JP5725371B2 - 制御装置 - Google Patents
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Description
また、特許文献1の技術は、変速機構の変速段の変更制御中(変速制御中)などにおいて、係合装置が非直結係合状態である場合に、振動成分を低減させるように回転電機の出力トルクを補正する制振制御を中断するように構成されている。そして、特許文献1の技術は、制振制御の中断中は、回転電機の回転速度に代えて、出力部材の回転速度に変速機構の変速比(ギヤ比)を乗算して算出した回転電機の擬似回転速度に対して、フィルタ処理H(s)/Gp(s)を行って、外乱の振動成分を抽出するように構成されている。
また、本願において、「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が一又は二以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む概念として用いている。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材が含まれ、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。また、このような伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置、例えば摩擦係合装置や噛み合い式係合装置等が含まれていてもよい。
また、第二のフィルタ処理を行った後の値である遅延器の値に対して、変速比を乗算して遅延器換算値を算出するように構成されているので、第一のフィルタ処理の遅延器の値相当に換算することができると共に、遅延器換算値が、変速比の変化に対して比例して変化するようにでき、位相遅れ及び減衰を有して変化することを防止できる。
また、係合装置が滑り係合状態又は解放状態である間に、出力側演算部による遅延器換算値の算出が実行されるので、変速比の変化などによる変動のない第一のフィルタ処理の遅延器の値を、遅延器換算値により得ることができる。
そして、制振トルク指令による回転電機の出力トルクの補正を再開するときに、遅延器換算値に基づいて、第一のフィルタ処理の遅延器の初期値を設定するので、補正を再開するときに、第一のフィルタ処理の遅延器の値が変動し、第一フィルタ値及び制振トルク指令が変動することを防止できる。
また、遅延器換算値は、変速比の変化に対して、位相遅れ及び減衰を有して変化しないため、変速比の変化後の整定期間を考慮する必要がなく、補正の中断期間が短い場合にも対応できる。よって、係合装置が直結係合状態になった後、直ちに動力伝達経路の回転速度の振動成分を低減させることが可能となる。
また、変速比が変化する変速機構の変速制御中に、出力側演算部による遅延器換算値の算出が実行されるので、変速制御が終了し、制振トルク指令による回転電機の出力トルクの補正が再開されるときに、第一フィルタ値及び制振トルク指令の変動によりトルクショックが生じることを防止でき、動力伝達経路の回転速度の振動成分を低減させることが可能となる。
上記の構成によれば、係合装置が直結係合状態に移行する可能性が高くなるまでの、変速比が変動している可能性の高い期間は、制振トルク指令による回転電機の出力トルクの補正を中断し、出力側演算部による遅延器換算値の算出を実行することができる。また、係合装置が直結係合状態に移行する可能性が高くなった場合に、制振トルク指令による回転電機の出力トルクの補正を再開して、係合装置が直結係合状態へ移行したときに生じる動力伝達経路の回転速度の振動成分を低減させることできる。
なお、出力軸Oが、本発明における「出力部材」であり、第二係合装置CL2が、本発明における「係合装置」である。
制振制御部46は、出力軸Oの回転速度ωoに対して、微分演算処理54及び第二のフィルタ処理BPF2を行い、当該第二のフィルタ処理BPF2が有する遅延器D2の値に対して、変速機構TMの変速比Krを乗算して遅延器換算値Yzoを算出する出力側演算部47を備えている。
そして、制振制御部46は、第二係合装置CL2が滑り係合状態又は解放状態である間に、制振トルク指令Tpによる回転電機MGの出力トルクTmの補正を中断すると共に出力側演算部47による遅延器換算値Yzoの算出を実行し、制振トルク指令Tpによる回転電機MGの出力トルクTmの補正を再開するときに、出力側演算部47により算出された遅延器換算値Yzoに基づいて、第一のフィルタ処理BPF1が有する遅延器D1の初期値を設定する中断再開処理を行う点に特徴を有している。
以下、本実施形態に係る車両用駆動装置1及び制御装置30について、詳細に説明する。
まず、本実施形態に係るハイブリッド車両の車両用駆動装置1の構成について説明する。図1に示すように、ハイブリッド車両は、車両の駆動力源としてエンジンE及び回転電機MGを備え、これらのエンジンEと回転電機MGとが直列に駆動連結されるパラレル方式のハイブリッド車両となっている。ハイブリッド車両は、変速機構TMを備えており、当該変速機構TMにより、中間軸Mに伝達されたエンジンE及び回転電機MGの回転速度ωmを変速すると共にトルクを変換して出力軸Oに伝達する。
車両用駆動装置1の油圧制御系は、車両の駆動力源や専用のモータによって駆動される油圧ポンプから供給される作動油の油圧を所定圧に調整するための油圧制御装置PCを備えている。ここでは詳しい説明を省略するが、油圧制御装置PCは、油圧調整用のリニアソレノイド弁からの信号圧に基づき一又は二以上の調整弁の開度を調整することにより、当該調整弁からドレインする作動油の量を調整して作動油の油圧を一又は二以上の所定圧に調整する。所定圧に調整された作動油は、それぞれ必要とされるレベルの油圧で、変速機構TM、並びに第一係合装置CL1や第二係合装置CL2の各摩擦係合要素等に供給される。
次に、車両用駆動装置1の制御を行う制御装置30及びエンジン制御装置31の構成について、図2を参照して説明する。
制御装置30の制御ユニット32〜34及びエンジン制御装置31は、CPU等の演算処理装置を中核部材として備えるとともに、当該演算処理装置からデータを読み出し及び書き込みが可能に構成されたRAM(ランダム・アクセス・メモリ)や、演算処理装置からデータを読み出し可能に構成されたROM(リード・オンリ・メモリ)等の記憶装置等を有して構成されている。そして、制御装置のROM等に記憶されたソフトウェア(プログラム)又は別途設けられた演算回路等のハードウェア、或いはそれらの両方により、制御装置30の各機能部41〜46などが構成されている。また、制御装置30の制御ユニット32〜34及びエンジン制御装置31は、互いに通信を行うように構成されており、センサの検出情報及び制御パラメータ等の各種情報を共有するとともに協調制御を行い、各機能部41〜46の機能が実現される。
入力回転速度センサSe1は、入力軸I及び中間軸Mの回転速度を検出するためのセンサである。入力軸I及び中間軸Mには回転電機MGのロータが一体的に駆動連結されているので、回転電機制御ユニット32は、入力回転速度センサSe1の入力信号に基づいて回転電機MGの回転速度ωm(角速度)、並びに入力軸I及び中間軸Mの回転速度を検出する。出力回転速度センサSe2は、出力軸Oの回転速度を検出するためのセンサである。動力伝達制御ユニット33は、出力回転速度センサSe2の入力信号に基づいて出力軸Oの回転速度(角速度)を検出する。また、出力軸Oの回転速度は車速に比例するため、動力伝達制御ユニット33は、出力回転速度センサSe2の入力信号に基づいて車速を算出する。エンジン回転速度センサSe3は、エンジン出力軸Eo(エンジンE)の回転速度を検出するためのセンサである。エンジン制御装置31は、エンジン回転速度センサSe3の入力信号に基づいてエンジンEの回転速度(角速度)を検出する。
エンジン制御装置31は、エンジンEの動作制御を行うエンジン制御部41を備えている。本実施形態では、エンジン制御部41は、車両制御ユニット34からエンジン要求トルクが指令されている場合は、車両制御ユニット34から指令されたエンジン要求トルクを出力トルク指令値に設定し、エンジンEが出力トルク指令値のトルクを出力するように制御するトルク制御を行う。また、エンジン制御装置31は、エンジンの燃焼開始要求があった場合は、エンジンEの燃焼開始が指令されたと判定して、エンジンEへの燃料供給及び点火を開始するなどして、エンジンEの燃焼を開始する制御を行う。
動力伝達制御ユニット33は、変速機構TMの制御を行う変速機構制御部43と、第一係合装置CL1の制御を行う第一係合装置制御部44と、エンジンEの始動制御などにおいて第二係合装置CL2の制御を行う第二係合装置制御部45と、を備えている。
変速機構制御部43は、変速機構TMを制御する機能部である。変速機構制御部43は、車速、アクセル開度、及びシフト位置などのセンサ検出情報に基づいて変速機構TMにおける目標変速段を決定する。そして、変速機構制御部43は、油圧制御装置PCを介して変速機構TMに備えられた各係合装置に供給される油圧を制御することにより、各係合装置を係合又は解放して目標とされた変速段を変速機構TMに形成させる。具体的には、変速機構制御部43は、油圧制御装置PCに各係合装置の目標油圧(指令圧)を指令し、油圧制御装置PCは、指令された目標油圧(指令圧)の油圧を各係合装置に供給する。
第一係合装置制御部44は、第一係合装置CL1の係合状態を制御する。本実施形態では、第一係合装置制御部44は、第一係合装置CL1の伝達トルク容量が、車両制御ユニット34から指令された第一目標トルク容量に一致するように、油圧制御装置PCを介して第一係合装置CL1に供給される油圧を制御する。具体的には、第一係合装置制御部44は、第一目標トルク容量に基づき設定した目標油圧(指令圧)を、油圧制御装置PCに指令し、油圧制御装置PCは、指令された目標油圧(指令圧)の油圧を第一係合装置CL1に供給する。
第二係合装置制御部45は、エンジンEの始動制御中に第二係合装置CL2の係合状態を制御する。本実施形態では、第二係合装置制御部45は、第二係合装置CL2の伝達トルク容量が、車両制御ユニット34から指令された第二目標トルク容量に一致するように、油圧制御装置PCを介して第二係合装置CL2に供給される油圧を制御する。具体的には、第二係合装置制御部45は、第二目標トルク容量に基づき設定した目標油圧(指令圧)を、油圧制御装置PCに指令し、油圧制御装置PCは、指令された目標油圧(指令圧)の油圧を第二係合装置CL2に供給する。
回転電機制御ユニット32は、回転電機MGの動作制御を行う回転電機制御部42を備えている。本実施形態では、回転電機制御部42は、車両制御ユニット34から回転電機要求トルクが指令されている場合は、車両制御ユニット34から指令された回転電機要求トルクTmoを出力トルク指令値に設定し、回転電機MGが出力トルク指令値のトルクを出力するように制御する。具体的には、回転電機制御部42は、インバータが備える複数のスイッチング素子をオンオフ制御することにより、回転電機MGの出力トルクTmを制御する。
車両制御ユニット34は、エンジンE、回転電機MG、変速機構TM、第一係合装置CL1、及び第二係合装置CL2等に対して行われる各種トルク制御、及び各係合装置の係合制御等を車両全体として統合する制御を行う機能部を備えている。
本実施形態では、車両制御ユニット34は、制振制御を行う制振制御部46を備えている。
以下、制振制御部46について詳細に説明する。
制振制御部46は、図3に示すように、回転電機MGの回転速度ωmに対して、微分演算処理51及び第一のフィルタ処理BPF1を行って第一フィルタ値αmfを算出し、当該第一フィルタ値αmfに基づいて動力伝達経路2の回転速度の振動成分を低減させるような制振トルク指令Tpを算出して、回転電機MGの出力トルクTmを補正する制振制御を行う機能部である。
<軸ねじれ振動系のモデル>
図6に、制振制御の基礎となる動力伝達経路2のモデルを示す。動力伝達経路2を軸ねじれ振動系にモデル化している。回転電機MGは、第二係合装置CL2が直結係合状態である場合に変速機構TMを介して出力軸Oに駆動連結され、第一係合装置CL1が直結係合状態である場合にエンジンEに駆動連結される。出力軸Oは、車軸AXを介して、負荷Lとなる車両に駆動連結されている。変速機構TMは、変速比Krで、回転電機MGと出力軸Oとの間の回転速度を変速すると共に、トルクの変換を行う。なお、以下では出力軸O及び車軸AXをまとめて、出力シャフトと称する。
動力伝達経路2を2慣性系にモデル化した場合、回転電機MGの出力トルクTmから回転電機MGの回転速度ωmまでの伝達関数P(s)は、式(1)に示すようになる。また、図7に、伝達関数P(s)のボード線図の例(制振制御無し)を示す。
また、回転電機MG側の慣性モーメントJdは、第一係合装置CL1が非直結係合状態又は直結係合状態であるかで変化する。また、変速比Krは、変速機構TMに形成される変速段によって変化する。よって、次式からわかるように、共振周波数ωaは、非直結係合状態又は直結係合状態、及び変速比Krによって変化する。
式(1)から、回転電機MGの回転速度ωmは、回転電機MGの出力トルクTmを、軸ねじれ振動系(動力伝達経路2)全体の慣性モーメント(Jl/Kr2+Jd)で除算した回転加速度を積分(1/s)した定常状態の回転速度に、式(3)及び図8のボード線図に示すような伝達関数により、共振周波数ωaを中心とする周波数の軸ねじれ振動成分が乗った回転速度になることがわかる。
本実施形態では、図3に示すように、制振制御部46は、回転電機MGの回転速度ωmに対して微分演算処理51を行って回転加速度αmを算出し、当該回転加速度αmに対して第一のフィルタ処理BPF1を行って第一フィルタ値αmfを算出し、第一フィルタ値αmfに対して制御ゲインの乗算処理52及び符号反転処理57を行って制振トルク指令Tpを算出するように構成されている。
回転電機MGと出力軸Oとを駆動連結する第二係合装置CL2が、解放状態又は滑り係合状態になると、出力軸Oから回転電機MGに出力シャフトのねじりトルクが伝達されなくなり、軸ねじれ振動系が変化する。
また、第二係合装置CL2が滑り係合状態又は解放状態になると、回転電機MGの回転速度ωmが、軸ねじれ振動及び車速とは関係なく変化し、回転電機MGの回転速度ωmと出力軸Oの回転速度ωoとの間の回転速度比(変速比)が変化する。回転電機MG側の慣性モーメントJdは、負荷(車両)の慣性モーメントJlよりも遥かに小さいため、回転電機MGの回転速度ωmは応答性良く変化する。このため、回転電機MGの回転速度ωmにおいて、軸ねじれ振動と関係ない変動成分と、軸ねじれ振動成分との間の周波数帯域の分離が難しくなる。軸ねじれ振動と関係ない回転電機MGの回転速度ωmの変動成分により、第一のフィルタ処理BPF1の第一フィルタ値αmfが変動する。この第一フィルタ値αmfの変動により、制振トルク指令Tpが変動して、回転電機MGの出力トルクTmが変動し、回転電機MGの回転速度ωmが意図せず変動する恐れがある。
この制振制御の第一の課題について、変速制御を例に説明する。図9に、アップシフトの変速制御の比較例を示し、図10に、ダウンシフトの変速制御の比較例を示す。
<アップシフトの場合>
まず、図9のアップシフトの比較例について説明する。時刻t01において、目標変速段がより小さい高速段に変更されてアップシフトの変速制御が開始している。詳しくは図13を用いて後述するが、時刻t02から時刻t04までの間は、解放側係合装置が直結係合状態から滑り係合状態又は解放状態に移行されており、係合側係合装置が解放状態から滑り係合状態に移行されている。すなわち、時刻t02から時刻t04までの間は、変速制御中に回転電機MGと出力軸Oとを駆動連結する第二係合装置CL2としての解放側係合装置及び係合側係合装置の双方が、滑り係合状態又は解放状態とされている。ここで、時刻t02から時刻t03までの間は、後述するトルク制御相とされており、回転電機MGの回転速度ωmは、変速前の同期回転速度からできるだけ変化しないように制御されている。トルク制御相の後の時刻t03から時刻t04までの間で、回転電機MGの回転速度ωmは、変速前の同期回転速度から変速後の同期回転速度に変化されている。ここで、変速前の同期回転速度は、出力軸Oの回転速度ωoに変速制御開始前(変速前)の変速比Krを乗算した回転速度であり、回転電機MGの回転速度ωmが変速前の同期回転速度に一致している場合は、解放側係合装置の係合部材間に回転速度差が生じていない。変速後の同期回転速度は、出力軸Oの回転速度ωoに変速制御開始後(変速後)の変速比Krを乗算した回転速度であり、回転電機MGの回転速度ωmが変速後の同期回転速度に一致している場合は、係合側係合装置の係合部材間に回転速度差が生じていない。
なお、図9〜図14に示す例では、制振トルク指令Tp(第一フィルタ値αmf)の挙動を理解し易くするために、制振トルク指令Tpの算出は行われているが、回転電機MGの出力トルクTmには反映させないように構成されており、フィードバック制御は行われていない。
次に、図10のダウンシフトの比較例について説明する。時刻t11において、目標変速段がより大きい低速段に変更されてダウンシフトの変速制御が開始している。詳しくは図14を用いて後述するが、時刻t12から時刻t15までの間において、解放側係合装置が直結係合状態から滑り係合状態に移行されており、係合側係合装置が解放状態から滑り係合状態に移行されている。よって、時刻t12から時刻t15までの間において、変速制御中に回転電機MGと出力軸Oとを駆動連結する第二係合装置CL2としての解放側係合装置及び係合側係合装置の双方が、滑り係合状態又は解放状態に移行されている。ここで、時刻t14から時刻t15までの間は、後述するトルク制御相とされており、回転電機MGの回転速度ωmは、変速後の同期回転速度からできるだけ変化しないように制御されている。時刻t13から時刻t14までの間で、回転電機MGの回転速度ωmは、変速前の同期回転速度から変速後の同期回転速度に変化されている。
以上の第一の課題から、回転電機MGと出力軸Oとを駆動連結する第二係合装置CL2が解放状態又は滑り係合状態である間に、回転電機MGの回転速度ωmが軸ねじれ振動と関係なく変動するため、制振トルク指令Tpによる回転電機MGの出力トルクTmの補正を中断する必要があることがわかる。
これに対し、第二係合装置CL2が解放状態又は滑り係合状態である間に制振トルク指令Tp(第一フィルタ値αmf)の算出だけを実行し、制振トルク指令Tpによる回転電機MGの出力トルクTmの補正だけを中断するように構成しても、第二係合装置CL2が直結係合状態になった後、制振トルク指令Tp(第一フィルタ値αmf)の変動が収束していない場合がある。このため、第二係合装置CL2が直結係合状態になった後、直ちに制振トルク指令Tpによる回転電機MGの出力トルクTmの補正を再開しても、軸ねじれ振動を抑制することが困難である。
本実施形態では、制振制御部46は、図3に示すように、第二係合装置CL2が解放状態又は滑り係合状態である間に、制振トルク指令Tp(第一フィルタ値αmf)の算出を中断するために、第一のフィルタ処理BPF1が有する複数の遅延器D11〜D1nそれぞれにおける1演算周期前の入力信号の記憶値を所定値(本実施形態ではゼロ)にリセットとするように構成されている。また、本実施形態では、第一のフィルタ処理BPF1の出力値(第一フィルタ値αmf)もゼロにリセットするように構成されている。
しかし、上記のように構成しても、以下で説明する、解決するべき新たな課題(第二の課題)が生じる。
すなわち、制振トルク指令Tp(第一フィルタ値αmf)の算出を再開するときに、リセットされていた各遅延器D11〜D1nにおける記憶値の初期値の設定が問題となる。具体的には、第一フィルタ値αmfの算出を再開したときに、各遅延器D11〜D1nの値(出力値)が所定のリセット値(ゼロ)になると共に、次の演算周期で、各遅延器D11〜D1nの値が所定のリセット値(ゼロ)からステップ的に変化する。
よって、第一フィルタ値αmfの算出を再開したときに生じる、各遅延器D11〜D1nの値のステップ的な変化に対して、第一のフィルタ処理BPF1内の各演算値が、インパルス的に変化したり、位相遅れ及び減衰を有して変化したりする。このため、第一フィルタ値αmfが、第一フィルタ値αmfの算出を再開した後、しばらくの間変動する。
この制振制御の第二の課題について、変速制御を例に説明する。図11に、図9の場合と同様のアップシフトの変速制御の比較例を示し、図12に、図10の場合と同様のダウンシフトの変速制御の比較例を示す。
<アップシフトの場合>
まず、図11のアップシフトの比較例について説明する。図9の時刻t02から時刻t04までの間と同様に、時刻t22から時刻t24までの間は、第二係合装置CL2(解放側係合装置及び係合側係合装置)が、滑り係合状態又は解放状態とされている。図11に示す比較例では、本実施形態と同様に、第二係合装置CL2(解放側係合装置及び係合側係合装置)が滑り係合状態又は解放状態である場合(時刻t22〜時刻t24)に、制振トルク指令Tp(第一フィルタ値αmf)の算出が中断されるように構成されている。すなわち、第一のフィルタ処理BPF1の各遅延器D11〜D1nの記憶値を所定のリセット値(ゼロ)にリセットとする共に、第一のフィルタ処理BPF1の出力値(第一フィルタ値αmf)をゼロにリセットするように構成されている。
次に、図12のダウンシフトの比較例について説明する。図10の時刻t12から時刻t15までの間と同様に、時刻t32から時刻t35までの間は、第二係合装置CL2(解放側係合装置及び係合側係合装置)が、滑り係合状態又は解放状態とされている。
図12に示す比較例でも、本実施形態と同様に、第二係合装置CL2(解放側係合装置及び係合側係合装置)が滑り係合状態又は解放状態である場合(時刻t32〜時刻t35)に、第一フィルタ値αmfの算出が中断されるように構成されている。
このため、図11のアップシフトの場合と同様に、第二係合装置CL2が滑り係合状態又は解放状態である場合(時刻t32〜時刻t35)に、第一フィルタ値αmfの変動が生じなくなっている。しかし、アップシフトの場合と同様に、第一フィルタ値αmfの算出を再開した後、第一フィルタ値αmfがしばらくの間変動している(時刻t35以降)。よって、第一フィルタ値αmfの算出を中断するだけでは、第二係合装置CL2が直結係合状態になることにより生じたトルクショックが、制振制御により更に増加する恐れがある。
以上の第二の課題から、各遅延器D11〜D1nの値のステップ的な変化により、第一フィルタ値αmfの算出を再開した後、第一フィルタ値αmfがしばらくの間変動するため、第一フィルタ値αmfの算出を再開したときの、各遅延器D11〜D1nの値(記憶値又は出力値)の初期値を適切に設定する必要があることがわかる。
具体的には、制振制御部46は、図3に示すように、出力軸Oの回転速度ωoに対して、微分演算処理54及び第二のフィルタ処理BPF2を行い、当該第二のフィルタ処理BPF2が有する遅延器D21〜D2nの値(記憶値又は出力値)に対して変速比Krを乗算して遅延器換算値Yzo1〜Yzonを算出する出力側演算部47を備えている。
そして、制振制御部46は、第二係合装置CL2が滑り係合状態又は解放状態である間に、制振トルク指令Tpによる回転電機MGの出力トルクTmの補正を中断すると共に出力側演算部47による遅延器換算値Yzoの算出を実行し、制振トルク指令Tpによる回転電機MGの出力トルクTmの補正を再開するときに、出力側演算部47により算出された遅延器換算値Yzo1〜Yzonに基づいて、第一のフィルタ処理BPF1が有する遅延器D11〜D1nの初期値(記憶値又は出力値の初期値)を設定する中断再開処理を行うように構成されている。
そして、再開するときの第一のフィルタ処理BPF1の各遅延器D11〜D1nの初期値(記憶値又は出力値の初期値)は、各遅延器D11〜D1nに対応する第二のフィルタ処理BPF2の各遅延器D21〜D2nの値(記憶値又は出力値)に変速比Krを乗算した遅延器換算値Yzo1〜Yzonに基づいて、設定されるように構成されている。
例えば、第一及び第二のフィルタ処理BPF1、BPF2が図4及び図5に示すように構成されている場合は、BPF2の係数倍器G21の係数K21には、BPF1の係数倍器G11の係数K11の設定値と同じ値が設定されており、BPF2の係数倍器G22の係数K22には、BPF1の係数倍器G12の係数K12の設定値と同じ値が設定されている。
本実施形態では、第二係合装置CL2は、回転電機MGと出力軸Oとを結ぶ動力伝達経路2に設けられた変速機構TMに備えられた単数又は複数の係合装置とされ、変速制御中は、係合側係合装置及び解放側係合装置とされる。
そして、制振制御部46は、中断再開処理において、第二係合装置CL2を滑り係合状態又は解放状態に制御して変速機構TMの変速比Krを変更する変速制御が実行されている間に、制振トルク指令Tpによる回転電機MGの出力トルクTmの補正を中断すると共に出力側演算部47による遅延器換算値Yzo1〜Yzonの算出を実行するように構成されている。
なお、本実施形態では、出力側演算部47による遅延器換算値Yzo1〜Yzonの算出は、制振トルク指令Tpによる回転電機MGの出力トルクTmの補正の中断中だけでなく、常に実行されるように構成されている。
第二の課題に対する制振制御の構成について、変速制御を例に説明する。図13に、図9及び図11の場合と同様のアップシフトの変速制御における本実施形態に係わる例を示し、図14に、図10及び図12の場合と同様のダウンシフトの変速制御における本実施形態に係わる例を示す。
<アップシフトの場合>
まず、図13のアップシフトの本実施形態に係わる例について説明する。図11の時刻t22から時刻t24までの間と同様に、時刻t42から時刻t45までの間は、第二係合装置CL2(解放側係合装置及び係合側係合装置)が、滑り係合状態又は解放状態とされている。以下でより詳細に説明する。
スイープアップ制御の開始後、制振制御部46が、係合側係合装置の回転速度差が判定しきい値以下になったと判定すると共に、係合側係合装置の係合圧(指令圧)が、最小係合圧より大きくなったと判定した場合(時刻t45)に、係合側係合装置が直結係合状態になる可能性が高いと判定し、制振トルク指令Tpによる回転電機MGの出力トルクTmの補正を再開している(制振制御ON)。
なお、図13に示す例では、制振トルク指令Tpによる回転電機MGの出力トルクTmの補正を再開した時点(時刻t45)と、係合側係合装置が直結係合状態になり、トルクショックが生じ、軸ねじれ振動が励起された時点(時刻t45)と、が一致している。しかし、実際には、制振トルク指令Tpによる回転電機MGの出力トルクTmの補正を再開する時点が、係合側係合装置が直結係合状態になる時点より前になるように、回転速度差の判定しきい値などが設定されている。すなわち、係合側係合装置が直結係合状態になる前に、制振トルク指令Tpによる回転電機MGの出力トルクTmの補正を再開することができ、制振制御により軸ねじれ振動を制振することができる。
なお、上記したように、図13及び後述する図14に示す例では、制振トルク指令Tp(第一フィルタ値αmf)の挙動を理解し易くするために、制振トルク指令Tpの算出は行われているが、回転電機MGの出力トルクTmには反映させないように構成されているため、直結係合状態になったときに励起された軸ねじれ振動は減衰していない。制振トルク指令Tpを回転電機MGの出力トルクTmに反映させるように構成した場合は、直結係合状態になったときに励起された軸ねじれ振動は、速やかに減衰する。
次に、図14のダウンシフトの本実施形態に係わる例について説明する。図12の時刻t32から時刻t35までの間と同様に、時刻t52から時刻t55までの間は、第二係合装置CL2(解放側係合装置及び係合側係合装置)が、滑り係合状態又は解放状態とされている。以下でより詳細に説明する。
一方、変速制御の開始後、係合側係合装置に対する指令圧がストロークエンド圧付近まで増加される(時刻t51から時刻t54)。図14に示す例では、油圧シリンダへの作動油の充填を早めるため、指令圧が、変速制御の開始後、一時的にストロークエンド圧より高く設定されている。
最後に、本発明のその他の実施形態について説明する。なお、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
これらの場合、制振制御部46は、変速機構TMとは別に設けられた第二係合装置CL2が滑り係合状態又は解放状態である間に、制振トルク指令Tpによる回転電機MGの出力トルクTmの補正を中断すると共に出力側演算部47による遅延器換算値Yzoの算出を実行する中断再開処理を行うように構成される。例えば、エンジンEを始動させるエンジン始動制御中や、変速機構TMの変速制御中に、変速機構TMとは別に設けられた第二係合装置CL2が滑り係合状態又は解放状態に制御される際に、中断再開処理が行われるように構成される。
すなわち、制振制御部46は、回転電機MGと出力軸Oとを結ぶ動力伝達経路2に設けられた第二係合装置CL2が滑り係合状態又は解放状態である間に、制振トルク指令Tpによる回転電機MGの出力トルクTmの補正を中断すると共に出力側演算部47による遅延器換算値Yzo1〜Yzonの算出を実行するように構成されていればよい。例えば、エンジンEの始動制御など、変速制御以外の制御により、第二係合装置CL2が滑り係合状態又は解放状態に制御されている間に、制振トルク指令Tpによる回転電機MGの出力トルクTmの補正を中断すると共に出力側演算部47による遅延器換算値Yzo1〜Yzonの算出を実行するように構成されていてもよい。
αm :回転電機の回転加速度
αmf :第一フィルタ値
ωo :出力軸の回転速度
αo :出力軸の回転加速度
αof :第二フィルタ値
αofm :第二フィルタ換算値
ωa :動力伝達経路の共振周波数
1 :車両用駆動装置
2 :動力伝達経路
30 :制御装置
31 :エンジン制御装置
32 :回転電機制御ユニット
33 :動力伝達制御ユニット
34 :車両制御ユニット
41 :エンジン制御部
42 :回転電機制御部
43 :変速機構制御部
44 :第一係合装置制御部
45 :第二係合装置制御部
46 :制振制御部
47 :出力側演算部
51 :第一のフィルタ処理の微分演算処理
52 :第一のフィルタ処理の制御ゲインの乗算処理
57 :第一のフィルタ処理の符号反転処理
54 :第二のフィルタ処理の微分演算処理
AX :車軸
BPF1 :第一のフィルタ処理
BPF2 :第二のフィルタ処理
CL1 :第一係合装置
CL2 :第二係合装置(係合装置)
D1 :第一のフィルタ処理の遅延器
D2 :第二のフィルタ処理の遅延器
E :エンジン
Eo :エンジン出力軸
G1 :第一のフィルタ処理の係数倍器
G2 :第二のフィルタ処理の係数倍器
HPF :ハイパスフィルタ
LPF :ローパスフィルタ
I :入力軸
Jd :回転電機側の慣性モーメント
Je :エンジンの慣性モーメント
Jl :負荷(車両)の慣性モーメント
Jm :回転電機の慣性モーメント
K1 :BPF1の係数倍器の係数
K2 :BPF2の係数倍器の係数
Kr :変速比
L :負荷(車両)
M :中間軸
MG :回転電機
O :出力軸(出力部材)
PC :油圧制御装置
PM1 :第一のフィルタ処理の加算減算器
PM2 :第二のフィルタ処理の加算減算器
Se1 :入力回転速度センサ
Se2 :出力回転速度センサ
Se3 :エンジン回転速度センサ
TM :変速機構
Tm :回転電機の出力トルク
Tmo :回転電機要求トルク
Tp :制振トルク指令
W :車輪
Yzo :遅延器換算値
Claims (4)
- 回転電機と車輪に駆動連結された出力部材とを結ぶ動力伝達経路に、係合装置を備えた変速機構、又は係合装置及び変速機構が設けられた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置であって、
前記回転電機の回転速度に対して、微分演算処理及び第一のフィルタ処理を行って第一フィルタ値を算出し、当該第一フィルタ値に基づいて前記動力伝達経路の回転速度の振動成分を低減させるような制振トルク指令を算出して、前記回転電機の出力トルクを補正する制振制御を行う制振制御部を備え、
前記制振制御部は、前記出力部材の回転速度に対して、微分演算処理及び第二のフィルタ処理を行い、当該第二のフィルタ処理が有する遅延器の値に対して前記変速機構の変速比を乗算して遅延器換算値を算出する出力側演算部を備え、
前記係合装置が滑り係合状態又は解放状態である間に、前記制振トルク指令による前記回転電機の出力トルクの補正を中断すると共に前記出力側演算部による前記遅延器換算値の算出を実行し、前記制振トルク指令による前記回転電機の出力トルクの補正を再開するときに、前記出力側演算部により算出された前記遅延器換算値に基づいて、前記第一のフィルタ処理が有する遅延器の初期値を設定する中断再開処理を行う制御装置。 - 前記変速機構は前記係合装置を備えた有段変速機であり、前記制振制御部は、前記中断再開処理において、前記係合装置を滑り係合状態又は解放状態に制御して前記変速機構の変速比を変更する変速制御が実行されている間に、前記制振トルク指令による前記回転電機の出力トルクの補正を中断すると共に前記出力側演算部による前記遅延器換算値の算出を実行する請求項1に記載の制御装置。
- 前記制振制御部は、前記変速制御が開始されたら、前記制振トルク指令による前記回転電機の出力トルクの補正を中断すると共に前記出力側演算部による前記遅延器換算値の算出を実行し、前記回転電機の回転速度が前記変速制御による変速比の変更後の回転速度に一致したと判定され、且つ前記係合装置の係合圧が前記回転電機側に伝達されるトルクを前記出力部材側に伝達可能な最小の係合圧より大きくなると、前記制振トルク指令による前記回転電機の出力トルクの補正を再開する請求項2に記載の制御装置。
- 前記制振制御部は、前記第二のフィルタ処理が有する遅延器の値に対して、前記変速制御終了後の前記変速機構の変速比を乗算して前記遅延器換算値を算出する請求項2又は3に記載の制御装置。
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