられる。すなわち、具体的には、例えば、導電性を有する材料からなるものであってもよいし、プラスチック材料等の表面を、導電性を有する材料で被覆されたものであってもよい。また、導電性を有する材料としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、錫、白金、銀、バナジウム、モリブデン、クロム、カドニウム、チタン、ニッケル、パラジウム、インジウム、ステンレス鋼、真鍮等が挙げられる。また、導電性を有する材料としては、前記導電性を有する材料を1種で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて、例えば、合金等として用いてもよい。また、前記導電性基体としては、上記の中でも、アルミニウム又はアルミニウム合金からなることが好ましい。そうすることによって、より長期間にわたって、より好適な画像を形成することができる感光体を提供することができる。このことは、感光層から導電性基体への電荷の移動が良好であることによると考えられる。
また、前記導電性基体の形状は、特に限定されない。具体的には、例えば、シート状であっても、ドラム状であってもよい。すなわち、適用する画像形成装置の構造に合わせて、シート状であっても、ドラム状であってもよく、特に限定されない。
[感光層]
前記単層型感光体は、少なくとも電荷発生剤、電荷輸送剤、及びバインダー樹脂を含む1つの感光層を有する。また、前記積層型感光体の感光層は、少なくとも電荷発生剤を含む電荷発生層と、少なくとも電荷輸送剤、及びバインダー樹脂を含む電荷輸送層を含む。
上記式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体は、主に前記単層感光層、又は前記積層型感光体の電荷輸送層に含有され、電荷輸送剤の1つである電子輸送剤として作用する。すなわち、本実施形態においては、単層型感光体においても積層型感光体においても、前述のバインダー樹脂に上記式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体が含有されていることが好ましい。また、感光層の層構造としては、特に限定されず、具体的には、例えば、上述したような、図1及び図2に示す感光層の構造が挙げられる。
(電荷発生剤)
前記電荷発生剤としては、電子写真感光体の電荷発生剤として用いることができるものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、X型無金属フタロシアニン(x−H2Pc)、Y型オキソチタニルフタロシアニン(Y−TiOPc)、ペリレン顔料、ビスアゾ顔料、ジチオケトピロロピロール顔料、無金属ナフタロシアニン顔料、金属ナフタロシアニン顔料、スクアライン顔料、トリスアゾ顔料、インジゴ顔料、アズレニウム顔料、シアニン顔料、セレン、セレン−テルル、セレン−ヒ素、硫化カドミウム、アモルファスシリコン等の無機光導電材料の粉末、ピリリウム塩、アンサンスロン系顔料、トリフェニルメタン系顔料、スレン系顔料、トルイジン系顔料、ピラゾリン系顔料、キナクリドン系顔料等が挙げられる。
また、前記電荷発生剤は、所望の領域に吸収波長を有するように、前記各電荷発生剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらに、前記各電荷発生剤のうち、特に半導体レーザー等の光源を使用したレーザービームプリンターやファクシミリ等のデジタル光学系の画像形成装置には、700nm以上の波長領域に感度を有する感光体が必要となるため、例えば、X型無金属フタロシアニン(x−H2Pc)等の無金属フタロシアニンやY型オキソチタニルフタロシアニン(Y−TiOPc)等のオキソチタニルフタロシアニン等のフタロシアニン系顔料が好適に用いられる。なお、上記フタロシアニン系顔料の結晶形については特に限定されず、種々のものが使用される。
また、350〜550nmの短波長レーザー光源を用いた画像形成装置の場合には、前記電荷発生剤として、アンサンスロン系顔料、ペリレン系顔料が使用される。
(電荷輸送剤)
前記電荷輸送剤としては、電子写真感光体の感光層に含まれる電荷輸送剤として用いることができるものであれば、特に限定されない。また、電荷輸送剤としては、一般的に、正孔輸送剤と電子輸送剤とが挙げられる。
(正孔輸送剤)
前記正孔輸送剤としては、電子写真感光体の感光層に含まれる正孔輸送剤として用いることができるものであれば、特に限定されない。本実施形態に係る感光体は、感光層に、上記式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体が含有される。そして、このトリアリールアミン誘導体が正孔輸送剤として作用しうると考えられる。すなわち、本実施形態に係る感光体は、前記正孔輸送剤として、上記式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体を含有したものが挙げられる。そして、前記感光体としては、前記正孔輸送剤として、上記式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体のみを含有する感光体であってもよい。
また、前記正孔輸送剤としては、前記トリアリールアミン誘導体以外に、他の正孔輸送剤を含有してもよい。その他の正孔輸送剤としては、具体的には、例えば、ベンジジン誘導体、2,5−ジ(4−メチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール等のオキサジアゾール系化合物、9−(4−ジエチルアミノスチリル)アントラセン等のスチリル系化合物、ポリビニルカルバゾール等のカルバゾール系化合物、有機ポリシラン化合物、1−フェニル−3−(p−ジメチルアミノフェニル)ピラゾリン等のピラゾリン系化合物、ヒドラゾン系化合物、トリフェニルアミン系化合物、インドール系化合物、オキサゾール系化合物、イソオキサゾール系化合物、チアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、ピラゾール系化合物、トリアゾール系化合物等の含窒素環式化合物、縮合多環式化合物等が挙げられる。この中でも、トリフェニルアミン系化合物やベンジジン誘導体が好ましく、ベンジジン誘導体がより好ましい。また、前記正孔輸送剤としては、前記例示した各正孔輸送剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(電子輸送剤)
また、前記電子輸送剤としては、電子写真感光体の感光層に含まれる電子輸送剤として用いることができるものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、キノン誘導体、ナフトキノン誘導体、アントラキノン誘導体、マロノニトリル誘導体、チオピラン誘導体、トリニトロチオキサントン誘導体、3,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン誘導体、ジニトロアントラセン誘導体、ジニトロアクリジン誘導体、ニトロアントアラキノン誘導体、ジニトロアントラキノン誘導体、テトラシアノエチレン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、ジニトロベンゼン、ジニトロアントラセン、ジニトロアクリジン、ニトロアントラキノン、ジニトロアントラキノン、無水コハク酸、無水マレイン酸、ジブロモ無水マレイン酸等が挙げられる。また、前記電子輸送剤としては、前記例示した各電子輸送剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(結着樹脂)
前記結着樹脂としては、前述のように、単層型感光体の感光層及び積層型感光体の電荷輸送層に用いる結着樹脂であるバインダー樹脂と、積層型感光体の電荷発生層に用いる結着樹脂であるベース樹脂とが挙げられる。
前記バインダー樹脂は、単層型感光体の感光層及び積層型感光体の電荷輸送層に含まれる結着樹脂として用いることができるものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、スチレン系樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、アクリル共重合体、ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アイオノマー、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ケトン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂や、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、その他架橋性の熱硬化性樹脂、さらにエポキシアクリレート樹脂、ウレタン−アクリレート共重合樹脂等の光硬化性樹脂等が挙げられる。この中でも、ポリカーボネート樹脂が好ましい。また、前記バインダー樹脂としては、前記例示した各バインダー樹脂を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、前記ベース樹脂は、積層型感光体の電荷発生層に含まれる結着樹脂として用いることができるものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、アクリル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アイオノマー樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスルホン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ケトン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエーテル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ウレタン−アクリレート樹脂等が挙げられる。また、前記ベース樹脂としては、前記例示した各ベース樹脂を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、前記ベース樹脂は、前記バインダー樹脂と同様のものが例示されているが、同一の感光体においては、通常、バインダー樹脂とは異なる樹脂が選択される。このことは、以下のことによる。積層型感光体を製造する際、通常、電荷発生層、電荷輸送層の順に形成するので、電荷発生層に、電荷輸送層形成用塗布液を塗布することになるので、電荷発生層は、電荷輸送層形成用塗布液の溶剤に溶解しないことが求められる。このため、電荷発生層に含まれる結着樹脂であるベース樹脂は、同一の感光体においては、通常、バインダー樹脂とは異なる樹脂が選択される。
(添加剤)
前記感光体には、電子写真特性に悪影響を与えない範囲で、前記電荷発生剤、前記電荷輸送剤、及び結着樹脂以外の各種添加剤を含有してもよい。前記添加剤としては、具体的には、例えば、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、1重項クエンチャー、紫外線吸収剤等の劣化防止剤、軟化剤、可塑剤、表面改質剤、増感剤、増粘剤、分散安定剤、ワックス、アクセプター、ドナー、界面活性剤、及びレベリング剤等が挙げられる。
(電子写真感光体の製造方法)
次に、電子写真感光体の製造方法について説明する。
まず、前記単層型感光体の製造方法について説明する。
前記単層型感光体は、前記電荷発生剤、前記電荷輸送剤(正孔輸送剤、電子輸送剤)、前記バインダー樹脂、及び必要に応じて各種添加剤等を溶剤に溶解又は分散させた塗布液を、塗布等によって、前記導電性基体上に塗布し、乾燥することによって、製造することができる。前記塗布方法としては、特に限定されないが、例えば、ディップコート法等が挙げられる。
前記単層型感光体において、前記電荷発生剤、前記電荷輸送剤、及び前記バインダー樹脂の各含有量は、適宜選定され、特に限定されない。具体的には、例えば、前記電荷発生剤の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、0.1〜50質量部であることが好ましく、0.5〜30質量部であることがより好ましい。また、前記電子輸送剤の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、5〜100質量部であることが好ましく、10〜80質量部であることがより好ましい。また、前記正孔輸送剤の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、5〜500質量部であることが好ましく、25〜200質量部であることがより好ましい。さらに、正孔輸送剤と電子輸送剤との総量、すなわち、前記電荷輸送剤の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、20〜500質量部であることが好ましく、30〜200質量部であることがより好ましい。
また、前記単層型感光体の感光層の厚さは、感光層として充分に作用することができれば、特に限定されない。具体的には、例えば、5〜100μmであることが好ましく、10〜50μmであることが好ましい。
次に、前記積層型感光体の製造方法について説明する。
前記積層型感光体は、以下のような方法等によって、製造することができる。
具体的には、例えば、まず、前記電荷発生剤、ベース樹脂、及び必要に応じて各種添加剤等を溶剤に溶解又は分散させた電荷発生層形成用塗布液と、前記電荷輸送剤、バインダー樹脂、及び必要に応じて各種添加剤等を溶剤に溶解又は分散させた電荷輸送層形成用塗布液とを調製する。そして、前記電荷発生層形成用塗布液及び前記電荷輸送層形成用塗布液のいずれか一方の塗布液を、塗布等によって、前記導電性基体上に塗布し、乾燥することによって、前記電荷発生層及び前記電荷輸送層のいずれか一方を形成させる。その後、他方の塗布液を、前記電荷発生層又は前記電荷輸送層が形成された導電性基体上に塗布し、乾燥することによって、他方の層を形成させる。そうすることによって、前記積層型感光体を製造することができる。前記塗布方法としては、特に限定されないが、例えば、ディップコート法等が挙げられる。
前記積層型感光体において、前記電荷発生剤、前記電荷輸送剤、前記ベース樹脂、及び前記バインダー樹脂の各含有量は、適宜選定され、特に限定されない。具体的には、例えば、前記電荷発生剤の含有量は、前記電荷発生層を構成するベース樹脂100質量部に対して、5〜1000質量部であることが好ましく、30〜500質量部であることがより好ましい。
また、前記電荷輸送剤の含有量は、前記電荷輸送層を構成するバインダー樹脂100質量部に対して、10〜500質量部であることが好ましく、25〜100質量部であることがより好ましい。
また、前記電荷発生層及び前記電荷輸送層の各層の厚さは、それぞれの層として充分に作用することができれば、特に限定されない。前記電荷発生層の厚さは、具体的には、例えば、0.01〜5μmであることが好ましく、0.1〜3μmであることがより好ましい。また、前記電荷輸送層の厚さは、具体的には、例えば、2〜100μmであることが好ましく、5〜50μmであることがより好ましい。
また、前記塗布液に含有される溶剤としては、前記各成分を溶解又は分散させることができれば、特に限定されない。具体的には、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類、n−ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族系炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸メチル等のエステル類、ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらの溶剤は、前記例示した溶剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記電子写真感光体は、電子写真方式の画像形成装置の像担持体として用いることができる。また、この画像形成装置としては、電子写真方式のものであれば、特に限定されない。前記電子写真感光体は、具体的には、例えば、後述の、直流電圧印加型接触帯電方式の帯電装置を備える画像形成装置の像担持体として用いることが好ましい。そうすることによって、転写メモリー現象の発生を抑制し、より長期間にわたって、より高画質な画像を形成できると考えられる。さらに、電子写真感光体の感光層の損傷も抑制できると考えられる。
[画像形成装置]
前記電子写真感光体を備えるための画像形成装置としては、電子写真方式の画像形成装置であって、帯電装置として直流電圧印加型接触帯電方式の帯電装置を備えたものであれば、特に限定されない。
また、後述するような、複数色のトナーを用いるタンデム方式のカラー画像形成装置が好ましい。より具体的には、例えば、後述するような、複数色のトナーを用いるタンデム方式のカラー画像形成装置が挙げられる。ここでは、タンデム方式のカラー画像形成装置について説明する。
なお、本実施形態に係る電子写真感光体を備えた画像形成装置は、各表面上にそれぞれ異なった各色のトナーによるトナー像を形成させるために、所定方向に並設された、複数の像担持体と、各像担持体に対向して配置され、表面にトナーを担持して搬送し、搬送されたトナーを、前記各像担持体の表面にそれぞれ供給する、現像ローラーを備えた複数の現像装置とを備え、前記像担持体として、前記感光体を用いる。
図3は、本発明の実施形態に係る電子写真感光体を備えた画像形成装置の構成を示す概略図である。ここでは、前記画像形成装置1としては、カラープリンター1を例に挙げて説明する。
このカラープリンター1は、図3に示すように、箱型の機器本体1aを有している。この機器本体1a内には、用紙Pを給紙する給紙部2と、この給紙部2から給紙された用紙Pを搬送しながら当該用紙Pに画像データー等に基づくトナー像を転写する画像形成部3と、この画像形成部3で用紙P上に転写された未定着トナー像を用紙Pに定着する定着処理を施す定着部4とが設けられている。さらに、前記機器本体1aの上面には、前記定着部4で定着処理の施された用紙Pが排紙される排紙部5が設けられている。
前記給紙部2は、給紙カセット121、ピックアップローラー122、給紙ローラー123,124,125、及びレジストローラー126を備えている。給紙カセット121は、機器本体1aから挿脱可能に設けられ、各サイズの用紙Pを貯留する。ピックアップローラー122は、給紙カセット121の図2に示す左上方位置に設けられ、給紙カセット121に貯留されている用紙Pを1枚ずつ取り出す。給紙ローラー123,124,125は、ピックアップローラー122によって取り出された用紙Pを用紙搬送路に送り出す。レジストローラー126は、給紙ローラー123,124,125によって用紙搬送路に送り出された用紙Pを一時待機させた後、所定のタイミングで画像形成部3に供給する。
また、給紙部2は、機器本体1aの図2に示す左側面に取り付けられる不図示の手差しトレイとピックアップローラー127とをさらに備えている。このピックアップローラー127は、手差しトレイに載置された用紙Pを取り出す。ピックアップローラー127によって取り出された用紙Pは、給紙ローラー123,125によって用紙搬送路に送り出され、レジストローラー126によって、所定のタイミングで画像形成部3に供給される。
前記画像形成部3は、画像形成ユニット7と、この画像形成ユニット7によってその表面(接触面)にコンピューター等から電送された画像データーに基づくトナー像が1次転写される中間転写ベルト31と、この中間転写ベルト31上のトナー像を給紙カセット121から送り込まれた用紙Pに2次転写させるための2次転写ローラー32とを備えている。
前記画像形成ユニット7は、上流側(図3では右側)から下流側に向けて順次配設されたブラックトナー供給用ユニット7Kと、イエロートナー供給用ユニット7Yと、シアントナー供給用ユニット7Cと、マゼンタトナー供給用ユニット7Mとを備えている。各ユニット7K,7Y,7C及び7Mは、それぞれの中央位置に像担持体としての感光体ドラム37が矢符(時計回り)方向に回転可能に配置されている。そして、各感光体ドラム37の周囲には、帯電装置39、露光装置38、現像装置71、不図示のクリーニング装置及び除電手段としての除電器等が、回転方向上流側から順に各々配置されている。なお、前記感光体ドラム37としては、前記感光体を用いる。
帯電装置39は、矢符方向に回転されている感光体ドラム37の周面を均一に帯電させる。前記帯電装置39としては、直流電圧印加型接触帯電方式の帯電装置であれば、特に限定されない。具体的には、例えば、像担持体の表面に接触する帯電ローラーを備え、前記帯電ローラーに直流電圧を印加するローラー帯電装置や、像担持体の表面に接触する帯電ブラシを備え、前記帯電ブラシに直流電圧を印加するブラシ帯電装置等が挙げられ、ローラー帯電装置が好ましく用いられる。
このローラー帯電装置は、帯電ローラーが感光体ドラム37と接触したまま、帯電ローラーに直流電圧のみを印加させて、前記感光体ドラム37の周面(表面)を帯電させる装置であれば、特に限定されない。前記帯電ローラーとしては、例えば、感光体ドラム37と接触したまま、前記感光体ドラム37の回転に従属して回転するもの等が挙げられる。また、前記帯電ローラーとしては、例えば、少なくとも表面部が樹脂で構成されたローラー等が挙げられる。より具体的には、例えば、回転可能に軸支された芯金と、前記芯金上に形成された樹脂層と、前記芯金に電圧を印加する電圧印加手段とを備えたもの等が挙げられる。このような帯電ローラーを備えた帯電装置は、前記電圧印加手段によって、前記芯金に直流電圧を印加することによって、前記樹脂層を介して接触する感光体ドラム37の表面を帯電させることができる。
また、前記樹脂層を構成する樹脂としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン変性樹脂等が挙げられる。また、前記樹脂層には、無機充填材を含有していてもよい。
露光装置38は、いわゆるレーザー走査ユニットであり、帯電装置39によって均一に帯電された感光体ドラム37の周面に、上位装置であるパーソナルコンピューター(PC)から入力された画像データーに基づくレーザー光を照射し、感光体ドラム37上に画像データーに基づく静電潜像を形成する。現像装置71は、静電潜像が形成された感光体ドラム37の周面にトナーを供給することで、画像データーに基づくトナー像を形成させる。そして、このトナー像が中間転写ベルト31に1次転写される。クリーニング装置は、中間転写ベルト31へのトナー像の1次転写が終了した後、感光体ドラム37の周面に残留しているトナーを清掃する。除電器は、1次転写が終了した後、感光体ドラム37の周面を除電する。クリーニング装置及び除電器によって清浄化処理された感光体ドラム37の周面は、新たな帯電処理のために帯電装置へ向かい、新たな帯電処理が行われる。
中間転写ベルト31は、無端状のベルト状回転体であって、表面(接触面)側が各感光体ドラム37の周面にそれぞれ当接するように駆動ローラー33、従動ローラー34、バックアップローラー35、及び1次転写ローラー36等の複数のローラーに架け渡されている。また、中間転写ベルト31は、各感光体ドラム37と対向配置された1次転写ローラー36によって感光体ドラム37に押圧された状態で、前記複数のローラーによって無端回転するように構成されている。駆動ローラー33は、ステッピングモータ等の駆動源によって回転駆動し、中間転写ベルト31を無端回転させるための駆動力を与える。従動ローラー34、バックアップローラー35、及び1次転写ローラー36は、回転自在に設けられ、駆動ローラー33による中間転写ベルト31の無端回転に伴って従動回転する。これらのローラー34,35,36は、駆動ローラー33の主動回転に応じて中間転写ベルト31を介して従動回転するとともに、中間転写ベルト31を支持する。
1次転写ローラー36は、1次転写バイアス(トナーの帯電極性とは逆極性)を中間転写ベルト31に印加する。そうすることによって、各感光体ドラム37上に形成されたトナー像は、各感光体ドラム37と1次転写ローラー36との間で、駆動ローラー33の駆動により矢符(反時計回り)方向に周回する中間転写ベルト31に重ね塗り状態で順次転写(1次転写)される。
2次転写ローラー32は、トナー像と逆極性の2次転写バイアスを用紙Pに印加する。そうすることによって、中間転写ベルト31上に1次転写されたトナー像は、2次転写ローラー32とバックアップローラー35との間で用紙Pに転写され、これによって、用紙Pにカラーの転写画像(未定着トナー像)が転写される。
前記定着部4は、画像形成部3で用紙Pに転写された転写画像に定着処理を施すものであり、通電発熱体により加熱される加熱ローラー41と、この加熱ローラー41に対向配置され、周面が加熱ローラー41の周面に押圧当接される加圧ローラー42とを備えている。
そして、前記画像形成部3で2次転写ローラー32により用紙Pに転写された転写画像は、当該用紙Pが加熱ローラー41と加圧ローラー42との間を通過する際の加熱による定着処理で用紙Pに定着される。そして、定着処理の施された用紙Pは、排紙部5へ排紙されるようになっている。また、本実施形態のカラープリンター1では、定着部4と排紙部5との間の適所に搬送ローラー6が配設されている。
排紙部5は、カラープリンター1の機器本体1aの頂部が凹没されることによって形成され、この凹没した凹部の底部に排紙された用紙Pを受ける排紙トレイ51が形成されている。
前記画像形成装置1は、以上のような画像形成動作によって、用紙P上に画像形成を行う。そして、上記のようなタンデム方式の画像形成装置では、前記像担持体として、前記感光体が備えられているので、転写メモリー現象の発生を抑制し、長期間にわたって、高画質な画像を形成できると考えられる。さらに、電子写真感光体の感光層の損傷も抑制できると考えられる。
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
[トリアリールアミン誘導体の合成]
まず、各実施例で用いるトリアリールアミン誘導体の合成について説明する。
(合成例1)
下記式(1−1)で表されるトリアリールアミン誘導体の合成を、下記式(6)〜(8)に示すように合成した。
具体的には、まず、200mLのフラスコに、上記式(A−1)で表される化合物(分子量161.03)20g(0.124モル)と、亜リン酸トリエチル[P(OC2H5)3](分子量166.16)30g(0.18モル)とを投入し、180℃で8時間攪拌した。そうすることによって、上記式(6)の反応を進行させた。攪拌により得られた反応液を、冷却させた後、亜リン酸トリエチルを減圧留去させることによって、上記式(B−1)で表される化合物(白色液体)(分子量262.67)29.3g(0.112モル)が得られた。収率は、約90%であった。
次に、500mLの2口フラスコに、上記式(B−1)で表される化合物(分子量262.67)13g(0.049モル)を、0℃の条件下で投入した。その後、2口フラスコ内をアルゴンで置換した。そして、アルゴン置換された2口フラスコに、100mLの乾燥テトラヒドロフラン(dryTHF)、及び濃度が28質量%の、ナトリウムメトキシド(NaOMe、分子量54.02)のメタノール溶液9.26g(NaOMe0.048モル)を添加し、30分間攪拌した。その後、2口フラスコに、上記式(C−1)で表される化合物(分子量146.2)7g(0.048モル)、及び300mLのdryTHFを添加し、室温で12時間攪拌した。そうすることによって、上記式(7)の反応、すなわち、wittig反応を進行させた。攪拌により得られた反応液を、イオン交換水に注ぎ、トルエンで抽出した。抽出により得られた有機層を、イオン交換水で5回洗浄した。その後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、得られた有機層の溶媒を留去させた。そして、得られた固体を、トルエン20mLとメタノール100mLとの混合溶媒を用いて精製した。そうすることによって、上記式(D−1)で表される化合物(白色結晶)(分子量254.8)11.5g(0.045モル)が得られた。収率は、約94%であった。
次に、300mLの2口フラスコに、上記式(D−1)で表される化合物(分子量254.8)12g(0.047モル)、2−(ジシクロヘキシルホスフィノ)ビフェニル(分子量350.5)0.082g(0.23ミリモル)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム[Pd2(dba)3](分子量915.7)0.108g(0.12ミリモル)、ナトリウムtert−ブトキシド(t−BuONa)(分子量96.1)4.87g(0.051モル)、上記式(G−1)で表される化合物(4−メトキシ−2−メチルアニリン)(分子量137.2)3.2g(0.023モル)、及び蒸留したo−キシレン(dist. o−キシレン)100mLを添加した。その後、2口フラスコ内をアルゴンで置換した。そして、120℃で5時間攪拌した。そうすることによって、上記式(8)の反応、すなわち、カップリング反応を進行させた。なお、この反応が進行していたか否かは、最終的に得られた固体を、1H−NMRで分析することによって確認した。攪拌により得られた反応液を、白土ろ過した後、溶媒を減圧留去した。そして、得られた固体を、カラムクロマトグラフィーを用いた精製を行った。その際、展開液としては、クロロホルムとヘキサンとの混合溶媒を用いた。そうすることによって、黄色結晶12.4gが得られた。この結晶を、1H−NMRで分析した。この結晶の、1H−NMRスペクトル(300MHz、CDCl3、TMS)は、図4に示す。これにより、得られた黄色結晶が、上記式(1−1)で表される化合物(トリアリールアミン誘導体)であることが確認できた。なお、上記式(1−1)で表される化合物(分子量573.8)は、収量が12.4g(0.022モル)であり、収率は、約92%であった。
(合成例2)
下記式(1−2)で表されるトリアリールアミン誘導体の合成を、上記式(G−1)で表される化合物(4−メトキシ−2−メチルアニリン)(分子量137.2)3.2g(0.023モル)の代わりに、下記式(G−2)で表される化合物(2−メトキシアニリン)(分子量123.2)2.75g(0.023モル)を用いること以外、合成例1と同様に合成することにより行った。
そうすることによって、黄色結晶11.7gが得られた。この結晶を、1H−NMRで分析した。この結晶の、1H−NMRスペクトル(300MHz、CDCl3、TMS)は、図5に示す。これにより、得られた黄色結晶が、上記式(1−2)で表される化合物(トリアリールアミン誘導体)であることが確認できた。なお、上記式(1−2)で表される化合物(分子量559.7)は、収量が11.7g(0.021モル)であり、収率は、約89%であった。
(合成例3)
下記式(1−3)で表されるトリアリールアミン誘導体の合成を、上記式(G−1)で表される化合物(4−メトキシ−2−メチルアニリン)(分子量137.2)3.2g(0.023モル)の代わりに、下記式(G−3)で表される化合物(2−メチル−6−エチルアニリン)(分子量135.2)3.1g(0.023モル)を用いること以外、合成例1と同様に合成することにより行った。
そうすることによって、黄色結晶11.5gが得られた。この結晶を、1H−NMRで分析した。この結晶の、1H−NMRスペクトル(300MHz、CDCl3、TMS)は、図6に示す。これにより、得られた黄色結晶が、上記式(1−3)で表される化合物(トリアリールアミン誘導体)であることが確認できた。なお、上記式(1−3)で表される化合物(分子量571.8)は、収量が11.5g(0.020モル)であり、収率は、約86%であった。
(合成例4)
下記式(1−4)で表されるトリアリールアミン誘導体の合成を、上記式(G−1)で表される化合物(4−メトキシ−2−メチルアニリン)(分子量137.2)3.2g(0.023モル)の代わりに、下記式(G−4)で表される化合物(4−フェノキシアニリン)(分子量185.2)4.3g(0.023モル)を用いること以外、合成例1と同様に合成することにより行った。
そうすることによって、黄色結晶12.5gが得られた。この結晶を、1H−NMRで分析した。この結晶の、1H−NMRスペクトル(300MHz、CDCl3、TMS)は、図7に示す。これにより、得られた黄色結晶が、上記式(1−4)で表される化合物(トリアリールアミン誘導体)であることが確認できた。なお、上記式(1−4)で表される化合物(分子量621.8)は、収量が12.5g(0.020モル)であり、収率は、約86%であった。
(合成例5)
下記式(1−5)で表されるトリアリールアミン誘導体の合成を、上記式(C−1)で表される化合物(分子量146.2)7g(0.048モル)の代わりに、下記式(C−5)で表される化合物(分子量202.3)9.68g(0.047モル)を用いること以外、合成例1と同様に合成することにより行った。
そうすることによって、上記式(1−5)で表されるトリアリールアミン誘導体(黄色結晶)(分子量686)12g(0.0175モル)が得られた。収率は、約75%であった。
(合成例6)
下記式(1−6)で表されるトリアリールアミン誘導体の合成を、上記式(C−1)で表される化合物(分子量146.2)7g(0.048モル)の代わりに、下記式(C−6)で表される化合物(分子量202.3)9.68g(0.047モル)を用いること以外、合成例1と同様に合成することにより行った。
そうすることによって、上記式(1−6)で表されるトリアリールアミン誘導体(黄色結晶)(分子量686)12.3g(0.0179モル)が得られた。収率は、約77%であった。
[実施例1]
(感光体の製造)
電荷発生剤として、下記式(9)で表されるX型無金属フタロシアニン(x−H2Pc)を5質量部と、正孔輸送剤として、上記式(1−1)で表されるトリアリールアミン誘導体を50質量部と、電子輸送剤として、下記式(10)で表される化合物を35質量部と、バインダー樹脂として、ビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂(粘度平均分子量50,000)を100質量部とを、テトラヒドロフラン800質量部の中に投入した。そして、ボールミルを用いて、50時間、混合・分散させた。そうすることによって、感光層用の塗布液が得られた。
得られた塗布液を、アルマイト素管からなる導電性基体の上に、ディップコート法で塗布し、100℃40分間熱風乾燥させた。そうすることによって、層厚30μmの感光層が導電性基体上に形成された単層型感光体(直径30mm)が得られた。
[実施例2]
正孔輸送剤として、上記式(1−1)で表される化合物の代わりに、上記式(1−2)で表される化合物を用いること以外、実施例1と同様である。
[実施例3]
正孔輸送剤として、上記式(1−1)で表される化合物の代わりに、上記式(1−3)で表される化合物を用いること以外、実施例1と同様である。
[実施例4]
正孔輸送剤として、上記式(1−1)で表される化合物の代わりに、上記式(1−4)で表される化合物を用いること以外、実施例1と同様である。
[実施例5]
正孔輸送剤として、上記式(1−1)で表される化合物の代わりに、上記式(1−5)で表される化合物を用いること以外、実施例1と同様である。
[実施例6]
正孔輸送剤として、上記式(1−1)で表される化合物の代わりに、上記式(1−6)で表される化合物を用いること以外、実施例1と同様である。
[比較例1]
正孔輸送剤として、上記式(1−1)で表される化合物の代わりに、下記式(11)で表される化合物を用いること以外、実施例1と同様である。
[評価]
実施例1〜6、及び比較例1に係る電子写真感光体を、以下の方法により評価した。
(転写メモリー電位)
まず、得られた電子写真感光体を、帯電ローラーを備えた接触帯電方式の帯電装置に改造したプリンター(京セラミタ株式会社製のFS−5300DN)に搭載し、画像形成装置を得た。その際、前記帯電装置は、前記帯電ローラーに直流電圧を印加して、感光体の表面の電位が600Vになるように設定して、前記感光体を帯電させた。
このような画像形成装置において、非露光部(非画像部、白紙部)の、転写バイアス電圧を印加する前の、前記感光体の表面電位(印加前電位)を測定した。また、非露光部(非画像部、白紙部)の、転写バイアス電圧を印加する後の、前記感光体の表面電位(印加後電位)を測定した。そして、これらの電位の差分、具体的には、(印加後電位)−(印加前電位)を算出し、この差分を、転写メモリー電位とした。
(画質)
また、上記画像形成装置を用いて、10mm×10mmベタ画像部と、3mm程度の大きさのアルファベットと、ハーフトーン部とを有する画像を、1時間、耐久印刷した。その耐久印刷後に得られた画像を目視で確認した。
画像不良が確認できなければ、「◎」と評価した。
また、形成された画像のハーフトーン部に、アルファベットに由来するゴーストが確認されないが、ベタ画像部に由来するゴーストが確認される場合は、「○」と評価した。
また、形成された画像のハーフトーン部に、アルファベットに由来するゴーストも、ベタ画像部に由来するゴーストも確認された場合は、「×」と評価した。
この結果を、表1に示す。
表1からわかるように、正孔輸送剤として、上記式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体を用いれば、転写メモリー現象の発生が抑制され、高画質な画像が得られる。このことは、転写メモリー電位の絶対値が、小さいことによると考えられる。